説明

栽培用ハウス

【課題】害虫の侵入を防ぎ、空気の流れを良くすると共に、ハウス内の雨水処理効率を高めることで過湿障害を回避することができ、さらに雨水を有効活用することのできる栽培用ハウスを提供する。
【解決手段】立体空間Aを形成する骨組体2と、骨組体2の周囲を被覆するシート材とを備える栽培用ハウスである、シート材が雨水を透過するが害虫の侵入を防ぐことができる網状シート材10からなる。ハウス内の地表が不透水シート20で被覆され、ハウス内の雨水をハウス外部の一方向に導くための傾斜がハウス内に存在し、ハウス外には導かれた雨水を貯水する貯水池30と、貯水池30の水を汲み上げハウス内の地中に給水するための給水装置40と、が設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培用ハウスに関し、詳しくは、害虫の侵入を防ぐことができるとともに、ハウス内の空気の流れが良く、また、高温障害を回避することができ、ハウス内土壌が過湿状態となることを防ぐとともに過乾燥をも防ぎ、肥料の供給を容易にすることによって農作物を健全に育成し、収穫物の安全性と品質向上に寄与する、比較的簡易で安価な栽培用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
既設の大型温室の多くはガラス、強化プラスチック、耐候性向上フィルムなどにより天井部が半永久的に被覆されており、夏場の高温対策が課題となっている。また、かかる大型温室の設備投資額は同面積における年間生産額の2〜3倍にも達しており、収益を圧迫する原因にもなっている。
【0003】
また、近年の温暖化の進行により、農作物に加害する害虫の分布が北上し、また、世代交代回数も増加し、農作物への被害が増加している。特に、シルバーリーフコナジラミが媒介する黄化葉巻きウィルスはトマトが罹病すると成長点が生育を停止し、葉が萎縮して黄化する。このため、光合成能力が著しく低下して、収量が皆無となるような甚大な被害を生ずることになる。この対策としては農薬の使用があるが、使用する農家への健康被害が懸念される上、農薬に対する害虫の耐性が向上して農薬の効果が薄れていくという問題が新たに生ずる。
【0004】
そこで近年では、目の細い網を農業ハウス開口部に貼り、シルバーリーフコナジラミの侵入を防ぐ方法が一般的になりつつある。しかし、既設の大型温室の多くは、開口部以外は通気性のまったくないガラス、強化プラスチック、耐候性向上フィルムなどにより天井部が半永久的に被覆されていることから、大型温室内の温度上昇を招き、季節によっては人が入れない、花粉が死滅して受粉しない、交配用のハチが働かないなどの問題がある。
【0005】
かかる問題を解決するため、作付け時期を涼しくなる季節まで遅らせるなどの対策をとると、結果として収量が減収し品質も低下するという問題があった。そこで、このような問題を回避するために、幾つかの栽培用ハウスが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、農作物、園芸用植物などを栽培する際に使用される園芸用プラスチックハウスにおいて、風雨を避けると共に、通気性が良好で適度な湿度を保ち、保温性に優れ、散乱光が多く、害虫の侵入を阻止するために、プラスチックハウスのハウス骨組みによって形成される屋根部、または屋根部と開口部とに対しては、透明合成繊維からなる糸状により構成された網目状シートに、該糸状より低い融点を有しかつ高周波融着性を有する透明合成樹脂を付着させ、孔の径が0.1mm以上で、孔の面積が0.01〜1.0mmの範囲にある通気孔を網目状に形成してなる被覆材を展張することが提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、寒冷地でも気温の高い地方でも、病気の発生を抑え、防虫効果が完全で、酷暑または猛暑でも安定した優れた品質の収穫が可能となり、また作業者の快適性の高い優れた園芸栽培用ハウスとして、有孔シートを展張してなる園芸栽培用ハウスであって、有孔シートからなる屋根部と縮展可能な無孔シートからなる屋根部とを有するものが報告されている。
【0008】
【特許文献1】特開平06−209657号公報
【特許文献2】特開2000−00033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
園芸栽培用ハウスの天井網状シート材に従来より採用されている網状シートにおいて、その網目が1mm以下のものは天井部分の傾斜にそって雨水が通路に流れ落ちるため作物には直接かかりにくいが、天井が網であるため雨天には施設内に雨水が浸入し、その雨水をそのまま放置すると湿度が上昇したり、植物の根域が酸素不足となり、作物の成長が阻害され、また、病気の発生や品質の低下の原因となる。
