説明

核酸配列解析装置

【課題】フローセルの冷却に空冷機構を採用するフォーカスドリフトの影響で、観察精度が低下する可能性のない、水平駆動ステージを実装する核酸配列解析装置の提供。
【解決手段】水平駆動ステージ上に冷媒循環型の温度調整ユニットを搭載し、当該温度調整ユニットによりフローセルの載置面温度を所定の温度に調整する、核酸配列解析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列解析装置に関する。より具体的には、例えば、DNA又はRNAなどの核酸の塩基配列の解析に使用される装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生来由来のサンプル中に含まれる核酸配列の解析には、シーケンサと呼ばれる核酸配列解析装置が使用される。シーケンサには、採用する解析方式に応じて様々な装置構成が提案されている。
【0003】
本明細書では、サンプルを含む反応溶液が注入されたフローセルを、水平面内で駆動可能なステージ(以下「XYステージ」という。)上に搭載し、当該XYステージ上で伸張反応工程と蛍光観察工程を順次実行するシーケンサを想定する。
【0004】
この種のシーケンサは、XYステージの駆動制御を通じ、伸張反応工程が終了したフローセルを観察領域に位置決めし、励起光の照射により発生する蛍光を観察する。この際、伸張反応に適したサンプル温度と蛍光観察に適した温度が異なる。このため、フローセルの温度を調整できる仕組みが必要となる。現在、空冷式の温度調整機構を採用するシーケンサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0038163号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空冷式の温度調整機構は、フローセルに対して温度管理された空気を供給し又はフローセル近傍から空気を排出する。この際、空冷ファンを使用する。空冷ファンの配置は、シーケンサの構造等による制約を受ける。例えば空冷ファンは、XYステージ上に載置されたフローセルの近傍に配置される。
【0007】
しかし、フローセルの近傍に空冷ファンを配置すると、空冷ファンの回転により発生した振動がフローセルに伝搬する可能性がある。場合によっては、フローセル内のサンプルに意図せぬ動きを与える可能性もある。シーケンサの光学系は感度が非常に高い。このため、観察視野内でサンプルがわずかでも動くと、フォーカスドリフトの原因となる。また、空冷ファンをフローセルの近傍に配置する場合、フローセルから奪われた熱の影響でフローセルやその近傍の機構が熱伸縮し、フォーカスドリフトを発生させることがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、当該技術課題を鋭意検討した結果、水平駆動ステージ上に冷媒循環型の温度調整ユニットを搭載し、当該温度調整ユニットによりフローセルの載置面温度を所定の温度に調整できる核酸配列解析装置を提案する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、フォーカスドリフトの発生を抑制又は無くすことができ、従来に比して解析精度の高い核酸配列解析装置を実現することができる。
【0010】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係るシーケンサの概略構成を示す図。
【図2】フローセルの構成例を示す図。
【図3】実施例1に係る冷媒循環チューブの特性と従来例に係る冷媒循環チューブの特性を比較的に示す図。
【図4】実施例1に係る冷媒循環チューブの組成を示す図。
【図5】実施例2に係るシーケンサの構成例を示す図。
【図6】実施例2に係る温度調整ユニットの搭載例を示す図。
【図7】実施例2に係る温度調整ユニットの外観搭載例を示す図。
【図8】実施例3に係るシーケンサにおける温度調整ユニットの搭載例を示す図。
【図9】冷媒循環チューブの接続例を示す図。
【図10】冷媒循環チューブの他の接続例を示す図。
【図11】実施例3に係る温度調整ユニットの外観搭載例を示す図。
