説明

根瘤病抵抗性を有するブラシカ・オレラセア植物

【課題】根瘤病抵抗性を有する新規B.オレラセアを提供する。
【解決手段】ブラシカ・オレラセア植物であって、特に、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性がB.ラパから移入されている。この抵抗性により、B.オレラセアに以前から存在している抵抗性と比べてこの病気に対する抵抗性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病気に対する抵抗性を有する植物、特に根瘤病抵抗性を有するブラシカ・オレラセア(Brassica oleracea)植物に関する。
【背景技術】
【0002】
根瘤病は、アブラナ属の植物を栽培している多くの地域で深刻な問題を引き起こす一般的な病気である(概説に関しては、例えばDixon、Grower、28〜29ページ、1999年4月29日号を参照のこと)。この病気は、単細胞生物であるネコブカビ(Plasmodiophora barassicae)によって起こる。この病気の症状としては硬い隆起(瘤)を伴った根の奇形があり、その結果として腐ることがある。この病気は、成長を抑制することで萎縮も引き起こす。また、水不足だと葉がしおれるのが観察される。この病気を化学的に制御することはできない。したがってこの病気から保護するためには、遺伝的に抵抗性性を持つ作物が重要である。
【0003】
アブラナ属には商品として興味深い種がいくつか含まれている。例えばB.ラパ(ハクサイ、パクチョイ、カブ)、B.ナプス(B. napus)(アブラナ、カブカンラン)、B.ジュンセア(B. juncea)(カラシナ)、B.ニグラ(B. nigra)(クロガラシ)、B.オレラセア(カリフラワー、ブロッコリ、キャベツ、芽キャベツ、サボイキャベツ、ケール、コールラビなど)である。アブラナ属の1つの種に含まれる亜種は、通常は性的和合性があるが、アブラナ属の異なる種の間では必ずしもそうなっていない。例えばB.ラパとB.オレラセアは染色体の数が同じではない(10本と9本)ため、性的和合性がない。そのためアブラナ属のある種から別の種への形質の移動は極めて難しい。
【0004】
根瘤病抵抗性の供給源がアブラナ属の中にいくつか存在することが報告されている(例えばBradshaw他、Ann. Appl. Biol.、第130巻、337〜348ページ、1997年;Gowers、Euphytica、第31巻、971〜976ページ、1982年を参照のこと)。ある抵抗性は一遺伝子性であり、ある抵抗性は多遺伝子性であり、ある抵抗性は優性であり、ある抵抗性は劣性である。一遺伝子性で優性な抵抗性が、B.ラパとB. napusで報告されている。それは例えばB.ラパ(ハクサイ)における一遺伝子性で優性な抵抗性である(Yoshikawa、Japan Agricultural Research Quarterly、第17巻、第1号、6〜11ページ、1983年)。この抵抗性を持つハクサイF1ハイブリッドは根瘤病に対する優れた防御力を示すことがわかっているが、根瘤病の少数の株(“品種”)はこの抵抗性を突破することができる。そのような品種は、ヨーロッパよりもアジアで広く見られるようである。
【0005】
他方、アブラナ属のB.オレラセア種では多遺伝子性で劣性な抵抗性の供給源だけが報告されている(例えばVoorrips、Euphytica、第83巻、139〜146ページ、1995年を参照のこと)。このような抵抗性供給源は、根瘤病抵抗性が十分ではないだけでなく、市販されているB.オレラセア系の間で抵抗性を移すことも非常に難しい。そのため抵抗性のある植物を育てることは、困難で時間のかかる仕事になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、根瘤病抵抗性が改善されていて、しかもその抵抗性を持たせるのが容易で、その抵抗性を市販されているB.オレラセア系に簡単に移せるB.オレラセア植物が相変わらず必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、B.オレラセアにおいて根瘤病抵抗性が十分でないという問題を解決する。B.オレラセアにおいてこの病気に対する抵抗性を向上させるため、本発明では、一遺伝子性で優性な抵抗性をハクサイ(B.ラパ)からB.オレラセア(ブロッコリ)に移した後、さらに他のB.オレラセア(例えば白キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ)に移す。B.ラパとB.オレラセアの間に性的和合性がないという問題を解決するため、胚救出技術を利用した種間雑種形成によって根瘤病抵抗性を移した後、戻し交配を繰り返し、戻し交配の全世代で病気テストを行なった。その結果生まれたB.オレラセア植物では、大きな根瘤病抵抗性が得られた。この抵抗性は安定であり、以後の世代に伝えることや、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に移すことができる。
【0008】
そこで本発明では、根瘤病抵抗性が一遺伝子性かつ優性であるB.オレラセア植物を開示する。このB.オレラセア植物には、種子、この植物の一部、子孫も含まれる。本発明では、根瘤病抵抗性があるB.オレラセア植物の製造方法と、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に根瘤病抵抗性を移す方法も開示する。本発明ではさらに、根瘤病抵抗性に関係する分子マーカーも開示する。
【0009】
本発明がB.オレラセア植物における根瘤病に対する現在の抵抗性よりも特に優れているのは、本発明の抵抗性がB.オレラセア植物と市販されている系統の間を容易に移動する点である。抵抗性のある植物ではこの病気がないために高収量になる。さらに、本発明のB.オレラセア植物を育てると、作物を根瘤病から保護するための化学薬品がはるかに少なくなったり不要になったりする。
【0010】
したがって本発明では、根瘤病、さらに詳細には病原菌Plasmodiophora barassicaeによって起こる根瘤病に対する抵抗性のあるB.オレラセア植物を開示する。本発明の特別な一実施態様では、根瘤病抵抗性は、一遺伝子性かつ優性である。実施例2に記載してあるように、B.オレラセア植物は、1〜9のレベルに分類する病気テストでレベル2以下と評価されることが好ましい。実施例2に記載してあるように、B.オレラセア植物は、1〜9のレベルに分類する病気テストでレベル1と評価されることが好ましい。実施例2に記載してあるように、B.オレラセア植物は、0〜5のレベルに分類する病気テストでレベル1以下と評価されることが好ましい。B.オレラセア植物は、0〜5のレベルに分類する病気テストでレベル0と評価されることが好ましい。別の好ましい一実施態様では、B.オレラセア植物は、根毛感染症抵抗性を有する。別の好ましい一実施態様では、B.オレラセア植物は、ブロッコリ、白キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ、ケール、サボイキャベツ、赤キャベツのいずれかである。別の好ましい一実施態様では、B.オレラセア植物は、根瘤病抵抗性に関してホモまたはヘテロである。別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性は、遺伝的に分子マーカーと関係している。分子マーカーはPCR増幅によって得られることが好ましい。この抵抗性は、この分子マーカーから10cM以内の位置にあることが好ましい。この距離は、6cM以内であることが好ましく、5cM以内であることが好ましく、3cM以内であることがより好ましく、1.5cM以内であることがさらに好ましい。別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性は、プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られる分子マーカーと連鎖していることが好ましい。別の好ましい一実施態様では、この抵抗性は、根瘤病抵抗性を有するB.ラパ植物から、好ましくはハクサイF1ハイブリッド・パーキンから得られる。別の好ましい一実施態様では、本発明による根瘤病抵抗性は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)から得られる。別の好ましい一実施態様では、この抵抗性は、CFL667系から、あるいはCFL667系の子孫または先祖でこの抵抗性を有するものから得られる。別の好ましい一実施態様では、この植物は、同系交配体またはハイブリッドである。別の好ましい一実施態様では、この植物は、二ゲノム性半数体である。さらに別の好ましい一実施態様では、この植物は、細胞質雄性不稔(CMS)である。本発明による別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性を与える遺伝子座を有するB.オレラセア植物を開示する。この遺伝子座は、プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られる分子マーカーから10cM以内の位置にあることが好ましい。この距離は、6cM以内であることが好ましく、5cM以内であることが好ましく、3cM以内であることがより好ましく、1.5cM以内であることがさらに好ましい。別の好ましい一実施態様では、抵抗性は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)に含まれる遺伝子座に対応する遺伝子座に存在し、CFL667系に存在する抵抗性と共分離であることが好ましい。別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性を与える遺伝子座は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)から、あるいはCFL667系の子孫または先祖でこの抵抗性を有するものから得ることができる。別の好ましい一実施態様では、この抵抗性に関する遺伝子座は、CFL667系から、あるいはCFL667系の子孫または先祖でこの抵抗性を有するものから得られる。
