説明

棧付ベルトの接合構造

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は棧付ベルトの接合構造、詳しくは1プライ以上の抗張体帆布の表面並びにプライ間に熱可塑性樹脂又はゴムを薄く被覆したベルト本体の下面にベルト蛇行防止用のV形棧を設けたベルトであって、食料品、包装、化学剤等のような軽量物を屋内搬送する軽搬送用の棧付ベルトの接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ベルトの蛇行防止と小プーリ径対応を目的として帯状のベルト本体の下面側にベルト蛇行防止用のV形棧を設けた軽搬送用棧付ベルトが使用されてきているが、この棧付ベルトの接合構造としては、図8R>8に示すようにベルト本体22の接合用両端部22A、22Bを互いに逆位相となる対向的なV形ジグザグ状に切断し、該両端部22A、22Bを突き合わせて無端状に接合したフィンガー接合構造とし、その裏面側に巾方向に対し、中央部又は両端部の位置にてベルト長手方向にV形棧3を溶着加工した棧付ベルト21は公知である。
【0003】さらに、具体的には実開平2−106323には棧付ベルトのフィンガー接合構造として樹脂ベルトの巾方向曲げ応力の集中する接合部位に接合界面を覆い得る面積をもった補強シートを一体に積層したことを特徴とする樹脂ベルトのフィンガー接合構造が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の方式であるフィンガー接合構造においては、オーバーラップ接合構造に比べ、接合部の接合領域との差とも関連して、その接合強度は減少し、特にベルト裏面(特に帆布面)に蛇行防止棧を設置する場合には、搬送物の片荷状態によってベルトの片寄り現象にてプーリのV溝で棧が接触し、ベルト幅方向には強い力がかかるために棧付周辺部のフィンガー形状に沿って割れが発生しベルトの早期切断の要因となっていた。
【0005】又、補強シートを積層したフィンガー接合構造は上述のフィンガー接合構造に比較し、フィンガー接合部分の表裏面は応力集中の生じる部分を補強布で覆っているため、特に引張力及び曲げ応力に対し十分に補強されフィンガー接合部の接着界面の割れ等が防止できる点では優れているが、小プーリ径又は/及び高速走行では依然としてフィンガー接合部の接着界面より割れが発生する欠点がある。
【0006】本発明は前記した問題点を解決すべく鋭意検討した結果提案に至ったもので、フィンガー接合部の接合構造を一部改変することによりベルト幅方向に作用する応力などを考慮し、小プーリ径においても十分耐え、しかも蛇行防止用のV形棧領域の接合部とV形棧領域を除く残余領域の接合部の屈曲寿命を増大する効果のある棧付ベルトの接合部の構造を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記した目的を達成するため本発明の特徴とするところは、少なくとも1プライの帆布を芯体層とし、その表面および各プライ間に熱可塑性樹脂もしくはゴムを被覆積層してなるベルト本体の表又は裏面側にベルト長手方向に延出したV形棧を結合した棧付ベルトの両端部を互いに対向的にジグザグ状に切断し、該ジグザグ状端部を突き合わせて嵌合せしめた棧付ベルトの接合構造において、該接合部の曲げ応力の集中するV形棧領域の接合をオーバーラップ接合とし、V形棧領域を除く残余領域の接合をジグザグ状のフィンガー接合とした複合接合構造にて形成せしめたことを特徴とする棧付ベルトの接合構造にある。
【0008】
【作用】本発明に係る接合構造はV形棧領域のオーバーラップ接合と残余領域のフィンガー接合との複合接合構造とすることにより小プーリ径に対応するベルトの屈曲性はフィンガー接合で保持せしめ、又棧付領域の割れは接合保持率のよいオーバーラップ接合で保持せしめることによってベルトの蛇行防止と小プーリ径に対応し易くして棧付ベルトの寿命を大巾に向上せしめる。
【0009】
