説明

核酸検出装置、方法、及びプログラム

【課題】増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定する。
【解決手段】光源12により反応液に励起光を照射することにより、PCRにより増幅された標的核酸の量に応じて発生した蛍光を受光部14で受光し、受光した蛍光量に応じたレベルの電気信号を、増幅率が異なる複数の増幅回路16a〜16nで増幅し、マルチプレクサ18で、増幅反応の初期段階の増幅率(例えば、1倍)で増幅された電気信号を選択し、そのサイクルでの蛍光値として検出する。CPU30で、初期段階の蛍光値から最大値を取得し、調整段階の増幅率を、「(装置の検出限界値−マージン)/初期段階の蛍光値の最大値」として決定し、決定した増幅率で増幅された電気信号を選択するための選択信号を、マルチプレクサ18に入力する。調整段階では、決定された増幅率で増幅された電気信号が選択して、蛍光値を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸検出装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)などの核酸増幅法や融解温度測定で、増幅または融解された標的核酸の量をモニタリングする場合において、増幅または融解された標的核酸の量に応じた蛍光量を電気信号に変換し、所定の増幅率で増幅して取得することが行われている。一般的には、この増幅率は固定となっており、取得される蛍光量は、ユーザが投入する試薬の量によってコントロールしている。
【0003】
また、対象物から発せられる蛍光を検出する際に、対象物の情報に基づいて、光電変換増幅率等の検出条件を設定する蛍光検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、予め複数の検出部について共通の値として決められているターゲットA/D値及び標的核酸の増幅前に検出部から出力された受信信号に対応するデフォルト対応受光信号A/D値に基づいて、デフォルト対応受光信号A/D値をターゲットA/D値に増幅するための調整後増幅率D/A値を各検出部について決定する核酸検出装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、アンプからの増幅度の異なる複数の出力をA/D変換し、そのうち信号が飽和せず、かつ増幅度が最大のものを選択して、選択した信号を処理する光検出装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−8603号公報
【特許文献2】特開2005−233938号公報
【特許文献3】特開平10−96666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、異なる検出条件(例えば、光電変換増幅率)での検出データを用いて、許容範囲外の検出データを補正して蛍光特性値を求めるものである。また、特許文献2の技術は、複数の検出部各々の受光レベルのばらつきを低減させるものである。このように、特許文献1及び2の技術では、増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定することはできない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献3の技術では、測定開始から終了までの全データについて、増幅度の異なる複数の出力を得ているため、測定が長時間になる場合や、取得される信号のレベルが予測困難なため幅広い増幅率の設定が必要な場合には、メモリ容量が増大する、という問題がある。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定することができる核酸検出装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明の核酸検出装置は、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段と、前記検出手段により検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅する増幅手段と、前記増幅反応または融解温度測定の初期段階において前記検出手段により検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、前記初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を変更するように制御する制御手段と、を含んで構成されている。
【0011】
第1の発明の核酸検出装置によれば、検出手段が、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する。また、増幅手段が、検出手段により検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅する。そして、制御手段が、増幅反応または融解温度測定の初期段階において検出手段により検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を変更するように制御する。
【0012】
このように、増幅反応または融解温度測定の初期段階において検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時の増幅率を決定するため、全データについて増幅度の異なる複数の出力を得る必要がなく、メモリ容量を削減しつつ、増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定することができる。
【0013】
また、第1の発明において、前記検出手段は、前記増幅反応または融解温度測定が進むにつれてレベルが低下する特性を有する電気信号を検出するようにすることができる。
【0014】
また、第1の発明において、前記増幅反応または融解温度測定に、前記標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズ可能なプローブを用いることができる。また、前記プローブは、前記標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、前記標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブとすることができる。