【0011】
本発明ではさらに、上記植物の種子または子孫で、本発明の抵抗性を有するもの;上記植物の果実;上記植物の一部(例えば花粉、胚珠、胚)を開示する。
【0012】
本発明ではさらに、根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物であって、この植物がこの抵抗性に対してホモ接合性である場合に、根瘤病に対して一遺伝子性で優性な抵抗性に対してホモ接合性である“テスター”植物と交配させると、この交配から得られる第1代子孫となる植物が根瘤病抵抗性に関して1:0の分離比を示すB.オレラセア植物を開示する。好ましい一実施態様では、第1代子孫を自家受粉したとき、得られる第2代子孫は、根瘤病抵抗性に関して1:0の分離比を示す。好ましい一実施態様では、“テスター”植物は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)に由来し、このCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えている植物である。あるいは“テスター”植物は、CFL667系の子孫または先祖のうち、CFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えているものである。好ましい一実施態様では、“テスター”植物は、細胞融合によるCFL667系の植物またはその子孫に由来する。別の好ましい一実施態様では、“テスター”植物は雄性不稔である。本発明ではさらに、根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物であって、この植物がこの抵抗性に対してヘテロ接合性である場合に、根瘤病に対して一遺伝子性で優性な抵抗性に関してヘテロ接合性である“テスター”植物と交配させると、この交配から得られる第1代子孫となる植物が根瘤病抵抗性に関して3:1の分離比を示すB.オレラセア植物を開示する。好ましい一実施態様では、第1代子孫を抵抗性に対してヘテロ接合性である植物とさらに交配したとき、得られる第2代子孫は、根瘤病抵抗性に関して5:1の分離比を示す。別の好ましい一実施態様では、“テスター”植物は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)の植物、あるいはCFL667系の子孫または先祖のうち、このCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えているものである。あるいは“テスター”植物は、CFL667系(登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託)に由来し、CFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えている植物である。別の好ましい一実施態様では、個々の植物の子孫を数値化したとき、得られる第2代子孫は、第1代子孫における個々の植物の遺伝子状態(ヘテロ接合性、ホモ接合性、ホモ接合感受性)に応じ、上記の抵抗性に対してそれぞれ3:1、1:0、1:1の分離比を示す。別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性は一遺伝子性であるが、一遺伝子性かつ優性であることが好ましい。好ましい一実施態様では、B.オレラセア植物は抵抗性に対してホモ接合性である。別の好ましい一実施態様では、B.オレラセア植物は抵抗性に対してヘテロ接合性である。
【0013】
本発明ではさらに、上記植物の種子または子孫で、本発明の抵抗性を有するもの;上記植物の果実;上記植物の一部(例えば花粉、胚珠、胚)を開示する。
【0014】
本発明ではさらに、本発明の一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を利用し、この病気に対する抵抗性をB.オレラセアに与える方法を開示する。この抵抗性は、B.ラパ植物(特に、ハクサイF1ハイブリッド・パーキン)から得られることが好ましい。
【0015】
本発明ではさらに、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えるB.オレラセア植物を作る方法であって、a)根瘤病抵抗性を有するB.ラパ植物を取得するステップと;b)そのB.ラパ植物をB.オレラセア植物と交配させるステップと;c)ステップb)の交配により得られた胚を救い出すステップと;d)ステップc)の胚から植物を再生させるステップと;e)ステップd)の植物の中から根瘤病抵抗性を有するものを選択するステップと;f)ステップe)で得られた植物をB.オレラセア植物と戻し交配するステップを含む方法を開示する。好ましい一実施態様では、この方法はさらに、抵抗性をエリートB.オレラセア同系交配体に移入交雑するステップを含んでいる。別の好ましい一実施態様では、この方法はさらに、この同系交配体を別のB.オレラセア同系交配体と交配してハイブリッドを作るステップを含んでいる。
【0016】
本発明ではさらに、上記の方法によって得られるB.オレラセア植物を開示する。なおこのB.オレラセア植物には、ハイブリッド植物も含まれる。
【0017】
本発明ではさらに、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に対してこの病気に対する一遺伝子性で優性な抵抗性を移入する方法であって、a)一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えるB.オレラセア植物を取得するステップと;b)ステップa)のB.オレラセア植物を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物と交配させるステップと;c)ステップb)の交配体の中から根瘤病抵抗性を有する植物を選択するステップを含む方法を開示する。好ましい一実施態様では、この方法はさらに、この抵抗性を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物の中に戻し交配するステップを含んでいる。好ましい一実施態様では、この病気にかかりやすいB.オレラセア植物またはこの病気に対する抵抗性が弱いB.オレラセア植物は、1〜9のレベルに分類する病気テストでレベル4以上と評価されることが好ましく、レベル3以上と評価されることがより好ましい、あるいは0〜5のレベルに分類する病気テストでレベル3以上と評価されることが好ましく、レベル2以上と評価されることがより好ましい。
【0018】
本発明ではさらに、アブラナ属のゲノムから増幅されたDNA断片であって、長さが約400bpで配列ID番号1を含むものと;アブラナ属のゲノムから増幅されたDNA断片であって、長さが約640bpで配列ID番号2を含むものを開示する。好ましい一実施態様では、このDNA断片が、アブラナ属の植物の中に一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性が存在していることを示している。本発明ではさらに、このDNA断片を利用し、根瘤病抵抗性を有するアブラナ属の植物を同定する方法;プライマーO20(配列ID番号1)を利用して長さが約400bpのDNA断片を検出する方法;プライマーY13(配列ID番号2)を利用して長さが約640bpのDNA断片を検出する方法;プライマーO20またはY13を利用して根瘤病抵抗性を有するアブラナ属の植物を同定する方法も開示する。好ましい一実施態様では、アブラナ属の植物はB.オレラセアである。本発明ではさらに、B.オレラセア植物の中で一遺伝子性で優性な抵抗性を検出するために配列ID番号1または配列ID番号2に示したオリゴヌクレオチドを含むキットも開示する。
【0019】