【図12】4つの温度調整ユニットに対して冷媒液を直列に供給する例を説明する図。
【図13】複数台の温度調整ユニットをXYステージ上に搭載する場合の処理動作を説明する図。
【図14】冷媒循環チューブの接続形態を説明する図。
【図15】ヒートシンクの外観構造例を示す図。
【図16】ヒートシンクの内部構造例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、発明の実施例を説明する。
【0013】
<用語>
本明細書において、「核酸配列」は、核酸材料それ自体も含むものとする。また、「核酸配列」は、特定の核酸、例えばDNA又はRNA分子を生化学的にキャラクタライズする配列情報(すなわち、5つの塩基の文字A、G、C、T又はUから選択される文字の連続)に限定されないものとする。
【0014】
また、「生体」は、複製が可能であり、配列決定の対象となる核酸を含む任意の生体的又は非生体的存在体を示すために用いるものとする。「生体」には、例えばプラスミド、ウイルス、原核生物、古細菌及び真核生物の細胞、細胞株、真菌、原生動物、植物、動物などが含まれる。
【0015】
また、「反応溶液」は、プローブを固定したビーズと、蛍光標識されたヌクレオチドと、4種類の基質(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、酵素(ポリメラーゼ)との混合液とする。ここで、ビーズは、直径が約1ミクロン程度の実質的に球状の微粒子をいう。なお、ビーズの直径は、10ミクロン以下でも良く、0.5ミクロン以下でも良い。蛍光標識として、4種類の基質dATP、dCTP、dTTP、dGTPにそれぞれ対応する4色の蛍光色素を使用する。
【0016】
<実施例1>
図1に、XYステージを実装するシーケンサの概略構成例を示す。ここでのシーケンサは、XYステージの水平駆動により、反応溶液が注入されたフローセルを所望の反応領域又は観察領域に位置決めする。また、ここでのシーケンサは、核酸配列の増幅(伸張)に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)法を使用する。PCR法は、反応溶液の温度を予め定められた条件に従って制御することにより、所望の核酸配列を選択的に増幅する手法である。
【0017】
図1に示すシーケンサは、XYステージ11、制御装置12、温度調整ユニット13、フローセル17、温度センサ18、光学系19、励起光源20、カメラ21、冷媒循環チューブ23、熱交換器24、タンク25及びポンプ26を有する。
【0018】
XYステージ11は、不図示のステージ駆動機構により、X軸方向とY軸方向のそれぞれについて独立に駆動される。XYステージ11の位置決めは、制御装置12により行う。制御装置12は、いわゆる計算機である。
【0019】
XYステージ11上には、温度調整ユニット13が載置される。図では、温度調整ユニット13を太枠で示す。本実施例の場合、温調調整ユニット13は、XYステージ11上に1台だけ搭載されている。
【0020】
温度調整ユニット13は、反応溶液が注入されたフローセル17の載置台として使用されると共に、フローセル17の温度を適切な反応温度や観察温度に調整するために使用される。温度調整ユニット13は、ヒートシンク14、熱電素子15及びサンプルブロック16で構成される。これらの部材は、XYステージ11の側から上方に積層されている。
【0021】
ヒートシンク14は、導電性の高い金属ブロックで構成される。例えば銅製の金属ブロックで構成される。ヒートシンク14の内部には、冷媒液(純水、不凍液等)の循環に使用する流路が形成されている。
【0022】
熱電素子15は、制御装置12より供給される電流量に応じた熱を発生する。すなわち、熱電素子15は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する。熱電素子15として、例えばペルチェ素子を使用する。ペルチェ素子を用いる場合、加熱だけでなく冷却にも使用できる。
【0023】
