森林資源調査方法および森林資源調査装置
【課題】 現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減し、初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行え、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である森林資源調査方法および森林資源調査装置を提供すること。
【解決手段】 3次元空中写真に基づいて林相区分を行い、前記各林相毎の面積を計測し、林相毎に標準地を選定し、標準地内の樹種を識別し、標準地内の樹木の樹高を測定し、樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出し、樹高および胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出し、単位面積当たりの立木幹材積に林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求め、算出した林相毎の立木幹材積にバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求める。
【解決手段】 3次元空中写真に基づいて林相区分を行い、前記各林相毎の面積を計測し、林相毎に標準地を選定し、標準地内の樹種を識別し、標準地内の樹木の樹高を測定し、樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出し、樹高および胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出し、単位面積当たりの立木幹材積に林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求め、算出した林相毎の立木幹材積にバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、森林資源を調査するための技術に関し、特に人による入林調査が困難な地域における森林資源の調査に好適な森林資源調査方法および森林資源調査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では、森林法で規定された森林計画制度の中で森林情報の整備が行われている。当初多大な労力を費やして整備された森林計画図や森林簿の情報は、現状では更新作業が十分に行われないためにその精度の低下が危惧されている。森林の状況は変化するから常に更新されていなければ利用価値がなくなってしまう。また、UNFCCC(気候変動枠組条約)に報告する際には、統計でいう95%信頼限界の下限値を用いる可能性がある。
【0003】
従来、森林簿調査では、実際に人が森林に入り、現地調査で標準地を設定し、標準地内の高木性樹種(胸高直径4cm以上)に対して、輪尺(測定値は2cm)で胸高直径を測量し、測竿(測高ポール)、バーテックス(超音波距離計)、インパルス(レーザー距離計)などを使用して樹高(測定値は1m)を測量している。
【0004】
しかし、現地調査での標準地の設定は、作業員が入れる場所を選ぶため、林道に近い場所や地形の緩やかな場所、下層植物の少ない場所などが選択されることが多く、森林の標準的な場所が設定されているとはいえない。また、現地の林地内では、広葉樹の樹冠の樹頂を見誤りやすく、樹高の誤差は大きいという問題がある。また、測竿の長さは8mしかないので、すべての木を測ることはできない。一方、距離計による測定は斜面傾斜による補正が必要である。そして、従来の現地調査での標準地による森林簿蓄積精度は、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が41%に達するとの報告もされている。
【0005】
前述したように、従来の森林簿調査では、現地で人による標準地の設置、毎木の樹種判別と樹高や胸高直径の測量がなされているが、蓄積量算出精度が低く、人件費等のコストが高く、標準地設置や樹高測量ができない場所もある。また、調査に手間と長い時間を要し、熊の出現や崖下への転落など不測の事故が生じることもある。さらに標準地の設定にあたり林木の平均的な場所が選定できなければ、森林簿蓄積精度が低く、国際的な審査に耐えうる科学的資料を提出できないという課題を有している。
【0006】
一方、ヘリコプター等の飛行体に搭載されたレーザスキャナデータによる方法も提案されている(特許文献1)。この空中レーザシステムでは、地物の相対的な離隔を直接計測するのではなく、一旦すべてのレーザの反射点について測地座標を求める方法をとっている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−23263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーザ光を使用する方法の場合、その精度がレーザ光の到達率に影響を受けやすく、地面到達率が50%以下の場合には正確な樹高を求めることは不可能である。また、秋季および冬季の落葉時には、地面からの反射点が多くなるが、樹幹からの反射点が少なくなってしまう。しかもレーザ光が得られた樹高は毎木の樹高ではなく樹木群の面的樹高であるため材積を求めることができないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、第一の目的は、空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができること。また、本発明の第二の目的は、初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行えること。さらに本発明の第三の目的は、国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である森林資源調査方法および森林資源調査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る森林資源調査方法の特徴は、写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階をもとに林相区分を行う林相区分ステップと、区分された前記各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップと、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップと、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップと、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップと、前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出ステップと、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップと、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップと、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップとを有する点にある。
【0011】
また、本発明において、前記樹高測定ステップでは、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明において、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップと、前記単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップと、算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップとを有することが望ましい。
【0013】
また、本発明において、バイオマス蓄積量算出ステップで撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を求めて、これに炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップと、算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップとを有することが望ましい。
【0014】
本発明に係る森林資源調査装置の特徴は、写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階の違いを判別して林相区分を行う林相区分設定手段と、区分された各林相毎の面積を計測する林相面積計測手段と、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定手段と、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別手段と、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定手段と、前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出手段と、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出手段と、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出する林相立木幹材積算出手段と、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するバイオマス蓄積量算出手段とを有する点にある。