本発明ではさらに、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に対してこの病気に対する一遺伝子性で優性な抵抗性を移入する方法であって、a)一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えるB.オレラセア植物を取得するステップと;b)ステップa)のB.オレラセア植物を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物と交配させるステップと;c)PCR増幅によって得られて抵抗性と共分離するDNA断片を含む植物を選択するステップを含む方法を開示する。このDNA断片は、プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られることが好ましい。ステップc)の植物は、根瘤病抵抗性がある。好ましい一実施態様では、上記の方法はさらに、この抵抗性を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物の中に戻し交配するステップを含んでいる。
【0020】
本発明ではさらに、根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を同定する方法であって、a)B.オレラセア植物からサンプルを採取するステップと;b)プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られるDNA断片をこのサンプル中で検出するステップを含む方法を開示する。この方法では、ステップb)で検出されたDNA断片を含むB.オレラセア植物が、根瘤病抵抗性を有する。
【0021】
本発明ではさらに、B.オレラセア植物の集合から根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を選択する方法であって、a)B.オレラセア植物の集合を用意するステップと;b)この集合に含まれる各植物から1つのサンプルを採取するステップと;c)プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られるDNA断片をそのサンプル中で検出するステップを含む方法を開示する。この方法では、ステップb)で検出されたDNA断片を含むB.オレラセア植物が、根瘤病抵抗性を有する。
【0022】
定義
【0023】
形質:特徴または表現型。例えば病気に対する抵抗性。形質は、優性または劣性で遺伝する可能性がある。形質は、一遺伝子性または多遺伝子である可能性がある。形質は、例えば病気(例えば根瘤病)に対する抵抗性である。
【0024】
抵抗性:植物が、病気の症状をまったく示さないか、病気の重い症状を示さないという特徴または表現型。したがって抵抗性は、植物が病原菌の増殖を減らす能力であることが好ましい(例えばRobinson, R.A.、Review Applied Mycology、第48巻、593〜606ページ、1969年を参照のこと)。
【0025】
一遺伝子性:単一の遺伝子座によって決まる。
【0026】
多遺伝子性:2つ以上の遺伝子座によって決まる。
【0027】
優性:ヘテロ接合状態またはホモ接合状態で存在しているときに表現型を決める。
【0028】
劣性:ホモ接合状態で存在しているときだけ現われる。
【0029】
遺伝子座:染色体上にあって、形質(例えば病気に対する抵抗性)に寄与する1つ以上の遺伝因子(例えば1個または数個の遺伝子)を含む領域。
【0030】
遺伝子連鎖:複数の染色体領域が、同じ染色体上に位置する結果として一緒に遺伝する傾向。遺伝子座間の組み換え率で測定される(センチモルガン、cM)。
【0031】
同質遺伝子:遺伝子が同じであるが、ヘテロなDNA配列の存在または不在という違いが存在している可能性のある植物。
【0032】
マーカー支援選択:植物内の望む1つまたは複数の形質を、その望む形質に関係する1つ以上の核酸をその植物から検出することによって選択するプロセスを意味する。
【0033】
二ゲノム性半数体:(例えば葯または小胞子の培養を通じて)ゲノムの一倍体(一染色体)が2つある状態になり、完全にホモ接合性な植物となっているもの。
【0034】
“テスター”植物:テストする植物が持つ形質の遺伝的な特徴を明らかにするのに用いる植物。一般に、テストする植物を“テスター”植物と交配させ、交配による子孫での形質の分離比を数値化する。
【0035】
本発明では、根瘤病、さらに詳細には病原菌プラスモジオフォラ・バラシカエ(Plasmodiophora barassicae)によって起こる根瘤病に対する抵抗性のあるB.オレラセア植物を開示する。本発明では特に、この病気に対する一遺伝子性で優性な抵抗性を有するB.オレラセア植物を開示する。この抵抗性は、B.オレラセア植物における現在の根瘤病抵抗性よりも優れており、B.オレラセア植物相互間を容易に移動させることができる。
【0036】
アブラナの種と亜種は、例えばP.H. Williams(「多数の病気に対する抵抗性を探すためのアブラナ科のスクリーニング」、ワークショップ1981、ウィスコンシン-マディソン大学)に記載されており、Song, K.M.ら(TAG、第75巻、784〜794ページ、1988年;TAG、第76巻、593〜600ページ、1988年;TAG、第79巻、497〜506ページ、1990年(3つの論文からなるシリーズ))によってさらに遺伝子分析もなされている。
【0037】
好ましい一実施態様では、本発明のB.オレラセア植物は、例えば以下のようなBrassica oleracea L.(アブラナ属の作物)である:
・var. acephala DC.(ケール)
・var. albiflora Sun [= B. alboglabra](中国ケール)
・var. alboglabra [= B. alboglabra](中国ケール)
・var. botrytis L.(カリフラワー、ヘディング・ブロッコリ)
・var. capitata L.(キャベツ)
・var. chinensis Prain(タイサイ)
・var. fimbriata Mill. (キッチン・ケール)
・var. fruticosa metz. (サウザンド・ヘッデッド・ケール)
・var. gemmifera DC. (芽キャベツ)
・var. gongylodes L. (コールラビ)
・var. italica Plenck. (ブロッコリ、カラブレーゼ)
・var. sabauda L. (サボイキャベツ)
・var. sabellica(コラード)
・var. tronchuda L.H. Bailey(トロンチューダ・キャベツ)
・var. costata(ポルトガル・キャベツ)
・var. medullosa(マロー・ステム・ケール)
・var. pamifolia(ケール、ジャージー・ケール)
・var. ramosa(サウザンド・ヘッデッド・ケール)
・var. selensia(ケール)。
【0038】
本発明の好ましいB.オレラセア植物は、白キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ、ブロッコリである。
【0039】
本発明によれば、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性がハクサイ(B.ラパ)からブロッコリ(B.オレラセア)に移される。種間交雑は、雌親としてのブロッコリ(B.オレラセア var. italica)と雄親としてのB.ラパの間で実施する。ブロッコリ同系交配系を雌として選択することで、交配の最終生成物中に起源の異なる細胞のオルガネラが入らないようにした。種間交配における雄親は、“パーキン”という商品名で入手できる日本からの根瘤病抵抗性ハクサイF1ハイブリッドにした(タキイ種苗、日本)。交配または戻し交配を行なうごとに、得られた植物の染色体をカウントし、その植物の倍数性のレベルと、B.オレラセア染色体セット取得に向けての進行度を評価した。染色体のカウントは、Chiang他、Euphytica、第28巻、41〜45ページ、1979年の方法に従って行なった。パーテックCA II(パーテック社、イギリス)を用いてフローサイトメトリーを実施した。
【0040】
交配により得られるF1ハイブリッドは、胚救出によって得た。染色体の数がB.ラパとB.オレラセアで同じでなく性的和合性がないために胚救出が必要であった。胚救出により、胚乳が分解する問題を避けることができる。Harbertら(Euphytica、第18巻、425〜429ページ、1969年)が記載している胚救出法を利用した。受粉後10〜12日の不稔化した胚珠を半分に切断し、常時撹拌している培地に導入した。この培地は、基本的に、8%のショ糖と400ppmのカゼイン加水分解物を含むホワイトの培地である。胚珠を洗浄して胚を取り出し、液体培地の中で成長させた。
【0041】
根瘤病抵抗性F1植物をブロッコリと交配させた(すなわち戻し交配)。上記のような胚救出は、最初の戻し交配で生まれる植物(すなわちBC1植物)を得るのにも必要であった。
【0042】
根瘤病抵抗性があるBC1植物を再びブロッコリと戻し交配し、通常の種子セットにより3本の根瘤病抵抗性BC2植物を得た。その植物をさらにブロッコリと戻し交配し、4回目の戻し交配で生まれる植物(BC4)を、他のB.オレラセア作物にとっての抵抗性供給源として使用した。
【0043】
根瘤病抵抗性をB.オレラセアに移すための詳細な実験プロトコルを実施例1に記載してある。抵抗性が存在しているかどうかを調べる病気テストについては実施例2に記載してある。根瘤病抵抗性を証明する野外試験の結果は実施例3に記載してある。
