説明

核酸増幅用デバイス

【課題】試料の個別化増幅過程の前後において、標的分子の存在比率を維持し、遺伝子発現解析に応用可能な高精度な解析結果が得られる核酸増幅用デバイスを提供すること。
【解決手段】解析用ビーズを1個だけ保持することが可能なビーズ保持空間と、ビーズが保持されないが試薬反応は可能とする充分な容積を有する試薬反応空間とを、1組有する微小反応セルを、平面状に複数配置した構造を有する核酸増幅用デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子解析技術に関する。より詳しくは、測定対象であるmRNAなどの標的分子を、個別にビーズ等の固相表面で増幅する際に、それら標的分子の利用率を向上させ、標的分子の混合化や過剰増幅を解消する核酸増幅用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子配列解析技術において、測定対象であるmRNAやDNA断片などの標的分子を、その配列情報を保存した状態で増幅することは、重要な技術である。その一例として、パイロシーケンスを利用した配列解析システムがある(非特許文献1)。このシステムでは、測定対象である標的分子を、1つのビーズ表面に1種類のみとなるようにして、標的分子の個別増幅を実現する必要がある。
【0003】
一方、個別増幅を実現する要素技術として、オイル中の水溶液ミセルによる分離を用いる方法もある(非特許文献2)。この方法では、2相(水相、油相)の攪拌により水溶液ミセルが形成され、そのミセル内にビーズ、標的分子及び核酸増幅に必要な試薬等一式を保持し、サーマルサイクルによりビーズ表面で核酸を増幅する。従って、1つのミセル内には、ビーズと標的分子がそれぞれ1個ずつ入っていることが理想である。しかし、全てのミセルについてそのような条件を実現することは不可能であり、ビーズは有るが標的分子を含まないミセルや、逆に標的分子はあるがビーズのないミセル、さらにはビーズや標的分子が複数入っているものや、いずれも入っていないものなどが存在することになる(非特許文献2)。1つのミセル内に標的分子が複数入っている場合、増幅時にそれらの混在が発生し、配列解析が不可能になる。また、ミセルに標的分子が存在するにも関わらず、ビーズが入っていない場合は、標的分子をビーズ表面で増幅できず、標的分子の損失を招く。さらに、ミセル内にビーズが複数入っている場合は、同じ標的分子由来の増幅が複数のビーズ表面で起きるため、過剰解析の問題が生じる。
【0004】
さらに、スライドガラス等の平板表面に部分的な集合領域(コロニー)を生成する増幅方法も報告されている(非特許文献3)。この方法は、平板上に増幅用プライマーを固定したものを用い、標的分子をある距離を確保する濃度分布で平板上のプライマーに相補鎖結合し、その後、周辺のプライマーを利用して、プライマー伸長と橋状の相補鎖結合を繰り返すことにより、増幅物質のコロニーを形成するものである。この方法の課題は、平面上のプライマーへの相補鎖結合の効率が低いため、過剰の標的分子が必要となることと、仮に複数の標的分子が近接で相補鎖結合した場合に、増幅物のコロニーが結合してしまい、混合が生じてしまうことである。
【0005】
【非特許文献1】NATURE, Vol. 437, pp.376-380 (2005)
【非特許文献2】PNAS, Vol.100, No.15, p8817-8822 (2003)
【非特許文献3】Cell, Vol.129, p823-837 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、従来技術では、標的分子の増幅において、(1)水滴(ミセル)内にビーズがないため、そのミセル内の標的分子を解析することができない、(2)ミセル内に複数のビーズが存在し、標的分子由来の増幅産物を固定した複数のビーズが生成し、過剰解析になるという問題があった。そのため、増幅行程という解析前処理の前後において、標的分子の存在比率が維持されず、得られた配列情報の頻度を統計的に解析しても、用いた標的分子の比率が分からず、遺伝子発現解析への応用が困難であった。
【0007】
