説明

桂皮酸エステル誘導体を含有する神経保護剤

【課題】桂皮酸エステル誘導体を有効成分として含む神経保護剤を提供する。
【解決手段】
一般式[I]
【化1】


〔式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはORを、Rは水素原子またはC−Cのアルキルを、Rはエステル残基を表す。〕で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として含有することを特徴とする神経保護剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の桂皮酸エステル誘導体を含む神経保護剤に関し、好ましくは1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロール、1−p−クマロイルグリセロールのうち少なくとも一種以上を有効成分とすることを特徴とする、例えば医薬品、飲食品またはペットフードとして有用な神経保護剤に関する。さらに本発明は当該神経保護剤を投与することを特徴とする脳血管障害または神経変性疾患の予防及び/または治療方法に関する。さらに本発明は、上記特定の桂皮酸エステル誘導体の医薬品、飲食品、またはペットフードの製造のための使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
桂皮酸(Cinnamic acid)とは構造式をC6H5CH=CHCOOH で表され、芳香族不飽和カルボン酸に分類される有機化合物である。β-フェニルアクリル酸とも表され、植物界に広く存在する。また、フェニル酸、シナピン酸、クマリン酸は桂皮酸の誘導体で、これらの桂皮酸誘導体も植物の細胞中に存在する。これらの桂皮酸および桂皮酸誘導体は従来、抗酸化剤として利用されてきた。
【0003】
しかしながら、桂皮酸エステル誘導体を用いた神経保護剤に関してはなんら報告されていない。
【0004】
【特許文献1】特開2007−000010
【非特許文献1】J.Agric. Food Chem.,2000,48,No.11(2000),pp5476−5483
【非特許文献2】Phytochemistry, vol.41, No.2,pp545−547,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、桂皮酸エステル誘導体を有効成分として含む神経保護剤を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために桂皮酸誘導体について種々研究を重ねた結果、特定の化学構造を有する桂皮酸エステル誘導体およびその無毒塩が、優れた神経保護作用を有することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]一般式[I]
【化1】

〔式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはORを、Rは水素原子またはC−Cのアルキルを、Rはエステル残基を表す。〕で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として含有することを特徴とする神経保護剤。
[2]Rで表わされるエステル残基が置換基を有していてもよい炭化水素基または糖残基であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
[3]RおよびRがそれぞれ独立して水素原子またはC−Cのアルキルであり、Rで表される炭化水素基または糖残基の置換基が水酸基であることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の神経保護剤。
[4]Rで表わされるエステル残基が1〜4個の水酸基で置換されていてもよいC−Cのアルキルであることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
[5]桂皮酸エステル誘導体が式[II]
【化2】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
で表される1−フェルロイルグリセロール、
式[III]:
【化3】

で表される1−p−クマロイルグリセロール、または
式[IV]:
【化4】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
で表される1−シナポイルグリセロールであることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
[6]桂皮酸エステル誘導体が式[V]
【化5】

〔式中、RおよびRは請求項1と同意義。〕
または[VI]
【化6】

〔式中、RおよびRは請求項1と同意義。〕
であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
[7]桂皮酸エステル誘導体が式[VII]、
【化7】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[VIII]、
【化8】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[IX]、
【化9】

式[X]、
【化10】

式[XI]、
【化11】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[XII]、または
【化12】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
[8]神経保護剤が医薬品、飲食品、またはペットフードであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の神経保護剤。
[9]神経保護剤が脳血管障害または神経変性疾患の予防及び/または治療に有効であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の神経保護剤。
[10]脳血管障害または神経変性疾患がアルツハイマー病、脳卒中、パーキンソン病、または痴呆症であることを特徴とする請求項9に記載の神経保護剤。
[11]神経が脳細胞であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の神経保護剤。
[12]神経保護剤が脳機能改善剤であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の神経保護剤。
[13]脳細胞におけるアストロサイトの活性を抑制することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の神経保護剤。
[14]請求項1に記載の神経保護剤を投与することを特徴とする脳血管障害または神経変性疾患の予防及び/または治療方法。
[15]一般式(I)で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩の医薬品、飲食品、またはペットフードの製造のための使用。
[16]Rで表わされるエステル残基が酸素原子で置換されていてもよいC〜Cの炭化水素、または、糖残基が単糖もしくは糖鎖における糖の数が2〜10であるオリゴ糖から選ばれる糖の残基であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の神経保護剤は、特定構造の桂皮酸エステル誘導体を有効成分として含むことを特徴とする。桂皮酸エステル誘導体を有効成分として含む神経保護剤は、優れた神経保護またはアストロサイト活性化抑制効果を有する。さらに、本発明の神経保護剤は、桂皮酸誘導体という天然物由来であるため副作用も少なく、従来の薬物療法などは適用できなかった患者にも安全に使用することができる。したがって、本発明の神経保護剤は、神経細胞が傷害を受けることにより生じる疾患の予防および/または治療に極めて有益である。本発明の桂皮酸エステル誘導体は、非エステル体である対応する桂皮酸誘導体を有効成分として含む神経保護剤よりもはるかに優れた神経保護またはアストロサイト活性化抑制効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の神経保護剤は、一般式[I]
【化13】

