説明

核酸濃度定量分析装置の通電検査に用いる通電検査用カセット、および、通電検査方法

【課題】電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査を安価で短時間かつ的確に行う。
【解決手段】分析装置60は、プローブピン82、検出手段90および分析手段100を有する。分析装置60は、DNAチップが内蔵された分析用カセットを装着して、DNAチップに固定化された検体DNAの濃度を求める。検出手段90の通電検査は、分析装置60に通電検査用カセットを装着して行う。通電検査用カセットは、複数の電流検出パッド、電流検出パッドに接続されて互いに異なる抵抗値を持つ複数の抵抗部、および、抵抗部に接続された電圧印加パッドが形成された抵抗回路基板を有する。検出手段90の通電検査は、プローブピン82を電圧印加パッドに当接させて、抵抗部に電圧を印加して電流検出パッドからの電流値を検出して、検出した電流値に基づいて算出した抵抗値と抵抗部の実際の抵抗値とを比較して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出型の核酸濃度定量分析システムが備えた核酸濃度定量分析装置の通電検査に用いる通電検査用カセット、および、これを用いた通電検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電流検出型の核酸濃度定量分析システムは、DNAチップが内蔵された核酸濃度定量分析用カセット、および、分析用カセット30が装着される核酸濃度定量分析装置を備えている。
【0003】
DNAチップには、複数の作用極、各作用極との間に電圧が印加される複数の対極、および、各作用極ならびに各対極に接続された複数の測定極が形成されている。複数の作用極には、互いに異なる数の1本鎖のDNAプローブが固定化されている。
【0004】
一方、核酸濃度定量分析装置は、複数の測定極に当接する複数のプローブピン、検出手段、および、分析手段などを備えている。検出手段は、プローブピンに接続されていて、対極に電圧を印加する電圧印加回路、および、作用極からの電流を検出する電流検出回路を有している。
【0005】
このシステムは、次のように検体の濃度を求める。まず、1本鎖の検体DNAと1本鎖のDNAプローブとをハイブリダイゼーション反応(2本鎖化反応)させて、核酸挿入剤を結合させる。その後、複数のプローブピンを複数の測定極に当接させて、検出手段によって、複数の対極に電圧を印加するとともに、複数の作用極からの複数の微小反応電流を検出する。その後、分析手段によって、検出した複数の電流値を基に、検体の濃度を求める(例えば、特許文献1ないし3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−309462号公報
【特許文献2】特開2006−266795号公報
【特許文献3】特開2009−244186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のシステムを用いて検体の濃度を求める前には、核酸濃度定量分析装置の通電検査、特には、微小電流の検出を担う電流検出回路の通電検査を行うことが望まれる。
【0008】
電流検出回路の通電検査の方法としては、既知の濃度の検体DNAを用いて反応電流を検出して、その電流値と得られるべき電流値とを比較したり、求めた濃度と実際の検体の濃度とを比較する方法がある。しかし、この方法を用いると、作用極に検体DNAを供給して、ハイブリダイゼーション反応させる必要があるため、通電検査に相当な時間が掛かってしまう。また、DNAチップは、再利用できないため、コストが掛かってしまう。さらに、複数の作用極に同一濃度の検体DNAを供給するため、異なる作用極から同一の電流値が検出されることもあり、電流検出回路の個々の信号配置まで検査することができない。
【0009】
