説明

棒状焼菓子及びその製造方法

【課題】焼菓子の粉っぽい食感、風味を改善し、クリスピーでハードな、カリカリした食感、風味を有する焼菓子及びその製造方法を提供する
【解決手段】強力粉を35重量%以上含む生地を棒状に成形する工程、前記生地を前記成形工程の前又は後に減圧下で脱気する工程、得られた脱気成形生地を焼成する工程を有することを特徴とする棒状焼菓子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細い棒状の形状を有し、クリスピーでハードな食感の焼菓子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレッツェルのような焼菓子は、棒状に成型した生地をアルカリ処理した後に、焼き上げたものであり、サクサクしているがやや粉っぽい食感を有していた。
【0003】
特許文献1〜3は、配合上の工夫によりスナック菓子又は焼き菓子の食感を改善する技術を開示している。
【0004】
特許文献4は、脱気を利用したせんべいの製造方法を開示している。
【0005】
さらに、特許文献5〜10は、麺類などを脱気により製造しているが、これら特許文献はいずれも本発明の焼菓子とは対象、成分などが異なるものである。
【特許文献1】特開昭52-57363号公報
【特許文献2】特開2003-284501号公報
【特許文献3】特開平10-99011号公報
【特許文献4】特開2000-217516号公報
【特許文献5】特開平10-84898号公報
【特許文献6】特開平11-266812号公報
【特許文献7】特開平03-236755号公報
【特許文献8】特開昭59-2666号公報
【特許文献9】特開昭59-213373号公報
【特許文献10】特開昭58-51859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は焼菓子の粉っぽい食感、風味を改善し、クリスピーでハードな、カリカリした食感、風味を有する棒状焼菓子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、棒状焼菓子の食感、風味を改善するために検討を重ねた結果、棒状焼菓子の製造において脱気工程を行うことで、焼菓子が高密度化してカリカリした食感となり、粉っぽさが改善されることを見出した。
【0008】
また、このようにして製造した棒状焼菓子は、長さ方向に垂直な断面が層状構造であって、隣接する層をはがして少し広げたような空隙部が層間の一部に存在する特徴的な構造を有することを見出した。
【0009】
本発明は、以下の棒状焼菓子及びその製造方法を提供するものである。
項1. 強力粉を35重量%以上含む生地を棒状に成形する工程、前記生地を前記成形工程の前又は後に減圧下で脱気する工程、得られた脱気成形生地を焼成する工程を有することを特徴とする棒状焼菓子の製造方法。
項2. グルテンを固形分で6.0重量%以上含有する生地を棒状に成形する工程、前記生地を前記成形工程の前又は後に減圧下で脱気する工程、得られた脱気成形生地を焼成する工程を有することを特徴とする棒状焼菓子の製造方法。
項3. 脱気工程の減圧度が300〜760mmHgである、項1又は2に記載の棒状焼菓子の製造方法。
項4. 強力粉を35重量%以上含有する棒状焼菓子であって、断面が層状構造を有し、層間の一部に空隙部を有する焼菓子。
項5. グルテンを7.5重量%以上含有する棒状焼菓子であって、断面が層状構造を有し、層間の一部に空隙部を有する焼菓子。
項6. 密度が1.7g/cm以上である、項4または5に記載の棒状焼菓子。
項7. レオメーターで測定したときの硬さが200g以上である、項4または5に記載の棒状焼菓子。
項8. 強力粉を50重量%以上含有する、項4〜7のいずれかに記載の棒状焼菓子。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される焼菓子は、従来の焼菓子よりも硬く、クリスピーでハードな食感を有し、食したときに軽快にはじける食感を有し、粉っぽさは軽減された。また、硬くて十分な強度があるため、従来になく細い焼き菓子が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の焼菓子は、棒状の形状を有するものであり、例えばプレッツェルのようなアルカリ処理を行ったものでもよい。棒状の焼菓子は扇形棒状や中空状であってもよく、内部が詰まった棒状の焼菓子でもよい。中空棒状の焼菓子の場合、内部にチョコレートやクリームなどを充填してもよい。棒状焼菓子の断面形状は、円形、楕円形、三角形、四角形や五角形、六角形などの任意の形状であってもよい。また、側面がやや凹んでいる形状であってもよい。
