説明

梗塞後治療用のナノ粒子−幹細胞コンジュゲート

本発明は、電荷が交互である高分子電解質の1層又は複数層で被覆されており、その最外層に、1種又は複数の治療剤を担持するナノ粒子が静電気的にコンジュゲートしている生細胞、好ましくは幹細胞を含む構築物に関する。本発明はさらに、心筋梗塞を治療するための構築物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、化学、薬理学、バイオテクノロジー、医学、ナノテクノロジー及び材料科学の分野に関する。より詳細には、本発明は、梗塞治療用のナノ粒子担持細胞の調製及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性の心不全は、心臓組織において血液系によって運ばれる酸素が欠乏した場合に起こる。虚血性傷害が重度であると、心筋の細胞(心筋細胞)が失われることにより、非収縮性の瘢痕の形成及び心室壁肥厚を含めた、有害な事象のカスケードが開始して、慢性心不全が引き起こされる。損傷した心筋組織の回復は、心臓幹細胞(心臓に天然に存在する)、心筋細胞を増殖させること、又は細胞の再生のために損傷部位に骨髄由来幹細胞を移動させることを介した内因性の修復機構によって部分的に達成することができる。しかし、この内因性の機構は、失われた心筋組織(心筋)又は心機能を回復させるのに細胞数が不十分であることが多い。
【0003】
幹細胞は、梗塞後の心臓における損傷組織を修復及び再生するのに潜在的に有効であることが実証されており、in vitroで培養及び増殖するという利点がある。心臓修復のための胚性幹細胞及び成体由来幹細胞の使用は、研究の盛んな分野である。実際、胚性幹(ES)細胞、臍帯血細胞、成体由来幹細胞、心臓幹細胞、筋芽細胞(筋肉幹細胞)及び血管内皮前駆細胞を含めたいくつもの幹細胞型が、損傷した心筋を再生することがさまざまな結果と共に示されている。胚性幹細胞は、その名称が示唆するとおり胚に由来する。大部分の胚性幹細胞は、in vitroで受精された卵から発生する胚に由来する。未分化のES細胞によって通常産生される2つの重要な転写因子Nanog及びOct4の存在。
【0004】
成体幹細胞は、2種類の幹細胞を有することが骨髄において最初に同定された。1つの集団は、造血幹細胞と呼ばれ、あらゆる種類の血液細胞を形成する。第2の集団は、間葉系幹(骨髄間質幹細胞とも呼ばれる)と呼ばれ、筋肉などの組織、骨の細胞(骨細胞)、軟骨の細胞(軟骨細胞)、脂肪の細胞(脂肪細胞)及び腱などの他の種類の結合組織細胞を生じる。成体幹細胞は、脳、骨髄、末梢血、血管、骨格筋、皮膚、歯、心臓、腸、肝臓、卵巣上皮及び精巣を含めた、多くの器官及び組織で同定されている。たとえば、血管内皮前駆細胞は、血管の内側を裏打ちする内皮を生じる。これらの成体幹細胞は、それ自体再生することができ、分化して組織又は器官の主要な特殊化した細胞型の一部又は全部を生じることができる、組織又は器官の分化細胞に見られる未分化細胞であると考えられている。
【0005】
他の幹細胞としては脳の神経幹細胞が挙げられ、この神経幹細胞はその3つの主要な細胞型:神経細胞(ニューロン)並びに非神経細胞の2つの範疇であるアストロサイト及びオリゴデンドロサイトを生じる。消化管を裏打ちする上皮幹細胞は、陰窩深部に存在し、いくつかの細胞型:吸収細胞、杯細胞、パネート細胞及び腸内分泌細胞を生じる。皮膚幹細胞は、表皮の基底層及び毛包の基部に存在する。表皮幹細胞はケラチノサイトを生じ、ケラチノサイトは皮膚表面に移動し保護層を形成する。毛包幹細胞は、毛包及び表皮の両方を生じ得る。
【0006】
分化転換は、ある組織の幹細胞が別の組織細胞に分化するようにすることができる過程である。たとえば、ヒト造血幹細胞は、in vivo及びin vitroの両方の適切な培養条件下で心筋を含めた多数の組織型に分化するように誘導することができる。一般に、増殖因子培養条件の組合せ、及び幹細胞の特異的な細胞型への方向付けられた分化のための転写因子「レシピ」の発現に関するいくつかの基本プロトコールが科学者らによって確立されている。
【0007】
実際に、科学者らは、いくつかの特殊化した成体細胞が幹細胞様の状態をとる、又はそれに脱分化するように遺伝学的に「再プログラム」される条件を特定している。この新型の幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)と呼ばれる。体(成体)細胞は、胚性幹細胞の「幹細胞性」を維持するのに重要な因子を発現させることにより、胚性幹細胞様状態に入るように再プログラムされる。したがって、これらの細胞型のいずれかを心筋梗塞再生の細胞前駆体(及び他の器官)となるように適切なin vitro培養条件下で使用することが可能である。
【0008】
しかし、幹細胞が直面する環境は、実質的に最適とはいえないことが多く、細胞の生存に有害であることがある。すなわち、壊死組織は、梗塞組織に集合する壊死/アポトーシス細胞由来のフリーラジカル、炎症性サイトカイン及び代謝性毒素のような抗細胞生存実体に満ちていることが多い。このような環境は、幹細胞に組織再生及び血管再生を起す機会がないと幹細胞の損傷又は死をもたらす可能性がある。このような有害な条件に対処するための罹患した組織への生物活性剤の同時送達は、梗塞後の組織の有害な局面を寛解させ、好ましくは解消する働きがあり得る。こうした生物活性剤としては、生存促進性増殖因子、サイトカイン、細胞分化因子、その発現を制御するこのようなタンパク質又は転写因子をコードするDNA構築物が挙げられる。
【0009】
幹細胞を送達するためのいくつかの手法が研究者らによって使用されている。一般的な手法としては、静脈内注射及び冠動脈への直接注入が挙げられる。生物活性剤の静脈内注射及び全身送達も確かに選択肢ではあるが、この方法は標的部位への細胞の移動及びホーミングに依存する。幹細胞の移植部位又はその付近への局所送達は、使用する生物活性剤の投与量を低減し、制御放出技術を使用することにより、投与される生物活性剤の治療レベルをより長い期間維持できるようになり、したがって幹細胞が、罹患した領域にある組織に接着し、再生治癒に影響を及ぼす時間が長くなるので、より有益であろう。幹細胞療法の試みは、幹細胞の心筋への直接的なin situ心筋送達に焦点を合わせている。この送達は、カテーテルバルーン注入又はカテーテル針デバイスによって達成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、望ましいとされるものは、組織再生を効率的に起し、可能な限り、梗塞後の環境の負の影響を低減又は排除するように、器官の梗塞領域に送達される、幹細胞及び1種又は複数の治療剤の構築物である。本発明は、このような構築物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、一態様において、本発明は、負の表面電荷を有する細胞、細胞の表面と静電気的にコンジュゲートしている、正に帯電した生体適合性高分子電解質の第1の層、任意選択で、第1の層と静電気的に架橋している、負に帯電した生体適合性高分子電解質の第2の層、任意選択で、電荷が交互である生体適合性高分子電解質の静電気的に架橋したさらなる層であり、同様に帯電した高分子電解質が化学的に同一でも異なっていてもよい、層、及び最も外側の高分子電解質層と静電気的にコンジュゲートしている、最外層と反対の表面電荷を有する1種又は複数の生体適合性ナノ粒子を含む構築物であって、ナノ粒子が1種又は複数の生物活性剤を含む構築物に関する。
【0012】
本発明の一態様において、負に帯電した生体適合性高分子電解質の第2の層が選択される。
【0013】
本発明の一態様において、生体適合性高分子電解質の静電気的に架橋したさらなる層も選択される。
【0014】
本発明の一態様において、細胞は、骨格筋芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞(cardiomyocyte)、心筋の細胞(myocardial cell)、胚性幹細胞、成体幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される。
【0015】
本発明の一態様において、細胞は成体幹細胞である。
【0016】
本発明の一態様において、成体幹細胞は間葉幹細胞である。
【0017】
本発明の一態様において、正に帯電した各層の正に帯電した生体適合性高分子電解質は独立に、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、アミノデキストラン、ポリオルニチン及びキトサンからなる群から選択される。
【0018】
本発明の一態様において、正に帯電した各層の正に帯電した高分子電解質はキトサンである。
【0019】
本発明の一態様において、負に帯電した各層の負に帯電した生体適合性高分子電解質は独立に、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン硫酸、β−シクロデキストリン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメトキシセルロース、カルボキシメチルデンプン、ポリ硫酸化グルコソグリカン、ムコ多糖、アニオン性オリゴ糖、ポリヌクレオチド及びヒアルロナンからなる群から選択される。
【0020】
本発明の一態様において、負に帯電した各層の負に帯電した高分子電解質はヒアルロナンである。
【0021】
本発明の一態様において、ナノ粒子は生体安定性である。
【0022】
本発明の一態様において、ナノ粒子は生分解性である。
【0023】
本発明の一態様において、生物活性剤は、ナノ粒子内に封入されている、又はナノ粒子の外表面に結合している。
【0024】
本発明の一態様において、生物活性剤は、ナノ粒子内に封入されている、ナノ粒子の外表面に結合している、又はナノ粒子の構造中に組み込まれている。
【0025】
本発明の一態様において、生物活性剤は、細胞生存促進剤からなる群から選択される。
【0026】
本発明の一態様において、正に帯電した高分子電解質及び負に帯電した高分子電解質の層は、細胞表面の一部にのみ適用されている。
【0027】
本発明の一態様は、疾患又は障害に罹患しているか、又は罹患しやすいことが分かっている患者を同定するステップ、及び前記患者に、生物活性剤が、疾患又は障害に対して治療又は予防効果があることが分かっている生物活性剤から選択される、請求項1に記載の構築物を投与するステップを含む方法である。
【0028】
本発明の一態様において、上記の方法では、疾患又は障害は心臓の疾患又は障害である。
【0029】
