説明

核酸検査装置

【課題】複数の温調ブロックを外周上に保持する保持具ベースと、その保持具ベースを温調する温度制御装置としての二次冷却機構を設けた核酸増幅装置において、温度制御安定性に優れ、より小型で消費電力や排熱量の低減された二次冷却機構を搭載した核酸増幅装置及びそれを用いた核酸検査装置を提供する。
【解決手段】検体と試薬を混合した反応液の核酸を増幅させる核酸増幅装置において、保持具ベース4に設けた少なくとも1つの反応容器105を保持する複数の温調ブロック10において、保持具ベース4内の温度斑を最小限に収めるため、連続的に反応容器105を架設するおよび温調を開始する温調ブロック10の順番やタイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来の検体を対象とする核酸検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体由来の検体中に含まれる核酸の検査を行う際に用いられる核酸増幅技術としては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;以下、PCRと称する)法のように、検体と試薬を混合した反応液の温度を予め定められた条件に従って制御することにより、目的の塩基配列を特異的に増幅させる方法があり、微量の核酸を高感度で検出することができる。同様に、その他の核酸増幅技術としては、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法のように、反応液を一定温度に制御することにより増幅する、恒温核酸増幅法などが知られている。このような核酸増幅法においては、その測定項目(増幅対象の塩基配列)によって用いる試薬や温度,時間などの様々な条件(プロトコル)が異なっている。
【0003】
このような核酸増幅に関する従来技術としては、例えば、実験の対象となる反応液が注入される槽領域を有する円盤状のマイクロチップを搭載し、マイクロチップをステージと平行に周方向へ回転させて所望の位置に合わせた後、蓋部材でマイクロチップをステージ側へ押し込んで、マイクロチップの槽領域をステージの周方向に複数設けられ異なる温度に設定された伝熱部に接触させることにより、槽領域の温度を制御する温度制御装置が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、上記特許文献1記載の従来技術においては、一度に対応できる測定項目は1種類であり、測定項目の異なる複数種類の検体を並行して処理するような並列処理には対応できない。また、同一の測定項目を対象とした検体であっても開始時間の異なる処理を行うことができないので、実行中の処理が終了するまでは別検体の処理を新たに開始することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−185389号公報
【特許文献2】特願2010−106953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、核酸増幅においては、測定項目が異なる複数種類の検体を並行して処理する場合には、各測定項目のプロトコル、すなわち設定温度とその温度の保持時間などの温度制御手順に規定される温度およびその時間を測定項目毎に設定する必要がある。
【0006】
複数のペルチェ素子による温度調整装置を用いて、円板形状の保持具ベースの外周に設けられた複数の温調ブロック上の反応容器中の反応液の温度を個別に調整することにより、測定項目の異なる複数種類の検体を並列処理することが可能となり、且つ、実行中の処理があっても別検体の処理を開始することも考えうる。
【0007】
しかしながら、前記保持具ベースの外周の隣接しあう前記複数の温調ブロックで同一方向の温調(例えば温度上昇)を行うと、各温調ブロックからの排熱により、前記保持具ベース内の温度分布斑が大きくなる可能性がある。例えば局所的に温度上昇が発生する、などである。このような前記保持具ベースの大きな温度斑を解消するためには、前記保持具ベースの温度を一定範囲に保つための高性能な二次冷却機構をそなえるか、もしくは各保持具の間隔を温度分布斑がある目標値以下となる位置まで離さなければならない。二次冷却機構の高性能化を図るためには、より大型で、消費電力が大きく、排熱量が多いなどの懸念があり、同様に保持具間距離を多くした場合にも結果として機構が大きくなり、装置に搭載するには不利な機構となることが考えられる。