説明

格納式流体採取装置

【発明の詳細な説明】
発明の分野
この発明は、患者からの体液を集める装置に関し、より具体的には、患者と医療者との間における相互汚染の危険性を少なくする装置に関する。
発明の背景
最近のAIDSの流行により、患者の血液の分析用試料の採取の際、重大かつ致命的な危険の可能性が増している。血液の採取は、患者の血管に針を挿入し、その針を通じて血液を引き出し、所定の収集容器の中に入れることにより行なわれる。血液の取出し中や、その後の取扱い作業、廃棄作業中に、使用された針が取扱者にうっかり突き刺さることがある。
最も一般的に使用されている血液採集装置として、ベクトン・ディッキンソン・コーポレイションが商標名"Vacutainer"で販売しているものがある。従来、この種の装置は、端部に針を具えた筒状注射器状本体を有しており、その一部は、筒状注射器状のシェルの中にあり、その一部は皮膚に突き刺すために外部に突出している。皮膚が突き刺された後、収集管が押されて、針を空の管の中に強制的に進入させ、血液は収集管の中に吸い込まれる。十分な試料が採取されると、収集管とそのストッパーは筒状のシェルから簡単に取り出されて、研究室に送られる。針は、収集管が入れられた注射器状のシェルの端部から永久的に突出している。その結果、使用済の装置を取り扱うのに多大の注意を要する。
体液を採取するのに使用される装置として、針を収容する注射器状の管と螺合する針アッセンブリを使用したものがある。針アッセンブリは、針の前端部が患者の血液に突き刺され、針の後端部が空の収集管の中に入れられる。使用後、針アッセンブリは手で取り扱われる。廃棄又は殺菌を行なうのに、ネジを外さねばならない。この種の装置として、その他に、前部に取り付けられた針アッセンブリが、外部に配置されたラッチ機構によって保持されるものがあり、針アッセンブリを廃棄するために、前方に取り外すことができる。廃棄処分を行なう人にとって、汚染された針は依然として危険である。針アッセンブリは、バネで前方に向けて付勢されている。この種の装置の一例が、ワナメーカー(Wanamaker)に付与された米国特許第4841985号に示されている。
被覆された安全注射器の中へ針を格納する装置として、その他に、外側に円筒形の保護鞘部と、内側にはスリーブの中を軸方向に移動可能な針キャリヤを設けたものがある。針キャリヤは、後方に付勢された針を有しており、該針は、外側鞘部の中を摺動可能な内側スリーブの中に配備される。針キャリヤに接続された位置制御部は、外側スリーブの溝の中を貫通しており、針は手動操作で後退させることができる。しかし、針は再び取り出すことができる。針の後退は永久的なものでない。このような装置はヘイバー(Haber)に付与された米国特許第4813426号に記載されている。この装置は、複雑な部品を必要とし、製造及び組立て費用が高い。
格納式流体採取装置では、経済的に大量生産される部品で簡単に組み立てられること、そして自動的かつ永久的に格納されることが好ましい。この装置の場合、針保護具なしで収容される位置と、使用に際し、針を他の部品に取り付けたりすることなく簡単に引き出すことのできる位置を移動できるものが望ましい。この装置では、使用済の針が必ず保護鞘具の中に完全に収容されることができ、格納機構が部品の撓み又は破損などに左右されないものが望ましい。
ここに開示される発明は前述の特徴を有している。発明のその他の目的と利点は添付の図面に基づく以下の説明から明らかになるであろう。なお、この発明の実施例は単なる例示である。
発明の要旨
本発明は、人の血液などの体液の如き流体(fluid)を採取するのに使用され、高精度で組立て容易な格納式流体採取装置(retractable fluid collection device)を提供する。同軸状に配備された入れ子式部材により、中空針の移動を制御するもので、該針は両端に流体と連通する尖鋭部を有し、一方の尖鋭部は、引き出されると血管に進入させることができ、他方の尖鋭部は、入れ子式部材の中にあって、取外し可能な収集管のダイヤフラムから挿入されるようにしている。針は、格納用部材に取り付けられ、該部材は入れ子式部材の一方に連結される。その連結面は、入れ子式部材と格納用部材が摩擦で係止する面であり、針は使用位置まで引き出すことができる。針を保持する格納用部材を動かないように規制しておき、格納用部材に摩擦で係止している部材を強制移動させると、前記部材は摩擦接触面を摺動し、格納用部材が分離するため、安全かつ確実に針の格納が行なわれる。
