説明

核酸増幅方法

【課題】流路内の核酸を超高速に増幅するための方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1回のPCRサイクルを行うことができる蛇行流路を備えた核酸増幅装置にPCR試料液を供給してPCR反応を行う核酸増幅方法において、前記核酸増幅装置は、片側のループ部に対応する1つのDNA変性用温度帯と反対側のループ部に対応
するアニーリング用温度帯、アニーリング用温度帯とDNA変性用温度帯の間の伸長用温度
帯を有し、かつ、PCR試料液は気体に挟まれた試料プラグの形状でポンプにより蛇行流路内に送液され、気体によりPCRの1サイクル分或いはそれ以上隔てられた状態で前記蛇行流路内に供給されることを特徴とする、核酸増幅方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛇行流路内の核酸を超高速に増幅するための方法に関する。より具体的には、本発明は、連続流マイクロ流体システムを用いて、温度を正確にコントロールするための送液条件と流路デザインを提供し、超高速なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実行する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は、医薬品開発、法医学、臨床検査、農作物や病原性微生物の同定など、様々な分野における中核をなし、疾患および発症リスク診断、マーカーの探索、食品や環境中の安全性評価、犯罪の立証などにおける普遍的技術となっている。昨年問題となった口蹄疫や、新型インフルエンザなど、感染症の確定検査にも利用されているのは周知の事実である。また、2007年、厚労省保険局が癌遺伝子検査に対する保健収載を認めたことを皮切りに、臨床検査各社が遺伝子検査用機器やキットの市販化を発表し、いよいよ遺伝子検査が医療においても本格化し始めている。
【0003】
遺伝子である少量の核酸を高感度に検出する最も強力な基礎技術の1つは、核酸配列の一部または全部を指数関数的に複製し増幅した産物を分析する手法である。
【0004】
PCRは、DNAのある特定領域を選択的に増幅する強力な技術である。PCRを用いると、テンプレートDNAの中の標的とするDNA配列について、単一のテンプレートDNAから数百万コピーのDNA断片を生成することができる。PCRは、サーマルサイクルと呼ばれる三相の温度条件を繰り返すことにより、単一鎖へのDNAの変性、変性されたDNA一本鎖とプライマーのアニーリング、および熱安定性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長という個々の反応が順次繰り返される。このサイクルは、分析に必要な十分なコピー数が得られるまで繰り返し行われる。原理上、PCRの1回のサイクル
で、コピー数を倍にすることが可能である。実際には、サーマルサイクルが続くと、必要な反応試薬の濃度が減少するので、増幅されたDNA産物の集積が、最終的に止まる。PCRの一般的詳細については、「Clinical Applications of PCR」、Dennis Lo(編集)、Humana Press(ニュージャージー州トトワ所在)(1998年)、および「PCR Protocols A Guide
to Methods and Applications」、M.A.Innisら(編集)、Academic Press Inc.社(カリフォルニア州サンディエゴ所在)(1990年)を参照のこと。
【0005】
PCR法は、サーマルサイクルにより遺伝子を指数関数的に増幅する強力な手法であるが
、PCRに使用される汎用のサーマルサイクラー装置は、ヒーターであるアルミブロック部
の巨大な熱容量のため温度制御が遅く、30〜40サイクルのPCR操作に従来1〜2時間を要
する。そのため、最新の遺伝子検査装置を用いても、分析にトータルで数時間を要しており、PCR操作の高速化は、技術登場以来の大きな課題であった。
【0006】
このような課題解決のため、PCRによるDNA増幅に関するマイクロ流体デバイスも開発されている。試料のサーマルサイクリングは、通常、3つの方法のいずれかでなされている。
【0007】
第1の方法は、試料液がデバイス内に導入され、溶液が同じ部分に保持されたまま時間の経過とともに温度サイクリングが行われる方法である。これは従来のPCR計測器と非常によく似ている(非特許文献1、2および特許文献1)。しかし、この方法は、試料量の
低減により熱容量を小さくし、サーマルサイクルの高速化を目指しているものの、チャンバーやヒーター自身の熱容量の低減に限界があるため、十分な増幅反応を行うには、少なくとも1サイクル当たり30秒程度必要であり、PCR反応の終了までに最も早い装置であ
っても15分以上費やさなければならない。
【0008】
第2の方法は、空間的に離れた複数の温度帯が微小流路で結ばれており、試料液がこれらの温度帯上を所定の時間ずつ停止するように、同一流路上を反復しながら交互に移動し加熱される方法である。この方法では各温度時間を自由に設定してサーマルサイクル可能な点で優れているものの、試料を導入し、ポンプを使って回転する形でそれらの温度帯に送り込むために、多数の一体化された弁およびポンプが必要なため装置の小型化が困難である(特許文献3)。
