説明

棚を回動させるための装置及び方法

【課題】棚の向きを変えるための経費が可能な限り小さくなるように、単純かつ短時間で棚の配向を変える能力を提供すること。
【解決手段】組織学的な検査のための組織サンプルを調製するシステムにおいて使用される標本スライドガラスの棚を回動させるための棚回動装置であって、棚回動装置は、少なくとも1つの棚のための棚受容部を有し、当該棚は、第1の状態では、棚の中の標本スライドガラスが、前記棚の長軸に対して直交し、かつ、互いに隣り合うように載置されるように、棚受容部に水平に配向され、棚受容部は、棚が垂直方向に配向する第2の状態へ回転軸を中心として旋回可能である。ここで、回転軸を中心に180度回転させる手段によって棚が第1の状態と、第2の状態の間で可逆的に旋回することが可能なように、棚の回転軸が棚の水平な長軸に対して斜めに延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2010年12月13日出願に出願されたドイツ特許出願102010054360.8号のパリ条約による優先権主張に基づくものである。同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【0002】
本発明は、組織学的な検査のための組織サンプルを調製するシステムにおいて使用される標本スライドガラスの棚(ないしラック)を回動させるための棚回動装置に関連する。この棚回動装置は、棚受容部を有し、第1の状態(ないし位置)では、棚受容部に配置される棚の長軸は水平に配向され、標本スライドガラスは、棚の長軸に対して直交し、かつ、互いに隣り合うように載置され、棚受容部は、棚が垂直方向に配向される第2の状態へ回転軸を中心として旋回可能である。そして、本発明は、第1の状態と第2の状態とを、棚を回動させて切り替える方法にも関連する。
【背景技術】
【0003】
この種の装置は、特に、顕微鏡下で後に解析するために、標本スライドガラス上の染色標本又は染色組織サンプル(組織学的な切片など)にカバーガラスを装着するシステムにおいて使用される。標本の染色は染色装置において実施され、標本の染色において、組織サンプルを載せた標本スライドガラスは、棚又は標本スライドガラスホルダの中に収容され、それらと一緒に染色容器の中に浸漬される。このプロセスの間に、標本スライドガラスは、水平に配向した棚の中で、直立状態で、かつ、互いに隣り合うように載置される。棚は、主に、棚を掴んで運搬することを可能にする旋回可能な取っ手部材(ないし、フレーム部材、ベイル)を介して棚カゴを宙に吊り上げるものが使用される。この取っ手部材は、棚から標本スライドガラスが意図せずに抜け出ることを防止する閉塞機構としての役割も果たす。棚は、染色後に、カバーガラス装着プロセスを実行するカバーガラス装着装置へ運搬される。
【0004】
染色装置及びカバーガラス装着装置において、棚は標本スライドガラスを収容するために使用される。染色装置においては、標本スライドガラスは、染色剤が標本スライドガラスから最も良く流去できるように、棚の中に直立状態で載置される。カバーガラス装着装置においては、標本スライドガラスは、カバーガラス装着剤の標本スライドガラスからの流去を防ぐために水平に配向される。その状態では、標本(スライドガラス)は上方向に配向される。両装置(染色装置及びカバーガラス装着装置)では、棚は引き出し装置によって各装置に導入される。棚を配置(載置)する際に、棚の配向は同一でなければならない。それによって、ユーザが誤った状態で配置することが回避される。更に、染色プロセスに不具合が生じた場合に、ユーザが標本にアクセス可能であることが必要である。
【0005】
カバーガラスを装着する前に、一般的には、カバーガラス装着工程の間に使用されるカバーガラス装着剤のより良い流動性を保証するために、最初に、標本スライドガラスを溶媒(キシレン)を容れたインプットキュベットに導入する。標本スライドガラスを収容した棚を、カバーガラス装着ユニットまで運搬する。そこでは、まず、カバーガラス装着剤(粘着性の用剤又は同様の性質の用剤)を標本スライドガラスに塗布し、次に、カバーガラスを載置し、組織サンプルを密封する。最大限に好適な処理結果を達成するためには、染色の後に長時間に渡って、標本スライドガラスを棚の中で直立したままにしなければならない。同時に、カバーガラス装着プロセスでは、カバーガラス装着剤の標本スライドガラスからの流去を防止するために、標本スライドガラスを水平に向けることが必要とされる。このことは、カバーガラスを装着する前に標本スライドガラスの配向を変えることを必要とする。
