説明

植物におけるインスリンの製造方法

植物においてインスリンを製造する方法を開示する。1つの態様において、本発明は、(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階を含む、植物においてインスリンを発現させる方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、植物遺伝子操作方法およびインスリンの製造に関する。より具体的には、本発明は、植物の種子におけるインスリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
インスリンは、ヒトを含む哺乳動物および他の脊椎動物において血糖恒常性を維持するために必要とされる重要なペプチドホルモンである。健常個体では、血糖レベルの増加が膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを分泌させる。次いで、インスリンポリペプチドは、筋肉、肝臓、および脂肪組織に存在する特異的受容体に結合し、これらの標的組織によるグルコース取り込みの増加、代謝の増加、肝臓のグルコース産生の減少を引き起こす。これらの応答の累積効果は、血糖濃度を一定レベルに保つ役目を果たす。
【0003】
糖尿病に罹患した個体では、異常に低いインスリン濃度が慢性高血糖として現れる。慢性高血糖の臨床症状は多様であり、これには失明、腎不全が含まれ、治療しないまま放置しておくと最終的に死に至る。推定によれば、先進国では、糖尿病は心疾患および癌に次いで死亡原因の第3位である(Barfoed, H.C., 1987, Chem. Eng. Prog. 83:49-54)。細胞による血糖の効率的な取り込みおよび代謝を可能にするため、糖尿病個体はインスリンの定期的投与によって処置され得る。世界の人口の約0.7%が、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)に罹患している(Winter, J. et al., 2000, J. of Biotechnol. 84:175-185)。さらに、糖尿病と診断される個体の数は、今後25年間で約3億人に倍増すると推定されている(Kjeldsen, T. et al., 2001, Biotechnol. Gen. Eng. Rev. 18:89-121)。したがって、予想されるインスリンに対する世界需要の増大を満たすために、大量のヒトインスリンをコスト効率よく製造する能力が大いに望まれる。
【0004】
インビボでは、ヒトインスリンポリペプチドは、膵β細胞によって単一の110アミノ酸ポリペプチド鎖前駆体、プレプロインスリンとして産生され、プレプロインスリンは、鎖の生合成の完了直後に切断されるN末端に位置する24アミノ酸プレ配列を含む(Steiner, D.F. 2000. J. Ped. Endocrinol, Metab. 13:229-239)。プロインスリンは、結合ペプチド(C-ペプチド)によって連結されたB鎖およびA鎖からなる。分泌のためにホルモンがパッケージングされる過程において、C-ペプチドは切断され、プロホルモン転換酵素、PC2およびPC1/PC3によって除去される(Steiner, D.F. 2000. J. Ped. Endocrinol. Metab. 13:229-239)。残るのは、2つの鎖間ジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチド鎖、A(21アミノ酸長)およびB(30アミノ酸長)からなる51アミノ酸のタンパク質である成熟ヒトインスリンである。さらに、A鎖は1つの鎖内ジスルフィド結合を含む。
【0005】
ヒトインスリンは、種々の異なる方法を用いて調製されている。組換えによりインスリンを生産するには、通常、大腸菌(Escherichia coli)(Frank et al., 1981, Peptides: Proceedings of the 7th American Peptide Chemistry Symposium (Rich & Gross, eds.), Pierce Chemical Co., Rockford. III pp 729-739;Chan et al., 1981, Proc Natl. Acad. Sci. USA 78: 5401-5404)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(Thim et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 6766-6770)等の微生物が用いられる。Wang et al(Biotechnol. Bioeng., 2001, 73:74-79)は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の菌類もまたインスリン生産に適していることを示した。別の製造選択肢には、非ヒト哺乳動物細胞株での生産(Yanagita, M., et al., 1992, FEBS Lett 311:55-59)、ヒト膵臓からの単離、ペプチド合成、またはブタおよびウシインスリンからヒトインスリンへの半合成変換が含まれる。しかし、これらの方法はすべて、所望するよりも収量が低くかつコストが高い。
【0006】
組換えタンパク質を大量生産するためのバイオリアクターとしての植物の使用は周知であり、ヒト治療タンパク質を含む多くのタンパク質が生産されている。例えば、米国特許第4,956,282号、米国特許第5,550,038号、および米国特許第5,629,175号は、植物におけるγ-インターフェロンの生産について開示している;米国特許第5,650,307号、米国特許第5,716,802号、および米国特許第5,763,748号は、植物におけるヒト血清アルブミンの生産について詳述しており、米国特許第5,202,422号、米国特許第5,639,947号、および米国特許第5,959,177号は、植物における抗体の生産に関する。植物に基づく組換えタンパク質生産系によってもたらされる顕著な利点の1つは、植物を栽培する面積を増やすことによって、タンパク質の生産を安価に拡大して大量のタンパク質を提供することができる点である。それに反して、発酵系および細胞培養系は、大きな空間、設備、およびエネルギー必要量を有し、生産の拡大にはコストがかかる。しかし、バイオリアクターとしての植物の使用が十分に立証されているにもかかわらず、また上記した予測される大量のインスリンの必要性の増大にもかかわらず、先行技術は、植物においてインスリン産生を確実にもたらす限られた数の方法を提供しているに過ぎない(Arakawa et al. Nature Biotech., 1998, 16: 934-938;PCT01/72959を参照されたい)。
【0007】
Arakawaらは、トランスジェニックジャガイモ植物の塊茎における、インスリンを含む融合タンパク質の生産について開示している。しかし、インスリンは、トランスジェニック塊茎中に存在する全可溶性タンパク質含量の最大でも0.05%を表すに過ぎない。全可溶性タンパク質の0.05%のレベルでは、大量のバイオマスをタンパク質抽出に供さなければならず、ジャガイモ塊茎の使用に付随する生産利益は不利となる。さらに、Arakawaらは、ジャガイモ塊茎組織からのインスリンの単離に取り組んでおらず、その代わり、免疫寛容を誘導することによってI型糖尿病の発症を防ぐアプローチを提案しており、これはトランスジェニックジャガイモ塊茎の摂食によるインスリンの経口投与を含む。
【0008】
国際公開公報第01/72959号は、トランスジェニックタバコの葉緑体における、インスリンを含む融合タンパク質の生産について開示している。しかし、その称するところによれば、植物組織中のヒトタンパク質の蓄積レベルに関する欠点に取り組んではいるものの、国際公開公報第01/72959号が関係する発明は、葉緑体での産生が緑色組織、主としてタバコ葉へのインスリンの蓄積に帰着することに限定される。緑色組織は水分含量が比較的高いため、大量のバイオマスを処理しなくてはならない。さらに、葉材料は貯蔵した場合に急速に変質するため、インスリンの生産は、収穫後直ちにバイオマスから抽出する必要がある。
【0009】
したがって、先行技術によって提供される植物におけるインスリンの組換え生産に関する方法に付随する欠点を考慮すると、植物の合成能を植物におけるインスリンの商業生産を達成するために利用し得るかどうか、およびいかにして利用し得るかは現在のところ不明である。植物においてインスリンを商業生産するための方法を改善する必要性が、当技術分野には存在する。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、植物におけるインスリン生産のための改善法に関する。特に、本発明は、種子におけるインスリンの生産方法に関する。
【0011】
したがって、本発明は、以下の段階を含む、植物においてインスリンを発現させる方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【0012】
本発明の好ましい態様において、植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列は、ファゼオリンプロモーター等の種子選択的プロモーターである。
【0013】
本発明の好ましい態様では、種子細胞内の膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドが蓄積され得る様式で、インスリンが発現される。したがって、本発明は、以下の段階を含む、植物においてインスリンを発現させる方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列、および
(iii) 膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【0014】
本発明のさらに好ましい態様においては、膜に囲まれた細胞内区画は、小胞体(ER)または小胞体由来貯蔵小胞である。したがって、本発明は、以下の段階を含む、植物においてインスリンを発現させる方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列、
(iii) ERまたはER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【0015】
さらに好ましい態様では、キメラ核酸構築物は、核ゲノム組み込み条件下で植物細胞に導入される。そのような条件下では、キメラ核酸配列は、植物のゲノム中に安定に組み込まれる。
【0016】
さらに好ましい態様では、インスリンをコードする配列は植物コドン使用に関して最適化され、結合ペプチド(C-ペプチド)をコードする核酸配列は短縮される。本発明に従って用いられる好ましい核酸配列は、ヒト、ウシ、またはブタインスリンをコードする。本発明に従って、C-ペプチドの長さが短縮される点で改変されたプロインスリン配列をコードする核酸配列が用いられる。
【0017】
別の局面において、本発明は、インスリンを含む植物種子を回収する方法を提供する。したがって、本発明に準じて、以下の段階を含む、インスリンを含む植物種子を取得する方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;
