核酸増幅装置、方法および細胞培養・核酸増幅方法
【課題】微量核酸を増幅する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、微量核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置、方法および細胞培養の過程からリアルタイム核酸増幅の過程までを同じ装置で実行できる細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法を提供する。
【解決手段】本発明は、微量核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置、方法および細胞培養の過程からリアルタイム核酸増幅の過程までを同じ装置で実行できる細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置、方法および細胞培養の過程からリアルタイム核酸増幅の過程までを同じ装置で実行できる細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を極微量で行うマイクロデバイスや、細胞を1個ずつ取り扱い、細胞に対して種々反応を行ったり観測を行ったりするシステムを実現するための新しい技術が種々提案されている。たとえば、本願の発明者らによる特開2006−162264号公報では、反応媒体を含む液滴を複数種準備して、これらを選択的に衝突させて反応を行わせる具体案が開示されている。
【0003】
従来の生化学反応をはじめとする化学反応は、ある大きさを有する容器の中で行うのが一般的であったが、このような液滴による操作ができれば、文字通りの微量反応が実現できる。このような微量反応の実現は、準備する試料の量の低減が可能になるのみならず、反応速度の向上等操作性の面でも有利であるのみならず、反応生成物を最小限にできるので無駄がないと言う点でも有用である。
【特許文献1】特開2006−162264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、核酸増幅を微量反応として液滴内で実現しようとするものである。すなわち、細胞一つを液滴に収納して細胞単位で細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置に関する。さらに、核酸増幅の対象である液滴内に収納した細胞を液滴内で増幅して、増幅された細胞を利用して細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の、核酸増幅装置、核酸増幅方法、核酸増幅用基板、細胞培養・核酸増幅方法、および細胞培養・核酸増幅用基板を提供する。
【0006】
(1)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上の前記溶媒層中に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられる熱源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記熱源から前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記熱源と前記液滴との相対的な位置を制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(2)前記熱源が
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備えるものであるとともに、
前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とが、所定のプログラムに従って前記熱伝導性基板の下面に接触させられるものである上記(1)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(3)前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える上記(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(4)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の配列された液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備える熱源、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴の列の各液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とから前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と前記液滴列との相対的な位置を制御するとともに、前記光検出手段を前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と対応させて位置を制御する制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(5)前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える上記(4)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(6)複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼとを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受けるとともに前記液滴を保持する領域を囲むように設けられた側壁を有する熱伝導性基板であって、該側壁と該基板の上面とで規定される漕内に前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板を載置するための基板載置手段、
前記熱伝導性基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記熱伝導基板上に所定の間隔で配列する手段、ならびに
前記熱伝導基板を介して前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
(7)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられるレーザー光源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記レーザー光の照射位置を所定のプログラムに従って制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(8)前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御する手段がガルバノミラーとその反射角を制御する手段である上記(7)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【0007】
本発明では、熱伝導基板上に配列された細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴を、その液滴と熱源との相対的な位置を制御して前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御することにより短時間で、液滴単位で独立して液滴内の細胞のPCRによる核酸増幅を実施する。
【0008】
あらかじめ細胞の特徴に着目して分離された細胞の懸濁液を吸い上げたピペット先端に一つの細胞を含有する適当な大きさの液滴を形成する。この際、細胞の懸濁液は、この細胞が有することが期待されている核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液とすることができる。あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液としてもよい。ピペットの先端に形成させる液滴は光学系でモニターして液滴の大きさを監視して制御する。
【0009】
透明な基板上に前記液滴を滴下させ、液滴を適宜配置する。前記透明基板上の液滴の時間に対する温度を所定のパターンに変化させ、液滴単位で独立して液滴内の細胞のPCRによる核酸増幅を実施する。
【0010】
必要に応じて、上記細胞の核酸増幅に先行して、それぞれの液滴内の溶液を細胞の培養液として、細胞の培養を行う。その後、液滴内の培養液をPCR溶液に置換した後、培養された細胞の核酸増幅を行う。
【0011】
典型的には、本発明の装置を用いた核酸増幅方法においては、チップ上に構成されたミネラルオイル層に適当な周期でXY方向に試料とPCR反応溶液を混合した液滴を配置する。さらに、以下の(1)−(3)のように実施する。
(1)ミネラルオイル層をアニーリング温度(50℃〜70℃)に維持しながら、変性温度(90℃〜95℃)に維持された加熱板をチップ下面から所定の時間周期で接近、離反を繰り返す。一方、チップ上面に液滴に1対1に対応する光検出器(例えば、CCD素子)を多数配置する。
(2)チップ下面にY軸方向に延伸された、変性温度(90℃〜95℃)に維持された加熱板A、アニーリング温度(50℃〜70℃)に維持された加熱板BおよびY軸方向に配列された液滴に1対1に対応する複数の光検出器をセットにして配列し、加熱板A、加熱板Bを交互にチップ下面から所定の時間周期で接近、離反を繰り返す。
(3)チップ下面に二つのガルバノミラーを配置して、全ての液滴を所定の周期でスキャンして温度制御を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞単位で独立して、短時間での核酸増幅を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、熱伝導性基板の上面に配列された細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを保持する複数の液滴を、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層内に保持し、前記熱伝導基板の下面に設けた熱源から前記液滴に熱エネルギーを伝播させて、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御するリアルタイム核酸増幅装置を提案するものである。
【0014】
本発明の実施例のリアルタイム核酸増幅装置を説明する前に、実施例に採用して好適な熱伝導性基板の上面に液滴を配列する具体例を説明する。以下に説明する具体例は、単に本発明の例示としてのみ示されるものであって、本願発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
図1(a)は、熱伝導性基板1と、液滴21と、液滴21を保持する領域を規定する壁2の関連を示す平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。ここで、38は前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層、例えば、ミネラルオイルの層である。熱伝導性基板1は、光学的に透明であり、例えば、シリコン基板であり、例えば、その厚さは1mm、大きさは20mm×20mmである。壁2は、例えば、シリコン基板で製作され、その厚さは、例えば、1mm、高さは10mmである。(c)、(d)、(e)は、それぞれ、熱伝導性基板1の上面に配列される液滴21の熱伝導性基板1上での安定な保持のための工夫の例を模式的に示す図である。(c)は熱伝導性基板1上にSU−8による保持用の突起411,412を形成した例である。図は断面であるので、両側の突起しか表れていないが、熱伝導性基板1の長さ方向にも突起を形成するのが良い。(d)では、熱伝導性基板1上に親水性領域42を形成した例である。シリコン基板上に親水性領域42を形成するには、たとえば、交流放電によるプラズマイオンを親水性領域42に限って熱伝導性基板1上面に軽く打ち込むものとすればよい。(e)は保持用の突起411,412の形成に代えて凹部43を形成した例である。5は位置決め用のマーカーであり、シリコン基板1の一面に形成される。図では、壁2の内側に設けたが、外側であっても良い。
【0016】
図1(b)に示すように、熱伝導性基板1上には核酸増幅の対象となる細胞12およびPCR溶液13を含む液滴21がX−Y方向に周期的に配列される。この液滴の配列については、一例を後述する。
【0017】
図2は、熱伝導性基板1上に核酸増幅の対象となる細胞12を含む液滴21を載置するシステム構成の例を説明する概念図である。この例では、熱伝導性基板1上に細胞12を含む液滴21を載置するための第1のピペット11と、液滴21のサイズを調整するための第2のピペット20とを備えるもののとして説明される。また、液滴21を載置する操作に先行して壁2で囲われた領域内に8mmの深さでミネラルオイル38を張る。なお、ミネラルオイル38を張る操作は液滴21を載置する操作の後に、行うものとしてもよい。
【0018】
核酸増幅の対象となる細胞12は、あらかじめセルソータ等で分類される。DNA複製において核酸増幅の対象となる細胞12は、細胞12に期待される核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液13、あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液13に懸濁された状態で準備される。
【0019】
図2下段部に、分類された細胞ごとに準備された試料を入れた試験管401,402,403および404を示す。第1のピペット11は試験管401,402,403および404から試料を吸引して、第1のピペット11の先端に形成される液滴を光学的にモニターしながらリアルタイム核酸増幅装置用の熱伝導性基板1上に細胞12を含むPCR溶液13の液滴を分配する。この際、細胞ごとに第1のピペット11とシリンジポンプ31を接続するチューブ30も含めて第1のピペット11を取り替えれば、熱伝導性基板1上に載置される細胞12を各列ごとに異なったものとする場合にも、これらが混在することは防止できる。
【0020】
19はXY方向に駆動される光学的に透明なステージであり、27はステージ19の駆動装置である。ステージ19の上面にはリアルタイム核酸増幅装置用の熱伝導性基板1が載置される。熱伝導性基板1の上部には、分配すべき細胞12を含むPCR溶液13があらかじめ吸い上げられて保持されている第1のピペット11が配置される。第1のピペット11の根元部には、チューブ30を介してシリンジポンプ31が設けられ、シリンジポンプ31には駆動装置32が取り付けられている。また、シリンジポンプ31にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ31が駆動装置32により駆動されると、第1のピペット11内のPCR溶液13が細胞12とともに押し出される。なお、第1のピペット11の根元部とチューブ30との接続部が離れたように図示されているのは、第1のピペット11を拡大して表示するためであり、分離されているわけではない。
【0021】
一方、第1のピペット11の先端部に形成される液滴のサイズを調整するために、第1のピペット11の先端部に形成される液滴に溶液を供給するための第2のピペット20の先端が配置される。第2のピペット20の根元部にはチューブ34を介してシリンジポンプ35が設けられ、シリンジポンプ35には駆動装置36が取り付けられている。また、シリンジポンプ35にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ35が駆動装置36により駆動されると、シリンジポンプ35内のPCR溶液が第2のピペット20から押し出される。第1のピペット11の先端部に形成されている液滴にPCR溶液を供給して液滴のサイズを大きくすることができる。
