説明

核酸電気泳動方法、核酸濃縮精製方法、核酸電気泳動用カートリッジ、及び該カートリッジの製造方法

【課題】操作が簡便であり、短時間で高効率に核酸を濃縮し精製できる核酸電気泳動方法の提供。
【解決手段】
アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸電気泳動方法を提供する。インターカレーターの酸解離定数は、0より大きく3以下であってもよい。また、上記官能基は、スルホ基であってもよい。この核酸濃縮回収方法では、インターカレーターと結合した核酸の負電荷をより強めることで、核酸の電気泳動速度を速めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、核酸電気泳動方法、核酸濃縮精製方法、核酸電気泳動用カートリッジ、及び該カートリッジの製造方法に関する。より詳しくは、チャネル内での電気泳動によって核酸を濃縮し、精製するカートリッジ等に関する
【背景技術】
【0002】
PCR(Polymerase Chain Reaction)法やLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法等の核酸増幅反応はバイオテクノロジーにおける様々な分野で応用されている。例えば、医学分野では、DNAやRNAの塩基配列に基づいた診断が行われており、農業分野では遺伝子組み換え作物の判定等でDNA鑑定が活用されている。
【0003】
核酸増幅反応では、微量サンプル中の核酸を高効率に増幅して検出できる。しかし、サンプルに含まれる核酸が極めて微量である場合には、検出下限量未満となる場合がある。さらに、サンプル中の核酸濃度が極めて低い場合には、反応場へ導入可能な容積のサンプル中に増幅対象核酸が含まれなかったために検出が不能となる場合がある。これらの場合には、サンプル中の核酸を予め濃縮して反応場に導入することが有効となる。
【0004】
従来、核酸の濃縮方法としては、フェノール/クロロホルム/エタノールを用いた方法、核酸を吸着するカラムやフィルタ等を用いた方法、磁性シリカビーズを用いた方法等が知られている。例えば、特許文献1には、核酸吸着能を有する多孔質担体を用いた核酸の濃縮方法が開示されている。また、非特許文献1には、キャピラリー電気泳動によって核酸を濃縮する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−080555号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"On-line sample preconcentration in capillary electrophoresis: Fundamentals and applications." Journal of Chromatography A., Vol.1184 (2008)p.504-541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のフェノール/クロロホルム/エタノールを用いた方法は、有害な有機溶媒を使用する必要があり、遠心分離操作等に手間がかかっていた。また、核酸を吸着するカラムやフィルタ等を用いた方法は、カラムやフィルタ等が目詰まりを起こしやすく、操作の簡便性からも課題があった。
【0008】
そこで、本技術は、操作が簡便であり、短時間で高効率に核酸の濃縮及び精製をすることができる核酸電気泳動方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸電気泳動方法を提供する。
この核酸電気泳動方法の前記手順において、前記インターカレーターの酸解離定数は、0より大きく3以下であることが好ましい。
更に、この核酸電気泳動方法においては、前記官能基は、スルホ基であることが好ましい。
また、この核酸電気泳動方法においては、緩衝液が充填されたチャネルの両端に電圧を印加し、チャネル内の所定箇所に導入された前記核酸を電気泳動させ、正極端へ移動する核酸を堰き止める手順を含んでいることが好ましい。
ここで、核酸にインターカレーターを挿入するとは、主に、二本鎖核酸の相補的塩基対間にインターカレーターを挿入することを指す。また、本技術では上記2本鎖核酸には、もともとは1本鎖で構成されているものであっても、セルフハイブリダイゼーションにより部分的に2本鎖になっているものも含まれる。
また、上記緩衝液のpHは5以下であることが好ましい。また、上記緩衝液のpHは4以下であることも好ましい。更に、また、上記緩衝液のpHは3以下であることも好ましい。
また、本技術は、アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸濃縮精製方法を提供する。
【0010】
また、本技術は、液体を導入可能なチャネルが形成され、物質を堰き止める堰止部がチャネルの所定箇所に配され、チャネルの両端に電極が配されており、アニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターと、緩衝液とが堰止部と負極端との間に収容されている核酸電気泳動用カートリッジを提供する。
【0011】
更に、本技術は、基板上に形成されたチャネル内に導入されたモノマー溶液を光重合によって所定の形状にゲル化させて前記高分子ゲルの形成または透析膜の配置をする工程を形成する工程と、チャネル内にアニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターを収容する工程と、を含む核酸電気泳動用カートリッジの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本技術により、操作が簡便であり、短時間で高効率に核酸を濃縮し回収できる核酸電気泳動方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本技術の各実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジの構成と、該カートリッジを用いた核酸電気泳動方法の手順を説明する模式図である。