本発明は上記に鑑みてなされたものであり、より小型で、個々の反応容器に対して安定した温度制御を実現した核酸増幅装置及びそれを用いた核酸検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、検体と試薬を混合した反応液の核酸を増幅させる核酸増幅装置において、円板形状の前記保持具ベースの外周に設けた少なくとも1つの前記反応容器を保持する前記複数の温調ブロックにおいて、連続的に前記反応容器を架設するおよび温調を開始する前記温調ブロックの順番やタイミングを様々に制御する機能を備えるものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の測定項目を測定可能であり、より小型で、個々の反応容器に対して安定した温度制御を可能とする核酸検査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る核酸増幅装置の概略構成を示す透視斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る核酸増幅装置の概略構成を示す上面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る核酸検査装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図4】核酸増幅処理における温度制御の一例(パターンA)を概念的に示すものである。
【図5】本発明の第1及び第3の実施の形態に係る温調ブロックにおけるパターンAの温度制御時の反応液の温度変化の様子を概念的に示す図である。
【図6】本発明の第1及び第3の実施の形態に係る増幅反応のための温度制御時の保持具ベースの温度分布と反応容器の架設位置を概念的に示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る温調ブロックにおけるパターンAの温度制御時の反応液の温度変化の様子を概念的に示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る増幅反応のための温度制御時の保持具ベースの温度分布と反応容器の架設位置を概念的に示す図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る温調ブロックの温度制御実施回数とそれに伴う反応容器の架設順番の一例を示す図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態に係る温調ブロックの変温回数とそれに伴う架設順番の一例を示す図である。
【図11】本発明の第7の実施の形態に係る保持具ベースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<第1の実施の形態>
図3は、本実施の形態に係る核酸検査装置100の全体構成を概略的に示す図である。図3において、核酸検査装置100には、増幅処理の対象となる核酸を含む検体が収容された複数のサンプル容器101と、複数のサンプル容器101が収納されたサンプル容器ラック102と、検体に加えるための種々の試薬が収容された複数の試薬容器103と、複数の試薬容器103が収納された試薬容器ラック104と、検体と試薬を混合するための反応容器105と、未使用の反応容器105が複数収容された反応容器ラック106と、未使用の反応容器105を載置し、サンプル容器101及び試薬容器103のそれぞれから反応容器105への検体及び試薬の分注を行うための反応液調整ポジション107と、検体と試薬の混合液である反応液が収容された反応容器105を蓋部材(図示せず)により密閉する閉栓ユニット108と、密閉された反応容器105に収容された反応液を攪拌する攪拌ユニット109とが備えられている。
【0013】
また、核酸検査装置100には、核酸検査装置100上にX軸方向(図3中左右方向)に延在するよう設けられたロボットアームX軸110、及びY軸方向(図3中上下方向)に延在するよう配置され、ロボットアームX軸110にX軸方向に移動可能に設けられたロボットアームY軸111を備えたロボットアーム装置112と、ロボットアームY軸111にY軸方向に移動可能に設けられ、反応容器105を把持して核酸検査装置100内の各部に搬送するグリッパユニット113と、ロボットアームY軸111にY軸方向に移動可能に設けられ、サンプル容器101の検体や試薬容器103の試薬を吸引し、反応液調整ポジション107に載置された反応容器105に吐出する(分注する)分注ユニット114と、分注ユニット114の検体や試薬と接触する部位に装着されるノズルチップ115と、未使用のノズルチップ115が複数収納されたノズルチップラック116と、反応容器105に収容された反応液に核酸増幅処理や蛍光検出などを施す核酸増幅装置1と、使用済みのノズルチップ115や使用済み(検査済み)の反応容器105を破棄する廃棄ボックス117と、キーボードやマウス等の入力装置118や液晶モニタ等の表示装置119を備え核酸増幅装置1を含む核酸検査装置100の全体の動作を制御する制御装置120とが備えられている。
【0014】
各サンプル容器101は、収容された検体毎にバーコード等の識別情報により管理されており、サンプル容器ラック102の各位置に割り当てられた座標等の位置情報により管理されている。同様に、各試薬容器103は、収容された試薬毎にバーコード等の識別情報により管理されており、試薬容器ラック104の各位置に割り当てられた座標等の位置情報により管理されている。これらの識別情報や位置情報は予め制御装置120に登録され管理される。また、各反応容器105も識別情報や位置情報により同様に管理されている。