本発明の一態様において、上記の方法では、心臓の疾患又は障害は心筋梗塞である。
【0030】
本発明の一態様において、上記の方法では、構築物を患者に投与するステップは針注射を含む。
【0031】
本発明の一態様において、上記の方法では、針注射は針注射カテーテルを含む。
【0032】
本発明の一態様において、上記の方法では、構築物を投与するステップは埋め込み型医療デバイスを含む。
【0033】
本発明の一態様において、埋め込み型医療デバイスはステントを含む。
【発明を実施するための形態】
【0034】
特許請求の範囲を含めた本出願全体にわたる単数の使用は、明示的に別段の定めをした場合を除き複数を含み、逆の場合も同じであることが理解される。すなわち、「a」及び「the」は、その語が修飾するあらゆる語の1つ又は複数に言及するものと解釈されるべきである。非限定的な例は、「治療剤」は、明示的に定めがある場合又はこれが意図されない文脈から一義的に明白である場合を除き、1つの治療剤、2つの治療剤又は、条件さえ揃えば、患部組織の治療において当業者によって決定されるとおり、さらに多くの治療剤を含むことが理解される。同様に、「細胞」又は「層」は、これも明示的に定めがある場合又はこれが意図されない文脈から全く明白である場合を除き、単一の細胞若しくは単一の層又は複数のこのような細胞若しくは層を指す。
【0035】
本明細書では、限定されるものではないが、「約」、「実質的に」、「本質的に」及び「およそ」などの近似に関する語は、この用語が修飾する語又は句が、必ずしも記載の内容そのものである必要はなく、その記載内容とある程度異なってもよいことを意味する。その内容が異なってもよい程度は、どれだけ大きく変化が起こり、変更されたものが修飾された語又は句の特性、特徴及び能力を保持していると当業者が認めることができるかによって決まる。一般に、近似に関する語が修飾する本明細書の数値は、先の記述によって変更可能であるが、述べられた値と少なくとも±15%異なってもよい。
【0036】
本明細書では、本発明の一態様を修飾するための、「好ましい」、「好ましくは」又は「より好ましい」などの使用は、特許出願書類の出願時に存在した優先性を指す。
【0037】
本明細書では、「細胞」は、梗塞組織の再生に有用であることが現在分かっている、又は今後判明する任意の哺乳動物細胞を指す。したがって、細胞は、限定されるものではないが、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、骨格筋芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、幹細胞又は前駆細胞を指すことができる。幹細胞が現在好ましく、幹細胞は胚性幹細胞、胎児性幹細胞又は成体幹細胞でもよい。成体幹細胞はさらに、造血幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞などに分化した細胞でもよい。成体間葉系幹細胞が現在好ましい。
【0038】
本明細書では、「高分子電解質」は、生理的pHで全体にわたる正又は負の電荷を有するオリゴマー化合物又はポリマー化合物を指す。
【0039】
「静電気的にコンジュゲートしている」とは、2つの実体、ここでは負の表面電荷を有する細胞(哺乳動物細胞は一般に、その外表面にこのような全体にわたる負電荷を有する)と、他の実体、ここでは全体にわたる正電荷を有するナノ粒子とが、化学的力ではなく物理的力、すなわち、正味の正電荷実体と正味の負電荷実体の間の引力によって結合していることを意味する。
【0040】
「静電気的に架橋している」は、静電気的にコンジュゲートしているに類似するが、2つの高分子電解質のオリゴマー又はポリマーの間の引力に関連付けられる。2本のポリマー鎖における、その末端以外の2本の鎖の任意の地点の間で結合が形成される場合、ポリマーは架橋しているといわれる。この結合が化学的結合ではない、すなわち共有結合ではなく、むしろ一方のポリマー鎖の正味の正電荷の、他方の鎖の正味の負電荷に対する引力によって形成される場合、これらの鎖は、本明細書でもそうであるが静電気的に架橋していると見なすことができる。
【0041】
本明細書では、「ナノ粒子」は、ミセル、ワームミセル、リポソーム若しくはポリマーソームなどのナノスケール小胞、ナノスケールコア/シェル構築物又はナノスケール固体粒子を指し、これらの粒子は、完全に、又は実質的に完全に固体の表面を有しても、完全に、実質的に完全に、又は部分的に多孔質の表面を有してもよい。
【0042】
本明細書では「ナノスケール」は、その最大の横断面として、すなわち、その表面に沿って測定するのではなく粒子を貫通して測定すると、200ナノメートル以下、好ましくは150ナノメートル以下、現在最も好ましくは100ナノメートル以下の寸法を有するナノ粒子を指す。固体は、任意の所望の形状をとることができるが、実質的に球状の粒子が当技術分野でよく知られており、容易に調製され、現在好ましい。「実質的に球状の」とは、粒子が、ピンポン球によく似た、すなわち、ほとんど完全に球状の表面を有する必要はなく、異形状でもよいが、当業者によって一般に「球形」と見なされることを意味する。ナノ粒子は、1種又は複数の生体適合性物質で構築されていてもよく、前述のとおり、内部に包埋又は封入された治療物質の溶出を可能にするように多孔質でもよく、又は分解すると治療物質が環境に放出されるような生分解性でもよい。ナノ粒子が生分解性である場合、生物活性剤が生分解性物質の分解産物として放出されるようにナノ粒子が製作される物質の一体部分として生物活性剤を含むことも可能である。生分解性物質は、天然、半合成又は合成の生体適合性ポリマーであることが現在好ましい。
【0043】
本明細書では、ミセルは、水媒体中で臨界ミセル濃度(CMC)を超えると多くの両親媒性分子によって自然に形成される球状のコロイドナノ粒子を指す。両親媒性分子は、溶質、特に水に対するその親和性が異なる、2つの別個の構成成分を有する。極性溶質である水に対して親和性を有する分子の部分は、親水性であるといわれる。炭化水素などの非極性溶質に対して親和性を有する分子の部分は、疎水性であるといわれる。両親媒性分子が水中にある場合、親水性部分は水と相互作用しようとし、疎水性部分は水を避けようとする。これを実現するために、親水性部分は水中にとどまり、疎水性部分は、水の表面上の空気中に、又は水面に浮遊する非極性非混和性の液体中に保持される。水表面にこの分子層が存在すると、その表面の凝集エネルギーが乱れ、表面張力が低下する。この作用を有する両親媒性分子は、「界面活性剤」として知られている。限られた数の界面活性剤分子が、水/空気界面又は水/炭化水素界面にこのように整列することができる。界面に界面活性剤分子がもう入り込めないほど密集する、すなわちCMCに達すると、任意の残りの界面活性剤分子は、分子の親水性の末端を外側に向け、すなわち水と接触させてミセルコロナを形成し、疎水性の「尾部」を球体の中心に向けた球体を形成する。界面活性剤分子によって形成された空間内に、水媒体に懸濁させた治療剤を捕捉することができる。ミセルは、一般に約5nmから約50nmまでのナノスケールサイズを有するので、高透過性・高滞留性(Enhanced Permeability and Retention)効果又はEPR効果として知られている現象である、漏出性の血管系及びリンパ排液の障害を有する病的領域において自発的な蓄積を示すことが認められている。
【0044】
比較的低分子量の界面活性剤から形成されたミセルに関する問題は、そのCMCが通常非常に高く、その結果、形成されたミセルは、希釈するとかなり迅速に解離し、すなわち分子は、水表面の空いた場所に頭部を向け、治療剤の沈殿が生じることである。幸いにも、この欠点は、ミセルを形成するために、長い脂肪酸鎖又は2本の脂肪酸鎖を有する脂質、具体的にはリン脂質及びスフィンゴ脂質、又はポリマー、具体的にはブロックコポリマーを使用することによって回避することができる。
【0045】
10−6M(モル)の低いCMCを示すポリマーミセルが調製されている。したがって、こうしたポリマーミセルは、非常に安定であり、同時に界面活性剤ミセルと同一の有益な特徴を示す傾向がある。現在当技術分野で知られている、又は今後そのように知られるようになる可能性がある、任意のミセル形成ポリマーを本発明の方法に使用することができる。ミセル形成ポリマーの例としては、限定されるものではないが、メトキシポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(エチレングリコール)とホスファチジル−エタノールアミンのコンジュゲート、ポリ(エチレングリコール)−b−ポリエステル、ポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(L−アミノ酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン)−bl−ポリ(オルトエステル)、ポリ(N−ビニルピロリドン)−b−ポリ酸無水物及びポリ(N−ビニルピロリドン)−b−ポリ(アクリル酸アルキル)がある。
【0046】
上記の従来の球状ミセルに加えて、本発明の小胞は、ワームミセルとして知られている構築物を含むこともできる。ワームミセルは、その名称が示唆するとおり、球状ではなく円筒形である。ワームミセルは、球状ミセルを調製するために上記で検討した親水性ポリマー−b−疎水性ポリマー構造の全ブロックコポリマー分子量に対する親水性ポリマーブロックの重量分率を変更することによって調製される。ワームミセルは、球状のポリマーミセルのように生体不活性で安定であるだけでなく、柔軟性を有するという潜在的利点を有する。限定されるものではないが、ポリ(乳酸)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(エチルエチレン)及びポリブタジエンなどのいくつもの疎水性ポリマーを用いてワームミセルを作製するために、ポリエチレンオキシドが広く使用されている。ワームミセルの形成、特徴付け及び薬物負荷に関する代表的な記載は、Kim,Y.ら,Nanotechnology,2005,16:S484−S491に見出すことができる。この文献に記載されている技法、並びに現在知られている、又は今後知られるようになる可能性がある任意の他の技法を使用して、本発明の小胞として有用なワームミセルを作製することもできる。
【0047】