【図2】本技術の第1実施形態に係る酸解離定数を説明するためのpH−電荷曲線である。
【図3】電気泳動開始後のゲル界面の蛍光強度の経時変化を示すグラフである(実施例1:緩衝液のpH;2.2)。
【図4】電気泳動開始後のゲル界面の蛍光強度の経時変化を示すグラフである(実施例2:緩衝液のpH;4.0)。
【図5】タンパク質(BSA)を電気泳動させた状態を示す図である(実施例3)。
【図6】タンパク質(AGP)を電気泳動させた状態を示す図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.本技術の第1実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ、核酸電気泳動方法、及び核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
(1)核酸電気泳動用カートリッジ
(2)核酸電気泳動方法
(3)核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
2.本技術の第2実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ、核酸電気泳動方法、及び核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
(1)核酸電気泳動用カートリッジ
(2)核酸電気泳動方法
(3)核酸電気泳動用カートリッジの製造方法

【0015】
1.本技術の第1実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ、核酸電気泳動方法、及び核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
(1)核酸電気泳動用カートリッジ
図1は、本技術の第1実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジの構成と、該カートリッジを用いた核酸電気泳動方法の手順を説明する模式図である。
【0016】
図1(A)中、符号1で示す核酸電気泳動用カートリッジは、基板上に形成されたチャネル11と、チャネル11の両端にそれぞれ配された正極12と負極13とを有する。チャネル11内には液体が導入可能とされており、チャネル11の正極12と負極13との間には高分子ゲル14が配されている。また、正極12と負極13には電源Vが接続され、チャネル11に導入された液体に電圧を印加/解除できるよう構成されている。また、チャネル11には、核酸に挿入可能なインターカレーターと、緩衝液とが収容されている。
【0017】
基板の材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とできる。
【0018】
正極12及び負極13については、好適にはスパッタ又は蒸着された金(Au)または白金を含んでなるものが採用される。
【0019】
高分子ゲル14は、本技術における堰止部の一例である。高分子ゲル14としては、後述するように、電気泳動の際にサンプル中の核酸を堰き止めることが可能であれば、特に限定されるものではない。また、堰止部としては、透析膜、逆浸透膜、半透膜、イオン交換膜などの多孔質膜、又はセルロース、ポリアクリルニトリル、セラミック、ゼオライト、ポリスルホン、ポリイミド、パラジウムなどの多孔質膜等が用いられてもよい。以下、本実施形態(本技術の第2実施形態でも同様である。)では、本技術における堰止部としては、高分子ゲル14を主に例に挙げて説明する。
【0020】
高分子ゲル14は、ポリアクリルアミドが好適に採用され、より好ましくはアニオン性官能基を含有するポリアクリルアミド、さらに好ましくは酸解離定数(pKa)が1〜5であるアニオン性官能基を含有するポリアクリルアミドが用いられる。なお、本実施形態において、アクリルアミドとは、アクリルアミド又は(メタ)アクリルアミドを意味するものとする。
【0021】
アニオン性官能基としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸;シュウ酸、フタル酸等の多塩基酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸等のヒドロキシ酸;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和酸または不飽和多塩基酸;グリシン等のアミノ酸、リン酸の部分エステル、硫酸の部分エステル、ホスホン酸、スルホン酸などが挙げられる。
【0022】
具体的には、例えばカルボン酸としては、蟻酸(pKa:3.55)、酢酸(pKa:4.56)、プロピオン酸(pKa:4.67)、ブタン酸(pKa:4.63)、ペンテン酸(pKa:4.68)、ヘキサン酸(pKa:4.63)、ヘプタン酸(pKa:4.66)、パルミチン酸(pKa:4.64)、ステアリン酸(pKa:4.69)などの脂肪族モノカルボン酸;コハク酸(pKa1 :4.00、pKa2 :5.24)、グルタル酸(pKa1 :4.13、pKa2 :5.03)、アジピン酸(pKa1 :4.26、pKa2 :5.03)、ピメリン酸(pKa1:4.31、pKa2 :5.08)、スベリン酸(pKa1 :4.35、pKa2 :5.10)、アゼライン酸(pKa1 :4.39、pKa2 :5.12)、リンゴ酸(pKa1 :3.24、pKa2 :4.71)、テレフタル酸(pKa1 :3.54、pKa2 :4.46)などの脂肪族又は芳香族のジカルボン酸;クロトン酸(pKa:4.69)、アクリル酸(pKa:4.26)、メタクリル酸(pKa:4.66)などの不飽和カルボン酸;アニス酸(pKa:4.09)、m−アミノ安息香酸(pKa1 :3.12、pKa2 :4.74)、m−,p−クロロ安息香酸(pKa1 :3.82、pKa2 :3.99)、ヒドロキシ安息香酸(pKa1 :4.08、pKa2 :9.96)等の置換安息香酸類;クエン酸(pKa1 :2.87、pKa2 :4,35、pKa3 5.69)などのポリカルボン酸及びその誘導体を挙げることができる。
