説明

核酸抽出用試薬、核酸抽出用試薬キットおよび核酸抽出方法

【課題】 血液や植物種子などのように糖質や色素の含有量が多く、目的とする核酸の含有量が極めて少ない試料であっても、当該試料から高純度の核酸を抽出することができる核酸抽出用試薬、核酸抽出用試薬キットおよび核酸抽出方法を提供する。
【解決手段】 本発明の核酸抽出用試薬は、核酸を含む試料を固相担体に接触させることにより、当該固相担体の表面に当該試料中の核酸を吸着させると共に、この固相担体の表面に核酸を保持した状態で、当該固相担体から不純物を除去するために用いられる核酸抽出用試薬であって、カオトロピック物質と、ポリエチレングリコールラウリルエーテルおよびポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤とを含有してなり、当該界面活性剤の割合が5質量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば人などの血液やウィルスに感染した植物の種子などの核酸を含む試料から核酸を抽出するための核酸抽出用試薬、核酸抽出用試薬キットおよび核酸抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原性を持つウィルスや微生物を検出するために、遺伝子工学的手法を用いたNAT(Nucleic Acid Amplification)検査法が取り入れられている。このNAT検査法は、ウィルスを構成する核酸を増幅してウィルスの有無を検出するため、感度および特異性が極めて高く、感染して間もない潜伏期間、すなわち宿主内において増殖が起こる手前の期間のように、ウィルスや微生物の数が少なく、従来の抗体検査法では検出が困難な期間(ウィンドウ期間)であっても、ウィルスを高感度に検出することが可能な方法として注目されている技術である。
而して、かかるNAT検査法においては、核酸を増幅させるためにポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)や、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR法)などが用いられており、不純物が存在するとこれらの反応が阻害される恐れがあるため、信頼性の高い検査を行うためには、可能な限り高純度の核酸を試料から抽出することが必要である。
【0003】
一般に、試料から核酸を抽出するためには、試料を破砕して混合液の状態とされる。この混合液中には、核酸以外にも、タンパク質、脂質、糖質等が含まれるため、この混合液から核酸が分離精製される。このような核酸を抽出するための古典的な方法としては、AGPC(Acid guanidinium Thiocyanate−Phenol−Chloroform Extraction)法が知られている(非特許文献1参照。)。然るに、このAGPC法においては、核酸を抽出するための試薬としてフェノールやクロロホルムなどの毒劇物を用いる点や、多検体の処理に適さない点など、安全性、迅速性等に問題がある。
【0004】
一方、試薬として毒劇物を用いることなしに核酸を抽出する方法としては、カオトロピック物質の存在下に、固相担体の表面上に核酸を特異的に吸着させる方法が知られている(特許文献1および非特許文献2参照)。この核酸抽出方法は、試薬の安全性の点やロボットを用いた自動化装置への応用が比較的容易である点において有用である。
このような核酸抽出方法において、高純度の核酸を抽出するためには、固相担体上に核酸以外の不純物をできるだけ吸着させないこと、固相担体上に吸着した核酸以外の不純物を、当該固相担体上に核酸を保持したまま除去することが肝要であり、前者の手段としては、試薬中の塩濃度を調節することによって、固相担体に対する吸着選択性を制御する方法、後者の手段としては、核酸が吸着した固相担体を、Tween20、Tween80、TritonX−100、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いて洗浄する方法が用いられている。
【0005】
しかしながら、このような核酸抽出方法においては、試料中に核酸以外の物質を大量に含む場合には、核酸以外の不純物を除くために洗浄工程を多数回繰り返すことが必要となるため、これらの洗浄工程において核酸自体も失われてしまう、という問題がある。
特に、血液や植物種子は、糖質や色素等の負電荷を持つ物質が多量に含まれており、これらの物質は、固相担体との親和性において核酸と同様の挙動を示すため、試薬中の塩濃度を調節する方法では、核酸のみを選択的に吸着させることができず、多量の不純物が固相担体上に吸着するため、更に多くの洗浄工程が必要である。
また、ウィルスに感染した血液や植物種子などからウイルスの核酸を抽出する場合には、一定量の試料中に含まれるウィルスの量が極めて微量であるため、大量の血液や種子を試料として用い、当該試料に含まれる微量の核酸を抽出することが必要となるが、このような場合には、固相担体に吸着する不純物も更に増大するため、核酸のみを高純度に抽出することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2001−78790号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chomczynski & Sacchi(1987) Analytical Biochemistry,162,156-159
