説明

根部を切断した植物鮮度保持剤及び2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セット

【課題】切り花等の根部を切断した植物の鮮度を維持する植物鮮度保持剤及び植物鮮度保持剤セットの提供。
【解決手段】根部を切断した植物鮮度保持剤は、下記式(1)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体を含有する。2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットは、植物鮮度組成物(A)と、他の切断植物用鮮度組成物(B)とからなり、(B)は殺菌剤、酸化ホウ素及び糖類を含有するのが好ましい。


(式中、R1はC1〜5の直鎖状アルキル基、又はC2〜5で2重結合が1もしくは2の直鎖状不飽和炭化水素基を表わす。また、R2はC1〜15の直鎖状アルキレン又はC2〜15で2重結合が1〜3の直鎖状不飽和炭化水素鎖を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り花等の根部を切断した植物(例えば、切花等)の鮮度を維持する根部を切断した植物鮮度保持剤及びそれと他の鮮度保持組成物とを組み合わせた2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットに関する。
より詳しくは、本発明は、切り花等の根部を切断した植物の鮮度を維持する新規物質であるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体を含有する根部を切断した植物鮮度保持剤、及びそれと他の鮮度保持組成物とを組み合わせてキット化した2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットに関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術文献]
【特許文献1】特開2004−2228
【特許文献2】特開平11−29410号公報
【特許文献3】特開2002−226309
【特許文献4】特開平9−295908号公報
【非特許文献1】Yokoyama et al., Plant Cell Physiol., 41,110-113,2000
【0003】
ガーデニングや園芸熱の高まりと共に生花やフラワーアレンジメント等も盛んになって来ており、ホテルやデパート等においては多量の切花を用いた装飾が行われている。
このように切花等の根を切断した植物は、鉢植えのように根がついた植物に比べ、これを放置した場合には勿論のこと、水に差した場合であっても、寿命は短く、この点を改善するために、水の腐敗防止、施肥等の各種工夫を行っているが、それでも充分に満足できる技術にはなっていないのが現状である。
また、最近においては、このような状況を改善すべく、殺菌剤、酸化ホウ素及び糖類を含有する切断植物用鮮度保持剤も既に提案あるいは市販されているが、これも充分に満足できるものとなっていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのようなことから、本発明者らは、根部を切断した植物鮮度保持剤及びそれに使用することを目的としてα−ケトール不飽和脂肪酸の合成に関し鋭意研究開発を行っており、その結果9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(),15()−オクタデカジエン酸などのα−ケトール不飽和脂肪酸が優れた鮮度保持性能を発現することを見出し、これについて既に特許出願した(特許文献1)。
そして、本発明者らは、それらに関し引き続き研究開発を継続しており、その結果先のα−ケトール不飽和脂肪酸と異なる新規な構造を持つα−ケトール不飽和脂肪酸の開発に成功し、これについて植物に対する特性を調べた。
【0005】
具体的には、α−ケトール及びオレフィン構造を持つと共に、それ以外に隣接した2つの炭素にOH基が存在するジオール構造、すなわち隣接ジオール構造を持った特定構造の新規物質の開発に本発明者らは成功し、この物質に関し、鮮度保持性能を調査したところ、優れた鮮度保持性能を発現し、かつ他の市販の各種切断植物用鮮鮮度保持剤と併用したところ、鮮度保持期間を著しく延長でき優れた鮮度保持性能を発現することを見出した。
したがって、本発明は、切り花等の根部を切断した植物の鮮度を維持する鮮度保持剤、及びその鮮度保持剤と他の切断植物用鮮鮮度保持組成物とを組み合わせてキット化した2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを提供することを発明の課題、すなわち目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記したとおり根部を切断した植物鮮度保持剤及び2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを提供するものであり、前者の根部を切断した植物鮮度保持剤は、下記一般式(1)で表わされるα-ケトール不飽和脂肪酸誘導体を含有することを特徴とするものである。
