説明

核酸増幅法

【課題】核酸増幅反応特にPCRの多重反応において、プライマー二量体の形成を抑制或いは排除し、増殖特異性を高めるための方法を提供する。
【解決手段】増幅反応試薬として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、標的核酸と、核酸ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる増幅反応において、標的核酸の増幅特異性を高めるための方法であって、一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと担体核酸とを含むプライマー/担体混合物を調製し、そして当該プライマー/担体混合物に、標的核酸、一種又は二種以上のマグネシウム塩及び核酸ポリメラーゼを接触させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸を増幅するための方法、特に感染性微生物の診断テストにおける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により核酸配列を増幅するためには、標的核酸内部の異なる配列にハイブリダイズする少なくとも二種のオリゴヌクレオチド増幅プライマーが必要である。一般に、3’端の配列に相同性がある複数のオリゴヌクレオチドの使用は避けることが望ましい。相同3’端を有するプライマーは互いにハイブリダイズし合う可能性があり、プライマー二量体をはじめとする各種の増幅アーチファクトをもたらすことになる。
【0003】
3’端が相補的であるプライマーのハイブリダイゼーションは、PCR反応成分のすべてを混合した後、増幅開始前に、反応混合物中にマグネシウムが存在することにより低温においてプライマー対合体が安定化するために起こり得る。プライマー二量体の形成は、室温又はこれより低温で、DNAポリメラーゼによるプライマー対合体の伸長によって起こる。生じるプライマー二量体産物はPCRにおいて増幅され、プライマー及びポリメラーゼをめぐり標的核酸と競争する。最初の段階で十分なプライマー二量体産物が形成されてしまうと、後続のPCR増幅においてこの産物が選定した標的を凌駕してしまい、(1)偽陰性結果、すなわち当該試料には特定の配列が実際には存在するのに含まれないように見えること、或いは(2)「ノー・テスト」結果、すなわち内部陽性対照からのシグナルがまったく得られないこと、をもたらす場合がある。
【0004】
プライマーセットの一次配列の他、プライマー二量体形成に寄与する主要因子として、アッセイ特異的マスター混合物(ASMM)に含まれるプライマーのモル量が多いこと;反応体の添加順序(例えば、ASMM、MgCl2 溶液、標的/試料の順に添加するとプライマー二量体の形成が増加する);ASMMへのMgCl2 の添加と標的の添加との間のインキュベーション期間;並びに、PCR熱サイクルを開始する前の、完全な増幅反応混合物、すなわち、標的及びポリメラーゼをはじめとする増幅に必要な成分のすべてを含むもの、をインキュベートする時間、が挙げられる。
【0005】
プライマーとポリメラーゼの核酸増幅用混合物におけるプライマー二量体の形成を抑制するための方法がいくつか知られている。それらの方法には以下のものが含まれる。
1.個別具体的な反応混合物において各PCRプライマーを他のすべてのプライマーとの3’端の相同性が最も低くなるように注意して設計する方法。しかしながら、この方法は、多重反応、すなわち異なる標的核酸配列に向けた数種類の増幅プライマー対を含む反応においては困難となる。さらに、プライマー対が単一の場合でも、例えば、同定領域又は保存領域のような別の拘束因子により達成が困難となる場合もある。
【0006】
2.プライマー二量体の形成に利用され得る時間を短縮するため、アッセイ特異的反応混合物を調製した後すぐに熱サイクル/増幅反応を実行する方法。しかしながら、実用上、特に多数の試料をスクリーニングする場合には、この方法では困難な場合がある。
3.潜在的なプライマー二量体を不安定化するために試薬の添加順序を変更する方法。例えば、MgCl2 を最後の成分として添加すると、プライマー二量体の形成を抑制することができる。しかしながら、この方法は、(1)プライマー二量体の形成を排除するものではない、(2)不便である、そして(3)試料の標的で塩化マグネシウム溶液が汚染される可能性がある、という理由で望ましくはない。
【0007】
4.プライマー対合体が形成し得る温度においてポリメラーゼ活性を阻害するが高温では不活化される抗ポリメラーゼ抗体である「引き金」抗体を使用する方法。したがって、ポリメラーゼは、プライマー二量体が形成できないような高温においてのみ活性化される(米国特許第5,338,671号及び同第5,587,287号並びに欧州特許出願第0592035号参照)。しかしながら、抗体/ポリメラーゼの結合は平衡過程であるため、すべてのポリメラーゼを完全に結合させることはできない。このため、抗体系のPCR制御は、特に複雑な増幅反応においては、必ずしも100%有効であるものではない。
【0008】
5.高温開始型PCRを実施する方法(Chouら、Nuc. Acids Res. 20:1717-1723, 1992)。この方法は、耐熱性DNAポリメラーゼを除く全成分を反応混合物に添加し、産物変性工程で反応を開始し、その後に反応管を開けて当該ポリメラーゼを反応混合物に添加するというものである。この方法は、プライマー二量体の形成を抑制する点では有効であるが、いくつかの理由から実用的ではない。最も顕著な理由として、取扱いが非常に煩わしく、アンプリコンのキャリオーバーの可能性を著しく増大させてしまうことが挙げられる。