【0023】
アニオン性官能基を含有するアクリルアミドモノマーは、特にアクリルアミドアルカンスルホン酸が好ましい。スルホン酸としては、例えば、スチレンスルホン酸(pKa=−2.8)、m−アニリンスルホン酸(pKa=3.74)、p−アニリンスルホン酸(pKa=3.23)、2−(メタ)アクリルアミド−2−アルキル(炭素数1〜4)プロパンスルホン酸、より具体的には2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(pKa=−1.7)等の重合性の不飽和基を有するスルホン酸が挙げられる。
【0024】
ポリアクリルアミドゲル中のアニオン性官能基の濃度(重量%)は、0〜30%が好ましい。
【0025】
インターカレーターは核酸に結合可能であり、アニオン性官能基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは酸解離定数(pKa)が0を超えて3以下である。なお、ここでいう、インターカレーターとは、核酸の2本鎖に挿入される物質を指す。
【0026】
インターカレーターが含有するアニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基(−COOH基)、メルカプト基(−SH基)、リン酸基(−POH)、ホスファート基(−PO)、スルホ基(−SOH)、スルファート基(−SOH)等が挙げられる。
【0027】
インターカレーターが含有するアニオン性官能基としては、特にスルホ基が好ましい。スルホ基を含有するインターカレーターとしては、例えば、9,10−アントラキノン−2,6−ジスルホン酸、アントラキノン−1−スルホン酸ナトリウム、アントラキノン−2,7−ジスルホン酸二ナトリウム、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸 二ナトリウム、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
また、緩衝液のpHとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2〜3とすることが好適である。また、緩衝液のpHを、3〜4とすることも好適である。更に、緩衝液のpHを、4〜5とすることも好適である。緩衝液の例としては、特に限定されるものではないが、例えば、グリシン−塩酸緩衝液(pH:2.0〜3.0)、クエン酸緩衝液(pH:3.0〜6.0)、酢酸緩衝液(pH:3.0〜5.5)、クエン酸−リン酸緩衝液(pH:2.5〜7.0)、MES(pH:5.0〜7.0)、Bis−Tris(pH:5.0〜7.0)等が挙げられる。
【0029】
(2)核酸電気泳動方法
図1(B)〜(D)を参照して、核酸電気泳動用カートリッジ1を用いた核酸電気泳動方法の手順を説明する。ここでいう核酸電気泳動方法は核酸濃縮精製方法、
【0030】
まず、チャネル11の高分子ゲル14と負極13との間の領域113に核酸を含むサンプルを導入する(図1(B)参照)。このとき、チャネル11内には電気泳動用の緩衝液を満たしておく。また、チャネル11の高分子ゲル14と負極13との間の領域113にインターカレーターも収容しておく。
【0031】
この際、領域113に導入される核酸にインターカレーターが挿入されることになる。核酸にインターカレーターを挿入させる工程については、予めインターカレーターを核酸に挿入させてから、核酸を領域113に導入してもよいし、領域113に予め収容されたインターカレーターに核酸を導入して挿入させてもよい。
【0032】
ここで、本実施形態に係る核酸電気泳動方法に用いられる核酸を含有するサンプルには、例えば、咽頭・鼻腔・膣スワブ、血液、血漿、血清、喀痰、髄液、尿、汗、又は便等の生体由来の液体が用いられる。また、上記サンプルには、細胞培養液、細菌培養液、食品中の液体、又は土壌中の液体等も用いられる。そのため、サンプル液には核酸の分析においては不要な種々のタンパク質や糖等(以下、夾雑物と呼ぶ。第2実施形態でも同様である。)も含まれることがある。従って、高効率に核酸を分析するためには、核酸を夾雑物と分離することが求められる。
【0033】
この点、本技術の関連技術としては、例えば、緩衝液等のpHを酸性(例えば、pH:2〜4等)条件にして電気泳動を行い、核酸と夾雑物とを分離する方法がある。しかしながら、このような方法では、核酸の電気泳動速度が遅くなり、核酸を濃縮しづらくなるという懸念がある。また、夾雑物にシアル酸等が含まれていたり、他の等電点が低いタンパク質が含まれていたりすると、夾雑物の等電点と核酸の等電点とが近くなるために、電気泳動をしても核酸と夾雑物とを分離しづらいという懸念もある。
【0034】
一方で、本実施形態で用いられるインターカレーターは、アニオン性官能基を有する。このようなインターカレーターが挿入された核酸のpKaは低下し、核酸の等電点も低下する。そのため、核酸と夾雑物との等電点の差を大きくすることができ、核酸の電気泳動速度が夾雑物の電気泳動速度よりも速くなる。従って、後述する本実施形態に係る電気泳動では、核酸と夾雑物とを安定に分離することが可能になる。
