説明

植栽培養土及びその製造方法

【課題】上水汚泥を利用して短期間に完熟化することが可能な機能性の高い植栽培養土及びその製造方法の提供。
【解決手段】新規微生物Anoxybacillus sp. MS8株(受託番号FERM P-21818)により、下水汚泥と木材廃棄物とを混合して下水汚泥堆肥を生成する。次いで、下水汚泥堆肥と、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる上水汚泥とを混合して中間混合物を生成する。最後に、混合物を再度発酵させて植栽培養土を生成する。これにより、短期間で完熟した植栽培養土を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水汚泥と下水汚泥を利用して製造される植栽培養土及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平成21年現在、上水汚泥の年間の発生量は、約36万DS−t(DS−t:濃縮汚泥固形物量のトン数)にも達している。しかし、水道全体における上水汚泥の有効利用率は、平成12年度には31.3%、平成13年度には36.1%に過ぎず、現在でも資源化率は少ない現状にある。発生する上水汚泥の処分方法としては、埋め立て処分が最も多く行われているが、処分地の確保や輸送手段の確保に種々の問題を抱えている大都市周辺では、発生汚泥の有効利用に関して多くの検討がなされてきた。
【0003】
その一つとして、園芸用土、グランド造成材、建築資材(路盤材、管敷設埋設材、造成地埋立材等)、セメント原料などとして再資源化が検討されている。特に、近年、産業廃棄物最終処分場の確保が年々困難となってきているとともに、環境保全の重要性が益々重要視されてきているため、環境対策として上水汚泥の発生抑制と減量化・再資源化に向けた取り組みが求められている。
【0004】
現在、我が国で最も広く用いられている上水処理方式は、急速濾過方式である。これは、沈砂、凝集、沈殿、濾過、消毒の5つのプロセスから成っており、コロイド粒子よりも大きな成分の除去と最近の無害化を主な機能としている。また、近年では、異臭味原因成分除去などを目的として生物処理、活性炭処理、オゾン処理等を組み合わせた高度上水処理の導入も広まりつつある。これらのプロセスにおいては、原水に含まれる微細な粒子を凝集・沈殿させるため、凝集剤が添加される。最も広く使用されている凝集剤は、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)である。また、無機高分子系としてはポリ塩化マグネシウムやポリ塩化第2鉄等も用いられている。そのため、上水汚泥の主要な成分は、有機物、酸化アルミニウム、シリカ、酸化鉄、微生物等である。すなわち、上水汚泥には、土壌の粘土鉱物の基本成分である酸化アルミニウム、シリカ、酸化鉄等が豊富に含まれている。特に、植物の組織の合成に必要なシリカの含有量が多い。シリカは、近年、植物の生理に重要な機能を担っていることが明らかになり、植物の必須元素に加えられた要素である。
【0005】
このような上水汚泥を堆肥化する場合、下水汚泥や木材廃棄物などの有機物を多く含む原料と混合して完熟発酵させるのが有効である。しかしながら、この完熟化処理には相当な時間が必要となる。そのため、堆肥原料を短期間で発酵させる有益な微生物の探索が試みられている。
【0006】
有機性廃棄物、特に、有機性汚泥を効率的に分解する微生物としては、例えば、特許文献1〜6に記載のものが公知である。
【0007】
特許文献1には、バシラス属細菌に属し、アルカリ性条件下で汚泥を分解する能力を有する微生物が開示されている。特許文献2には、有機性汚泥や生物性汚泥に含まれるタンパク質を分解するバシラス サチリスに属する微生物が開示されている。特許文献3には、有機性廃棄物中及び下水汚泥中の有機物を分解消滅する能力のあるシュードモナス属に属する微生物が開示されている。特許文献4には、排水処理等の環境浄化に役立つロドバクター属に属する微生物が開示されている。特許文献5には、有機性固形物の処理に有用なバシラス属に属する微生物が開示されている。また、特許文献6には、タンパク質分解酵素を産生し、有機性汚泥の分解能力を有する、ブレビバシラス(Brevibacillus)属細菌に属するグラム陽性の微生物が開示されている。また、非特許文献1では、バシラス(Bacillus)属の好熱性細菌を利用した、余剰汚泥の減量化技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−139449号公報
【特許文献2】特開2002−125657号公報
【特許文献3】特開2003−235547号公報
【特許文献4】特開2003−245066号公報
【特許文献5】特開2004−267127号公報
【特許文献6】特開2006−230332号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】長谷川進:汚泥の減量化と発生防止技術,248〜270頁、エヌ・ティー・エス社,2000年.
【非特許文献2】E. Pikuta, A. Lysenko, N. Chuvilskaya, U. Mendrock, H. Hippe, N. Suzina, D. Nikitin, G. Osipov, K. Laurinavichius: Anoxybacillus pushchinensis gen. nov., sp. nov., a novel anaerobic alkaliphilic, moderately thermophilic bacterium from manure, and description and Anoxybacillus flavithermus comb. nov., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 50, 2109-2117, 2000.
【非特許文献3】A. Derekova, C. Sjoholm, R. Mandreva, M. Kambourova: Anoxybacillus rupiensis sp. nov., a novel thermophilic bacterium isolated form Rupi basin (Bulgaria), Extremophiles, 11, 577-583, 2007.