装置は、前端部を有する細長い筒状部材と、同軸状に配備され内部に格納スペースを有する可動部材を具えている。可動部材は筒状部材の内部に摺動可能に配備され、軸方向に移動して筒状部材の前端部に接近し、前端部から離間できる。中空針は、格納用部材に保持される。格納用部材と可動部材は、両部材の夫々の略平行な面が相互に作用し合って形成する軸方向の摩擦接触面により、摩擦力で保持される。格納用部材の一部は、摩擦接触面で摩擦力により、可動部材と係止されており、リングの形態が望ましい。可動部材の前部はヘッドがあり、該ヘッドは、内面が開口し、その内面形状は格納用部材の望ましいリング形状部の外表面に対応する形状が望ましい。
可動部材は、摩擦で保持された格納用部材と一緒に、軸方向に移動可能である。この可動部材の移動は、筒状部材の前端部方向の第1の位置までの移動と、第1の位置よりも筒状部材の前端部に近い第2の位置までの移動がある。第1の位置は針の使用位置であり、この位置で、格納用部材に取り付けられた針は、筒状部材の前端部のポートつまり開口から引き出される。
格納用部材には、付勢手段から後退方向の力が作用し、格納用部材は格納スペースに移動させられる。付勢手段は、細長い筒状部材の前端部と格納用部材との間にバネを装填することが望ましい。バネは、可動部材が第1の位置まで摺動するにつれて圧縮される。格納用部材が第1の位置を越えてさらに前方に移動するのを防止する手段が設けられる。可動部材が筒状部材に関して第1の位置から第2の位置まで移動するとき、針を後退させる方向の力が作用し、格納用部材と摩擦接触面との係止が解除されると、格納用部材の後退が始まる。摩擦接触面が少なくなるにつれて、摩擦保持力も小さくなって、バネの後退方向の力よりも小さくなる。このとき、格納用部材は、突然、永久的に分離されて格納スペースの中に後退する。この格納スペースは針が装置の中に収容されるのに十分な長さを有している。
可動部材は軸方向前方位置にヘッド部があり、該ヘッド部は、開口に1又は2以上の内向きランド部が形成され、相互に作用し合う略平行な面を具えており、この面は、格納用部材の略平行な面と摩擦力で係止し、摩擦接触面を形成する。格納用部材の相互に作用し合う略平行な面は、格納用部材の一部分からなり可動部材に面する外周面を有している。ランド部は、円形の外周面に接触するセグメントが所定の角度間隔で形成されたもので、針の保持部材と相互に作用する略平行な面を有している。保持部材と可動部材が摩擦によって係止した表面は、筒状部材に関して長手方向に軸線が揃っていてもよいが、2つの要素をややテーパ状に形成し、2つの要素をくさび状に組み合わせて、所望の大きさの既知の力を作用させて摩擦で係止させると、係止を解除するためには、ほぼ同じ力を作用させればよいので、より好ましい。テーパ状態は、摩擦接触面の後部側が広く、摩擦接触面の前部側が狭く形成されており、針を保持する格納用部材は、格納用部材が静止したままで可動部材が軸方向前方に移動すると、係止状態が解除される。これは、摩擦接触面の接触面積が小さくなって、後退方向の力が摩擦による保持力よりも大きくなったとき、付勢手段つまりバネの作用により、格納用部材と針は可動部材の格納スペースの中に速やかにかつ瞬間的に移動する。格納用部材つまり針部材は、略平行な面を平行に摺動し、可動部材つまりプランジャーの中に格納される。
可動部材は格納スペースを有する中空プランジャーであってよく、細長い筒状部材は軸方向に延びる壁により形成される細長い鞘部であってよい。鞘部は、作動機構が内部に配備されている。作動機構は中空のプランジャー部材を具えており、その前部は壁とスライド接触するように配備され、後部は鞘部から突出し、収集管挿入のための開口を有している。プランジャーの前部の開口は、針ホルダーを摩擦で保持する表面を有している。プランジャーと協同作用する針ホルダーの表面は、針ホルダーを摩擦で保持する表面と共に、開口の中で針ホルダーを摩擦で保持し摺動可能な面を具えている。作動機構は、同軸状に配置され鞘部の中に支持された付勢手段を具えており、プランジャー部材が軸方向に移動すると、針ホルダーに付勢力が作用するようにしている。