【0006】
このことは、棚全体を水平状態から垂直状態へ90度旋回させることによって達成でき、その結果、標本スライドガラスが棚の長軸に対して直交するように載置されて、水平に向くようになる(いわゆる「棚処理」)。次に、標本スライドガラスを棚から取り出し、個々の標本スライドガラスにカバーガラスを装着するプロセスを開始することができる。ある種のカバーガラス装着方法は、標本(スライドガラス)上のサンプルを上方向に向けることを必要とする。更に、棚も、標本スライドガラスを棚から取り出すことが可能な配向状態にしなければならない。棚が誤った配向状態で挿入されることは、棚の誤った面がカバーガラス装着ユニットに指向するよう配向されることと、カバーガラス装着プロセスを開始することができないことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO95/20176
【特許文献2】DE10144989B4
【特許文献3】DE10041230A1
【特許文献4】US2005/0064535A1
【特許文献5】US2009/0155907A1
【特許文献6】DE102005042214A1
【特許文献7】US2010/0311108A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
WO95/20176号から知られるカバーガラスを標本スライドガラスに適用する処理装置には、インプットドアとしての役割を果たす棚受容部(受け部)が備えられ、垂直に挿入された標本スライドガラスを収容した棚をスライドさせることが可能である。次に棚受容部を、最初の水平状態から、垂直状態へスイングさせる。その時、把持部は、水平に向いた標本スライドガラスを個々に掴んで、棚から引き出し、カバーガラス装着装置又はカバーガラス装着ユニットまで標本スライドガラスを運搬する。しかしながら、棚処理という意味合いにおいて、棚が棚受容部に誤った向きで挿入されることになる可能性を排除することはできず、棚をまっすぐに運搬した後には、サンプルは標本スライドガラスの誤った面に載置されることになる。そのときには、棚の配向を変える必要があるだろう。
【0009】
完全自動の染色装置及びカバーガラス装着装置のみならず、例えば、ドイツ特許101 44 989 B4号から知られる組み合わせデバイスという意味合いにおいても、高いレベルの処理信頼性が保証されなければならない。このことは、それら装置が誤った配向で配設された場合であっても、棚がカバーガラス装着ユニットへ正しい配向で運搬されることを意味する。組織サンプルは標本スライドガラスの上面に載置されなければならず、棚は正しい配向でなければならない。棚の誤った配向が検出されずに、修正されない場合には、最悪のケースでは、処理を中断させなければならず、研究員が棚の配向を修正しなければならない。従って、自動的な修正機構が望まれている。
【0010】
ドイツ特許公開100 41 230 A1号は、棚を掴み、垂直軸に沿って持ち上げることが可能な把持部を末端部に有するロボットアームを含む運搬デバイスを開示する。運搬デバイスは、複数のサブアームから成り、垂直軸を中心に棚を回転させること、及び、棚の配向を変えることが可能である。しかしながら、この装置は、棚をスイングすることができない。
【0011】
従って、本発明の目的の1つは、単純かつ短時間で棚の配向を変える(再配向: reorienting)能力を提供することである。棚の配向を変えるための経費も、システム全体が複雑なので、可能な限り小さくすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、回転軸を中心に180度回転させる手段によって棚が第1の状態と、第2の状態とに、可逆的に旋回させて切り替えることが可能なように、棚の回転軸が水平に配向された棚の長軸に対して斜めに延在するという、本発明の特徴に従って達成される。
【発明の効果】
【0013】
