説明

根管仮封材分散体

少なくとも9のpHを有する根管仮封材分散体であって、(i)ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、任意に、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物とを含む、水性分散媒と、(ii)放射線不透過性充填材を含む分散相とを含み、上記水性分散媒が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む場合、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比が、少なくとも0.5である、根管仮封材(シーラー)分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は根管仮封材(シーラー)分散体に関する。さらに、本発明はまた、根管仮封材分散体の形成用の部品又は成分キット(kit-of-parts:パーツキット)に関する。根管仮封材分散体は、貯蔵安定性が改善され、また放射線不透過性及び細菌増殖に対する耐性等の特性が改善される。
【背景技術】
【0002】
根管仮封材は既知のものである。従来の根管仮封材は、水酸化カルシウムと、硫酸バリウム等の放射線不透過性充填材との強アルカリ性の水性混合物を含む。
【0003】
根管仮封材は、歯髄及び/又は根管組織の摘出により形成される根管窩洞を清浄すると共に消毒する短期的手段であると意図されるため、永久的な封止を行うことによって歯の汚損が防止される。
【0004】
放射線不透過性材料を含有する根管仮封材は、任意の所与の歯の髄室及び/又は付随する根管の内部環境に関する情報を得るために使用され得る。
【0005】
従来の根管仮封材は、比較的低い放射線不透過性を示す。その上、従来の根管仮封材は、水酸化カルシウムと放射線不透過性充填材との水性混合物が経時的に不均質な異種混合物となるため、貯蔵安定性が低い。
【0006】
特許文献1は、水酸化カルシウム、乾燥剤(exsiccant:エクシカント)及び有機溶媒と一緒にX線造影剤を組み込み、吸収性で抗菌性の硬練り充填材であり、根管窩洞の先端部を硬化させることも、先端部を侵食することもない仮根管充填材料を開示している。
【0007】
特許文献2は、水酸化カルシウムと、ガッタパーチャと、放射線不透過性物質と、組成物に剛性を加え、熱可塑性の根管端部を作製して閉塞するのに用いられる物質とを含む非水性歯科用組成物に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許第19961002号
【特許文献2】米国特許第5540766号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、放射線不透過性、細菌増殖に対する耐性、及び粘稠性が改善された根管仮封材(シーラー)分散体を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる課題は、口腔環境内で及び貯蔵中に共に安定である根管仮封材分散体を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる課題は、無毒性かつ抗炎症性であり、また滅菌剤として作用する根管仮封材分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、これらの課題は、少なくとも9のpHを有する根管仮封材分散体であって、
(i)
ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、
任意に、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物と、
を含む、水性分散媒と、
(ii)放射線不透過性充填材を含む分散相と、
を含み、水性分散媒が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む場合、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比が、少なくとも0.5である、根管仮封材分散体により解決される。
【0013】
第1の実施の形態では、根管仮封材分散体が、
1つ又は複数のルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、
アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物と、
を含む水性分散媒を含み、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、オリゴマー及び/又はポリマーの重量比は、少なくとも0.5である。
【0014】
第2の実施の形態では、水性分散媒が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含まない。
【0015】
本発明は付加的に、上記の根管仮封材分散体の形成用の部品又は成分キットであって、水性分散媒のオリゴマー及び/又はポリマーが、放射線不透過性充填材、並びに、該部品又は成分キットに含まれる場合には、アルカリ金属の水酸化物及び/若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、並びに/又はそれらの前駆体(単数又は複数)と別個にパッケージ(包装)される、根管仮封材分散体の形成用の部品又は成分キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は根管仮封材(シーラー)分散体に関する。根管仮封材分散体は、分散体の形態でありかつ根管を仮封するのに好適である封止材である。根管仮封材分散体は、水性分散媒と、分散相とを含む。
【0018】
根管封止材、とりわけ、根管仮封材分散体の特性は多くの因子に左右されるものの、全般的な傾向は、水性分散媒の組成物の特性と根管仮封材分散体の特性との間に見ることができる。傾向は必ずしも一次的なものでなく、多くの相互作用が存在するため、傾向は、既知の点からそれほど大きく外挿すべきでない。水性分散媒中の大半の構成成分の変更は、分散相が組み込まれ得る度合いに影響を及ぼし、それ故、他の特性の中でも、根管仮封材分散体の放射線不透過性、封止能及び粘稠性に何らかの影響を及ぼす。続く傾向は、水性分散媒の重回帰分析及び得られる根管仮封材分散体の特性において観測される。
【0019】
根管仮封材分散体は少なくとも9のpHを有する。好ましくは、根管仮封材分散体は、少なくとも11、より好ましくは少なくとも12、さらに好ましくは少なくとも13のpHを有する。少なくとも9のpHの使用は、根管仮封材分散体のpHがこの値よりも小さかった場合よりも多くの量の分散相を確実に水性分散媒中に組み込むことができる。pH値は、万能指示紙等の標準的なpH試験紙を用いて測定する。
【0020】
