説明

核酸配列決定のための方法およびキット

本開示の各種実施形態は、一般に、標的核酸(DNA、RNA、cDNAなどの)分子を配列決定するための分子生物学的プロトコール、装置、および試薬に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度にパラレルであり、かつ、「リーディング長」が長いヌクレオチド配列決定を可能とする、標的核酸(DNA、RNA、cDNAなど)分子を配列決定するための分子生物学的方法、装置、および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAとは、ヌクレオチドと呼ばれるユニットからなる長いポリマーである。DNAポリマーとは、併せて核酸と呼ばれる分子を形成する、単一ユニットによる長鎖である。ヌクレオチドは、4つのサブユニット(アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、およびチミン(T))のうちの1つでありえ、ポリマー内にあると、細胞内の遺伝子情報を保有しうる。DNAは、エステル結合により連結される糖骨格およびリン酸基を伴い、二重螺旋へとより合わされ、相補的なヌクレオチド間において水素結合により連結される(Aは逆行鎖のTに水素結合し、Cは逆行鎖のGに水素結合する)、4つの異なるヌクレオチド塩基を含む2本のヌクレオチド長鎖(例えば、AGTCATCGTAGCT…など)を含む。骨格に沿うヌクレオチド塩基の配列は、個体の遺伝的特徴を決定しうる。
【0003】
分子生物学のセントラルドグマは、生物学的情報の正常な流れの一般的記述である。すなわち、DNAはDNAに複製でき、DNAの遺伝情報はmRNAに「転写」でき、タンパク質は、翻訳と呼ばれる過程でmRNAの情報から翻訳でき、その過程において、mRNAにtRNA(各tRNAは、その配列に応じて特定のアミノ酸を運びこむ)が結合することにより、タンパク質のサブユニット(アミノ酸)が順番に(mRNAの配列により、またしたがって、DNAの配列により決定される)結合するのに十分な程度まで近接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,644,048号
【特許文献2】米国特許第5,386,023号
【特許文献3】米国特許第5,637,684号
【特許文献4】米国特許第5,602,240号
【特許文献5】米国特許第5,216,141号
【特許文献6】米国特許第4,469,863号
【特許文献7】米国特許第5,235,033号
【特許文献8】米国特許第5,034,506号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Beaucageら(1993)、Tetrahedron 49(10)、1925頁
【非特許文献2】Letsinger (1970)、J. Org. Chem. 35、3800頁
【非特許文献3】Sprinzlら(1977)、Eur. J. Biochem. 81、579頁
【非特許文献4】Letsingerら(1986)、Nucl. Acids Res. 14、3487頁
【非特許文献5】Sawaiら(1984)、Chem. Lett. 805
【非特許文献6】Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁
【非特許文献7】Pauwelsら(1986)、Chemica Scripta 26、1419頁
【非特許文献8】Magら(1991)、Nucleic Acids Res. 19、1437頁
【非特許文献9】Briuら(1989)、J. Am. Chem. Soc. 111、2321頁
【非特許文献10】Eckstein、「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」、Oxford University Press社
【非特許文献11】Egholm (1992)、J. Am. Chem. Soc. 114、1895頁
【非特許文献12】Meierら(1992)、Chem. Int. Ed. Engl. 31、1008頁
【非特許文献13】Nielsen (1993)、Nature 365、566頁
【非特許文献14】Carlssonら(1996)、Nature 380、207頁
【非特許文献15】Denpcyら(1995)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92、6097頁
【非特許文献16】Angew (1991)、Chem. Intl. Ed. English 30、423頁
【非特許文献17】Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁
【非特許文献18】Letsingerら(1994)、Nucleoside & Nucleotide 13、1597頁
【非特許文献19】ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第2および3章;第6および7章
【非特許文献20】Mesmaekerら(1994)、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett. 4、395頁
【非特許文献21】Jeffsら(1994)、J. Biomolecular NMR 34、17頁
【非特許文献22】Tetrahedron Lett. 37、743頁(1996)
【非特許文献23】Jenkinsら(1995)、Chem. Soc. Rev、169〜176頁
【非特許文献24】Rawls、C & E News、1997年6月2日、35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[課題を解決するための手段]
本発明の実施形態によると、標的ポリヌクレオチドを配列決定する方法が開示される。該方法は、アッセイ領域内に高感度検出用ナノ構造を供給するステップであり、該ナノ構造が、該ナノ構造の特性に関連するシグナルをアッセイ領域内において発生させ、該シグナルを検出する手段に連結されているステップと;結果として得られるプライマー-標的ポリヌクレオチドが該ナノ構造に作動的に連結されるように、該アッセイ領域内において該標的ポリヌクレオチドの5'端領域にプライマーをハイブリダイズさせるステップと; 該アッセイ領域内において該プライマー-標的ポリヌクレオチドに1または複数のヌクレオチドおよびポリメラーゼを添加するステップであり、付加されたヌクレオチドのうちの少なくとも1つが該プライマーの下流にある標的ポリヌクレオチド上の塩基に相補的である場合に、新生鎖の重合を支持する条件下で添加するステップと;該新生鎖に付加された少なくとも1つのヌクレオチドに特徴的なシグナルの変化を該アッセイ領域内において検出するステップとを含む。
【0007】
該方法の好ましい実施形態において、ナノ構造の特性とは、電荷である。
【0008】
該方法の特定の実施形態において、付加されたヌクレオチドは、高電荷量部分(high charge mass moiety)およびリンカーを含む、電荷量レポーター部分(charge mass reporter moiety)をさらに含む。一部の実施形態において、電荷量レポーター部分は、除去可能であるように構成される。一部の実施形態において、電荷量レポーター部分は、シグナルの検出後に、付加されたヌクレオチドから除去される。一部の実施形態において、電荷量レポーター部分は、ポリメラーゼによる新生鎖の重合に影響を及ぼさないように構成される。さらに他の実施形態において、電荷量レポーター部分は、新生鎖から突出して、高感度検出用ナノ構造へと届くように構成される。
【0009】
一部の実施形態において、高電荷量部分は、第三級アミノ基、アルコールヒドロキシル基、フェノールヒドロキシ基、またはこれらの任意の組合せのうちの1つまたは複数を含む芳香族骨格および/または脂肪族骨格を含む。高電荷量部分は、以下の基:
【0010】
【化1】