また、テスタなどの電気計測機器を使用して検査する方法も考えられるが、核酸濃度定量分析装置を分解する必要があり、時間および作業工数が掛かってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査を安価で短時間かつ的確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る通電検査用カセットは、1本鎖の検体DNAがハイブリダイゼーション反応する1本鎖のDNAプローブが固定化された複数の作用極、対極、前記複数の作用極に接続された複数の第1電流検出パッド、および、前記対極に接続された第1電圧印加パッドが形成されたDNAチップと、前記DNAチップを収納して前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに対応した位置に第1開口が形成されたチップ容器とを有する分析用カセットを装着可能なホルダと、前記第1開口から挿入されて前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに当接するプローブピンと、前記プローブピンに接続されて前記対極に電圧を印加して前記複数の作用極からの複数の反応電流値を検出する検出手段と、前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて検体の濃度を得る分析手段と、を備えた電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査に用いる通電検査用カセットであって、複数の第2電流検出パッド、前記複数の第2電流検出パッドに接続されて互いに異なる抵抗値を持つ複数の抵抗部、および、前記複数の抵抗部に接続された第2電圧印加パッドが形成された抵抗回路基板と、前記抵抗回路基板を収納して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記電圧印加パッドに対応した位置に第2開口が形成されて前記ホルダに装着可能な基板容器と、を具備したことを特徴とする。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る通電検査方法は、1本鎖の検体DNAがハイブリダイゼーション反応する1本鎖のDNAプローブが固定化された複数の作用極、対極、前記複数の作用極に接続された複数の第1電流検出パッド、および、前記対極に接続された第1電圧印加パッドが形成されたDNAチップと、前記DNAチップを収納して前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに対応した位置に第1開口が形成されたチップ容器とを有する分析用カセットを装着可能なホルダと、前記第1開口から挿入されて前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに当接するプローブピンと、前記プローブピンに接続されて前記対極に電圧を印加して前記複数の作用極からの複数の反応電流値を検出する検出手段と、前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて検体の濃度を得る分析手段と、を備えた電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査方法であって、複数の第2電流検出パッド、前記複数の第2電流検出パッドに接続されて互いに異なる抵抗値を持つ複数の抵抗部、および、前記複数の抵抗部に接続された第2電圧印加パッドが形成された抵抗回路基板と、前記抵抗回路基板を収納して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記電圧印加パッドに対応した位置に第2開口が形成された基板容器と、を有する通電検査用カセットを前記核酸濃度定量分析装置に装着する第1工程と、前記第1工程後に、前記プローブピンを前記第2開口から挿入して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記第2電圧印加パッドに当接させる第2工程と、前記第2工程後に、前記複数の抵抗部に電圧を印加して前記複数の第2電流検出パッドからの複数の電流値を検出する第3工程と、前記第3工程後に、前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて算出した前記複数の抵抗部の抵抗値と前記複数の抵抗部の実際の抵抗値とを比較する第4工程と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査を安価で短時間かつ的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】DNAチップの上面図である。
【図2】分析用カセットの斜視図である。
【図3】図2の分解斜視図である。
【図4】図2中の流路パッキンの斜視図である。
【図5】分析装置の筐体の内部の概略図である。
【図6】分析装置の概略ブロック図である。
【図7】通電検査用カセットの斜視図である。
【図8】通電検査用カセットの分解斜視図である。