また、第3の方法は第2の方法と同様に、微小流路を通じて試料液が空間的に離れた複数の温度帯を移動し、試料液は止まることなく連続的に送り込まれる連続流PCRと呼ぶ方法である この連続流PCR法の中でも、一定温度に制御された3本のヒーター上で蛇行流
路を介して流すことで、試料温度を高速に制御する方式が注目されていた(非特許文献3)。この方式は、容器やヒーター等外部装置の温度変化が不要なため、理論上最も高速な温度制御を期待でき、製品化を目指して開発が行われたが、加熱領域で偶発的に気泡が発生し流れが頻繁に停止するなどの問題から、現在も実用化には至っていない。具体的には、連続流PCRでは2〜3ヶ所の個別の温度領域を通して、PCR試料が微小流路全体を満たす様に連続的に送液される。しかし、そのような連続流では、PCR試料が大量に必要となり、かつ複雑な制御が求められる。さらに、95℃の変性温度領域における気泡発生が生じやすく、流れの乱れや停止を招くことが頻繁に起こる。また、各温度帯上を30回〜40回程度繰り返し通過できるように、数メートルの微細管や微小流路を通液するため、流体抵抗が大きく送液速度も遅くなるため、効率的で高速な温度制御を妨げ、結局、連続流PCRが終了するまでに1時間程度、例え高速なシステムであっても15分以上を要していた。
【0009】
PCR/リアルタイムPCR装置を利用した遺伝子検査の市場は順調に成長しており、特にウイルス性肝炎や性感染症、インフルエンザ等の感染症の遺伝子検査は国内でも急速に普及し始めている。また、癌治療における遺伝子検査は、EGFR遺伝子変異が抗がん剤イレッサの適用目安になる等、その有用性が明らかになったことから、肺癌や膵臓癌などにおけるEGFR遺伝子、K-ras遺伝子、EWS-Flil遺伝子、TLS-CHOP遺伝子、SVT-SSX遺伝子、c-kit遺
伝子に関する遺伝子検査が最近保健適用となった。
【0010】
現状では、遺伝子検査をラボや分析センターに持ち帰り行っているが、現場で迅速に実施可能な高速な遺伝子検査システムがあれば、その場で治療や対策の方針を決定できるため、現状の遺伝子検査機器に置き換わる画期的な技術になるものと考えられる。特に、口蹄疫や高病原性インフルエンザなど、パンデミックの水際対策では、現場での迅速かつ的確な判断と、移動に伴う二次感染拡大の防止が重要であり、そのニーズは極めて大きい。特に、臨床や感染症発生の現場で、ただちに遺伝子検査ができるサービスの実現には、低価格で実施可能で、高速かつ簡便な遺伝子検査手法が必要である。
【0011】
しかしこれまでの技術では、現場で処理可能な、迅速かつ簡便なPCRを行うことが不可
能であり、超高速に増幅を行える方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3041423号
【特許文献2】米国特許第6,960,437号
【特許文献3】WO2006/124458号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Lagallyら(Anal Chem 73:565−570(2001年)
【非特許文献2】永井らAnal Chem 73:1015−1019(2001年))
【非特許文献3】Koppら(Science 280:1046−1048(1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、流路内の核酸を超高速に増幅するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで上記課題を解決するために、本発明者は、従来の微細管や微小流路全体を満たす連続流PCRのように試料溶液を流し続けるのではなく、数マイクロリットルサイズで送液
し空気で押し続けるセグメントフローとすることで気泡発生の影響を無くし、さらに、試料液内部の高速な対流によるアニーリングの高速化と、低い圧力損失による高速送液に成功した。
【0016】
本発明は、送液途中、順次加熱される際に生じる蒸気圧変化により、試料溶液が昇温方向では遅く、降温方向では速く移動することで、長い伸長反応時間を確保しつつも、遷移温度における副生成物の伸長を抑えることが可能な高速かつ高効率なPCR技術である。
【0017】
特に、このような流路を用いたサーマルサイクルでは、試料溶液に対して短時間で温度を正確に変化させるための制御が不可欠である。そこで本発明は、微小流路を用いて、セグメントフローで流れるPCR試料に対して、正確に温度を制御するための流路デザインと
、送液条件を適切に設定し、流路内の核酸を超高速に増幅するための方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明は、以下の核酸増幅方法を提供するものである。
項1. 少なくとも1回のPCRサイクルを行うことができる蛇行流路を備えた核酸増幅装置にPCR試料液を供給してPCR反応を行う核酸増幅方法において、前記核酸増幅装置は、片側のループ部に対応する1つのDNA変性用温度帯と反対側のループ部に対応する
アニーリング用温度帯、アニーリング用温度帯とDNA変性用温度帯との間の伸長用温度帯
を有し、かつ、PCR試料液は気体に挟まれた試料プラグの形状でポンプにより蛇行流路内に送液され、気体によりPCRの1サイクル分或いはそれ以上隔てられた状態で前記蛇行流路内に供給されることを特徴とする、核酸増幅方法。
