核酸検出装置
【課題】TRC操作をさらに簡易化でき、かつ、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、検査結果の信頼性、安全性及び作業効率を向上させる核酸検出装置を提供する。
【解決手段】前後に水平移動可能な引き出し台車11に、酵素試薬の分注のためのチップ4を載置したチップラック4aと、蓋3を載置した蓋ラック3aと、サンプル液と、試薬ミックスとを含む反応容器1を載置した反応容器ラック1aと、酵素試薬を含有する容器2を載置した酵素試薬容器ラック2aと、使用済みのチップ4のチップ廃棄部5とが隣接して配置され、さらにその後部に隣接して、反応容器1のインキュベーター6が配置され、その下方に、反応容器1内の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置され、これらの各容器ラック、チップ廃棄部5及びインキュベーター6の上方を水平移動可能に配設された移送装置10上に酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9とが設置されている。
【解決手段】前後に水平移動可能な引き出し台車11に、酵素試薬の分注のためのチップ4を載置したチップラック4aと、蓋3を載置した蓋ラック3aと、サンプル液と、試薬ミックスとを含む反応容器1を載置した反応容器ラック1aと、酵素試薬を含有する容器2を載置した酵素試薬容器ラック2aと、使用済みのチップ4のチップ廃棄部5とが隣接して配置され、さらにその後部に隣接して、反応容器1のインキュベーター6が配置され、その下方に、反応容器1内の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置され、これらの各容器ラック、チップ廃棄部5及びインキュベーター6の上方を水平移動可能に配設された移送装置10上に酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9とが設置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の検出を行う核酸検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の迅速検査法としてPCR法が普及している。標的核酸の増幅反応や増幅産物の検出という多段階に渡る操作の煩雑性は自動化によって克服されているものの、臨床検査の現場では、当日報告ができないなど、結果を得るまでの所要時間に不満も多い。リアルタイムPCRの臨床機器も登場し、今後普及していくと予想されるが、原理的に温度サイクルという物理量の変化を伴うPCR法では迅速化に自ずと限界がある。遺伝子検査の迅速化のため、一定温度の核酸増幅法が有利であるとの認識からTRC(Transcription Reverse-transcription Concerted reaction)法が開発された(特許文献1参照)。
【0003】
TRC法は、TRC反応とINAFプローブ(Intercalation Activating Fluorescence probe)を組合せたRNA増幅のリアルタイム検出法である。TRC反応では、一定温度下で逆転写酵素とRNAポリメラーゼが協奏的に作用して逆転写反応と転写反応のサイクルを形成し、指数関数的なRNAの複写増幅が速やかに達成される。INAFプローブは増幅RNAと特異的に相補結合したときに蛍光増感を示すことから、TRC反応の初期段階から共存させておけば、RNAの複写増幅をリアルタイムにモニターすることが可能となる。
【0004】
TRC法は、標的RNAの「トリミング」、「増幅サイクル」、「測定」の3つの工程から構成される。すべての反応工程は、一定温度下(例えば、43℃)、1本の密閉容器内で連続的かつ同時並行で進行する。以下、各工程について詳述する。
【0005】
(1) トリミング
標的RNAの特定位置にDNAオリゴマー(シザープローブ)が結合する。逆転写酵素のRNaseH活性によってDNA-RNAハイブリッド部位のRNAを消化し、これにより標的RNAは増幅領域の5'末端でトリミングされる。
【0006】
(2) 増幅サイクル
5'末端がトリミングされたRNAは、逆転写反応と転写反応が協奏的に進む増幅工程に入る。まず、アンチセンス・プライマーを起点としたDNA相補鎖の伸長とRNaseH活性による標的RNAの消化により、cDNAが合成される(逆転写反応)。このとき、cDNAの3'末端は前工程でトリミングされた標的RNAの5'末端に一致することになる。このcDNAの3'末端にプロモーター・プライマーが結合し、両鎖の伸長反応によって二本鎖DNAが合成される。この二本鎖DNAはリーディング鎖の5'末端にT7プロモーター配列を持つことから、T7 RNA ポリメラーゼの作用により標的と相同的なRNAが次々と転写合成されていく(転写反応)。
合成されたRNAの各々は、新たなcDNA合成およびそれに続く二本鎖DNA合成の鋳型となることから、増幅サイクルが形成され、RNAの指数関数的な増幅が進行していく。
【0007】
(3) 検出
増幅されたRNAの一部はINAFプローブと特異的に結合する。INAFプローブは、インターカレーター性蛍光色素がリンカーを介してオリゴヌクレオチド鎖リン酸ジエステルのリン原子に結合した構造をとる。水溶液中でフリーのINAFプローブは水分子の衝突により蛍光が消光された状態にある。標的核酸と結合すると、蛍光色素が二本鎖内にインターカレーションして衝突消光を逃れ、本来の蛍光特性が発揮されるようになり、蛍光強度が増加する。したがって、TRC反応を通して経時的に蛍光計測することでインターカレーションした蛍光色素の量を通じてRNA増幅量をリアルタイムに追跡できる。さらに、インターカレーターの種類を変えることによって異なる蛍光波長での同時測定が可能であり、内部標準および複数項目の同時測定への適用が可能となる。
以上のように、TRC法は、RNA増幅・検出を一定温度・一段階で、かつ一本の密閉容器内で実現する新しい遺伝子検査法である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−014400号公報
【非特許文献1】保川清、医学の歩み、206(8),479-483,2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TRC 法の操作は、基質試薬とプライマー試薬を等量混合した試薬ミックスに抽出RNAを添加してからプレインキュベーションし(トリミング工程(1))、その反応系に酵素試薬を添加し、所定温度・所定時間インキュベーションし(増幅工程(2))、その後蛍光強度の増大を測定する(検出工程(3))、ことで結果を得ることができる。現在、このTRC 法の操作の簡易化を図るため、前記試薬ミックスに抽出RNAを添加し、プレインキュベーションしてから酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでをマニュアル操作で行い、インキュベーターでのインキュベーション及び蛍光検出工程は自動化されている(例えば非特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、現状の工程では、酵素試薬の添加、反応容器の密閉、インキュベーターへのセットについては依然マニュアル操作で行っているため、作業の確実性や作業能率に問題が残っていた。また、検出装置上で反応容器にサンプル液やTRC試薬ミックスの注入等の準備作業を行うことにより、検体や試薬が検出装置に飛び散ることによる汚染の危険があった。
【0011】
また、蛍光検出後の反応容器について、測定し終えた反応容器がインキュベーター内に残っているため、未測定の反応容器との区別に注意を必要としていた。
【0012】
本発明は、これら問題点を解決し、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加しインキュベーターにセットするまでの操作を自動化することで、TRC操作をさらに簡易化することができ、かつ、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性及び作業効率の向上を図ることができ、検査結果の信頼性を高めることができる核酸検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、酵素試薬の分注のためのディスポーザブルピペットチップ(以下、単に「チップ」と記す。)を複数個載置したチップラックと、前記酵素試薬を含有する容器を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラックと、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器を複数個載置した反応容器ラックと、前記チップを用い、前記酵素試薬を含有する容器の酵素試薬を所定量吸引し、対応する前記反応容器に当該酵素試薬を吐出し、その後当該使用済みのチップを廃棄するための酵素試薬分注機構と、前記使用済みのチップを受容するためのチップ廃棄部と、前記反応容器の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋を複数個載置した蓋ラックと、前記反応容器を収容し、前記反応容器を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター部と、前記反応容器を前記蓋により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器ごと前記インキュベーター部にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構と、前記反応容器内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部と、を備えたことを特徴とする。これにより、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでの操作が自動化され、TRC操作がさらに簡易化される。