【図9】抵抗回路基板の上面図である。
【図10】抵抗回路基板の抵抗回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る通電検査用カセット、および、通電検査方法について説明する。
【0016】
まず、電流検出型の核酸濃度定量分析システムについて、図1ないし図10を用いて説明する。
【0017】
電流検出型の核酸濃度定量分析システム(以下、単に「分析システム」という。)は、DNAチップ10が内蔵された核酸濃度定量分析用カセット(以下、単に「分析用カセット」という。)30、および、分析用カセット30が装着される核酸濃度定量分析装置(以下、単に「分析装置」という。)60を備えている。分析システムは、DNAチップ10からの複数の反応電流を検出・分析して、検体DNAの濃度を得る。
【0018】
DNAチップ10について、図1を用いて説明する。図1は、DNAチップ10の上面図である。
【0019】
DNAチップ10は、矩形板状の絶縁基板、ならびに、絶縁基板上に積層された金属層および絶縁層から構成されている。絶縁基板および絶縁層は、例えば、ガラス、Si、樹脂などからなる。金属層は、例えば金からなる。金属層および絶縁層は、パターニングされていて、絶縁基板の主面上には、複数の3電極系12(複数の作用極13、複数の対極14、複数の参照極15)、複数の測定極18、および、3電極系12の3種の電極13〜15と測定極18とを電気的に接続する複数の配線が形成されている。
【0020】
3電極系12の3電極13〜15および測定極18は、DNAチップ10の主面上に露出している。なお、DNAチップ10の主面上の3電極系12の3種の電極13〜15および測定極18以外の部分は、絶縁層により被覆されている。
【0021】
複数の3電極系12は、図1に示したように、DNAチップ10の主面上の長軸方向の一方の領域(図1の上側の領域)に配列されている。本実施形態では、例えば、30個の3電極系12が5行6列で配列されている。各3電極系12は、2個の作用極13、1個の対極14、および、1個の参照極15を有している。2個の作用極13は、対極14と参照極15との間に配列されている。
【0022】
また、複数の測定極18は、DNAチップ10の主面上の長軸方向の他方の領域(図1の下側の領域)に配列されている。本実施形態では、72個の測定極18が4行18列で配列されている。60個の測定極18は、配線を介して、それぞれ60個の作用極13に電気的に接続されている(作用極13に接続された測定極18を「電流検出パッド18a」と呼ぶ。)。また、2個の測定極18は、共通電極として、配線を介して、30個の対極14に電気的に接続されている(対極14に接続された測定極18を「電圧印加パッド18b」と呼ぶ。)。さらに、2個の測定極18は、共通電極として、配線を介して、30個の参照極15に電気的に接続されている。
【0023】
作用極13は、1本鎖のDNAプローブが固定化される電極であり、反応電流を検出する電極である。本実施形態では、例えば、60個の作用極13の表面積は、互いに異なっていて、60個の作用極13には、それぞれの表面積に比例した互いに異なる数の1本鎖のDNAプローブが固定されている。
【0024】
対極14は、作用極13との間に所定の電圧を印加して電流を供給する電極である。参照極15は、作用極13との間の電圧を所定の電圧特性に制御するために、電極電圧を対極14にフィードバックさせる電極である。このフィードバックによって、対極14が印加する電圧が制御されて、各種の検出条件に左右されない精度の高い電流検出を行うことができる。
【0025】
分析用カセット30について、図2ないし図4を用いて説明する。図2は、分析用カセット30の斜視図である。図3は、図2の分解斜視図である。図4は、図2中の流路パッキン50の斜視図である。
【0026】
分析用カセット30は、DNAチップ10、チップ容器40、および、流路パッキン50を備えている。DNAチップ10および流路パッキン50は、チップ容器40の内部に収納されている。
【0027】
チップ容器40は、矩形箱状に形成されている。チップ容器40は、トップカバー42およびボトムカバー44から構成されている。ボトムカバー44は、トップカバー42にねじ止めされている。
【0028】
トップカバー42には、検体、電解液および薬液などの注入孔42aおよび排出孔42bが形成されている。また、トップカバー42には、複数のプローブピン82が挿入される測定開口42cが形成されている。測定開口42cは、DNAチップ10の複数の測定極18に対応した位置に形成されている。なお、図1のDNAチップ10の主面上に、破線142cにより測定開口42cの配置を示した。