【0011】
またはこれらの誘導体のうちの1つまたは複数を含みうる。
【0012】
該方法の一部の実施形態において、リンカーは、以下の一般式:
H2N-L-NH2
[式中、Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せを含む直鎖または分枝鎖を含む]の分子を含む。
【0013】
一部の実施形態において、Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せを含む直鎖を含みうる。該直鎖内の炭素原子数は、1〜100でありうる。
【0014】
一部の実施形態において、付加されたヌクレオチドはまた、それが除去されるまで別のヌクレオチドの付加が防止されるように、5'リン酸にて、切断可能なキャップ分子も含みうる。一部の実施形態において、リンカーは、付加されたヌクレオチドの5'リン酸基に結合しており、これによりキャップとして作用しうる。
【0015】
該方法の変化形では、複数のヌクレオチドがアッセイ領域に添加されえ、但し新生鎖に付加された先行ヌクレオチドに特徴的なシグナルが検出されるまで、該新生鎖に後続のヌクレオチドが付加されない。
【0016】
一部の実施形態において、プライマー-標的ポリヌクレオチドとナノ構造との作動的な連結は、高感度検出用ナノ構造への該プライマーの固定化を含む。他の実施形態において、プライマー-標的ポリヌクレオチドとナノ構造との作動的な連結は、該高感度検出用ナノ構造への該標的ポリヌクレオチドの固定化を含む。
【0017】
特定の実施形態において、プライマーを標的ポリヌクレオチドの5'端領域にハイブリダイズさせるステップは、該プライマーを、標的ポリヌクレオチドの5'端にライゲーションされたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせるステップを含む。
【0018】
特定の実施形態において、高感度検出用ナノ構造は、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノギャップ、ナノビーズ、ナノポア、電界効果トランジスタ(FET)型バイオセンサー、平面電界効果トランジスタ、および任意の導電性ナノ構造からなる群から選択される。
【0019】
標的ポリヌクレオチドおよびプライマーは、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ、ロックト核酸(LNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、合成ヌクレオチドプライマー、およびこれらの誘導体からなる群から選択される分子を含むことが好ましい。付加されたヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、合成ヌクレオチド、およびこれらの誘導体からなる群から選択される分子を含むことが好ましい。
【0020】
一部の実施形態において、シグナルを検出する手段は、圧電検出、電気化学的検出、電磁的検出、光検出、力学的検出、音響検出、および重量検出からなる群から選択される。
【0021】
本発明の他の実施形態に従い、標的ポリヌクレオチドを配列決定するための装置が開示される。該装置は、その電荷に関連するシグナルを発生させることが可能な高感度検出用ナノ構造と、該高感度検出用ナノ構造に連結されたシグナルを検出する手段とを含むアッセイ領域を含む。一部の実施形態において、該装置は、高感度検出用ナノ構造を配置したピコウェルまたはマイクロ流体チャネルをさらに含む場合があり、この場合、生物学的試料は、ヌクレオチドを含む任意の体液、細胞およびそれらの抽出物、組織およびそれらの抽出物、ならびに他の任意の生物学的試料を含む。他の一部の実施形態において、該装置は、マイクロ流体カセットを含みうる。マイクロ流体カセットは、標的ポリヌクレオチドを含む生物学的試料を該カセット内へと導入するための試料受容エレメントと;該生物学的試料を破砕して、核酸および他の分子を含む可溶性画分を放出させる溶解チャンバーと;該可溶性画分中における該核酸を該他の分子から分離する核酸分離チャンバーと; 該標的ポリヌクレオチドを増幅するための増幅チャンバーと; 1または複数の高感度検出用ナノ構造のアレイを含み、該ナノ構造が、該ナノ構造の特性に関連するシグナルを発生させる、該ナノ構造への該標的ポリヌクレオチドの作動的な連結を可能とするように構成されているアッセイ領域と;該シグナルを検出器へと伝導させる伝導エレメントとを含みうる。一部の実施形態において、該装置は、標的ポリヌクレオチドを含む任意の体液、細胞およびそれらの抽出物、組織およびそれらの抽出物、ならびに他の任意の生物学的試料でありうる生物学的試料に用いることができる。本明細書の一部の実施形態で開示される配列決定装置は、携帯型のサイズおよび構成でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A−B】標的DNAのプローブ配列の固定化および測定についての例示的な実施形態の図示である。
【図2】合成反応による配列決定の一部についての例示的な実施形態の図示である。
【図3】新生鎖への合成ヌクレオチド塩基の付加についての例示的な実施形態の図示である。
【図4】ヌクレオチドにライゲーションしたリンカーおよび高電荷量レポーター部分の切断についての一部の実施形態についての例示を示す図である。
【図5】一部の実施形態における高感度検出用ナノ構造による可能な測定結果についての図示を示す図である。
【図6】ポリメラーゼ複合体の例を示す図である。
【図7】一部の実施形態における形態型配列決定のためのマイクロ流体カセットデザインの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ヌクレオチド配列決定という用語は、一般に、DNA分子またはRNA分子内のヌクレオチド塩基である、アデニン、グアニン、シトシン、およびチミンの順序を決定する生化学的方法を包含する。DNAの配列は、生物の発生プログラムの基礎をなす、ゲノム、プラスミド、ミトコンドリア、および葉緑体における、遺伝性の遺伝子情報を構成する。遺伝子変異は、疾患を引き起こす場合もあり、疾患の危険性を増大させる場合もある(特定の遺伝子変異により、有益な形質が付与されることもまた成り立つが)。これらの変異は、遺伝性の(両親から受け継がれる)場合もあり、後天性の(成人になって発生する)場合もある。したがって、生体系、分子系、および疾患をよりよく理解するのに、これらの遺伝子分子の配列を知ることは、きわめて重要である。
【0024】
DNA配列決定の到来により、生物学的研究および生物学的発見が著明に加速された。最新のDNA配列決定法により達成可能な配列決定の迅速な速度は、ヒトゲノムプロジェクトにおけるヒトゲノムの大規模な配列決定において有益であった。関連プロジェクトにより、多くの動物ゲノム、植物ゲノム、ウイルスゲノム、および微生物ゲノムの完全なDNA配列決定がもたらされた。
【0025】
技術的な理由でDNA配列決定より実施が容易なRNA配列は、ヌクレオチド配列決定の最初期形態の1つであった。組換えDNA以前の時代に遡る、RNA配列決定の主要な画期的達成は、ゲント大学(ベルギー、ゲント)のWalter Fiersらにより同定および公表された、バクテリオファージMS2の、完全な第1遺伝子の配列、次いで、完全なゲノム配列であり、その公表は1972〜1976年のことであった。
【0026】
Frederick Sangerらにより1975年に開発された鎖終結法が、大規模に用いられた最初のDNA配列決定法であった。1970年代初期における、英国のSanger、ならびにハーバード大におけるWalter GilbertおよびAllan Maxamによる迅速なDNA配列決定法の開発以前においては、多くの煩瑣な方法が用いられた。例えば、1973年において、GilbertおよびMaxamは、ワンダリングスポット解析(wandering-spot analysis)として知られる方法を用いて、24塩基対の配列を報告した。
【0027】
1976〜1977年において、Allan MaxamおよびWalter Gilbertは、DNAの化学修飾、また、特定の塩基におけるその後の切断に基づくDNA配列決定法を開発した。該方法は、DNA鎖の一端における放射性標識化、また、配列決定されるDNA断片の精製を必要とする。4つのヌクレオチド塩基のうちの1つ、また、場合によって、2つにおいて頻繁に切断を発生させ、これを4つの反応物(G、A+G、C、C+T)において反復する。これにより、各分子内における放射性標識化された端部から第1の「切断」部位までの一連の標識化断片が作製され、4つの反応物を隣り合わせで配置する形のゲル電気泳動によりサイズ分離される。Maxam-Gilbertによる配列決定は、その技術的錯綜、危険な化学物質の広範な使用、また、スケールアップに伴う困難のために、容易には採用されなかった。加えて、該方法は、標準的な分子生物学キットにおいては容易にカスタマイズすることができない。
【0028】
鎖終結法またはSanger法は、一本鎖DNA鋳型、DNAプライマー、DNAポリメラーゼ、放射性標識化または蛍光標識化されたヌクレオチド、また、DNA鎖の伸長を終結させる修飾ヌクレオチドである、ジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)を必要とする。DNA試料は、4つの標準的なデオキシヌクレオチド(dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)を含有する4つの個別の配列決定反応物へと分割される。各反応物には、4つのジデオキシヌクレオチド(ddATP、ddGTP、ddCTP、またはddTTP)のうちの1つだけが添加される。これらのジデオキシヌクレオチドは、DNA鎖の伸長時における2つのヌクレオチド間におけるホスホジエステル結合の形成に必要とされる3'-OH基を欠く鎖終結ヌクレオチドである。したがって、ジデオキシヌクレオチドを新生(伸長)DNA鎖内に組み込むと、DNA鎖の伸長が終結され、結果として、多様な長さの各種DNA断片がもたらされる。ジデオキシヌクレオチドを、標準的なデオキシヌクレオチドより低濃度で添加することにより、配列解析を行うのに十分な鎖の伸長が可能となる。
【0029】
新規に合成および標識化されたDNAは熱変性され、変性用ポリアクリルアミド-尿素ゲル上におけるゲル電気泳動を介して、サイズにより分離される(ただ1つのヌクレオチドの分解を伴う)。4つの個別のレーン(レーンA、T、G、C)のうちの1つにおいて4つのDNA合成反応の各々が実施され、X線フィルムまたはゲル画像からDNA配列を直接的に読み取ることができる。X線フィルムをゲルに曝露すると、暗色のバンドが、異なる長さのDNA断片に対応する。レーン内における暗色バンドは、ジデオキシヌクレオチド(ddATP、ddGTP、ddCTP、またはddTTP)を組み込んだ後における鎖終結の結果であるDNA断片を示す。そのバンドを与える反応において、どのジデオキシヌクレオチドが添加されたかに従って、終結ヌクレオチド塩基を同定することができる。次いで、4つのレーン間における異なるバンドの相対的な位置を用いて、示されたDNA配列を読み取る。
【0030】
プライマー上における放射性タグまたは蛍光タグを用いることにより、DNA断片を、標識化されたdNTP、または標識化されたddNTPを伴う新規のDNA鎖へと標識化することができる。鎖終結配列決定には、いくつかの技術的変化形が存在する。一方法では、放射性標識化のための放射性リンを含有するヌクレオチドにより、DNA断片がタグ付けされる。代替的に、タグ付けには、蛍光色素により5'端において標識化されたプライマーが用いられる。やはり、4つの個別の反応が必要とされるが、色素標識を伴うDNA断片は、光学システムを用いて読み取ることができ、より迅速でより経済的な解析および自動化が容易となる。この手法は、「色素-プライマー配列決定」として知られている。近年における、L Hoodらによる、蛍光標識化されたddNTPおよびプライマーの開発は、自動化されたハイスループットのDNA配列決定のための土台をもたらしている。
【0031】
様々な鎖終結法により、DNA配列決定に必要とされる作業および計画の量が大幅に軽減されている。例えば、鎖終結に基づく、USB Biochemicals社製の「Sequenase」キットは、配列決定に必要とされる大半の試薬を、あらかじめアリコートされ、使用準備のできた形で含有する。Sanger法では、DNA 配列の読み取りの正確さに影響しうる、DNAに対するプライマーの非特異的結合など、一部の配列決定問題が生じうる。加えて、DNA鋳型内における二次構造、またはDNA鋳型にランダムにプライミングする汚染RNAもまた、得られる配列の忠実度に影響しうる。反応に影響する他の汚染物質は、外因性DNAまたはDNAポリメラーゼ阻害剤からなる可能性がある。
【0032】
プライマー標識化に対する代替法は、一般に「色素-ターミネーター配列決定」と呼ばれる鎖ターミネーターの標識化である。この方法の主要な利点のうちの1つは、配列決定が、標識化プライマー法における4つの反応ではなく、単一の反応において実施しうることである。色素-ターミネーター配列決定では、4つのジデオキシヌクレオチド鎖によるターミネーターの各々が、それぞれ異なる波長で蛍光発光する、異なる蛍光色素により標識される。そのより大きな簡便さおよび迅速さのために、この方法は魅力的であり、今日、コンピュータにより制御される配列解析装置による自動的な配列決定における主流である(以下を参照されたい)。その潜在的な限界には、DNA断片内への色素により標識化された鎖ターミネーターの組込みの差違に起因する色素効果が含まれ、この結果、キャピラリー電気泳動後における、DNA配列痕跡電子クロマトグラム(electric DNA sequence trace chromatogram)におけるピークの高さおよび形状の不均等が生じる。既存の配列決定法より実施が容易であり、かつ、費用も低廉であるため、自動ハイスループットDNA配列解析装置と共に、色素-ターミネーター配列決定法は、今日、配列決定プロジェクトのほぼ大半で用いられている。
【0033】
最新の色素-ターミネーター配列決定または鎖終結配列決定は、最初の15〜40塩基における品質が低く、700〜900塩基の高品質領域を有し、次いで、また、急速に品質が低下しうる配列をもたらす可能性がある。これらの方法を機能させる自動DNA配列決定器(DNAシークェンサー)は、単一バッチ(試行)において最大384の蛍光標識化された試料を配列決定し、1日当たり最大24回の試行を実施することが可能である。しかし、自動DNAシークェンサーにより実施可能なのは、DNAサイズに基づく分離(キャピラリー電気泳動による)、色素による蛍光発光の検出および記録、ならびに蛍光ピーク痕跡クロマトグラム(fluorescent peak trace chromatograms)としてのデータ出力だけである。シークェンサーへの添加前における、緩衝液中における熱サイクリングによる配列決定反応、洗浄、および再懸濁は、個別に実施することができる。
【0034】
近年のいわゆるNextGen配列決定法は、ピロシークェンシングに基づき、これらのハイスループット法では、配列決定過程をパラレル化する方法を用い、一度に数千または数百万の配列を作製する。
【0035】
分子検出法は、単一分子配列決定に十分な程度に高感度ではないことが多いが、Helicos社による方法は、例外である可能性があり、大半の手法では、in vitroにおけるクローニングステップを用いて、各個別分子の多くのコピーを作製する。エマルジョンPCRは1つの方法であり、これにより、油相内の水泡中における、プライマーでコーティングしたビーズと共に、個々のDNA分子が単離される。次いで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、単離されたライブラリー分子のクローンコピーにより各ビーズをコーティングし、次いで、これらのビーズを、その後の配列決定のために固定化する。エマルジョンPCRは、Marguilisらにより公表された方法(Roche社傘下の454 Life Sciences社により市販されている)、ShendureおよびPorrecaらにより公表された方法(「ポロニー配列決定」としても知られる)、ならびにSOLiD配列決定(Agencourt社により開発され、Applied Biosystems社により取得された)により公表された方法において用いられている。in vitroにおけるクローン増幅のための別の方法は、Solexa社(現在はIllumina社傘下)により開発および使用される「ブリッジPCR」であり、この場合、固体表面へと結合させたプライマー上において断片が増幅される。これらの方法はいずれも、物理的に隔離された多くの位置を作製し、これらの位置の各々は、単一断片の多くのコピーを含有する。Stephen Quakeの研究室により開発された(後に、Helicos社により市販された)単一分子法は、この増幅ステップを省き、DNA分子を表面へと直接的に固定する。
【0036】