【0014】
請求項2の発明は、前記チップラック、前記酵素試薬容器ラック、前記反応容器ラック、前記チップ廃棄部及び前記蓋ラックは、同一の引き出し台車に設置されており、該引き出し台車は、前記酵素試薬分注機構及び前記反応容器蓋閉め・移動機構の可動範囲の内側から外側まで移動可能であることを特徴とする。これにより、反応容器や酵素溶液容器のセッティングを検出器とは離れた箇所で行うことができ、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性の向上が図れ、反応容器、酵素溶液容器、チップ、蓋を近い場所にまとめることで作業効率の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3の発明は、前記酵素試薬分注機構が前記酵素試薬を吸引し、試薬ミックス及びサンプル液を含む反応容器に吐出した後、その混合物の吸引、吐出操作が反復可能であることを特徴とする。これにより、ボルテックス操作が不要になる。
【0016】
請求項4の発明は、前記蓋が上部に凹部を有し、前記反応容器蓋閉め・移動機構が、前記蓋の上部の凹部に嵌合する先端部を有するロッド部と、つめ部を有する2本以上の開閉式ハンドとを含む蓋保持手段を備え、前記ロッド部を前記蓋の前記凹部に差込み、かつ開閉式ハンドを閉状態にすることでつめ部が前記蓋の側部を把持し、該蓋を前記反応容器の上面開口部に嵌挿嵌合し、前記反応容器を前記蓋とともに移動させることを特徴とする。これにより、前記反応容器の確実な蓋閉めと、反応容器の移動を簡易な装置にて可能とする。
【0017】
請求項5の発明は、前記反応容器は、前記インキュベーター部で蛍光測定された後、前記反応容器蓋閉め・移動機構により、反応容器ラック部の元の設置位置に戻されることを特徴とする。これにより、測定し終えたものが一目でわかり、装置の作動に異常があった場合や、試薬の分注不良、分注のし忘れが一目でわかり、検査結果の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の核酸検出装置では、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加しインキュベーターにセットするまでの操作を自動化することで、TRC法の操作をさらに簡易化することができる。
さらに、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性及び作業効率の向上を図ることができ、検査結果の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の核酸検出装置の一実施形態について図に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の組立斜視図であり、図2は概略組立図である。
前後に水平移動可能な引き出し台車11に、酵素試薬の分注のためのチップ4を複数個載置したチップラック4aと、反応容器1の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋3を複数個載置した蓋ラック3aと、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する容器を複数個載置した反応容器ラック1aと、酵素試薬を含有する容器2を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラック2aと、使用済みのチップ4を受容するためのチップ廃棄部5と、が図1、2に示すように隣接して配置されている。
【0020】
さらに、この引き出し台車11の前後ストロークの後端側に隣接して、反応容器1を収容し、反応容器1を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター6が配置され、その下方に接して、反応容器1内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置されている。
【0021】
これらの各容器ラック、チップ廃棄部5及びインキュベーター6の上方をX軸及びY軸方向に水平移動可能に配設された移送装置10上に、チップ4を用い、酵素試薬容器2aの酵素試薬を所定量吸引し、対応する反応容器1の上方に移動し、酵素試薬を反応容器1に吐出し、その後使用済みのチップ4を廃棄するための酵素試薬分注機構8と、反応容器1を蓋3により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器1ごと前記インキュベーター6にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構(以下、「蓋キャッチ機構」と記す。)9と、が設置されている。
【0022】
コントローラ部にはパソコン、プリンターが備えられている。
【0023】
次に、個々の装置の構成について説明する。
図1、図2及び図4に示すように、引き出し台車11に搭載されたチップラック4aは、酵素試薬の分注のためのチップ4を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦8列、横12列に並んでおり最大96本のチップ4を載置することが可能である。チップ4は細い円錐の外形であって、円錐の頂点から底面まで貫通孔が設けられた樹脂製の管であって、チップラック4aの各ホルダ穴に先端(頂点側)を下にしてセットされる。
【0024】
チップラック4aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載された蓋ラック3aは、反応容器1の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋3を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦12列、横8列に並んでおり最大96本の蓋3を載置することが可能である。蓋3は横断面が円形で、縦断面が図6(a)に示すように上部に凹部及びフランジ部を有するゴム製キャップであり、蓋ラック3aの各ホルダ穴に凹部を上にして、フランジ部を利用して垂直にセットされる。
【0025】
同じく蓋ラック3aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載された反応容器ラック1aは、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器1を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦8列、横6列に並んでおり最大48本の反応容器1を載置することが可能である。反応容器1は略円錐の外形の底面に開口部を有する樹脂製容器であって、反応容器ラック1aの各ホルダ穴に開口部を上にしてセットされる。
【0026】
同じく反応容器ラック1aの手前側に隣接して引き出し台車11に搭載された酵素試薬容器ラック2aは、酵素試薬を含有する容器を載置するためのラックであって、ホルダ穴が3個横1列に並んでおり最大3本の酵素試薬容器2を載置することが可能である。酵素試薬容器2は略円筒の外形の底面に開口部を有する樹脂製容器であって、開口部を上にして酵素試薬容器ラック2aの各ホルダ穴に開口部を上にしてセットされる。
【0027】
同じく反応容器ラック1aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載されたチップ廃棄部5は、反応容器1に酵素試薬容器2から酵素試薬を分注した後のチップ4を廃棄するための容器用スペースである。このように、廃棄ボックスを反応容器1の近くに配置することで、チップ4の液だれなどによる装置汚染及び環境汚染を最小限にできる。
【0028】
次に、引き出し台車11に隣接して奥側の固定部に設けられた検出部の構成について説明する。検出部は上部のインキュベーター6とその下部に設けられた蛍光検出部7からなる。
インキュベーター6は反応容器1を収容し、反応容器1を所定時間、所定温度に保つ恒温器である。1列あたり24個のホルダ穴が横2列に配置され、最大48個の反応容器1の収容が可能である。ホルダ穴の上部には、後述する蛍光による検出時にホルダ穴内をほぼ暗室とするべくシャッター6bが設置されている。
【0029】
