説明

栽培システム

【課題】植物の効果的な生育を維持可能であり、植物に与える水量が過剰になる虞を低減することができ、より効果的な節水も可能とするような栽培システムであるとともに、容易に構築可能な栽培システムを提供する。
【解決手段】内部に吸液材4を配設されるとともに、該吸液材4上に植物5を栽培可能な培地6を敷設される栽培領域7とを有する栽培装置3と、栽培装置3に灌液を供給する給液装置2と、を備える栽培システム1において、給液装置2は、灌液Wを供給口13から供給可能な灌液供給部8と、灌液供給部8から灌液Wを供給されるとともに内部に一定量の灌液Wを存在させる滞留槽9と、栽培領域7の吸液材4の設置位置よりも下側に配置されて該栽培領域7に供給される灌液Wを貯留する貯留容器10と、滞留槽9の位置を上下方向に移動させる昇降制御機構11と、該昇降制御機構11の動作を制御する昇降制御部12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に伴って深刻な水不足や渇水化の進行し、様々な植物の栽培に大きな悪影響が出ることや、農作物の生産に悪影響が及ぶことが懸念されている。そこで、少ない水を効果的に使用して植物を栽培することを可能とするような栽培システムの確立が要請されている。そのような栽培システムとして、点滴灌漑法や多孔管灌漑法等を用いた栽培システムが提案されており、さらに、水分を植物の根の部分に直接供給するように構成した地中灌水法等を組み合わせて、水の使用を極力低減させて節水を可能にした栽培システムが提案されている(特許文献1から3等)。ところが、特許文献1から3で提案された栽培システムでは、植物に与える水の量を減らすことができるが、植物の効率的な生育に望ましい量の水分が植物に与えられているか否かは不明であり、栽培者の経験に頼らざるをえず、植物の効果的な生育の点で十分であるとはいえない。
【0003】
そこで、本発明者らは、栽培しようとする植物の生育状態や生育環境に対応させて水を給水手段から供給する栽培システムを提案した(特許文献4)。この栽培システムでは、植物の効果的な生育を維持しつつ、植物に与える水量が過剰になる虞を低減することができ、より効果的な節水が可能となる。
【0004】
ところで水不足や渇水化は地球規模で進行しており、それに伴い厳しい気候条件であるような地域やインフラ事情の悪い地域などにも節水を可能にした栽培システムが必要とされる。このため、栽培システムはできるだけ容易に構築可能なものであることが要請される。この点、特許文献4で提案された栽培システムでは、負圧差灌漑法を適用することで、給水手段の作動を制御する機構をより容易に構築可能なものとすることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−016080号公報
【特許文献2】米国特許4928427
【特許文献3】米国特許5839659
【特許文献4】特開2009−296940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4でも示されるような負圧差灌漑法は、培地に埋設される多孔質管に送られる水量を負圧差で制御するように構成される。ところが、この方法は、多孔質管の孔の閉塞の問題を抱えており、更なる改良を期待されるものである。したがって、効果的な節水が可能であって容易に構築可能な栽培システムは、その確立を待ち望まれている状況にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み構成されたものであって、
(1)内部に吸液材を配設されるとともに、該吸液材上に植物を栽培可能な培地を敷設される栽培領域とを有する栽培装置と、
栽培装置に灌液を供給する給液装置と、を備える栽培システムであって、
給液装置は、灌液を供給口から供給可能な灌液供給部と、灌液供給部から灌液を供給されるとともに内部に一定量の灌液を存在させる滞留槽と、栽培領域の吸液材の設置位置よりも下側に配置されて該栽培領域に供給される灌液を貯留する貯留容器と、滞留槽の位置を上下方向に移動させる昇降制御機構と、該昇降制御機構の動作を制御する昇降制御部とを備えており、
貯留容器には、該貯留容器内の灌液を吸上げ可能な吸上材が設けられ、該吸上材は、上端側を栽培装置の吸液材に接触させるとともに、下端側を灌液に浸漬させており、
貯留容器と滞留槽は、灌液を互いに通液可能に導管で接続されるとともに灌液の液面の高さを互いに揃えており、
昇降制御部は、滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されている、ことを特徴とする栽培システム、
(2)内部に吸液材を配設されるとともに、該吸液材上に植物を栽培可能な培地を敷設される栽培領域とを有する栽培装置と、
栽培装置に灌液を供給する給液装置と、を備える栽培システムであって、
給液装置は、灌液を供給口から供給可能な灌液供給部と、灌液供給部から灌液を供給されるとともに内部に一定量の灌液を存在させる滞留槽と、栽培領域の吸液材の設置位置よりも下側に配置されて該栽培領域に供給される灌液を貯留する貯留容器と、滞留槽の位置を上下方向に移動させる昇降制御機構と、該昇降制御機構の動作を制御する昇降制御部とを備えており、
貯留容器には、該貯留容器内の灌液を吸上げ可能な吸上材が設けられ、該吸上材は、上端側を栽培装置の吸液材に接触させるとともに、下端側を灌液に浸漬させており、
貯留容器と滞留槽は、灌液を互いに通液可能に導管で接続されるとともに灌液の液面の高さを互いに揃えており、
昇降制御部は、滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されており、
貯留容器と滞留槽の少なくともいずれか一方の内部には、天然鉱石からなる粒体が混入している、ことを特徴とする栽培システム、
(3)粒体を構成する天然鉱石は、変成岩である、上記(2)に記載の栽培システム、
(4)粒体を構成する天然鉱石は、マイロナイトである、上記(2)に記載の栽培システム、