【0015】
また、第1の発明において、前記制御手段は、前記初期段階において前記検出手段により検出された電気信号のレベルが、予め定めた範囲を超える場合には、前記増幅反応または融解温度測定の異常を報知する制御、及び前記増幅反応または融解温度測定を停止する制御または前記増幅率を変更しないようにする制御の少なくとも一方を行うようにすることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するために、第2の発明の核酸検出装置は、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段と、前記検出手段により検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅する増幅手段と、前記複数の時点毎に、前記異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、前記増幅手段の増幅率を切り替えるように制御する制御手段と、を含んで構成されている。
【0017】
第2の発明の核酸検出装置によれば、検出手段が、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する。また、増幅手段が、検出手段により検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅する。そして、制御手段が、複数の時点毎に、異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、増幅手段の増幅率を切り替えるように制御する。
【0018】
このように、異なる複数の増幅率で増幅された複数の電気信号を取得することで、幅広い増幅率に対応することができ、また、この電気信号を時点毎に増幅率を切り替えて取得することで、例えば、必要な増幅率で増幅された電気信号のみを取得するように切り替えるなど、増幅率の切り替えを柔軟に行うことができる。従って、検出される光量のレベルが予測困難な場合であっても、増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定することができる。
【0019】
また、第2の発明において、前記制御手段は、取得された複数の電気信号のうち、装置の検出限界値以下のレベルの電気信号を記憶するように制御することができる。これにより、効率的にメモリ容量を削減することができる。
【0020】
また、第2の発明において、前記制御手段は、取得された複数の電気信号のうち、装置の検出限界値以下のレベルの電気信号であって、かつ現時点で最大値となる電気信号に対応する増幅率で増幅された電気信号の各時点でのレベルを表示するように制御することができる。これにより、現時点で装置が表現できる階調を最も有効に利用した表示を行うことができる。
【0021】
また、第2の発明において、前記制御手段は、装置の検出限界値を超えた電気信号に対応する増幅率で増幅された電気信号を、次の時点以降取得しないように制御することができる。これにより、よりメモリ容量の削減を図ることができる。
【0022】
また、第2の発明において、前記制御手段は、取得された複数の電気信号の全てが、装置の検出限界値を超えた場合には、前記増幅反応または融解温度測定の異常を報知する制御、及び前記増幅反応または融解温度測定を停止する制御の少なくとも一方を行うようにすることができる。
【0023】
また、第1及び第2の発明における前記標的核酸の増幅反応としては、リアルタイムPCRを挙げることができる。
【0024】
また、第3の発明の核酸検出方法は、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出し、検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅し、前記増幅反応または融解温度測定の初期段階において検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、前記初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を変更する核酸検出方法である。
【0025】
また、第4の発明の核酸検出方法は、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出し、検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅し、前記複数の時点毎に、異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、検出された電気信号を増幅する増幅手段の増幅率を切り替える核酸検出方法である。
【0026】
また、第5の発明の核酸検出プログラムは、コンピュータを、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段により検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅する増幅手段の増幅率であって、前記増幅反応または融解温度測定の初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を、前記初期段階において前記検出手段により検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて変更するように制御する制御手段として機能させるためのプログラムである。
【0027】
また、第6の発明の核酸検出プログラムは、コンピュータを、標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段により検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅する増幅手段により、前記異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、前記増幅手段の増幅率を切り替えるように制御する制御手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明の核酸検出装置、方法、及びプログラムによれば、増幅または融解された標的核酸の量を精度良く検出するための適切な増幅率を設定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施の形態の核酸検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】増幅回路の一例を示す図である。