また、各ミセルの大きさ、即ち容量は、ミセル生成時の攪拌に依存するため、その大きさの変動が大きい。それゆえ、増幅反応時の試薬量が変動し、その結果得られるビーズ上の増幅物の量も大きく変動する。従って、例えば、上述したパイロシーケンス法を利用した解析では、ビーズごとの信号量が大きく変動するため、検出系のダイナミックレンジが不足し、検出限界以下や、検出感度オーバーによる解析不能の事故が発生するという問題があった。
【0008】
本発明は、これら従来技術の問題点を解決し、高効率で高精度な核酸増幅用デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の課題を解決するため、直径数十マイクロメートル以下の微小ビーズを1個ずつ反応させることが可能な、大規模な並列増幅用デバイスを考案した。
【0010】
すなわち、本発明は、一例として、1個の第1ビーズを保持することが可能な第1空間と、前記第1空間と対面する第2空間とを1組有する反応セルを、平面状に複数配置された核酸増幅用デバイスであって、前記第1空間と前記第2空間とは、前記平面状の面から見たときの前記第1空間と前記第2空間とが重ならない領域に、前記第1ビーズが位置しないように配置されることを特徴とする核酸増幅用デバイスに関する。
【0011】
ある実施形態では、ビーズ保持空間(1個の第1ビーズを保持することが可能な第1空間)と試薬反応空間(対面する第2空間)は直接上下に接続される。この場合、反応セル(微小反応セル)は、ビーズの直径rに対し各空間の高さと直径が以下の条件を満たすことにより、1個の微小反応セルに1個のビーズが保持されるように構成される:
1)ビーズ保持空間の高さが1/2rよりも大きく、かつ、3/2rよりも小さい、
2)ビーズ保持空間の高さと試薬保持空間の高さの和が2r以下である、
3)ビーズ保持空間の直径がrより大きく、かつ、2rよりも小さい。
【0012】
ビーズ保持空間と試薬反応空間は、ビーズの直径よりも小さい直径を有する細管で接続されていてもよい。
【0013】
本発明はまた、解析用ビーズを1個だけ保持することが可能なビーズ保持空間1と、ビーズが保持されない試薬反応空間と、前記解析用ビーズとは異なる種類のビーズを1個だけ保持することが可能なビーズ保持空間2とを1組有する微小反応セルを、平面状に複数配置した構造を有するような構造を有する核酸増幅用デバイスも提供する。このデバイスでは、例えば、予め試料核酸を固定したビーズをビーズ保持空間2に保持させることができる。
【0014】
ある実施形態では、試薬反応空間はビーズ保持空間1とビーズ保持空間2の間に位置する。この場合、ビーズの直径rに対し、各空間の高さと直径が以下の条件を満たすことにより、1個の微小反応セルに1個のビーズが保持されるように構成される:
1)ビーズ保持空間1および2の高さが1/2rよりも大きく、かつ、3/2rよりも小さい、
2)ビーズ保持空間1または2の高さと試薬保持空間の高さの和が2r以下である、
3)ビーズ保持空間1および2の直径がrより大きく、かつ、2rよりも小さい。
【0015】
別な実施形態では、ビーズ保持空間1とビーズ保持空間2は、ビーズの直径よりも小さい直径を有する細管で接続される。
【0016】
本発明のデバイスにおいて、前記微小反応セルは、組み立てによりフローセル化が可能であり、またその開口面を覆う部材(上板)を設置することにより、各微小反応セルの個別化が可能となる。この開口面を覆う部材(上板)は、シール材等の弾性素材からなる層を有することがのぞましい。
【0017】
また、微小反応セルのフローセルに接した空間の壁面は必ずしも垂直である必要はなく、フローセル側に向かって開くように傾斜させることで、余分なビーズの流出を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、大規模並列型核酸配列技術において、解析不実施の標的分子を減少させ、遺伝子発現解析への応用時に解析精度を向上させることが可能となる。また、大規模並列解析時に解析不能な試料を減少し、解析効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
デバイスの基本構成
実施例1は、本発明のデバイスの基本的な構成を示す。図1は、本発明の標的分子である核酸を並列増幅するデバイスの部分断面図である。図2は、デバイスの全体図を示す。図2の破線部A−A’における断面図が図1である。ここでは、長方形の平板表面に複数の微小反応セル101を有する構造を示すが、本発明のデバイスはこれに限定されるものではない。
【0021】