作動機構を針の使用位置で保持するために、掛り部が鞘部の中に設けられる。使用位置は、針ホルダーに取り付けられた針が、鞘部から引き出されたときの位置である。プランジャーは、針の使用位置を越えて軸方向にさらに移動可能であり、摩擦接触面を摺動して針ホルダーから外れて、針ホルダーとの係止が解除される。針ホルダーは、付勢力により、プランジャーの格納スペースの中に速やかに後退する。プランジャーが針の使用位置を超えて後退開始位置まで軸方向に移動すると、針ホルダーとそれに取り付けられた針は、鞘部の中に完全に格納される。プランジャーが針の使用位置を越えて移動するとき、針ホルダーが軸方向にそれ以上移動するのを防止する手段が含まれており、これにより後退は正確に制御される。プランジャーが前方に移動するとき、針ホルダーの移動は規制されているから、摩擦接触面を摺動していくうちに、プランジャーと針ホルダーの係止が解除され、針ホルダーは確実に格納される。後退を開始させるのに、要素を撓ましたり、要素を手で取り扱ったり、ばらしたりする必要はない。
プランジャー部材つまり可動部材は、位置決め装置を配備することが好ましく、この位置決め装置は、筒状装置つまり鞘部の一部と協同作用して、プランジャーを第1の位置つまり針使用位置に選択的に位置決めし、プランジャーを第2の位置つまり針後退開始位置に移動させて、格納を確実に行なうようにするものである。位置決め装置は、プランジャーの後部に取り付けられ、鞘部の壁に当接して作動する2位置キャップが望ましい。キャップ部材がプランジャーに関して前方位置にあるとき、キャップ部材は鞘部の後端部に当接し、プランジャーを第1の使用位置に位置決めする。キャップ部材がプランジャーのさらに背後にある第2の位置まで戻されると、プランジャーは第1の使用位置から第2の後退位置までさらに移動することができるから、確実に後退が開始する。
針ホルダーが第1の使用位置を越えて移動するのを防止する手段は、格納用部材のノーズ部であってよく、ノーズ部は筒状部材の前端部に位置する係止面に当接する。前方への移動を防止する手段は、付勢手段を完全に圧縮した状態から非圧縮までの状態によってもたらすことも可能であり、これもホルダーの範囲内である。これは、コイルバネを圧縮して積み重ねることにより行なわれ、前方への移動を防止するのに有効である。
格納が行なわれた後、取扱者が針に触れることのないように、可動プランジャーが鞘部から引き出されるのを防止する掛り手段がさらに設けられる。格納された針は、格納後も鞘部の中に完全に収容されるように、コイル状のバネ部材は、非圧縮状態の長さが十分なものとする。その結果、装置の使用後、収集管を取り除いて、プランジャーを格納位置に移動させた後に、針が突き刺さる虞れはない。装置は、筒状部材つまり鞘部の壁に突起を設けて、その突起をプランジャーのヘッドの外面部に当接させて、装置を使用前の出荷位置に保持することが好ましい。このとき、針ホルダーに取り付けられた針は、プランジャーが少し前方に移動して突起との係合が解除されるまで、ホルダーの中に完全に収容されている。
中空針とバネ部材を除いて、装置は注射器の技術分野で一般に使用されているプラスチック材料から形成することが望ましい。要素を単純な直線にすれば、簡素化に寄与し、実用的な経済的ユニットを大量生産するのに理想的な部品を作ることができる。数多くの外金型の中で部品を作るのに特別の鋳造技術は必要としない。重要な交差もない。可動部材と格納用部材との間に少しテーパ状の摩擦接触面を形成することにより、組立て工程中に摩擦保持力を自由に調節するこができる。従って、後退させるのに必要な力の選択は、完全に再現できる。

【図面の簡単な説明】

図1は、組み立てられた格納式流体採取装置が出荷位置にあるときの断面図である。
図2は、組み立てられた格納式流体採取装置が、使用のために中空針の一端部を引き出した第1の位置つまり使用位置にあるときの断面図である。
図3は、図2の装置のキャップ部材が、格納準備のために後方位置つまり第2の位置に移動させられており、キャップ付きの空の収集管が、可動部材の開口を通じて挿入され、中空針の内側の端部によって孔があけられた状態を示している。
図4は、図3の装置の収集管が取り除かれた後、プランジャーが軸方向前方に移動させられた結果、針が鞘部の中に完全に収容されたときの状態を示す断面図である。
図5は、図1乃至図4のプランジャー部材の斜視図である。
図6は、図5に示される可動プランジャーの前方端部の6−6線から見た図であり、格納用部材つまり針ホルダーを追加して、図1に示す可動部材が同軸上にどのように配置されるかを示している。
図7は、プランジャー部材の他の実施例の後端部の上端部を示す図であり、2位置プランジャーとするために使用されるキャップ部材の他の例を示している。
図8は、図7のプランジャーの8−8線に沿う断面図である。
発明の詳細な説明
