説明

椅子

【課題】上下回動自在な肘掛けを備えた椅子において、軽量且つ簡素な構造により、肘掛けの円滑な回動を可能にすると共に、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止する。
【解決手段】椅子は、左右に延びる棒状の架設部材53を有する肘掛け50と、架設部材53の移動を案内するスライド溝56が形成された支持部材55と、弾性変形可能な弾性片80とを備える。弾性片80は、肘掛け50が垂直位置にあるときには、上端部82aによって架設部材53を保持する。弾性片80は、肘掛け50が水平位置と垂直位置との間にあるときには、架設部材53が中央部82bによって付勢されつつ中央部82b上を摺動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に回動自在な肘掛けを有し、浴室等にて好適に利用可能な椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者等が浴室内で使用する椅子等として、上下に回動可能な肘掛けを有する椅子がよく用いられている。このような椅子によれば、肘掛けを上方へ回動させることによって(言い換えると、肘掛けを跳ね上げることによって)、座部の側方を開放することができる。そのため、高齢者等にとって、座部に座る動作等が容易となる。また、浴室等の狭いスペースで利用される椅子では、非使用時には折り畳むことによってコンパクトにできることが好ましい。上下回動自在な肘掛けを有する椅子によれば、折り畳んだ際に肘掛けを回動させることにより、肘掛けが出っ張らないようにすることができ、コンパクトにすることができる。
【0003】
特許文献1には、そのような肘掛けを備えた椅子が開示されている。特許文献1に開示された椅子の肘掛けは、ヒンジピンを介して前脚および後脚に回動自在に支持されている。詳しくは、前脚は貫通孔が形成された固定板を備え、後脚は貫通孔が形成された後脚本体を備え、肘掛けは貫通孔が形成された肘掛け本体を備えている。肘掛け本体、固定板、および後脚本体は、それら貫通孔が左右に並ぶように並置される。それらの貫通孔には、ヒンジピンが挿通されている。これにより、肘掛け本体は、ヒンジピンを介して、前脚の固定板および後脚本体に回動自在に支持される。
【0004】
後脚本体には、側方に突出するストッパピンが設けられている。肘掛け本体の内面側には、上記ストッパピンがスライド自在に係合する円弧状のガイド溝が形成されている。このガイド溝によってストッパピンの移動範囲が規制され、その結果、肘掛けの回動範囲が規制されている。すなわち、ストッパピンがガイド溝の一端に位置するときには、肘掛けが略水平な位置(以下、水平位置と称する)となり、ストッパピンがガイド溝の他端に位置するときには、肘掛けが略垂直な位置(以下、垂直位置と称する)となり、肘掛けの回動範囲は水平位置と垂直位置との間で規制される。
【0005】
ガイド溝の一端側には、水平位置でストッパピンを保持する突起が設けられている。ストッパピンがこの突起を乗り越えてガイド溝の一端に移動すると、当該突起によりストッパピンの逆方向の移動が規制され、肘掛けは水平位置に保持される。ガイド溝の他端側には、垂直位置でストッパピンを保持する突起が設けられている。ストッパピンがこの突起を乗り越えてガイド溝の他端に移動すると、当該突起によりストッパピンの逆方向の移動が規制され、肘掛けは垂直位置に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−261328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記椅子では、肘掛け本体の装着位置にばらつきが生じたり、あるいは後脚本体の成形の精度が悪いと、ガイド溝とストッパピンとの相対位置にずれが生じやすい。その場合、ストッパピンが適正な位置で突起に保持されないことがある。その結果、例えば、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうおそれがあった。また、垂直位置と水平位置との間で肘掛けを円滑に回動させることができないおそれがあった。
【0008】
ここで、肘掛けが自然に倒れてしまうことを防止するために、傾倒防止用の特殊な構造を付加することが考えられる。また、肘掛けの円滑な回動を確保するために、他の特殊な構造を付加することが考えられる。しかし、軽量且つ簡素な構造が望まれる椅子、例えば浴室用椅子等では、重たい構造物や複雑な構造物を付加することは好ましくない。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上下回動自在な肘掛けを備えた椅子において、軽量且つ簡素な構造により、肘掛けの円滑な回動を可能にすると共に、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る椅子は、使用者が着座する座部と、前記座部を支持する脚部と、正面視において前記座部の側部よりも上方にて上向きに延びる棒状部と、左右方向に延びる軸部材を介して前記棒状部に上下回動自在に支持された肘掛けと、を備えた椅子である。前記肘掛けは、互いに左右方向に離間した左側板部および右側板部と、前記左側板部と前記右側板部とに架け渡された棒状の架設部材と、を有する。前記椅子は更に、弾性片を備える。前記弾性片は、前記棒状部に固定され、上端部と、段部を介して前記上端部の下方に位置する中央部と、前記中央部の下方に連続する下端部とを有し、前記上端部および前記下端部の少なくとも一方が前記棒状部に固定されずに片持ち支持された弾性変形可能なものである。前記弾性片は、前記肘掛けが略垂直の姿勢をとる垂直位置にあるときには、前記上端部によって前記架設部材を保持し、前記肘掛けが略水平の姿勢をとる水平位置と前記垂直位置との間にあるときには、前記架設部材が前記中央部によって付勢されつつ前記中央部上を摺動するように構成されている。
【0011】