実質的に球状のミセル及びワームミセルに加えて、本発明の小胞は、リポソームでもよい。リポソームは、外殻がリン脂質からなる小胞である。リン脂質は、有機分子のリン酸エステルからなる親水性の頭部領域と、1種又は複数の疎水性の脂肪酸尾部の2つの主要な領域を有する分子である。特に、天然のリン脂質は、コリン、グリセロール及びリン酸からなる親水性の領域と、脂肪酸からなる2つの疎水性の領域とを有する。リン脂質は水性の環境に置かれると、その親水性の頭部は直線状に集まり、その疎水性の尾部は互いに本質的に平行に整列する。次いで、疎水性の尾部は水性の環境を避けようとするので、2列目の分子は1列目の分子と尾尾結合によって整列する。水性の環境との接触、すなわち、二重層の端部における接触の最大限の回避を実現すると同時に、表面積対体積比を最小限に抑えることにより、最小エネルギーの立体構造を実現するために、リン脂質二重層又はラメラとして知られている2列のリン脂質が集まって球体となり、その際に球体のコア中に水媒体の一部、及びそれに溶解又は懸濁することができるあらゆる物質を捕捉する。リポソームを作製するために使用することができるリン脂質の例としては、限定されるものではないが、1,2−ジミリストロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジラウロリル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−リン酸一ナトリウム塩、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)]ナトリウム塩、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホ−L−セリン]ナトリウム塩、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−グルタリルナトリウム塩及び1,1’,2,2’−テトラミリストイルカルジオリピンアンモニウム塩がある。
【0048】
リポソームは、単一の二重層で構成される一枚膜リポソームでもよく、又はリポソームは、2つ以上の同心円状の二重層で構成される多重膜リポソームでもよい。本発明の構築物の調製に使用される、現在好ましいリポソームは、直径約20〜100nmの範囲のSUV(small unilamellar vesicle、小さな一枚膜小胞)リポソーム、及びサイズ約100〜200nmの範囲のいくつかのLUV(large unilamellar vesicle、大きな一枚膜小胞)リポソーム及びLMV(large multilamellar vesicle、大きな多重膜小胞)リポソームである(ただし、LUV及びLMVは5000nmに達するものでもよい)。脂質を有機溶媒に溶解させ、この溶液で血管壁を被覆し、溶媒を蒸発させることによって通常形成される乾燥脂質薄膜/ケークを撹拌しながら水和させると、LMVが自発的に形成する。次いで、LMVをSUV、LUVなどに変換するためにはエネルギーが印加される。より小さな単一膜及び多重膜小胞を得るためには、エネルギーは、限定されるものではないが、超音波処理、高圧、高温及び押出しの形をとることができる。この過程において、水媒体の一部が小胞中に捕捉される。しかし一般に、捕捉される、全溶質の部分、したがって治療剤の量はかなり少ない傾向があり、典型的に数パーセントの範囲である。しかし、最近、エマルションテンプレート法によるリポソーム調製物(Pautotら,Langmuir,2003,19:2870)は、水性溶質のほとんど100%の捕捉をもたらすことが示された。簡単に述べると、エマルションテンプレート法は、脂質によって安定化された油中水型エマルションを調製し、このエマルションを水性相上に層状に重ね、水/油滴を水相中に遠心分離し、油相を除去して一枚膜リポソームの分散をもたらすことを含む。この方法を使用して、単一の二重層の内側及び外側の各単層が異なる脂質を含有する非対称のリポソームを製造することができる。前述の技法の任意のもの並びに当技術分野で知られている、又は今後知られるようになる可能性がある任意の他の技法を使用して、本発明の小胞を作製することもできる。
【0049】
ミセル形成に関して上記で検討したジブロックコポリマーをさらに修飾して、リポソームに類似する二重層構造を形成することもできる。この構造はポリマーソームと称される。ジブロックコポリマー中のポリマーの長さ及び化学的性質に依存して、ポリマーソームは、リポソームよりも実質的に堅固なものとすることができる。さらに、ジブロックコポリマーの各ブロックの化学的性質を完全に制御できると、ポリマーソームの組成の調整を、ポリマーソームの外表面上の正味電荷を当然含む所望の用途に適合させることが可能になる。また、膜の厚さは、個々のブロックの重合度を変更することによって制御することができる。ブロックのガラス転移温度の調整は、膜の流動性、したがって透過性に影響を及ぼすことになる。さらに、ポリマーの性質を改変することにより、放出の機構も修飾することができる。
【0050】
ポリマーソームは、リポソームと同様にして調製することができる。すなわち、ジブロックコポリマーの薄膜は、コポリマーを有機溶媒に溶解させ、コポリマーを含有する溶媒の薄膜を血管表面に適用し、溶媒を除去してコポリマーの薄膜を残存させ、次いで、薄膜を水和させることによって形成することができる。ポリマーソームは、ジブロックコポリマーを溶媒に溶解させ、次いでブロックの一方に対する貧溶媒を添加して、それによりポリマーソームの自発的な形成をもたらすことによって調製することもできる。
【0051】
リポソームと同様に、ポリマーソームを使用して、コポリマー薄膜を再水和させるために使用される水に生物活性剤を含めることによって生物活性剤を封入することができる。治療剤を小胞のコア中に浸透圧によって追い込むことにより、ポリマーソームに力を負荷することもできる。リポソームと同様に、ポリマーソームの負荷効率は通常低い。しかし、最近、相対単分散性及び高負荷効率を有するポリマーソームを提供する技法が報告された。generation of polymerisomes from double emulsions.Lorenceauら,Langmuir,2005,21:9183−86。この技法は、マイクロ流体技術を使用して、有機溶媒層に囲まれた水滴からなる二重エマルションを生成することを含む。
【0052】
本発明のナノ粒子の調製に適したポリマーは、生体適合性でなければならず、生体安定性でも生分解性でもよい。本明細書では、生分解性は、ポリマーを患者の体内の生理的条件下で処理することができる、生体吸収、生体再吸収、排出などを含めたあらゆる手段を指す。生体安定性は、ポリマーが、数年に達してもよい長期間にわたって生理的条件下で生分解しないことを単に意味する。
【0053】
生理的条件は、哺乳動物の体を構成し、限定されるものではないが、pH、温度、酵素、食細胞などの破壊性の細胞の存在を含めた、物理的、化学的及び生化学的環境を単に指す。
【0054】
本発明のナノ粒子として有用な、生体適合性で比較的生体安定性のポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリハロゲン化ビニル、ポリハロゲン化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニル芳香族化合物、ポリビニルエステル、ポリアクリロニトリル、アルキド樹脂、ポリシロキサン及びエポキシ樹脂がある。
【0055】
本発明のナノ粒子に使用することができる生体適合性生分解性ポリマーとしては、この場合も限定されるものではないが、天然のポリマー、たとえば限定されるものではないが、コラーゲン、キトサン、アルギネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース誘導体、デンプン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヘパリン、グリコサミノグリカン、多糖及びエラスチンが挙げられる。
【0056】
合成又は半合成の生体適合性生分解性ポリマーを本発明の目的のナノ粒子として使用することもできる。本明細書では、合成ポリマーは、実験室で完全に作製されるものを指し、半合成ポリマーは、実験室で化学的に修飾された天然のポリマーを指す。合成ポリマーの例としては、限定されるものではないが、ポリホスファジン(polyphosphazine)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(ウレタン尿素)、ポリヒドロキシ酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ酸無水物、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアミノ酸、ポリオキシメチレン、ポリ(エステルアミド)及びポリイミドが挙げられる。
【0057】
本明細書においてナノ粒子として適当であり得る生体適合性生分解性ポリマーのさらなる非限定的な例としては、限定されるものではないが、ポリカプロラクトン、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−PEG)ブロックコポリマー、ポリ(D,L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリカーボネート、ポリウレタン、コポリ(エーテル−エステル)(たとえば、PEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、PHA−PEG及びその組合せが挙げられる。