説明

椀型パッド

【課題】通気性、形状安定性、クッション性、耐洗濯性に加え、見栄え、着用感に優れ、黄変化することもない椀型パッドの提供を目的とする。
【解決手段】不織布11と、該不織布11より形状安定性が高い芯シート12とを積層して構成した椀型パッド1であって、前記芯シート12を、厚み方向に連通する空孔16を構成するとともに、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう、低融点成分19Aと該低融点成分19Aよりも融点が高い高融点成分19Bとからなる熱融着糸条14を用いて編織成し、前記熱融着糸条14同士の交差部分14Cにおける前記低融点成分19Aの融着により椀状に成形した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体にフィットさせて用いる、通気性、形状安定性、クッション性、耐洗濯性に優れたパッドに関し、例えば、ブラジャー用パッドなどの乳房を覆うための椀型のパッド(以下、「椀型パッド」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に当接させて用いるパッドとしては、従来より、発泡ウレタン製のもの、或いは、不織布製のものが種々使用されている。
【0003】
発泡ウレタン製のパッドは、反発弾性に優れ、型崩れし難いという特徴を有する反面で、通気性に乏しく、蒸れ感を伴うものであった。また、保水性に優れているが故に、例えば、水着に備えて使用した場合、着用者が水からあがった後も湿った状態の不快な着用感が継続することになる。また、洗濯後に渇きが遅いという難点も有していた。
【0004】
さらに、発泡ウレタン製のパッドは、黄変化や耐光劣化の難点も有する。このため、外観上、黄変が目立たないよう綿生地等で覆うなどの措置を施す手間を要し、このような措置を施しても時間とともに、発泡ウレタンに含まれる酸化剤が表面を覆った綿生地へと遷移し、綿生地自体が黄変化する事態もある等、黄変や耐光劣化の問題は、深刻であった。
【0005】
一方、不織布製のパッドは、通気性に優れ、蒸れ難いため心地のよい着用感を得ることができるとともに、発泡ウレタン製のように黄変することもないという特徴を有する。
【0006】
しかし、不織布製のパッドは、型崩れし易く、へたり易いため、使用とともにクッション性が劣るという難点を有していた。
【0007】
このような背景の下、これらウレタン製、不織布製のそれぞれのパッドに有する難点を解決するために下記特許文献1において「被服の製造方法」が提案されている。
【0008】
前記特許文献1における「被服の製造方法」で製造される肩パッドは、不織布と、芯シートとして用いるメッシュシートとの積層構造で構成されている。
【0009】
前記不織布は、肩パッドに複数枚備え、これら複数枚の不織布は、前記メッシュシートを間に挟んだ状態で積層される。
【0010】
前記メッシュシートは、ポリエステル繊維上に低融点ポリエステルを被覆した芯鞘構造の繊維で構成している。メッシュシートは、成形時の加熱により、繊維同士の交差部分が溶融し、熱融着シートとして形成することができる。熱融着シートは、繊維同士の交差部分が溶融後に冷却され、固着するため、高い形状安定性を発揮することができる。
【0011】
特許文献1に開示の「被服の製造方法」は、肩パットを不織布のみで形成した場合、形状安定性に劣るという課題を、上述したように熱融着シートで補強することによって解決することができるという発明である。
【0012】
ところで、図7(a)に示すように不織布103と該不織布103を補強するための芯シート104の積層構造で構成した上述した特許文献1に開示されるような肩パッド100は、図7(a)中、仮想線で示した平面形状から実線で示した横断面視凸レンズ型に成形して製造され、成形すると、肩のラインにフィットするよう湾曲した滑らかな横断面視凸レンズ型で構成することができる。
【0013】
そして、不織布103と芯シート104との積層構造で構成したものを、図7(a)に示すような横断面視凸レンズ型の肩パッド100としてではなく、図7(b)に示すような前記椀型パッド101に適用して構成する場合には、図7(b)中、仮想線で示した平面状から実線で示した椀状に成形する必要がある。
【0014】