サンプルブロック16の表面(上面)には、フローセル17が載置される。すなわち、サンプルブロック16は、フローセル17の台座として機能する。また、サンプルブロック16は、フローセル17に対して効率的に熱を伝搬できるように熱伝導性の高い材質で構成される。例えばアルミニウム板で構成される。なお、サンプルブロック16の側面又は近傍には、サンプルブロック16の温度を測定する温度センサ18を配置する。温度センサ18は、ヒートシンク14の温度を測定対象としても良く、フローセル17の温度を測定対象としても良い。温度センサ18の測定データは、制御装置12に与えられる。制御装置12は、測定温度が所定の温度になるように、熱電素子15に供給する電流量を増減する。
【0024】
フローセル17には、光透過性(例えばガラス、PDMS(polydimethylsilozane))のプレートを使用する。フローセル17は、その内部に、反応溶液の流路を有している。流路の本数は1本でも複数本でも良い。図2に、フローセル17の構造例を示す。図2に示すフローセル17には複数本の流路27が形成されている。流路27の両端には、反応溶液等の入出口となるセプタ28(入力側)及び29(出力側)が配置される。セプタ28及び29には、不図示の分注機構を通じ、反応溶液の分注又は排出が行われる。
【0025】
フローセル17の上方には、光学系19が配置される。励起光源20で発生された励起光は、光学系19を通じ、反応が終了したフローセル17の所定位置を照射される。励起光源20は、4つの異なる蛍光色素に対応して4つ設けても良い。もっとも、蛍光色素の励起が可能であれば、励起光源20の数は4つより少なくても良い。例えば励起光源の数は1つでも良い。なお、光源の数が4つより少ない場合、蛍光色の分離を可能とするフィルタを光学系19に配置することが望ましい。励起光の照射は、制御部12により制御する。また、蛍光の観察には、カメラ21を使用する。
【0026】
前述したように、ヒートシンク14の内部には、冷媒液を循環させるための流路が形成されている。このため、ヒートシンク14の側面の一部には、冷媒液の流入口となる開口と冷媒液の流出口となる開口が設けられる。各開口には、継ぎ手22が取り付けられる。例えば冷媒液の流出口に取り付けられた継ぎ手22には、可撓性を有する冷媒循環チューブ23の一端が連結され、当該チューブの他端には継ぎ手22を通じて熱交換器24が接続される。
【0027】
熱交換器24は、冷媒液の循環を通じて回収された熱を外気に放出し、冷媒液の温度を外気温(室温)に低下させる。すなわち、熱交換器24は、冷媒液の温度を一定温度に管理された外気温(例えば25℃)に調整する。なお、ヒートシンク14から熱交換器24に至るまでの冷媒循環チューブ23の長さは十分な長さだけ確保する。引き出し長を十分確保することにより、熱交換器24をXYステージ11やフローセル17から十分に離すことができる。このことは、空冷ファン等の振動源をXYステージ11やフローセル17から離すことができることを意味する。
【0028】
熱交換器24において熱交換された後の冷媒液は、継ぎ手22及び冷媒循環チューブ23を通じてタンク25に供給される。タンク25は、冷媒液の一時的な貯蔵庫である。タンク25内の冷媒液は、流出口となる開口に取り付けられた継ぎ手22から冷媒循環チューブ23を通じ、ポンプ26側の流入口である開口に供給される。ポンプ26側の流出口となる開口とヒートシンク14の流入口となる開口は、継ぎ手22及び冷媒循環チューブ23を通じて接続される。結果的に、環状の冷媒液の流路が完成し、当該流路に沿って冷媒液が循環される。ポンプ26は、冷媒液の循環に用いられる。
【0029】
この実施例の場合、冷媒循環チューブ23には、図3に示す9つの特性を満たすブチルチューブを使用する。図では、実施例に係るブチルチューブの特性と従来例に係るブチルチューブの特性を対比的に表している。冷媒循環チューブ23には、以下に示す9つの項目について規定した全ての条件を満たすものを使用する。
(1)チューブ外径:8mm以下であること。
(2)柔軟性:曲げ半径が20mm以下であること。
(3)耐熱性:230℃以上まで耐えられること。
(4)可撓性:1000万回の湾曲動作後も使用に耐え得ること。
(5)水分透過性:50ml以下であること。