【0044】
根瘤病に対して一遺伝子性で優勢な抵抗性を有する本発明のB.オレラセア系の代表例であるCFL667系を、2002年6月28日にNCIMB(アバディーンAB2 1RY、スコットランド、イギリス)に登録番号NCIMB 41134として寄託した。CFL667系の植物は、細胞質雄性不稔系で、抵抗性に関してヘテロである。したがって根瘤病に対する本発明による抵抗性は、登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系から得られる。
【0045】
本発明の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性があるB.オレラセア植物を、この明細書の実施例2に示した0〜5のスケールのうちの0または1と評価される植物、あるいはこの明細書の実施例2に示した1〜9のスケールのうちの1または2と評価される植物と定義する。
【0046】
根瘤病抵抗性を、アブラナ属に関する技術でよく知られている標準的な育成法を用いて他のB.オレラセア(特に白キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ)に移した。形質もB.オレラセアエリート系に移入した。エリート系への抵抗性の移入は、例えば反復選択育種(例えば戻し交配)による。この場合、エリート系(反復の親)をまず最初に、抵抗性を有する同系交配ドナー(非反復の親)と交配させる。次に、この交配の子孫を反復の親と戻し交配した後、得られた子孫の中から根瘤病抵抗性に関して選択を行なう。根瘤病抵抗性に関して選択を行ないながら反復の親を用いた戻し交配をさらに3代、好ましくは4代、より好ましくは5代以上実施すると、子孫では、その抵抗性が存在する遺伝子座に関してヘテロであるが、他の多くの遺伝子、またはほとんどすべての遺伝子は、反復の親と同じになっている(例えばPoehlmanとSleper、『野生作物の育成』、第4版、172〜175ページ、1995年;Fehr、『栽培変種植物の開発原理』、第1巻、「理論と技術」、360〜376ページ、1987年を参照のこと(これらは参考としてこの明細書に組み込まれているものとする))。根瘤病抵抗性の選択は、それぞれの交配の後に行なう。したがって本発明の好ましい一実施態様には、根瘤病に対して一遺伝子性で優勢な抵抗性を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に移す方法であって、根瘤病に対して一遺伝子性で優勢な抵抗性を有する第1のB.オレラセア植物を第2のB.オレラセア植物と交配させるステップと、この交配から生まれた植物の中から根瘤病抵抗性を持つものを選択するステップを含む方法が含まれる。根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物は、例えば、1〜9のスケールによる病気テストでレベル4以上(好ましくはレベル3以上)、あるいは0〜5のスケールによる病気テストでレベル3以上(好ましくはレベル2以上)と評価される。上記の方法はさらに、抵抗性が第2のB.オレラセア植物に移るまで、選択された上記植物を第2のB.オレラセア植物と戻し交配させるステップを含んでいる。
【0047】
根瘤病抵抗性は、市販されているB.オレラセア系に移されることが好ましい。そのような系は、例えば同系交配系である。市販されている系は、2つの同系交配系を交配させることによって得たハイブリッドでもよい。この場合、根瘤病抵抗性は、親となる同系交配系の一方または両方に存在している可能性がある。したがって本発明の好ましい一実施態様では、根瘤病に対して一遺伝子性で優勢な抵抗性を有するB.オレラセアの同系交配系またはハイブリッド系(その中には、この植物の種子、一部、子孫が含まれる)を開示する。抵抗性は、B.ラパから、特にハクサイF1ハイブリッド“パーキン”得られることが好ましい。別の好ましい一実施態様では、本発明の根瘤病抵抗性は、登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系に存在している。
【0048】
別の好ましい一実施態様では、本発明の根瘤病抵抗性B.オレラセア植物は雄性不稔である。雄性不稔は、B.オレラセアハイブリッド種子の育成において重要である。というのも、通常の花は自家受粉だからである。雄性不稔系は、生育可能な花粉を生み出すことがないため、自家受粉できない。交配の一方の親の花粉を除去することにより、植物育成者は、均一な品質のハイブリッド種子が確実に得られるようにする。特に好ましい雄性不稔系は、細胞質雄性不稔(CMS)である。アブラナ属におけるCMSの一例は、元々はカブで見つかったオグラCMSである(例えばOgura、Mem. Fac. Agric. Kagoshima Univ.、第6巻、39〜78ページ、1968;Makaroff、Journal of Biol. Chem.、第264巻、11706〜11713ページ、1989年;アメリカ合衆国特許第5,254,802号を参照のこと)。したがって本発明では、根瘤病に対して一遺伝子性で優勢な抵抗性を有する雄性不稔(特にCMS)B.オレラセア植物(その中には、この植物の種子、一部、子孫が含まれる)を開示する。抵抗性は、B.ラパから、特にハクサイF1ハイブリッド“パーキン”得られることが好ましい。CMSは、オグラ・ゲノムに由来することが好ましい。
【0049】
雄性不稔植物の雄性不稔は、従来技術においてよく知られた方法で回復させることができる。CMS植物、中でもCMS B.オレラセア植物の雄性不稔は、細胞融合によって回復させることが好ましい。そのためには、CMS植物の細胞を雄性不稔植物の細胞と融合させて雄性不稔植物の核を不稔細胞質背景中の雄性不稔植物の核で置換することで、稔性を回復する。細胞融合技術はよく知られており、例えばSigarevaとEarle、Theor. Appl. Genet.、第94巻、213〜320ページ、1997年に記載されている。このような技術を利用して雄性不稔植物を再生させ、自家受粉すること、あるいは他の植物と交配させることができるようにする。
【0050】
形質、中でも病気に対する抵抗性などの数値化可能な表現型を持った形質は、交配を通じて遺伝を追跡することができるため、交配から生まれる子孫における形質の分離を数値化することができる。すると例えばある形質が優性であるか劣性であるかを調べることが可能になる。また、形質に関する遺伝因子が同じ遺伝子座(例えば同じ遺伝子または異なる遺伝子、同じ対立遺伝子または異なる対立遺伝子)に存在しているか、それとも連鎖状態の異なる遺伝子座に存在しているか、それとも連鎖していない遺伝子座に存在しているかを調べることも可能になる。
【0051】
例えば1つの形質に関してホモの植物を、同じ表現型を持っていて優性形質に関してホモの“テスター”植物と交配させると、交配による子孫はその形質の表現型に関して分離されない(分離比1:0)。この分離比1:0は、その形質に関する遺伝因子が同じ遺伝子座に存在するか異なる遺伝子座に存在するときに記録される。上記の交配による第1代子孫植物を自家受粉させたとき、テストする植物と“テスター”植物で遺伝因子が同じ遺伝子座にあるとすると、優性形質に関して1:0という分離比が観察される。逆に、テストする植物と“テスター”植物で遺伝因子が連鎖していない異なる遺伝子座にあるとすると、優性形質に関して15:1という分離比が観察される。遺伝因子が異なる遺伝子座にあるが遺伝的に連鎖している場合には、分離比は一般に1:0〜15:1の間になる。
【0052】
別の一実施態様では、優性形質に対してヘテロ接合性であるテスト植物を、同じ表現型を持っていて優性形質に対してやはりヘテロ接合性の“テスター”植物と交配させると、交配の子孫は、抵抗性の表現型に関して3:1に分離する。この3:1という分離比は、この形質に関する遺伝因子が同じ遺伝子座にあるときか異なる遺伝子座にあるときに記録される。上記の交配による第1代子孫植物を“テスター”系の植物と交配させたとき、あるいはその形質に対してヘテロ接合性であるテスト植物と再び交配させたとき、遺伝因子が同じ遺伝子座にあるとすると、優性形質に関して3:1という分離比が観察されるのに対し、遺伝因子が連鎖していない異なる遺伝子座にあるとすると、優性形質に関して23:9という分離比が観察される。2つの遺伝因子が、遺伝的に連鎖した異なる遺伝子座に存在している場合、分離比は一般にこれら2つの分離比の間の値になる。
【0053】
別の好ましい一実施態様では、個々の植物の第2代子孫を別々に分析する。この場合、同じ遺伝子座における遺伝因子に関しては、ヘテロな植物と交配させたとき、植物の第2代子孫のうちで50%が再び3:1に分離し、25%が1:0に分離し、25%が1:1に分離する。テストする植物の連鎖していない遺伝因子に関しては、植物の第2代子孫のうちで50%が再び3:1に分離し、25%が7:1に分離し、25%が1:1に分離する(第2代ではどの植物にも抵抗性が固定されない)。
【0054】