この特徴は、水平状態から垂直状態への容易で自動的な棚の配向の変更(再配向)を可能にし、2本の軸を中心とした2回の運動は1本の軸を中心とした1回の運動へと組み合わされる。第1の軸は、水平状態から垂直状態への配向に関連し、この状態では、ユーザは標本へアクセスできない。第2の軸は、棚を180°回転させることに関連し、それによって、ユーザが標本にアクセス可能になる。カバーガラス装着装置の中で、唯1本の軸の回りでの運動のみが必要なので、システムの構成が単純化される。棚は、カバーガラス装着装置並びに染色装置の中のシステムに導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、従来の棚回動装置の作動様式を示す。
【図2】図2は、本発明に係る棚回動装置の作動様式を示す。
【図3】図3は、本発明に係る棚回動装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
アメリカ特許公開2005/0064535 A1号から、数枚のスライドガラスを受容区画に互いに隣り合うように載置する染色装置が知られる。アメリカ特許公開2009/0155907 A1号には、包埋溶媒(包埋試料)を自動的に除去するための装置を示す類似の構成が開示される。各ケースにおいて、棚は、スライドガラスの長辺が互いに平行に載置されるように設計される。結果として、個々のスライドガラスの表面へ自由にアクセスすることができる。受容区画は、クランプによってそれぞれの状態(位置)にスライドガラスを保持する旋回可能なホルダークリップを備える。ホルダークリップは、水平状態と、垂直状態との間で、個々に棚を旋回させることが可能である。しかしながら、これらの棚の配置は、棚が回動したときに、標本スライドガラスが棚から落下するという問題、又は、無制御に動くという問題に対応していない。しかしながら、本発明に係る棚は、標本スライドガラスを収容する棚であって、それぞれのスライドガラスの表面が平行な関係で載置される。従って、この状態ではスライドガラスへアクセスできない。標本スライドガラスは棚の中に固定されないので、棚が回動した場合に棚から標本スライドガラスが落下する危険性が常にある。
【0016】
ドイツ特許公開10 2005 042 214 A1号は、マガジンフレームの中にカバーガラスが装着された標本スライドガラスを水平に載置するための受容・運搬ステーションを開示する。マガジンフレームは回転装置に載置され、その回転によって受容状態から転送状態へ移行することができる。しかしながら、マガジンフレームを回動ないし傾倒させることは出来ない。
【0017】
アメリカ特許公開2010/0311108 A1号には、複数の標本コンテナを揺り動かすためのシステムが開示され、複数のコンテナは、複数ないし多数の棚に受容される。複数のコンテナは、直立状態で該システムに運搬され、その後、入り口において、複数軸の作業ロボットの転送アームによってピックアップされる。次に、複数のコンテナは、受容構造へ運搬される。その後、それらは、旋回して水平状態にされ、該受容構造に載置される。次に、棚は、回転的に動かされる、ないしは揺り動かされる。
【0018】
本発明に係る標本スライドガラスを収容した棚を回動・傾倒させるためのデバイスは、棚に載置された標本スライドガラスを垂直状態から水平状態に移行させることを保証し、それによって、棚が回動した時に、標本スライドガラスが棚から落下すること、又は、無制御に動くことを回避する。これは、棚を単に90°回動させる場合が想定される。
【0019】
本発明に係る棚回動装置は、染色装置及びカバーガラス装着装置の両方に使用することができる。例えば、作業を行う研究員によって棚がシステムに誤った配向で導入される場合には、誤った状態を修正することができる。対応する運搬装置は、棚の配向をチェックして、棚の配向(ないし配置状態)を変えることができる。単純な装置によって人為的エラーを修正して、染色装置及びカバーガラス装着装置の処理をより信頼できるものにする。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、棚の回転軸は、水平な棚の長軸に対して45度傾いている。本発明のコンセプトの更なる発展形態において、回転軸が棚の物理的重心を貫通して延在する場合には、回転運動には小さい動力のみで十分である。重心で回動・傾倒させる結果、チルティングモーメント(tilting moments)が生じず、回動操作は特に信頼できるものになり、かつ、低負荷になる。
【0021】