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基、又は炭素数2〜5で2重結合が1もしくは2の直鎖状不飽和炭化水素基を表わす。また、R2は炭素数1〜15の直鎖状アルキレン又は炭素数2〜15で2重結合が1〜3の直鎖状不飽和炭化水素鎖を表わす。ただし、この式における全炭素間の二重結合数は最大で4である。)
【0007】
また、後者の2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットは、前記一般式(1)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体[以下、α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)という]を含有する根部を切断した植物鮮度組成物(A)と、他の切断植物用鮮度組成物(B)とからなることを特徴とするものであり、前記切断植物用鮮度組成物(B)は殺菌剤、酸化ホウ素及び糖類を含有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤が含有する有効成分であるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)は、α−ケトール及びオレフィン構造を持つと共に、それ以外に隣接した2つの炭素にOH基が存在するジオール構造を持った新規物質である。
この物質は経時的安定性に優れ、かつ切断植物に適用した場合には優れた鮮度保持性能を発現する。
また、特に、これを殺菌剤、酸化ホウ素、糖類等を含有する他の切断植物用鮮度保持組成物と併用した場合には、切り花等の根部を切断した植物の鮮度保持期間を著しく延長でき、優れた鮮度保持性能を発現する。
【0009】
また、このα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)は、安価な方法で製造することができ、その結果、本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤及び2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを安価に提供することができる。
さらに、その誘導体は、低濃度でその性能を発現することができ、本発明では鮮度保持性能の優れた根部を切断した植物鮮度保持剤及び2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明について、発明を実施するための最良の形態を含む発明の実施の態様に関し詳述する。
本発明は、前記したとおり根部を切断した植物鮮度保持剤及び2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを提供するものであり、それらの有効成分であるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)は、前記したとおりα−ケトール及びオレフィン構造を持つと共に、それ以外に隣接した2つの炭素にOH基が存在するジオール構造を持った新規物質で経時的安定性に優れ、かつ切断植物に適用した場合には優れた鮮度保持性能を発現する。
また、これを殺菌剤、酸化ホウ素、糖類等を含有する他の切断植物用鮮度組成物と併用した場合には、切り花等の根部を切断した植物の鮮度保持期間を著しく延長でき、優れた鮮度保持性能を発現する。
【0011】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤は、その名称が示すとおり勿論単独で使用することもできるが、殺菌剤、酸化ホウ素、糖類などを含有する、他の既知の切断植物用鮮度組成物と併用することができるものであり、併用することが好ましい。
その際には、前記一般式(1)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体を有効成分とする根部を切断した植物鮮度組成物(A)(以下単に組成物(A)ということもある)と、他の切断植物用鮮度組成物(B)(以下単に組成物(B)ということもある)とをキット化した2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットとするのが好ましい。
【0012】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤である組成物は、他の切断植物用鮮度保持組成物と組み合わせてキット化して提供し、それを購入者が使用時に現場にて調合して利用するのがよい。
なお、本発明においては、組成物(A)と組成物(B)とをキット化して提供し用事調製するのではなく、組成物(A)と組成物(B)とを予め混合して1つの組成物として提供することは勿論可能である。
【0013】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤における有効成分は前記一般式(1)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)であるから、その合成法、特性等に関し、まず説明する。
そのα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)の具体例としては、例えば9,15,16−ヒドロキシ−10−オキソ−12()−オクタデセン酸(式1A)等を挙げることができる。
【0014】
【化3】