水性分散媒は、分散相を分散させ得る水を含む媒体である。水は、根管仮封材分散体中に組成物の総量に基づき20重量パーセント〜80重量パーセントの量で存在し得る。より好ましくは、根管仮封材分散体の水は、組成物の総量に基づき、20重量パーセント〜70重量パーセント、最も好ましくは25重量パーセント〜60重量パーセントの量で存在する。より小さい重量パーセントの水を水性分散媒中に使用すると、根管仮封材分散体の可塑性は、所与の根管窩洞を封止すると共にその無菌状態を維持するように作用するには不十分なものになる。その上、より小さい重量パーセントの水を水性分散媒中に使用すると、得られる根管仮封材分散体の粘稠性及び均質性が低減し、その結果、分散体は、封止材又は滅菌剤としての使用に不適切なものとなる。このような分散体の可塑性、粘稠性及び均質性の低減も、分散体を、X線放射と併せた可視化剤としての使用に不適切なものとする。反対に、より大きい重量パーセントの水を根管仮封材分散体中に使用すると、それらの残りの構成成分が効率的に希釈され、その結果、分散体が溶液の特徴を帯びる。結果的に、より大きい重量パーセントの水を含む分散体は、過度に流動性となるため、封止材として作用せず、当然ながら、特に、高密度の放射線不透過性充填材を高い割合で使用する場合に、放射線不透過性充填材が分散体から沈降するのを防ぐ。
【0021】
根管仮封材分散体は、1つ又は複数のルイス塩基性基を有するオリゴマー、及び/又は1つ又は複数のルイス塩基性基を有するポリマーを含む。ルイス塩基性基は、水性媒体中でプロトン化し得る孤立電子対を含む。窒素、リン、酸素及び硫黄は、孤立電子対を適切な官能基中にもたらし得る原子の例であり、窒素が好ましい。したがって、1つ又は複数のルイス塩基性基をもたらすために、このような原子を含有する以下の官能基:第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、アミド基、ヒドラジノ基、ホスフィノ基、カルボン酸基のアルカリ金属塩、アルカリアルキレンオキシレート、及びそれらの硫黄類似体を、オリゴマー及び/又はポリマー中に使用してもよい。水性分散媒中に使用されるオリゴマー及び/又はポリマーは、アミノ置換ポリマー、アミノ樹脂及びポリアミンから、単独で又は組み合わせて選択され得る。好ましい実施形態において、根管仮封材分散体のオリゴマー及び/又はポリマーはポリアミンである。ポリアミンは、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン及びポリフェニレンイミンから、単独で又は組み合わせて選択され得る。より好ましい実施形態では、根管仮封材分散体のオリゴマー及び/又はポリマーがポリエチレンイミンである。
【0022】
好ましくは、ルイス塩基性基の塩基性がヒドロキシルイオンの塩基性よりも高いため、中性水性媒体のpHを、本発明により使用されるオリゴマー及び/又はポリマーの存在によって増大させてもよい。オリゴマー及び/又はポリマーは好ましくは根管仮封材分散体の水性媒体に可溶性である。
【0023】
1つ又は複数のルイス塩基性基を有する1つより多くのオリゴマー及び/又はポリマーを水性分散媒中に使用する場合、オリゴマー及び/又はポリマーは互いに非依存性である。
【0024】
一態様において、オリゴマー及びポリマーは両方とも、水性分散媒中でポリマー−オリゴマー配合物として合わせて使用される。
【0025】
一態様において、上述のオリゴマー及び/又はポリマーのモノマーを、上述のオリゴマー及び/又はポリマーの異なるモノマーと共重合させてもよい。代替的な態様では、上述のオリゴマー及び/又はポリマーのモノマーを、異なるモノマーから構成されるオリゴマー及び/又はポリマー上にグラフト共重合又はブロック共重合させてもよい。コポリマーの形成に好適な第2のポリマーのモノマーは、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミン、ポリアミジン及びポリアミドのモノマーから選択され、ルイス塩基性基を有する上述のオリゴマー及び/又はポリマーのモノマーと共重合する。一態様において、コポリマーの形成に好適な第2のポリマーのモノマーは、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミン、ポリアミジン及びポリアミドのモノマーから選択され、ルイス塩基性基を有する上述のオリゴマー及び/又はポリマーにグラフト共重合又はブロック共重合する。好ましくは、第2のポリマーのモノマーは、アミジン樹脂又はアミジンラテックス等の強有機塩基のモノマーである。
【0026】
上記に規定されるオリゴマー及び/又はポリマーのいずれかの使用は、根管仮封材分散体の安定性に影響を及ぼすことなく、かなりの量の放射線不透過性充填材を水性分散媒中に分散させることを可能にするため、放射線不透過性充填材が分散体から沈殿する。ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーが、ポリアミン等の塩基性ポリマーであることが特に好ましい。塩基性ポリマーの使用は、そのpHを維持するために過剰量のアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を根管仮封材分散体中に組み込む必要性を回避する。その上、塩基性ポリマーの使用は、高密度の放射線不透過性充填材を、組成物の総量に基づく大きな重量パーセントで分散体中に分散させる場合でさえ、放射線不透過性充填材が分散体から沈降するのを防ぐ範囲において安定である根管仮封材分散体の形成を助けるものである。
【0027】
水性分散媒中に使用されるオリゴマー及びポリマーは、500Da〜200000Daにわたる平均分子量範囲を共有する。オリゴマーは好ましくは、500Da〜10000Da、より好ましくは1000Da〜10000Da、さらに好ましくは1000Da〜9000Da、最も好ましくは2000Da〜8000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。その一方で、ポリマーは好ましくは、10000Da〜200000Da、より好ましくは10000Da〜100000Da、さらに好ましくは10000Da〜50000Da、最も好ましくは20000Da〜50000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0028】
したがって、オリゴマー及びポリマーを共に水性分散媒中に使用する場合、水性分散媒は二峰性の平均分子量分布を示す。好ましい実施形態において、オリゴマーは、500Da〜10000Daの重量平均分子量(Mw)を有し、ポリマーは、10000Da〜200000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。好ましくは、オリゴマーが、500Da〜10000Daの重量平均分子量(Mw)を有し、ポリマーが、10000Da〜100000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。より好ましくは、オリゴマーが、1000Da〜10000Daの重量平均分子量(Mw)を有し、ポリマーが、10000Da〜100000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。最も好ましくは、オリゴマーが、1000Da〜10000Daの重量平均分子量(Mw)を有し、ポリマーが、10000Da〜50000Daの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0029】