ところが、このように成形すると、椀状にしたパッドの周縁部に皺や弛み102などの歪みが発生し、この形状で固定すると、周縁部に皺や弛み102などが残留してしまう。
【0015】
すなわち、肩パッド100、椀型パッド101はいずれも立体形状(3次元形状)であるが、肩パッド100のように、直交する2成分(図7(a)中のX成分、Y成分)のうち、いずれか一方の成分(例えば、図7(a)中のY成分)のみを湾曲させた比較的単純な立体形状に成形する場合には、上述した皺や弛み102が生じるおそれはないが、椀型パッド101のように直交する2成分(図7(b)中のX成分、Y成分)のそれぞれを湾曲させた立体形状に成形する場合には、特にパッドの周縁部には、皺や弛み102が残留するおそれが高くなる。
なお、図7は、従来の椀型パッド101を成形する際に生じる課題を説明するために皺や弛み102を強調して示した模式図であり、詳しくは、図7(a)は、従来の肩パッド100の構成説明図であり、図7(b)は、従来の椀型パッド101の構成説明図である。
【0016】
このような椀型パッドは、ブラジャー、ロングラインブラジャー、ボディスーツ、ブラキャミソール、ブラスリップ等の下着類や、レオタード、水着、イブニングドレス等のアウターウェア等の様々な女性用衣類に備えて用いられており、使用の際には、着用感、外観上の見栄えなどが非常に重要な要素となる。
【0017】
よって、皺や弛みなどが残留した椀型パッドを用いた場合、女性用衣類の着用時に衣類の外から凹凸が生じるなど、見た目が悪く、また、皺や弛みなどが肌に接触し、常に違和感を感じながら着用することになり、着用感にも悪影響を及ぼすという難点を有することになる。
【特許文献1】特開2005−314848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、この発明は、通気性、形状安定性、クッション性、耐洗濯性に加え、見栄え、着用感に優れ、黄変化することもない椀型パッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、不織布と、該不織布より形状安定性が高い芯シートとを積層して構成した椀型パッドであって、前記芯シートを、厚み方向に連通する空孔を構成するとともに、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう、低融点成分と該低融点成分よりも融点が高い高融点成分とからなる熱融着糸条を用いて編織成し、前記熱融着糸条同士の交差部分における前記低融点成分の融着により椀状に成形したことを特徴とする。
【0020】
上述したように、前記芯シートは、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう熱融着糸条で編織成することにより、成形時に面状から椀状へと変形するに応じて前記芯シートは柔軟に伸張し、椀状に構成した場合であっても、芯シートの特に外周部側に皺や弛みが生じることがない。
【0021】
よって、椀型パッドは、椀状に成形しても、表面に皺や弛みのない良好な見栄えで構成することができ、肌に違和感を感じることなく、快適な着用感を得ることができる。
【0022】
また、上述したように、前記芯シートは、前記空孔が構成されるよう前記熱融着糸条で編織成しているため、椀型パッドは、不織布の有する高い通気性を損なうことなく、優れた通気性を有して構成することができ、蒸れ感を伴うことなく、快適に使用することができる。
【0023】
さらに、不織布は、発泡ウレタンと比較して脱水性(乾燥性)に優れており、前記芯シートには、前記空孔が構成されている。
【0024】
これにより、椀型パッドは、洗濯後にも直ぐに乾燥させることができ、水着に備えた場合において、着用者が水からあがった後に濡れた状態が継続することもなく快適に着用することができる。
【0025】
また、前記構成により、椀型パッドは、形状安定性が低い不織布を芯シートにより補強することができ、全体として優れた形状安定性に保つことができる。
【0026】
よって、椀型パッドは、使用とともに不織布が型崩れしたり、へたることがなく、優れたクッション性に保つことができる。
【0027】
さらに、椀型パッドは、発泡ウレタンを備えていないため、黄変化することもない。
【0028】
前記熱融着糸条は、例えば、高融点成分を糸条の中心側に配し、低融点成分を糸条の外周側に配した芯鞘型の構造で構成することが好ましく、例えば、高融点成分を高融点成分繊維で構成し、低融点成分を低融点成分繊維で構成することができる。