【0035】
ここで、図2を参照しながら、電気泳動速度に対する等電点の影響について詳細に説明する。図2は、核酸を構成する各塩基(アデニン(図2中、Aで表す。)、グアニン(図2中、Gで表す。))、チミン(図2中、Tで表す。)、シトシン(図2中、Cで表す。))毎のpH−電荷曲線のグラフを示す。
【0036】
図2に示すように、ここでいう、等電点とは、電荷が0になるpHを指す。いずれの塩基も、等電点に対しpHが高くなる程負電荷が大きくなる。そのため、等電点が低い物質程、核酸の電気泳動速度を速めることが可能になる。ここで、上述したように、核酸にアニオン性官能基を含有するインターカレーターを挿入することで、各塩基のpH−電荷曲線は酸性側にシフトし、等電点が低下する。各塩基の等電点については、例えば、シトシン(C)の等電点が他の塩基よりも高く、約2.5〜3であり、インターカレーターの酸解離定数が特に3以下であることで、核酸がインターカレーターに挿入された際に、核酸の電気泳動速度をより速めることができる。
【0037】
また、pHが2〜3の緩衝液を用いることで、夾雑物に含まれるタンパク質の電気泳動をより抑制しやすくなり、核酸の電気泳動をさせることが可能になる。そのため、核酸と夾雑物とをより安定に分離し、効率良く核酸を精製することができる。
【0038】
再び、図1を参照しながら本実施形態に係る核酸電気泳動方法・核酸電気泳動方法について説明する。図1(B)を参照しながら説明したように、核酸を領域113に導入した後、正極12と負極13との間に電圧を加えて緩衝液に電圧を印加し、核酸の電気泳動を行う。負に帯電した核酸はチャネル11内を正極12方向へ電気泳動される。この際、高分子ゲル14が核酸の移動を阻み、核酸を堰き止めることによって、高分子ゲル14の界面とその近傍に核酸が濃縮される(図1(C)参照)。電気泳動時間は、チャネル11のサイズに応じて適宜設定されるが、例えば10秒〜10分程度でよい。なお、高分子ゲルの「界面」とは、高分子ゲル14と領域113側に充填された緩衝液との接触面を指す。
【0039】
最後に、領域113の高分子ゲル14近傍の緩衝液をマイクロピペット2等によって吸引することによって、濃縮された核酸を回収する(図1(D)参照)。
【0040】
このように、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、核酸にアニオン性官能基を有するインターカレーターが挿入される。また、好ましくは、インターカレーターの酸解離定数は0超過3以下である。そのため、インターカレーターが挿入された核酸の負電荷を強め、核酸の等電点は低下する。特に、インターカレーターがスルホ基などの非常に酸解離定数が低い官能基を含有する場合、インターカレーターが挿入された核酸の等電点は大きく低下する。従って、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、核酸の電気泳動速度を速くすることができ、短時間で核酸を濃縮し精製することができる。なお、本技術において、核酸にインターカレーターを挿入するとは、2本鎖核酸の相補的塩基対間にインターカレーターを挿入すること、換言すればインターカレーターをインターカレートすることを指す。また、本技術では、上記2本鎖核酸には、もともとは1本鎖で構成されているものであっても、セルフハイブリダイゼーションにより部分的に2本鎖になっているものも含まれる。
【0041】
更に、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、上述したように核酸の等電点を低下させることで、サンプル液に含有される核酸と夾雑物との等電点の差を大きくすることができる。そのため、核酸については電気泳動をさせつつ、夾雑物については電気泳動をすることを抑制することが可能になり、核酸と夾雑物とを安定に分離することができる。すなわち、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、より純度の高い核酸を精製することができる。
【0042】
また、領域113に導入される緩衝液のpHを低くしておくこと(例えば、2〜3等)により、核酸は負電荷を有しつつ、夾雑物の負電荷は弱められた状態で核酸の電気泳動をすることが可能になり、より精度良く核酸と夾雑物とを分離することができる。
【0043】
更に、高分子ゲル14にアニオン性官能基を含有させておくことにより、負に帯電した核酸とアニオン性官能基との電気的反発力によって、核酸が高分子ゲル14の内部にまで移動することを防止できる。核酸が高分子ゲル14の内部にまで移動したり、さらに高分子ゲル14内を通過して正極12側の領域112にまで移動したりすると、回収される核酸量が減少してしまう。アニオン性官能基は酸解離定数(pKa)が1〜5であるものが好ましい。pKaが低く負電荷が大きい官能基である程、電気的反発力によって核酸の高分子ゲル14内への移動を阻止する効果が高い。
【0044】
更に、領域113の高分子ゲル14近傍の緩衝液を吸引する際に、正極12と負極13に逆電圧を短時間印加することも、核酸の回収量を高めるために有効である。核酸の回収時に短時間逆電圧を印加することで、ゲルまたは透析膜の界面に存在する核酸や界面近くのゲル内部に存在する核酸を、領域113の高分子ゲル14近傍に移動させ、マイクロピペット2によって吸引、回収できる。逆電圧を印加する時間は、チャネル11のサイズに応じて適宜設定されるが、例えば1〜10秒程度でよい。
【0045】
(3)核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