(c) 植物細胞を、種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階;ならびに
(d) インスリンを含む種子を植物から採取する段階。
【0018】
好ましくは、種子中に存在する全種子タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンである。
【0019】
この種子を用いて、それぞれがインスリンを発現する複数の種子を含む子孫植物の集団を取得することができる。
【0020】
本発明はまた、インスリンを発現する種子を生じることができる植物を提供する。本発明の好ましい態様において、種子を生じることができる植物は、5'から3'方向の転写において、以下のものを含むキメラ核酸配列を含み、種子はインスリンを含む:
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列;
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列。
【0021】
好ましくは、種子中に存在する全種子タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンである。
【0022】
好ましい態様において、キメラ核酸配列は植物の核ゲノム中に組み込まれる。
【0023】
本発明のさらに好ましい態様において、用いられる植物は、ベニバナ、アマ植物、またはシロイヌナズナ(アラビドプシス(Arabidopsis))植物である。
【0024】
さらに別の局面において、本発明は、インスリンを発現する植物種子を提供する。本発明の好ましい態様において、植物種子は、5'から3'方向の転写において、以下のものを含むキメラ核酸配列を含む:
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列;
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列。
【0025】
種子中に存在する全種子タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンであることが好ましい。種子は所望のインスリンポリペプチドの供給源であり、インスリンポリペプチドは種子細胞によって合成され、抽出され得、このインスリンを用いて糖尿病患者を処置することができる。
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から容易に明らかになると考えられる。しかし、詳細な説明および特定の実施例は本発明の好ましい態様を示すものの、単に説明の目的で提供されることが理解されるべきである。何故なら、この詳細な説明から、本発明の精神および範囲内での種々の変更および修正が当業者に容易に明らかになるからである。
【0027】
本発明を図面に関してさらに説明する。
【0028】
発明の詳細な説明
本明細書において上記したように、本発明は、トランスジェニック植物におけるインスリン生産のための改良された方法に関する。本発明者らは驚いたことに、植物の種子中でインスリンを組換え生産することによって、全細胞タンパク質の0.1%を超えるインスリン蓄積レベルが植物において達成され得ることを見い出した。この発現レベルはこれまでに達成されていたレベルの少なくとも10倍高いレベルであり、これによって生存植物におけるインスリンの商業生産が提供される。インスリンは所蔵種子からの抽出に際してその活性を保持するため、種子での生産によって、原料としてのインスリンの貯蔵および輸送の柔軟性が提供される。さらに、植物種子中に存在する水分含量は比較的低いため、抽出に供される必要のあるバイオマス量が限定される。
【0029】
したがって、本発明に準じて、植物におけるインスリン発現の方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【0030】
本発明に従って、驚くべきことに、膜に囲まれた細胞内区画中に種子細胞内のインスリンポリペプチドを隔離し得る様式で、インスリンを種子内で発現させた場合に、植物種子中にこれまでに達成されていなかったレベルまでインスリンが蓄積することが見い出された。したがって、本発明に準じて、植物においてインスリンを発現させる好ましい方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
(iii) 膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【0031】
用語および定義
別に定義する場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味をもつ。許容される場合、本開示において言及するすべての特許、出願、特許出願、および他の刊行物、ならびにGenBank、SwissPro、および他のデータベースによる核酸およびポリペプチド配列は、その全体が参照により組み入れられる。
【0032】
本明細書で用いる「核酸配列」という用語は、天然の塩基、糖、および糖間(骨格)結合からなるヌクレオチドまたはヌクレオシド単量体の配列を指す。この用語には、非天然単量体またはその一部を含む修飾配列または置換配列もまた含まれる。本発明の核酸配列はデオキシリボ核酸配列(DNA)またはリボ核酸配列(RNA)であってよく、アデニン、グアニン、シトシン、チミジン、およびウラシルを含む天然塩基を含み得る。配列は修飾塩基を含んでもよい。そのような修飾塩基の例には、アザおよびデアザアデニン、グアニン、シトシン、チミジン、ならびにウラシル;ならびにキサンチンおよびヒポキサンチンが含まれる。
【0033】
「インスリンをコードする核酸配列」および「インスリンポリペプチドをコードする核酸配列」という用語は互換的に用いられ得り、表1に記載するインスリンポリペプチド(配列番号:7〜145)、同様に任意の哺乳動物インスリンポリペプチド、ならびにプロインスリンおよびプレプロインスリンをコードする任意の核酸配列を含む、インスリンポリペプチドをコードする任意のあらゆる核酸配列を指す。本明細書で用いる「プロインスリン」は、Bインスリンポリペプチド鎖とAインスリンポリペプチド鎖を連結する結合ペプチドまたは「C-ペプチド」を含むインスリンポリペプチドを指す。天然のヒトインスリンでは、C-ペプチドは、残基B30を残基A1に結合する31アミノ酸残基ポリペプチド鎖である。「プレプロインスリン」という用語は、翻訳がERリボソーム上で起こるように導くN末端シグナル配列をさらに含むプロインスリン分子を指す。インスリンポリペプチドをコードする核酸配列にはさらに、(i) 本明細書に記載のインスリンポリペプチド配列と実質的に同一であるポリペプチドをコードするか;または(ii) 少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で本明細書に記載の任意の核酸配列とハイブリダイズするか、もしくは同義コドンの使用以外は、少なくとも中程度にストリンジェントな条件下でそれらにハイブリダイズする任意のあらゆる核酸配列が含まれる。
【0034】
「実質的に同一である」という用語は、2つのポリペプチド配列が好ましくは少なくとも75%同一である、より好ましくは少なくとも85%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一である、例えば96%、97%、98%、または99%同一であることを意味する。2つのポリペプチド配列間の同一性の割合を決定するには、好ましくはClustal Wアルゴリズム(Thomson, JD, Higgins DG, Gibson TJ, 1994, Nucleic Acids Res. 22 (22): 4673-4680)を、BLOSUM 62スコアリング行列(Henikoff S. and Henikoff J.G., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)ならびにギャップオープニングペナルティー10およびギャップ伸長ペナルティー0.1と共に用いて、一方の配列の全長の少なくとも50%がアラインメントに関与した場合に2つの配列間で最上位の一致が得られるように、そのような2つの配列のアミノ酸配列をアラインする。配列をアラインするために使用し得る他の方法は、2つの配列間で最上の一致が得られ、2つの配列間で同一アミノ酸の数が決定されるようにSmithおよびWaterman(Adv. Appl. Math., 1981, 2: 482)によって修正された、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol., 1970, 48: 443)のアライメント方法である。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性を計算する他の方法は一般に理解されており、これには例えば、CarilloおよびLipton(SIAM J. Applied Math., 1988, 48:1073)によって記載されている方法、およびComputational Molecular Biology, Lesk e.d. Oxford University Press, New York, 1988, Biocomputing: Informatics and Genomics Projectsに記載される方法が含まれる。一般に、このような計算にはコンピュータプログラムが用いられる。この関連において使用し得るコンピュータプログラムには、GCG(Devereux et al., Nucleic Acids Res., 1984, 12: 387)、BLASTP、BLASTN、およびFASTA(Altschul et al., J. Molec. Biol., 1990: 215: 403)が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
「少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、溶液中での2つの相補的な核酸分子間の選択的ハイブリダイゼーションを促進する条件が選択されることを意味する。ハイブリダイゼーションは、核酸配列分子のすべてまたは一部に対して起こり得る。ハイブリダイズする部分は典型的に、少なくとも15(例えば、20、25、30、40、または50)ヌクレオチド長である。当業者は、核酸二本鎖またはハイブリッドの安定性が、ナトリウム含有緩衝液中でナトリウムイオン濃度および温度の関数であるTmによって決まることを理解すると考えられる(Tm = 81.5℃ - 16.6(Log10 [Na+]) + 0.41(%(G+C) - 600/l)、また類似の式)。したがって、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件におけるパラメータは、ナトリウムイオン濃度および温度である。既知核酸分子と類似しているが同一ではない分子を同定するには、1%ミスマッチがTmの約1℃減少をもたらすと仮定することができ、例えば>95%同一性を有する核酸分子を探索する場合には、最終洗浄温度を約5℃下げることになる。これらの考慮に基づき、当業者は、適切なハイブリダイゼーション条件を容易に選択し得ると考えられる。好ましい態様では、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件が選択される。一例として、以下の条件を用いてストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成し得る:上記の式に基づいたTm - 5℃における5 x 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5 x デンハルト溶液/1.0% SDSでのハイブリダイゼーション、およびその後の60℃における0.2 x SSC/0.1% SDSの洗浄。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、42℃での3 x SSCでの洗浄段階を含む。しかしながら、別の緩衝液、塩、および温度を用いて、同等のストリンジェンシーを達成し得ることが理解される。ハイブリダイゼーション条件に関するさらなる手引きは、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y., 1989, 6.3.1-6.3.6、およびSambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol.3に見い出し得る。