図3は、微小反応セルの断面である。本実施例では、微小反応セルは、円柱状のビーズ保持空間301と、円柱状の試薬反応空間302を有している。それぞれの高さ及び直径を、310、311及び、320、321とする。なお、セルの形状は、後述する本発明の効果が得られる限り、円柱状に限定されるものではない。
【0022】
高さ310及び直径320は、以下の条件となるように設計する。用いるビーズの直径をrとすると、まず、高さ(310)は、(1/2r)<高さ(310)<(3/2r)が、満たされる条件とする。高さ(310)と高さ(311)の和は、2r以下とする。また、直径に関しては、ビーズ保持空間の直径320が、r<直径(320)<2rとなることが必要である。この条件により、反応セルに1ビーズを保持することが可能となる。
【0023】
デバイスのフローセル化
図4は、デバイスのフローセル化を示す。図4に示すとおり、デバイスは並列増幅デバイス401と、上板402と、スペーサー材料403を重ね合わせた構造を有し、スペーサー材料403は、その中央部分に、フローセルとなる空間404を有している。空間404は、デバイス上の407に射影される。デバイス上の微小反応セル群は、410で示されている。上板402は、流入口405と、排出口406を有し、流入口405より、ビーズを含む溶液を流し込むことで、フローセル内の微小反応セルに、ビーズが保持される。
【0024】
図5は、ビーズがビーズ保持空間に保持される仕組みを示す。図5には、ビーズ501と、ビーズ502が図示されている。空間503は、ビーズを含む溶液で満たされており、左を流入口側、右を排出口側とすると、溶液は左右に繰り返し流され、ビーズの一部が図のように微小反応セル内に落ちる。ビーズ501は、微小反応セルのビーズ保持空間に入っており、左右の溶液の流れでは、容易には流出しないため、ビーズ保持空間に保持される。一方ビーズ502は、試薬の流れにより、再度、流路部分に流出する。
【0025】
図6は、ビーズの保持及び流出を示す図である。ビーズ501と502が接する状態で、ビーズ502は接点601においてセルの壁面と接している。ビーズの接線と壁面の延長上のビーズが接している面のなす角は602で示されるが、これがゼロでない場合は、試薬の流れに従い、ビーズが流れ出す。そのため、図6のように、ビーズ保持空間に1個のビーズがある状態で、第2のビーズ502とセルの接する角度がセル壁面とビーズ接線が一致する条件より正であれば、第2のビーズ502は排出されるため、微小反応セル1個に対して、ビーズ1個のみが保持される条件となる。
【0026】
図7は、試薬反応空間の直径321が大きく、ビーズ保持空間の第一のビーズと第2のビーズは接していない例を示す。この場合も同様に、接点701に対し、角度702が正となる条件となれば、微小反応セル1個に対してビーズ1個のみが保持が期待できる。角度702が正となるためには、高さ311は、高さ(311)<(1/2r)であることが必要である。
【0027】
図8は、試薬反応空間の壁面を斜めにした例を示す。このように、試薬反応空間の壁面を流れに対して垂直とせず、外側に斜めにすると、第2のビーズがより排出しやすくなる。
【0028】
以上のようにして、本発明のデバイスは、1個の微小反応セルに1個のビーズが保持されるように構成される(1ビーズ/1微小反応セル)。試薬を何度も左右に振ることにより、ビーズの保持されていない反応セルを、ほとんど無くすことが容易に可能となる。
【0029】
試薬反応空間の個別化と核酸増幅
1ビーズ/1微小反応セルの条件が達成されたら、余剰のビーズを全てフローセルより排出する。その後、フローセル内に、標的分子と核酸増幅に必要となるプライマー、酵素等の試薬を流入し、微小反応セルに満たす。この場合、1セルあたりの試薬の容量は、微小反応セルの容量から1ビーズ分の体積を引いたものである。従って、標的分子の濃度は、1セルに1分子しか入らない程度まで希釈する。なお、希釈が大きいと、標的分子を含まない率が高くなるが、本発明では、増幅の有無を増幅終了後に検定するため、問題ではない。むしろ、2分子が同時に反応セルに入る可能性を低くすることが重要である。
【0030】
図9は、微小反応セル(試薬反応空間)の個別化を示す。図9に示すとおり、試薬を注入した後、フローセルを解体し、上板901をセル上に設置することで、各微小反応セル及びセル内の試薬反応空間902は個別化される。この結果、1個のビーズを有する微小反応セルのそれぞれにおいて、独立して核酸増幅を実施することが可能となる。