なお、前記化学式における「Z」は、シス・トランス異性におけるシス体であることを意味し、それに付されたアンダーラインは、本来イタリック体で表記すべきものであることを示す。
【0015】
[α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)の合成について]
α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)については、下記一般式(2)で表されるα−ケトール不飽和脂肪酸(以下、α−ケトール不飽和脂肪酸(2)という)を変換させて製造するのが実用的である。
【化4】

(式中、R1は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基、又は炭素数2〜5で2重結合が1もしくは2の直鎖状不飽和炭化水素基を表わす。また、R2は炭素数1〜15の直鎖状アルキレン又は炭素数2〜15で2重結合が1〜3の直鎖状不飽和炭化水素鎖を表わす。ただし、この式における全炭素間の二重結合数は最大で4である。)
【0016】
なお、そのα−ケトール不飽和脂肪酸(2)の代表的な例としては下記式(式2A)の構造を持つα−ケトール不飽和脂肪酸(2A)があるが、その製造は、例えば特許文献4、特許文献2、非特許文献1の記載の方法により行うことができる。
【化5】

【0017】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤における有効成分である特定α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1A)は、特定α−ケトール不飽和脂肪酸(2A)を活性酸素や塩素ラジカルを発生するような強い酸化剤と接触させることにより製造することができる。
そのような酸化状態を導くものには、例えば次亜塩素酸ソーダや塩素化イソシアヌル酸がある。
その反応時間は一時間以内に終了することがよく、好ましくは30分以内である。
必要以上に反応時間が延びることは生成した特定αケトール不飽和脂肪酸誘導体(1A)が再び分解する危険性が増加することになる。
【0018】
従って、重要なのは特定α−ケトール不飽和脂肪酸(2A)と酸化剤の存在比である。
次亜塩素酸ソーダを使用した場合、特定α−ケトール不飽和脂肪酸(2A)のモル数100に対して次亜塩素酸ソーダは0.01〜10モル数が好ましい。
次亜塩素酸ソーダの適量は、特定α−ケトール不飽和脂肪酸(2A)の純度によって大きく異なり、90%以上の純度の場合100モルに対して0.01〜0.5モルである。
【0019】
その際の反応温度は特に問わないが、好ましくは氷冷下から室温が良い。
また、その反応は、水中、あるいはメタノール,エタノール,アセトン等の含水有機溶媒中で行うことができる。
本発明化合物の検出にはUV検出器を用いることができ、これにHPLC等を組み合わせて本発明化合物を単離精製することができる。
また、通常公知の方法を用いて反応液から単離精製することができ、例えば溶媒による抽出法やカラムクロマトグラフィー等を用いることができる。
【0020】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤における有効成分である、上記したα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)の植物に対する投与濃度の下限は、植物個体の種類や大きさにより異なるが、1つの植物個体に対して1回の投与当り、1μM以上が一応の目安である。
そのαケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)の配合量は、その使用態様や使用する対象となる植物の種類、さらには本組成物の具体的な剤形等に応じて選択することが可能である。 その態様としては、α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)をそのまま用いることも可能であるが、使用時における該脂肪酸誘導体の濃度は、0.1〜400μM程度がよく、好ましくは1〜200μM程度がよい。
【0021】
本発明保持剤に係る組成物は、根部を切断した各種植物に対して、鮮度保持、開花促進、花芽形成の各作用の少なくともひとつの作用を有する。
その対象としては、根部を切断した植物が広く包含され、例えば、切花、パセリ、セロリ、クレソン、セリ、ハーブ、サンショ、オオバ、ミョウガ、ヒカゲ、スギの葉、食用菊、ニラ、ワサビその他根を切断して、食用や観賞用に供する植物がすべて包含される。
【0022】
したがって、本発明に係る組成物は、該植物の基部等一部分又は全体を浸漬する水に添加してもよいし、本保持剤組成物を添加した水をスプレーしたり、滴加したりしてもよい。
例えば、切花の場合、花瓶の水に本組成物を加えたり、生花においては、水盤型花器や壷型花器の水に本組成物を加えたり、また、フラワーアレンジメント等においては、オアシスに含ませる水に本組成物を加えたりすることができる。
【0023】
本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤における有効成分である、上記したα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)は、前記したとおり殺菌剤、酸化ホウ素及び糖類等を含有する組成物(B)と併用することが好ましく、その際にはα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)を有効成分とする組成物(A)と、組成物(B)とを組み合わせてキット化した2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットとして提供するのがよいことも前記したとおりである。
