説明

核酸配列の検査方法

【課題】核酸配列の有無とその内容を容易かつ迅速に判断することのできる検査方法を提供すること。
【解決手段】核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、この際、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、整数の差の絶対値が一定数nとなるように前記整数を対応させると共に、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように整数を対応させ、次に、検査対象の塩基に対応する数値と基準の数値の差を算出し、この差が0の場合、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とは同一であると判定すると共に、0でない場合には相違があると判定し、前記差の絶対値がnの場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定し、前記差の絶対値が0とnのいずれでもない場合、異なる塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することにより、両者の相違の有無とその内容について検査する方法に関する。
【0002】
本発明によれば、例えば、特定の病原菌の第1世代の核酸配列を基準とし、その後の世代の核酸配列を検査対象として、この両者を比較することにより、突然変異の有無を検査したり、その突然変異が病原性に与える影響の有無を推定することができる。
【0003】
また、本発明によれば、個体の臓器の核酸配列を経時的に検査して、ガン等の疾病が発病する危険の有無とその可能性の大小を推定することができる。
【背景技術】
【0004】
周知のように、DNAやRNAなどの核酸配列は、糖−燐酸骨格に4種類の塩基が結合したものである。すなわち、DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)及びシトシン(C)の4種類の塩基が糖−燐酸骨格に結合して構成されている。このうち、アデニン(A)とグアニン(G)はプリンを塩基骨格とする塩基であり、チミン(T)とシトシン(C)はピリミジンを塩基骨格とする塩基である。また、アデニン(A)とチミン(T)は互いに相補的な関係にあり、DNAの二重鎖構造においてはアデニン(A)とチミン(T)が水素結合して対となっている。また、同様に、グアニン(G)とシトシン(C)は互いに相補的な関係にあり、DNAの二重鎖構造においてグアニン(G)とシトシン(C)が水素結合して対となっている。
【0005】
他方、RNAは、アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)及びシトシン(C)の4種類の塩基が糖−燐酸骨格に結合して構成されたものである。なお、このRNAに含まれるウラシル(U)はピリミジンを塩基骨格とする塩基である。そして、RNAにおいても、アデニン(A)とウラシル(U)は互いに相補的な関係にあり、グアニン(G)とシトシン(C)も互いに相補的な関係にある。
【0006】
そして、生体内においては、これら4種類の塩基の配列をアミノ酸に翻訳してたんぱく質を合成している。生体内のたんぱく質を構成するアミノ酸は20種類あるから、連続する3個の塩基配列(コドン)が前記アミノ酸のそれぞれに対応する。表1にDNAのコドンとアミノ酸の対応関係を示す。
【0007】
【表1】

表1から分かるように、コドンの塩基配列が異なる場合であっても、その3個の塩基のうち1番目の塩基(1st base)と2番目の塩基(2nd base)が同一で、3番目の塩基(3rd base)の塩基骨格が同一の場合には、対応するアミノ酸が同一である場合が多い(同義置換)。例えば、表1中、左上のコドンに着目するとその塩基配列はTTTで、これに対応するアミノ酸はフェニルアラニン(Phe)であり、その3番目の塩基Tの塩基骨格はピリミジンである。そして、1番目の塩基(1st base)と2番目の塩基(2nd base)が同一で、3番目の塩基(3rd base)の塩基骨格がピリミジンであるコドンTTCも、フェニルアラニン(Phe)に対応する。
【0008】
また、その右側のコドンはTCTであり、対応するアミノ酸はセリン(Ser)である。そして、その3番目の塩基Tを、同一の塩基骨格(ピリミジン)の塩基シトシン(C)で置換したコドンTCCに対応するアミノ酸もセリン(Ser)である。
【0009】
表1から分かるように、1番目の塩基(1st base)と2番目の塩基(2nd base)が同一で、3番目の塩基(3rd base)の塩基骨格が同一であるにも拘らず、対応するアミノ酸が異なる場合(非同義置換)は、表1中、下線を施した2つの場合のみである。すなわち、コドンATAに対応するアミノ酸はイソロイシン(Ile)であり、他方、コドンATGに対応するアミノ酸はメチオニン(Met)である。また、コドンTGAに対応するアミノ酸は存在せず、読み取り終了(Ter)を示している。他方、コドンTGGに対応するアミノ酸はトリプトファン(Trp)である。これら2つの場合は、いずれも、アデニン(A)とグアニン(G)との間の置換であり、プリンを塩基骨格とする2種類の塩基の間の置換である。なお、1番目の塩基と2番目の塩基が共通で、3番目の塩基の置換がチミン(T)とシトシン(C)との間の置換である場合、すなわち、ピリミジンを塩基骨格とする2種類の塩基の間の置換の場合、いずれのコドンにおいても同義置換である。