【非特許文献4】L. Feng, W. Wang, J. Cheng, Y. Ren, G. Zhao, C. Gao, Y. Tang, X. Liu, W. Han, X. Peng, R. Liu, L. Wang: Genome and proteome of long-chain alkane degrading Geobacillus thermodenitrians NG80-2 Isolates from a deep-subsurface oil reservoir, Proceedings of the National Academy of Science U.S.A., 104, 5602-5607, 2007.
【非特許文献5】M. Mesbah, U. Premachandran, W. B. Whitman: Precise measurement of the G+C content of deoxyribonucleic acid by high-performance liquid chromatography, International Journal of Systematic Bacteriology, 39, 159-167, 1989.
【非特許文献6】Y. Okamura, N. Inoue, T. Nikai: Isolation and characterization of a novel acid proteinase, tropiase from Candida tropicalis IFO 0589, Japanese Journal of Medical Mycology, 48, 19-25, 2007.
【非特許文献7】K. J. Raser, A. Posner, K. K. W. Wang: Casein zymography: A method to study μ-calpain, M-calpain, and their inhibitory agents, Archives of Biochemistry and Biophysics, 319, 211-216, 1995.
【非特許文献8】金澤晋二郎:土壌酵素の測定法、地球環境調査計測辞典―第1巻 陸域、 pp.1111-1114、 フジ・テクノシステム、 東京、2002.
【非特許文献9】J. N. Ladd: Properties of proteolytic enzymes extracted from soil, Soil Biology and.Biochemistry, 4, 337-237, 1971.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記、従来の有機性汚泥を分解する微生物は、産業的に実用化されているものは少ない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上水汚泥を再資源化すべく、上水汚泥を利用して短期間に完熟化することが可能な機能性の高い植栽培養土とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、有機性汚泥の分解を効率的に行う微生物の探索を進めた結果、下水余剰汚泥を溶解するAnoxybacillus属細菌(非特許文献2,3参照)の新菌種(高プロテアーゼ活性)を、下水余剰汚泥から単離・同定し、Anoxybacillus sp. MS8株と命名した。また、バーク堆肥から単離・同定した好熱性セルロース分解菌Geobacillus thermodenitrificans NG80-2株(非特許文献4参照)を種菌として用いることにより、有機性廃棄物を短時間で分解できることを見いだした。高温で易分解性有機物に著しく富む余剰汚泥を溶解する能力が高いこの菌は、堆肥の製造に最も適している。何故なら堆肥化の目的は、これら易分解性有機物を速やかに分解して安定化した有機物にすることにあるからである。
【0013】
そこで、これら好熱性汚泥溶解細菌Anoxybacillus sp. MS8株(高プロテアーゼ活性)及び好熱性セルロース分解細菌Geobacillus thermodenitrificans NG80-2株を種菌として下水余剰汚泥と剪定枝チップ(木質系廃棄物)を用いた堆肥化技術の構築を試みた。そのコンセプトは、発酵期間を短縮させた迅速な堆肥製造と収益が見込める安価な堆肥化施設の構築である。
【0014】
本発明者は、下水余剰汚泥と剪定枝チップ(木材廃棄物)を用いた高付加価値植栽肥料(堆肥)の開発を研究目的として、60℃で馴養した余剰汚泥から、汚泥を溶解する微生物をスクリーニングした。馴養した下水汚泥を試料として、滅菌汚泥を懸濁した培地に塗布し、生育した細菌のコロニーの周囲にハローが見られるものを分離した。単離した細菌はグラム陽性の桿菌で、その菌株についての生化学的/生理学的試験及び16SリボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析の結果、Anoxybacillus 属の細菌(非特許文献2,3参照)であることが判明した。Anoxybacillus 属細菌が下水汚泥を可溶化するという報告はないが、汚泥を溶解することができるBacillus属の好熱性細菌株の存在が知られている(非特許文献4参照)。
【0015】
今回、発明者らが分離・同定した細菌株は、50℃から60℃の温度で下水汚泥を溶解する。この菌株についての生化学的/生理学的試験では、100%の確率でGeoibacillus stearothermophilus及び98.0%の確率でBacillus lentusと同定された。さらに、16SリボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析では、96.8%の確率でAnoxybacillus beppuensis及び96.6%の確率でAnoxybacillus rupiensisと判定された。これらの結果から、本菌株はAnoxybacillus 属細菌の新菌種であると判断されるので、この細菌株をAnoxybacillus sp. MS8株と命名した。