(1)焼き菓子の製造方法
本発明の焼き菓子の製造方法は、成形前または後の生地を減圧下に脱気して高密度化し、その後に成形脱気生地を焼成することを特徴としている。
【0012】
本発明の焼き菓子は、生地を減圧下に脱気して高密度化しているため、棒状成形物は、焼成時の水抜けを可能にするのに十分細くするのが望ましい。成型物が十分に細くないと水抜けが不十分になり、焼成時に表面が焦げたり火ぶくれが発生するおそれがある。具体的には、棒状成形物は、幅が1〜5mm程度、好ましくは2〜3mm程度である。なお、棒状の成型物の長さは、通常50〜300mm程度である。
【0013】
減圧の条件は、減圧度(圧力の低下量)が300〜760mmHg、好ましくは400〜650mmHg、特に500〜600mmHgである。減圧度を大きくしすぎると、生産性が低下することになるが、食感は良好なままである。減圧度が小さすぎると、脱気が不十分になり、常圧と変わらない結果となる。必要な減圧度は小麦粉、特に強力粉比率、あるいはグルテン含量によって違い、小麦粉として強力粉が100%の場合は減圧度が300mmHg以上であれば目的とする食感の焼菓子を得ることができる。また強力粉比率が35重量%の場合は500mmHg以上の減圧度が望ましい。
【0014】
減圧は、例えば減圧可能なニーダーを用い小麦粉等の粉体原料と水を加えて混合しながら減圧するのが好ましいが、混合後、あるいは棒状(麺状を含む)に成形した後に減圧にして脱気してもよい。
【0015】
棒状の生地の成形は、常法に従い、エクストルーダーで棒状に押出して必要な長さに切断して形成してもよく、生地を圧延などにより広げて適当な厚さにして裁断し、麺状(棒状)の成形物としても良い。なお、エクストルーダーで押し出しするに際しては、再度、減圧して脱気してもよい。
【0016】
成形及び脱気された棒状ないしリング状の生地は、次いで焼成される。焼成条件は、固定オーブン、連続オーブン、ダイレクトオーブン、熱風循環オーブンなどの焼成装置において、100〜350℃で、2〜20分間の条件が挙げられる。
【0017】
焼菓子がプレッツェルの場合には、焼成の前に常法に従いアルカリ処理を行えばよい。
【0018】
焼成後の焼き菓子の水分量は5重量%以下程度である。
(2)焼き菓子
本発明の焼き菓子は、小麦粉を主体とした粉体に水を適量加えて混合して得られた生地を用いる。
【0019】
生地に含まれる成分としては、小麦粉、その他穀粉類、糖類、食用油脂、食塩、乳製品、卵製品、イースト、酵素、膨脹剤、調味料、その他食品添加物等の原材料を加えても良い。小麦粉の割合は、固形分の30〜95重量%、好ましくは35〜90重量%である。小麦粉としては、強力粉、中力粉、薄力粉のいずれも用いることができるが、強力粉の割合は35重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは45重量%以上、特に50重量%以上であり、100重量%であってもよい。小麦粉以外の穀類分としては、米粉、大豆粉、澱粉などが挙げられる。
【0020】
本発明の生地のグルテン含量は、6.0〜9.6重量%、好ましくは6.5〜9.5重量%、より好ましくは7.0〜9.4重量%、さらに好ましくは7.7〜9.2重量%、特に好ましくは7.9〜9.0重量%、最も好ましくは8.1〜8.8重量%である。グルテンの含量が少なすぎると、減圧処理を行ってもサクサクした食感の焼き菓子しか得られないため好ましくない。グルテンの含量が多すぎても問題はなく、上限は強力粉のグルテン含量により決められる。
【0021】
本発明では、強力粉とグルテンが両方とも上記の範囲内にあるのが好ましい。従って、焼菓子の生地(固形分)において、強力粉が35重量%以上、かつ、グルテンが6.0重量%以上であるのが好ましい。
【0022】