【0015】
また、本発明において、前記樹高測定手段は、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第一に、空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができ、第二に、初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行え、第三に、国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る森林資源調査方法および森林資源調査装置の実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
本実施形態の森林資源調査方法は、図1に示すように、3次元空中写真に基づいて林相区分を行う林相区分ステップS1と、各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップS2と、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップS3と、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップS4と、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップS5と、前記樹高から胸高直径を算出する胸高直径算出ステップS6と、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップS7と、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップS8と、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップS9と、森林全体の撮影年における単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップS10と、単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップS11と、単位面積当たりの炭素吸収量を二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップS12と、撮影年の単位面積当たりの炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップS13と、単位面積当たりの炭素貯蔵量を二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップS14とを有している。
【0019】
林相区分ステップS1および林相面積計測ステップS2は、対象森林の空中写真を写真測量図化機で実体視観察しながら森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階等の林相を区分する工程である。各林相区分は座標で特定する。天然林の区分面積は、図2に示すように、天然林の林相区分基準テーブル21に従って図面負荷量や施業を考慮して0.5ha以上とする。但し、崩壊や伐採の無立木地などはその限りでない。樹種群については1/5000の林況図の図面負荷量を考慮し、針葉樹の割合により4ランクで区分するが、区分した林相毎の標準地ではトドマツやエゾマツ、カンバ類やナラ類などを区分する。人工林の林相区分についても区分面積に関係なく、林班図などを用いて樹種および植栽年が異なる小班をさらに疎密度に区分する。
【0020】
また、標準地選定ステップS3は、林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する工程である。標準地としては地形が平均的で林縁や林道などの疎間面に接しない任意の地点を選定する。例えば、図3に示すように、三次元空中写真を利用して標準地の起点を決め、一辺が31.62mの正方形で面積を0.1haとする。
【0021】
つぎに、樹種識別ステップS4は、標準地内の樹種を識別する工程であり、図4に示すような樹種識別テーブル22を基準にして識別する。具体的には、樹冠の特徴としての頂上形状と枝・幹形態によって識別し、さらに白黒写真の場合、色調・キメ・陰影により区分し、カラー写真の場合、季節の色により区分する等、総合的に識別する。例えば、エゾマツの場合、頂上形状が「狭い円錐形で鈍角」、枝・幹形態が「枝は目立たない下向き」、判読要素として白黒写真の場合、色調は「濃灰」、キメは「粒状」、陰影は「濃い」、カラー写真の場合、夏秋は「濃緑」として判別する。あるいは、ブナの場合、頂上形状が「扇形」、枝・幹形態が「幹は分岐、枝は鋭角上向き」、判読要素として白黒写真の場合、色調は「灰白色」、キメは「滑らか」、陰影は「内部に影」、カラー写真の場合、夏は「緑」、秋は「黄色」として判別する。これらの判読は実体視でも可能であるが、樹冠の頂上形状や枝・幹の形態、写真の判読要素を記憶手段に記憶させておいてコンピュータで判読することも可能である。
【0022】
樹高測定ステップS5は、標準地内の樹木毎の位置座標(X、Y)を測定し、樹木の最も高い部分である樹冠高および直下の地上部である地際高の標高を計測し、樹冠高から地際高を引き算して樹高を算出する。
【0023】
そして、胸高直径算出ステップS6では、樹高・胸高直径回帰式を使って樹高に基づいて胸高直径を算出する。樹高と胸高直径との回帰式を計算するために、予め当該地域の現地調査を行い、苫小牧市字静川(静川地区)の3,844本をはじめ、19地域の総計11,767本の樹木データに基づいて樹種別の樹高と胸高直径との回帰式を算出した。樹種別の樹高・胸高直径回帰式テーブル23を図5に示す。図5の回帰式中、Xは樹高であり、Yは胸高直径である。「R−2乗値」は相関係数を二乗した値である寄与率を示し、データのばらつきのうち回帰で説明できる割合を示す。寄与率が高いほど回帰式によるデータの信頼性が大きいことになる。また、「予測値危険率」は、有意Fの確率を示しており、この値が0.05以下ならば回帰率は5%の有意水準で有意であると判断できる。
【0024】
たとえば、人工林のトドマツの場合、胸高直径Yは「Y=1.45X+7.52」により算出され、寄与率は89%で信頼性が高く、0.001%の有意水準で有意な値となる。また、天然林のトドマツの場合、胸高直径Yは「Y=2.78X+12.94」により算出され、寄与率は89%で信頼性が高く、0.001%の有意水準で有意な値となる。
【0025】
材積算出ステップS7では、標準地における樹種別の樹高と胸高直径とから単位面積当たりの立木幹材積を算出する工程である。具体的には、北海道立木幹材積表をもとに以下の式1を使って算出する。
(式1)
V=H×(FH+FD)/2×0.7854×(D/100)2
但し、Vは幹材積(m3)、Hは樹高(m)、Dは胸高直径(cm)、FHは樹高形数、FDは直径形数である。
【0026】
なお、樹高形数FHおよび直径形数FDは、下記の式によって求めた。
1.樹高形数(FH)の算出
針葉樹(カラマツ以外)FH=0.61−0.0055H+5.48e-1.025H
カラマツFH=0.435719+0.515867/H+2.481278/H2
広葉樹FH=0.515−0.003H+2.814e-0.55H
2.直径形数(FD)の算出
針葉樹(カラマツ以外)FD=0.50−0.0008D+0.421e-0.12D
カラマツFD=0.439004+0.916461/D−0.073809/D2
広葉樹FD=0.48−0.00066D+1.216e-0.405D
【0027】
そして、林相立木幹材積算出ステップS8において、単位面積当たりの立木幹材積に林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める。
【0028】
つづいて、バイオマス蓄積量算出ステップS9は、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求める工程である。バイオマス係数とは、樹木の幹の体積を根や枝などのすべてを含めた体積に直し、乾燥時の重さに換算する係数である。例えば図6に示すように、北海道立木幹材積表において樹種別の枝条材積の樹幹材積に対する百分率から求められる。このようにして算出した林相毎の立木幹材積を総和することによって森林全体の撮影年におけるバイオマス蓄積量が求められる。
【0029】
また、単年成長量算出ステップS10は、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と、期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める工程である。具体的には以下の式2により算出する。
(式2)
G=(Ae−Ab)/T
但し、Gは単年のha当たりの成長量(t/ha/yr)、Aeは期末のha当たりのバイオマス蓄積量(t/ha)、Abは期首のha当たりのバイオマス蓄積量(t/ha)、Tは期間(yr)である。
【0030】