(5)昇降制御部は、栽培装置で生育される植物に要請される灌液の量に応じて滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されている、上記(1)から(4)のいずれかに記載の栽培システム、
(6)吸上材は、毛細管現象により該貯留容器内の灌液を吸上げるものである、上記(1)から(5)のいずれかに記載の栽培システム、を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物の効果的な生育を維持可能であり、植物に与える水量が過剰になる虞を低減することができ、より効果的な節水も可能とするような栽培システムであるとともに、容易に構築可能な栽培システムの確立が可能となる。
【0009】
また、本発明において、貯留容器と滞留槽の少なくともいずれか一方の内部に天然鉱石の粒体が混入される場合には、植物の生育を効率的に向上させることができ、植物を生育するにあたり効率的な水の利用を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態の栽培システムの構成を模式的に説明する構成模式図である。
【図2】滞留槽中の灌液を一定にするための構成の一例を模式的に説明する構成模式図である。
【図3】昇降制御部の構成を模式的に説明する構成模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の栽培システムの構成を模式的に説明する構成模式図である。
【図5】実施例1の栽培システムの構成を模式的に説明する構成模式図である。
【図6】実施例1の栽培試験における蒸発散速度の経時変化を示す図である。
【図7】比較例1の栽培試験における蒸発散速度の経時変化を示す図である。
【図8】栽培システムの昇降制御部による制御モデルの例を示す図である。
【図9】栽培システムの昇降制御部による制御モデルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の栽培システム1の第1の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(栽培システム1)
栽培システム1は、栽培装置3と、灌液Wを栽培装置3に供給する給液装置2とを備える。
【0013】
(栽培装置3)
栽培装置3は、内部に吸液材4を配設されるとともに、その吸液材4上に植物5を栽培可能な培地6を敷設される栽培領域7を有する。栽培領域7は、植物を栽培可能な領域部分を示し、栽培容器の栽培用の領域部分でもよいし、本栽培システム1を適用可能な領域であれば農園や露地などといった植物を栽培可能な領域部分であってもよい。
【0014】
(栽培領域7)
栽培領域7は、植物5を栽培可能であれば、形状、深さ、大きさなどを特に限定されるものではなく、栽培容器を用いる場合、陶器製や樹脂製の鉢や箱などを適宜用いられてよい。
【0015】
(培地6)
培地6としては、植物の生育が可能なものであれば適宜採用することができ、例えば具体的に例示できる。培地6は、木材の皮を粉砕した人工土、自然土などのほか、プランター用の土などの市販のものや、これらに任意に肥料などを調合したものであってもよい。
【0016】
(吸液材4)
吸液材4としては、灌液を吸収可能な材料からなるものであれば特に限定されず使用することが可能であり、織布、不織布などの吸液布などを適宜使用することができ、市販のものを適宜使用可能である。織布、不織布としては、綿、絹、麻などの各種天然繊維や、ポリエステルなどの各種の合成繊維からなるものを用いることができる。そのほかにも、吸液材4は、ウレタン、紙、セラミックスなどを適宜使用されてもよい。
【0017】
(防根透液シート17)
なお、栽培装置3には、栽培領域7内に、植物5の根が吸液材4に達することを抑制する防根透液シート17が吸液材4の上に敷設されてもよい。防根透液シート17が敷設されていることで、植物5の根が吸液材4よりも下方に伸長しないようにすることが可能となりつつ、吸液材4から培地6への灌液Wの拡散を維持することができる。防根透液シート17には、市販の防根透水布などを適宜用いることができる。また、例えば、防根透液シート17としては、スパンボンド不織布などを使用することができる。
【0018】
(灌液W)
灌液Wは、水もしくは水を含む液である。灌液Wは、ミネラル成分を含む水であることが好ましい。灌液Wは、水道水、雨水、井戸水など、植物5の生育に使用可能な液であれば、特に限定されるものではない。
【0019】
(給液装置2)
給液装置2は、灌液供給部8と、滞留槽9と、貯留容器10と、昇降制御機構11と、昇降制御機構11の動作を制御する昇降制御部12と、を備えてなる。
【0020】
(灌液供給部8)
灌液供給部8は、灌液Wを供給口13から供給可能に構成されていればよく、図1に示すような供給口13を有する供給構造を供えた貯液槽14や、水道など適宜選択可能である。灌液供給部8として貯液槽14が用いられる場合には、貯液槽14には水位計などの液位計15が設けられていることが好ましい。液位計15としては、静電容量式レベル計など従前より公知のものを適宜用いることができる。液位計15の目盛りの変化を測定することで、滞留槽9に供給される灌液Wの供給量や供給速度が容易に特定でき、さらに培地6に供給される灌液Wの量(給液量)を特定できることになる。また、液位計15の目盛りの変化は、植物の蒸発散量を特定する。なお蒸発散量は、灌液中の水分の蒸発量であって、培地表面からの水分の蒸発量と植物の葉面からの水分の蒸発量の和である。
【0021】
(滞留槽9)
滞留槽9は、灌液供給部8から灌液Wを供給されるように構成される。
【0022】
滞留槽9としては、例えば、図1に示すように構成されたものを用いることができる。この場合、滞留槽9は、液面上方の少なくとも一部が外気と接して開口部16を形成して大気圧下に開放されており、その開口部16から灌液供給部8の供給口13から流出した灌液Wを受け入れ可能に構成されている。なお、この構成は、滞留槽9の一例であってこれに限定されるものではない。たとえば、滞留槽9は、導管で灌液を通液可能に灌液供給部の供給口に接続されていてもよい(図示しない)。ただし、この場合においても、滞留槽内の圧力は大気圧とされている。