【図3】増幅率を一定として検出された蛍光値の一例を示すグラフである。
【図4】初期段階の蛍光値に基づいて、調整段階の増幅率を変更した場合の蛍光値の一例を示すグラフである。
【図5】図4の調整段階の蛍光値のみを表したグラフである。
【図6】第1の実施の形態の核酸検出装置における核酸検出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図7】第1の実施の形態における検出結果の表示の一例を示す図である。
【図8】第1の実施の形態における検出結果の表示の他の例を示す図である。
【図9】第1の実施の形態における検出結果の表示の他の例を示す図である。
【図10】4段階の増幅率で増幅された蛍光値の一例を示すグラフである。
【図11】第2の実施の形態の核酸検出装置における核酸検出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図12】第2の実施の形態における検出結果の表示の一例を示す図である。
【図13】第2の実施の形態における検出結果の表示の他の例を示す図である。
【図14】増幅回路の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の核酸検出装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0031】
<第1の実施の形態>
図1に示すように、第1の実施の形態の核酸検出装置10は、サンプルに励起光を照射するためのLED等で構成された光源12、励起光の照射により発生した蛍光を受光して受光量に応じたレベルの電気信号を出力するためのフォトダイオード等で構成された受光部14、受光部14から出力された電気信号を各々の増幅率で増幅する複数の増幅回路16a〜16n、増幅された電気信号から1つの電気信号を選択するマルチプレクサ18、選択されたアナログ信号である電気信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ20、コンピュータ22、及び操作することにより各種情報を入力すると共に、検出結果等を表示するためのタッチパネルディスプレイ等で構成された表示操作部24を含んで構成されている。
【0032】
増幅回路16a〜16nは、例えば、図2に示すような反転増幅回路として構成することができる。図2に示す増幅回路16nの増幅率nは、n=1+R2/R1で定まる。従って、各増幅回路16a、16b、・・・、16nの増幅率a、b、・・・、nが所望の値となるように、各増幅回路16の抵抗値R1及びR2を設定する。なお、各増幅回路16a、16b、・・・、16nの増幅率a、b、・・・、nは、各々異なる値である。
【0033】
コンピュータ22は、核酸検出装置10全体の制御を司るCPU30、後述する核酸検出処理等の各種プログラムを記憶した記憶媒体としてのROM32、ワークエリアとしてデータを一時的に格納するRAM34、各種情報が記憶された記憶手段としてのメモリ36、入出力ポート(I/Oポート)38、及びこれらを接続するバスを含んで構成されている。また、さらにHDDを設けてもよい。
【0034】
次に、第1の実施の形態の原理について説明する。ここでは、増幅反応が進むにつれて発生する蛍光量(受光部14から出力される電気信号)のレベルが低下する反応系について説明する。なお、以下では、増幅回路16a〜16n各々で増幅された電気信号を「蛍光値」ともいう。
【0035】
上記のように、発生する蛍光量が低下する反応系において、増幅反応の全反応時間(全サイクル)において、増幅率を一定とした場合の蛍光値の一例を、図3に示す。同図の例では、増幅率を1倍(増幅なし)としている。このように得られた蛍光値の変化に基づいて、CT値(Threshold Cycle)を求めることなどが行われる。このCT値を求める場合などのように、蛍光値の変化が大きい増幅反応の後半部分のデータを用いる場合が多いため、増幅反応の後半部分の蛍光値を、より精度良く検出できることが望ましい。
【0036】
そこで、第1の実施の形態の核酸検出装置10では、増幅反応の初期段階での蛍光値に基づいて、初期段階より後の増幅反応時(以下、「調整段階」という)において検出される電気信号の増幅率を適切な値に変更する。具体的には、初期段階で検出された蛍光値に基づいて、検出される蛍光値が、装置が表現できる階調の限界値(検出限界値)を最大限に利用して表現されるように、調整段階の増幅率を変更する。例えば、「検出限界値/初期段階の蛍光値の最大値」として増幅率を求めることができる。初期段階の蛍光値に基づいて、調整段階の増幅率を変更した場合の蛍光値の例を図4に示す。また、図4に示す蛍光値の調整段階のみを表示した例を図5に示す。装置が表現できる階調を最大限に利用するため、図5に示すように、蛍光値の変化を詳細に捉えることができ、蛍光値を精度良く検出することができる。
【0037】
なお、上記の説明では、初期段階の蛍光値の最大値を用いて増幅率を計算する例について説明したが、初期段階の蛍光値の平均値等を用いてもよい。また、増幅率を計算する際、装置の検出限界値に所定のマージンを設けて、実際の検出限界値よりも低めの値を用いてもよい。検出限界値にマージンを設けることで、初期段階の蛍光値よりも調整段階の蛍光値の方が多少高くなる場合でも、検出限界値を超えることなく蛍光値を検出することができる。
【0038】
次に、第1の実施の形態の核酸検出装置10の作用について説明する。ここでは、標的核酸の増幅をリアルタイムPCRで行う場合について説明する。まず、図示しない測定部に、検体及びプローブ等の試薬を含むPCR反応液(サンプル)をセットする。ここで用いるプローブは、標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブを用いる。例えば、グアニン消光プローブとして知られているQProbe(登録商標)のようないわゆる蛍光消光プローブを用いることができる。この場合、検出される蛍光値は、増幅反応が進むにつれてレベルが低下する反応系となる。次に、表示操作部24から測定開始の指示を行うことにより、CPU30により、図6に示す核酸検出処理ルーチンが実行される。