このインキュベーター6の下方に接して、反応容器1内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置されている。蛍光検出部7では、43℃で恒温状態とした反応容器1内に増幅された核酸について、シャッター6bを閉じてほぼ暗室として蛍光による検出を行う。λ=470nmのLED7B1台と2台のPD7Eを搭載した蛍光検出器が左右方向に設置したレール上を走査可能であり、さらに図示しないシフト装置により該レール自体が前後2箇所に水平移動可能に設けられており、前後2列48本の反応容器1の蛍光検出が可能となっている。
【0030】
次に、引き出し台車11上の各ラック及びチップ廃棄部5と、この後方に設置されたインキュベーター6の上方に移動可能に設けられた酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9について説明する。
両者は共に図1、図2(a)に示す移送装置10に組みつけられており、前記範囲を移動可能となっている。移送装置10はラックピニオン式でX−Y方向に取付け台を水平移動可能としたものであり、取付け台に取り付けられた酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9とは各々Z軸方向に垂直移動する機構を備えている。
【0031】
酵素試薬分注機構8は、図9に示すように、昇降機構と、前記チップ4を先端に装着するためのノズル8aと、酵素試薬容器2の酵素試薬を所定量吸引し、対応の反応容器1の上方に移動して該酵素試薬を吐出、混合するためのポンプ8bおよび圧力センサ8dを備えている。
【0032】
蓋キャッチ機構9は、図6に示すように、昇降機構と、蓋3を蓋ラック3aから取り上げる際、及び反応容器1に蓋3を取り付ける際、蓋3の上部の凹部3bに嵌合するロッド9aと、蓋3の保持と蓋閉めした反応容器1の保持を行うつめ部付き開閉式ハンド9bと、からなる蓋3保持手段とを備えている。
【0033】
以下に前記構成による核酸検出装置の検査方法について説明する。
まず、検査の概略の流れについて図2、3、4で説明する。
図3は検査手順を示す図であり、右下の太線で囲まれた部分が前記構成において自動化された部分である。まず、引き出し台車11を図4に示すように、手前の前進限まで引き出してロックする。これにより、引き出し台車11は、移送装置10のY軸移送用レール架台の可動範囲から完全に外れるように設定されており、万一、移送装置10が誤作動により引き出し台車11の元位置に接近しても、移送装置10と作業者及び検査用器具等との干渉が避けられるため、作業の安全性を確保することができるように構成される。
【0034】
次に引き出し台車11上の反応容器ラック1aにセットされた反応容器1に、TRC試薬調製により得られたTRC試薬ミックス20μlと、検体を前処理及び核酸抽出処理して得られたサンプル液5μlとを手動にて分注する。反応容器ラック1aには最大48本の反応容器1をセットすることができる。なお、前記サンプル液を得るための前処理及び核酸抽出処理は、汚染のリスクを避けるために別のエリアで行う。
【0035】
そして、TRC酵素試薬を分注した酵素試薬容器2を酵素試薬容器ラック2aにセットする。この酵素試薬容器2は最大3本までセット可能であり、一度に最大3種類のTRC酵素試薬による3項目の核酸検出が可能である。
【0036】
さらに、チップラック4a及び蓋ラック3aにチップ4及び蓋3をセットする。チップラック4aには最大96本のチップ4が、蓋ラック3aには最大96個の蓋3がセット可能である。実際の核酸検出試験においては、検出すべき反応容器1の数に、取り付け不良分を見込んだ予備分の数を加えた数以上のチップ4及び蓋3をセットする必要がある。
【0037】
このように準備した後、引き出し台車11を後退限まで戻し、核酸検出装置の自動検出モードのスタートスイッチを押す。これにより、図3の太線部分の操作が自動にて行われる。以下この自動操作について説明する。
【0038】
まず、酵素試薬分注・混合操作が、移送台車及びこれに搭載された酵素試薬分注機構8により行われる(図5参照)。
酵素試薬分注操作は、まず、酵素試薬分注機構8のノズル8a先端にチップラック4a上にセットされたチップ4を取り付け、次に酵素試薬分注機構8のポンプ8bにて酵素試薬液を5μl吸引し、次にこの酵素試薬液を反応容器1に吐出することにより行われる。
混合操作は、前記操作の後、前記ノズル8aをこの混合液中に差し込んだまま、混合液を10μl吸引し、これを吐出する操作を繰り返すことにより行われる。
【0039】
次に、反応容器密閉操作が、移送台車及びこれに搭載された前記蓋キャッチ機構9により行われる(図6参照)。
反応容器密閉操作は、まず、蓋キャッチ機構9が蓋ラック3a上の蓋3を取り上げ、次にこの蓋3を反応容器1の上部開口部に取り付けることにより行われる。
【0040】
次に、インキュベーター6への移送操作が移送台車及びこれに搭載された前記蓋キャッチ機構9により行われる(図6参照)。
前記移送操作は、反応容器密閉操作の後、蓋キャッチ機構9が蓋3部を保持したまま反応容器1ごと上昇し、反応容器1をインキュベーター6へ搬送して装着することにより行われる。
【0041】
次に、容器遮光操作が、インキュベーター6の各ホルダ穴上部を覆うシャッター6bにより行われる(図12参照)。
容器遮光操作は、反応容器1がインキュベーター6に装着された後、直ちにシャッター6bを閉じることにより行う。シャッター6bは通常時は閉じていてインキュベーター6内は43℃にて保たれており、新たな反応容器1をインキュベーター6に装着する時と、検出後の反応容器1を反応容器ラック1aに搬送するときのみ開くように管理され、シャッター6bが閉じた状態のときに誤って反応容器1がインキュベーター6に搬入されることを防止する。
【0042】
次に、増幅・蛍光検出操作がインキュベーター6及び蛍光検出部7により行われる(図7参照)。
増幅操作は、反応容器1がインキュベーター6内に装着された後、43℃に保たれることで反応容器1内の核酸が増幅することにより行われる。
蛍光検出操作は、インキュベーター6の下部に接して設けられた蛍光検出部7により行われる。所定時間43℃に保たれた反応容器1について、シャッター6bが閉まった条件下で、下方から励起光を当て、そこから発する蛍光を分析することにより行う。この蛍光検出の結果がパソコンに表示され、プリンターにて出力される。
【0043】
次に、反応容器ラック1aへの移送(以下「戻し搬送」と記す。)操作が、蓋キャッチ機構9により行われる(図8参照)。
戻し搬送操作は、蛍光検出後、インキュベーター6のシャッター6bを開けて、蓋キャッチ機構9により反応容器1を反応容器ラック1aへ搬送し、元の位置に装着することにより行われる。
【0044】
以下に、本実施形態の特徴部分である各機構の作用についてについて詳しく説明する。
【0045】
図5(a)〜(d)に示すように、前記酵素試薬の分取・分注操作における酵素試薬分注機構8は、
(a)まず、チップラック4aのチップ4上に移動し、ノズル8aを下降させてノズル8a先端にチップ4を連結する。
(b)次に、酵素試薬容器ラック2aの酵素試薬容器2上に移動し、下降してチップ4先端を酵素試薬液に差し入れ、同液を5μlポンプ8bにて吸引する。
(c)次に、反応容器ラック1aの反応容器1上に移動し、下降してチップ4先端をTRC試薬ミックスと検体のサンプル液との混合液に差し入れ、同液中に前記酵素試薬5μlを吐出し、その後、この混合液を10μl吸引し、再びこれを吐出する操作を繰り返して混合液を撹拌する。
(d)次に、チップ廃棄部5上に移動し、空気圧によりチップ4をノズル8a先端から切り離して廃棄する。
【0046】
また、図6(a)〜(d)に示すように、前記反応容器蓋閉め・搬送操作における蓋キャッチ機構9は、
(a)まず、蓋ラック3aの蓋3上に移動し、爪部を開いて下降し、ロッド9a先端を蓋3上面に設けられた穴に挿入した後、爪部を閉じて蓋3を抱えて上昇する。
(b)次に、反応容器ラック1aの反応容器1上に移動し、下降して蓋3を反応容器1開口部に押し込んで蓋閉めを行う。
(c)次に、そのまま上昇し、密閉した反応容器1を抱えてインキュベーター6に搬送する。
(d)次に、インキュベーター6のホルダ穴上に移動し、下降して反応容器1をホルダ穴の台座6aに押し込み、爪部を開いて上昇する。
【0047】
また、図7に示すように、検出操作における蛍光検出部7は、1列に24個のホルダ穴を有し2列から成るインキュベーター6の各列に収容された反応容器1を下方より照射して、そこから発する蛍光により目標核酸の有無を検出するものである。LED7b、干渉フィルター7c、ダイクロイックミラー7d、PD(光検出器)7eを搭載した1台の計測ブロック7aが、ホルダ穴の列と平行に配置されたレール上を、図7の紙面に垂直方向に水平移動可能に設けられており、さらに、前記レールがホルダ穴の列に対応した2ポジションを図7の矢印方向に左右に水平移動可能に設けられている。
【0048】
また、図8(a)〜(c)に示すように、戻し搬送操作における蓋キャッチ機構9は、
(a)まず、インキュベーター6のホルダ穴上に移動し、爪部を開いて反応容器1位置に下降する。
(b)次に、ロッド9a先端を蓋3上面に設けられた穴に挿入した後、爪部を閉じて蓋3部で反応容器1を抱えて上昇する。
(c)次に、反応容器ラック1aの当該反応容器1がセットされていたホルダ穴上に移動し、下降して反応容器1を元のホルダ穴にセットし、爪部を開いて上昇する。
【0049】
以上、本実施形態の核酸検出装置の作用について説明したが、個々の装置の機能についてさらに詳しく説明する。
【0050】