【0036】
本明細書で用いる「インスリン」および「インスリンポリペプチド」という用語は、本明細書において互換的に用いられることができ、表1に記載するインスリンポリペプチド(配列番号:7〜145)、ならびに(i) 本明細書に記載の任意のインスリンポリペプチドを構成するアミノ酸配列と実質的に同一であるか;または(ii) 少なくとも中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載のインスリンをコードする任意の核酸配列とハイブリダイズし得るか、もしくは同義コドンの使用以外は、少なくとも中程度にストリンジェントな条件下で本明細書に記載のインスリンをコードする任意の核酸配列とハイブリダイズし得る核酸配列によってコードされる、アミノ酸残基の配列を含むポリペプチド分子を含む、任意のあらゆるインスリンポリペプチドを指す。インスリンおよびインスリンポリペプチドという用語は、プロインスリンポリペプチドおよびミニインスリンポリペプチドを含む。インスリンポリペプチドは、ヒト、ブタ、またはウシ起源のものであることが好ましい。
【0037】
本明細書で用いる「膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチド」という用語は、インスリンポリペプチドに連結された場合に、膜に囲まれ、植物細胞の原形質膜によって規定される植物細胞の細胞内空間内に位置する細胞下構造中にインスリンポリペプチドを隔離し得る任意のポリペプチドを指す。
【0038】
本明細書で用いる「ERまたはER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチド」という用語は、インスリンポリペプチドに連結された場合に、植物細胞内の小胞体、または例えば油体のような小胞体に由来する貯蔵区画中にインスリンポリペプチドを隔離し得る任意のポリペプチドを指す。
【0039】
本明細書で用いる「油体(oil body)」または「油体(oil bodies)」という用語は、植物種子細胞中の任意の油または脂肪貯蔵細胞小器官を指す(例えば:Huang (1992) Ann. Rev. Plant Mol. Biol. 43:177-200に記載されている)。
【0040】
核酸配列との関連において本明細書で用いる「キメラ」という用語は、天然では連結されていない、少なくとも2つの連結された核酸配列を指す。キメラ核酸配列は、異なる天然起源の連結された核酸配列を含む。例えば、ヒトインスリンをコードする核酸配列に連結された植物プロモーターを構成する核酸配列はキメラであると見なされる。キメラ核酸配列はまた、天然で連結されていないならば、同じ天然起源の核酸配列を含み得る。例えば、特定の細胞種から得られるプロモーターを構成する核酸配列を、同じ細胞種から得られるポリペプチドをコードするが、通常はプロモーターを構成する核酸配列に連結されていない核酸配列に連結することができる。キメラ核酸配には、任意の非天然核酸配列に連結された任意の天然核酸配列を含む核酸配列もまた含まれる。
【0041】
インスリンおよび植物種子細胞における発現を調節することができるプロモーターをコードするキメラ核酸配列を含む組換え発現ベクターの調製
本明細書に提供する方法および組成物に従って使用され得るインスリンをコードする核酸配列は、任意のプロインスリンおよびプレプロインスリンを含む、インスリンポリペプチドをコードする任意の核酸配列であってよい。
【0042】
インスリンをコードする例示的な核酸配列は当技術分野では周知であり、一般に、ヒト(Bell, G.I. et al., 1980, Nature 284:26-32)、ブタ(Chance, R.E. et al., 1968, Science 161:165-167)、ウシ(D'Agostino, J. et al., 1987, Mol. Endocrinol. 1:327-331)、ヒツジ(Peterson, J.D. et al., 1972, Biol. Chem. 247:4866-4871)等を含む多種多様な哺乳動物供給源、および植物供給源(Oliveira, A.E.A. et al., 1999, Protein Pept. Lett. 6:15-21)から容易に得られることができる。使用可能なインスリンコード配列には、配列番号:7〜配列番号:145に記載のポリペプチド鎖をコードする配列が含まれる。インスリンポリペプチド鎖をコードするそれぞれに相当する核酸配列は、表1に提供されるSwiss Protein識別番号により容易に同定することができる。これらの核酸配列を用いて、当業者に周知の技法により、さらなる新規インスリンをコードする核酸配列を容易に同定することが可能である。例えば、発現ライブラリー、cDNAライブラリー、およびゲノムライブラリー等のライブラリーをスクリーニングすることができ、また配列決定プロジェクトによる配列情報を含むデータベースを類似の配列に関して検索することができる。インスリンポリペプチドをコードするさらなる核酸配列を単離するための別の方法を用いてもよく、新規配列を発見し、本発明に従ってこれを使用することができる。好ましい態様において、インスリンをコードする核酸配列は、ヒト、ブタ、およびウシインスリンである。
【0043】
多くのインスリン類似体が先行技術では周知であり(例えば、米国特許第5,461,031号;米国特許第5,474,978号;米国特許第5,164,366号;および米国特許第5,008,241号を参照のこと)、これらを本発明に従って用いることができる。本明細書において使用し得る類似体には、B鎖のアミノ酸残基28(B28)が天然のプロリン残基からアスパラギン酸、リジン、またはイソロイシンに変化したヒトインスリン分子が含まれる。別の態様では、B29におけるリジン残基がプロリンに改変される。さらに、A21におけるアスパラギンが、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、またはバリンに変更されてもよい。同様に、B3におけるアスパラギンはリジンに改変されてもよい。本発明で使用し得るインスリン類似体のさらなる例には、以下が含まれる:「desB30」または「B(1-29)」とも称される場合が多い、B30残基を欠くヒトインスリン;最後の3アミノ酸を欠くインスリン「B(1-27)」;B1におけるフェニルアラニン残基を欠くインスリン分子;およびA鎖またはB鎖がN末端またはC末端伸長を有する類似体、例えば、B鎖のN末端が2つのアルギニン残基の付加によって伸長され得る。
【0044】
好ましい態様において、使用されるインスリンをコードする核酸配列はプロインスリンである。さらに好ましい態様においては、その天然型と比較してC-ペプチドが改変されたインスリンをコードする核酸配列分子が用いられる。C-ペプチド中のアミノ酸残基は置換され得、またC-ペプチドは延長されても、または短縮されてもよい。この点に関して、本明細書で用いる「ミニインスリン」という用語は、改変されて、その結果C-ペプチドの長さがその天然型と比較して短縮されたインスリンポリペプチドを指す。好ましい態様では、ミニインスリンが用いられる。好ましくは、ミニインスリン分子のC-ペプチドは20アミノ酸残基より短くなり、より好ましくは15アミノ酸残基より短くなり、最も好ましくは9アミノ酸残基より短くなり、例えば7残基、5残基、または3残基となる。好ましくは、天然インスリン分子の場合と同様に、ミニインスリンC-ペプチドは、そのC末端およびN末端において切断部位を含むことになる。そのような切断部位は、当技術分野で周知である任意の簡便な部位であってよく、例えば、臭化シアンによって切断可能なメチオニン、トリプシンもしくはトリプシン様プロテアーゼによって、またはカルボキシペプチダーゼによって切断可能な単一の塩基性残基または塩基性残基対であってよい。例えば、C-ペプチドは、C末端リジン(例えば、Ala-Ala-Lys(配列番号:146))、またはGlyA1残基の直前の二塩基性のプロセシング部位(例えば、Asn-Lys-Arg(配列番号:147)またはArg-Arg-Lys-Gln-Lys-Arg(配列番号:148))もしくはGlyA1残基の直前の四塩基性のプロセシング部位(例えば、Arg-Arg-Lys-Arg(配列番号:149))を含み得る。したがって、本発明に係る使用可能なミニインスリン分子は、以下の式
B(1-29/30)-X1-X2-X3-Y1-A(1-21)
を含み、
式中、
X1は任意のアミノ酸配列であり;
X2は任意のアミノ酸配列であり;
X3はLysまたはArgであり;
Y1はペプチド結合または1〜17アミノ酸残基であり;
B(1-29/30)は、アミノ酸残基1〜29または1〜30を含むヒトインスリンB鎖のB鎖であり;および
A(1-21)は、アミノ酸残基1〜21を含むヒトインスリンA鎖のA鎖である。
【0045】
好ましい態様において、X1は塩基性アミノ酸残基(LysまたはArg)であり、Y1はペプチド結合またはC末端残基が塩基性アミノ酸残基(LysまたはArg)である1〜17アミノ酸残基のいずれかである。
【0046】
さらに、本明細書において使用可能なミニインスリン分子は、以下の式
B(1-27)-X2-X3-X1-Y-A(1-21)
によって表され得る分子を含み、
式中、
X1は、少なくとも1つの芳香族アミノ酸残基を含む1〜8アミノ酸残基のペプチドであり;
X2は、B鎖の28位においてPro、Asp、Lys、またはIleの1つであり;
X3は、B鎖の29位においてPro、Lys、Ala、Arg、またはPro-Thrの1つであり;
Y1はLysまたはArgであり;
B(1-27)は、アミノ酸残基1〜27を含むヒトインスリンB鎖のB鎖であり;および
A(1-21)は、アミノ酸残基1〜21を含むヒトインスリンA鎖のA鎖である。
【0047】