更に有利な本発明の実施形態によれば、回転軸を中心とする棚受容部の回転運動を監視する少なくとも1つのセンサが提供される。この種のセンサ装置は、プロセス信頼性に対して相当に寄与する。
【0022】
本発明は、更に、本発明に係る棚回動装置を有する棚回動モジュールを含み、棚受容部は回転可能な状態で基礎要素に繋がり、基礎要素は回転軸を中心に棚受容部を回転させるための駆動システムを含む。該モジュールは、染色装置又はカバーガラス装着装置に独立的で別々にインストール可能な要素として、人為的エラー又は技術的なエラーに対する単純で経済的な解決策をもたらし、複雑な回動ないし旋回システムを省略することができる。
【0023】
本発明は、更に、組織学的な検査のための組織サンプルを調製するシステムにおいて使用される標本スライドガラスの棚を回動させる方法に関連する。当該方法において、棚は、棚の長軸(長手方向軸)が水平に延在しており、棚の中の標本スライドガラスが棚の長軸に対して直交し、かつ、互いに隣り合うように載置(並置)される第1の状態と、棚の長軸が垂直に延在する第2の状態とに、旋回して切り替わる。既知の回動ないし旋回機構は、各ケースにおいて、唯一の軸のみを中心に棚を回転ないし旋回させるように備えられており、その際回転軸は棚の長軸に対して平行又は直行して延在する。本発明に係る方法によれば、第1の状態から第2の状態へ、又は、第2の状態から第1の状態へスイングするために、棚を棚の水平な長軸に対して斜めに延在する回転軸を中心に180度スイングさせる。その結果、2回の回転運動が1回の回転運動に組み合わされるだけでなく、棚の配向を変えるための消費エネルギーが最小まで減少する。
【0024】
本発明は、図面に記載された例示的な実施例を参照して以下に更に説明されるだろう。記載された全ての特徴、及び/又は、図面に表された全ての特徴は、個々に又は任意の組み合わせにおいて、特許請求の範囲におけるグループ分け、又は、その従属関係とは無関係に本発明の目的物を構成する。
【実施例】
【0025】
図1は、染色装置内で、及びカバーガラス装着装置内で使用される棚(ないしラック)1[種々の配向a、b、c]を示す。棚1は、実質的に棚カゴ2及び棚取っ手部材(ないし、フレーム部材、ベイル、横木)3から成り、棚カゴ2は棚取っ手部材3を介して宙吊りされる。複数ないし多数の標本スライドガラス4は、棚カゴ2の中に垂直に配向して挿入される。棚カゴ2の長軸5は、垂直[水平の誤記]方向に配向されている。このような状態に棚1がある場合に、特に、染色プロセス(棚1が染色容器の中に浸漬される)が実行される。染色剤を適切に流去させることが可能になるので、標本スライドガラス4を垂直に置くことは、その後のカバーガラス装着プロセスに適する。
【0026】
図1において、棚1の右に示されたブラックボックス6は、カバーガラス装着ユニットを表す。ブラックボックス6は、カバーガラス装着ユニットの代わりに、棚が特定方向に配向していることを必要とする他の処理ステーションを表すこともできる。カバーガラス装着プロセスのためには、標本スライドガラス4を棚1から取り出して、カバーガラス装着ユニット6に運搬しなければならない。標本スライドガラスに塗布されるカバーガラス装着剤の流去を防止するためには標本スライドガラス4を水平にする必要があり、そして、組織サンプルが標本スライドガラス4の上面に載置された状態にしなければならない。同時に、標本スライドガラス4を棚からカバーガラス装着ユニット6に向かって取り出すことができるように、棚1の配向の転換をしなければならない。その場合にだけ、標本スライドガラス4をカバーガラス装着ユニット6に運搬することができる。
【0027】
標本スライドガラス4は、棚1から一方向(すなわち、図1aにおける上方向)のみに取り出すことができ、図1に示した棚取っ手部材3は、旋回(スイング)して標本スライドガラス4が棚カゴ2から引き出されること、ないしは、スライドアウトすることを可能にする。矢印7は、標本スライドガラス4の上面をマークしており、図1aではカバーガラス装着ユニット6を指向するように配向している。図1aから出発して、棚1をカバーガラス装着ユニット6に適用可能にするためには、棚を、先ず、時計回りに90度回動させることが考えられる。しかしながら、その時矢印7は、下方向を指向することになるであろう。このことは、カバーガラス装着ユニット6にとっては、標本スライドガラス4が誤った方向に配向していることを意味する。従って、カバーガラス装着プロセスが開始する前に、棚の配向を変える必要がある。この状態[すなわち、矢印7が上方向を向いた状態で、かつ、標本スライドガラス4の取り出し口がカバーガラス装着ユニット6に向いた状態]は、図1のb及びcに示されるように、2本の軸を中心に2度回転させれば、達成できる。棚取っ手部材3の右上端に符号を付けた箇所(符号「K」)は、旋回運動を説明する役割を果たす。
