説明

梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法

【課題】 機械的な加工を施すことなく梨地状外観を呈する軟質ポリ乳酸フィルムを製造する方法を提供すること。
【解決の手段】 D体濃度7〜20%の非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸50〜95重量%とD体濃度4%以下の高結晶性ポリ乳酸5〜50重量%とを混合してなる混合ポリ乳酸100重量部あたり可塑剤15〜50重量部が配合された混合物を用い、先ず、溶融混練を行うことにより前記非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸に前記高結晶性ポリ乳酸が均一に分散したコンパウンドを作製し、次いでこのコンパウンドを用いて前記高結晶性ポリ乳酸の溶融温度より低い加工温度でフィルム状に成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梨地状外観を呈する軟質ポリ乳酸フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄後速やかに分解され、自然環境下で蓄積されることのない製品が望まれており、各種生分解性樹脂が市販されている。Tダイ押出機によりフィルム成形できる生分解性樹脂として、脂肪族ポリエステル系樹脂が知られているが、例えば、ポリ乳酸は透明性に優れているものの柔軟性に乏しい。そのため可塑剤を配合してフィルムに柔軟性を付与することが試みられている。
【0003】
一方、農業用、文房具用、食品包装用などの用途に用いられる合成樹脂フィルムとして、表面に形成された微細な凹凸などにより光を乱反射させ、梨地状外観を呈するいわゆる梨地フィルムが多用されている。
梨地フィルムは、通常、合成樹脂フィルムの成形時に、表面にエンボス加工を施した梨地ロールを用い、フィルムの表面に微細な凹凸を機械的に賦形する方法によって製造されるが、このような機械的な加工を施すことなく梨地フィルムを得る方法として、例えば、ポリプロピレン系樹脂と他のオレフィン系樹脂とのポリマーブレンドによる方法(特許文献1及び2参照。)なども提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−320780号公報
【特許文献2】特開2002−337282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的な加工を施すことなく梨地状外観を呈する軟質ポリ乳酸フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、D体濃度の異なる二種類のポリ乳酸を特定比率で混合するとともに、混合ポリ乳酸を成形前にコンパウンド化することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、D体濃度7〜20%の非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸50〜95重量%とD体濃度4%以下の高結晶性ポリ乳酸5〜50重量%とを混合してなる混合ポリ乳酸100重量部あたり可塑剤15〜50重量部が配合された混合物を用い、先ず、溶融混練を行うことにより前記非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸に前記高結晶性ポリ乳酸が均一に分散したコンパウンドを作製し、次いでこのコンパウンドを用いて前記高結晶性ポリ乳酸の溶融温度より低い加工温度でフィルム状に成形することを特徴とする梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法にある。
前記コンパウンドはペレット状であり、前記混合物はカルボジイミド系加水分解抑制剤を含有することが望ましく、成形したフィルムに結晶化処理を施すことが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的な加工を施すことなく均一な梨地状外観を呈する軟質ポリ乳酸フィルムが得られ、フィルム中に未溶融樹脂のツブが残存することもない。また、カルボジイミド系加水分解抑制剤を配合することにより、成形後のポリ乳酸の加水分解による品質劣化を抑えることができ、成形したフィルムに結晶化処理を施すことによりフィルムの透明性と柔軟性を保持しつつ、フィルム表面への可塑剤のブリードとフィルム同士のブロッキングを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられるポリ乳酸は、L−乳酸又はその環状二量体であるラクチドとD−乳酸又はラクチドとをモノマーとして用い、縮合重合又は開環重合してなる共重合体であり、D体濃度(L−乳酸単位とD−乳酸単位から構成される共重合体に占めるD−乳酸単位の組成比率)7〜20%、好ましくは9〜18%、さらに好ましくは10〜15%の非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸50〜95重量%とD体濃度4%以下、好ましくは3%以下の高結晶性ポリ乳酸5〜50重量%とを混合して用いる。
混合ポリ乳酸におけるD体濃度4%以下の高結晶性ポリ乳酸の配合比率が上記範囲外にある場合には、フィルムに梨地外観を十分に賦与することができない。
上記共重合ポリ乳酸には、乳酸のみからなる重合体のみならず、乳酸に少量のヒドロキシカルボン酸を共重合成分として配合したものも含まれる。このようなヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが挙げられる。
本発明に用いられるポリ乳酸の分子量は特に制限されるものではないが、フイルム強度や成形加工性などの観点から、重量平均分子量が1万〜100万程度が適当であり、特に、3万〜50万程度が好ましい。
【0009】
本発明においてポリ乳酸に混合される可塑剤としては、ポリ乳酸に好適に使用することのできる可塑剤であればよく、特に限定されるのものではないが、例えば、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族アルコール系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチル、グリセリンモノラウリルジアセテート、乳酸エステルなどの脂肪族エステル系可塑剤、エステルの変性物としてエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられ、好ましくは、モノ又はポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤が挙げられる。