【0029】
前記熱融着糸条は、上述した構成に限定せず、例えば、前記高融点成分繊維と前記低融点成分繊維とを複数備え、これらをランダムに絡み合わせて構成してもよい。
【0030】
或いは、熱融着糸条は、低融点成分をなす鞘成分と、高融点成分をなす芯成分とからなる熱融着性芯鞘型繊維を構成し、該熱融着性芯鞘型繊維を複数備えた構成であってもよい。
【0031】
低融点成分と高融点成分との組合せとしては、例えば、ポリエチレンとポリプロピレン、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンとナイロン、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンとナイロンといった組合せを挙げることができる。
【0032】
前記高融点成分は、前記低融点成分よりも25℃以上高い融点であることが好ましい。
【0033】
高融点成分と低融点成分の融点が25℃未満の組合せでは、熱溶融により高融点成分の機械的特性が損なわれるおそれがあるからである。
【0034】
この発明の態様として、前記芯シートをメッシュ状に構成することができる。
【0035】
このように前記芯シートをメッシュ状に構成すれば、芯シートは、空孔が全体にバランスよく配置した形状となるため、全体の形状安定性を確保しつつ、優れた通気性で構成することができる。
【0036】
またこの発明の態様として、前記芯シートを、前記熱融着糸条を絡み織りした織物構造で構成することができる。
【0037】
前記構成により、芯シートは、縦糸と横糸とを交互に織り合わせただけの平織りなどの他の織物構造と比較して伸縮性を備えることができる。
よって、前記芯シートは、面状から椀状へ成形する際に、この形状変化に対応するよう柔軟に伸張することができ、この状態で椀状に固定すれば、外周側部分に皺や弛みが生じることがなく優れた見栄えと、快適な着用感を得ることができる。
【0038】
さらに、絡み織りすることにより、前記熱融着糸条で構成される縦糸、横糸のうち、少なくとも一方の糸が他方の糸に絡まり合うため、織り目が壊れ難くなり、より一層、形状安定性、耐久性を向上させることができる。
【0039】
その他にも、芯シートは、前記熱融着糸条を絡み織りした構成に限らず、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう編織成した構成であれば、ラッセル編などの経編、丸編などの緯編などの他の伸縮性生地で構成することができる。
【0040】
またこの発明の態様として、前記不織布を構成する不織布構成繊維を、厚み方向に配した並列構造で構成することができる。
【0041】
前記構成により、不織布構成繊維を横方向へ配するよりも不織布のクッション性を向上させることができる。また、長期に亘って使用しても、より一層、へたり難く構成することができる。
【0042】
またこの発明の態様として、前記不織布を、前記前記芯シートよりも椀状の内層側に備えることができる。
【0043】
前記構成により、肌側に肌触りのよい不織布を配することができ、形状安定性の高い芯シートが直接、身体に接触しないよう配することができるため、快適な着用感を得ることができる。
【0044】
またこの発明の態様として、上述した椀型パッドの外面側を表地で被覆するとともに、内面側を裏地で被覆したブラジャー用パッドとして構成することができる。
上記構成により、内部の不織布と芯シートとを表地と裏地とで被覆することで、不織布と芯シートとの一体性に優れたブラジャー用パッドを構成することができる。
【0045】
また、不織布に積層する芯シートは、不織布の優れた通気性を損なうことなく形状安定性を補強することができるため、着用時に蒸れ感を伴わず、凹凸のない滑らかな形状でバストにフィットするため、快適に着用することができ、また、外観上もバストを美しく見せることができる。
【0046】
またこの発明の態様として、ブラジャー用パッドは、周縁部に、前記不織布と前記芯シートとを一体に縫製する縫製部を形成することが好ましい。
【0047】
前記構成により、長期に亘って使用しても表地や裏地が剥離することなく、耐洗濯性、耐久性を格段に向上させることができる。
【0048】