本実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジは、基板上に形成されたチャネル11内に導入されたモノマー溶液を光重合によって所定の形状にゲル化させて高分子ゲル14を形成し、チャネル11内にインターカレーターを収容することによって製造することができる。
【0046】
基板上へのチャネル11の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。なお、チャネル11はカートリッジ1上に1あるいは2以上形成することができる。
【0047】
モノマー溶液には、アクリルアミドモノマーが好適に採用され、より好ましくはアニオン性官能基を含有するアクリルアミドモノマー、さらに好ましくは酸解離定数(pKa)が1〜5であるアニオン性官能基を含有するアクリルアミドモノマーが用いられる。モノマー溶液は、具体的には、特にアクリルアミドアルカンスルホン酸が好ましい。
【0048】
正極12及び負極13については、好ましくは金(Au)または白金(Pt)をスパッタまたは蒸着することにより作製される。この点、関連技術に係るカートリッジでは、電極に白金線を用いるものがある。この場合、実験を行う度に白金線を核酸電気泳動用カートリッジ内に配置する必要が生じ、更に白金線が高価である点等も鑑みると、カートリッジを使い捨てにすることができないでいた。一方、上述したように、本実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ1では、金をスパッタまたは蒸着することにより正極12及び負極13を作製し、予めカートリッジ1に電極を作製しておくので、カートリッジ1を簡便に取り扱うことができる。また、このような核酸電気泳動用カートリッジ1については、関連技術に係る核酸電気泳動用カートリッジに比し、使い捨てにすることも可能である。従って、核酸電気泳動用カートリッジ1では、サンプルの濃縮の際にサンプルのコンタミを防止することができる。
【0049】
2.本技術の第2実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ、核酸電気泳動方法、及び核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
【0050】
(1)核酸電気泳動用カートリッジ
図1は、本技術の第1実施形態で説明したものと同様に、第2実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジの構成と、該カートリッジを用いた核酸電気泳動方法の手順を説明する模式図である。ここではまず、本技術の第2実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジの構成について図1(A)を参照しながら説明する。
【0051】
図1(A)中、符号1で示す核酸電気泳動用カートリッジは、基板上に形成されたチャネル11と、チャネル11の両端にそれぞれ配された正極12と負極13とを有する。チャネル11内には液体が導入可能とされており、チャネル11の正極12と負極13との間には高分子ゲル14が配されている。また、正極12と負極13には電源Vが接続され、チャネル11に導入された液体に電圧を印加/解除できるよう構成されている。また、チャネル11には、核酸を含有するサンプル液中の夾雑物のカルボキシル基と脱水縮合反応をする化合物と、緩衝液とが収容されている。このように、本実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジでは、上述した本技術の第1実施形態と比し、チャネル11、正極12、負極13、及び高分子ゲル14については、実質的に同一のものである。そのため、本実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジでは、上記脱水縮合反応をする化合物及び緩衝液について主に説明する。
【0052】
脱水縮合反応をする化合物は、核酸を含有するサンプル中の夾雑物のタンパク質のカルボキシル基と脱水縮合反応をすることが可能であれば、特に限定されるものではない。上記化合物としては、好ましくはカルボキシル基と脱水縮合反応をする第1のカチオン性官能基と、核酸の電気泳動の際にイオン状態で存する第2のカチオン性官能基とを有する。すなわち、上記化合物と夾雑物中のタンパク質等との脱水縮合反応後においても、上記化合物の一部の官能基がイオン状態で電気泳動されることが好ましい。
【0053】
また、上記化合物は、1又は複数のアミノ基を含有し、夾雑物のタンパク質中のカルボキシル基とアミド結合することが好ましい。
【0054】
上記化合物の具体例としては、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、エタノールアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。
【0055】
また、チャネル11には、上記脱水縮合反応用の縮合剤が収容されていることが好ましい。縮合剤は、カルボジイミド系化合物であることが好ましい。縮合剤の具体例としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロリド(DMT−MM)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、又はジイソピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。
【0056】