【実施例】以下、本発明に係る軽搬送用の棧付ベルトの接合構造について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。図1はこの発明の実施例の底面図、図2は図1のX−X線断面図、図3は図1のY−Y線断面図で、これらの図において1は棧付ベルトで帯状のベルト本体2の下面にV形形状の棧3が固着されたもので、ベルト本体2は帆布4、具体的には綿、ポリアミド、ポリエステル、ビニロン等の繊維製織布に熱可塑性樹脂、例えばポリウレタン、PVC等を含浸あるいはコーティングしてなる帆布4の片面あるいは両面に、ポリウレタン、PVC等の熱可塑性樹脂又はNR、SBR、NBR、EPR、EPT、IIR、IR、BR等の単一材もしくはこれらをブレンドしたゴム等からなるカバー材5が積層被覆され、ベルト本体2が形成される。
【0010】そして、上記の如きベルトにおいてその両端部の接合構造は、V形棧が接着されるV形棧領域を除く部分Mはベルト本体2の両端部2A、2Bにおいて、一体積層されたカバー材5と帆布4の先端を所定長さと巾のV形ジグザグ状に切断し一端部2Aを形成し、同様に他端部2Bを一端部2Aと対向的になるように形成して両端部2A、2Bをジグザグ状の端部同志は入れ子状に突き合わせて無端状に接合する従来のフィンガー接合構造とする。
【0011】V形棧が接着されるV形棧領域Nのベルト本体の両端部2A’、2B’は所定長さの重ね代にて一端部2A’と他端部2B’を重ね合わせたオーバーラップ接合構造とする。このオーバーラップ接合時の重ね代はベルトの屈曲性及び小プーリ径対応のため通常10〜50mmの範囲に規制し、より好ましくは15〜35mmの範囲で形成される。又、V形棧領域Nの巾はV形棧の上巾より夫々5mm以上の間隔を持たせる。
【0012】ここで重ね代が10mm未満ではエンドレス接合部が剪断破壊に至る不具合があり、一方重ね代が50mm以上では剛性が高くなりすぎてプーリで屈曲させた時に接合部の割れに至る問題がある。又、V形棧領域Nの巾は5mm未満ではV形棧が乗り上げた場合割れる恐れがある。即ち、棧付ベルトのベルト本体2の接合部は、V形棧領域を除く部分Mはフィガー接合構造からなりV形棧領域Nはオーバーラップ接合構造とするに二種類の接合手段が講ぜられている。
【0013】尚、前記V形棧領域のオーバーラップ接合構造は図3に示す如く裏面側に位置するベルト本体の重ね代部の一方の表面カバー層5を除去し重ね代部2B’を形成し、その除去部分にカバー層と同材質の薄い樹脂又はゴムシートもしくは接着剤を介在せしめて表面側に位置するベルト本体の重ね代部2A’を重ね合わせ、加熱融着又は接着して接合する。このようにして両端部が接合されたベルト本体の裏面側には、ベルト長手方向に延出するV形棧3を固着或いは溶着して棧付ベルトの接合構造をもつエンドレスベルトが完成する。
【0014】以上は芯体帆布4が1プライの場合について説明したが、1プライに限らず図4および図5に示す2プライの芯体帆布の場合においても上記接合構造と同様手段によって適用することができる。即ち、ベルト本体12のV形棧領域を除く部分Mの両端部12A、12Bを体向的にV形ジグザグ状に切断し入れ子状に突き合わせフィンガー接合とし、又V形棧領域Nの両端部12A’、12B’オーバーラップ接合とする。
【0015】次に、本発明に係る棧付ベルト接合構造によるベルト接合部の効果を試験例により説明する。1プライのポリエステル帆布の片面にポリウレタン樹脂からなる厚み0.2mmのカバー層を積層した本体ベルトの両端部を10mm巾×35mm長のV形ジグザグ形状のフィンガー接合と巾5mm×重ね代35mmのベルト形状のオーバーラップ接合との2種類のベルト接合部を形成し、ベルト裏面側に図6に示すV形棧3(上巾10mm、底巾7.8mm、高さ3mmで底部に円弧状の縦溝付)を取り付けた本発明によるベルト接合部を形成した図1に相当する棧付ベルト1と、一方比較例として図8に示すベルト接合部をフィンガー接合構造のみとし、他の条件は上記と全く同じ従来ベルトの接合部を形成したベルト21を形成した。
