説明

核酸導入を促進させる方法

【課題】所望の核酸を効率的に細胞に導入するための手段を提供する。
【解決手段】コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子及びその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野、特に遺伝子治療および遺伝子関連の基礎研究の分野に属する。詳細には、本発明は、所望の核酸の標的細胞への導入を促進する製剤およびそのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子治療に関する研究が盛んに試みられており、実際に種々の癌や遺伝子疾患に臨床応用されている。遺伝子治療とは、正常な遺伝子を細胞に補ったり、遺伝子の欠陥を修復、修正することで病気を治療する手法であり、目的の酵素、サイトカイン等の遺伝子を患者の細胞内に導入し、その遺伝子により体内に目的とする物質を産生させて疾患の治療を行うものである。遺伝子治療は生命活動の根幹を制御する治療法であり、癌や遺伝子疾患だけでなく、AIDS、慢性関節リウマチ、生活習慣病など様々な病気の治療への可能性がある。
【0003】
遺伝子治療において、遺伝子の標的細胞への導入効率は治療の有効性を高めるうえで重要な因子である。癌に対する遺伝子治療方法としてアデノウイルス等による方法(非特許文献1−6およびこれらの引用文献)およびリポソーム製剤を用いる方法(非特許文献7−9)がある。ウイルスベクターを用いる方法はリポソーム製剤を用いる方法に比べて遺伝子の導入効率が一般に高い。しかし、ウイルスに由来する免疫反応のために複数回の投与が困難という問題がある(非特許文献10、11)。
【0004】
他方、ヒトの全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読がほぼ完了したことから、今後そのヒトゲノム情報をどうのように医療や産業に生かしていくかというポストゲノムに研究の比重が置かれるようになった。即ち、解明された遺伝情報に基づいて、ヒト遺伝子の解明や、それによってコードされるタンパク質の構造、機能の解析の重要性が強調されている。そのようなポストゲノム研究では、遺伝情報を解明するにタンパク質を発現させ生産する必要があり、そのためには目的遺伝子を細胞に導入することが必須である。一方、導入した遺伝子が宿主細胞のゲノムに取りこまれないアデノウイルスベクターやリポソームベクター、プラスミドDNAベクターでは、導入した遺伝子の発現が一過性であり、定常的に遺伝子を発現させることができないが、この定常的な遺伝子発現は遺伝子治療や遺伝子機能の解析に重要である。
【0005】
【非特許文献1】Cardiovascular Research, 28, 445 (1994)
【非特許文献2】Science, 256, 808 (1992)
【非特許文献3】Gastroenterology, 106, 1076 (1994)
【非特許文献4】TIBTECH, 11, 182 (1993)
【非特許文献5】J. Biol. Chem, 266, 3361 (1991)
【非特許文献6】Nature Medicine, 1, 583 (1995)
【非特許文献7】Biochem Biophys Acta, 1097, 1 (1991)
【非特許文献8】Human Gene Therapy, 3, 399 (1992)
【非特許文献9】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 11277 (1992)
【非特許文献10】J. Biol. Chem., 269, 13695(1994)
【非特許文献11】Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 10, 369 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、遺伝子を構成し得る核酸を所望の細胞に効率的に導入し、かつ宿主細胞の染色体に遺伝子を組み込むことなく遺伝子を長期間発現する手法には大きな有用性が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コラーゲンの意外な作用を見出し、核酸を所望の細胞に効率的に導入する手法を発見した。詳細には、コラーゲンとプラスミドDNAなどの核酸とを組合わせると、意外にもそれらが複合体を形成し、それが核酸の細胞への導入を促進し、かつ遺伝子を長期間発現することを見出した。なお、遺伝子をコラーゲン等の生体親和性材料からなる担体に担持させた遺伝子製剤が開示されているが(特開平9−71542)、その遺伝子製剤は遺伝子を生体内において徐放化させる徐放性製剤として記載されている。
このように、本発明はコラーゲンまたはコラーゲン誘導体の新規な用途を基礎とするものである。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する、標的細胞への核酸導入促進剤;
(2)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体が所望の核酸と複合体を形成して含有されている核酸導入促進剤、好ましくは該複合体が粒子である核酸導入促進剤、より好ましくは該複合体粒子の長径が300nm〜300μm、より好ましくは300nm〜100μm、さらに好ましくは300nm〜50μm、さらに好ましく300nm〜30μmの複合体を含有する核酸導入促進剤;具体的には核酸がプラスミドDNAである場合、該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、好ましくは1:50〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、より好ましくは1:50〜1:4000、さらに好ましくは1:50〜1:2000、より好ましくは1:50〜1:1000である、または核酸がオリゴヌクレオチドである場合、該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200、好ましくは1:3〜1:150、より好ましくは1:20〜1:120、さらに好ましくは1:50〜1:120である、核酸導入促進剤;
(3)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子;
(4)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質を含有する溶液中にて、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを混合することを特徴とする、本発明の複合体粒子を調製する方法;
(5)上記(3)の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具、または該複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具;
(6)上記(3)の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための、または所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法;
(7)標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む上記(3)の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法;
(8)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む上記(3)の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法;に関する。
【0009】
以下の実施例にて詳細に説明しているように、本発明の核酸導入促進剤は、プラスミドDNA単独では遺伝子発現が見られないin vitroの細胞培養系において核酸の発現が認められたことから、核酸の細胞への導入効率を向上することが示された。さらに核酸の発現がリポソーム製剤と比較して長期間持続することから、本発明の核酸導入促進剤は核酸の細胞内での安定性を向上することが示された。
【0010】
今回、コラーゲンが核酸と静電的におよび/または物理的に相互作用し複合体を形成していることを見出した。よって、実施例にて認められた核酸発現の持続は複合体形成による核酸の細胞内での安定性向上によってもたらされると考えられる。これは、コラーゲンのマトリックス中に封入された遺伝子等が生分解作用によるコラーゲンの分解により徐々に遺伝子が放出されると考えられていた、従来のコラーゲンによる遺伝子等の徐放メカニズムと大きく相違する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1)核酸導入促進剤
第1の態様における本発明は、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する標的細胞への核酸導入促進剤である。本態様は、標的細胞への核酸導入を促進させるというコラーゲンまたはコラーゲン誘導体における、今回初めて見出された作用を利用するものである。即ち、本態様では、標的細胞への核酸導入を促進するための、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体の新規な用途を提供する。
【0012】
本発明において、「コラーゲンまたはコラーゲン誘導体」とは、通常、医療分野、化粧品分野、工業分野および食品分野で用いられているあらゆる「コラーゲンまたはコラーゲン誘導体」を意味する。コラーゲンは、可溶性あるいは可溶化コラーゲンを用いることが好ましい。可溶性コラーゲンとは、酸性あるいは中性の水や塩溶液に可溶であり、可溶化コラーゲンとは、酵素により可溶化される酵素可溶化コラーゲン、アルカリにより可溶化されるアルカリ可溶化コラーゲンがあり、いずれも孔サイズが1マイクロメートルのメンブレンフィルターを通過できることが好ましい。コラーゲンの可溶性はコラーゲンの架橋度に依存し、架橋度が高いほど不溶化することから、本発明に使用するコラーゲンの架橋度は、例えば、3量体以下であることが好ましく、より好ましくは2量体以下である。コラーゲンの分子量は例えば、約30万から約90万が好ましく、約30万から約60万がより好ましい。コラーゲンはいかなる動物種から抽出されたものでも用いることが出来るが、好ましくは脊椎動物から抽出されたもの、さらに好ましくは哺乳類、鳥類、魚類から抽出されたもの、より好ましくは変性温度が高い哺乳類、鳥類から抽出されたコラーゲンが望ましい。コラーゲンのタイプもいかなるタイプのコラーゲンでも良いが、動物体内の存在量からI〜V型が好ましい。具体的には例えば、哺乳動物の真皮から酸抽出したI型コラーゲンが挙げられ、より好ましくは例えば、仔牛の真皮から酸抽出したI型コラーゲン、遺伝子工学的に生産されるI型コラーゲンなどが挙げられる。同じI型コラーゲンでも腱由来のコラーゲンは架橋度が高く不溶性であるため適さない。また、安全性の面から抗原性の高いテロペプチドを酵素的に除去したアテロコラーゲンあるいは遺伝子工学的に生産されるアテロコラーゲンが望ましく、1000残基あたりチロシン残基が3以下であるアテロコラーゲンがより好ましい。また、必要に応じて側鎖を修飾したコラーゲン、架橋したコラーゲン等を用いることができる。側鎖を修飾したコラーゲンとしては、例えばサクシニル化またはメチル化したコラーゲン等が挙げられ、架橋したコラーゲンとしては、例えばグルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソアナートまたはポリエポキシ化合物等で処理したコラーゲン等を挙げることができる(フレグランス・ジャーナル 1989-12, 104-109、特公平 7-59522号公報)。好ましいコラーゲン誘導体はゼラチンまたはゼラチンの架橋体、またはコラーゲンとの架橋体である。
【0013】
なお、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体には他の生体親和性材料を混合することもできる。生体親和性材料としては、例えばゼラチン、フィブリン、アルブミン、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、アルギン酸、ペクチン、アガロース、ハイドロキシアパタイト、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、またはグリコール酸、乳酸もしくはアミノ酸の重合体もしくはこれらの共重合体、またはこれらの生体親和性材料の2種類以上の混合物等が挙げられる。