【0029】
DNAチップ10は、複数の電極が形成された主面が上方を向くように、ボトムカバー44上に載置されている。DNAチップ10は、トップカバー42とボトムカバー44との間に配置されている。
【0030】
流路パッキン50は、樹脂からなり、略板状に形成されている。複数の3電極系12が形成されたDNAチップ10の主面上の領域に載置されている。ボトムカバー44がトップカバー42にねじ止めされると、流路パッキン50は、DNAチップ10とトップカバー42とに挟まれて、DNAチップ10の主面に密着する。
【0031】
流路パッキン50の下面(DNAチップ10との接触面)には、蛇行した溝52が形成されている。この溝52は、複数の3電極系12に対応した位置に形成されている。また、流路パッキン50の上面(DNAチップ10との接触面の裏面)には、2つの突出部54a,54bが形成されている。突出部54a,54bは、トップカバー42の注入孔42aおよび排出孔42bに対応した位置に形成されている。流路パッキン50には、溝52の終端から突出部54a,54bの内部を通って注入孔42aおよび排出孔42bまで延びた貫通孔56a,56bが形成されている。溝52および貫通孔56a,56bは、検体、電解液および薬液などの流路58となる。なお、図1のDNAチップ10の主面上に、破線150,158により流路パッキン50および流路58の配置を示した。
【0032】
分析装置60について、図5および図6を用いて説明する。図5は、分析装置60の筐体62の内部の概略図である。図6は、分析装置60の概略ブロック図である。
【0033】
分析装置60は、分析用カセット30が装着されて、DNAチップ10からの複数の反応電流を検出・分析して、検体DNAの濃度を得る。分析装置60は、筐体62の内部に、カセット支持手段70、プローブピンユニット80、プローブピン駆動手段86、検出手段90、および、分析手段100などを備えている。
【0034】
カセット支持手段70は、カセットホルダ72、ガイドレール74、および、カセットホルダ駆動手段76などを有している。
【0035】
カセットホルダ72は、ほぼ直方体形状に形成されていて、その上面の略中央には、分析用カセット30の外形に対応した、略矩形状の支持凹部72aが形成されている。分析用カセット30は、カセットホルダ72の支持凹部72aに装着される。
【0036】
ガイドレール74は、カセットホルダ72を水平移動可能に支持している。ホルダ駆動手段76は、カセットホルダ72を、分析用カセット30が取外し可能な装着位置(図5の破線)と、DNAチップ10の測定が可能な測定位置(図5の実線)との間で移動させる。ホルダ駆動手段76は、複数の駆動ローラ、および、駆動ローラを駆動するモータなどから構成されている。なお、筐体62には、カセットホルダ72が通過するカセット挿通口62aが形成されている。
【0037】
プローブピンユニット80は、複数本のプローブピン82およびプローブピンホルダ84を有している。複数本のプローブピン82は、プローブピンホルダ84によって、ピン先端が下方を向いた状態で保持されている。複数本のプローブピン82は、DNAチップ10の測定極18の配置に対応して、互いに間隔を空けて配列されている。なお、本実施形態では、プローブピン82の本数は、測定極18の数と同数の72本である。72本のプローブピン82は、測定極18の配列と同様に、4行18列で配列されている。
【0038】
プローブピン駆動手段86は、支柱86a、支持アーム86b、および、アーム駆動手段86cを有している。支柱86aは、筐体62の底板に立設されている。支持アーム86bは、水平に延びていて、支柱86aに支持されている。支持アーム86bは、アーム駆動手段86cによって、水平方向および鉛直方向に移動する。プローブホルダ84は、支持アーム86bに取り付けられていて、支持アーム86bとともに昇降および水平移動する。
【0039】
プローブピン駆動手段86は、反応電流の検出時には、プローブピンユニット80を水平方向および鉛直方向に移動させて、複数本のプローブピン82を測定位置にある分析用カセット30の測定開口42cを通して、DNAチップ10の測定極18に当接させる。
【0040】
