説明

核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス及びその製造方法、並びに核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品及びその製造方法

【課題】乾海苔を調合水に浸漬させることにより、核酸系旨味成分、特にIMPが豊富に含まれるようにした核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法を提供する。
【解決手段】乾海苔を調合水に浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有する。浸漬処理工程において、調合水の温度を30〜60℃、海苔含有率を5〜21%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾海苔からIMP(5'-イノシン酸)、GMP(5'-グアニル酸)を効率よく生成するための核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス及びその製造方法、並びに核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然食品から造られる天然調味料は、消費者の高品質、本物、安全志向の高まりにより、市場が大きく拡大している。現在、コンブ、鰹節、海老等から抽出した水産エキスや玉ねぎ、ニンジン等から抽出した野菜エキス等、消費者の需要に応える多種の食品が製品化されている。
【0003】
一方、日本の伝統的食品である乾海苔は、独特の旨味があり、人体に必要なミネラル、アミノ酸を豊富に含んでいる。乾海苔は、食品として板海苔の形での利用が多いが、海苔の成分を抽出した海苔調味料エキスは、これまでの天然調味料エキスとは異なるALU(アラニン)を含むアミノ酸系の旨味を含有するため、新たな食品への応用が期待されている。
【0004】
従来のアミノ酸系海苔調味料エキスとして、海苔の加水分解液及び酵素分解液から製造した例が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−9467号公報
【特許文献2】特開昭62−282566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海苔には、核酸系旨味成分であるIMP 、GMPが存在する。しかし、従来の海苔調味料エキスを製造する方法では、核酸系旨味成分、特にIMPを効率よく抽出することはできなかった。そこで、本発明者は、乾海苔を所定の条件で予め調合水に浸漬処理することにより、核酸系旨味成分、特にIMPが多量に生成されることを新たに知見した。これにより、新規な海苔調味料エキス及びその製造方法を発明するに至った。更に、この製造方法をペースト状海苔加工食品の製造方法にも適用できることを見出し、ペースト状海苔加工食品及びその製造方法を発明するに至った。
【0007】
本発明の目的は、乾海苔を調合水に浸漬処理することにより、核酸系旨味成分、特にIMPが豊富に含まれる核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス及びその製造方法、並びに核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法は、乾海苔を調合水に浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品の製造方法は、乾海苔を調合水に浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスは、乾海苔を調合水で浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有する製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品は、乾海苔を調合水で浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有する製造方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾海苔を加水分解処理の前に調合水に浸漬処理させることにより、核酸系旨味成分、特にIMPが豊富に含まれる核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス又は核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品が得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】浸漬処理の有無による核酸含有量を示したグラフ。
【図2】浸漬温度に対する核酸含有量を示したグラフ。
【図3】海苔含有率に対する核酸含有量を示したグラフ。
【図4】浸漬時間に対する核酸含有量を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
[実施形態1]
本発明の実施形態1として、核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス及びその製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法は、乾海苔を材料として、粉末エキスを得る物理、化学的処理を行う一連の工程から成っている。すなわち、本実施形態の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法は、海苔投入・浸漬、加水分解、中和、酵素分解、デキストリン添加、葉体粉砕、加熱殺菌、乾燥、篩、充填・検査の各処理工程から成る。
【0016】
海苔は、核酸としてAMP(アデノシン一リン酸)、IMP、GMPを含んでいるが、本発明は、加水分解前に乾海苔を調合水に浸漬処理することで、核酸系旨味成分であるIMP、GMPの抽出量が多くなること、特に、IMPについては抽出量が飛躍的に増大することに着目し、加水分解処理工程前に浸漬処理工程を行うことに特徴がある。
【0017】
この浸漬処理工程では、海苔内の核酸生成酵素であるAMPデアミナーゼ等の酵素活性により、IMP等が効率よく生成されるものと考えられる。
以下、浸漬処理工程における浸漬処理条件について行った試験結果を説明する。
【0018】
図1は、浸漬処理の有無による核酸含有量を示したグラフである。
「浸漬処理有り」は、乾海苔を調合水に投入する際の全量に対する割合である海苔含有率を5%とし、乾海苔をpH6、40℃の調合水に30分浸漬した場合の核酸含有量である。「浸漬処理なし」は、乾海苔の浸漬処理を行わない場合の核酸含有量である。浸漬処理を行うと、溶出したIMP、GMPの含有量が上がり、特にIMPは大幅に上がることが確認された。
【0019】
次に、浸漬処理の各条件(温度、海苔含有率、時間)について数値を変えて実験を行い、最適な数値範囲を確認した。
