説明

核酸誘導体及びその中間体化合物の製造方法

【課題】 L−チミジン等の核酸誘導体及びその中間体化合物の工業的により有利な製造方法を提供する。さらに、核酸誘導体の合成に有用な新規中間体化合物を提供する。
【解決手段】 アラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を行い、2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体を得る。また該エキソメチレン体を異性化し、2′−ハロゲン−チミジン化合物を得る。該2′−ハロゲン−チミジン化合物は、脱ハロゲン化及び脱保護化を経て、チミジンへと誘導することができる。また2′−ハロゲン−チミジン化合物を塩基で処理することにより、2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンへ誘導することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として有用な核酸誘導体及びその中間体化合物の製造方法に関する。本発明はまた、該核酸誘導体の合成に有用な中間体化合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸誘導体、特にL−チミジンなどの非天然型であるL−核酸誘導体の医薬品としての有用性が注目されている。L−核酸誘導体の合成法としては、天然に存在するL型糖であるL−アラビノースを原料とする方法が一般に知られている。
【0003】
特許文献1には、アラビノースよりアラビノアミノオキサゾリンを合成し、該アラビノアミノオキサゾリンとα−ブロモメチルアクリル酸エステルとから得られるアラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エステル付加体を閉環して、2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンを得る方法が開示されている。実施例では、原料としてD−アラビノースを用い、D−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンを得ているが、L−アラビノースを用いれば同様にL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンを得ることができる。該L−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンは、非特許文献1等に開示されている公知の方法により、L−チミジン等のL−核酸誘導体に導くことできる。
【0004】
特許文献2には、上記方法の改良法が開示されている。すなわち、該文献には、L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エステル付加体を閉環してL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンとする過程において、中間物質として生じるL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンのエキソ体を、水素雰囲気下、パラジウム触媒で異性化させることで、より効率的にL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンに誘導する方法が開示されている。本方法は、特許文献1の方法において、閉環反応に続いて起こる異性化反応に、パラジウム触媒を使用することで、L−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンの加水分解化合物が副生物として生じる問題を改善する方法であるが、淘汰が比較的困難なL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンの水素化化合物(5、6−ジヒドロ体)が副生物として新たに生じるという問題がある。
【0005】
特許文献3には、特許文献2の方法の上記問題点が指摘されており、触媒量や反応温度等を最適化することにより、5、6−ジヒドロ体の副生を抑制することが提案されている。しかしながら、L−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンのエキソ体は比較的不安定な化合物であり、高温では水素化化合物の副生が低下するものの、加水分解化合物の副生が増大する傾向にあるなど、反応の制御が煩雑かつ困難である。また特許文献3の方法でも数%の5、6−ジヒドロ体の生成は避けられない。
【0006】
【特許文献1】特開平6-92988号公報
【特許文献2】特開2002-241390公報
【特許文献3】国際公開2007-104793号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイティー・ケミカル・コミュニケーション(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.),10,1255−1256(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記記載の従来技術で課題とされている副反応の問題を解決する、核酸誘導体及びその中間体化合物の製造方法を提供することにある。また本発明は、該核酸誘導体の合成に有用な新規中間体化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、式(1)で表されるアラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を行なって得られる、式(2)で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体が、核酸誘導体の製造に有用な新規の中間体となることを見出した。該エキソメチレン体は、2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンのエキソ体と比較し、加水分解反応に対して安定であり、また該エキソメチレン体は非水素雰囲気下で異性化することができるため、5,6−ジヒドロ体の副生といった問題を生じることなく、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を得ることが可能である。該2′−ハロゲン−チミジン化合物は、脱ハロゲン化及び脱保護化を経て、チミジンへと誘導することができる。また、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を塩基で処理することにより、2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンへも誘導することができる。本発明者らはこれらの知見に基づき本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1] 式(1):

(式中、Rはアルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルフォニルオキシ基又はメタンスルフォニルオキシ基を示す。)で表されるアラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を逐次又は同時に行なうことを特徴とする、式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物の製造方法。
[2] 前記[1]記載の方法に従って、式(2)で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を得た後、該化合物を異性化することを特徴とする、式(3):

で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物の製造方法。
(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
[3] 前記[2]記載の方法に従って、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱ハロゲン化することを特徴とする、式(4):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示す。)
で表されるチミジン化合物の製造方法。
[4] 前記[3]記載の方法に従って、式(4)で表されるチミジン化合物を得た後、該化合物を脱保護化することを特徴とする、式(5):