椀型パッドは、このようにブラジャー用パッドとして構成するに限らず、ボディスーツ、ブラキャミソール、ブラスリップ等の下着類や、レオタード、水着、イブニングドレス等のアウターウェア等の衣類のバスト部分に取り付けるパッドとして構成してもよく、さらに、衣類のバスト部分に取り付けて乳房を覆うためのパッドに限らず、椀状であれば、他の身体部位を覆うパッドとして構成してもよい。
【発明の効果】
【0049】
本発明は、通気性、形状安定性、クッション性、耐洗濯性に加え、見栄え、着用感に優れ、黄変化することもない椀型パッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態のブラジャー用パッド1は、図1から図5に示すように形成している。
図1は、ブラジャー用パッド1の外観図であり、図2は、ブラジャー用パッド1を取り付けたブラジャー50の正面図である。図3は、ブラジャー用パッド1の幅方向の中間部分の縦断面図であり、図4は、図3の領域Xの拡大断面図である。図5は、メッシュ状芯地12の一部拡大正面図である。
【0051】
前記ブラジャー用パッド1は、図1、図3に示すように略椀型形状(カップ型形状)で形成し、図2に示すようなブラジャー50の左右のカップ50A,50Bに装着して用いることができる。
【0052】
さらに、図3、図4に示すように、前記ブラジャー用パッド1は、2枚の不織布11とメッシュ状芯地12の積層構造で構成している。前記ブラジャー用パッド1は、2枚の不織布11のそれぞれを椀形状の外側、内側(肌側)に配して外側不織布層11o、内側不織布層11iを形成するとともに、外側不織布層11oと内側不織布層11iとの間にメッシュ状芯地12を配した3層構造で構成している。
【0053】
さらに、前記ブラジャー用パッド1の外面側(表面側)、内面側(裏面側)は、それぞれ表地17oと裏地17iとで被覆し、端部処理を施している。端部処理では、表地17oと裏地17iとの周縁部1aを一体に縫製し、該周縁部1aに縫製部13を形成している。
【0054】
前記不織布11を構成する不織布構成繊維15は、図4に示すように、厚み方向に配した並列構造で構成している。
【0055】
前記不織布11は、見掛け密度(空隙を含めた密度)が目安として0.018〜0.030g/cm、見掛け厚みが3〜20mm程度の範囲内のものを用いている。
【0056】
また、不織布構成繊維15としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アクリロニトリル繊維、ナイロン繊維、木綿、羊毛、レーヨンなどを用いることができ、嵩高性や弾力性を与えるために、倦縮繊維を使用するのが好ましく、長繊維、短繊維のうち短繊維を使用するのが、好ましい。
【0057】
不織布構成繊維15には、良好な通気性と反発性が得られるため中空繊維を用いてもよく、或いは、加熱時間や加熱温度に応じて反発力を変化させて所望の反発力を得られるよう繊維自体に低融点成分と高融点成分とを有する熱融着性芯鞘型繊維を用いてもよい。
【0058】
不織布構成繊維15に前記熱融着性芯鞘型繊維を用いる場合は、鞘成分として、例えば、ポリエステル共重合体、ポリアミド共重合体やポリエチレンなどを挙げることができ、芯成分として、通常よく用いられるポリエステル、ポリアミドを挙げることができる。
【0059】
また、前記メッシュ状芯地12は、図5に示すように、熱融着糸条14同士の間に空孔16が構成されうよう熱融着糸条14で編織成している。
【0060】
前記熱融着糸条14は、鞘成分を構成する低融点繊維19A(鞘繊維)と、芯成分を構成する高融点繊維19B(芯繊維)とからなる2層構造で構成している(図4参照)。高融点繊維19Bは、低融点繊維19Aよりも25℃以上高い融点を有して構成している。
【0061】
例えば、高融点繊維19Bと低融点繊維19Aの組合せとしては、ポリプロピレンとポリエチレンとの組合せを挙げることができる。
【0062】
また、熱融着糸条14には、高融点繊維19B、低融点繊維19Aの他にも、熱融着性芯鞘型繊維、或いは、通常の繊維を含んでもよい。
但し、高融点繊維19B、低融点繊維19Aの含有量がメッシュ状芯地12の総重量の20重量%以上であることが好ましい。20重量%以下であれば、縦糸14Xと横糸14Yの交差部分14Cの融着性が弱くなり形状安定性に難点が生じるからである。
【0063】