検出手段90は、反応電流を検出する電流検出回路92a、および、電圧を印加する電圧印加回路92bを有する検出印加回路基板92を有している。検出印加回路基板92は、複数本のプローブピン82に電気的に接続されている。検出印加回路基板92の電圧印加回路92bは、プローブピン82を介して、配線により対極14に接続された測定極18(電圧印加パッド18b)に電圧を印加する。同時に、検出印加回路基板92の電流検出回路92aは、プローブピン82を介して、配線により作用極13に接続された測定極18(電流検出パッド18a)からの反応電流を検出する。
【0041】
なお、例えば、検出印加回路基板92の電圧印加回路92bは、1.2V以下の電圧を印加して、検出印加回路基板92の電流検出回路92aは、300nA以下の微小電流を検出できる。電流検出回路92aの電流検出の精度は、1%未満である。
【0042】
インタフェース部120は、検出印加回路基板92に接続されている。また、インタフェース部120は、後述する演算処理部102に接続されている。インタフェース部120は、検出印加回路基板92からの反応電流に基づいた信号を入力して、演算処理部102に出力する。
【0043】
分析手段100は、演算処理部102および記憶部104を有している。演算処理部102は、インタフェース部120からの信号を入力して、記憶部104に保存された解析プログラムなどを読み出して、検体DNAの濃度を求める。求められた濃度データや検出された電流値データなどは、記憶部104に保存される。
【0044】
その他、図5には図示しないが、分析装置60は、筐体62の内部に、DNAチップ10に検体、電解液および薬液などを供給する送液手段126、DNAチップ10の温度を調節する温度調節手段128、および、これらを制御する制御部124などを備えている。制御部124は、インタフェース部120に接続されている。制御部124は、記憶部104に保存された制御プログラムやユーザの入力に基づいて、プローブピン駆動手段86、送液手段126、および、温度調節手段128を制御する。
【0045】
また、分析装置60は、筐体62の外部に、キーボード、マウスおよびモニタなどのユーザインタフェース122を備えている。ユーザインタフェース122は、演算処理部102に接続されている。
【0046】
次に、電流検出型の核酸濃度定量分析方法(以下、単に「分析方法」という。)について説明する。
【0047】
表面積の異なる複数の作用極13にDNAプローブを固定化したDNAチップ10を内蔵した分析用カセット30を用意する。なお、濃度を調べたいDNAの1本鎖とハイブリダイゼーション反応する1本鎖のDNAプローブが固定化されている。この分析用カセット30を分析装置60のカセットホルダ72に装着して、測定位置に移動させる。
【0048】
続いて、送液手段126によって、1本鎖の検体DNAを、注入孔42aから流路パッキン50の流路58内に注入して、複数の作用極13に供給する。また、温度調節手段128によって、チップ容器40の開口を通して、DNAチップ10を加熱して、DNAプローブと検体DNAとをハイブリダイゼーション反応させる。続いて、送液手段126によって、流路58内に洗浄液を注入して、反応せずに残った1本鎖の検体DNAを洗い流す。その後、送液手段126によって、核酸挿入剤を流路58内に注入し、作用極13、対極14、参照極15に供給する。核酸挿入剤は、電気化学的に活性な性質を持っていて、2本鎖になったDNAに選択的に結合する。
【0049】
この状態で、プローブピンユニット80を移動させて、複数本のプローブピン82の先端をDNAチップ10の測定極18に接触させる。複数本のプローブピン82を複数の測定極18に接触させた状態で、検出印加回路基板92の電圧印加回路92bによって、複数組の作用極13と対極14との間(電圧印加パッド18bと電流検出パッド18aとの間)に所定の電圧を印加するとともに、三端子法を用いて、検出印加回路基板92の電流検出回路92aによって、複数の作用極13に流れる反応電流を検出する。検出手段90が検出した複数の反応電流に基づいて、分析手段100によって、検体DNAの濃度を得る。
【0050】
なお、本実施形態では、複数の作用極13の表面積は、互いに異なっていて、複数の作用極13には、それぞれの表面積に比例した互いに異なる数のDNAプローブが固定されている。そのため、作用極13の表面積が大きい程、多くの2本鎖が存在して、反応電流が大きくなる。分析手段100は、複数の電流値から校正データを取得して、これを基に濃度を求める。
【0051】
次に、本実施形態に係る通電検査用カセットおよび通電検査方法について説明する。
【0052】