形質が病気に対する抵抗性であり、病気テストで病気になりやすい植物が枯れたり花が咲かなかったりする結果が出る場合には、植物の病気になりやすい第1代子孫が枯れたり欠けたりするため、第2代子孫において異なる分離比になる。例えばこの場合には、分離比が上記の3:1と23:9ではなく、それぞれ5:1と19:5になることが観察される。個々の植物を数値化する場合には、第2代子孫は、同じ遺伝子座における遺伝因子に関しては2/3が3:1、1/3が1:0になり、異なる遺伝子座における遺伝因子に関しては2/3が3:1、1/3が7:1になる。
【0055】
他の交配戦略も利用する。例えば、ホモ接合性の植物とヘテロ接合性の植物の別の組み合わせ、あるいは問題の形質を含まない植物を用いる。次に、子孫における形質の分離を数値化する。こうした交配戦略とそれに対応する分離比は当業者には周知であり、さらに、適切な“テスター”植物を取得して利用する方法と、そのような交配から得られた分離比をどのように解釈したらいいかも当業者には知られている。別の好ましい一実施態様では、上に説明した交配スキームを本発明の文脈で根瘤病抵抗性に適用する。したがって本発明による別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性に対してホモ接合性またはヘテロ接合性のB.オレラセア植物であって、根瘤病抵抗性がホモのテストする植物を、根瘤病抵抗性に対してホモ接合性の“テスター”植物と交配させると、この交配の第1代子孫が根瘤病抵抗性に関して分離比1:0になるB.オレラセア植物を開示する。このような交配のための“テスター”植物は、例えば登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系に由来し、本発明の抵抗性を含む植物である。好ましい一実施態様では、“テスター”植物は、CFL667系植物、または細胞融合によるCFL667系植物の子孫に由来する。本発明の抵抗性を有する他の雄性不稔植物も“テスター”植物として利用できる。好ましい一実施態様では、第1代子孫の植物を自家受粉させたとき、得られる第2代子孫は抵抗性に関して1:0の分離比を示す。別の好ましい一実施態様では、第1代子孫の植物を自家受粉させたとき、得られる第2代子孫は抵抗性に関して15:1の分離比を示す。さらに別の好ましい一実施態様では、自家受粉後の第2代子孫において1:0〜15:1の分離比が記録される。したがって分離比に基づき、テストする植物の抵抗性と“テスター”植物の抵抗性が同じ遺伝子座に位置するか、連鎖した異なる遺伝子座に位置するか、連鎖していない異なる遺伝子座に位置するかが明らかになる。
【0056】
本発明の別の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性に対してホモ接合性またはヘテロ接合性のB.オレラセア植物であって、根瘤病抵抗性がヘテロ接合性のテストする植物を、根瘤病抵抗性に対してヘテロ接合性の“テスター”植物と交配させると、この交配の第1代子孫が根瘤病抵抗性に関して分離比3:1になるB.オレラセア植物を開示する。このような交配のための“テスター”植物は、例えば登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系の植物、またはCFL667系の子孫植物で本発明の抵抗性を含むものである。本発明の抵抗性を含む他の任意の植物も“テスター”植物として用いられる。別の好ましい一実施態様では、第1代子孫の植物をさらに抵抗性に対してヘテロ接合性のテストする植物と交配させると、得られる第2代子孫では抵抗性に関して3:1の分離比を示すことが予想される。しかし病気になりやすい植物は、一般に根瘤病抵抗性に関する病気テストに耐えて生き延びることができないため、あるいはそのテストの後に花が咲かないため、第2代子孫では分離比が5:1になる。別の好ましい一実施態様では、第1代子孫の植物を“テスター”系の植物とさらに交配させたとき、得られる第2代子孫は抵抗性に関して23:9の分離比を示すことが予想されるが、一般には19:5の分離比になる。さらに別の好ましい一実施態様では、第2代子孫において5:1〜19:5の分離比が記録される。個々の植物の子孫を別々に数値化するとき、上記の分離比が観察される。したがって分離比に基づき、テストする植物の抵抗性と“テスター”植物の抵抗性が同じ遺伝子座に位置するか、連鎖した異なる遺伝子座に位置するか、連鎖していない異なる遺伝子座に位置するかが明らかになる。
【0057】
本発明のさらに別の好ましい一実施態様では、根瘤病に対する一遺伝子性の優性な抵抗性と連鎖した分子マーカーを開示する。このような分子マーカーを用いると、抵抗性のある植物と病気になりやすい植物を分子レベルで区別することができるため、分子マーカーは、アブラナ属の植物(B.オレラセア植物であることが好ましい)に一遺伝子性の優性な抵抗性が存在することの指標となる。分子マーカーは、抵抗性のある植物と病気になりやすい植物の間の遺伝子多型に基づいているため、抵抗性に関する遺伝子座またはその近傍に位置する。分子マーカーは、例えば抵抗性のある植物を育てて取得し、育てている間に抵抗性の存在を追跡することを目的として、あるいは市販されている種子ロットの中で抵抗性の存在を制御することを目的として用いられる。
【0058】
したがって本発明の好ましい一実施態様では、アブラナ属の植物(B.オレラセア植物であることが好ましい)の中で根瘤病抵抗性をマッピングする方法と、この抵抗性がアブラナ属の植物(B.オレラセア植物であることが好ましい)に存在しているかどうかを調べる方法と、この抵抗性を、病気にかかりやすいアブラナ属の植物(B.オレラセア植物であることが好ましい)または病気に対する抵抗性が弱いアブラナ属の植物(B.オレラセア植物であることが好ましい)に移す方法が提供される。例えばこれらの方法を利用して抵抗性を有する新しい系を育てたり、種子ロットの品質を制御したりする。この明細書に開示した分子マーカーにより、抵抗性を有する系を以前よりも早く市場に出すことができ、しかも市販されている種子ロットの品質制御をよりうまく行なうことができる。したがって病気アッセイを行なう代わりに分子マーカーを用いることができる。
【0059】
本発明の分子マーカーと方法は、市販されている変種(例えば育成プログラムや種子作成プロセスによる変種)へと通じるさまざまなステップにとって特に好ましい。例えば本発明を利用してB.オレラセア植物(例えばエリート同系交配系)に抵抗性を移入する。根瘤病抵抗性の選択は、それぞれの交配から生まれる種子または植物を分子マーカーを用いて調べることによって行なう。したがって本発明の好ましい一実施態様には、根瘤病に対する一遺伝子性の優性な抵抗性を、この病気にかかりやすいB.オレラセア植物またはこの病気に対する許容度が小さいB.オレラセア植物に移す方法であって、この病気に対する抵抗性を有する第1の植物を、この病気にかかりやすい、あるいはこの病気に対する抵抗性が弱い第2の植物と交配させるステップと、この交配によって生じる種子を回収するステップと、この種子またはこの種子から成長した植物のサンプルを取得するステップと、このサンプル中で本発明の分子マーカーを検出するステップ(この分子マーカーが存在しているというのは、この種子または植物にこの病気に対する抵抗性があることを示す)と、このマーカーが存在している植物を選択するステップを含む方法が含まれる。このようにして得られる植物は、好ましいことにこの病気に対する抵抗性を持っている。次に、抵抗性をさらに戻し交配によってこの病気にかかりやすい植物、またはこの病気に対する抵抗性が弱い植物に組み込む。
【0060】
本発明の分子マーカーは、安定で均一な同系交配系または栽培変種植物(変種と呼ばれることもある)を作り出す際に利用するのにも好都合である。この方法により、特定の系を、その系が十分に純粋で均一になるまで自家受粉させる。本発明は、特定の系または栽培変種植物の種子を商業的に作るのにも利用される。この場合にも、それぞれの交配後に、交配によって得られた種子に本発明の方法を適用し、抵抗性のある植物だけを選択する。したがって本発明の好ましい一実施態様には、根瘤病抵抗性を有する種子または植物を作る方法であって、抵抗性のある植物をそれ自身と交配させるステップと、その交配によって得られた種子を回収するステップと、種子またはその種子から成長した植物のサンプルを取得するステップと、このサンプル中で本発明の分子マーカーを検出するステップを含む方法が含まれる。そのときこの分子マーカーが存在しているというのは、この種子または植物にこの病気に対する抵抗性があることを示している。
【0061】
同様に、本発明を利用してハイブリッド種子を作る。この場合には、本発明を利用し、野外で発芽して成長する全ハイブリッド種子が病気に対する抵抗性を持つようにする。本発明の分子マーカーを用いて品質を制御し、病気に対する抵抗性がハイブリッド種子に存在しているようにする。したがって本発明の好ましい一実施態様には、種子を作る方法であって、根瘤病抵抗性がある第1の植物を第2の植物と交配させるステップと、その交配によって得られた種子を回収するステップと、種子またはその種子から成長した植物のサンプルを取得するステップと、このサンプル中で本発明の分子マーカーを検出するステップを含む方法が含まれる。そのときこの分子マーカーが存在しているというのは、この種子または植物にこの病気に対する抵抗性があることを示している。したがって本発明により、商業的な育種プロセスと種子製造プロセスが大きく進歩する。