【0022】
第1のピペット11の先端部の近傍の内部および先端部に形成される液滴21の大きさをモニターするための光学系を構成する光源16、集光レンズ17が設けられ、これに対向する位置で熱伝導性基板1の下部にコリメートレンズ18およびモニター25が設けられる。したがって、熱伝導性基板1およびステージ19は、光学的に透明である必要がある。26は、いわゆる、パソコンであり、モニター25からの入力信号に応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムから得られる制御信号、および、使用者がモニター25の表示画面を見ながら与える操作入力信号28に応じて駆動装置27,32,36および37に必要な信号を与える。なお、ここでは、図示しなかったが、モニター25の検出している画面と同一の表示をパソコン26のモニターに表示するのが便利である。そうすれば、モニター25は、小型のCCDカメラとすることができる。また、操作入力信号28は、パソコン26の入力装置を介して与えられるものである。また、図1(c)および(e)に例示したように、液滴の位置を安定に維持するために、熱伝導性基板1上に突起411,412を形成し、あるいは、これに代えて凹部43を形成することは、液滴21の位置決めの情報として利用できる効果がある。
【0023】
ここで、第1のピペット11のサイズについて考えると以下のようである。第1のピペット11は、その先端に、一つの細胞のみを含有する適当な大きさの液滴を構成できるようにすることが必要である。第1のピペット11は、細胞12を含むPCR溶液13をピペットで吸い上げてから使用するが、液滴21を構成するときに、第1のピペット11の先端を通過する細胞がモニター25で誤り無く検出できることが必要である。したがって、第1のピペット11の先端部の直径は細胞1個が通過するのを許すが、一度に二つ以上の細胞が通過できないものとする。すなわち、透明で、先端部の直径が、一般的な動物細胞用として20〜100μm、バクテリアなどの微生物用では5μm程度とするのが良い。
【0024】
第1のピペット11の先端部に形成された液滴21を熱伝導性基板1上に移すためのピペットの上下動駆動装置37が設けられる。ここでは、上下動駆動装置37は第1のピペット11に連係するものとする。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を下げる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は下に動き、第1のピペット11の先端部に形成された液滴を熱伝導性基板1の所定の位置に移す。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を復旧させる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は図に示す位置に戻る。第1のピペット11の図に示す位置への復旧は、下げ操作から、パソコン26により、タイムシーケンシャルに行われるものとしても良い。一点差線39は上下動駆動装置37と第1のピペット11との連係を意味する。
【0025】
熱伝導性基板1上に細胞12を分配する全体的な操作について以下説明する。まず、システムが起動されると、使用者は、図1(a)で説明したマーカー5に着目して熱伝導性基板1が所定の起動位置にあるように位置決めする。次に、液滴21の最初の分配位置を第1のピペット11および第2のピペット20の先端部に対応する位置に移動させる操作入力信号28に応じて、駆動装置27によりステージ19を操作する。熱伝導性基板1が液滴21の最初の分配位置まで来ると、第1のピペット11内部の細胞12を含むPCR溶液13を細胞12とともに排出する操作を行う。この位置決めには、前述した、熱伝導性基板1上に形成した突起411,412、あるいは、これに代わる凹部43の位置情報が補助情報として利用できる。この際、第1のピペット11の先端部の外側と先端部近傍の内部を光源16とモニター25からなる光学系で監視する。モニター25の出力をパソコン26に取り込み、パソコン26の画像演算結果をもとに駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31の送液を制御することができる。
【0026】
モニター25で第1のピペット11の先端を監視しながら、駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31を動かし、細胞12を含むPCR溶液13を第1のピペット11の先端から排出して、ピペット先端に液滴21を形成する。このとき、液滴21中に一つの細胞が挿入されたことをモニター25を通してパソコン26が認識し、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させる。
【0027】
細胞12の認識は、第1のピペット11の先端部の液滴21中に存在する細胞12を直接検出することでも良いが、より効率的には、第1のピペット11の内部を移動する細胞12をモニター25で監視し、パソコン26で細胞のピペット内での位置と移動速度を計算し、第1のピペット11の先端から液滴21内に排出される時を予測してシリンジポンプ31を制御してもよい。後者の認識方法を用いれば、たとえば短い間隔で複数の細胞がピペット11内を移動している場合などに細胞を1個だけ液滴の中に入れる場合に有利となる。
【0028】
ここで、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が低いときは、細胞が第1のピペット11の先端から出る直前に液滴21を形成し始め、所定時間後に液滴形成を停止すれば、液滴21の大きさを一定にすることができる。液滴を形成したくないときは、たとえばブロアーで第1のピペット11の先端から出てくる液を吹き飛ばせばよい。あるいは、基板1の外にドレインを設け、そこに排出してもよい。
【0029】
一方、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が高いと、第1のピペット11から排出される液量がまちまちとなる。すなわち、第1のピペット11から排出される細胞12の排出の頻度が上がるから、液を排出させる時間を所定の時間に固定していると、その時間内に次の細胞12が液滴21の中に入ってしまう可能性がある。このようなケースでは、第2のピペット20を用いる。第2のピペット20とこれに連結されたシリンジポンプ35には、PCR溶液が入れられている。すなわち、モニター25を通して細胞12が液滴21に入るのをパソコン26が確認したとき、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させるとともに、このときまでに液滴21を形成するのに駆動されたシリンジポンプ31の繰り出し量から、その時点の液滴21の体積を割り出す。この体積と液滴21の所望の体積との差をパソコン26で計算する。この計算結果に応じて、その時点に出来ている液滴21に第2のピペット20で溶液を加えるように、パソコン26から駆動装置36に動作信号を送り、シリンジポンプ35を駆動して、第2のピペット20を用いて液滴21の体積が所定の値になるまでPCR溶液を加える。
【0030】
第2のピペット20を用いて液滴21にPCR溶液13を加えるとき、第2のピペット20に液滴中の細胞12が逆流しないように、第2のピペット20の先端は細胞が通らない大きさ、たとえば0.2μmφとするのが良い。あるいは、先端が0.2μmのフィルター構造を有するものとするのが良い。
【0031】
このようにして作成した細胞が1個含まれる液滴21は、第1のピペット11の上下動駆動装置37により、ステージ19の上に置かれた熱伝導性基板1に接触させられ、液滴21は熱伝導性基板1上に移動する。細胞12を含む液滴21が熱伝導性基板1上の所定の位置に移動したことが確認されると、使用者は操作信号28を与えて、ステージ駆動装置27を動かし、次の液滴を置く位置にピペット先端が位置するように、熱伝導性基板1を移動させる。この移動は、熱伝導性基板1に対する液滴の配列の情報をパソコン26に与えておけば、パソコン26によって自動的に行うことができる。そして、この新しい位置で、上述のようにして第1のピペット11の先端に新たな液滴を形成し、熱伝導性基板1上に移動させる。これを繰り返して、熱伝導性基板1の必要な部位に液滴を置く。
【0032】
このようにして、図1(b)で説明したように、熱伝導性基板1上に細胞12およびPCR溶液13よりなる液滴21が熱伝導性基板1上に分配される。シリコン基板1上の壁2で囲われた領域内に細胞12およびPCR溶液13を包み込む形の液滴21が配置されている。壁2で囲われた領域内全てにミネラルオイル38が張られている。液滴21は0.2から2μl程度なので、10mmの高さの壁2の内側に、ミネラルオイル38を入れると、液滴21は核酸増幅中の温度上昇による蒸発から保護される。
【0033】
ここで、ミネラルオイルを使用する理由は、ミネラルオイル38の比重が0.9程度と小さいので、液滴21の安定度がよい点にある。これにより、核酸増幅中、常に液滴21は安定して熱伝導性基板1上にとどまっている。ミネラルオイルは蒸発の防止が主体であるので、液滴21がミネラルオイルに十分に埋まる程度が良く、たとえば深さ8mmになるようにミネラルオイル38を静かに流し込む。
【0034】
次に、本発明の実施例によるリアルタイム核酸増幅について説明する。PCRは(1)DNAの1本鎖への変性(たとえば、94℃)、(2)プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成(たとえば、60℃)、という温度サイクルを何回も繰返すことにより核酸増幅を行うものである。この例では、まず、液滴21の温度を94℃に上げてDNAの1本鎖への変性を行わせることになるが、最初の段階では、細胞12が、この高温により破砕されて、内部の核酸が液滴内に分散し、鋳型としての核酸となる。次いで、液滴21の温度を60℃に下げて鋳型としての核酸にプライマーを結合させるとともに、ポリメラーゼにより鋳型としての核酸の相補鎖の合成を行う。この際、PCR溶液が通常のDNA鎖の伸長を行うポリメラーゼである場合には、相補鎖の合成に併せて拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素が二本鎖に取り込まれる。一方、PCR溶液が前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するものとされている場合には、レポーターフラグメント(プローブ)が二本鎖に取り込まれる。
【0035】
図3は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う実施例を模式的示す斜視図である。この実施例では、熱源は所定の温度に維持されている十分に大きい熱量を保持している2つの熱源板45および熱源板46を熱伝導性基板1の下面に交互に実質的に接触させて液滴に熱を加える。この場合、液滴21の温度が熱源板45および熱源板46の温度になるのみならず、ミネラルオイル38も同時に熱源板45および熱源板46の温度になる。したがって、たとえば、94℃に維持されている熱源板45と、たとえば、60℃に維持されている熱源板46とを備えて、DNAの1本鎖への変性の期間は94℃に維持されている熱源板45を熱伝導性基板1の下面に接触させる。一方、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成の期間は60℃に維持されている熱源板46を熱伝導性基板1の下面に接触させる。パソコン48により所定のプログラムにより制御することにより、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる。液滴21およびミネラルオイル38の熱量は熱源板45および熱源板46のそれぞれの熱量に比し、十分に小さいから、きわめて短い時間で熱伝導性基板1の上面に配列された液滴21の温度は熱伝導性基板1の下面に接触した熱源板45および熱源板46のそれぞれの温度に到達する。熱源板45および熱源板46の素材としては、比熱の大きい銅(Cu)が実用的に有利である。
【0036】
熱源板45および熱源板46は、使用者がパソコン48の表示画面を見ながら与える操作入力信号50に応じてパソコン48が駆動装置47に与える信号に応じて、熱伝導性基板1の下面に交互に接触させられる。これについては、後で図4を参照しながら、より詳細に説明する。
【0037】
49はCCD保持板であり、壁2の上端に載せた形で設けられる。CCD保持板49の下面には、壁2の領域内に配置される液滴21と1対1に対応する位置に区分されたCCD素子が設けられる。CCD素子5111,5112,---,5117は壁2の領域内で、図の表示の最上段に配置されているX軸方向の液滴21に対応するように設けられている。図が煩雑になるので参照符号の表示を適宜省略したが、CCD素子5121,5122,---,5127が図の表示の最上段の一つ手前の段に配置されているX軸方向の液滴21に対応するように設けられている。以下、CCD素子5131,5132,---,5137、CCD素子5141,5142,---,5147CCD素子5151,5152,---,5157についても同様である。これらのCCD素子が検出する信号は、参照符号56で代表して表示する連絡線56を介してパソコン48に伝送され、利用される。
【0038】
また、蛍光観察のために、壁2の領域の両側に設けられた光源57,57’からの光を、それぞれ、バンドパスフィルタ58,58’によって励起光波長のみ透過させ、観察するときのみシャッター59,59’によって、励起光が、破線に示すように、液滴21に照射される。シャッター59,59’は熱源板45、熱源板46の制御と同期してパソコン48で制御される。図の左側のシャッター59’には、図が煩雑になるので、パソコン48からの制御用の信号の線の表示は省略した。
【0039】
図4(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順を説明する概念図である。図4(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板45および熱源板46が待機している状態を示す。この状態では、熱源板45が熱伝導性基板1の下面から熱源板46の厚さ相当の距離を隔てて熱伝導性基板1の下方(Z軸方向)に配置され、熱源板46が熱伝導性基板1の下面で左方向(X軸方向)に移動させられれば、熱伝導性基板1の下面に接触する位置で、熱伝導性基板1の右側にずらせて配置されている。なお、熱源板45および熱源板46はY軸方向では熱伝導性基板1と一致した位置に配置されるものとする。図4(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板45は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板46は熱伝導性基板1から離れた当初位置に待機している。図4(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板45は熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられて当初位置に待機している。一方、たとえば、60℃に保持されている熱源板46は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。このように、熱源板45の上下動(Z軸方向)、熱源板46の左右動(X軸方向)が、図4(b)および図4(c)に示すように所定の時間間隔で繰り返されることにより、温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行うものである。