本実施形態に係る通電検査用カセット230について、図7ないし図10を用いて説明する。図7は、通電検査用カセット230の斜視図である。図8は、通電検査用カセット230の分解斜視図である。図9は、抵抗回路基板210の上面図である。図10は、抵抗回路基板210の抵抗回路220の回路図である。
【0053】
通電検査用カセット230は、上述の分析装置60に装着されて、主に、検出印加回路基板92の電流検出回路92aの通電検査に用いるものである。通電検査用カセット230は、抵抗回路基板210、および、基板容器240を備えている。抵抗回路基板210は、基板容器240の内部に収納されている。
【0054】
抵抗回路基板210は、DNAチップ10と同等の外形・寸法に形成されている。抵抗回路基板210は、絶縁基板、ならびに、絶縁基板上に積層された金属層、抵抗層および絶縁層から構成されている。金属層、抵抗層および絶縁層がパターニングされて、絶縁基板の主面上には、複数の測定極218、複数の抵抗部222、および、抵抗部222を介して測定極218(電圧印加パッド218a)と測定極218(電流検出パッド218b)とを電気的に接続する複数の配線224が形成されている。
【0055】
複数の測定極218は、抵抗回路基板210の主面上に露出している。なお、抵抗回路基板210の主面上の測定極218以外の部分は、絶縁層により被覆されている。
【0056】
本実施形態では、図10に示したように、抵抗回路基板210の測定極218は、DNAチップ10の測定極18に相当する位置に、DNAチップ10の測定極18と同数の72個形成されている。72個の測定極218のうち、抵抗回路基板210の電流検出パッド218aは、DNAチップ10の電流検出パッド18aに相当する位置に、DNAチップ10の電流検出パッド18aと同数の60個形成されている。また、抵抗回路基板210の電圧印加パッド218bは、DNAチップ10の電圧印加パッド18bに相当する位置に、DNAチップ10の電圧印加パッド18bと同数の2個形成されている。抵抗回路基板210の各電流検出パッド218aには、1つの抵抗部222が接続されている。60個の抵抗部222には、共通電極である電圧印加パッド218bから電圧が印加される。
【0057】
複数の抵抗部222は、それぞれ異なる抵抗値を持っている。抵抗部222の抵抗値は、DNAチップ10の抵抗値、すなわち、対極14と作用極13との間の抵抗値と同等に設定されている。設定すべき抵抗部222の抵抗値は、上述した、検出印加回路基板92がDNAチップ10に印加する電圧(例えば1.2V以下)、および、検出印加回路基板92が検出する電流(例えば300nA以下)に基づいて、オームの法則により試算できる。複数の抵抗部222の抵抗値は、例えば数Mオーム以上に設定されている。なお、検出印加回路基板92の検出精度が1%未満であるため、複数の抵抗部222には、それぞれ1%以上異なる抵抗値を設定することが望ましい。
【0058】
基板容器240は、トップカバー242およびボトムカバー244から構成されている。基板容器240の外形は、チップ容器40の外形と同一寸法に形成されている。基板容器240のトップカバー242には、チップ容器40のトップカバー42と同一の位置に測定開口242cが形成されている。なお、図9の抵抗回路基板210の主面上に、破線442cにより測定開口242cの配置を示した。本実施形態では、基板容器240のトップカバー242には、チップ容器40のトップカバー42とは異なり、注入孔および排出孔は形成されていない。
【0059】
抵抗回路基板210は、複数の測定極218が形成された主面が上方を向くように、ボトムカバー244上に載置されている。抵抗回路基板210は、トップカバー242とボトムカバー244との間に配置されていて、基板容器240内に固定されている。本実施形態では、通電検査用カセット230は、流路パッキンを有していない。
【0060】
以下、本実施形態に係る通電検査方法について説明する。
【0061】
まず、通電検査用カセット230を、分析装置60のカセットホルダ72に装着して、測定位置に移動させる。基板容器240は、チップ容器40の外形と同等に形成されているため、カセットホルダ72の支持凹部72aに装着される。
【0062】