【0010】
〔式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはORを、Rは水素原子またはC−Cのアルキルを、Rはエステル残基を表す。〕で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
で表わされるC−Cのアルキルとしては、直鎖状のアルキル、分岐状のアルキルまたは環状のアルキルのいずれであってもよく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルなどが挙げられる。
【0012】
で表わされるエステル残基は、例えば置換基を有していてもよい飽和または不飽和の炭化水素基、または糖残基であってよく、炭化水素基としては例えばC−C20のアルキル基、C−C12のアリール基、例えば糖残基など天然由来の基などが挙げられる。C−C20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、オクチル、ドデシル、エイコシル、などが挙げられる。C−C12のアリール基としては、例えばフェニール、ナフチル、などが挙げられる。糖残基としてはグルコースなどの単糖、フラクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、パノース、メレジトース、ゲンチアノースなどの三糖類、スタキオースなどの四糖類などの、単糖もしくはオリゴ糖から一つの水素原子を除去して形成される基などが挙げられる。
上記、炭化水素は酸素原子で置換されていてもよく、あるいは酸素原子で介して中断されていてもよい。中でも、炭素数1〜7の炭化水素が特に望ましい。
【0013】
炭化水素基または糖残基の置換基としては、例えば、水酸基、塩素、臭素などのハロゲン、例えばメトキシ、エトキシなどのC−Cのアルコキシ、例えばメチル、エチルなどのC−Cのアルキル、例えばフェニール、ナフチルC−C12などのアリール、またはニトロ、シアノなど本発明の精神に反しない通常用いられるその他の置換基が挙げられる。置換基の数は1〜6程度が好ましい。
無毒塩は薬理学的に許容される塩が好ましく、例えばナトリウム塩、カリウム塩、などが挙げられる。
【0014】
本発明に係る上記有効成分の具体例としては、1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロール、または1−p−クマロイルグリセロールおよびそれらの薬理学的に許容される無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上である。これらの有効成分は、十分な神経保護作用及びアストロサイトの活性化抑制作用を有し、安定性に優れているため人体および犬や猫などペットへの利用が可能である。
【0015】
本発明に係る式(I)で示される桂皮酸エステル誘導体は、適当な溶媒中に、例えば、
【化14】