【0010】
特許文献1の園芸用プラスチックハウスや許文献2の園芸栽培用ハウスにおいても、ハウス内に浸水した雨水の処理ができず、湿度が上昇し、また植物の根域が酸素不足となって作物の成長が阻害されるため、病気の発生や品質の低下を回避するのは困難であった。また、ハウス内の作物の給水には、設備等に多くのコストが必要であった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、害虫の侵入を防ぎ、空気の流れを良くすると共に、ハウス内の雨水処理効率を高めることで過湿障害を回避することができ、さらに雨水を有効活用することのできる栽培用ハウスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、立体空間を形成する骨組体と、該骨組体の周囲を被覆するシート材とを備える栽培用ハウスにおいて、
該シート材が雨水を透過するが害虫の侵入を防ぐことができる網状シート材からなり、ハウス内の地表が不透水シートで被覆され、ハウス内の雨水をハウス外部の一方向に導くための傾斜がハウス内に存在し、ハウス外には導かれた雨水を貯水する貯水池と、該貯水池の水を汲み上げハウス内の地中に給水するための給水装置と、が設置されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、天井部を被覆する前記網状シート材の網目が、好ましくは0.8mm〜1.0mmであり、かつ、側面部を被覆する前記網状シート材の網目が、好ましくは0.3mm〜0.4mmである。また、前記骨組体が前後左右に連なる逆U字形パイプと左右の逆U字形パイプ同士を連結する連結パイプとを有し、天井部が、前記網状シート材下であって、前後に連なる前記逆U字形パイプの本体部分における前記連結パイプの接合部間のみ下層シートで被覆されていてもよい。さらに、ハウス内の地表に雨水を集水させる畝を好適に設けることができる。さらにまた、前記給水装置が、貯水池内の水を汲み上げる吸水ポンプと、吸水ポンプから汲み上げた水をハウス内の地中に給水する給水管とを備えることができる。さらにまた、前記貯水池の上面に蓋体を配設することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の栽培用ハウスにおいては、害虫の侵入を防ぐことができるとともに、ハウス内の空気の流れを保つことができる。また、ハウス内に浸入した雨水処理効率が高く、ハウス内の過湿障害を回避することができる。さらに、その雨水を農作物への供給として有効活用することができるので、近隣農地に悪影響を与えることもない。さらにまた、光透過率の面でも、新品のガラスが85%、新品の合成樹脂シートが70%であるのに対し、網状シート材は90%であり、優れた光透過性を有する。
【0015】
本発明の栽培用ハウスのこのような優れた効果により、日本列島の南北または標高差を利用して夏は冷涼な北方地区や標高の高い地域で栽培し、寒い時期は暖かい南の地域や標高の低い地域で栽培すれば、農作物の栽培に適した環境と土中の水分や肥料分を任意にコントロールできるため、高品質な農作物の収穫が通年にわたり可能となる。
【0016】
また、害虫の侵入がほとんどなく、農薬の使用回数も少なくてすむため、食の安全性の観点から好ましく、また、外気温とほぼ変わらない温度を維持することができるため、夏場でも通常の栽培が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態につき具体的に説明する。
図1に示す本発明の好適例の栽培用ハウス1は、立体空間Aを形成する複数の骨組体2と、骨組体2の周囲に被覆される網状シート材10とからなる。
【0018】
骨組体2は、例えば、図6に示すように、鉄骨または鉄パイプを逆U字状に湾曲させて形成される本体部3と、この本体部3を左右方向に適宜間隔で複数連結する左右連結材4と、本体部3を前後方向に適宜間隔で複数連結する前後連結材5と、で好適に形成することができる。
【0019】
網状シート材10は、骨組体2上部を被覆する天井網状シート材11と、骨組体2側面を被覆する側面網状シート材14とで形成される。側面網状シート材14には、図示はしないが、適宜出入口が設けられる。
【0020】