クローンDNA配列が物理的に局在化され、表面上における位置が分離されたら、各種の配列決定法を用いて、すべての位置のDNA配列をパラレルに決定することができる。一般的な色素-ターミネーター(dye-termination)電気泳動配列決定など、「合成による配列決定」では、DNAポリメラーゼによるDNA合成過程を用いて、相補的なDNA分子内に存在する塩基を同定する。可逆化ターミネーター法(Illumina社およびHelicos社により用いられる)では、色素-ターミネーターの可逆化形を用い、一度に1つずつのヌクレオチドを付加し、その位置に対応する蛍光を検出し、次いで、保護基を除去して、別のヌクレオチドの重合を可能とする。ピロシークェンシング(454社により用いられる)でもまた、DNAの重合を用いてヌクレオチドを付加し、一度に1種類ずつのヌクレオチドを付加し、次いで、結合したピロリン酸の放出により発生する光により、所与の位置に付加されたヌクレオチド数を検出および定量化する。「ライゲーションによる配列決定」は、別の酵素による配列決定法であり、標的配列を同定するポリメラーゼではなく、DNAリガーゼ酵素を用いる。ポロニー法、また、Applied Biosystems社によりもたらされるSOLiD法において用いられるこの方法では、配列決定された位置に従い標識化された、固定長のすべての可能なオリゴヌクレオチドプールを用いる。オリゴヌクレオチドは、アニーリングおよびライゲーションされる;配列をマッチさせるのに優先的なDNAリガーゼによるライゲーションの結果、その位置における相補的配列に対応するシグナルがもたらされる。
【0037】
効率または精度の点では、DNA配列決定の他の方法が利点を示しうる。従来の色素-ターミネーター配列決定と同様に、それらは、単離された単一のDNA断片の配列決定に制約される。「ハイブリダイゼーションによる配列決定」は、DNAマイクロアレイを用いる非酵素的方法である。この方法では、未知のDNAの単一のプールを蛍光標識化し、既知の配列アレイにハイブリダイズさせる。未知のDNAが、アレイ上における所与の位置に強くハイブリダイズして、それを「発光」させる場合、その配列は、配列決定される未知のDNA内に存在すると推定されうる。質量分析もまた、DNA分子を配列決定するのに用いることができる。従来の鎖終結反応により、異なる長さのDNA分子が作製され、次いで、それらの間における質量差により(ゲル分離を用いるのでなく)、これらの断片長を決定することができる。
【0038】
DNA配列決定には新たな提起がなされており、これらは開発中であるが、検証の余地がある。これらには、DNAポリメラーゼの標識化(Visigen社)、DNA鎖がナノポア内を通過する際における配列の読み取り、または伸展し、固定化されたssDNAに対するオングストローム未満の解像度により測定される、ナノエッジプローブアレイの使用(Reveo社)、単一光子検出を用いる技法、プラズモンナノ構造を用いる検出を伴う、蛍光標識化およびDNA電気泳動(Base4Innovation社)、また、視覚的検出および記録のための、より高原子量の元素(例えば、ハロゲン)によるヌクレオチドの標識化を介して、長いDNA断片内における個々のヌクレオチドの位置を同定するのに用いられる、AFMまたは電子顕微鏡など、電子顕微鏡に基づく技法が含まれる。
【0039】
質量分析、ナノポア、および顕微鏡に基づく技法を用いる方法を例外として、現在利用可能であるか、または開発中である複数の方法は、一般に、高価な光学装置および複雑なソフトウェアの使用を必要とする。さらに、質量分析、ナノポア、および顕微鏡に基づく技法は、それらの配備が制約される場合があり、また、確実に費用を増大させうる嵩高い装置を必要としうる。本開示との関連で用いられる各種の実施形態は、合成法による新規の配列決定を用いる、携帯型で費用効果の高いデバイスにおける、リーディング長が長く、高度にパラレルであり、潜在的な単一分子配列決定を実施することを意図する。
【0040】
以来、ヒトゲノムの配列決定およびその後の研究により、対象のDNA配列を知る価値の大きさが示されてきた。ゲノムDNA配列の解析により得られる情報は、特定の疾患(乳癌およびBRCA 1遺伝子およびBRCA 2遺伝子など)を発生させる個体の相対的危険性についての情報を提供しうる。さらに、腫瘍に由来するDNAの解析により、病期および重症度評価(grading)についての情報も提供されうる。
【0041】
ウイルスまたは細菌により引き起こされる疾患など、感染性疾患もまた、ヌクレオチドポリマーゲノム(DNAまたはRNA)内においてそれらの遺伝子情報を保有する。今日、これらの多くは配列決定されており(またはそれらのゲノムのうち、診断検査の実施を可能とする程度に十分な部分が配列決定されており)、臨床試料に由来する感染性疾患ゲノムの解析(分子診断学と呼ばれる分野)は、高感度かつ特異的に疾患を診断する重要な方法のうちの1つとなっている。
【0042】
試料中におけるmRNA分子種の存在または不在ならびにその量を測定することにより、個体の健康状態、疾患状態、予後についての情報、ならびに薬理遺伝学的情報および薬理ゲノム学的情報を得ることができる。これらの発現アレイは、早くも、複雑な疾患に対する治療努力(fight)におけるツールとなりつつあり、費用が軽減され始めれば、一般性を獲得しうる。
【0043】
つまり、ヌクレオチドポリマー(DNAおよびRNA)の解析は、臨床ルーチンにおいて重要となりつつあるが、費用が、依然として広範な全世界的採用に対する障壁をなしている。このことの1つの理由は、RT-PCR実験が進むにつれて、最大4つの異なる蛍光チャネルを高感度で測定することが可能な高価なデバイスを必要とする、解析の複雑性である。より廉価な代替法は、ローテク装置を作動させて解釈する熟練技術者を必要としうるが、これもまた高価でありえ、また、低開発国では、熟練技術者を欠くために高価に過ぎる。
【0044】
これを解決するため、使用が廉価で容易なデバイスを必要としうるヌクレオチドポリマー解析の方法が必要とされうる。本開示の一部の実施形態は、このようなデバイスにおいて一般に用いられうる化学的試薬、合成ヌクレオチドに関する。本開示に関して用いられる各種の実施形態は、リンカー分子を介して結合した(例えば、5'リン酸基に結合した)高負電荷量レポーター部分を伴い、ポリメラーゼの作用に対して著明な有害効果を引き起こさないように、該リンカー長が、重合時においてポリメラーゼ複合体から突出するような長さである、少なくとも一部の標準的なヌクレオチド(または任意の修飾体、もしくはアイソフォーム)を含む新規の合成ヌクレオチドに関する。
【0045】
本明細書における核酸もしくはオリゴヌクレオチド、または文法的相当語句は、共有結合により一体に連結された少なくとも2つのヌクレオチドを指す。本発明の核酸は、一本鎖または二本鎖であることが好ましく、一般に、ホスホジエステル結合を含有するが、以下で概観される通り、一部の場合において、これには、例えば、ホスホルアミド結合(Beaucageら(1993)、Tetrahedron 49(10)、1925頁;および該文献における参考文献; Letsinger (1970)、J. Org. Chem. 35、3800頁; Sprinzlら(1977)、Eur. J. Biochem. 81、579頁; Letsingerら(1986)、Nucl. Acids Res. 14、3487頁; Sawaiら(1984)、Chem. Lett. 805; Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁;ならびにPauwelsら(1986)、Chemica Scripta 26、1419頁)、ホスホロチオエート結合(Magら(1991)、Nucleic Acids Res. 19、1437頁;および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート結合(Briuら(1989)、J. Am. Chem. Soc. 111、2321頁)、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」、Oxford University Press社を参照されたい)、ならびにペプチド核酸骨格およびペプチド核酸結合(Egholm (1992)、J. Am. Chem. Soc. 114、1895頁; Meierら(1992)、Chem. Int. Ed. Engl. 31、1008頁; Nielsen (1993)、Nature 365、566頁; Carlssonら(1996)、Nature 380、207頁を参照されたい)を含む代替的な骨格を有しうる、核酸類似体が含まれる。他の類似体核酸には、正の骨格を伴う核酸(Denpcyら(1995)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92、6097頁)、非イオン性骨格を伴う核酸(米国特許第5,386,023号、同第5,637,684号、同第5,602,240号、同第5,216,141号、および同第4,469,863号; Angew (1991)、Chem. Intl. Ed. English 30、423頁; Letsingerら(1988)、J. Am. Chem. Soc. 110、4470頁; Letsingerら(1994)、Nucleoside & Nucleotide 13、1597頁; ASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第2および3章; Mesmaekerら(1994)、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett. 4、395頁; Jeffsら(1994)、J. Biomolecular NMR 34、17頁; Tetrahedron Lett. 37、743頁(1996))、また、米国特許第5,235,033号、および同第5,034,506号、ならびにASC Symposium Series 580、「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」、Y. S. SanghuiおよびP. Dan Cook編、第6および7章で説明される骨格を含めたリボース以外の骨格を伴う核酸が含まれる。1または複数の炭素環糖を含有する核酸もまた、核酸の定義内に包含される(Jenkinsら(1995)、Chem. Soc. Rev、169〜176頁を参照されたい)。Rawls、C & E News、1997年6月2日、35頁では、複数の核酸類似体が説明されている。リボース-リン酸骨格に対するこれらの修飾を行うことにより、標識などの付加部分の付加を容易とすることもでき、生理学的環境におけるこのような分子の安定性および半減期を増大させることもできる。
【0046】
本明細書における各種の実施形態で用いられるヌクレオチドは、以下の化合物:アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびイノシンのほか、任意の修飾ヌクレオチド、任意のヌクレオチド誘導体、および任意の変性塩基によるヌクレオチドのうちの1つでありうるが、これらに限定されない。
【0047】
このようなヌクレオチドの一部の非限定的な例は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、任意の合成ヌクレオチド、これらの任意のアイソフォーム、およびこれらの任意の誘導体を含みうる。さらに、一本鎖デオキシリボース核酸(ssDNA)は、一般に、ヌクレオチドを含む一本鎖ヌクレオチドポリマー分子でありえ、二本鎖デオキシリボース核酸(dsDNA)は、一般に、相補的な逆方向に、例えば、水素結合により一体に連結された2つのssDNA分子を含む二本鎖でありうる。
【0048】
ヌクレオチドは、一般に、in vitroおよびin vivoの両方における各種の方法により合成することができる。これは、実験室におけるサルベージ合成(有用部分を置換するために、分解反応および合成反応により新たなヌクレオチドを再合成するのに、ヌクレオチドの一部を再使用すること)、または保護基の使用を伴いうる。後者の場合には、精製されるヌクレオシドまたは核酸塩基を保護して、ホスホルアミダイトを作製することができ、また、これらを、天然では存在しない類似体を得るのに、かつ/またはオリゴヌクレオチドを作製するのに用いることができる。
【0049】
一部の実施形態において、ヌクレオチド合成は、ヌクレオシド(糖に連結された窒素性塩基)の形成を含む。ヌクレオチドの合成および構造に関与する糖は、リボースの場合もあり、デオキシリボースの場合もある;後者の場合、ウラシルを除くすべての場合において、ヌクレオシド名の前に、「デオキシ」という接頭辞を付加する場合がある。次いで、この糖にリン酸官能基をエステル化させると、ヌクレオチドが作製される。リン酸基は、1つ、2つ、または3つのリン酸を含むことが可能であり、それぞれ、一リン酸、二リン酸、または三リン鎖を形成する。
【0050】
本開示の他の一部の実施形態は、ヌクレオチドおよびレポーター部分を含む特定の合成ヌクレオチドのデザイン、合成、および使用であって、該レポーター部分が、リンカーを介して結合するポリメラーゼ酵素遮断部分としては作用し得ないデザイン、合成、および使用に関する。
【0051】
各種の実施形態において、合成ヌクレオチドは、以下の側面:
1.レポーター部分が、酵素活性、蛍光などに基づいてレポーティングするのではなく、電荷量に基づいてレポーティングし、このため、一般に、いっそうの柔軟性が与えられること;
2.各合成ヌクレオチドが、異なる電荷量を保有しうる(簡便さのため、最初は、同じ電荷量を用いて原理を証明することができる)こと;
3.レポーター部分を、容易に切断しうること;および/または
4.ヌクレオチドを、廉価かつ容易に大量合成しうること
のうちの少なくとも一部を有しうる。
【0052】
別のヌクレオチドポリマー内における、その相補体塩基とハイブリダイズする場合(すなわち、逆方向の相補体DNAの2本の鎖がハイブリダイズして、二本鎖DNA分子を形成する場合)、ヌクレオチドの重合またはそれらの塩基間における水素結合に干渉しないような、リンカーおよびレポーター部分の結合に用いうる可能な位置のうちの1つは、該ヌクレオチド内におけるリン酸結合でありうる。
【0053】
他の一部の実施形態は、検出後において、リンカーおよびレポーター部分が、反復的な形で合成ヌクレオチドから切断されうる使用方法に関する(リンカーに結合しうる可能な位置のうちの1つは、リン酸結合の5'-リン酸端でありうる)。
【0054】
5'-リン酸との結合の性質: 5'-リン酸末端における合成を促進しうる、少なくとも2つの選択肢:
1.チオリン酸;および/または
2.ホスホルアミデート
を用いうる。
【0055】
したがって、少なくとも一部の実施形態において、提起されるリンカーは、以下の構造:
H2N-L-NH2
を有しうる[式中、Lは、それらの両方が合成ヌクレオチド中に存在する、ヌクレオチドならびに高電荷量部分に連結するように構成される、任意の直鎖状分子または分枝鎖状分子でありうるが、これらに限定されない]。一部の実施形態において、Lは、複数のアルキル基、オキシアルキル基、または多様な長さによるこれらの組合せを含む。一実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜100である。別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜75である。さらに別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜50である。さらに別の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、1〜25である。別の一部の実施形態において、L中のアルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せの数は、100を超える場合がある。例示を目的として、NH2を示しているが、それらの両方が合成ヌクレオチド中に存在する、ヌクレオチドまたはその誘導体ならびに高電荷量部分に架橋されうる他の任意の官能基により、NH2を置換することができる。NH2の代わりに用いうる一部の例示的な例には、任意のアルキル基(例えば、CnH2n+i [式中、nは、1、2、3など正の整数を表わす])、任意のアルコール基(例えば、CnH2nOH [式中、nは、1、2、3など正の整数を表わす])、任意のカルボキシル基(例えば、COOH)、任意のアミド基(例えば、CONH)、およびこれらの任意の誘導体が含まれるがこれらに限定されない。リンカー分子の長さおよび化学構造は、重合の一部の側面が、完全に、または部分的に影響されることがないよう、レポーター部分が、ヌクレオチドポリメラーゼ(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および他のポリメラーゼ)複合体から展出することを部分的に可能とするように変化させることができる。
【0056】
リンカーの所望の長さを、完全であれ部分的であれ知ることができない状況において、多様な長さのリンカーを容易に入手できることは、利益と考えることができる。これにより、最適化実験が容易となりうる。
【0057】
したがって、少なくとも一部の実施形態において、ヌクレオチドを伴うリンカー(例えば、例示的な例としては、アデノシン)は、以下の構造を有しうる。以下の一部の例ではアデノシンを示すが、他の一部の実施形態では、このアデノシンを、他の任意の天然ヌクレオチドまたは合成ヌクレオチド、その任意の修飾体、また、その任意の誘導体により置換することができる。
【0058】
【化2】