【非特許文献2】R.Boom,C.J.A.Sol,M.M.M.Salimans,C.L.Jansen,P.M.E.Wertheim-van Dillen & J.van der Noordaa(1990)Jourmal of Microbiolooy,Vol.28,No.3.495-503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、血液や植物種子などのように糖質や色素の含有量が多く、目的とする核酸の含有量が極めて少ない試料であっても、当該試料から高純度の核酸を抽出することができる核酸抽出用試薬、核酸抽出用試薬キットおよび核酸抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の核酸抽出用試薬は、核酸を含む試料を固相担体に接触させることにより、当該固相担体の表面に当該試料中の核酸を吸着させると共に、この固相担体の表面に核酸を保持した状態で、当該固相担体から不純物を除去するために用いられる核酸抽出用試薬であって、
カオトロピック物質と、ポリエチレングリコールラウリルエーテルおよびポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤とを含有してなり、当該界面活性剤の割合が5質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の核酸抽出用試薬キットは、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体と、上記の核酸抽出用試薬とを具えてなることを特徴とする。
【0011】
本発明の核酸抽出方法は、上記の核酸抽出用試薬中において、核酸を含む試料を、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体に接触させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の界面活性剤を用いることにより、固相担体上に核酸を保持したままで、当該固相担体から不純物を高い効率で除去することができるので、血液や植物種子などのように糖質や色素の含有量が多く、目的とする核酸の含有量が極めて少ない試料であっても、当該試料から高純度の核酸を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1〜実施例3に係る核酸溶液の分光チャートである。
【図2】比較例1に係る核酸溶液の分光チャートである。
【図3】実施例4〜実施例6に係る核酸溶液の分光チャートである。
【図4】比較例2に係る核酸溶液の分光チャートである。
【図5】実施例4で得られた核酸溶液について行った核酸検出試験における電気泳動の結果を示す写真である。
【図6】比較例2で得られた核酸溶液について行った核酸検出試験における電気泳動の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
〔核酸抽出用試薬〕
本発明の核酸抽出用試薬は、核酸を含む試料を固相担体に接触させることにより、当該固相担体の表面に当該試料中に含まれる核酸を吸着させると共に、この固相担体の表面に核酸を保持した状態で、当該固相担体から不純物を除去するために用いられるものであって、水系媒体中にカオトロピック物質および特定の界面活性剤が含有されてなるものである。
【0015】
本発明の核酸抽出用試薬に用いられるカオトロピック物質としては、特に限定されるものではなく、例えばチオシアン酸グアニジン、イソチオシアン酸グアニジンなどのグアニジウム塩、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどのヨウ化金属塩、尿素などを、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明の核酸抽出用試薬中におけるカオトロピック物質の濃度は、1.0〜10mol/Lであることが好ましく、より好ましくは3.0〜6.0mol/Lである。
【0016】
本発明の核酸抽出用試薬においては、特定の界面活性剤として、ポリエチレングリコールラウリルエーテルおよびポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。これらは単独でまたは2種組み合わせて用いることができる。
本発明の核酸抽出用試薬中における特定の界面活性剤の割合は5質量%以下とされ、好ましくは1.0〜2.0質量%である。特定の界面活性剤の割合が5質量%を超える場合には、得られる核酸抽出用試薬の流動性を妨げる要因となり、試料の溶解性や、固相担体への核酸の吸着効率が著しく低下するため、核酸を抽出することが困難となる。一方、この割合が過小である場合には、不純物を十分に除去することが困難となることがある。
【0017】
本発明の核酸抽出用試薬には、生化学分野で一般的に使用される緩衝剤を含有させることができ、例えば、Tris−HCl系、Tris−HCl−EDTA(TE)系、Tris−acetate−EDTA(TAE)系、2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES)系、クエン酸ナトリウム系、コハク酸系、ホウ酸系、炭酸系、炭酸水素系などの緩衝剤を用いることができる。
【0018】
〔核酸抽出用試薬キット〕
本発明の核酸抽出用試薬キットは、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体と、上記の核酸抽出用試薬とを具えてなるものである。
固相担体としては、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得るものであれば、特に限定されず、例えばシリカ粒子、シリカ膜、多孔質体シリカ、ポリスチレン粒子、ポリスチレン膜、ニトロセルロース膜、その他のポリマー材料などを用いることができる。