【0016】
本発明はこれらの発見に基づくものである。
【0017】
すなわち、本発明に係る植栽培養土は、Anoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)により、下水汚泥と木材廃棄物とを混合した原料混合物からなる下水汚泥堆肥と、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる上水汚泥とを混合し、発酵させてなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る植栽培養土の製造方法は、Anoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)により、下水汚泥と木材廃棄物とを混合した原料混合物である下水汚泥堆肥を生成する第1工程と、
前記下水汚泥堆肥と、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる上水汚泥とを混合して中間混合物を生成する第2工程と、
前記混合物を再度発酵させて植栽培養土を生成する第3工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
これにより、下水汚泥と上水汚泥を堆肥資源として有効に利用することが可能となり、また、特にAnoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株を使用して発酵させることで、短期間で完熟化させることができる。また、下水汚泥と上水汚泥の両方を原料として用いることで、それぞれに不足した肥料成分を補い、肥料としての機能性の高い植栽培養土を得ることができる。
【0020】
さらに、前述の植栽培養土において、さらに軽量資材が混合することもできる。
【0021】
これにより、当該植栽培養土が軽量化され、屋上緑化に利用することが可能となる。また、軽量性・保水性が改善され、培養土としての機能性を高めることができる。
【0022】
ここで、「軽量資材」とは、内部に多数の微小空隙をもたせて軽量化された粒状の多孔質軽量化資材をいい、軽量資材としては、具体的には、例えば、粉砕した発砲ガラスやパーライトなどを使用することができる。特に、発砲ガラスはビンなどの廃棄物のリサイクルにより製造されるため、軽量資材として発泡ガラスを使用することにより、廃棄物を有効活用でき、地球環境に配慮して植栽培養土を提供することができる。
【0023】
また、「下水汚泥」とは、下水処理場において下水から沈降分離される沈殿物として得られる汚泥をいい、「上水汚泥」とは、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる汚泥をいう。「木材廃棄物」とは、剪定枝、バーク、大鋸屑等の木質系の廃棄物をいう。「下水汚泥堆肥」は、下水汚泥と木材廃棄物とを混合した原料混合物そのものでもよいし、この原料混合物を発酵させて溶解化したものでもよい。
【0024】
また、前記第2工程において、前記下水汚泥堆肥2体積部以上5体積部以下と、前記上水汚泥8体積部以下5体積部以上とを、合計で10体積部となる割合で混合することもできる。
【0025】
これにより、製造される植栽培養土に含まれる窒素、リン酸、カリウムの量を肥料として十分な量に確保しつつ、上水汚泥に含まれる酸化アルミニウム、シリカ、酸化鉄等のミネラル成分も十分に確保することができる。
【0026】
また、前記第3工程において、前記中間混合物の発酵は、好気状態で行うこともできる。
【0027】
また、前記第1工程において、前記原料混合物の発酵は、好気状態で行うこともできる。
【0028】
ここで、「好気状態」とは、生物が利用可能な遊離の酸素分子が存在する状態をいう。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、Anoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株を使用することによって、下水汚泥と上水汚泥に木材廃棄物を混合した原料混合物を短期間の間に完熟化させることができ、下水汚泥と上水汚泥を堆肥資源として有効に利用することが可能となる。特に、原料混合物の完熟化までの期間を短縮化できることで、発酵保存するための設備を小さくすることができ、製造される植栽培養土のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Anoxybacillus sp. MS8株の16SリボソームRNA遺伝子のDNA塩基配列(primer: 1094f-r1L-r2L-r3L)
【図2】本発明の実施例1に係る植栽培養土の製造プラントを表す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る植栽培養土の製造工程及び発酵温度を表す図である。
【図4】全細菌及び生細菌数の発酵に伴う経時変化を表す図である。
【図5】発芽インデックス用KS式幼植物栽培容器(キット)の構造及び使用法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0032】
(1)使用する新規微生物
まず、本発明において植栽培養土の原料の発酵に使用する細菌であるAnoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)について詳細に説明する。
【0033】
〔細菌の分離・同定〕
下水余剰汚泥240 gを500 mlフラスコに採り、それを60℃、60 rpmで1週間振とう培養し、その培養液と新たに採取した余剰汚泥を重量比1:2となるように混合し、連続的に培養した。この操作を1週間に1回繰り返した(4回連続培養)培養液を希釈し、滅菌した余剰汚泥を懸濁した平面寒天培地に塗布して60℃で培養し、生育した細菌のコロニーの中で、コロニーの周囲にハローの確認できるものを分離した。
【0034】