ポリマーの平均分子量が規定の最大値を超える場合、水性分散媒の粘度が極めて高いので、粘稠性の根管仮封材分散体の形成が妨げられるだけでなく、放射線不透過性充填材が分散体中に組み込まれることも妨げられる。対照的に、オリゴマーの平均分子量が規定の最小値未満であれば、根管仮封材分散体の粘度は極めて低いので、特に、高密度の放射線不透過性充填材を組成物の総量に基づき大きな重量パーセントで使用する場合に、放射線不透過性充填材が分散体から沈降する。その上、オリゴマーの平均分子量が規定の最小値未満であれば、根管仮封材分散体の粘度は極めて低いので、分散体が根管を効果的かつ/又は十分な時間封止することが妨げられる。こうした状況下では、根管仮封材分散体が、放射線不透過性封止材として作用しなくなる。ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの平均分子量(Mw)は、巨大分子の分子量の分布を測定する何らかの方法によって求めることができる。典型的な方法としては、ゲル浸透クロマトグラフィ又はゲル濾過クロマトグラフィ等のサイズ排除クロマトグラフィ法、及び、エレクトロスプレー質量分析又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化分光分析等の質量分析法、及び/又は、粘度測定が挙げられる。オリゴマー及びポリマーを互いに共重合させる場合、オリゴマー及びポリマーそれぞれの平均分子量(Mw)は、末端基定量法、タイムラプス実験及び重回帰分析と併せ、上記の方法のいずれかを用いて求めることができる。エレクトロスプレー質量分析又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化分光分析等の質量分析法が、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの平均分子量(Mw)の測定に特に好ましい。
【0030】
好ましい実施形態において、根管仮封材分散体の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーは、組成物の総量に基づき10重量パーセント〜80重量パーセントの量で存在する。より好ましくは、根管仮封材分散体の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーが、組成物の総量に基づき、20重量パーセント〜70重量パーセント、最も好ましくは21重量パーセント〜60重量パーセントの量で存在する。より小さい重量パーセントの、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーを水性分散媒中に使用すると、根管仮封材分散体の可塑性は、根管窩洞を封止すると共にその無菌状態を維持するように作用するには不十分なものになる。その上、より小さい重量パーセントの、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーを水性分散媒中に使用すると、得られる根管仮封材分散体の粘稠性及び均質性が低減し、その結果、分散体は同様に、封止材又は滅菌剤としての使用に不適切なものとなる。可塑性、粘稠性及び均質性の低減も、このような分散体を、X線放射と併せて使用される可視化剤として作用しなくする。反対に、より大きい重量パーセントの、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーを根管仮封材分散体中に使用すると、それらの残りの構成成分が効率的に希釈され、その結果、分散体の放射線不透過性が同様に減少する。
【0031】
根管仮封材分散体中に任意に存在し得る、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムの水酸化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて選択される。好ましい実施形態において、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの水酸化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて選択される。水酸化物は、アルカリ土類金属水酸化物である水酸化カルシウムであることが最も好ましい。
【0032】
アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、水性分散媒に直接添加してもよく、又はin situにおいて水性分散媒の水性環境で適切な前駆体から生成してもよい。アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物のin situにおける生成に好適な前駆体は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の、酸化物(適切な場合には、過酸化物及び超酸化物を含む)、炭酸塩及び重炭酸塩を、単独で又は組み合わせて含む。好ましい実施形態において、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、in situにおいて、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの酸化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて誘導される。水酸化物は、in situにおいてカルシウムの酸化物から誘導されることが最も好ましい。
【0033】
アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、根管仮封材分散体中に、溶液形態及び/又は水和固体若しくは無水和固体の形態で存在し得る。根管仮封材分散体の組成、及びとりわけ、水性分散媒の組成に基づき、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、これら2つの形態の間に分布し、水性分散媒は、水溶液、水性懸濁液又は水性ペーストのいずれかから選択される形態を、単独で又は組み合わせてとり得る。アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物をin situで生成する場合、前駆体は同様に、根管仮封材分散体中に溶液形態及び/又は水和固体若しくは無水和固体の形態で存在し得る。
【0034】
根管仮封材分散体中に存在する水酸化物の重量は、溶液形態及び固体形態で存在する水酸化物の量の和に由来し得る。好ましい実施形態において、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、根管仮封材分散体中に組成物の総量に基づき1重量パーセント〜40重量パーセントの量で存在する。より好ましくは、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物は、根管仮封材分散体中に、組成物の総量に基づき、5重量パーセント〜30重量パーセントの量、最も好ましくは10重量パーセント〜25重量パーセントの量で存在する。
【0035】