また、固相担体として粒子状のものを用いる場合には、粒子径が0.05〜500μmのものが好ましく、より好ましくは0.1〜200μmである。
また、粒子状の固相担体としては、磁性体を含有するものを用いることができ、これにより、当該固相担体を磁力の作用によって容易に回収することができる。
【0019】
また、本発明の核酸抽出用試薬キットは、上記の固相担体および核酸抽出用試薬の他に、当該核酸抽出用試薬と同様の構成の洗浄用試薬や、固相担体を洗浄するための洗浄液、固相担体から核酸を溶出させる溶出液を具えてなるものであってもよい。
ここで、洗浄液としては、エタノール水、アセトンなどを用いることができる。
また、溶出液としては、超純水、2回蒸留水、TE緩衝液などを用いることができる。
【0020】
〔核酸抽出方法〕
本発明の核酸抽出方法は、上記の核酸抽出用試薬中において、核酸を含む試料を、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体に接触させる工程を有する。
粒子状の固相担体を用いる場合の具体的な一例について説明すると、核酸抽出用試薬に、核酸を含む試料を添加し、攪拌することによって、核酸抽出用試薬中に試料を均一に溶解または分散させ、更に、固相担体を添加して攪拌することにより、試料を固相担体に接触させる。その結果、試料中に含まれる核酸が固相担体の表面に吸着される。
次いで、例えば遠心分離法によって固相担体を沈殿させ、上清を除去することにより、核酸が吸着された固相担体を回収する。その後、回収した固相担体を洗浄液で洗浄して乾燥し、当該固相担体を溶出液に添加することにより、固相担体から核酸を溶出液中に溶出させることにより、目的とする核酸が抽出される。
【0021】
以上において、核酸を含む試料としては、血液、ウィルスに感染した種子、食肉、毛髪、皮膚、血清、尿、糞便、精液、唾液、藻類、植物の葉、根、果実などを用いることができる。
また、試料を固相担体に接触させるための処理時間は、例えば1〜5分間である。
また、核酸が吸着された固相担体をエタノール水等の洗浄液で洗浄する前に、核酸抽出用試薬と同様の構成の洗浄用試薬によって洗浄することが好ましく、これにより、固相担体上に吸着された不純物を一層確実に除去することができる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、特定の界面活性剤を用いることにより、固相担体上に核酸を保持したままで、当該固相担体から不純物を高い効率で除去することができるので、血液や植物種子などのように糖質や色素の含有量が多く、目的とする核酸の含有量が極めて少ない試料であっても、当該試料から高純度の核酸を抽出することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
〈実施例1〉
(1)核酸抽出用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/LおよびEDTA(wako社製)10mmol/L、並びに、界面活性剤としてポリエチレングリコールラウリルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の本発明の核酸抽出用試薬を調製した。以下、これを試薬Aとする。
(2)洗浄用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/L、および界面活性剤としてポリエチレングリコールラウリルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の洗浄用試薬を調製した。以下、これを洗浄用試薬aとする。
(3)核酸抽出用試薬キットの作製:
試薬Aと、洗浄用試薬aと、シリカ磁性ビーズ分散液とよりなる核酸抽出用試薬キットを作製した。以下、これを試薬キット(I)とする。
【0025】
(4)血液からのゲノムDNAの抽出:
試薬キット(I)を用い、以下のようにして、血液からゲノムDNAを抽出した。
試薬A500mL中に血液100mLを添加し、攪拌して均一化し、更に、固相担体としてシリカ磁性ビーズ分散液20μLを添加し、5分間攪拌した後、遠心分離処理して上清を除去することにより、シリカ磁性ビーズを回収した。
回収したシリカ磁性ビーズに、洗浄用試薬a500mLを加え、5分間攪拌した後、遠心分離処理して上清を除去することにより、シリカ磁性ビーズを回収した。そして、回収したシリカ磁性ビーズを、70%エタノール水で2回洗浄した後、乾燥した。その後、シリカ磁性ビーズに超純水100μLを加えることにより、核酸をシリカ磁性ビーズから水中に溶出させた。このようにして血液からゲノムDNAを抽出し、核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約45μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図1に示す。
【0026】
〈実施例2〉
(1)核酸抽出用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/LおよびEDTA(wako社製)10mmol/L、並びに、界面活性剤としてポリエチレングリコール−モノ−p−イソオクチルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の本発明の核酸抽出用試薬を調製した。これを試薬Bとする。