【0062】
好ましい一実施態様では、本発明の分子マーカーは根瘤病抵抗性の遺伝子座から10センチモルガン(cM)未満(この距離は、6cM未満であることが好ましく、5cM未満であることが好ましく、3cM未満であることがより好ましく、1.5cM未満であることがさらに好ましい)の位置にあるため、抵抗性と密接に結び付いて共分離する。
【0063】
本発明との関係で好ましい多型には、例えば一配列の繰り返し(SSR、例えばHearne他、Trends Genet.、第8巻、288〜294ページ、1992年)、一ヌクレオチド多型(SNP、Botstein他、Am. J. Hum. Genet.、第32巻、314〜331ページ)、他のあらゆるタイプのDNA再配列(例えば欠失、増幅、交叉)が含まれる。従来技術でよく知られている多型の検出法を本発明の文脈に適用し、抵抗性と連鎖した分子マーカーを作る。好ましい方法としてはPCR増幅法に基づいた方法があり、例えばSSR法とRAPD法(Williams他、Nucl. Acids Res.、第18巻、6531〜6535ページ、1990年)が挙げられる。一般に、PCRのための好ましいオリゴヌクレオチドは長さが約8〜50ntである。この長さは10〜30ntであることが好ましい。本発明の多型を有する部位が含まれたPCRで増幅したDNA断片は、長さが約100〜3,000ntであることが好ましい。この長さは、約200〜2,000ntであることがさらに好ましく、約300〜1,000ntであることがより一層好ましい。多型のスクリーニングまたは検出を行なう他の方法で本発明に適用できるものとしては、核酸の直接シークエンシング、一本鎖多型アッセイ、リガーゼ連鎖反応、酵素による開裂、サザン・ハイブリダイゼーションなどがある。
【0064】
別の方法として、増幅して開裂させた多型配列(CAPS;Konieczny他、The Plant Journal、第4巻(2)、403〜410ページ、1993年)を検出する方法や、“CAMPS”(増幅して修飾して開裂させた多型配列の略号で、dCAPS(Neff他、Plant J.、第14巻、387〜392ページ、1998年;MichaelsとAmasino、Plant J.、第14巻、381〜385ページ、1998年)としても知られる)と呼ばれる方法を用いて一ヌクレオチド多型(SNP)を検出する方法などがある。CAPS法では、多型制限部位を含む核酸を、その制限部位に隣接するプライマーを用いて増幅する。得られるPCR産物を、その多型制限部位に対応する制限エンドヌクレアーゼを用いて消化させ、消化された産物をゲル電気泳動で分析する。
【0065】
サザン・ハイブリダイゼーションも、配列の違いを突き止めるのに有効な方法である。特にRFLP(制限断片長多型)法(Botstein B.他、Am. J. Hum. Genet.、第32巻、314〜331ページ、1980年)を利用したサザン・ハイブリダイゼーションが有効である。
【0066】
本発明の好ましい一実施態様では、根瘤病抵抗性と密接に関係していてRAPD法を利用して得られる分子マーカーを開示する(この明細書の実施例4を参照のこと)。
【0067】
以下の実施例は、本発明に関する出願を説明するためのものである。以下の実施例は、本発明の範囲を完全に規定したり、本発明の範囲を制限したりするものではない。
【0068】
この明細書で引用したすべての参考文献は、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
【実施例1】
【0069】
B.オレラセアへの抵抗性の移入
【0070】
F1
【0071】
根瘤病抵抗性ハクサイF1ハイブリッド・パーキンとブロッコリ(B.オレラセア)の間で数百回交配させた。この交配体から胚を救出した(Harbert他、Euphytica、第18巻、425〜429ページ、1969年)。胚珠のうちの4個が植物へと成長し、そのうちの2個がこの病気に対する抵抗性を持つことがわかった。この2本の抵抗性植物は染色体を19本持っていた。表現型は、ハクサイとブロッコリのハイブリッドであった。
【0072】
BC1
【0073】
胚救出を再び行なってBC1植物を得た。ブロッコリ同系交配系を戻し交配の親として使用した。ブロッコリ系は、続く世代のための交配の親としても使用した。上記の2つのF1植物のうちの1つだけが応答し、5つの胚珠が植物へと成長した。そのうちの4つが根瘤病抵抗性を持っていた。
【0074】
BC1植物の表現型は、戻し交配の親であるブロッコリの表現型と似ていた。
【0075】
BC1植物に含まれるB.ラパのゲノムの染色体分布はランダムであるため、この植物は、B.オレラセアの18本の染色体と、B.ラパの0〜10本の染色体を含んでいる。したがって18〜28本の染色体を有する植物が観察された。
【0076】
BC2
【0077】
BC1植物に関する種子セットを用いてBC2植物を得た。BC1由来のBと名づけた植物に関する種子セットから得られた9本の植物は、根瘤病抵抗性を有することがわかった。染色体の数を明らかにし、通常のDNA量からのずれをフローサイトメトリーを利用して調べた。3本の植物、B23、B27、B28をプログラムの中でさらに使用した。
【0078】
BC3とBC4
【0079】
種子セットからBC3とBC4も得た。BC2においてすでに二倍体であった植物B27は、優性な根瘤病抵抗性遺伝子を含んでいた。戻し交配世代BC3とBC4は、予想される1:1の分離比を示す。
【0080】
抵抗性は、植物B23とB28にも移入されていた。そのことは、続く世代において示された。
【0081】
野外試験
【0082】
B27のBC3に関する苗木試験から得られた抵抗性植物を用い、予備的な野外試験を実施した。これらの植物を、ドイツ、クレーヴェにあるわれわれの実験農場のひどく感染した土地に植えた。すべての植物が健康な状態を維持し、成熟時に掘り返したときに症状は見られなかった。
【0083】
他のB.オレラセアへの移入
【0084】
ブロッコリ、カリフラワー、キャベツ、芽キャベツにおける戻し交配プログラムのための根瘤病抵抗性供給源として、抵抗性B27を用いた。その結果、実施例3に開示したように、抵抗性を持つさまざまな変種が得られた。
【実施例2】
【0085】
病気テスト
【0086】
砂とピート土を2:1の割合にした混合物(pH6未満)を入れたマルチポットの中に、種を播いた1週間後の苗木を移植する。移植した1日後、1×106細胞/mlの溶液1mlをポットに注入する。この溶液は、根瘤病の供給源とECDコード16/3/30、16/23/30、16/3/14、16/7/30の混合物である(Buczacki他、Trans. Br. Mycol. Soc.、第65巻、295〜303ページ、1975年)。土を最初の2週間湿った状態に維持した後、土を少し乾燥させるとよい。インキュベーションの温度は、温室内で18〜20℃にする。移植してから4〜5週間後、根を洗ってきれいにし、病気を数値化する。
【0087】
別の方法として、標準的な砂とピート土の混合物(2:1EGO、pH5〜6)を入れたマルチポット・トレイに種を直接播く(マルチポット1つにつき種1個)。普通は1つの系につき20〜30本の植物をテストする。種を播いてから約7〜10日後、植物に接種し、その最初の接種から2〜5日後に2回目の接種を行なう。種の発芽が悪いようであれば、黒いポットの中に種を何列にも播き、発芽した植物を7〜10日後にマルチポット・トレイに移植する。インキュベーションの温度は20〜22℃である。
【0088】
標準的な接種源は、単離物9である(ドイツの感染した土地から単離された強力な単離物)。接種源は、プラスチックの袋に入れて冷蔵庫の中で-20℃にて保管した感染した根から調製する。この根をミキサー(根が1部、水が5部)に移し、約2分間にわたって混合する。次に小さな粒子をチーズクロースで濾過し、(明るい色(わずかに青色)の丸い)シストの数を数える。エッペンドルフ・ピペットを用い、0.5〜1×107シスト/mlの溶液1mlを植物の下方部にある茎/根に添加する。利用可能なシストを懸濁液の中に均一に混合させるためには、接種源を定期的に振盪する必要がある。
【0089】
テストの規模に応じ、十分な数の対照が存在している必要がある。病気になりやすい対照としては、例えばホワイト・ロック(カリフラワー)、マクシマスまたはそれ以外のF1(芽キャベツ)、マラソン(白キャベツ)がある。抵抗性を有する対照としてパーキンまたはストーキン(ハクサイ)を加えることができる。ホプキン(病気になりやすいハクサイ)を加えてもよい。というのもホプキンは、接種が成功したかどうかが早い段階でわかるからである。
【0090】
テスト中は植物に十分な水分を供給し続けねばならない。定期的に肥料を与える必要があるが、植物は成長し過ぎてはならない。温度は22〜20℃(昼/夜)であり、16時間明るくする。接種してから4週間(夏)〜6週間(冬)後、植物を土から引き抜いて洗浄し、症状を数値化する。
【0091】
病気テストの観察スケールは例えば以下の通りである。
0 = 瘤がなく、健康な根系
1 = 側根に小さな瘤が1〜2個あり、根が幾分か茶色くなっていることがある