炭素吸収量算出ステップS11は、単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する工程であり、二酸化炭素吸収量換算ステップS12は、算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する工程である。
【0031】
また、炭素貯蔵量算出ステップS13は、撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量に、炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する工程であり、二酸化炭素貯蔵量換算ステップS14では、算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する工程である。
【0032】
つぎに、前述した森林資源調査方法を実現するための森林資源調査装置1について説明する。図7は、本実施形態の森林資源調査装置1の全体構成を示すブロック図である。本実施形態の森林資源調査装置1は、図7に示すように、主として、記憶手段2と、林相区分設定手段3と、林相面積計測手段4と、標準地選定手段5と、樹種識別手段6と、樹高測定手段7と、胸高直径算出手段8と、材積算出手段9と、林相立木幹材積算出手段10と、バイオマス蓄積量算出手段11と、単年成長量算出手段12と、炭素吸収量算出手段13と、二酸化炭素吸収量換算手段14と、炭素貯蔵量算出手段15と、二酸化炭素貯蔵量換算手段16と、入力手段17と、出力手段18とを有している。
【0033】
各構成についてより詳細に説明すると、記憶手段2は、ハードディスク等から構成されており、本装置の各手段を実行するための森林資源調査プログラムや各種のデータ、たとえば調査対象森林の三次元空中写真データや林相座標、林相面積、標準地座標等を記憶する役割を果たすものである。また、記憶手段2は、図2に示す林相区分基準テーブル21、図4に示す樹種識別テーブル22、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23、樹種別のバイオマス係数テーブル24を有している。
【0034】
図2に示す林相区分基準テーブル21には、樹種群、疎密度、および樹高階の区分がなされており、それぞれの区分基準として、樹種群は針葉樹の割合が設定されており、疎密度は樹冠の対地被覆度が設定されており、樹高階は上層木の平均樹高が設定されている。これらの基準によって、例えば、「針葉樹林・密林・高木層」のように林相が区分される。
【0035】
また、図4に示す樹種識別テーブル22には、前述したように、樹種の識別基準が記憶されており、例えば樹冠の特徴として頂上形状と枝・幹形態、判読要素として白黒写真の場合には色調・キメ・陰影が設定され、カラー写真の場合には夏と秋の色彩が設定されている。これにより例えば、三次元空中写真がカラー写真の場合、頂上形状が卵状円錐形であって、枝が目立って突出しておらず、黒緑であれば、樹種は「杉」であると判断される。
【0036】
また、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23には、人工林と天然林について、樹種毎の樹高と胸高直径との回帰式データが記憶されており、バイオマス係数テーブル24には、樹種毎のバイオマス係数データが記憶されている。
【0037】
つぎに、林相区分設定手段3について説明する。林相区分設定手段3は、写真測量図化機等により作成された3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階等のいわゆる林相区分を判別して設定するものである。具体的には、図2に示すような林相区分基準テーブル21に基づいて、樹種群、疎密度および樹高階が識別されて0.5ha以上の面積をもって区分し、3次元空中写真データ上で座標点を特定する。
【0038】
林相面積計測手段4は、林相区分設定手段3によって設定された各林相の座標点から面積を計測し、記憶手段2に記憶するようになっている。また、標準地選定手段5は、標準地選定ステップS3で説明したとおり、林相を代表する平均的な領域を正方形の起点を座標で設定することにより0.1ha面積の標準地を選定するようになっている。
【0039】
また、樹種識別手段6は、図4に示す樹種識別テーブル22の識別データに基づいて各林相の標準地内における樹種を識別するものであり、各標準地に樹種を対応付けて記憶手段2に記憶するようになっている。
【0040】
樹高測定手段7は、3次元空中写真に基づいて、樹木毎に、当該樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出する。樹冠高の位置および地際高の位置はユーザが3次元空中写真を実体視して設定してもよいし、予め樹冠および地際の画像特徴を登録しておいて画像分析によって自動的に抽出するようにしてもよい。
【0041】
胸高直径算出手段8は、算出した樹高を樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出するものである。本実施形態では、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23から該当する樹種の回帰式を読み出し、樹高測定手段7によって算出された樹高を代入して所望の胸高直径を算出するようになっている。
【0042】
また、材積算出手段9は、算出した樹高および胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出するものである。具体的には、前述したように北海道立木幹材積表をもとに式1を読み出して樹高および胸高直径を代入して算出する。
【0043】
そして、林相立木幹材積算出手段10は、単位面積当たりの立木幹材積に、林相面積計測手段4によって求められた林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出するものである。
【0044】
そして、バイオマス蓄積量算出手段11は、算出した林相毎の立木幹材積に対し、図6に示すバイオマス係数デーブル24から該当樹種のバイオマス係数を読み出し、両者を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するようになっている。
【0045】
単年成長量算出手段12は、調査対象となっている森林の所定期間における単年当たりのバイオマス蓄積量を成長量として求めるものである。具体的には、前述した式1を使用し、対象測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と、期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算することにより求める。
【0046】
炭素吸収量算出手段13は、算出した単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出するものであり、二酸化炭素吸収量換算手段14は、その炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する演算部である。
【0047】
また、炭素貯蔵量算出手段15は、撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量に、炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出するものであり、二酸化炭素貯蔵量換算手段16は、その炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する演算部である。
【0048】
以上に説明した林相区分設定手段3乃至炭素貯蔵量算出手段16は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、所定の演算処理プログラムおよびデータを読み出して実行される。
【0049】
また、入力手段17はキーボードやマウス、入力ペンなどから構成されており、三次元空中写真をディスプレイ上に表示しつつ、林相を指定したり、標準地の座標を指定できるようになっている。また、出力手段18は、ディスプレイやプリンタなどから構成されている。
【0050】
以上のような本実施形態によれば、
1.空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができる。
2.初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行える。
3.国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である等の効果を奏することができる。
【実施例1】
【0051】
つぎに、本実施形態の森林資源調査方法および森林資源調査装置1について具体的に調査した結果を実施例1として説明する。
【0052】
まず、林相区分ステップS1において、現地調査と写真測量図化機を使った空中写真計測により、撮影年の林相の分布状況を区分し、面積を計測し、図8乃至図11に示すような縮尺1/5000の林況図を作成した。各図の地域は、北海道栗沢町万字地区道有林野内79〜85林班を対象とした。また、使用した空中写真は、図8については、米軍が1947年9月29日に撮影した分解力20cmの写真であり、図9乃至図11は国土地理院がそれぞれ1966年7月14日、1977年10月20日、2003年11月2日に撮影した分解力10〜15cmの写真である。
【0053】