【0059】
一部の実施形態において、この位置における多様な長さのリンカーは、以下の構造:
1.エチレンジアミン(2炭素結合長離れる)
【0060】
【化3】

【0061】
2.ペンタンジアミン(5炭素結合長離れる)
【0062】
【化4】

【0063】
3. 13炭素結合長と同等の長さ離れる
【0064】
【化5】

【0065】
したがって、一部の実施形態において、このようにして選択されるリンカーは、
1.入手が容易であり;
2.連結および切断が容易であり(以下の可能なプロトコールを参照されたい);かつ/または
3.ポリメラーゼおよびポリ核酸鎖と相互作用せず、かつ/または
新生ヌクレオチドポリマーによるヌクレオチドの重合および伸長に影響を及ぼさないことが可能である。
【0066】
レポーター部分:一部の実施形態において、レポーター部分は、UV検出器もしくは可視光検出器によるそれらの検出を可能とする発色性、または蛍光検出によりそれらを検出させる蛍光発光性など、他の特性と関連しうる。
【0067】
レポーター上の電荷:本発明の一部の実施形態は、高電荷量を保有するレポーター部分に関する。一実施形態において、レポーター部分は、合成ヌクレオチド中に存在するヌクレオチドまたはその誘導体の電荷量より大きな電荷量を、該構成ヌクレオチドに導入しうる。しかし、別の実施形態において、レポーター部分により導入される電荷量は、合成ヌクレオチド中に存在するヌクレオチドまたはその誘導体の電荷量と実質的に同等であるかまたはそれより小さい場合がある。レポーター部分の一部の非限定的で例示的な例は、本明細書に記載されている。これらの例は、例示だけを目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。レポーター部分が合成ヌクレオチドに電荷量を供給するように、また、部分的であれ全体的であれヌクレオチドの重合反応に影響を及ぼさないように構成される限り、レポーター部分の化学構造および/または大きさ(例えば、レポーター部分として用いられる分子の長さ、サイズ、および質量)は制約されえない。
【0068】
該部分上における電荷は、正の場合もあり、負の場合もある。結合の性質を考慮すれば、以下により、本開示の一部の実施形態においておそらく用いうる、電荷選択の一部の側面が提示される。好ましい実施形態において、電荷は、例えば、合成による配列決定の際に、レポーター部分を含む合成ヌクレオチドが付加される鋳型配列に作動的に連結される高感度検出用ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)の特性(例えば、電気抵抗)において検出可能な変化を引き起こすのに十分である。
【0069】
正電荷:一部の実施形態では、芳香族骨格または脂肪族骨格上に第三級アミノ基を組み込むことにより、レポーター部分上において、一般に多数の正電荷を誘導することができる。酸性のpH(7未満)にあるこのような実施形態において、これらの基は、正電荷をおびることが可能であり、これにより、検出可能となる。
【0070】
負電荷:一部の実施形態では、芳香族骨格または脂肪族骨格上にアルコールヒドロキシル官能基および/またはヒドロキシ官能基を組み込むことにより、レポーター部分上において、一般に負電荷を誘導することができる。上述の基準を満たす、提起されるレポーター部分の一部を以下に挙げる。以下に列挙される断片は、入手可能でありえ、アミノ末端を介してリンカーに結合可能でありうる。さらなる利点は、ホスホルアミデート結合を形成するのに提起される試薬が、このアミド結合を形成するのに提起される試薬と同じ可能性があるということでありうる(したがって、系の費用がさらに削減される)。
【0071】
さらに、少なくとも部分的には、アルカリ性のpH(7を上回る)に対するこの結合の安定性により、負電荷の誘導過程は、干渉性を示さないか、または干渉性が実質的にわずかである。例示を目的として、以下の3つの非限定的な例を示す。これらの例は、例示だけを目的とするものであり、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。以下の例に対する任意の改変は、それ自体、本発明の範囲内に確実に包含されている。例えば、該例に連結された1または複数の基(例えば、-OH基、=O基、COOH基、または他の基)に対する任意の置換を実施することができる。また、以下の例のうちの1または複数に対するオリゴマー化または重合もまた、許容されうる。さらに、このような化学構造または分子が、合成ヌクレオチドに帯電量を供給するように、また、部分的であれ全体的であれヌクレオチドの重合反応に影響を及ぼさないようにも構成される限り、様々な大きさ(例えば、レポーター部分の長さ、サイズ、および質量)を有する他の任意の化学構造または分子を、レポーター部分として用いることができる。
【0072】
【化6】

【0073】
帯電後において、特定の実施形態におけるこれらのレポーターのうちの一部は、以下の通りに存在しうる。
【0074】
【化7】

【0075】
レポーター1およびレポーター3は市販品で入手できるが、レポーター2は特別注文で合成することができる。
【0076】
したがって、提起されるレポーター部分は一般に、
1.入手または合成が容易であり;
2.高電荷を保有し;
3.廉価であり;かつ/または
4.連結および切断が容易である
ことが可能である。
【0077】
最終化合物(単量体):上記の提起に基づくなら、リンカーおよびレポーターを伴うヌクレオチドの最終的な構造は、少なくとも実施形態の一部では以下の通りとなるであろう。一部の最終化合物の以下の例もまた、例示を目的とするものであり、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。上記で説明した通り、ヌクレオチドまたはその誘導体、リンカーおよび電荷量レポーター部分について許容される任意の変化はまた、最終化合物にも許容される。したがって、一部の例の5'-リン酸末端におけるヌクレオチドとしてのアデノシンに対して、リンカーが、例えば、C13同等物(上記の選択肢3)であるならば、各種のリンカーにより、最終構造物は以下の通りになると考えられる。
【0078】
提起される1つの最終合成ヌクレオチド1(レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。)
【0079】
【化8】

【0080】
提起される別の合成ヌクレオチド2(レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。)
【0081】
【化9】

【0082】
提起されるさらに別の合成ヌクレオチド3(レポーターは単量体形態であるが、これは、必要に応じて、電荷量を増大させるようにこれらの単量体を凝集させることにより重合させることができる。)
【0083】
【化10】

【0084】
以下は、少なくとも一部の実施形態において用いられる合成プロトコールの非限定的で例示的な例である。
1.アデノシンの5'-ホスホルアミデートの合成:(ジアミンリンカーとのヌクレオチドの結合)。アデノシンホスホルアミデートの5'-アミノ誘導体を合成するには、ジアミンおよびアデノシン一リン酸(AMP)を水中に溶解させるChuらの方法を用いることができる。その後EDACを添加し、一定の撹拌を伴う室温でインキュベートした。反応が完了するまでモニタリングした。
2.提起される最終構造物の合成:(レポーター部分とのジアミンリンカーの結合)。アデノシンホスホルアミデートの5'-アミノ誘導体を合成するには、ジアミンおよびアデノシン一リン酸(AMP)を水中に溶解させるChuらの方法を用いることができる。その後EDACを添加し、次いで、一定の撹拌を伴う室温でインキュベートした。反応が完了するまでモニタリングした。
【0085】
同様の手順の1つの利点は、それが、単量体としての最終化合物の形成をもたらす両方のステップに適合しうることである。
【0086】
一部の実施形態の一部の例示的な例では(下記を参照されたい)、リンカーおよびレポーター部分の切断を実施する必要がない場合がある。ホスホルアミデートなどの結合は、一般に、周囲温度においてトリフルオロ酢酸などの酸を用いることによりごく容易に切断することができる。
【0087】
例示的な例として、提起されるヌクレオチド2を、以下の可能な3D図として示す。該分子の左下方の芳香環は、微弱なアルカリ性条件下ならば、潜在的に負電荷へと転換されうる。以下は、リンカー3を介してレポーター1と結合したアデノシンの3D立体構造、および関連データである。
【0088】
【化11】