可塑剤の配合量については、混合ポリ乳酸100重量部あたり15〜50重量部、好ましくは20〜40重量部であり、可塑剤の配合量が15重量部未満では可塑化効果が十分でなく、50重量部を超えるとフィルムの粘着性が過大になるため加工性が悪くなり好ましくない。
【0010】
本発明においては、フィルム成形後のポリ乳酸の加水分解による品質劣化を抑えるため、成形用樹脂組成物に加水分解抑制剤を含有させることが望ましい。
かかる加水分解抑制剤としては、例えば、ポリ乳酸の活性水素と反応性を有する化合物が挙げられ、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキソゾリン系化合物などが適用可能であるが、ポリ乳酸と溶融混練でき、少量の添加でポリ乳酸の加水分解を抑制できる点でカルボジイミド化合物が特に望ましい。ここで、カルボジイミド化合物とは、分子中に一個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、ポリカルボジイミドを含む。
カルボジイミド系加水分解抑制剤の具体例として、各種モノカルボジイミド化合物を例示すると、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミドなどを挙げることができる。
カルボジイミド系加水分解抑制剤の配合量については、混合ポリ乳酸100重量部あたり0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部である。
【0011】
本発明においては、非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸を結晶化させるため、樹脂組成物に結晶核剤を含有させることが好ましい。結晶核剤としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイトなどの珪酸塩化合物、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種無機系結晶核剤、その他に各種有機結晶核剤が挙げられ、その配合量については、混合ポリ乳酸100重量部あたり0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0012】
本発明においては、フィルム成形時のフィルムのロール離れを良好ならしめるため、フィルムに滑剤を含有させることが好ましい。滑剤としては、ポリエチレンワックス、脂肪酸アミド、ステアリン酸などが挙げられ、その配合量については、混合ポリ乳酸100重量部あたり0.01〜2重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部である。
【0013】
また、本発明においては、成形時にフィルムが金属ロールに粘着したり、フィルム同士がブロッキングするのを防ぐために、フィルムに無機化合物の微粒子を含有させてもよい。無機化合物としては、長石、シリカ、あるいは前記結晶核剤として用いられるタルク、カオリンなどが挙げられ、微粒子の平均粒径は1〜7μm、配合量は混合ポリ乳酸100重量部あたり0.01〜2重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部である。配合量が0.01重量部未満では、溶融フィルムの加工ロールへの粘着とフィルム同士のブロッキングを改善する効果が乏しく、2重量部を超えるとフィルムの透明性を損なう。
【0014】
本発明において用いられる樹脂材料には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他の成分を添加することができる。このような添加成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、帯電防止剤、熱安定剤、粘着付与剤、顔料、染料などを挙げることができる。また、同様にポリ乳酸と相溶性のある他の生分解性樹脂を少量配合することを妨げない。
【0015】
本発明の製造方法によって製造されるポリ乳酸フィルムは、単層又は2層以上の積層フィルムであり、フィルム全体の厚さは通常10〜300μm、好ましくは20〜200μmの範囲内にある。
【0016】
本発明のポリ乳酸フィルムの製造方法においては、フィルム状に成形する工程の前工程として、フィルムを構成する非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸、高結晶性ポリ乳酸及び可塑剤と必要に応じて他の添加剤が配合された混合物を溶融混練することにより、非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸に高結晶性ポリ乳酸が均一に分散したフィルム成形用コンパウンドを作製する必要がある。本発明における非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸と高結晶性ポリ乳酸を別々にコンパウンド化し、これらを混合したものを用いてフィルム状に成形しても、本発明による梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムは得られない。
コンパウンド化の方法は、合成樹脂組成物の成形用コンパウンドの作製において通常用いられる溶融混練法による。具体的には、先ず、ペレットや粉体、固体の細片などの原料をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで10〜20分程度乾式混合し、単軸や2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの溶融混練機に供給して140〜210℃程度の温度で溶融混練する方法である。
このような方法を用いて得られたペレット状のコンパウンドに必要に応じてさらに他の添加剤を配合し、最終的にフィルム成形用コンパウンドを調製する。
【0017】
上記のようにして得られた成形用コンパウンドを押出機に供給し、Tダイ押出成形法やインフレーション成形法によってフィルム状に成形する。このときの加工温度については、製膜するために非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸が溶融する温度でなければならないが、本発明においては、加工温度を高結晶性ポリ乳酸の溶融温度より低い温度にする必要がある。