天然林の林相区分については、写真測量図化機での空中写真に基づいて、樹種群、疎密度、樹高階を識別・計測し、林相界線を3次元座標に数値化している。人工林の林相区分については、区分面積に関係なく、林班図などを用いて、樹種および植栽年が異なる小班をさらに疎密度に区分し数値化している。
【0054】
そして、各標準地について、立木の樹高と胸高直径から北海道立木幹材積表によって算出した0.1haの平均樹高、平均径級、幹材積と、樹種別のバイオマス係数に基づいてバイオマス蓄積量を算出した。その結果を図12に示す。
【0055】
また、標準地にあるすべての樹木に対して、針広のみ区分と樹種別区分によって算出したバイオマス蓄積量の差異を図13に示す。大きい樹冠を持つナラ類は、針広のみ区分の時に7.2トンであり、樹種別に区分するとき9.5トンであったため、バイオマス蓄積量の差異は2.3トンの違いが明らかになった。また、バイオマス蓄積量は樹種によるマイナス・プラスがあるが、合計してもその差異は1.1トン、樹種区分の針広区分に対する増加率は2.3%であることも明らかになった。
【実施例2】
【0056】
つぎに、本実施形態の実施例2について説明する。実施例2では、空中写真計測と現地実測との結果を比較するため、北海道野幌森林公園道有林野幌団地169林班における現地調査と写真測量図化機での空中写真計測により、2004年の毎木調査を行い、樹種、樹高、胸高直径、図14に示すような毎木位置分布図を作成した。使用した空中写真は、NPO法人EnVision環境保全事務所が2004年11月18日に撮影した縮尺約1/10000のものである。
【0057】
天然林樹種の本数および人工林樹種の本数をそれぞれ図15および図16に示す。現地実測では、現地で測った胸高直径110本と樹高36本であったが、そのうち2005年10月時点ではNo.69およびNo.91は枯損木であったため、検証できる木は108本となった。
【0058】
空中写真計測と現地実測の差は、図17乃至図20に示す。図17に示した現地樹高は現地で実測した胸高直径から回帰式で求めた。また、図21および図22には、樹高と胸高直径から立木幹材積を算出した値も含め結果を表に示した。なお、材積誤差率(%)は、空中写真計測蓄積量の現地実測蓄積量に対する誤差率である。
(式3)
材積誤差率(%)
=|現地実測材積−空中写真計測材積|/{(現地実測材積+空中写真計測材積)/2}
【0059】
以上のような本実施例2によれば、トドマツ人工林の場合、36本の対象では、材積誤差率が0.4%であり、108本対象では、誤差率が1.9%となり、極めて誤差率の小さい結果が得られることがわかる。また、天然林の場合、材積誤差率は8.3%であり、こちらも誤差率の小さい結果が得られることがわかる。
【0060】
なお、本発明に係る森林資源調査方法および森林資源調査装置は、前述した実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0061】
例えば、本実施形態の森林資源調査装置は、構造上、空中写真図化機と一体型あるいは別体型のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る森林資源調査方法の実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】本実施形態における天然林の林相区分基準テーブルを示す図である。
【図3】本実施形態における標準地の位置分布の一例を示す図である。
【図4】本実施形態における樹種識別テーブルを示す図である。
【図5】本実施形態における樹種別の樹高・胸高直径回帰式テーブルを示す図である。
【図6】本実施形態における樹種別のバイオマス係数テーブルを示す図である。
【図7】本発明に係る森林資源調査装置の実施形態を示すブロック構成図である。
【図8】実施例1の林相区分の一例を示す1947年の空中写真に基づく林況図である。
【図9】実施例1の林相区分の一例を示す1966年の空中写真に基づく林況図である。
【図10】実施例1の林相区分の一例を示す1977年の空中写真に基づく林況図である。
【図11】実施例1の林相区分の一例を示す2003年の空中写真に基づく林況図である。
【図12】実施例1で求めた各小班における樹種を区分した二酸化炭素吸収量・貯蔵量等の算出結果を示す表である。
【図13】実施例1における針広区分と樹種区分のバイオマス蓄積量の差異を示す表である。
【図14】実施例2で求めた毎木位置分布図である。
【図15】実施例2において調査対象とした天然林の樹種の本数を示す表である。
【図16】実施例2において調査対象とした人工林の樹種の本数を示す表である。
【図17】実施例2において空中写真計測と現地実測との樹高の差を示すグラフ(36本対象)である。
【図18】実施例2において空中写真計測と現地実測との胸高直径の差を示すグラフ(36本対象)である。
【図19】実施例2において空中写真計測と現地実測との樹高の差を示すグラフ(108本対象)である。
【図20】実施例2において空中写真計測と現地実測との胸高直径の差を示すグラフ(108本対象)である。
【図21】実施例2においてトドマツ人工林の空中写真計測と現地実測との結果を比較した表である。
【図22】実施例2においてトドマツ天然林の空中写真計測と現地実測との結果を比較した表である。
【符号の説明】
【0063】
1 森林資源調査装置
2 記憶手段
3 林相区分設定手段
4 林相面積計測手段
5 標準地選定手段
6 樹種識別手段
7 樹高測定手段
8 胸高直径算出手段
9 材積算出手段
10 林相立木幹材積算出手段
11 バイオマス蓄積量算出手段
12 単年成長量算出手段
13 炭素吸収量算出手段
14 二酸化炭素吸収量換算手段
15 炭素貯蔵量算出手段
16 二酸化炭素貯蔵量換算手段
17 入力手段
18 出力手段
21 林相区分基準テーブル
22 樹種識別テーブル
23 樹高・胸高直径回帰式テーブル
24 バイオマス係数テーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、森林資源を調査するための技術に関し、特に人による入林調査が困難な地域における森林資源の調査に好適な森林資源調査方法および森林資源調査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では、森林法で規定された森林計画制度の中で森林情報の整備が行われている。当初多大な労力を費やして整備された森林計画図や森林簿の情報は、現状では更新作業が十分に行われないためにその精度の低下が危惧されている。森林の状況は変化するから常に更新されていなければ利用価値がなくなってしまう。また、UNFCCC(気候変動枠組条約)に報告する際には、統計でいう95%信頼限界の下限値を用いる可能性がある。
【0003】
従来、森林簿調査では、実際に人が森林に入り、現地調査で標準地を設定し、標準地内の高木性樹種(胸高直径4cm以上)に対して、輪尺(測定値は2cm)で胸高直径を測量し、測竿(測高ポール)、バーテックス(超音波距離計)、インパルス(レーザー距離計)などを使用して樹高(測定値は1m)を測量している。
【0004】
しかし、現地調査での標準地の設定は、作業員が入れる場所を選ぶため、林道に近い場所や地形の緩やかな場所、下層植物の少ない場所などが選択されることが多く、森林の標準的な場所が設定されているとはいえない。また、現地の林地内では、広葉樹の樹冠の樹頂を見誤りやすく、樹高の誤差は大きいという問題がある。また、測竿の長さは8mしかないので、すべての木を測ることはできない。一方、距離計による測定は斜面傾斜による補正が必要である。そして、従来の現地調査での標準地による森林簿蓄積精度は、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が41%に達するとの報告もされている。
【0005】
前述したように、従来の森林簿調査では、現地で人による標準地の設置、毎木の樹種判別と樹高や胸高直径の測量がなされているが、蓄積量算出精度が低く、人件費等のコストが高く、標準地設置や樹高測量ができない場所もある。また、調査に手間と長い時間を要し、熊の出現や崖下への転落など不測の事故が生じることもある。さらに標準地の設定にあたり林木の平均的な場所が選定できなければ、森林簿蓄積精度が低く、国際的な審査に耐えうる科学的資料を提出できないという課題を有している。
【0006】