PHAには、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(β−ヒドロキシ酸)、たとえば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−バレレート)(PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)(PHP)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHH)、又はポリ(4−ヒドロキシ酸)、たとえば、ポリポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシバレレート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(チロシンカーボネート)、ポリ(チロシンアリレート)、ポリ(エステルアミド)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)、たとえば、ポリ(3−ヒドロキシプロパノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシヘプタノエート)及びポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(4−ヒドロキシアルカナオート)、たとえば、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシバレレート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノート)、ポリ(4−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(4−ヒドロキシオクタノエート)及びここに記載の3−ヒドロキシアルカノエート若しくは4−ヒドロキシアルカノエートモノマー又はそのブレンドのいずれかを含むコポリマー、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、ポリグリコリド、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(チロシンカーボネート)及びその誘導体、ポリ(チロシンエステル)及びその誘導体、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリリン酸エステル、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリホスファゼン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルエーテル、たとえば、ポリビニルメチルエーテル、ポリハロゲン化ビニリデン、たとえば、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族化合物、たとえば、ポリスチレン、ポリビニルエステル、たとえば、ポリ酢酸ビニル、ビニルモノマー同士及びビニルモノマーとオレフィンのコポリマー、たとえば、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂及びエチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリアミド、たとえば、Nylon66及びポリカプロラクタム、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(グリセリルセバケート)、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(メタクリル酸n−ブチル)、ポリ(メタクリル酸sec−ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸tert−ブチル)、ポリ(メタクリル酸n−プロピル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリエーテル、たとえば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、コポリ(エーテル−エステル)(たとえば、ポリ(エチレンオキシド−co−乳酸)(PEO/PLA))、ポリアルキレンオキシド、たとえば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレンオキサレート、ホスホリルコリン含有ポリマー、コリン、ポリ(アスピリン)、ヒドロキシルを有するモノマーのポリマー及びコポリマー、たとえば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、PEGアクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチル−ホスホリルコリン(MPC)及びn−ビニルピロリドン(VP)を含有するメタクリレートポリマー、カルボン酸を有するモノマー、たとえば、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)、アルコキシメタクリレート、アルコキシアクリレート及び3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)−PEG(SIS−PEG)、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、ポリカプロラクトン−PEG(PCL−PEG)、PLA−PEG、ポリ(メタクリル酸メチル)−PEG(PMMA−PEG)、ポリジメチルシロキサン−co−PEG(PDMS−PEG)、ポリ(フッ化ビニリデン)−PEG(PVDF−PEG)、プルロニック(PLURONIC)(商標)界面活性剤(ポリプロピレンオキシド−co−ポリエチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、生体分子、たとえば、コラーゲン、キトサン、アルギネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸断片及び誘導体、ヘパリン、ヘパリンの断片及び誘導体、グリコサミノグリカン(GAG)、GAG誘導体、多糖、エラスチン、エラスチンタンパク質模倣体、又はその組合せが含まれ得る。
【0058】
本明細書では、「構築物」は、負に帯電した細胞、正味電荷が交互である高分子電解質の1層又は複数層、及び最も外側の高分子電解質層と静電気的にコンジュゲートしている、この高分子電解質層と反対の電荷を有する1つ又は複数のナノ粒子を含む、完全に形成された実体を単に指す。
【0059】
本発明の構築物は、限定されるものではないが、患者の体内の罹患した部位に治療剤を送達するのに使用されている、又は使用することができる、任意の種類の一過性装置を含めたいくつもの手段によって梗塞部位に送達することができる。一過性とは、この装置が、埋め込み型医療デバイスを送達及び留置するのに必要な期間だけ患者の体内に挿入されることを意味する。
【0060】
デバイス送達用一過性装置の一例は、限定されるものではないが、血管カテーテルである。血管カテーテルは、近位端と称される一端に、患者の体外にとどまる操作手段と、遠心端と呼ばれる他端又はその付近に、患者の動脈又は静脈に挿入される手術デバイスとを有する細い可撓管である。カテーテルは、標的部位から離れた箇所にある患者の血管系、たとえば、標的が心臓又は他の梗塞器官である場合は脚の大腿動脈に導入されることが多い。カテーテルは、可撓管の内腔を通って伸びるガイドワイヤーによって補助されて、患者の動脈組織を通じて標的部位に向けて操縦される。好ましい実施形態は、ガイドワイヤーを覆って導かれる針注射カテーテルの使用である。針注射カテーテルは、大動脈弁を逆行して通ることにより左心室の心室内部に到達する。心室内部に達すると、貫通針は心内膜の組織に直接的に注射し、幹細胞コンジュゲート治療薬を送達する。この針は、デバイスが到達することができる領域を最大にするために、屈曲半径を最小限に抑えた偏向先端部を含むこともできる。
【0061】
あるいは、冠動脈内カテーテルベースのバルーン送達デバイスを使用することもできる。こうしたデバイスは、方向付けられた局所送達を行い、それにより標的組織に達する幹細胞の数が循環を介したホーミングと比較して増加するという利点をさらにもたらす単一又は二重バルーン注入設計でもよい。一実施形態において、幹細胞治療薬がカテーテルの内腔を通ってバルーンに流れ込み、次いでバルーン中の加圧作用によって幹細胞治療薬が微細穴又は微小孔から外に押し出されるように、幹細胞治療薬は、アレイ状の微細穴又は微小孔を有するバルーンカテーテルのバルーンを介して投与される。
【0062】
別の実施形態において、冠動脈内注入は、二重バルーンを使用して達成される。一般に、二重バルーンは、遠位及び近位の拡張バルーンが両端に位置する中心体を含む。バルーン膨張後、幹細胞を動脈の中心部分に注入することができる。単一及び二重注入の両方の例において、幹細胞は動脈壁付近に導入され、それで幹細胞は梗塞領域に溢出及び移動することができる。これらのバルーン及び針ベースのカテーテルは両方とも、適切な組織に導くための標準的なX線透視法及び他の視覚化技法を介して血管系内を進むことができる。
【0063】
カテーテルは、可撓管の内腔を通って伸びるガイドワイヤーによって補助されて、標的部位に向けて操縦されると、ガイドワイヤーが引き抜かれ、その時に内腔を使用して本発明の細胞/ナノ粒子を標的部位に導入することができる。
【0064】
特に適当なカテーテルは現在、本明細書に完全に記載されているかのように参照により組み込まれる米国特許第6,955,657号で開示された針注射カテーテルである。
【0065】
当然、本発明の構築物を罹患した部位に送達するのに適した別の一過性デバイスは、標準的な皮下注射器である。
【0066】
本発明の構築物の針による送達の使用に関して、幹細胞の小口径針内腔を通した運搬は、細胞の生存能力及び/又は機能に有害な影響を及ぼす可能性がある。この懸念を緩和するために、ヒト間葉系幹細胞を2つの異なる流速400及び1600μl/minで26ゲージニチノール針に通し、さまざまな細胞生存能力及び機能パラメータを調べて針の中の通過が及ぼす影響を決定し、それを評価する研究を実施した。すべてのパラメータは、許容範囲にあり、大部分が統計的に有意な変化を示さず、したがって針送達の使用が大きく支持されることが見出された。
【0067】
本発明の構築物を罹患した部位に送達する別の方法は、カテーテルなどの一過性送達デバイスを使用して罹患した部位に方向付けられた埋め込み型医療デバイスを用いるものでもよい。
【0068】
送達装置は、罹患した部位に位置すると埋め込み型医療デバイスを留置することができ、これは、送達装置が除去されるように、罹患した部位で埋め込み型デバイスを送達装置から分離することを単に意味する。埋め込み型デバイスによっては、留置には、膨張式バルーンなどを用いて適所でデバイスを拡張するなど、さらなる働きも含まれることもある。
【0069】
本明細書では、「埋め込み型医療デバイス」は、患者の体内に外科的若しくは内科的に、又は自然の開口部への医学的介入によって全体的又は部分的に導入され、操作後そこにとどまることを目的とする任意の種類の器具を指す。移植の持続期間は、本質的に永久であり、すなわち、患者の残りの生涯の間、デバイスが生分解するまで、又は物理的に除去されるまで適所でとどまることを目的とすることもできる。埋め込み型医療デバイスの例としては、限定されるものではないが、埋め込み型の心臓ペースメーカー及び除細動器、前述の機器用のリード及び電極、神経、膀胱、括約筋及び横隔膜の刺激装置などの埋め込み型の器官刺激装置、人工内耳、プロテーゼ、血管移植片、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステントグラフト、グラフト、人工心臓弁並びに髄液短絡術が挙げられる。