分離した細菌株について、形態学的及び生化学的/生理学的性質を調べた。この菌は、50℃から65℃の温度、pH 6.0から8.0の範囲において増殖でき、グラム染色及び芽胞染色、カタラーゼ試験、オキシダーゼ試験、OF試験やAPI50CHB(Biomerieux, France)等の生化学的/生理学的試験を行った結果(表1参照)、好気性胞子形成のグラム陽性桿菌Geoibacillus stearothermophilusとの相同性(100%)が高い菌であることが判明した。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、微生物の進化系統の研究に最も有効な分子マーカーとして利用されている、16S リボソームRNA遺伝子のDNA相同性解析を行った。本菌株の16SリボソームRNA遺伝子を次の条件でPCRによって増幅させ(f1L forward primer: 5'-gagtttgatcctggctcag-3、r4L reverse primer: 5'-acgggc ggtgtgtgtacaag-3、反応条件:(1)95℃を5分間、 (2)95℃を30秒間、 (3)52℃を30秒間、 (4)68℃を1分30秒間、 (2)から(4)のサイクルを30回、 (5)68℃で5分間)、このPCR産物をアガロースゲル電気泳動により、目的のDNA断片を切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN Sciences, USA)で精製を行った。その後、精製したDNA断片とシーケンシングプライマー(63f forward primer: 5'-caggcctaacacatgcaagtc-3'、1094f primer: 5'-gtcccgcaacgagcgcaac-3'、r1L reverse primer: 5'-gtatta ccgcggctgctgg-3'、r2L primer: 5'-catcgtttacggcgtggac-3'、r3L primer: 5'-ttgcgctcgttgcgggact-3'、または1387r primer : 5'-gggcggtgtgtacaaggc-3')によってシーケンス反応させ((1)96℃を20秒間、(2)50℃を20秒間、(3)60℃を4分間、(1)から(3)のサイクルを30回)、DNAシーケンサーCEQ8000(Beckman Coulter, USA)にて塩基配列を決定し、汚泥溶解菌の16S リボソームRNA遺伝子のDNA塩基配列を得た(図1,別添)。得られた1,291塩基の塩基配列をもとに、代表的なDNA相同性検索エンジンであるBLAST及びFASTA(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にてシーケンスマッチを行った。表2に示すように、Anoxybacillus beppuensisおよびAnoxybacillus rupiensisと相同性が最も高かった。さらに、Anoxybacillus sp.MS8株のDNA塩基組成をHPLC法(非特許文献5)(YMC pack AQ-312カラム((株)ワイエムシィ))で定量したところ、G+C含量は53.2%であった。
【0037】
本菌株は、生化学的/生理学的試験による同定、及び16SリボソームRNA遺伝子のDNA相同性が97%以下であること、並びに実施例2に示すように、下水汚泥を溶解することから、Anoxybacillus属細菌(Anoxybacillus beppuensis近縁)の新菌種と判断されるので、この細菌をAnoxybacillus sp. MS8株(受託番号FERM P-21818)と名付けた。
【0038】
【表2】

【0039】
(2)堆肥化施設
次に、本発明の実施例1に係る植栽培養土を製造するために使用する施設について簡単に説明する。図2は、本発明の実施例1に係る植栽培養土の製造プラントを表す図である。植栽培養土の製造プラントは、発酵槽1、脱臭装置2、汚泥ホッパ3a、副資材ホッパ4、種菌ホッパ5、混合機6、コンベア7,8、発酵槽用ブロワ9、及び自動袋詰機10を備えている。
【0040】
本発明の植栽培養土の原料である上水汚泥及び下水汚泥は、それぞれ、下水汚泥ホッパ3a、上水汚泥ホッパ3bに投入される。また、副資材である木材廃棄物は、副資材ホッパ4に投入される。また、原料混合物の発酵に使用する細菌であるAnoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)は、培地材料(泥土、バーク堆肥等)とともに種菌ホッパ5に投入される。
【0041】
下水汚泥ホッパ3a、上水汚泥ホッパ3b、副資材ホッパ4、及び種菌ホッパ5に投入された原料は、コンベア7により混合機6に搬送・投入され、混合機6はこれらの原料を混合する。なお、混合機6は、円筒状の連続式ロータリー混合機が使用されている。
【0042】
混合された原料は、コンベア8により発酵槽1に搬送される。発酵槽1は開放型発酵槽であち、仕切壁により複数の部分槽に区画されていおり、原料の発酵の段階毎に分けて管理することが可能である。発酵槽1において原料の発酵により発生するガスは脱臭装置2により回収され脱臭がされる。さらに、発酵槽1内の原料には、発酵槽用ブロワ9により給気が行われる。
【0043】
最終的に原料が完熟すると、ショベルカーによって自動袋詰機10に搬送され、袋詰めされて出荷される。
【0044】
(3)植栽培養土の製造工程
図3は、本発明の実施例1に係る植栽培養土の製造工程及び発酵温度を表す図である。図3(a)は植栽培養土の製造における各工程において発酵温度を計測した結果を示し、図3(b)は植栽培養土の製造における各工程の内容及び期間を示している。
【0045】
(工程1)
まず、混合機6により、下水汚泥と種菌であるAnoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株と混合する。さらに、原料である上水汚泥を混合機6に追加して混合し、原料混合物を製造する。製造された原料混合物は、コンベア8により発酵槽1に搬送される。
【0046】