一方、ヘリコプター等の飛行体に搭載されたレーザスキャナデータによる方法も提案されている(特許文献1)。この空中レーザシステムでは、地物の相対的な離隔を直接計測するのではなく、一旦すべてのレーザの反射点について測地座標を求める方法をとっている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−23263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーザ光を使用する方法の場合、その精度がレーザ光の到達率に影響を受けやすく、地面到達率が50%以下の場合には正確な樹高を求めることは不可能である。また、秋季および冬季の落葉時には、地面からの反射点が多くなるが、樹幹からの反射点が少なくなってしまう。しかもレーザ光が得られた樹高は毎木の樹高ではなく樹木群の面的樹高であるため材積を求めることができないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、第一の目的は、空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができること。また、本発明の第二の目的は、初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行えること。さらに本発明の第三の目的は、国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である森林資源調査方法および森林資源調査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る森林資源調査方法の特徴は、写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階をもとに林相区分を行う林相区分ステップと、区分された前記各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップと、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップと、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップと、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップと、前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出ステップと、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップと、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップと、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップとを有する点にある。
【0011】
また、本発明において、前記樹高測定ステップでは、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明において、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップと、前記単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップと、算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップとを有することが望ましい。
【0013】
また、本発明において、バイオマス蓄積量算出ステップで撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を求めて、これに炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップと、算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップとを有することが望ましい。
【0014】
本発明に係る森林資源調査装置の特徴は、写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階の違いを判別して林相区分を行う林相区分設定手段と、区分された各林相毎の面積を計測する林相面積計測手段と、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定手段と、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別手段と、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定手段と、前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出手段と、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出手段と、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出する林相立木幹材積算出手段と、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するバイオマス蓄積量算出手段とを有する点にある。
【0015】
また、本発明において、前記樹高測定手段は、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第一に、空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができ、第二に、初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行え、第三に、国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る森林資源調査方法および森林資源調査装置の実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
本実施形態の森林資源調査方法は、図1に示すように、3次元空中写真に基づいて林相区分を行う林相区分ステップS1と、各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップS2と、前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップS3と、前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップS4と、前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップS5と、前記樹高から胸高直径を算出する胸高直径算出ステップS6と、前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップS7と、前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップS8と、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップS9と、森林全体の撮影年における単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップS10と、単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップS11と、単位面積当たりの炭素吸収量を二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップS12と、撮影年の単位面積当たりの炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップS13と、単位面積当たりの炭素貯蔵量を二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップS14とを有している。
【0019】
林相区分ステップS1および林相面積計測ステップS2は、対象森林の空中写真を写真測量図化機で実体視観察しながら森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階等の林相を区分する工程である。各林相区分は座標で特定する。天然林の区分面積は、図2に示すように、天然林の林相区分基準テーブル21に従って図面負荷量や施業を考慮して0.5ha以上とする。但し、崩壊や伐採の無立木地などはその限りでない。樹種群については1/5000の林況図の図面負荷量を考慮し、針葉樹の割合により4ランクで区分するが、区分した林相毎の標準地ではトドマツやエゾマツ、カンバ類やナラ類などを区分する。人工林の林相区分についても区分面積に関係なく、林班図などを用いて樹種および植栽年が異なる小班をさらに疎密度に区分する。
【0020】
また、標準地選定ステップS3は、林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する工程である。標準地としては地形が平均的で林縁や林道などの疎間面に接しない任意の地点を選定する。例えば、図3に示すように、三次元空中写真を利用して標準地の起点を決め、一辺が31.62mの正方形で面積を0.1haとする。
【0021】
つぎに、樹種識別ステップS4は、標準地内の樹種を識別する工程であり、図4に示すような樹種識別テーブル22を基準にして識別する。具体的には、樹冠の特徴としての頂上形状と枝・幹形態によって識別し、さらに白黒写真の場合、色調・キメ・陰影により区分し、カラー写真の場合、季節の色により区分する等、総合的に識別する。例えば、エゾマツの場合、頂上形状が「狭い円錐形で鈍角」、枝・幹形態が「枝は目立たない下向き」、判読要素として白黒写真の場合、色調は「濃灰」、キメは「粒状」、陰影は「濃い」、カラー写真の場合、夏秋は「濃緑」として判別する。あるいは、ブナの場合、頂上形状が「扇形」、枝・幹形態が「幹は分岐、枝は鋭角上向き」、判読要素として白黒写真の場合、色調は「灰白色」、キメは「滑らか」、陰影は「内部に影」、カラー写真の場合、夏は「緑」、秋は「黄色」として判別する。これらの判読は実体視でも可能であるが、樹冠の頂上形状や枝・幹の形態、写真の判読要素を記憶手段に記憶させておいてコンピュータで判読することも可能である。
【0022】
樹高測定ステップS5は、標準地内の樹木毎の位置座標(X、Y)を測定し、樹木の最も高い部分である樹冠高および直下の地上部である地際高の標高を計測し、樹冠高から地際高を引き算して樹高を算出する。