【0031】
図10は、上板が2層構造を有する例である。このように、上板が、本体1001とシリコンゴムなどの弾性のある薄いシール材1002との2層構造を有することで、より確実な試薬反応空間の個別化が実現できる。
【0032】
図11は、試薬反応空間を個別化したデバイスの全体図を示す。図11に示すとおり、1枚の上板(本図では、本体1101とシール材1102との2層構造)で覆われることで、全ての微小反応セルが、空間的に独立となる。図11の構造の場合、デバイスの厚さを2mm以下とすると、従来のスライドガラス向けサーマルサイクラを用いて、容易に核酸増幅を実施できる。核酸増幅後は、全てのビーズを回収し、核酸の増幅の有無を検定する。核酸増幅の有無は、既報(PNAS, Vol.100, No.15, p8817-8822 (2003))に記載の方法等により検定できる。
【0033】
[実施例2]
ここで、本実施例として、直径50μmのビーズを固相として用い、DNAの増幅を検討した結果を説明する。まず、利用した微小反応セルのサイズは、図3において、径320が80μm,径321が500μmであり、高さ310及び高さ311がそれぞれ40μm及び20μmである。微小反応セルは、ポリカーボネートを材料とするナノインプリント形成を利用して製作した。微小反応セルは、製作時は撥水性を示すが、表面処理により親水性化が可能である。例えば、PEG等の両親媒性のポリマーを含む水溶液で表面を洗うことや、紫外線ランプを数分程度照射するなどの方法が良く知られている(Anal.Chem.2001,73,4196-4201)。我々は、水銀ランプ(40mW/cm2)を10分照射することにより、着色を押さえつつ親水化することを実現した。ビーズは、ジルコニアを材料とするビーズを利用した。ジルコニアビーズは、比重が5〜6と大きく、自重により簡単にセルに沈降するため、1ビーズ状態を作ることが容易であった。ビーズ表面は、表面よりC12リンカーで接続した20塩基のオリゴマーを、有している。これは、増幅対象のDNA分子の増幅用プライマーの片側と同じ配列であり、増幅用プライマーとして作用する。なお、増幅対象がmRNAである場合は、ビーズ表面には、表面よりC12リンカーで接続した(polyT)オリゴマーを結合したものを利用できる。この場合、特開2007-319028に記載の技術を応用することも可能である。
【0034】
本実施例では、上板で覆った場合の微小反応セルの全容量歯、約4,128pLである。ビーズ1個の体積が、約65pLであるため、ビーズ1個を有する微小反応セルの反応溶液総量は、約4,063pLとなる。増幅対象の試料DNAを、最終濃度として約0.4fmol/L以下に調整すると、1微小反応セル内に1分子を実現できる。
【0035】
遺伝子増幅は、以下の通りである。微小反応セルに入れる反応液として、試料DNAの他、表1の組成のPCR反応溶液を用いた。Fプライマーは、ビーズ表面の固定した配列と同じものである。増幅の温度サイクルは、94℃15秒,56℃30秒,70℃30秒を、40サイクル繰り返した。その結果、ビーズ表面に、Fプライマーに連続する単鎖化DNA増幅物を得ることが出来た。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例3]
本発明では、微小反応セルを、円柱状及び円錐状で表記した。球形のビーズを利用することにおいて、円柱状、及び円錐状の形状は、ビーズの水平方向の中心断面形状と相似であり、試薬反応空間が中心より360度、等方的に広がるため、ビーズへの増幅物の固定に適していると考えている。
【0038】
しかし、本発明の目的からは、形状は円柱状及び円錐状で限定されるものではない。さらに言えば、製造上の適正から、他の形状が優れている場合もある。例えば、先に述べた通り、デバイスとして、有機樹脂のナノインプリント形成を利用する場合は、その製造に使用するスタンパー製作の簡便性も、実際において重要である。スタンパーは、例えば、通常の半導体製造プロセスで多く利用されている、マスクと光露光による形成が利用しやすい。しかし、この場合、マスクに描画する形状として、曲線を含むことは、プロセスを増加する一因となる。そのため、我々は、円と近似となる6角形のセルを製作し、同様に機能することを確認した。