【0015】
次に、核酸増幅装置1の詳細を、図1及び図2を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る核酸増幅装置1の概略構成を示す透視斜視図である。図2は上面図である。
【0017】
図1及び図2において、本実施の形態の保持具3は、平面部を上方に向けて配置された円板形状の保持具ベース4と、保持具ベース4の外周の外側に周方向に並べて設けられた反応容器105を保持するための架設ポジション12を少なくとも1つ(本実施の形態では1つ)持つ複数の温調ブロック10(本実施の形態では16個)とを備えている。保持具ベース4は、保持具3に回転軸線に沿って設けられた中心軸を中心に周方向に回転可能に設けられており、保持具3との間に設けられステッピングモータ(図示せず)により回転駆動される。保持具ベース4及び温調ブロック10は、例えば、アルミニウム,銅、又は各種合金などの熱伝導体により形成されている。温調ブロック10は保持具ベース4と一体的に形成されており、保持具ベース4の周方向における各温調ブロック10の間には、保持具ベース4の外周から中心に向かって延在する切り欠き部16が設けられている。このように、保持具ベース4の周方向に並べて配置された隣接する温調ブロック10間に空間が設けられることにより、各温調ブロック10間の断熱能力が高くなる。また、温度調整装置としてのペルチェ素子17と、架設ポジション12の近傍の温度を検出することにより反応容器105内の反応液の温度を検出する温度センサ15は、温調ブロック10毎に備えられている。ペルチェ素子17は、熱交換が行われる2面のうち、1面を温調ブロック10に密着させ、もう一方の面を保持具ベース4に密着させて取り付ける。
【0018】
また、保持具ベース4の中心部には、温度調整装置としてのペルチェ素子18、その近傍の温度を検出する温度センサ15a,ペルチェ素子18に接続された放熱フィン41、及び、放熱フィン41に送風するファン40が設けられている。このため、ペルチェ素子18により保持具ベース4の温度を一定(例えば40℃)に保つことにより、温調ブロック10のペルチェ素子17の放熱と吸熱の効率を向上することができる。核酸増幅手法の1つであるPCR法を実施する場合には、温調ブロック10で温度の上昇と下降からなる規定された温度サイクルを反応容器に対し繰り返し負荷するが、保持具ベース4の温度を適宜設定することで、温度の変化速度を向上させ、上昇速度と下降速度のバランスを制御することができる。
【0019】
さらに、反応容器105に収容された反応液の蛍光検出を行う少なくとも1つ(本実施の形態では4つ)の蛍光検出器6と、核酸増幅装置1の全体を覆うカバー7(図3参照)とを備えている。カバー7は、保持具3とともに温調ブロック10及び蛍光検出器6を覆うことにより、核酸増幅装置1の蛍光検出器6への外光の入射を抑制する遮光、或いは、核酸増幅装置1の内部(カバー7の内部)の温度を保持する保温を目的とするものである。カバー7には、開閉可能なゲート7aが少なくとも1つ(本実施の形態では1つ)設けられており、このゲート7aを介して、カバー7の内外(すなわち、核酸増幅装置1の内外)における反応容器105の授受が行われる。なお、図1において、カバー7およびゲート7aは省略して示している。
【0020】
蛍光検出器6は、温調ブロック10の架設ポジション12に保持された反応容器105の下部(露出部分)に励起光を照射するための励起光源、及び、反応液からの蛍光を検出する検出素子を有しており(ともに図示せず)、保持具ベース4の回転駆動によって同一円周上を移動する温調ブロック10の動線の外周に沿って並べて配置されている。保持具ベース4を回転させることにより温調ブロック10で保持された反応容器105に検出位置を通過させることにより蛍光検出を行う。反応容器105に収容された反応液は、試薬により増幅対象となる塩基配列が蛍光標識されており、励起光源から反応容器105に照射された励起光により生じる反応液からの蛍光を蛍光検出器6で検出することにより、反応液における増幅対象となる塩基配列の定量を経時的に行う。また、複数の蛍光検出器6は、互いに独立的に反応容器105内の反応液の検出又は測定を行う。検出結果は制御装置120に送られる。励起光源としては、例えば、発光ダイオード(LED),ガスレーザー,半導体レーザー,キセノンランプ,ハロゲンランプが用いられる。また、検出素子としては、フォトダイオード,フォトマルチプライヤー,CCD等が用いられる。
【0021】
制御装置120は、核酸検査装置100の全体の動作を制御するものであり、入力装置118により設定された測定項目のプロトコルに基づいて、予め記憶部(図示せず)に記憶された各種ソフトウェア等を用いて核酸増幅処理や蛍光検出を行い、蛍光検出結果などの分析結果や核酸検査装置100の可動状況などを記憶部に記憶したり表示装置119に表示したりする機能を備えている。
【0022】