【0010】
ところで、遺伝に伴って、あるいは、個体の新陳代謝に伴う細胞分裂の際に、これら塩基配列に変異が生じることがある。例えば、世代交代の多い病原体においては、世代交代の際の突然変異や個体変異によって、その核酸配列が変化することがある。しかし、これら変異によって核酸配列に変異が生じた場合であっても、同義置換の場合には合成されるたんぱく質も同一であるから、その病原性に変化はないと推定できる。他方、非同義置換の場合には、合成されるたんぱく質が異なることになるから、その病原性も変化する可能性がある。例えば、その病原体の伝染能力の強さ、毒性の強さ、医薬品耐性等である。このため、非同義置換が確認された場合には、新世代の病原体について、より詳細な分析と検討とを加える必要があるが、変異が生じていない場合や同義置換の場合には、これに詳細な分析と検討とを加えることは時間と費用の浪費につながる可能性が高い。
【0011】
また、個体の新陳代謝に伴う細胞分裂の際に核酸配列が変異した場合においても、その変異が同義置換の場合には合成されるたんぱく質も同一であるから、生体に対する影響はないものと推定できる。しかし、核酸配列の変異が非同義置換の場合には合成されるたんぱく質に変化が生じるから、その生体の性質が変化することがある。例えば、特許文献1及び2は、このような核酸配列の変異に基づいて皮膚の色が異なることを指摘している。また、後述するように、ガンなどの疾病の発生率等が変わることもある。この場合にも、個体の性質や疾病の可能性を効率的に検討するため、変異が生じているか否か、あるいは、変異が生じている場合であっても、その変異が同義置換であるか非同義置換であるかについて、簡単かつ迅速に検査することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−107396号公報
【特許文献2】特開2007−252348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することによって、核酸配列の有無とその内容を容易かつ迅速に判断することのできる検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、請求項1に記載の発明は、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することにより、両者の相違の有無とその内容について検査する方法において、
核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、
この際、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、前記整数の差の絶対値が一定
数nとなるように前記整数を対応させると共に、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように前記整数を対応させ、
次に、前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出し、
この差が0の場合、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とは同一であると判定すると共に、0でない場合には相違があると判定し、
前記差の絶対値がnの場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定し、前記差の絶対値が0とnのいずれでもない場合、異なる塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定する、
ことを特徴とする核酸配列の検査方法である。
【0015】
例えば、DNAの核酸配列において、アデニン(A)とグアニン(G)は同一の塩基骨格(プリン)を有するから、アデニン(A)に整数aを対応させ、グアニン(G)には整数a+nを対応させる。また、シトシン(C)とチミン(T)も同一の塩基骨格(ピリミジン)を有するから、シトシン(C)に整数bを対応させ、チミン(T)にはb+nを対応させる。すなわち、塩基骨格がプリンであるかピリミジンであるかに関わりなく、同一の塩基骨格を有する塩基の間で前記整数の差を算出すると、その絶対値はnである。このため、検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出すると、この両塩基の塩基骨格が同一であれば、その差の絶対値はnである。なお、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とが同一の場合には、前記差は0である。
【0016】
他方、例えば、アデニン(A)とシトシン(C)とは異なる塩基骨格を有する。このため、この両者に対応する整数の差がnとは異なる数値となるように、両者に整数を対応させる。すなわち、bはaと異なり、また、a+nとも異なる数値である。また、アデニン(A)とチミン(T)との間、グアニン(G)とシトシン(C)との間、グアニン(G)とチミン(T)との間についても同様の関係が成立するように整数を付与する。このため、検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出すると、この両塩基の塩基骨格が異なる場合、その差の絶対値はnとは異なる数値となる。
【0017】