また、核酸電気泳動用カートリッジのチャネル11には、更に緩衝液が収容されていることが好ましい。緩衝液のpHは、特に限定されるものではないが、3〜4とすることが好適である。また、緩衝液のpHを、4〜5とすることも好適である。また、緩衝液のpHを、5〜6とすることも好適である。また、緩衝液のpHを、6〜7とすることも好適である。更に、緩衝液のpHを、7〜8とすることも好適である。また、緩衝液は、カルボキシル基又はアミノ基を含まないことも好適である。緩衝液としては、例えば、グリシン−塩酸緩衝液(pH:2.0〜3.0)、クエン酸緩衝液(pH:3.0〜6.0)、酢酸緩衝液(pH:3.0〜5.5)、クエン酸−リン酸緩衝液(pH:2.5〜7.0)、トリス(pH:7.2−9.0)、MES(pH3.0〜7.0)、bis−tris(pH5.0〜7.0)、PBS(pH5.0〜8.0)等が挙げられる。
【0057】
(2)核酸電気泳動方法
次に、本実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジ1を用いた核酸電気泳動方法の手順について図1(B)〜(D)を参照しながら説明する。
【0058】
まず、チャネル11の高分子ゲル14と負極13との間の領域113に核酸を含むサンプルを導入する(図1(B)参照)。このとき、チャネル11内には電気泳動用の緩衝液を満たしておく。また、チャネル11の高分子ゲル14と負極13との間の領域113に上記化合物も収容しておく。
【0059】
この際、領域113に導入される核酸を含有するサンプル液には、夾雑物が含まれており、夾雑物中のタンパク質のカルボキシル基が上記化合物と脱水縮合反応をする。サンプル液と上記化合物とを脱水縮合反応させる工程については、領域113に予め収容された上記化合物にサンプル液を導入することにより行われてもよいし、予め上記化合物とサンプル液とを反応させてから、サンプル液を領域113に導入してもよい。
【0060】
このように、サンプル液に含まれる夾雑物のタンパク質と上記化合物との脱水縮合反応により、上記タンパク質の負電荷は弱められた状態となり、等電点が高くなる。これにより、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、本技術の第1実施形態に係る核酸電気泳動方法と同様に、サンプル液に含まれる核酸と夾雑物との等電点の差を大きくすることが可能になる。
【0061】
続いて行われる、図1(C)及び図1(D)に示すような核酸の濃縮及び精製の方法については、上述した本技術の第1実施形態に係る核酸の電気泳動方法及び濃縮精製方法と実質的に同様にして行われる。
【0062】
このように、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、核酸を含有するサンプル液中の夾雑物に含まれるタンパク質が、上記化合物と脱水縮合反応をしている。そのため、上記化合物と脱水縮合反応をしたタンパク質の負電荷は弱められ、タンパク質の等電点は高くなる。特に、上記化合物が複数のカチオン性官能基を含有する場合、上記化合物と脱水縮合反応をしたタンパク質の等電点は大幅に高くなる。従って、核酸の電気泳動を実行しても、夾雑物は負極側から正極側には泳動しにくくなる。このようにして、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、核酸と夾雑物との等電点の差を大きくすることができ、サンプル液中の核酸を電気泳動することで、核酸と夾雑物とを安定に分離することができる。すなわち、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、より純度の高い核酸を精製することができる。
【0063】
また、領域113に導入される緩衝液のpHを低くしておくことによっても、核酸は負電荷を有し、且つ夾雑物は負電荷を有さない状態で電気泳動をすることが可能になり、より精度良く核酸と夾雑物とを分離することができる。すなわち、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、核酸の濃縮率をより向上させることができる。また、本実施形態に係る核酸電気泳動方法によれば、濃縮の時間を短縮することができる。このような核酸電気泳動方法を用いることで、核酸増幅反応を精度良く行うことができる。
【0064】
また、夾雑物中のタンパク質がN−ヒドロキシスクシンイミドと反応することでアミド結合を形成した場合、更に、エタノールアミン等の他のアミン官能基を有する化合物がN−ヒドロキシスクシンイミドに置き換わり、上記タンパク質と結合することができる。上記タンパク質とN−ヒドロキシスクシンイミドとは比較的弱く結合しているため、上記他のアミン官能基を有する化合物としては、適宜選択することが可能である。
【0065】
(3)核酸電気泳動用カートリッジの製造方法
本実施形態に係る核酸濃縮精製用カートリッジは、基板上に形成されたチャネル11内に導入されたモノマー溶液を光重合によって所定の形状にゲル化させて高分子ゲル14を形成し、チャネル11内に上記化合物を収容することによって製造することができる。その他、チャネル11の成形等に関しては、上述した本技術の第1の実施形態に係る核酸電気泳動用カートリッジの製造方法と実質的に同様に行われる。
【0066】
以上、各実施形態について説明してきたが、第1実施形態で説明したインターカレーターと、第2実施形態で説明した脱水縮合剤とは、本技術において併用されてもよい。すなわち、核酸についてはインターカレーターと結合させ、且つサンプル液中の夾雑物のタンパク質についてはN−ヒドロキシスクシンイミド等と結合させることで、電気泳動をし、核酸の濃縮をしてもよい。インターカレーターと脱水縮合反応をする化合物とが併用されることで、夾雑物の除去効率と核酸濃縮効率の双方を上げることができるため、より短時間且つ高効率に核酸の濃縮及びをすることができる。
【0067】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸電気泳動方法。