【0039】
図21は、微小反応セルにビーズが1個、捕捉されている場合の説明図である。(1)は円柱状であり、(2)は6角形状の例である。ビーズ2101を捕捉する場合、円柱状では、捕捉空間が2102で示され、試薬反応空間は2102と2103で挟まれる領域となる。微小反応セルを、6角柱で構成すると、捕捉空間が2104で示され、試薬反応空間は2104と2105で挟まれる領域となる。この場合、円柱状のセルと、同様に機能することを確認した。
【0040】
[実施例4]
実施例4では、2種の異なるビーズ保持空間を有する微小反応セルを、1対1で、個別化して有するデバイスを示す。
【0041】
図12は、第1種のビーズ1202を保持する微小反応セル1201の上に、第2種のビーズ保持空間1203を有する上板1204とシール材1205を設置した状態である。このデバイスを、実施例1の図4のデバイス401と同様にしてフローセル化し、第2種のビーズを含む試薬を流入する。
【0042】
図13は、上板1303によりフローセル化したデバイスに、第2種のビーズ1301と1302の流入及び保持を示す。図13では、特に、第2種のビーズが第1種のビーズ1202より大きい例を示す。この場合、実施例1と同様に、第2種のビーズのうち、ビーズ1301は、ビーズ保持空間1203に保持されるが、ビーズ1302は保持されることなく再度流出する。その結果、微小反応セルには、第1種のビーズ1202と、第2種のビーズ1301が、1個ずつ保持される。
【0043】
図14は、上板で覆うことにより個別化した微小反応セルを示す。図14に示すとおり、上記操作の後、上板1401及びシール材1402を設置することにより、微小反応セルの個別化が実現される。この構成により、一方のビーズ表面に増幅前の試料を固定化し、他方のビーズ表面に増幅物を固定化させることが可能となる。
【0044】
図15は、第2種のビーズが、第1種のビーズより小さい例である。このような場合でも、上記と同様に操作することで、微小反応セルの個別化が実現できる。
【0045】
[実施例5]
実施例5では、ビーズ保持空間と試薬反応空間を細管で接続した構造を有するデバイスを示す。
【0046】
図16は、2つの空間を細管で接続した構造を示す。ここでは、直径1601、高さ1602の第1の空間1603と、直径1604、高さ1605の第2の空間1606が、直径1607、高さ1608の細管1609で接続している。このデバイスでは、第1の空間をビーズ保持空間として、第2の空間を試薬反応空間として用いる。
【0047】
図17は、本デバイスのフローセル化を示す。図17に示すとおり、下板1701により第2の空間を閉じた状態で、図4と同様に、上板1702を用いてフローセル化し、ビーズを含む水溶液を導入すると、ビーズ1703が保持される。ビーズ1704は、先に述べた例と同様に、再度、流出するため、微小反応セルに1個のビーズが保持された状態が達成される。
【0048】
図18は、微小反応セル(試薬反応空間)の個別化を示す。図18に示すとおり、フローセルを解体し、板材で第1の空間を閉じ、上下反転させると、図18のように、下板1801で閉じたビーズ保持空間を有するデバイスが達成される。この状態で、板1701を外し、図4と同様にフローセル化すれば、試薬反応空間に試薬を導入することが可能となる。また、図18のように、再度、板1701を設置すれば、微小反応セル(試薬反応空間)の個別化が達成される。
【0049】
[実施例6]
実施例6では、第1種のビーズ保持空間と第2種のビーズ保持空間を細管で接続した構造を有するデバイスを示す。
【0050】
図19は、第1種のビーズ保持空間と第2種のビーズ保持空間を細管で接続した構造を示す。実施例1と同様にして、フローセル化したデバイスに、第2種のビーズ1901及び1902を流入させ、ビーズ1902を流出させることで、微小反応セルに第1種のビーズと第2種のビーズ1901が1個ずつ保持される。
【0051】
図20は、試薬反応空間の個別化を示す。図20に示すとおり、試薬を注入した後、フローセルを解体し、上板をセル上に設置することで、2種のビーズが1個ずつ含まれた微小反応セルの個別化が実現できる。この場合、試薬反応空間は、2001で示される円柱状の空間であり、2つのビーズ保持空間の接続部を兼ねている。
【0052】