このような核酸検査装置100の核酸増幅装置1において行われる核酸増幅処理では、その測定項目によって決まるプロトコルに定められた準備を施した検体(反応容器105に収容された反応液)に対して、プロトコルに定められた温度制御を行うことにより、目的とする塩基配列を選択的に増幅させる。
【0023】
なお、本発明の実施の形態においては、温調ブロック10の架設ポジション12に保持された反応容器105の下方から励起光を照射し蛍光を検出するよう構成したが、これに限られず、反応容器105の側方、或いは上方から励起光の照射及び蛍光の検出を行うよう構成してもよく、さらに、反応容器105の下方,上方,側方の何れかから励起光を照射し、励起光の照射方向とは異なる方向で蛍光の検出を行うように構成してもよい。
【0024】
また、蛍光検出器6,温調ブロック10、及びゲート7aの員数は本実施の形態に記載の数に限定されるものではなく必要に応じて員数を調整しても良い。
【0025】
また、反応容器105の架設処理は、図3において、ロボットアーム装置112に備わるグリッパユニット113によって、攪拌ユニット109上の反応容器105を把持し、ゲート7aを通過させて、核酸増幅装置1の温調ブロック10上の架設ポジション12に架設されることによって行われる。さらに、反応容器105が温調ブロック10に架設された後、ペルチェ素子17により増幅反応のための温度制御が行われる。ただし、架設される前においても、温調ブロック10はペルチェ素子17により増幅反応前の温度制御(プレヒート)が行われている。これ以降に示される、反応容器105の架設処理,温度制御については、同様に行われることとする。
【0026】
次に、本実施の形態の核酸増幅処理における温度制御について図4を参照しつつ説明する。
【0027】
図4は、核酸増幅処理における温度制御プロトコルの一例をパターンAとして概念的に示すものである。
【0028】
<温度制御:パターンA>
反応容器105内の反応液は、核酸増幅装置1において当該反応容器105の架設された温調ブロック10に接したペルチェ素子17の制御によって、次のように温度制御される。
【0029】
・温度T11に変化(昇温)させ、時間t11の間保持する。時間t11には、直前の温度から温度T11への温度変化時間も含む。
【0030】
・温度T12に変化(降温)させ、時間t12の間保持する。時間t12には、直前の温度から温度T12への温度変化時間も含む。
【0031】
・上記組み合わせを1サイクルとして、温度制御プロトコルに規定された回数(N1)のサイクルを繰り返す。
【0032】
上記温度サイクル以外に温度制御プロトコルに規定サイクルが有る場合は、上記サイクルに倣い、温度及び時間を設定する。
【0033】
次に、本実施の形態の核酸増幅装置1における反応容器105の架設位置の制御法について図5及び図6を参照しつつ説明する。
【0034】
パターンAの温度制御において、例えば、時間t11と時間t12がほぼ等しく、複数の反応容器105を複数の温調ブロック10に随時架設する時間間隔(タイミング)が時間t11とほぼ等しい時、つまり、時間t11ごとに反応容器105が架設される時、図5に示すように、最初に架設される第1反応容器内の反応液は、S1のような温度プロファイルを示すように対応する温調ブロック10が温度制御される。また第2反応容器は第1反応容器の架設から時間t11後に、架設され、S2のような温度プロファイルとなる。同様に第3反応容器,第4反応容器はそれぞれS3,S4のような温度プロファイルとなる。その結果、各反応容器105が架設される各温調ブロック10の温度は、同一時刻に、高温側(温度T11)と低温側(温度T12)が交互に存在していることになる。そのため、上記の条件下において、反応容器105の架設位置が、図6に示すように、第1反応容器を温調ブロック10a,第2反応容器を温調ブロック10b,第3反応容器を温調ブロック10c,第4反応容器を温調ブロック10dとなるように制御することにより、隣接する温調ブロック10が交互に高温(T11),低温(T12)が並ぶことになり、結果、保持具ベース4上の温度分布も、高温と低温が交互に配することになり、保持具ベース4全体の温度斑も平均化される。この架設位置の制御により、保持具ベース4の中心部に設けられたペルチェ素子18や、ペルチェ素子18に接続された放熱フィン41、及び、放熱フィン41に送風するファン40への負荷が低減され、それぞれのパーツの性能についても、より小型で、消費電力の小さな、廃熱量の少ない機構を選択することが可能となる。
【0035】
なお、本実施の形態において、この架設位置の順番の制御は、図1の核酸増幅装置1や図4の温度制御パターンを例として示したが、これに限定されるものではなく、架設位置数(温調ブロック数)が異なる核酸増幅装置においても、他の温度制御パターンにおいても、同様に架設位置の順番の制御を構成しても良い。また、最初の架設位置を温調ブロック10aとしているが、他の温調ブロック10を最初の架設位置としても良い。
【0036】