本発明に従って使用し得るミニインスリンポリペプチドをコードする核酸分子のさらなる例には、Markussen et al., Walter de Gruyter &Co. 1987: Peptides pp 189-194;Thim et al., 1989: Genetics and molecular biology of industrial microorganisms, American Society for Microbiology pp 322-328に記載されている核酸分子;ならびに米国特許第4,916,212号;米国特許第5,324,641号;および米国特許第6,521,738号に記載されている核酸分子が含まれる。インスリン類似体を調製するためのインスリンをコードする核酸配列の改変は、例えば、部位特異的突然変異誘発、標的突然変異誘発、ランダム変異導入法、有機溶媒の添加、遺伝子シャフリング、またはこれらの組み合わせ、および当業者に周知である他の技法を含む、当業者に周知の種々の核酸改変技法を用いて行われ得る(Shraishi et al., 1988, Arch. Biochem. Biophys, 358: 104-115;Galkin et al., 1997, Protein Eng. 10: 687-690;Carugo et al., 1997, Proteins 28: 10-28;Hurley et al., 1996, Biochem, 35 : 5670-5678;Holmberg et al., 1999, Protein Eng. 12 : 851-856)。
【0048】
本発明に従って、驚くべきことに、好ましくは膜に囲まれた細胞内区画中に種子細胞内のインスリンポリペプチドが隔離される様式で、インスリンを種子内で発現させた場合に、植物種子中にこれまでに達成されていなかったレベルまでインスリンが蓄積することが見い出された。本発明の好ましい態様において、インスリンポリペプチドはERまたはER由来貯蔵小胞中に隔離される。ERまたはER由来貯蔵小胞中へのインスリンのそのような隔離を達成するには、本発明に従って、インスリンをコードするポリペプチドを、ERの外部、例えばアポプラストに輸送するよりもむしろERまたはER由来貯蔵小胞中にインスリンを保持するポリペプチドに連結する。インスリンポリペプチドをER中に保持するために本発明に従って使用し得るポリペプチドには、ER中にインスリンを隔離し得る任意のポリペプチドが含まれる。そのようなポリペプチドは合成することもできるし、または任意の生物供給源から得ることもできる。本発明の好ましい態様において、インスリンを保持することができるポリペプチドは、C末端ER保持モチーフを含むポリペプチドである。そのようなC末端ER保持モチーフの例には、KDEL、HDEL、DDEL、ADEL、およびSDEL配列(それぞれ配列番号:150〜154)が含まれる。他の例には、HDEF(配列番号:155)(Lehmann et al., 2001. Plant Physiol 127(2): 436-49.)、または2位および3位、3位および4位、もしくは4位および5位に位置するN末端に近接した2つのアルギニン残基(Plant Biology 2001 Program, ASPB, July 2001, Providence, Rhode Island, USAの抄録)が含まれる。C末端ER保持モチーフをコードする核酸配列は、ER中にインスリンを保持することができるポリペプチドをインスリンポリペプチドのC末端に連結する様式で、インスリンポリペプチドをコードする核酸配列に連結することが好ましい。
【0049】
ER由来貯蔵小胞中へのインスリンポリペプチドの隔離を達成するには、インスリンポリペプチドを、ER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドに連結する。本明細書の方法に従って使用可能な、ER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドは、ER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを隔離し得る任意のポリペプチドであってよい。ER由来貯蔵小胞中にインスリンを保持することができるポリペプチドは、合成することもできるし、または任意の生物供給源から得ることもできる。好ましい態様において、ER由来貯蔵小胞は油体であり、ER由来貯蔵小胞中にインスリンポリペプチドを保持することができる油体タンパク質またはその十分な部分に、インスリンポリペプチドを連結する。この関連で使用し得る油体タンパク質には、天然で油体に付随する任意のタンパク質が含まれる。特に好ましい油体タンパク質は、オレオシン(oleosin)(例えば、アラビドプシスオレオシン(van Rooijen et al. (1991) Plant Mol Biol. 18: 1177-1179)、トウモロコシオレオシン(Bowman-Vance et al., 1987, J. Biol. Chem. 262: 11275-11279;Qu et al., 1990, J. Bio. Chem. 265: 2238-2243)、ニンジンオレオシン(Hatzopoulos et al. (1990) Plant Cell 2: 457-457)、またはアブラナ属(Brassica)オレオシン(Lee et al., 1991, Plant Physiol. 96: 1395-1397))、カレオシン(caleosin)(例えば、Genbankアクセッション番号AF067857を参照のこと)、およびステロレオシン(steroleosin)(Lin et al., 2002 Plant Physiol. 128(4):1200-11)である。さらなる好ましい態様においては、油体タンパク質は植物オレオシンであり、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)(配列番号:156)またはアブラナ(ブラシカ・ナプス(Brassica napus))(配列番号:157)から単離されるオレオシンのような他の植物オレオシンと配列類似性を共有する。別の態様において、油体タンパク質は、植物、真菌、または他の供給源に由来するカレオシンまたはカルシウム結合タンパク質であり、アラビドプシス・サリアナから単離されたカレオシン(配列番号:158および配列番号:159)のような植物カレオシンと配列相同性を共有する。別の態様において、油体タンパク質は、ステロレオシン(配列番号:160)、ステロール結合脱水素酵素(Lin L-J et al, (2002) Plant Physiol 128: 1200-1211)である。インスリンをコードするポリペプチドは、油体タンパク質のN末端およびC末端、ならびに油体タンパク質の断片(例えばオレオシンの中央部ドメイン)に連結することができる。新規油体タンパク質は、例えば油体を調製し(油体を調製する方法に関しては、例えば米国特許第6,650,554号を参照のこと)、例えばSDSゲル電気泳動により油体調製物中のタンパク質を同定することによって発見され得る。これらのタンパク質に対してポリクローナル抗体を作製し、油体タンパク質をコードする核酸配列を同定するために、これを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。新規油体タンパク質はさらに、油体タンパク質の存在について例えばcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーをプロービングするために、油体タンパク質をコードする既知核酸配列を用いて、例えば本明細書において上記した油体タンパク質をコードする油体タンパク質配列を用いて発見され得る。
【0050】
ERまたはER由来貯蔵細胞小器官中にインスリンを保持することができるポリペプチドは典型的に切断されず、インスリンは融合タンパク質の形態で蓄積し得り、このことは、ER中にポリペプチドを保持するためにKDEL保持シグナルを用いた場合、またはER由来貯蔵細胞小器官中にポリペプチドを保持するために油体タンパク質を用いた場合に典型的である。
【0051】
キメラ核酸配列は、核酸配列を内膜系に標的する核酸配列(「シグナルペプチド」)を含んでもよい。KDEL、HDEL、またはSDELポリペプチドのようなER中にポリペプチドを保持することができる配列を用いて、ER中にインスリンポリペプチドが保持される本発明の態様においては、シグナルペプチドをコードする核酸配列を含めることが特に望ましい。本明細書において使用し得る例示的なシグナルペプチドには、タバコ病原性関連タンパク質(PR-S)シグナル配列(配列番号:161)(Sijmons et a., 1990, Bio/technology, 8:217-221)、レクチンシグナル配列(Boehn et al., 2000, Transgenic Res, 9(6):477-86)、インゲンマメ(ファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris))に由来するヒドロキシプロリンリッチ糖タンパク質のシグナル配列(Yan et al., 1997, Plant Phyiol. 115(3);915-24、およびCorbin et al., 1987, Mol Cell Biol 7(12):4337-44)、ジャガイモパタチンシグナル配列(Iturriaga, G et al., 1989, Plant Cell 1:381-390、およびBevan et al., 1986, Nuc. Acids Res. 41:4625-4638)、およびオオムギαアミラーゼシグナル配列(Rasmussen and Johansson, 1992, Plant Mol. Biol. 18(2):423-7)が含まれる。そのような標的シグナルはインビボでインスリン配列から切断され得、このことは例えば、タバコ病原性関連タンパク質-S(PR-S)シグナル配列(Sijmons et al., 1990, Bio/technology. 8:217-221)のようなアポプラスト標的シグナルを用いる場合に典型的である。他のシグナルペプチドを、種々の生物に由来するアミノ酸配列中のシグナルペプチド切断部位の存在および位置を予測するSignalP World Wide Webサーバー(http://www.cbs/dtu.dk/services/SignalP/)を用いて予測することができる。概して、一般的な生理化学的特性はある程度保存されているが、一次アミノ酸配列はほとんど保存されていない。シグナルペプチドの遺伝子構造は3つの領域を含み、短いアミノ末端「n-領域」は正荷電残基を含み、中央の疎水性「h-領域」の大きさは7〜15アミノ酸であり、カルボキシ末端「c-領域」は極性アミノ酸および膜結合シグナルペプチダーゼ酵素によって認識される切断部位を含む(Nakai K., 2000, Advances in Protein Chem 54:277-344)。同様に本明細書に従って使用し得る標的シグナルには、天然のインスリンシグナル配列(ヒト配列の場合には24アミノ酸長)が含まれる。本明細書の好ましい態様では、本明細書において上記したタバコPR-S配列等のN末端に位置するアポプラスト標的配列を、KDEL配列等のC末端に位置するER保持配列と組み合わせて用いる。
【0052】