(6)腐食性:ハロゲン溶出が100ppm以下であること。
(7)耐熱温度(1000時間後の伸びが50%に達する温度):120℃以上
(8)耐オゾン性(50pphm、40℃のオゾンに200時間曝した状態で30%伸張させた場合における亀裂の有無):亀裂が無い
(9)圧縮永久歪率:10以下
【0030】
ここで、チューブ外径と曲げ半径は、実装空間が限られるXYステージ11上に冷媒循環チューブ23を容易に敷設できるようにするために求められる条件である。従って、チューブ外径は、7.5mm以下、7mm以下、6.5mm以下、6mm以下、5.5mm以下、5mm以下でも良い。また、曲げ半径は、19mm以下、18mm以下、17mm以下、16mm以下、15mm以下でも良い。
【0031】
また、耐熱性に関する温度は熱暴走に備えた特性である。従って、当該耐熱温度は、240℃以上、250℃以上、260℃以上でも良い。また、可撓性は、XYステージ11の水平駆動に伴う冷媒循環チューブ23の変形に対する耐性から要求される条件である。また、水分透過性は、冷媒液の水分の蒸発を最小化するための条件である。従って、水分透過性は、45ml以下、40ml以下、35ml以下、30ml以下でも良い。腐食性は、ヒートシンク14や継ぎ手22の腐食を防ぎ、使用寿命やメンテナンス回数の低減を実現するために要求される条件である。従って、ハロゲン溶出が95ppm以下、90ppm以下、85ppm以下、80ppm以下でも良い。また、耐熱温度は、冷媒循環チューブ23の使用寿命に関する要件である。1000時間後の伸びが50%に達する温度は、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上でも良い。耐オゾン性も、冷媒循環チューブ23の使用寿命に関する要件である。勿論、耐オゾン性が高いほど良い。圧縮永久歪率も、冷媒循環チューブ23の使用寿命に関する要件である。従って、圧縮永久歪率は、9以下、8以下、7以下、6以下でも良い。
【0032】
なお、実施例において使用するブチルチューブは、チューブ外径が7mm以下、曲げ半径が18mm、熱暴走時の耐熱性に関する温度が250℃、1年間の使用で蒸発する水分の量が20ml、冷媒に溶出する塩素イオンは11ppm、Brイオンは1ppm、使用寿命に関する耐熱温度は150℃、圧縮永久歪は6、1000万回の動作に耐え、かつ、オゾン耐性も有することが確認された。
【0033】
このように、実施例に係るブチルチューブは、従来例に係るブチルチューブに比して、耐熱性、耐オゾン性、圧縮永久性及び耐腐食性の各項目で優れている。逆にいうと、従来例に係るブチルチューブでは、これら項目の性能が十分ではなく、そのためにXYステージ11上に搭載可能な実用レベルの温度調整ユニットを実現することができなかった。
【0034】
図4に、実施例において使用するブチルチューブの組成例を示す。図に示すように、実施例に係るブチルチューブは、ポリマー43%、カーボンブラック43%、オイル9%、その他5%で構成される。その製造には、連続押し出し加硫が用いられ、その中でもLCM(Liquid Curing Medium)装置が使用される。この製造装置は、過酸化物加硫であり、硫黄加硫でない。従って、製造されたブチルチューブに硫黄が含まれることない。また、過酸化物加硫のため、耐熱老化性(長期使用に耐え得る)に優れ、永久伸びが小さく(シール性が持続する)、耐候性(特にオゾン性)に優れるという特徴が導き出される。
【0035】
続いて、本実施例に係るシーケンサにおいて実行される解析動作の概要を説明する。なお、以下の処理動作は、制御装置12による制御を通じて実行される。また、冷媒を用いた温度管理は、継続的に実行されている。従って、サンプルブロック16の初期温度は、外気温(室温)に制御されている。
【0036】
この状態で、不図示の分注機構により、フローセル17に対して反応溶液が分注される。反応用液の分注は、XY平面内で規定された反応領域とも観察領域とも異なる分注領域で実行される。なお、フローセル17の分注領域への移動は、XYステージ11のXY平面内での位置決めを通じて実現される。
【0037】