【0040】
なお、熱源板の移動に代えて、熱伝導性基板1を左右動(X軸方向)させても良い。すなわち、熱源板45および熱源板46を熱伝導性基板1の下面位置で同じ位置(Z軸方向)に並べて配置しておき、熱伝導性基板1を左右動(X軸方向)させることで温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行わせることができる。
【0041】
ここで、熱源板45および熱源板46の保持している熱量を熱伝導性基板1上の液滴およびミネラルオイルのそれに比し、十分に大きくしておけば、液滴21の核酸増幅を実行するための必要な温度サイクルを熱源板45および熱源板46の温度制御なしでも実行可能である。熱源板45および熱源板46の温度制御が必要なら、熱源板45および熱源板46内にヒーターと温度センサーを埋め込んでおき、温度センサーの信号をパソコン48に取り込んで、ヒーターの温度制御をすることとすればよい。
【0042】
図5は、図4で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。T1は熱源板45によるDNAの1本鎖への変性段階の期間であり、T2は熱源板46によるプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の期間である。T3は温度サイクルの1周期である。ここでは、T1は1秒、T2は3秒、T3は4秒である。変性段階の1秒間の内、0.4秒ほどで変性段階に必要な94℃に到達し、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の内、最初の0.4秒ほどでプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階に必要な60℃に到達することがわかる。
【0043】
プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の内、94℃から60℃に移行する時間(0.4秒)の後の2秒では相補鎖の合成が進むから、この段階で、PCR溶液が通常のDNA鎖の伸長を行うポリメラーゼである場合には、相補鎖の合成に併せて拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素が二本鎖に取り込まれる。一方、PCR溶液が前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するものとされている場合には、レポーターフラグメント(プローブ)が二本鎖に取り込まれる。
【0044】
光源57,57’からの光はバンドパスフィルタ58,58’によって励起光波長のみが透過させられ、蛍光観察するときのみシャッター59,59’によって励起光が液滴21に照射される。シャッター59,59’は熱源板45、熱源板46の制御と同期してパソコン48で制御される。この結果、液滴21内のPCRの進行速度に応じて、光源57,57’からの励起光によって、二本鎖に取り込まれたインターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメントによる蛍光が、CCD保持板49の下面に設けられたCCD素子で検出され、信号線56を介してパソコン48に送られる。
【0045】
この励起光の照射およびCCDによる検出のタイミングを図5に記入すると、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の最後の1秒の前半部分のT4のタイミングが良い。この時点では、インターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメント(プローブ)の二本鎖への取り込みがほぼ完了している状態であり、1温度サイクルでのPCRの結果を正しく検出できる。
【0046】
図6は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。図3の実施例と比べると、熱伝導性基板1の下面に2つの熱源板と液滴21のPCRの結果を検出するCCD素子がセットにして配置されるとともに、液滴21に対して励起光を照射する光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59が壁2の領域の上部の中央に設けられている点において異なる。また、液滴21のPCRの結果を検出するCCD素子が熱伝導性基板1の下面に配置される結果、液滴21の蛍光観察のための光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59を壁2の領域の直上に設けることが出来る。
【0047】
611,612,613はそれぞれ温度が94℃に維持されている熱源板であり、壁2の領域の熱量に比し、十分に大きな熱量を有する。621,622,623はそれぞれ温度が60℃に維持されている熱源板であり、壁2の領域の熱量に比し、十分に大きな熱量を有する。熱源板611,612,613は図3に示す実施例の熱源板45に対応する。熱源板621,622,623は図3に示す実施例の熱源板46に対応する。631,632,633はそれぞれCCD保持板であり、上面に、壁2の領域内のY軸方向に配置される液滴21の1列とそれぞれ1対1に対応する位置に、区分されたCCD素子が設けられる。図が煩雑になるので、参照符号は省略するが、例えば、CCD保持板631には、図3に示す実施例のCCD素子5111,5121,5131,5141および5151に対応するCCD素子が一体構造的に設けられる。図6のその他の参照符号で図3に示すものと同じものは、同一、または対応する機能を持つものである。
【0048】
熱源板611,612,613および熱源板621,622,623は、使用者がパソコン48の表示画面を見ながら与える操作入力信号50に応じてパソコン48が駆動装置47に与える信号に応じて、熱伝導性基板1の下面に交互に接触させられる。さらに、CCD保持板631,632,633に保持されているCCD素子が熱伝導性基板1の下面に接触させられる。これについては、図7を参照しながら、より詳細に説明する。なお、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633はそれぞれ一体的に移動するようにリンクされている。
【0049】
図7(a)−(d)は、図6に示す実施例の下で、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させるとともに、液滴21内のPCRの結果を検出する手順を説明する概念図である。
【0050】
図7(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633が熱伝導性基板1の下面から適当な距離を隔てて待機している状態を示す。この状態では、熱源板611,612,613のそれぞれが熱伝導性基板1の上面の壁2の領域内に配列されている液滴21のY軸方向のそれぞれの列に対応する位置となるようにされている。図7(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板611,612,613は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633は熱伝導性基板1から離れた待機位置に保持されている。図7(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板611,612,613は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられている。同時に、たとえば、60℃に保持されている熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633も熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに、熱源板621,622,623は上方(Z軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。図7(d)は液滴21のPCRの結果を検出する段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板611,612,613および熱源板621,622,623は、ともに、熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられている。CCD保持板631,632,633は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。すなわち、液滴21内のPCRの進行速度に応じて、光源57からの励起光によって、二本鎖に取り込まれたインターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメントによる蛍光が、CCD保持板631,632,633の上面に設けられたCCD素子で検出され、信号線56を介してパソコン48に送られる。
【0051】
図7(b)−(d)の操作を何回も繰返すことにより核酸増幅に必要な温度サイクルを実現できる。この例でも、熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の保持している熱量を熱伝導性基板1上の液滴21およびミネラルオイル38のそれに比し、十分に大きくしておけば、液滴21の核酸増幅を実行するための必要な温度サイクルを熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の温度制御なしでも実行可能である。熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の温度制御が必要なら、それぞれの熱源板内にヒーターと温度センサーを埋め込んでおき、温度センサーの信号をパソコン48に取り込んで、ヒーターの温度制御をすることとすればよい。
【0052】
図8は、図7で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。本質的に図5を参照して説明した温度変化のパターンと同じである。T1は熱源板611,612,613によるDNAの1本鎖への変性段階の期間であり、T2は熱源板621,622,623によるプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の期間である。T3は温度サイクルの1周期である。ここでは、T1は1秒、T2は2秒+α、T3は4秒である。変性段階の1秒間の内、0.4秒ほどで変性段階に必要な94℃に到達し、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の2秒+α秒の内、最初の0.4秒ほどでプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階に必要な60℃に到達することがわかる。図7で説明した温度サイクルでは、温度サイクルの1周期T3の後半部分のT4の期間で、熱源板621,622,623を退避させてCCD素子によるPCR計測を行う点において、図5で説明した温度サイクルと異なる。このT4の期間は、熱源板621,622,623が退避させられるので、液滴21の温度がやや低下するが、実質的に影響を与えることはない。
【0053】
図9は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。この実施例では、前記2つの実施例が所定の温度に維持されている十分に大きい熱量を保持している2つの熱源板を熱伝導性基板1の下面に交互に実質的に接触させて液滴に熱を加えるものとされていたのに対して、液滴内の水に吸収の大きい1480nmの波長の単色レーザー光線をスキャンしながら加えることとした点において大きく異なる。この場合、液滴21の温度はレーザー光線のスキャンにより上昇するが、ミネラルオイル38は、基本的にレーザー光を吸収しないので温度が上がらない。したがって、ミネラルオイル38は、予め、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の温度、例えば、60度に制御、維持されているものとする。
【0054】
図9において、651,652はガルバノミラーであり、単色光レーザー源66の照射するレーザー光線をX−Y平面でスキャンして、光学的に透明な熱伝導性基板1上の液滴21に照射する。パソコン48は、あらかじめ検討され入力されているレーザー光線のパワーと照射時間のデータに応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムによって単色光レーザー源66への制御信号を制御して、レーザー光線を制御する。また、ガルバノミラー651,652も前記所定のプログラムに対応してパソコン48により制御される。この実施例では、個々の液滴21のそれぞれを個別にスキャンして制御することになるので、上述の2つの実施例のような熱原板の機械的な移動の制御は不要である。なお、図9において、図3と同じ参照符号を付したものは同一物または同等の機能を果たすものである。
【0055】
図10は、図9に示す実施例により制御した場合について、図5で説明した温度サイクルの1周期に着目した液滴21の温度変化のパターンを示す図である。T1、T2、T3およびT4は図5で説明したのと同じである。図10と図5とを対比してみると明らかなように、図9に示す実施例では、液滴21はDNAの1本鎖への変性段階の期間T1の期間のみレーザー光線を照射されるが、連続照射ではなくスキャンによる(1/液滴の数)ごとの照射であるから、温度の上昇は段階的になる。点線で示すのは、この段階的温度の上昇を包絡線で示したものである。
【0056】
図11は、図9に示す実施例のガルバノミラー651,652をポリゴンミラー671,672に変更した例について、ポリゴンミラー671,672と単色光レーザー源66の構成の例を示した模式図である。ここで、ポリゴンミラーは正8角形とした。ポリゴンミラー671はZ軸を中心としてXY平面を図に示す回転矢印の方向に回るものとした。ポリゴンミラー672はY軸を中心としてXZ平面を図に示す回転矢印の方向に回るものとした。それぞれのポリゴンミラーと回転速度を適当に設定すれば、壁2の領域内を繰り返しスキャンすることが出来る。ポリゴンミラーによれば、ガルバノミラーによるスキャンに比し、レーザー光線がミラー面に対して大きく移動するので、レーザー光線によるミラー面の損傷を低減できる。
【0057】
図12は、上述の実施例におけるCCD素子を液滴21の下に配置した例について、熱伝導性基板1と液滴21について示す断面図である。熱伝導性基板1の上面には、壁2の領域内にCCD保持板49と、この保持板49に支持されたCCD素子51が設けられ、それぞれのCCD素子51の上に液滴21が配置されている。この例では、CCD素子51は、ミネラルオイル38の中におかれることになるので、図示されていないが、CCD保持板49も含めてCCD素子51全体を、例えば、ポリジメチルシロサキン(PDMS)による薄い層で全面を覆って、保護することが必要である。
【0058】