さらなる好ましい態様においては、酵母α因子リーダー配列をコードする核酸配列を、インスリンをコードする核酸配列のN末端に連結する。本明細書に従って使用し得る酵母リーダー配列または酵母リーダー配列に由来する配列には、配列番号:162〜配列番号:171に記載される配列が含まれる(Kjeldsen et al., 2001, Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 18: 89-121)。このようなリーダー配列は、リーダー配列をコードする核酸のC末端およびインスリンをコードする配列のN末端に位置するスペーサーペプチドをさらに含み得る。本明細書に従って、そのようなスペーサー配列は典型的に2〜20アミノ酸長である。したがって、例えば、スペーサー配列、配列番号:172および配列番号:173(Kjeldsen et al., 2001, Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 18: 89-121)を用いることができる。酵母リーダー配列を用いる本発明の態様において、インスリンポリペプチドをコードする核酸は、好ましくはミニインスリンポリペプチドである。本明細書に従って、特に好ましい態様では、酵母分泌リーダーペプチドをコードする核酸配列に連結された一本鎖抗体をコードする核酸配列が、本明細書の実施例1にさらに記載するように用いられる。
【0053】
キメラ核酸配列はまた、N末端および/またはC末端安定化タンパク質伸長をもたらすポリペプチドを含んでもよい。このような伸長を用いて、インスリンポリペプチド鎖の折りたたみを安定化および/または補助することができ、さらにこれを用いてインスリンの精製を容易にすることができる。この関連で使用し得るポリペプチド伸長には、例えば、一本鎖抗体をコードする核酸配列、Affibody(登録商標)分子(Affibody AB)をコードする核酸、コレラ毒素(CTB)の非毒性Bサブユニットをコードする核酸配列(Arakawa, T. et al., 1998, Nat. Biotechnol. 16:938)、またはこのようなポリペプチドの組み合わせが含まれる。特に好ましい態様では、インスリンポリペプチドを植物細胞から回収する場合に起こるような植物細胞の完全性の破壊に際して、インスリンポリペプチドと油体との会合を可能にする安定化ポリペプチドと組み合わせて、例えば本明細書で上記したKDEL配列を使用することにより、インスリンポリペプチドはER等の膜に囲まれた区画中に保持される。そのような安定化ポリペプチドの例は、油体に対する特異性を有する一本鎖抗体である。油体に対する特異性を有する一本鎖抗体をコードする核酸は、油体タンパク質に対するモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞株から調製し得る。1つの態様では、Alting-Mees et al. (2000) IBC's International Conference on Antibody Engineering, Poster #1によって記載されるように、一本鎖抗体はオレオシンに特異的に結合する。本明細書の実施例1において、本発明のこの態様をさらに記載する。
【0054】
さらなる態様では、インスリンのN末端の上流およびC末端の下流に切断部位が位置し得り、インスリンポリペプチドの融合パートナーからの切断を可能にし、それによって単離されたインスリンが得られる。このような切断部位の例は、国際公開公報第98/49326号(融合タンパク質の切断に関する方法)および関連出願、ならびにLaVallie et al. (1994) Enzymatic and chemical cleagave of fusion proteins, Current Protocols in Molecular Biology pp 16.4.5-16.4.17, John Wiley and Sons, Inc., New York NYに見い出すことができる。好ましい態様において、切断部位はトリプシンによって切断可能な四塩基性リンカー(例えば、Arg-Arg-Lys-Arg−配列番号:149)である。さらなる好ましい態様においては、切断部位は、キモシンを含むアスパラギン酸プロテアーゼによって切断可能なKLIP 8(配列番号:174)である。
【0055】
本発明はさらに、油体画分を分割し、次いで異種タンパク質−油体タンパク質融合物の特異的切断を介して異種タンパク質を遊離させることによる、宿主細胞成分から異種タンパク質を分離する方法を提供する。任意には、切断部位は異種ポリペプチドのN末端の上流およびC末端の下流に位置してもよく、融合ポリペプチドが切断されて、相分離によりその成分ペプチドに分離されることを可能にする。
【0056】
例えば、インスリンポリペプチドの発現のために選択される特定の植物細胞種の好ましいコドン使用頻度に従って核酸配列を最適化することにより、またはmRNAを不安定化することが知られているモチーフを改変することにより(例えば:PCT特許出願第97/02352号を参照のこと)、インスリンをコードする核酸配列を改変して発現レベルをさらに改良することができる。インスリンポリペプチドをコードする核酸配列のコドン使用頻度を植物細胞種のコドン使用頻度と比較することにより、変更可能なコドンの同定が可能になる。コドンの使用を変更することによる合成遺伝子の構築は、例えばPCT特許出願第93/07278号に記載されている。
【0057】
好ましい態様において、使用されるインスリンをコードする核酸配列は、配列番号:1、配列番号3、配列番号:5、または配列番号:195によって示される。
【0058】
本明細書に従って、インスリンをコードする核酸配列は、植物種子細胞におけるインスリンポリペプチドの発現を調節することができるプロモーターに連結される。したがって、本発明はまた、植物種子細胞における発現を調節することができるプロモーターに連結されたインスリンをコードする核酸配列を提供する。本明細書において使用可能なプロモーターは、当技術分野において一般に理解されると考えられ、これには、植物でのポリペプチドの発現を調節することができる任意の植物由来プロモーターが含まれる。一般に、本明細書に従って双子葉植物が選択される場合には、双子葉植物種から得られるプロモーターが用いられ、単子葉植物種が選択される場合には、単子葉植物プロモーターが用いられることになる。使用し得る構成的プロモーターには、例えば、35Sカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)プロモーター(Rothstein et al., 1987, Gene 53: 153-161)、イネアクチンプロモーター(McElroy et al., 1990, Plant Cell 2: 163-171;米国特許第6,429,357号)、トウモロコシユビキチンプロモーター(米国特許第5,879,903号;米国特許第5,273,894号)およびパセリユビキチンプロモーター(Kawalleck, P. et al., 1993, Plant Mol. Biol. 21:673-684)等のユビキチンプロモーターが含まれる。
【0059】
好ましい態様において、用いられるプロモーターは、種子組織におけるインスリンポリペプチドの優先的発現をもたらすプロモーターである。この関連での「種子選択的プロモーター」とは、好ましくは、成熟植物中に存在する組換えタンパク質の全量の少なくとも80%が種子中に存在するように、組換えタンパク質(すなわちインスリン)の発現を調節するプロモーターである。より好ましくは、成熟植物中に存在する組換えタンパク質の全量の少なくとも90%が種子中に存在する。最も好ましくは、成熟植物中に存在する組換えタンパク質の全量の少なくとも95%が種子中に存在する。この関連において使用し得る種子選択的プロモーターには、例えば、マメファゼオリンプロモーター(Sengupta-Gopalan et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 3320-3324);アラビドプシス18 kDaオレオシンプロモーター(米国特許第5,792,922号)またはアマオレオシンプロモーター(国際公開公報第01/16340号);アマレグミン様種子貯蔵タンパク質(リニン)プロモーター(国際公開公報第01/16340号);アマ2S貯蔵タンパク質プロモーター(国際公開公報第01/16340号);Amy32bプロモーター(Rogers and Milliman, J. Biol. Chem., 1984, 259: 12234-12240)、Amy6-4プロモーター(Kursheed and Rogers, J. Biol. Chem., 1988, 263: 18953-18960)もしくはアリューレイン(Aleurain)プロモーター(Whittier et al., 1987, Nucleic Acids Res., 15: 2515-2535)等の胚乳選択的プロモーター、またはマメアルセリン(alcelin)プロモーター(Jaeger GD, et al., 2002, Nat. Biotechnol. Dec; 20:1265-8)が含まれる。種々の植物において有用な新規プロモーターが常に発見されている。植物プロモーターの多くの例は、Ohamuro et al.(Biochem. of Plants., 1989, 15: 1-82)に見い出すことができる。
【0060】
インスリンポリペプチドの発現を増強し得る特定の遺伝子エレメントを、本明細書において用いることも可能である。これらのエレメントには、AMVリーダー配列(Jobling and Gehrke, 1987, Nature, 325: 622-625)等の特定のウイルスによる非翻訳リーダー配列、およびトウモロコシユビキチンプロモーターに付随するイントロン(米国特許第5,504,200号)が含まれる。一般に、発現を増強し得る遺伝子エレメントがインスリンポリペプチドをコードする核酸配列の5'側に位置するように、キメラ核酸配列を調製することになる。
【0061】
本発明に従って、インスリンポリペプチドをコードする核酸配列に連結された、植物種子における発現を調節することができるプロモーターを含むキメラ核酸配列を、種子細胞中の良好な発現を確実にする組換え発現ベクター中に組み込むことができる。したがって、本発明は、機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、以下のものを含み、種子細胞における発現に適した組換え発現ベクターを含む:
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列;および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列。
【0062】
「種子細胞における発現に適している」という用語は、組換え発現ベクターが、種子細胞における発現を達成するために必要な遺伝子エレメントに連結された、本発明のキメラ核酸配列を含むことを意味する。この関連での発現ベクターに含め得る遺伝子エレメントには、転写終結領域、マーカー遺伝子をコードする1つまたは複数の核酸配列、1つまたは複数の複製開始点等が含まれる。好ましい態様において、発現ベクターは、植物細胞の核ゲノム中へのベクターまたはその一部の組み込みに必要な遺伝子エレメントをさらに含み、例えばこれは、アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて植物細胞を形質転換する本発明の態様における、植物の核ゲノム中への組み込みを促進するT-DNA左ボーダー配列およびT-DNA右ボーダー配列である。
【0063】