なお、原料混合物の製造においては、原料として「下水汚泥」の代わりに「下水汚泥堆肥」を用いることもできる。下水汚泥堆肥は、下水汚泥と木材廃棄物(剪定枝やバーク等)を混合機6により混合し、発酵槽1において発酵させて生成される堆肥である。
【0047】
下水汚泥(又は下水汚泥堆肥)と上水汚泥との混合比率は、下水汚泥堆肥2体積部以上5体積部以下に対して、上水汚泥8体積部以下5体積部以上とし、10体積部となる割合で混合する。下水汚泥堆肥の割合が2体積部より少なくなると、Anoxybacillus sp. MS8株の活動が鈍くなり、発酵時間が長くなる傾向がみられる。また、上水汚泥は、下水汚泥と比べて、植物の三養素である窒素、リン酸、及びカリウムの量が著しく少ない。これは、上水に使用する水は、できるだけきれいな水源から取水されるため、もともと取水された水に含まれる窒素、リン酸、及びカリウムの量が少ないからである。従って、下水汚泥堆肥2体積部よりも少なくなると、これら三養素の量が不足し、堆肥としての質が低下する。また、下水汚泥堆肥の割合が5体積部よりも多くすると、上水汚泥の処理可能な量が減少するとともに、上水汚泥に含まれる酸化アルミニウム、シリカ、酸化鉄等のミネラル成分が減少し、製造される堆肥においてこれらの成分の含有割合が低下する。
【0048】
(工程2)
発酵槽1内で、原料混合物の一次発酵を行う。一次発酵は約17日程度の期間行われる。この間、発酵によって原料混合物の温度は、図3に示したように、初期の常温状態から最終的に80〜90℃程度(実測では、最高温度85.2℃)の状態にまで上昇する。なお、図3に示した発酵温度は、発酵堆積物の上部の5地点で深さ約70cmの部位の温度を測定し、その平均をとったものである。
【0049】
(工程3)
工程2により一次発酵された原料混合物の切り返し(第1回目の切り返し)を行う。そして、その後、約19日程度の期間をかけて二次発酵を行う。この間、発酵によって原料混合物の温度は、図3に示したように80℃程度(実測では、最高温度82.7℃)に維持される。
【0050】
(工程4)
工程3により二次発酵された原料混合物の切り返し(第2回目の切り返し)を行う。そして、その後、約14日程度の期間をかけて三次発酵を行う。この間、発酵によって原料混合物の温度は、図3に示したように65℃程度(実測では、最高温度66.4℃)に維持される。
【0051】
(工程5)
工程4により三次発酵された原料混合物の切り返し(第3回目の切り返し)を行う。そして、その後、約16日程度の期間をかけて四次発酵を行う。この間、発酵によって原料混合物の温度は、図3に示したように55℃程度(実測では、最高温度52.9℃)に維持される。
【0052】
(工程6)
工程5により四次発酵された原料混合物の切り返し(第4回目の切り返し)を行う。そして、その後、約5日程度の期間をかけて五次発酵を行う。この間、発酵によって原料混合物の温度は、図3に示したように45℃程度(実測では、最高温度46.5℃)に維持される。
【0053】
(工程7)
工程6により五次発酵された混合物が完熟した植栽培養土であるので、これを自動袋詰機10により堆肥袋に袋詰する。以上により、実施例1に係る植栽培養土が製造される。製造日数は約80日であった。この日数は、従来の上水汚泥堆肥の製造日数に比べて短いものである。 発酵温度の温度経過をみると、混合堆積により短期間で温度が上昇し、一次発酵で既に85.2℃の高温に達する。その後、完熟化が進行するに従って徐々に低下するが、実測では二次発酵が終了するまでは約80℃以上の高温が維持された。また、最終的な五次発酵の段階でも、46.0℃であった。従って、本実施例の植栽培養土は、約1ヶ月にわたり品温が80℃以上に上昇する極めて優れたものであった。
【0054】
なお、上記実施例では5回の切り返しを行っているが、後述するように3回の切り返しによって完熟化がほぼ終了するため、第4回目と第5回目の切り返しは省略してもよい。
【0055】
尚、前記(工程7)の後に、上記各工程によって製造された植栽培養土に、追加資材として軽量資材を混合してもよい。これにより、製造される植栽培養土を屋上緑化資材として利用することが可能となる。
【0056】
屋上緑化は、ヒートアイランド対策などの都市環境の改善効果をはじめ、省エネなどによる経済的効果、さらに安らぎの空間を創出することによって、人々に与える生理的及び心理的効果などの様々な効果を持つことが期待されている。屋上緑化の施工による建物に与える荷重の問題、加えて屋上は乾燥の激しい環境下であるため、屋上緑化に用いる土壌は、軽量性・透水性・通気性・保水性などが要求される。
【0057】
これらの要求を満たすためには、上記各工程によって製造された植栽培養土に軽量資材、すなわち、廃ガラスの焼成物(発泡ガラス)のような多孔質軽量資材を混入することで、軽量性・保水性などがより一層改善されることが明らかとなった。廃ガラスの焼成物(発泡ガラス)を使用すれば、製造される植栽培養土の原料は、全て産業廃棄物である。すなわち、この軽量化された植栽培養土は、環境保全に優れた基盤土壌となり、加えて地球温暖化ガスCOの発生がないカーボンニュートラル製品となる。
【0058】
(4)植栽培養土の理化学特性
次に、本発明の植栽培養土の理化学特性について調査した結果を詳細に説明する。
原料の上水汚泥としては、北九州市の穴生浄水場の機械脱水ケーキとして発生する上水汚泥を使用した。その化学成分は、(表3)に示した通りである。従って、本上水汚泥は、酸化アルミニウム及びケイ酸が主体をなし、次いで酸化鉄成分が多い資材であった。
【0059】
【表3】

【0060】
(表4)は、原料として使用する上水汚泥と下水汚泥との融合植栽培養土化に係る原料及び種堆肥の理化学性について調査した結果である。ここで、本実施例の「下水汚泥堆肥」は、下水汚泥とバーク堆肥等の木材廃棄物とを混合した混合物を発酵させた堆肥である。なお、本実施例では「木材廃棄物」としてバークを使用している。
【0061】
【表4】

【0062】
(表5)は、原料として使用する上水汚泥と下水汚泥との融合植栽培養土化家庭に於ける水分含量及び化学成分の経時変化について調査した結果である。
【0063】
【表5】

【0064】