【0023】
滞留槽9は、内部に一定量の灌液Wを存在させるように構成される。これは、機械的、電気的に滞留槽9内の底から液面を一定高さにして灌液量を調整することで実現できる。
【0024】
具体的に、図2に示すように、滞留槽9には、液面に浮上するフロート18が備えられ、フロート18の上にはフロート高さ調製用ロッド19が取り付けられており、フロート高さ調製用ロッド19には、その所定の高さに、流量制御用ロッド20が、その一方端側をフロート高さ調製ネジ21で取り付けられている。流量制御用ロッド20には、その他方端側には液量調整弁22が取り付けられている。また、滞留槽9には、蓋体23が液面上方に配置されており、蓋体23内側の所定位置に流量制御用ロッド固定部材24が設けられている。流量制御用ロッド固定部材24は、上下方向に延びる支持材25と、流量制御用ロッド20を支持材25に対して回動可能に固定する固定ピン26とを備えてなる。滞留槽9では、この固定ピン26を支点として、流量制御用ロッド20が回動可能に固定されている。このとき、固定ピン26は、流量制御用ロッド20の長手方向に沿った位置について、フロート高さ調製ネジ21よりも液量調整弁22のほうに近い位置に配され固定される。蓋体23には、供給口13に向かいあう位置に供給口13の内径よりも小さな直径を有する通孔27が設けられており、液量調整弁22の上端28が通孔27より上方に突出して供給口13よりも内側に入り込んでいる。蓋体23と供給口13とは、供給口13から外部に灌液が漏れないように、互いに固定されている。液量調整弁22は、前端28よりも内側所定位置では通孔27の径よりも小さく、前端28に向かって漸次大径となり、上端28では通孔27の径よりも大きくなるように形成されている。滞留槽9内の灌液量が増加すると、液面上昇にともなってフロート18の位置が上昇するとともに液量調整弁22の上端28が下降し、液量調整弁22で通孔27が塞がれると、供給口13は閉栓状態となる。また、滞留槽9内の灌液量が減少すると、液面下降にともなってフロート18の位置が下降するとともに液量調整弁22の上端28が上昇し、液量調整弁22による通孔27の閉塞が解かれ、供給口13は開栓状態となり、供給口13から下方に流れる灌液が、通孔27の内縁と液量調整弁22との間のスペースを通って滞留槽9に流れ込む。また、滞留槽9は、蓋体23を設けられた状態でも滞留槽9内部を外気に接触可能に構成されており、密閉状態とならないようにされる。そこで、蓋体23には、所定位置に通気孔29が設けられていることが好ましい。また、この通気孔29は、フロート高さ調製用ロッド19を通じる孔としての機能をかねていてもよい。
【0025】
図2の例に示す滞留槽9では、フロート18の浮力が流量制御用ロッド20によりテコの原理で拡大され、この力により灌液供給部8から供給される灌液Wの液圧に抗して流量制御弁22にて供給口13の開閉を行なうことが可能となる。この流量制御弁22による開閉は、外部から電気エネルギーなどのエネルギーの供給をうけずに実現可能なものであり、また、一本の流量制御用ロッド20の動作で灌液Wの量が制御されるので、制御に要する時間が短縮されるとともに非常に安定した微小流量の制御が容易に実現可能である。よって、貯液槽14の水位を測定した後、植物5への灌液Wの給液速度調整を直ちに実施することができる。なお、この滞留槽9では、フロート18の高さの調整は、フロート高さ調節ロッド20に沿ってフロート18を上下させ、フロート高さ調節ネジ21で止めることで実現できる。流量制御弁22による供給口13を閉じる力の強弱調整は、スライド材26と流量制御用ロッド20との固定位置を調節することで実現できる。なお、フロート18には、樹脂材料からなる中空体などを適宜用いられてよく、また、短円柱状であることが安定性の点で好ましい。
【0026】
上記のほかにも、滞留槽9は、その内部に、フロートを配置するとともに、フロートの位置を感知する位置センサ(図示しない)を滞留槽9内の所定位置に設けて構成されてもよい。
【0027】
(貯留容器10)
貯留容器10は、栽培領域7の吸液材4の設置位置よりも下側の所定位置に配置される。これは、例えば、図1の例に示すように、栽培領域7の底部にスペーサー45を設けて栽培装置7下方に空間部を形成し、その空間部に貯留容器10を配置することで実現される。図1のスペーサー45は、床材とその隅から立設された壁材から形成される。また、貯留容器10は、栽培領域7に供給される灌液Wを貯留する。貯留容器10はその上面を開口しており、貯留容器10内の空間が大気圧下に開放されている。
【0028】
貯留容器10と滞留槽9は、灌液Wを互いに通液可能に導管30で接続されており、灌液の液面の高さを互いに揃えている。このとき、栽培領域7の吸液材4の底面と貯留容器10の液面との距離(ΔH)は、滞留槽9の液面の上下に連動して変化する。たとえば、ΔH=Hの状態から、滞留槽9の液面が大きさd1だけ上昇すると、貯留容器10の液面も同じく大きさd1上昇し、ΔHは、Hからd1を差し引いた値となる。ΔH=Hの状態から、滞留槽9の液面が大きさd2だけ下降すると、貯留容器10の液面も同じく大きさd1下降し、ΔHは、Hにd2を加算した値となる。
【0029】
貯留容器10には、貯留容器10内の灌液Wを吸上げ可能な吸上材31が設けられている。貯留容器10において、吸上材31は、上端側を栽培装置の吸液材4に接触させるとともに、下端側を灌液Wに浸漬させている。吸上材31は、図1に示すように吸液材4から下方に垂れ下がるように設けられる場合に限定されない。固定具(図示しない)を貯留容器の外側に配置して、吸上材31は、その固定具で吸上材31を固定してもよい。固定具には、吸上材31の上端を栽培装置の吸液材4に接触させるとともに下端側を灌液Wに浸漬させるように、吸上材31の高さ位置を調整することで吸上材31を固定設置されればよい。