本明細書において上記したように、組換え発現ベクターは一般に、転写終結のシグナルとして機能するほかに、mRNA半減期を延長し得る保護エレメントとしても機能し得る転写ターミネーターを含む(Guarneros et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79: 238-242)。転写ターミネーターは一般に約200ヌクレオチド〜約1000ヌクレオチドであり、インスリンをコードする核酸配列の3'側に転写ターミネーターが位置するように発現ベクターを調製する。本明細書において使用し得る終結配列には、例えば、ノパリン終結領域(Bevan et al., 1983, Nucl. Acids. Res., 11: 369-385)、ファゼオリンターミネーター(van der Geest et al., 1994, Plant J. 6: 413-423)、アルセリンターミネーター((Jaeger GD, et al., 2002, Nat. Biotechnol.Dec; 20:1265-8))、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のオクトピン合成酵素遺伝子のターミネーター、または他の同様に機能するエレメントが含まれる。転写ターミネーターは、An(An, 1987, Methods in Enzym,. 153: 292)によって記載されている通りに取得することができる。
【0064】
本発明に従って、発現ベクターはマーカー遺伝子をさらに含んでもよい。本発明に従って使用可能なマーカー遺伝子には、選択およびスクリーニングが可能なすべてのマーカー遺伝子を含む、非形質転換細胞から形質転換細胞を区別することができるすべての遺伝子が含まれる。マーカー遺伝子は、化学的手段による形質の選択を可能にする、例えば、カナマイシン(米国特許第6,174,724号)、アンピシリン、G418、ブレオマイシン、ハイグロマイシンに対する抗生物質耐性マーカー等の耐性マーカー、または一般に植物毒性である糖マンノース等の化学物質に対する耐性マーカーであってよい(Negrotto et al., 2000, Plant Cell Rep. 19:798-803)。本明細書において使用し得る他の簡便なマーカーには、グリフォセート(米国特許第4,940,935号;米国特許第5,188,642号)、フォスフィノスリシン(米国特許第5,879,903号)、またはスルホニル尿素(米国特許第5,633,437号)等の除草剤に対する耐性を付与し得るマーカーが含まれる。耐性マーカーをインスリンポリペプチドをコードする核酸配列の近傍に連結して用いることにより、インスリンポリペプチドをコードする核酸配列を喪失していない植物細胞または植物の集団に対して選択圧を維持することができる。目視検査によって形質転換体を同定するのに使用し得るスクリーニング可能なマーカーには、β-グルクロニダーゼ(GUS)(米国特許第5,268,463号および米国特許第5,599,640号)および緑色蛍光タンパク質(GFP)(Niedz et al., 1995, Plant Cell Rep., 14: 403)が含まれる。
【0065】
植物への核酸配列の導入に適した組換えベクターには、例えばpBIN19(Bevan, Nucl. Acid. Res., 1984, 22: 8711-8722)、pGKB5(Bouchez et al., 1993, C R Acad. Sci. Paris, Life Sciences, 316:1188-1193)、一連のpCGNバイナリーベクター(McBride and Summerfelt, 1990, Plant Mol. Biol., 14:269-276)、および他のバイナリーベクター(例えば、米国特許第4,940,838号)を含む、TiプラスミドおよびRiプラスミド等のアグロバクテリウム属(Agrobacterium)およびリゾビウム属(Rhizobium)に基づくベクターが含まれる。
【0066】
本発明の組換え発現ベクター、核酸配列、およびキメラ核酸配列は、分子生物学の当業者に周知である方法に従って調製し得る。このような調製には典型的に、中間クローニング宿主としての細菌種大腸菌が関与することになる。大腸菌ベクターおよび植物形質転換ベクターの調製は、制限消化、連結、ゲル電気泳動、DNA配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、および他の方法等の周知の技法を用いて達成することができる。これらの方法により、本発明が関連する核酸配列およびポリペプチドの連結が可能になる。組換え発現ベクターを調製するために必要な必須段階を実施するためには、多種多様なクローニングベクターを利用することができる。ベクターのうち、大腸菌で機能する複製系を備えたベクターは、pBR322、一連のpUCベクター、一連のM13mpベクター、pBluescript等のベクターである。典型的に、これらのクローニングベクターは、形質転換細胞の選択を可能にするマーカーを含む。核酸配列をこれらのベクターに導入し、そのベクターを適切な培地中で培養した大腸菌に導入することができる。組換え発現ベクターは、細胞を回収して溶解した後に細胞から容易に回収し得る。さらに、組換えベクターの調製に関する一般的な手引きは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, Vol.3.に見い出すことができる。
【0067】
インスリンを発現することができる種子を含む植物の調製
本発明に従って、キメラ核酸配列を植物細胞に導入し、その細胞をインスリンポリペプチドを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる。
【0068】
本明細書に従って、任意の植物種または植物細胞が選択されてもよい。本明細書において用いられる特定の細胞には、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)、ブラジルナッツ(バーソレチア・エクセルサ(Betholettia excelsa));トウゴマ(リシナス・コミュニス(Riccinus communis));ココナツ(ココス・ヌシフェラ(Cocus nucifera));コリアンダー(コリアンドラム・サティバム(Coriandrum sativum));ワタ(ゴシピウム(Gossypium)種);ラッカセイ(アラキス・ヒポゲア(Arachis Hypogaea));ホホバ(シモンドシダ・キネンシス(Simmondsia chinensis));アマニ/アマ(リナム・ウシタチシマム(Linum usitatissimum));トウモロコシ(ジー・メイズ(Zea mays));カラシナ(アブラナ属(Brassica)種およびシナピス・アルバ(Sinapis alba));アブラヤシ(エライズ・グイネーイス(Elaeis guineeis));オリーブ(オレア・ユーパエア(Olea eurpaea));ナタネ(アブラナ属種);イネ(オリザ・サティバ(Oryza sativa));ベニバナ(カルサムス・チンクトリウス(Carthamus tinctorius));ダイズ(グリシン・マックス(Glycine max));スカッシュ(ククルビタ・マキシマ(Cucurbita maxima));オオムギ(ホルデウム・ブルガレ(Hordeum vulgare));コムギ(トレティカム・アスティバム(Traeticum aestivum));およびヒマワリ(ヘリアンサス・アンヌス(Helianthus annuus))から得ることができる細胞が含まれる。
【0069】
本明細書に従って、好ましい態様では、脂肪種子植物による植物種または植物細胞が用いられる。本明細書において使用し得る脂肪種子植物には、ピーナッツ(アラキス・ヒポゲア);カラシナ(アブラナ属種およびシナピス・アルバ);ナタネ(アブラナ属種);ヒヨコマメ(サイサー・アリエティナム(Cicer arietinum));ダイズ(グリシン・マックス);ワタ(ゴシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum));ヒマワリ(ヘリアンサス・アンヌス);レンズマメ(レンズ・クリナリス(Lens culinaris));アマニ/アマ(リナム・ウシタチシマム);シロツメクサ(トリフォリウム・レペンス(Trifolium repens));オリーブ(オレア・ユーパエア);アブラヤシ(エライズ・グイネーイス);ベニバナ(カルサムス・チンクトリウス);およびナルボンヌエンドウマメ(ビシア・ナーボネンシス(Vicia narbonensis))が含まれる。
【0070】
本明細書に従って、特に好ましい態様では、ベニバナ、シロイヌナズナ(アラビドプシス)、またはアマが用いられる。
【0071】
植物細胞に植物組換え発現ベクターを導入する方法は、本明細書において「形質転換」とも称するが、これは当技術分野では周知であり、典型的には、選択された植物細胞によって異なる。細胞に組換え発現ベクターを導入する一般的技法には、エレクトロポレーション;化学媒介性技法(例えば、CaCl2を介した核酸取り込み);パーティクルボンバードメント(遺伝子銃);自然感染性配列(例えば、ウイルス由来核酸配列、またはアグロバクテリウム属もしくはリゾビウム属由来の配列)の使用、ポリエチレングリコール(PEG)介した核酸取り込み、マイクロインジェクション、およびケイ素炭化物髭結晶が含まれる。
【0072】
好ましい態様では、植物細胞のゲノム、好ましくは植物細胞の核ゲノム中へのキメラ核酸配列の組み込みを可能にする形質転換方法が選択される。このような方法を用いることにより、有性生殖の際にキメラ核酸配列の子孫植物への伝達が起こるため、本明細書に従ってこのことは特に望ましいと考えられる。この関連で使用し得る形質転換方法には、遺伝子銃およびアグロバクテリウムを介する方法が含まれる。
【0073】
双子葉植物種の形質転換方法は周知である。一般に、高効率であることから、またすべてではないが多くの双子葉植物種に感受性があることから、一般に、アグロバクテリウムを介する形質転換が用いられる。アグロバクテリウム形質転換は一般に、例えば、組換えバイナリーベクターを保有する大腸菌株と、バイナリーベクターを標的アグロバクテリウム株へ移行し得るヘルパープラスミドを保有する大腸菌株との3親接合によるか、またはアグロバクテリウム株のDNA形質転換による、大腸菌から適切なアグロバクテリウム株(例えば、EHA101およびLBA4404)への、本発明のキメラ核酸配列を含むバイナリーベクター(例えば、本明細書において上記したバイナリーベクターのうちの1つ)の移入を含む(Hofgen et al., Nucl. Acids Res., 1988, 16:9877)。双子葉植物を形質転換するために使用可能な他の技法には、遺伝子銃(Sanford, 1988, Trends in Biotechn. 6:299-302);エレクトロポレーション(Fromm et al., 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 82:5824-5828);PEGを介するDNA取り込み(Potrykus et al., 1985, Mol. Gen. Genetics, 199:169-177);マイクロインジェクション(Reich et al., Bio/Techn., 1986, 4:1001-1004);およびケイ素炭化物髭結晶(Kaeppler et al., 1990, Plant Cell Rep., 9:415-418)、または例えば花浸漬法(Clough and Bent, 1988, Plant J., 16:735-743)を用いたインプランタ形質転換が含まれる。