【0039】
ステップ100で、リアルタイムPCRのサイクル数を示す変数iに1をセットする。
【0040】
次に、ステップ102で、リアルタイムPCRのiサイクル目の処理をスタートさせる。リアルタイムPCRでは、図示しない温度制御部により測定部の温度を制御して、PCR反応液の温度を第1温度(例えば、95℃)まで上昇させ、第1時間(例えば、60秒)保つ。この間に、2本鎖DNAが1本鎖DNAに変性する。次に、PCR反応液の温度を第2温度(例えば、60℃)まで下降させ、第2時間(例えば、15秒)保つ。この間に、1本鎖DNAとプライマーとのアニーリングが起こる。次に、PCR反応液の温度を第3温度(例えば、70℃)に上昇させ、第3時間(例えば、60秒)保つ。この間に、DNAポリメラーゼの働きにより、DNAが合成される。これを1サイクルとする。
【0041】
次に、ステップ104で、上記ステップ102でスタートしたPCRにおいて発生する蛍光量に応じた蛍光値を検出する。具体的には、測定部にセットされたPCR反応液に、光源12により励起光を照射する。励起光の照射により、PCR反応液内では、PCRにより増幅された標的核酸の量に応じた蛍光が発生する。そして、発生した蛍光が受光部14で受光されると、受光部14が受光した蛍光量に応じたレベルの電気信号を出力する。出力された電気信号は、増幅率が異なる複数の増幅回路16a〜16nへ各々入力され、各増幅回路16a〜16nの増幅率に従って増幅されて、出力される。
【0042】
また、マルチプレクサ18には、CPU30から所定の増幅率で増幅された電気信号を選択するための選択信号が入力される。ここでは、増幅反応の初期段階(1〜nサイクル。例えば、全50サイクルに対して1〜15サイクル)であるので、増幅率1倍の増幅回路から出力された電気信号を選択するための選択信号が入力されているものとする。なお、初期段階の増幅率は1倍に限定されず、用いられる検体や試薬、及び装置の検出限界値を考慮して、初期段階の蛍光値が検出限界値を超えないような値であればよい。選択された電気信号は、A/Dコンバータ20でデジタル信号に変換されて、コンピュータ22に入力され、その電気信号のレベル(蛍光値)がサイクル数iと共にメモリ36に記憶される。
【0043】
次に、ステップ106で、上記ステップ104で検出された蛍光値に異常があるか否かを判定する。検体や試薬等の種類に基づいて、予め初期段階での蛍光値の適性範囲を定めておき、検出された蛍光値がこの適性範囲内であれば異常なしと判定して、ステップ108へ移行する。一方、検出された蛍光値が適性範囲外であれば異常ありと判定して、ステップ114へ移行する。
【0044】
ステップ108で、サイクル数を示す変数iがnとなったか否かを判定することにより、初期段階の蛍光値の検出を終了したか否かを判定する。i≠nの場合には、まだ初期段階の蛍光値の検出を終了していないため、ステップ110へ移行して、変数iを1インクリメントして、ステップ102へ戻って、PCRの次のサイクルの処理を繰り返す。i=nとなった場合には、ステップ112へ移行する。
【0045】
ステップ112では、メモリ36に記憶された初期段階(1〜nサイクル)の蛍光値から、最大値を取得する。そして、例えば、調整段階の増幅率を、「(装置の検出限界値−マージン)/初期段階の蛍光値の最大値」として決定する。一例として、取得された初期段階の蛍光値の最大値を「220」、装置の検出限界値を「2000」、マージンを「150」とした場合には、調整段階の増幅率は、(2000−150)/220=8.4倍と決定することができる。そして、決定した増幅率で増幅された電気信号を選択するための選択信号を、マルチプレクサ18に入力する。なお、決定した増幅率と一致する増幅率の増幅回路が存在しない場合には、決定した増幅率に最も近く、かつ決定した増幅率以下の増幅率の増幅回路からの電気信号を選択するようにするとよい。
【0046】
一方、上記ステップ106で蛍光値に異常ありと判定されてステップ114へ移行した場合には、調整段階の増幅率を変更しないように決定する。ここでは、初期段階の増幅率は1倍であるため、調整段階においても増幅率を1倍とする。
【0047】
次に、ステップ116で、変数iを1インクリメントし、次のステップ118で、リアルタイムPCRのiサイクル目の処理をスタートさせる。
【0048】
次に、ステップ120で、上記ステップ104と同様に蛍光値を検出する。ただし、上記ステップ112を経由して本ステップへ移行した場合には、初期段階の蛍光値を用いて決定された増幅率を選択するための選択信号がマルチプレクサ18に入力されている。従って、上記ステップ112で決定された増幅率で増幅された電気信号が選択される。また、上記ステップ114を経由して本ステップへ移行した場合には、増幅率が変更されていないため、そのまま増幅率1倍の増幅回路から出力された電気信号が選択される。選択された電気信号は、A/Dコンバータ20でデジタル信号に変換されて、コンピュータ22に入力され、メモリ36にサイクル数iと共に記憶される。
【0049】
次に、ステップ122で、サイクル数を示す変数iがkとなったか否かを判定することにより、全サイクル数を終了したか否かを判定する。例えば、kは50回とすることができる。i≠kの場合には、まだ全サイクル数を終了していないため、ステップ116へ戻って、変数iを1インクリメントして、PCRの次のサイクルの処理を繰り返す。i=kとなった場合には、ステップ124へ移行する。
【0050】
ステップ124では、メモリ36に記憶された蛍光値を、例えば、図7に示すようなサイクル数−蛍光値のグラフにプロットし、検出結果として表示操作部24に表示して、処理を終了する。
【0051】
以上説明したように、第1の実施の形態の核酸検出装置によれば、増幅反応の初期段階において検出された蛍光値、及び装置の検出限界値に基づいて、初期段階より後の増幅反応時(調整段階)の増幅率を決定するため、装置が表現できる階調を最大限に利用して蛍光値の変化を詳細に捉えることができ、蛍光値を精度良く検出することができる。このような増幅率を自動的に設定することができる。
【0052】