天井網状シート材11および側面網状シート材14は、いずれも雨水を透過するが害虫の侵入を防ぐことができる網目寸法を有し、天井部を被覆する天井網状シート材11の網目は、好ましくは0.8mm〜1.0mmであり、かつ、側面部を被覆する側面網状シート材14の網目は、好ましくは0.3mm〜0.4mmである。天井網状シート材11の網目が1.0mmを超えると一般害虫の侵入を容易にし、一方、0.8mm未満であると通気性を阻害するため、好ましくない。また、側面網状シート材14の網目が0.4mmを超えると微細害虫の侵入を許し、一方、0.3mm未満であると通気性を阻害するため、好ましくない。天井網状シート材11および側面網状シート材14の網目が上述の好ましい範囲内のときに適度の通気性が得られ、ハウス内の過度の温度上昇を防ぐことができ、外気温とほぼ変わらない温度となり、夏場でも通常の栽培が可能となる。また、雨水は天井網状シート材11の傾斜に沿って流れ、農作物に直接はかかりにくくなる。さらに、殆どの害虫の侵入を防ぐことができ、農薬の使用回数も少なくてすみ、農家にとっては経済性の観点から、また消費者にとっては食の安全性の観点から好ましい。
【0021】
また、天井網状シート材11は、上層網状シート12と合成樹脂フィルム等の不透水シートからなる下層シート13とから好適に構成することができる。図示する好適例では、骨組体2が前後左右に連なる逆U字形パイプの本体部3と左右の逆U字形パイプ同士を連結する連結パイプからなる左右連結材4とを有し、天井部が、上層網状シート12下であって、前後に連なる逆U字形パイプの本体部3における左右連結材4の接合部間のみ下層シート13で被覆されている。これにより、図4に示すように、上層網状シート12を通過した雨水は下層シート13表面を伝うかたちで下層シート13の端部より通路部の凹部22へと導かれ、排出される。
【0022】
因みに、図7は、天井網状シート材11における上層網状シート12を張設する前の、下層シート13のみを張設した状態を示す。
【0023】
また、本発明においては、ハウスの立体空間A内の地表は、プラスチックフィルム等からなる不透水シート20で被覆される。ハウス内には、通常、畝21が形成されるため、不透水シート20は、図3および図4に示すように、ハウス内に形成された畝21に従い敷設さる。
【0024】
上層網状シート12を通過した雨水は下層シート13表面を流れ、その端部より畝21と畝21の間の通路部の凹部22へと導かれ、排出される。なお、畝21の凸部23における不透水シート20には、作物aを植設するための開口部24が、縦方向に等間隔で穿孔される。
【0025】
ハウスの立体空間A内の地表は、ハウス長手方向である畝21の縦方向に傾斜状に形成することが好ましい。これにより、天井網状シート材11から浸入し、通路部の凹部22に集水された雨水は、図5に示すように、畝21と畝21との間の凹部22を通ってハウスの立体空間Aの外部へ排水される。その結果、農作物の根域は良好に乾燥状態を維持することができ、かつ、凹部22内の滞水もなくなり、作物に対して良好な生育環境を提供することができる。
【0026】
さらに、本発明においては、ハウスの立体空間Aの外部に、立体空間A内から排出された雨水を貯水する貯水池30を設置する。貯水池30を設けることで、立体空間Aから四方に排出される水により、近隣農地に土砂くずれや浸水などの被害を及ぼすといった問題を回避することができる。なお、貯水池30の大きさは、栽培用ハウスの規模や地域の降水量により適宜調整すればよい。
【0027】
また、図1および図2に示すように、ハウスの立体空間A内と貯水池30との間に、立体空間A内の雨水を貯水池30へと導く誘水路31を形成することが好ましい。この誘水路31を形成することにより、畝21と畝21の間の凹部22に集水された雨水が効率よく貯水池30へと排水される。
【0028】
さらにまた、本発明においては、栽培用ハウス1に、貯水池30内の水を汲み上げ立体空間A内の地中に給水する給水装置40を設置する。図2に示す給水装置40は、貯水池30内の水を汲み上げる吸水ポンプ41と、吸水ポンプ41から汲み上げた水をハウス内の立体空間A内の地中に給水する給水管42とを備え、さらに、作物への給水のため、畝21に沿って地表面上に潅水チューブ43が延びている。
【0029】
吸水ポンプ41から汲み上げた水は、給水管42へと送水され、潅水チューブ43に形成された給水孔(図示せず)から作物の根周辺に給水される。これにより、農業用水が確保されていない地域においても、低コストで水源の問題を解決することができる。
【0030】
貯水池30の上面には蓋体32を配設することが好ましい。蓋体32を貯水池30の上面に配設することにより安全上の他、貯水池30内に溜まった水の蒸発を軽減することができる。この蓋体32の素材は特に限定されるものではなく、樹脂、鉄製、木製等何れの素材で形成してもよい。
【0031】
次に、本発明の栽培用ハウスを形成する一好適方法を図6乃至図9に基づいて説明する。
先ず、図6に示すように、前後左右に、適宜間隔を呈して複数の本体部3を立設し、左右連結材4にて本体部3を左右方向に連結する。また、前後連結材5にて本体部3を前後方向に連結する。