【0074】
単子葉植物種は、パーティクルボンバードメント(Christou et al., 1991, Biotechn. 9:957-962;Weeks et al., Plant Physiol., 1993, 102:1077-1084;Gordon-Kamm et al., Plant Cell, 1990, 2:5603-618);PEGを介するDNA取り込み(欧州特許第0292 435号;欧州特許第0392 225号);またはアグロバクテリウムを介した形質転換(Goto-Fumiyuki et al., 1999, Nature-Biotech. 17-282-286)を含む種々の方法を用いて形質転換することができる。
【0075】
正確な植物形質転換方法は、形質転換の細胞標的として選択される植物種および植物細胞種(例えば、胚軸および子葉または胚組織等の実生由来細胞種)に依存してある程度異なってよい。本明細書において上記したように、特に好ましい態様においては、ベニバナ、シロイヌナズナ(アラビドプシス)、またはアマが用いられる。ベニバナ形質転換体を取得する方法は、BakerおよびDyer(Plant Cell Rep., 1996, 16:106-110)において入手可能である。さらなる植物種特異的形質転換手法は、Biotechnology in Agriculture and Forestry 46: Transgenic Crops I (Y.P.S. Bajaj ed.), Springer-Verlag, New York (1999)、およびBiotecnology in Agriculture and Forestry 47: Transgenic Crops II (Y.P.S. Bajaj ed.), Springer-Verlag, New York (2001)に見い出すことができる。
【0076】
形質転換の後、植物細胞を培養し、茎葉および根等の分化した組織の発生をもって成熟細胞が再生される。典型的に、複数の植物が再生される。植物を再生する方法は一般に植物種および細胞種に依存し、当業者には周知であると考えられる。植物組織培養についてのさらなる手引きは、例えば、Plant Cell and Tissue Culture, 1994, Vasil and Thorpe Eds., Kluwer Academic Publishers;およびPlant Cell Culture Protocols (Methods in Molecular Biology 111), 1999, Hall Eds, Humana Pressに見い出し得る。
【0077】
1つの局面において、本発明は、インスリンを含む植物種子を回収する方法を提供する。したがって、本発明は、以下の段階を含む、インスリンを含む植物種子を取得する方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;
(c) 植物細胞を、種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階;ならびに
(d) インスリンを含む種子を植物から採取する段階。
【0078】
好ましい態様においては、複数の形質転換植物を取得し、培養し、所望のキメラ核酸配列の存在についてスクリーニングするが、推定形質転換体中のその存在は、例えば、除草剤耐性マーカーを用いた場合には選択培地で培養することにより、植物に除草剤を直接適用することにより、またはサザンブロッティングにより試験されてもよい。キメラ核酸配列の存在が検出されたならば、形質転換植物を選択して子孫および所望のキメラ核酸配列を含む複数の種子を含む最終的な成熟植物を作製する。一般に、それぞれがインスリンをコードするキメラ核酸配列を含む種子を含むトランスジェニック植物の集団を得るために、複数のトランスジェニック種子を播くことが望ましいと考えられる。さらに、一般に、組換えポリペプチドの遺伝の継続を確実にするために、植物におけるホモ接合性を確実にすることが望ましいと考えられる。ホモ接合性植物を選択する方法は、当業者には周知である。使用し得るホモ接合性植物を取得する方法には、一倍体細胞または組織の調製および形質転換、その後の一倍体小植物の再生、ならびにそれに続く、例えばコルヒン(colchine)または他の微小菅破壊剤を用いた処理による二倍体への変換が含まれる。植物は、別の従来の農作業に従って栽培してもよい。
【0079】
別の局面において、本発明はまた、インスリンを発現する種子を生じることができる植物を提供する。本発明の好ましい態様において、種子を生じることができる植物は、5'から3'方向の転写において、以下のものを含むキメラ核酸配列を含み、種子はインスリンを含む:
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列;
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列。
【0080】
好ましい態様において、キメラ核酸配列は植物の核ゲノム中に安定に組み込まれる。
【0081】
さらに別の局面において、本発明は、インスリンを発現する植物種子を提供する。本発明の好ましい態様において、植物種子は、5'から3'方向の転写において、以下のものを含むキメラ核酸配列を含む:
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列;
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列。
【0082】
本発明に従って、好ましくは種子中に存在する全可溶性タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンである種子が得られる。本発明のさらなる好ましい態様においては、種子中に存在する全可溶性タンパク質の少なくとも0.2%、0.3%、0.5%または1.0%がインスリンである種子が得られる。インスリンポリペプチドは、例えば、胚根および胚葉、ならびに穀類およびトウモロコシを含む単子葉植物種を用いる場合には胚乳組織をはじめとして、胚軸(hypocotyl)および胚軸(embryonic axis)を含む、様々な種類の種子細胞中に存在し得る。
【0083】
植物種子からのインスリンの調製
植物種子が得られたならば、当技術分野で周知である任意のタンパク質精製法を用いて、種子からインスリンタンパク質を精製することができる。したがって、本発明に準じて、植物種子からインスリンを精製する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階;
(d) インスリンを発現する種子を採取する段階;ならびに
(e) 種子からインスリンを精製する段階。
【0084】
植物種子は、種子細胞膜および細胞壁の実質的な破壊をもたらす任意の粉砕工程により粉砕されてもよい。乾式粉砕条件および湿式粉砕条件(米国特許第3,971,856号;Lawhon et al., 1977, J. Am. Oil Chem. Soc., 63:533-534)の両方を用いることができる。この関連における適切な粉砕装置には、コロイド・ミル、ディスク・ミル、IKAミル、工業規模のホモジナイザー等が含まれる。粉砕装置の選択は、種子の種類および処理量の必要性に依存することになる。種子外皮等の固形種子混入物、線維性物質、非溶解の炭水化物、タンパク質、および他の不水溶性混入物は、例えば、ろ過のようなサイズ排除に基づく方法および遠心分離のような重力に基づく方法を用いて、種子画分から除去されてもよい。好ましい態様においては、油抽出において通常用いられるヘキサン等の有機溶媒は、インスリンポリペプチドを損なう可能性があるため、使用を避ける。遠心分離に基づく技法;サイズ排除に基づく方法(例えば、膜限外ろ過および交差流ろ過を含む);およびクロマトグラフィー技法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー等を含む)のような種々のさらなる精製方法を用いて、実質的に純粋なインスリンを種子から回収することができる。一般に、このような技法の組み合わせにより、実質的に純粋なインスリンが得られると考えられる。
【0085】
本発明の特に好ましい態様では、インスリンポリペプチドを油体と接触させることにより、インスリンポリペプチドが種子混入物から単離される。この方法により、非常に効果的かつ安価な様式で、種子タンパク質を含む種子混入物の除去が可能になるため、この方法は特に有用であると考えられる。本明細書において上記したように、インスリンポリペプチドと油体とのそのような接触は、油体タンパク質にインスリンポリペプチドを連結することにより、または油体タンパク質に対する親和性を有するポリペプチド(油体に対する親和性を有する一本鎖抗体等)にインスリンポリペプチドを連結することにより達成され得る。前者の態様においては、インスリンポリペプチドは油体において細胞内に隔離されることになり、したがって油体と共に精製される。後者の態様においては、インスリンポリペプチドは、ER等の膜に囲まれた細胞内区画中で発現された後、粉砕工程における種子細胞の破壊時に油体と会合すると考えられる。油体を単離する工程は、米国特許第5,650,554号に記載されている。
【0086】
精製されたインスリンから薬学的インスリン製剤を調製することができ、このような製剤を用いて糖尿病を処置することができる。一般に、精製されたインスリンは、処置患者に望ましくない副作用を与えずに治療上有用な効果をもたらすのに十分な量で、薬学的に許容される担体または希釈剤と混合することになる。インスリン組成物を製剤化するには、処置した病態が改善されるような有効な濃度で、インスリンの重量分率を、選択された担体または希釈剤中に溶解、懸濁、分散、または別の方法で混合する。薬学的インスリン製剤は、好ましくは単回投与用に製剤化する。ヒトインスリンを非経口送達するための治療上有効な用量は、当技術分野で周知である。インスリン類似体を用いるか、または他の送達様式を用いる場合、治療上有効な用量は、周知の試験手順を用いるか、またはインビボもしくはインビトロ試験データを外挿することにより、当業者によって容易に実験的に決定され得る。しかし、濃度および投与量は、緩和する病態の重症度により変動し得ることが理解される。さらに、任意の特定の被験体に関して、製剤を投与するかまたは投与を管理する人の個々の判断に従って、特定の投与計画が時間をかけて調整され得ることも理解される。
【0087】
薬学的溶液または懸濁液は、例えば、水、ラクトース、スクロース、第二リン酸カルシウム、またはカルボキシメチルセルロース等の無菌希釈剤を含んでもよい。使用可能な担体には、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、グリコール類、エタノール等が含まれてもよく、それによって溶液または懸濁液が形成される。必要に応じて、薬学的組成物はまた、以下のような非毒性補助物質を含み得る;湿潤剤;乳化剤;可溶化剤;抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールおよびメチルパラベン等);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸および亜硫酸水素ナトリウム等);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等);pH緩衝剤(例えば、酢酸、クエン酸、およびリン酸緩衝液等);およびこれらの組み合わせ。