また、熱安定性が高いプローブを用いることで、PCR反応中に予めプローブを入れておくことができ、また、温度変化の可逆的な反応を繰り返すことができる。さらに、第1の実施の形態のように消光プローブを用いることで、PCRサイクルの初期段階において検出された蛍光値からプローブ量を類推することができ、そのPCR過程で未知の濃度の反応液を測定し、後のTm解析の光量を最適なゲインに調整しておくことができる。
【0053】
なお、第1の実施の形態では、検出結果を表示する際に、検出された蛍光値をそのままプロットしたグラフを表示する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、図8に示すように、初期段階の蛍光値を、上記ステップ112で決定した調整段階の増幅率で増幅した値に補正して表示するようにしてもよい。また、第1の実施の形態では、サイクル毎に検出した離散的な蛍光値を表示しているが、図9に示すように、平滑化やベースライン補正を行うことにより、滑らかなグラフに補正して表示するようにしてもよい。また、第1の実施の形態では、全サイクル終了後に検出結果を表示する場合について説明したが、1サイクル終了する毎に、蛍光値をプロットして表示するようにしてもよい。
【0054】
また、第1の実施の形態では、例えば全サイクル数50サイクルのうち、1〜15サイクルを初期段階とする場合について説明したが、初期段階は、全サイクル数の1/2、1/3、または1/4とするなど、適宜設定可能である。初期段階のサイクル数を多くすると、調整段階の増幅率をより適切に決定することができる。初期段階のサイクル数を少なくすると、適切に設定された増幅率により精度良く蛍光値が検出できるサイクル数が多くなる。使用する検体の特徴に応じて、適切な初期段階のサイクル数を設定することが好ましい。また、サイクル数ではなく、全反応時間の1/2、1/3、1/4等としてもよい。
【0055】
また、第1の実施の形態では、初期段階において検出された蛍光値に異常がある場合には、調整段階の増幅率を変更しないように制御する場合について説明したが、増幅反応自体を停止するように制御してもよい。また、これらの制御に替えて、またはこれらの制御と共に、初期段階の蛍光値に異常が生じたことを示すメッセージを表示操作部に表示するなどして報知するようにしてもよい。
【0056】
また、第1の実施の形態では、調整段階の増幅率を一定とする場合について説明したが、調整段階の増幅率を複数段階で切り替えるようにしてもよい。例えば、増幅反応が進むにつれて蛍光値が低下する反応系では、調整段階でのサイクル数が進むにつれて、徐々に増幅率を上げるように切り替えることができる。
【0057】
また、第1の実施の形態では、標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブを用いる場合について説明したが、これに限定されない。標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光強度が減少するプローブを用いてもよい。
【0058】
また、第1の実施の形態では、増幅反応が進むにつれて蛍光値が低下する反応系について説明したが、増幅が進むにつれて蛍光値が増加する反応系についても適用可能である。この場合、検体の種類等に基づいて、初期段階の蛍光値から調整段階の蛍光値を推定し、調整段階の蛍光値を装置の検出限界値を最大限利用して表現できるような増幅率を決定すればよい。
【0059】
また、第1の実施の形態では、増幅率が各々異なる複数の増幅回路の出力である電気信号から、マルチプレクサにより適切な増幅率で増幅された電気信号を選択してコンピュータに入力する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、増幅回路で増幅された電気信号各々をコンピュータに入力し、CPUにより適切な増幅率で増幅された電気信号を選択してメモリに記憶するようにしてもよい。
【0060】
なお、第1の記実施の形態では、リアルタイムPCRによる増幅反応の場合について説明したが、標的核酸の融解温度測定にも本発明を適用することができる。この場合、上記核酸検出処理ルーチンの1サイクルを、測定点となる温度毎(例えば、1℃毎)とすればよい。例えば、0〜100℃の範囲で1℃毎に融解温度測定を実施する場合に、0〜10℃を初期段階、11〜100℃を調整段階とし、初期段階で検出された蛍光値に基づいて、調整段階の増幅率を決定するようにすればよい。
【0061】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態の核酸検出装置の構成は、第1の実施の形態の核酸検出装置10の構成と同一であるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0062】
次に、第2の実施の形態の原理について説明する。ここでは、増幅反応が進むにつれて発生する蛍光量(受光部14から出力される電気信号)のレベルが増加する反応系について説明する。発生する蛍光量が増加する反応系において、4段階の増幅率で増幅された蛍光値の一例を、図10に示す。同図の例では、増幅率を1倍、1.8倍、2.8倍、及び5倍の4段階としている。増幅率が大きいほど、装置が表現できる階調の限界値(検出限界値、ここでは、例えば「256」)を有効に利用することができるため、精度良く蛍光値を検出することができる。
【0063】
しかし、図10の例で、4段階の中で最大の増幅率(5倍)で増幅された蛍光値は、21サイクル目辺りで検出限界値を超えており、それ以降のサイクルでは正しい蛍光値が取得できていない。特に、蛍光値の変化の予測が困難な場合には、予め適切な増幅率を設定しておくことは難しく、仮に、上記の例で増幅率5倍のみを設定していた場合には、正常な検出結果を得られなくなってしまう。
【0064】
そこで、図10に示したように、複数の増幅率で増幅された蛍光値を各々取得することで、幅広い増幅率に対応させる。ただし、各増幅率で増幅された蛍光値を全サイクル分取得すると、大きなメモリ容量を必要とするため、増幅反応の1サイクル毎に、複数の増幅率を切り替えながら蛍光値を取得する。図10の例では、1サイクル目に1倍で増幅された(増幅なしの)蛍光値、1.8倍で増幅された蛍光値、2.8倍で増幅された蛍光値、及び5倍で増幅された蛍光値を各々取得する。次に、2サイクル目で、同様に、1倍、1.8倍、2.8倍、及び5倍で増幅された蛍光値を各々取得する。3サイクル目以降も同様に繰り返す。このように、サイクル毎に複数の増幅率で増幅された蛍光値を切り替えて取得することで、蛍光値が飽和した増幅率や、ある程度蛍光値の変化などが把握できた段階で必要ないと判断できる増幅率での蛍光値を、次のサイクル以降取得しないようにすることができる。これにより、蛍光値のレベルが予測困難な場合でも、複数の増幅率で対応することが可能で、かつメモリ容量を削減することができる。