本例の好適な利用方法は以下の通りである。ビーズ表面にDNAを増幅する場合と、ビーズ表面に存在する増幅物を用いて、各種の検出や検定、配列決定などを実施する場合では、求められるビーズの性能がことなる場合が多い。例えば、ビーズ表面にDNAを増幅する場合は、増幅反応試薬の成分であるプライマーや酵素が、ビーズ表面に吸着しにくいことが求められるため、セファロースやアガロース等の親水性ポリマーを素材とするビーズを利用する場合が多い。一方、ビーズ表面に存在する増幅物を用いて、各種の検出や検定、配列決定などを実施する場合において、その利用をフローセル内で実施する場合は、フローにおいて、ビーズの流出が発生しない様に、ビーズの比重が大きいものが、利用しやすい。そのため、シリカビーズ、ジルコニアビーズ、各種プラスチックビーズ、金属ビーズなどが利用される。本実施例は、予め、先の実施例で説明した様な行程で、セファロース増幅用ビーズ2002の表面に増幅物を増幅し、測定用ビーズ2003として、比重の大きなジルコニアビーズを利用する。試薬反応空間は、ビーズ2002の表面にあるDNAを鋳型としてPCR増幅を実施できる試薬を満たす。この条件で、サーマルサイクラーに装着し、微小反応セル内でPCR増幅を実施することにより、測定用ビーズ2003表面に、解析対象のDNA増幅物を増幅した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、生命科学、医療、食品等、遺伝子解析技術を必要とするあらゆる分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】デバイスの部分断面図である。
【図2】デバイスの全体図である。
【図3】微小反応セルの拡大図である。
【図4】デバイスをフローセル化する組み立て図である。
【図5】ビーズがビーズ保持空間に保持される仕組みを説明する図である。
【図6】ビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図7】試薬反応空間の直径が大きく、ビーズ保持空間の第一のビーズと第2のビーズは接していない場合の、ビーズの保持及び流出を説明する図である。
【図8】試薬反応空間の壁面を斜めにした場合の、ビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図9】微小反応セルの個別化を示す図である。
【図10】上板が2層構造を有する構成を示す図である。
【図11】微小反応セルが個別化されたデバイスの全体図である。
【図12】2種のビーズを用いるデバイスのビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図13】第1種のビーズより第2種のビーズが大きい場合の、ビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図14】2種のビーズを1個ずつ個別化した微小反応セルの図である。
【図15】第1種のビーズより第2種のビーズが小さい場合の、ビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図16】2つの空間を細管で接続した構造の微小反応セルを説明する図である。
【図17】デバイスのフローセル化を示す図である。
【図18】微小反応セルの個別化を示す図である。
【図19】第1種のビーズ保持空間と第2種のビーズ保持空間を細管で接続した構成を示す図である。
【図20】第1種のビーズ保持空間と第2種のビーズ保持空間を細管で接続した構成における、ビーズ保持及び流出を説明する図である。
【図21】微小反応セルにビーズが1個捕捉されている場合を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
101・・・微小反応セル、301・・・ビーズ保持空間、302・・・試薬反応空間、310・・・ビーズ保持空間高さ、311・・・試薬反応空間高さ、320・・・ビーズ保持空間直径、321・・・試薬反応空間直径、401・・・並列増幅デバイス、402・・・上板、403・・・スペーサー材料、404・・・フローセルとなる空間、405・・・流入口、406・・・排出口、501,502・・・ビーズ、503・・・空間、601, 701・・・接点、702・・・角度、901・・・上板、902・・・試薬反応空間、1001・・・本体、1002・・・シール材