【0030】
(吸上材31)
吸上材31は、毛細管現象により貯留容器10内の灌液Wを吸上げ可能な材料で構成されており細長形状に形成されている。
【0031】
吸上材31により、単位時間当たりに吸上材31の上端に向かって吸上げられる灌液Wの量(給液量(F)(g/min))は、吸上材31のうち、灌液Wに浸漬されずに液面よりも上側に露出している部分の長さに応じて変化し、この長さが長いほど、Fの値が大きくなる。
【0032】
吸上材31としては、灌液を吸収可能な材料からなるものを特に限定されず使用することが可能であり、織布、不織布、紙などの繊維体などを挙げることができるほか、ウレタン、セラミックスなどの多孔質体、を適宜使用することができる。
【0033】
(給液装置2による灌液Wの給液機構)
栽培装置3の培地6に播種あるいは苗播された植物5が生命活動するに伴って、植物5は培地6中の灌液Wを吸液する。植物5による灌液Wの吸液にともない、吸液材4から培地中に灌液が拡散し、貯留容器10では、毛細管現象により貯留容器10内の灌液が吸上材31を伝って吸液材4へと移動する。滞留槽9と貯留容器10とは互いに導管30で連通しているから、貯留容器10には滞留槽9から灌液Wが補給される。滞留槽9と貯留容器10は液面の高さが一致しているから、滞留槽に灌液が補給されないと、植物5が培地6中の灌液Wを吸液するにともない、滞留槽9と貯留容器10の液面は、期待される位置から下方にずれてしまうことになる。この点、滞留槽9は、上記したように一定量の灌液Wを貯留するように構成されており、適宜、灌液供給部8から灌液Wの供給を受ける。このため、滞留槽9の液面の位置は、期待される位置とされる。
【0034】
栽培システム1では、後述の昇降制御機構11により滞留槽9が上下動する。滞留槽9と貯留容器10は液面を揃えられているから、栽培領域7の吸液材4の底面と貯留容器10の液面までの距離(ΔH)は、昇降制御機構11による滞留槽9の上下動によって制御される。ここで、吸上材31のうち、灌液Wに浸漬されずに液面上に露出している部分の長さは、栽培領域7の吸液材4の底面と貯留容器10の液面までの距離(ΔH)に対応していることから、ΔHの値に応じて、給液量Fの値を変化させることができる。したがって、昇降制御機構11による滞留槽9の上下動の大きさの変動量である昇降量に応じて、給液量Fの値が制御される。
【0035】
また、要請される給液量Fの値が特定されていれば、その値に応じて、昇降制御機構11による滞留槽9の上下動の大きさが特定される。すなわち、栽培装置7で生育される植物に要請される灌液Wの量が特定されていれば、その量に応じた昇降量を特定することが可能である。ここで、植物5に要請される灌液Wの量としては、植物5が必要とする吸液量を用いられることが好ましい。この場合、植物5には、その状態に応じて吸収可能な量の灌液Wを与えられることとなるため、栽培システム1によれば、植物5に過不足なく灌液Wを与えることができることとなる。また、植物5の吸液量より少量の灌液Wが植物5に与えられると、植物5は水ストレスを受け、その生育に悪影響が出る虞がある。この点、この栽培システム1では、植物5の吸液量に応じた量の灌液Wを植物に供給することができるため、植物5の水ストレスを抑制できる。
【0036】
(昇降制御機構11)
昇降制御機構11は、対象物を上下動させることの可能な構造体を適宜採用可能である。図2の例では、昇降制御機構11は、レージトング(伸縮やっとこ)32を台座33に固定して構成される。このほかにも、昇降制御機構11には、台座と、台座の上にアクチュエータを取り付けられた構造体などを採用可能である。
【0037】
昇降制御機構11は、昇降制御部12に対して電気的に接続されており、昇降制御部12からの電気信号に応じて滞留槽9の位置を上下方向に移動させるように構成される。
【0038】
(昇降制御部12)
昇降制御部12は、滞留槽9の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構11の動作を制御するように構成されている。特に、昇降制御部12は、栽培装置3で生育される植物5に要請される灌液Wの量に応じて滞留槽9の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構11の動作を制御する。
【0039】
(昇降制御機構11の動作制御)
昇降制御部12による昇降制御機構11の動作制御は、例えば次に示すように構成された昇降制御部12を用いて具体的に実現できる(図3)。
【0040】
昇降制御部12は、中央演算処理装置34と、データ記憶手段35と、演算手段の結果に応じた電気信号を昇降制御機構11に送る送信手段とを備えてなる。
【0041】
中央演算処理装置34とデータ記憶手段35は、データ記憶手段35に格納されたデータに対して中央演算処理装置34からアクセス可能に接続されている。
【0042】
栽培装置3には、ある時刻における培地6の状態や、栽培装置3の周囲環境の状態や、栽培装置で生育される植物の状態を特定する状態変数を検知するための状態検出センサ36が取り付けられている。状態変数としては、湿度、気温、日射強さ、風速などの天候変数のほか、生育期間などが挙げられる。状態検出センサ36としては、湿度や気温等を検知する温度センサや湿度センサや、日射強さを検知するセンサ、風速を検知する風速センサなどが挙げられる。これらの状態検出センサ36は、中央演算処理装置に、気温や湿度などのデータや植物の生育状態を示すデータを送信可能に接続されている。
【0043】
これらの状態検出センサ36で、ある時刻における各種の状態変数を検出すると、状態変数の内容に応じた各種のデータが、実測データ(気温・湿度・日射強さ・風速等の実測データ37、植物の生育状態の実測データ38など)としてそれぞれ中央演算処理装置34に送信される。中央演算処理装置34は、実測データ37,38等に基づき昇降制御機構11による滞留槽9の上下動の大きさ(昇降量)を演算し、昇降制御機構11に向けて、滞留槽の上下動を生じさせることを内容とする電気信号を送信する。昇降制御機構11は、昇降制御部12から送信された電気信号に応じて滞留槽9を上下動させる。