図1において、流体採取装置はその全体が符号(10)で示されている。構造体(10)は、細長い筒状部材又は鞘本体(12)と称されることがある。筒状部材(12)は前端部(14)にポート(15)を有している。筒状部材(12)の内部には、格納スペース(18)を有する可動部材つまりプランジャー(16)が摺動可能に配備されている。プランジャー(16)のヘッド(26)は、プランジャーの軸方向前方位置に形成されている。格納用部材つまり針ホルダー(20)は、プランジャー前部のヘッド(26)の開口内の摩擦接触面(18)に沿って摩擦力で保持されている。プランジャー(16)は、筒状部材(12)の中に同軸状に配備され、筒状部材(12)の軸方向に延びる側壁(30)を摺動する。プランジャー(16)は、前端部(14)に接近する方へ移動できるように、また前端部(14)から離れる方へ移動できるように配備される。
両端が開口した中空の針(32)が、格納用部材つまり針ホルダー(20)の中に固定され取り付けられる。針ホルダー(20)は、軸孔に沿って、軸方向に間隔をあけて一連の空間部(19)が設けられており、その中にエポキシ等の接着剤を入れて針(32)が固定される。針(32)は、尖った前端部(34)と、尖った後端部(36)を有している。可撓性のゴム被覆体(38)が、汚染防止のために、針の後端部を被覆している。
可動プランジャー(16)の後端部(40)には、2位置キャップ部材(42)が設けられる。このキャップ部材(42)は図1乃至図4に示される。図示の部材には、2組のテーパ状把持面(44)が、可動プランジャー(16)の上端部(40)近傍のテーパ状把持面(46)と係合している。より複雑な端部キャップを図7に示しており、これについては後で説明する。
図2を参照すると、軸方向に延びる側壁(24)(30)は、互いに係合する掛り部(48)(50)を有している。壁(30)の掛り部(48)は内向きに突出し、壁(24)の掛り部(50)は外向きに突出し、針の使用時の位置である第1の位置にてプランジャー(16)を保持できるようにしている。掛り部(48)(50)は実質的に環状である。壁(30)の内表面には、ヘッド(26)の環状溝(54)と係合する突起(52)が設けられている。溝(54)は、ヘッド(26)の外周面(56)に形成される。図1の商品出荷位置(shipping position)では、突起(52)は溝(54)の中に嵌まっており、ヘッド(26)の後部は、掛り部(48)の存在により、軸方向後方への移動は妨げられる。これらの掛り部、突起、溝は、わかり易くするために誇張して示されている。プランジャーのヘッドは、筒状部材(12)の後端部(13)から容易に挿入できるようにするため、掛り部(48)の上を前方に滑るような構造にしている。
図2を再び参照すると、針ホルダー(20)は、前方に突出するノーズ部(58)がテーパ状の前部(60)を有しており、この前部(60)は、第1の位置で、筒状部材(12)の前部(14)に形成された係止面(62)に当接する。ノーズ部(60)と係止面(62)は、表面どうしが互いに接触するとき、格納用部材と軸心が揃うようにテーパ状になっている。プランジャーが図2に示される第1の位置まで移動したとき、コイルがそれ以上圧縮不能な状態にすることにより、同軸状に配置された付勢部材(22)もまた針ホルダーの係止部を構成することができる。
図5を参照すると、ヘッド(26)は、複数のセグメント(64)が所定の角度間隔で形成されている。セグメント(64)は壁(24)の周囲に等間隔で配備され、円弧状のランド部(28)が内向きに突出し、図5に最も良く示されるように、相互作用する略平行面(66)を形成している。また、相互作用する略平行面(68)が、針ホルダー(20)の外周部に形成される。これは、針ホルダー(20)の外周面(68)と、ヘッド(26)の内周面(66)との摩擦接触量を制御する別の方法である。セグメント(64)をもっと小さくしたり、或いは大きくしたり、また完全なリング状にすることにより、相互作用する略平行面(66)(68)の間の接触量を変えることができる。針ホルダー(20)は、バネ(22)の上端部開口の中に嵌まる環状フランジ(70)を有していてもよい。