【0065】
また、最大の増幅率で増幅された蛍光値が検出限界値を超えた場合には、その次に大きな増幅率で増幅された蛍光値を検出結果とすることで、装置が表現できる階調を有効に利用した検出結果となるため、精度良く蛍光値を検出することができる。
【0066】
次に、第2の実施の形態の核酸検出装置10の作用について説明する。ここでは、標的核酸の増幅をリアルタイムPCRで行う場合について説明する。まず、図示しない測定部に、検体及びプローブ等の試薬を含むPCR反応液(サンプル)をセットする。ここで用いるプローブは、標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光強度が減少するプローブを用いる。この場合、検出される蛍光値は、増幅反応が進むにつれてレベルが増加する反応系となる。次に、表示操作部24から測定開始の指示を行うことにより、CPU30により、図11に示す核酸検出処理ルーチンが実行される。なお、第1の実施の形態における核酸検出処理ルーチンと同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0067】
ステップ100で、リアルタイムPCRのサイクル数を示す変数iに1をセットし、次に、ステップ102で、リアルタイムPCRのiサイクル目の処理をスタートさせる。
【0068】
次に、ステップ200で、上記ステップ102でスタートしたPCRにおいて発生する蛍光量に応じた蛍光値を検出する。具体的には、第1の実施の形態と同様に、測定部にセットされたPCR反応液に、光源12により励起光を照射する。励起光の照射により、PCR反応液内では、PCRにより増幅された標的核酸の量に応じた蛍光が発生する。そして、発生した蛍光が受光部14で受光されると、受光部14が受光した蛍光量に応じたレベルの電気信号を出力する。出力された電気信号は、増幅率が異なる複数の増幅回路16a〜16nへ各々入力され、各増幅回路16a〜16nの増幅率に従って増幅されて、出力される。ここでは、増幅回路16aの増幅率a、増幅回路16bの増幅率b、・・・、増幅回路16nの増幅率nの順に増幅率が高いものとする。
【0069】
また、マルチプレクサ18には、CPU30から増幅率を切り替えながら選択するための選択信号が入力される。選択される増幅率は、CPU30により設定され、ROM32に記憶されている。ここでは、初期設定として、増幅率a、b、・・・、nの全てが設定されているものとする。選択された電気信号は、A/Dコンバータ20でデジタル信号に変換されて、コンピュータ22に入力され、その電気信号のレベル(蛍光値)がサイクル数i及び選択された増幅率と共にメモリ36に記憶される。
【0070】
より具体的には、まず、増幅率aを選択するための選択信号がCPU30からマルチプレクサ18に入力されると、増幅率aの増幅回路16aから出力された電気信号が選択される。選択された電気信号は、A/Dコンバータ20でデジタル信号に変換されて、コンピュータ22に入力され、その電気信号のレベル(蛍光値)がサイクル数i及び増幅率aと共にメモリ36に記憶される。次に、増幅率bを選択するための選択信号がCPU30からマルチプレクサ18に入力され、上記と同様に、増幅率bの増幅回路16bから出力された電気信号が選択され、蛍光値がサイクル数i及び増幅率bと共にメモリ36に記憶される。この処理を設定された増幅率毎に繰り返す。これにより、サイクルiにおいて、増幅率a、b、・・・、nで増幅された蛍光値が各々取得される。
【0071】
なお、以下では、iサイクル目において増幅率aで増幅された蛍光値を「蛍光値ia」と表記する。増幅率b〜nで増幅された蛍光値についても同様である。
【0072】
次に、ステップ202で、上記ステップ200で検出された蛍光値の中で、装置の検出限界値を超えた蛍光値が存在するか否かを判定する。検出限界値を超える蛍光値が存在する場合には、ステップ204へ移行し、存在しない場合には、ステップ210へ移行する。ここでは、いずれの蛍光値も検出限界値を超えていなかったものとして、ステップ210へ移行する。
【0073】
ステップ210では、メモリ36に記憶されている蛍光値のうち、iサイクル目で検出された蛍光値(直近の上記ステップ200で検出された蛍光値)が最大のものを選択する。そして、選択した蛍光値に対応する増幅率で増幅された1〜iサイクル目まで蛍光値を表示操作部24に表示する。ここでは、蛍光値1a〜蛍光値iaが表示される。
【0074】
次に、ステップ122で、サイクル数を示す変数iがkとなったか否かを判定することにより、全サイクル数を終了したか否かを判定する。例えば、kは50回とすることができる。i≠kの場合には、まだ全サイクル数を終了していないため、ステップ110へ移行して、変数iを1インクリメントして、ステップ102へ戻り、PCRの次のサイクルの処理を繰り返す。
【0075】
上記処理の繰り返しにより、20サイクル目までいずれの蛍光値も検出限界値を超えなかった場合に、上記ステップ210で表示される検出結果の一例を、図12に示す。ここでは、20サイクル目までいずれの蛍光値も検出限界値を超えていないため、最大の増幅率aで増幅された蛍光値1a〜蛍光値20aが検出結果として表示されている。そして、次の21サイクル目で、増幅率aで増幅された蛍光値21aが検出限界値を超えた場合には、上記ステップ202で肯定判定されて、ステップ204へ移行する。
【0076】
ステップ204では、上記ステップ200で検出された蛍光値のうち、検出限界値以下の蛍光値が存在するか否かを判定する。検出限界値以下の蛍光値が存在する場合には、ステップ206へ移行し、存在しない場合には、ステップ212へ移行する。ここでは、増幅率aで増幅された蛍光値21aのみが検出限界値を超えており、他の増幅率で増幅された蛍光値(蛍光値21b、・・・、蛍光値21n)は検出限界値を超えていなかったものとして、ステップ206へ移行する。
【0077】
ステップ206では、上記ステップ202で検出限界値を超えたと判定された蛍光値21aに対応する増幅率aで増幅された1〜iサイクル目までの全ての蛍光値1a〜蛍光値20aをメモリ36から削除する。また、次のステップ208で、ROM32に記憶されている増幅率の設定のうち、増幅率aの設定を解除する。