図13(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、図4(a)−(c)を参照して説明した、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順と同じ手順による制御を説明する概念図である。図13(a)−(c)では、図4(a)−(c)と異なり、熱源板45が熱伝導性基板1の液滴21に対応する位置に突起45’を備えたものとしている点においてのみ図4(a)−(c)と異なる。ここで、突起45’は熱源板45の熱を液滴21に伝える目的のものであるから、熱伝導の良いものであることは当然である。熱源板45と同じ材料で構成されても良い。
【0059】
図13(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板45および熱源板46が待機している状態を示す。この状態では、熱源板45が熱伝導性基板1の下面から熱源板46の厚さ相当の距離を隔てて熱伝導性基板1の下方(Z軸方向)に配置され、熱源板46が熱伝導性基板1の下面で左方向(X軸方向)に移動させられれば、熱伝導性基板1の下面に接触する位置で、熱伝導性基板1の右側にずらせて配置されている。なお、熱源板45および熱源板46はY軸方向では熱伝導性基板1と一致した位置に配置されるものとする。ここで、熱源板45の上面には、熱伝導性基板1上に配置されている液滴21と1対1に対応する突起45’が形成されている。図13(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板45は、突起45’が熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板46は熱伝導性基板1から離れた当初位置に待機している。図13(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板45は熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられて当初位置に待機している。一方、たとえば、60℃に保持されている熱源板46は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。このように、熱源板45の上下動(Z軸方向)、熱源板46の左右動(X軸方向)が、図4(b)および図4(c)に示すように所定の時間間隔で繰り返されることにより、温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行うものである。
【0060】
図14は、熱源板45と突起45’との関係を説明する斜視図である。突起45’は熱源板45の上面に、熱伝導性基板1の液滴21に1対1に対応する位置に設けられる。したがって、図13(b)に示すように、熱源板45を熱伝導性基板1の下面に近づけると、突起45’が、あたかも、液滴21に直接接触したかのように、熱源板45の94℃の熱を液滴21に伝える。その結果、ミネラルオイル38への伝熱は、熱源板45が熱伝導性基板1に全面で直接接触する場合と比べると、小さいものとなる。このことは、図13(c)に示すように、熱源板46を熱伝導性基板1の下面に近づけて、相補鎖の合成段階の温度60℃に移行させる場合に、ミネラルオイル38の温度上昇が小さく抑えられていることを意味し、より短時間で、ミネラルオイル38の温度を60℃に回復できることを意味する。
【0061】
図13、図14を参照して、熱源板45に突起45’を設けることの意味について説明した。一方、熱源板46については、熱源板45と同様に突起を設けることが構成としては可能であるが、必ずしも有効とはいえない。と言うのは、ミネラルオイル38の温度は相補鎖の合成段階の温度60℃に維持するのが熱サイクルとしては有利であるので、熱源板46に突起を設けて液滴21の温度を早く60℃に移すと言うより、液滴21とミネラルオイル38を一緒に60℃に移すほうがよいと言えるからである。
【0062】
上述の実施例では、液滴の中の細胞の核酸を増幅するものであるが、細胞の核酸増幅に先行して、細胞を含む液滴内に細胞の培養液を入れて、細胞の培養をした後、培養された細胞の核酸増幅をすることにより、効果的に核酸増幅をすることができる。図15(a)はこのような用途に好都合な、細胞培養中の液滴21の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、図15(b)は、図15(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。71はピペットであり、先端の開口部に細胞阻止片72が取り付け部73,74により取り付けられている。ピペット71の先端の開口部周辺と細胞阻止片72の間には細胞が通過できない隙間が設けられている。図15(b)に示すように、ピペット71とピペット20とを液滴21に挿入してピペット71から液滴21内の培養液を吸引しながらピペット20により新しい培養液を注入すれば、液滴21内の細胞を誤って吸引して失ってしまうことなく培養液が交換できる。図2に示す構成において、ピペット11に代えてピペット71を取り付けてシリンジポンプ31で液滴21内の培養液を吸引することにし、ピペット20から培養液を供給することとすれば、図15(b)に示す構成での培養液の交換ができる。このような形で培養が進められた後、核酸増幅に移行することになるが、この段階で、液滴21内の培養液を取り除きPCR用の溶液に置き換える必要がある。このときも、図15(a)に示すピペットを使用して液の交換を行うことにすればよい。
【0063】
なお、上述の実施例についてのマイナーな変形について簡単に言及すると以下のようである。
【0064】
図3に示す実施例では、光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59をCCD保持板49のCCD素子の周辺に配置することが可能である。また、図3に示す実施例では、液滴21に対する励起光の強度は、壁2に近い両側の位置の液滴と、中心位置の液滴とでは異なる。このため、PCRの結果に応じて液滴が発する蛍光強度が異なる。したがって、あらかじめ両側の位置の液滴が発する蛍光強度と中心位置の液滴が発する蛍光強度とを比較して、中心位置の強度補正をするための係数を決定しておくのが良い。これを使用した補正はパソコン48で、簡単に行うことが出来る。
【0065】
図6の実施例では、図3に示す実施例と比較して、同じ大きさの熱伝導性基板1と比較して、処理できる液滴の数が少ない。したがって、スループットをあげるためには、図6に示す構成を複数個併設することが一つの解決策となる。
【0066】
以上、本発明をある程度詳細に、その最も好ましい実施形態について説明したが、本発明は、その本質的特性から逸脱することなく多数の形態のものとして具体化できるものである。上記の好適な実施形態は専ら説明上のものであり制約的なものではない。また本発明の範囲は、発明の詳細な説明によってではなく、特許請求の範囲によって規定されるものであるから、特許請求の範囲の要件内のあらゆる変更、またはその要件に対する均等物は特許請求の範囲の範囲内に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)は、熱伝導性基板1と、液滴21と、液滴21を保持する領域を規定する壁2の関連を示す平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。
【図2】熱伝導性基板1上に核酸増幅の対象となる細胞12を含む液滴21を載置するシステム構成の例を説明する概念図である。
【図3】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う実施例を模式的示す斜視図である。
【図4】(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順を説明する概念図である。
【図5】図4で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図6】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。
【図7】(a)−(d)は、図6に示す実施例の下で、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させるとともに、液滴21内のPCRの結果を検出する手順を説明する概念図である。
【図8】図7で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図9】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。
【図10】図9に示す実施例により制御した場合について、図5で説明した温度サイクルの1周期に着目した液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図11】図9に示す実施例のガルバノミラー651,652をポリゴンミラー671,672に変更した例について、ポリゴンミラー671,672と単色光レーザー源66の構成の例を示した模式図である。
【図12】上述の実施例におけるCCD素子を液滴21の下に配置した例について、熱伝導性基板1と液滴21について示す断面図である
【図13】(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、図4(a)−(c)を参照して説明した、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順と同じ手順による制御を説明する概念図である。
【図14】熱源板45と突起45’との関係を説明する斜視図である。
【図15】(a)は、細胞培養中の液滴21の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、(b)は、図15(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1…熱伝導性基板、2…壁、5…位置決め用のマーカー、12…細胞、11,20…ピペット、13…細胞12を含むPCR溶液、16…光源、17…集光レンズ、18…コリメートレンズ、19…ステージ、21…液滴、25…モニター、26…パソコン、27,32,36,37…駆動装置、28…操作入力信号、30,34…チューブ、31,35…シリンジポンプ、38…ミネラルオイル、39…駆動装置とピペットとの連係を示す線、40…試験管、45,46…熱源板、突起45’…熱源板45の上面の突起、47…駆動装置、48…パソコン、49…CCD保持板、50…操作入力信号、51…CCD素子、56…連絡線、57,57’…光源、58,58’… バンドパスフィルタ、59,59’…シャッター、611,612,613…熱源板、621,622,623…熱源板、631,632,633…CCD保持板、65…ガルバノミラー、66…単色光レーザー源、67…ポリゴンミラー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置、方法および細胞培養の過程からリアルタイム核酸増幅の過程までを同じ装置で実行できる細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を極微量で行うマイクロデバイスや、細胞を1個ずつ取り扱い、細胞に対して種々反応を行ったり観測を行ったりするシステムを実現するための新しい技術が種々提案されている。たとえば、本願の発明者らによる特開2006−162264号公報では、反応媒体を含む液滴を複数種準備して、これらを選択的に衝突させて反応を行わせる具体案が開示されている。
【0003】
従来の生化学反応をはじめとする化学反応は、ある大きさを有する容器の中で行うのが一般的であったが、このような液滴による操作ができれば、文字通りの微量反応が実現できる。このような微量反応の実現は、準備する試料の量の低減が可能になるのみならず、反応速度の向上等操作性の面でも有利であるのみならず、反応生成物を最小限にできるので無駄がないと言う点でも有用である。
【特許文献1】特開2006−162264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、核酸増幅を微量反応として液滴内で実現しようとするものである。すなわち、細胞一つを液滴に収納して細胞単位で細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置に関する。さらに、核酸増幅の対象である液滴内に収納した細胞を液滴内で増幅して、増幅された細胞を利用して細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の、核酸増幅装置、核酸増幅方法、核酸増幅用基板、細胞培養・核酸増幅方法、および細胞培養・核酸増幅用基板を提供する。
【0006】
(1)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上の前記溶媒層中に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられる熱源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記熱源から前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記熱源と前記液滴との相対的な位置を制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(2)前記熱源が
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備えるものであるとともに、
前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とが、所定のプログラムに従って前記熱伝導性基板の下面に接触させられるものである上記(1)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(3)前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える上記(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(4)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の配列された液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備える熱源、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴の列の各液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とから前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と前記液滴列との相対的な位置を制御するとともに、前記光検出手段を前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と対応させて位置を制御する制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(5)前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える上記(4)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(6)複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼとを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受けるとともに前記液滴を保持する領域を囲むように設けられた側壁を有する熱伝導性基板であって、該側壁と該基板の上面とで規定される漕内に前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板を載置するための基板載置手段、