図2は、第1の位置、すなわち使用位置(operating position)を示している。可動部材(16)は、筒状部材(12)の前端部の方に、第1の位置よりも前端部に近い第2の位置まで選択的に移動可能である。摩擦スライド接触部(18)の面積を非常に小さなものとするために、プランジャー(16)が筒状部材(12)に関して軸方向前方に向かって移動する距離はあまり大きくならないようにしていることは容易に理解されるであろう。プランジャーが、ヘッド(26)の略平行面(66)に等しい距離だけ軸方向に移動させられると、バネ(22)の作用を受けている針ホルダーとの接触は完全に解除される。プランジャーが表面(66)の軸方向長さ分だけ移動すると、格納用部材(20)は、バネ(22)による後退方向の付勢力を受けて後退させられる。実際には、後退方向の力が摺動面(18)に作用する摩擦力を超えると、プランジャーの移動が完全に行なわれる少し前に後退が始まる。従って、プランジャー(16)の第2の位置の軸方向距離は正確に定めることはできない。ただ言えることは、後退を始めるのに十分な距離だけ第1の位置よりも軸方向前方位置にあるということである。
図3において、空の収集管(72)はダイヤフラム又はゴム製のキャップ(74)を有している。端部キャップ(42)の後端部は、管(72)を入れる開口(76)を有している。可動部材つまりプランジャー(16)は、同じように、その後端部に管(72)を入れる開口(78)を有している。プランジャー(16)は、掛り部(48)(50)により筒状部材(12)に保持され、中空針(32)は使用位置まで引き出されている。
装置出荷の際、装置は図1の位置で組み立てられてるので、針を損傷する虞れがなく、また装置を取り扱う者を傷つける虞れはない。針は鞘部(12)の中に完全に収容されているため、針の上にカバーを設ける必要はない。出荷位置の状態では、突起はプランジャーを軽く保持する。使用の準備を行なうに際し、プランジャー(16)は、キャップ部材(42)の規制を受ける位置まで押し下げられ、掛り部(48)(50)が係合し、装置は使用のための第1の動作位置で保持される。針(32)は、鞘部の前部から引き出され、針ホルダー(20)は係止部に当接する。次に、収集管(72)が開口(76)(78)の中に挿入され、ダイヤフラム(74)に孔をあけることなく、針(32)の後端部(36)と接触する。キャップ部材は第2の位置に引き戻されるが、プランジャー(16)は鞘部(12)の掛り部(48)により保持されているので、キャップ部材(42)のこの移動は容易に行なわれる。
針(32)の尖った端部(34)が患者の中に挿入されて、血管に通じると、筒状部材(72)は前方に押されて、尖った端部(36)がダイヤフラム(74)に孔をあけるので、血液は、管(72)内の空チャンバー(80)に集められる。十分な量の血液が採取されると、装置は患者から取り外され、収集管(72)は装置から取り出される。このときの状態は図2に示されるのと同じ様に見えるが、図2との違いは、キャップ部材が図3に示される第2の位置まで引き戻されていることである。プランジャーは次に、第2の位置に向けて前方に押される。プランジャー(16)が針ホルダー(20)に関して移動するにつれて、摺動面(18)の面積は小さくなる。針ホルダー(20)は固定されているので、動くことができない。プランジャーが前方に移動し、バネ(22)から針ホルダー(20)にもたらされる後退力が摺動面(18)での摩擦保持力を超える位置に達すると、針ホルダーは格納スペース(17)の中に引き込められる。格納は速やかに行なわれ、格納された位置は図4に示される。バネ(22)は、完全に非圧縮状態の高さとなり、針ホルダー(20)はプランジャー(16)の格納スペースの中に収容される。針(32)は、尖った端部(34)を含めて、前部(14)のポート(15)を通って鞘部(12)の中に引っ込められる。針の後退は速やかに行なわれ、永久的である。針ホルダーとプランジャー(16)との摩擦による係合が解除されると、針が再び引き出されることはない。プランジャー(16)の内面は、1又は2以上のストッパー(25)を有しており、針ホルダー(20)がプランジャー(16)の後部から出て行かないようにしている。このように、格納された針ホルダーを装置の内側で保持しながら、収集管(72)の挿入と取出しを行なえるように作られており、図4では誇張して示されている。
2位置端部キャップ(82)の他の実施例が図7及び図8に示されている。端部キャップ(82)は、収集管挿入のための開口(86)を有する親指リング(84)と、該リングから垂下し内側表面に突起(90)を設けた壁(88)を有している。プランジャー(16)の上端部の外壁部には、1又は2以上の溝(92)が形成されている。溝(92)はJ字状であり、一方向ストッパー(94)が設けられており、突起(90)が溝(92)の中に挿入されると、突起は一方向に移動できる。これにより、2位置端部キャップは、突起(90)が2つの係止部の間にあるときは前部位置、突起(90)が第2の係止部(94)を越えて引き戻されるときは後部位置である。図8の断面図は、溝(92)の中の係止部(94)の位置を示している。なお、係止部はわかり易くするために、誇張して示されている。