【0014】
2)複合体を含有する核酸導入促進剤
第2の態様における本発明は、所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体、好ましくは複合体粒子を必須成分として含有する、標的細胞への核酸導入促進剤である。
核酸は単独ではインビトロの細胞に血清存在下に投与してもほとんど細胞に導入できない。コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体を形成することにより、初めて効率的に核酸を細胞に導入することができる。
【0015】
本発明において、「核酸」はポリヌクレオチドであってもオリゴヌクレオチドであってもよく、またDNAでもRNA分子でもあり得る。DNA分子の場合、プラスミドDNA、cDNA、ゲノミックDNAあるいは合成DNAであってもよい。またDNAおよびRNAはいずれも2本鎖でも1本鎖でもあり得る。1本鎖の場合、コード鎖あるいは非コード鎖であり得る。「核酸」にはDNA誘導体またはRNA誘導体が含まれ、該誘導体とはホスホロチオエート結合を有する核酸、または酵素による分解を避ける為にインターヌクレオチドのリン酸部位、糖部分、塩基部分に化学修飾を施した核酸を意味する。また、「核酸」にはアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスも含まれる。
【0016】
好ましくは、「核酸」はオリゴヌクレオチドまたはリボザイムであり、好ましくは5量体以上100量体以下、より好ましくは5量体以上30量体以下のオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである。疾患症状の治療あるいは改善効果のある生理活性を有するタンパク質をコードしているプラスミドDNA、または疾患症状の予防、治療あるいは改善効果のある免疫反応を誘導するタンパク質をコードしているプラスミドDNAがより好ましい。
【0017】
核酸がプラスミドDNAまたはウイルス等の遺伝子治療に用いられるベクターである場合、細胞内に導入されたとき、コードした遺伝情報を細胞内で発現するように構成された形態が好ましく、プロモーター等、目的遺伝子の発現に必要な要素を含有する、あるいは染色体への組み込みを可能とする要素を含有するベクター等である。本発明の核酸としてのプラスミドDNAのサイズには特に制限はなく、遺伝子工学的手法で効率的に生産でき、細胞に導入された場合、効率的にコードした遺伝情報を細胞内で発現できるサイズの中から適当に選択することができる。
本発明の核酸導入促進剤中には、別個の所望の核酸を組み込んだ数種類のベクターが同時に存在してもよい。また、一つのベクターには複数の遺伝情報がコードされていてもよい。導入促進剤中に含有されるベクターの量に特に制限はない。
【0018】
遺伝子治療時に発現が要求されるタンパク質をコードする核酸には遺伝病の処置に用いられ得る遺伝子、例えばアデノシンデアミナーゼ、チミジンキナーゼ等の酵素類、GM-CSF、IL-2等のサイトカイン類、または繊維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)をコードする遺伝子が挙げられるがこれに限られるものではない。また、遺伝子治療時に発現が要求される別のタンパク質をコードする核酸として、発現されるタンパク質あるいはペプチドが抗原として免疫を誘導し、感染症もしくは腫瘍の予防または治療を行うことを目的とする遺伝子、即ち上記の抗原となり得るタンパク質あるいはペプチドをコードする遺伝子、例えばインフルエンザウイルスの表面タンパク質であるHAやNAまたは核タンパク質であるNPの各タンパク質、C型肝炎ウイルスのE2やNS 1タンパク質、B型肝炎ウイルスのHBs抗原タンパク質、A型肝炎ウイルスのカプシドタンパク質であるVP 1やVP 3、あるいはカプシド様タンパク質、デングウイルスのEgpタンパク質、RSウイルスのFあるいはGタンパク質、狂犬病ウイルスの構造タンパク質であるGやNタンパク質、ヘルペスウイルスのgDタンパク質、日本脳炎ウイルスのE 1あるいはpre-Mタンパク質、ロタウイルスの外殻糖タンパク質VP 7や外殻タンパク質VP 4、ヒト免疫不全ウイルスのgp120やgp160タンパク質、Leishmania majorの主要表面抗原タンパク質、マラリアのスポロゾイドの主要表面抗原(circum sporozoite protein)タンパク質、トキソプラズマの54-kdやCSタンパク質、虫歯の原因となるStreptococcus mutansの菌体表層タンパク質PAcをコードする遺伝子;また、MAGE-1、MAGE-3またはBAGEなどの癌退縮抗原や、チロシナーゼ、Mart-1、gp100、gp75などの組織特異抗原、p15、Mucl、CEA、HPV E6、E7、HPR2/neuなどをコードする遺伝子、および「Immunization with DNA」: Journal of Immunological Methods,176巻,1994年,145-152頁に記載されている遺伝子を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0019】
核酸がオリゴヌクレオチドの場合、例えば、少なくともその一部が生体の恒常性を乱す生理的な効果を有するタンパク質をコードした遺伝子、病原性のウイルス、細菌等に特異的な遺伝子のセンス鎖またはアンチセンス鎖と生理的な条件下で相補的に結合する塩基配列等であり、より具体的には、病原性ウイルス、細菌等に特異的な遺伝子および恒常性を乱す生理的な効果を有するタンパク質等をコードした遺伝子のメッセンジャーRNAと相補的に結合する塩基配列である。
【0020】
さらに具体的には、本発明に用いられるオリゴヌクレオチドは、例えば、メッセンジャーRNAの開始コドンを含む領域あるいは前駆メッセンジャーRNAがスプライシングを受ける部位に相補的な配列等である。本発明に用いられるオリゴヌクレオチドの例を示せば、がんの治療あるいは予防に用いるオリゴヌクレオチドとしては、例えば、hst-1の発現を特異的に抑制する5'-CTCGTAGGCGTTGTAGTTGT-3'(配列番号1)の配列を有したオリゴヌクレオチド、あるいはプロテインキナーゼCαの発現を特異的に抑制して非小細胞性肺がんや結腸がんなどの進行性がんに有効で、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、膵臓がん、大腸がん、小細胞肺がんへの適用が試みられているISIS3521、C-rafキナーゼの発現を特異的に抑制して前立腺がん、乳がん、卵巣がん、脳腫瘍、膵臓がん、大腸がん、小細胞肺がんへの適用が試みられているISIS5132/CGP69846A、Ha-rasの発現を特異的に阻害して大腸がん、乳がん、脳腫瘍、膵臓がん、肺小細胞がんへの適用が試みられているISIS2503、プロテインキナーゼAタイプIの発現を特異的に抑制するGEM231、DNAメチルトランスフェラーゼの発現を特異的に抑制するMG98、c-mycの発現を抑制するINXC-6295、c-mybの発現を抑制し白血病への適用が検討されているINX-3001、bcl-2の発現を抑制して非ホジキンリンパ腫、大腸がん、小細胞肺がん、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、乳がん、リンパ腫、メラノーマ、骨髄腫、非細胞性肺癌、前立腺がんへの適用が検討されているG-3139(Genasense)、MDM2蛋白の発現を抑制するオリゴヌクレオチド、 VEGFの発現を抑制するオリゴヌクレオチドなどを挙げることができる。また、感染症の治療あるいは予防に用いるオリゴヌクレオチドとしては、HIVの増殖を抑制するGEM92、GPI-2A、サイトメガロウイルスの増殖を抑制するISIS2922(fomivirsen)、Vitravene、ISIS13312、GEM132、C型肝炎ウイルスの増殖を抑制するISIS14803などが挙げられ、炎症の治療に用いられるオリゴヌクレオチドとしては、 ICAM-1の発現を特異的に抑制しクローン病、潰瘍性大腸炎、腎移植拒絶反応阻害、乾癬、喘息への適用が試みられているISIS2302、アデノシンA1レセプターの発現を抑制し、喘息への適用が試みられているEPI-2010、およびTNF-α、CD49d (VLA-4)、VCAM-1、PECAM-1の発現を抑制するオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。また、経皮経管冠動脈形成術後の再狭窄を防止するオリゴヌクレオチドとして、 c-mycの発現を抑制するResten-NGなどが挙げられる。
【0021】
恒常性を乱す生理的な効果を有するタンパク質をコードする遺伝子は具体的には、例えば、がん遺伝子とよばれる一群の遺伝子群が挙げられる。より具体的には、例えば増殖因子群、受容体型チロシンキナーゼ群、非受容体型チロシンキナーゼ群、GTP結合タンパク質、セリン・スレオニンキナーゼ群、転写調節因子群などが挙げられる。さらに具体的には、例えば、hst-1あるいはオルニチン脱炭酸酵素等をコードする遺伝子等が挙げられる。
【0022】
本発明の核酸導入促進剤は、本発明の複合体の他、必要に応じて医薬上許容される添加剤を含有することができる。医薬上許容される添加剤としては、複合体を注射剤として用いる場合の等張化剤、pH調節剤、無痛化剤、あるいは固形剤として用いる場合の賦形剤、崩壊剤、コーティング剤が挙げられ、日本では医薬品添加物事典(日本医薬品添加剤協会編集)に記述されているものである。具体的にはpHを6〜8に保つため、あるいは細胞と等張に保つために用いられる塩類や糖類が挙げられる。
本発明の核酸導入促進剤の性状は固体状であっても溶液状であってもよい。本発明の促進剤が固体状である場合、核酸導入を促進させる際には、そのままの状態あるいは精製水、生理的食塩水、生体と等張な緩衝液等を用いて溶液状とし、所望の細胞に負荷する。このような溶液状の核酸導入促進剤も本発明の一部を構成する。
【0023】
本発明の核酸導入促進剤を生体に投与する方法としては経口、注射、点眼、点鼻、経肺、皮膚を介した吸収のいずれでも良く、好ましくは経口または注射である。投与部位は疾患に応じて選択できるが、手術時に必要な部位に直接留置することもできる。
【0024】
本態様では、詳細には次の発明が提供される。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体、好ましくは複合体粒子を必須成分として含有する、標的細胞への核酸導入促進剤(ここに、該複合体粒子の長径は好ましくはが300nm〜300μm、より好ましくは300nm〜100μm、さらに好ましくは300nm〜50μm、さらに好ましくは300nm〜30μmである)、
(2)標的細胞が動物細胞である前記(1)記載の核酸導入促進剤、
(3)標的細胞が治療を必要とする臓器あるいは組織またはその付近の細胞である前記(2)記載の核酸導入促進剤、
(4)コラーゲンがアテロコラーゲンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の核酸導入促進剤、
(5)コラーゲンの分子量が約30万〜約90万である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の核酸導入促進剤、
(6)コラーゲン誘導体がゼラチンまたはゼラチンの架橋体である前記(1)〜(5)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(7)コラーゲン誘導体がコラーゲンの架橋体である前記(1)〜(5)記載の核酸導入促進剤、
(8)核酸がオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(9)オリゴヌクレオチドが5量体以上30量体以下の前記(8)記載の核酸導入促進製剤、
(10)オリゴヌクレオチドがDNAあるいはDNA誘導体である前記(8)または(9)記載の核酸導入促進剤、
(11)オリゴヌクレオチドがRNAあるいはRNA誘導体である前記(8)または(9)記載の核酸導入促進剤、
(12)DNA誘導体あるいはRNA誘導体が分子内に少なくとも1つ以上のホスホロチオエート結合を有する前記(10)または(11)記載の核酸導入促進剤、