<第2の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、反応容器105の架設位置の制御法について、本発明の第2の実施の形態を、図7及び図8を参照しつつ説明する。
【0037】
パターンAの温度制御において、例えば、時間t11と時間t12がほぼ等しく、複数の反応容器105を複数の温調ブロック10に随時架設する時間間隔(タイミング)が時間t11と時間t12を足した時間とほぼ等しい時、つまり、(時間t11+時間t12)ごとに反応容器105が架設される時、図7に示すように、最初に架設される第1反応容器内の反応液は、S1のような温度プロファイルを示すように対応する温調ブロック10が温度制御される。また第2反応容器は第1反応容器の架設から(時間t11+時間t12)後に、架設され、S5のような温度プロファイルとなる。同様に第3反応容器,第4反応容器はそれぞれS6,S7のような温度プロファイルとなる。その結果、各反応容器105が架設される各温調ブロック10の温度は、同一時刻に、全てが高温側(温度T11)、または全てが低温側(温度T12)となる。そのため、上記の条件下において、反応容器105の架設位置が、図8に示すように、第1反応容器を温調ブロック10a,第2反応容器を温調ブロック10i,第3反応容器を温調ブロック10e,第4反応容器を温調ブロック10mとなるように制御することにより、保持具ベース4において、互いに離れた位置の温調ブロックに架設されて、分散した配置となるように制御されることで、保持具ベース4上の温度分布も、高温部または低温部が、保持具ベース4全体に均一になる。この架設位置の制御により、上記、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0038】
なお、本実施の形態において、この架設位置の順番の制御は、図1の核酸増幅装置1や図4の温度制御パターンを例として示したが、これに限定されるものではなく、架設位置数(温調ブロック数)が異なる核酸増幅装置においても、他の温度制御パターンにおいても、同様に架設位置の順番の制御を構成しても良い。また、最初の架設位置を温調ブロック10aとしているが、他の温調ブロック10を最初の架設位置としても良い。
【0039】
<第3の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、反応容器105の架設タイミングと架設位置の制御法について、本発明の第3の実施の形態を、図5及び図6を参照しつつ説明する。
【0040】
パターンAの温度制御において、例えば、時間t11と時間t12がほぼ等しく、複数の反応容器105を複数の温調ブロック10に随時架設する時間間隔を自由に設定することが可能な時、制御装置120が保管している各温度制御プロトコルの情報から判断して、連続して架設される各反応容器105の反応液の温度プロファイルが図5のようになるように、次に架設するタイミングを時間t11後に自動制御する。さらに、反応容器105の架設位置が、図6に示すように、第1反応容器を温調ブロック10a,第2反応容器を温調ブロック10b,第3反応容器を温調ブロック10c,第4反応容器を温調ブロック10dとなる制御することにより、隣接する温調ブロック10が交互に高温(T11),低温(T12)が並ぶことになり、結果、保持具ベース4上の温度分布も、高温と低温が交互に配することになり、保持具ベース4全体の温度斑も平均化される。この架設タイミングと架設位置の制御により、上記、第1の実施形態と同様の効果を得る。
【0041】
なお、本実施の形態において、この架設タイミングおよび架設位置の順番の制御は、図1の核酸増幅装置1や図4の温度制御パターンを例として示したが、これに限定されるものではなく、架設位置数(温調ブロック数)が異なる核酸増幅装置においても、他の温度制御パターンにおいても、同様に架設タイミング及び架設位置の順番の制御を構成しても良い。また、最初の架設位置を温調ブロック10aとしているが、他の温調ブロック10を最初の架設位置としても良い。
【0042】
<第4の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、反応容器105の架設位置の制御法について、本発明の第4の実施の形態を、図9を参照しつつ説明する。
【0043】
核酸検査装置100において、制御装置120では、各温調ブロック10の使用頻度(実施回数)の履歴を保持しており、次回、核酸検査装置100を稼動させた時、その実施回数の履歴に基づき、温調ブロック10の使用順番を制御することができる。図9のC42に示すように、温調ブロック10a〜10pのそれぞれの温調ブロック10の温度制御プロトコルの実施回数のデータが、制御装置120に保管されており、次に温度制御プロトコルを実施する時、より実施回数の少ない温調ブロック10から順に、反応容器105を架設するように制御される(図9のC43)。この架設位置の制御により、温調ブロック10に備わる温度調整装置であるペルチェ素子17の稼動頻度を均一化することができ、核酸増幅装置全体としての長寿命化を図れる。さらに、複数の温調ブロック10間で、温度制御プロトコルの実施回数の差が一定以上となった場合には、制御装置120によりアラームを発生させ、表示装置119にアラームを表示させても良い。