装置は大量生産で簡単に組み立てられる。針(32)は、エポキシ樹脂で針ホルダー(20)に固定される。ゴム製の被覆体(38)は、針の端部(36)の上に置いてもよいし、接着剤により針ホルダーに固定してもよい。このアッセンブリは、プランジャーの後部開口から挿入される。プランジャーの相互作用面(66)と針ホルダーの相互作用面(68)は、針とほぼ平行に軸方向に延びており、摩擦接触面(18)を構成する。それら面は、前部に向けて僅かにテーパ状であることが望ましく、針ホルダー(20)は、後部からヘッド(26)の開口に容易く挿入されることができ、くさび状に押しこまれて、予め定められた一定荷重を受けて摩擦により係止する。例えば、2ポンドの荷重で係止すると、後退させるためにプランジャーが前方に押されるとき、略同じ2ポンドの力で係止が解除される。より大きな力が望ましい場合、組立て工程で、より大きな負荷を加えることができる。オートメーション製造では、組立て時に同じ力を各ユニットに与えることができるので、オートメーション製造に良く適しており、再現性は大いに高められる。これは、製造交差がさほど重要でなくなるという利点もある。針ホルダーの外周部が僅かに小さくなると、所望の摩擦接触が得られるまでもう少し前方に移動するだけでよい。格納式装置が周囲温度の変動にさらされた場合でも、熱膨張差が最小となるように、針ホルダーとプランジャーを同じプラスチック材料から成形することが望ましい。
構成要素の形状は円形が望ましいが、非円形断面の要素を用いることも本発明の範囲内である。プランジャーの開口が円形でなく、針ホルダーの周囲もこれに対応して非円形の場合、摺動面の形状は非円形にすることができる。端部キャップが最後部位置に置かれる場合、格納部と干渉しないように、プランジャーを2位置端部キャップに代えて1位置端部キャップにすることも本発明の範囲内である。使用者がプランジャーを第1の位置に固定することを所望する場合、プランジャーの移動は停止される。次に、使用後、端部キャップと干渉せずに後退させるために、プランジャーをさらに前方に押しやることができる。装置の壁部を透明にすると、プランジャーがどの位置にあるかを容易に知ることができ、針が格納されたことを確認できる。発明の精神又は請求の範囲から逸脱すすることなく、望ましい実施例に種々の変形をなし得るであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の体液を採取するのに使用されている格納式流体採取装置であって:
細長い筒状部材は軸心と前端部を有し;
可動部材は格納スペースを有し、該可動部材は筒状部材の中に配備され、筒状部材の前端部に向けて移動可能であり;
針ホルダーは、長手方向の摩擦接触面にて可動部材との摩擦により保持され、摩擦接触面は、針ホルダーの側にある少なくとも1つの略平行な表面と、可動部材の側にある少なくとも1つの略平行な表面とから構成され、
可動部材は摩擦により保持された針ホルダーと一緒に、筒状部材の前端部に向けて第1の位置まで軸方向に移動可能であり、可動部材は、第1の位置よりも前端部に接近した第2の位置まで移動可能であり;
付勢手段が、筒状部材の前端部に配備され、針ホルダーに対して後退方向の力を付勢しており;
付勢手段により針ホルダーに加えられる後退方向の力により、針ホルダーは格納スペースの中に格納されるようにしており;
可動部材が、細長い筒状部材と針ホルダーに関して、第1の位置から第2の位置まで移動させられると、後退方向の力に対応して、針ホルダーと可動部材の摩擦接触面における係止状態が解除され、針ホルダーの格納が行われるようにしている、格納式流体採取装置。
【請求項2】
可動部材は前方位置にヘッドを具え、該ヘッドは内向きに突出する1又は2以上のランド部を有しており、可動部材は針ホルダーと協同作用する少なくとも1の略平行な表面を有し、この表面は、針ホルダーの少なくとも1の略平行な表面と摩擦接触面を形成し、可動部材と針ホルダーは摩擦力で係止される請求項1に記載の格納式流体採取装置。
【請求項3】
可動部材と協同作用する針ホルダーの少なくとも1の略平行な表面は、針ホルダーの部分であって可動部材に面する外周面を有している請求項2に記載の格納式流体採取装置。