【0028】
図1bでは、棚は、先ず、Z軸を中心に反時計回りに90度傾き、標本スライドガラス4の上面7が上方向を向く。それによって標本スライドガラス4は水平になるが、棚1から右方向に取り出すことは出来ない。更に、棚1の開口側(棚取っ手部材3の領域)をカバーガラス装着ユニット6に向けるためには、Y軸を中心とした180度旋回が必要である。この更なる旋回を行った場合の結果は、図1cに示される。2つの連続的に実行される(90度及び180度の)棚の回転運動の結果として、標本スライドガラス4が、水平で、かつ、それらの上面が上方向を向いた状態になり、さらに、白ヌキ矢印によって表されるように、標本スライドガラスの取り出し方向がカバーガラス装着ユニット6に向かうようになる。その時には、コントロールポイント「K」は右上部に位置し、カバーガラス装着ユニット6に面する。その時には、棚取っ手部材3は、横方向に旋回(スイング)することができる。そのため、標本スライドガラス4を棚から取り出して、カバーガラス装着プロセスを開始することができる。
【0029】
図2は、本発明に係る棚の配向変換の原理に従った一変化形態(図1に類似する)、又は、処理ステップa及び処理ステップbに示した棚の配向変換の一変化形態を示す。図2に示した装置には、図1に示した複数の回転運動は必要ない。
【0030】
図2aは、図1aと同一の開始位置での棚1を示す。図2aでは、棚1は、最初、Z軸を中心として時計周りに1回の90度の棚の旋回運動をした場合には、標本スライドガラス4の上面が誤った方向を向く(すなわち、下方向に面する)ような配向になっている。棚1をカバーガラス装着ユニット6に正しく向けるためには、図1に示すように棚の配向を変えなければならない。しかしながら、水平な棚1の長軸5に関して、直交方向ではなく、斜めに延在する回転軸8が回転軸としての役割を果たす。棚1は、この回転軸8を中心に1回180度回転して、図2のbに示す配向をもたらす。その時、コントロールポイント「K」は、図1のcに示すように、標本スライドガラス4についての正しい最終位置に至る。すなわち、標本スライドガラス4の上面7は上方向を向き、標本スライドガラス4は水平に配設され、棚取っ手部材3はカバーガラス装着ユニット6に指向する。この時には、棚取っ手部材3は、横方向にスイングすることができる。そのため、標本スライドガラス4を棚から取り出して、カバーガラス装着プロセスを開始することができる。
【0031】
図1a〜cに表される処理ステップによれば、棚の配向(向き)を変えるためには複数の回転運動を必要とするが、図2に示す様式による棚の配向変換によれば、複雑さ及び必要とされる運動エネルギーを相当に減少する。
【0032】
図3は、種々の相a、b及びcにおける棚の配向を変えるための旋回操作を行う棚回動装置9を示す。棚回動装置9は基礎要素(ベース部材)10を含み、該基礎要素10は低位置に取付孔11を有する。取付孔11によって、棚回動装置9をカバーガラス装着装置又は染色装置にインストールすることができる。駆動システム12は基礎要素10に備え付けられ、棚1の棚受容部13に繋がる。駆動システム12は、棚受容部13を回転させる役割を果たす。棚1は棚受容部13に挿入され、開始位置において棚の長軸は水平に延在する。標本スライドガラス4は、棚1の中に垂直に配設される。このことは、カバーガラス装着プロセスが開始する前に棚1の配向を変えなえればならないことを意味する。駆動システム12は、回転軸8を中心として棚受容部13を回転させる役割を果たす。回転軸8は、水平に配向した棚1の長軸5に対して斜めに延在する。同時に、回転軸8は棚1の重心14を貫通して延在する。処理ステップbに表されるように、棚受容部13は、回転軸8を中心として180度回転して最終位置cに至る。その時、棚取っ手部材3は右方向を指向し、標本スライドガラス4の上面7は上方向を向く。従って、棚1は、白矢印で記載されるような標本スライドガラス4の取り出し可能な状態になる。今や、カバーガラス装着プロセスをすぐに開始することができる。あるいは、運搬装置(図示されない)を、棚をカバーガラス装着ユニットへ運搬することに使用することができる。回転軸8が棚1の重心14を貫通して延在するので、棚の回転に必要なエネルギーは極小化する。