【0089】
ホスホルアミデートと末端の荷電原子とのおおよその距離は約20オングストロームであり、これは、一般に、検出用表面において電荷による電位差を誘導するのに十分でありうる。少なくとも部分的にはリンカー長を変化させることによる、位相のさらなる変化により、この距離をさらに変化させることができる。末端のレポーター部分上における電荷はまた、レポーター部分の化学的変化によっても変化しうる。
【0090】
本開示の一態様は、合成法による新規の配列決定に関する。合成による配列決定とは、逆方向の相補的な新生鎖を伸長させ、伸長するポリマーにおける各新たなヌクレオチドの付加を検出することにより、一本鎖DNA分子の配列を決定するステップについて用いられる一般的な用語でありうる。上記で説明したさらに最新の方法(Helicos社、454 Life Sciences社、およびSolexa社により用いられる方法)を用いると、ヌクレオチドにライゲーションした蛍光レポーター部分と共に、ポリメラーゼ、また、重合に必要とされる他のエレメントの存在下において、各個別のヌクレオチド(アデニン、グアニン、シトシン、またはチミン)を個別に添加し、次いで、高感度光検出装置を用いて蛍光を観察することにより、これを実施することができる。このヌクレオチドを付加するステップでは、適正なスペクトルの蛍光が得られると、「塩基判定」用のバイオインフォマティックプログラムにより、配列内の適切な塩基が付加されうる。次いで、反応物を洗浄し、サイクル内における次のヌクレオチド(この場合、4つのヌクレオチドであるアデニン、グアニン、シトシン、およびチミン(またはRNAの場合はウラシル)が、配列に従って付加される)を付加することができる。このサイクルは、各反応について、配列データに相当する約25bp〜900bp以上(例えば、どの方法を用いるかによる)が得られるまで反復することができる(市販品による報告では、Roche社製の(EX 454型)ゲノムシークェンサーを用いて、現在最長で900bpのリーディング長が可能であると示唆されている)。全ゲノムの配列決定を可能とするために、数千のこれらの反応をパラレルに実施することができる。
【0091】
一部の実施形態において、本配列決定法および配列決定コンポーネントは、蛍光発光および高価な光検出装置を用いる代わりに、それらの表面もしくは表面近傍における電荷密度の差違、または分子がそれら(ナノポア)を通過する際における電荷密度の差違を検出することが可能な高感度ナノ構造(ナノワイヤーまたはナノチューブによるFETバイオセンサー、誘電性フィルムなど)を配置したマイクロ流体チップまたは反応「プレート」を用いて、それらの内部電荷、またはライゲーションした「高電荷量」レポーター部分の電荷を感知することにより、ヌクレオチドの付加を検出しうる。したがって、合成反応により、配列決定される伸長中のポリマーに新たなヌクレオチドが付加されると、高感度ナノ構造の表面または表面近傍における(またはナノポアを通過する)電荷が増大する(負の極性を有するヌクレオチド(negative nucleotide)の付加により、また、一部の実施形態では、負の極性を有するヌクレオチド、およびその高電荷量レポーター部分が付加されることにより)場合があり、これは、高感度検出用ナノ構造における特性変化により検出することができる(例えば、検出構造としてナノワイヤーを用いた場合、その表面に近接する、ヌクレオチドの付加により引き起こされる電荷の増大は、電界効果と呼ばれる現象に起因する、該ワイヤーにおける抵抗の変化により検出される)。しかし、ポリマーが伸長するにつれ、付加されるヌクレオチドにより保有される電荷が、高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)から遠く隔たりすぎて、該高感度検出用ナノ構造の特性変化を引き起こさなくなる可能性があるために、シグナルが減衰する場合があり、また、シグナルを観察できない場合がある。したがって、「リーディング長」(このヌクレオチド配列決定法により得ることのできる配列データの量)は、制約されうる。
【0092】
本開示の一部の実施形態は、反応が進むにつれてその長さが長くなるリンカー分子を介して、高負電荷量レポーター部分を結合させた(例えば、5'リン酸基または塩基基に結合させた)通常のヌクレオチドを含む合成ヌクレオチドを用いることにより、少なくとも部分的にこの制約に対処する。この高電荷量は一般に、これを高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)に「届かせて」、該高感度検出用ナノ構造の特性変化(例えば、用いられる高感度検出用ナノ構造に応じて、該構造内における電界効果または他の誘電変化)を引き起こすようにデザインすることができる。電界効果の恒常的な増大をもたらす、多量のレポーター部分の蓄積を除去することにより、良好な品質管理手段を可能とし、長いリーディング長を確保するため、これらのレポーター部分を切断して、合成配列により配列決定される次のヌクレオチドの付加を可能としうる。レポーター部分を切断することにより系の「リセット」が有効になされ、これにより、明確なシグナルが可能となり、また、リンカーおよび高電荷量レポーター部分を伴わない天然ヌクレオチドを用いる場合と比べたシグナル対ノイズ比のいっそうの改善が可能となる。
【0093】
したがって、一部の実施形態において、サイクル反応は、以下の一連のイベントのうちの少なくとも一部または全部を含む:
1.配列決定される鋳型分子(DNA、RNA、またはPNAもしくはモルホリノオリゴなど、他の合成ヌクレオチドポリマー分子)を、高感度検出用ナノ構造および付加されるプライマーにライゲーションする場合もあり、高感度検出用ナノ構造上においてあらかじめ固定化させたか、または高感度検出用ナノ構造を配置したマイクロ流体チャネル内でほどき、伸長させたプライマー配列に結合させる場合もあること;
2.高感度検出用ナノ構造を、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなど)により洗浄しうること;
3.高感度検出用ナノ構造の測定が可能であること(ベースラインの測定);
4.重合反応に必要とされる1つの合成ヌクレオチド、ポリメラーゼ、および他のエレメントを含有する混合物を添加しうること。添加されるヌクレオチドが、プライマー配列のすぐ下流にある鋳型分子上における塩基に相補的である場合、それは、該ポリメラーゼにより、伸長する「新生」鎖へと組み込まれうること;
5.次いで、反応物を、例えば、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなどであるがこれに限定されない)により洗浄しうること;
6. 高感度検出用ナノ構造の測定が可能であり、これにより、レポーター部分の高電荷量により引き起こされる効果を観察しうること(中間的測定);
7.次いで、レポーター部分を切断しうること(例えば、酸溶液により、または酵素的に);
8.次いで、反応物を、例えば、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなどであるがこれに限定されない)により洗浄しうること;
9.高感度検出用ナノ構造の測定が可能であり、これにより、リンカーおよび高電荷量レポーター部分を伴わない、付加されたヌクレオチドだけの効果を観察しうること(ベースライン+1測定);および/または
10. 4つのヌクレオチドのうちの各々について第2項目〜第9項目を反復しうること。また、明確なシグナルが減衰するまで、これを反復しうること。
【0094】
鋳型分子がプローブに固定化されるかまたは結合され、これが、高感度検出用ナノ構造に固定化されうる一部の実施形態では、高電荷レポーター部分を合成ヌクレオチドに結合させるリンカー長を長くして、該電荷が、高感度検出用ナノ構造に「届かせて」、効果を及ぼすことを可能としうる。これは、合成反応による配列決定が進むにつれ、伸長するヌクレオチドポリマーにより、次のヌクレオチド付加部位が、高感度検出用ナノ構造からますます遠ざかりうるために、少なくとも一部の実施形態では必要でありうる。新生鎖が伸長するにつれ、ヌクレオチドの付加が、シグナルを通常可能とする距離を超えて、高感度検出用ナノ構造から遠ざかる場合であっても、反応の継続に応じてリンカー長を長くすることにより、電荷量レポーター部分を、高感度検出用ナノ構造になおも「届かせて」、変化を誘発する。
【0095】
鋳型分子が高感度検出用ナノ構造に固定化されたり、プライマー/プローブにハイブリダイズされ、これが、高感度検出用ナノ構造に固定化されたりすることがなく、その代わりに、鋳型分子が遊離するか、または高感度検出用ナノ構造のクラスター全体にわたり水平に固定化されうる一部の実施形態では、サイクル反応の各々に対して単一のリンカー長を用いることができる。
【0096】
本開示の実施形態の一部の態様は、「合成による配列決定」反応において、リンカー分子を介してレポーター部分にライゲーションされる合成ヌクレオチドを組み込むことにより、ヌクレオチドポリマー(DNAまたはRNA)を配列決定する方法に関する。本明細書の各種の実施形態で用いられる「合成による配列決定」とは一般に、新生鎖(すなわち、鋳型のヌクレオチドポリマーに対して逆方向で相補的な、伸長するヌクレオチドポリマー)に対する各ヌクレオチドの付加をリアルタイムで検出しうるヌクレオチド配列決定法に関する。他の一部の実施形態では、従来の蛍光標識の光検出を用いることにより新生鎖に対するヌクレオチド単量体の付加を検出するのではなく、ヌクレオチド単量体の電荷量に基づいて、各ヌクレオチドの付加を検出することができる。他の一部の実施形態では、高感度検出用ナノ構造、または微細な検出が可能な他の構造を用いる、共有結合によりライゲーションした電荷量レポーター部分の電荷量が、表面電荷を変化させうる。
【0097】
本明細書の実施形態の一部の態様で用いられる「高感度検出用ナノ構造(sensitive detection nanostructure)」とは、一般に、アッセイ領域内におけるナノ構造の特性変化に応答してシグナルを発生させることが可能な任意の構造(ナノスケールまたはそれ以外の)でありうる。本明細書で用いられる「アッセイ領域」とは、一般に、1または複数のナノ構造が少なくとも部分的に存在し、また、(1または複数の)ナノ構造が、例えば、共有結合もしくはそれ以外の直接的もしくは間接的な結合もしくは連結を介して生体分子(核酸、プライマー、標的配列など)に作動的に連結されるか、または特性変化を示すのに十分な程度にごく近接した物理的近傍にあり、該生体分子の変化に応答してシグナルを発生させる領域(areaまたはregion)を指す。好ましい実施形態において、このような特性変化は、アッセイ領域内におけるナノ構造に作動的に連結された生物学的分子の電荷の変化によって引き起こされうる。ナノ構造は、その表面または表面近傍における変化(ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブFETバイオセンサーなど)、または分子がそれ(ナノポアによるバイオセンサーなど)を通過する際における変化に対して高感度であることが典型的である(アッセイ領域は、該ナノ構造の表面を超えて広がり、該ナノ構造の感度界内の全領域を包含しうるが)。ナノ構造はまた、シグナルを測定し、該測定されたシグナルに関連する出力をもたらすように構成された検出器にも連結されることが好ましい。その全長に沿う任意の点において、ナノ構造は、少なくとも1つの断面寸法が約500ナノメートル未満、典型的には約200ナノメートル未満、より典型的には約150ナノメートル未満、さらにより典型的には約100ナノメートル未満、さらにより典型的には約50ナノメートル未満、またより典型的には約20ナノメートル未満、さらにより典型的には約10ナノメートル未満、またさらに約5ナノメートル未満でありうる。他の実施形態において、該断面寸法のうちの少なくとも1つは、2ナノメートル未満、または1ナノメートルでありうる。一連の実施形態において、高感度検出用ナノ構造は、少なくとも1つの断面寸法が、約0.5ナノメートル〜約200ナノメートルの範囲でありうる。
【0098】
各種の実施形態で用いられるナノワイヤーとは、その全長に沿う任意の点において、少なくとも1つの断面寸法、また、一部の実施形態では、2つの直行する断面寸法が、約500ナノメートル未満、好ましくは約200ナノメートル未満、より好ましくは約150ナノメートル未満、さらにより好ましくは約100ナノメートル未満、またより好ましくは約70未満、さらにより好ましくは約50ナノメートル未満、またより好ましくは約20ナノメートル未満、さらにより好ましくは約10ナノメートル未満、またさらに約5ナノメートル未満である、ナノスケールにおける細長型の半導体である。他の実施形態において、該断面寸法は、2ナノメートル未満、または1ナノメートルでありうる。一連の実施形態において、ナノワイヤーは、少なくとも1つの断面寸法が、約0.5ナノメートル〜約200ナノメートルの範囲でありうる。コアおよび周囲領域を有するナノワイヤーについて述べる場合、上記の寸法は、コアの寸法に関する。細長型半導体の断面は、円形、正方形、長方形、楕円形が含まれるがこれらに限定されない任意の形状を有することが可能であり、また該半導体は管状でありうる。規則的形状および不規則的形状が含まれる。本発明のナノワイヤーを作製する原料の非限定的な例を以下に示す。ナノチューブは、本発明で用いられるナノワイヤーのクラスであり、一実施形態において、本発明のデバイスは、ナノチューブにふさわしいスケールのワイヤーを包含する。本明細書で用いられる「ナノチューブ」とは、中空のコアを有するナノワイヤーであり、これには、当業者に知られるナノチューブが含まれる。「ナノチューブ以外のナノワイヤー」とは、ナノチューブではない任意のナノワイヤーである。本発明の一連の実施形態において、表面が改変されていない(それが配置される環境内にあるナノチューブに固有ではない、補助的な反応実体を包含しない)ナノチューブ以外のナノワイヤーは、ナノワイヤーまたはナノチューブを用いうる、本明細書に記載の本発明の任意の配置において用いることができる。「ワイヤー」とは、導電性、少なくとも半導体または金属の導電性を有する任意の材料を指す。例えば、「導電性」ワイヤーまたは「導電性」ナノワイヤーに言及する場合に用いられる、「導電性の」または「導体」または「導電体」という用語は、電荷にそれ自体の中を通過させるそのワイヤーの能力を指す。好ましい導電性材料は、抵抗が約10-3未満、より好ましくは約10-4未満、また最も好ましくは約10-6または10-7オームメートル未満である。
【0099】
ナノポアは一般に、電気的に絶縁性の膜内に1または複数の小孔を有する。ナノポアは、その中に1または複数の小孔を有する、ナノスケールサイズの球体構造である。一部の態様によれば、ナノポアは、炭素または任意の導電性材料から作製される。
【0100】
ナノビーズは一般に、ナノスケールサイズの球体構造である。ナノビーズの形状は、一般には球体であるが、また、円形、正方形、長方形、楕円形、および管状でありうる。規則的形状および不規則的形状が含まれる。一部の例において、ナノビーズは、内部に小孔を有しうる。
【0101】
ナノギャップは一般に、ナノメートルの範囲の2つの接触部間における分離からなるバイオセンサーに用いられる。それは、標的分子、または多数の標的分子が、2つの接触部間においてハイブリダイズまたは結合する場合を感知し、該分子を介する電気シグナルを伝達させる。
【0102】
前出のナノ構造、すなわち、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノポア、ナノビーズ、およびナノギャップは、一部の実施形態についての即時的な例示を行う目的で説明されるものであり、本発明の範囲を限定する目的で説明されるものではない。前出の例に加え、ナノスケールのサイズを有し、本出願において開示される核酸配列決定法および核酸配列決定装置に適用するのに適する任意のナノ構造もまた、本発明の範囲内に包含されると考えるべきである。
【0103】
一般に、ナノ構造またはナノセンサーと共に用いられるヌクレオチド配列決定戦略は、それらの測定可能な特性変化を引き起こす、表面もしくは表面近傍、またはナノギャップもしくはナノポアを介する変化を感知(電界効果トランジスタ、ナノギャップ、または誘電性ナノセンサーなど)することである。ナノ構造により感知される変化は、配列決定反応時に付加される、鋳型ヌクレオチドに対して相補的なヌクレオチドに由来しうる。一部の実施形態において、配列決定反応時に付加される相補的なヌクレオチドは、本明細書の別の箇所で詳述されるリンカーおよび高電荷量レポーター部分へと連結される。
【0104】
電界効果とは一般に、結合を介するのではなく、空間内における直接的な作用による、対象の中心と遠隔の単極子または双極子との間における分子間クーロン相互作用について実験的に観察可能な、記号にFにより表わされる効果(反応速度などに対する)を指す。電界効果(または「直接的効果」)の大きさは、単極電荷/双極子モーメント、双極子の配向性、対象の中心と遠隔の単極子または双極子との間の最短距離、および有効誘電定数に依存しうる。これは、コンピュータ用のトランジスタにおいて利用されており、より近年では、ナノセンサーとして用いられるDNA電界効果トランジスタにおいて利用されている。