そして、その際におけるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)を有効成分とする組成物(A)には、α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)以外に、公知の担体成分や製剤用補助剤等を含有せしめて、製剤学上の常法にしたがって、液剤、固形剤、粉剤、乳剤、底床添加剤等各種剤形に製剤化することができる。
【0024】
例えば、担体成分としては、低床添加剤又は固形剤に製剤する場合には、概ねタルク、クレー、バーミキュライト、珪藻土、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、白土、シリカゲル等の無機質や小麦粉、澱粉等の固体担体が、また液剤とする場合には、概ね水、キシレン等の芳香族炭化水素類、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の液体担体が上記の担体成分として用いられる。
【0025】
また、製剤用補助剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級脂肪酸アミンの塩類等の陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアシルエステル、ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル、セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等の増粘剤、増量剤、結合剤を適宜配合することができる。
【0026】
さらに、必要に応じて一般的な植物成長調節剤や、安息香酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ピペコリン酸等を、上記の本発明の所期の効果を損なわない限度において、組成物B中に配合することもできる。
もちろん、α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)の安定性に問題がない場合あるいは安定剤を使用して安定化した場合には、組成物(A)は組成物(B)とは分離する必要はなく、ひとつの組成物とすることが可能である。
【0027】
なお、組成物(A)の有効成分であるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)は、α−ケトール不飽和脂肪酸(2)よりも安定であるが、使用目的により、それでも十分ではないときには、α−ケトール不飽和脂肪酸誘導体(1)のみ、もしくはエタノールやクロロホルム等の溶媒に溶解しておき、これを例えば−10℃以下、好ましくは−20℃以下の低温に保持して組成物(A)としてもよいし、又は、安定化剤の存在下、室温もしくは低温に保持して組成物(A)としておき、使用時において組成物(B)とは別個に水に添加使用すればよく、本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤は用時製剤とすることができる。
【0028】
次に、2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セットを形成する際に使用するもう一つの組成物である切断植物用鮮度組成物(B)、すなわち組成物(B)に関し説明する。
その組成物(B)は、前記したとおり殺菌剤、酸化ホウ素及び糖類を含有するのが好ましい。
その殺菌剤としては、庭木、花等の各種植物の殺菌剤として使用されるものであれば、各種のものが使用でき、特に制限されるものではなく、塩素、ジクロロイソシアヌル酸、塩化ベンザルコニウム、8−ヒドロキシキノリンクエン酸あるいは硫酸アルミニウム等が例示できる。
それらは、通常、粉末状あるいは顆粒状の形状で市販されているものである。
【0029】
本発明においては、その殺菌剤の含有量は、組成物(B)100質量部に対して0.25〜1.0質量部、好ましくは0.3〜0.7質量部である。
その組成物(B)における酸化ホウ素(無水ホウ酸)は、殺菌剤の安定化のために配合するものである。
その含有量は組成物(B)100質量部に対して0.125〜1.0質量部、好ましくは0.15〜0.7質量部であり、この量よりも多く含有させると、花あるいは葉に対して褐変等の害が生じ、観賞価値を下げるため好ましくない。
なお、酸化ホウ素は前述の殺菌剤との質量比が1/0.25〜1/1の範囲で含有させるのがよい。
【0030】
また、本発明の保持剤セットにおいて用いる糖については、水溶性の糖であれば、特に制限されることなく各種のものが使用でき、グルコース、マンノース、ガラクトース、ショ糖、果糖等が例示でき、これらを単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
これらの糖の中では、特に、ショ糖あるいは果糖は植物が利用し易いという点で好適である。