図9にて、図5で説明した酵素試薬分注機構8のポンプ8bによる酵素試薬液面の検知方法について説明する。
まず、ポンプ8b内のシリンダピストン8cを吐出方向に動作させながらポンプ8bを降下させる。この動作中、常に圧力センサ8dでシリンダ内の圧力を監視しておく。この状態ではチップ4先端から空気が吐出し、シリンダ内の圧力はほぼ一定に保たれる。そして、チップ4先端が酵素試薬の液面に触れると、シリンダ内が密閉されることでシリンダ内の圧力が上昇する。この一定圧力以上の変化を捉えることで液面位置を検知する。
【0051】
図10にて、蓋3、反応容器1及びチップ4の検知方法について説明する。
移送装置10に設置された発信機10a(?)から発信されたレーザー光が、図10(a)、(b)、(c)に示すように蓋3、反応容器1及びチップ4により遮られ、受信機10bに届く光量に変化が生じる。これを検知することで蓋3、反応容器1及びチップ4が確実に保持されていることを確認し、次の操作に移行することで、誤操作防止、作業能率向上を図ることができる。
【0052】
図11にて、蓋3、反応容器1、チップ4及び酵素試薬容器2の架設検知方法について説明する。架設検知とは、これらの備品が各々の収納用ラックに収納されているかどうかを検知するものである。具体的手法としては、図11に示すように検知器10cのレーザー光を各備品に当てて、その反射光により備品の有無の検知を行う。
【0053】
この架設検知により、各備品がラック上に収納されていることを確認した後、酵素試薬分注機構8、蓋キャッチ機構9を下降させて前記各操作を行う。この架設検知により、備品のない状態での酵素試薬分注機構8、蓋キャッチ機構9の操作を防止することができ、誤操作防止、作業能率向上が図れる。
【0054】
図12にて、インキュベーター6のシャッター6b機構について説明する。
前記蓋キャッチ機構9にてインキュベーター6上部に搬送された反応容器1は、蓋キャッチ機構9の降下によりホルダ穴の一つに装入、固定される。その後、シャッター6bが閉められ、インキュベーター6内部はほぼ暗室とされる。
【0055】
シャッター6bは、電動モータ駆動のラックピニオン方式でスライド移動により開閉し、図12に示すように、48箇所のホルダ穴の開口部6cが同時に開閉される。シャッター6bは、通常閉じており、前記のように反応容器1がインキュベーター6上部に搬送されると開き、反応容器1がホルダ穴に収容されると再び閉じるという動作を繰り返す。その間、インキュベーター6内は常に43℃に保たれている。インキュベーター6は熱伝導性を考慮し、アルミブロックにて構成されるのが好ましい。
【0056】
インキュベーター6内に収納された反応容器1内では、43℃に保たれることで内部のサンプル液に標的となる核酸が存在していた場合は、その核酸が増幅され、図7に示すインキュベーター6下部の蛍光検出部7によって検出可能なレベルに達する。このような反応容器1については、シャッター6bにより遮光しほぼ暗室とした条件下で、下部から図7に示す経路で蛍光を測定することにより、標的となる核酸の存在を検出することができる。
【0057】
具体的には図7において、LED7bからの波長λ=470nmの励起光が第一の干渉フィルター7cを通り、第一のダイクロイックミラー7dで反射されて反応容器1の底部からサンプル液体を励起し、第一のダイクロイックミラー7dを通過した蛍光の内、第二のダイクロイックミラー7dで反射して第二の干渉フィルター7cを通り第一のPD7eに入る蛍光と、第二のダイクロイックミラー7dをも通過して第三の干渉フィルター7cを通り第二のPD7eに入る蛍光とに分かれ、これら第一のPD7eと第二のPD7eの蛍光の強度比を比較演算することで標的の核酸を検出する。
【0058】
以上説明したように、本発明の核酸検出装置では、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでの操作について、酵素試薬分注機構及び蓋キャッチ機構を設置することで、反応容器への酵素試薬の分注・混合、蓋の取り付けによる密閉、インキュベーターへの搬送を自動化し、さらに、検出後の反応容器ラックへの戻し搬送を自動化することで、TRC操作をさらに簡易化することができる。
【0059】
また、引き出し台車上に各備品のラックを設置して、引き出した状態でサンプル液の注入等の準備作業を行うことにより、検体や試薬による検出装置の汚染が防げるとともに、例えば、反応容器や酵素溶液容器のセッティングの際に分注機構が作動して、作業者の手を巻き込んだりすることが避けられ、安全性の向上を図ることができ、さらに、反応容器、酵素溶液容器、チップ、蓋を近い場所にまとめることで作業効率の向上を図ることができる。
【0060】
さらに、酵素試薬分注機構により酵素溶液を吸引し、試薬ミックス+サンプル液を収容する反応容器に吐出し、その混合物を吸引し、吐出する操作を繰り返すことで反応溶液の混合が可能となり、ボルテックス操作が不要になる。
【0061】
さらに、蓋キャッチ機構により、蓋の把持、反応容器の蓋閉め及び移動を確実に行うことで、作業効率の向上を図ることができる。
【0062】
さらに、検出後の反応容器を蓋キャッチ機構により反応容器ラックの元の位置に戻すことにより、測定し終えた反応容器が一目でわかり、装置の作動異常や試薬の分注不良、分注のし忘れ等が早期に判明するため、これら不具合の拡大を防止することができ、検査結果の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の核酸検出装置の一実施形態を示す組立斜視図である。
【図2】本発明の核酸検出装置の一実施形態を示す組立図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】本実施形態における検査の手順を示す図である。
【図4】本実施形態の引き出し台車の搭載物を示す図である。
【図5】本実施形態の酵素試薬の分取・分注操作の説明図である。
【図6】本実施形態の蓋閉め・搬送操作の説明図である。
【図7】本実施形態の蛍光検出部における検出操作の説明図である。
【図8】本実施形態の戻し搬送操作の説明図である。
【図9】本実施形態の酵素試薬分注機構の液面検知機構の説明図である。
【図10】本実施形態の蓋、反応容器、チップの検知機構の説明図である。
【図11】本実施形態の蓋、容器、チップの架設検知機構の説明図である。
【図12】本実施形態のインキュベーターのシャッター機構の説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 反応容器
1a 反応容器ラック
2 酵素試薬容器
2a 酵素試薬容器ラック
3 蓋
3a 蓋ラック
3b 凹部
4 チップ
4a チップラック
5 チップ廃棄部
6 インキュベーター
6a 台座
6b シャッター
6c 開口部
7 蛍光検出部
7a 計測ブロック
7b LED
7c 干渉フィルター
7d ダイクロイックミラー
7e PD(光検出器)
8 酵素試薬分注機構
8a ノズル
8b ポンプ
8c ピストン
8d 圧力センサ
9 蓋キャッチ機構
9a ロッド
9b 開閉式ハンド
10 移送装置
10a レーザー発信機
10b レーザー受信機
10c レーザー検知機
11 引き出し台車
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の検出を行う核酸検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の迅速検査法としてPCR法が普及している。標的核酸の増幅反応や増幅産物の検出という多段階に渡る操作の煩雑性は自動化によって克服されているものの、臨床検査の現場では、当日報告ができないなど、結果を得るまでの所要時間に不満も多い。リアルタイムPCRの臨床機器も登場し、今後普及していくと予想されるが、原理的に温度サイクルという物理量の変化を伴うPCR法では迅速化に自ずと限界がある。遺伝子検査の迅速化のため、一定温度の核酸増幅法が有利であるとの認識からTRC(Transcription Reverse-transcription Concerted reaction)法が開発された(特許文献1参照)。
【0003】
TRC法は、TRC反応とINAFプローブ(Intercalation Activating Fluorescence probe)を組合せたRNA増幅のリアルタイム検出法である。TRC反応では、一定温度下で逆転写酵素とRNAポリメラーゼが協奏的に作用して逆転写反応と転写反応のサイクルを形成し、指数関数的なRNAの複写増幅が速やかに達成される。INAFプローブは増幅RNAと特異的に相補結合したときに蛍光増感を示すことから、TRC反応の初期段階から共存させておけば、RNAの複写増幅をリアルタイムにモニターすることが可能となる。
【0004】
TRC法は、標的RNAの「トリミング」、「増幅サイクル」、「測定」の3つの工程から構成される。すべての反応工程は、一定温度下(例えば、43℃)、1本の密閉容器内で連続的かつ同時並行で進行する。以下、各工程について詳述する。
【0005】
(1) トリミング
標的RNAの特定位置にDNAオリゴマー(シザープローブ)が結合する。逆転写酵素のRNaseH活性によってDNA-RNAハイブリッド部位のRNAを消化し、これにより標的RNAは増幅領域の5'末端でトリミングされる。
【0006】
(2) 増幅サイクル