前記熱伝導性基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記熱伝導基板上に所定の間隔で配列する手段、ならびに
前記熱伝導基板を介して前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
(7)基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられるレーザー光源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記レーザー光の照射位置を所定のプログラムに従って制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(8)前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御する手段がガルバノミラーとその反射角を制御する手段である上記(7)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【0007】
本発明では、熱伝導基板上に配列された細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴を、その液滴と熱源との相対的な位置を制御して前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御することにより短時間で、液滴単位で独立して液滴内の細胞のPCRによる核酸増幅を実施する。
【0008】
あらかじめ細胞の特徴に着目して分離された細胞の懸濁液を吸い上げたピペット先端に一つの細胞を含有する適当な大きさの液滴を形成する。この際、細胞の懸濁液は、この細胞が有することが期待されている核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液とすることができる。あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液としてもよい。ピペットの先端に形成させる液滴は光学系でモニターして液滴の大きさを監視して制御する。
【0009】
透明な基板上に前記液滴を滴下させ、液滴を適宜配置する。前記透明基板上の液滴の時間に対する温度を所定のパターンに変化させ、液滴単位で独立して液滴内の細胞のPCRによる核酸増幅を実施する。
【0010】
必要に応じて、上記細胞の核酸増幅に先行して、それぞれの液滴内の溶液を細胞の培養液として、細胞の培養を行う。その後、液滴内の培養液をPCR溶液に置換した後、培養された細胞の核酸増幅を行う。
【0011】
典型的には、本発明の装置を用いた核酸増幅方法においては、チップ上に構成されたミネラルオイル層に適当な周期でXY方向に試料とPCR反応溶液を混合した液滴を配置する。さらに、以下の(1)−(3)のように実施する。
(1)ミネラルオイル層をアニーリング温度(50℃〜70℃)に維持しながら、変性温度(90℃〜95℃)に維持された加熱板をチップ下面から所定の時間周期で接近、離反を繰り返す。一方、チップ上面に液滴に1対1に対応する光検出器(例えば、CCD素子)を多数配置する。
(2)チップ下面にY軸方向に延伸された、変性温度(90℃〜95℃)に維持された加熱板A、アニーリング温度(50℃〜70℃)に維持された加熱板BおよびY軸方向に配列された液滴に1対1に対応する複数の光検出器をセットにして配列し、加熱板A、加熱板Bを交互にチップ下面から所定の時間周期で接近、離反を繰り返す。
(3)チップ下面に二つのガルバノミラーを配置して、全ての液滴を所定の周期でスキャンして温度制御を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞単位で独立して、短時間での核酸増幅を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、熱伝導性基板の上面に配列された細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを保持する複数の液滴を、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層内に保持し、前記熱伝導基板の下面に設けた熱源から前記液滴に熱エネルギーを伝播させて、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御するリアルタイム核酸増幅装置を提案するものである。
【0014】
本発明の実施例のリアルタイム核酸増幅装置を説明する前に、実施例に採用して好適な熱伝導性基板の上面に液滴を配列する具体例を説明する。以下に説明する具体例は、単に本発明の例示としてのみ示されるものであって、本願発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
図1(a)は、熱伝導性基板1と、液滴21と、液滴21を保持する領域を規定する壁2の関連を示す平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。ここで、38は前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層、例えば、ミネラルオイルの層である。熱伝導性基板1は、光学的に透明であり、例えば、シリコン基板であり、例えば、その厚さは1mm、大きさは20mm×20mmである。壁2は、例えば、シリコン基板で製作され、その厚さは、例えば、1mm、高さは10mmである。(c)、(d)、(e)は、それぞれ、熱伝導性基板1の上面に配列される液滴21の熱伝導性基板1上での安定な保持のための工夫の例を模式的に示す図である。(c)は熱伝導性基板1上にSU−8による保持用の突起411,412を形成した例である。図は断面であるので、両側の突起しか表れていないが、熱伝導性基板1の長さ方向にも突起を形成するのが良い。(d)では、熱伝導性基板1上に親水性領域42を形成した例である。シリコン基板上に親水性領域42を形成するには、たとえば、交流放電によるプラズマイオンを親水性領域42に限って熱伝導性基板1上面に軽く打ち込むものとすればよい。(e)は保持用の突起411,412の形成に代えて凹部43を形成した例である。5は位置決め用のマーカーであり、シリコン基板1の一面に形成される。図では、壁2の内側に設けたが、外側であっても良い。
【0016】
図1(b)に示すように、熱伝導性基板1上には核酸増幅の対象となる細胞12およびPCR溶液13を含む液滴21がX−Y方向に周期的に配列される。この液滴の配列については、一例を後述する。
【0017】
図2は、熱伝導性基板1上に核酸増幅の対象となる細胞12を含む液滴21を載置するシステム構成の例を説明する概念図である。この例では、熱伝導性基板1上に細胞12を含む液滴21を載置するための第1のピペット11と、液滴21のサイズを調整するための第2のピペット20とを備えるもののとして説明される。また、液滴21を載置する操作に先行して壁2で囲われた領域内に8mmの深さでミネラルオイル38を張る。なお、ミネラルオイル38を張る操作は液滴21を載置する操作の後に、行うものとしてもよい。
【0018】
核酸増幅の対象となる細胞12は、あらかじめセルソータ等で分類される。DNA複製において核酸増幅の対象となる細胞12は、細胞12に期待される核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液13、あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液13に懸濁された状態で準備される。
【0019】
図2下段部に、分類された細胞ごとに準備された試料を入れた試験管401,402,403および404を示す。第1のピペット11は試験管401,402,403および404から試料を吸引して、第1のピペット11の先端に形成される液滴を光学的にモニターしながらリアルタイム核酸増幅装置用の熱伝導性基板1上に細胞12を含むPCR溶液13の液滴を分配する。この際、細胞ごとに第1のピペット11とシリンジポンプ31を接続するチューブ30も含めて第1のピペット11を取り替えれば、熱伝導性基板1上に載置される細胞12を各列ごとに異なったものとする場合にも、これらが混在することは防止できる。
【0020】
19はXY方向に駆動される光学的に透明なステージであり、27はステージ19の駆動装置である。ステージ19の上面にはリアルタイム核酸増幅装置用の熱伝導性基板1が載置される。熱伝導性基板1の上部には、分配すべき細胞12を含むPCR溶液13があらかじめ吸い上げられて保持されている第1のピペット11が配置される。第1のピペット11の根元部には、チューブ30を介してシリンジポンプ31が設けられ、シリンジポンプ31には駆動装置32が取り付けられている。また、シリンジポンプ31にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ31が駆動装置32により駆動されると、第1のピペット11内のPCR溶液13が細胞12とともに押し出される。なお、第1のピペット11の根元部とチューブ30との接続部が離れたように図示されているのは、第1のピペット11を拡大して表示するためであり、分離されているわけではない。
【0021】
一方、第1のピペット11の先端部に形成される液滴のサイズを調整するために、第1のピペット11の先端部に形成される液滴に溶液を供給するための第2のピペット20の先端が配置される。第2のピペット20の根元部にはチューブ34を介してシリンジポンプ35が設けられ、シリンジポンプ35には駆動装置36が取り付けられている。また、シリンジポンプ35にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ35が駆動装置36により駆動されると、シリンジポンプ35内のPCR溶液が第2のピペット20から押し出される。第1のピペット11の先端部に形成されている液滴にPCR溶液を供給して液滴のサイズを大きくすることができる。
【0022】
第1のピペット11の先端部の近傍の内部および先端部に形成される液滴21の大きさをモニターするための光学系を構成する光源16、集光レンズ17が設けられ、これに対向する位置で熱伝導性基板1の下部にコリメートレンズ18およびモニター25が設けられる。したがって、熱伝導性基板1およびステージ19は、光学的に透明である必要がある。26は、いわゆる、パソコンであり、モニター25からの入力信号に応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムから得られる制御信号、および、使用者がモニター25の表示画面を見ながら与える操作入力信号28に応じて駆動装置27,32,36および37に必要な信号を与える。なお、ここでは、図示しなかったが、モニター25の検出している画面と同一の表示をパソコン26のモニターに表示するのが便利である。そうすれば、モニター25は、小型のCCDカメラとすることができる。また、操作入力信号28は、パソコン26の入力装置を介して与えられるものである。また、図1(c)および(e)に例示したように、液滴の位置を安定に維持するために、熱伝導性基板1上に突起411,412を形成し、あるいは、これに代えて凹部43を形成することは、液滴21の位置決めの情報として利用できる効果がある。
【0023】
ここで、第1のピペット11のサイズについて考えると以下のようである。第1のピペット11は、その先端に、一つの細胞のみを含有する適当な大きさの液滴を構成できるようにすることが必要である。第1のピペット11は、細胞12を含むPCR溶液13をピペットで吸い上げてから使用するが、液滴21を構成するときに、第1のピペット11の先端を通過する細胞がモニター25で誤り無く検出できることが必要である。したがって、第1のピペット11の先端部の直径は細胞1個が通過するのを許すが、一度に二つ以上の細胞が通過できないものとする。すなわち、透明で、先端部の直径が、一般的な動物細胞用として20〜100μm、バクテリアなどの微生物用では5μm程度とするのが良い。
【0024】
第1のピペット11の先端部に形成された液滴21を熱伝導性基板1上に移すためのピペットの上下動駆動装置37が設けられる。ここでは、上下動駆動装置37は第1のピペット11に連係するものとする。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を下げる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は下に動き、第1のピペット11の先端部に形成された液滴を熱伝導性基板1の所定の位置に移す。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を復旧させる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は図に示す位置に戻る。第1のピペット11の図に示す位置への復旧は、下げ操作から、パソコン26により、タイムシーケンシャルに行われるものとしても良い。一点差線39は上下動駆動装置37と第1のピペット11との連係を意味する。
【0025】
熱伝導性基板1上に細胞12を分配する全体的な操作について以下説明する。まず、システムが起動されると、使用者は、図1(a)で説明したマーカー5に着目して熱伝導性基板1が所定の起動位置にあるように位置決めする。次に、液滴21の最初の分配位置を第1のピペット11および第2のピペット20の先端部に対応する位置に移動させる操作入力信号28に応じて、駆動装置27によりステージ19を操作する。熱伝導性基板1が液滴21の最初の分配位置まで来ると、第1のピペット11内部の細胞12を含むPCR溶液13を細胞12とともに排出する操作を行う。この位置決めには、前述した、熱伝導性基板1上に形成した突起411,412、あるいは、これに代わる凹部43の位置情報が補助情報として利用できる。この際、第1のピペット11の先端部の外側と先端部近傍の内部を光源16とモニター25からなる光学系で監視する。モニター25の出力をパソコン26に取り込み、パソコン26の画像演算結果をもとに駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31の送液を制御することができる。
【0026】
モニター25で第1のピペット11の先端を監視しながら、駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31を動かし、細胞12を含むPCR溶液13を第1のピペット11の先端から排出して、ピペット先端に液滴21を形成する。このとき、液滴21中に一つの細胞が挿入されたことをモニター25を通してパソコン26が認識し、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させる。
【0027】
細胞12の認識は、第1のピペット11の先端部の液滴21中に存在する細胞12を直接検出することでも良いが、より効率的には、第1のピペット11の内部を移動する細胞12をモニター25で監視し、パソコン26で細胞のピペット内での位置と移動速度を計算し、第1のピペット11の先端から液滴21内に排出される時を予測してシリンジポンプ31を制御してもよい。後者の認識方法を用いれば、たとえば短い間隔で複数の細胞がピペット11内を移動している場合などに細胞を1個だけ液滴の中に入れる場合に有利となる。
【0028】