この状態で、プローブピンユニット80を移動させて、複数本のプローブピン82の先端を抵抗回路基板210の測定極218に接触させる。複数本のプローブピン82を複数の測定極218に接触させた状態で、検出印加回路基板92の電圧印加回路92bによって、複数組の測定極218間(電圧印加パッド218aと電流検出パッド218bとの間)に所定の電圧を印加するとともに、三端子法を用いて、検出印加回路基板92の電流検出回路92aによって、複数の抵抗部222に流れる反応電流を検出する。印加した電圧および検出された電流に基づいて算出した複数の抵抗値と抵抗部222の実際の複数の抵抗値とを比較することによって、検出印加回路基板92の電流検出回路92aの通電確認を行う。
【0063】
以下、本実施形態に係る通電検査用カセット230および通電検査方法の効果について説明する。
【0064】
上述したとおり、分析システムを用いて検体の濃度を求める前には、核酸濃度定量分析装置60の通電検査、特には、微小電流の検出を担う電流検出回路92aの通電検査を行うことが望まれる。
【0065】
本実施形態によれば、通電検査用カセット230を用いるため、作用極13に検体DNAを供給して、ハイブリダイゼーション反応させる必要がなく、短時間で検出印加回路基板92の電流検出回路92aの通電検査を行うことができる。また、通電検査用カセット230は、再利用が可能であり、通電検査に掛かるコストを抑制することができる。さらに、通電検査用カセット230には、互いに抵抗値の異なる複数の抵抗回路220が形成されていて、これらの抵抗回路220を流れる電流を検出することによって、通電検査を行うため、電流検出回路92aの個々の信号配置まで検査することができる。
【0066】
さらに、本実施形態に係る通電検査方法を用いて、プローブピン82と測定極18との通電確認、または、プローブピン82と検出印加回路基板92との通電確認などを行っても良い。
【0067】
[他の実施形態]
上記の実施形態は、単なる例示であって、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、抵抗回路220は、絶縁基板上に積層された金属層、抵抗層および絶縁層がパターニングされて形成されているが、絶縁基板上に積層された金属層がパターニングされて形成された配線224に抵抗チップを半田付けして形成されていても良い。
【0068】
また、上記の実施形態では、基板容器240のトップカバー242には、通電検査において使用されない注入孔42aや排出孔42bが形成されていないが、これらが形成されていても良い。基板容器240として、チップ容器40を用いるため、製造コストを抑えることができる。
【符号の説明】
【0069】
10…DNAチップ、12…3電極系、13…作用極、14…対極、15…参照極、18…測定極、18a…電流検出パッド、18b…電圧印加パッド、30…分析用カセット、40…チップ容器、42…トップカバー、42a…注入孔、42b…排出孔、42c…測定開口、44…ボトムカバー、50…流路パッキン、52…溝、54a,54b…突出部、56a,56b…貫通孔、60…分析装置、62…筐体、62a…カセット挿通口、70…カセット支持手段、72…カセットホルダ、72a…支持凹部、74…ガイドレール、76…ホルダ駆動手段、80…プローブピンユニット、82…プローブピン、84…プローブピンホルダ、86…プローブピン駆動手段、90…検出手段、92…検出印加回路基板、92a…電流検出回路、92b…電圧印加回路、100…分析手段、102…演算処理部、104…記憶部、120…インタフェース部、122…ユーザインタフェース、124…制御部、126…送液手段、128…温度調節手段、210…抵抗回路基板、218…測定極、218a…電流検出パッド、218b…電圧印加パッド、220…抵抗回路、222…抵抗部、224…配線、230…通電検査用カセット、240…基板容器、242…トップカバー、242c…測定開口、244…ボトムカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本鎖の検体DNAがハイブリダイゼーション反応する1本鎖のDNAプローブが固定化された複数の作用極、対極、前記複数の作用極に接続された複数の第1電流検出パッド、および、前記対極に接続された第1電圧印加パッドが形成されたDNAチップと、前記DNAチップを収納して前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに対応した位置に第1開口が形成されたチップ容器とを有する分析用カセットを装着可能なホルダと、
前記第1開口から挿入されて前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに当接するプローブピンと、