糖類の例としては、砂糖、異性化糖、ぶどう糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、マルチトール、パラチニット;水飴、デキストリン等の澱粉分解物;ポリデキストロース等の食物繊維が挙げられる。目的とする焼菓子の甘味の程度、食感、焼色、膨化程度に伴う形状等を調整するために、必要に応じて1種、又は2種以上の糖類を選択して用いることができる。これら糖類は、辛い風味のスナックとする場合は必ずしも必要ではない。低甘味の糖類を選択して用いることにより、得られる焼菓子の食感および膨化程度を調整することが可能である。
【0023】
生地にショートニングなどの食用油脂を加えることで、焼き菓子の食感を調製することができる。食用油脂としては、植物性油脂、動物性油脂が挙げられ、具体的にはショートニング、マーガリン、バター、ラード、コーン油、オリーブオイル、綿実油、ナタネ油、ダイズ油、ヤシ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、サラダオイル、粉末油脂等の、各種植物性および動物性の油脂が挙げられる。得られる焼菓子の風味および口溶けを向上させるために、必要に応じて1種、又は2種以上の食用油脂を選択して用いることができる。本発明における焼菓子は粉っぽさが改善されているため、食用油脂を加えなくてもよい。
【0024】
また、焼成後にオイルコートをしても良い。
【0025】
本発明の焼き菓子は、焼成後の組織の形状ないし構造に特徴を有する。例えば焼成後の焼き菓子の長手方向に垂直な断面の形状は、図1に示されるように層状の基本構造を有し、層間の一部に、おそらく水の蒸発の際に形成された空隙部が形成されている。空隙部は、隣接する層を隔てるように形成されている。
【0026】
本発明の焼き菓子は、減圧処理により高密度化されている。棒状焼菓子の密度としては、1.4〜2.0g/cm、好ましくは1.6〜2.0g/cm程度である。焼菓子の密度は、減圧の程度により影響される。
【0027】
本発明の棒状焼菓子は、密度が高く、かつ、硬くて折れにくいものであり、細くても十分な硬さを有している。焼き菓子の硬さは、太さによって変更するが例えば、断面径が2mm〜3mmの場合200g以上、好ましくは290〜500gである。なお、硬さは、以下の条件でFUDOHレオメーター(NRM-2010J)にて測定することができる。
測定条件
・スピードは2cm/min
・軸を2cm幅の設置台にメッシュ面を下にして静置
・歯形押棒Cにて裁断
・各20本の測定値平均
実施例
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。
(1)製法
実施例、比較例において、焼き菓子は、以下の(i)〜(vii)の工程に従い行った。
(i)混合は減圧できるニーダーにて粉体原料(小麦粉、澱粉)を加えよく混合した後、砂糖、食塩、水をよく溶解した液体を加えさらに混合し最後にショートニング(油脂)を加え混合した。
(ii)混合時間は減圧した配合は15分間、減圧しなかった配合は30分間行った。
(iii)出来上がった生地は30分間の寝かしを行いロールにて圧延し最終麺厚を2.5mmのシート状にした。その後2.5mm幅の麺状に裁断した。
(iv)常温のアルカリ4%溶液(リン酸三ナトリウム)に2〜4秒間浸漬した。
(v)オーブンで200℃8分間焼成した。
(vi)焼成後速やかに、焼成菓子に、焼成菓子重量に対して10%重量の植物油を焼菓子の表面に均一にコーティングした。
(vii)コーティングした植物油が均一に浸透するまで置いた後(1昼夜、12時間以上)、密度、硬さの測定を行った。
【0029】
密度、硬さの測定方法を以下に示す。
(2)密度の測定
200ccのメスシリンダーにて食塩を100cc充填し、焼成品を10g入れ食塩の体積変化を読み取り焼成品の密度とした。
(3)硬さの測定
FUDOHレオメーター(NRM-2010J)にて測定。
測定条件
・スピードは2cm/min
・軸を2cm幅の設置台にメッシュ面を下にして静置
・歯形押棒Cにて裁断
・各20本の測定値平均
実施例1〜2及び比較例1〜4
【0030】
以下の表1の配合と上記生産条件で、焼き菓子(プレッツェル)を製造した。
【0031】
結果を表1と図1に示す。
【0032】
【表1】