(2)洗浄用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/L、および界面活性剤としてポリエチレングリコール−モノ−p−イソオクチルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の洗浄用試薬を調製した。これを洗浄用試薬bとする。
(3)核酸抽出用試薬キットの作製:
試薬Bと、洗浄用試薬bと、シリカ磁性ビーズ分散液とよりなる核酸抽出用試薬キットを作製した。以下、これを試薬キット(II)とする。
【0027】
(4)血液からのゲノムDNAの抽出:
試薬キット(I)の代わりに試薬キット(II)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、血液からゲノムDNAを抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約45μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図1に示す。
【0028】
〈実施例3〉
(1)核酸抽出用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/LおよびEDTA(wako社製)10mmol/L、並びに、界面活性剤としてポリエチレングリコールラウリルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%およびポリエチレングリコール−モノ−p−イソオクチルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%(界面活性剤合計2質量%)を含有してなる、pH6.4の本発明の核酸抽出用試薬を調製した。これを試薬Cとする。
(2)洗浄用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/L、並びに、界面活性剤としてポリエチレングリコールラウリルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%およびポリエチレングリコール−モノ−p−イソオクチルエーテル(ナカライテスク社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の洗浄用試薬を調製した。これを洗浄用試薬cとする。
(3)核酸抽出用試薬キットの作製:
試薬Cと、洗浄用試薬cと、シリカ磁性ビーズ分散液とよりなる試薬キットを作製した。以下、これを試薬キット(III )とする。
【0029】
(4)血液からのゲノムDNAの抽出:
試薬キット(I)の代わりに試薬キット(III )を用いたこと以外は実施例1と同様にして、血液からゲノムDNAを抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約45μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図1に示す。
【0030】
〈比較例1〉
(1)核酸抽出用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/LおよびEDTA(wako社製)10mmol/L、並びに、界面活性剤として「TrironX−100」(Sigma社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の比較用の核酸抽出用試薬を調製した。これを比較用試薬Dとする。
(2)洗浄用試薬の調製:
水中に、カオトロピック物質としてグアニジンチオシアン酸塩(wako社製)5mol/L、緩衝剤としてTris−HCl(wako社製)100mmol/L、および界面活性剤として「TrironX−100」(Sigma社製)1質量%を含有してなる、pH6.4の洗浄用試薬を調製した。これを洗浄用試薬dとする。
(3)核酸抽出用試薬キットの作製:
比較用試薬Dと、洗浄用試薬dと、シリカ磁性ビーズ分散液とよりなる試薬キットを作製した。以下、これを試薬キット(IV)とする。
【0031】
(4)血液からのゲノムDNAの抽出:
試薬キット(I)の代わりに比較用試薬キット(IV)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、血液からゲノムDNAを抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約10μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、この核酸溶液は赤色に着色しており、波長400〜450nmの領域にピークを有することから、核酸以外の不純物が含まれていることが確認された。この不純物は、ヘモグロビンに由来する色素によるものであると考えられる。
得られた核酸溶液の分光チャートを図2に示す。
【0032】
〈実施例4〉
実施例1と同様にして作製した試薬キット(I)を用い、以下のようにして、ウィルスに感染したメロン種子からウィルスの核酸を抽出した。
メロン種子を粉砕し、この粉砕したメロン種子2gを試薬A500mL中に添加し、攪拌して均一化し、更に、固相担体としてシリカ磁性ビーズ分散液20μLを添加し、5分間攪拌した後、遠心分離処理して上清を除去することにより、シリカ磁性ビーズを回収した。