【0009】
6.加熱されるまでは比較的不活性であるAmpliTaq Gold のような耐熱性DNAポリメラーゼを用いて高温開始型PCRを実施する方法(欧州特許出願第624641号及び米国特許第5,491,086号参照)。しかしながら、AmpliTaq Gold は低温において有意な残存酵素活性を保持するため、なおも副産物を生じる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの方法の中に、プライマー二量体の形成を成功裏に排除することが予測できるものはない。プライマーを慎重に設計し、Taqポリメラーゼとの組合せで引き金抗体又はAmpliTaq Gold を使用することで、プライマー二量体の形成を抑制することはできても、これを排除することはない。このように、当該技術分野では、PCR反応、特に多重反応において、プライマー二量体の形成を一層抑制し、或いは排除するための改良法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、標的核酸の増幅の特異性を高めるための方法を提供するものである。本発明は、標的に特異的なオリゴヌクレオチド増幅プライマーと核酸ポリメラーゼを要する反応のすべてに適用可能である。本発明は、一側面として、増幅反応混合物として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、核酸ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる増幅反応において標的核酸の増幅特異性を高めるための方法であって、一種又は二種以上のプライマーと担体核酸とを含むプライマー/担体混合物を調製し、そして当該プライマー/担体混合物に、標的核酸、一種又は二種以上のマグネシウム塩及びポリメラーゼを接触させることを特徴とする方法に関する。
【0012】
別の側面として、本発明は、増幅反応混合物として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、Taqポリメラーゼと、塩化マグネシウムとが含まれる増幅反応において標的核酸の増幅特異性を高めるための方法であって、一種又は二種以上のプライマーとウシ胸腺DNAを含む担体核酸とを含むプライマー/担体混合物を調製し、その際に当該担体核酸の濃度を増幅反応混合物1mL当たり約1〜約100μgの範囲とし、そして当該プライマー/担体混合物に、約100℃未満の温度で、標的核酸、Taqポリメラーゼ及び塩化マグネシウムを接触させることを特徴とする方法に関する。
【0013】
また別の側面として、本発明は、増幅反応混合物として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる、標的核酸を増幅するための反応において非標的核酸のポリメラーゼ伸長を抑制するための方法であって、一種又は二種以上の増幅プライマーと担体核酸とを含むオリゴヌクレオチドプライマー/担体核酸混合物を調製し、そして当該プライマー/担体混合物に、標的核酸、ポリメラーゼ及びマグネシウム塩を接触させることを特徴とする方法に関する。
【0014】
第四の側面として、本発明は、増幅反応混合物として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる、標的核酸を増幅するための反応においてプライマー二量体その他の非特異的核酸増幅産物の形成を抑制するための方法であって、一種又は二種以上のプライマーと担体核酸とを含むプライマー/担体核酸混合物を調製し、そして当該プライマー/担体混合物に標的核酸、ポリメラーゼ及びマグネシウム塩を接触させることを特徴とする方法に関する。
【0015】
担体核酸としては、DNA、RNA及びタンパク核酸をはじめとし、どのような核酸でも使用することができる。当該担体をDNAとすることが好ましく、そしてこれをウシ胸腺DNAとすることが最も好ましい。典型的には、最終増幅反応混合物中での濃度が約1〜約100μg/mL、好ましくは約5〜約75μg/mL、最も好ましくは約25〜約50μg/mLの範囲となるように、担体を添加する。
【0016】
本発明の方法は、増幅アッセイ中の非標的核酸のポリメラーゼ伸長を抑制する点で特に有利である。本法は、特に、増幅反応混合物を、増幅反応の開始前に、標的核酸を変性させるのに要する温度よりも低い温度(すなわち、100℃未満)において維持する場合に適用することができる。このような条件には、例えば、増幅反応混合物を、室温又は室温よりも若干低い温度において約1〜約24時間維持するという場合が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、核酸増幅混合物に担体核酸を添加すると、標的核酸の増幅の効率及び特異性が相当に高くなるという発見に基づくものである。具体的には、本発明の方法は、熱サイクル工程において増幅混合物の温度を高める前のプライマー二量体の形成量を減少させることにより、増幅アッセイに際して非標的核酸のポリメラーゼ伸長を抑制することとなる。
【0018】