(13)核酸がリボザイムまたはオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(14)核酸がプラスミドDNAである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(15)プラスミドDNAが疾患症状の治療あるいは改善効果のある生理活性を有するタンパク質をコードしている前記(13)記載の核酸導入促進剤、および
(16)プラスミドDNAが疾患症状の予防、治療あるいは改善効果のある免疫反応を誘導するタンパク質をコードしている前記(13)記載の核酸導入促進剤。
(17)核酸導入促進剤が溶液であり、複合体成分として核酸を10mg/ml以下含有する前記(1)〜(16)記載の核酸導入促進剤、
(18)複合体成分として核酸を1mg/ml以下含有する前記(17)記載の核酸導入促進剤、
(19)複合体成分として核酸を500μg/ml以下含有する前記(18)記載の核酸導入促進剤、
(20)pH5〜pH9、好ましくはpH6〜pH8である前記(1)〜(19)記載の核酸導入促進剤、
(21)リン酸を0.001M以上0.1M以下含有する前記(1)〜(20)記載の核酸導入促進剤、
(22)リン酸を0.01M以上0.1M以下含有する前記(21)記載の核酸導入促進剤、
(23)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質、例えばシュクロースまたはアルギニンを含有する前記(1)〜(22)記載の核酸導入促進剤、
(24)医薬上許容される添加剤を適量含有する前記(1)〜(23)記載の核酸導入促進剤。
【0025】
3)複合体
本発明の第3の態様は、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体である。この複合体には、静電的な力により結合して複合体を形成する静電的複合体と疎水結合等の物理的な力により複合体を形成する物理的複合体が含まれる。場合によっては、両方の結合様式が混在する場合があるが、そのような複合体も本発明における複合体に含まれる。
【0026】
今回、コラーゲンが核酸と静電的に相互作用し複合体を形成し得ることが見出された。
本発明において「静電的複合体」とは、分子中に多数の荷電を有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸のポリイオン複合体、詳細には正電荷を帯びたコラーゲンまたはコラーゲン誘導体が負電荷を帯びた核酸と電気的に引き合った結合体を意味する。ポリイオン複合体は複合体形成時に分子内の荷電のカウンターイオンを多数フリーにすることから、非常に大きなエントロピーの増大が生じる。このような静電的複合体の形態から考えると、実施例にて認められた核酸発現の持続は複合体形成による細胞内での核酸の安定化によってもたらされると考えられる。
【0027】
本発明の複合体の最少単位は一分子のコラーゲンと一分子の核酸が形成する複合体であるが、我々はコラーゲンは核酸と複合体を形成するのと並行して他のコラーゲンと会合し会合体を形成することを見出した。この会合体の形成は、長径約300nm、直径約1.5nmの円柱状のコラーゲン分子が主として分子の直軸方向と平行に会合するものであり、主として会合体は分子の長軸方向に伸長する。従って複合体は複数の会合体と複数の核酸分子が非共有結合で結合したものであり、会合体の伸長が大きく進展し長軸が1nmを越える線維状複合体、細い会合体が核酸を介して結合した微線維状複合体、より微細な複合体が核酸と形成した粒子状複合体がある。
【0028】
本発明の複合体は様々な形状をとることができる。
本発明の複合体は粒子であることが好ましい。本発明において、「粒子」とはコラーゲンまたはコラーゲン誘導体がとり得る形状であり、必ずしも球状を意味するものでない。本発明の複合体粒子のサイズは、一分子のコラーゲンが形成する複合体の長径300nmが最少であり、核酸導入効率を考慮し、その長径が300nm〜1mmであり、長径300nm〜300μmである粒子が好ましく、より好ましくは長径300nm〜100μmであり、さらに好ましくは長径300nm〜50μm、さらに好ましくは長径300nm〜30μmである。
【0029】
我々は複合体が様々な形状をとる原因が、複合体を構成するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸との割合にあること、さらに複合体の形状が専ら核酸と複合体を形成することによって促進されるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体による会合体(線維)形成の進展に依存することを見出した。会合体の過形成は核酸導入には不適であるという本発明における知見に基づき、我々は、かかる複合体の形状が、混合するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体および所望の核酸の濃度の他、コラーゲンの会合体形成に影響を与える環境因子である塩濃度、温度、pH、グルコース濃度を調整することにより制御できることを見出した。また、我々は複合体形成に伴うコラーゲンまたはコラーゲン誘導体の会合体形成が、核酸の鎖長に影響を受け、一般に1000bpを超えるプラスミドDNAでは会合体形成が著しく促進されるのに対して、一般に100b以下のオリゴヌクレオチドでは会合体形成の促進効果が弱いことを見出し、それぞれに適したコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸の組成が存在することを見出した。
【0030】
複合体の形状は核酸の細胞への導入効率に影響し得る。よって、コラーゲンが核酸と複合体を形成し、その形状が核酸の細胞への導入効率・発現効率に影響するという発見により、核酸導入効率を最適化し得るストラテジーが提供された。さらに、核酸の標的細胞への導入に実験室レベルで用いられているリポソームは、核酸と混合した後、直ちに凝集する性質があり、使用毎に核酸の導入効率にばらつきがある他、用時調製の必要があり、実際に汎用されるのは困難である。一方、本発明の複合体は冷所で保管することで形態が悪化することがない。遺伝子導入技術において最大の課題は汎用的な方法が少ないということである。本発明の複合体は形態が変化しない点からも現実性の高い技術である。
【0031】
本態様では具体的には次の発明が提供される。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子、
(2)長径が300nm〜300μmである、前記(1)記載の複合体粒子、
(3)長径が300nm〜100μmである、前記(2)記載の複合体粒子、
(4)長径が300nm〜50μm、好ましくは300nm〜30μmである、前記(3)記載の複合体粒子、
(5)核酸がプラスミドDNAである前記(1)〜(4)記載の複合体粒子、
(6)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、好ましくは1:50〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、より好ましくは1:50〜1:4000、さらに好ましくは1:50〜1:2000、より好ましくは1:50〜1:1000である、前記(5)記載の複合体粒子、
(7)1:96〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である前記(6)記載の複合体粒子、
(8)1:96〜1:1122である前記(7)記載の複合体粒子、
(9)1:96〜1:701である前記(8)記載の複合体粒子、
(10)核酸がオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(4)記載の複合体粒子、
(11)該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200、好ましくは1:3〜1:150、より好ましくは1:3〜1:120である前記(10)記載の複合体粒子、
(12)1:20〜1:120である前記(11)記載の複合体粒子、
(13)1:50〜1:120である前記(12)記載の複合体粒子、
(14)pH5〜pH9、好ましくはpH6〜pH8である溶液中に存在する、前記(1)〜(13)記載の複合体粒子、
(15)10℃以下に冷却した溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(16)リン酸を0.001M以上0.1M以下含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(17)リン酸を0.01M以上0.1M以下含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(18)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質、例えばシュクロースあるいはアルギニンを含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(19)医薬上許容される添加剤を適量含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法(ここに、医薬上許容される添加剤とは上記記載のもの)、
(20)前記(14)〜(19)記載の方法を2以上組み合わせて前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(21)100μm以下の孔径のフィルターを通過させて整粒する工程をさらに含む、前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(22)10μm以下の孔径のフィルターを通過させて整粒する前記(21)記載の方法、
(23)10,000回転以上の速さで遠心することで複合体を濃縮、単離する工程をさらに含む、前記(1)〜(13)記載の複合体を調製する方法、
(24)50,000回転以上の速さで遠心する前記(23)記載の方法。
【0032】
本発明において、「ヌクレオチドモノマー数」とは所望の核酸を構成するヌクレオチドモノマー単位の数を意味する。「コラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とヌクレオチドモノマー数の比」とは、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体1分子に対し、静電的または物理的に結合して複合体を構成する所望の核酸におけるヌクレオチドモノマーの数を意味する。ヌクレオチドモノマー数は、「所望の核酸の負電荷」と略同一である。本発明において「所望の核酸の負電荷」とは、核酸を構成するヌクレオチド間に存在するリン酸基の数を意味する。核酸の負電荷の数値は、核酸のリン酸基、核酸のヌクレオチド間リン酸基、核酸のヌクレオチド間リン含有基(リン酸基、ホスホロチオエイト基)の数に等しい。
【0033】
「コラーゲンの会合体形成を抑制する物質」とは、コラーゲンの会合体形成が主としてコラーゲン分子中の塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸の荷電によって生じることを考慮し、これらの静電的相互作用を抑制する物質およびコラーゲン分子を規則正しく会合させない物質が挙げられる。前者としては塩類、アミノ酸類、尿素であり、後者としてはシュクロース等の糖類およびアルギニンが挙げられる。
本発明の複合体粒子は、本発明の核酸導入促進剤に含有させることができる。
【0034】
4)医療用具または細胞培養器具
本発明の第4の態様は、本発明の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具または細胞培養器具である。
本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、そこへ標的細胞を接触させると、標的細胞の上から本発明複合体粒子を滴加するよりも、核酸の導入効率が向上する、即ち複合体粒子の固相塗布法が滴加法よりも導入効率の点で優れていることが見出された(以下の実施例6参照)。
【0035】