反応用液の分注が完了すると、制御装置12は、XYステージ11を駆動制御し、フローセル17を分注領域から反応領域へと移動する。反応領域は、観察領域(カメラ21による観察が可能なXY平面上の領域)とは異なる領域である。制御装置12は、発電素子12に与える電流量を制御し、サンプルブロック16の温度を反応用液の反応(伸張反応)に適した温度に制御する。例えば75℃に制御する。以下、所定の反応動作が実行される時間を反応時間という。
【0038】
予め定めた反応時間が経過すると、制御装置12は、XYステージ11を駆動制御し、フローセル17に形成された流路のうち所定位置(観察位置)を光学系19の直下である観察領域へと移動させる。すなわち、制御装置12は、観察位置の位置出しを行う。また、制御装置12は、光学系19のオートフォーカスを実行し、カメラ21において、鮮明な画像が得られるように調整する。この際、制御装置12は、フローセル17の温度が観察に適した温度になるように熱電素子15の発熱量を調整する。例えば25℃に調整する。
【0039】
フローセル17の温度が所定温度に安定すると、制御装置12は、励起光源20を発光させ、フローセル17の所定位置(観察位置)に励起光を照射する。励起光の照射により、励起光に対応する蛍光色素が所定の蛍光色で発光する。制御装置12は、この際の蛍光画像をカメラ21で撮像し、撮像された蛍光画像を不図示の記憶領域に格納する。蛍光画像の撮像は、1つの観察位置につき4回(すなわち、4つの蛍光色に対応する各蛍光画像が取得されるまで)実行される。
【0040】
1つの観察位置について4種類の蛍光画像が取得されると、制御装置12は、XYステージ11を制御してフローセル17上の次の観察位置に移動させ、新たな観察位置について蛍光画像の取得を繰り返す。このXYステージ11の移動制御をスキャン動作といい、スキャン動作が実行される時間をスキャン時間という。
【0041】
フローセル17上の全ての観察位置について4種類の蛍光画像の取得が完了すると、制御装置12は、XYステージ11を駆動制御し、フローセル17を分注領域に移動させる。この後、制御装置12は、不図示の分注機構を用いてフローセル17から反応用液を廃棄し、フローセル17内の流路を洗浄した後、新たな反応用液を分注する。この反応処理とスキャン処理は、繰り返し実行される。なお、所定のタイミングで、制御装置12は、取得された蛍光画像をデータ解析し、サンプルの核酸配列を解析する。
【0042】
前述の通り、本実施例に係るシーケンサは、冷媒液による冷却と熱電素子15による加熱を通じてフローセル17の温度を各処理に適した所定の温度に調整する。この際、本実施例に係るシーケンサにおいては、冷却ファンなどの振動源を、XYステージ11やフローセル17の近傍位置から離すことができる。このため、フローセル17やフローセル内の反応溶液の揺れを原因とするフォーカスドリフトの発生を無視又は抑制することができる。
【0043】
また、本実施例に係るシーケンサでは、空冷式を採用する場合のように、フローセル17から熱を奪った空気が、フローセル17の周囲に位置する機械部品等を熱伸縮させる可能性もない。このため、高い精度の蛍光画像(画像データ)を大量に算出することができ、データ解析時間の短縮と解析精度の向上を同時に実現することができる。
【0044】
また、本実施例に係るシーケンサは、空冷式の場合のように、XYステージ11の周辺に十分な風量を供給するための機構を配置する必要がない。このため、XYステージ11を収容する筐体の小型化を実現することができる。
【0045】
<実施例2>
ここでは、前述したシーケンサのより具体的な構成例を示す。図5に光学系19の具体的な構成を示し、図6に温度調整ユニット13の具体的な構成を示す。なお、図5及び図6には、図1との対応部分に同一符号を付して示す。
【0046】
まず、光学系19の詳細構成を説明する。光学系19は、対物レンズ31、Zステージ32、ライトガイド33、ダイクロイックプリズム34、集光レンズ35で構成する。Zステージ32は、対物レンズ31とフローセル17の距離を調整するための機構である。Zステージ32は、制御装置12により、鉛直方向(Z軸方向)に可動制御される。Zステージ32の取り付け高さの調整により、対物レンズ31のフォーカスが調整される。