これらの糖の含有量は、組成物(B)100質量部に対して90〜99.5質量部、好ましくは95〜99.4質量部である。
【0031】
本発明の保持剤セットを形成する組成物(B)には、以上の成分以外に、必要に応じて界面活性剤、担体、色素、香料等を含有させてもよい。
その界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ソルビタンモノアルキレート、アセチレングリコール、ポリオキシエチレンアセチレングリコールエーテル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0032】
さらに、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルアリール燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩及びその縮合物、リグニンスルホン酸塩、アクリル酸とイタコン酸の共重合物あるいはメタアクリル酸とイタコン酸の共重合物、マレイン酸とスチレンの共重合物、マレイン酸とジイソブチレンの共重合物及びこれらのアルカリ金属塩等のポリカルボン型高分子活性剤、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、これらの界面活性剤は単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
その担体としては、クレー類、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、珪藻土、ゼオライト、アタパルジャイト、石膏、陶石、ホワイトカーボン、軽石、木粉、真珠岩や黒曜石よりなるパーライト等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
[特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1)の製造例]
本発明の有効成分である特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1)は、新規物質であるから、以下にその製造例を示す。
その誘導体(1)は、前記したとおりα−ケトール不飽和脂肪酸(2)を変換させて製造するのが実用的である。
なお、その原材料となるα−ケトール不飽和脂肪酸(2)の製造法は既知であり、それについては前記したとおり特許文献2、特許文献4あるいは非特許文献1等に開示されており、本発明においてもそれを用いて製造したものを利用できるので、本明細書においては説明を省略する。
【0035】
[製造例1] 特定αケトール脂肪酸誘導体(1A)の製造例
以下のようにして、特定ケトール脂肪酸誘導体9,15,16-トリハイドロキシ-10-オキソ-12(Z)-オクタデセン酸(1A)の製造、単離精製及び構造解析を行った。
特定α−ケトール脂肪酸(2A)500mgを1.3Lの水に溶解して、そこに塩素化イソシアヌル酸を192mg加え、25℃で30分攪拌した。
撹拌後反応液をクロロホルム500mLで3回抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後濃縮し、得られた粗抽出物をHPLCによりさらに分画を行った(カラム:カプセルパックC-18 UG120,4.6x250mm,溶媒:25%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸,流速:1ml/min,波長:300nm)。
【0036】
保持時間5.7分のピークに関して、カラムサイズを大きくして(カプセルパックC-18 UG120,10x250mm)分取後クロロホルムで抽出を行い、化合物Mを187.5mg得た(収率38%)。
その化合物Mの構造解析を行った。
吸収スペクトルはUV V−560分光光度計(日本分光)、1H−及び13C−NMRはECP−400(日本電子)を用いて測定した。
その結果は下記のとおりである。
【0037】
UV λmax (MeOH, nm): 201.0nm (ε=4520).
1H-NMR(400MHz, CDCl3): δ0.97 (3H, t, J=7.2, 18-H3), 1.25-1.46 (8H, 4,5,6,7-H2), 1.63 (4H, m, 3,17-H2),1.63, 1.83 (both 1H, m, 8-H2), 2.34 (2H, t-like, J=7.2, 2-H2), 2.58, 2.66 (both 1H, m, 14-H2), 3.31 (2H, m, 11-H2), 3.75 (1H, m, 15-H), 3.85 (1H, m, 16-H), 4.24 (1H, m, 9-H), 5.68 (1H, m, 12-H), 5.72 (1H, m, 13-H).13C−NMR(100MHz, CDCl3): 10.0 (C-18), 24.5, 27.8, 28.1, 28.8, 28.9, 29.0 (C-3,4,5,6,7,17), 33.5 (C-2), 33.8 (C-8), 33.9 (C-14), 36.6 (C-11), 66.1 (C-15), 73.9 (C-16), 76.2 (C-9), 123.3 (C-13), 128.9 (C-12), 179.1 (C-1), 210.3 (C-10).