【0070】
現在、本発明の幹細胞/ナノ粒子構築物と共に使用される好ましい埋め込み型医療デバイスは、ステントである。
【0071】
ステントは一般に、患者の体内の適所で組織を保持するのに使用される任意のデバイスを指す。しかし、特に有用なステントは、限定されるものではないが、腫瘍(たとえば、胆管、食道、気管/気管支などにおける)、良性膵疾患、冠動脈疾患、頚動脈疾患及び末梢動脈疾患、たとえば、アテローム性動脈硬化症、再狭窄及び不安定プラークを含めた疾患又は障害により血管が狭窄又は閉塞した場合に、患者の体内の血管の開存性を維持するのに使用されるステントである。ステントは、限定されるものではないが、神経、頚動脈、冠動脈、肺、大動脈、腎臓、胆管、腸骨、大腿及び膝窩の血管系並びに他の末梢血管系において使用することができる。ステントは、限定されるものではないが、血栓症、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管の動脈瘤、慢性完全閉塞、跛行、吻合部の増殖、胆管閉塞及び尿管閉塞などの障害の治療又は予防に使用することができる。
【0072】
上記の使用に加えて、ステントは、本発明の場合のように、患者の体内の特定の治療部位に治療剤を局所送達するために使用することもできる。実際に、治療剤の送達がステントの唯一の目的でもよく、又はステントは、副次的な利点をもたらす薬物送達を用いる上記で検討したものなど、別の使用を主な目的としてもよい。
【0073】
開存性の維持に使用されるステントは通常、圧縮した状態で標的部位に送達され、次いで、ステントが挿入された血管に適合するように拡張される。標的位置に送達されると、ステントは自己拡張してもバルーン拡張してもよい。
【0074】
本明細書では、「任意選択の」は、この用語が修飾する要素が存在する場合があるが、必須ではないことを意味する。
【0075】
本明細書では、「生物活性剤」は、疾患に罹患した患者に治療有効量が投与されると、患者の健康及び健康状態に治療上有益な効果がある任意の物質を指す。患者健康及び健康状態に対する治療上有益な効果としては、(1)疾患を治癒すること、(2)疾患の進行を遅らせること、(3)疾患から回復させること、又は(4)疾患の1つ又は複数の症状を緩和することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書では、治療剤には、疾患に対して特に感受性であることが分かっている、又は疑われる患者に予防有効量が投与されると、患者の健康及び健康状態に予防上有益な効果がある任意の物質も含まれる。患者の健康及び健康状態に対する予防上有益な効果としては、(1)第一に疾患の発症を予防又は遅延させること、(2)予防有効量で使用される物質と同一でも異なっていてもよい治療有効量の物質によって回復レベルが達成されると、疾患をこのようなレベルに維持すること、又は(3)予防有効量で使用される物質と同一でも異なっていてもよい治療有効量の物質による治療過程が終了した後、疾患の再発を予防又は遅延させることが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
本明細書では、「薬物」、「生物活性剤」及び「治療剤」という用語は同義的に使用される。
【0077】
本明細書では、「治療すること」は、治療有効量の生物活性剤を患者の罹患した梗塞組織に投与することを指す。
【0078】
「に罹患した」とは、医学分野の当業者が梗塞と関連付け、診断する症状を患者が示すことを意味する。「罹患した部位」は、梗塞を起こした組織を指す。
【0079】
梗塞に罹患した患者を「同定すること」は、現在存在するか、又は今後発生する可能性があると診断するための、医療従事者が利用可能なツールのいずれかを使用して、患者において疾患を診断することを単に意味する。
【0080】
本明細書では、「患者」は、埋め込み型医療デバイス及び本発明の方法の適用が有効である可能性がある任意の生物を指す。患者は哺乳動物であることが好ましく、患者はヒトであることが現在最も好ましい。
【0081】
「治療有効量」は、患者が罹患していることが分かっている、又は疑われる血管疾患に関して、患者の健康及び健康状態に対して治癒的でも緩和的でもよい有益な効果がある治療剤の量を指す。治療有効量は、単一のボーラス、間欠的なボーラス負荷、短期、中期若しくは長期の除放性製剤又はこれらの任意の組合せとして投与することができる。本明細書では、短期の除放は、約数時間から約3日までの期間にわたる治療有効量の治療剤の投与を指す。中期の除放は、約3日から約14日までの期間にわたる治療有効量の治療剤の投与を指し、長期の除放は、約14日の過剰な任意の期間にわたる治療有効量の送達を指す。
【0082】
本発明の方法に使用することができる治療剤としては、限定されるものではないが、抗炎症薬、抗新生物薬及び/又は抗有糸分裂薬、抗血小板薬、抗凝血薬、抗フィブリン薬及び抗トロンビン薬、抗生物質、抗アレルギー薬、抗酸化薬並びに患者の体内の罹患した部位に留置されると、本発明の細胞ベースの構築物の分化及び増殖をもたらす細胞生存促進性の生物学的物質が挙げられる。
【0083】
本明細書では、細胞生存促進性の生物学的物質としては、限定されるものではないが、増殖因子、サイトカイン、抗アポトーシス因子、細胞分化因子、細胞発達の制御因子、筋形成に関与する遺伝子、細胞外シグナル伝達分子、多能性を維持する転写因子及び胚性幹細胞特異的遺伝子が挙げられる。
【0084】
適当な生物学的物質としては、一般に、限定されるものではないが、VEGF、bFGF、aFGF、PDGF、PDEGF、胎盤由来増殖因子、アンジオポエチン1及び2(Ang−1、Ang−2)、IGF1、IFG2、mIGF、TGF−α、TGF−β、HGF、SFC、G−CSF、GM−CSF、NGF、GDF9、EGF、SDF−1α、EPO、TPO、GDF−8、LIF、TNF−α及びShhが挙げられる。
【0085】
適当な増殖因子としては、限定されるものではないが、BMP4、CTGF、EREG、FGF1、FGF2、FGF6、FIGF、GRN、HGF、KITLG、LEP、MDK、PDGFB、PDGFD、PDGFA、PGF、TGFA、TGFB2、VEGFA、VEGFB及びVEGFCなどの血管新生増殖因子、限定されるものではないが、CXCL12、EREG、FGF10、FGF3、FGF6、FGF9、FIGF、KITL、LEFTY1、MDK、NODAL、NTF5、PGF、S100A6、VEGFB及びFEGFCなどの増殖サイトカイン、並びに限定されるものではないが、CSF3、CXCL1、FGF11、FGF13、GF14、FGF17、FGF22、FGF7、GDF10、GDF8、IL11、IL12、IL18、IL1A、IL1B、IL2、IL3、INHA、INHBA、INHBB、LEFTY2及びTDGF1などの他の増殖因子が挙げられる。
【0086】
適当な血管新生サイトカインとしては、限定されるものではないが、CXCL10、CXCL2、IFNG、IL12A、IL12B、IL17F、PF4、TGFB1、BMP2、CCL15、CCL2、CSF3、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL9、IL10、1L6、1L8、PPBP、PTN及びTNFが挙げられる。
【0087】
適当な細胞分化因子としては、限定されるものではないが、BDNF、BMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8A、BMP8B、CSF1、CSF2、CSPG5、EREG、FGF1、FGF10、FGF2、FGF5、FGF6、FGF9、FIGF、GAP43、GDF11、IGF1、IL4、IL7、KAZALD1、VEGFA、VEGFB、VEGFC及びZFP91が挙げられる。
【0088】
細胞発達の適当な制御因子としては、限定されるものではないが、BMP2、FGF8及びTGFB3、特に現在、限定されるものではないが、BMP10、BMP4、FGF15及びTGFB2などの心臓発達を制御するものが挙げられる。
【0089】
筋形成に関与する適当な遺伝子としては、限定されるものではないが、JAG1及びNOTCH1が挙げられる。
【0090】
適当な胚性幹細胞特異的遺伝子としては、限定されるものではないが、BXDC2、CD9、DIAPH2、DNMT3B、IFITM2、IGF2BP2、LIN28、PODXL、REST、SEMA3A及びTERTが挙げられる。
【0091】
多能性及び自己再生において制御的役割を有する適当な細胞外シグナル伝達分子としては、限定されるものではないが、COMMD3、CRABP2、EDNRB、FGF4、FGF5、GABRB3、GAL、GRB7、HCK、IFITM1、IL6ST、KIT、LEFTY1、LEFTY2、LIFR、NODAL、NOG、NUMB、PTEN、SFRP2及びTDGF1が挙げられる。
【0092】
多能性の維持に寄与する適当な転写因子としては、限定されるものではないが、FOXD3、GATA6、GBX2、NANOG、NR5A2、NR6A1、POU5F1、SOX2、TFCP2L1、UTF1、ZFP42、DLL1、DLL3、DTX1、DTX2、DVL1、EP300、GNC5L2、HDAC2、JAG1、NOTCH1、NOTCH2、NUMB、ADAR、APC、AXIN1、BTRC、CCND1、FRAT1、FZD1、MYC、PPARD及びWTN1が挙げられる。
【0093】