また、メッシュ状芯地12は、図4、図5に示すように、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう、熱融着糸条14の絡み織りによりメッシュ状の織物構造で構成している。絡み織りは、縦糸14X、横糸14Yのうち、一方の糸、例えば、横糸14Yを2本セットで備え、これら2本の糸14Y,14Yで交差する他方の糸である縦糸14Xを固定するよう相互に絡ませながら配していく公知の織り方である。
【0064】
熱融着糸条14は、縦糸群14X…、或いは、横糸群14Y…の全部、或いは、その一部として使用することができる。
【0065】
また、メッシュ状芯地12は、全体をメッシュ状(格子状)に構成することで、複数の空孔16が面全体に略等分配され、全体の通気性、形状安定性のバランスを確保している(図5参照)。
【0066】
詳しくは、メッシュ状芯地12の開口率は、15%〜85%の範囲内で設定することが好ましく、より好ましくは、40%〜60%で設定することが好ましい。
開口率が15%未満になると、メッシュ状芯地12の密度が高くなり、通気性が低下し、優れた通気性を有する不織布11の特徴を損なうことになるからである。
【0067】
開口率が85%を越えると、形状安定性、耐洗濯性が低下し、不織布11を補強する機能を果たすことができないからである。
なお、開口率とは、メッシュ状芯地12の面積中に占める空孔16のトータル面積を百分率で表したものである。
【0068】
上述したブラジャー用パッド1の製法は、特に限定しないが、例えば、メッシュ状芯地12を構成する織物構造を、水浸漬し、該織物構造の縦糸14Xと横糸14Yとの交差部分14Cにおける低融点繊維19A同士を、スチームプレスで溶融させることによりメッシュ状芯地12を構成し、その後で、金型で椀状に成形することができる。或いは、加熱成形により、織物構造の交差部分14Cにおける低融点繊維19A同士の融着と椀状への成形を同時に行なってもよい。
【0069】
いずれの製法の場合も、成型金型に挿入し椀状に加熱成形する際に、ブラジャー用パッド1の周縁部1aに皺や弛みが発生する場合、加熱成形により低融点繊維19Aが溶融することで、織り目がずれることで、多少であれば、これら皺や弛み102(図7(b)参照)の発生を回避することができる。
しかし、このような織り目のずれだけでは、皺や弛みを完全には解消することができず、また、織目がずれすぎると、均一な厚み、メッシュ地を有したメッシュ状芯地12を得ることができないといった問題が発生する。
【0070】
これに対して、本実施形態のブラジャー用パッド1は、メッシュ状芯地12を、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう熱融着糸条14で絡み織りして構成しているため、メッシュ状芯地12は、単に平織りした織物構造とは異なり、面状から椀状へと変形するに応じて伸張し、周縁部1aに皺や弛みのない状態で交差部分14C(図5参照)を融着(固定)することができる。
【0071】
よって、ブラジャー用パッド1は、図1、図3に示すように、椀状に成形しても、表面に皺や弛みのない良好な見栄えで構成することができ、凹凸のない滑らかな形状でバストにフィットするため、快適に着用することができる。加えて、外観上もバストを美しく見せることができる。
【0072】
さらに、上述したブラジャー用パッド1は、その他にも以下のように様々な作用効果を奏することができる。
ブラジャー用パッド1は、メッシュ状芯地12を絡み織りで構成することにより、縦糸14X、横糸14Yのうち、少なくとも一方の糸が他方の糸に螺旋状に絡まり合うため、接着剤等を併用しなくても、丸洗いしても織目が壊れ難くなり、単に平織りにより構成したメッシュ状芯地と比較して、より一層、形状安定性や、耐洗濯性を向上させることができる。
【0073】
よって、ブラジャー用パッド1は、形状安定性が低い不織布11をメッシュ状芯地12により補強することができ、使用とともに不織布11が型崩れしたり、へたることがなく不織布11の優れたクッション性を保つことができる。
【0074】
また、上述したように、メッシュ状芯地12は、面全体に複数の空孔16が配されるようメッシュ状に構成しているため、不織布11と重ね合わせても該不織布11の有する優れた通気性を損なうことがない。よって、蒸れ感を伴うことなく、快適に着用することができる。
【0075】