ここで、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が低いときは、細胞が第1のピペット11の先端から出る直前に液滴21を形成し始め、所定時間後に液滴形成を停止すれば、液滴21の大きさを一定にすることができる。液滴を形成したくないときは、たとえばブロアーで第1のピペット11の先端から出てくる液を吹き飛ばせばよい。あるいは、基板1の外にドレインを設け、そこに排出してもよい。
【0029】
一方、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が高いと、第1のピペット11から排出される液量がまちまちとなる。すなわち、第1のピペット11から排出される細胞12の排出の頻度が上がるから、液を排出させる時間を所定の時間に固定していると、その時間内に次の細胞12が液滴21の中に入ってしまう可能性がある。このようなケースでは、第2のピペット20を用いる。第2のピペット20とこれに連結されたシリンジポンプ35には、PCR溶液が入れられている。すなわち、モニター25を通して細胞12が液滴21に入るのをパソコン26が確認したとき、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させるとともに、このときまでに液滴21を形成するのに駆動されたシリンジポンプ31の繰り出し量から、その時点の液滴21の体積を割り出す。この体積と液滴21の所望の体積との差をパソコン26で計算する。この計算結果に応じて、その時点に出来ている液滴21に第2のピペット20で溶液を加えるように、パソコン26から駆動装置36に動作信号を送り、シリンジポンプ35を駆動して、第2のピペット20を用いて液滴21の体積が所定の値になるまでPCR溶液を加える。
【0030】
第2のピペット20を用いて液滴21にPCR溶液13を加えるとき、第2のピペット20に液滴中の細胞12が逆流しないように、第2のピペット20の先端は細胞が通らない大きさ、たとえば0.2μmφとするのが良い。あるいは、先端が0.2μmのフィルター構造を有するものとするのが良い。
【0031】
このようにして作成した細胞が1個含まれる液滴21は、第1のピペット11の上下動駆動装置37により、ステージ19の上に置かれた熱伝導性基板1に接触させられ、液滴21は熱伝導性基板1上に移動する。細胞12を含む液滴21が熱伝導性基板1上の所定の位置に移動したことが確認されると、使用者は操作信号28を与えて、ステージ駆動装置27を動かし、次の液滴を置く位置にピペット先端が位置するように、熱伝導性基板1を移動させる。この移動は、熱伝導性基板1に対する液滴の配列の情報をパソコン26に与えておけば、パソコン26によって自動的に行うことができる。そして、この新しい位置で、上述のようにして第1のピペット11の先端に新たな液滴を形成し、熱伝導性基板1上に移動させる。これを繰り返して、熱伝導性基板1の必要な部位に液滴を置く。
【0032】
このようにして、図1(b)で説明したように、熱伝導性基板1上に細胞12およびPCR溶液13よりなる液滴21が熱伝導性基板1上に分配される。シリコン基板1上の壁2で囲われた領域内に細胞12およびPCR溶液13を包み込む形の液滴21が配置されている。壁2で囲われた領域内全てにミネラルオイル38が張られている。液滴21は0.2から2μl程度なので、10mmの高さの壁2の内側に、ミネラルオイル38を入れると、液滴21は核酸増幅中の温度上昇による蒸発から保護される。
【0033】
ここで、ミネラルオイルを使用する理由は、ミネラルオイル38の比重が0.9程度と小さいので、液滴21の安定度がよい点にある。これにより、核酸増幅中、常に液滴21は安定して熱伝導性基板1上にとどまっている。ミネラルオイルは蒸発の防止が主体であるので、液滴21がミネラルオイルに十分に埋まる程度が良く、たとえば深さ8mmになるようにミネラルオイル38を静かに流し込む。
【0034】
次に、本発明の実施例によるリアルタイム核酸増幅について説明する。PCRは(1)DNAの1本鎖への変性(たとえば、94℃)、(2)プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成(たとえば、60℃)、という温度サイクルを何回も繰返すことにより核酸増幅を行うものである。この例では、まず、液滴21の温度を94℃に上げてDNAの1本鎖への変性を行わせることになるが、最初の段階では、細胞12が、この高温により破砕されて、内部の核酸が液滴内に分散し、鋳型としての核酸となる。次いで、液滴21の温度を60℃に下げて鋳型としての核酸にプライマーを結合させるとともに、ポリメラーゼにより鋳型としての核酸の相補鎖の合成を行う。この際、PCR溶液が通常のDNA鎖の伸長を行うポリメラーゼである場合には、相補鎖の合成に併せて拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素が二本鎖に取り込まれる。一方、PCR溶液が前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するものとされている場合には、レポーターフラグメント(プローブ)が二本鎖に取り込まれる。
【0035】
図3は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う実施例を模式的示す斜視図である。この実施例では、熱源は所定の温度に維持されている十分に大きい熱量を保持している2つの熱源板45および熱源板46を熱伝導性基板1の下面に交互に実質的に接触させて液滴に熱を加える。この場合、液滴21の温度が熱源板45および熱源板46の温度になるのみならず、ミネラルオイル38も同時に熱源板45および熱源板46の温度になる。したがって、たとえば、94℃に維持されている熱源板45と、たとえば、60℃に維持されている熱源板46とを備えて、DNAの1本鎖への変性の期間は94℃に維持されている熱源板45を熱伝導性基板1の下面に接触させる。一方、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成の期間は60℃に維持されている熱源板46を熱伝導性基板1の下面に接触させる。パソコン48により所定のプログラムにより制御することにより、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる。液滴21およびミネラルオイル38の熱量は熱源板45および熱源板46のそれぞれの熱量に比し、十分に小さいから、きわめて短い時間で熱伝導性基板1の上面に配列された液滴21の温度は熱伝導性基板1の下面に接触した熱源板45および熱源板46のそれぞれの温度に到達する。熱源板45および熱源板46の素材としては、比熱の大きい銅(Cu)が実用的に有利である。
【0036】
熱源板45および熱源板46は、使用者がパソコン48の表示画面を見ながら与える操作入力信号50に応じてパソコン48が駆動装置47に与える信号に応じて、熱伝導性基板1の下面に交互に接触させられる。これについては、後で図4を参照しながら、より詳細に説明する。
【0037】
49はCCD保持板であり、壁2の上端に載せた形で設けられる。CCD保持板49の下面には、壁2の領域内に配置される液滴21と1対1に対応する位置に区分されたCCD素子が設けられる。CCD素子5111,5112,---,5117は壁2の領域内で、図の表示の最上段に配置されているX軸方向の液滴21に対応するように設けられている。図が煩雑になるので参照符号の表示を適宜省略したが、CCD素子5121,5122,---,5127が図の表示の最上段の一つ手前の段に配置されているX軸方向の液滴21に対応するように設けられている。以下、CCD素子5131,5132,---,5137、CCD素子5141,5142,---,5147CCD素子5151,5152,---,5157についても同様である。これらのCCD素子が検出する信号は、参照符号56で代表して表示する連絡線56を介してパソコン48に伝送され、利用される。
【0038】
また、蛍光観察のために、壁2の領域の両側に設けられた光源57,57’からの光を、それぞれ、バンドパスフィルタ58,58’によって励起光波長のみ透過させ、観察するときのみシャッター59,59’によって、励起光が、破線に示すように、液滴21に照射される。シャッター59,59’は熱源板45、熱源板46の制御と同期してパソコン48で制御される。図の左側のシャッター59’には、図が煩雑になるので、パソコン48からの制御用の信号の線の表示は省略した。
【0039】
図4(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順を説明する概念図である。図4(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板45および熱源板46が待機している状態を示す。この状態では、熱源板45が熱伝導性基板1の下面から熱源板46の厚さ相当の距離を隔てて熱伝導性基板1の下方(Z軸方向)に配置され、熱源板46が熱伝導性基板1の下面で左方向(X軸方向)に移動させられれば、熱伝導性基板1の下面に接触する位置で、熱伝導性基板1の右側にずらせて配置されている。なお、熱源板45および熱源板46はY軸方向では熱伝導性基板1と一致した位置に配置されるものとする。図4(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板45は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板46は熱伝導性基板1から離れた当初位置に待機している。図4(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板45は熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられて当初位置に待機している。一方、たとえば、60℃に保持されている熱源板46は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。このように、熱源板45の上下動(Z軸方向)、熱源板46の左右動(X軸方向)が、図4(b)および図4(c)に示すように所定の時間間隔で繰り返されることにより、温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行うものである。
【0040】
なお、熱源板の移動に代えて、熱伝導性基板1を左右動(X軸方向)させても良い。すなわち、熱源板45および熱源板46を熱伝導性基板1の下面位置で同じ位置(Z軸方向)に並べて配置しておき、熱伝導性基板1を左右動(X軸方向)させることで温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行わせることができる。
【0041】
ここで、熱源板45および熱源板46の保持している熱量を熱伝導性基板1上の液滴およびミネラルオイルのそれに比し、十分に大きくしておけば、液滴21の核酸増幅を実行するための必要な温度サイクルを熱源板45および熱源板46の温度制御なしでも実行可能である。熱源板45および熱源板46の温度制御が必要なら、熱源板45および熱源板46内にヒーターと温度センサーを埋め込んでおき、温度センサーの信号をパソコン48に取り込んで、ヒーターの温度制御をすることとすればよい。
【0042】
図5は、図4で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。T1は熱源板45によるDNAの1本鎖への変性段階の期間であり、T2は熱源板46によるプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の期間である。T3は温度サイクルの1周期である。ここでは、T1は1秒、T2は3秒、T3は4秒である。変性段階の1秒間の内、0.4秒ほどで変性段階に必要な94℃に到達し、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の内、最初の0.4秒ほどでプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階に必要な60℃に到達することがわかる。
【0043】
プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の内、94℃から60℃に移行する時間(0.4秒)の後の2秒では相補鎖の合成が進むから、この段階で、PCR溶液が通常のDNA鎖の伸長を行うポリメラーゼである場合には、相補鎖の合成に併せて拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素が二本鎖に取り込まれる。一方、PCR溶液が前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するものとされている場合には、レポーターフラグメント(プローブ)が二本鎖に取り込まれる。
【0044】
光源57,57’からの光はバンドパスフィルタ58,58’によって励起光波長のみが透過させられ、蛍光観察するときのみシャッター59,59’によって励起光が液滴21に照射される。シャッター59,59’は熱源板45、熱源板46の制御と同期してパソコン48で制御される。この結果、液滴21内のPCRの進行速度に応じて、光源57,57’からの励起光によって、二本鎖に取り込まれたインターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメントによる蛍光が、CCD保持板49の下面に設けられたCCD素子で検出され、信号線56を介してパソコン48に送られる。
【0045】
この励起光の照射およびCCDによる検出のタイミングを図5に記入すると、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の3秒の最後の1秒の前半部分のT4のタイミングが良い。この時点では、インターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメント(プローブ)の二本鎖への取り込みがほぼ完了している状態であり、1温度サイクルでのPCRの結果を正しく検出できる。
【0046】
図6は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。図3の実施例と比べると、熱伝導性基板1の下面に2つの熱源板と液滴21のPCRの結果を検出するCCD素子がセットにして配置されるとともに、液滴21に対して励起光を照射する光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59が壁2の領域の上部の中央に設けられている点において異なる。また、液滴21のPCRの結果を検出するCCD素子が熱伝導性基板1の下面に配置される結果、液滴21の蛍光観察のための光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59を壁2の領域の直上に設けることが出来る。
【0047】
611,612,613はそれぞれ温度が94℃に維持されている熱源板であり、壁2の領域の熱量に比し、十分に大きな熱量を有する。621,622,623はそれぞれ温度が60℃に維持されている熱源板であり、壁2の領域の熱量に比し、十分に大きな熱量を有する。熱源板611,612,613は図3に示す実施例の熱源板45に対応する。熱源板621,622,623は図3に示す実施例の熱源板46に対応する。631,632,633はそれぞれCCD保持板であり、上面に、壁2の領域内のY軸方向に配置される液滴21の1列とそれぞれ1対1に対応する位置に、区分されたCCD素子が設けられる。図が煩雑になるので、参照符号は省略するが、例えば、CCD保持板631には、図3に示す実施例のCCD素子5111,5121,5131,5141および5151に対応するCCD素子が一体構造的に設けられる。図6のその他の参照符号で図3に示すものと同じものは、同一、または対応する機能を持つものである。