本発明の実施には、分子生物学、微生物学、組換えDNA及びタンパク生化学における多くの技術が使用され、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, 1985 (D.N. Glover ed.); Oligonucleotide Synthesis, 1984, (M.L. Gait ed.); Transcription and Translation, 1984 (Hames and Higgins eds.); A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.);及び Protein Purification: Principles and Practice, Second Edition (Springer-Verlag, N.Y.)に説明がある。
【0019】
本明細書中の用語「増幅反応混合物」は、少なくとも増幅プライマーと、標的核酸と、デオキシヌクレオチドと、ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩と、緩衝液とを、核酸増幅反応を進行させるに十分な量で含む増幅に十分な混合物をさす。
本明細書中の用語「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、ポリリボヌクレオチドもしくはポリデオキシリボヌクレオチド又はポリリボ/ポリデオキシリボ混合型ヌクレオチドからなる任意の長さのプリン及びピリミジン含有ポリマーをさす。これには一本鎖及び二本鎖の分子、例えば、DNA−DNA、DNA−RNA及びRNA−RNAの各バイブリッド、並びにアミノ酸骨格に塩基を複合化して形成される「タンパク核酸」(PNA)が含まれる。また、変性塩基を含有する核酸も含まれる。
【0020】
本明細書中の用語である「相補的な」核酸配列は、元の配列とのワトソン−クリック型塩基対合に関与するアンチセンス配列をさす。
【0021】
本明細書中の用語「プライマー」は、目的の一本鎖核酸配列と二本鎖を形成し且つ、例えば、逆転写酵素又はDNAポリメラーゼの使用により相補鎖の重合を可能ならしめるオリゴヌクレオチドであって、長さがヌクレオチド数で約6〜約50、好ましくは約12〜約25、最も好ましくは約12〜約18の範囲にあるものをさす。
【0022】
本明細書中の用語「増幅」は、核酸を複製するための反復工程をさす。好適な増幅法には、ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅法、核酸単一塩基増幅法及び転写介在型増幅法が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書中の用語「標的核酸」は、そのサブ配列がPCR反応において増幅される核酸鋳型をさす。
【0024】
内部陽性対照(IPC)標的核酸は、プラスミドベクター中にクローン化され、その後典型的には制限エンドヌクレアーゼの作用で線状化された合成核酸配列である。IPCは、典型的には、ジェネリックなプローブ結合領域を取り囲む複数のプライマー結合配列を有し、核酸増幅反応において偽陰性結果に対するジェネリックな対照として働く。
【0025】
好適な内部陽性対照標的DNAの配列は以下の通りである。
【0026】
【化1】

【0027】
本発明は、標的核酸にハイブリダイズし、標的核酸の酵素的複製を開始するために標的核酸と共に一種又は二種以上のオリゴヌクレオチドをインキュベートする反応であればいずれのものに対しても適用することができる。このような反応には、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅法、核酸単一塩基増幅法及び転写介在型増幅法が含まれる。
【0028】
これらの反応では、オリゴヌクレオチドプライマー、緩衝液及び塩、デオキシヌクレオチド並びにその他の任意成分を含有するアッセイ特異的マスター混合物を処方する。次いで、標的核酸を添加し、その後、反応を触媒する酵素、例えば、Taqポリメラーゼ、及び/又は反応の進行に必要なマグネシウム塩、例えば、塩化マグネシウム、を添加する。
【0029】
本発明の方法に用いるのに適した他の成分として、低温においてポリメラーゼに結合しこれを不活化するが、高温では自身が不活化されてポリメラーゼを活性化させることになる抗ポリメラーゼ抗体が含まれるが、これに限定されない。また、反応混合物にエキソヌクレアーゼやグリコシラーゼを含めてもよい。
【0030】
本発明を実施する際、標的核酸、ポリメラーゼ又はマグネシウム塩との混合前に、オリゴヌクレオチドプライマーと担体核酸とを接触させる。
【0031】
本発明による担体核酸は、原核生物又は真核生物のDNA及び/又はRNA、合成DNA及び/又はRNA、又はランダム及び/又は特異的なPNA(ペプチド核酸)をはじめとする(これらに限定されない)任意の核酸を含むことができる。好ましくは、担体はDNA、最も好ましくはウシ胸腺DNAを含む。
【0032】
本発明で使用するための担体核酸は常用方法により調製することができる。例えば、DNA又はRNAは除タンパク処理により単離することができる。DNAは、例えば、Matteucci et al., 1981, J. Am. Chem. Soc. 103:3185に記載のホスホルアミダイト固相担体法、Yoo et al., 1989, J. Biol. Chem. 764:17078に記載の方法、その他の周知方法を用いて化学合成することができる。
【0033】