分散相は、水性分散媒中に分散し得る材料である。分散相は放射線不透過性充填材を含む。放射線不透過性充填材は、別の材料と比較した場合に、電磁放射線、とりわけX線に対する不透過性を示す充填材である。放射線不透過性充填材は、亜鉛、イッテルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ジルコニウム、ストロンチウム、タングステン、タンタル、トリウム、ニオブ、バリウム、ビスマス、モリブデン及びランタンの金属、それらの合金、それらの有機金属錯体、それらの酸化物、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、次硝酸塩、タングステン酸塩及びカーバイド、ヨウ素及び無機ヨウ化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて選択され得る。好ましい実施形態において、放射線不透過性充填材は、三酸化ビスマス、炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、次硝酸ビスマス、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムのいずれかから、単独で又は組み合わせて選択される。さらに好ましい実施形態では、放射線不透過性充填材が、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムから、単独で又は組み合わせて選択される。好ましくは、放射線不透過性充填材がタングステン酸カルシウムである。
【0036】
放射線不透過性充填材は、結晶性、非晶質又は金属性の繊維、フレーク、粉末又はコロイドから構成される微粒子状材料であってもよい。好ましくは、放射線不透過性充填材が微粉末である。放射線不透過性充填材の粒子は、別の材料に比べ、根管仮封材分散体をX線に対して放射線不透過性とするよう十分に微粉砕されている。放射線不透過性充填材は、根管仮封材分散体中に水和固体又は無水和固体の形態で存在し得る。放射線不透過性充填材が、根管仮封材分散体の他の構成成分のいずれかにわずかでも可溶性である場合、放射線不透過性充填材は、溶液形態でも分散体中に存在し得る。
【0037】
放射線不透過性充填材は、別の材料に比べ、根管仮封材分散体をX線に対して不透過性とするのに十分な量で、根管仮封材分散体中に存在する。好ましい実施形態において、根管仮封材分散体は、2.5mm/mm アルミニウムを超える放射線不透過性を有する。より好ましくは、根管仮封材分散体は、4mm/mm Alを超え、最も好ましくは5mm/mm Alを超える放射線不透過性を有する。放射線不透過性はISO 6876:2001に従って測定される。
【0038】
これらの放射線不透過性は、放射線不透過性充填材を根管仮封材分散体中に組み込むことによって達成される。好ましい実施形態において、放射線不透過性充填材は、根管仮封材分散体中に組成物の総量に基づき10重量パーセント〜60重量パーセントの量で存在する。より好ましくは、放射線不透過性充填材は、根管仮封材中に、組成物の総量に基づき、20重量パーセント〜60重量パーセント、最も好ましくは25重量パーセント〜60重量パーセントの量で存在する。
【0039】
水性分散媒がアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む場合、根管仮封材分散体は、少なくとも0.5の、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比を有する。好ましくは、根管仮封材分散体は、少なくとも0.75、より好ましくは少なくとも1.0の、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比を有する。根管仮封材分散体が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの小さい重量比を有する場合、存在する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの割合は、特に、放射線不透過性充填材が高密度であるか、又は組成物の総量に基づき大きい重量パーセントで組み込まれる場合、放射線不透過性充填材が分散体から沈降するのを防ぐのに不十分なものである。アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの小さい重量比を有する根管仮封材分散体の固有の不安定性は、かかる分散体が粘稠性に欠けることを意味するのみならず、かかる分散体の可塑性が、根管を効果的かつ/又は十分な時間封止するのに不十分なものであることも意味する傾向にある。こうした状況下では、根管仮封材分散体が、放射線不透過性封止材として作用しなくなる。
【0040】
好ましい実施形態において、根管仮封材分散体は、0.1〜10の、放射線不透過性充填材に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマー、並びにアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の重量比を有する。好ましくは、根管仮封材分散体は、0.3〜5、より好ましくは0.45〜2の、放射線不透過性充填材に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマー、並びにアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の重量比を有する。放射線不透過性充填材に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマー、並びにアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の重量比が減少する場合、過剰量の放射線不透過性充填材が根管仮封材分散体から沈降するため、分散体は不安定なものとなる。対照的に、放射線不透過性充填材に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマー、並びにアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の重量比が増大すると、根管仮封材分散体の放射線不透過性は、X線放射と併せて使用される可視化剤として作用するには不十分なものになる。
【0041】
好ましい実施形態において、根管仮封材分散体は、少なくとも0.75の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーに対する放射線不透過性充填材の重量比を有する。好ましくは、根管仮封材分散体は、少なくとも0.9、より好ましくは少なくとも1.0の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーに対する放射線不透過性充填材の重量比を有する。放射線不透過性充填材の重量比が、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーに対して減少する場合、得られる根管仮封材分散体の放射線不透過性は、X線放射と併せて根管治療に使用される可視化剤として作用するには不十分なものとなる。
【0042】
根管仮封材分散体は、水性分散媒及び分散相のいずれか又は両方に存在し得るさらなる構成成分を付加的に含んでいてもよい。
【0043】