1202・・・ビーズ、1201・・・微小反応セル、1203・・・ビーズ保持空間、1204・・・上板、1205・・・シール材、1303・・・上板、1301, 1302・・・ビーズ、1401・・・上板、1402・・・シール材、1601, 1604, 1607・・・直径、1602, 1605, 1608・・・高さ、1603・・・第1の空間、1606・・・第2の空間、1609・・・細管、1701・・・下板、1702・・・上板、1703, 1704・・・ビーズ、1801・・・下板、1902, 1901・・・ビーズ、2001・・・試薬反応空間、200・・・2セファロース増幅用ビーズ、2003・・・ジルコニアビーズ、2101・・・ビーズ、2102,2104・・・捕捉空間(2012と2103の間,2104と2105の間・・・試薬反応空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の第1ビーズを保持することが可能な第1空間と、前記第1空間と対面する第2空間とを1組有する反応セルを、平面状に複数配置された核酸増幅用デバイスであって、
前記第1空間と前記第2空間とは、前記平面状の面から見たときの前記第1空間と前記第2空間とが重ならない領域に、前記第1ビーズが位置しないように配置されることを特徴とする核酸増幅用デバイス。
【請求項2】
前記第2空間は、前記第1ビーズ以外のビーズを保持しないことを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項3】
前記第1ビーズの直径rに対し、下記の1)〜3)の条件を満たす、請求項2に記載の核酸増幅用デバイス:
1)前記第1空間の高さが1/2rよりも大きく、かつ、3/2rよりも小さい、
2)前記第1空間の高さと試薬保持空間の高さの和が2r以下である、
3)前記第1空間の直径がrより大きく、かつ、2rよりも小さい。
【請求項4】
前記第1空間と前記第2空間が、前記第1ビーズの直径よりも小さい直径を有する細管で接続されている、請求項1に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項5】
前記反応セルがフローセル化されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項6】
前記反応セルのフローセルに接した空間の壁面が、フローセル側に向かって開くように傾斜している、請求項5に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項7】
必要に応じて前記反応セルの開口面上に設置され、各前記反応セルを個別化可能な部材を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項8】
上記部材が弾性素材からなる層を有する、請求項7に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項9】
前記第2空間に、前記第1ビーズと異なる1個の第2ビーズを保持することが可能なことを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項10】
前記第1空間と前記第2空間の間に試薬反応の生じる第3空間を有する、請求項9に記載の核酸増幅用デバイス。
【請求項11】
前記第1ビーズの直径rに対し、下記の1)〜3)の条件を満たす、請求項10に記載の核酸増幅用デバイス:
1)前記第1ビーズ保持空間1および2の高さが1/2rよりも大きく、かつ、3/2rよりも小さい、
2)前記第1空間または前記第2空間と前記第3空間の高さの和が2r以下である、
3)前記第1空間および前記第2空間の直径がrより大きく、かつ、2rよりも小さい。
【請求項12】
前記第1空間と前記第2空間が、前記第1ビーズの直径よりも小さい直径を有する細管で接続されている、請求項9に記載の核酸増幅用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−195160(P2009−195160A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40248(P2008−40248)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】