【0023】
そして、胸高直径算出ステップS6では、樹高・胸高直径回帰式を使って樹高に基づいて胸高直径を算出する。樹高と胸高直径との回帰式を計算するために、予め当該地域の現地調査を行い、苫小牧市字静川(静川地区)の3,844本をはじめ、19地域の総計11,767本の樹木データに基づいて樹種別の樹高と胸高直径との回帰式を算出した。樹種別の樹高・胸高直径回帰式テーブル23を図5に示す。図5の回帰式中、Xは樹高であり、Yは胸高直径である。「R−2乗値」は相関係数を二乗した値である寄与率を示し、データのばらつきのうち回帰で説明できる割合を示す。寄与率が高いほど回帰式によるデータの信頼性が大きいことになる。また、「予測値危険率」は、有意Fの確率を示しており、この値が0.05以下ならば回帰率は5%の有意水準で有意であると判断できる。
【0024】
たとえば、人工林のトドマツの場合、胸高直径Yは「Y=1.45X+7.52」により算出され、寄与率は89%で信頼性が高く、0.001%の有意水準で有意な値となる。また、天然林のトドマツの場合、胸高直径Yは「Y=2.78X+12.94」により算出され、寄与率は89%で信頼性が高く、0.001%の有意水準で有意な値となる。
【0025】
材積算出ステップS7では、標準地における樹種別の樹高と胸高直径とから単位面積当たりの立木幹材積を算出する工程である。具体的には、北海道立木幹材積表をもとに以下の式1を使って算出する。
(式1)
V=H×(FH+FD)/2×0.7854×(D/100)2
但し、Vは幹材積(m3)、Hは樹高(m)、Dは胸高直径(cm)、FHは樹高形数、FDは直径形数である。
【0026】
なお、樹高形数FHおよび直径形数FDは、下記の式によって求めた。
1.樹高形数(FH)の算出
針葉樹(カラマツ以外)FH=0.61−0.0055H+5.48e-1.025H
カラマツFH=0.435719+0.515867/H+2.481278/H2
広葉樹FH=0.515−0.003H+2.814e-0.55H
2.直径形数(FD)の算出
針葉樹(カラマツ以外)FD=0.50−0.0008D+0.421e-0.12D
カラマツFD=0.439004+0.916461/D−0.073809/D2
広葉樹FD=0.48−0.00066D+1.216e-0.405D
【0027】
そして、林相立木幹材積算出ステップS8において、単位面積当たりの立木幹材積に林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める。
【0028】
つづいて、バイオマス蓄積量算出ステップS9は、算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求める工程である。バイオマス係数とは、樹木の幹の体積を根や枝などのすべてを含めた体積に直し、乾燥時の重さに換算する係数である。例えば図6に示すように、北海道立木幹材積表において樹種別の枝条材積の樹幹材積に対する百分率から求められる。このようにして算出した林相毎の立木幹材積を総和することによって森林全体の撮影年におけるバイオマス蓄積量が求められる。
【0029】
また、単年成長量算出ステップS10は、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と、期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める工程である。具体的には以下の式2により算出する。
(式2)
G=(Ae−Ab)/T
但し、Gは単年のha当たりの成長量(t/ha/yr)、Aeは期末のha当たりのバイオマス蓄積量(t/ha)、Abは期首のha当たりのバイオマス蓄積量(t/ha)、Tは期間(yr)である。
【0030】
炭素吸収量算出ステップS11は、単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する工程であり、二酸化炭素吸収量換算ステップS12は、算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する工程である。
【0031】
また、炭素貯蔵量算出ステップS13は、撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量に、炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する工程であり、二酸化炭素貯蔵量換算ステップS14では、算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する工程である。
【0032】
つぎに、前述した森林資源調査方法を実現するための森林資源調査装置1について説明する。図7は、本実施形態の森林資源調査装置1の全体構成を示すブロック図である。本実施形態の森林資源調査装置1は、図7に示すように、主として、記憶手段2と、林相区分設定手段3と、林相面積計測手段4と、標準地選定手段5と、樹種識別手段6と、樹高測定手段7と、胸高直径算出手段8と、材積算出手段9と、林相立木幹材積算出手段10と、バイオマス蓄積量算出手段11と、単年成長量算出手段12と、炭素吸収量算出手段13と、二酸化炭素吸収量換算手段14と、炭素貯蔵量算出手段15と、二酸化炭素貯蔵量換算手段16と、入力手段17と、出力手段18とを有している。
【0033】
各構成についてより詳細に説明すると、記憶手段2は、ハードディスク等から構成されており、本装置の各手段を実行するための森林資源調査プログラムや各種のデータ、たとえば調査対象森林の三次元空中写真データや林相座標、林相面積、標準地座標等を記憶する役割を果たすものである。また、記憶手段2は、図2に示す林相区分基準テーブル21、図4に示す樹種識別テーブル22、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23、樹種別のバイオマス係数テーブル24を有している。
【0034】
図2に示す林相区分基準テーブル21には、樹種群、疎密度、および樹高階の区分がなされており、それぞれの区分基準として、樹種群は針葉樹の割合が設定されており、疎密度は樹冠の対地被覆度が設定されており、樹高階は上層木の平均樹高が設定されている。これらの基準によって、例えば、「針葉樹林・密林・高木層」のように林相が区分される。
【0035】
また、図4に示す樹種識別テーブル22には、前述したように、樹種の識別基準が記憶されており、例えば樹冠の特徴として頂上形状と枝・幹形態、判読要素として白黒写真の場合には色調・キメ・陰影が設定され、カラー写真の場合には夏と秋の色彩が設定されている。これにより例えば、三次元空中写真がカラー写真の場合、頂上形状が卵状円錐形であって、枝が目立って突出しておらず、黒緑であれば、樹種は「杉」であると判断される。
【0036】
また、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23には、人工林と天然林について、樹種毎の樹高と胸高直径との回帰式データが記憶されており、バイオマス係数テーブル24には、樹種毎のバイオマス係数データが記憶されている。
【0037】
つぎに、林相区分設定手段3について説明する。林相区分設定手段3は、写真測量図化機等により作成された3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階等のいわゆる林相区分を判別して設定するものである。具体的には、図2に示すような林相区分基準テーブル21に基づいて、樹種群、疎密度および樹高階が識別されて0.5ha以上の面積をもって区分し、3次元空中写真データ上で座標点を特定する。
【0038】
林相面積計測手段4は、林相区分設定手段3によって設定された各林相の座標点から面積を計測し、記憶手段2に記憶するようになっている。また、標準地選定手段5は、標準地選定ステップS3で説明したとおり、林相を代表する平均的な領域を正方形の起点を座標で設定することにより0.1ha面積の標準地を選定するようになっている。
【0039】
また、樹種識別手段6は、図4に示す樹種識別テーブル22の識別データに基づいて各林相の標準地内における樹種を識別するものであり、各標準地に樹種を対応付けて記憶手段2に記憶するようになっている。
【0040】
樹高測定手段7は、3次元空中写真に基づいて、樹木毎に、当該樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出する。樹冠高の位置および地際高の位置はユーザが3次元空中写真を実体視して設定してもよいし、予め樹冠および地際の画像特徴を登録しておいて画像分析によって自動的に抽出するようにしてもよい。
【0041】
胸高直径算出手段8は、算出した樹高を樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出するものである。本実施形態では、図5に示す樹高・胸高直径回帰式テーブル23から該当する樹種の回帰式を読み出し、樹高測定手段7によって算出された樹高を代入して所望の胸高直径を算出するようになっている。
【0042】
また、材積算出手段9は、算出した樹高および胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出するものである。具体的には、前述したように北海道立木幹材積表をもとに式1を読み出して樹高および胸高直径を代入して算出する。