さらに、不織布11は、発泡ウレタンと比較して脱水性(乾燥性)に優れており、メッシュ状芯地12にも、上述したように複数の空孔16が構成されているため、脱水性に優れている。
【0076】
これにより、ブラジャー用パッド1は、洗濯後にも直ぐに乾燥させることができ、水着に備えた場合において、着用者が水からあがった後に濡れた状態が継続し、ベタつき感が継続することもなく略乾いた快適な状態で着用することができる。
【0077】
さらに、ブラジャー用パッド1は、通気性に優れたメッシュ状芯地12と不織布11との組み合わせにより、全体を軽量で構成することができ、また、発泡ウレタンを備えていないため、黄変化することもない。
【0078】
その他にも、ブラジャー用パッド1は、内側不織布層11i、及び、外側不織布層11oを、厚み方向に配した並列構造で構成した不織布構成繊維15で構成しているため、内側不織布層11i、外側不織布層11oのクッション性を向上させることができる。よって、長期に亘って使用しても、より一層、へたり難く構成することができる。
【0079】
また、ブラジャー用パッド1は、メッシュ状芯地12よりも椀状の内側(肌側)へ内側不織布層11iを配した構造であるため、肌触りのよい不織布11が身体にフィットするとともに、形状安定性の高いメッシュ状芯地12が直接、身体に接触しないような配置とすることができ、快適な着用感を得ることができる。
【0080】
また、ブラジャー用パッド1は、周縁部1aに縫製部13を構成しているため、内側不織布層11i、外側不織布層11o、及び、メッシュ状芯地12の一体性を保つことができ、表地17oや裏地17iが剥離することなく、特に耐洗濯性を格段に向上させることができる。
【0081】
以上、本発明の一実施形態であるブラジャー用パッド1に詳述したが、続いて、本発明のブラジャー用パッドの性能を検証するために行った性能評価試験について説明する。
本発明のブラジャー用パッドの一実施例として以下に示すような実施例1のブラジャー用パッド1(以下、「実施例1のパッド1」という。)を製作した。
【0082】
なお、以下で説明するブラジャー用パッドの構成のうち、上述した第一実施形態におけるブラジャー用パッド1と同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0083】
内側不織布層11i、外側不織布層11oは、いずれも、厚み方向に配した並列構造の不織布構成繊維15で構成し、該不織布構成繊維15は、中空率30%のポリエステル短繊維と、低融点繊維19A、及び、高融点繊維19Bとを8:2の混合率で構成している。
【0084】
メッシュ状芯地12は、高融点繊維19Bがポリエステル、低融点繊維19Aがポリエチレンからなる熱融着糸条14で構成し、熱融着糸条14は、高融点繊維19Bの外周側に低融点繊維19Aを被覆するよう構成している。
【0085】
メッシュ状芯地12は、前記熱融着糸条14によって構成される縦糸14Xと横糸14Yとで上述した絡み織りによりメッシュ状に構成している。メッシュ状芯地12は、開口率35%、開口面積が2.25mm/個の網目で構成し、縦糸14Xと横糸14Yとの交差部分14Cは、十分に融着させている(図5参照)。
【0086】
本試験では、実施例1のパッド1の「通気性」、「形状安定性」、「耐洗濯性」の性能評価を行なった。
【0087】
また、本試験において実施例1のパッド1の比較対象として用いる比較例1,2のブラジャー用パッドを製作した。
比較例1のブラジャー用パッド(以下、「比較例1のウレタン製パッド」という。)は、メッシュ状芯地12、及び、不織布11層を備えず、ウレタン層のみを備えたウレタン製のパッドであり、比較例2のブラジャー用パッド(以下、「比較例2の不織布製パッド」という。)は、メッシュ状芯地12を備えず、繊維の並びが横方向であるいわゆる横型不織布で形成した不織布層のみを備えた不織布製のパッドである。
実施例1、比較例1,2の各パッドの「通気性」を示す通気抵抗、及び、「形状安定性」を示す反発弾性率は、表1に示すような結果となった。
【0088】
【表1】

「通気性」に着目すると、実施例1のパッド1は、表1に示すように、通気抵抗が比較例1のウレタン製パッドの値(0.342)に対して格段に低い値(0.119)となり、また、比較例2の不織布製パッドの値(0.161)よりも僅かであるが低くなった。