【0047】
ライトガイド33は、励起光源20(例えばキセノンランプ)から発生された励起光をダイクロイックプリズム34に導く導光管である。例えばガラスファイバ、内部を液体で満たした中空ファイバを使用する。
【0048】
ダイクロイックプリズム34は、ライトガイド33から入射された励起光をフローセル17に屈折させると共に、励起光の照射領域で発生した蛍光を集光レンズ35に通過させる。なお、ダイクロイックプリズム34において蛍光色をフィルタリングする場合、対物レンズ31とダイクロイックプリズム34又はダイクロイックプリズム34と集光レンズ35の光路上に、個別の蛍光色成分だけを選択的に通過させることができる光学フィルタを切り替え可能に配置する。光学フィルタの切り替えは、制御装置12が制御する。
【0049】
ダイクロイックプリズム34を通過した蛍光は、集光レンズ35を通過してカメラ21(例えばCCDカメラ、CMOSカメラ)の撮像面上に結像される。
【0050】
次に、温度調整ユニット13の詳細構成を説明する。図6は、温度調整ユニット13の側断面図である。温度調整ユニット13は、ヒートシンク14、熱電素子15、サンプルブロック16及びクランプ37で構成される。図6に示すように、ヒートシンク14にはアース端子38が設けられている。アース端子38には不図示のアース線が接続される。また、この実施例の場合、ヒートシンク14にも温度センサ18が配置される。測定された温度は、制御装置12に伝送される。
【0051】
ヒートシンク14の上面には、複数個の熱電素子15(例えばペルチェ素子)が配置される。図では、熱電素子15が3個の例を表しているが、個数は1個でも、2個でも、4個以上でも構わない。この実施例の場合、サンプルブロック16の裏面側に複数個の温度センサ18とサーマルプロテクタ39が配置される。サーマルプロテクタ39は、サンプルブロック16の加熱を防止する安全装置であり、サーマルプロテクタ39の温度が許容範囲を超えると、対応する熱電素子15への給電を自動的に遮断する。また、サーマルブロック16の表面側には、フローセル17を固定するためのクランプ37が配置される。図では、クランプ37が1個の例を表しているが、複数個でも構わない。
【0052】
図7に、実施例に係る温度調整ユニット13の外観使用例を示す。図に示すように、冷媒循環チューブ23は、X軸方向にもY軸方向にも湾曲した状態で用いられる。すなわち、XYステージ11の駆動に応じ、X軸方向にもY軸方向にも曲げ伸ばしされる。図7には、冷媒循環チューブ23や他のケーブル類を保護するガイド40を装着した例を表している。
【0053】
<実施例3>
ここでは、前述した実施例に対する変形例を説明する。前述の実施例においては、XYステージ11上に、温度調整ユニット13を1台だけ搭載する例について説明した。しかし、複数台の温度調整ユニット13を、XYステージ11上に搭載することもできる。図8に、XYステージ11上に2台の温度調整ユニット13を搭載する例を示す。なお、図8には、図6との対応部分に同一符号を付して表している。
【0054】
図8に示すように、2台の温度調整ユニット13をXYステージ11上に搭載する場合、温度調整ユニット13に対する冷媒液の供給方法には2通りの方法が考えられる。1つは、図9に示すように、冷媒液の流路を2つに分岐して並列に供給する方法である。この場合、T字形状の継ぎ手41を使用する。他の1つは、図10に示すように、冷媒液の流路に対して2台の温度調整ユニット13を直列に接続する方法である。2つの供給方式は、設置スペース等を加味して選択すれば良い。
【0055】
図11に、本実施例に係るシーケンサにおけるXYステージ11への温度調整ユニット13の実装例を示す。図に示す2台の温度調整ユニット13に対する冷媒液の供給は、不図示の冷媒循環チューブ23を通じ、図9又は図10で説明するいずれかの接続形態により行う。
【0056】
図12に、4台の温度調整ユニット13をXYステージ11上に搭載する場合における冷媒循環チューブ23の接続例を示す。図12は、図10の場合と同様、冷媒循環チューブ23に対して4台の温度調整ユニット13を直列に接続する例である。