【0044】
なお、中央演算処理装置34において、実測データ37,38等に基づき昇降制御機構11による滞留槽9の上下動の大きさを演算する方法は、公知の制御モデルに基づく演算方法を適宜採用されてよく、さらに状態変数の内容に応じて演算方法を適宜選択されてよい。具体的に、制御モデルとしては、PID制御(Proportional−Integral−Derivative Control)などを挙げることができる。PID制御には、比例制御、微分制御、積分制御、これらを適宜組み合わせた制御を含む。具体的には、中央演算処理装置34は、例えば、図8,9に示すように、気温、日射強さなどの各種の状態変数とΔHとを比例制御で対応関係付け、これに応じてΔHを演算し(Hsとする)、演算時点での液面高さ(Ht)との差Hs−Htを演算することで、昇降量を演算する。図8の例では、中央演算処理装置34は、気温がT1である場合にΔHがZ1となり、気温がT2である場合にΔHがZ2となり、且つ、ΔHを気温に比例させるように、実測データに基づくΔHを演算し、昇降量を演算する。
【0045】
データ記憶手段35には、天候記録データ40、時間データ41、栽培システム1を用いて生育しようとする植物の成長データ(成長記録データ42)、吸液量データ43等が記憶される。天候記録データ41は、栽培システム1を用いて植物5の生育を実施しようとする地域(使用地域)における天候記録データである。具体的には、天候記録データ41は、使用地域の1年を通しての経時的なデータであって天候を特定する気温と湿度と日射強さと風速についてのデータを挙げることができる。例えば、天候記録データ41としては、A年A月A日A時A分で特定される時点において、気温がB℃、湿度がB%RH、日射強さがBμmol/m/s(光量子束密度)、風速がBm/secであったことを内容とするデータが、挙げられる。ここで挙げたデータのほかにも、天候記録データ41には、雨量データなどが含まれてよい。また、データ記憶手段35には、各種のデータがさらに格納されていてもよい。天候記録データ40と時間データ41と成長データ42と吸液量データ43は、気象庁の保有するデータのような国や行政機関や地方自治体などの保有するデータや、民間企業から提供されるデータなどから得られたデータであってもよいし、予備栽培試験を実施して得られる実測データであってもよい。
【0046】
(予備栽培試験)
生育しようとする植物5を培地6に播種した時刻を生育開始時刻として、生育開始時刻から経過した時間を測定して実測データを得て、これを時間データ41とする。また、生育開始時刻から所定時間経過する毎に気温や湿度などといった状態変数を特定する値を測定して実測データを得て、これを天候記録データ40と成長記録データ42とする。さらに、生育開始時刻から所定時間経過する毎に吸水量を測定して実測データを得て、これを吸水量データ43とする。データ記憶手段35には、これらの実測データが格納される。
【0047】
(給液装置2における灌液Wの給液制御)
栽培システム1で植物5を培地6に播種した時刻を生育開始時刻として、生育開始時刻から経過した時間に応じて、時間データと吸液量データと成長データと天候記録データが測定される。この測定は、予備栽培試験と同様に状態検出センサ36で測定される。測定されたデータは、実測データ37,38として中央演算処理装置34に送信され、中央演算処理装置34は、昇降量を特定する。例えば、中央演算処理装置34に、1時間間隔で、時間データと吸液量データと成長データと天候記録データといった各種データを取得するように条件設定データが記録されていると、1時間ごとに、状態検出センサから各種データが中央演算処理装置34に送信され、中央演算処理装置34は、時間データと吸液量データと成長データと天候記録データを取得し、昇降量の演算を実行する。
【0048】
(昇降量の特定)
時間データと吸液量データと成長データと天候記録データが特定されると、中央演算処理層装置が予想される吸液量(吸液予想量)を演算する。吸液予想量を演算する方法は、上記したように比例制御、微分制御、PID制御など公知の制御モデルに基づく演算方法を適宜採用することができる。吸液予想量が演算されると、この値が給液量の値となるように昇降量が算出される。ここに、給液量が定まると、ΔHの大きさが定まり、昇降量が特定されることから、給液量が吸液予想量の値として具体的に定められると、昇降量が具体的に特定される。
【0049】
なお、給液量と昇降量との対応関係は、予め栽培システム1において昇降量を変数として様々な値とし、その都度、給液量を実際に測定することで特定することができる。そして、栽培システム1には、データ記憶手段35に給液量の実測データと昇降量の実測データ39の実測データを対応付けるデータベースを設けておき、そのデータベースに給液量の実測データと昇降量の実測データ39とを対応付けたデータを格納していることが、昇降量の演算効率向上の点で、好ましい。なお、給液量とΔHとの対応関係についても、給液量と昇降量との対応関係と同様に予め測定し、データベースに格納されてよい。そのほか、気温などの各種の状態変数とΔHとの対応関係についても同様である。
【0050】
このように、栽培システム1では、昇降制御機構11により滞留槽9を上下動させることで、滞留槽9と貯留容器10の液面を上下させて、植物5の状態に応じて適量の灌液Wを供給することが可能となる。また、給液装置2は、図1などに示されるとおり、簡易な構造で構成することができるものであるから、栽培システム1は、その構造の簡易化の要請を満たしうるものである。
【0051】
[第2の実施形態]
栽培システム1は、第1の実施形態の栽培システムであって、栽培領域7と滞留槽9の少なくともいずれか一方の内部に、天然鉱石からなる粒体44が混入しているものであってもよい(第2の実施形態)。すなわち、栽培システム1は、栽培領域7と滞留槽9の両方に天然鉱石からなる粒体44が混入しているもの(図4)、滞留槽9に天然鉱石からなる粒体44が混入しているもの(図5)、栽培領域7の方にのみ天然鉱石からなる粒体44が混入しているもの、のいずれであってもよい。