本態様における医療用具には人工臓器、より具体的には人工血管、血管を補強する医療用具ステントまたは人工心臓が含まれる。人工血管の場合、血管内側での血栓の成長を阻害および補体の活性化を抑制するには血管内皮細胞が人工血管の内側で増殖し、被覆する必要がある。そのために、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの細胞増殖因子をコードする核酸をコラーゲンに結合させた本発明の複合体粒子を人工血管に塗布しておけば、その血管内皮細胞が容易かつ迅速に増殖することが期待される。
所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具としては、細胞培養実験に通常用いられているシャーレ、フラスコ、96穴マイクロプレート等が挙げられる。本発明の複合体粒子を固相表面に塗布する場合、単位面積あたりに塗布する複合体粒子の量は細胞への核酸の導入量に大きく影響することが以下の実施例6にて示されている。従って単位面積あたりに塗布する複合体粒子の量も本発明の重要な要件である。
【0036】
本様態では具体的には次の発明が提供される。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子が塗布された医療用具または細胞培養器具、
(2)1平方センチメートルあたり0.1μg以上50μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(1)記載の医療用具または細胞培養器具、
(3)1平方センチメートルあたり0.5μg以上50μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(2)記載の医療用具または細胞培養器具、
(4)1平方センチメートルあたり1μg以上10μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(3)記載の医療用具または細胞培養器具、
(5)生体と等張の溶液に暴露した場合、長径が300nm〜300μmである複合体粒子が固相表面より遊離する前記(1)記載の医療用具または細胞培養器具、および
(6)生体と等張の溶液が塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液である前記(5)記載の医療用具または細胞培養器具。
【0037】
本態様を実施するに際して本発明の流通性は重要である。先に述べた通り、リポソームは用時調製が必要であり、流通性が極めて低い。一般にアデノウイルスも本態様のように固相表面に塗布された状態で長期間室温で流通することは困難と考えられている。しかし意外にも本願発明のようにアデノウイルスをコラーゲンと混合して固相表面に塗布、乾燥した場合、室温下7日後でも高い感染性を維持した。このことは本発明の医療用具または細胞培養器具が高い流通性を有していることを示している。
【0038】
5)所望の核酸を標的細胞に導入し、またはその発現効率を向上させる方法
上記のように、本発明の複合体粒子を使用すれば、所望の核酸の標的細胞への導入を促進させることができる。よって、本発明は第5の態様として、本発明の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための、または所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法を提供する。本発明において、「発現効率を向上させる」とは、所望の核酸の発現量を増大させ、または発現期間を延長させることを意味する。
【0039】
即ち、本態様では次の発明が提供される。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む上記の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための方法、
(2)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む上記の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法、
(3)発現量を増大させる、または発現期間を延長させるための、前記(2)記載の方法、および
(4)前記複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて標的細胞を培養することを特徴とする、前記(1)〜(3)までのいずれかに記載の方法。
【0040】
6)標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法
核酸の細胞への導入が促進される本発明に従えば、遺伝子またはタンパク質の標的細胞内での機能を容易に調べることができる。例えば、ヒトゲノムプロジェクトによって非常に多くの遺伝子が同定され、その塩基配列が明らかになった。しかしこれらの情報を実際に医療あるいは食品産業で生かすには、同定された遺伝子の機能を解明する必要がある。しかしながら同定された遺伝子の数は膨大であり、従来のように一つ一つの遺伝子からタンパク質を産生かつ精製して機能を調べる方法では、時間がかかりすぎて現実的でないことが明らかになってきている。従って、細胞内に機能を調べたい遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを導入して発現させることによってその遺伝子の機能を調べる方法、あるいは機能を調べたい遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞内に導入して遺伝子の発現を抑制することによってその遺伝子の機能を調べる方法が有用である。また、このように細胞の表現型によって遺伝子の機能を調べる場合、プラスミドDNAおよびアンチセンスDNAを細胞に導入する方法は、細胞に影響を極力与えない方法で行うことは必須である。従って細胞障害性の高いリポソームを用いることは、得られる情報にリポソームによる細胞障害の影響が加わることとなる。一方、本発明のコラーゲンは元来生体内に存在し、細胞と接触している物質であることから細胞への影響は極めて低く、遺伝子の機能をノイズなく測定することが可能である。具体的な測定方法としては、機能を解明したい遺伝子を発現するプラスミドDNA、アデノウイルスベクターあるいは機能を解明したい遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドとコラーゲンを混合し、複合体粒子を形成した後、培養プレート固相上に塗布、整列配置する。ここで使用する固相プレートは96穴のマルチウエルプレートや、さらにミクロなプレートなどである。塗布した複合体粒子を乾燥して固相上に固定した後、細胞を播種し、数日間プレート上で培養する。塗布された複合体粒子は塗布された部分に接着した細胞に効率的に導入され、機能を調べたい遺伝子を発現あるいはその発現を長期間抑制する。数日後、細胞の形態や細胞内での遺伝子発現の状態、あるいは細胞から産生されたタンパク質の種類や量を調べることによって標的とした遺伝子の機能を明らかにすることができる。本方法の特徴は固相上に塗布された複合体粒子が、塗布された部分に接着した細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることも挙げられる。すなわち細胞をウェルで区切って培養する必要がなく、ミクロプレート上で多数の遺伝子の機能を一度に解析することが可能となる。
【0041】
本態様では、次の発明が提供される。
(1)標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法、
(2)該遺伝子または該タンパク質をコードする核酸がプラスミドDNAであり、該核酸の発現レベルを調べる、前記(1)記載の方法、および
(3)該遺伝子または該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムであり、該遺伝子または該タンパク質の発現レベルを調べる、前記(1)記載の方法。
【0042】
7)疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法
核酸の細胞への導入が促進される本発明に従えば、遺伝子疾患、癌、AIDS、慢性関節リウマチ、生活習慣病など、正常な遺伝子を補ったり、遺伝子の欠陥を修復、修正すること処置できる様々な疾患を処置し得る核酸をスクリーニングすることができる。例えば、6)で記述したのと同じ方法で固相上に疾患の治療効果を調べたい核酸をコラーゲンと複合体粒子を形成させて塗布、乾燥して固定化し、この上で病態を呈した細胞を培養することにより、核酸が病態を呈した細胞に効率的に導入される。核酸の効果は、細胞の表現型の変化、細胞死、細胞の増殖、細胞内での遺伝子発現のパターン、産生されるタンパク質の種類や量により解析することができる。また、この核酸導入においても、導入ベクターによる影響を最小限に抑制すべきことは自明であり、コラーゲンを用いる本発明はノイズなく病態に対する核酸の効果を調べることができる。機能を調べたい核酸は微小な面積の細胞培養固相担体上に多数整列固定化することができることから、一度に多数の核酸を評価できることも本発明の特徴である。
【0043】
本態様では、次の発明が提供される。
(1)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法、
(2)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害すると期待される核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該核酸の該疾患に対する治療効果を調べる方法、
(3)該核酸が疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸、または疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する機能を有する核酸である前記(1)または(2)記載の方法、および
(4)疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸が該遺伝子をコードするプラスミドDNA、あるいは疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する機能を有する核酸がオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである前記(3)記載の方法。
【0044】
8)他の態様
この態様では、以下の発明が提供できる。
(1)所望の核酸をコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と共に細胞培養面に固定化した細胞培養器具;好ましくは核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該細胞培養器具;
(2)所望の核酸を含有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含むフィルムを細胞培養面に敷いた細胞培養器具;好ましくは所望の核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該細胞培養器具;
(3)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子を含有するフィルムを細胞培養面に敷いた細胞培養器具;
(4)核酸がライブラリ化されている前記(1)〜(3)記載の細胞培養器具;
(5)核酸がライブラリ化されているcDNAまたはオリゴヌクレオチドである前記4記載の細胞培養器具;
(6)ライブラリ化された核酸がそれぞれ隔てられた位置毎に分画されている前記(4)または(5)記載の細胞培養器具;
(7)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含有するフィルムであって、ライブラリ化された核酸がそれぞれ隔てられた位置毎に分画されているフィルム;好ましくは核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該フィルム;
(8)核酸がcDNAまたはオリゴヌクレオチドである前記(7)記載のフィルム;
(9)前記(7)または(8)記載のフィルムを細胞培養表面に敷いた前記(2)または(3)に記載の細胞培養器具;
(10)タンパク質発現用の前記(9)記載の細胞培養器具;
(11)遺伝子発現抑制用の前記(9)記載の細胞培養器具;