好ましい実施形態において、根管仮封材分散体の水性分散媒は、消毒剤を付加的に含有する。消毒剤は、抗生物質、殺菌剤及び静菌剤(bacteriostatins)から選択され得る。より詳細には、消毒剤は、それぞれ60体積%〜90体積%、60体積%〜70体積%及び70体積%〜80体積%の水溶液である、エタノール、プロパノール及びイソプロパノール等のアルコールの水溶液又はアルコールの混合物;オクテニジン二塩酸塩(octenidine dihydrochloride)、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム及び塩化ベンゼトニウム等の第四級アンモニウム化合物;フェノール、トリクロロフェノール、チモール、カルバクロール、トリクロサン及びクロロキシレノール等のフェノール類;ヨウ素の水溶液及び/又はアルコール溶液、ヨードホルム及びポビドン−ヨウ素等のヨードフォア;塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム及び過酸化水素等の無機化合物の水溶液;並びに、クロルヘキシジン、クロルヘキシジン二塩酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩及びクロルヘキシジングルコン酸塩等の、クロルヘキシジンをベースとした消毒剤から、単独で又は組み合わせて選択され得る。より好ましくは、消毒剤がクロルヘキシジンをベースとした消毒剤である。好ましい実施形態において、消毒剤はクロルヘキシジンである。
【0044】
根管窩洞の細菌感染が、根管仮封材分散体が所定位置にある間、又は窩洞を永久封止材で充填した後の任意の時点のいずれか(充填中又は充填後の時点)で起こることを防止するために、消毒剤を根管仮封材分散体中に組み込む。細菌感染が根管仮封材分散体又は永久封止材が所定位置にある間に起こることを回避するために、消毒剤の幾らかが口腔環境内への拡散によって封止材から漏出する場合であっても、根管を滅菌すると共に、根管を仮封する間、この条件で維持するように、十分量の消毒剤を根管仮封材分散体中に組み込む。
【0045】
根管仮封材分散体が所定位置にある間に、細菌感染が確実に起こらないようにするため、指示薬を根管仮封材分散体中に組み込んでもよい。好ましい実施形態において、根管仮封材分散体の水性分散媒は、pH指示薬を付加的に含有する。pH指示薬は、仮封された根管窩洞内における細菌増殖に関連するpHの低下に基づき、任意の所与の根管窩洞を仮封する有効性を測定するものである。このように、永久的な封止を行う前に、任意の所与の根管窩洞の無菌状態は、上記根管窩洞から根管仮封材分散体を除去すると共に、分散体中に組み込まれるpH指示薬に基づきそのpHを測定することによって評価することができる。pH指示薬は、チモールブルー、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ナフトールフタレイン、アリザリンイエローR、ロイコマラカイトグリーン及びクレゾールレッドのいずれかから選択され得る。好ましい実施形態において、pH指示薬はチモールブルーである。pH指示薬を含む根管仮封材分散体が、任意の所与の根管窩洞を封止すると共に滅菌する有効性は、仮封の間に窩洞の内部表面と接触した、根管仮封材分散体の表面の試験によって求められ得る。チモールブルーを含む根管仮封材の場合、細菌増殖を示す、分散体のそれらの表面は、細菌増殖部位におけるpHの局所的な低下により、青色から無色へと変化したと考えられる。
【0046】
好ましい実施形態において、根管仮封材分散体の水性分散媒は、湿潤剤を付加的に含有する。本発明で使用される湿潤剤は、塩化リチウム及び塩化カルシウム等の吸湿性の無機化合物;メタノール、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール;尿素及びアラントイン等の尿素類;エチレングリコール及びプロピレングリコール等のアルキレングリコール;ポリデキストロース等の多糖類;ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及びポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール;並びに、グリコール、グリセロール、トレイトール、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ズルシトール、イジトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトール及びソルビトール等の糖アルコール、並びにそれらのグリコシド、エーテル、アミン及びエステル、例えばトリアセチンから、単独で又は組み合わせて選択され得る。好ましい実施形態において、根管仮封材分散体の湿潤剤はソルビトールである。
【0047】
湿潤剤が多糖類及び/又はポリアルキレングリコールを含む場合、多糖類及び/又はポリアルキレングリコールの平均分子量(Mw)は好ましくは、500Da未満、より好ましくは480Da未満、最も好ましくは450Da未満である。これらの値を超える重量平均分子量を有する多糖類及び/又はポリアルキレングリコールの使用は、湿潤剤として作用しない傾向にある。ポリアルキレングリコールの場合、これは、平均分子量がヒドロキシル価を増大し、それ故、湿潤剤特性が低下するということに反映される。ポリアルキレングリコールを湿潤剤として使用する場合、ポリアルキレングリコールのヒドロキシル価は好ましくは、115mgKOH/g以上、より好ましくは125mgKOH/g以上、より好ましくは220mgKOH/g以上である。
【0048】
湿潤剤は、根管仮封材分散体中に、水和固体若しくは無水和の固体又は液体の形態で存在し得る。湿潤剤が、根管仮封材分散体の他の構成成分のいずれかにわずかでも可溶性である場合、湿潤剤は、溶液形態でも分散体中に存在し得る。
【0049】
湿潤剤は、根管仮封材分散体中に、組成物の総量に基づき、1重量パーセント〜10重量パーセントの量、好ましくは1重量パーセント〜5重量パーセント、より好ましくは1重量パーセント〜3重量パーセントの量で存在し得る。湿潤剤をこれらの割合で使用するのであれば、水性分散媒に固有の水分は、根管仮封材分散体、又は放射線不透過性充填材と別個に貯蔵される場合には、水性分散媒自体の貯蔵中に保持される。これは、水性分散媒は、放射線不透過性充填材と混合する前に凝固するか、又は極めて粘性となって、その結果、得られる根管仮封材分散体の可塑性、粘稠性及び均質性が低減することにより、分散体が、封止材、滅菌剤又は可視化材料としての使用に不適切なものとなることを防止する。その上、上記に規定されるよりも多くの量の湿潤剤を使用することは、根管仮封材分散体の粘度、それ故、封止能が下がるため、有益ではない。
【0050】
水に加え、根管仮封材分散体は有機溶媒を付加的に含有していてもよい。有機溶媒は、アルコール、エステル、エーテル及びケトンから、単独で又は組み合わせて選択され得る。好ましくは、溶媒が、直鎖、分岐状又は環状アルキルアルコール、又はそれらのエーテル若しくはエステルである。より好ましくは、溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、並びに適切な場合には、それらの分岐状又は環状異性体、並びにそれらのエステル及びエーテルから、単独で又は組み合わせて選択される。
【0051】