水分含量は、原料で73.3wt%であったものが、混合で68.0wt%、第1回目の切り返しで65.5wt%、第2回目の切り返しで64.3wt%、第3回目の切り返しで62.5wt%、第4回目の切り返しで61.3wt%、第5回目の切り返し(最終製品)で60.1wt%であった。
【0065】
pH値の変化は、(表5)に示した通りである。(表4)に示したように、上水汚泥はpH(HO)が6.94とほぼ中性を示すが、下水汚泥堆肥のpHは6.41と弱酸性であるため、第1回目の切り返しではpH(HO)が6.68と微酸性を示している。pH値は発酵の過程で殆ど変化せず、微酸性を示していた。
【0066】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥の全炭素量は、それぞれ13.7wt%及び34.8wt%であった。また、それらを混合した原料混合物の全炭素量は22.8wt%、第1回目の切り返しで22.0wt%であった。全炭素量は、発酵の進行とともに明瞭に減少し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で19.4wt%まで減少した。
【0067】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥の全窒素量は、それぞれ1.96wt%及び3.13wt%であった。下水汚泥堆肥の全窒素量が多いため、混合物の全窒素量は2.27wt%であった。全窒素量は発酵の進行に伴って徐々に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で2.63wt%まで増加した。
【0068】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のC/N比は、それぞれ7.0及び11.1であった。また、これらの混合物では、10.04であった。発酵の進行に伴い全窒素量が増加し全炭素量は減少することから、これを反映してC/N比は発酵の進行に伴い徐々に減少した。発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で7.3まで減少した。
【0069】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のカリウム量は、それぞれ0.133wt%及び1.10wt%であった。上水汚泥のカリウム量は、下水汚泥堆肥のカリウム量に比べて著しく低いことが示された。カリウム量は発酵の進行に伴って明瞭に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で0.775wt%まで増加した。
【0070】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のマグネシウム量は、それぞれ0.308wt%及び0.660wt%であった。マグネシウム量については、下水汚泥堆肥が上水汚泥に比べて2倍多い程度であり、両者に極端な差異は認められなかった。これらの混合物のマグネシウム量は0.517wt%であった。マグネシウム量は発酵の進行に伴って明瞭に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で0.670wt%まで増加した。
【0071】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のカルシウム量は、それぞれ0.981wt%及び3.600wt%であった。上水汚泥のカルシウム量は、下水汚泥堆肥のカルシウム量に比べて著しく低いことが示された。これらの混合物のカルシウム量は2.181wt%であった。カルシウム量は発酵の進行に伴って明瞭に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で2.998wt%まで増加した。
【0072】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のリン酸量は、それぞれ1.102wt%及び2.370wt%であった。上水汚泥のリン酸量は、下水汚泥堆肥のリン酸量に比べて著しく低いことが示された。これらの混合物のリン酸量は1.702wt%であった。リン酸量は発酵の進行に伴って明瞭に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で2.299wt%まで増加した。
【0073】
上水汚泥及び下水汚泥堆肥のEC(電気伝導度)は、それぞれ1.29ms/cm及び3.95ms/cmであった。上水汚泥のECは、下水汚泥堆肥のECに比べて著しく低いことが示された。これらの混合物のECは3.22ms/cmであった。ECは発酵の進行に伴って明瞭に増加し、発酵最終の第5回目の切り返し(最終製品)で7.29ms/cmまで増加した。
【0074】
以上のように、今回の調査に使用した上水汚泥は、中性を示した。しかし、副資材である下水汚泥堆肥は微酸性であるため、これらの混合資料のpH値は微酸性を示した。pH値は発酵の過程で多少低下する程度で、最終製品に至るまで大きな変動は見られなかった。
【0075】
また、表4から分かるように、上水汚泥は、植物の三養素(肥料成分)の中で窒素及びリン酸量が下水汚泥に比べて著しく少ない。従って、副資材として窒素量が多い下水汚泥堆肥を使用することによって、発酵が終了した第5回目の切り返し後の植栽培養土の窒素量を2.63wt%に高めることができた。加えてC/N比は7.38と極めて低い値を示した。従って、本実施例の植栽培養土は、窒素量が多く、C/N比も低い良質な植栽培養土に仕上がったといえる。
【0076】
また、カリウム量の少ない上水汚泥に、カリウム量の多い下水汚泥堆肥を副資材として用いることによって、堆肥のカリウム量を0.133wt%から0.775wt%へと著しく増大させることができた。同様に、カルシウム量が少ない上水汚泥にカルシウム量の多い下水汚泥堆肥を混合することで、カルシウム量も0.981wt%から2.998wt%へと改善していることも示された。
【0077】