【請求項4】
針ホルダーは外周面形状が円形であり、可動部材と協同作用する少なくとも1の略平行な表面を具えている請求項3に記載の格納式流体採取装置。
【請求項5】
細長い筒状部材は、可動部材が第1の位置と第2の位置の間を移動する間、針ホルダーの前方への移動を阻止する手段を具えた構造である請求項1に記載の格納式流体採取装置。
【請求項6】
針ホルダーの前方への移動を阻止する手段は、針ホルダーのノーズ部を含んでおり、該ノーズ部は筒状部材の前端部に位置する係止面に当接する請求項5に記載の格納式流体採取装置。
【請求項7】
付勢手段は、可動部材と針ホルダーが第1の位置へ移動するときは圧縮されるようにしており、可動部材が第1の位置と第2の位置との間をさらに移動するときは圧縮されないようにしており、圧縮不能となった付勢手段は、可動部材が第1の位置と第2の位置の間を移動する間、針ホルダーの前方への移動を阻止する手段として作用する請求項5に記載の格納式流体採取装置。
【請求項8】
付勢手段はコイルバネであり、そのサイズは、可動部材が第1の位置まで移動したとき、コイルの相互干渉により圧縮不能状態になる大きさである請求項7に記載の格納式流体採取装置。
【請求項9】
ノーズ部と係止面はテーパ状であり、両者が接触すると、針ホルダーの軸心位置が揃うようにしている請求項6に記載の格納式流体採取装置。
【請求項10】
可動部材には2位置キャップが設けられ、該キャップは細長い筒状部材の一部と協同作用して、可動部材を第1の位置で選択的に位置決めし、また、可動部材を第2の位置まで移動できるようにしている請求項5に記載の格納式流体採取装置。
【請求項11】
掛り手段は、可動部材と、摩擦で保持された針ホルダーとを、第1の位置で位置決めする請求項10に記載の格納式流体採取装置。
【請求項12】
細長い筒状部材は側壁を有し、掛り手段が側壁の内側に配置され、可動部材の掛り部に係合するようにしている請求項11に記載の格納式流体採取装置。
【請求項13】
針ホルダーはノーズ部から突出する針を含んでおり、可動部材が第1の位置にあるとき、針は使用に供されるために筒状部材の前端部から引き出され、可動部材が第2の位置まで移動すると、針は後退して筒状部材の中に引っ込められる請求項6に記載の格納式流体採取装置。
【請求項14】
掛り手段は、可動部材と、摩擦で保持された針ホルダーを第1の位置で位置決めする請求項13に記載の格納式流体採取装置。
【請求項15】
針は針ホルダーを通して格納スペースに進入し、格納スペースのサイズは、可動部材が第1の位置にあるとき、人の体液を供給する針と連通する収集管を収容できる大きさである請求項14に記載の格納式流体採取装置。
【請求項16】
流体収集管を具え、人の体液を集めるのに使用される格納式流体採取装置であって:
細長い鞘部本体は、軸方向に延びる壁により形成され;
作動機構が鞘部の中に配備され、該作動機構は以下のように構成される:
中空部を有するプランジャーは、前部が壁の内部に配置されて、後部が鞘部本体から突出し、プランジャーの後部は収集管を挿入するための開口を有しており;
プランジャーの前部に開口が形成され、該開口は針ホルダーを摩擦で保持する表面を有しており;
針ホルダーはプランジャーと協同作用する表面を有し、該表面は前記開口の中で針ホルダーを摩擦力で保持する摩擦接触面であり、針ホルダーは付勢力に抗してプランジャーと一緒に移動可能であり;
付勢手段は同軸状に配置されて鞘部の中で支持され、プランジャー部材が軸方向に移動すると、針ホルダーに付勢力が作用するようにしており;
掛り部は、作動機構を針使用位置で選択的に保持し;
プランジャーは、針の使用位置を越えて後退開始位置までさらに移動可能であり、プランジャーが摩擦接触面を摺動すると、針ホルダーから外れて針ホルダーとの係止が解除されるようにして、針ホルダーは、付勢手段からの付勢力により、プランジャーの中に向けて後退するようにしており;
プランジャーが針の使用位置を超えて後退開始位置まで移動すると、針ホルダーは、鞘部の中に完全に格納される、格納式流体採取装置。
【請求項17】
プランジャーが針の使用位置を越えて移動するとき、針ホルダーが軸方向にそれ以上移動するのを阻止する手段を含んでいる請求項16に記載の格納式流体採取装置。
【請求項18】
摩擦接触面は、軸方向に移動する方向に形成され、プランジャーが針の使用位置を越えて後退開始位置の方に移動するにつれて、摩擦接触面の接触面積は徐々に小さくなり、プランジャーと針ホルダーによる摩擦保持力が、付勢手段から針ホルダーに作用する付勢力よりも小さくなったとき、プランジャーと針ホルダーの係止状態が解除される請求項17に記載の格納式流体採取装置。