【0105】
電界効果トランジスタ(FET)とは一般に、バイオセンサーとして機能する生体分子の部分電荷に起因する電界効果を用いうる、電界効果トランジスタである。FETの構造は、バイオセンサーFETの場合に表面受容体として作用する固定化プローブ分子の層により置換されうるゲート構造を例外として、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の構造と類似しうる。
【0106】
一部の実施形態において、配列決定反応は、一般に、一本鎖ヌクレオチドポリマー分子、ssDNA、RNA、PNA、モルホリノ、または他の合成ヌクレオチドでありえ、オリゴヌクレオチドと称することが多い、短い「プローブ」核酸分子または「プライマー」核酸分子を、一般に対象のヌクレオチドポリマーでありうる「標的」ヌクレオチド分子の5'端へとハイブリダイズすることにより開始させることができる。決定されうるのは、この一本鎖ヌクレオチドポリマー分子、ssDNA、またはRNAのヌクレオチド配列である。さらに、「プローブ」配列または「プライマー」配列は、一般に、配列決定される「標的」核酸分子に対して逆方向で相補的でありえ、また、ハイブリダイゼーションを促進する程度に十分に長い(プライマーのデザインは、当業者によく知られており、プライマーデザインまたはプローブデザインを容易にする多くの市販またはフリーウェアのソフトウェアプラットフォームを利用できる)。
【0107】
一部の実施形態では、一般に、短いアダプタマー(既知の配列による別の短いオリゴヌクレオチド)を、標的ヌクレオチドポリマーにライゲーションすることができ、このオリゴヌクレオチド配列に対して逆方向で相補的となるように、プライマーまたはプローブをデザインすることができる。一部の実施形態では、プライマー分子またはプローブ分子を高感度検出用ナノ構造上に固定化し、標的ヌクレオチド分子を該プライマーにハイブリダイズさせることができる。他の実施形態では、まず、標的分子を高感度検出用ナノ構造へと固定化し、プライマーまたはプローブをハイブリダイズさせることができる。さらに別の実施形態において、標的ヌクレオチド分子、ならびにプライマー分子およびプローブ分子は遊離分子であり、固定化されず、高感度検出用ナノ構造に近接して配置される場合があり、また、少なくとも一部の実施形態において、ハイブリダイズされる標的分子と、プライマー分子またはプローブ分子とは、高感度検出用ナノ構造において測定可能な特性変化を及ぼすのに十分な程度に近接しうる。これは、分子を、マイクロ流体環境内に配置するステップ、または他の定義されていない方法により配置するステップを介しうる。以下は、本開示の特定の実施形態についての非限定的で例示的な例である。一例において、該技法における第1のステップは、空気中、水の存在下、または低濃度の塩緩衝液(1倍濃度のSSCなど)の存在下において、高感度検出用ナノ構造についての一連の測定(例えば、ナノワイヤー、または他の電界効果トランジスタにおける抵抗の測定)を行うことでありうる。これにより、進行中の反応に応答して測定されうる、高感度検出用ナノ構造の特性(例えば、ナノワイヤーにおける電気抵抗)についてのベースレベルが与えられる。合成反応による配列決定は、アデニンなど、単一のヌクレオチド種を(重合に必要とされるポリメラーゼおよび他の化学物質と共に)、該反応物へと添加することにより開始させることができる。すべてのヌクレオチドは天然の電荷を保有するので、新生鎖にアデニンを付加した後において(標的ヌクレオチドポリマーにおける次のヌクレオチドはチミンであると仮定する)、新生鎖におけるこの追加のアデニンにより創出される、高感度検出用ナノ構造における電荷、またはこれに近接する電荷により、該高感度検出用ナノ構造の特性に測定可能な変化がもたらされる可能性があり、高イオン性のPCR反応混合物に由来するバックグラウンドノイズを消失させる洗浄ステップ後において、これを記録することができる。
【0108】
したがって、特定の実施形態において、鋳型ヌクレオチドにおける次のヌクレオチドがチミン(RNAを配列決定する場合はウラシル)である場合、合成反応による配列決定にアデニンを添加することができ、これは、ポリメラーゼ(反応物の一部として、これもまた添加しうる)により新生鎖に組み込むことができ、少なくとも部分的には、新生鎖における追加のヌクレオチドにより引き起こされる、高感度検出用ナノ構造の表面または表面近傍における電荷の変化に起因してシグナルが検出される。しかし、そうではなくて、シトシン、グアニン、またはチミンが添加されたとした場合、新生鎖にはヌクレオチドが付加されず、高感度ナノ構造からはシグナルが観察されないであろう。
【0109】
他の特定の実施形態では、新生鎖における標的配列に対する相補的なヌクレオチド付加による重合を可能とするポリメラーゼ、ならびにMgCl2、H2O、および緩衝液と共に、次々に各ヌクレオチドを反応混合物へと添加することができる。各ヌクレオチドを添加した後、反応物を洗浄し、次のヌクレオチドを添加する。4つのヌクレオチドすべてについてこのサイクルを反復する。4つのヌクレオチドすべてが添加されたら、所望の配列が明らかとなるか、またはシグナルが減衰しうるまで、サイクルを反復することができる。
【0110】
各種の実施形態において、合成ヌクレオチドは、例えば、リンカーを介して5'リン酸基へとレポーター部分を結合させた、1または複数のヌクレオチドであるアデニン、グアニン、シトシン、およびチミン、ならびにこれらの塩基のアイソフォーム(イノシンなど)を含みうる。高感度検出用ナノ構造が、単一のヌクレオチドにより引き起こされる変化を検出するのに十分な程度に高感度でない場合、本開示の一部の実施形態は、該レポーターが、ポリメラーゼ活性に対して著明な有害作用を及ぼし得ないことを確保する程度に十分長いリンカー分子を介して該ヌクレオチドにライゲーションされる電荷量レポーター分子を伴うヌクレオチドを含む、合成ヌクレオチドの使用に関する。リンカー分子は、重合(ヌクレオチドの付加)が阻止されたり、不適切な形で妨害されたりしないように、その長さを変化させ、レポーター部分がDNAポリメラーゼ複合体から展出することを可能としうる。さらに、合成反応による配列決定が進行するにつれ、新生鎖に付加されたヌクレオチドは、高感度検出用ナノ構造からますます遠ざかる場合があり、これによりシグナルが減衰する場合がある。これを克服し、したがってより長いリーディング長をもたらすため、リンカー分子の長さを長くして、レポーター電荷量部分を、高感度検出用ナノ構造に「届かせて」、明確なシグナルをもたらすことを可能としうる。
【0111】
一部の実施形態において、新生鎖に各ヌクレオチドが付加されうるにつれて、レポーター部分が蓄積される可能性があり、また最終的には、少なくとも部分的にはそれらの蓄積される電荷に起因して、高感度検出構造への電荷が過重となるであろう。これを克服するため、特定の例示的な例において、一部の実施形態では、各ヌクレオチドを添加し、高感度レポーター部分におけるシグナルを記録することができた後で、酵素的方法、化学的方法、光学的方法、または他の方法により、電荷を切断しうると仮定することができる。リンカーおよびレポーター部分を切断し、洗浄除去したら、反応物に次のヌクレオチドを添加しうる前に、高感度検出構造においてもう1回測定を行い、これを品質管理として用いるか、またはシステムを「リセット」してシグナル対ノイズ比を改善することができる。
【0112】
ジヌクレオチド鎖により、2倍の強度の蛍光がもたらされる場合があり、トリヌクレオチドにより3倍の強度の蛍光がもたらされる場合があるためなどにより、ホモ多量体鎖は、蛍光ベースの配列決定法に問題をもたらしうる。これは、解釈および塩基判定において著明な困難を引き起こしうる。
【0113】
一部の蛍光ベースの配列決定法とまったく同様に、本開示との関連で用いられる各種の実施形態は、一般に、シグナル強度を測定することにより、ホモ二量体鎖、ホモ三量体鎖などのホモ多量体鎖を識別しうる(一部のナノワイヤーまたはカーボンナノチューブによるFETバイオセンサーなどと同様、高感度検出用ナノ構造に定量的または半定量的な測定が可能でありうる場合に、これは可能でありうる)。
【0114】
代替的に、高感度検出用ナノ構造がジヌクレオチド、トリヌクレオチド、および他のホモ多量体の付加を識別できない場合、一部の実施形態では、1つのヌクレオチドの付加を可能とするように、したがって、他のヌクレオチドの付加を阻止するようにデザインされた合成ヌクレオチドを用いることができる。これを達成するための1つの例示的な方法は、5'リン酸基にレポーター部分を連結することでありえ、これにより、新生鎖に対するさらなるヌクレオチドの付加を阻止することができる。レポーターおよびリンカーが切断されると、次のヌクレオチドが付加されうる。別の例示的な方法は、5'リン酸に切断可能なキャップ分子を配置して、ヌクレオチド上における別の部位にリンカーおよびレポーター部位が連結された新生鎖に対するさらなるヌクレオチドの付加を阻止することである。次いで、キャップを除去すれば、次のヌクレオチドの付加が可能となり、過程を反復することができる。
【0115】
本開示の一部の実施形態では、すべてのヌクレオチドを反応混合物に、例えば、同時に添加することができるが、少なくとも一部の実施形態において、合成ヌクレオチドの各々は、異なる個別の電荷量レポーター部分を有しうる。高感度検出用ナノ構造の測定は、約65℃の温度では約3ミリ秒であると推定されうる、ポリメラーゼが新生鎖に対してヌクレオチドを付加しうる速度に倣い、約2〜3ミリ秒ごとに行うことができる。このような実施形態では、レポーター部分を切断することができず、このため、少なくとも部分的には、新生鎖が伸長し、電荷量レポーター部分が蓄積されるにつれて、シグナル体ノイズ比が低下するためにリーディング長が短くなりうるが、配列決定時間ははるかに速くなりうる。特定の実施形態では、合成ポリメラーゼを、重合反応に対する触媒作用がより緩徐となるように操作することができる。
【実施例】
【0116】
以下は、本開示の一部の実施形態についての、一部の例示的で非限定的な実施例である。
【0117】
(実施例1)
DNAの配列決定
一例における配列決定法では、蛍光発光および高価な高感度カメラを用いることはなく、代わりに、少なくとも部分的には、例えば、その検出用表面または表面近傍におけるアッセイ領域内における電荷量の蓄積を検出することが可能でありうる高感度ナノ構造を用いて、レポーター部分の電荷を感知することにより、本開示の一部の態様において説明される合成ヌクレオチドの付加を検出することができる。合成反応により配列決定される、伸長するポリマーに新たなヌクレオチドが付加されると、高感度ナノ構造の表面または表面近傍における電荷密度が増大する場合があり、これは、高感度検出用ナノ構造における特性変化により検出することができる(例えば、検出構造として、ナノワイヤー、カーボンナノチューブを用いる場合、その表面に近接するヌクレオチドの付加により引き起こされる電荷の増大は、電界効果と呼ばれる現象により、ワイヤー中における抵抗の変化により検出することができる)。しかし、ポリマーが伸長するにつれ、付加されたヌクレオチドにより保有される電荷が、高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)から遠く隔たりすぎて、該高感度検出用ナノ構造の特性変化を引き起こさなくなる可能性があるために、シグナルが減衰する場合があり、また、シグナルを観察できない場合がある。したがって、「リーディング長」(このヌクレオチド配列決定法により得ることのできる配列データの量)は、制約されうる。
【0118】
本明細書におけるこの特定の例で用いられる「高感度検出用ナノ構造」とは、その表面または表面近傍における任意の電荷の変化を検出することが可能であり、また、任意の点における少なくとも1つの断面寸法が、約500ナノメートル未満、典型的には約200ナノメートル未満、より典型的には約150ナノメートル未満、さらにより典型的には約100ナノメートル未満、さらにより典型的には約50ナノメートル未満、またより典型的には約20ナノメートル未満、さらにより典型的には約10ナノメートル未満、またさらに約5ナノメートル未満でありうる任意の構造(ナノスケールまたはそれ以外の)でありうる。他の実施形態において、該断面寸法のうちの少なくとも1つは、一般に、約2ナノメートル未満、または約1ナノメートルでありうる。一連の実施形態において、高感度検出用ナノ構造は、少なくとも1つの断面寸法が、約0.5ナノメートル〜約200ナノメートルの範囲でありうる。
【0119】
高感度検出用ナノ構造の特性は、圧電測定、電気化学的測定、電磁的測定、光測定、力学的測定、音響測定、および重量測定などを介して測定可能でありうる形で、表面または表面近傍の電荷に応答して変化しうる。高感度検出用ナノ構造の例には、二次元電界効果トランジスタ、カンチレバー、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、また、すべての誘電性マクロ構造、誘電性ミクロ構造、誘電性ナノ構造、誘電性ピコ構造、誘電性ゼプト構造、またはより小型の誘電性構造が含まれるがこれらに限定されない。
【0120】
本開示の特定の実施形態は、反応が進むにつれてその長さが長くなるリンカー分子を介して、高負(または正)電荷量レポーター部分を結合させた(例えば、5'リン酸基または塩基基に結合させた)通常のヌクレオチドを含みうる合成ヌクレオチドを用いることにより、少なくとも部分的にこの制約に対処する。この高電荷量は、これを高感度ナノ構造(例えば、ナノワイヤー)に「届かせて」、該高感度検出用ナノ構造の特性変化(例えば、用いられる高感度検出用ナノ構造に応じて、該構造内における電界効果または他の誘電変化)を引き起こすようにデザインすることができる。電界効果の恒常的な増大をもたらす、多量のレポーター部分の蓄積を除去することにより、良好な品質管理手段を可能とし、長いリーディング長を確保するため、少なくとも特定の実施形態では、これらのレポーター部分を切断して、合成配列により配列決定される次のヌクレオチドの付加を可能としうる。
【0121】
したがって、一部の実施形態において、サイクル反応は、以下のイベントの全体的または部分的連鎖うちの少なくとも一部または全部を含む:
1.配列決定される鋳型のssDNA分子を、高感度検出用ナノ構造および付加されるプライマーにライゲーションする場合もあり、高感度検出用ナノ構造上においてあらかじめ固定化させたか、または高感度検出用ナノ構造を配置したマイクロ流体チャネル内でほどき、伸長させたプライマー配列に結合させる場合もあること。
2.高感度検出用ナノ構造を、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなど)により洗浄しうること。しかし、一部の実施形態において、この洗浄は不要である。
3.高感度検出用ナノ構造の測定が可能であること。
4.重合反応に必要とされる1つの合成ヌクレオチド、ポリメラーゼ、および他のエレメントを含有する混合物を添加しうること。添加されるヌクレオチドが、プライマー配列のすぐ下流にあるマイナス鎖上における塩基に相補的である場合、それは、該ポリメラーゼにより、伸長する「新生」鎖へと組み込まれうること。
5.次いで、反応物を、例えば、水または低濃度塩緩衝液(1倍濃度SSCなど)により洗浄しうること。しかし、一部の実施形態において、この洗浄は不要である。
6. 高感度検出用ナノ構造の測定が可能であり、これにより、レポーター部分の高電荷量により引き起こされる効果を観察しうること。
7.次いで、レポーター部分を切断しうること(例えば、酸溶液により、または酵素的に)。しかし、一部の実施形態において、このレポーター部分の切断は不要である。
8. 4つのヌクレオチドのうちの各々について第2〜7項目を反復しうること。また、明確なシグナルが減衰するまで、これを反復しうること。
【0122】
鋳型分子がプローブに固定化されるかまたは結合され、これが、高感度検出用ナノ構造に固定化されうる一部の実施形態では、高電荷量レポーター部分を合成ヌクレオチドに結合させるリンカー長を長くして、該電荷を、高感度検出用ナノ構造に「届かせて」、効果を及ぼすことを可能としうる。これは、合成反応による配列決定が進むにつれ、伸長するヌクレオチドポリマーにより、次のヌクレオチド付加部位が、高感度検出用ナノ構造からますます遠ざかりうるために、少なくとも一部の実施形態では必要でありうる。
【0123】
鋳型分子が高感度検出用ナノ構造に固定化されたり、プライマー/プローブにハイブリダイズされ、これが、高感度検出用ナノ構造に固定化され、その代わりに、鋳型分子が遊離するか、または高感度検出用ナノ構造のクラスター全体にわたり水平に固定化されうる一部の実施形態では、サイクル反応の各々に対して単一のリンカー長を用いることができる。
【0124】
(実施例2)
パラレルポロニー(Parallel polony)配列決定