上記椅子によれば、肘掛けを垂直位置にまで回動させると、架設部材が弾性片の段部を乗り上げ、弾性片の上端部によって保持される。そのため、架設部材の下方への移動は、上記段部によって規制される。したがって、肘掛けが自然に倒れてしまうことを防止することができる。肘掛けが垂直位置と水平位置との間を回動する際には、架設部材は、弾性片の中央部から付勢力を受けながら、中央部上を摺動する。この際、弾性片は弾性変形可能なので、肘掛けの回動は円滑に行われる。一方、架設部材は、弾性片の中央部からある程度の抵抗を受けるので、肘掛けを垂直位置から水平位置に移動させる際に、架設部材が急激に下方に移動することは防止される。したがって、肘掛けを垂直位置から水平位置に回動させる際に、肘掛けが急激に倒れてしまうことを抑制することができる。上記椅子によれば、軽量且つ簡素な構造により、肘掛けの円滑な回動を可能にすると共に、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止することができる。
【0012】
前記弾性片は、前記棒状部の前方に配置され、前記弾性片の前記中央部は、前方に突出するような湾曲形状に形成されていてもよい。
【0013】
このことにより、上述の作用効果を奏する弾性片を簡易に構成することができる。また、架設部材の移動をより円滑にすることができ、ひいては肘掛けの回動を更に円滑化することができる。
【0014】
前記弾性片の前記上端部は、後方斜め下向きに傾斜した傾斜面部からなっていてもよい。
【0015】
このことにより、肘掛けが垂直位置に移動したときに、架設部材を弾性片の上端部の上にしっかりと保持することができる。また、上端部は後方斜め下向きに傾斜しているので、架設部材が段部を乗り上げて中央部側に移動することは抑制される。したがって、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを、より一層抑制することができる。
【0016】
前記弾性片の片持ち支持された端部は、前記棒状部および前記支持部材から離間していてもよい。
【0017】
このことにより、弾性片が弾性変形しやすくなり、架設部材が弾性片の段部に乗り上げる動作および段部から乗り下がる動作を、より円滑化することができる。したがって、肘掛けを垂直位置から水平位置に回動させる際、または水平位置から垂直位置に回動させる際に、架設部材および支持部材に無理な応力がかかることを抑制することができる。よって、肘掛けの円滑な回動が可能となり、また、弾性片等の破損を防止することができる。
【0018】
前記椅子は更に、それぞれ前記架設部材と係合する略円弧状のスライド溝が形成された左側板および右側板を有し、前記棒状部に固定された支持部材を備えていてもよい。前記弾性片は、前記支持部材の左側板と右側板との間において前記棒状部に固定される。前記弾性片の前記中央部は、前記肘掛けが前記水平位置と前記垂直位置との間にあるときに、前記左側板および前記右側板のスライド溝の縁部と前記中央部との間に前記架設部材を挟むように前記架設部材を付勢するように構成されていてもよい。
【0019】
このことにより、肘掛けが垂直位置と水平位置との間を回動する際には、架設部材は、弾性片の中央部から付勢力を受け、支持部材の左側板および右側板のスライド溝の縁部と弾性片の中央部との間に挟まれながら、スライド溝内を移動する。架設部材の移動はスライド溝によって案内され、また、弾性片は弾性変形可能なので、肘掛けの回動は円滑に行われる。一方、架設部材はスライド溝の縁部と弾性片の中央部との間に挟まれるので、肘掛けを垂直位置から水平位置に移動させる際に、架設部材が急激に下方に移動することは防止される。したがって、肘掛けを垂直位置から水平位置に回動させる際に、肘掛けが急激に倒れてしまうことを抑制することができる。
【0020】
前記椅子は、前記棒状部と前記支持部材の左側板との間に配置された左側板と、前記棒状部と前記支持部材の右側板との間に配置された右側板とを有し、前記棒状部に固定された取付台を備え、前記取付台の左側板および右側板の外面は、平らな面に形成されていてもよい。
【0021】
このことにより、肘掛けに左右方向の荷重が加わっても、肘掛けは左右に傾きにくくなる。そのため、肘掛けを安定して回動させることができる。
【0022】
前記取付台は、前記棒状部から離間し且つ前記取付台の前記左側板と前記右側板とをつなぐ中央板を有し、前記弾性片は、片持ち支持されていない端部から延びる平板部を有し、前記平板部が前記中央板と前記棒状部との間に挿入されることによって前記棒状部に固定されていてもよい。
【0023】
このことにより、平板部を取付台の中央板と棒状部との間に挿入することにより、棒状部に対して弾性片を容易に取り付けることができる。したがって、前述の作用効果を奏する弾性片を簡易な構成によって設置することができる。
【0024】
前記椅子は、浴室内で使用される浴室用椅子であってもよい。
【0025】
浴室用椅子は、狭い浴室内で使用され、また、高齢者等が使用する場合が多いため、小型且つ軽量であることが求められる。上記椅子によれば、軽量且つ簡素な構造により、肘掛けの円滑な回動が可能であると共に、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止できるので、浴室用椅子として特に有用である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上下回動自在な肘掛けを備えた椅子において、軽量且つ簡素な構造により、肘掛けの円滑な回動を可能にすると共に、肘掛けが垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る椅子の正面図である。
【図2】実施形態に係る椅子の左側面図である。
【図3】実施形態に係る椅子の肘掛けを跳ね上げた状態の左側面図である。
【図4】実施形態に係る椅子の折り畳んだ状態の左側面図である。
【図5】肘掛け構造の分解斜視図である。
【図6】棒状部および取付台の斜視図である。
【図7】棒状部、取付台、および弾性片の斜視図である。
【図8】図1のVIII−VIII線断面図である。
【図9】肘掛けを垂直位置に移動させた状態の図8相当図である。
【図10】図2のX−X線断面図である。
【図11】変形例に係る弾性片の側面図である。
【図12】他の変形例に係る弾性片の側面図である。
【図13】他の変形例に係る弾性片の側面図である。