【請求項19】
プランジャーには位置決め装置が配備されており、該位置決め装置は、細長い鞘部本体の一部と作用して、プランジャーを針の使用位置で選択的に位置決めし、プランジャーが後退開始位置まで移動できるようにして針が格納されるようにしている請求項16に記載の格納式流体採取装置。
【請求項20】
位置決め装置はプランジャーの後部に配備された2位置キャップ部材であり、該キャップ部材が鞘部の壁に係止する位置を利用して位置決めされるようにしている請求項19に記載の格納式流体採取装置。
【請求項21】
収集管と共に使用するための格納式流体採取装置であって:
細長い中空の鞘部は、軸方向を前端部まで延びる側壁によって構成され;
プランジャーの中空本体部は側壁により構成され、プランジャー本体部は、収集管のための開口を有する後部と、開口を有する前部との間を軸方向に延びており、プランジャーは、鞘部の側壁内部に配備され、鞘部の前端部に接近する方向に移動可能であり、また鞘部の前端部から離間する方向に移動可能であり;
針ホルダーは、針ホルダーの表面とプランジャーの前部開口表面が協同作用して形成される摩擦接触面において摩擦力により保持されて、プランジャーと共に移動可能であり;
摩擦接触面は軸方向の向きであり、摩擦力で係止する力をもたらし、針ホルダーに作用する付勢力に抗して、プランジャーの前部開口内で針ホルダーを保持するようにしており;
付勢力を針ホルダーに作用させるためのバネが、針ホルダーの中に配備され;
針は針ホルダーから突出するように針ホルダーに取り付けられ;
プランジャーは軸方向に移動可能であり、針ホルダーを、鞘部の前部の位置であって、針が鞘部から突出する使用位置にて、付勢力よりも大きな摩擦保持力をもって位置決めできるようにしており;
プランジャーは鞘部の前部に向けて、係止解除位置まで軸方向に移動可能であり、プランジャーの移動により摩擦接触面の面積が小さくなって付勢力が摩擦係止力よりも大きくなると、針ホルダーはプランジャーの中空本体部の中に後退させられ、鞘部の中に針が格納される、格納式流体採取装置。
【請求項22】
プランジャーを針の使用位置に固定し、プランジャーが鞘部から引き出されるのを防止する掛り部手段が配備されている請求項21に記載の格納式流体採取装置。
【請求項23】
プランジャーは、その側壁にストッパー手段が設けられており、針ホルダーは、針が鞘部の中で格納されるのに十分な距離をバネによって後退させられ、このストッパー手段により、針ホルダーがプランジャー内で保持されるようにしている請求項22に記載の格納式流体採取装置。
【請求項24】
針ホルダーは、前方に向けて突出するノーズ部を具えており、該ノーズ部は鞘部の前端部に係止部が形成され、プランジャーが摩擦係止解除位置に向けて前方に移動する際、針ホルダーは使用位置を越えて前方に移動しないようにしている請求項23に記載の格納式流体採取装置。
【請求項25】
プランジャーは2位置式の端部キャップであり、第1の位置は、プランジャーが、使用位置と摩擦接触解除位置との間を移動するのを阻止する位置であり、第2の位置は、プランジャーが、摩擦接触解除位置に向けてさらに前方に移動できる位置である請求項24に記載の格納式流体採取装置。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】特許第3574658号(P3574658)
【登録日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【発行日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−516812
【出願日】平成6年12月6日(1994.12.6)
【公表番号】特表平9−506533
【公表日】平成9年6月30日(1997.6.30)
【国際出願番号】PCT/US1994/013953
【国際公開番号】WO1995/016389
【国際公開日】平成7年6月22日(1995.6.22)
【審査請求日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【特許権者】
【識別番号】         
【氏名又は名称】ショー,トーマス ジェイ.
【参考文献】
【文献】米国特許第5201710(US,A)
【文献】米国特許第4904242(US,A)