【0044】
なお、本実施の形態において、図1の核酸増幅装置1を例として示したが、これに限定されるものではなく、架設位置数(温調ブロック数)が異なる核酸増幅装置においても、同様に架設位置の順番の制御を構成しても良い。
【0045】
<第5の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、反応容器105の架設位置の制御法について、本発明の第5の実施の形態を、図10を参照しつつ説明する。
【0046】
核酸検査装置100において、制御装置120では、各温調ブロック10の温度の上昇・下降の変温の頻度(変温回数)の履歴を保持しており、次回、核酸検査装置100を稼動させた時、その変温回数の履歴に基づき、温調ブロック10の使用順番を制御することができる。図10のC52に示すように、温調ブロック10a〜10pのそれぞれの温調ブロック10の上昇・下降の変温回数のデータが、制御装置120に保管されており、次に温度制御プロトコルを実施する時、より変温回数の少ない温調ブロック10から順に、反応容器105を架設するように制御される(図10のC53)。この架設位置の制御により、上記、第4の実施の形態と同様の効果を得る。さらに、複数の温調ブロック10間で、温度制御プロトコルの上昇・下降の変温回数の差が一定以上となった場合に、制御装置120によりアラームを発生させ、表示装置119にアラームを表示させても良い。
【0047】
なお、本実施の形態において、図1の核酸増幅装置1を例として示したが、これに限定されるものではなく、架設位置数(温調ブロック数)が異なる核酸増幅装置においても、同様に架設位置の順番の制御を構成しても良い。
【0048】
<第6の実施の形態>
核酸検査装置100において、反応容器105の架設に使用する温調ブロック10を入力装置118からの入力により設定することで、複数の温調ブロック10から任意に測定に使用する温調ブロック10を決定できる。また、反応容器105の架設に使用しない温調ブロック10を同様に入力装置118から設定することで、複数の温調ブロック10から任意に測定に使用しない温調ブロック10を決定できる。さらに、使用する温調ブロック10について、その使用する順番を、入力装置118から入力して設定できる。この機能により、装置の使用者は、自由に測定に使用する温調ブロック10の選択や順番の設定が可能となる。
【0049】
<第7の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、保持具ベース4の構造について、本発明の第7の実施の形態を、図20を参照しつつ説明する。保持具ベース4上には、保持具ベース各点での温度を測定するための温度測定手段を少なくとも1個以上設置する。本実施形態では4個の温度測定手段を設定している。温度測定手段は、例えば測温抵抗体やサーミスタなどである。温度測定手段は保持具ベース4の中心から等距離に設置することが望ましいが、保持具ベースの形状や温度測定後の処理ロジックと組み合わせた場合においてはこの限りではない。上記は水平方向の観点ではあるが、上下方向についても同様である。
【0050】
<第8の実施の形態>
図1の核酸増幅装置1における、保持具ベース4の温度制御方法について、本発明の第8の実施の形態を図1,図2および図3を参照しつつ説明する。
【0051】
本発明の第1の実施の形態で既述したように、保持具ベース4を温度一定(例えば40℃)に保つことは、温調ブロック10の温度制御を行うペルチェ素子17の放熱と吸熱の効率を向上することに有効であるが、核酸検査装置100を起動した直後は、核酸増幅装置1の保持具ベース4の温度は、室温程度になっているため、温度制御プロトコルに従った核酸増幅処理のための温調ブロック10の温度制御を実施するより前に、保持具ベース4の温度を、あらかじめ所望の温度(例えば40℃)に保温しておくこと(保持具ベース4のプレヒート)が必要となる。
【0052】
このプレヒートの時間は、核酸増幅装置1を稼動させられるまでに掛かる準備時間となるため、可能な限り短時間で、所望の温度に到達させることが望ましい。
【0053】
通常時は、保持具ベース4の上部に配置されたペルチェ素子18単独で保持具ベース4の温度制御を行うが、装置起動時においては、ペルチェ素子17による温調ブロック10の温度制御が実施されていないため、熱交換面の一方の面を保持具ベース4に密着しているペルチェ素子17の全て(図1及び図2における本実施の形態では16個)、あるいは、一部を制御して、補助的に保持具ベース4の温度制御を行うことが可能である。
【0054】
本実施の形態によれば、ペルチェ素子18と少なくとも1つのペルチェ素子17により、それぞれ保持具ベース4を温度制御することによって、ペルチェ素子18単独で行うよりも、短時間に、保持具ベース4を所望の温度に到達させ得る。
【0055】