5'末端がトリミングされたRNAは、逆転写反応と転写反応が協奏的に進む増幅工程に入る。まず、アンチセンス・プライマーを起点としたDNA相補鎖の伸長とRNaseH活性による標的RNAの消化により、cDNAが合成される(逆転写反応)。このとき、cDNAの3'末端は前工程でトリミングされた標的RNAの5'末端に一致することになる。このcDNAの3'末端にプロモーター・プライマーが結合し、両鎖の伸長反応によって二本鎖DNAが合成される。この二本鎖DNAはリーディング鎖の5'末端にT7プロモーター配列を持つことから、T7 RNA ポリメラーゼの作用により標的と相同的なRNAが次々と転写合成されていく(転写反応)。
合成されたRNAの各々は、新たなcDNA合成およびそれに続く二本鎖DNA合成の鋳型となることから、増幅サイクルが形成され、RNAの指数関数的な増幅が進行していく。
【0007】
(3) 検出
増幅されたRNAの一部はINAFプローブと特異的に結合する。INAFプローブは、インターカレーター性蛍光色素がリンカーを介してオリゴヌクレオチド鎖リン酸ジエステルのリン原子に結合した構造をとる。水溶液中でフリーのINAFプローブは水分子の衝突により蛍光が消光された状態にある。標的核酸と結合すると、蛍光色素が二本鎖内にインターカレーションして衝突消光を逃れ、本来の蛍光特性が発揮されるようになり、蛍光強度が増加する。したがって、TRC反応を通して経時的に蛍光計測することでインターカレーションした蛍光色素の量を通じてRNA増幅量をリアルタイムに追跡できる。さらに、インターカレーターの種類を変えることによって異なる蛍光波長での同時測定が可能であり、内部標準および複数項目の同時測定への適用が可能となる。
以上のように、TRC法は、RNA増幅・検出を一定温度・一段階で、かつ一本の密閉容器内で実現する新しい遺伝子検査法である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−014400号公報
【非特許文献1】保川清、医学の歩み、206(8),479-483,2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TRC 法の操作は、基質試薬とプライマー試薬を等量混合した試薬ミックスに抽出RNAを添加してからプレインキュベーションし(トリミング工程(1))、その反応系に酵素試薬を添加し、所定温度・所定時間インキュベーションし(増幅工程(2))、その後蛍光強度の増大を測定する(検出工程(3))、ことで結果を得ることができる。現在、このTRC 法の操作の簡易化を図るため、前記試薬ミックスに抽出RNAを添加し、プレインキュベーションしてから酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでをマニュアル操作で行い、インキュベーターでのインキュベーション及び蛍光検出工程は自動化されている(例えば非特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、現状の工程では、酵素試薬の添加、反応容器の密閉、インキュベーターへのセットについては依然マニュアル操作で行っているため、作業の確実性や作業能率に問題が残っていた。また、検出装置上で反応容器にサンプル液やTRC試薬ミックスの注入等の準備作業を行うことにより、検体や試薬が検出装置に飛び散ることによる汚染の危険があった。
【0011】
また、蛍光検出後の反応容器について、測定し終えた反応容器がインキュベーター内に残っているため、未測定の反応容器との区別に注意を必要としていた。
【0012】
本発明は、これら問題点を解決し、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加しインキュベーターにセットするまでの操作を自動化することで、TRC操作をさらに簡易化することができ、かつ、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性及び作業効率の向上を図ることができ、検査結果の信頼性を高めることができる核酸検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、酵素試薬の分注のためのディスポーザブルピペットチップ(以下、単に「チップ」と記す。)を複数個載置したチップラックと、前記酵素試薬を含有する容器を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラックと、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器を複数個載置した反応容器ラックと、前記チップを用い、前記酵素試薬を含有する容器の酵素試薬を所定量吸引し、対応する前記反応容器に当該酵素試薬を吐出し、その後当該使用済みのチップを廃棄するための酵素試薬分注機構と、前記使用済みのチップを受容するためのチップ廃棄部と、前記反応容器の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋を複数個載置した蓋ラックと、前記反応容器を収容し、前記反応容器を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター部と、前記反応容器を前記蓋により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器ごと前記インキュベーター部にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構と、前記反応容器内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部と、を備えたことを特徴とする。これにより、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでの操作が自動化され、TRC操作がさらに簡易化される。
【0014】
請求項2の発明は、前記チップラック、前記酵素試薬容器ラック、前記反応容器ラック、前記チップ廃棄部及び前記蓋ラックは、同一の引き出し台車に設置されており、該引き出し台車は、前記酵素試薬分注機構及び前記反応容器蓋閉め・移動機構の可動範囲の内側から外側まで移動可能であることを特徴とする。これにより、反応容器や酵素溶液容器のセッティングを検出器とは離れた箇所で行うことができ、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性の向上が図れ、反応容器、酵素溶液容器、チップ、蓋を近い場所にまとめることで作業効率の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3の発明は、前記酵素試薬分注機構が前記酵素試薬を吸引し、試薬ミックス及びサンプル液を含む反応容器に吐出した後、その混合物の吸引、吐出操作が反復可能であることを特徴とする。これにより、ボルテックス操作が不要になる。
【0016】
請求項4の発明は、前記蓋が上部に凹部を有し、前記反応容器蓋閉め・移動機構が、前記蓋の上部の凹部に嵌合する先端部を有するロッド部と、つめ部を有する2本以上の開閉式ハンドとを含む蓋保持手段を備え、前記ロッド部を前記蓋の前記凹部に差込み、かつ開閉式ハンドを閉状態にすることでつめ部が前記蓋の側部を把持し、該蓋を前記反応容器の上面開口部に嵌挿嵌合し、前記反応容器を前記蓋とともに移動させることを特徴とする。これにより、前記反応容器の確実な蓋閉めと、反応容器の移動を簡易な装置にて可能とする。
【0017】
請求項5の発明は、前記反応容器は、前記インキュベーター部で蛍光測定された後、前記反応容器蓋閉め・移動機構により、反応容器ラック部の元の設置位置に戻されることを特徴とする。これにより、測定し終えたものが一目でわかり、装置の作動に異常があった場合や、試薬の分注不良、分注のし忘れが一目でわかり、検査結果の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の核酸検出装置では、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加しインキュベーターにセットするまでの操作を自動化することで、TRC法の操作をさらに簡易化することができる。
さらに、検体や試薬による検出器の汚染が防げるとともに、安全性及び作業効率の向上を図ることができ、検査結果の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の核酸検出装置の一実施形態について図に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の組立斜視図であり、図2は概略組立図である。
前後に水平移動可能な引き出し台車11に、酵素試薬の分注のためのチップ4を複数個載置したチップラック4aと、反応容器1の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋3を複数個載置した蓋ラック3aと、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する容器を複数個載置した反応容器ラック1aと、酵素試薬を含有する容器2を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラック2aと、使用済みのチップ4を受容するためのチップ廃棄部5と、が図1、2に示すように隣接して配置されている。