【0038】
上記プロトン及びカーボンの帰属は、DIFCOSY、HMQC及びHMBCスペクトルなどの2次元NMRスペクトルを測定して行った。
得られたデータを特定α−ケトール脂肪酸(2A)のデータ(特許文献4及び非特許文献1の記載)と比較したところ、特定α−ケトール脂肪酸(2A)の1組のオレフィンが消失し代わりに水酸基が結合したメチン2個が認められた。
なお、9位水酸基及び10位ケト基は存在していた。
また、HMBC及びDIFCOSYの解析結果により、消失したオレフィンは15位であることが判明した。
以上のことから、水酸基が結合したメチンの位置は、C−15,C−16位であると判断した。
以上のデータより、化合物Mは9,15,16−ヒドロキシ−10−オキソ−12()−オクタデセン酸(式1A)であると結論付けた。
【0039】
[製造例2] 酸化剤使用量と特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の生成変換率との関係を示す試験例
以下のようにして、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の製造時における次亜塩素酸ソーダの最適な混合比を調べた。
精製水25mLに特定αケトール脂肪酸(2A)エタノール溶液(112mM、3.5%)を188μl加えた(完全には溶解せず、白濁状態であった)。
この特定α−ケトール脂肪酸(2A)水溶液を攪拌しながら、そこに次亜塩素酸ソーダ溶液(和光純薬工業株式会社製)を6μlから1μlづつ、20μlまで増加させた量をそれぞれ添加した。
【0040】
10分経過後、HPLC(カラム:カプセルパックC-18 UG120,4.6x250mm,溶媒:25%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸,流速:1ml/min,波長:300nm)で分析、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)を定量した。
その結果、0.09%程度の次亜塩素酸ソーダ溶液で、特定α−ケトール脂肪酸(2A)は、ほぼ100%特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)に変換することがわかった。
その結果は図1に示す。
【0041】
[製造例3] 特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の他の製造例
特定α−ケトール脂肪酸(2A)500mgを1.9Lの水に溶解して、そこに次亜塩素酸ソーダ溶液を1.2mL加え、室温に10分以上放置した。
反応液をクロロホルム500mLで3回抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後濃縮し、得られた粗抽出物をHPLCにより更に分画を行った(カラム:カプセルパックC-18 UG120,10x250mm,溶媒:25%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸,流速:4ml/min,波長:300nm)。
分取後クロロホルムで抽出を行い、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)を472mg得た(収率85%)。
【0042】
[実施例]
以下において、本発明の根部を切断した植物鮮度保持剤及び根部を切断した植物鮮度保持剤セットの使用例を実施例として具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
また、合わせて本発明根部を切断した植物鮮度保持剤の有効成分である特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の安定性性能評価試験例についても実施例として説明するが、本発明は、これによって何ら限定されるものではないことはいうまでもない。
なお、本発明根部を切断した植物鮮度保持剤の有効成分である特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1)には、複数の不斉炭素に起因する立体異性体が存在するが、本発明根部を切断した植物鮮度保持剤の有効成分としては個々の光学活性体あるいはそれらの混合物であってもよい。
【実施例1】
【0043】
バラ(ローテローザ)を40cmの長さに切りそろえ、下の方に付いている葉を落とした5本をまず500mL三角フラスコ(500mLの水)に入れた。
さらに、0.5%濃度の特定αケトール脂肪酸(1A)を2ppmになるように200mLの水に溶かし、それにも5本のバラを入れた。
後者については、翌日(18時間後)、500mLの水に戻した。
それらのバラに関し、目視にて観察し、その観察結果を切りバラ鑑賞指数(Quality Index)を用いてデータ化した。
そのバラ鑑賞指数(Quality Index)は、表1に示すとおりである。
【0044】
そのQuality Indexは、バラのつぼみ状態から、開花、落花までの経時的変化を満開を頂点の「7」として指数化したものである。