なお、本実施の形態では、装置起動時について示したが、これに限定されるものではなく、核酸増幅装置1がいかなる状態にある時でも、温調ブロック10の温度制御を実施していない一つ以上のペルチェ素子17があれば、必要に応じて、その一つ以上のペルチェ素子17により、補助的に保持具ベース4を温度制御させても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 核酸増幅装置
2 ベース
3 保持具
4 保持具ベース
6 蛍光検出器
7 カバー
7a ゲート
10,10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h,10i,10j,10k,10l,10m,10n,10o,10p 温調ブロック
12 架設ポジション
15,15a,121 温度センサ
16 切り欠き部
17,18 ペルチェ素子
40 ファン
41 放熱フィン
100 核酸検査装置
101 サンプル容器
102 サンプル容器ラック
103 試薬容器
104 試薬容器ラック
105 反応容器
106 反応容器ラック
107 反応液調整ポジション
108 閉栓ユニット
109 攪拌ユニット
110 ロボットアームX軸
111 ロボットアームY軸
112 ロボットアーム装置
113 グリッパユニット
114 分注ユニット
115 ノズルチップ
116 ノズルチップラック
117 廃棄ボックス
118 入力装置
119 表示装置
120 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬を混合した反応液中の核酸を増幅検出する核酸検査装置において、
前記反応液を収容した少なくとも1つの反応容器をそれぞれ保持する複数の温調ブロックと、
前記複数の温調ブロックのそれぞれに設けられ、前記反応液の温度を調整する第1の温度調整装置と、
前記複数の温調ブロックを保持する保持具ベースと、
前記保持具ベースに設けられ、前記保持具ベースの温度を調整する第2の温度制御装置と、
前記温調ブロックに反応容器を投入するアームと、
反応容器を投入する温調ブロックとその投入タイミングに基づいて前記アームを制御する制御部を備え、
前記制御部は、保持具ベース内の温度勾配が小さくなるように前記アームを制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項2】
請求項1において、
高温と低温を同じ期間,同じ周期で繰り返す、温度制御を行う反応容器を複数投入するとき、
温度制御時に、高温と低温が隣り合うように、反応容器を投入することを特徴とする、核酸検査装置。
【請求項3】
請求項1において、
高温と低温を同じ期間,同じ周期で繰り返す、温度制御を行う反応容器を複数投入するとき、
温度制御時に、同時に高温または低温となる反応容器が互いに隣り合わないように、反応容器を投入することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項4】
請求項1において、
第1の反応容器を投入し、その次の第2の反応容器を投入するとき、第1の反応容器から最も遠い位置の温調ブロックに第2の反応容器を投入することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御部は、温度勾配を投入する反応容器の位置の制御により小さくすることを特徴とする核酸検査装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御部は、温度勾配を反応容器の投入タイミングの制御により小さくすることを特徴とする核酸検査装置。
【請求項7】
請求項1において、
反応容器を最初に架設する温調ブロックの位置を任意に選択することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項8】
検体と試薬を混合した反応液中の核酸を増幅検出する核酸検査装置において、
前記反応液を収容した少なくとも1つの反応容器をそれぞれ保持する複数の温調ブロックと、
前記複数の温調ブロックのそれぞれに設けられ、前記反応液の温度を調整する第1の温度調整装置と、
前記温調ブロックに反応容器を投入するアームと、
反応容器を投入する温調ブロックとその投入タイミングに基づいて前記アームを制御する制御部を備え、
前記複数の温調ブロックに連続的に複数の前記反応容器を架設する際、前記反応容器に対応する測定項目によって定められる温度制御プロトコルに従って、前記反応容器を架設する前記温調ブロックを前記第1の温度調整装置によって温度制御を行い、
前記温調ブロックの前記温度制御プロトコルの過去の実施回数に応じて、次回の前記反応容器を架設する前記温調ブロックの位置の選択を制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項9】
検体と試薬を混合した反応液中の核酸を増幅検査する核酸検査装置において、
前記反応液を収容した少なくとも1つの反応容器をそれぞれ保持する複数の温調ブロックと、