で表されるチミジンの製造方法。
[5] 前記[2]記載の方法に従って、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を塩基で処理することを特徴とする、式(6):

で表される2、2′−アンヒドロ−1−(β−アラビノフラノシル)チミンの製造方法。
[6] 式(1)で表されるアラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、式(7):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を作用させ、保護化及びハロゲン化を同時に行ない、式(2)で表される化合物を得ること特徴とする、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 式(1′):

(式中、Rはアルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルフォニルオキシ基又はメタンスルフォニルオキシ基を示す。)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を逐次又は同時に行なうことを特徴とする、式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物の製造方法。
[8] 前記[7]記載の方法に従って、式(2)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を得た後、該化合物を異性化することを特徴とする、式(3′):

で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物の製造方法。
(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
[9] 前記[8]記載の方法に従って、式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱ハロゲン化することを特徴とする、式(4′):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示す。)
で表されるL−チミジン化合物の製造方法。
[10] 前記[9]記載の方法に従って、式(4′)で表されるL−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱保護化することを特徴とする、式(5′):

で表されるL−チミジンの製造方法。
[11] 前記[8]記載の方法に従って、式(3′)で表されるL−チミジン化合物を得た後、該化合物を塩基で処理することを特徴とする、式(6′):

で表される2、2′−アンヒドロ−1−(β−L−アラビノフラノシル)チミンの製造方法。
[12] 式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、式(7):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を作用させ、保護化及びハロゲン化を同時に行ない、式(2′)で表される化合物を得ること特徴とする、前記[7]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 異性化が、非水素雰囲気下に行われる、前記[2]〜[6]、[8]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 異性化が、遷移金属触媒によって行われる、前記[2]〜[6]、[8]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[15] 異性化が、ロジウム触媒又はパラジウム触媒によって行われる、前記[2]〜[6]、[8]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[16] Xが塩素原子又は臭素原子である、前記[1]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17] Xが塩素原子又は臭素原子である、前記[1]〜[16]のいずれかに記載の方法。
[18] 一般式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物。
[19] 一般式(2′):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物。
【0010】
本発明の方法を適用し、L−アラビノースからL−チミジン又はL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンへ誘導するスキームを以下に示す。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、核酸誘導体の中間体として有用な一般式(2)で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物が提供される。該化合物は、加水分解反応に対して安定であり、5,6−ジヒドロ体を副生することなく異性化が可能であり、チミジン等の核酸誘導体に、より工業的に有利な方法で導くことができる。特に本発明は、L−チミジン等のL−核酸誘導体の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、L−核酸誘導体の製法を例にして、本発明を詳細に説明する。なお本発明はD−核酸誘導体、核酸誘導体のラセミ体にも同様に適用可能である。
【0013】
式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン化合物は、L−アラビノースを出発原料として、以下の公知のスキームにより製造することができる。

【0014】
L−アラビノアミノオキサゾリンは、公知反応に従って、L−アラビノースとシアンアミドを反応させることにより得ることができる(ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol. ),47,531−543(1970);ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.),38,593(1973)参照)。また、L−アラビノアミノオキサゾリンを式(8):

で表される、α−ハロメチルアクリル酸エステルと反応させることにより、式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を得ることができる(特許文献1、2及び3参照)。
【0015】
式(1′)及び(8)中、Rはアルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルフォニルオキシ基又はメタンスルフォニルオキシ基を示す。Rで示されるアルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基が好ましい。Xとしては、特に塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0016】
式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を逐次又は同時に行ない、式(2′)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物に誘導する。