【0052】
第2の実施形態の栽培システム1は、栽培領域7と滞留槽9の少なくともいずれか一方の内部に、天然鉱石からなる粒体44が混入しているという構成を備えるほかは、図4に示すように、第1の実施形態の栽培システム1と同じ構造を備えており、昇降制御部12による昇降制御機構11の動作制御も、図3などで上記に示す第1の実施形態の栽培システム1と同じである。なお、図4中、第2の実施形態の栽培システム1の構造体のうち、第1の実施形態の栽培システム1と同じ構造体については、第1の実施形態について使用した符号と同じ符号が付されている。
【0053】
(粒体44の混入量)
粒体44の混入量は、栽培領域7の内部への混入量と滞留槽9の内部への混入量のいずれについても、適宜選択可能である。
【0054】
ただし、栽培領域7の内部に、粒体44を混入させる場合、培地量との適正調合の観点から、50Lの培地に対して粒体が0.5kg以上1.5kg以下の割合で配合されていることが好ましく、0.7kg以上1.0kg以下の割合で配合されていることがより好ましい。
【0055】
滞留槽の内部に、粒体44を混入させる場合、植物生育に関して、天然石から滲出するミネラル成分の適正濃度の観点から、1000Lの灌液に対して粒体が20kg以上40kg以下の割合で配合されていることが好ましく、25kg以上35kg以下の割合で配合されていることがより好ましい。
【0056】
(粒体44)
粒体44は、上記のように天然鉱石からなる。天然鉱石には、様々なミネラル成分が含まれている。粒体44は、栽培領域7の内部へ混入される場合、栽培領域7の培地6中に吸液材4から灌液Wが拡がり、灌液Wに粒体44が接触するとその粒体44からミネラル成分が培地6に滲出し、ミネラル成分の豊富な培地6を形成することができる。また、粒体44が滞留槽9の内部へ混入されると、滞留槽9の灌液W中に粒体44からミネラル成分が滲出して、ミネラル成分の豊富な灌液Wを形成することができる。
【0057】
なお、ミネラル成分とは、植物の生命活動に使用される無機成分であって、植物に含まれる無機成分を示すものであり、水中でイオンの状態で存在可能なものである。具体的に、ミネラル成分には、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)が挙げられる。これらは、炭酸塩、フッ化物素、塩化物塩、硫酸塩などの塩の状態で天然鉱石に含まれており、灌液中で、イオンの状態で鉱石から滲出してくる。
【0058】
粒体44の大きさは、ミネラル成分の滲出を効率よくするためには、直径が0.5mm以上200mm以下の範囲にあるものが好ましく、プランター栽培用の用途では、直径が2mm以上10mm以下の範囲にあるものが好ましく、直径が2mm以上3mm以下の範囲にあるものであることがより好ましい。また、露地栽培等の用途では、粒体44の大きさは、10mm以上200mm以下が好ましい。
【0059】
粒体44を構成する天然鉱石は変成岩から選ばれたものであることが好ましく、灌液をよりミネラル成分に優れたものとすることが可能となる点で、マイロナイトであることが特に好ましい。
【0060】
(マイロナイト)
マイロナイトは、ミロナイトとも呼ばれ、変成岩に属するものであり、硬く、凝集性のある、ガラス質の組織をもった岩石であり、微細孔をほとんど認められないものである。このマイロナイトは、粒体として用いられるにあたって極端な機械的変形と粒状化を受けるが、その化学的性質には変化が認められない。マイロナイトの外観は一般に火打ち石に似ており、縞状或いは流状を呈する。マイロナイトの産地例としては、本州中央構造帯を挙げることができ、マイロナイトは、長石類を主成分とする岩石の状態で得ることができる。
【0061】
(マイロナイトの機能とその使用に伴う効果)
マイロナイトが水溶液に混入された場合に、マイロナイトには、水溶液の水クラスターを小さくする機能、水溶液の溶存酸素を増加させる機能、酸性もしくはアルカリ性に傾いている水溶液のPHを中性に近づける機能が認められる。
【0062】
したがって、栽培システム1において粒体44を構成する天然鉱石としてマイロナイトが用いられる場合、上記したようなミネラル成分の豊富な灌液を形成する機能のほか、(A)灌液に含まれる水クラスターを小さくする機能、(B)灌液に含まれる溶存酸素を増加させる機能、(C)灌液が酸性もしくはアルカリ性に傾いている場合に、その灌液のpHを中性に近づける機能、といった機能が発揮される。
【0063】
上記(A)に示す水クラスターを小さくする機能が発揮されると、植物は根から灌液を効率的に吸上げることができ、根から吸収される水の量が蒸散で失われる量に追いつかないことで光合成などといった植物の生命活動が低下してしまう現象の軽減、すなわち、水ストレスの軽減が効果的に実現できる。
【0064】
上記(B)に示す溶存酸素を増加させる機能が発揮されると、植物の根圏域の酸素濃度が上がることで、根の呼吸作用を促進することができ、植物の生育を活性化させることになる。
【0065】
上記(C)に示す灌液のPHを中性に近づける機能が発揮されると、水の質が酸性もしくはアルカリ性に傾いたものであっても灌液の原料となる水として十分に使用することが可能となる。
【0066】
なお、第2の実施形態における栽培システム1については、粒体を用いることによる上記したような効果のほかにも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、第2の実施形態における栽培システム1では、昇降制御機構により滞留槽を上下動させることで、滞留槽と貯留容器の液面を上下させて、植物の状態に応じて適量の灌液を供給することが可能となる。また、この栽培システム1は、その構造の簡易化の要請を満たしうるものである。
【実施例】
【0067】
実施例1.