例えば、アデニン(A)にa、グアニン(G)にa+1、チミン(T)にa+3、シトシン(C)にa+4の数値を対応させれば、アデニン(A)とグアニン(G)との間では整数の差の絶対値が1であり、チミン(T)とシトシン(C)との間でも整数の差の絶対値が1である。他方、これ以外の場合には、整数の差の絶対値は2以上の数値になる。
【0018】
このように、請求項1に記載の発明によれば、検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出することにより、核酸配列の相違の有無を判断できるだけでなく、相違が存在する場合、その相違が同一の塩基骨格の塩基間のトランジッション変化であるか、それとも、異なる塩基骨格の塩基間のトランスバージョン変化であるか、という点についても、容易に判断することが可能となる。
【0019】
そして、基準の病原体や生体に強い病原性や疾病発症の可能性がない場合、核酸配列の相違がなかったり、あるいはその相違が3番目のトランジッション変化である場合、検査対象の病原体や生体にも強い病原性や疾病発症の可能性が少ないと推定できる。このため、より詳細な分析や検討を省略してその効率化を図ることが可能となる。
【0020】
なお、この発明は、基準の塩基配列が未知の場合にも適用できる。例えば、基準の塩基配列が病原性の低い病原体で、塩基配列が未知の場合、新世代の病原体の塩基配列を検査
対象として、この検査対象と基準の塩基配列との間に相違がなかったり、たとえ相違があっても、その相違が3番目のトランジッション変化であった場合には、更に検討を加える必要がないと推定することが可能となる。
【0021】
次に、請求項2に記載の発明は、核酸配列に相違が存在した場合、検査対象の核酸配列に含まれる塩基の種類を判定することを可能とするものである。
【0022】
すなわち、請求項2に記載の発明は、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することにより、両者の相違の有無とその内容について検査する方法において、
核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、
この際、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、前記整数の差の絶対値が一定数nとなるように前記整数を対応させると共に、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように前記整数を対応させ、かつ、相補性を有する2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆の整数を対応させ、
次に、前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出し、
この差が0の場合、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とは同一であると判定すると共に、0でない場合には相違があると判定し、
前記差の絶対値がnの場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定し、前記差の絶対値が0とnのいずれでもない場合、異なる塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定すると共に、
前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の和を算出し、
この和と、前記差の絶対値とに基づいて、検査対象の核酸配列に含まれる塩基の種類を判定する、
ことを特徴とする核酸配列の検査方法である。
【0023】
この発明においては、核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに整数を対応させる際に、相補性を有する2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆の整数を対応させる。
【0024】
例えば、アデニン(A)に正の整数a、グアニン(G)にa+1、チミン(T)に−a、シトシン(C)に−(a+1)の数値を対応させれば、アデニン(A)とグアニン(G)との間では整数の差の絶対値が1であり、チミン(T)とシトシン(C)との間でも整数の差の絶対値が1である。他方、これ以外の場合には、整数の差の絶対値は2以上の数値になる。
【0025】
他方、互いに相補性のある2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆の整数が対応している。すなわち、アデニン(A)とチミン(T)との間では、アデニン(A)にa、チミン(T)に−aが対応している。また、グアニン(G)とシトシン(C)とのの間では、グアニン(G)にa+1、シトシン(C)に−(a+1)が対応している。
【0026】
そして、この場合、表2に示すように、その差の絶対値と和とは両塩基の種類に応じて異なるから、これら差の絶対値と和を算出し、予め分かっている基準の塩基配列から、検査対象の核酸配列に含まれる塩基の種類を判定することができる。
【0027】
【表2】

例えば、基準の塩基配列がACTであり、この基準の塩基配列のうち1番目の塩基Aに対応する整数と検査対象の塩基配列の1番目の塩基に対応する整数との差の絶対値が1、