式(2′)中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【0017】
で示されるヒドロキシの保護基としては、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、アラルキル基、シリル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、イソブチロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、4−トルオイル基、4−クロロベンゾイル基等の炭素数1〜8のアシル基が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、2−トリメチルシリルエトキシカルボニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、4−モノメトキシベンジル基、トリチル基、4−モノメトキシトリチル基、4,4’−ジメトキシトリチル基等の炭素数7〜21のアラルキル基が挙げられる。シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等の3置換シリル基が挙げられる。その他、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、メトキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等のヒドロキシ基の保護基を使用することができる。ヒドロキシ基の保護基としては、塩基による加水分解により容易に脱保護が可能なアシル基が特に好ましく、アシル基の中ではアセチル基が特に好ましい。
【0018】
で示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子が挙げられる。これらの中では、塩素原子、臭素原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。
【0019】
塩基処理において使用する塩基は、無機塩基及び有機塩基のいずれも使用することができる。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、DMAP(ジメチルアミノピリジン)、アンモニア等が挙げられ、特に炭酸カリウム及びカリウムtert−ブトキシドが好ましい。
【0020】
塩基処理による反応は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のプロトン性溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの非プロトン性溶媒を単独で、あるいは2種類以上を混合して使用することができる。これらの中では、特に水が好ましい。反応温度は通常−50℃〜150℃の範囲であり、0℃〜50℃の範囲で行うのが好ましい。反応時間は通常10分〜168時間の範囲であり、1時間〜108時間の範囲で行うのが好ましい。
【0021】
塩基による処理が終了した後、3′位及び5′位のヒドロキシ基の保護化及び2′位のハロゲン化を逐次又は同時に行ない、式(2′)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を得る。保護化及びハロゲン化は逐次に、すなわち、保護化に続いてハロゲン化を行うか、ハロゲン化に続いて保護化を行うかのいずれかで行うことができる。
【0022】
ヒドロキシ基の保護は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、適当な溶媒中で、アシル化剤、アルコキシカルボニル化剤、アルキル化剤、アラルキル化剤、シリル化剤等のヒドロキシ基の保護化試薬を添加する。ヒドロキシ基の保護化試薬の例としては、無水酢酸、塩化アセチル、塩化ベンゾイル、無水トリフルオロ酢酸等のアシル化剤、塩化メトキシカルボニル、塩化tert−ブトキシカルボニル、塩化ベンジルオキシカルボニル、ジ−tert−ブチルジカルボネート等のアルコキシカルボニル化剤、臭化ベンジル等のアラルキル化剤、塩化トリメチルシリル、塩化トリエチルシリル、塩化tert−ブチルジメチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸tert−ブチルジメチルシリルエステル等のシリル化剤等を挙げることができる。
【0023】
ヒドロキシ基の保護化は当業者によく知られた方法であり、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(第3版、ジョン・ウィリー・アンド・ソンズ社、1999年(Protective Groups in Organic Synthesis 3rd edition (John Wiley&Sons, Inc. 1999))に記載の方法に準じて行うことができる。
【0024】
ハロゲン化剤としては、臭化水素酸、塩酸、ピリジン臭化水素酸塩、ピリジン塩酸塩、アルキルアンモニウムハライド、臭素化ナトリウム等のハロゲン化物が挙げられる。また、式(7):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロゲン化試薬を作用させれば、保護化及びハロゲン化を同時に行なうことができる。この方法は、工程数を省略化できるので、より好ましい方法となる。
【0025】
式(7)中、Rで示されるヒドロキシ基の保護基としては、前記と同じものが挙げられる。式(7)で表されるハロゲン化試薬を使用した場合、特にアシル基が好ましい。アシル基としては前述したものが例示され、特にアセチル基が好ましい。Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。すなわち、式(7)で表されるハロゲン化試薬の好ましい例としては、アシルクロリド、アシルブロミドが挙げられ、中でもベンゾイルクロリド、ベンゾイルブロミド、アセチルクロリド、アセチルブロミドが好ましく、特にアセチルブロミドが好ましい。
【0026】
ハロゲン化試薬の使用量は、式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体に対して、通常1.1〜15モル当量、好ましくは3〜7モル当量である。反応は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、酢酸エチルなどの非プロトン性溶媒、あるいはこれら非プロトン性溶媒の2種以上を混合した混合溶媒が好ましく、特にジメチルホルムアミド、及びジメチルホルムアミドと酢酸エチルの混合溶媒が好ましい。反応温度は通常0〜150℃の範囲であり、40〜100℃の範囲で行うのが好ましい。 反応時間は通常5分〜24時間の範囲であり、15分〜6時間の範囲で行うのが好ましい。反応溶液を、抽出、晶析、クロマトグラフィー等の当業者に公知の精製手段で処理することにより、式(2′)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を精製及び単離することができる。引き続き式(3′)で表される化合物に誘導する場合は、任意に精製操作や単離操作を省略してもよい。
【0027】
なお、式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した場合、特許文献1〜3に記載の方法と同様に、まず閉環反応が進行し、下式(9′):

で表されるL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンのエキソ体が生成する。該エキソ体を単離して固体として取得することも可能であるが、通常その必要はなく、また単離した場合、特許文献2の実施例にも記載されているように、収率の著しい低下を招くため、精製や単離を行うことなく、次の保護化及びハロゲン化工程を行うのが好ましい。
【0028】
式(2′)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物は、異性化することにより、式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物に誘導することができる。