【0033】
本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【0034】
尚、本願の特許請求の範囲に付記されている図面参照符号は専ら本発明の理解の容易化のためのものであり、図示の形態に限定することを意図するものではないことを付言する。
【符号の説明】
【0035】
1 棚
2 棚カゴ
3 棚取っ手部材
4 標本スライドガラス
5 棚の長軸
6 カバーガラス装着ユニット
7 標本スライドガラスの上面
8 回転軸
9 棚回動装置
10 基礎要素
11 取付孔
12 駆動システム
13 棚受容部(受け部材)
14 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織学的な検査のための組織サンプルを調製するシステムにおいて使用される標本スライドガラス(4)の棚(1)を回動させるための棚回動装置であって、
前記棚回動装置が、棚受容部(13)を有すること、
第1の状態では、前記棚受容部(13)に配置された棚(1)の長軸が水平に配向され、かつ、標本スライドガラス(4)が、前記棚(1)の長軸(5)に対して直交し、かつ、互いに隣り合うように棚(1)に載置されること、
棚受容部は、棚(1)が垂直方向に配向される第2の状態へ回転軸(8)を中心として旋回可能であること、
回転軸(8)を中心に180度回転することによって棚(1)が第1の状態と、第2の状態の間で正逆方向に旋回するように、回転軸(8)が水平に配向された棚(1)の長軸(5)に対して斜めに延在すること、
を特徴とする棚回動装置。
【請求項2】
棚の前記回転軸(8)が棚(1)の長軸(5)に関して45度傾いていることを特徴とする請求項1に記載の棚回動装置。
【請求項3】
前記回転軸(8)が棚の物理的重心(14)を貫通して延在することを特徴とする請求項1又は2に記載の棚回動装置。
【請求項4】
少なくとも1つのセンサが前記回転軸(8)を中心とした棚受容部(13)の回転運動を監視するために備えられることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の棚回動装置。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の棚回動装置を少なくとも1つ有する棚回動モジュールであって、
棚受容部(13)が回転可能に基礎要素(10)に取り付けられること、
該基礎要素(10)が前記回転軸(8)を中心として棚受容部(13)を回転させるための駆動システムを含むこと、
を特徴とする棚回動モジュール。
【請求項6】
組織学的な検査のために組織サンプルを調製するシステム(染色装置又はカバーガラス装着装置など)であって、
請求項1〜5に記載の棚回動装置、又は、棚回動モジュールの少なくとも1つを有すること、
を特徴とするシステム。
【請求項7】
組織学的な検査のための組織サンプルを調製するシステムにおいて使用される標本スライドガラスのための棚を回動させる方法であって、
棚は、棚の長軸が水平に延在しており、棚の中の標本スライドガラスが棚の長軸に対して直交して隣り合うように載置される第1の状態と、棚の長軸が垂直に延在する第2の状態との間で旋回し、
前記棚が、第1の状態から第2の状態へ、そして、第2の状態から第1の状態へと、水平な棚の長軸に関して斜めに延在する回転軸を中心に180度スイングして切り替わること、
を特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−127958(P2012−127958A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−271877(P2011−271877)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(500113648)ライカ ビオズュステムス ヌスロッホ ゲーエムベーハー (45)
【Fターム(参考)】