【図14】他の変形例に係る弾性片の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1は本実施形態に係る椅子1の正面図、図2は椅子1の左側面図である。本実施形態に係る椅子1は、主に高齢者や身体障害者等が浴室内でシャワーを浴びるとき等に利用される椅子であり、いわゆる浴室用椅子である。また、椅子1は、非使用時等には折り畳んでコンパクトにすることができる折り畳み式の椅子である(図4参照)。ただし、本発明に係る椅子は、浴室用椅子1に限定される訳ではなく、浴室以外の場所で使用される椅子であってもよいことは勿論である。また、本発明に係る椅子は、折り畳み式の椅子に限らず、折り畳むことのできない椅子であってもよい。
【0029】
以下の説明では、前、後、左、右は、椅子1に着座した者から見た前、後、左、右を言うものとする。図1および図2に示すように、椅子1は、第1フレーム10と、左右一対の第2フレーム21と、座部30と、背もたれ40と、左右一対の肘掛け50とを備えている。
【0030】
第1フレーム10は、左右一対の前脚部11と、各前脚部11の後端部から後方斜め上向きに延びる棒状部12と、左右の棒状部12の上端部同士を連結する連結部13とから構成されている。図2に示すように、前脚部11は、前後方向に延びる水平部11aと、水平部11aの前端部から前方斜め下向きに延びる内パイプ部11bと、内パイプ部11bが挿入された外パイプ部11cとを有している。外パイプ部11cの下端部には、滑りを防止するためのゴム脚5が嵌め込まれている。なお、第1フレーム10は、必ずしも水平部11aを備えていなくてもよい。内パイプ部11bと棒状部12とが連続していてもよい。本実施形態では、左右の内パイプ部11b、左右の水平部11a、左右の棒状部12、および連結部13は、一体的に形成されている。しかし、それらの一または二以上のものが別体に形成され、溶接等により接合されていてもよい。第1フレーム10の材料は特に限定される訳ではなく、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属、または合成樹脂等を好適に用いることができる。ここでは、第1フレーム10は金属製である。
【0031】
第2フレーム21は、後脚部を構成している。第2フレーム21は、前後方向に延びる水平部21aと、水平部21aの後端部から後方斜め下向きに延びる内パイプ部21bと、内パイプ部21bが挿入された外パイプ部21cとを有している。ただし、第2フレーム21は必ずしも水平部21aを備えている必要はなく、水平部21aは適宜省略することが可能である。第2フレーム21の材料も特に限定される訳ではなく、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属、または合成樹脂等を好適に用いることができる。本実施形態では、第2フレーム21は第1フレーム10と同様、金属製である。外パイプ部21cの下端部には、滑りを防止するためのゴム脚5が嵌め込まれている。
【0032】
第1フレーム10の水平部11aと第2フレーム21の水平部21aとは、水平軸61を介して連結されている。第2フレーム21は第1フレーム10に対し、水平軸61周りに回動可能に取り付けられている。図4に示すように、第1フレーム10と第2フレーム21とを水平軸61周りに回動させることにより、椅子1を折り畳むことができる。
【0033】
前脚部11は、外パイプ部11cに対する内パイプ部11bの挿入量を調整することにより、長さの調整が可能となっている。後脚部としての第2フレーム21も、外パイプ部21cに対する内パイプ部21bの挿入量を調整することにより、長さの調整が可能となっている。内パイプ部11bおよび外パイプ部11cと、内パイプ部21bおよび外パイプ部21cとは、ほぼ同一の構成を有している。そこで以下では、内パイプ部21bおよび外パイプ部21cの構成を説明し、内パイプ部11bおよび外パイプ部11cの構成の説明は省略する。
【0034】
図1に示すように、外パイプ部21cには、上下に並ぶ複数の孔26が形成されている。内パイプ部21bには、孔26と同程度の大きさの突起25が形成されている。突起25は図示しないばね等によって内パイプ部21bの側方に向かって付勢されているが、側方から押し付けることにより、内パイプ部21b内に埋没させることができる。外パイプ部21cに対する内パイプ部21bの挿入量を調整し、突起25と所望の孔26との位置を合わせた後、押し付けていた突起25を放すと、突起25は上記孔26に嵌り込む。これにより、内パイプ部21bを外パイプ部21cに固定することができる。このように、突起25と係合させる孔26を適宜選択することにより、後脚部としての第2フレーム21の長さを段階的に調整することができる。説明は省略するが、前脚部11についても同様である。前脚部11および後脚部(すなわち、第2フレーム21)の長さを変更することにより、使用者の体格に合わせて、座部30および肘掛け50の床面からの高さを調整することができる。
【0035】
図4に示すように、座部30は、回転軸62を介して、第2フレーム21の水平部21aの先端部分に取り付けられている。座部30は第2フレーム21に対して回動可能である。第1フレーム10の左右の水平部11aには、左右に延びるバー71およびバー73が架け渡されている。左右の第2フレーム21の水平部21aには、左右に延びるバー72が架け渡されている。座部30は、椅子1が折り畳まれた非使用時(図4参照)にはそれらのバー71,72,73から離反するが、使用時(図2参照)にはそれらのバー71,72,73に支持される。座部30は、それらのバー71,72,73を介して、第1フレーム10の水平部11aおよび第2フレーム21の水平部21aに支持される。
【0036】
図1に示すように、第1フレーム10の左右の棒状部12の上端部同士は、連結部13を介して接続されている。連結部13は、左右に延びるパイプ状に形成されている。背もたれ40は連結部13の前部に取り付けられている。ただし、連結部13は必ずしも必要ではなく、背もたれ40は適宜省略することができる。
【0037】
図1に示すように、棒状部12は、正面視において、座部30の側部よりも上方にて上向きに延びている。本実施形態では、棒状部12は後方斜め上向きに延びており、鉛直方向から傾いているが、棒状部12は鉛直方向に延びていてもよい。また、棒状部12は、前方斜め上向きに延びていてもよい。棒状部12は真っ直ぐに延びていてもよく、曲がっていてもよい。本実施形態では、棒状部12は中空状に形成されている。言い換えると、棒状部12はパイプによって形成されている。ただし、棒状部12は中実状であってもよい。棒状部12の断面形状は円形状に限らず、四角形状、六角形状等の他の形状であってもよい。