【0020】
さらに、この引き出し台車11の前後ストロークの後端側に隣接して、反応容器1を収容し、反応容器1を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター6が配置され、その下方に接して、反応容器1内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置されている。
【0021】
これらの各容器ラック、チップ廃棄部5及びインキュベーター6の上方をX軸及びY軸方向に水平移動可能に配設された移送装置10上に、チップ4を用い、酵素試薬容器2aの酵素試薬を所定量吸引し、対応する反応容器1の上方に移動し、酵素試薬を反応容器1に吐出し、その後使用済みのチップ4を廃棄するための酵素試薬分注機構8と、反応容器1を蓋3により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器1ごと前記インキュベーター6にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構(以下、「蓋キャッチ機構」と記す。)9と、が設置されている。
【0022】
コントローラ部にはパソコン、プリンターが備えられている。
【0023】
次に、個々の装置の構成について説明する。
図1、図2及び図4に示すように、引き出し台車11に搭載されたチップラック4aは、酵素試薬の分注のためのチップ4を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦8列、横12列に並んでおり最大96本のチップ4を載置することが可能である。チップ4は細い円錐の外形であって、円錐の頂点から底面まで貫通孔が設けられた樹脂製の管であって、チップラック4aの各ホルダ穴に先端(頂点側)を下にしてセットされる。
【0024】
チップラック4aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載された蓋ラック3aは、反応容器1の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋3を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦12列、横8列に並んでおり最大96本の蓋3を載置することが可能である。蓋3は横断面が円形で、縦断面が図6(a)に示すように上部に凹部及びフランジ部を有するゴム製キャップであり、蓋ラック3aの各ホルダ穴に凹部を上にして、フランジ部を利用して垂直にセットされる。
【0025】
同じく蓋ラック3aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載された反応容器ラック1aは、標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器1を載置するためのラックであって、ホルダ穴が縦8列、横6列に並んでおり最大48本の反応容器1を載置することが可能である。反応容器1は略円錐の外形の底面に開口部を有する樹脂製容器であって、反応容器ラック1aの各ホルダ穴に開口部を上にしてセットされる。
【0026】
同じく反応容器ラック1aの手前側に隣接して引き出し台車11に搭載された酵素試薬容器ラック2aは、酵素試薬を含有する容器を載置するためのラックであって、ホルダ穴が3個横1列に並んでおり最大3本の酵素試薬容器2を載置することが可能である。酵素試薬容器2は略円筒の外形の底面に開口部を有する樹脂製容器であって、開口部を上にして酵素試薬容器ラック2aの各ホルダ穴に開口部を上にしてセットされる。
【0027】
同じく反応容器ラック1aの右側に隣接して引き出し台車11に搭載されたチップ廃棄部5は、反応容器1に酵素試薬容器2から酵素試薬を分注した後のチップ4を廃棄するための容器用スペースである。このように、廃棄ボックスを反応容器1の近くに配置することで、チップ4の液だれなどによる装置汚染及び環境汚染を最小限にできる。
【0028】
次に、引き出し台車11に隣接して奥側の固定部に設けられた検出部の構成について説明する。検出部は上部のインキュベーター6とその下部に設けられた蛍光検出部7からなる。
インキュベーター6は反応容器1を収容し、反応容器1を所定時間、所定温度に保つ恒温器である。1列あたり24個のホルダ穴が横2列に配置され、最大48個の反応容器1の収容が可能である。ホルダ穴の上部には、後述する蛍光による検出時にホルダ穴内をほぼ暗室とするべくシャッター6bが設置されている。
【0029】
このインキュベーター6の下方に接して、反応容器1内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部7が配置されている。蛍光検出部7では、43℃で恒温状態とした反応容器1内に増幅された核酸について、シャッター6bを閉じてほぼ暗室として蛍光による検出を行う。λ=470nmのLED7B1台と2台のPD7Eを搭載した蛍光検出器が左右方向に設置したレール上を走査可能であり、さらに図示しないシフト装置により該レール自体が前後2箇所に水平移動可能に設けられており、前後2列48本の反応容器1の蛍光検出が可能となっている。
【0030】
次に、引き出し台車11上の各ラック及びチップ廃棄部5と、この後方に設置されたインキュベーター6の上方に移動可能に設けられた酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9について説明する。
両者は共に図1、図2(a)に示す移送装置10に組みつけられており、前記範囲を移動可能となっている。移送装置10はラックピニオン式でX−Y方向に取付け台を水平移動可能としたものであり、取付け台に取り付けられた酵素試薬分注機構8と、蓋キャッチ機構9とは各々Z軸方向に垂直移動する機構を備えている。
【0031】
酵素試薬分注機構8は、図9に示すように、昇降機構と、前記チップ4を先端に装着するためのノズル8aと、酵素試薬容器2の酵素試薬を所定量吸引し、対応の反応容器1の上方に移動して該酵素試薬を吐出、混合するためのポンプ8bおよび圧力センサ8dを備えている。
【0032】
蓋キャッチ機構9は、図6に示すように、昇降機構と、蓋3を蓋ラック3aから取り上げる際、及び反応容器1に蓋3を取り付ける際、蓋3の上部の凹部3bに嵌合するロッド9aと、蓋3の保持と蓋閉めした反応容器1の保持を行うつめ部付き開閉式ハンド9bと、からなる蓋3保持手段とを備えている。
【0033】
以下に前記構成による核酸検出装置の検査方法について説明する。
まず、検査の概略の流れについて図2、3、4で説明する。
図3は検査手順を示す図であり、右下の太線で囲まれた部分が前記構成において自動化された部分である。まず、引き出し台車11を図4に示すように、手前の前進限まで引き出してロックする。これにより、引き出し台車11は、移送装置10のY軸移送用レール架台の可動範囲から完全に外れるように設定されており、万一、移送装置10が誤作動により引き出し台車11の元位置に接近しても、移送装置10と作業者及び検査用器具等との干渉が避けられるため、作業の安全性を確保することができるように構成される。
【0034】
次に引き出し台車11上の反応容器ラック1aにセットされた反応容器1に、TRC試薬調製により得られたTRC試薬ミックス20μlと、検体を前処理及び核酸抽出処理して得られたサンプル液5μlとを手動にて分注する。反応容器ラック1aには最大48本の反応容器1をセットすることができる。なお、前記サンプル液を得るための前処理及び核酸抽出処理は、汚染のリスクを避けるために別のエリアで行う。
【0035】
そして、TRC酵素試薬を分注した酵素試薬容器2を酵素試薬容器ラック2aにセットする。この酵素試薬容器2は最大3本までセット可能であり、一度に最大3種類のTRC酵素試薬による3項目の核酸検出が可能である。
【0036】
さらに、チップラック4a及び蓋ラック3aにチップ4及び蓋3をセットする。チップラック4aには最大96本のチップ4が、蓋ラック3aには最大96個の蓋3がセット可能である。実際の核酸検出試験においては、検出すべき反応容器1の数に、取り付け不良分を見込んだ予備分の数を加えた数以上のチップ4及び蓋3をセットする必要がある。
【0037】
このように準備した後、引き出し台車11を後退限まで戻し、核酸検出装置の自動検出モードのスタートスイッチを押す。これにより、図3の太線部分の操作が自動にて行われる。以下この自動操作について説明する。
【0038】
まず、酵素試薬分注・混合操作が、移送台車及びこれに搭載された酵素試薬分注機構8により行われる(図5参照)。
酵素試薬分注操作は、まず、酵素試薬分注機構8のノズル8a先端にチップラック4a上にセットされたチップ4を取り付け、次に酵素試薬分注機構8のポンプ8bにて酵素試薬液を5μl吸引し、次にこの酵素試薬液を反応容器1に吐出することにより行われる。
混合操作は、前記操作の後、前記ノズル8aをこの混合液中に差し込んだまま、混合液を10μl吸引し、これを吐出する操作を繰り返すことにより行われる。
【0039】
次に、反応容器密閉操作が、移送台車及びこれに搭載された前記蓋キャッチ機構9により行われる(図6参照)。
反応容器密閉操作は、まず、蓋キャッチ機構9が蓋ラック3a上の蓋3を取り上げ、次にこの蓋3を反応容器1の上部開口部に取り付けることにより行われる。