(12)細胞における任意の遺伝子の機能を調べる方法であって、該遺伝子のcDNAを含有した核酸を固定化した前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具上で細胞を培養し、細胞の増殖率、表現型、特定のタンパク質の産生量を調べることを特徴とする方法;
(13)細胞における任意の遺伝子の機能を調べる方法であって、該遺伝子の伝令RNAと相補な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを固定化した前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具上で細胞を培養し、細胞の増殖率、表現型、特定のタンパク質の産生量を調べることを特徴とする方法;および
(14)核酸を固定化した部分以外の細胞培養表面が、細胞が接着できない高い親水性あるいは疎水性表面である前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具。
【0045】
核酸を固相上で標的の細胞に導入する方法としては、上述のように核酸をコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と共にあるいは、核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と形成した複合体粒子として直接固定した細胞培養表面上で標的細胞を培養する方法がある。またこれら以外に、核酸を含有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含むフィルムあるいは複合体粒子を含有するフィルムを固相表面上に敷いてその上で標的細胞を培養する方法、および核酸を含有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体またはそれらの複合体粒子を含むアガロースやアルブミンから形成されるフィルムを用いる方法がある。
【0046】
本発明は多種類の核酸をコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体化して固相上に独立して整列配置(ライブラリ化)することにより、同時に同じ条件で細胞内での遺伝子の機能を調べることを可能にする。また、既にライブラリ化されたcDNAを含む核酸あるいはアンチセンスオリゴヌクレオチドを固相上に整列配置することで細胞レベルで遺伝子の機能を解析できる遺伝子発現ライブラリあるいは遺伝子発現抑制ライブラリを提供する。ライブラリ化されたcDNAを含む核酸はどのようなものでも良いが、例えばGene Storm pcDNA3.1 vector (In Vitrogen社)などが挙げられる。
【0047】
核酸を含む複合体を固相上に整列配置し、その上で細胞を培養して導入された遺伝子の機能を解析する場合、独立して配置した核酸がそれぞれ導入された細胞が互いに交じり合うことを避ける必要がある。これを防ぐ方法として、各核酸の配置部分をウェルで仕切る方法があり、1プレートあたり6ウェルから384ウェルまで仕切ることが可能である。また、これとは別にウェル以外に細胞が接着できない高い親水性あるいは高い疎水性を有する表面で細胞の核酸配置部分間の移動を妨げることができる。ここでいう高い親水性を有する表面とは、水との接触角が40度以下の表面であり、高い疎水性を有する表面とは、水との接触角が110度以上の表面である。また、核酸配置部分間の距離は播種する細胞が最も伸展した場合の長さ以上に保つ必要がある。このように核酸を固定化あるいは核酸を含むフィルムを配置する部分以外の細胞培養表面を高い親水性あるいは高い疎水性表面とすることで、細胞をウェルで仕切って培養する必要がなく、ミクロプレート上で多数の遺伝子の機能を一度に解析することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0049】
実施例1
プラスミドDNAとコラーゲンとの複合体の形成
繊維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2980-2984 (1987))を組み込んだプラスミドDNA(pCAHST-1: 7.9Kbp)を10μg/ml含む水溶液と200, 60, 20, 6, 2, 0.6, 0μgのアテロコラーゲン((株)高研)を含む中性水溶液とを等量混合し、アガロースゲル電気泳動で分析した。アガロースゲル電気泳動は水平型電気泳動ユニット(Mupid、(株)アドバンス)にて、TAE(トリス・酢酸)緩衝液中0.8%アガロースゲルを用いて行った。電気泳動後、エチジウムブロマイドでゲルを染色し、トランスイルミネーター上で撮影を行った。結果を図1に示す。pCAHST-1は10μg/ml以上の濃度のコラーゲン存在下では泳動されずウェルに残留した。この結果は5μg/mlのpCAHST-1が10μg/mlのコラーゲンと複合体を形成することを示している。
【0050】
同様に10μg/mlのpCAHST-1と100μg/mlのコラーゲンを等量、0.15M、0.2M、1.0Mの塩化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で混合し、電気泳動で分析した結果を図2に示す。pCAHST-1は100μg/mlのコラーゲン存在下でも1.0M塩化ナトリウムが共存すると泳動された。このことはpCAHST-1とコラーゲンが形成する複合体は静電的複合体であることを示している。
【0051】
また、0.15Mの塩化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中、10μg/mlのpCAHST-1とコラーゲンの複合体形成をヘパラン硫酸の有無で比較した。結果を図3に示す。ヘパラン硫酸が存在しない場合、5μg/mlのpCAHST-1は100μg/mlのコラーゲンによりすべて複合体を形成したが、ヘパラン硫酸存在下では300μg/mlのコラーゲン存在下でも複合体を形成していないpCAHST-1の存在が確認された。これはpCAHST-1と同様に負電荷を有するヘパラン硫酸が存在することによって、コラーゲンとの複合体形成にpCAHST-1とヘパラン硫酸の競争反応が生じたことを示しており、pCAHST-1とコラーゲンが静電的複合体を形成することを示唆している。
【0052】
実施例2
複合体の顕微鏡観察結果
200μg/mlのpCAHST-1水溶液と0, 20, 200, 1000μg/mlのアテロコラーゲン水溶液を等量混合し、得られた混合液にPicoGreen dsDNA Quantitation Reagent (Molecular Probes)を添加してpCAHST-1を染色して蛍光顕微鏡で観察した。得られた結果を図4に示す。混合後のコラーゲン濃度が500μg/ml(図中、コラーゲン0.05%)の場合、主として長径1mmを超える線維状複合体が観察されたが、コラーゲン濃度が100μg/ml(図中、コラーゲン0.01%)の場合、主として10〜100μmの粒子状複合体が、さらに10μg/ml(図中、コラーゲン0.001%)の場合には、主として10μm以下の微粒子状複合体が観察された。この結果は、混合時のプラスミドDNAとコラーゲンの濃度によって複合体の形状を制御できることを示している。また、この複合体は5℃に保管することで1週以上安定にその形状が保持された(図5)。この結果は、この複合体が長期間にわたって貯蔵することが可能であり、用時調製する必要がなく複合体の状態で流通できることを示している。
【0053】
実施例3
複合体による発現期間の延長効果
蛍光を発するタンパク質(EGFP)をコードするプラスミドDNA(pCMV-EGFP/ pEGFP-N1, クローンテック株式会社)200μg/mlを含有する水溶液と0.02%(w/w)のアテロコラーゲン水溶液を等量混合することにより、ゲル状製剤を調製した。
直径6cmの培養皿で培養したヒト胎児腎臓細胞株293細胞に無血清培地2ml存在下、調製したゲル状製剤を100μl(pCMV-EGFP10μg含有)添加した。添加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と製剤を除去し、10%の子牛血清を含む培地中で培養した。経時的に細胞を蛍光顕微鏡で観察し、EGFPの発現を観察した。対照として同量のpCMV-EGFPを含有するPBS溶液およびカチオニックリポソーム製剤とpCMV-EGFPの複合体を293細胞にそれぞれ添加した。
【0054】
得られた結果を図6に示す。pCMV-EGFPのゲル状製剤の場合、EGFPの発現が観察され、その発現は添加52日後までの長期間確認された。これに対し、pCMV-EGFPを含有するPBS溶液の場合にはEGFPの発現が観察されず、またカチオニックリポソーム製剤では、EGFPの発現は確認されたが、その発現は2日間という短期間であった。これらの結果は、プラスミドDNAをコラーゲンにて製剤化することでプラスミドDNAの発現効率を高めることができ、かつ発現を長期間持続させることができることを示している。
【0055】
この結果はプラスミドDNAとコラーゲンが形成した複合体が細胞内へのプラスミドDNAの移入を高め、かつ細胞内外でのプラスミドDNAの安定性を高め、細胞内で遺伝子の発現を長期化していることを示している。特定の理論にとらわれるものでないが、系中に複合体が存在しない状態においても発現が長期間持続されることは、複合体が洗浄にて除去されない程度に細胞と相互作用しているか、あるいは複合体として細胞内に取りこまれることが考えられる。
【0056】
実施例4
複合体の組成におけるプラスミドDNA導入効率に対する効果
以下の表1に示す各種組成の複合体を、プラスミドDNAとしてpCMV-EGFPを用いて調製した。
【表1】

6穴培養皿で培養した293細胞に無血清培地1ml存在下、調製した複合体50μlを滴加した。滴加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と複合体を除去し、10%牛胎児血清(FBS)を含む培地と培地交換した。20日間経時的に細胞を蛍光顕微鏡で観察し、EGFPの発現を観察した。
【0057】
結果は、EGFG-3複合体 > EGFG-2複合体 > EGFG-4複合体 = EGFG-5複合体の順で導入効率が高かった。EGFG-1では導入は確認されなかった。この結果はプラスミドDNAがアテロコラーゲンと複合体を形成することでプラスミドDNAの発現効率が高まること、さらに等量のプラスミドDNAを含有する複合体でもアテロコラーゲンの含有量によって発現効率が異なることを示している。
【0058】
実施例5
プラスミドDNA導入効率に対するプラスミドDNA量の影響
実施例4にて最も導入効率が高かったEGFG-3複合体(アテロコラーゲン0.01%、pCMV-EGFP100μg/ml)0、10、50、100、250および500μlを、6穴培養皿で培養した293細胞に無血清培地1ml存在下、滴加した。滴加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と複合体を除去し、10%FBS(10%牛胎児血清を含む)培地と培地交換した。6日間経時的に細胞を蛍光顕微鏡で観察し、EGFPの発現を観察した。
プラスミドDNA量を増大させると導入効率も向上した。具体的データは次の通りである。表中、発現効率は、顕微鏡で観察できる決まった区画に存在する全細胞数を計数し、その中でEGFPを発現して蛍光を発する細胞数を計数して算出した。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例6
複合体による発現期間の延長効果における複合体滴加法と固相塗布法の比較
まず、最も導入効率が高かったEGFG-3複合体(アテロコラーゲン0.01%、pCMV-EGFP100μg/ml)の組成に基づき、コラーゲンおよびプラスミドDNA組成の最適化を図りつつ、滴加法および固相塗布法による発現期間を比較した。
(1)以下の表3に示す各種アテロコラーゲン濃度組成の複合体を、プラスミドDNAとしてpCMV-EGFPを用いて調製した。
【0061】
【表3】


6穴培養皿で培養した293細胞に無血清培地存在下、調製した複合体を滴加した。滴加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と複合体を除去し、10%FBSを含む培地と培地交換した。7日後に蛍光顕微鏡で観察してEGFPを発現している細胞数を計数した。結果を図7に示す。またEGFG-3B、3D、3Eについては、発現したEGFPの蛍光強度を測定した(Array Scan II System, Cellomics社)。各サンプルの相対的な蛍光強度を図8に示す。