【0038】
肘掛け50は、棒状部12に上下回動可能に取り付けられている。すなわち、肘掛け50は回動式のものである。使用者が椅子1に座るときには、例えば図3に示すように、肘掛け50を上向きに回動させて跳ね上げることにより、座部30の側方を開放することができる。すなわち、肘掛け50を垂直位置に移動させることにより、座部30の側方を開放することができる。これにより、使用者は側方から座部30に容易に着座することができる。使用者が座部30に着座した後は、肘掛け50を逆方向に回動させることによって、図2に示すように、肘掛け50を略水平な位置に戻すことができる。このように、肘掛け50を水平位置に移動させることにより、使用者は両手を肘掛け50の上に置き、椅子1の上に安定して座ることができる。
【0039】
前述したように、本実施形態に係る椅子1は折り畳み可能な椅子である。図4に示すように、椅子1を折り畳んだ際、肘掛け50を跳ね上げることにより、肘掛け50が出っ張らないようにすることができる。そのため、椅子1は、コンパクトに収納することができる。また、コンパクトにすることができるので、容易に持ち運ぶことが可能となる。
【0040】
次に、肘掛け50と、肘掛け50を上下回動自在に支持する各部材とについて説明する。なお、以下では、肘掛け50と肘掛け50を上下回動自在に支持する各部材との全体を、便宜上、肘掛け構造と称することとする。
【0041】
図5に示すように、肘掛け50は、肘掛け本体51と、肘掛け本体51を支持する支持体52とからなっている。肘掛け本体51の根元部は左右に分岐し、互いに左右に離間する左側板51Lと右側板51Rとが形成されている。左側板51Lおよび右側板51Rには、左右方向に貫通する孔51aがそれぞれ形成されている。
【0042】
支持体52は、左側板52Lと、右側板52Rと、左側板52Lおよび右側板52Rの先端部をつなぐ天板52Bとから構成されている。これら左側板52Lと右側板52Rと天板52Bとは一体形成されている。ただし、左側板52Lと右側板52Rと天板52Bとは、互いに別体に形成され、組み合わされていてもよい。左側板52Lと右側板52Rとは左右に離間している。左側板52Lおよび右側板52Rには、左右方向に貫通する孔52aがそれぞれ形成されている。左側板52Lと右側板52Rとには、棒状体からなる架設部材53が架け渡されている。架設部材53は、孔52aの前方斜め下の位置にて左右方向に延びている。左側板52Lおよび右側板52Rの架設部材53よりも後方の位置には、段部54が設けられている。
【0043】
支持体52は、肘掛け本体51の内側に嵌め込まれ、肘掛け本体51に固定される。支持体52の天板52Bは、肘掛け本体51の下部に固定される。支持体52の左側板52Lは肘掛け本体51の左側板51Lの右方に配置され、支持体52の右側板52Rは肘掛け本体51の右側板51Rの左方に配置される。これら左側板51Lおよび左側板52Lによって、肘掛け50の左側板部が形成され、右側板51Rおよび右側板52Rによって、肘掛け50の右側板部が形成されている。
【0044】
なお、肘掛け50は、必ずしも肘掛け本体51および支持体52の2つの部材から構成されている必要はない。肘掛け50は、3つ以上の部材を組み合わせることによって構成されていてもよい。また、肘掛け50は、単一の部材によって構成されていてもよい。
【0045】
詳細は後述するが、棒状部12には取付台18(図6参照)が固定され、この取付台18の周囲には、樹脂製の支持部材55が取り付けられている。支持部材55は、肘掛け50を支持する部材であり、取付台18を介して棒状部12に固定されている。支持部材55は、左側板55Lと、右側板55R(図10参照)と、これら左側板55Lおよび右側板55Rを連結する中央板55Cとを有している。支持部材55は、棒状部12が左側板55Lと右側板55Rとの間に配置されるようにして、棒状部12に取り付けられる。左側板55Lおよび右側板55Rには、左右方向に貫通する孔55aがそれぞれ形成されている。
【0046】
また、左側板55Lおよび右側板55Rには、肘掛け50の架設部材53がスライド自在に係合するスライド溝56がそれぞれ形成されている。架設部材53がスライド溝56内をスライドすることにより、肘掛け50の回動が案内され、また、肘掛け50の所定量以上の回動が規制される。
【0047】
また、支持部材55には、左側板55Lおよび右側板55Rを貫通するストッパ57が設けられている。ストッパ57は、左側板55Lの左方および右側板55Rの右方に突出している。跳ね上げられた状態から肘掛け50を下方に回動させると、やがて支持体52の段部54がストッパ57と当接し、肘掛け50は水平位置に維持される。使用者が肘掛け50に加えた荷重は、支持体52の段部54およびストッパ57を介して棒状部12に支持される。
【0048】
次に、支持部材55の内部の構成について説明する。図6に示すように、棒状部12には、断面コ字状の取付台18が設けられている。取付台18は支持部材55を安定して取り付けるための部材であり、ひいては肘掛け50を安定して取り付けるためのものである。取付台18は、棒状部12に溶接されている。ただし、棒状部12に対する取付台18の固定態様は特に限定される訳ではない。取付台18は、棒状部12の左側に固定された左側板18Lと、棒状部12の右側に固定された右側板18Rと、左側板18Lと右側板18Rとの前端部同士に架け渡された中央板18Cとを備えている。左側板18Lおよび右側板18Rには、左右方向に貫通する孔18aがそれぞれ形成されている。
【0049】
図7に示すように、棒状部12の前方には、弾性片80が配置されている。弾性片80は、肘掛け80の架設部材53と係合することによって、肘掛け50を垂直位置に保持する役割と、肘掛け50が垂直位置から水平位置に移動する際に肘掛け50が急激に倒れないようにする役割とを果たす。次に、弾性片80の詳細な構成について説明する。
【0050】