リン酸量の少ない上水汚泥は、リン酸量の多い下水汚泥堆肥と混合することにより、その量が0.102wt%から2.299wt%に増加した。これにより、植栽培用土として満足のゆくリン酸量を確保することができた。加えて、クロロフィル合成の必須元素であるマグネシウム量も、最終製品では0.67wt%と豊富であることが分かった。
【0078】
また、今回の上水汚泥は、ECは、下水汚泥に比べて著しく小さい有機資材であった。ECの高い下水汚泥堆肥を副資材として混合することで、ECは3.22まで高まった。そして、発酵の進行により、第5回目の切り返し(最終製品)では7.29にまで増加した。
【0079】
(5)植栽培養土の細菌及び大腸菌数
次に、最終製品として得られた植栽培養土の細菌及び大腸菌数の調査を行った結果を示す。なお、堆肥では、培養法(寒天培地)で得られる菌数は、生存する全細菌数の1%以下しか計測できない。そのため、発酵過程の細菌数の測定は、直接検鏡法により行った。(表6)に、最終製品の培養法による細菌数及び大腸菌数を示す。
【0080】
【表6】

【0081】
直接検鏡法による細菌数の測定では、全細菌数は蛍光染料ethidium bromide(EB)、生細菌数は蛍光染料6-carboxy fliorescein diacetate(CFDA)を使用した。これらの蛍光染料で染色した全細菌及び生細菌数の発酵に伴う経時変化を図4に示す。
【0082】
直接検鏡法による原料の上水汚泥の全細菌(EB染色)数は、乾物1gあたり1.1×1010であり、約110億個の細菌が存在する。全生細菌(CFDA染色)数は3.1×10であり、約31億個の生細菌が存在していた。他方、下水汚泥堆肥の全菌数6.35×1010であり、約635億個の細菌が存在し、全生菌数は5.21×10であり、約52億個の生細菌が存在していた。このように、下水汚泥堆肥には、上水汚泥に比べて全細菌数で6倍、全盛細菌数で2倍もの多くの細菌が存在していることが明らかとなった。
【0083】
従って、上水汚泥よりも下水汚泥堆肥のほうが、著しく細菌数が多いことが示された。このことを反映して、両者の混合により、全細菌が約2.5培、全生細菌が約1.7倍も多くなった。
【0084】
発酵過程の細菌数においては、全細菌数は第1回目の切り返しでは初期発酵による増加を示して350億個、第2回目の切り返しでは320億個の細菌が存在した。しかし、第3回目の切り返しでは細菌数が減少し、その後大きな変動は見られなかったが、全生細菌数は増加する傾向が見られ、第3回目の切り返しが最も多く、約91億個の生細菌が観測された。
【0085】
また、培養法による最終製品の全細菌数は、(表6)に示したように、乾物1gあたり23.5×10であり、約2.4億個存在していた。
【0086】
なお、最終製品の大腸菌数は、検出限界以下となり、検出できなかった。
【0087】
以上のように、本実施例に於ける植栽培養土は、発酵過程において全細菌数が約260億個に達し、驚くような菌数を示した。微生物の菌体は植物養分のプールとしての機能を有している。従って、本実施例に於ける植栽培養土は、微生物バイオマスに富んだ良質なバイオ植栽培養土であると判定される。なお、この全細菌数には、活性がない死んだ細菌も含まれている。CFDA染色により生細菌のみを調査したところ、生細菌は約86億個も存在しており、全細菌に占める全生細菌は32.3%であった。
【0088】
なお、直接検鏡法と培養法で計数された全細菌数を比較すると、直接検鏡法で計数される全細菌数のほうが366倍も多かった。従って、寒天培地を用いる培養法では、最終製品の植栽培養土中に存在する全細菌のわずか0.27%しか計数できないことを示している。すなわち、最終製品の植栽培養土中に存在する細菌の99.8%は、寒天培地では培養できず、寒天培地を用いては計数できないことを示している。
【0089】
(6)発芽インデックス法による植栽培養土の腐熟度の評価
製造された本発明の植栽培養土が、植物の生育を阻害しない所謂良好な完熟有機肥料(堆肥)であるか否かは極めて重要である。そこで、本実施例で示した本発明の植栽培養土について、新たに改良した発芽インデックス法により腐熟度の判定を行った。
【0090】
図5に、新規に開発した発芽インデックス・キットの概要を示す(特開2004−201586号参照)。生育測定器具Aは、栽培槽10、着床部材20、生育ホルダー25、支持基板30、及び蓋体40を有する。
【0091】
栽培槽10は、上方に開口し、アクリル樹脂等の透明又は半透明の部材により構成されている。栽培槽10の内底部11には、長手方向に仕切壁体12が立設されており、この仕切壁体12により栽培槽が長手方向に2つに区画されている。また、栽培槽10の正面側及び背面側の外表面部13、14には植物の生育度合いを測定する目盛部13a,14aが生育ホルダー21の下端部を基準点15として上方に1cm毎に設けられている。
【0092】
着床部材20は、植物の種子を着床、発芽、生育させる部材であり、栽培槽10に収容されている。着床部材20は、水分、コンポスト化処理物からの抽出液、肥料含有水溶液等を吸液すると共に、植物の種子の着床、発芽、生育することができる材料から構成され、例えば、不織布、脱脂綿、スポンジ、濾紙、ロックウール、ガラスウール、セラミック多孔体、ヤシ殻マットなどから構成される。
【0093】
生育ホルダー25は、支持基板30に並列して複数連設された状態で、栽培槽10に収容されている。生育ホルダー25は、視認性を有する透明又は半透明の縦長の筒状体からなり、着床部材20より発芽した植物を視認できる。支持基板30は、視認性を有する生育ホルダー25内で生育する植物の生育度合いを視認しやすいように暗色部材、本形態では黒色の樹脂板で構成されている。図5では、15本の生育ホルダー25が、支持基板30に並列に連設され、支持基板30、側面基板32,32、及び正面基板33により四方を包囲されてユニット化されている。また、各生育ホルダー25の下部には、着床部材20が収容される構造となるように各生育ホルダー25の下端部及び側面基板32の下端部は同じ長さとなるように設定され、支持基板30及び正面基板33の下端部は上記各生育ホルダー25の下端部及び側面基板32の下端部より短く設定されている。