【0057】
図13に、本実施例のように複数台の温度調整ユニット13を搭載する場合における反応時間とスキャン時間の関係を示す。図13のケース1は、温度調整ユニット13が2台搭載される場合(すなわち、フローセル1及び2が搭載される場合)を示す。また、図13のケース2は、温度調整ユニット13が3台搭載される場合(すなわち、フローセル1、2及び3が搭載される場合)を示す。また、図13のケース3は、4台搭載される場合(すなわち、フローセル1、2、3及び4が搭載される場合)を示す。
【0058】
図中、各フローセルにおいて反応動作が実行される時間を黒で塗りつぶした矩形パターンで示し、スキャン動作が実行される時間を白抜きの矩形パターンで示す。タイミングチャート欄に示すように、1つのフローセルにおいて、反応時間とスキャン時間は交互に実行される。また、スキャン時間は、複数のフローセル間で排他的に実行される必要がある。すなわち、ある1つの時点で、スキャン対象となり得るフローセルは、常に1つだけである。
【0059】
従って、ケース1の場合、反応時間とスキャン時間の比は1対1となる。また、ケース2の場合、反応時間とスキャン時間の比は2対1となる。また、ケース3の場合、反応時間とスキャン時間の比は3対1となる。図は、XYステージ11上に搭載されるフローセル17の数(温度調整ユニット13の数)が増えるほど、一定の時間を必要とする反応期間の重複度を高めることが可能となり、システム全体としてのスループットを向上できることを示している。
【0060】
<実施例4>
図14に、冷媒循環チューブ23の他の接続例を示す。前述した実施例では、ヒートシンク14と熱交換器24の間、熱交換器24とタンク25の間、タンク25とポンプ26の間、ポンプ26とヒートシンク14の間を、それぞれ1本の冷媒循環チューブ23で接続する場合について説明した。
【0061】
しかし、これら1本の冷媒循環チューブ23で接続されている区間を、複数本の冷媒循環チューブ23を継ぎ手42によって直列に連結する形態に置換しても良い。この場合、冷媒循環チューブ23の交換や冷媒液の廃棄交換が容易となり、保守性が向上される。
【0062】
<実施例5>
ここでは、ヒートシンク14に好適な構造例を説明する。前述したように、ヒートシンク14内には、冷媒液を循環させるための流路が形成される。冷媒液を循環させる流路を有するヒートシンク14の製造方法には、例えばヒートシンク14を構成する金属ブロック(例えば銅ブロック)を2つに分割し、分割面に流路を加工した後、再び分割面同士を結合させる方法が考えられる。
【0063】
本実施例では、直方体形状の金属ブロックを直接外部から加工することにより、必要とされる内部構造を形成する方法を提案する。本実施例に係る製造方法により製造されたヒートシンク14の外観構造を図15に示し、図16にその内部構造を示す。図15に示すように、本実施例に係るヒートシンク14は、直方体の金属ブロックの少なくとも2側面に開口を有している。図15の場合、紙面に向かって右面に2つ、正面に1つ、背面に1つ(不図示)、左面に1つの開口を有している。
【0064】
各開口からは、金属ブロックの内部に直線的に延びる5本の孔51〜55が形成されている。すなわち、金属ブロックの外部からドリルを挿入し、直線状の孔51〜55を形成する。このうち、直交する2本の孔同士が、金属ブロックの内部で交差する。例えば孔51と52が内部で交差し、孔51と53が交差し、孔53と54が交差し、孔54と55が交差する。直交する2つの孔同士が1つの交点でのみ連結されることにより、金属ブロックの内部に流入口から流出口に達する1本の流路が形成される。
【0065】
ただし、5つの開口のうち3つは、流入口でも出力口でもない開口である。例えば図16の場合、孔52と55に対応する開口が冷媒循環用の流入口及び流出口として用いられ、残る3つの孔51、53及び54に対応する開口が流入口にも流出口に該当しない開口である。そこで、流入口又は流出口となる開口には継ぎ手22を取り付ける一方で、残る3つ開口には封止具(キャップ)43を取り付ける。封止具43の取り付けにより、ヒートシンク14の内部には、流入口から流出口につながる1本の流路が完成する。