【0040】
次に、インキュベーター6への移送操作が移送台車及びこれに搭載された前記蓋キャッチ機構9により行われる(図6参照)。
前記移送操作は、反応容器密閉操作の後、蓋キャッチ機構9が蓋3部を保持したまま反応容器1ごと上昇し、反応容器1をインキュベーター6へ搬送して装着することにより行われる。
【0041】
次に、容器遮光操作が、インキュベーター6の各ホルダ穴上部を覆うシャッター6bにより行われる(図12参照)。
容器遮光操作は、反応容器1がインキュベーター6に装着された後、直ちにシャッター6bを閉じることにより行う。シャッター6bは通常時は閉じていてインキュベーター6内は43℃にて保たれており、新たな反応容器1をインキュベーター6に装着する時と、検出後の反応容器1を反応容器ラック1aに搬送するときのみ開くように管理され、シャッター6bが閉じた状態のときに誤って反応容器1がインキュベーター6に搬入されることを防止する。
【0042】
次に、増幅・蛍光検出操作がインキュベーター6及び蛍光検出部7により行われる(図7参照)。
増幅操作は、反応容器1がインキュベーター6内に装着された後、43℃に保たれることで反応容器1内の核酸が増幅することにより行われる。
蛍光検出操作は、インキュベーター6の下部に接して設けられた蛍光検出部7により行われる。所定時間43℃に保たれた反応容器1について、シャッター6bが閉まった条件下で、下方から励起光を当て、そこから発する蛍光を分析することにより行う。この蛍光検出の結果がパソコンに表示され、プリンターにて出力される。
【0043】
次に、反応容器ラック1aへの移送(以下「戻し搬送」と記す。)操作が、蓋キャッチ機構9により行われる(図8参照)。
戻し搬送操作は、蛍光検出後、インキュベーター6のシャッター6bを開けて、蓋キャッチ機構9により反応容器1を反応容器ラック1aへ搬送し、元の位置に装着することにより行われる。
【0044】
以下に、本実施形態の特徴部分である各機構の作用についてについて詳しく説明する。
【0045】
図5(a)〜(d)に示すように、前記酵素試薬の分取・分注操作における酵素試薬分注機構8は、
(a)まず、チップラック4aのチップ4上に移動し、ノズル8aを下降させてノズル8a先端にチップ4を連結する。
(b)次に、酵素試薬容器ラック2aの酵素試薬容器2上に移動し、下降してチップ4先端を酵素試薬液に差し入れ、同液を5μlポンプ8bにて吸引する。
(c)次に、反応容器ラック1aの反応容器1上に移動し、下降してチップ4先端をTRC試薬ミックスと検体のサンプル液との混合液に差し入れ、同液中に前記酵素試薬5μlを吐出し、その後、この混合液を10μl吸引し、再びこれを吐出する操作を繰り返して混合液を撹拌する。
(d)次に、チップ廃棄部5上に移動し、空気圧によりチップ4をノズル8a先端から切り離して廃棄する。
【0046】
また、図6(a)〜(d)に示すように、前記反応容器蓋閉め・搬送操作における蓋キャッチ機構9は、
(a)まず、蓋ラック3aの蓋3上に移動し、爪部を開いて下降し、ロッド9a先端を蓋3上面に設けられた穴に挿入した後、爪部を閉じて蓋3を抱えて上昇する。
(b)次に、反応容器ラック1aの反応容器1上に移動し、下降して蓋3を反応容器1開口部に押し込んで蓋閉めを行う。
(c)次に、そのまま上昇し、密閉した反応容器1を抱えてインキュベーター6に搬送する。
(d)次に、インキュベーター6のホルダ穴上に移動し、下降して反応容器1をホルダ穴の台座6aに押し込み、爪部を開いて上昇する。
【0047】
また、図7に示すように、検出操作における蛍光検出部7は、1列に24個のホルダ穴を有し2列から成るインキュベーター6の各列に収容された反応容器1を下方より照射して、そこから発する蛍光により目標核酸の有無を検出するものである。LED7b、干渉フィルター7c、ダイクロイックミラー7d、PD(光検出器)7eを搭載した1台の計測ブロック7aが、ホルダ穴の列と平行に配置されたレール上を、図7の紙面に垂直方向に水平移動可能に設けられており、さらに、前記レールがホルダ穴の列に対応した2ポジションを図7の矢印方向に左右に水平移動可能に設けられている。
【0048】
また、図8(a)〜(c)に示すように、戻し搬送操作における蓋キャッチ機構9は、
(a)まず、インキュベーター6のホルダ穴上に移動し、爪部を開いて反応容器1位置に下降する。
(b)次に、ロッド9a先端を蓋3上面に設けられた穴に挿入した後、爪部を閉じて蓋3部で反応容器1を抱えて上昇する。
(c)次に、反応容器ラック1aの当該反応容器1がセットされていたホルダ穴上に移動し、下降して反応容器1を元のホルダ穴にセットし、爪部を開いて上昇する。
【0049】
以上、本実施形態の核酸検出装置の作用について説明したが、個々の装置の機能についてさらに詳しく説明する。
【0050】
図9にて、図5で説明した酵素試薬分注機構8のポンプ8bによる酵素試薬液面の検知方法について説明する。
まず、ポンプ8b内のシリンダピストン8cを吐出方向に動作させながらポンプ8bを降下させる。この動作中、常に圧力センサ8dでシリンダ内の圧力を監視しておく。この状態ではチップ4先端から空気が吐出し、シリンダ内の圧力はほぼ一定に保たれる。そして、チップ4先端が酵素試薬の液面に触れると、シリンダ内が密閉されることでシリンダ内の圧力が上昇する。この一定圧力以上の変化を捉えることで液面位置を検知する。
【0051】
図10にて、蓋3、反応容器1及びチップ4の検知方法について説明する。
移送装置10に設置された発信機10a(?)から発信されたレーザー光が、図10(a)、(b)、(c)に示すように蓋3、反応容器1及びチップ4により遮られ、受信機10bに届く光量に変化が生じる。これを検知することで蓋3、反応容器1及びチップ4が確実に保持されていることを確認し、次の操作に移行することで、誤操作防止、作業能率向上を図ることができる。
【0052】
図11にて、蓋3、反応容器1、チップ4及び酵素試薬容器2の架設検知方法について説明する。架設検知とは、これらの備品が各々の収納用ラックに収納されているかどうかを検知するものである。具体的手法としては、図11に示すように検知器10cのレーザー光を各備品に当てて、その反射光により備品の有無の検知を行う。
【0053】
この架設検知により、各備品がラック上に収納されていることを確認した後、酵素試薬分注機構8、蓋キャッチ機構9を下降させて前記各操作を行う。この架設検知により、備品のない状態での酵素試薬分注機構8、蓋キャッチ機構9の操作を防止することができ、誤操作防止、作業能率向上が図れる。
【0054】
図12にて、インキュベーター6のシャッター6b機構について説明する。
前記蓋キャッチ機構9にてインキュベーター6上部に搬送された反応容器1は、蓋キャッチ機構9の降下によりホルダ穴の一つに装入、固定される。その後、シャッター6bが閉められ、インキュベーター6内部はほぼ暗室とされる。
【0055】
シャッター6bは、電動モータ駆動のラックピニオン方式でスライド移動により開閉し、図12に示すように、48箇所のホルダ穴の開口部6cが同時に開閉される。シャッター6bは、通常閉じており、前記のように反応容器1がインキュベーター6上部に搬送されると開き、反応容器1がホルダ穴に収容されると再び閉じるという動作を繰り返す。その間、インキュベーター6内は常に43℃に保たれている。インキュベーター6は熱伝導性を考慮し、アルミブロックにて構成されるのが好ましい。
【0056】
インキュベーター6内に収納された反応容器1内では、43℃に保たれることで内部のサンプル液に標的となる核酸が存在していた場合は、その核酸が増幅され、図7に示すインキュベーター6下部の蛍光検出部7によって検出可能なレベルに達する。このような反応容器1については、シャッター6bにより遮光しほぼ暗室とした条件下で、下部から図7に示す経路で蛍光を測定することにより、標的となる核酸の存在を検出することができる。
【0057】
具体的には図7において、LED7bからの波長λ=470nmの励起光が第一の干渉フィルター7cを通り、第一のダイクロイックミラー7dで反射されて反応容器1の底部からサンプル液体を励起し、第一のダイクロイックミラー7dを通過した蛍光の内、第二のダイクロイックミラー7dで反射して第二の干渉フィルター7cを通り第一のPD7eに入る蛍光と、第二のダイクロイックミラー7dをも通過して第三の干渉フィルター7cを通り第二のPD7eに入る蛍光とに分かれ、これら第一のPD7eと第二のPD7eの蛍光の強度比を比較演算することで標的の核酸を検出する。
【0058】
以上説明したように、本発明の核酸検出装置では、従来マニュアルで行っていた酵素試薬を添加し、インキュベーターにセットするまでの操作について、酵素試薬分注機構及び蓋キャッチ機構を設置することで、反応容器への酵素試薬の分注・混合、蓋の取り付けによる密閉、インキュベーターへの搬送を自動化し、さらに、検出後の反応容器ラックへの戻し搬送を自動化することで、TRC操作をさらに簡易化することができる。
【0059】
また、引き出し台車上に各備品のラックを設置して、引き出した状態でサンプル液の注入等の準備作業を行うことにより、検体や試薬による検出装置の汚染が防げるとともに、例えば、反応容器や酵素溶液容器のセッティングの際に分注機構が作動して、作業者の手を巻き込んだりすることが避けられ、安全性の向上を図ることができ、さらに、反応容器、酵素溶液容器、チップ、蓋を近い場所にまとめることで作業効率の向上を図ることができる。