2 = 側根に小さな瘤が数個あり、主根がわずかに厚みを増していることがある
3 = 主根の大部分が厚くなっている
4 = 主根が極めて厚くなって瘤のある側根と癒着しているが、それでも正常な根がいくらか存在している
5 = 根が1つの塊になり、正常な根が存在していない
【0092】
次に、温室テストで0点の植物(温室テストでの症状の重さと、それに関係する遺伝現象に応じ、1点のものも含めることがある)を、根瘤病に感染した土地(例えばエンクイゼンのデ・ウィット)に移植する。通常は、温室から出した植物は野外でひどく感染するため、容易に見つけることができる(発育の遅れ)。しかしそのような植物は非常に稀である。
【0093】
病気テストの別の観察スケールは例えば以下の通りである。
1 = 根に瘤が見られない
2 = 側根に瘤が1個
3 = 側根に瘤が数個(植物は健康)
4 = 主根がわずかに瘤になり、側根に小さな瘤が数個
5 = 主根が中程度に瘤になり、側根に小さな瘤が多数と大きな瘤が数個
6 = 主根がひどく瘤になり、側根に大きな瘤が多数
7 = ひどく瘤になり、健康な根がわずかに残る
8 = ひどく瘤になり、健康な根がほとんど残っていない
9 = ひどく瘤になり、健康な根が存在していない
【実施例3】
【0094】
野外試験の結果
【0095】
表1
【0096】
ウェリビー、ビクトリア、オーストラリアでの野外試験。2002年1月、根瘤病に感染した土に植物を移植した。移植してから6週間後に評価すると、本発明による根瘤病抵抗性カリフラワー・ハイブリッド(F308とF311)の効果が、病気になりやすい種(ホワイト・ロック、トライアンファント)や、さまざまな量の殺真菌剤(シャーラン)で処理してライム(pHを大きくして根瘤病の程度を軽くする効果を持つ:例えばDixonとPage、Acta Horticulturae、第459巻、343〜349ページ、1998年)を添加した病気になりやすい種(トライアンファント)と比較したとき、すでに見られる(表1)。上記の1〜9という観察スケールを以下の試験で利用した。
【0097】
【表1】

【0098】
表2
【0099】
オーストラリアの異なる3つの土地(コラ・リン、ウェリビー、トレンサム)からの単離物を用いてカリフラワーの若い苗をテストした結果。単離物を上に説明したのと同様の方法で接種した。ホワイト・ロックは病気になりやすい対照であり、E70は本発明による抵抗性を有するハイブリッド・カリフラワーである。上記の1〜9という観察スケールを以下の試験で利用した。
【0100】
【表2】

【0101】
表3
【0102】
2年間のうちに自然に根瘤病に感染したヨーロッパのさまざまな土地で行なった野外試験の結果。D249、D506、E245、E246は、本発明による抵抗性カリフラワー・ハイブリッドであり、ホワイト・ロックは、病気になりやすいカリフラワーであり、SPR666とA876は、本発明による抵抗性B. sproutsハイブリッドであり、ロミュラスとマクシマスは、病気になりやすいB. sprouts変種であり、F1182とF1187は、本発明による抵抗性キャベツ・ハイブリッドであり、マラソンは、病気になりやすい白キャベツである。成長期が終了したときに0〜5のスケール(上の説明を参照のこと)で評価した(di05)。
【0103】
【表3】

【実施例4】
【0104】
分子マーカー
【0105】
白キャベツの2つの集団(D1544とD1545)を利用し、抵抗性に関係するRAPDマーカーを開発した。プライマーO20とY13をそれぞれ用いて得られた2つの分子マーカーにより、根瘤病抵抗性と強く連鎖しているPCR増幅産物が得られた。O20とY13の両方とも、D1544集団での病気テスト結果(病気に対する抵抗性があるか、病気になりやすいか)と94.6%(53/56)相関していた。これは、連鎖距離が5.4cMであることを示している。D1545集団では、O20は病気テストと100%相関していたのに対し、Y13は95.7%(45/47)の相関であった。これは、O20と抵抗性が強く連鎖しており(0cM)、Y13と抵抗性の距離が4.3cMであることを示唆している。二倍体白キャベツの苗140本からなる集団でRAPDテストを行なうと、O20は病気テストと100%相関している(0cM)のに対し、Y13は98.6%相関する(1.4cM)。
【0106】
プライマーO20(5'-ACA CAC GCT G-3')により、約400bpの特異的な断片が生成した。プライマーY13(5'-GGG TCT CGG T-3')により、約640bpの特異的な断片が生成した。増幅条件を以下に示す。PCRの後、25μLのDNAを1.8%アガロース・ゲル上を走らせる。
【0107】
- DNA: μl(標準的なミニ調製物から希釈したDNA)
- プライマー(10μl):1.0μl
- dNTP(2.5mM): 2.0μl
- 白金Taq緩衝液 10×:2.5μl(200mMのトリス-HCl、pH8.4と500mMのKClからMgCl2を除去したもの)
- MgCl2(50mM): 0.75μl
- 白金Taq(BRL/ライフ社): 0.2μl(5U/μl)
- 減菌水: μl(DNAをどれだけの量使用するかによって異なる)
最終体積が25μl
【0108】
PCRプログラム
【0109】
3' 94℃
- ランプ 0:00 94℃ 0.10
- ランプ 0:00 36℃ 0.30 1サイクル、PCRサイクル(パーキン・エルマー9600)
- ランプ 0:45 72℃ 1.05
3' 94℃
- ランプ 0:00 94℃ 0.10
- ランプ 0:00 36℃ 0.30 40サイクル、PCRサイクル(パーキン・エルマー9600)
- ランプ 0:45 72℃ 1.05
- 5' 72℃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根瘤病抵抗性を有するブラッシカ・オレラセア(Brassica oleracea)植物であって、根瘤病抵抗性が、一遺伝子性かつ優性である植物。
【請求項2】
上記B.オレラセア植物の評価が、1〜9のスケールによる病気テストでレベル2以下であり、0〜5のスケールによる病気テストでレベル1以下である、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
上記B.オレラセア植物の評価が、1〜9のスケールによる病気テストでレベル1であり、0〜5のスケールによる病気テストでレベル0である、請求項1に記載の植物。
【請求項4】
上記B.オレラセア植物が、ブロッコリ、白キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ、ケール、サボイキャベツ、赤キャベツのいずれかである、請求項1に記載の植物。
【請求項5】
上記抵抗性が、PCR増幅によって得られる分子マーカーと関係している、請求項1に記載の植物。
【請求項6】
上記抵抗性が、プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られる分子マーカーに連鎖している、請求項1に記載の植物。
【請求項7】
上記抵抗性が、上記分子マーカーから10cM以内の位置にある、請求項5に記載の植物。
【請求項8】
上記抵抗性が、上記分子マーカーから6cM以内の位置にある、請求項5に記載の植物。
【請求項9】
上記抵抗性が、根瘤病抵抗性を有するB.ラパ(B.rapa)植物から得られる、請求項1に記載の植物。
【請求項10】
上記抵抗性が、ハクサイF1ハイブリッド・パーキンから得られる、請求項1に記載の植物。
【請求項11】
根瘤病抵抗性を与える遺伝子座を含むB.オレラセア植物であって、この抵抗性が一遺伝子性かつ優性である植物。
【請求項12】
根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物であって、
a)この植物がこの抵抗性に対してホモ接合性である場合に、抵抗性に対してホモ接合性であるこの植物を、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性に関してホモの“テスター”植物と交配させると、この交配による第1代子孫が根瘤病抵抗性に関して分離比1:0になり、
b)この第1代子孫の植物を自家受粉させると、得られる第2代の植物が根瘤病抵抗性に関して分離比1:0になる植物。
【請求項13】
上記“テスター”植物が、登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系由来でこのCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を含んでいる植物であるか、あるいはこのCFL667系の子孫または先祖のうち、このCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を含む植物である、請求項12に記載の植物。
【請求項14】
根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物であって、この植物がこの抵抗性に対してヘテロ接合性である場合に、抵抗性に対してヘテロ接合性であるこの植物を、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性に対してヘテロ接合性の“テスター”植物と交配させると、この交配による第1代子孫が根瘤病抵抗性に関して分離比3:1になる植物。