式(3′)中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。ヒドロキシ基の保護基及びハロゲン原子については前述と同様である。
【0029】
本発明においては、異性化反応を安定な式(2′)で表される化合物に対して行うため、特許文献1〜3に見られるように、式(9′)で表される化合物が異性化反応中に加水分解するといった問題を生じない。また、水素を使用せずに異性化を行うことができるため、特許文献2及び3のように5,6−ジヒドロ体の副生といった問題を生じることなく、式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物に誘導することが可能である。
【0030】
式(2′)で表される化合物は、金属触媒、酸、光照射によって異性化させることができる。金属触媒としては、異性化を促進させるものであれば特に限定されないが、遷移金属触媒が好ましい。遷移金属触媒としては、パラジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、白金触媒等が挙げられる。遷移金属触媒は、遷移金属の酸化物または塩化物の形態や、遷移金属触媒に配位子が配位した形態のものを使用することができる。また遷移金属触媒は、活性炭、アルミナ、シリカ等の担体に担持させた形態のものを使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、メタンスルホン酸、P−トルエンスルホン酸等の有機酸及びアンバーライト15等の酸性樹脂が挙げられる。異性化は、遷移金属触媒により行うのが好ましい。遷移金属触媒としては、パラジウム触媒及びロジウム触媒がより好ましく、特にロジウム触媒が好ましい。具体例としては、パラジウム炭素担持触媒、パラジウムアルミナ担持触媒、臭化パラジウム、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、シアン化パラジウム、パラジウムアセテート、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムトリフルオロアセテートダイマー、酸化パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム等のパラジウム触媒、ロジウム炭素担持触媒、ロジウムアルミナ担持触媒、ロジウムカルボニル、臭化ロジウム、塩化ロジウム、ヨウ化ロジウム、ロジウムアセテートダイマー、ロジウムアセチルアセトナート、ロジウムトリフルオロアセテートダイマー、酸化ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等のロジウム触媒が挙げられる。
【0031】
異性化反応は系内に実質的に水素を含まない、不活性ガス雰囲気下、窒素雰囲気下、真空下、減圧下等の非水素雰囲気下で行うのが好ましい。特に不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましく、不活性ガスとしては窒素及びアルゴンが特に好ましい。水素雰囲気下で行う異性化反応は5,6−ジヒドロ体の副生を招くので好ましくない。なお後掲参考例2に示すように、不活性ガス雰囲気下における遷移金属触媒による異性化反応を式(9′)で表されるL−2,2′−アンヒドロアラビノシルチミンのエキソ体に適用しても、異性化反応は進行しなかった。本発明の新規中間体化合物である式(2′)の化合物に誘導することで、非水素雰囲気下において異性化が達成された。これにより、特許文献2及び3で問題となっていた5,6−ジヒドロ体の副生を回避することが可能となった。
【0032】
触媒量は式(2′)の化合物に対して通常0.01〜90mol%、好ましくは1〜20mol%である。反応は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の単独もしくは混合物が好ましく、特にトルエンが好ましい。反応温度は−50〜300℃の範囲で行うのが好ましく、特に50〜150℃の範囲で行うのがより好ましい。反応時間は通常15分〜72時間の範囲であり、1時間〜24時間の範囲で行うのが好ましい。反応終了後、反応溶液を抽出、晶析、クロマトグラフィー等の当業者に公知の単離精製手段で処理することにより、式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物を単離精製することができる。引き続き、式(4′)で表される化合物に誘導する場合は、任意に単離精製操作を省略してもよい。
【0033】
式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物は、2′位を脱ハロゲン化することにより、式(4′)で表されるL−チミジン化合物に誘導することができる。