【0062】
6穴培養皿に調製した複合体250μl/ウェルを塗布し、30分間風乾した。次いで、10%FBSを含有する培地中、293細胞(4‐5x105細胞/ウェル)を加え、37℃で一晩培養し、7日後に蛍光顕微鏡で観察してEGFPを発現している細胞数を計数した。結果を図9に示す。
滴加法による結果を示す図7および固相塗布法による結果を示す図9は、コラーゲン濃度が導入効率に影響を与えること、および固相塗布法が滴加法よりも導入効率の点で優れていることを示している。
【0063】
(2)以下の表4に示す各種プラスミドDNA濃度組成の複合体を調製し、上記同様に滴加法と固相塗布法における導入効率を比較した。
【表4】

滴加法による結果を図10に、固相塗布法による結果を図11に示す。また、固相塗布法により得られた各サンプルでのEGFPの相対的な蛍光強度を図12に示す。これらの結果は、プラスミドDNA濃度の比率が導入効率に影響を与え、特に固相塗布法ではEGFPの発現量とプラスミド、DNAの濃度の間に正の相関があること、およびここでも固相塗布法が滴加法よりも導入効率の点で優れていることを示している。
【0064】
実施例7
固相塗布法のスクリーニングへの応用
線維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2890-2984 (1987)に記載)の4196bから4216bまでの配列に相補的な配列を有したホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチド(5’-CTCGTAGGCGTTGTAGTTGT-3’, 分子量:約6500、配列番号2) (5)(サワデー株式会社)10μMと0.05%アテロコラーゲン液を混合して複合体を形成した。得られた複合体を細胞培養用96穴プレートの底部に塗布し風乾し、複合体が底部に塗布された細胞培養器具を得た。同様にHST-1遺伝子と同じ配列を有するホスホロチオエート型センスオリゴヌクレオチド(5’-GAGCATCCGCAACATCAACA-3’、配列番号3) (1)およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列をスクランブルさせた配列(5’-AGTCGCATGCACACAACACA-3’、配列番号4) (2)および3種のランダムな配列(5’-GACCATCGTCGATTCCAGT-3’、配列番号5) (3)、(5’-CATGAACATCCTGAGCATCC-3’配列番号6) (4)、(5’-GTTCACGAAGAAAGAAGGCT-3’、配列番号7) (6)を有するホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチドをそれぞれコラーゲンと複合体を形成させてプレートの底部に塗布、乾燥させた。これらのオリゴヌクレオチドを塗布したプレートにHST-1が過剰に発現することによって増殖が促進されているNEC8細胞とHST-1以外の遺伝子で増殖が促進されているHepG2細胞を0.5x105個/ウェルの濃度で播種し、4日間培養した。培養後、細胞の増殖抑制をテトラカラーワン細胞増殖アッセイ試薬(生化学工業)を用いて測定した。具体的には着色したサンプル液を650nmの吸光度を対照として450nmの吸光度を測定した(図13)。
【0065】
結果、HST-1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドをコラーゲンと複合体を形成させて塗布した場合にのみ、NEC8細胞で増殖阻害効果が認められた(図13−5)。一方、HST-1に対するセンスオリゴヌクレオチドをコラーゲンと複合体を形成してプレート底部に塗布した場合には、阻害効果は認められなかった(図13−1)。同様にアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列をスクランブルさせた配列(図13−2)およびランダムな配列(図13−3、4、6)を有するホスホロチオエート型オリゴヌクレオチドをコラーゲンと複合体を形成させて塗布した場合には、阻害効果は認められなかった。この結果は、アンチセンスオリゴヌクレオチドをアテロコラーゲンと複合体を形成させて固相上に塗布し、その固相上で細胞を培養すれば、カチオニックリポソームやカチオン性脂質など通常生体内には存在しない遺伝子導入試薬を用いることなく細胞の増殖に関与する遺伝子をスクリーニング出来ることを示している。更にこの結果は、本方法によって遺伝子導入試薬が細胞に与える障害によるノイズなしに、かつ少量の細胞およびオリゴヌクレオチドで高感度に遺伝子機能を解析できることを示している。
【0066】
実施例8
アテロコラーゲンによるアデノウイルスベクターの風乾保存
(固相塗布法による調製)
1x108 pfu/mlアデノウイルスベクターAdCMVEGFP(K. Aoki, et al., Mol. Ther. (2000) 1 (6): 555-565)のDMEM溶液中溶液10μlを、アテロコラーゲンのPBS(−)中2%溶液5μlと混合した。この混合物50μlを24ウェル培養プレート(非被覆)(コーニング社)に添加し、冷セットのドライヤーにより室温にて15分間風乾し、固相塗布を行った。
【0067】
(ウイルスの保存安定性試験)
得られた培養プレートを室温に放置しつつ、放置後1日、7日および14日目にヒト肝癌細胞株HepG2細胞を2x105細胞/ウェルで加え、それぞれの2日後にGFPの発現量を蛍光顕微鏡によって確認した。対照として、アデノウイルスベクターのみ、およびアテロコラーゲンのみを培養プレートに固相塗布し、同様に実験を行った。
得られた結果を表5に示す。
【0068】
【表5】


表5は、保存後14日においてもアデノウイルスベクターが生育していることを示しており、これは本発明の固相塗布法によって、簡便に流通可能なアデノウイルスベクターを用いたスクリーニング用プレートを提供できることを示している。
【0069】
実施例9
固相塗布法での遺伝子導入効果のアデノウイルス用量依存性
4x104, 4x105, 4x106, 4x107 pfu/mlのアデノウイルスベクターAdCMVEGFP (K. Aoki, et al. Mol. Ther. (2000) 1 (6): 555-565)のDMEM溶液を160μg/mlのアテロコラーゲン溶液と等量混合した。この混合物は4℃で長期間活性を低下することなく保存できた。混合物50μlを96ウェル培養プレート(非被覆、コーニング社)に添加し、風乾し固相塗布を行った。このプレートは活性を低下させることなく、少なくとも2週間から4週間の間保存可能である。得られた培養プレートに胚幹細胞(ES細胞)を播種し、3日後にGFPの発現を蛍光顕微鏡で確認すると共に、蛍光強度を測定した。結果、GFPの蛍光強度はアデノウイルスの投与量と正の相関があった(図14)。この結果は、本発明がアデノウイルスを用いたES細胞のハイスループットスクリーニングに有用な技術であり、アデノウイルスとコラーゲンが形成した複合体を塗布したハイスループットスクリーニング用プレートが提供できることを示している。
【0070】
実施例10
プラスミドDNAを含有する複合体の組成と平均長径との関係
10℃以下に冷却した蛍光を発するタンパク質(EGFP)をコードするプラスミドDNA(pCMV-EGFP/pEGFP-N1、4.7kbp、クローンテック株式会社)200μg/mlを含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液(PB)、塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液(PBS)と、10℃以下に冷却した0.002〜0.2%(w/w)のアテロコラーゲン((株)高研)を含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液、塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液をそれぞれ10℃以下で等量混合し、一晩10℃以下で静置することによりゲル状製剤を調製した。得られたゲル状製剤を70μm、あるいは10μmの孔径を有するフィルターを通過させ、整粒したゲル状製剤を調製した。
【0071】
得られた製剤にPicoGreen dsDNA Quantitation Reagent (Molecular Probes)を添加してpCMV-EGFPを染色し蛍光顕微鏡で観察することにより、複合体の長径を測定した。同様にHST-1の分泌シグナルペプチドとインターロイキン2をコードするプラスミドDNA(pCMV-HST-1-IL-2、6.2kbp)とアテロコラーゲンを混合してゲル状製剤を得、複合体の長径を測定した。また、得られたゲル状製剤をアガロースゲル(トリス・酢酸緩衝液、0.8%アガロースゲル)で電気泳動することによって、複合体を形成したプラスミドDNAと形成しなかったプラスミドDNAを分離した。複合体を形成しなかったプラスミドDNAのバンドをエチジウムブロマイドで染色し、蛍光強度をFluor-S-Multi Imager(BIO-RAD)を用いて測定した。濃度既知のプラスミドDNAを電気泳動したバンドの蛍光強度から得られる検量線を基に、複合体を形成しなかったプラスミドDNA量を定量し、複合体に含まれるDNAの負電荷量とコラーゲン分子量の比を算出した。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】

塩を含有しない水を溶媒として複合体を調製した場合、pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にコラーゲン濃度が0.05%以上の場合、平均長径が122μm以上の複合体が得られた。またコラーゲン濃度が0.005%〜0.02%の時には平均長径6.1μm〜53μmの複合体が、コラーゲン濃度が0.001%の時には平均長径10μm以下の複合体が得られた。この結果は、塩を含有しない水を溶媒とした場合、混合時のプラスミドDNAとコラーゲンの濃度の調節によって複合体の形状を制御できることを示している。特にコラーゲンの濃度を高くする、即ちコラーゲンの分子数を増加すると複合体の形状は大きくなる傾向があったが、これは複合体の長径の増大が専らコラーゲン分子による会合体形成に依存することを示している。
【0073】
この結果は、実施例2においてpCAHST-1を用いて複合体を調製した結果と一致している。使用した各プラスミドDNAのサイズはそれぞれ、pCAHST-1:7.9kbp、pCMV-EGFP:4.7kbp、pCMV-HST-1-IL-2:6.2kbpと相互に異なっている。このことも、プラスミドDNAのサイズは、形成される複合体の形状に影響しないことを示している。
【0074】
他方、0.1Mリン酸緩衝液および塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液を溶媒として複合体を調製した場合、コラーゲン濃度が0.001%〜0.1%の時、複合体平均長径が3.4μm以下〜29μmの複合体が得られ、100μmを超えるサイズの複合体は得られなかった。これは塩の存在によってコラーゲンの会合体形成が抑制されるためと考えられ、コラーゲンの会合体形成を抑制する物質の存在下複合体を調製することで100μm以下の平均長径を有する複合体をコラーゲンの濃度に依らず調製できることが示された。
また、一旦プラスミドDNAとコラーゲンを混合して得られたゲル状製剤を70μmあるいは10μmの孔径を有するフィルターでろ過することによって、より平均長径の小さい複合体に整粒して得ることができた。
【0075】