和が2a+1である場合、基準の塩基配列の1番目のアデニン(A)がグアニン(G)に置換されていることが分かる。この場合、共通の塩基骨格(プリン)を有する塩基間の置換、すなわち、トランジッション変化である。なお、1番目の塩基の置換の場合には、非同義置換の可能性が高い。
【0028】
また、基準の塩基配列がACTであり、この基準の塩基配列のうち3番目の塩基Tに対応する整数と検査対象の塩基配列の3番目の塩基に対応する整数との差の絶対値が2a+1、和が1である場合、基準の塩基配列の3番目のチミン(T)がグアニン(G)に置換されていることが分かる。この場合、異なる塩基骨格を有する塩基間の置換、すなわち、トランスバージョン変化である。この変異も非同義置換の可能性が高い。
【0029】
そして、これらの例のように、コドンの1番目又は2番目の塩基が変化した場合には、非同義置換の可能性があり、生体の性質に変化が生じている可能性があるから、その具体的変化の有無と内容について更に検討を進めることができる。また、コドンの3番目の塩基がトランスバージョン変化を生じている場合にも、非同義置換の可能性があり、生体の性質に変化が生じている可能性があるから、その具体的変化の有無と内容について更に検討を進めることができる。
【0030】
他方、コドンの3番目の塩基がトランジッション変化を生じている場合、例外を除いて、同義置換と推定できるから、生体の性質に変化が生じている可能性はなく、更に検討を加える必要がないと判断できる。例えば、基準の塩基配列がACTであり、この基準の塩基配列のうち3番目の塩基Tに対応する整数と検査対象の塩基配列の3番目の塩基に対応する整数との差の絶対値が1、和が−(2a+1)である場合、基準の塩基配列の3番目のチミン(T)がシトシン(C)に置換されていることが分かる。この場合、共通の塩基骨格(ピリミジン)を有する塩基間の置換、すなわち、トランジッション変化である。そして、この置換は、表1から分かるように、同義置換である。
【0031】
前述のように、コドンの3番目の塩基がトランジッション変化を生じている場合であっても、その変異がアデニン(A)とグアニン(G)との間の置換の場合、例外的に非同義置換のことがある。例えば、基準の塩基配列の3番目の塩基に対応する整数と検査対象の塩基配列の3番目の塩基に対応する整数との差の絶対値が1、和が2a+1の場合、この変異はアデニン(A)とグアニン(G)との間の置換である。そして、この場合には、トランジッション変化であるにも拘らず、非同義置換の可能性がある。そして、生体の性質に変化が生じている可能性があるから、その具体的変化の有無と内容について更に検討を進めることができる。
【0032】
このため、この発明は、基準となる塩基配列が未知の場合であっても適用できる。すなわち、基準の塩基配列が病原性の低い病原体で、塩基配列が未知の場合、新世代の病原体の塩基配列を検査対象として、この検査対象と基準の塩基配列との間に相違がなかったり、たとえ相違があっても、その相違が3番目の塩基のトランジッション変化であり、しかも、ピリミジン骨格を有する塩基間の置換であった場合には、更に検討を加える必要がないと推定することが可能となる。
【0033】
次に、請求項3に記載の発明は、前記整数を具体的に特定したもので、すなわち、前記4種類の整数が、1,2,−1,−2であることを特徴とする請求項2に記載の検査方法である。
【0034】
また、請求項4に記載の発明は、病原体や生体の性質に影響を与える可能性のある変異であるか否かについて検査するもので、すなわち、前記検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とがコドンであり、このコドン中の変化の位置を検査することを特徴とする請求項1
〜3のいずれかに記載の検査方法である。
【0035】
次に、請求項5及び6に記載の発明は、その適用分野を特定したもので、請求項5に記載の発明は、基準の核酸配列を第1世代の核酸配列とするとき、検査対象の核酸配列がその後の世代の核酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の検査方法であり、また、請求項6に記載の発明は、疾病の原因となる核酸配列の有無を検査することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の検査方法である。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明によれば、4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、検査対象に対応する数値と基準に対応する数値とを演算することによって、核酸配列の相違の有無とその内容を判断することができる。そして、この演算は単なる数値演算であるから、既存のコンピュータによって簡単かつ迅速に演算することができ、このため、核酸配列の相違の有無とその内容を簡単かつ迅速に判断することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る検査方法においては、その検査の前に、核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させる必要がある。その条件は、次の条件1〜2のとおりである。
【0038】
条件1;同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、前記整数の差の絶対値が一定数nとなるように前記整数を対応させる.