【0048】
熱源板611,612,613および熱源板621,622,623は、使用者がパソコン48の表示画面を見ながら与える操作入力信号50に応じてパソコン48が駆動装置47に与える信号に応じて、熱伝導性基板1の下面に交互に接触させられる。さらに、CCD保持板631,632,633に保持されているCCD素子が熱伝導性基板1の下面に接触させられる。これについては、図7を参照しながら、より詳細に説明する。なお、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633はそれぞれ一体的に移動するようにリンクされている。
【0049】
図7(a)−(d)は、図6に示す実施例の下で、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させるとともに、液滴21内のPCRの結果を検出する手順を説明する概念図である。
【0050】
図7(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633が熱伝導性基板1の下面から適当な距離を隔てて待機している状態を示す。この状態では、熱源板611,612,613のそれぞれが熱伝導性基板1の上面の壁2の領域内に配列されている液滴21のY軸方向のそれぞれの列に対応する位置となるようにされている。図7(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板611,612,613は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633は熱伝導性基板1から離れた待機位置に保持されている。図7(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板611,612,613は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられている。同時に、たとえば、60℃に保持されている熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633も熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに、熱源板621,622,623は上方(Z軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。図7(d)は液滴21のPCRの結果を検出する段階における熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板611,612,613および熱源板621,622,623は、ともに、熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられるとともに熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられている。CCD保持板631,632,633は熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。すなわち、液滴21内のPCRの進行速度に応じて、光源57からの励起光によって、二本鎖に取り込まれたインターカレータ蛍光色素あるいはレポーターフラグメントによる蛍光が、CCD保持板631,632,633の上面に設けられたCCD素子で検出され、信号線56を介してパソコン48に送られる。
【0051】
図7(b)−(d)の操作を何回も繰返すことにより核酸増幅に必要な温度サイクルを実現できる。この例でも、熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の保持している熱量を熱伝導性基板1上の液滴21およびミネラルオイル38のそれに比し、十分に大きくしておけば、液滴21の核酸増幅を実行するための必要な温度サイクルを熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の温度制御なしでも実行可能である。熱源板611,612,613および熱源板621,622,623の温度制御が必要なら、それぞれの熱源板内にヒーターと温度センサーを埋め込んでおき、温度センサーの信号をパソコン48に取り込んで、ヒーターの温度制御をすることとすればよい。
【0052】
図8は、図7で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。本質的に図5を参照して説明した温度変化のパターンと同じである。T1は熱源板611,612,613によるDNAの1本鎖への変性段階の期間であり、T2は熱源板621,622,623によるプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の期間である。T3は温度サイクルの1周期である。ここでは、T1は1秒、T2は2秒+α、T3は4秒である。変性段階の1秒間の内、0.4秒ほどで変性段階に必要な94℃に到達し、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の2秒+α秒の内、最初の0.4秒ほどでプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階に必要な60℃に到達することがわかる。図7で説明した温度サイクルでは、温度サイクルの1周期T3の後半部分のT4の期間で、熱源板621,622,623を退避させてCCD素子によるPCR計測を行う点において、図5で説明した温度サイクルと異なる。このT4の期間は、熱源板621,622,623が退避させられるので、液滴21の温度がやや低下するが、実質的に影響を与えることはない。
【0053】
図9は、液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。この実施例では、前記2つの実施例が所定の温度に維持されている十分に大きい熱量を保持している2つの熱源板を熱伝導性基板1の下面に交互に実質的に接触させて液滴に熱を加えるものとされていたのに対して、液滴内の水に吸収の大きい1480nmの波長の単色レーザー光線をスキャンしながら加えることとした点において大きく異なる。この場合、液滴21の温度はレーザー光線のスキャンにより上昇するが、ミネラルオイル38は、基本的にレーザー光を吸収しないので温度が上がらない。したがって、ミネラルオイル38は、予め、プライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階の温度、例えば、60度に制御、維持されているものとする。
【0054】
図9において、651,652はガルバノミラーであり、単色光レーザー源66の照射するレーザー光線をX−Y平面でスキャンして、光学的に透明な熱伝導性基板1上の液滴21に照射する。パソコン48は、あらかじめ検討され入力されているレーザー光線のパワーと照射時間のデータに応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムによって単色光レーザー源66への制御信号を制御して、レーザー光線を制御する。また、ガルバノミラー651,652も前記所定のプログラムに対応してパソコン48により制御される。この実施例では、個々の液滴21のそれぞれを個別にスキャンして制御することになるので、上述の2つの実施例のような熱原板の機械的な移動の制御は不要である。なお、図9において、図3と同じ参照符号を付したものは同一物または同等の機能を果たすものである。
【0055】
図10は、図9に示す実施例により制御した場合について、図5で説明した温度サイクルの1周期に着目した液滴21の温度変化のパターンを示す図である。T1、T2、T3およびT4は図5で説明したのと同じである。図10と図5とを対比してみると明らかなように、図9に示す実施例では、液滴21はDNAの1本鎖への変性段階の期間T1の期間のみレーザー光線を照射されるが、連続照射ではなくスキャンによる(1/液滴の数)ごとの照射であるから、温度の上昇は段階的になる。点線で示すのは、この段階的温度の上昇を包絡線で示したものである。
【0056】
図11は、図9に示す実施例のガルバノミラー651,652をポリゴンミラー671,672に変更した例について、ポリゴンミラー671,672と単色光レーザー源66の構成の例を示した模式図である。ここで、ポリゴンミラーは正8角形とした。ポリゴンミラー671はZ軸を中心としてXY平面を図に示す回転矢印の方向に回るものとした。ポリゴンミラー672はY軸を中心としてXZ平面を図に示す回転矢印の方向に回るものとした。それぞれのポリゴンミラーと回転速度を適当に設定すれば、壁2の領域内を繰り返しスキャンすることが出来る。ポリゴンミラーによれば、ガルバノミラーによるスキャンに比し、レーザー光線がミラー面に対して大きく移動するので、レーザー光線によるミラー面の損傷を低減できる。
【0057】
図12は、上述の実施例におけるCCD素子を液滴21の下に配置した例について、熱伝導性基板1と液滴21について示す断面図である。熱伝導性基板1の上面には、壁2の領域内にCCD保持板49と、この保持板49に支持されたCCD素子51が設けられ、それぞれのCCD素子51の上に液滴21が配置されている。この例では、CCD素子51は、ミネラルオイル38の中におかれることになるので、図示されていないが、CCD保持板49も含めてCCD素子51全体を、例えば、ポリジメチルシロサキン(PDMS)による薄い層で全面を覆って、保護することが必要である。
【0058】
図13(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、図4(a)−(c)を参照して説明した、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順と同じ手順による制御を説明する概念図である。図13(a)−(c)では、図4(a)−(c)と異なり、熱源板45が熱伝導性基板1の液滴21に対応する位置に突起45’を備えたものとしている点においてのみ図4(a)−(c)と異なる。ここで、突起45’は熱源板45の熱を液滴21に伝える目的のものであるから、熱伝導の良いものであることは当然である。熱源板45と同じ材料で構成されても良い。
【0059】
図13(a)は初期段階であり、液滴21の配列された熱伝導性基板1から離れた位置に熱源板45および熱源板46が待機している状態を示す。この状態では、熱源板45が熱伝導性基板1の下面から熱源板46の厚さ相当の距離を隔てて熱伝導性基板1の下方(Z軸方向)に配置され、熱源板46が熱伝導性基板1の下面で左方向(X軸方向)に移動させられれば、熱伝導性基板1の下面に接触する位置で、熱伝導性基板1の右側にずらせて配置されている。なお、熱源板45および熱源板46はY軸方向では熱伝導性基板1と一致した位置に配置されるものとする。ここで、熱源板45の上面には、熱伝導性基板1上に配置されている液滴21と1対1に対応する突起45’が形成されている。図13(b)はDNAの1本鎖への変性段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。たとえば、94℃に保持されている熱源板45は、突起45’が熱伝導性基板1の下面に実質的に接触する位置まで上方(Z軸方向)に移動させられているが、熱源板46は熱伝導性基板1から離れた当初位置に待機している。図13(c)はプライマーの結合および耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成段階における熱源板45および熱源板46の熱伝導性基板1との位置関係を示す図である。熱源板45は熱伝導性基板1から下方(Z軸方向)に退避させられて当初位置に待機している。一方、たとえば、60℃に保持されている熱源板46は熱伝導性基板1の左方(X軸方向)に移動させられ、熱伝導性基板1の下面に実質的に接触させられている。このように、熱源板45の上下動(Z軸方向)、熱源板46の左右動(X軸方向)が、図4(b)および図4(c)に示すように所定の時間間隔で繰り返されることにより、温度サイクルを何回も繰返すことができ、液滴21内で核酸増幅を行うものである。
【0060】
図14は、熱源板45と突起45’との関係を説明する斜視図である。突起45’は熱源板45の上面に、熱伝導性基板1の液滴21に1対1に対応する位置に設けられる。したがって、図13(b)に示すように、熱源板45を熱伝導性基板1の下面に近づけると、突起45’が、あたかも、液滴21に直接接触したかのように、熱源板45の94℃の熱を液滴21に伝える。その結果、ミネラルオイル38への伝熱は、熱源板45が熱伝導性基板1に全面で直接接触する場合と比べると、小さいものとなる。このことは、図13(c)に示すように、熱源板46を熱伝導性基板1の下面に近づけて、相補鎖の合成段階の温度60℃に移行させる場合に、ミネラルオイル38の温度上昇が小さく抑えられていることを意味し、より短時間で、ミネラルオイル38の温度を60℃に回復できることを意味する。
【0061】
図13、図14を参照して、熱源板45に突起45’を設けることの意味について説明した。一方、熱源板46については、熱源板45と同様に突起を設けることが構成としては可能であるが、必ずしも有効とはいえない。と言うのは、ミネラルオイル38の温度は相補鎖の合成段階の温度60℃に維持するのが熱サイクルとしては有利であるので、熱源板46に突起を設けて液滴21の温度を早く60℃に移すと言うより、液滴21とミネラルオイル38を一緒に60℃に移すほうがよいと言えるからである。
【0062】
上述の実施例では、液滴の中の細胞の核酸を増幅するものであるが、細胞の核酸増幅に先行して、細胞を含む液滴内に細胞の培養液を入れて、細胞の培養をした後、培養された細胞の核酸増幅をすることにより、効果的に核酸増幅をすることができる。図15(a)はこのような用途に好都合な、細胞培養中の液滴21の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、図15(b)は、図15(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。71はピペットであり、先端の開口部に細胞阻止片72が取り付け部73,74により取り付けられている。ピペット71の先端の開口部周辺と細胞阻止片72の間には細胞が通過できない隙間が設けられている。図15(b)に示すように、ピペット71とピペット20とを液滴21に挿入してピペット71から液滴21内の培養液を吸引しながらピペット20により新しい培養液を注入すれば、液滴21内の細胞を誤って吸引して失ってしまうことなく培養液が交換できる。図2に示す構成において、ピペット11に代えてピペット71を取り付けてシリンジポンプ31で液滴21内の培養液を吸引することにし、ピペット20から培養液を供給することとすれば、図15(b)に示す構成での培養液の交換ができる。このような形で培養が進められた後、核酸増幅に移行することになるが、この段階で、液滴21内の培養液を取り除きPCR用の溶液に置き換える必要がある。このときも、図15(a)に示すピペットを使用して液の交換を行うことにすればよい。
【0063】
なお、上述の実施例についてのマイナーな変形について簡単に言及すると以下のようである。
【0064】
図3に示す実施例では、光源57、バンドパスフィルタ58およびシャッター59をCCD保持板49のCCD素子の周辺に配置することが可能である。また、図3に示す実施例では、液滴21に対する励起光の強度は、壁2に近い両側の位置の液滴と、中心位置の液滴とでは異なる。このため、PCRの結果に応じて液滴が発する蛍光強度が異なる。したがって、あらかじめ両側の位置の液滴が発する蛍光強度と中心位置の液滴が発する蛍光強度とを比較して、中心位置の強度補正をするための係数を決定しておくのが良い。これを使用した補正はパソコン48で、簡単に行うことが出来る。