【0078】
上記ステップ206を経由してステップ210へ移行すると、既に蛍光値1a〜蛍光値20aは削除されているため、メモリ36に記憶されている蛍光値のうち、21サイクル目で検出された蛍光値が最大のものは、蛍光値21bとなる。従って、表示操作部24に、検出結果として蛍光値1b〜蛍光値21bが表示される。
【0079】
そして、ステップ122、110を経て、ステップ102へ戻り、PCRの次のサイクルの処理を繰り返す。このとき、次のステップ200では、上記ステップ208において、増幅率aの設定が解除されているため、CPU30からマルチプレクサ18に増幅率aを選択するための選択信号が入力されなくなり、増幅率aで増幅された蛍光値の取得が停止される。
【0080】
上記処理の繰り返しにより、上記ステップ122で、i=kになったと判定された場合には、処理を終了する。例えば、50サイクル目において蛍光値50bが検出限界値を超えなかった場合に、上記ステップ210で表示される検出結果の一例を、図13に示す。最大の増幅率aで増幅された蛍光値が検出限界値を超えたため、その次に大きな増幅率である増幅率bで増幅された蛍光値1b〜蛍光値50bが検出結果として表示される。
【0081】
また、上記ステップ204で、検出限界値以下の蛍光値が存在しないと判定されて、ステップ212へ移行した場合には、PCRを終了し、蛍光値が正しく取得されていない旨のメッセージを表示操作部24に表示するなどして異常を報知して、処理を終了する。
【0082】
以上説明したように、第2の実施の形態の核酸検出装置によれば、1サイクル毎に増幅率を切り替えながら、複数の増幅率で増幅された蛍光値を取得するため、取得される蛍光値のレベルが予測困難な場合にも対応可能であり、メモリ容量を削減することもできる。また複数の増幅率の中で最も適切な増幅率で増幅された蛍光値、例えば、装置の検出限界値を超えない蛍光値の中で最大のものを検出結果とすることで、増幅された標的核酸の量を精度良く検出することができる。このような増幅率を自動的に設定することができる。また、増幅反応や融解温度測定は、測定自体にかかる時間が長いため、増幅率の切り替えに多少の時間を要しても、測定時間全体に与える影響は小さい。
【0083】
なお、第2の実施の形態では、リアルタイムPCRによる増幅反応の場合について説明したが、標的核酸の融解温度測定にも本発明を適用することができる。この場合、サイクル毎ではなく、測定点となる温度毎(例えば、1℃毎)に、増幅率を切り替えながら複数の蛍光値を検出するようにするとよい。
【0084】
また、第2の記実施の形態では、装置の検出限界値を超えた蛍光値に対応する増幅率で増幅された現サイクルまでの蛍光値を全て削除すると共に、以降のサイクルでその増幅率で増幅された蛍光値を取得しないようにする場合について説明したが、これに限定されない。例えば、メモリ容量に余裕があれば、ここまで取得された蛍光値は削除することなく、以降のサイクルでの蛍光値の取得のみを停止するようにしてもよい。また、測定開始からの所定サイクルで検出された蛍光値に基づいて、所定の閾値以下の蛍光値を削除すると共に、以降のサイクルでその所定の閾値以下となった蛍光値に対応する増幅率の設定を解除するようにしてもよい。これにより、よりメモリ容量を削減することができる。
【0085】
また、第2の実施の形態では、検出結果を表示する際に、検出された蛍光値をそのままプロットしたグラフを表示する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、サイクル毎に検出した離散的な蛍光値を、平滑化やベースライン補正を行うことにより、滑らかなグラフに補正して表示するようにしてもよい。
【0086】
また、第2の実施の形態では、標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光強度が減少するプローブを用いる場合について説明したが、これに限定されない。標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブを用いてもよい。
【0087】
また、第2の実施の形態では、増幅反応が進むにつれて蛍光値が増加する反応系について説明したが、増幅が進むにつれて蛍光値が低下する反応系についても適用可能である。
【0088】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、増幅反応をリアルタイムPCRとする場合について説明したが、これに限定されず、LAMP法、インベーダ法、RT−PCR等であってもよい。また、検出される光は蛍光に限定されず、検体の種類や増幅反応の手法に応じて、例えば、赤外光等を検出するようにしてもよい。
【0089】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、増幅率が異なる複数の増幅回路を設ける場合について説明したが、1つの増幅回路において異なる複数の増幅率に切り替えるようにしてもよい。例えば、1つの増幅回路16を図14に示すような構成とすることができる。この増幅回路16の増幅率は、1+R1/R2で、R1=R11+R12+R13+・・・+R1nである。従って、所望の増幅率を得るための抵抗値R1となるように、CPUからの選択信号により、抵抗R12、R13、・・・、R1nに並列接続されたスイッチのオンオフを制御するようにするとよい。なお、上記第1及び第2の実施の形態では、複数の増幅回路16a〜16nをあわせた構成が本発明の増幅手段の一例であり、図14の例では、1つの増幅回路16が本発明の増幅手段の一例である。
【0090】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、検出結果を表示操作部に表示する場合について説明したが、核酸検出装置に印字装置を設けて、検出結果を紙などの媒体に印字出力するようにしてもよいし、可搬性記録媒体に記録するようにしてもよいし、ネットワークを介して接続された外部装置に検出結果を出力するようにしてもよい。
【0091】
なお、上記の核酸検出処理ルーチンを規定したプログラムを記録媒体に記録して提供するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 核酸検出装置