項2. 前記試料プラグの前後の気体との界面に生じる蒸気圧差を利用することにより、アニーリング用温度帯からDNA変性用温度帯へ向かう加熱過程における送液速度を遅延さ
せて伸長用温度帯での酵素的伸長反応時間を確保し、逆にDNA変性用温度帯からアニーリ
ング用温度帯へ向かう冷却過程において送液速度を促進させて、前記加熱過程よりも高速に通過させる温度制御方法を利用することを特徴とする項1に記載の核酸増幅方法。
項3. チップ内流路内溶液の温度を観察するための薄膜フィルムを使用することを特徴とする、項1または2に記載の核酸増幅方法。
項4. 前記試料プラグに対する温度制御方法が、(i)温度下降のためのアニーリング用
ヒーター温度を40℃以下に冷却、(ii)熱容量を保持するため蛇行流路の平行する流路同士の間隔を200μm以上に確保、(iii)気泡発生や安定した送液のため流路断面のアスペクト比を1/8より大きく1未満に設定、の少なくとも1つの温度制御方法を包含することを特徴
とする項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【発明の効果】
【0019】
遺伝子検査のように、医療現場において微量に採取した生体試料から、高感度に遺伝子の有無を検査可能なシステムの実現が求められる。そこで、マイクロ流体デバイスの分析容量の微量化、ならびに体積に対する表面積増大に伴う伝熱効率の最大化の特性という長所を利用して、出来るだけ微量で高速な遺伝子の増幅技術を確立する必要がある。本発明では、遺伝子増幅技術であるPCRの既存法ではなかった空気に挟まれた試料プラグの形態
(形状)を利用し、これまでの平板型マイクロ流体デバイスを用いた連続流PCRにおいて課題であった高速と高効率の両立を、試料プラグの前後の空気との界面に生じた試料液自身の蒸気圧を活用することで実現することができる。これにより、新たに特別な外部装置を必要とせず、マイクロ流体デバイスの長所を最大限に生かした連続流PCRシステムの微量化ならびに高速化に資する特徴を備える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】連続流PCR用微小流体デバイス4を示す図である。
【図2】図1に示す連続流PCR用微小流体デバイスにおいて、サーマルサイクルのため、蛇行流路の領域毎に温度を制御する方法を示す図である。図2中、温調1(約95℃)はDNA変性用ヒーターブロック7であり、温調2(約72℃)は伸長反応用ヒーターブロック6であり、温調3(約55℃)はアニーリング用ヒーターブロック5であり、試料液1〜3は試料プラグ(sample)8である。
【図3】試料プラグ前後の蒸気圧差の影響により、連続流PCR用微小流体デバイスの各ヒーターブロック上を通過する試料プラグの通過時間と速度の変動を示すグラフである。
【図4】連続流PCR用微小流体デバイスの内を通過する試料プラグの温度を計測するため、蛇行流路上の測定ポイントを示す模式図である。
【図5】図4の各ポイントにおける温度の測定結果を示す図である。
【図6】連続流PCR用微小流体デバイス上の1サイクル当たりの時間を1〜10秒とした場合の、図4の各ポイントにおける測定結果を示す図である。
【図7】連続流PCR用微小流体デバイスを用いて、試薬プラグの液量と送液速度を変化させ、試料プラグ形状にて連続流PCRを行った結果、リアルタイムPCRキットのDNA断片の増幅に伴って得られた蛍光強度を示す図である。
【図8】連続流PCR用微小流体デバイスを用いて、蛇行流路の流路の深さと、平行する直線流路の間隔を変化させ、試料プラグ形状にて連続流PCRを行った結果、リアルタイムPCRキットのDNA断片の増幅に伴って得られた蛍光強度を示す図である。
【図9】試料プラグに混合する枯草菌の量を変化させて、枯草菌の遺伝子に対する連続流PCRを行った結果、連続流PCR用微小流体デバイスの蛇行流路出口にて検出された蛍光強度を示す図である。
【図10】図9の計測された蛍光量と、試料プラグにあらかじめ混合した枯草菌の量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、複数の温度帯を蛇行しながら繰り返し通過する微小流路内において極めて高速にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により核酸を増幅するための方法に関する。より具体的には、本発明は、連続流PCRのための平板型マイクロ流体システムにおいて、微小流路を用いて、気体に挟まれ試料プラグとして流れるPCR試料に対して、正確に温度を制
御するための流路デザインと、送液条件を適切に設定し、流路内の核酸を超高速に増幅するための方法を提供することを目的とする。
【0022】
本明細書において、複数の温度帯とは、DNA変性用温度帯、アニーリング用温度帯、伸
長用温度帯が挙げられる。これらの3つの温度帯は加熱装置(ヒーター)或いは冷却装置などにより明確に区別されていてもよく、隣接する温度帯(DNA変性用温度帯と伸長用温
度帯、或いは、伸長用温度帯とアニーリング用温度帯)の境界は明確でなくてもよい。特に伸長用温度帯とアニーリング用温度帯は、見かけ上一体的になった1つの温度帯に見える場合もあるが、本明細書ではこのような場合であっても、より温度の高い部分を伸長用温度帯と表現し、より温度の低い部分をアニーリング用温度帯と表現する。
【0023】