【0043】
そして、林相立木幹材積算出手段10は、単位面積当たりの立木幹材積に、林相面積計測手段4によって求められた林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出するものである。
【0044】
そして、バイオマス蓄積量算出手段11は、算出した林相毎の立木幹材積に対し、図6に示すバイオマス係数デーブル24から該当樹種のバイオマス係数を読み出し、両者を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するようになっている。
【0045】
単年成長量算出手段12は、調査対象となっている森林の所定期間における単年当たりのバイオマス蓄積量を成長量として求めるものである。具体的には、前述した式1を使用し、対象測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と、期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算することにより求める。
【0046】
炭素吸収量算出手段13は、算出した単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出するものであり、二酸化炭素吸収量換算手段14は、その炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する演算部である。
【0047】
また、炭素貯蔵量算出手段15は、撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量に、炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出するものであり、二酸化炭素貯蔵量換算手段16は、その炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する演算部である。
【0048】
以上に説明した林相区分設定手段3乃至炭素貯蔵量算出手段16は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されており、所定の演算処理プログラムおよびデータを読み出して実行される。
【0049】
また、入力手段17はキーボードやマウス、入力ペンなどから構成されており、三次元空中写真をディスプレイ上に表示しつつ、林相を指定したり、標準地の座標を指定できるようになっている。また、出力手段18は、ディスプレイやプリンタなどから構成されている。
【0050】
以上のような本実施形態によれば、
1.空中写真を利用することにより現地調査を必要とせず、調査中の生命の危険を避け、データ処理のコストおよび処理時間を軽減することができる。
2.初心者でも短時間かつ高い精度で森林全体の調査を同等な基準で行える。
3.国際的な審査に耐えうる森林吸収源データ (森林簿蓄積量)の整備において、森林簿蓄積量の現実蓄積量に対する誤差率が小さいバイオマス蓄積量の推定が可能である等の効果を奏することができる。
【実施例1】
【0051】
つぎに、本実施形態の森林資源調査方法および森林資源調査装置1について具体的に調査した結果を実施例1として説明する。
【0052】
まず、林相区分ステップS1において、現地調査と写真測量図化機を使った空中写真計測により、撮影年の林相の分布状況を区分し、面積を計測し、図8乃至図11に示すような縮尺1/5000の林況図を作成した。各図の地域は、北海道栗沢町万字地区道有林野内79〜85林班を対象とした。また、使用した空中写真は、図8については、米軍が1947年9月29日に撮影した分解力20cmの写真であり、図9乃至図11は国土地理院がそれぞれ1966年7月14日、1977年10月20日、2003年11月2日に撮影した分解力10〜15cmの写真である。
【0053】
天然林の林相区分については、写真測量図化機での空中写真に基づいて、樹種群、疎密度、樹高階を識別・計測し、林相界線を3次元座標に数値化している。人工林の林相区分については、区分面積に関係なく、林班図などを用いて、樹種および植栽年が異なる小班をさらに疎密度に区分し数値化している。
【0054】
そして、各標準地について、立木の樹高と胸高直径から北海道立木幹材積表によって算出した0.1haの平均樹高、平均径級、幹材積と、樹種別のバイオマス係数に基づいてバイオマス蓄積量を算出した。その結果を図12に示す。
【0055】
また、標準地にあるすべての樹木に対して、針広のみ区分と樹種別区分によって算出したバイオマス蓄積量の差異を図13に示す。大きい樹冠を持つナラ類は、針広のみ区分の時に7.2トンであり、樹種別に区分するとき9.5トンであったため、バイオマス蓄積量の差異は2.3トンの違いが明らかになった。また、バイオマス蓄積量は樹種によるマイナス・プラスがあるが、合計してもその差異は1.1トン、樹種区分の針広区分に対する増加率は2.3%であることも明らかになった。
【実施例2】
【0056】
つぎに、本実施形態の実施例2について説明する。実施例2では、空中写真計測と現地実測との結果を比較するため、北海道野幌森林公園道有林野幌団地169林班における現地調査と写真測量図化機での空中写真計測により、2004年の毎木調査を行い、樹種、樹高、胸高直径、図14に示すような毎木位置分布図を作成した。使用した空中写真は、NPO法人EnVision環境保全事務所が2004年11月18日に撮影した縮尺約1/10000のものである。
【0057】
天然林樹種の本数および人工林樹種の本数をそれぞれ図15および図16に示す。現地実測では、現地で測った胸高直径110本と樹高36本であったが、そのうち2005年10月時点ではNo.69およびNo.91は枯損木であったため、検証できる木は108本となった。
【0058】
空中写真計測と現地実測の差は、図17乃至図20に示す。図17に示した現地樹高は現地で実測した胸高直径から回帰式で求めた。また、図21および図22には、樹高と胸高直径から立木幹材積を算出した値も含め結果を表に示した。なお、材積誤差率(%)は、空中写真計測蓄積量の現地実測蓄積量に対する誤差率である。
(式3)
材積誤差率(%)
=|現地実測材積−空中写真計測材積|/{(現地実測材積+空中写真計測材積)/2}
【0059】
以上のような本実施例2によれば、トドマツ人工林の場合、36本の対象では、材積誤差率が0.4%であり、108本対象では、誤差率が1.9%となり、極めて誤差率の小さい結果が得られることがわかる。また、天然林の場合、材積誤差率は8.3%であり、こちらも誤差率の小さい結果が得られることがわかる。
【0060】
なお、本発明に係る森林資源調査方法および森林資源調査装置は、前述した実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0061】
例えば、本実施形態の森林資源調査装置は、構造上、空中写真図化機と一体型あるいは別体型のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る森林資源調査方法の実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】本実施形態における天然林の林相区分基準テーブルを示す図である。
【図3】本実施形態における標準地の位置分布の一例を示す図である。
【図4】本実施形態における樹種識別テーブルを示す図である。
【図5】本実施形態における樹種別の樹高・胸高直径回帰式テーブルを示す図である。
【図6】本実施形態における樹種別のバイオマス係数テーブルを示す図である。
【図7】本発明に係る森林資源調査装置の実施形態を示すブロック構成図である。
【図8】実施例1の林相区分の一例を示す1947年の空中写真に基づく林況図である。
【図9】実施例1の林相区分の一例を示す1966年の空中写真に基づく林況図である。
【図10】実施例1の林相区分の一例を示す1977年の空中写真に基づく林況図である。
【図11】実施例1の林相区分の一例を示す2003年の空中写真に基づく林況図である。
【図12】実施例1で求めた各小班における樹種を区分した二酸化炭素吸収量・貯蔵量等の算出結果を示す表である。
【図13】実施例1における針広区分と樹種区分のバイオマス蓄積量の差異を示す表である。
【図14】実施例2で求めた毎木位置分布図である。
【図15】実施例2において調査対象とした天然林の樹種の本数を示す表である。
【図16】実施例2において調査対象とした人工林の樹種の本数を示す表である。
【図17】実施例2において空中写真計測と現地実測との樹高の差を示すグラフ(36本対象)である。
【図18】実施例2において空中写真計測と現地実測との胸高直径の差を示すグラフ(36本対象)である。
【図19】実施例2において空中写真計測と現地実測との樹高の差を示すグラフ(108本対象)である。
【図20】実施例2において空中写真計測と現地実測との胸高直径の差を示すグラフ(108本対象)である。
【図21】実施例2においてトドマツ人工林の空中写真計測と現地実測との結果を比較した表である。
【図22】実施例2においてトドマツ天然林の空中写真計測と現地実測との結果を比較した表である。
【符号の説明】
【0063】
1 森林資源調査装置
2 記憶手段
3 林相区分設定手段
4 林相面積計測手段
5 標準地選定手段
6 樹種識別手段
7 樹高測定手段
8 胸高直径算出手段
9 材積算出手段
10 林相立木幹材積算出手段