【0016】
で示されるフェルラ酸または
【化15】

【0017】
で示されるシナピン酸または
【化16】

【0018】
で示されるp−クマリン酸などのなどの、一般式(VI)
【化17】

【0019】
で示される桂皮酸誘導体とグリセリンとを加え、フェルラ酸エステラーゼの存在下に酵素反応させることによって製造することができる。
また、これらの桂皮酸エステル誘導体の合成は、例えば、フェルラ酸とグリセロールとをジメチルアミノピリジンの存在下にて反応させ、精製する方法や植物から抽出する方法、例えばジャガイモから抽出する方法(J. Agric. Food Chem., Vol. 48, No. 11 (2000), pp 5476-5483)や、イグサ科の植物から抽出する方法(Phytochemistry, vol. 41, No. 2, pp 545-547, 1996)や、酵素反応により合成する方法(J. Agric. Food Chem., Vol. 48, No. 11 (2000), pp 5476-5483、Phytochemistry, vol. 41, No. 2, pp 545-547, 1996)によっても製造することが出来る。
【0020】
本発明において基質として用いる、例えばフェルラ酸、シナピン酸、p−クマリン酸などの式(VI)で表される桂皮酸誘導体は種々の方法により合成することができる。例えば、植物にアルカリまたはフェルラ酸エステラーゼ等の酵素を作用させて、細胞壁からフェルラ酸等の桂皮酸類を遊離させ、それを適当な溶媒で抽出後、精製するといった定法を用いることができる。また、市販品(例えば、和光純薬工業株式会社など)として入手することもできる。
【0021】
本発明において基質として用いる例えばフェルラ酸、シナピン酸、p−クマリン酸などの式(VI)で表される桂皮酸誘導体の濃度(添加濃度)は特に限定されないが、通常、0.01〜50w/v%が好ましく、0.1〜40w/v%がより好ましい。一方、グリセリンなどの式R−OH(Rは上記と同意義)で示されるアルコールの濃度(添加濃度)は、通常、20w/v%以上が好ましく、40w/v%以上がより好ましい。
【0022】
反応に用いる溶媒としては、水又は、有機溶媒又は、水と有機溶媒との混合溶液が使用される。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ヘキサン、アセトンまたはベンゼンなどのような芳香族有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の量は特に制限はないが、酵素と有機溶媒との適性により、適宜決定すればよい。酵素量は特に限定されず、酵素の種類、精製度合い、力価などにより適宜選択すればよい。反応温度は、加温下で行うのが好ましく、通常、30〜75℃が好ましく、35〜70℃がより好ましい。反応時間は、通常、5分〜150時間であるのが好ましく、10分〜130時間であるのがより好ましい。
【0023】
フェルラ酸エステラーゼは、例えばフェルラ酸などの式(VI)で表される桂皮酸誘導体と植物細胞膜に存在する糖との間のエステル結合を加水分解してフェルラ酸などの桂皮酸誘導体(VI)を遊離させる酵素である。本発明に用いるフェルラ酸エステラーゼは、式(VI)で表される桂皮酸誘導体(例えば、フェルラ酸、シナピン酸、p−クマリン酸)と、例えばグリセロールなどの上記した式R−OH(Rは上記と同意義)で示されるアルコールとの間で、エステル化反応によって触媒作用を示すものであれば特に限定されない。フェルラ酸エステラーゼとしては、公知のフェルラ酸エステラーゼを使用できる。本発明で使用されるフェルラ酸エステラーゼの起源は特に限定されない。例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger))、ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物(例えば、ペニシリニウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum))などに由来するフェルラ酸エステラーゼが使用できる。
【0024】
上記微生物由来のフェルラ酸エステラーゼは、精製した酵素であってもよく、粗製の酵素であってもよい。
例えば、アスペルギルス・ニガーに由来するフェルラ酸エステラーゼは、アスペルギルス・ニガーの培養により得られるペクチナーゼ剤(ペクチナーゼPL「アマノ」の商品名で市販されている。)を限外ろ過、疎水クロマトグラフィー、遠心濃縮、ゲルろ過クロマトグラフィーまたは/およびイオン交換クロマトグラフィーを用いて精製することにより純品として得られる。もちろん、純品でなくても、部分精製のものでも差し支えない。精製に際しては、例えばフェルラ酸などの式(VI)で表される桂皮酸誘導体と、例えばグリセロールなどの上記した式R−OH(Rは上記と同意義)で示されるアルコールを基質として、例えばグリセリルフェルラ酸の生成量を測定することにより酵素力価を求め、これを指標として活性画分を集めることができる。
【0025】
かくして得られるフェルラ酸エステラーゼは、分子量が約36000(SDS−PAGEによる)であり、プロテインシーケンサー解析により得られる該酵素のN−末端アミノ酸配列は次の通りである。
Ala-Ser-Thr-Gln-Gly-Ile-Ser-Glu-Asp-Leu (配列番号1)
上記で得られたフェルラ酸エステラーゼのN−末端アミノ酸配列は、Applied and Environmental Microbiology,Vol.63,No.12,p.4638−4644(1997)に記載されている公知のフェルラ酸エステラーゼのN−末端アミノ酸配列と同一である。
なお、本発明で使用されるフェルラ酸エステラーゼは遺伝子組み換え技術を用いて製造されたものでもよく、さらにはポリエチレングリコール等で界面活性化した修飾フェルラ酸エステラーゼや固定化されたフェルラ酸エステラーゼなどであってもよい。
【0026】