本発明に用いられる核酸は、当該技術分野で知られている任意の手段により修飾することもできる。このような修飾の例として、メチル化、「キャップ」、天然ヌクレオチドの一又は二以上を類似体で置換すること、ヌクレオチド間修飾、例えば、無荷電結合(例、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメート、等)又は荷電結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、等)で修飾したもの、が挙げられるが、これらに限定されない。核酸は、一又は二以上の追加的な共有結合された部分、例えば、タンパク質(例、ヌクレアーゼ、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジン、等)、挿入体(例、アクリジン、プソラレン、等)、キレート剤(例、金属、放射性金属、鉄、酸化性金属、等)及びアルキル化剤を含むことができる。核酸は、メチルもしくはエチルホスホトリエステル又はアルキルホスホルアミデート結合の形成により誘導体化されることができる。リン酸基の酸素原子の一又は二以上を硫黄原子に置き換えたチオール化増幅プライマーを、例えば、Eckstein et al., Ann, Rev. Biochem. 54:367 (1985); Zon et al., Anticancer Drug Design 6:539 (1991); 及びOlson et al., PNAS 83:1451 (1990) に記載の方法により合成することができる。
【0034】
増幅反応体積における担体核酸の最終濃度が約1〜約100μg/mL、好ましくは約5〜約75μg/mL、最も好ましくは約25〜約50μg/mLの範囲となるに十分な量の担体核酸をプライマー含有マスター混合物に添加する。当該反応におけるプライマーの典型量は約0.1M〜約1Mの範囲の濃度である。担体の最適量は具体的なアッセイについて個別に決定することができる。この決定は、標準化されたマスター混合物への担体核酸の添加量を増加させていき、標的核酸及び酵素を添加し、そして反応に引き続き、特異的増幅産物と非特異的増幅産物の量を監視することにより行うことができる(例えば、後述の例1を参照のこと)。
【0035】
担体核酸は、標的核酸の添加前にオリゴヌクレオチドプライマーと混合することが好ましい。次いで、そのプライマー/担体混合物を標的核酸、当該増幅反応を触媒するポリメラーゼ及び当該ポリメラーゼの効率的作用に欠かせないマグネシウム塩と混合する。典型的には、その反応混合物を、増幅反応の開始前に約90〜約100℃未満の温度に維持する。好ましくは、増幅を熱サイクルにより行い、そして混合物の温度を熱サイクルの開始前に約90〜約100℃未満の温度に維持する。最も好ましくは、当該反応混合物を増幅反応の開始前にほぼ室温において維持する。
【0036】
理論に拘束されることを望むものではないが、プライマー二量体の形成が抑制されるメカニズムとして異なるいくつかのものが考えられる。第一は、ポリメラーゼが担体核酸に結合するというものである。このことは、混合物にさらに抗ポリメラーゼ抗体を存在させる場合に特に有益である。抗ポリメラーゼ抗体が結合していないポリメラーゼ分子が担体核酸に結合されることにより、存在するかもしれない対合したプライマーが伸長する可能性を一層低くするからである。第二に、担体核酸は混合物中の対合したプライマーの数を減らすと考えられる。プライマーは担体DNAにも弱くアニールするためである。プライマーが担体核酸に結合することにより形成された非特異的伸長産物は、これらの非特異的部位のための対合プライマーが存在しないため、PCRの標的増幅段階において増幅されない。このため、プライマー二量体の形成(その他の非特異的核酸産物の形成)が抑制される。
【実施例】
【0037】
以下の実施例は本発明を限定することなく説明するものである。
実施例1:HIV配列のPCR増幅に対する担体核酸の効果
HIV増幅反応に担体核酸を添加した効果を監視するために以下の実験を実施した。
【0038】
表1に示した11種のプライマー、トリス緩衝液、dNTP、AmpliTaq、及び二種のAmpliTaq引き金抗体(米国特許第5,338,671号及び同第5,587,287号;欧州特許第0592035号)を含有するマスター混合物を配合した。マスター混合物は、ウシ胸腺DNAを含まないものと含むものとを調製した(それぞれ第Iグループ、第IIグループ)。
【0039】
【表1】

【0040】
第Iグループ、第IIグループのアリコート各50μLに、25μLの16mM MgCl2 を添加し、続いて25μLの標的混合物(20mM NaOHに13.3コピーの内部陽性対照標的核酸を含む)を添加した。各グループにつき、3種類の実験プロトコルを採用した。これを以下の表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
I(a,b,c)=マスター混合物中に担体DNAは含まない
II(a,b,c)=マスター混合物中に担体(ウシ胸腺)DNAを含む
【0043】
反応混合物の一組(記号Aで表す)では、IPCプライマーはチオール化されていないが、第二の組(記号Bで表す)では、IPCプライマーはチオール化されている。
【0044】
すべての反応は2回繰り返した。混合物の75μLのアリコートをブランクの核酸パウチ(Ortho Clinical Diagnostics, Rochester, NY)に添加した。PCR増幅反応の条件は以下の通りとした。