【0032】
次に、図7に示すように、必要に応じて設ける下層シート13を逆U字形パイプの本体部3における左右連結材4の接合部間のみに設置する。
【0033】
下層シート13を張設した後、図8に示すように、下層シート13の上面に上層網状シート12を装着し、天井網状シート材11を形成する。天井網状シート材11を形成した後、図9に示すように、骨組体2の側面に側面網状シート材14を装着する。その後、ハウス内の地表に傾斜および畝21を設け、その地表面を不透水シート20で被覆する。また、ハウス外には、導かれた雨水を貯水する貯水池30と、該貯水池の水を汲み上げハウス内の地中に給水するための給水装置40と、設置する。
【0034】
本発明の栽培用ハウスの建設コストは通常のハウスに比べ極めて安価であり、具体的には10平方メートル当たり50万〜100万と従来の農業用ハウスの1/3〜1/10である。よって、償却期間が極端に少ないため農業経済に寄与するものである。なお、本発明の栽培用ハウスにおいては、網状シート材だけで育てられる環境として、寒冷地では3月〜11月の9ヶ月間、温暖地では10月〜6月の9ヶ月間、好適に農作物の栽培を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明における栽培用ハウスの一部欠切状態の全体図である。
【図2】給水装置および貯水池の詳細を示す。
【図3】天井網状シート材と不透水シートの詳細を示す断面図である。
【図4】雨水の浸水状態を示す断面図である。
【図5】雨水の排水状態を示す断面図である。
【図6】骨組体を形成する状態を示す全体斜視図である。
【図7】骨組体に下層シートを設置した状態を示す全体斜視図である。
【図8】骨組体に上層網状シートを設置した状態を示す全体斜視図である。
【図9】骨組体に側面網状シート材を設置した状態を示す全体斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 栽培用ハウス
2 骨組体
3 本体部
4 左右連結材
5 前後連結材
10 網状シート材
11 天井網状シート材
12 上層網状シート
13 下層シート
14 側面網状シート材
15 凹部
20 不透水シート
21 畝
22 凹部
23 凸部
24 開口部
30 貯水池
31 誘水路
32 蓋体
40 給水装置
41 吸水ポンプ
42 給水管
43 潅水チューブ
A 立体空間
a 作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体空間を形成する骨組体と、該骨組体の周囲を被覆するシート材とを備える栽培用ハウスにおいて、
該シート材が雨水を透過するが害虫の侵入を防ぐことができる網状シート材からなり、ハウス内の地表が不透水シートで被覆され、ハウス内の雨水をハウス外部の一方向に導くための傾斜がハウス内に存在し、ハウス外には導かれた雨水を貯水する貯水池と、該貯水池の水を汲み上げハウス内の地中に給水するための給水装置と、が設置されていることを特徴とする栽培用ハウス。
【請求項2】
天井部を被覆する前記網状シート材の網目が0.8mm〜1.0mmであり、かつ、側面部を被覆する前記網状シート材の網目が0.3mm〜0.4mmである請求項1記載の栽培用ハウス。
【請求項3】
前記骨組体が前後左右に連なる逆U字形パイプと左右の逆U字形パイプ同士を連結する連結パイプとを有し、天井部が、前記網状シート材下であって、前後に連なる前記逆U字形パイプの本体部分における前記連結パイプの接合部間のみ下層シートで被覆されている請求項1記載の栽培用ハウス。
【請求項4】
ハウス内の地表に雨水を集水させる畝を設けた請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の栽培用ハウス。
【請求項5】
前記給水装置が、貯水池内の水を汲み上げる吸水ポンプと、吸水ポンプから汲み上げた水をハウス内の地中に給水する給水管とを備える請求項1乃至4のうちいずれか1項記載の栽培用ハウス。
【請求項6】
前記貯水池の上面に蓋体を配設した請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の栽培用ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−261337(P2009−261337A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116136(P2008−116136)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(397006999)株式会社りょくけん (2)
【Fターム(参考)】