11 バイオマス蓄積量算出手段
12 単年成長量算出手段
13 炭素吸収量算出手段
14 二酸化炭素吸収量換算手段
15 炭素貯蔵量算出手段
16 二酸化炭素貯蔵量換算手段
17 入力手段
18 出力手段
21 林相区分基準テーブル
22 樹種識別テーブル
23 樹高・胸高直径回帰式テーブル
24 バイオマス係数テーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階をもとに林相区分を行う林相区分ステップと、
区分された前記各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップと、
前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップと、
前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップと、
前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップと、
前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出ステップと、
前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップと、
前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップと、
算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項2】
請求項1において、前記樹高測定ステップでは、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項3】
請求項1において、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップと、
前記単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップと、
算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項4】
請求項1において、バイオマス蓄積量算出ステップで撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を求めて、これに炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップと、
算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項5】
写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階の違いを判別して林相区分を行う林相区分設定手段と、
区分された各林相毎の面積を計測する林相面積計測手段と、
前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定手段と、
前記標準地内の樹種を識別する樹種識別手段と、
前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定手段と、
前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出手段と、
前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出手段と、
前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出する林相立木幹材積算出手段と、
算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するバイオマス蓄積量算出手段と
を有することを特徴とする森林資源調査装置。
【請求項6】
請求項5において、前記樹高測定手段は、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することを特徴とする森林資源調査装置。
【請求項1】
写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階をもとに林相区分を行う林相区分ステップと、
区分された前記各林相毎の面積を計測する林相面積計測ステップと、
前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定ステップと、
前記標準地内の樹種を識別する樹種識別ステップと、
前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定ステップと、
前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出ステップと、
前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出ステップと、
前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を求める林相立木幹材積算出ステップと、
算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を求めるバイオマス蓄積量算出ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項2】
請求項1において、前記樹高測定ステップでは、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項3】
請求項1において、所定の測定期間における期末の単位面積当たりのバイオマス蓄積量と期首の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を算出し、その差を求めて当該測定期間で割り算し、単年の単位面積当たりの成長量を求める単年成長量算出ステップと、
前記単年の単位面積当たりの成長量に炭素含有率を乗じて単年の単位面積当たりの炭素吸収量を算出する炭素吸収量算出ステップと、
算出した炭素吸収量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に換算する二酸化炭素吸収量換算ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項4】
請求項1において、バイオマス蓄積量算出ステップで撮影年の単位面積当たりのバイオマス蓄積量を求めて、これに炭素含有率を乗じて炭素貯蔵量を算出する炭素貯蔵量算出ステップと、
算出した炭素貯蔵量に「44/12」を乗じて単位面積当たりの二酸化炭素貯蔵量に換算する二酸化炭素貯蔵量換算ステップと
を有することを特徴とする森林資源調査方法。
【請求項5】
写真測量図化機等により作成した3次元空中写真に基づいて森林を構成する樹種、林冠の疎密度、樹高階の違いを判別して林相区分を行う林相区分設定手段と、
区分された各林相毎の面積を計測する林相面積計測手段と、
前記林相毎に当該林相を代表する平均的な標準地を一定面積で選定する標準地選定手段と、
前記標準地内の樹種を識別する樹種識別手段と、
前記標準地内の樹木の樹高を測定する樹高測定手段と、
前記樹高を所定の樹高・胸高直径回帰式に代入して胸高直径を算出する胸高直径算出手段と、
前記樹高および前記胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出する材積算出手段と、
前記単位面積当たりの立木幹材積に前記林相面積を乗じて当該林相内の立木幹材積を算出する林相立木幹材積算出手段と、
算出した林相毎の立木幹材積に、樹種別の樹幹材積に対する枝条材積の百分率から得られたバイオマス係数を乗じて当該林相のバイオマス蓄積量を算出するバイオマス蓄積量算出手段と
を有することを特徴とする森林資源調査装置。
【請求項6】
請求項5において、前記樹高測定手段は、三次元空中写真に基づいて樹木の最も高い部分である樹冠高を計測するとともに、直下の地上部である地際高の標高を計測し、両者の差を樹高として算出することを特徴とする森林資源調査装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図21】
【図22】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−46837(P2008−46837A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221438(P2006−221438)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【特許番号】特許第3865764号(P3865764)
【特許公報発行日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(506278680)アルスマエヤ株式会社 (1)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【特許番号】特許第3865764号(P3865764)
【特許公報発行日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(506278680)アルスマエヤ株式会社 (1)
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