断りのない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が関係している技術分野の当業者に通常理解される意味と同じ意味を有する。次に実施の形態を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施の形態のみに限定されるものではなく、本明細書で説明されているものと類似のまたは同等の多数の方法および材料についてどれも本発明を実施する際に使用することができる。好ましい材料および方法について以下に説明する。
【0024】
本発明を実施するための連続流PCR用微小流体デバイス4の模式図を図1に示す。このデバイスは、PCR試薬の注入口1、蛇行流路2、PCR反応後の液を貯蔵するリザーバー3を備える。PCRの1サイクルは、両側の1対のループ部分(高温の変性領域(DNA変性用温度域に対応))と低温のアニーリング領域に対応)、ループ部分を結ぶ2つの直線部分からなる1つのユニットにより行うことができる。高温の変性領域は、「DNA変性用温度域」に対応し、低温のアニーリング領域は、「アニーリング用温度域」に対応し、ループ部分を結ぶ2つの直線部分は、「アニーリング温度域」に対応する。本発明で使用する微小流体デバイスは、このユニットが1つの蛇行流路3により形成されてもよく、前記ユニットが多数連結された蛇行流路3により形成されてもよい。1つのPCR試料液が蛇行流路を進んでいくと、蛇行流路のユニット数に応じて1サイクルのPCR反応或いは多数のサイクルのPCR反応が行われ、必要な数のPCR産物が形成されてリザーバーに放出される。
【0025】
図1の連続流PCR用微小流体デバイス4は、例えば長さ76mm、幅52mm、厚さ2mmのシクロオレフィン樹脂(COP)の平板に、CAD上でデザインした流路形状を、NC加工機を用いて切削加工して作製した。このマイクロ流体デバイスの材質は、COP等のポリオレフィン系樹脂以外にも、アクリル系樹脂やポリカーボネイト系樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素系樹脂などであっても良い。また、この流路形状の形成には、NC加工機のような機械加工以外にも、射出成形、あるいはナノインプリンティング、あるいはソフトリソグラフィーなど樹脂の微細加工に利用可能な方法でも良い。切削加工の場合には、微小流路の切削は、直径200μmの樹脂用エンドミルを使用し、流路断面の形状は、幅10〜1000μm、深さ10〜1000μm、望ましくは幅400μm、深さ500μmの半円形状、あるいは直方形状とした。なお、本発明の実施においては、微小流路の注入側の末端からCOP板の端まで幅および深さが0.65mmの直線上の溝を切削し、出口側の末端には、直径2mmの円筒状のリザーバーが接続する形状とした。注入側の溝部分に外径0.65mmの金属チューブを自然に外れない長さ以上挿入し、液漏れを防ぐために接着剤を金属チューブの外周部のみに塗布後、圧力感受性の粘着剤がコートされたマイクロプレートシール(3M製9795)を、金属チューブ部分を含めた蛇行流路全面を接合することにより、PCR試料注入用チューブを内蔵した連続流PCR用微小流体デバイスを作製した。このPCR試料注入用チューブについては金属製ではなくてもシリコンチューブなど樹脂製であっても良く、あるいはゴム材、あるいはガラス材を用いたチューブなどであっても良い。この蛇行流路部のカバーについては、異なるシール剤、あるいはテープ剤、あるいは樹脂材による熱融着であっても良い。なお、微小流路出口側のリザーバーを覆う部分のシールについては、カットした。
【0026】
図2の通り、ヒーターを内蔵した3本の長さ150mm、幅15mm、高さ10mmのヒーターブロック5,6,7(各々温調3,2,1)を平行に、0.5mmから1mm程度の間隔をおいて図2のように配置し、その上に作製した連続流PCR用微小流体デバイス
と接触させることで、3ヶ所の接触領域について個別かつ局所的に温度を制御した。各ヒーターブロックは、ヒーターブロック表面を均一に、120℃以上まで加熱可能な性能を有しており、また、底面側にペルチェ素子を接合させることで、5℃以下まで冷却する機能を持たせた。各アルミブロック5,6,7の温度は、内部に設けた温度センサーに基づきPID制御することで、ヒーターもしくはペルチェ素子により均一かつ一定に保持される。図2に示す個々のアルミブロック5,6,7の設定温度は、試料液の温度がPCRの変性、伸長、アニーリングに必要な95℃、72℃、55℃となるように設定した。なお、一度設定したアルミブロックの温度については、同じ条件で連続流PCRを実施する限り変更する必要はない。
【0027】
連続流PCR用微小流体デバイスの蛇行流路のデザインについては、30mmの長さ毎に10〜1000μm、望ましくは400μmの間隔をおきながら連続的に折り返す蛇行流路とし、3つのヒーターブロックと蛇行流路が直交し、かつ蛇行流路の折り返すループ部分が、両端のヒーターブロックと7mmずつ接触するように設計した。なお、両端のヒーターブロックと接触する蛇行流路の位置は、目的とする温度や制御時間に合わせて、適宜変更可能とする。本発明の実施においては、連続流PCRのためのヒーターブロックは、温度センサーを内蔵した長さ150 mm、幅15 mm、10 mm厚のステンレス製の構造体を利用し、1〜2 mmの間隔を空けて並べ、そのうち端側の1本については、ペルチェを接触させ室温以下まで温度制御が可能とした。また、3本のヒーターブロックのうち、両端のヒーターブロック上で、各40回ずつ折り返すデザインとすることで、PCRに要するサーマルサイクルを40回実行できる設計とした。図1,2は、サーマルサイクルを40回実行できる蛇行流路と3つの温度帯を用いた例を示しているが、サーマルサイクルを1回実行できるように蛇行流路を設計してもよく、温度帯を2つになるように設計してもよい。