条件2;塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように前記整数を対応させる。
【0039】
望ましくは、次の条件3を充足するように4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させるべきである。
【0040】
条件3;相補性を有する2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆となるように整数を対応させる。
【0041】
これら条件1〜3を充足させるためには、例えば、アデニン(A)に1、グアニン(G)に2、チミン(T)に−1、シトシン(C)に−2の数値を対応させればよい。この場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間、すなわち、アデニン(A)とグアニン(G)との間、及びチミン(T)とシトシン(C)との間では、前記整数の差の絶対値は1である。他方、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値は1にはならない。すなわち、アデニン(A)とチミン(T)との間では2、アデニン(A)と、シトシン(C)との間では3、グアニン(G)とチミン(T)との間では3、グアニン(G)とシトシン(C)との間では4である。
【0042】
また、互いに相補性のある2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆の整数が対応している。すなわち、アデニン(A)とチミン(T)との間では、アデニン(A)に1、チミン(T)に−1が対応している。また、グアニン(G)とシトシン(C)とのの間では、グアニン(G)に2、シトシン(C)に−2が対応している。
【0043】
この例においては、表3に示すように、前記整数の差の絶対値と和が分かれば、変異の前後の塩基の種類を判定することができる。
【0044】
【表3】

次に、アデニン(A)に1、グアニン(G)に2、チミン(T)に−1、シトシン(C
)に−2の数値を対応させた場合について、その有用性を検証するため、主要な疾病とコドンの変異との関係に関する既存の知識に適用した場合について検討した。この結果を表4〜表9に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
【表9】

この表は、常態のコドンと発症の可能性のあるコドンとを対比して、その塩基配列のうち相違する塩基の位置、対応する整数の差の絶対値及び和を一覧にしたものである。なお、表4〜表9は表示の便宜上分離して示したもので、一連の表である。
【0051】
そして、これら表4〜表9の左の欄は主要な疾病、左から2番目の欄は遺伝子を示している。そして、常態のコドンとこれに対応するアミノ酸、この常態から変化して疾病を発症させる可能性のあるコドンとこれに対応するアミノ酸を記載している。
【0052】
また、右側から2番目の列には、常態のコドンと変化後のコドンとを比較して、相違のある塩基の位置(コドン位置)を示している。例えば、表4中最上欄のNo.1のコドン位置は「1」である。この場合、常態のコドンと変化後のコドンとは、1番目の塩基に相違がある。すなわち、常態のコドンはCGA、変化後のコドンはTGAであり、その1番目の塩基が相違している。
【0053】
また、常態の欄に設けられた「number」は、前記相違のある塩基に対応する整数を示している。例えば、表4中最上欄のNo.1の常態の欄の「number」は−2であり、この数値はシトシン(C)を示している。変化の欄に設けられた「number」も同様であり、例えば、表4中最上欄のNo.1の変化の欄の「number」は−1である。この数値はチミン(T)を意味している。
【0054】
そして、これら常態の欄と変化の欄に並べて、これら常態のnumberと変化のnumberとの差の絶対値と、和とを表示している。
【0055】
これら表4〜表9から分かるように、主要な疾病を発症させる可能性のある塩基配列と常態の塩基配列とは、コドンの1番目又は2番目の塩基に相違がある場合が多い。この場合については、相違のある塩基の位置を確認すればよい。
【0056】
また、コドンの3番目の塩基に相違がある場合にも、疾病を発症させる可能性のあることがある。表10は、表4〜表9のうち、3番目の塩基に相違がある場合を抜き出してまとめたものである。
【0057】
【表10】

表10から分かるように、疾病を発症させる可能性のある塩基配列と常態の塩基配列との間で、3番目の塩基に相違がある場合は、その相違がトランスバージョン変化である場合が多い(表10中、No.2,8,14,31,46,52,63,84,92,95
,96,107,108,115。すなわち、No.83を除く全てである)。言い換えると、3番目の塩基に相違がトランジッション変化である場合には、一部の例外(表10中、No.83)を除いて、疾病を発症させる可能性がない。
【0058】
そして、表10から分かるように、トランスバージョン変化の場合には、常態のnumberと変化のnumberとの差の絶対値が0と1を除く数値となっており、他方、トランジッション変化である場合には1となっているから、前記差の絶対値を算出することによってトランスバージョン変化であるかトランジッション変化であるかを判定できることが確認できる。
【0059】