【0094】
蓋体40は、栽培槽10の上部開口を閉蓋する蓋であり、アクリル樹脂等の透明又は半透明な材質から構成されている。この蓋体40には、施蓋して種子の発芽、生育中等で各生育ホルダー25内が水蒸気で曇ってしまうため、曇り等を防止するため、長手方向中央には、直径3mmの通気用孔41が等間隔で3箇所形成されている。
【0095】
製造した最終製品の植栽培養土が農耕地に施用する場合、その植栽培養土の腐熟が十分であるかを判定しなければならない。そこで、新しく、幼植物試験法とポット栽培試験法の長所を取り入れた簡便・迅速な発芽インデックス法を改良した。本法は蒸留水を対照に植栽培養土の抽出液でコマツナを栽培して、その発芽率と茎長を7日目に調べ、次式を用いて発芽インデックスを求める。
【0096】
【数1】

【0097】
具体的には、まず、乾燥した微細粉末試料20gに沸騰させた蒸留水180mLを加えよく攪拌した後、1時間静置した。静置後7000rpm、10minで遠心分離を行った。遠心後、上澄液を本発明者が開発した植物の生育測定器具(図5参照)の着床部材20に添加しコマツナ種子30粒を播種した。1週間25℃の恒温槽で栽培した。対照は、同様の処理をした後蒸留水で栽培した。1週間後発芽数と茎の長さを測定し、上記の式(1)によって発芽インデックス(GI)を測定した。
【0098】
発芽インデックス100%以上、即ち、堆肥抽出液で生育させた植物の茎長が蒸留水で生育させたそれよりも長ければ、植物の生育に障害を与えていないので腐熟度は十分であるとした。
【0099】
(結果)
発芽インデックスの結果を(表7)に示す。上水汚泥の発芽インデックスは、コマツナがよく生育し、120%であった。他方、副資材とした下水汚泥堆肥の発芽インデックスは、146%で完熟堆肥であった。両者の混合物の発芽インデックスは136%であったが、第1回目の切り返し後の発芽インデックスは167%と著しく増加した。その後、発酵の進行に伴って発芽インデックスは増加し、最後の第5回目の切り返し後の最終製品では204%を示した。
【0100】
【表7】

【0101】
以上のような発芽インデックスの結果は、本発明の植栽培養土には植物の生育を阻害する物質が殆ど含まれていないことを示している。一方、副資材として使用した下水汚泥堆肥は、阻害物質が完全に分解されていて、植物を良好に生育させる完熟バイオ有機肥料であることを示している。両者を混合し、発酵過程(一次発酵)を経ると、途端に発芽インデックスは著しく増加した。さらに、発酵の進行に伴って発芽インデックスが増加していくことから、発酵熱によって植物の生育を阻害する上水汚泥由来の植物生育阻害物質が分解されることを示している。
【0102】
発酵過程の発芽インデックスの結果を見ると、第2回目の切り返しで既に発芽インデックス190%と極めて良好な完熟バイオ植栽培養土となっていることが示されている。その後、発酵過程での数値の上昇がわずかであることを考慮すると、第2回目の切り返しの第三次発酵ですでに大部分の発酵が終了していることを示唆している。
【0103】
従って、上水汚泥の堆肥化は、下水汚泥堆肥を副資材として用いることで、第2回目の切り返し(第三次発酵)で極めて良好な完熟バイオ植栽培養土に仕上がることが明らかとなった。すなわち、仕込んでからわずか36日(約1ヶ月)と極めて短期間に安全で良質な完熟バイオ植栽培養土を製造できることを意味している。
【符号の説明】
【0104】
1 発酵槽
2 脱臭装置
3a 下水汚泥ホッパ
3b 上水汚泥ホッパ
4 副資材ホッパ
5 種菌ホッパ
6 混合機
7,8 コンベア
9 発酵槽用ブロワ
10 自動袋詰機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Anoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)により、下水汚泥と木材廃棄物とを混合した原料混合物からなる下水汚泥堆肥と、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる上水汚泥とを混合し、発酵させてなる植栽培養土。
【請求項2】
請求項1の植栽培養土において、さらに軽量資材が混合されていることを特徴とする請求項1記載の植栽培養土。
【請求項3】
Anoxybacillus sp.(アノキシバシラス)MS8株(受託番号FERM P-21818)により、下水汚泥と木材廃棄物とを混合した原料混合物である下水汚泥堆肥を生成する第1工程と、
前記下水汚泥堆肥と、上水場の沈殿池の沈殿物として得られる上水汚泥とを混合して中間混合物を生成する第2工程と、
前記混合物を再度発酵させて植栽培養土を生成する第3工程と、
を備えたことを特徴とする植栽培養土の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、
前記下水汚泥堆肥2体積部以上5体積部以下と、前記上水汚泥8体積部以下5体積部以上とを、合計で10体積部となる割合で混合することを特徴とする請求項3記載の植栽培養土の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程において、
前記中間混合物の発酵は、好気状態で行うことを特徴とする請求項3又は4記載の植栽培養土の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、
前記原料混合物の発酵は、好気状態で行うことを特徴とする請求項3乃至5の何れか一記載の植栽培養土の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−24569(P2011−24569A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141058(P2010−141058)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(301033293)
【出願人】(509176488)株式会社守恒造園建設 (2)
【Fターム(参考)】