一実施形態において、ゲノムDNAは、当業者に知られる方法(超音波処理、制限酵素による消化など)により断片化することができる。次いで、該断片にアダプタマー(短い合成オリゴヌクレオチド: DNAまたは他の合成オリゴヌクレオチド)、該断片の5'端にAアダプタマー、また、3'端にBアダプタマーをライゲーションすることができる。
【0125】
Aアダプタマーは、制限酵素結合部位を含有することが可能であり、また、Bアダプタマーは、ナノスフェアなどのナノ構造に固定化させた別のオリゴヌクレオチドに対して相補的でありうる。このオリゴヌクレオチドは、DNAの場合もあり、他の任意の合成核酸の場合もあり、一般に、当業者によく知られた方法により固定化することができる(例えば、ナノ構造上におけるストレプトアビジンコーティング、およびオリゴヌクレオチド鎖内の末端ヌクレオチドにライゲーションしたビオチンを用いる)。一般には、ナノ構造および断片化されたゲノムの一本鎖による微細なマイクロリアクターが、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、大規模な多重増幅を可能とするように、これらのナノ構造を、AアダプタマーおよびBアダプタマーをライゲーションした小型のゲノム断片によるライブラリーへと過剰に添加し、次いで、PCR試薬を添加した全混合物を油中において乳化させることができる。ナノ構造は過剰に添加しうるので、1つの断片だけが任意の1つのナノ構造に結合しうるように希釈することができる。各マイクロリアクター内で増幅される断片は、合成されるにつれてナノ構造へと自然に結合し、該ナノ構造は、Bアダプタマーに対して相補的なDNA(または、PNA、モルホリノなど、別の合成ヌクレオチド)によりコーティングされうる。したがって、実施形態のうちの特定部分において、各マイクロリアクターは、ポリメラーゼ連鎖反応後において、増幅された単一種のゲノム断片によりコーティングされたナノ構造を含みうる。
【0126】
次いで、一部の例では、増幅された単一種のゲノム断片によりコーティングされたこれらのナノ構造を、数十万個の反応ウェルを含みうる特殊なピコ滴定プレートへと添加することができる。各ウェルの底部には、個別にアドレスを付され、Aアダプタマーに対して相補的な「プライマー」オリゴヌクレオチドまたは「プローブ」オリゴヌクレオチドによりコーティングされた高感度検出用ナノ構造のアレイを配置することができる。特定の場合において、ウェルは、その中に静置される増幅されたゲノム断片によりコーティングされた1つのナノ構造だけを許容するようなサイズでありうる。これらのナノ構造をピコウェル内に静置させることができたら、該反応プレートを、低濃度の塩緩衝液(1倍濃度のSSCなど)により洗浄することができる。
【0127】
一実施形態では、ベースラインシグナルとして、高感度検出用ナノ構造の抵抗を測定することができる。各ピコ滴定プレートの各ウェル内に、単一のヌクレオチド(アデニン、グアニン、シトシン、またはチミン)、また、ポリメラーゼ活性に必要とされる化学物質(MgCl2など)と共に、ポリメラーゼ(DNAを読み取り、相補的な塩基を付加しうる酵素)を添加し、上記で説明した通り、合成反応による配列決定をパラレルに実施することができる。
【0128】
一部の実施形態では、電荷部分を添加した(上記で説明した通りに)合成ヌクレオチドを用いて、シグナルを増幅することができる。さらに、合成反応による配列決定が進むにつれ、新生鎖に付加された次のヌクレオチドが、高感度検出用ナノ構造から遠ざかるので、リンカー分子の長さを長くして、高感度検出用ナノ構造内において遠隔からシグナルを誘導するように「届かせる」ことができ、したがって、リーティング長を長くすることを可能としうる。
【0129】
他の実施形態では、洗浄ステップの後、Aアダプタマー内の部位において切断する制限酵素により、制限消化を実施することができる。これにより、洗浄除去が可能なナノ構造を放出することができる。次いで、上記の通りであるが、ピコウェル内にナノ構造を存在させることなしに、合成反応による配列決定を実施することができる。
【0130】
(実施例3)
マイクロ流体チャネルまたはフローセル内におけるリーディング長の長い配列決定
一部の実施形態において、標的DNA配列は、高感度検出用ナノ構造を配置したマイクロ流体チャネル内において配列決定することができる。
【0131】
ゲノムまたは他のヌクレオチドポリマー分子の試料は、>約1kbであるが約10kb未満の断片へと断片化することができ、また、その5'端にアダプタマー(配列決定プライマーに対して逆方向の相補体)をライゲーションすることができる。次いで、マイクロ流体チャネルの開口部に固定化したプローブへと5'アダプタマー配列をハイブリダイズさせ、チャネル内に低濃度の塩緩衝液を流し込み、ヌクレオチドポリマー断片をチャネル内へと引き込むことにより、もしくは該ヌクレオチドポリマーを自然に拡散させ、該マイクロ流体チャネル内でほどくことにより、または別の方法により、これらの断片を、チャネル当たり1個ずつ、マイクロ流体チャネル内へと配置することができる。
【0132】
このような実施形態では、ヌクレオチドポリマー断片を、マイクロ流体チャネル内に入れることができたら、配置された各高感度ナノ構造に測定させて、合成反応による配列決定を開始することができる。これらの高感度ナノ構造は、塩基の付加を検出するだけでなく、新生鎖が伸長しうるにつれ、各後続の高感度検出用ナノ構造がシグナルの検出を開始し、上流にある高感度検出用ナノ構造はシグナルの検出を停止させうるので、各塩基付加の空間的な位置も決定することができる。
【0133】
このような実施形態の重要な態様のうちの1つは、帯電したレポーター部分または組み込まれていないヌクレオチドが、バックグラウンドノイズを引き起こしうるので、マイクロ流体チャネル内における表面化学反応により、これらの結合および凝集が阻止されることを確認することでありうる。
【0134】
(実施例4)
携帯型配列決定デバイス
一部の実施形態では、上記の高感度検出用ナノ構造を配置したマイクロ流体チャネルにおいて、特定の標的DNA配列を配列決定することができる。しかし、合成による配列決定のための試薬は、マイクロ流体チャネル内において、気泡、または試薬を分離する別の方法により、各ヌクレオチド混合物、洗浄液、および電荷レポーター部分切断緩衝液を分離させて保管することができる。
【0135】
一部の実施形態では、標的ウイルスDNA、標的細菌DNA、または標的ゲノムDNAの特定の小領域を配列決定して、特定のウイルス、細菌、または配列(SNPなど)の存在または不在についての診断とすることができる。
【0136】
本開示と関連して用いられる各種の実施形態は、配列決定反応を検出する大掛かりで高価なカメラまたはレーザー装置を必要とすることがないので、携帯型配列決定に用いられる。さらに、試薬を逐次1つずつ入れることにより、マイクロ流体環境内おいてそれらを容易に操作することができる。
【0137】
以下の図は、各種の実施形態についての一部の例示的で非限定的な例を提供する目的で示される。
【0138】
図1A:一実施形態では、プローブ配列を高感度検出用ナノ構造(この場合はナノワイヤー)上に固定化し、配列決定される鋳型のssDNA分子を、該プローブ配列にハイブリダイズさせることができ、また、該プローブ配列を、合成反応による配列決定のためのプライマーとして作用させることができる。図1B:この実施形態では、鋳型のssDNA分子を高感度検出用ナノ構造へと固定化することができ、また、遊離のプライマーオリゴヌクレオチドとのプライミングにより配列決定することができる。
【0139】
このような実施形態では、固定化させたプライマー/プローブに標的DNAを結合させるか、または固定化させた標的DNAにプライマーをハイブリダイズさせたら、高感度検出用ナノ構造による測定(例えば、ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブ内において、抵抗が読み取られる)を行うことができる。
【0140】
図2は、一部の実施形態における、合成反応による配列決定の次のステップを示し、ここでは、単一種の合成ヌクレオチドの少なくとも一部、ポリメラーゼ、および重合に必要とされる化学物質を含む溶液を添加することができる。
【0141】
図3は、一部の実施形態における、新生鎖に対する合成ヌクレオチド塩基の付加を示す。ライゲーションした高負電荷量レポーター部分を、合成ヌクレオチド配列から伸展させて、高感度検出用ナノ構造における測定可能な特性変化(この場合、ナノワイヤー内における電界効果)を引き起こすように「届かせる」ことが可能である。
【0142】
この時点において、高感度検出用ナノ構造の2回目の測定を行うことができる。
【0143】
図4は、一部の実施形態において、付加されたヌクレオチドにライゲーションしたリンカーおよび高電荷量レポーター部分は、酵素的に、酸により、または他の化学物質もしくは方法により切断し、また、洗浄除去しうることを示す。
【0144】
この時点において、高感度検出用ナノ構造の3回目の測定を行うことができる。
【0145】
図2〜4のサイクルは、他の3つのヌクレオチドについても反復することができ、次いで、所望の配列が得られるか、またはシグナルが減衰するまで、4つのヌクレオチドすべてについて再度反復することができる。
【0146】
図5は、一部の実施形態において、以下のヌクレオチド付加:アデニン、シトシン、チミン、グアニン、アデニン、シトシン、また、最後にチミンからなる7回のサイクルの後における高感度検出用ナノ構造による測定から得られた結果を図示する。高感度検出用ナノ構造の特性変化を引き起こしうる第1および第2のサイクルは、新生鎖における初めの2つの塩基対としてのCTであると解釈することができる。第3のサイクルは、最初の2つのサイクルによるシグナルより2桁大きなシグナルをもたらしうる(高感度検出用ナノ構造に、ジヌクレオチド鎖、トリヌクレオチド鎖、および他のホモ多量体鎖を識別する、定量的または半定量的な測定が可能でありうる場合に、これは可能でありうる)。
【0147】
代替的に、他の一部の実施形態において、高感度検出用ナノ構造により、ジヌクレオチドの付加、トリヌクレオチドの付加、および他のホモ二量体の付加を識別できない場合、合成ヌクレオチドは、一例において、1ヌクレオチドだけの付加を可能とするようにデザインすることができ、これにより、他のヌクレオチドの付加を阻止することができる。リンカーおよびレポーター部分が切断されると、新生鎖にさらなるヌクレオチドを付加する能力が回復される。したがって、少なくともこの例において、このサイクルによる配列は、ACTGだけを結果としてもたらす。
【0148】
図6は、一部の実施形態において、重合反応の一部として、新生鎖に合成ヌクレオチド塩基を付加するポリメラーゼ複合体を示す。この特定の例では、リンカー分子がポリメラーゼ複合体から突出し、したがって、その作用に有害な作用を及ぼさずに、高感度検出用ナノ構造(この場合には、ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブ)にその作用を及ぼすように「届き」、これが、ポリメラーゼ複合体、また、それが作用することを可能とするのに必要とされる化学物質の洗浄後において測定および記録されうることに注目されたい。測定がなされたら、リンカーおよびレポーター部分は除去することができ、合成反応により配列決定される次のヌクレオチドが付加される前に、別の測定(ベースライン+1ヌクレオチド)を行うことができる。
【0149】
図7は、一部の実施形態における携帯型配列決定用にデザインされた、マイクロ流体カセットのデザインを示す。
【0150】
a.試料の受容:このエレメントは、ちょうど、採血用のバキュテナー上にかぶせられるゴムと同様、試料の流出に対する障壁として作用しうるが、また、試料を受容することも可能である。
【0151】
b.溶解チャンバー:これは、細胞を分解させ、ゲノムDNAを放出させる溶解試薬を含むチャンバーである、簡易型のマイクロリアクターを示す。標的ヌクレオチドポリマーが血清中で遊離しうる場合なら、この区画はまた、血液細胞を除去するフィルターにも類似しうるであろう。
【0152】
c.核酸試料の調製:試料のヌクレオチドポリマー画分は、試料構成要素(タンパク質、炭水化物、脂質など)の残りの部分から単離および抽出することができる。これは、当業者によく知られる一部の方法により達成することができる。例えば、このマイクロ流体チャンバーならば、Nexttec社製のフィルター技術を含有しうるであろう。
【0153】
d.標的ヌクレオチドポリマー:この区画は、加熱エレメント、またはPCRに必要とされる異なる温度による反応混合物のサイクリングによる他のよく知られた戦略を用いて、必要とされる熱サイクリングを実施しうる、ポリメラーゼ連鎖反応、または試料の加熱を必要としない場合がある等温増幅法(LAMB、RPAなど)を用いて、標的ヌクレオチドポリマーを増幅しうる。
【0154】
e.試料の加工:少なくとも一部の実施形態において、これは、配列決定前において、核酸を濃縮するか、またはバックグラウンドシグナルをもたらしうる「突出」ヌクレオチド鎖を除去するのに必要とされうる。
【0155】
f.一般的マイクロ流体:これは、一部の実施形態で用いられるチャネル、流体の流動、バルブのサイズ、ならびに制御、材料、およびバルブについて説明する。
【0156】
g.金属接続部:一部の実施形態において、これらは、高感度検出用ナノ構造(この場合には、ナノワイヤー)を、検出用デバイスへと接続する。
【0157】
h.高感度検出用ナノ構造アレイ:マイクロ流体チャネルは、緊密に配置された高感度検出用ナノ構造(ナノワイヤー、カーボンナノチューブなど)でありうる。チャネル内にDNAを配置する2つの方法を用いることができる; 1.緊密なチャネルにより、長いDNA鎖をほどき、移動させ、かつチャネルに沿って伸展させることが可能となり、これにより、必要な場合、長いリーディング長を可能とすることができ、また、2.ナノワイヤークラスター上にタイリングプローブ/タイリングプライマーを点在させることができ、チャネル全体において、短時間のパラレルな多重配列決定反応を実施することができる。
【0158】
i.一部の実施形態において、このウィービングによるマイクロ流体チャネルは、気泡により分離された試薬で満たすことができる。このマイクロ流体チャネルはポンプ送液が可能であるか、または微細なアクチュエーターにより試薬が移動するので、マイクロ流体チャネル内における試薬の連鎖は、合成反応による配列決定をもたらしうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリヌクレオチドを配列決定する方法であって、
アッセイ領域内に高感度検出用ナノ構造を供給するステップであり、前記ナノ構造が、前記ナノ構造の特性に関連するシグナルを前記アッセイ領域内において発生させ、前記シグナルを検出する手段に連結されているステップと;
結果として得られるプライマー-標的ポリヌクレオチドが前記ナノ構造に作動的に連結されるように、前記アッセイ領域内において前記標的ポリヌクレオチドにプライマーをハイブリダイズさせるステップと;
前記アッセイ領域内において前記プライマー-標的ポリヌクレオチドに1または複数のヌクレオチドおよびポリメラーゼを添加するステップであり、付加されたヌクレオチドのうちの少なくとも1つが前記プライマーの下流にある標的ポリヌクレオチド上の塩基に相補的である場合に、新生鎖の重合を支持する条件下で添加するステップと;
前記新生鎖に付加された少なくとも1つのヌクレオチドに特徴的なシグナルの変化を前記アッセイ領域内において検出するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記特性が電荷である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記付加されたヌクレオチドが、高電荷量部分およびリンカーを含む電荷量レポーター部分をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電荷量レポーター部分が、除去可能であるように構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電荷量レポーター部分が、前記シグナルの検出後に、前記付加されたヌクレオチドから除去される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記電荷量レポーター部分が、前記ポリメラーゼによる前記新生鎖の重合に影響を及ぼさないように構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記電荷量レポーター部分が、前記新生鎖から突出して、前記高感度検出用ナノ構造へと届くように構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記高電荷量部分が、第三級アミノ基、アルコールヒドロキシル基、フェノールヒドロキシ基、またはこれらの任意の組合せのうちの1つまたは複数を含む芳香族骨格および/または脂肪族骨格を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記高電荷量部分が、以下の基:
【化1】