酵素反応後、反応液中に生成した、例えば1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロールまたは1−p−クマロイルグリセロールなどの式(I)で表される桂皮酸エステル誘導体は、常法(たとえば、抽出、濃縮、遠心分離、シリカゲルクロマトグラフィー、イオン交換樹脂処理など)により、単離および/または精製することができる。
【0027】
本発明の神経保護剤は、神経保護作用を示す、例えば1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロールまたは1−p−クマロイルグリセロールなどの式(I)で表される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として含有していることから、脳血管障害や神経変性疾患の予防および/または治療のための医薬品、飲食品またはペットフードとして利用され得る。
【0028】
本発明における神経保護とは、神経系組織において主にアストロサイトから過剰に産生された一酸化窒素(NO:nitric oxide)等が、ラジカル反応により細胞膜やDNAの損傷を引き起こし、神経細胞死を誘発することに対して、NO等の産生を抑制することにより細胞死を予防し神経を保護することを意味する。従って、本発明の神経保護剤は、アストロサイトからのNO産生または放出を抑制するため、神経保護剤として有効である。NOの過剰産生による神経細胞死は、脳疾患の発症、進展と密接に関連するため、本発明の神経保護剤は、脳血管障害や神経変性疾患の予防および/または治療にも有用である。脳血管障害や神経変性疾患としては、例えば脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、痴呆症等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるアストロサイトの活性化抑制とは、アストロサイトの活性化を抑制するだけでなく、活性化されたアストロサイトを正常なアストロサイトに戻すことも意味する。アストロサイトとは非神経系の支持細胞の1種で、神経細胞に栄養補給などを行っている。例えば脳梗塞が発症した無酸素状態では、逆に浮腫や一酸化窒素合成酵素(NOS:nitric oxide synthase)を活性化して神経細胞を壊死させる可能性がある。本発明の神経保護剤はアストロサイトの異常活性化を抑制し、脳梗塞発症後の梗塞領域の拡大を防ぐ作用を有する。また本発明の神経保護剤は、アストロサイトが、何らかの理由により、活性化され、それが放出する因子により神経細胞が傷害を受けることにより生じる疾患の治療に有効である。放出する因子としては、NO、活性酸素、サイトカイン等が挙げられる。すなわち本発明の神経保護剤は、NOの放出を抑制するので、該抑制剤としても有用である。本発明の上記傷害を受けることにより生じる疾患としては、例えば脳血管障害や神経変性疾患が挙げられ、具体的には、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、痴呆症等が挙げられる。本発明の神経保護剤はこれらの治療および/または予防に有用である。
【0030】
本発明の神経保護剤の投与対象としては、例えば、ヒトをはじめウシ、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等の哺乳動物などが挙げられる。
【0031】
本発明の神経保護剤を医薬品として用いる場合には、予防又は治療の目的に応じて、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤など、また注射剤としては静脈直接注入用、点滴投与用などの医薬製剤一般の剤型を採用することができる。これらは、常法により製剤化することができ、製剤上の必要に応じて、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、でんぷん、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、ゼラチン等の担体や、溶剤、溶解補助剤、等張化剤等の通常の添加剤を適宜配合することができる。
また、本発明の神経保護剤は、上記有効成分の他に薬学的に許容される担体を含有することもできる。薬学的に許容される担体としては、賦形剤、希釈剤等が挙げられる。また、本発明の神経保護剤は香料等の各種添加剤を含むこともできる。このような神経保護剤は、脳血管障害または神経変性疾患の予防又は治療剤として用いることができる。
【0032】
投与方法は特に制限がなく、各種形態に応じた方法により行なうことが出来る。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤などは経口投与することができ、注射剤は静脈内に投与することが出来る。これら投与方法の中でも、本発明の神経保護剤の投与方法としては、摂取が容易である点で経口投与が望ましい。
【0033】
本発明の神経保護剤を飲食品に配合して使用する場合は、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳清飲料、果汁飲料、果肉飲料、機能性飲料、炭酸飲料等の清涼飲料水、緑茶、紅茶、コーヒー、ココア等の嗜好品及びこれらの飲料、発酵乳、加工乳、チーズ等の乳製品、豆乳、豆腐等の大豆加工食品、ジャム、果実のシロップ漬、フラワーペースト、ピーナツペースト、フルーツペースト等のペースト類、漬物類、ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー等の畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん等の魚貝類製品、魚、貝等の干物、鰹、鯖、鰺等の各種節、ウニ、イカ等の塩辛、スルメ、魚等のみりん干、鮭等の燻製品、のり、小魚、貝、山菜、椎茸、昆布等の佃煮、カレー、シチュー等のレトルト食品、みそ、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、ブイヨン、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素等の各種調味料、おかき、煎餅、おこし、饅頭、飴等の和菓子、クッキー、ビスケット、クラッカー、パイ、カステラ、ドーナッツ、プリン、スポンジケーキ、ワッフル、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、チョコレート、チョコレート菓子、キャラメル、キャンデー、チューインガム、ゼリー、ホットケーキ、パン、菓子パン等の各種洋菓子、ポテトチップ等のスナック菓子、アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等の氷菓などに好ましく使用することができる。