式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示す。ヒドロキシ基の保護基については前述と同様である。
【0034】
脱ハロゲン化は、水素化トリブチルスズ、水素化トリエチルシラン、亜リン酸エステル、次亜リン酸及び次亜リン酸塩を用いるラジカル還元、水素雰囲気下における遷移金属触媒による接触還元、ニッケル触媒による還元等、公知の方法により行うことができる。次亜リン酸塩としては、例えば、次亜リン酸N−エチルピペリジニウム、次亜リン酸トリエチルアンモニウム、次亜リン酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。脱ハロゲン化剤として水素化トリブチルスズや水素化トリエチルシランを用いる場合、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、トリエチルボラン等のラジカル反応開始剤を共存させる。
【0035】
脱ハロゲン化は、水素雰囲気下で遷移金属触媒により接触還元する方法が好ましい。遷移金属触媒としては、前述したのと同様のものを用いることができる。特に、パラジウム触媒、ロジウム触媒が好ましい。具体例も前述と同様である。水素圧は、常圧〜50気圧、好ましくは1気圧〜10気圧の範囲で行われる。なお、式(2′)の化合物の異性化において、反応終了後、反応溶液から金属触媒を除去することなく、脱ハロゲン化工程における接触還元反応の触媒として、そのまま使用することができる。
【0036】
反応は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等が、単独もしくは混合物として挙げられ、特にメタノールと水の混合溶媒が好ましい。系中に必要により、トリエチルアミン、酢酸ナトリウム等の塩基や酢酸等の酸を添加してもよい。反応温度は−50℃〜200℃の範囲で行うのが好ましく、特に0℃〜50℃の範囲で行うのがより好ましい。 反応時間は通常10分〜72時間の範囲であり、30分〜24時間の範囲で行うのが好ましい。反応終了後、遷移金属触媒をろ過により除去する。反応溶液は、抽出、晶析、クロマトグラフィー等の当業者に公知の単離精製手段で処理することにより、式(4′)で表されるL−チミジン化合物を単離精製することができる。引き続き式(5′)で表される化合物に誘導する場合は、任意に単離精製操作を省略してもよい。
【0037】
式(4′)で表されるL−チミジン化合物は、脱保護化することにより、式(5′)で表されるL−チミジンに誘導することができる。

【0038】
ヒドロキシ基の脱保護化は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、ヒドロキシ基の保護基がアシル基の場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド等のアルカリで処理することにより脱保護することができる。またヒドロキシ基の保護基がアラルキル基の場合には、塩酸もしくは酢酸等の酸で処理することにより、またはパラジウム炭素等を触媒とする接触水素分解等により、脱保護することができる。
【0039】
式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物は、塩基で処理することにより、式(6′)で表される2、2′−アンヒドロ−1−(β−L−アラビノフラノシル)チミンに誘導することができる。

【0040】
塩基処理において使用する塩基は、前述の式(1′)で表される化合物の塩基処理と同様のものを用いることができ、ここでは特にアンモニアが好ましい。塩基処理による反応は溶媒中で行うのが好ましい。溶媒は、前述の式(1′)で表される化合物の塩基処理の反応溶媒と同様のものを用いることができ、ここでは特にメタノールが好ましい。反応温度、反応時間も前述の塩基処理と同様である。単離精製も抽出、晶析、クロマトグラフィー等の当業者に公知の手段で行うことができる。
【0041】
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお以下の式中、Etはエチル基、Acはアセチル基を意味する。
【実施例1】
【0042】
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体の合成(1)

L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体(1g、純度83%、2.26mmol)の水(3mL)溶液に炭酸カリウム(0.38g、2.77mmol)の水(2mL)溶液を加え、30℃で2時間攪拌した。HPLCで、反応溶液中にL−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体が生成しているのを確認した。反応溶液を希塩酸で中和し、溶媒をN,N−ジメチルホルムアミドに置換した。次に、アルゴンガス雰囲気下、得られた溶液に酢酸エチル(18mL)及びアセチルブロミド(0.80mL、10.88mmol)を加え、80℃にて30分間反応させた。反応終了後、酢酸エチル(10mL)及び飽和重曹水(10mL)を加えて分相し、水相を酢酸エチル(10mL)で再抽出した。有機相を合わせて、水(10mL)及び飽和食塩水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム用いて乾燥した後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(0.48g、収率53%)を得た。
得られた標題化合物の分析結果
mp:148−149℃
H NMR(CDCl,400MHz):δ2.13(s,3H),δ2.19(s,3H),δ4.03−4.08(m,1H),δ4.17−4.37(m,4H),δ4.39(dd,1H,J=7.9,5.9Hz),δ5.20(dd,1H,J=5.9,3.1Hz),δ5.73−5.74(m,1H),δ6.20(d,1H,J=7.9Hz),δ6.45−6.47(m,1H),δ8.26(bs,1H)
【実施例2】
【0043】
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体の合成(2)