本発明において、高結晶性ポリ乳酸の溶融温度とは、高結晶性ポリ乳酸自体の溶融温度ではなく、可塑剤の存在下における溶融温度を意味し、同じ可塑剤でもその配合量によって変化する。この溶融温度は、例えば、後記する実施例に示したD体濃度1%の高結晶性ポリ乳酸を用いた場合には、180℃程度であり、加工温度がこの溶融温度以上になると、成形したフィルムは透明になり、本発明による梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムは得られない。さらに加工温度を高くすると、コンパウンドの溶融粘度が低くなり過ぎ、製膜が困難になる。
【0018】
本発明の製造方法においては、上記のようにして成形したフィルムを結晶化処理して非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸を結晶化させることが望ましい。
結晶化処理は、通常、フィルムを高温下に一定時間置くことによって熱処理する方法によるが、フィルムの加熱手段としては、上記手段以外に、例えばマイクロ波をフィルムに直接照射する手段などが考えられる。熱処理温度は、通常、処理前フィルムのガラス転移温度以上であり、溶融開始温度以下であるが、20〜100℃程度が適当である。適正な処理時間は処理温度によって異なるが、例えば処理温度が60℃の場合、6時間程度処理すれば本発明の目的を達成することができ、それ以上の時間を費やしても結晶化は徐々にしか進まない。
このような結晶化処理を行うことにより、ブロッキング防止性及びブリード防止性が改善され、弾性が適度に増すとともに、結晶化処理前の透明性が損なわれることもない。このような作用効果を奏する理由は、結晶化処理を行った結果、フィルムの内部に少量の微細な結晶が均一に生じ、配合した可塑剤などが微細な結晶間に捕捉されたためと考えられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明はかかる実施例によって何ら限定されるものではない。また、本発明の実施例及び比較例におけるフィルムの均質透明性、曇り度及び梨地の均一性は、以下に示す試験方法と基準で評価した。
【0020】
(1)均質透明性
試料フィルムを目視により以下の基準で評価した。
○ フィルム中に未溶融物のツブが認められず、透明性が均質である
× フィルム中に未溶融物のツブが認められ、透明性が均質でない
【0021】
(2)曇り度
JIS K 7105に基づいて、試料フィルムの全光線透過率及び拡散透過率を求め、次式により算出したフィルム試料のヘーズにより、以下の基準で評価した。
ヘーズ(%)=(拡散透過率/全光線透過率)×100
○ ヘーズ15%以上
× ヘーズ15%未満
【0022】
(3)梨地の均一性
試料フィルムを目視により以下の基準で評価した。
○ ムラのない均一な梨地外観を呈している
× 全体又は部分的に透明な部分があり、均一な梨地外観を呈していない
【0023】
(フィルム成形用コンパウンドの調製)
実施例及び比較例に用いるフィルム成形用コンパウンドの樹脂及び配合剤として、D体濃度がそれぞれ1%、12%であり、重量平均分子量が約19万である2種のポリDL乳酸とポリグリセリン酢酸エステル系可塑剤(理研ビタミン社製「リケマールPL−710」)を用意し、表1に示す配合組成(数字は各ポリ乳酸成分の重量部数を示す。)に従って配合した各組成物(いずれもポリ乳酸100重量部あたり可塑剤25重量部を配合した。)をヘンシェルミキサーで乾式混合した後、2軸押出機により190℃の温度で溶融混練を行い、ペレット状のコンパウンドA〜Eを調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜3、比較例1〜5
上記のように調製したコンパウンドA〜Eと滑剤(エルカ酸アマイド)を用い、表2に示す配合組成(数字は各コンパウンドの重量部数を示す。)に従って混合した各組成物(いずれもコンパウンド100重量部あたり滑剤0.5重量部を配合した。)を押出機に供給し、表2に示す加工温度でインフレーション成形し、厚さ100μmの8種のフィルムを得た。
得られた8種の各フィルムについて、均質透明性、曇り度及び梨地の均一性の各評価試験を行い、評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すとおり、各比較例においては、フィルム中に未溶融物のツブが認められ、透明性が均質でなかったり、あるいは、全体又は部分的に透明な部分があり、均一な梨地外観を呈していなかったりして、良好な梨地外観を呈するフィルムが得られなかった。
これに対し、各実施例においては、フィルム中に未溶融物のツブも認められず、いずれも良好な梨地外観を呈するフィルムが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法による梨地状外観を呈する軟質ポリ乳酸フィルムは、農業用フィルム、文房具用フィルム、食品包装用フィルム、その他の包装用フィルムなどに使用することができる。さらに、使用目的により、他のフィルムと複合化して使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体濃度7〜20%の非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸50〜95重量%とD体濃度4%以下の高結晶性ポリ乳酸5〜50重量%とを混合してなる混合ポリ乳酸100重量部あたり可塑剤15〜50重量部が配合された混合物を用い、先ず、溶融混練を行うことにより前記非結晶性又は低結晶性ポリ乳酸に前記高結晶性ポリ乳酸が均一に分散したコンパウンドを作製し、次いでこのコンパウンドを用いて前記高結晶性ポリ乳酸の溶融温度より低い加工温度でフィルム状に成形することを特徴とする梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記コンパウンドがペレット状であることを特徴とする請求項1に記載の梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記混合物がカルボジイミド系加水分解抑制剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法。
【請求項4】
成形したフィルムに結晶化処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の梨地状外観を呈するポリ乳酸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−124446(P2006−124446A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311871(P2004−311871)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】