弾性片80は、金属製の薄肉平板を適宜に屈曲および湾曲させることによって形成されている。弾性片80は弾性変形可能であり、いわゆる板ばねとしての機能を有している。図8に示すように、弾性片80は、棒状部12と取付台18(詳しくは、取付台18の中央板18C)との間の隙間に挿入された平板部81と、平板部81の前方に位置するばね部82とを有している。本実施形態では、平板部81の上下長さは取付台18の中央板18Cの上下長さよりも長く、平板部81の下端部81cは中央板18Cの下端から下方に突出している。ただし、平板部81の上下長さは特に限定されず、平板部81の下端部81cは中央板18Cの下端から突出していなくてもよい。
【0051】
ばね部82は、平板部81の上端から前方に延びる上端部82aと、前方に向かって凸状に湾曲した中央部82bと、中央部82bから下方に連続する下端部82cとを有している。上端部82aは、後方斜め下向きに傾斜した傾斜面部となっている。中央部82bと上端部82aとの境には、後方斜め上向きから後方斜め下向きに屈曲した段部82abが形成されている。ただし、上端部82aは傾斜面部でなくてもよく、例えば、水平面を有する水平面部等であってもよい。段部82abの形状も特に限定されず、後述するように、肘掛け50が垂直位置に到達する際に架設部材53が乗り上げられるような段部であれば足り、その具体的形状は特に限定される訳ではない。下端部82cの形状も特に限定されないが、本実施形態では、下端部82cは後方に向かって凸状に湾曲している。
【0052】
上端部82aは平板部81とつながっているため、棒状部12に固定されている。一方、下端部82cは棒状部12に固定されておらず、片持ち支持されている。本実施形態では、下端部82cは取付台18の中央板18Cから離間している。すなわち、下端部82cは取付台18の中央板18Cとは接触しておらず、下端部82cと中央板18Cとの間には隙間が形成されている。ただし、下端部82cの態様は特に限定されず、下端部82cは中央板18Cと接触していてもよい。
【0053】
図8に示すように、ばね部82の上端部82aの一部、段部82ab、中央部82b、および下端部82cは、側面視において、スライド溝56の内方に位置している。特に限定される訳ではないが、本実施形態では、ばね部82とスライド溝56の前側の縁部56fとの間の距離は、上方にいくほど狭くなっている。下端部82cとスライド溝56の縁部56fとの間には、架設部材53の直径よりも大きな間隔が設けられている。一方、中央部82bとスライド溝56の縁部56fとの間の間隔は、架設部材53の直径よりも小さくなっている。ばね部82の中央部82bは、自らの弾性力によって、架設部材53を前方に付勢する。そのため、架設部材53は、中央部82bの前方に位置する際には、中央部82bとスライド溝56の縁部56fとの間に挟まれることになる。
【0054】
図9は、肘掛け50が垂直位置にあるときの架設部材53と弾性片80との位置関係を示している。図9に示すように、肘掛け50を垂直位置まで回動させると、架設部材53は、ばね部82の中央部82bから段部82abを越えて上端部82aに乗り上がる。その結果、架設部材53は上端部82aに保持される。これにより、肘掛け50に下向きの意図的な力を加えない限り、架設部材53は中央部82b側に移動しないように規制される。
【0055】
肘掛け50は、ボルト66を介して棒状部12に上下回動自在に支持されている。ボルト66は、本発明に係る軸部材の一例である。次に、ボルト66等の締結態様について説明する。
【0056】
図10に示すように、棒状部12には、左右方向に貫通する孔12aが形成されている。肘掛け本体51の左側板51Lの孔51a、支持体52の左側板52Lの孔52a、支持部材55の左側板55Lの孔55a、取付台18の左側板18Lの孔18a、棒状部12の孔12a、取付台18の右側板18Rの孔18a、支持部材55の右側板55Rの孔55a、支持体52の右側板52Rの孔52a、および肘掛け本体51の右側板51Rの孔51aには、カラー部材65が挿入されている。
【0057】
カラー部材65は、内周面および外周面が平滑な面からなる円筒部材によって形成されている。ただし、カラー部材65の形状は特に限定される訳ではない。本実施形態では、カラー部材65はステンレスからなっている。ただし、カラー部材65の材料は特に限定されず、アルミニウム等の他の金属であってもよく、樹脂等の他の材料であってもよい。
【0058】
カラー部材65には、左方から右方に向かってボルト66が挿入されている。なお、ボルト66の挿入方向は特に限定されず、ボルト66は右方から左方に向かって挿入されていてもよい。肘掛け本体51の左側板51Lの孔51aの周囲には、右方に凹んだ窪み58Lが形成されている。ボルト66の頭部66aは、窪み58Lの内側に配置されている。ボルト66の頭部66aと肘掛け本体51の左側板51Lとの間には、ワッシャ76が介在している。ただし、ワッシャ76は必ずしも必要ではなく、適宜省略することが可能である。
【0059】
ボルト66の先端部には、ナット67が締め付けられている。肘掛け本体51の右側板51Rの孔51aの周囲には、左方に凹んだ窪み58Rが形成されている。ナット67は、窪み58Rの内側に配置されている。ナット67と肘掛け本体51の右側板51Rとの間には、ワッシャ77が介在している。ただし、このワッシャ77も必ずしも必要ではなく、適宜省略することが可能である。
【0060】
ボルト66およびナット67の形状および寸法は、棒状部12の孔12aやカラー部材65等の形状および寸法に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、ボルト66として、いわゆるM6サイズ(外径が6mm)のねじ等を好適に用いることができる。ナット67として、例えばUナット(登録商標)等を好適に用いることができる。
【0061】
図10は、ボルト66とナット67とを締め付ける前の状態を表している。ここで、カラー部材65の長さをL1とする。肘掛け本体51の左側板51Lの孔51aの左端と、肘掛け本体51の右側板51Rの孔51aの右端との間の距離をL2とする。ボルト66とナット67とを締め付けると、肘掛け本体51の左側板51Lと右側板51Rとは互いに接近するため、上記距離L2は短くなる。ところが、カラー部材65の長さL1が長すぎると、ボルト66の頭部66aおよびナット67が、ワッシャ76およびワッシャ77を介してカラー部材65の端面と当接してしまい、ボルト66とナット67との締結が妨げられるおそれがある。すなわち、カラー部材65が邪魔になって、ボルト66とナット67とを十分に締め付けられないおそれがある。