L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体(1g、純度91%、2.48mmol)の水(3mL)溶液に1Mのカリウムtert−ブトキシドのテトラヒドロフラン(2.72mL)溶液を加え、室温で2時間及び30℃で19時間攪拌した。HPLCで、反応溶液中にL−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体が生成しているのを確認した。反応溶液を希塩酸で中和し、N,N−ジメチルホルムアミドに置換した。次いで、アルゴンガス雰囲気下、得られた溶液にN,N−ジメチルホルムアミド(18mL)及びアセチルブロミド(0.80mL、10.88mmol)を加え、80℃にて30分間反応させた。反応終了後、酢酸エチル(10mL)及び飽和重曹水(10mL)を加えて分相し、水相を酢酸エチル(10mL)で再抽出した。有機相を合わせてHPLCで分析し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(0.43g、収率43%)が生成していることを確認した。反応終了後、酢酸エチル(10mL)及び飽和重曹水(10mL)を加えて分相し、水相を酢酸エチル(10mL)で再抽出した。有機相を合わせて水(10mL)及び飽和食塩水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウム用いて乾燥した後、溶媒を減圧除去した。得られた残渣にメタノール(2mL)を加え、0℃で1.5時間攪拌した。生成した結晶をろ別し、メタノール(1mL)で洗浄後、減圧乾燥することにより、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(0.40g、収率40%)を得た。
【実施例3】
【0044】
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジンの合成(1)

アルゴンガス雰囲気下、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(0.2g、0.49mmol)及びクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(0.023g、0.025mmol)をトルエン(9.8mL)に溶解し、100℃で2時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をH NMR及びHPLCで分析したところ、原料は完全に消失しており、また5,6−ジヒドロ体であるL−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジンは全く生成していないことを確認した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(0.18g、収率89%)を得た。
得られた標題化合物の分析結果
mp:131−132℃
H NMR(CDCl,400mHz):δ1.95(d,3H,J=1.2Hz),δ2.11(s,3H),δ2.13(s,3H),δ4.30−4.45(m,3H),δ4.52−4.57(m,1H),δ5.15−5.20(m,1H),δ6.23 (d,1H,J=6.2Hz),δ7.19(s,1H),δ8.02(bs,1H)
【実施例4】
【0045】
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジンの合成(2)

アルゴンガス雰囲気下、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(29.7mg、0.07mmol)とトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(3.73mg、0.0035mmol)及びトリフェニルホスフィン(3.75mg、0.014mmol)をトルエン(3mL)に溶解し、100℃で16時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をH NMR及びHPLCで分析し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(11.2mg、38%)が生成していることを確認した。また5,6−ジヒドロ体であるL−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジンは全く生成していなかった。
【実施例5】
【0046】
L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジンの合成(1)

L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(195.6mg、0.46mmol)の水−メタノール混合溶液(1mL、水/メタノール=1/4 (v/v))に酢酸アンモニウム(44mg、0.57mmol)、酢酸(0.055mL、0.99mmol)及び10%パラジウム/炭素(54.9mg)を加え、水素雰囲気下、室温で2時間攪拌した。反応終了後、触媒をろ過し、ろ液を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジン(90.8mg、60%)を得た。
得られた標題化合物の分析結果
H NMR(CDCl,400mHz):δ1.94(d,3H,J=1.2Hz),δ2.11(s,3H),δ2.13(s,3H),δ2.02−2.20(m,1H),δ2.44−2.50(m,1H),δ4.24−4.28(m,1H),δ4.30−4.40(m,2H),δ5.20−5.24(m,1H),δ6.30−6.36(m,1H),δ7.27(s,1H),δ8.20(bs,1H)
【実施例6】
【0047】
L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジンの合成(2)

L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(50.9mg、0.12mmol)の水−メタノール混合溶液(1mL、水/メタノール=1/4(v/v))に酢酸アンモニウム(11mg、0.15mmol)、酢酸(0.014mL、0.24mmol)及び10%パラジウム/炭素(14.4mg)を加え、水素雰囲気下室温で2時間攪拌した。反応終了後、触媒をろ過した。ろ液をHPLCで分析し、L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジン(36.7mg、収率94%)が生成していることを確認した。
【実施例7】
【0048】
L−チミジンの合成

L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジン(46.3mg、0.142mmol)のメタノール(0.56mL)溶液に1M水酸化ナトリウム水溶液(0.85mL)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を希塩酸で中和し、溶媒を減圧除去した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ジクロロメタン/メタノール)で精製し、L−チミジン(34mg、収率98%)を得た。
得られた標題化合物の分析結果
H NMR(MeOH−d,400mHz):δ1.87(d,3H,J=1.2Hz), δ2.20−2.30(m,2H),δ3.70−3.76(m,1H),δ3.76−3.82(m,1H,δ3.86−3.92(m,1H),δ4.36−4.42(m,1H),δ6.25−6.30(m,1H),δ7.81(s,1H)
【実施例8】
【0049】
L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジンの合成(3)