そのため、例えばQuality Index値「2」は、「蕾が固い」状態である共に「花弁の彩度低下や花弁の下垂など花の衰えが進んだ」状態でもある。
なお、「花弁の落花が進むなど、鑑賞価値なし」の状態は、該Index値は「0」である。
また、花の「首の曲がり」は、鑑賞価値を低減させることになるから、花首に曲がりが発生した場合に、その度合いに応じて表1の「首の曲がり」の数値に基づいてIndex値を減ずることになる。

また、表1の「首の曲がり」の数値は、花首に曲がりが発生した場合に、その度合いに応じて表1の「首の曲がり」の数値に基づいてIndex値を減ずるためのものである。
【0045】
【表1】

【0046】
その観察結果によれば、バラ(ローテローザ)を水だけで活けた場合は、完全に開花しないうちに花首の曲がりが発生したものが2例あった。
特定α−ケトール脂肪酸(1A)を処理したものではそのような例はなく、全て、開花にまで進んだ。
また、平均のQuality Indexを図2に示したが、明らかに特定αケトール脂肪酸(1A)に鮮度保持効果が認められた。
【実施例2】
【0047】
バラ(ローテローザ)を40cmの長さに切りそろえ、下の方に付いている葉を落とした。
500mL三角フラスコに400mLの水を入れ、先の処理をしたバラをそれぞれ5本ずつ入れた。
各三角フラスコに特定α−ケトール脂肪酸(1A)を1又は20ppmになるように添加した。
【0048】
その鮮度保持効果については、切断直後と、その後の観察時におけるバラの重量変化に基づいて行った。
なお、具体的には、重量変化の相対値で行った。
その理由は、植物体の重量の経時的な変化が鑑賞的な価値ともっともよく相関することがわかったためである。
その結果については、重量変化の相対値で図3に図示する。
その図3から明らかなように、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)が、1ppmのとき、鮮度保持効果を示した。
【実施例3】
【0049】
実施例2と同様の条件で市販の鮮度保持剤(「フローリスト」、武田園芸製)に特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)5又は10ppmを加えた際の鮮度保持効果を調べた。
なお、本実施例を含め、以後の実施例においては、鮮度保持効果は植物体の重量変化を用いて観察した。。
その結果を図示する図4から明らかなように、フローリスト(FL)に対しても鮮度保持延長効果を示した。
【実施例4】
【0050】
実施例2と同様の条件で市販の鮮度保持剤(「美咲」、大塚化学製)に特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)5又は10ppmを加えた際の鮮度保持効果を調べた。
その結果を図示する図5から明らかなように、「美咲」に対しても鮮度保持延長効果を示した。
【実施例5】
【0051】
市販の鮮度保持剤(「美咲」、大塚化学製)400mLを500mLフラスコに加え、実施例2と同様な要領でバラ(ローテローザ)をそれぞれ5本入れた。
他方、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)を1、10、及び20ppmになるように水に溶かし、スプレーで植物全体(花は除く)に噴霧した。
その結果を図示する図6から明らかなように、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)はスプレーで与えても鮮度保持効果を示すことがわかった。
なお、この場合には濃度による鮮度保持効果の違いは見られなかった。
【実施例6】
【0052】
市販の鮮度保持剤(「美咲」、大塚化学製)400mLを500mLフラスコに加え、実施例2と同様な要領でバラ(ローテローザ)をそれぞれ5本入れた。
特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)は最初の3日間だけ与え、4日目以降は前記市販の鮮度保持剤だけの溶液に移した。
その結果を図示する図7から明らかなように、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)を短期間だけ与えても、濃度依存的に鮮度保持効果を示した。
これは、生産者・販売者が使った場合、消費者が特に鮮度保持剤を使わなくても鮮度保持効果があらわれるので、非常に有用な性質である。
【実施例7】
【0053】
実施例7と同様な実験であるが、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)は20ppmを1日(24時間)だけ与えた。
2日目以降は鮮度保持剤を含まない水に移した。
その結果を図示する図8に見られるように、鮮度保持効果は実施例5よりも弱くなったが、一日だけの処理でも有益であることがわかった。
【実施例8】
【0054】
特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)20ppm入りの市販の鮮度保持剤(「美咲」、大塚化学製)、又は該市販の鮮度保持剤単独を1晩(18時間)だけ与えた。