【0034】
本発明の神経保護剤をペットフードとして使用する場合は、イヌ、ネコ、ウサギ、フェレット、モルモット、ラット等、家庭で飼育可能な小動物向けの食餌などに、中でも、イヌおよびネコ用の食餌などに好ましく使用することができる。
【0035】
さらに、本発明によるペットフードは、前記有効成分のほかに、飼料構成成分として、例えば、原材料として、畜肉、魚介類、野菜類、穀物、豆類、小麦粉、澱粉、油脂類、食物繊維、乳製品、油粕、魚粉、ビタミン類(例えば、ビタミンA,B群,D,E,K)、ミネラル類(例えば、炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,炭酸亜鉛,硫酸銅,硫酸鉄,硫酸マンガン)等を配合してもよい。これらの飼料構成成分は、所要の粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗配分、水分、ビタミン、ミネラル等の各成分量を調整するためである。
【0036】
また、本発明によるペットフードは一般に、その水分量により、ウエットタイプ、ソフトドライタイプ、セミモイストタイプ、およびドライタイプに分類され、用途により総合栄養食、間食およびその他目的食に分類されるが、本発明によるペットフードは、種類、用途、形状等により限定されるものではない。
【0037】
本発明の神経保護剤の医薬品への配合量は、特に制限されないが、通常、有効成分の合計量として、医薬品全量中0.01〜90重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜80重量%である。
【0038】
また、本発明の神経保護剤の飲食品への配合量は、特に制限されないが、通常、有効成分の合計量として、飲食品全量中の0.01〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜30重量%である。
【0039】
また、本発明の神経保護剤のペットフードへの配合量は、特に制限されないが、通常、有効成分の合計量として、ペットフード全量中の0.01〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜30重量%である。
【0040】
また、本発明の神経保護剤は、他の神経保護剤などと併用して使用することができる。
【0041】
本発明の神経保護剤の投与量は、投与する患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg)1日あたりの投与量が全量で、0.1〜2000mgである。好ましくは成人1日あたりの投与量が全量で、5〜1000mgである。
本発明の神経保護剤をペットフードに配合した場合は投与する対象動物の種類、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、ペットフード組成物として、体重15kgの犬用のドライペットフード1gあたり約0.01〜500mgの有効成分を含み、好ましくは体重15kgの犬用のウェットペットフード1gあたり0.1〜300mgの有効成分を含む。有益な効果を得るためにペットが消費すべきペットフードの量は、ペットの大きさ、ペットの種類、ペットの年齢に依存する。しかし、通常体重1kgあたり0.001〜50mgの有効成分を提供する量のペットフードで十分である。
上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができる。食前、食後、食間を問わない。また投与期間は特に限定されない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において各種桂皮酸および桂皮酸のグリセロールエステルの濃度測定は、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行った。
(HPLC条件)
分析用カラム:CapCell Pack 18(4.6mmφ×150mm、資生堂社製)、
ポンプ:LC−10AD(島津製作所社製)、
移動相:メタノール:0.2%(w/w)酢酸=60:40(v/v)の混合液、
流速:0.8ml/分、
検出器:SPD−10AVvp(島津製作所社製)、
検出波長:320nm
【0043】
[製造例1]
(1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロールおよび1−p−クマロイルグリセロールの製造)
1.1−フェルロイルグリセロールの製造
【0044】
イ.酵素の調製
ペクチナーゼ剤(商品名:ペクチナーゼPL「アマノ」、天野エンザイム株式会社製)500mlを限外ろ過装置(分子量1万カット)にて脱塩したのち、硫安を30%飽和濃度になるまで加え、4℃、3日間、わずかに撹拌しながら、放置した。その後、遠心分離し、沈殿と上澄に分け、上澄を回収した。
次に、この上澄を、予め20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)に硫安30%飽和濃度になるようにして硫安を加えた緩衝液にて平衡化したButyl−toyopearl(東洋曹達工業株式会社製)に流し、その後、平衡化した緩衝液と20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)のリニアーグラジエントによって(全量:600ml)、タンパク質を溶出させ、活性画分を回収した。