(栽培システム)
栽培システムとして、図5に示すような構成の上記第2の実施形態に示す栽培システムを準備した。
【0068】
(培地等)
培地にはプランター用の市販のもの50Lを用いた。吸液材としては農業用市販品(東洋紡製を用いた。また、吸上材には、吸液材と同材質のものを帯状に加工したものを用いた。
【0069】
(粒体)
天然鉱石の粒体には、マイロナイト(産出地:長野県)の粉砕体を30kg準備した。この粒体の粒子径は平均粒子径2.5mmであった。
【0070】
マイロナイトは、表1に示すような成分を含んで構成される鉱物である。各成分についての含有率(%)は、表1に示すとおりである。
【0071】
【表1】

【0072】
マイロナイトからなる粒体を用い、ミネラル成分溶出試験、水クラスター測定試験、溶存酸素測定試験を行なった。
【0073】
ミネラル成分溶出試験:
マイロナイトを水(水道水)に混入させて、2時間放置して試験水を調製し、試験水に含まれるナトリウムなどの各種ミネラル成分の量(mg/L)を分析した。また、比較のため水道水に含まれる各種ミネラル成分の量(mg/L)を分析した。結果を表2に示す。これにより、水にマイロナイトを混入させた場合に、水道水よりもミネラル成分の豊富な水が得られることが確認され、マイロナイトから水にミネラル成分が溶出していることが認められた。
【0074】
【表2】

(単位は、mg/L)
【0075】
水クラスター測定試験:
上記した試験水を用いて水のクラスター値(Hz)を分析した。水のクラスター値は、温度20℃における、核磁気共鳴分光法による共鳴周波数で示される。また、分析には、核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、JNM−EX400)を用いられた。なお、分析にあたり、測定核種は、17Oである。比較のため、水道水についても上記同様にクラスター値を測定した。結果、水道水の水クラスターについてはクラスター値が約106Hz程度であるが、試験水では、クラスター値が70Hz程度になることが認められた。
【0076】
溶存酸素測定試験:
水(温度が約22℃)にマイロナイトを混入して1日放置させておいたところ、放置後の水(温度が約26℃)の溶存酸素量(6.2ppm)が、混入前の水の溶存酸素量(5.35ppm)よりも多くなっていることが確認された。なお、水には、地下湧水(採取地:長野県塩尻市)を用いた。
【0077】
pH測定試験:
マイロナイトの粒体を1kg充填したカラムを準備し、pH9.7の池水(採取源:長野県松本市千鹿頭池の水)を原水として原水をカラムに3L/min6時間循環させて、循環水を得た。この循環水を用いて水のpHを測定した。pHは、7.7であった。
原水としてpH6.0のものを用い、循環時間を12時間としたほかは、pH9.7の池水を原水とした場合と同様にして循環水を得た。これを用いて水のpHを測定した。pHは、7.0であった。
【0078】
(栽培試験)
植物では、夜明けからの時間経過とともに日射強さが増し、気温が高まるにともない、光合成活動が活発化し、葉面からの蒸散量が増加する。このとき、根から水分や養分を吸い上げる速度(吸液速度)が上昇し、単位時間あたりの蒸発散量(CC)(蒸発散速度(CC/min))が上昇し、培地の水分量が減少する。ところが、気温がある値以上になって吸液速度がある程度以上になると、培地の水分量が特に根の周囲で過少となることで、光合成活動が低下し、蒸発散速度が低下する(いわゆる昼寝現象)ことが知られている。植物を効率的に生育させるには、植物が効率的に光合成活動することが必要であるから、この昼寝現象を抑制することが重要である。そこで、上記のように準備された栽培システムを用いて植物を栽培し、昼寝現象の抑制有無を確認した。栽培システムで生育させる植物として、トマトを選択した。なお、蒸発散量とは、培地表面からの水分の蒸発量(CC)と植物の葉面からの蒸散量(CC)の和を示す。
【0079】
昼寝現象は、植物の生命活動の低下を示しており、蒸発散量(CC)の経時変化(蒸発散速度(CC/min))の低下として現れる。そこで、蒸発散速度を指標として昼寝現象の抑制有無を確認した。すなわち、栽培システムを用いて植物を栽培した場合における蒸発散速度を測定し、昼寝現象の抑制有無について評価した。結果を図6に示す。図6中、ET rateは、蒸発散速度(CC/min)を示しており、ATは、気温(℃)を示す。なお、このことは、後述の図7においても同じである。
【0080】
栽培システムにおける灌液の給液量の制御は、次のように昇降量を定めることで実施された。
【0081】
(給液量の制御)
10分間隔で状態変数を特定し、状態変数が特定されるたびに昇降量を定めることとした。状態変数としては、気温(℃)を用いることとした。したがって、昇降制御部12では、例えば、植物の周囲に設けられた温度センサが生育開始時から10分後の時刻A1における気温を示す実測データを取得すると、この実測データが中央演算処理装置34に送信され、中央演算処理装置34が昇降量を次のように特定する。昇降制御部12では、データ記録手段35に気温とΔHの関係を対応付けた基準データが記憶されており、中央演算処理装置34が、基準データと実測データとから、ΔHのデータを演算する。実施例の昇降制御部12では、中央演算処理装置34は、ΔHを気温の関数とした比例制御で対応付けており、比例制御により気温に応じたΔHを演算する。ここでは、気温20℃でのΔHを7cmとし、気温が30℃でΔHを5cmとすることを内容としたデータを、データ記録手段35に予め記録されているデータ(基準データ)とした。なお、この基準データを構成するΔHは、栽培システムに使用する吸上材や吸液材の材質、サイズなどのほか、植物の種類などの諸条件により個別に定められるが、おおむね、植物一般に、室温20℃程度では、ΔHが6cm以上8cmの数値範囲にあることが好ましいとされる。この数値範囲は、予めΔHを様々な値として、植物の栽培試験を予備栽培試験として実施することで特定された数値範囲である。そこで、実施例1においては、生育開始時のΔHを6cmとした。中央演算処理装置34は、植物の周囲に設けられた温度センサが生育開始時から10分後の時刻A1における気温に基づく、ΔHがHAcmであると演算すると、生育開始時のΔHである6cmとHAとの差値を演算し、これを昇降量とする。この昇降量のデータに基づき、昇降制御部12は、昇降制御機構11に信号を送り、昇降制御機構11が滞留槽9を上下動させる。実施例1の栽培システム1では、こうした状態変数の取得から滞留槽9を上下動までの一連の動作が10分間隔で繰り返し実施されることで、給液量の制御が行なわれた。
【0082】
蒸発散速度は、次のように測定された。
【0083】
(蒸発散速度の測定)
蒸発散速度は、液位計15の目盛りの変化を10分ごとに計測することで10分間の平均速度として測定された。まず、生育開示時における液位のデータを取得し、それから10分後の時刻A1に、貯留槽8の液位を示すデータを取得し、液位差を演算することで貯留槽8中の灌液の減少量(CC)を演算する。このとき、この減少量を10で除した値が、蒸発散速度(CC/min)に対応する。これを10分間隔で繰り返し実施されることで、10分間隔の蒸発散速度が測定された。
【0084】
比較例1.