図15にプラスミドDNA1分子に結合したコラーゲンの分子数と複合体の平均長径の関係を示した。塩を含有しない水を溶媒とした場合、pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にプラスミドDNAに結合するコラーゲン分子数が多くなるに従って複合体の平均長径が増大する傾向が見られた。一方、0.1Mリン酸緩衝液、塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液を溶媒として複合体を調製した場合には、そのような傾向は見られず、水を溶媒とした場合には平均長径が100μmを超えるコラーゲン分子がプラスミドDNAと複合体を形成した場合でも平均長径は50μmを超えなかった。これは先に述べたように水を溶媒とした場合、プラスミドDNAとコラーゲンが複合体を形成するのに伴ってコラーゲン会合体の形成が進展するが、この反応は専ら会合体の長軸を延伸する反応であるためと考えられる。一方、塩が存在する場合には、コラーゲン分子がプラスミドDNAと結合して形成されたコラーゲン会合体が塩の存在によって充分に会合体の長軸方向に延伸できないため、微細な会合体がプラスミドDNAに多数結合する構造をとるためと考えられる。他方、コラーゲンは適当な塩濃度において微細な会合体を形成することが知られていることから、一部のコラーゲンはプラスミドDNAと混合する前に予め微細な会合体を形成し、プラスミドDNAと微細なコラーゲン会合体が結合して複合体を生成したと考えられる。このことは、予めコラーゲンを微細会合体化してプラスミドDNAと混合することで、平均長径50μm以下の複合体を生成できることを示している。
【0076】
今回得られた結果をプラスミドDNAのサイズに依らず一般化して解析するため、複合体中のコラーゲン1分子あたりのプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数を算出した。コラーゲン1分子あたりのプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数と複合体の平均長径の関係を図16に示した。コラーゲン1分子あたり、プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数が少なくなるに従って複合体の平均長径が増大する傾向が見られた。
【0077】
図16と表6を総合すると次のことが導かれる。ヌクレオチドモノマー数が95以下になった場合、平均長径が120μmを超える複合体が得られた。このことは、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数の減少が複合体中のプラスミドDNAに対するコラーゲン分子数の増大を示し、よってコラーゲン1分子あたりのプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数を96以上に保つことによって平均長径が120μm以下の複合体を得ることができることを意味している。一方、複合体の最少単位はコラーゲン1分子とプラスミドDNA1分子が形成する複合体である。コラーゲン1分子と複数のプラスミドDNAが複合体を形成することは、プラスミドDNA間の負電荷による反発と立体的な障害により困難である。従って、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数が最大になるのは、コラーゲンとプラスミドDNAが各々1分子で複合体を形成した場合であり、プラスミドDNAが有するヌクレオチドモノマー数により規定される。
【0078】
実施例11
オリゴヌクレオチドを含有する複合体の組成と平均長径との関係
線維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2890-2984 (1987)に記載)の4196bから4216bまでの配列に相補的な配列を有したホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチド(5’-CTCGTAGGCGTTGTAGTTGT-3’, 分子量:約6500、配列番号8)(エスペック株式会社)を2.0μM〜40.0μMの濃度で含有し、10℃以下に冷却した水溶液、0.1Mリン酸緩衝液(PB)と、10℃以下に冷却した0.02〜3.0%(w/w)のアテロコラーゲン((株)高研)を含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液をそれぞれ10℃以下で等量混合し、10℃以下で一晩静置するとによりゲル状製剤を調製した。得られたゲル状製剤中でコラーゲンと複合体を形成したオリゴヌクレオチド量は、ゲル状製剤を5℃で1時間15万回転で遠心して複合体を沈殿させ、上澄み液中の遊離したオリゴヌクレオチド量をHPLC(カラム:Puresil C18 5 (Waters), 移動相:1mMのEDTA, 5mMのテトラブチルアンモニウムを含有する0.1M酢酸アンモニウム(pH 7.0)中のアセトニトリル含量を35分間で24.5%から35%に変化, 流速:1ml/min, 検出波長:260nm)で定量して算出した。得られた製剤に単鎖核酸蛍光染色試薬YOYO (Molecular Probes)を添加してオリゴヌクレオチドを染色し蛍光顕微鏡で観察することにより、複合体の長径を測定した。結果を表7に示す。
【0079】
【表7】

プラスミドDNAを用いた実施例10と同様に、オリゴヌクレオチドをコラーゲンと混合することでオリゴヌクレオチドとコラーゲンの複合体が得られた。プラスミドDNAの場合と異なり、塩を含有しない水を溶媒とした場合、0.1Mリン酸緩衝液を溶媒とした場合共に、コラーゲンの濃度およびオリゴヌクレオチドの濃度によって複合体の平均長径に顕著な変化は見られなかった。これはオリゴヌクレオチドがプラスミドDNAに比べて低分子であるため、コラーゲンの会合体形成を阻害するためと考えられる。
【0080】
図17に混合時のオリゴヌクレオチドとコラーゲンの分子数の比と複合体中でコラーゲン1分子に結合したオリゴヌクレオチドの分子数の関係を示した。水、リン酸緩衝液のいずれを溶媒として用いた場合でも、混合時のコラーゲン分子数に対するオリゴヌクレオチド分子数が高いほど、形成される複合体中でコラーゲン1分子に結合したオリゴヌクレオチド分子数が高くなる傾向があった。また、コラーゲン1分子に結合する最大のオリゴヌクレオチド分子数は溶媒によって異なり、水を溶媒とした場合6分子、リン酸緩衝液を溶媒とした場合には3分子であった。
【0081】
コラーゲンの分子量(30万)はオリゴヌクレオチドの分子量(約6,500)に比べて非常に大きく、複合体の形状は専ら複合体を形成するコラーゲン分子数に依存することから、平均長径が同じ複合体中のコラーゲン分子数はほぼ同数である。従って平均長径が同じ複合体でもコラーゲン1分子に結合したオリゴヌクレオチド数に依存して、複合体に含有されるオリゴヌクレオチド分子数が異なる。細胞にオリゴヌクレオチドを導入する際、個々の複合体が細胞と接触してオリゴヌクレオチドを導入するため、オリゴヌクレオチド分子の含量が高い複合体の方が効率的に細胞にオリゴヌクレオチドを導入できる。従ってコラーゲン1分子あたりのオリゴヌクレオチド分子数が高い複合体がより望ましく、一般化すればコラーゲン1分子あたりに結合するヌクレオチドモノマー数が高いものがより望ましい。
【0082】
実施例12
オリゴヌクレオチドを含有する複合体を塗布した細胞培養器具
実施例11で調製したゲル状製剤(11-3、実施例7における製剤の組成)50μlを96穴マイクロプレートの底部に滴下し、冷風を直接吹き付ける方法(室温、2時間)あるいはデシケーター中にシリカゲルと共に静置する方法(室温、2日間)で乾燥し、複合体を細胞培養表面に塗布した細胞培養器具を調製した。細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液(PBS)100μlを添加し、直ちに軽くピペッティングして液を採取した。また、細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液100μlを添加し、37℃で一晩静置した後、軽くピペティングして液を採取した。得られた液10μlに単鎖核酸蛍光染色試薬YOYO (Molecular Probes)2μlを添加してオリゴヌクレオチドを染色し、細胞培養器具表面から遊離した複合体を蛍光顕微鏡で観察した。得られた蛍光顕微鏡像を図18に示した。採取したすべての液で、50μm以下の長径を有する複合体が確認された。これはPBSに暴露することで、細胞培養器具表面から複合体が遊離されることを示している。遊離した複合体の形状は、乾燥方法、PBSへの暴露の状態に関わらず、細胞培養器具表面に塗布する前と変化がなかった。この結果は、乾燥方法に依らず複合体が形状を保持した状態で細胞培養器具表面で保持されたことを示しており、更に一般に細胞培養に使用される37℃という温度条件においても複合体の形状が変化しないことを示している。
【0083】
実施例13
プラスミドDNAを含有する複合体を塗布した細胞培養器具
実施例10で調製したゲル状製剤(10-3;実施例6にて良好な導入効率が確認された組成)50μlを96穴マイクロプレートの底部に滴下し、冷風を直接吹き付ける方法(室温、2時間)あるいはデシケーター中にシリカゲルと共に静置する方法(室温、2日間)で乾燥し、複合体を細胞培養表面に塗布した細胞培養器具を調製した。細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液(PBS)100μlを添加し、直ちに軽くピペッティングして液を採取した。また、細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液100μlを添加し、37℃で一晩静置した後、軽くピペティングして液を採取した。得られた液10μlにPicoGreen dsDNA Quantitation Reagent (Molecular Probes) 2μlを添加してプラスミドDNAを染色し、細胞培養器具表面から遊離した複合体を蛍光顕微鏡で観察した。得られた蛍光顕微鏡像を図19に示した。採取したすべての液で、100μm以下の長径を有する複合体が確認された。これはPBSに暴露することで、細胞培養器具表面から複合体が遊離されることを示している。遊離した複合体の形状は、乾燥方法、PBSへの暴露の状態に関わらず、細胞培養器具表面に塗布する前と変化がなかった。この結果は、乾燥方法に依らず複合体が形状を保持した状態で細胞培養器具表面で保持されたことを示しており、更に一般に細胞培養に使用される37℃という温度条件においても複合体の形状が変化しないことを示している。
【0084】
実施例14
複合体を塗布した細胞培養器具による遺伝子導入
6ウェルの細胞培養プレートに実施例10で調製したpCMV-EGFPを含有したゲル状製剤10-1、10-4、10-7を300μl添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥してpCMV-EGFを含有した複合体が塗布された細胞培養器具を調製した。対照群として100μg/mlのpCMV-EGFPを含有する水溶液300μlをプレート上に添加し、同様に乾燥させた。各ウェルに293細胞7.5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。培養開始後、4、5日おきに培地を新鮮な培地に交換した。細胞播種11日後、蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
同様に6ウェルの細胞培養プレートに実施例10で調製したpCMV-HST-1-IL-2を含有したゲル状製剤10-13〜22,24を300μlあるいは500μl添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥してpCMV-HST-1-IL-2を含有した複合体が塗布された細胞培養器具を調製した。対照群として100μg/mlのpCMV-HST-1-IL-2を含有する水溶液、PB液、PBS液300μlあるいは500μlをプレート上に添加し、同様に乾燥させた。
1)293細胞へのプラスミドDNAの導入
【0085】
ゲル状製剤300μlを塗布した各ウェルに293細胞7.5x104個を播種し、10-13〜19については10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。細胞播種8日後に培地を交換し、11日後培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した(Quamtikine human IL-2 (R&D Systems))。10-20〜22については、DMEM培地を加えて37℃で培養一晩培養し、翌日培地を10%FBSを含むDMEM培地に交換して37℃で培養した。細胞播種8日後、11日後に培地を交換し、15日後培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した。また、10-20,21,24については、10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。細胞播種8日後に培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した。