【0062】
そこで本実施形態では、カラー部材65の長さL1は、ボルト66とナット67とを締め付ける前の上記距離L2、すなわち、肘掛け本体51の左側板51Lの孔51aの左端と右側板51Rの孔51aの右端との間の距離L2よりも短く設定されている。これにより、ボルト66とナット67とを締め付ける際に、カラー部材65が邪魔になることは防止される。なお、カラー部材65の長さL1は、ボルト66とナット67とを締め付けた後の上記距離L2よりも短くてもよく、等しくてもよい。カラー部材65の長さL1の具体的数値は特に限定される訳ではないが、例えば、ボルト66とナット67とを締め付ける前の上記距離L2よりも0.1mm〜2mm程度短いことが好ましい。本実施形態では、長さL1は距離L2よりも1mm短くなっている。これにより、ボルト66とナット67とを良好に締め付けることができると共に、締め付け後にカラー部材65が左右にがたつくことを抑えることができる。
【0063】
以上が肘掛け構造の構成である。次に、肘掛け50が回動する際の架設部材53および弾性片80の挙動について説明する。
【0064】
図8に示すように、肘掛け50が水平位置にあるときには、架設部材53は弾性片80の下端部82cと接触している。下端部82cは中央部82bとは逆向きに湾曲しているので、架設部材53の上方への移動はある程度規制される。そのため、水平位置における肘掛け50のがたつきは防止される。
【0065】
一方、下端部82cとスライド溝56の前側の縁部56fとの間には、架設部材53の直径よりも大きな間隔が設けられている。そのため、使用者が肘掛け50に対し、上向きの回動力を加えると、架設部材53は下端部82cから中央部82bに容易に移動する。また、弾性片80は弾性変形可能であるため、架設部材53の上方への移動に伴って、中央部82bは架設部材53から後ろ向きの力を受け、弾性変形する。その結果、中央部82bとスライド溝56の縁部56fとの間に十分な隙間が形成され、架設部材53は円滑に移動する。したがって、使用者は肘掛け50を上向きに容易に回動させることができる。
【0066】
架設部材53が更に上方に移動すると、やがて架設部材53は中央部82bから段部82abを経由し、上端部82aに乗り上げる。なお、中央部82bは前方に凸状に湾曲しており、また、弾性片80は弾性変形可能であるため、それほど大きな力を加えなくても、架設部材53を上端部82aの上に移動させることができる。その結果、図9に示すように、架設部材53は上端部82aに保持される。したがって、使用者は、肘掛け50を容易に垂直位置に保持することができる。
【0067】
中央部82bと上端部82aとの間には段部82abが設けられているので、肘掛け50の自重程度の力を受けただけでは、架設部材53が段部82abを超えて中央部82b側に移動することはない。特に本実施形態では、中央部82bとスライド溝56の前側の縁部56fとの間の間隔は、架設部材53の直径よりも小さい。また、弾性片80の上端部82aは、後方斜め下向きに傾斜している。そのため、肘掛け50を下向きに回動させる意図的な力を加えない限り、肘掛け50が自然に倒れてしまうことはない。したがって、肘掛け50が垂直位置から自然に倒れてしまうことを確実に防止することができる。
【0068】
一方、肘掛け50を垂直位置から水平位置に戻すときには、肘掛け50にある程度大きな力を加えることにより、架設部材53を上端部82aから中央部82bに移動させる。この際、架設部材53は、中央部82bにより前方に付勢される。架設部材53は、中央部82bから付勢力を受けつつ中央部82b上を摺動する。そのため、回動途中に架設部材53が肘掛け50の自重を受けて急激に下方に移動することは防止される。また、本実施形態では、架設部材53は中央部82bとスライド溝56の縁部56fとの間に挟まれる。このことによっても、回動途中に架設部材53が肘掛け50の自重を受けて急激に下方に移動することが防止される。したがって、回動途中で肘掛け50が急に倒れてしまうことを防ぐことができる。下方に移動した架設部材53は、やがて中央部82bから下端部82cに到達する。これにより、肘掛け50は水平位置に位置付けられることになる。
【0069】
また、本実施形態に係る椅子1では、前述のカラー部材65によって、ボルト66とナット67との緩みが抑制される。次に、肘掛け50が回動する際のボルト66およびナット67の挙動について説明する。図10に示すように、ボルト66の頭部66aは、ワッシャ76を介して、肘掛け本体51の左側板51Lと接触している。ナット67は、ワッシャ77を介して、肘掛け本体51の右側板51Rと接触している。そのため、肘掛け50を回動させると、ボルト66およびナット67は、肘掛け本体51から摩擦力を受け、肘掛け50と共に回動しようとする力を受ける。ここで、ボルト66はカラー部材65に対して回転可能である。そのため、ボルト66は、肘掛け50の回動に伴って、カラー部材65の内側にて回動する。
【0070】
ところで、棒状部12、取付台18、および支持部材55は、肘掛け50と異なり、静止したままである。しかし、ボルト66の周囲にはカラー部材65が配置されているため、棒状部12の孔12aの内周面とボルト66との接触、取付台18の孔18aの内周面とボルト66との接触、および支持部材55の孔55aの内周面とボルト66との接触は、それぞれ防止される。したがって、それらの孔12a、孔18a、および孔55aの内周面とボルト66との間で摩擦が生じることはなく、ボルト66が棒状部12、取付台18、および支持部材55から、静止し続けようとする力を受けることはない。したがって、肘掛け50に左右方向に荷重が加わった状態で肘掛け50を回動させた場合であっても、ボルト66とナット67とが互いに逆方向の力を受けることはないため、ボルト66とナット67との緩みを抑制することができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る椅子1によれば、肘掛け50を垂直位置に移動させると、架設部材53が弾性片80の段部82abを乗り越え、上端部82aによって保持される。したがって、肘掛け50が自然に倒れてしまうことを防止することができる。また、肘掛け50を垂直位置から水平位置に向かって回動させる際に、架設部材53は弾性片80の弾性力を受けつつ、弾性片80上(詳しくは中央部82b上)を摺動する。また、架設部材53は、弾性片80の中央部82bとスライド溝56の縁部56fとの間に挟まれながら、中央部82b上を摺動する。よって、架設部材53が移動途中に急激に下方に移動することは防止される。したがって、肘掛け50が回動中に急に倒れてしまうことを防止することができる。本実施形態に係る椅子1によれば、軽量且つ簡素な構造により、肘掛け50の円滑な回動が可能であると共に、肘掛け50が垂直位置から自然に倒れてしまうことを防止することができる。