(栽培試験)
マイロナイトを混入させなかったほかは栽培システムと同じ構成の装置(比較例用装置)を準備した。この比較例用装置を使用し、蒸発散速度、気温、湿度および日射強さなどといった各種の状態変数の条件によらず、貯留容器の液面の高さを一定にした(ΔH=6cm)ほかは、上記実施例1の栽培試験と同様にして、栽培試験を行ない、蒸発散速度(CC/min)を測定した。結果を図7に示す。
【0085】
実施例1と比較例1から、植物に供給される灌液量を制御しない場合(比較例1)では、気温がある程度を超えると蒸発散速度が低下して植物の昼寝現象が生じたのに対して、栽培システムを使用して植物に供給される灌液量を制御した場合(実施例1)では、気温がある程度を超えても蒸発散速度の低下が抑制されており、植物の昼寝現象が効果的に抑制されていることが確認された。
【0086】
なお、実施例1と比較例1について、植物の生育状態を目視で観察したところ、実施例1では比較例1にくらべて、葉のはり、つやが良好であり、且つ、トマトの実の付き方も良好で、茎の成長量も大きく、実施例1において生育開始時点からトマトの実が観察されるまでの期間で、植物の背丈を比較した場合に、実施例1では、比較例1の約1.4倍程度に成長したことが確認された。これは、実施例1では、比較例1と異なり、栽培システムを用いて植物への灌液の給液量を制御したことと、灌液にマイロナイトを混入させたことの相乗効果によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、植物の生育の効率化と節水を可能とする栽培システムをできるだけ簡略な構造で実現するために有益である。
【符号の説明】
【0088】
1 栽培システム
2 給液装置
3 栽培装置
4 吸液材
5 植物
6 培地
7 栽培領域
8 灌液供給部
9 滞留槽
10 貯留容器
11 昇降制御機構
12 昇降制御部
13 供給口
14 貯液槽
15 液位計
16 開口部
17 防根透液シート
18 フロート
19 フロート高さ調製用ロッド
20 流量制御用ロッド
21 フロート高さ調製ネジ
22 液量調整弁
23 蓋体
24 量制御用ロッド固定部材
25 支持材
26 固定ピン
27 通孔
28 上端
29 通気孔
30 導管
31 吸上布
32 レージトング
33 台座
34 中央演算処理装置
35 データ記憶手段
36 状態検出センサ
37,38,39 実測データ
44 粒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に吸液材を配設されるとともに、該吸液材上に植物を栽培可能な培地を敷設される栽培領域とを有する栽培装置と、
栽培装置に灌液を供給する給液装置と、を備える栽培システムであって、
給液装置は、灌液を供給口から供給可能な灌液供給部と、灌液供給部から灌液を供給されるとともに内部に一定量の灌液を存在させる滞留槽と、栽培領域の吸液材の設置位置よりも下側に配置されて該栽培領域に供給される灌液を貯留する貯留容器と、滞留槽の位置を上下方向に移動させる昇降制御機構と、該昇降制御機構の動作を制御する昇降制御部とを備えており、
貯留容器には、該貯留容器内の灌液を吸上げ可能な吸上材が設けられ、該吸上材は、上端側を栽培装置の吸液材に接触させるとともに、下端側を灌液に浸漬させており、
貯留容器と滞留槽は、灌液を互いに通液可能に導管で接続されるとともに灌液の液面の高さを互いに揃えており、
昇降制御部は、滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されている、ことを特徴とする栽培システム。

【請求項2】
内部に吸液材を配設されるとともに、該吸液材上に植物を栽培可能な培地を敷設される栽培領域とを有する栽培装置と、
栽培装置に灌液を供給する給液装置と、を備える栽培システムであって、
給液装置は、灌液を供給口から供給可能な灌液供給部と、灌液供給部から灌液を供給されるとともに内部に一定量の灌液を存在させる滞留槽と、栽培領域の吸液材の設置位置よりも下側に配置されて該栽培領域に供給される灌液を貯留する貯留容器と、滞留槽の位置を上下方向に移動させる昇降制御機構と、該昇降制御機構の動作を制御する昇降制御部とを備えており、
貯留容器には、該貯留容器内の灌液を吸上げ可能な吸上材が設けられ、該吸上材は、上端側を栽培装置の吸液材に接触させるとともに、下端側を灌液に浸漬させており、
貯留容器と滞留槽は、灌液を互いに通液可能に導管で接続されるとともに灌液の液面の高さを互いに揃えており、
昇降制御部は、滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されており、
栽培領域と滞留槽の少なくともいずれか一方の内部には、天然鉱石からなる粒体が混入している、ことを特徴とする栽培システム。

【請求項3】
粒体を構成する天然鉱石は、変成岩より選ばれる、請求項2に記載の栽培システム。

【請求項4】
粒体を構成する天然鉱石は、マイロナイトである、請求項2に記載の栽培システム。

【請求項5】
昇降制御部は、栽培装置で生育される植物に要請される灌液の量に応じて滞留槽の位置を上下方向に移動させるように昇降制御機構の動作を制御するように構成されている、請求項1から4のいずれかに記載の栽培システム。

【請求項6】
吸上材は、毛細管現象により該貯留容器内の灌液を吸上げるものである、請求項1から5のいずれかに記載の栽培システム。

【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−75356(P2012−75356A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221626(P2010−221626)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(504249813)株式会社ウォーターライフ (2)
【出願人】(508179534)
【Fターム(参考)】