適当な抗炎症薬としては、限定されるものではないが、クロベタゾール、アルクロフェナク、プロピオン酸アルクロメタゾン、アルゲストンアセトニド、αアミラーゼ、アムシナファル、アムシナフィド、アンフェナクナトリウム、塩酸アミプリロース、アナキンラ、アニロラク、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジド二ナトリウム、ベンダザック、ベノキサプロフェン、塩酸ベンジダミン、ブロメライン、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸クロベタゾン、クロピラク、プロピオン酸クロチカゾン、酢酸コルメタゾン、コルトドキソン、デフラザコルト、デソニド、デソキシメタゾン、二プロピオン酸デキサメタゾン、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム、二酢酸ジフロラゾン、ジフルミドンナトリウム、ジフルニサル、ジフルプレドネート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノニド、エンドリゾン、エンリモマブ、エノリカムナトリウム、エピリゾール、エトドラク、エトフェナメート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンドサール、フェンピパロン、フェンチアザク、フラザロン、フルアザコルト、フルフェナム酸、フルミゾール、酢酸フルニソリド、フルニキシン、フルニキシンメグルミン、フルオコルチンブチル、酢酸フルオロメトロン、フルクアゾン、フルルビプロフェン、フルレトフェン、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、酢酸ハロプレドン、イブフェナク、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダプ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、インドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、酢酸イソフルプレドン、イソキセパク、イソキシカム、ケトプロフェン、塩酸ロフェミゾール、ロモキシカム、エタボン酸ロテプレドノール、メクロフェナム酸ナトリウム、メクロフェナム酸、二酪酸メクロリゾン、メフェナム酸、メサラミン、メセクラゾン、スレプタン酸メチルプレドニゾロン、モミフルメート(moniflumate)、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、塩酸パラニリン、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、フェンブタゾンナトリウムグリセレート、ピルフェニドン、ピロキシカム、ケイ皮酸ピロキシカム、ピロキシカムオラミン、ピルプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドリン酸、プロクアゾン、プロキサゾール、クエン酸プロキサゾール、リメキソロン、ロマザリト、サルコレックス、サルナセジン、サルサレート、塩化サンギナリウム、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダク、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダップ、テニダップナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナク、ピバル酸チキソコルトール、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、ゾメピラクナトリウム、アスピリン(アセチルサリチル酸)、サリチル酸、コルチコステロイド、糖質コルチコイド、タクロリムス、ピメクロリムス、並びにそのプロドラッグ、併用薬(co−drug)及び組合せが挙げられる。
【0094】
適当な抗血小板薬、抗凝血薬、抗フィブリン薬、並びに抗トロンビン薬としては、限定されるものではないが、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン、プロスタサイクリンデキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジン及びトロンビン、Angiomax aなどのトロンビン阻害剤、カルシウムチャネル遮断薬(たとえばニフェジピン)、コルヒチン、魚油(ω−3脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン、モノクローナル抗体(たとえば、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なもの)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、一酸化窒素又は一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール並びにその組合せが挙げられる。
【0095】
本発明の方法に使用することができる他の適当な治療剤としては、限定されるものではないが、α−インターフェロン、遺伝子組換え上皮細胞、DNA及びRNA核酸配列、アンチセンス分子並びにリボザイムが挙げられる。
【0096】
適当な治療剤のさらなる例としては、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーターなどの阻害剤又は血栓溶解剤、免疫化用抗原、ホルモン及び増殖因子、オリゴヌクレオチド;抗ウイルス薬;鎮痛薬;食欲抑制剤;駆虫薬;抗関節炎薬、抗喘息薬;抗痙攣薬;抗うつ薬;抗利尿剤;抗下痢薬;抗ヒスタミン薬;抗偏頭痛製剤;抗嘔吐薬;抗パーキンソン病薬;止痒薬;抗精神病薬;解熱薬;鎮痙薬;抗コリン薬;交感神経模倣薬;キサンチン誘導体;ピンドロール及び抗不整脈薬などのカルシウムチャネル遮断薬及びβ−遮断薬を含む心血管系製剤;降圧薬;利尿薬;冠動脈全体、末梢及び脳を含む血管拡張薬;中枢神経系刺激薬;うっ血除去薬を含む咳用及び風邪用の製剤;催眠薬;免疫抑制薬;筋弛緩薬;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静薬;精神安定薬及び天然又は遺伝子組換えリポタンパク質が挙げられる。
【0097】
生細胞をナノ粒子とコンジュゲートさせることは、想像に難くないかもしれないが、構築物が有用となるためには克服しなければならない障害が多くある。すなわち、たとえば、限定されるものではないが、抗体結合、直接的な静電相互作用又は化学結合により、ナノ粒子を細胞に直接的にコンジュゲートさせることは、通常の細胞機能を妨害し、それにより細胞ベースの療法の目的に相反する可能性がある。たとえば、細胞表面に結合ナノ粒子が存在すると、細胞表面受容体が他の細胞、細胞外マトリックス並びに/又はさまざまな増殖因子及びサイトカインと相互作用するのを遮断する可能性がある。このような相互作用は、細胞を介した心筋再生を実現するのに決定的に重要である。さらに、薬物担持ナノ粒子は、エンドサイトーシス又は食作用によって細胞質に取り込まれ、この取込みは内部細胞機構にとって有害となることがあり、さらには細胞死をもたらす可能性があり、この場合も求められる結果と矛盾することになる可能性がある。本発明は、細胞表面受容体と自然に相互作用する天然の細胞外マトリックス分子を使用することによってこの問題を解決し、それにより、ナノ粒子の細胞質への取込みを予防し、又は少なくとも最小限に抑えることになる。
【0098】
したがって、限定されるものではないが、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、アミノデキストラン及び現在好ましいキトサンなど、天然の正に帯電した高分子電解質を、本発明の再生種として選択される哺乳動物細胞の負に帯電した表面と静電気的にコンジュゲートさせて、その外表面に正味の正電荷を有する層を作製することができる。
【0099】
本明細書では、「層」は、正又は負のある電荷を有する物質に対する、反対の電荷を有する別の物質による被膜を指し、その結果、構築物の新たに作製された外表面は被膜物質によって決まる正味電荷を有する。層は、ある材料のシェルを覆う別の材料のシェルを本質的に作製する連続層でもよいが、必ずしもそうである必要はない。すなわち、層は外観が不連続でもパッチ状でも散在的でもよく、決定的に重大な要素は、新たな表面に認められる全体にわたる正味電荷が被膜物質のものであり、細胞又は他の内在する物質のものではないことである。
【0100】
ほとんどすべての哺乳動物細胞はその外表面に正味の負電荷を有するので、第1の被膜物質、本発明では高分子電解質は、この細胞の表面と静電気的にコンジュゲートするためには正の電荷を有さなければならない。
【0101】
次いで、高分子電解質で被覆された細胞の正に帯電した外表面に、正味の負電荷をその外表面に有するナノ粒子を静電気的にコンジュゲートさせることもできる。
【0102】
別の方法では、正に帯電した電解質を含む層を正味の負電荷を有する別の物質で被覆して、細胞表面/正に帯電した層/負に帯電した層の構築物を作製することもできる。2つの高分子電解質被膜層は、本明細書の他の箇所に記載のとおり、互いに静電気的に架橋することになる。この例では、次に、現時点で負に帯電した外層の表面に、正味の正電荷を有するナノ粒子を静電気的にコンジュゲートさせることになる。所望の場合、このプロセスは、所望の回数だけ繰り返して正と負に帯電した層が交互である、タマネギの皮のような構造を築き上げることができる。
【0103】
前述の層状の構築物を築き上げる目的に有用である、負に帯電した天然の高分子電解質としては、限定されるものではないが、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、デキストラン硫酸、β−シクロデキストリン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメトキシセルロース、カルボキシメチル−デンプン、ポリ硫酸化グルコソグリカン、グリコサミノグリカン、ムコ多糖、アニオン性オリゴ糖、ポリヌクレオチド及び現在好ましくはヒアルロナンが挙げられる。
【0104】
交互に帯電した層の調製に天然の高分子電解質を使用することが現在好ましいが、本発明の構築物を調製するために、現在知られている、又は今後知られるようになる無数の半合成及び完全合成の高分子電解質の中から高分子電解質を選択することが当然可能であり、本発明の範囲内である。
【0105】
したがって、本発明の一態様は、間葉系幹細胞(MSC)の原形質膜表面に関連付けられた自然の負電荷を利用することにより、ナノ粒子をMSCとコンジュゲートさせることである。ポリ−L−リシン及びキトサンなどの正に帯電した高分子電解質は、MSC表面に容易に結合する。次いで、所望の場合、高分子電解質被膜を含む正に帯電した外表面に、負に帯電したナノ粒子を静電気的にコンジュゲートさせることができる。しかし、現在好ましくは、正に帯電した層の表面を負に帯電したヒアルロナンの第2の層で覆うことにより、二重層を形成することができる。ナノ粒子を正に帯電した層に直接的にコンジュゲートさせるのではなく、正に帯電した層を覆うヒアルロナン層を形成させることは、記載のとおり本発明の範囲内であり、ヒアルロナンがヒトの体内に天然に存在し、したがってヒトの体内への移植を目的とする細胞に生体適合性がより高い外層を提供できることを利用する。さらに、ヒアルロナンは、ナノ粒子の表面に位置し得る多様な基との結合に使用してナノ粒子を構築物に静電気的に結合させることができるカルボキシル基に富む。前述のとおり、所望の場合、正に帯電した層と負に帯電した層を交互にするプロセスを実施することもでき、その利益は、いかなる特定の理論にも束縛されることなく、細胞表面とナノ粒子の間の距離がより大きいことが、エンドサイトーシス又は食作用によるナノ粒子の取込みの機会をさらに減らすことができることである。