また、表10中、No.83は、3番目の塩基にトランジッション変化が生じているケースである。この場合には、前記差の絶対値は1であるが、和が3であり、このため、表3を参照することにより、グアニン(G)とアデニン(A)との間の置換であることが分かる。この場合には、プリン骨格を有する塩基間の置換であるから、この置換が同義置換であるか非同義置換であるかについては判定することができない。このため、更に進んだ分析と検討を必要とする。もっとも、基準の塩基配列が分かっている場合には、表1から、非同義置換であると判定することが可能である。なお、3番目の塩基にトランジッション変化が生じていても、その変化がピリミジン骨格を有する塩基間の置換である場合、基準の塩基配列が既知であるか否かを問わず、表10の疾病を発症させる可能性はないことが分かる。
【0060】
以上のように、本発明によれば、基準となる塩基配列が既知であるか否かに拘わらず、この基準の塩基配列と検査対象の塩基配列との間に相違があるか否かについて簡単かつ迅速に検査することが可能となり、より詳細な分析や検討を行うか否かについて判断する際参考となる情報をもたらすことができる。また、非同義置換の可能性があるか、その可能性がないか、についても判定することができる。更に、基準となる塩基配列が既知である場合には、その変異の内容についても簡単かつ迅速に判定することが可能となり、より詳細な分析や検討を行うか否かについて判断する際に参考となる一層重要な情報をもたらすことができる。そして、このため、これら核酸配列の分析・検討を一層効率化することが可能となるのである。
【0061】
なお、前記差の絶対値の算出、和の算出、同義置換か否かの判定等については、既存のコンピュータで迅速に実行することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することにより、両者の相違の有無とその内容について検査する方法において、
核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、
この際、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、前記整数の差の絶対値が一定数nとなるように前記整数を対応させると共に、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように前記整数を対応させ、
次に、前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出し、
この差が0の場合、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とは同一であると判定すると共に、0でない場合には相違があると判定し、
前記差の絶対値がnの場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定し、前記差の絶対値が0とnのいずれでもない場合、異なる塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定する、
ことを特徴とする核酸配列の検査方法。
【請求項2】
検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とを比較することにより、両者の相違の有無とその内容について検査する方法において、
核酸配列を構成する4種類の塩基のそれぞれに互いに異なる整数を対応させ、
この際、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基の間では、前記整数の差の絶対値が一定数nとなるように前記整数を対応させると共に、塩基骨格の異なる塩基の間では前記整数の差の絶対値が前記一定数nと異なる数値となるように前記整数を対応させ、かつ、相補性を有する2種類の塩基の間では、絶対値が同一で、互いに正負が逆の整数を対応させ、
次に、前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の差を算出し、
この差が0の場合、検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とは同一であると判定すると共に、0でない場合には相違があると判定し、
前記差の絶対値がnの場合、同一の塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定し、前記差の絶対値が0とnのいずれでもない場合、異なる塩基骨格を有する2種類の塩基間の相違であると判定すると共に、
前記検査対象の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値と基準の核酸配列に含まれる塩基に対応する前記数値の和を算出し、
この和と、前記差の絶対値とに基づいて、検査対象の核酸配列に含まれる塩基の種類を判定する、
ことを特徴とする核酸配列の検査方法。
【請求項3】
前記4種類の整数が、1,2,−1,−2であることを特徴とする請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記検査対象の核酸配列と基準の核酸配列とがコドンであり、このコドン中の変化の位置を検査することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の検査方法。
【請求項5】
基準の核酸配列を第1世代の核酸配列とするとき、検査対象の核酸配列がその後の世代の核酸配列であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
疾病の原因となる核酸配列の有無を検査することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の検査方法。

【公開番号】特開2011−24438(P2011−24438A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171129(P2009−171129)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】