【0089】
これらの結果より、実施例1のパッド1は、優れた通気性で構成することができることを実証できた。すなわち、実施例1のパッド1は、複数の空孔16を有したメッシュ状芯地12を備えることにより、全体としてウレタンよりも優れた不織布の通気性と同等、或いは、それ以上の通気性で構成することが実証できた。
【0090】
なお、通気抵抗は、各パッドに対して略直交方向の定流量の空気を送り、通気性試験機を用いて測定した圧力損失の値をもとに算出した。
【0091】
続いて「形状安定性」に着目すると、実施例1のパッド1は、表1に示すように、反発弾性率が比較例1のウレタン製パッドの値(40.730)、及び、比較例2の不織布製パッドの値(18.510)よりも高い値(72.960)となり、特に比較例2の不織布製パッドよりも格段に反発弾性率が高くなった。
【0092】
これらの結果より、実施例1のパッド1は、絡み織りで構成したメッシュ状芯地12を備えることで、優れた形状安定性を有し、形状安定性の低い不織布11をしっかりと補強できることを実証することができた。
【0093】
なお、反発弾性率は、各パッドの端部を片持ち状態で支持し、自由端側の部分に、パッドの突出方向に対して鉛直下方向にパルス状の負荷を加え、このときのパッドの撓み量に対してのパッドの自由端側部分の最下点からの復元量を測定することにより行なった。
上述したパルス状の負荷は、100gf/cmの荷重を0.05cm/sの速度で加えた。
【0094】
続いて実施例1、比較例1の各パッドの「耐洗濯性」は、表2(a),(b)に示すような結果となった。
【0095】
耐洗濯性を評価するための洗濯試験条件は、JIS L−0217 103法に準ずるものとし、本試験では、洗濯を10回、30回、50回行なった各回後の外観変化を基に評価を行った。
【0096】
評価結果は、表2に示すとおりである。
また、本試験では、不織布は、一般に、ウレタンよりも形状安定性が低いことが自明であるため、不織布製パッドについての耐洗濯性については、省略した。
【0097】
このため、本試験では、表2(a)に示すように、実施例1のパッド1と比較例1のウレタン製パッドとの比較を行なった。但し、双方とも周縁部1aに、縫製部13を形成していない、すなわち端部処理を施していないものをサンプルとして用いて比較を行なった。
さらに、本試験では、表2(b)に示すように、実施例1のパッド1についてのみ、周縁部1aに縫製部13を形成した、すなわち端部処理を施したもの(図1参照)についても同時に評価を行なった。
【0098】
【表2】

なお、表2中、「○」は、手触りや見た目において、風合軟化、皺発生、剥離、ほつれが略皆無の状態を示し、「△」は、風合軟化、皺発生、剥離、ほつれが僅かに発生した状態を示し、「○」、「△」は、合格であることを示す。「×」は、完全に表地17oや裏地17iなどが剥離した状態を示し、不合格であることを示す。
【0099】
耐洗濯性については、表2(a)に示すように、比較例1のウレタン製パッドは、洗濯10回目での評価が「△」であり合格であったが、洗濯回数30回目以降の評価は、「×」で不合格となった。
これに対して、実施例1のパッド1は、洗濯10回目での評価は、ウレタン製パッドの場合と同じ「△」であり、洗濯30回目、50回目の評価についても、「△」で全て合格となった。
【0100】
また、端部処理を施した実施例1のパッド1について、上述したサンプルと同様の洗濯条件で耐洗濯性の評価試験を行なった結果、表2(b)に示すように、洗濯回数10回、30回、50回のすべてにおいて「○」となり、全て合格であった。
【0101】
以上より、実施例1のパッド1は、耐洗濯性に優れていることを実証することができた。
【0102】
また、本発明のブラジャー用パッドは、上述した実施形態に限定せず、その他にも様々な実施形態で構成することができる。
例えば、他の実施形態のブラジャー用パッド2は、図6に示すように、不織布層11Iは、内側のみに配し、メッシュ状芯地12は、最外層に配した構成で構成している。
この構成の場合、内側(肌側)に配した不織布層11Iは、上述した実施形態のブラジャー用パッド1に備えた内側不織布層11iと外側不織布層11oの厚みを合わせた厚み相当分を有して構成することができる。
【0103】
なお、図6は、他の実施形態におけるブラジャー用パッド2の幅方向の中間部分の縦断面図を示すとともに、図6中の領域Yの一部拡大図を示す。