【0045】
その後の酵素の精製は、FPLCシステム(ファルマシア社製)を用いた。
Butyl−toyopearl後の溶液(活性画分)に硫安30%飽和濃度になるように硫安を加え、RESOURCE PHE(アマシャムバイオサイエンス社製)6mlに供した。タンパク質の溶出は硫安飽和濃度30%〜0%のリニアーグラジエントにより行った。活性画分を回収した。
ついで、Centriprep YM−10(Millipore社製)を用い、遠心分離機にて酵素液(活性画分)を遠心濃縮した。
濃縮した酵素液をゲルろ過カラムクロマトグラフィーであるHiLoad 16/60 Superdex 75(アマシャムバイオサイエンス社製)に供し、活性画分を回収した。
その後、活性画分をmonoQ(アマシャムバイオサイエンス社)に吸着させ、ついで20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)と、20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)に塩化ナトリウムを0.3Mになるように溶解させた緩衝液とのリニアーグラジエントによってタンパク質の溶出を行った。活性画分を回収し、充分量の20mM酢酸緩衝液(pH5.0)にて透析した。
【0046】
透析した酵素液を再度monoQに供し、ついで20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)と20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)に塩化ナトリウムを0.3Mになるように溶解させた緩衝液とのリニアーグラジエントによってタンパク質の溶出を行った。活性画分を回収し、次のステップに進んだ。
酵素液に硫安を20%飽和濃度になるように加え、RESOURCE PHE(アマシャムバイオサイエンス社製)に供した。硫安飽和濃度20%〜0%のリニアーグラジエントによってたんぱく質の溶出を行った。得られた酵素液を20mM酢酸緩衝液にて充分透析することによって、精製酵素液(蛋白質量:0.43mg/ml;全蛋白質:10.4mg)を得た。
【0047】
ロ.精製酵素の純度確認
Laemmli法(Nature 227(1970)680−685)に従い、10%のアクリルアミドを作成し、前項イ.で得た精製酵素およびタンパク質の分子量マーカーであるbenchmark protein ladder(invitrogen社製)を同時に電気泳動した。その結果、単一のピークを認めた。また分子量マーカータンパク質との移動距離から、精製酵素の分子量は約36000であった。なお、プロテインシーケンサー解析により、本精製酵素のN−末端アミノ酸配列を調べたところ、次の通りであった。
Ala-Ser-Thr-Gln-Gly-Ile-Ser-Glu-Asp-Leu (配列番号1)
【0048】
ハ.酵素活性の測定
1M酢酸緩衝液(pH4.0)50μlに、グリセロール439μlおよびフェルラ酸溶液(フェルラ酸を1w/v%濃度となるようにジメチルスルホキシドに溶解して調製)10μlを加え、これに精製酵素液(蛋白質量:0.43mg/ml)1μlを添加し、37℃で20分間インキュベートした。その後、100℃で5分間インキュベートすることにより酵素反応を停止させ、生成した1−グリセリルフェルラ酸をHPLC[カラム:Mightysil RP−18GP250−4.6(5μm)(関東化学株式会社製);展開溶媒:メタノール:0.2%酢酸溶液=7.3]により定量した。
1Uは、基質に1%フェルラ酸を用いて、アクセプターに80(w/w)%グリセロールを用いた場合に、1分間に1μmolのグリセリルフェルラ酸を生成する酵素量とした。その結果、上記で調製された精製酵素液1μl当たり6mUの活性を示した。
【0049】
ニ.酵素反応
1Mの酢酸緩衝液(pH4.0)5mlにグリセロール42.5ml、10%フェルラ酸溶液(フェルラ酸をジメチルスルホキシドに溶解して調製)2.5mlを入れ、フェルラ酸エステラーゼ溶液(実施例1で得た精製酵素液)50μlを加え、37℃で114時間反応させた。
ついで、反応液を100℃で5分間煮沸して反応を停止させた。
【0050】
ホ.1−フェルロイルグリセロールの精製
反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層を回収した。有機層をエバポレーターにてある程度蒸発させ、十分に乾燥させたシリカゲルカラムを添加し、エバポレーターで減圧しながら、吸着させた。その後、ヘキサンにて充填したシリカゲルカラムの上部に、有機層を吸着させたシリカゲルカラムを充填し、ヘキサン:酢酸エチル=1:1の展開溶媒にて溶出させた。薄層クロマトにて、未反応のフェルラ酸が完全に溶出したことを確認した後、酢酸エチルにて残りを溶出させ、回収した。
回収画分をエバポレーター、濃縮乾固により酢酸エチルを蒸発させ、白色粉末の1−フェルロイルグリセロールを約230mg得た。
【0051】
H−NMR(CDOD):δ(integral,mult.,JHz):3.58(1H,dd,5.6,11.2)、3.62(1H,dd、5.4,11.2)、3.89(1H,m)、3.89(3H,s)、4.16(1H,dd,6.3,11.5)、4.26(1H,dd,4.4,11.5)、6.39(1H,d,15.9)、6.80(1H,d,8.1)、7.07(1H,dd,2.0,8.1)、7.19(1H,d,2.0)、7.65(1H,d,15.9)
【0052】
2.1−p−クマロイルグリセロールの製造
50mgのp−クマリン酸を500μlのジメチルスルホキシドに溶解し、グリセロール4ml、1Mの酢酸緩衝液(pH4.0)250μl、上記1.で得た精製酵素570mUを加え、反応溶液が5mlとなるように蒸留水を加え、50℃で72時間反応させた。