【0106】
細胞全体を、正に帯電した高分子電解質の層、又は正に帯電した高分子電解質及び負に帯電した高分子電解質の交互の層で、望ましい可能性があるあらゆる厚さに被覆することが可能であり、本発明の範囲内である。このような被覆は、細胞全体が高分子電解質に曝露されるように、懸濁媒体中の細胞を被覆することによって実現することができる。細胞をそのように完全に又はさらには実質的に被覆することは、細胞、この考察の目的ではMSCがサイトカイン、増殖因子、細胞外マトリックス及びさらには他のMSCと相互作用する能力に負の影響を及ぼすことがある。この可能な負の影響を改善するために、本発明の一態様は、細胞の一部のみに高分子電解質(複数可)の層を積み重ねることである。このような積層は、高分子電解質を懸濁状態の細胞ではなく接着細胞単層に適用することによって実現することができる。細胞の接着単層を用いて、各細胞の約半分のみを、高分子電解質/ナノ粒子を含有する媒体に曝露する。細胞表面のもう半分は、細胞が接着し到達不可能である表面と堅く接触している。高分子電解質の層(複数可)が適用されると、単層は、既知の酵素的又は非酵素的手段によって表面から解離させ、半分が被覆された細胞の懸濁物を得ることができる。細胞は可塑性があるため、高分子電解質に曝露され、この電解質で被覆される細胞の正確な割合は、本明細書において名目上約半分と称するが、実質的に変わり得る。本質的に、細胞の生存及び成長が可能となるように、十分なむき出しの細胞表面が露出したままである限り、被覆の正確な程度は重要でない。
【実施例】
【0107】
実施例1:MSCにおけるCD44受容体の分布及びヒアルロナンと結合するMSCの能力の検討
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(HMSC)をin vitroで培地(MSCGM Bullet Kit、Lonza,Inc.)を使用して37℃、5%CO加湿インキュベータセットに入れて数代の継代、培養した。MSCにおけるCD44受容体の分布を測定するために、コンフルエントなMSC単層を最初に4.0%ホルムアルデヒド溶液で固定し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、ブロッキング緩衝液(1%BSA/PBS)に曝露した。もう一度洗浄した後、細胞をヒトCD44抗原(20μg/mlマウス抗ヒトCD44 lgG2a(Serotec Inc))に対する一次抗体と共にインキュベートした。抗体溶液を除去し、細胞をPBSで洗浄し、次いで蛍光標識二次抗体(FITCコンジュゲート抗マウスIgG)と共にインキュベートした。PBSでもう一度洗浄した後、MSC単層を蛍光顕微鏡下で観察した。
【0108】
ヒアルロナンとのMSCの結合を生理的条件下で測定するために、分子量800kDaのフルオレセインアミン標識ヒアルロナン(Sigma−Aldrich)を培地又はPBSのいずれかに2.0mg/mlの濃度で戻した。次いで、フルオレセインアミン標識ヒアルロナン溶液をコンフルエントなMSC単層に添加し、5%COインキュベータに入れて37℃で1時間インキュベートした後、PBSで洗浄し、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0109】
免疫染色を行うと細胞はヒアルロナンが結合するリガンドCD44の強発現を示したにもかかわらず、HMSCに対するフルオレセインアミン標識ヒアルロナンの結合はほとんど存在しないことが見出された。いかなる特定の理論にも拘束されることなく、その原因は、CD44受容体は通常は不活性であり、そのヒアルロナン結合機能を活性化するのに受容体二量体化を必要とする事実によると考えられる。今回の場合、CD44受容体は静止状態であった可能性が高い。ヒアルロナンに対するCD44結合活性を活性化するために、ホルボールエステルなどの化学物質を使用することができる。
【0110】
実施例2:MSCに高分子電解質二重層被膜を形成するためのポリ−L−リシン及びヒアルロナンの使用並びにトリプシン消化に抵抗するその能力の評価
10μg/ml、50μg/ml及び500μg/mlのポリ−L−リシン(44kDa)のPBS溶液(カルシウム及びマグネシウムを有する)を調製した。次いで、コンフルエントなMSC単層を洗浄した後、さまざまな濃度のポリ−L−リシンに曝露した。もう一度PBSで洗浄した後、MSC単層をフルオレセインアミン標識ヒアルロナンに37℃でさらに10分間曝露した。続いて、結合しなかったフルオレセインアミン標識ヒアルロナンをPBSで洗浄することによって除去し、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0111】
ヒアルロナン濃度を一定に保持しながらポリ−L−リシン濃度を変更する根拠は、MSC表面に結合するヒアルロナンの量が細胞表面にすでに結合したポリ−L−リシンの量によって制限されることにある。したがって、高分子電解質二重層被膜の全体にわたる「密度」は、ポリ−L−リシン濃度のみを変更することによって調節することができる。
【0112】
トリプシン消化に対する高分子電解質二重層被膜の抵抗を評価するために、ポリ−L−リシン+フルオレセインアミン標識ヒアルロナンで被覆したMSC単層をCa2+フリーPBSで洗浄し、次いで0.05%w/vトリプシン/EDTAに10分間曝露した後、蛍光顕微鏡によって観察した。トリプシンで解離したMSCの一部を新たな細胞培養皿に再播種し、24時間後蛍光顕微鏡を使用して観察した。
【0113】
ポリ−L−リシンの正に帯電した高分子電解質鎖の添加は、負に帯電したフルオレセインアミン標識ヒアルロナンのMSCに対する結合を容易にし、それにより生理的pHで細胞に高分子電解質二重層被膜を形成できることが観察された。一連のポリ−L−リシン濃度は、フルオレセインアミン標識ヒアルロナンの結合に対して、対応する比例的な影響を及ぼすことが観察された。
【0114】
それにもかかわらず、この高分子電解質二重層被膜はトリプシン消化を受けやすい。トリプシンは、ポリ−L−リシンを消化するが、炭水化物でありしたがってタンパク質ではないヒアルロナンには影響を及ぼさないはずである。トリプシン消化後のポリ−L−リシンのペプチド断片によって高分子量ヒアルロナン鎖が架橋していると考えられるので、顕微鏡下で大きな高分子集合体が観察された。トリプシンで解離した細胞を再播種すると、高分子電解質二重層被膜はほとんど保持されていなかった。
【0115】
また、HMSCの接着単層をポリ−L−リシンと、さらにフルオレセインアミン標識ヒアルロナンの高分子電解質二重層で被覆した。次いで、この細胞を基質から解離させて、トリプシン、トリプル(TRYPLE)(商標)又は酵素フリーのカルシウムキレート解離緩衝液を比較した。トリプシンに関する結果とは対照的に、非酵素的に解離した細胞はその蛍光の大部分を保持することが見出された。上記のとおり、トリプシン又はトリプル(商標)で消化した結果、細胞表面の蛍光被膜のほとんどすべてが失われた。次いで、酵素フリーのカルシウムキレート解離緩衝液を使用して解離した細胞を再播種し、1日目、7日目及び14日目の時間経過にわたって観察した。これらの細胞は増殖したようであったが、娘細胞の一部のみが被膜を保持していた。
【0116】
実施例3:MSCに高分子電解質二重層被膜を形成するためのキトサン及びヒアルロナンの使用並びにトリプシン消化に抵抗するその能力の評価
1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml及び20μg/mlキトサン(612kDa)の溶液をPBS中で構成した。次いで、コンフルエントなMSC単層をさまざまな濃度のキトサンに曝露した。PBSでもう一度洗浄した後、MSC単層をフルオレセインアミン標識ヒアルロナンに曝露し、蛍光顕微鏡によって観察した。ヒアルロナン濃度を一定に保持しながらキトサン濃度を変更する根拠は、MSC表面に結合したキトサンの量が細胞表面に結合することができるヒアルロナンの量を制限することにある。上記のとおり、この根拠は、高分子電解質二重層被膜の全体にわたる「密度」は、キトサン高分子電解質の第1の層の濃度を変更することによって調節できることを示すものであった。
【0117】
トリプシン消化に対するキトサン−ヒアルロナン高分子電解質二重層被膜の抵抗を評価するために、被覆したMSC単層をCa2+フリーPBSで洗浄し、次いで0.05%w/vトリプシン/EDTAに曝露した後、蛍光顕微鏡下で観察した。さらにトリプシンと共に5分間以上インキュベートした後、細胞をピペッティングによって解離させた。トリプシンで解離させたMSCを新たな細胞培養皿に再播種し、24時間後蛍光顕微鏡下で観察した。
【0118】
正に帯電したキトサンの添加は、細胞における高分子電解質二重層被膜の形成によって、フルオレセインアミン標識ヒアルロナンのMSCに対する結合を容易にすることになろう。静電気的結合は約6.0〜6.5のわずかに酸性のpHで起こることも実証された。生理的pHでは、結合がほとんど観察されなかった。結合したヒアルロナンの量は、また添加されたキトサンの量に比例していた。しかし、ポリ−L−リシン及びヒアルロナンの場合と異なり、キトサン及びヒアルロナンで構成された高分子電解質二重層被膜は、トリプシン消化に対してそれよりもわずかに抵抗性があることが見出された。すなわち、高分子電解質被膜が濃いほど(すなわち、使用されるキトサン濃度が高いほど)、接着したMSCをリプシンで解離させることが困難となり、トリプシン処理後MSC単層を解離させるのにより激しいピペッティングが必要とされた。
【0119】
実際に、高分子電解質二重層被膜が濃すぎ、含有するキトサンの濃度が高すぎると、接着単層の解離が次第に困難となり、解離した細胞は継代時の可塑的な表面に容易に再び付着しないことが見出された。再播種後、接着したHMSC単層を形成した。蛍光顕微鏡下で、解離した細胞の蛍光の不均等分布によって示されるとおり、HMSC表面の一部のみが高分子電解質で被覆されることが見出された。
【0120】
実施例4:キトサン−ヒアルロナン高分子電解質二重層被膜を介した、正に帯電した蛍光標識ナノ粒子のMSCに対するコンジュゲーション