【0066】
このよう、本実施例にて説明する加工手法の採用により、加工項数の少ないヒートシンク14を実現することができる。
【0067】
<他の形態例>
本発明は上述した形態例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
11…XYステージ、12…制御装置、13…温度調整ユニット、14…ヒートシンク、15…熱電素子、16…サンプルブロック、17…フローセル、18…温度センサ、19…光学系、20…励起光源、21…カメラ、22…継ぎ手、23…冷媒循環チューブ、24…熱交換器、25…タンク、26…ポンプ、27…流路、28、29…セプタ、31…対物レンズ、32…Zステージ、33…ライトガイド、34…ダイクロイックプリズム、35…集光レンズ、37…クランプ、38…アース端子、39…サーマルプロテクタ、40…ガイド、41、42…継ぎ手、43…封止具、51、52、53、54、55…孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置と、撮像光学系と、前記撮像装置で撮像された像を処理する計算機と、水平駆動ステージとを有する核酸配列解析装置において、
前記水平駆動ステージ上に搭載される少なくとも1つの温度調整ユニットと、
前記温度調整ユニットに設けられた冷媒循環用の入口及び出口に対し、継ぎ手を通じてそれぞれ連結される可撓性の冷媒循環チューブと、
前記冷媒循環チューブ内の冷媒を循環させるポンプと、
前記冷媒と外気の間で熱量を交換する熱交換器と
を有し、
前記温度調整ユニットは、
前記水平駆動ステージ上に直接搭載されるヒートシンクと、
前記ヒートシンクの上面に配置される少なくとも1つの熱電素子と、
前記熱電素子の上面側に配置され、フローセルを載置するヒートブロックと、
前記ヒートブロックの温度を測定する温度センサとを有する
ことを特徴とする核酸配列解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸配列解析装置において、
前記冷媒循環チューブを、
耐熱性が230℃以上、かつ、
圧縮永久歪みが10以下、かつ、
対オゾン性及び銅耐腐食性を有する素材により形成する
ことを特徴とする核酸配列解析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸配列解析装置において、
複数の前記冷媒循環チューブは、相互に継ぎ手を通じて接続される
ことを特徴とする核酸配列解析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸配列解析装置において、
前記水平駆動ステージ上に搭載される複数の前記温度調整ユニットは、前記冷媒循環チューブを通じて直列に接続される
ことを特徴とする核酸配列解析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の核酸配列解析装置において、
前記水平駆動ステージ上に搭載される複数の前記温度調整ユニットは、継ぎ手を通じて分岐された前記冷媒循環チューブを通じて並列に接続される
ことを特徴とする核酸配列解析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の核酸配列解析装置において、
前記ヒートシンクは、直方体の金属ブロックの少なくとも2側面に形成された開口と、各開口から金属ブロック内に直線的に延びる孔が金属ブロックの内部で交差する構造と、金属ブロックの内部で前記入口から出口に達する流路が形成されるように、前記開口のうち冷媒循環用の入口及び出口以外の開口を封止する封止部材とを有する
ことを特徴とする核酸配列解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−170337(P2012−170337A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32301(P2011−32301)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】