100℃で10分間インキュベートすることにより、酵素反応を停止させ、反応溶液に5mlの蒸留水を加えた。次いで、この溶液を予め活性化させたセップパックバックカラム(製品名;Sep−Pak Vac 35cc、Waters社製)に供し、目的の化合物を吸着させた。カラムの活性化方法は、セップパックバックカラムの説明書に準じて行った。目的の化合物が吸着したカラムを蒸留水にて洗浄後、アセトニトリルにて吸着物を溶出させ、そのアセトニトリル層を回収した。次いで、アセトニトリル層をエバポレーターにて濃縮し、コスモシールカラム(製品名;COSMOSIL packed column for HPLC 5C18−AR−2、サイズ;20x250mm、ナカライテスク社製)を用いてHPLCにより、さらに精製を行った。
HPLCに上記カラムをセットし、0.2%酢酸:メタノール=50:50の溶媒で平衡化し、エバポレーターにて濃縮したアセトニトリル層をインジェクトした後、分離された化合物を確認しながら、分取した。その後、目的の化合物と思われる画分をエバポレーターにて、濃縮後、遠心乾固させ、クリーム色の粉末として、1−p−クマロイルグリセロールを18.5mg得た。
【0053】
H−NMR(CDOD):
glycerol:4.06(1H,dd,6.1,11.5),4.16(1H,dd,4.3,11.5),3.80(1H,m),3.49(1H,dd,5.4,11.2),3.53(1H,dd,5.4,11.2)
p−coumric acid:6.24(1H,d,15.9),7.54(1H,d,15.9),6.70(1H,d,8.5),7.35(1H,d,8.5),7.35(1H,d,8.5),6.70(1H,d,8.5)
【0054】
3.1−シナポイルグリセロールの製造
50mgのシナピン酸を500μlのジメチルスルホキシドに溶解し、グリセロール4ml、1Mの酢酸緩衝液(pH4.0)250μl、上記1で得た精製酵素57mUを加え、反応溶液が5mlとなるように蒸留水を加え、50℃で24時間反応させた。反応後の精製は、1−p−クマロイルグリセロールと同様に行い、クリーム色の粉末として、1−シナポイルグリセロールを31.5mg得た。
【0055】
H−NMR(CDOD):
glycerol:4.08(1H,dd,6.1,11.5),4.17(1H,dd,4.3,11.5),3.77(1H,m),3.49(1H,dd,5.6,11.2),3.53(1H,dd,5.4,11.2)
sinapinic acid:6.32(1H,d,15.8),7.55(1H,d,15.8),6.81(1H,s),6.81(1H,s),3.77(3H,s),3.77(3H,s)
【0056】
[実験例1]
(ラットアストロサイト活性抑制試験)
グリア細胞の一種であるアストロサイトから過剰に産生される一酸化窒素(NO:nitric oxide)等は、細胞膜やDNAの損傷を引き起こし、神経細胞の死滅を誘発する。
本試験は、ラットのアストロサイトにサイトカイン(NO誘発剤)を作用させ、NOを強制的に産出させるとともに、各種フェルラ酸、シナピン酸、p−クマリン酸およびそれらのグリセロールエステルを作用させNO産出の抑制効果を確認した。
【0057】
試験方法
1.アストロサイトの調製
妊娠20日の雌ラット(Wistar系、紀和実験動物研究所より購入)の子宮より取り出した胎児から大脳皮質を摘出し、トリプシン処理、ピペッティングにより細胞を分散しDMEM培地、(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む)に懸濁した。シャーレに播種し37℃、5%CO下で培養した。培養開始から、3日後に培地を交換し、7日後にトリプシンを使用して細胞を浮遊させ、別シャーレに移しかえることにより、アストロサイトを調整した。
【0058】
2.NO産出の抑制効果の確認
上記、1.で調製したアストロサイトを、さらに7日間、37℃、5%CO下で培養した細胞をトリプシンで処理し浮遊させ、96穴培養プレートに3×10細胞/mlの濃度で懸濁した。それを、96穴培養プレートに0.1mlずつ播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。その後、培地を取り除き、最終濃度100μg/mlになるように希釈したフェルラ酸(和光純薬工業株式会社製)、シナピン酸(和光純薬工業株式会社製)、p−クマリン酸(和光純薬工業株式会社製)および、上記製造例で調整した、それらのグリセロールエステル(1−フェルロイルグリセロール、1−シナポイルグリセロールおよび1−p−クマロイルグリセロール)を混合したDMEM培地(1%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む)を50μl加え、37℃、5%CO下で30分間インキュベートした。なお、コントロールは、1%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むDMEM培地とした。
インキュベート後、サイトカイン(インターフェロン-γ 6ng/ml、インターロイキン-1β 6ng/ml、腫瘍壊死因子-α 6ng/ml)を含むDMEM培地(1%ウシ胎児血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む)を50μl加え、37℃、5%CO下で30分間インキュベートした。なお、陰性コントロールは、培地のみを50μl加えた。翌日、96穴培養プレートに各試験区上澄を各80μlずつ移した。ここに、1%スルファニルアミド、4.25%リン酸混合液を40μl加え、5分間インキュベートした。その後、0.1%ナフチルエチレンジアミン水溶液を40μl加え、10分間インキュベートし、その後マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製、Model 680)を用いて、540nmの吸光度で測定した。スタンダード曲線は既知濃度の亜硝酸を用いて、同じく540nmの吸光度を測定することによって作製した。結果を表1に示す。また、阻害率を表2に示す。
【0059】
【表1】