【0028】
アニーリング、伸長及び変性の好ましい各温度と時間の推奨比率を以下の表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
連続流PCR用微小流体デバイスが、片側のループ部に対応する1つのDNA変性用ヒーターブロックと他方のループ部に対応するアニーリング用ヒーターブロックと両側のループ部をつなぐ直線部に対応する伸長反応用ヒーターブロックの3つの温度帯を有する場合には、上記表1の推奨比率になるように設定すればよく、片側のループ部に対応する1つのDNA変性用ヒーターブロックと、他方のループ部/直線部に対応する伸長過程が実施できるヒーターブロック(伸長過程はアニール温度から変性温度の途中の温度で実施する)の2つの温度設定のサーマルサイクルでPCRを行う場合には、表1の推奨比率に対応するように実施すればよい。
【0031】
各ヒーターブロックの温度をPID制御により、目的の温度に一定制御した。ヒーターブ
ロック表面あるいは、連続流PCR用微小流体デバイスの表面温度については、必要に応じ
て、接触式あるいは非接触式の温度センサーにより確認し、表1に示すようなPCRの各反
応に必要な温度となるように、ヒーターブロックの温度の調整を可能とする。本発明の実施においては、連続流PCR用微小流体デバイスの表面あるいは流れている流体、あるいは
その周辺部の連続流PCR用微小流体デバイスの表面の温度は、赤外線カメラにて測温し、
目的の温度となるように調整を行った。
【0032】
PCRの試料液としては、リアルタイムPCRの標準的なキット(Takara製CycleavePCR Core Kit)を利用した。キット付属の134bpのDNA試料(Positive Control)を、PCRにおける増幅対象とし、キット通りにPCR試薬を調整した。なお、検出対象の遺伝子の種類に合わせ、PCR用プライマー
やプローブなど、試薬の組成及び濃度は変更可能である。
【0033】
あらかじめ連続流PCR用微小流体デバイスおよび中間に接続された試料注入用チューブ
の体積以上の気体を充填しておいたシリンジポンプを用いてPCR試料の送液を行った。空
気を満たした容量1 mLシリンジポンプを用いて、シリコンチューブを介して、0.1〜10μL、望ましくは1〜5μLのPCR試料を吸引した後、チップのPCR試料注入用チューブと接続することで、PCR試料を送液した。もしくは、一定量のPCR試料をピペットマンにて吸引後、PCR試料をピペットマン用の交換チップ内部に留めたままはずし、PCR試料注入用チューブに先端を差し込み、さらに他端をシリンジポンプと接続することでも、PCR試料の注入を可能とした。本発明の実施においては、300μL以上のPCR試薬の1μLから30μLを、シリンジポンプ(Harvard製Model11)に接続した内径0.5mmのシリコンチューブを通して、連続流PCR用マイクロ流体デバイスのPCR試料注入用チューブから注入した。その際、試料液が連続流PCR用マイクロ流体デバイスのPCR試料注入用チューブから微小流路出口のリザーバーまで流れきるように、シリンジポンプには300μLの空気をあらかじめ満たしておく。シリンジポンプの流速は、65〜225μl/minに設定し、微小流路の出口末端のリザーバーに排出されるまで連続的に送液した。これは、連続流PCRにおける1サイクル分の流路長さを流れる所要時間として、1sec/cycleから10sec/cycleに相当する。また、PCR試料を送液するポンプとしては、シリンジポンプ以外にも、微量の溶液を送液可能であればいかなるポンプであっても良い。これにより、図2に示すように、微少量のPCR試料を試料プラグの形状で送液する連続流PCRを行う方法を確立した。本発明では、数マイクロリットルサイズで送液し、空気で押し続けるセグメントフローとすることにより、試料液の内部で高速な対流や拡散律速のアニーリング反応の高速化が達成できた。また、PCR溶液は気泡発生によって流れが不安定になる前に、高温領域を迅速に通過可能な点が、本発明の特徴の1つである。
【0034】
また、前述のTakara製CycleavePCR Core KitのようなリアルタイムPCRにおいては、目的とするDNA配列が増幅される場合に、同時に蛍光を増大させることによって、目的のDNAの増幅を確認し検知する手法である。そのため、本発明の実
施においては、目的とするDNAの増幅を確認するため、PCR後におけるPCR試料の蛍光強度
を、蛇行流路上あるいはリザーバー位置に設置したSELFOC蛍光ファイバー検出器にて直接計測するか、あるいはPCR試料をマイクロプレートに移し替えた後、蛍光マイクロリーダ
ーを用いて計測した。
【0035】
試料プラグを用いた連続流PCR用微小流体デバイスの使用は、迅速な流れと簡便なPCR制御を可能にすると考えられるが、過剰に迅速な送液は各温度帯の上をPCRに必要な温度に