【0016】これらのベルトを図7に示すドライブプーリ31、テークアッププーリ33、テールプーリ34およびベンドプーリ32に懸架し、ベルト張力3.9KN/m、ベルト速度150m/分の走行条件下で走行させ、ベルト接合部に亀裂が生じるまでの屈曲回数を測定した。尚、ドライブプーリ31、テークアッププーリ33、およびテールプーリ34はV溝付プーリ、ベンドプーリ32はフラットなプーリで各プーリ径は25mmφである。その試験結果を表1に示す。
【0017】
【表1】


【0018】この試験の結果より明らかなように、本発明の接合構造は従来の接合構造に比較し、約4.5倍以上の動的屈曲回数があり、ベルト寿命が大巾に向上することが確認出来た。
【0019】
【発明の効果】以上の如く、本発明に係る軽搬送用の棧付ベルトの接合構造はV形棧領域のオーバーラップ接合とV形棧領域以外のフィンガー接合とを組み合わせた複合接合構造とすることにより、曲げ応力の集中する蛇行防止用のV形棧領域の接合強力を向上させ、フィンガー部の割れを防止し、合わせて剛性の緩和により屈曲性の保持をはかり小プーリ径に対応出来ることにより小プーリ径でかつ蛇行防止機能を有してベルト寿命の大巾な向上を達成する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る棧付ベルト接合部の背面図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【図3】図3は図1のY−Y線断面図である。
【図4】本発明に係る棧付ベルト接合部の他の実施例を示す図2相当図である。
【図5】本発明に係る棧付ベルト接合部の他の実施例を示す図3相当図である。
【図6】V形棧の一例を示す斜視図である。
【図7】ベルト接合部の耐久性を試験する走行試験機の概要を示す説明図である。
【図8】従来の棧付ベルトの接合構造を示す図1相当図である。
【符号の説明】
1 搬送用棧付ベルト
2 ベルト本体
3 V形棧
4 帆布層
5 カバー層
2A 残余領域の一方の接合部
2B 残余領域の他方の接合部
2A’V形棧領域の一方の接合部
2B’V形棧領域の他方の接合部
M V形棧領域を除く残余領域
N V形棧領域部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1プライの帆布を芯体層とし、その表面および各プライ間に熱可塑性樹脂もしくはゴムを被覆積層してなるベルト本体の表又は裏面側にベルト長手方向に延出したV形棧を結合した棧付ベルトの両端部を互いに対向的にジグザグ状に切断し、該ジグザグ状端部を突き合わせて嵌合せしめた棧付ベルトの接合構造において、該接合部で曲げ応力の集中するV形棧領域の接合をオーバーラップ接合とし、V形領域を除く残余領域の接合をジグザグ状のフィンガー接合とした複合接合構造にて形成せしめたことを特徴とする棧付ベルトの接合構造。
【請求項2】 オーバーラップ接合部の重ね代は10〜50mmの範囲にある請求項1記載の棧付ベルトの接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】第2834683号
【登録日】平成10年(1998)10月2日
【発行日】平成10年(1998)12月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−99625
【出願日】平成7年(1995)3月30日
【公開番号】特開平8−270736
【公開日】平成8年(1996)10月15日
【審査請求日】平成8年(1996)9月11日
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【参考文献】
【文献】特開 平5−270627(JP,A)
【文献】実開 昭62−44813(JP,U)
【文献】実開 昭57−200742(JP,U)
【文献】実開 平2−106323(JP,U)
【文献】実開 昭59−153747(JP,U)