前記複数の温調ブロックのそれぞれに設けられ、前記反応液の温度を調整する第1の温度調整装置と、
前記温調ブロックに反応容器を投入するアームと、
反応容器を投入する温調ブロックとその投入タイミングに基づいて前記アームを制御する制御部を備え、
前記複数の温調ブロックに連続的に複数の前記反応容器を架設する際、前記反応容器に対応する測定項目によって定められる温度制御プロトコルに従って、前記反応容器を架設する前記温調ブロックを前記第1の温度調整装置によって温度制御し、
前記温調ブロックの前記温度制御プロトコルによる温度の上昇または下降の過去の変温回数に応じて、次回の前記反応容器を架設する前記温調ブロックの位置の選択を制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記複数の温調ブロック間の前記温度制御プロトコルの過去の実施回数の差が一定以上になった場合、アラームを発生させることを特徴とする核酸検査装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記複数の温調ブロック間の前記温度制御プロトコルによる温度の上昇または下降の過去の変温回数の差が一定以上になった場合、アラームを発生させることを特徴とする核酸検査装置。
【請求項12】
検体と試薬を混合した反応液中の核酸を増幅検出する核酸検査装置において、
前記反応液を収容した少なくとも1つの反応容器をそれぞれ保持する複数の温調ブロックと、
前記複数の温調ブロックのそれぞれに設けられ、前記反応液の温度を調整する第1の温度調整装置と、
前記温調ブロックに反応容器を投入するアームと、
反応容器を投入する温調ブロックとその投入タイミングに基づいて前記アームを制御する制御部を備え、
使用者が、測定に使用する前記温調ブロックを任意に設定し、設定した前記温調ブロックのみで測定を行うように制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項13】
検体と試薬を混合した反応液中の核酸を増幅検出する核酸検査装置において、
前記反応液を収容した少なくとも1つの反応容器をそれぞれ保持する複数の温調ブロックと、
前記複数の温調ブロックのそれぞれに設けられ、前記反応液の温度を調整する第1の温度調整装置と、
前記温調ブロックに反応容器を投入するアームと、
反応容器を投入する温調ブロックとその投入タイミングに基づいて前記アームを制御する制御部を備え、
使用者が、測定に使用しない前記温調ブロックを任意に設定し、設定した前記温調ブロック以外の前記温調ブロックのみで測定を行うように制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項14】
請求項1において、
温調ブロックを保持する保持具ベース上に複数の温度測定手段を備え、
前記温度測定手段による測定結果が一定温度差以上となった場合に前記反応液を収納した容器を架設する前記温調ブロックの位置の選択を制御することを特徴とする核酸検査装置。
【請求項15】
請求項1記載の核酸増幅装置において、
前記第1の温度調整装置がペルチェ素子であって、前記ペルチェ素子を、前記ペルチェ素子の2面の熱交換面のうち、1面を前記温調ブロックに密着させ、他の1面を前記保持具ベースに密着させて、配置させるとき、
前記第2の温度調整装置および少なくとも1つの前記第1の温度調整装置によって、前記保持具ベースを所望の温度に制御することを特徴とする核酸増幅装置。
【請求項16】
請求項15記載の核酸増幅装置において、
前記第1の温度調整装置のそれぞれによって、前記複数の温調ブロックを個別に温度制御するより前に、
前記第2の温度調整装置および少なくとも1つの前記第1の温度調整装置によって、前記保持具ベースを、前記複数の温調ブロックを制御しうる温度範囲よりも低い温度に制御することを特徴とする核酸増幅装置。
【請求項17】
請求項15記載の核酸増幅装置において、
前記第1の温度調整装置のそれぞれによって、前記複数の温調ブロックを個別に温度制御するより前に、
前記第2の温度調整装置および少なくとも1つの前記第1の温度調整装置によって、前記保持具ベースを、前記複数の温調ブロックを制御しうる温度範囲の上限と下限の間の温度に制御することを特徴とする核酸増幅装置。
【請求項18】
請求項15記載の核酸増幅装置において、
前記第1の温度調整装置のそれぞれによって、前記複数の温調ブロックを個別に温度制御するより前に、
前記第2の温度調整装置および少なくとも1つの前記第1の温度調整装置によって、前記保持具ベースを、前記複数の温調ブロックを制御しうる温度範囲よりも高い温度に制御することを特徴とする核酸増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−21988(P2013−21988A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161530(P2011−161530)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】