至る前に通り過ぎる可能性がある。そのため、本発明においては、DNA変性、アニーリン
グ、伸長の各反応に十分な反応時間を確保することを目的として、微小流路内の試料プラグの前後において、気体との界面に生ずる蒸気圧を効果的に利用し、PCRの各反応に必要
な時間をかけて試料プラグが各ヒーターブロックを通過するように送液速度を変動させる点が特徴の1つである。
【0036】
ビデオカメラを用いて、試料プラグが各反応用のヒーターブロック上を通過する時間と速度を計測した結果を図3に示す。図3のグラフから明らかなとおり、蛇行流路上の平行する直線流路部分の内、伸長反応に関わる加熱の過程で通過時間は長くなった。これは、
DNA変性反応用ヒーターブロックにおいて生じる高い蒸気圧が、試料プラグの進行と対向
する方向に働くため減速されたためである。それに対し、DNA変性からアニーリングに向
かう冷却過程では、同様の蒸気圧差の影響により試料プラグが加速されるため、通過時間は最も短かった。PCRの変性とアニーリングは極めて迅速に進行するため、この各反応時
間の比率は、表1と同等なため、PCRにおいて最適であり、比較的ゆっくり進行する酵素
的な伸長反応の時間を有為に確保する上で適している。
【0037】
これに対し、試料プラグ形状でなく、従来の、蛇行流路全体をPCR試料で充填するよう
に送液する連続流PCRでは、送液速度は一定であり、DNAの変性温度帯からアニーリング温度帯へ向かう冷却過程においても、その他の温度帯間と同様、低速に移動する。アニーリング過程において、プライマーが標的のDNA配列に結合する転移温度まで冷却する過渡的
な温度では、標的配列以外の部位にプライマーが結合する可能性があり、これが目的遺伝子配列以外の副生成物の生成する原因となる。そのため、本発明によって実現される高速な冷却は、副生成物の生成を抑制し、正確なDNA増幅に有利な点が一つの特徴である。
【0038】
試料プラグの前後に生じる蒸気圧差により、図3の通り、ヒーターブロックごとの通過速度が変動するため、設定した反応時間および温度に到達するための、流路設計および設定温度の最適化が必要となる。これらの条件が整うことによってはじめて、正確なDNAの
増幅が実現される。そのためには、チップ上でのヒーター間の温度勾配を含めた各温度領域の正確な温度の計測が必要となる。そのために、本発明の実施においては、シール材であるポリオレフィンの薄膜を介して、赤外線カメラにより微小流路内部を流れるPCR試料
の温度の計測を検討した。本発明の実施において使用したポリオレフィンのシール材の膜厚は、50μmであり、シール材を介して試料プラグの温度を計測可能である。ただし、
シール材の膜厚は、0.5mm以下であり、もしくは50μm以下であることが望ましい、
また、シール材として用いる薄膜の材質はCOP等のポリオレフィン系樹脂以外にも、アク
リル系樹脂やポリカーボネイト系樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素系樹脂であっても良い。本発明では、薄膜のシール材もしくはカバー材もしくはフィルム材を使用することにより、蛇行流路内部の試料プラグの温度を正確に計測する手法を有することがその特徴の1つである。
【0039】
本発明の実施において、実際に連続流PCR用微小流体デバイスの内を通過する試料プラ
グの温度を計測するため、図4に蛇行流路上の測定ポイントを示す。また、図4の各ポイントにおける温度の測定結果を、図5に示す。試料プラグを用いた送液による迅速な温度制御において重要な点は、アニーリングのための冷却過程の時間がかなり短いため、通常のアニーリング温度である55〜65℃にアニーリング用ヒーターブロックの温度を設定した場合でも、図5の通り、設定温度まで冷却されず、冷却効果が不十分であった。これは、試料プラグの主成分である水の熱伝導度に比べ、連続流PCR用微小流体デバイスの部材で
あるCOPの熱伝導度は数倍低く、迅速な熱伝導のためにはより高い温度差が必要となるた
めである。そのため、アニーリング用ヒーターブロックの温度を下げて観察したところ、試料プラグの温度は図5のとおり、アニーリング用ヒーターブロックの温度に依存して減少した。さらに、PCR後の蛍光強度についても比較したところ、表2のとおり、アニーリ
ング用ヒーターブロックの温度が40℃以下のとき蛍光強度の増加し、DNAが増幅されてい
ることが確認された。特に、本発明の実施においては、アニーリング用ヒーターブロックの温度が20℃のとき、最も蛍光強度は増幅しており、図5から明らかな通り、アニーリング反応に必要な温度まで試料プラグが十分に冷却できたためと考えられる。本発明においては、試料プラグに対する高速な温度制御のために、各ヒーター温度を通常のアニーリング温度より過剰に加熱あるいは冷却することが、特徴の1つである。
【0040】
【表2】

【0041】
このように各温度領域における試料プラグの到達温度は、流速によって影響を受けるため、シリンジポンプの流速を変化させて、図4の各ポイントにおいて計測し、1サイクル
当たりの時間を1〜10 sとした場合の温度の測定結果を図6に示す。1サイクル当たり1〜2
sといった極めて早い送液では、全ての温度領域でPCRに必要な温度に到達しなかった。
一方、アニーリング用ヒーターブロックの温度が20℃の場合、1サイクル当たりの時間が7
s以上では過剰に冷却され、ミスアニーリングを生じやすい40℃以下まで到達してしまうことが判明した。