根管仮封材分散体は、組成物のpHを調整するために、強有機塩基若しくは強有機酸、又はそれらの塩を付加的に含んでいてもよい。強有機塩基は、アミン塩基、又はアミジン樹脂若しくはアミジンラテックス等のアミジン塩基であってもよい。強有機塩基又は強有機酸は、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの最大20重量%で存在し得る。
【0052】
根管仮封材分散体は、放射線不透過性充填材以外の充填材を付加的に含んでいてもよい。充填材は、結晶性、非晶質又は金属性の繊維、フレーク、粉末又はコロイドから構成される微粒子状材料であってもよい。好ましくは、充填材は、シリカゲル顆粒、アルミナ顆粒、炭素繊維、並びに金属、鉱物、ラテックス、樹脂、ナイロン、セルロース、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリアミド、ポリアルキレン、ポリアミド及びポリアクリルアミドの繊維及び/又は顆粒から、単独で又は組み合わせて選択され、水性分散媒中に分散する粒子を含む。好ましくは、充填材がシリカ粒子を含む。充填材は、根管仮封材分散体中に、水和固体又は無水和固体の形態で存在し得る。充填材が、根管仮封材分散体の他の構成成分のいずれかにわずかでも可溶性である場合、充填材も、溶液形態でも分散体中に存在し得る。
【0053】
本発明はまた、本発明の根管仮封材分散体の形成用の成分キットに関する。成分キットは、少なくとも2つの別個の包装品を含み、水性分散媒の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーが、放射線不透過性充填材、並びに、上記成分キットに含まれる場合には、アルカリ金属の水酸化物及び/若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、並びに/又はそれらの前駆体(単数又は複数)と別個に包装される。言い換えれば、水性分散媒の、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーを一パッケージ(包装)内にパッケージ(包装)し、放射線不透過性充填材を第2のパッケージ(包装)内にパッケージ(包装)する。
【0054】
成分キットがアルカリ金属の水酸化物及び/若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、並びに/又はそれらの前駆体(単数又は複数)をさらに含む場合、水酸化物を放射線不透過性充填材と一緒にパッケージしてもよい。代替的には、放射線不透過性充填材を、アルカリ金属の水酸化物及び/若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、並びに/又はそれらの前駆体(単数又は複数)と別個にパッケージしてもよい。根管仮封材分散体のさらなる構成成分、例えばpH指示薬及び/又は消毒剤も、それらの安定性及び/又は保存寿命に応じて別個にパッケージしてもよい。
【0055】
成分キットを構成する個々のパッケージの内容物の混合は、本発明の根管仮封材分散体の形成をもたらすと考えられる。混合は、ハンドスパチュレーション(hand spatulation)、機械混合又は静的混合等の任意の技法を用いて実施してもよく、分散相を水性分散媒中に均等に分散させるように働いて、粘稠性(consitency)を示す根管仮封材分散体をもたらす。
【0056】
これより、参照のために提示される実施例を参照して本発明を説明する。
【実施例】
【0057】
以下の実施例及び表において、特に指定のない限りパーセンテージは全て重量によるものである。さらに、以下の実験で使用されるポリエチレンイミンは、1800の数平均分子量(Mn)を有し、2000の重量平均分子量(Mw)を有する。付加的に、以下の実験で使用される水酸化カルシウムは96%を超える含有量(assay)を有し、一方で、タングステン酸カルシウムは6.4μmの粒径を有し、オキシ塩化ビスマスは、7.72g/mLの密度を有する99%純度の材料として使用される。
【0058】
実施例1
水(10g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を、タングステン酸カルシウム(12g)及び水酸化カルシウム(10g)と合わせ、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると(spatulated)、仮根管充填材分散体が得られた。
【0059】
実施例2
水(10g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を、タングステン酸カルシウム(20.13g)及び水酸化カルシウム(10g)と合わせ、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0060】
実施例3
水(7.645g)中に溶解させたポリエチレンイミン(7.645g)の溶液を、オキシ塩化ビスマス(10g)及び水酸化カルシウム(10g)と合わせ、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0061】
実施例4
水(15g)中に溶解させたポリエチレンイミン(15g)の溶液を、タングステン酸カルシウム(45g)及び水酸化カルシウム(25g)と合わせ、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0062】
実施例5
水(10g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を、タングステン酸カルシウム(10g)及び水酸化カルシウム(10g)と合わせ、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0063】
実施例1〜実施例5の根管仮封材分散体の組成を(以下の)表1に作表する。
【0064】
【表1】

【0065】
それらの放射線不透過性、封止能(皮膜厚さとして測定)、粘稠性、押出適性及びpH値(万能指示紙等の標準的なpH試験紙を用いて測定)の観点から、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体を市販の根管仮封材と比較した。放射線不透過性、粘稠性及び皮膜厚さは、ISO 6876:2001に従って測定する。これらの実験結果を表2に作表し、グラフとして図1〜図4に表す。
【0066】
【表2】

【0067】
図1は、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体それぞれの放射線不透過性が、2.73mm/mm アルミニウム〜6.49mm/mm アルミニウムの範囲にあることを示す。したがって、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体は、市販の根管仮封材に比べて優れた放射線不透過性を示す。
【0068】
図2は、表面への実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体それぞれの塗布によって、21μm〜30μmの範囲の厚さを有する皮膜が生成されることを示す。したがって、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体は、低い放射線不透過性を示すCalxylとして市場に出されているものを除き、市販の根管仮封材に比べて優れた封止能を示す。