この試験で使用されるナノ粒子は、200nMの直径を有する市販のFluoSphereビーズ(Invitrogen Inc.、カタログ番号F8764)であり、このビーズは蛍光標識(励起/発光波長は505/515nM)されており、その表面に正に帯電したアミン基を有し、それにより負に帯電したヒアルロナンと静電気的に結合することができる。コンフルエントなMSC単層を上記のとおりキトサン/ヒアルロアン高分子電解質二重層(1及び5μg/mlのキトサン)、次いで1mg/ml非標識ヒアルロナンで被覆した。次いで、被覆したMSCを0.02%v/vナノ粒子懸濁物(PBS、pH7.4)に37℃で10分間曝露した。続いて、MSC単層をCa2+フリーPBSで洗浄し、次いで0.05%w/vトリプシン/EDTAに10分間曝露した後、蛍光顕微鏡下、励起波長500nmで観察した。
【0121】
トリプシンで解離させた後でも、ナノ粒子はまだ、本発明のMSCの高分子電解質二重層と静電気的なコンジュゲーション又は化学結合によって効率的に結合できることが実証された。懸濁細胞と再播種した細胞の両方の蛍光画像を緻密に観察すると、細胞表面の約半分のみが蛍光ナノ粒子とコンジュゲートしていることが明らかであった。培地に曝露される細胞の表面は高分子電解質で被覆されるが、プレートに結合した側は被覆されない可能性が高い。したがって、細胞表面の半分のみがナノ粒子との静電気的コンジュゲーションに利用可能である。この結合は、細胞のヒアルロナンにある負に帯電したカルボキシル基が豊富にあることによって容易となる。
【0122】
実施例5:凍結融解を施した場合と施さなかった場合の、トリプシンで解離させたナノ粒子コンジュゲートMSCの再付着及び増殖
−80℃の冷蔵庫において10%v/vジメチルスルホキシド(DMSO)中で、トリプシンで解離させたナノ粒子コンジュゲートMSCに凍結融解を施した。2時間後、クライオバイアル中の凍結した細胞懸濁物を液体窒素に浸漬し、少なくとも1週間保存した。凍結融解した細胞を培地で戻し、新たな細胞培養皿に再播種した。
【0123】
再播種の1日、4日及び7日後に、ナノ粒子コンジュゲートMSCを蛍光顕微鏡下で観察した。凍結融解は、ナノ粒子コンジュゲートMSCが7日間にわたり再付着し、増殖する能力に大きな影響を及ぼさないことが観察された。しかし、娘細胞においてコンジュゲートナノ粒子は均等に分布していなかった。ナノ粒子を部分的に保持する娘細胞もあれば、保持していない娘細胞もあった。
【0124】
実施例6:キトサン/ヒアルロナン高分子電解質二重層被膜を介してMSCとコンジュゲートさせた後のナノ粒子の局在を特定するための共焦点顕微鏡観察
前述のとおり、コンフルエントなMSC単層を、キトサン/ヒアルロナン高分子電解質二重層被膜を介してナノ粒子とコンジュゲートさせた。ある群をすぐにVectashield DAPI封入溶液(Vector Laboratories,Inc.)で固定したが、別の群はトリプシンで解離させずにさらに24時間培養した後、Vectashieldで固定した。ナノ粒子コンジュゲートMSCの0時間及び24時間の時点での共焦点画像は、マルチポイント共焦点システムに搭載されたデジタルカメラによって取得した。切片の光学的厚さを0.250μm/切片の一定に保持し、撮像される全体の体積は20〜25μmの厚さであった。光学スタックの層を1つずつ除去して、細胞に対するナノ粒子の位置及び厚さを示すことができた。
【0125】
ナノ粒子は、0時間と24時間の両時点で細胞の外側に局在したままであることが観察された。顕微鏡観察により培養の24時間後でさえ、細胞へのナノ粒子の取込みがほとんどないことが実証された。
実施例7:トリプシンで解離させたナノ粒子コンジュゲートMSCの再付着を定量するためのMTTアッセイ
【0126】
0、5、10、20、50又は500μg/mlのいずれかのキトサンを1mg/mlの非標識ヒアルロナンと共に使用して、12ウェルプレート上のコンフルエントなMSC単層をキトサン/ヒアルロナン高分子電解質二重層で半分被覆した。次いで、被覆されたMSCをナノ粒子FluoSphereビーズに曝露した。続いて、MSC単層を洗浄し、次いで解離させた。解離した細胞懸濁物を再播種し、24時間の培養後、付着していない細胞をPBSで洗い落とした。再付着した細胞にMTT[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイを施した。吸光度値から、再付着した生存細胞(トリプシンによる解離後)の割合を計算することができた。
【0127】
その結果は、未処理のコンジュゲートしていないMSCについては再付着率が82.1±2.0%であったことを示す。高分子電解質二重層で被覆していないが、pH6.0の緩衝液に同等の期間曝露したMSCについては、再付着率が53.6±1.0%(ゼロキトサン濃度データ点)であった。キトサン高分子電解質二重層被膜の達する密度が高いほど、新たな培養皿に播種すると再付着する細胞の割合が低くなることが観察された。5μg/mlのキトサンでは再付着率が50.3±0.6%であり、50μg/mlのキトサンではこの値が25.3±0.5%、500μg/mlのキトサンでは0.6±0.1%に低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の表面電荷を有する細胞、
前記細胞の表面と静電気的にコンジュゲートしている、正に帯電した生体適合性高分子電解質の第1の層、
任意選択で、前記第1の層と静電気的に架橋している、負に帯電した生体適合性高分子電解質の第2の層、
任意選択で、電荷が交互である生体適合性高分子電解質の静電気的に架橋したさらなる層であり、同様に帯電した高分子電解質が化学的に同一でも異なっていてもよい、層、及び
最も外側の高分子電解質層と静電気的にコンジュゲートしている、前記最外層と反対の表面電荷を有する1種又は複数の生体適合性ナノ粒子
を含む構築物であって、
前記ナノ粒子が1種又は複数の生物活性剤を含む、構築物。
【請求項2】
前記負に帯電した生体適合性高分子電解質の第2の層が選択される、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記生体適合性高分子電解質の静電気的に架橋したさらなる層が選択される、請求項2に記載の構築物。
【請求項4】
前記細胞が、骨格筋芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、心筋の細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される、請求項1、2又は3に記載の構築物。
【請求項5】
前記細胞が成体幹細胞である、請求項4に記載の構築物。
【請求項6】
前記成体幹細胞が間葉幹細胞である、請求項5に記載の構築物。
【請求項7】
前記正に帯電した各層の正に帯電した生体適合性高分子電解質が独立に、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、アミノデキストラン、ポリオルニチン及びキトサンからなる群から選択される、請求項1、2又は3に記載の構築物。
【請求項8】
前記正に帯電した各層の正に帯電した高分子電解質がキトサンである、請求項7に記載の構築物。
【請求項9】
前記負に帯電した各層の負に帯電した生体適合性高分子電解質が独立に、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン硫酸、β−シクロデキストリン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメトキシセルロース、カルボキシメチルデンプン、ポリ硫酸化グルコソグリカン、ムコ多糖、アニオン性オリゴ糖、ポリヌクレオチド及びヒアルロナンからなる群から選択される、請求項2又は3に記載の構築物。
【請求項10】
前記負に帯電した各層の負に帯電した高分子電解質がヒアルロナンである、請求項9に記載の構築物。
【請求項11】
前記ナノ粒子が生体安定性である、請求項1、2又は3に記載の構築物。
【請求項12】
前記ナノ粒子が生分解性である、請求項1、2又は3に記載の構築物。
【請求項13】
前記生物活性剤が、前記ナノ粒子内に封入されている、又は前記ナノ粒子の外表面に結合している、請求項11に記載の構築物。
【請求項14】
前記生物活性剤が、前記ナノ粒子内に封入されている、前記ナノ粒子の外表面に結合している、又は前記ナノ粒子の構造中に組み込まれている、請求項12に記載の構築物。
【請求項15】
前記生物活性剤が1種又は複数の細胞生存促進剤を含む、請求項13又は14に記載の構築物。
【請求項16】
前記正に帯電した高分子電解質及び負に帯電した高分子電解質の層が、前記細胞表面の一部にのみ適用されている、請求項1、2又は3に記載の構築物。
【請求項17】
疾患又は障害に罹患しているか、又は罹患しやすいことが分かっている患者を同定するステップ、
前記患者に、生物活性剤が、前記疾患又は障害に対して治療又は予防効果があることが分かっている生物活性剤から選択される、請求項1に記載の構築物を投与するステップ
を含む方法。
【請求項18】
前記疾患又は障害が心臓の疾患又は障害である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記心臓の疾患又は障害が心筋梗塞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記構築物を前記患者に投与するステップは、針注射を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
針注射が針注射カテーテルを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記構築物を投与するステップが埋め込み型医療デバイスを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記埋め込み型医療デバイスがステントを含む、請求項22に記載の方法。

【公表番号】特表2012−501972(P2012−501972A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525297(P2011−525297)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/055784
【国際公開番号】WO2010/028087
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】