【0060】
さらに、酵素試薬分注機構により酵素溶液を吸引し、試薬ミックス+サンプル液を収容する反応容器に吐出し、その混合物を吸引し、吐出する操作を繰り返すことで反応溶液の混合が可能となり、ボルテックス操作が不要になる。
【0061】
さらに、蓋キャッチ機構により、蓋の把持、反応容器の蓋閉め及び移動を確実に行うことで、作業効率の向上を図ることができる。
【0062】
さらに、検出後の反応容器を蓋キャッチ機構により反応容器ラックの元の位置に戻すことにより、測定し終えた反応容器が一目でわかり、装置の作動異常や試薬の分注不良、分注のし忘れ等が早期に判明するため、これら不具合の拡大を防止することができ、検査結果の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の核酸検出装置の一実施形態を示す組立斜視図である。
【図2】本発明の核酸検出装置の一実施形態を示す組立図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】本実施形態における検査の手順を示す図である。
【図4】本実施形態の引き出し台車の搭載物を示す図である。
【図5】本実施形態の酵素試薬の分取・分注操作の説明図である。
【図6】本実施形態の蓋閉め・搬送操作の説明図である。
【図7】本実施形態の蛍光検出部における検出操作の説明図である。
【図8】本実施形態の戻し搬送操作の説明図である。
【図9】本実施形態の酵素試薬分注機構の液面検知機構の説明図である。
【図10】本実施形態の蓋、反応容器、チップの検知機構の説明図である。
【図11】本実施形態の蓋、容器、チップの架設検知機構の説明図である。
【図12】本実施形態のインキュベーターのシャッター機構の説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 反応容器
1a 反応容器ラック
2 酵素試薬容器
2a 酵素試薬容器ラック
3 蓋
3a 蓋ラック
3b 凹部
4 チップ
4a チップラック
5 チップ廃棄部
6 インキュベーター
6a 台座
6b シャッター
6c 開口部
7 蛍光検出部
7a 計測ブロック
7b LED
7c 干渉フィルター
7d ダイクロイックミラー
7e PD(光検出器)
8 酵素試薬分注機構
8a ノズル
8b ポンプ
8c ピストン
8d 圧力センサ
9 蓋キャッチ機構
9a ロッド
9b 開閉式ハンド
10 移送装置
10a レーザー発信機
10b レーザー受信機
10c レーザー検知機
11 引き出し台車
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素試薬の分注のためのディスポーザブルピペットチップを複数個載置したチップラックと、
前記酵素試薬を含有する容器を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラックと、
標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器を複数個載置した反応容器ラックと、
前記ディスポーザブルピペットチップを用い、前記酵素試薬を含有する容器の酵素試薬を所定量吸引し、対応する前記反応容器に当該酵素試薬を吐出し、その後当該使用済みの前記ディスポーザブルピペットチップを廃棄するための酵素試薬分注機構と、
前記使用済みのディスポーザブルピペットチップを受容するためのディスポーザブルピペットチップ廃棄部と、
前記反応容器の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋を複数個載置した蓋ラックと、
前記反応容器を収容し、前記反応容器を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター部と、
前記反応容器を前記蓋により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器ごと前記インキュベーター部にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構と、
前記反応容器内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部と、
を備えた核酸検出装置。
【請求項2】
前記チップラック、前記酵素試薬容器ラック、前記反応容器ラック、前記ディスポーザブルピペットチップ廃棄部及び前記蓋ラックは、同一の引き出し台車に設置されており、該引き出し台車は、前記酵素試薬分注機構及び前記反応容器蓋閉め・移動機構の可動範囲の内側から外側まで移動可能であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸検出装置。
【請求項3】
前記酵素試薬分注機構は、前記酵素試薬を吸引し、試薬ミックス及びサンプル液を含む反応容器に吐出した後、その混合物の吸引、吐出操作が反復可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の核酸検出装置。
【請求項4】
前記蓋は上部に凹部を有し、前記反応容器蓋閉め・移動機構は、前記凹部に嵌合する先端部を有するロッド部と、つめ部を有する2本以上の開閉式ハンドとを含む蓋保持手段を備え、前記ロッド部を前記蓋の前記凹部に差込み、かつ開閉式ハンドを閉状態にすることでつめ部が前記蓋の側部を把持し、該蓋を前記反応容器の上面開口部に嵌挿嵌合し、前記反応容器を前記蓋とともに移動させることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の核酸検出装置。
【請求項5】
前記反応容器は、前記インキュベーター部で蛍光測定された後、前記反応容器蓋閉め・移動機構により、反応容器ラック部の元の設置位置に戻されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の核酸検出装置。
【請求項1】
酵素試薬の分注のためのディスポーザブルピペットチップを複数個載置したチップラックと、
前記酵素試薬を含有する容器を1又は複数個載置した酵素試薬容器ラックと、
標的核酸を含有すると疑われるサンプル液と、基質試薬及びプライマー試薬を混合した試薬ミックスとを含む、上面開口部を有する反応容器を複数個載置した反応容器ラックと、
前記ディスポーザブルピペットチップを用い、前記酵素試薬を含有する容器の酵素試薬を所定量吸引し、対応する前記反応容器に当該酵素試薬を吐出し、その後当該使用済みの前記ディスポーザブルピペットチップを廃棄するための酵素試薬分注機構と、
前記使用済みのディスポーザブルピペットチップを受容するためのディスポーザブルピペットチップ廃棄部と、
前記反応容器の上面開口部と嵌挿嵌合可能な蓋を複数個載置した蓋ラックと、
前記反応容器を収容し、前記反応容器を所定時間、所定温度でインキュベートするためのインキュベーター部と、
前記反応容器を前記蓋により蓋閉めし、当該蓋閉めした反応容器ごと前記インキュベーター部にまで移動させる反応容器蓋閉め・移動機構と、
前記反応容器内の反応系の蛍光測定を行うための蛍光検出部と、
を備えた核酸検出装置。
【請求項2】
前記チップラック、前記酵素試薬容器ラック、前記反応容器ラック、前記ディスポーザブルピペットチップ廃棄部及び前記蓋ラックは、同一の引き出し台車に設置されており、該引き出し台車は、前記酵素試薬分注機構及び前記反応容器蓋閉め・移動機構の可動範囲の内側から外側まで移動可能であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸検出装置。
【請求項3】
前記酵素試薬分注機構は、前記酵素試薬を吸引し、試薬ミックス及びサンプル液を含む反応容器に吐出した後、その混合物の吸引、吐出操作が反復可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載の核酸検出装置。
【請求項4】
前記蓋は上部に凹部を有し、前記反応容器蓋閉め・移動機構は、前記凹部に嵌合する先端部を有するロッド部と、つめ部を有する2本以上の開閉式ハンドとを含む蓋保持手段を備え、前記ロッド部を前記蓋の前記凹部に差込み、かつ開閉式ハンドを閉状態にすることでつめ部が前記蓋の側部を把持し、該蓋を前記反応容器の上面開口部に嵌挿嵌合し、前記反応容器を前記蓋とともに移動させることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の核酸検出装置。
【請求項5】
前記反応容器は、前記インキュベーター部で蛍光測定された後、前記反応容器蓋閉め・移動機構により、反応容器ラック部の元の設置位置に戻されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の核酸検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−77639(P2009−77639A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248009(P2007−248009)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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