12 光源
14 受光部
16、16a〜16n 増幅回路
18 マルチプレクサ
20 A/Dコンバータ
22 コンピュータ
24 表示操作部
30 CPU
32 ROM
34 RAM
36 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅する増幅手段と、
前記増幅反応または融解温度測定の初期段階において前記検出手段により検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、前記初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を変更するように制御する制御手段と、
を含む核酸検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記増幅反応または融解温度測定が進むにつれてレベルが低下する特性を有する電気信号を検出する請求項1記載の核酸検出装置。
【請求項3】
前記増幅反応または融解温度測定に、前記標的核酸の標的配列の領域にハイブリダイズ可能なプローブを用いる請求項1または請求項2記載の核酸検出装置。
【請求項4】
前記プローブは、前記標的配列の領域にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、前記標的配列の領域にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する請求項3記載の核酸検出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記初期段階において前記検出手段により検出された電気信号のレベルが、予め定めた範囲を超える場合には、前記増幅反応または融解温度測定の異常を報知する制御、及び前記増幅反応または融解温度測定を停止する制御または前記増幅率を変更しないようにする制御の少なくとも一方を行う請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の核酸検出装置。
【請求項6】
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅する増幅手段と、
前記複数の時点毎に、前記異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、前記増幅手段の増幅率を切り替えるように制御する制御手段と、
を含む核酸検出装置。
【請求項7】
前記制御手段は、取得された複数の電気信号のうち、装置の検出限界値以下のレベルの電気信号を記憶するように制御する請求項6記載の核酸検出装置。
【請求項8】
前記制御手段は、取得された複数の電気信号のうち、装置の検出限界値以下のレベルの電気信号であって、かつ現時点で最大値となる電気信号に対応する増幅率で増幅された電気信号の各時点でのレベルを表示するように制御する請求項6または請求項7記載の核酸検出装置。
【請求項9】
前記制御手段は、装置の検出限界値を超えた電気信号に対応する増幅率で増幅された電気信号を、次の時点以降取得しないように制御する請求項6〜請求項8のいずれか1項記載の核酸検出装置。
【請求項10】
前記制御手段は、取得された複数の電気信号の全てが、装置の検出限界値を超えた場合には、前記増幅反応または融解温度測定の異常を報知する制御、及び前記増幅反応または融解温度測定を停止する制御の少なくとも一方を行う請求項6〜請求項9のいずれか1項記載の核酸検出装置。
【請求項11】
前記標的核酸の増幅反応は、リアルタイムPCRである請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の核酸検出装置。
【請求項12】
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出し、
検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅し、
前記増幅反応または融解温度測定の初期段階において検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて、前記初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を変更する
核酸検出方法。
【請求項13】
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出し、
検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅し、
前記複数の時点毎に、異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、検出された電気信号を増幅する増幅手段の増幅率を切り替える
核酸検出方法。
【請求項14】
コンピュータを、
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段により検出された電気信号を、所定の増幅率で増幅する増幅手段の増幅率であって、前記増幅反応または融解温度測定の初期段階より後の増幅反応または融解温度測定時において検出される電気信号の増幅率を、前記初期段階において前記検出手段により検出された電気信号、及び装置の検出限界値に基づいて変更するように制御する制御手段
として機能させるための核酸検出プログラム。
【請求項15】
コンピュータを、
標的核酸の増幅反応または融解温度測定における複数の時点において、増幅または融解された標的核酸の量を、該標的核酸の量に応じて発生する光量に応じたレベルの電気信号により検出する検出手段により検出された電気信号を、異なる複数の増幅率で増幅する増幅手段により、前記異なる複数の増幅率各々で増幅された複数の電気信号が取得されるように、前記増幅手段の増幅率を切り替えるように制御する制御手段
として機能させるための核酸検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−63062(P2013−63062A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164891(P2012−164891)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】