【0065】
図6の実施例では、図3に示す実施例と比較して、同じ大きさの熱伝導性基板1と比較して、処理できる液滴の数が少ない。したがって、スループットをあげるためには、図6に示す構成を複数個併設することが一つの解決策となる。
【0066】
以上、本発明をある程度詳細に、その最も好ましい実施形態について説明したが、本発明は、その本質的特性から逸脱することなく多数の形態のものとして具体化できるものである。上記の好適な実施形態は専ら説明上のものであり制約的なものではない。また本発明の範囲は、発明の詳細な説明によってではなく、特許請求の範囲によって規定されるものであるから、特許請求の範囲の要件内のあらゆる変更、またはその要件に対する均等物は特許請求の範囲の範囲内に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)は、熱伝導性基板1と、液滴21と、液滴21を保持する領域を規定する壁2の関連を示す平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。
【図2】熱伝導性基板1上に核酸増幅の対象となる細胞12を含む液滴21を載置するシステム構成の例を説明する概念図である。
【図3】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う実施例を模式的示す斜視図である。
【図4】(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順を説明する概念図である。
【図5】図4で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図6】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。
【図7】(a)−(d)は、図6に示す実施例の下で、熱源板611,612,613、熱源板621,622,623およびCCD保持板631,632,633を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させるとともに、液滴21内のPCRの結果を検出する手順を説明する概念図である。
【図8】図7で説明した温度サイクルによる液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図9】液滴21の温度制御(温度サイクル)を、熱伝導性基板1の下面から、熱伝導性基板1の上面に配列された全ての液滴21に、熱源の熱エネルギーを作用させて行う他の実施例を模式的示す斜視図である。
【図10】図9に示す実施例により制御した場合について、図5で説明した温度サイクルの1周期に着目した液滴21の温度変化のパターンを示す図である。
【図11】図9に示す実施例のガルバノミラー651,652をポリゴンミラー671,672に変更した例について、ポリゴンミラー671,672と単色光レーザー源66の構成の例を示した模式図である。
【図12】上述の実施例におけるCCD素子を液滴21の下に配置した例について、熱伝導性基板1と液滴21について示す断面図である
【図13】(a)−(c)は、図3に示す実施例の下で、図4(a)−(c)を参照して説明した、熱源板45および熱源板46を交互に熱伝導性基板1の下面に接触させ、液滴21の温度サイクルを完成させる手順と同じ手順による制御を説明する概念図である。
【図14】熱源板45と突起45’との関係を説明する斜視図である。
【図15】(a)は、細胞培養中の液滴21の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、(b)は、図15(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1…熱伝導性基板、2…壁、5…位置決め用のマーカー、12…細胞、11,20…ピペット、13…細胞12を含むPCR溶液、16…光源、17…集光レンズ、18…コリメートレンズ、19…ステージ、21…液滴、25…モニター、26…パソコン、27,32,36,37…駆動装置、28…操作入力信号、30,34…チューブ、31,35…シリンジポンプ、38…ミネラルオイル、39…駆動装置とピペットとの連係を示す線、40…試験管、45,46…熱源板、突起45’…熱源板45の上面の突起、47…駆動装置、48…パソコン、49…CCD保持板、50…操作入力信号、51…CCD素子、56…連絡線、57,57’…光源、58,58’… バンドパスフィルタ、59,59’…シャッター、611,612,613…熱源板、621,622,623…熱源板、631,632,633…CCD保持板、65…ガルバノミラー、66…単色光レーザー源、67…ポリゴンミラー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に該液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上の前記溶媒層中に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられる熱源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記熱源から前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記熱源と前記液滴との相対的な位置を制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項2】
前記熱源が
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備えるものであるとともに、
前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とが、所定のプログラムに従って前記熱伝導性基板の下面に接触させられるものである請求項1記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項3】
前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える請求項2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項4】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の配列された液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備える熱源、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴の列の各液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とから前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と前記液滴列との相対的な位置を制御するとともに、前記光検出手段を前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と対応させて位置を制御する制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項5】
前記第1の熱源板が前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える請求項4記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項6】
複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼとを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受けるとともに前記液滴を保持する領域を囲むように設けられた側壁を有する熱伝導性基板であって、該側壁と該基板の上面とで規定される漕内に前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板を載置するための基板載置手段、
前記熱伝導性基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記熱伝導基板上に所定の間隔で配列する手段、ならびに
前記熱伝導基板を介して前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
【請求項7】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられるレーザー光源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記レーザー光の照射位置を所定のプログラムに従って制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項8】
前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御する手段がガルバノミラーとその反射角を制御する手段である請求項7記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項1】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に該液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上の前記溶媒層中に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられる熱源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記熱源から前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記熱源と前記液滴との相対的な位置を制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項2】
前記熱源が
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域と実質的に同一の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備えるものであるとともに、
前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とが、所定のプログラムに従って前記熱伝導性基板の下面に接触させられるものである請求項1記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項3】
前記第1の熱源板が、前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える請求項2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項4】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の配列された液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、
所定の熱量を有し、核酸の1本鎖への変性の温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第1の熱源板と、
所定の熱量を有し、1本鎖に変性された核酸にプライマーが結合する温度に維持されるとともに、前記所定の領域の配列された液滴の列と同等の面積の面を有する第2の熱源板と、
を備える熱源、
前記熱伝導性基板の下面に設けられ、前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴の列の各液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記第1の熱源板と前記第2の熱源板とから前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と前記液滴列との相対的な位置を制御するとともに、前記光検出手段を前記第1の熱源板と前記第2の熱源板と対応させて位置を制御する制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項5】
前記第1の熱源板が前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応する位置に熱伝導性の材料の突起を備える請求項4記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項6】
複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼとを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受けるとともに前記液滴を保持する領域を囲むように設けられた側壁を有する熱伝導性基板であって、該側壁と該基板の上面とで規定される漕内に前記液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導性基板を載置するための基板載置手段、
前記熱伝導性基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記熱伝導基板上に所定の間隔で配列する手段、ならびに
前記熱伝導基板を介して前記液滴に伝播される熱エネルギーを所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
前記熱伝導基板上に配列された前記液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
【請求項7】
基板の上面の所定の領域を囲むように設けられた側壁を有し、該側壁と該基板上面とで規定される漕内に、細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液とを含有する複数の液滴と、該液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層とを保持するための熱伝導性基板、
前記熱伝導基板上に配列された前記複数の液滴に1対1に対応し、該液滴からの光を検出する複数の光検出器を備える光検出手段、
前記熱伝導性基板の下面に設けられるレーザー光源、
ならびに
前記熱伝導基板を介して前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御し前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように、前記レーザー光の照射位置を所定のプログラムに従って制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項8】
前記レーザー光源から前記液滴に照射されるレーザー光を制御する手段がガルバノミラーとその反射角を制御する手段である請求項7記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−118798(P2009−118798A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297542(P2007−297542)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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