(2)上記インターカレーターの酸解離定数は、0より大きく3以下である上記(1)記載の核酸電気泳動方法。
(3)上記官能基は、スルホ基である上記(1)又は(2)に記載の核酸電気泳動方法。
(4)緩衝液が充填されたチャネルの両端に電圧を印加し、チャネル内の所定箇所に導入された上記核酸を電気泳動させ、正極端へ移動する核酸を堰き止める手順を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の核酸電気泳動方法。
(5)上記緩衝液のpHが5以下である、上記(4)のいずれかに記載の核酸電気泳動方法。
(6)上記緩衝液のpHが4以下である、上記(5)のいずれかに記載の核酸電気泳動方法。
(7)上記緩衝液のpHが3以下である、上記(6)のいずれかに記載の核酸電気泳動方法。
(8)アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸濃縮精製方法。
(9)液体を導入可能なチャネルが形成され、物質を堰き止める堰止部がチャネルの所定箇所に配され、チャネルの両端に電極が配されており、アニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターと、緩衝液とが堰止部と負極端との間に収容されている核酸電気泳動用カートリッジ。
(10)基板上に形成されたチャネル内に導入されたモノマー溶液を光重合によって所定の形状にゲル化させて前記高分子ゲルを形成する工程と、チャネル内にアニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターを収容する工程と、を含む核酸電気泳動用カートリッジの製造方法。
【実施例】
【0068】
1.核酸電気泳動用カートリッジの製造
PMMA製基板に、幅5mm、長さ60mm、深さ2mmのチャネルを形成した。チャネルの両端には、白金線(径0.5mm、長さ10mm、株式会社ニラコ)により形成した正極及び負極を配した。このチャネルに、「表1」及び「表2」に従って調製したアクリルアミド溶液(溶液2)を充填した。共焦点レーザ走査顕微鏡(オリンパス、FV1000)を用いてアクリルアミドの光重合を行い、チャネル内に幅5mm、長さ3mmの高分子ゲルを形成した。その後、重合していないアクリルアミド溶液を電気泳動用緩衝液(1×TBE)に置換した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
2.サンプル液の調整
作製した核酸電気泳動用カートリッジに導入するサンプル液(実施例1)は表3に示す条件で調整した。核酸としては、サケ精子(終濃度:0.1mg/mL)を用いた。緩衝液としては、グリシン塩酸緩衝液(pH:2.2)(終濃度:50mM)を用いた。また、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム(終濃度:1mM)をインターカレーターとして用いた。また、SYBR(登録商標)GREENIを蛍光試薬として用いた。また、比較例1として、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウムを用いる代わりに蒸留水を用いた以外は、実施例1と同一の条件で調製したサンプル液も準備した。
【0072】
また、実施例2として、実施例1に比し、グリシン塩酸緩衝液(pH:2.2)(終濃度:50mM)を用いる代わりに酢酸緩衝液(pH:4.0)(終濃度:50mM)を用いた以外は同一の条件で調製したサンプル液も準備した。更に、比較例2として、実施例2と比し、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウムを用いる代わりに蒸留水を用いた以外は同一の条件で調製したサンプル液も準備した。
【0073】
【表3】

【0074】
3.核酸の電気泳動(1)
作製した核酸電気泳動用カートリッジを用いて核酸の濃縮を行った。チャネルの高分子ゲルと負極側との間に、調製したサンプル液(実施例1、2、比較例1、2の条件で調製した4種類のサンプル液)を500μl導入した。電極に電圧を印加し、75V,1mAにて電気泳動を行い、移動するサンプルを共焦点レーザ走査顕微鏡により観察した。
【0075】
図3は、実施例1(図中、pH2.2 Anthraquinone-2,6-disulfonateと示されているもの)及び比較例1(図中、pH2.2 negative controlと示されているもの)のサンプル液を用いた場合における電気泳動開始後のゲル界面の蛍光強度の経時変化を示すグラフである。図3では、横軸は時間(分)を表し、縦軸は蛍光強度を表す。また、図4は、実施例2(図中、pH4.0 Anthraquinone-2,6-disulfonateと示されているもの)及び比較例2(図中、pH4.0 negative controlと示されているもの)のサンプル液を用いた場合における電気泳動開始後のゲル界面の蛍光強度の経時変化を示すグラフである。図4でも、図3と同様に、横軸は時間(分)を表し、縦軸は蛍光強度を表す。
【0076】
図3に示すように、pH2.2の緩衝液を用いた場合、インターカレーターを用いた実施例1では、インターカレーターを用いていない比較例1に対し、核酸の電気泳動開始1分後で、約2倍の濃縮倍率を実現することができた。また、図4に示すように、pH4.0の緩衝液を用いた場合も、インターカレーターを用いた実施例2では、インターカレーターを用いていない比較例1に対し、核酸の電気泳動開始1分後で、約2倍の濃縮倍率を実現することができた。これにより、負電荷をもつインターカレーターを核酸に挿入させることで、短時間で酸性緩衝液中における核酸の高い濃縮倍率を実現できることが実証された。また、核酸の電気泳動速度を速めることで、核酸と夾雑物中のタンパク質との電気泳動速度の差を大きくし、核酸と夾雑物とを安定に分離することが可能であることも実証された。