回収したシリカ磁性ビーズに、洗浄用試薬a500mLを加え、5分間攪拌した後、遠心分離処理して上清を除去することにより、シリカ磁性ビーズを回収した。そして、回収したシリカ磁性ビーズを、70%エタノール水で2回洗浄した後、乾燥した。その後、シリカ磁性ビーズに超純水100μLを加えることにより、核酸をシリカ磁性ビーズから水中に溶出させた。このようにしてメロン種子からウィルスの核酸を抽出し、核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約85μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図3に示す。
【0033】
〈実施例5〉
試薬キット(I)の代わりに実施例2と同様にして作製した試薬キット(II)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、ウィルスに感染したメロン種子からウィルスの核酸を抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約85μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図3に示す。
【0034】
〈実施例6〉
試薬キット(I)の代わりに実施例3と同様にして作製した試薬キット(III )を用いたこと以外は実施例4と同様にして、ウィルスに感染したメロン種子からウィルスの核酸を抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約85μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、核酸以外の吸収ピークは認められなかった。
得られた核酸溶液の分光チャートを図3に示す。
【0035】
〈比較例2〉
試薬キット(I)の代わりに比較例1と同様にして作製した比較用試薬キット(IV)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、ウィルスに感染したメロン種子からウィルスの核酸を抽出して核酸溶液を得た。
得られた核酸溶液を分光光度計「eSpect」(マルコム社製)で測定したところ、核酸の吸収波長である260nmの吸光度の値から、約40μgの核酸が抽出されていることが確認された。また、波長280nm付近にピークを有することから、核酸以外の不純物が含まれていることが確認された。
得られた核酸溶液の分光チャートを図4に示す。
【0036】
〈核酸検出試験〉
実施例4および比較例2で得られた核酸溶液を、それぞれ10〜107 倍の範囲で段階的に希釈することにより、合計で11種類の希釈溶液を調製した。各希釈溶液の希釈倍率は、以下の通りである。
希釈溶液1:10倍,希釈溶液2:102 倍,希釈溶液3:103 倍,希釈溶液4:104 倍,希釈溶液5:104 倍,希釈溶液6:105 倍,希釈溶液7:105 倍,希釈溶液8:106 倍,希釈溶液9:106 倍,希釈溶液10:107 倍,希釈溶液11:107
【0037】
これらの希釈液中の核酸をテンプレートとしてRT−PCR法により増幅し、ゲル電気泳動により確認した。結果を図5(実施例2)および図6(比較例2)に示す。
以上において、RT−PCR法の条件は、以下の通りである。
装置:
東洋紡社製「RT−PCR high −plus−」
反応液:
RNase Free water 22μL,5×Buffer 10uL,2.5mMdNTPs 6.0μL,25mMMm(Oac)2 5.0μL,Forward Primer(10μM) 0.5μL,Reverse−Primer(10μM) 0.5μL,10u/uL RNase Inhibitor 2.0μL,2.5 u/uL rTth DNA polymerase 2.0 μL,Template 2.0μL
反応温度・反応時間:
60℃で60分間,94℃で2分間,(94℃で1分間,55℃で1.5分間)×40サイクル, 60℃で7分間
【0038】
図5および図6の結果から理解されるように、実施例4で抽出された核酸は、比較例2で抽出された核酸に比較して高い感度で検出されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む試料を固相担体に接触させることにより、当該固相担体の表面に当該試料中の核酸を吸着させると共に、この固相担体の表面に核酸を保持した状態で、当該固相担体から不純物を除去するために用いられる核酸抽出用試薬であって、
カオトロピック物質と、ポリエチレングリコールラウリルエーテルおよびポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤とを含有してなり、当該界面活性剤の割合が5質量%以下であることを特徴とする核酸抽出用試薬。
【請求項2】
カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体と、請求項1に記載の核酸抽出用試薬とを具えてなることを特徴とする核酸抽出用試薬キット。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸抽出用試薬中において、核酸を含む試料を、カオトロピック物質の存在下に核酸を吸着し得る固相担体に接触させる工程を有することを特徴とする核酸抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−193814(P2010−193814A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43509(P2009−43509)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000137476)株式会社マルコム (15)
【Fターム(参考)】