【0086】
2)NIH3T3細胞へのプラスミドDNAの導入
10-14〜17を500μl塗布したウェルにNIH3T3細胞5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。細胞播種8日後に培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した。
上記1)および2)にて得られた結果を表8と表9にまとめた。pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にコラーゲンと複合体を形成して細胞培養器具に塗布することによって遺伝子を効率的に293細胞並びにNIH3T3細胞に導入できた。この結果は、本発明の複合体による遺伝子導入促進効果がプラスミドDNAの種類、細胞種および培養液中の血清の有無に依らないことを示している。また、プラスミドDNAの場合、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数が1112以下で複合体平均粒子径が151μm以下の複合体を塗布した場合、優れた導入効率および遺伝子発現が確認された。
【0087】
【表8】

【0088】
【表9】

【0089】
実施例15
複合体添加による細胞への遺伝子導入
6ウェルの細胞培養プレートに293細胞5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で培養した。播種3日後実施例10で調製したpCMV-EGFPを含有したゲル状製剤10-1、10-4、10-7、10-8、10-9、10-10と対照として100μg/mlのpCMV-EGFPを含有する水あるいはPB溶液をそれぞれ300μl添加し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で一晩培養した。翌日、新鮮な培地に交換して、10-1、10-4、10-7については13日間、10-8、10-9、10-10については5日間培養後、蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測した。
【0090】
同様に6ウェルの細胞培養プレートに293細胞7.5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で培養した。播種2日後実施例10で調製したpCMV-HST-1-IL-2を含有したゲル状製剤10-20、10-21と対照として100μg/mlのpCMV-HST-1-IL-2を含有するPB溶液をそれぞれ300μl添加し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で一晩培養した。翌日、新鮮な培地に交換して5日間培養後、培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した(Quamtikine human IL-2 (R&D Systems))。
得られた結果を表10、11、12にまとめた。pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にコラーゲンと複合体を形成して細胞に添加することによって遺伝子を効率的に細胞に導入できた。本実施例のように複合体の平均長径が53μm以下の場合、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数が2406以下、更には701以下の複合体を細胞に添加した場合、優れた導入効率及び遺伝子発現が確認された。
【0091】
【表10】

【0092】
【表11】

【0093】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の複合体は、所望の核酸をコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体化して保護、安定化し、2)体内に投与することによって所望の核酸を効率よく細胞に導入でき、3)特別の遺伝子導入試薬を使わずとも、核酸の発現および抑制が可能である。また、1)DNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ウイルスベクターを保護、安定化し、2)プレート上に塗布し、乾燥した状態で長期間保存が可能であり、3)その上に細胞を播くことで特別な遺伝子導入試薬を使わずとも、遺伝子の発現が可能であり、4)その対象となる核酸の種類および固定化される形態を選ばず、また、5)プラスミドDNAを用いた場合、発現期間が非常に延長されるという特性から、種々の応用が可能である。
本発明によれば、細胞の増殖、細胞の形態またはサイトカインやレセプターの発現量などを測定することでアンチセンスオリゴヌクレオチドにより発現が抑制された遺伝子またはタンパク質の機能を容易に解明することができる。加えて、コラーゲンと複合体を形成させてプレート上に塗布できるのはアンチセンスオリゴヌクレオチドに限られず、リボザイムの場合にはアンチセンスオリゴヌクレオチドと同様のスクリーニングが可能であり、さらにプラスミドDNAあるいはアデノウイルスの場合は特定の遺伝子の発現による細胞の変化を測定して遺伝子またはタンパク質の機能を解析することが可能となる。特に本複合体を構成しているコラーゲンあるいはコラーゲン誘導体は、細胞に障害を与えないことが知られていることから、本発明の複合体を用いたスクリーニングでは、一般の遺伝子導入剤を用いた時に生じる非特異的な細胞への影響を極力排した遺伝子機能の解析を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】一定濃度のプラスミドDNAと種々の濃度のアテロコラーゲンとの静電的相互作用を示すアガロースゲル電気泳動結果の、図面に代わる写真である。
【図2】プラスミドDNAとアテロコラーゲンとの静電的相互作用に対する塩化ナトリウムの影響を示すアガロースゲル電気泳動結果の、図面に代わる写真である。
【図3】プラスミドDNAとアテロコラーゲンとの静電的相互作用に対するヘパラン硫酸の影響を示すアガロースゲル電気泳動結果の、図面に代わる写真である。左写真はヘパラン硫酸不存在下、右写真はヘパラン硫酸存在下での結果である。
【図4】各種濃度のアテロコラーゲンとのプラスミドDNAの複合体の形状を表す顕微鏡写真である。
【図5】各種濃度のアテロコラーゲンとのプラスミドDNAの複合体における1週間保存後の形状を表す顕微鏡写真である。
【図6】アテロコラーゲンのゲル状製剤、カチオニックリポソーム製剤およびPBS溶液におけるプラスミドDNAの遺伝子発現期間の比較を示すグラフである。
【図7】コラーゲン濃度の異なる複合体と滴加法によるトランスフェクション7日後におけるプラスミドDNA導入効率との関係を示すグラフである。
【図8】コラーゲン濃度の異なる複合体における7日後におけるプラスミドDNA導入効率を蛍光強度にて示すグラフである。
【図9】コラーゲン濃度の異なる複合体と固相塗布法によるトランスフェクション7日後におけるプラスミドDNA導入効率との関係を示すグラフである。
【図10】プラスミドDNA濃度の異なる複合体と滴加法によるトランスフェクション7日後におけるプラスミドDNA導入効率との関係を示すグラフである。
【図11】プラスミドDNA濃度の異なる複合体と固相塗布法によるトランスフェクション7日後におけるプラスミドDNA導入効率との関係を示すグラフである。
【図12】固相塗布法によるトランスフェクション7日後におけるプラスミドDNA導入効率を蛍光強度にて示すグラフおよびその蛍光を示す顕微鏡写真である。
【図13】本発明方法における細胞増殖抑制を示すグラフである。
【図14】固相塗布法にてアデノウイルスが用量依存的に導入されていることを示すグラフおよびその蛍光を示す顕微鏡写真である。
【図15】プラスミドDNA1分子に結合したコラーゲンの分子数と複合体の平均長径の関係を示すグラフである。
【図16】コラーゲン1分子あたりの所望の核酸のヌクレオチドモノマー数と複合体の平均長径の関係を示すグラフである。
【図17】混合時におけるオリゴヌクレオチドとコラーゲンの分子数の比と複合体におけるコラーゲン1分子に結合したオリゴヌクレオチドの分子数との関係を示すグラフである。
【図18】本発明の細胞培養器具の表面から遊離したオリゴヌクレオチドを含む複合体を蛍光顕微鏡で観察して得られた蛍光顕微鏡写真である。
【図19】本発明の細胞培養器具の表面から遊離したプラスミドDNAを含む複合体を蛍光顕微鏡で観察して得られた蛍光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する、標的細胞への核酸導入促進剤。
【請求項2】
コラーゲンまたはコラーゲン誘導体が所望の核酸と複合体を形成して含有されている、請求項1記載の標的細胞への核酸導入促進剤。
【請求項3】
該複合体が粒子である、請求項2記載の核酸導入促進剤。
【請求項4】
該複合体粒子の長径が300nm〜300μmである、請求項2記載の核酸導入促進剤。
【請求項5】
所望の核酸がプラスミドDNAである、請求項2から4までのいずれか記載の核酸導入促進剤。
【請求項6】
該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である、請求項5記載の核酸導入促進剤。
【請求項7】
所望の核酸がオリゴヌクレオチドである、請求項2から4までのいずれか記載の核酸導入促進剤。
【請求項8】
該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200である、請求項7記載の核酸導入促進剤。
【請求項9】
コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子。
【請求項10】
長径が300nm〜300μmである、請求項9記載の複合体粒子。
【請求項11】
所望の核酸がプラスミドDNAである、請求項9または10記載の複合体粒子。
【請求項12】
該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である、請求項11記載の複合体粒子。
【請求項13】
所望の核酸がオリゴヌクレオチドである、請求項9または10記載の複合体粒子。
【請求項14】
該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200である、請求項13記載の複合体粒子。
【請求項15】
コラーゲンの会合体形成を抑制する物質を含有する溶液中にて、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを混合することを特徴とする、請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を調製する方法。
【請求項16】
請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具。
【請求項17】
請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具。
【請求項18】
請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための方法。
【請求項19】
請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法。
【請求項20】
標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法。
【請求項21】
ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−67717(P2008−67717A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299431(P2007−299431)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【分割の表示】特願2003−506939(P2003−506939)の分割
【原出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(591071104)株式会社高研 (38)
【Fターム(参考)】