アルゴンガス雰囲気下、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(60.2mg、0.15mmol)及びクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(13.8mg、0.015mmol)をトルエン(3mL)に溶解し、100℃で2時間攪拌した。反応液を室温にまで戻し、トリエチルアミン(31μL、0.225mmol)を加えてから水素ガスに置換して、水素ガス雰囲気下、室温で20時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製して、L−3′,5′−ジ−アセチル−チミジン(18.5mg、収率38%)を得た。
【実施例9】
【0050】
2,2′−アンヒドロ−1−(β−L−アラビノフラノシル)チミンの合成

アルゴンガス雰囲気下、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(30mg、0.077mmol)のメタノール(1mL)溶液に7Mのアンモニアのメタノール溶液(0.77mL)を加え、室温で90時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧除去し、得られた残渣をHPLCで分析し、2,2′−アンヒドロ−1−(β−L−アラビノフラノシル)チミン(16.3mg、88%)が生成していることを確認した。
【0051】
<比較例1>
L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体から2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミンの合成

L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体(1.5g、4.1mmol)の水(15mL)溶液を0℃に冷却し、ヒドロキノン(43.9mg、0.4mmol)及び無水炭酸ナトリウム(432mg、4.1mmol)を加え、0℃で15時間攪拌した。反応終了後、酢酸にて中和し、L−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体を含む水溶液(740mg、収率83%)を得た。次いで、5%パラジウムアルミナ(150mg)を水(7.5mL)に懸濁し、水素ガス雰囲気下、上記水溶液を40℃にて滴下し、2時間反応させた。HPLCで、反応溶液中にL−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体が消失していることを確認した後、触媒をろ過し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ジクロロメタン/メタノール)で精製し、2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミン(628mg、85%:L−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体基準)と2,2′−アンヒドロ−1−β−L−アラビノフラノシル−5,6−ジヒドロチミン(91mg、12%:L−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体基準)を7:1の混合物として得た。これら化合物はRf値が非常に近いために分離が困難であった。
2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミンのRf値=0.32(ジクロロメタン/メタノール=4/1)
2,2′−アンヒドロ−1−β−L−アラビノフラノシル−5,6−ジヒドロチミンのRf値=0.37(ジクロロメタン/メタノール=4/1)
【0052】
<比較例2>
2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミンからL−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジンの合成

比較例1で得られた2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミン(117.8mg、0.49mmol)と2,2′−アンヒドロ−1−β−L−アラビノフラノシル−5,6−ジヒドロチミン(16.9mg、0.07mmol)の混合物(7:1)を酢酸エチル(6.4mL)及びジメチルホルムアミド(0.89mL)に懸濁し、室温下アセチルブロミド(0.225 mL、3.04mmol)を加え、80℃にて1時間反応させた。TLCで原料の消失を確認した後、酢酸エチル(4.2mL)及び飽和重曹水(2.2mL)を加え分液し、得られた有機相を飽和食塩水(2.2mL)で2回洗浄した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製したところ、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジン(164.1mg、0.41mmol)とL−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジン(18.8mg、0.05mmol)を8:1の混合物として得た。これら化合物はRf値が非常に近いために分離が困難であった。
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジンのRf値=0.39(ジクロロメタン/メタノール=20/1)、 0.52(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)、0.27(トルエン/ジエチルエーテル=1/5)
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジンのRf値==0.39(ジクロロメタン/メタノール=20/1)、 0.52(ヘキサン/酢酸エチル=1/2)、0.27(トルエン/ジエチルエーテル=1/5)
【0053】
<参考例1>
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体のロジウム触媒による接触還元

水素ガス雰囲気下、5%ロジウムアルミナ(6mg)のメタノール(1.5mL)懸濁液を60℃に加熱し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−2′−デオキシ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体(60mg、0.15mmol)のメタノール(1.5mL)懸濁液を滴下して、60℃で3時間攪拌した。反応終了後、触媒をろ過し、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をH NMRで分析したところ、原料は完全に消失し、L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−チミジンとL−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジンの混合物が68:32で生成していた。
L−3′,5′−ジ−アセチル−2′−ブロモ−5,6−ジヒドロチミジン(46:54のジアステレオマー混合物)の分析結果
H NMR(CDCl,400mHz):δ1.20−1.30(m,3H),δ2.11(s,3H),δ2.19(s,3H),δ2.70−2.80(m,1H),δ3.11(dd,0.46H,J=11.9,11.9Hz),δ3.23(dd,0.54H,J=11.9,11.9Hz),δ3.37(dd,0.54H,J=11.9,5.5Hz),δ3.54(dd,0.46H,J=11.9,5.9Hz),δ4.20−4.40(m,4H),δ5.13−5.30(m,1H),δ6.16(d,0.54H,J=6.2Hz),δ6.17(d,0.46H,J=6.2Hz),δ7.55(bs,1H)
【0054】
<参考例2>
L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体から不活性ガス雰囲気下での異性化検討