評価は官能評価パネラー5名にて行った。
(◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る)
<密度の評価結果>
実施例1:1.8g/cm3
比較例1:1.2g/cm3
結果
・実施例1は密度が高く締まった組織になっている。
<硬さの違いによる評価>
実施例1:267g
比較例1:143g
結果
・実施例1は硬く、折れにくい組織になっている。
評価例1
【0033】
以下の表2の配合と上記生産条件で、焼き菓子(プレッツェル)を製造した。
【0034】
【表2】

*小麦粉比率、減圧度の違いによる評価
・密度、硬さの測定方法は前回と同じ
配合1(実施例1の配合)での評価
【0035】
【表3】


配合3(実施例2の配合)での評価
【0036】
【表4】

配合7での評価
いくら減圧しても目的の食感を得ることはできなかった。
【0037】
図1の結果から以下のことがいえる。
・断面が層になっていないものは食感が硬く(意図する食感)なかった。
・減圧レベルは300〜600mmHgが好ましい。
・減圧レベルが低いと常圧の場合と変わらない。また高すぎると食感はよいが生産性が悪くなる。
実施例3
【0038】
以下の表3の配合と上記生産条件で、焼き菓子(プレッツェル)を製造した。
【0039】
【表5】

【0040】
得られたプレッツェルの断面写真、硬さ、密度は、以下の通りであった。
●硬さデータ (測定方法は前回と同じ)
・295g
●密度データ (測定方法は前回と同じ)
・1.72g/cm3
結果:小麦粉(強力粉)以外の副原料が多く入った配合の場合でも(強力粉比率が35%)
断面は層状となり、硬さ、密度的にも良好な食感のものが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1〜2、比較例1〜4で得られたプレッツェルの断面の写真を示す。
【図2】実施例3で得られたプレッツェルの断面の写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強力粉を35重量%以上含む生地を棒状に成形する工程、前記生地を前記成形工程の前又は後に減圧下で脱気する工程、得られた脱気成形生地を焼成する工程を有することを特徴とする棒状焼菓子の製造方法。
【請求項2】
グルテンを固形分で6.0重量%以上含有する生地を棒状に成形する工程、前記生地を前記成形工程の前又は後に減圧下で脱気する工程、得られた脱気成形生地を焼成する工程を有することを特徴とする棒状焼菓子の製造方法。
【請求項3】
脱気工程の減圧度が300〜760mmHgである、請求項1又は2に記載の棒状焼菓子の製造方法。
【請求項4】
強力粉を35重量%以上含有する棒状焼菓子であって、断面が層状構造を有し、層間の一部に空隙部を有する焼菓子。
【請求項5】
グルテンを7.5重量%以上含有する棒状焼菓子であって、断面が層状構造を有し、層間の一部に空隙部を有する焼菓子。
【請求項6】
密度が1.7g/cm以上である、請求項4または5に記載の棒状焼菓子。
【請求項7】
レオメーターで測定したときの硬さが200g以上である、請求項4または5に記載の棒状焼菓子。
【請求項8】
強力粉を50重量%以上含有する、請求項4〜7のいずれかに記載の棒状焼菓子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−142177(P2010−142177A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324234(P2008−324234)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】