【0072】
本実施形態によれば、弾性片80の中央部82bは、前方に突出するような湾曲形状に形成されている。したがって、簡単な構成により、上述の作用効果を得ることができる。また、肘掛け50の回動の際に、架設部材53をより円滑に移動させることができる。
【0073】
また、本実施形態では、弾性片80の上端部82aは、後方斜め下向きに傾斜した傾斜面部からなっている。このことにより、架設部材53を弾性片80の上端部82aにしっかりと保持することができ、肘掛け50が垂直位置から自然に倒れてしまうことをより一層抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態では、弾性片80の下端部82cが片持ち支持され、その下端部82cは棒状部12および取付台18から前方に離間している。このような構成により、弾性片80は好適に弾性変形しやすくなり、架設部材53が弾性片80の段部82abを乗り上げる動作および段部から乗り下がる動作を、より円滑化することができる。したがって、肘掛け50を垂直位置から水平位置に回動させる際、または水平位置から垂直位置に回動させる際に、架設部材53および弾性片80に無理な応力がかかることを抑制することができる。そのため、肘掛け50をより一層円滑に回動させることが可能となる。また、弾性片80等の破損を防止することができる。
【0075】
また、本実施形態では、取付台18の左側板18Lおよび右側板18Rの外面は、平らな面に形成されている。このことにより、肘掛け50に左右方向の荷重が加わっても、取付台18によって支持部材55を安定して支持することができ、ひいては、取付台18によって肘掛け50を安定して支持することができる。本実施形態によれば、取付台18によって、肘掛け50が左右に傾くことを十分に抑制することができる。したがって、肘掛け50を安定して回動させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、弾性片80は、平板部81が棒状部12と取付台18の中央板18Cとの間に挿入されることによって、棒状部12に固定されている。本実施形態によれば、弾性片80を容易に取り付けることができる。
【0077】
上述の通り、本実施形態によれば、弾性片80という軽量且つ簡素な構造物によって、上述の作用効果を得ることができる。浴室用の椅子1は、狭い浴室内で使用され、また、高齢者等が使用する場合が多いため、小型且つ軽量であることが求められる。したがって、本実施形態に係る椅子1は、浴室用椅子として特に有用である。
【0078】
また、本実施形態に係る椅子1によれば、肘掛け50に左右方向の荷重が加わった状態で肘掛け50を回動させた場合であっても、ボルト66とナット67とに逆方向の回転力が加わることはないため、ボルト66とナット67との緩みを抑えることができる。したがって、肘掛け50のがたつきを未然に防止することができる。本実施形態に係る椅子1によれば、棒状部12の孔12aの内周面等とボルト66との間にカラー部材65を介在させることにより、上記効果を得ることができる。すなわち、カラー部材65という軽量且つ簡素な構造を付加することにより、ボルト66とナット67との緩みを抑制することが可能となる。
【0079】
本実施形態によれば、金属材料からなる支持体52の左側板52Lと取付台18の左側板18Lとの間に、樹脂製の支持部材55の左側板55Lが介在している。同様に、金属材料からなる支持体52の右側板52Rと取付台18の右側板18Rとの間に、樹脂製の支持部材55の右側板55Rが介在している。そのため、左側板52Lと左側板18Lとの間の磨耗、ならびに、右側板52Rと右側板18Rとの間の磨耗を防止することができる。したがって、それらの磨耗に起因するボルト66およびナット67のがたつきを抑制することができる。
【0080】
上述の通り、本実施形態によれば、カラー部材65という軽量且つ簡素な構造物を追加するだけで、ボルト66とナット67との緩みを抑制することができる。本実施形態に係る椅子1は、軽量化等が強く求められる浴室用椅子として特に有用である。
【0081】
また、本実施形態に係る椅子1は、折り畳み式の椅子である。折り畳み式の椅子は、折り畳むことによってコンパクトに収容することができ、また、運搬が容易であるという特長を有する。肘掛け50を備える折り畳み式の椅子1では、上記特長を損なわないように、折り畳んだ際に肘掛け50が出っ張らず、また、運搬が容易なように、折り畳みに伴って肘掛け50を回動させることが多い。本実施形態に係る椅子1によれば、肘掛け50を円滑に回動させることができる一方、肘掛け50が自然に倒れてしまうことを防止することができる。また、肘掛け50を頻繁に回動させても、ボルト66およびナット67の緩みは生じにくい。したがって、本実施形態に係る椅子1によれば、折り畳み式の椅子として特に有用である。
【0082】
なお、本発明に係る椅子は、前記実施形態の椅子1に限らず、他に種々の形態で実施することができる。次に、椅子1の変形例について簡単に説明する。
【0083】
前記実施形態では、弾性片80の下端部82cが片持ち支持されていたが、図11に示すように、弾性片80の上端部82aが片持ち支持されていてもよい。また、上端部82aは、後方に向かって凸状に湾曲していてもよい。
【0084】