その後、消費者が切り花を購入した後、鮮度保持剤を使わなかったことを想定して水に移した。
その結果を図示する図9に見られるように、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の効果は顕著であった。
【0055】
[安定性評価] 特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の安定性評価試験
特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の安定性の評価を以下のとおり行った。
前記誘導体(1A)16mMのエタノール溶液を水で30倍に希釈した。
その希釈した溶液を、4℃、25℃及び50℃の各温度において長期間放置し、経時的的な分解の程度をHPLCで分析した(カラム:カプセルパックC-18 UG120,4.6x250mm,溶媒:50%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸,流速:1ml/min,波長:210nm)。
比較のために、特定α−ケトール脂肪酸誘導体(2A)についても同様に希釈して調製した溶液を、25℃及び50℃において長期間放置し、同様に分解の程度を調査した。
【0056】
その調査結果は、図10に図示した。
この図10の結果から、本発明の特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)は、25℃及び50℃の両放置温度において、比較対照の特定α−ケトール脂肪酸誘導体(2A)よりも安定性に優れていることが明らかである。
また、4℃における安定性調査については、本発明の特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)についてのみ実施したが、その結果によれば25℃及び50℃と比較すると遥かに安定性に優れていることがわかる。
前記のとおりであるから、本発明の特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)は、4℃で長期間安定に保管できることもわかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】次亜塩素酸ソーダ添加量の違いによる特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の変換生成量を図示。
【図2】実施例1に基づくバラ鑑賞指数による鮮度保持性能試験結果の図示。
【図3】実施例2の鮮度保持効果の図示(重量経時的変化による、以下同じ)。
【図4】実施例3の鮮度保持効果の図示。
【図5】実施例4の鮮度保持効果の図示。
【図6】実施例5の鮮度保持効果の図示。
【図7】実施例6の鮮度保持効果の図示。
【図8】実施例7の鮮度保持効果の図示。
【図9】実施例8の鮮度保持効果の図示。
【図10】特定α−ケトール脂肪酸誘導体(1A)の安定性評価試験結果の図示。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるα-ケトール不飽和脂肪酸誘導体を含有することを特徴とする根部を切断した植物鮮度保持剤。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜5の直鎖状アルキル基、又は炭素数2〜5で2重結合が1もしくは2の直鎖状不飽和炭化水素基を表わす。また、R2は炭素数1〜15の直鎖状アルキレン又は炭素数2〜15で2重結合が1〜3の直鎖状不飽和炭化水素鎖を表わす。ただし、この式における全炭素間の二重結合数は最大で4である。)
【請求項2】
前記不飽和脂肪酸誘導体は、炭素原子数が18であり、かつ、炭素間の二重結合が1又は2である、請求項1に記載の根部を切断した植物鮮度保持剤。
【請求項3】
前記不飽和脂肪酸誘導体は、9,15,16−トリヒドロキシ−10−オキソ−12()−オクタデセン酸である、請求項1又は2に記載の根部を切断した植物鮮度保持剤。
【請求項4】
前記一般式(1)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸誘導体を含有する根部を切断した植物鮮度保持組成物(A)と、切断植物用鮮度保持組成物(B)とからなることを特徴とする2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セット。
【請求項5】
前記不飽和脂肪酸誘導体が、9,15,16−トリヒドロキシ−10−オキソ−12()−オクタデセン酸である請求項4に記載の2剤混合型の根部を切断した植物鮮度保持剤セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−151822(P2006−151822A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340407(P2004−340407)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】