※ ネガティブコントロールはサイトカインでNO産生を誘導していない試験区。
※※ポジティブコントロールはサイトカインでNO産生を誘導した試験区。
【0060】
【表2】

阻害率は、ポジティブコントロールからネガティブコントロールを引いた値を100%として、各試験区の阻害率を計算した。
【0061】
表1および表2から、各種桂皮酸のグリセロールエステルの試験区はポジティブコントロールの試験区よりもNOの生産量が少ないことが分かった。NO量が少ない方が神経細胞に与えるダメージが少なく試験的に良好である。フェルラ酸は、NOの産生が増加しており、1−フェルロイルグリセロールは、NOの産生を強力に抑えていることがわかった。この現象は、p−クマリン酸について同様のことが確認された。また、シナピン酸については、フリーの酸、グリセロールエステルともに、NOの産生を抑えていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の桂皮酸エステル誘導体は神経保護作用を有するため、医薬品をはじめ飲食品やペットフードに広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ラット胎児の大脳皮質から作成したアストロサイトにおける亜硝酸産生量を示す図である。
【図2】各種桂皮酸誘導体及びそのグリセロールエステルがアストロサイトに与える亜硝酸産生阻害率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]
【化1】

〔式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはORを、Rは水素原子またはC−Cのアルキルを、Rはエステル残基を表す。〕で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として含有することを特徴とする神経保護剤。
【請求項2】
で表わされるエステル残基が置換基を有していてもよい炭化水素基または糖残基であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
【請求項3】
およびRがそれぞれ独立して水素原子またはC−Cのアルキルであり、Rで表される炭化水素基または糖残基の置換基が水酸基であることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項4】
で表わされるエステル残基が1〜4個の水酸基で置換されていてもよいC−Cのアルキルであることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
【請求項5】
桂皮酸エステル誘導体が式[II]
【化2】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
で表される1−フェルロイルグリセロール、
式[III]:
【化3】

で表される1−p−クマロイルグリセロール、または
式[IV]:
【化4】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
で表される1−シナポイルグリセロールであることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
【請求項6】
桂皮酸エステル誘導体が式[V]
【化5】


〔式中、RおよびRは請求項1と同意義。〕
または[VI]
【化6】


〔式中、RおよびRは請求項1と同意義。〕
であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
【請求項7】
桂皮酸エステル誘導体が式[VII]、
【化7】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[VIII]、
【化8】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[IX]、
【化9】

式[X]、
【化10】

式[XI]、
【化11】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
式[XII]、または
【化12】

〔式中、Meはメチルを表す。〕
であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。
【請求項8】
神経保護剤が医薬品、飲食品、またはペットフードであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項9】
神経保護剤が脳血管障害または神経変性疾患の予防及び/または治療に有効であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項10】
脳血管障害または神経変性疾患がアルツハイマー病、脳卒中、パーキンソン病、または痴呆症であることを特徴とする請求項9に記載の神経保護剤。
【請求項11】
神経が脳細胞であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項12】
神経保護剤が脳機能改善剤であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項13】
脳細胞におけるアストロサイトの活性を抑制することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の神経保護剤。
【請求項14】
請求項1に記載の神経保護剤を投与することを特徴とする脳血管障害または神経変性疾患の予防及び/または治療方法。
【請求項15】
一般式(I)で示される桂皮酸エステル誘導体またはその無毒塩の医薬品、飲食品、またはペットフードの製造のための使用。
【請求項16】
で表わされるエステル残基が酸素原子で置換されていてもよいC〜Cの炭化水素、または、糖残基が単糖もしくは糖鎖における糖の数が2〜10であるオリゴ糖から選ばれる糖の残基であることを特徴とする請求項1に記載の神経保護剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13397(P2010−13397A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175109(P2008−175109)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(591018534)奥本製粉株式会社 (20)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】