【0077】
電気泳動終了後、電極に逆電圧(75V, 1mA)を10秒間印加し、濃縮されたサンプルをゲル界面から遊離させた。内部を陰圧にしたマイクロピペット用カートリッジをゲル界面に接触させるようにして、10μlの濃縮サンプルを回収した。
【0078】
4.核酸の電気泳動(2)
ここでは、実施例3、4として、タンパク質を脱水縮合反応させた後、等電点電気泳動をすることによる、タンパク質の等電点の変化を分析した。タンパク質としては、Bovine Serum Albumin (BSA) (pI=4.9) 1mg/mL(実施例3)又はα1-acid glycoprotein (AGP) (pI=2.7) 1mg/mL(実施例4)を用いた。脱水縮合反応に必要な物質には NHS 5mM、EDC 20mM、ethanolamine 50mM、又はethylenediamine 50mMを用いた。緩衝液としては、TBE (pH8.5)、MES (pH4.0)、MES (pH5.0)、Bis-Tris (pH6.5)、又はBis-Tris(pH5.5)を用いた。
【0079】
インキュベートについては、室温で1時間行った。そして、脱水縮合反応をしたサンプル10uL(実施例3、4)、ネガティブコントロールとして脱水縮合反応を行っていないタンパク質BSA 1mg、AGP 1mg(比較例3、4)、及びIEF Marker pI 3-10 (Invitrogen) を等電点電気泳動した。
【0080】
図5は、BSAを用いて等電点電気泳動した結果を示す(実施例3)。また、図6は、AGPを用いて等電点電気泳動した結果を示す(実施例4)。
【0081】
図5及び図6に示すように、脱水縮合反応を行っていないネガティブコントロール下では、タンパク質のバンドが所定の位置に観察される。一方、脱水縮合反応を行ったサンプルでは、脱水縮合反応を行っていないタンパク質に比し、所定の位置のバンドの濃度が減少しているもの、バンドの位置がゲルの上部に移動しているもの、又は等電点電気泳動のゲルの中に電気泳動されずに観察できないものがあった。これらの結果から、タンパク質は脱水縮合反応により、等電点が大きくなっていることが実証された。すなわち、核酸と夾雑物中のタンパク質との電気泳動速度の差を大きくし、核酸と夾雑物とを安定に分離することが可能であることが実証された。
【0082】
そして、通常の核酸の電気泳動に用いる電気泳動緩衝液(pH:6.0〜9.0)で電気泳動を行った場合、脱水縮合反応をされたサンプルはプラス電荷をもつことから陰極に泳動される。一方で、脱水縮合反応がおこらなかった核酸はマイナス電荷をもつことから陽極に泳動されることにより、核酸を精製することができる。特に、電気泳動緩衝液のpHを6.0以下、好ましくは5.0以下、より好ましくは更に酸性側のpHにすることで、脱水縮合反応がなされなかったタンパク質についても核酸との分離を行うことができ、核酸の精製度をあげることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本技術に係る核酸電気泳動方法は、操作が簡便であり、短時間で高効率に核酸を濃縮し精製できる。従って、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法等の核酸増幅反応のための核酸濃縮処理に適用され、核酸が微量あるいは極低濃度でしか含まれないサンプル中の核酸を検出するために用いられ得る。
【符号の説明】
【0084】
1:カートリッジ、2:マイクロピペット、11:チャネル、12:正極、13:負極、14:高分子ゲル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸電気泳動方法。
【請求項2】
前記インターカレーターの酸解離定数は、0より大きく3以下である請求項1記載の核酸電気泳動方法。
【請求項3】
前記官能基は、スルホ基である請求項2記載の核酸電気泳動方法。
【請求項4】
緩衝液が充填されたチャネルの両端に電圧を印加し、チャネル内の所定箇所に導入された前記核酸を電気泳動させ、
正極端へ移動する核酸を堰き止める手順を含む、請求項1記載の核酸電気泳動方法。
【請求項5】
前記緩衝液のpHが5以下である、請求項4記載の核酸電気泳動方法。
【請求項6】
前記緩衝液のpHが4以下である、請求項5記載の核酸電気泳動方法。
【請求項7】
前記緩衝液のpHが3以下である、請求項6記載の核酸電気泳動方法。
【請求項8】
アニオン性官能基を有するインターカレーターを挿入した核酸を電気泳動させる手順を含む核酸濃縮精製方法。
【請求項9】
液体を導入可能なチャネルが形成され、物質を堰き止める堰止部がチャネルの所定箇所に配され、チャネルの両端に電極が配されており、アニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターと、緩衝液とが堰止部と負極端との間に収容されている核酸電気泳動用カートリッジ。
【請求項10】
基板上に形成されたチャネル内に導入されたモノマー溶液を光重合によって所定の形状にゲル化させて前記高分子ゲルを形成する工程と、
チャネル内にアニオン性官能基を有し核酸に挿入可能なインターカレーターを収容する工程と、を含む核酸電気泳動用カートリッジの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223167(P2012−223167A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95972(P2011−95972)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】