L−アラビノアミノオキサゾリン−α−ブロモメチルアクリル酸エチル付加体(300mg、0.82mmol)の水(3mL)溶液を0℃に冷却し、ヒドロキノン(90mg、0.082mmol)及び無水炭酸ナトリウム(87.1mg、0.82mmol)を加え15時間攪拌した。反応終了後、酢酸にて中和し、L−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体を含む水溶液(167.4mg、85%)を得た。次いで、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(37.8mg、0.04mmol)を水(1.2mL)に懸濁し、アルゴンガス雰囲気下、上記水溶液を100℃にて滴下し、2時間反応させた。反応溶液をHPLCで分析したところ、2,2′−アンヒドロ−(β−L−アラビノフラノシル)チミンの生成は確認されず、L−2,2′−アンヒドロ−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体の加水分解物である1−β−L−アラビノフラノシル−5,6−ジヒドロウラシル−5−エキソメチレン体(44.7mg、収率21%)が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):

(式中、Rはアルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルフォニルオキシ基又はメタンスルフォニルオキシ基を示す。)で表されるアラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を逐次又は同時に行なうことを特徴とする、式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法に従って、式(2)で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を得た後、該化合物を異性化することを特徴とする、式(3):

で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物の製造方法。
(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項3】
請求項2記載の方法に従って、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱ハロゲン化することを特徴とする、式(4):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示す。)
で表されるチミジン化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法に従って、式(4)で表されるチミジン化合物を得た後、該化合物を脱保護化することを特徴とする、式(5):

で表されるチミジンの製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の方法に従って、式(3)で表される2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を塩基で処理することを特徴とする、式(6):

で表される2、2′−アンヒドロ−1−(β−アラビノフラノシル)チミンの製造方法。
【請求項6】
式(1)で表されるアラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、式(7):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を作用させ、保護化及びハロゲン化を同時に行ない、式(2)で表される化合物を得ること特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
式(1′):

(式中、Rはアルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルフォニルオキシ基又はメタンスルフォニルオキシ基を示す。)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン−α−メチルアクリル酸エステル付加体を塩基で処理した後、保護化及びハロゲン化を逐次又は同時に行なうことを特徴とする、式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法に従って、式(2)で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物を得た後、該化合物を異性化することを特徴とする、式(3′):

で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物の製造方法。
(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
【請求項9】
請求項8記載の方法に従って、式(3′)で表されるL−2′−ハロゲン−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱ハロゲン化することを特徴とする、式(4′):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示す。)
で表されるL−チミジン化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法に従って、式(4′)で表されるL−チミジン化合物を得た後、該化合物を脱保護化することを特徴とする、式(5′):

で表されるL−チミジンの製造方法。
【請求項11】
請求項8記載の方法に従って、式(3′)で表されるL−チミジン化合物を得た後、該化合物を塩基で処理することを特徴とする、式(6′):

で表される2、2′−アンヒドロ−1−(β−L−アラビノフラノシル)チミンの製造方法。
【請求項12】
式(1′)で表されるL−アラビノアミノオキサゾリン化合物を塩基で処理した後、式(7):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物を作用させ、保護化及びハロゲン化を同時に行ない、式(2′)で表される化合物を得ること特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
異性化が、非水素雰囲気下に行われる、請求項2〜6、8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
異性化が、遷移金属触媒によって行われる、請求項2〜6、8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
異性化が、ロジウム触媒又はパラジウム触媒によって行われる、請求項2〜6、8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
が塩素原子又は臭素原子である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
が塩素原子又は臭素原子である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
一般式(2):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物。
【請求項19】
一般式(2′):

(式中、Rはヒドロキシ基の保護基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるL−2′−ハロゲン−5,6−ジヒドロウリジン−5−エキソメチレン体化合物。

【公開番号】特開2011−84471(P2011−84471A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16561(P2008−16561)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】