【0042】
以上のことから、各ヒートブロックの設定温度と流速の最適化が試料プラグを用いた連続流PCRの温度制御に重要であり、本発明の実施において、アニーリング用ヒーターブロ
ックの温度が20℃のとき、流速は1サイクル5〜6 sが最適であった。
【0043】
PCRによるDNAの増幅は、リザーバーに到達した試料液を回収し、FAM色素用に設定した蛍光プレートリーダー(Thermoscientific製Fluoroscan Ascent)にて、連続流PCR前後における蛍光強度の変化量を求めることで確認した。連続流PCRの結果、目的のDNA断片の増幅を示す蛍光強度の増加は、図7に示す通り、1サイクル毎の所要時間に依存した。これは、流速を遅くして1サイクル毎の所要時間を長くすると、PCRの変性、アニーリング、伸長の各反応に必要な熱伝導と反応時間が十分確保されたためである。
【0044】
図7にて明らかな通り、本発明の特徴の1つである試料プラグとして、連続流PCRを送液した場合、試料液の体積が少なくなるほど、PCRの効率が良くなることが明らかとなった。本発明の実施例では、試薬溶液量が10μl以上のときは、試料プラグのサイズが1サイクル分の長さを超えるため、試料プラグ前後の蒸気圧差の影響が無くなり一定の速度で流れるために、伸長反応に寄与する55℃から95℃へ向かう間の72℃の領域と、折り返して、95℃から55℃へ冷却する間に挟まれた72℃の領域の移動時間は等しくなった。しかし、使用した蛇行流路の直線部分の流路長さは30mmであり容積は約5.5μlに相当するため、試料液の体積が5.5μlより小さくなると、試料プラグは直線部分の中に収まるサイズとなる。そのため、サーマルサイクルのための加熱もしくは冷却において、試料プラグの上流および下流の気液界面においては、個々に蒸気圧の変化が生じ、蛇行流路の位置に依存して刻一刻と変化する。これにより、55℃から95℃へ向かう伸長反応の過程では、上流側の気液界面での蒸気圧は、下流側より高まるために流れ方向に逆らう力が発生し、図3に示すように、試料プラグは低速で移動した。それに対し、95℃から55℃へ向かう微小流路内では、下流側の気液界面側の蒸気圧が高くなり流れを加速するように働くため、試料プラグは2〜3倍の速度で移動した。
【0045】
図7から明らかなように、試料液の体積が、5μl以下の場合のPCRによる蛍光増幅量と、10μl以上の場合を比較すると、同じ平均流速であっても、2倍から6倍ほど高効率であった。このように、試料プラグ両端の蒸気圧の差を利用することで、55℃に続く72℃の伸長反応の時間は長くPCR反応に有利となり、一方、蛇行流路のデザイン上の制約による変性領域(95℃)からアニーリング領域(55℃)に戻る間のPCRに不要な伸長領域(72℃)を高速に通過することで、副生成物のない理想的なサーマルサイクルが実現でき、連続流PCRの高速化と高効率化の両立が初めて実現された。
【0046】
一方、連続流PCR用微小流体デバイスの蛇行流路の形状も、試料プラグの温度制御に影
響を及ぼす。そのため、本発明の実施において、微小流路の深さを変えて断面のアスペクト比(流路幅に対する流路深さの比)を変えた場合と、平行する直線流路間の間隔を変えた場合の、目的DNAの増幅への影響を評価した。
【0047】
流路幅を800μmと固定し、流路深さの違いによる蛍光量の変化を検討したが、図8に示す通り、そのアスペクト比は、1/8より大きく、1未満の値に設定することが望ましい。1/8に相当する流路深さが100μmの場合には、リアルタイムPCRによる蛍光量の増加量が減少していたが、これは、流路が浅くなり過ぎるために、DNA変性反応用ヒーターブロック位置に置いて、過剰に熱が伝搬し試料プラグの蒸散などの影響が生じたためである。一方、アスペクト比が1に相当する流路深さが800μmの場合には、リアルタイムPCRによる蛍光量の増加量が減少していた。これは連続流PCR用微小流路デバイスの底面から加熱あるいは冷却する際に、蛇行流路の断面方向にて温度ムラが発生し、正確な温度まで均一に制御出来なかったためである。
【0048】
また、蛇行流路の平行する直線流路の間隔が狭くなると、単位面積当たりの流路面積の比率が増大するため空気の占める割合が増大し、ヒートブロックからチップ表面まで十分に温度が伝達されていないことが確認された。直線流路間の距離が短いと流路周辺の熱容量が少ないため十分には加熱されず、逆に冷却の場合においても同様で、流路同士の間隔が広いほど効率よく温度が変化した。
【0049】
図8に示すように、十分な熱容量を保持するための蛇行流路の平行する直線流路間の間隔は、200μm以上、好ましくは400μm以上、最も好ましくは600μm以上であることが望ましい。以上のことから、COP製の微小流路を利用する場合、流路幅と同程度の間隔で流
路同士の距離を確保することが、正確な温度制御に有効であると考えられる。十分な熱容量を保持するため蛇行流路の平行する流路同士の間隔の確保すること、また気泡発生や安定した送液のため流路断面のアスペクト比が1/8より大きく、1未満に設定されているこ
とが、より効率的なDNA増幅に必要であることが明らかとなり、これらの試料プラグへの
正確かつ高速な温度制御のための手法が、本発明の特徴の1つである。
【0050】