【0069】
図3は、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体それぞれの粘稠性が、16.8mm〜23.3mmの範囲にあり、それ故、市販の根管仮封材のものに匹敵することを示す。同様に、図4は、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体それぞれのpH値が、13〜14のpH単位の範囲にあり、それ故、大部分がこの範囲のpH値を示す市販の根管仮封材のものに匹敵することを示す。表2の6段目は、実施例1の根管仮封材分散体を押し出すのに必要とされる力が市販のカルシウムヒドロキシペーストを押し出すのに必要とされるものに匹敵することを付加的に示している。
【0070】
それ故、実施例1〜実施例4の根管仮封材分散体は、任意の所与の根管窩洞を封止すると共に可視化するのに必要な、可塑性、粘稠性及び塗布し易さも維持しながら、市販の根管仮封材に比べて顕著な放射線不透過性及び封止能を示す。以下の実施例6〜実施例11は、根管仮封材分散体の2つの型、即ち、粉末−液体型及びペースト型に関する。粉末−液体型の根管仮封材分散体は、タングステン酸バリウム及び/又はタングステン酸カルシウムと混合される酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムのいずれかと、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、水とを適切な割合で含み得る。代替的に、粉末−液体型は、タングステン酸バリウム及び/又はタングステン酸カルシウムと混合されるクロルヘキシジンをと、オリゴマー及び/又はポリマーとアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物とを含む水性分散媒とを適切な割合(approporiate proportions)で含んでいてもよい。粉末−液体形態である根管仮封材分散体それぞれを、二成分ブリスターパッケージ内にパッケージしてもよく、これにより、粉末及び液体の構成成分がその別個の区画内にパッケージされる。ペースト型の根管仮封材分散体は、タングステン酸バリウム及び/又はタングステン酸カルシウムと混合される、酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムと、ポリエチレングリコールの水溶液及び/又はポリマーの水溶液とを含み得る。代替的に、ペースト型は、タングステン酸バリウム及び/又はタングステン酸カルシウムと混合されるクロルヘキシジン、並びにポリエチレングリコールの水溶液及び/又はポリマーの水溶液と、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物とを含む水性分散媒を適切な割合で含んでいてもよい。代替的に、ペーストは、タングステン酸バリウム及び/又はタングステン酸カルシウム、並びにポリエチレングリコールの水溶液及び/又はポリマーの水溶液と混合される、アミン若しくはアミジン等の強有機塩基又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の強有機酸と、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物とを含む水性分散媒を適切な割合で含んでいてもよい。ペースト形態である根管仮封材分散体はそれぞれ、注射器及びニードル又はコンピュール(compule)を用いて塗布することができる。
【0071】
実施例6(成分キットとしての粉末−液体型)
水(10g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージ(包装)し、水酸化カルシウム(10g)とタングステン酸カルシウム(20.13g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、水酸化カルシウムとタングステン酸カルシウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0072】
実施例7(成分キットとしての粉末−液体型)
水(12.4g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージし、酸化カルシウム(7.57g)とタングステン酸カルシウム(20.13g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、酸化カルシウムとタングステン酸カルシウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0073】
実施例8(成分キットとしての粉末−液体型)
水(10g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージし、水酸化カルシウム(10g)とタングステン酸バリウム(26.93g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、水酸化カルシウムとタングステン酸バリウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0074】
実施例9(成分キットとしての粉末−液体型)
水(12.4g)中に溶解させたポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージし、酸化カルシウム(7.57g)とタングステン酸バリウム(26.93g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、酸化カルシウムとタングステン酸バリウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0075】
実施例10(成分キットとしての粉末−液体型)
水(10g)中に溶解させたクロルヘキシジン(1g)及びポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージし、水酸化カルシウム(10g)とタングステン酸カルシウム(20.13g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、水酸化カルシウムとタングステン酸カルシウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0076】
実施例11(成分キットとしての粉末−液体型)
水(10g)中に溶解させたクロルヘキシジン(1g)及びポリエチレンイミン(10g)の溶液を一区画内にパッケージし、水酸化カルシウム(10g)とタングステン酸バリウム(26.93g)との混和物を別の区画内にパッケージした、二成分ブリスターパッケージの各区画を開いた。水中に溶解させたポリエチレンイミンの溶液と、水酸化カルシウムとタングステン酸カルシウムとの混和物とを、室温でおよそ5分間スパチュラを用いて撹拌すると、仮根管充填材分散体が得られた。
【0077】
実施例6〜実施例11の仮根管充填材分散体はそれぞれ、実施例1〜実施例4の仮根管充填材分散体に匹敵する特性を示し、注射器又はコンピュールにより投与することが可能であった。とりわけ、実施例10及び実施例11の仮根管充填材分散体は、高い放射線不透過性及び封止能を示すだけでなく、消毒剤でもある。