前記プローブピンに接続されて前記対極に電圧を印加して前記複数の作用極からの複数の反応電流値を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて検体の濃度を得る分析手段と、
を備えた電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査に用いる通電検査用カセットであって、
複数の第2電流検出パッド、前記複数の第2電流検出パッドに接続されて互いに異なる抵抗値を持つ複数の抵抗部、および、前記複数の抵抗部に接続された第2電圧印加パッドが形成された抵抗回路基板と、
前記抵抗回路基板を収納して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記電圧印加パッドに対応した位置に第2開口が形成されて前記ホルダに装着可能な基板容器と、
を具備したことを特徴とする通電検査用カセット。
【請求項2】
前記第2電流検出パッドの数が前記第1電流検出パッドの数と同数であることを特徴とする請求項1に記載の通電検査用カセット。
【請求項3】
前記第2電圧印加パッドの数が前記第1電圧印加パッドの数と同数であることを特徴とする請求項1または2に記載の通電検査用カセット。
【請求項4】
前記基板容器の外形が前記チップ容器の外形と同一寸法であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の通電検査用カセット。
【請求項5】
前記基板容器の第2開口が形成された位置が前記チップ容器の第1開口が形成された位置と同一位置であることを特徴とする請求項4に記載の通電検査用カセット。
【請求項6】
前記複数の抵抗部は前記検出手段の電流検出精度以上に互いに異なる抵抗値を持つことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の通電検査用カセット。
【請求項7】
1本鎖の検体DNAがハイブリダイゼーション反応する1本鎖のDNAプローブが固定化された複数の作用極、対極、前記複数の作用極に接続された複数の第1電流検出パッド、および、前記対極に接続された第1電圧印加パッドが形成されたDNAチップと、前記DNAチップを収納して前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに対応した位置に第1開口が形成されたチップ容器とを有する分析用カセットを装着可能なホルダと、
前記第1開口から挿入されて前記複数の第1電流検出パッドおよび前記第1電圧印加パッドに当接するプローブピンと、
前記プローブピンに接続されて前記対極に電圧を印加して前記複数の作用極からの複数の反応電流値を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて検体の濃度を得る分析手段と、
を備えた電流検出型の核酸濃度定量分析装置の通電検査方法であって、
複数の第2電流検出パッド、前記複数の第2電流検出パッドに接続されて互いに異なる抵抗値を持つ複数の抵抗部、および、前記複数の抵抗部に接続された第2電圧印加パッドが形成された抵抗回路基板と、
前記抵抗回路基板を収納して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記電圧印加パッドに対応した位置に第2開口が形成された基板容器と、
を有する通電検査用カセットを前記核酸濃度定量分析装置に装着する第1工程と、
前記第1工程後に、前記プローブピンを前記第2開口から挿入して前記複数の第2電流検出パッドおよび前記第2電圧印加パッドに当接させる第2工程と、
前記第2工程後に、前記複数の抵抗部に電圧を印加して前記複数の第2電流検出パッドからの複数の電流値を検出する第3工程と、
前記第3工程後に、前記検出手段が検出した複数の電流値に基づいて算出した前記複数の抵抗部の抵抗値と前記複数の抵抗部の実際の抵抗値とを比較する第4工程と、
を具備したことを特徴とする通電検査方法。
【請求項8】
前記検出手段は電流値を検出する電流検出回路を有し、前記電流検出回路の通電を検査することを特徴とする請求項7に記載の通電検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214907(P2011−214907A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81422(P2010−81422)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】