【0045】
(1)DNA及びAmpliTaq引き金抗体を完全変性させるため96℃3分間;
(2)96℃5秒間に続く62℃40秒間を5サイクル;
(3)96℃5秒間に続く68℃40秒間を35サイクル。
増幅産物をパウチから取り出し、トリス−ホウ酸緩衝液中で4%アガロースゲル電気泳動法により分離した。増幅DNA産物を臭化エチジウム染色法により検出した。
【0046】
実験結果は、ゲルの写真において特異的(IPC)産物及び非特異的産物(プライマー二量体その他の正しくないプライミング産物)の強度を目視検査することにより評価した(表3)。特異的及び非特異的な産物のバンド強度を0〜10のスケールで目視評価した。ここで0は検出できるバンドが存在しないことを、そして10は最大強度をそれぞれ表す。NAは評価されなかったことを表す。
【0047】
【表3】

【0048】
3種のサブセット(a〜c)のすべてにおいて、第IIグループの増幅反応は、第Iグループと比較して、特異的産物のバンドは強く、非特異的産物のバンドは弱くなった。このことは、実験のA部(非チオール化IPCプライマーを使用)についても、実験のB部(チオール化IPCプライマーを使用)についても当てはまった。4種類のグループのすべてにおいて、熱サイクル工程の前に約4時間室温で混合物をインキュベーションすることを含み、プライマー二量体の形成により有利な条件を混合物に適用するほど(a〜c)、プライマー二量体産物の量は増加し、そして特異的産物の量は減少した。I−cでは、唯一の可視ゲルバンドは強いプライマー二量体のバンドであった。対照的に、II−cの反応では、強い産物バンドが認められ、これに釣り合うようにプライマー二量体産物は非常に少なくなった。最後に、IPCプライマーのチオール化(B部)は、特異的産物の合成を若干増加させることとなったが、これは担体核酸を含むマスター混合物の配合によるほどの利益ではなかった。
【0049】
全ての特許、出願、論文、刊行物、及び本明細書で記載の試験方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
当業者は、上記の詳細な説明に関して、本発明の多くの変形を提案するはずである。かかる明確な変形は、添付の特許請求の範囲で十分意図される範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅反応試薬として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、標的核酸と、核酸ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる増幅反応において標的核酸の増幅特異性を高めるための方法であって、
(a)一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと担体核酸とを含むプライマー/担体混合物を調製し、そして
(b)前記プライマー/担体混合物に、標的核酸、一種又は二種以上のマグネシウム塩及び核酸ポリメラーゼを接触させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記担体核酸が、DNA、RNA及びペプチド核酸(PNA)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DNAがウシ胸腺DNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり1〜100μgの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり5〜75μgの範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物を、前記増幅反応の開始前に90〜100℃未満の温度で維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記温度を熱サイクルの開始前に維持する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリメラーゼがTaqポリメラーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記マグネシウム塩が塩化マグネシウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物がさらに、抗ポリメラーゼ抗体、エキソヌクレアーゼ及びグリコシラーゼからなる群より選択された成分又はこれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
増幅反応試薬として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、Taqポリメラーゼと、塩化マグネシウムとが含まれる増幅反応において標的核酸の増幅特異性を高めるための方法であって、
(a)一種又は二種以上のプライマーとウシ胸腺DNAを含む担体核酸とを含むプライマー/担体混合物を調製し、そして
(b)前記プライマー/担体混合物に、標的核酸、Taqポリメラーゼ及び塩化マグネシウムを接触させ、さらに、
前記増幅反応における担体核酸の濃度を増幅反応体積1mL当たり1〜100μgの範囲とすることを特徴とする方法。
【請求項12】