図12に示すように、弾性片80の上端部82aおよび下端部82cの両方が片持ち支持されていてもよい。図12に示す変形例では、中央部82bは、それぞれ前方に突出する湾曲部82b1および湾曲部82b3と、それら湾曲部82b1と湾曲部82b3との間に位置する鉛直部82b2とを有している。段部82abは上側にのみ設けられていてもよいが、弾性片80は複数の段部を備えていてもよい。
【0085】
図13に示すように、弾性片80の上端部82aは後方斜め上向きに傾斜していてもよい。中央部82bは、鉛直方向に延びる鉛直部82b1と、鉛直部82b1の下端から後方斜め下向きに延びる傾斜部82b2とから構成されていてもよい。このように、中央部82bは非湾曲形状であってもよい。
【0086】
前記実施形態では、弾性片80の下端部82cは、取付台18の中央板18Cから前方に離間していた(図8参照)。しかし、図14に示すように、下端部82cは平板部81と同程度まで後方に延び、取付台18の中央板18Cと接触するようになっていてもよい。
【0087】
前記実施形態では、架設部材53は円柱状に形成されていたが、架設部材53の形状は特に限定される訳ではない。例えば、架設部材53の断面形状は、四角または六角等の多角形状であってもよく、楕円等の他の形状であってもよい。また、架設部材53は、中実の棒状であってもよく、中空の棒状であってもよい。
【0088】
前記実施形態では、棒状部12の孔12aの内周面等とボルト66との間にカラー部材65を介在させていた。しかし、本発明において、カラー部材65は必ずしも必要ではない。カラー部材65を省略することも可能である。
【0089】
前記実施形態に係る椅子1は、支持部材55を備えていたが、支持部材55は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。
【0090】
前記実施形態では、棒状部12は前脚部11と連続していたが、棒状部12は後脚部(すなわち、第2フレーム21)と連続していてもよい。また、棒状部12は、前脚部11および後脚部から独立していてもよい。
【0091】
前記実施形態では、脚部は2本の前脚部11と2本の後脚部とから構成されていた。しかし、脚部の本数は特に限定される訳ではない。また、脚部の構成は何ら限定される訳ではない。脚部は、長さ調整可能な脚部に限定されず、長さ調整ができない脚部であってもよい。
【0092】
前述の通り、本発明に係る椅子は、浴室用椅子および折り畳み式の椅子として特に有用であるが、必ずしも浴室用椅子または折り畳み式の椅子に限定される訳ではない。
【符号の説明】
【0093】
1 椅子
12 棒状部
30 座部
50 肘掛け
53 架設部材
55 支持部材
55L 支持部材の左側板
55R 支持部材の右側板
56 スライド溝
56f スライド溝の縁部
66 ボルト(軸部材)
80 弾性片
82a 上端部
82b 中央部
82c 下端部
82ab 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する座部と、前記座部を支持する脚部と、正面視において前記座部の側部よりも上方にて上向きに延びる棒状部と、左右方向に延びる軸部材を介して前記棒状部に上下回動自在に支持された肘掛けと、を備えた椅子であって、
前記肘掛けは、互いに左右方向に離間した左側板部および右側板部と、前記左側板部と前記右側板部とに架け渡された棒状の架設部材と、を有し、
前記棒状部に固定され、上端部と、段部を介して前記上端部の下方に位置する中央部と、前記中央部の下方に連続する下端部とを有し、前記上端部および前記下端部の少なくとも一方が前記棒状部に固定されずに片持ち支持された弾性変形可能な弾性片を備え、
前記弾性片は、前記肘掛けが略垂直の姿勢をとる垂直位置にあるときには、前記上端部によって前記架設部材を保持し、前記肘掛けが略水平の姿勢をとる水平位置と前記垂直位置との間にあるときには、前記架設部材が前記中央部によって付勢されつつ前記中央部上を摺動するように構成されている、椅子。
【請求項2】
前記弾性片は、前記棒状部の前方に配置され、
前記弾性片の前記中央部は、前方に突出するような湾曲形状に形成されている、請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記弾性片の前記上端部は、後方斜め下向きに傾斜した傾斜面部からなっている、請求項2に記載の椅子。
【請求項4】
前記弾性片の片持ち支持された端部は、前記棒状部および前記支持部材から離間している、請求項1〜3のいずれか一つに記載の椅子。
【請求項5】
それぞれ前記架設部材と係合する略円弧状のスライド溝が形成された左側板および右側板を有し、前記棒状部に固定された支持部材を備え、
前記弾性片は、前記支持部材の左側板と右側板との間において前記棒状部に固定され、
前記弾性片の前記中央部は、前記肘掛けが前記水平位置と前記垂直位置との間にあるときに、前記左側板および前記右側板のスライド溝の縁部と前記中央部との間に前記架設部材を挟むように前記架設部材を付勢するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一つに記載の椅子。
【請求項6】
前記棒状部と前記支持部材の左側板との間に配置された左側板と、前記棒状部と前記支持部材の右側板との間に配置された右側板とを有し、前記棒状部に固定された取付台を備え、
前記取付台の左側板および右側板の外面は、平らな面に形成されている、請求項5に記載の椅子。
【請求項7】
前記取付台は、前記棒状部から離間し且つ前記取付台の前記左側板と前記右側板とをつなぐ中央板を有し、
前記弾性片は、片持ち支持されていない端部から延びる平板部を有し、前記平板部が前記中央板と前記棒状部との間に挿入されることによって前記棒状部に固定されている、請求項6に記載の椅子。
【請求項8】
前記椅子は、浴室内で使用される浴室用椅子である、請求項1〜7のいずれか一つに記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−17636(P2013−17636A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153058(P2011−153058)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)