他の遺伝子検出の実施例として、枯草菌の遺伝子を対象に連続流PCRによるDNA断片の増幅を検討した。Takara製CycleavePCRBacteriaScreening Kitを使用し、PCR試薬をキット通りに調整した。各PCR試薬については個別に連続流PCRを行った。調整したPCR試薬を、3μLの試料プラグとして、
同時に連続流PCR用微小流体デバイス内に注入し、シリンジポンプ(Harvard製Model11)により、100から680μl/minの流速で送液した。
【0051】
複数の試料プラグを同時に導入して連続流PCRを行った際、微小流路上の1サイクル分の長さに2個以上の試料プラグが同時に入ると、理想的なサーマルサイクルに必要な蒸気圧を利用した送液のリズムが乱れてしまう。そのため、各試料プラグについては、1サイクル分以上の十分な間隔をおいて注入した。これにより、個々の試料プラグにおいて、伸長過程が減速し、冷却過程が加速化される送液のリズムが確認され、1回の連続流PCRにおいて、試料プラグの数は1個に限定されず、大量の試料液量にも対応できる。
【0052】
連続流PCR用微小流体デバイスの出口付近の蛇行流路の位置に、SELFOCファイバー蛍光検出器を設置し、連続流PCRによって増大した蛍光強度をリアルタイムに測定した結果
、図9の通り、あらかじめ試料プラグに混合した枯草菌の量に比例して、得られる蛍光強度が変化した。この蛍光強度の変化を数値化し、検量線としてグラフ化したものを図10に示す。その結果、得られる蛍光強度は、もともとPCR試料として調製した試薬プラグ中
に含まれる枯草菌の量に優れた相関性が確認され、目的とする遺伝子の検出が可能である
ことが確認された。また、図9に示す通り、連続流PCR用微小流体デバイスを使用するこ
とにより、遺伝子増幅から検出までを6分程度と、極めて迅速に実現できることが確認された。
【0053】
なお、これらの検討においては、蛍光変化によってDNA断片の増幅を確認するリアルタイムPCR法を用いているが、本明細書で使用される技術は、リアルタイムPCRに限定されるものではなく、RT-PCRを含むPCR法を利用した核酸増幅技術に利用可能
である
上記の結果から、本発明が非常に高速にPCR反応を行えることが明らかになった。
【符号の説明】
【0054】
1 PCR試料注入用チューブ
2 蛇行流路
3 リザーバー
4 連続流PCR用微小流体デバイス
5 アニーリング用ヒーターブロック
6 伸長反応用ヒーターブロック
7 DNA変性用ヒーターブロック
8 試料プラグ(sample)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1回のPCRサイクルを行うことができる蛇行流路を備えた核酸増幅装置にPCR試料液を供給してPCR反応を行う核酸増幅方法において、前記核酸増幅装置は、片側のループ部に対応する1つのDNA変性用温度帯と反対側のループ部に対応するアニー
リング用温度帯、アニーリング用温度帯とDNA変性用温度帯との間の伸長用温度帯を有し
、かつ、PCR試料液は気体に挟まれた試料プラグの形状でポンプにより蛇行流路内に送液され、気体によりPCRの1サイクル分或いはそれ以上隔てられた状態で前記蛇行流路内に供給されることを特徴とする、核酸増幅方法。
【請求項2】
前記試料プラグの前後の気体との界面に生じる蒸気圧差を利用することにより、アニーリング用温度帯からDNA変性用温度帯へ向かう加熱過程における送液速度を遅延させて伸
長用温度帯での酵素的伸長反応時間を確保し、逆にDNA変性用温度帯からアニーリング用
温度帯へ向かう冷却過程において送液速度を促進させて、前記加熱過程よりも高速に通過させる温度制御方法を利用することを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項3】
チップ内流路内溶液の温度を観察するための薄膜フィルムを使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の核酸増幅方法。
【請求項4】
前記試料プラグに対する温度制御方法が、(i)温度下降のためのアニーリング用ヒータ
ー温度を40℃以下に冷却、(ii)蛇行流路の平行する流路同士の間隔を200μm以上に確保、(iii)気泡発生や安定した送液のため流路断面のアスペクト比を1/8より大きく1未
満に設定、の少なくとも1つの温度制御方法を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−55921(P2013−55921A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197313(P2011−197313)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼刊行物名 「Analytical Sciences Vol.27(2011),No.3」 発行日 平成23年3月10日 発行所 社団法人日本分析化学会
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.SELFOC
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省「生物剤検知用バイオセンサーシステムの開発」受託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】