【請求項15】
上記第1代子孫に属する植物を抵抗性に対してヘテロ接合性の上記植物とさらに交配させると、得られる第2代子孫が根瘤病抵抗性に関して分離比5:1になる、請求項14に記載の植物。
【請求項16】
上記“テスター”植物が、登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系の植物、このCFL667系の子孫または先祖のうち、このCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を含む植物、登録番号NCIMB 41134としてNCIMBに寄託されたCFL667系由来でこのCFL667系に含まれる一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を含んでいる植物のいずれかである、請求項14または15に記載の植物。
【請求項17】
上記B.オレラセア植物が、上記抵抗性に対してホモ接合性である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の植物。
【請求項18】
上記B.オレラセア植物が、上記抵抗性に対してヘテロ接合性である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の植物。
【請求項19】
上記B.オレラセア植物が、同系交配体または二ゲノム性半数体である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の植物。
【請求項20】
上記B.オレラセア植物がハイブリッドである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の植物。
【請求項21】
上記B.オレラセア植物が、細胞質雄性不稔である、請求項19または20に記載の植物。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の植物の種子。
【請求項23】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の植物の果実またはその植物の一部。
【請求項24】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の植物の一部であって、その部分が、花粉、胚珠、胚のいずれかであるもの。
【請求項25】
一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を利用し、B.オレラセア植物にこの病気に対する抵抗性を与える方法。
【請求項26】
上記抵抗性が、ハクサイF1ハイブリッド・パーキンから得られる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を作る方法であって、
a)根瘤病抵抗性を有するB.ラパ植物を取得するステップと;
b)そのB.ラパ植物をB.オレラセア植物と交配させるステップと;
c)ステップb)の交配により得られた胚を救出するステップと;
d)ステップc)の胚から植物を再生させるステップと;
e)ステップd)の植物の中から根瘤病抵抗性を有するものを選択するステップと;
f)ステップe)で得られた植物をB.オレラセア植物と戻し交配するステップを含む方法。
【請求項28】
エリートB.オレラセア同系交配植物に抵抗性を移入するステップをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
上記同系交配植物を別のB.オレラセア同系交配植物と交配させてハイブリッドを作るステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項27〜29のいずれか1項に記載の方法によって得られるB.オレラセア植物。
【請求項31】
根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に対してこの病気に対する一遺伝子性で優性な抵抗性を移入する方法であって、
a)一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を備えるB.オレラセア植物を取得するステップと;
b)ステップa)で得られるB.オレラセア植物を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物と交配させるステップと;
c)ステップb)の交配体から根瘤病抵抗性を有する植物を選択するステップを含む方法。
【請求項32】
上記抵抗性を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物の中に戻し交配するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
アブラナ属のゲノムから増幅したDNA断片であって、このDNA断片が約400bpの長さであり、配列ID番号1を含む、DNA断片。
【請求項34】
アブラナ属のゲノムから増幅したDNA断片であって、このDNA断片が約640bpの長さであり、配列ID番号2を含む、DNA断片。
【請求項35】
上記DNA断片が、一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性がアブラナ属の植物に存在していることを示す、請求項33または34に記載のDNA断片。
【請求項36】
請求項33または34に記載のDNA断片を利用し、根瘤病抵抗性を有するアブラナ属の植物を同定する方法。
【請求項37】
プライマーO20(配列ID番号1)の、アブラナ属のゲノム中で約400bpのDNA断片を検出するための使用。
【請求項38】
プライマーY13(配列ID番号2)の、アブラナ属のゲノム中で約640bpのDNA断片を検出するための使用。
【請求項39】
プライマーO20またはY13の、根瘤病抵抗性を有するアブラナ属の植物を同定するための使用。
【請求項40】
上記アブラナ属の植物がB.オレラセアである、請求項36〜39のいずれか1項に記載の使用。
【請求項41】
一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性をB.オレラセア植物の中で検出するために配列ID番号1または配列ID番号2に記載されているオリゴヌクレオチドを含むキット。
【請求項42】
根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物に対してこの病気に対する一遺伝子性で優性な抵抗性を移入する方法であって、
a)一遺伝子性で優性な根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を取得するステップと;
b)ステップa)で得られるB.オレラセア植物を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物と交配させるステップと;
c)プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られるDNA断片を含む植物を選択するステップを含んでおり、
ステップc)で選択された植物が根瘤病抵抗性を持っている方法。
【請求項43】
上記抵抗性を、根瘤病にかかりやすいB.オレラセア植物または根瘤病抵抗性が弱いB.オレラセア植物と戻し交配により組み込むステップをさらに備える、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を同定する方法であって、
a)B.オレラセア植物からサンプルを採取するステップと;
b)プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られるDNA断片をこのサンプル中で検出するステップを含んでおり、
ステップb)でDNA断片が検出されたB.オレラセア植物が根瘤病抵抗性を有する方法。
【請求項45】
B.オレラセア植物の集合から根瘤病抵抗性を有するB.オレラセア植物を選択する方法であって、
a)B.オレラセア植物の集合を用意するステップと;
b)この集合に含まれる各植物から1つのサンプルを採取するステップと;
c)プライマーO20(配列ID番号1)またはプライマーY13(配列ID番号2)を用いたPCR増幅によって得られるDNA断片をそのサンプル中で検出するステップを含んでおり、
ステップb)でDNA断片が検出されたB.オレラセア植物が根瘤病抵抗性を有する方法。

【公開番号】特開2010−284166(P2010−284166A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161513(P2010−161513)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願2004−525312(P2004−525312)の分割
【原出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】