増幅反応試薬として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる、標的核酸を増幅するための反応において非標的核酸のポリメラーゼ伸長を抑制するための方法であって、
(a)一種又は二種以上の増幅プライマーと担体核酸とを含むオリゴヌクレオチドプライマー/担体核酸混合物を調製し、そして
(b)前記プライマー/担体混合物に、標的核酸、ポリメラーゼ及び一種又は二種以上のマグネシウム塩を接触させることを特徴とする方法。
【請求項13】
前記担体核酸が、DNA、RNA及びペプチド核酸(PNA)からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記DNAがウシ胸腺DNAである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり1〜100μgの範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり5〜75μgの範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物を、前記増幅反応の開始前に90〜100℃未満の温度で維持する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記温度を熱サイクルの開始前に維持する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリメラーゼがTaqポリメラーゼを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記マグネシウム塩が塩化マグネシウムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物がさらに、抗ポリメラーゼ抗体、エキソヌクレアーゼ及びグリコシラーゼからなる群より選択された成分又はこれらの任意の組合せを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
増幅反応試薬として標的核酸に特異的な一種又は二種以上のオリゴヌクレオチド増幅プライマーと、ポリメラーゼと、一種又は二種以上のマグネシウム塩とが含まれる、標的核酸を増幅するための反応においてプライマー二量体その他の非特異的核酸増幅産物の形成を抑制するための方法であって、
(a)一種又は二種以上のプライマーと担体核酸とを含むプライマー/担体核酸混合物を調製し、そして
(b)前記プライマー/担体混合物に前記標的核酸を接触させ、さらに
前記プライマー/担体混合物の調製後に、前記プライマーと、ポリメラーゼ、一種又は二種以上のマグネシウム塩及びこれらの混合物からなる群より選ばれた成分とを接触させることを特徴とする方法。
【請求項23】
前記担体核酸が、DNA、RNA及びペプチド核酸(PNA)からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記担体核酸がDNAである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記DNAがウシ胸腺DNAである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり1〜100μgの範囲である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記担体核酸の前記増幅反応における存在濃度が1mL当たり5〜75μgの範囲である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記混合物を、前記増幅反応の開始前に90〜100℃未満の温度で維持する、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記温度を熱サイクルの開始前に維持する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリメラーゼがTaqポリメラーゼを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記マグネシウム塩が塩化マグネシウムを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
前記混合物がさらに、抗ポリメラーゼ抗体、緩衝剤、デオキシヌクレオチドトリホスフェート、エキソヌクレアーゼ及びグリコシラーゼからなる群より選択された成分又はこれらの任意の組合せを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記温度が室温である、請求項6に記載の方法。
【請求項34】
前記温度が室温である、請求項17に記載の方法。
【請求項35】
前記温度が室温である、請求項28に記載の方法。

【公開番号】特開2011−120594(P2011−120594A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−2508(P2011−2508)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【分割の表示】特願2000−32660(P2000−32660)の分割
【原出願日】平成12年2月3日(2000.2.3)
【出願人】(594199337)オルソ−クリニカル ダイアグノスティクス,インコーポレイティド (14)
【Fターム(参考)】