【0078】
故に、好ましくは根管仮封材分散体である、根管封止材分散体であって、
(i)
ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、
任意に、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物と、
を含む、水性分散媒と、
(ii)放射線不透過性充填材を含む分散相と、
を含み、上記水性分散媒が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む場合、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比が、少なくとも0.5である、根管封止材分散体は、任意の所与の根管窩洞を封止すると共に可視化するのに必要な、可塑性、粘稠性及び塗布し易さも維持しながら、市販の根管仮封材に比べて顕著な放射線不透過性及び封止能を示す。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも9のpHを有する根管仮封材分散体であって、
(i)
ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーと、
任意に、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物と、
を含む、水性分散媒と、
(ii)放射線不透過性充填材を含む分散相と、
を含み、前記水性分散媒が、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む場合、アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物に対する、ルイス塩基性基を有するオリゴマー及び/又はポリマーの重量比が、少なくとも0.5であることを特徴とする根管仮封材分散体。
【請求項2】
放射線不透過性充填材に対する、オリゴマー及び/又はポリマー、並びにアルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物の重量比が、0.1〜10である、請求項1に記載の根管仮封材分散体。
【請求項3】
オリゴマー及び/又はポリマーに対する放射線不透過性充填材の重量比が、少なくとも0.75である、請求項1又は2に記載の根管仮封材分散体。
【請求項4】
オリゴマーが、500Da〜10000Daの重量平均分子量(Mw)を有し、ポリマーが、10000Da〜200000Daの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項5】
前記オリゴマー及び/又はポリマーが、ポリアミン又はポリエチレンイミンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項6】
前記オリゴマー及び/又はポリマーが、組成物の総量に基づき10重量パーセント〜80重量パーセントの量で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項7】
前記アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物が、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの水酸化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて選択されるか、又は前記アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物が、in situにおいて、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの酸化物のいずれかから、単独で又は組み合わせて選択される前駆体から誘導される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項8】
前記アルカリ金属の水酸化物及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物が、前記組成物の総量に基づき1重量パーセント〜40重量パーセントの量で存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項9】
前記放射線不透過性充填材が、三酸化ビスマス、炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、次硝酸ビスマス、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムのいずれかから、単独で又は組み合わせて選択され、好ましくは、前記放射線不透過性充填材が、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムから、単独で又は組み合わせて選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項10】
前記放射線不透過性充填材が、前記組成物の総量に基づき10重量パーセント〜60重量パーセントの量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項11】
2.5mm/mm アルミニウムを超える放射線不透過性を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項12】
前記水性分散媒が、消毒剤、好ましくはクロルヘキシジンを付加的に含有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項13】
前記水性分散媒が、pH指示薬、好ましくはチモールブルーを付加的に含有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項14】
前記水性分散媒が、湿潤剤、好ましくはソルビトールを付加的に含有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体の形成用の成分キットであって、前記水性分散媒の前記オリゴマー及び/又はポリマーが、前記放射線不透過性充填材、並びに、該成分キットに含まれる場合には、前記アルカリ金属の水酸化物及び/若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、並びに/又はそれらの前駆体(単数又は複数)と別個に包装される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の根管仮封材分散体の形成用の成分キット。

【公表番号】特表2012−520836(P2012−520836A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500147(P2012−500147)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001708
【国際公開番号】WO2010/105834
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】