【0020】
図2は、浸漬温度に対する核酸含有量を示したグラフである。
30〜60℃においてIMP、GMPの含有量が多く、この範囲が好ましいことが確認された。
【0021】
図3は、海苔含有率に対する核酸含有量を示したグラフである。
海苔含有率が13%のときIMPは最大となっているが、5〜21%が好ましく、特に、9〜17%がより好ましいことが確認された。
【0022】
図4は、浸漬時間に対する核酸含有量を示したグラフである。
180秒と20分にIMPはピーク値を有することが確認された。しかしながら、浸漬時間を30秒〜1時間としてもIMPの必要な含有量を得ることができた。
【0023】
なお、調合水のpHは中性及び近傍のpH5〜9の範囲としても核酸の溶出に特に変化が見られなかったので、この範囲が好ましいことが確認された。
【0024】
(実施例1)
本実施形態の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法における各工程(1)〜(10)について具体的な実施例1を説明する。
【0025】
工程(1)海苔投入・浸漬
調合水のpHをpH7とする。調合水の温度は40℃とし、乾海苔を調合水に投入するが、海苔含有率が13%となるようにする。浸漬時間は20分とする。なお、乾海苔を調合水に一括して投入するが、成分を効率よく溶出させるため、乾海苔を分けて投入してもよい。
【0026】
工程(2)加水分解
6N塩酸によりpH2.0とし、80℃で約6時間加熱し、加水分解を行う。
【0027】
工程(3)中和
苛性ソーダにより中和し、pH6.0±0.2とし、65℃で1時間加熱する。
【0028】
工程(4)酵素分解
食品工業用酵素、好ましくはプロテアーゼ、例えば中性プロテアーゼのスミチーム(登録商標)LP、又はスミチームFPを用いて酵素分解を行う。酵素は乾海苔に対して好ましくは2%であり、65℃で16時間加熱する。
【0029】
工程(5)デキストリン添加
乾海苔に対して等重量のデキストリンを添加し、85℃で20分加熱する。
【0030】
工程(6)葉体粉砕
ホモジナイザにより海苔の葉体を粉砕する。
【0031】
工程(7)加熱殺菌
80℃に達するまで温度を上げ、加熱殺菌する。
【0032】
工程(8)乾燥
スプレードライヤにより乾燥させる。
【0033】
工程(9)篩
40メッシュ(目開き150μm)、マグネット7本格子(表面磁力8000ガウス)を用いて篩にかける。
【0034】
工程(10)充填・検査
ポリ袋に充填する。水分、全窒素、カサ比重、一般生菌数、大腸菌群の検査を行う。
【0035】
このようにして製造された海苔調味料エキスについて分析した結果、IMPの含有量は1.4mg/100g、GMPの含有量は0.3mg/100gであった。
【0036】
[実施形態2]
本発明の実施形態2として、核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品及びその製造方法について説明する。
【0037】
本実施形態において、浸漬から加熱殺菌までの処理工程は実施形態1と同じである。本実施形態では、加熱殺菌処理工程後の海苔エキスを80〜90%とし、調味料として醤油、砂糖、クエン酸を加えたものを加熱濃縮してペースト状とする。
【0038】
(実施例2)
本実施形態の核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品の製造方法における各工程について具体的な実施例2を説明する。
【0039】
本実施例では、実施例1における工程(1)〜(7)と同じ工程を実施し、工程(8)でペースト処理を行う。
【0040】
工程(8)ペースト処理
工程(7)の加熱殺菌処理後の固形分6%を含む海苔エキス87%に醤油10%、砂糖3%、微量のクエン酸を加えたものを加熱濃縮して、固形分75%以上のペースト状とする。その後、充填・検査して最終的に核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品を得る。
【0041】
上記各実施形態から、乾海苔を調合水に浸漬しない場合と比較して、特にIMPの含有量が大幅に増加することが確認された。
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、IMP、GMPを豊富に含んだ核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス又は核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾海苔を調合水に浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有することを特徴とする核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法。
【請求項2】
乾海苔を調合水に浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有することを特徴とする核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬処理工程において、調合水の温度を30〜60℃としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法又は核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬処理工程において、海苔含有率を5〜21%としたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の核酸系旨味成分含有海苔調味料エキスの製造方法又は核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品の製造方法。
【請求項5】
乾海苔を調合水で浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有する製造方法により製造されたことを特徴とする核酸系旨味成分含有海苔調味料エキス。
【請求項6】
乾海苔を調合水で浸漬する浸漬処理工程と、浸漬処理後の海苔を加水分解する加水分解処理工程と、加水分解処理後の海苔を酵素分解する酵素分解処理工程とを有する製造方法により製造されたことを特徴とする核酸系旨味成分含有ペースト状海苔加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−80838(P2012−80838A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230618(P2010−230618)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(391017986)株式会社白子 (14)
【Fターム(参考)】