【0104】
前記構成により、メッシュ状芯地12を肌側とは反対側の外側に配することができるとともに、充分な厚みを備えた不織布層11Iを胸にフィットさせることができるため、快適な着用感を得ることができる。
【0105】
またその他の実施形態にも、例えば、不織布11は、上述したように厚み方向に配した並列構造の不織布構成繊維15で構成するに限らず、例えば、ランダムに絡み合わせた一般的なもの、平面方向に配したものを複数積層させた横型不織布、或いは、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0106】
また、メッシュ状芯地12は、前記熱融着糸条14を絡み織りした構成に限らず、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう編織成した構成であれば、上述した絡み織りで構成するに限らず、例えば、ラッセル編みなど他の編地で構成するなど、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有する他の伸縮性生地で構成してもよい。
【0107】
上述した実施形態と、この発明の構成との対応において、メッシュ状芯地12は、芯シートに対応し、以下同様に、
低融点繊維19Aは、低融点成分に対応し、
高融点繊維19Bは、高融点成分にするも、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本実施形態におけるブラジャー用パッドの外観図。
【図2】本実施形態におけるブラジャー用パッドを取り付けるブラジャーの正面図。
【図3】本実施形態におけるブラジャー用パッドの縦断面図。
【図4】図3における領域Xの拡大図。
【図5】メッシュ状芯地の一部拡大正面図。
【図6】他の実施形態におけるブラジャー用パッドの一部拡大して示した縦断面図。
【図7】従来の肩パッドの構成説明図(a)、従来の椀型パッドの構成説明図(b)。
【符号の説明】
【0109】
1,2…ブラジャー用パッド
11…不織布
11i…内側不織布層
11I…不織布層
12…メッシュ状芯地
13…縫製部
14…熱融着糸条
14C…交差部分
15…不織布構成繊維
16…空孔
17o…表地
17i…裏地
19A…低融点繊維
19B…高融点繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、該不織布より形状安定性が高い芯シートとを積層して構成した椀型パッドであって、
前記芯シートを、
厚み方向に連通する空孔を構成するとともに、面状から椀状へと変形自在な伸縮性を有するよう、低融点成分と該低融点成分よりも融点が高い高融点成分とからなる熱融着糸条を用いて編織成し、
前記熱融着糸条同士の交差部分における前記低融点成分の融着により椀状に成形した
椀型パッド。
【請求項2】
前記芯シートをメッシュ状に構成した
請求項1に記載の椀型パッド。
【請求項3】
前記芯シートを、
前記熱融着糸条を絡み織りした織物構造で構成した
請求項1、又は、2に記載の椀型パッド。
【請求項4】
前記不織布を構成する不織布構成繊維を、
厚み方向に配した並列構造で構成した
請求項1から3のいずれかに記載の椀型パッド。
【請求項5】
前記不織布を前記前記芯シートよりも椀状の内層側に備えた
請求項1から4のいずれかに記載の椀型パッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の椀型パッドの外面側を表地で被覆するとともに、内面側を裏地で被覆して構成した
ブラジャー用パッド。
【請求項7】
周縁部に、前記不織布と前記芯シートとを一体に縫製する縫製部を形成した
請求項6に記載のブラジャー用パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−138523(P2010−138523A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316619(P2008−316619)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(503203638)トップマン工業株式会社 (3)
【出願人】(508366112)株式会社ミノウラ (1)
【Fターム(参考)】