またはこれらの誘導体のうちの1つまたは複数を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記リンカーが、以下の一般式:
H2N-L-NH2
[式中、Lは、アルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せを含む直鎖または分枝鎖を含む]の分子を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
Lが、アルキル基、オキシアルキル基、またはこれらの組合せを含む直鎖を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記直鎖内の炭素原子数が1〜100である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記付加されたヌクレオチドが、切断可能なキャップが除去されるまで別のヌクレオチドの付加が防止されるように、5'リン酸基にて、前記切断可能なキャップ分子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記リンカーが、前記付加されたヌクレオチドの5'リン酸基に結合しており、これによりキャップとして作用する、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
複数のヌクレオチドがアッセイ領域に添加され、但し前記新生鎖に付加された先行ヌクレオチドに特徴的なシグナルが検出されるまで、前記新生鎖に後続のヌクレオチドが付加されない、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記プライマー-標的ポリヌクレオチドと前記ナノ構造との作動的な連結が、前記高感度検出用ナノ構造への前記プライマーの固定化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記プライマー-標的ポリヌクレオチドと前記ナノ構造との作動的な連結が、前記高感度検出用ナノ構造への前記標的ポリヌクレオチドの固定化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記プライマーを前記標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズさせるステップが、前記プライマーを、前記標的ポリヌクレオチドの5'端にライゲーションされたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記高感度検出用ナノ構造が、ナノワイヤー、ナノチューブ、ナノギャップ、ナノビーズ、ナノポア、電界効果トランジスタ(FET)型バイオセンサー、平面電界効果トランジスタ、および任意の導電性ナノ構造からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記標的ポリヌクレオチドおよび前記プライマーが、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ、ロックト核酸(LNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、合成ヌクレオチドプライマー、およびこれらの誘導体からなる群から選択される分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記付加されたヌクレオチドが、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチドヌクレオチド、モルホリノ、ロックトヌクレオチド、グリコールヌクレオチド、トレオースヌクレオチド、合成ヌクレオチド、およびこれらの誘導体からなる群から選択される分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記シグナルを検出する手段が、圧電検出、電気化学的検出、電磁的検出、光検出、力学的検出、音響検出、および重量検出からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
マイクロ流体カセットを含む、標的ポリヌクレオチドを配列決定するためのデバイスであって、
前記標的ポリヌクレオチドを含む生物学的試料を前記カセット内へと導入するための試料受容エレメントと;
前記生物学的試料を破砕して、核酸および他の分子を含む可溶性画分を放出させる溶解チャンバーと;
前記可溶性画分中における前記核酸を前記他の分子から分離する核酸分離チャンバーと;
前記標的ポリヌクレオチドを増幅するための増幅チャンバーと;
1または複数の高感度検出用ナノ構造のアレイを含み、前記ナノ構造が前記ナノ構造の特性に関連するシグナルを発生させる、前記ナノ構造への前記標的ポリヌクレオチドの作動的な連結を可能とするように構成されているアッセイ領域と;
前記シグナルを検出器へと伝導させる伝導エレメントと
を含むデバイス。
【請求項24】
前記生物学的試料が、前記標的ポリヌクレオチドを含む任意の体液、細胞およびそれらの抽出物、組織およびそれらの抽出物、ならびに他の任意の生物学的試料を含む、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
携帯型のサイズおよび構成である、請求項23に記載のデバイス。

【図1A−B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−501643(P2012−501643A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525644(P2011−525644)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006976
【国際公開番号】WO2010/026488
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511056792)クワンタムディーエックス・グループ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】