【0088】
インスリン調製品の最終的な剤形は一般に、インスリン送達の様式に依存することになる。本発明に従って調整されたインスリンは、任意の所望の様式で送達され得る;しかし、非経口、経口、経肺、経頬側、および経鼻形態の送達が、最も用いられる可能性が高い送達様式であると考えられる。非経口調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラス、プラスチック、もしくはその他のそのような適切な材料でできた単回用量もしくは複数回用量バイアル中に封入され得る。
【0089】
実施例
以下の実施例は説明のために提供されるものであって、限定するために提供されるものではない。
【0090】
実施例1
トリプシン切断可能なプロペプチドを有するミニインスリン(MI)融合タンパク質として発現されるインスリンタンパク質の調製
pSBS4404: PRS-D9scFv-Klip27-MI-KDEL融合タンパク質の構築
研究した融合タンパク質の1つは、同時翻訳様式で、発現をERに標的するためのシグナルペプチドとして機能する、タバコ病原性関連配列(PRS)(Sijmons et al., 1990, Bio/technology, 8:217-221)から開始した。そのすぐ下流は、D9scFvと表記される、アラビドプシス・サリアナの18 kDaオレオシンに対する種特異的親和性を有する一本鎖Fv抗体(scFv)をコードする配列であり、その後に、酵母のTA57プロペプチドに由来するトリプシン切断可能なプロペプチド(KLIP27)(Kjeldsen et al., 2001, Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 18:89-121)が続いた。この後に、Kjeldsen et al. (2001)によって記載されるミニインスリン(MI)が続き、さらにポリペプチドのC末端にはKDEL ER保持シグナルが付加された。
【0091】
このプラスミドの骨格であるpSBS4055は、Hajdukiewicz et al.(Plant Molecular Biology, 1994, 25:989-994)によって記載されている植物バイナリーベクター、pPZP200に基づいた。記載されるマルチクローニング部位の代わりに、ペトロセリナム・クリスパム(Petroselinum crispum)由来のユビキチンプロモーター/ターミネーター(Kawalleck et al., 1993, Plant. Mol. Bio., 21:673-684)によって駆動される、宿主植物にフォスフィノスリシン耐性を付与するpat遺伝子(Wohlleben et al., 1988, Gene 70:25-37)を、左ボーダー配列と右ボーダー配列の間に挿入した。このカセットに加えて、PRSを駆動するファセオルス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris)のβ-ファゼオリンプロモーター/ターミネーター(Slightom et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 80:1897-1901)をサブクローニングした。標準的なPCR(Horton et al., 1989, Gene 77:61-68)を用いて、SphI/HindIII制限エンドヌクレアーゼ部位の付着した合成PRSコード配列をファゼオリンプロモーターの3'末端に融合し、pSBS4011を作製した。

を用いてD9scFV cDNAクローン(Sean Hemmingsen lab、未発表)をPCRすることにより、SphI-D9scFv-XhoI、SwaI、HindIII挿入配列を作製した。次いで、pSBS4011のSphI/HindIII部位においてこの断片を連結することにより、プラスミドpSBS4055を得た。
【0092】
植物に基づく発現系における効率的な翻訳の成功を増大させるためにアラビドプシス・サリアナのコドン使用を組み入れた4つの部分的な重複オリゴヌクレオチドから、Klip27-MI配列を合成した。

をそれらの相補的な20ヌクレオチド重複部位においてアニーリングし、伸長させてKlip27-MI融合物の5'末端を形成し、

を用いて同様のことを行い3'末端を形成した。この2つの部分をBsu36Iで制限消化した後に連結し、完全なKlip27-MIコード配列を生じた。

を用いてこの遺伝子融合物をPCRすることにより、5' XhoI制限エンドヌクレアーゼ切断部位ならびに3' KDEL DNA配列およびHindIII切断部位を付加し、次いで、XhoI/HindIIIで切断したpSBS4055に連結した。結果として、プラスミドpSBS4404(PRS-D9scFv-Klip27-MI-KDEL融合タンパク質をコードするDNA配列が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。ファゼオリンプロモーターは、種子の発生過程において、導入遺伝子の時間特異的および組織特異的発現を調節する。4404インスリン融合タンパク質(PRS-D9ScFv-Klip27-MI-KDEL)の完全な核酸配列(配列番号:1)およびアミノ酸配列(配列番号:2)を図1に示す。
【0093】
pSBS4405: OLEO-Klip8-Klip27-MI融合タンパク質の構築
研究した2つめの融合タンパク質はアラビドプシス・サリアナの18 kDaオレオシンで始まり、その後にインフレームのキモシン切断可能なプロペプチド(Klip8)−配列番号:175が続いた。そのすぐ下流は、上記したようなTA57プロペプチドに由来するトリプシン切断可能なプロペプチド(Klip27)(Kjeldsen et al., 2001, Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 18:89-121)であった。これが、上記のミニインスリン(MI)(Kjeldsen et al., 2001)に融合されていた。この融合タンパク質の発現は、胚の発生過程において形成される新生油体に標的された。
【0094】
このプラスミドの骨格であるpSBS4055は、Hajdukiewicz et al.(Plant Molecular Biology, 1994, 25:989-994)によって記載されている植物バイナリーベクター、pPZP200に基づいた。記載されるマルチクローニング部位の代わりに、ペトロセリナム・クリスパム由来のユビキチンプロモーター/ターミネーター(Kawalleck et al., 1993, Plant. Mol. Bio., 21:673-684)によって駆動される、宿主植物にフォスフィノスリシン耐性を付与するpat遺伝子(Wohlleben et al., 1988, Gene 70:25-37)を、左ボーダー配列と右ボーダー配列の間に挿入した。このカセットに加えて、アラビドプシス18 kDaオレオシンゲノム配列-Klip8融合物を駆動するファセオルス・ブルガリス由来のβ-ファゼオリンプロモーター/ターミネーター(Slightom et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 80:1897-1901)をサブクローニングした。標準的なPCR(Horton et al., 1989, Gene 77:61-68)を用いて、XhoI/HindIII制限エンドヌクレアーゼ部位の付着したオレオシン遺伝子-Klip8配列をファゼオリンプロモーターの3'側に融合し、pSBS4010を作製した。
【0095】
植物に基づく発現系における効率的な翻訳の成功を増大させるためにアラビドプシス・サリアナのコドン使用を組み入れた4つの部分的な重複オリゴヌクレオチドから、Klip27-MI配列を合成した。

をそれらの相補的な20ヌクレオチド重複部位においてアニーリングし、伸長させてKlip27-MI融合物の5'末端を形成し、

を用いて同様のことを行い3'末端を形成した。この2つの部分をBsu36Iで制限消化した後に連結し、完全なKlip27-MIコード配列を生じた。

を用いてこの遺伝子融合物をPCRすることにより、5'XhoI制限エンドヌクレアーゼ切断部位および3'HindIII切断部位をそれぞれ付加し、次いで、XhoI/HindIIIで切断したpSBS4010に連結した。結果として、プラスミドpSBS4405(オレオシン-Klip8-Klip27-MI融合タンパク質をコードするDNA配列が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。ファゼオリンプロモーターは、種子の発生過程において、導入遺伝子の時間特異的および組織特異的発現を調節する。4405インスリン融合タンパク質(OLEO-Klip8- Klip27-MI)の完全な核酸配列(配列番号:3)およびアミノ酸配列(配列番号:4)を図2に示す。
【0096】
pSBS4414: PRS-MI-四塩基性リンカー-D9Scfv-KDEL融合タンパク質の構築
研究した別の融合タンパク質は、同時翻訳様式で、発現をERに標的するためのシグナルペプチドとして機能する、タバコ病原性関連配列(PRS)(Sijmons et al., 1990, Bio/technology, 8:217-221)から開始した。そのすぐ下流はKljeldsen et al. (2001)によって記載されているミニインスリン(MI)をコードする配列であるが、ただし、ヒトインスリンのB(1-29)鎖とA(1-21)鎖との間のミニCプロペプチド領域(AAK−配列番号:146)が介在B30スレオチン-四塩基性部位(B30T-RRKR)(配列番号:149)配列で置換されていた。このすぐ後には2つめの四塩基性リンカーをコードする配列が続き、次いで、D9scFvと表記される、アラビドプシス・サリアナの18 kDaオレオシンに対する種特異的親和性を有する一本鎖Fv抗体(scFv)が続いた。ポリペプチドのC末端には、KDEL ER保持シグナルが付加されていた。
【0097】
このプラスミドの骨格であるpSBS4055は、Hajdukiewicz et al.(Plant Molecular Biology, 1994, 25:989-994)によって記載されている植物バイナリーベクター、pPZP200に基づいた。記載されるマルチクローニング部位の代わりに、ペトロセリナム・クリスパム由来のユビキチンプロモーター/ターミネーター(Kawalleck et al., 1993, Plant. Mol. Bio., 21:673-684)によって駆動される、宿主植物にフォスフィノスリシン耐性を付与するpat遺伝子(Wohlleben et al., 1988, Gene 70:25-37)を、左ボーダー配列と右ボーダー配列の間に挿入した。このカセットに加えて、PRSを駆動するファセオルス・ブルガリス由来のβ-ファゼオリンプロモーター/ターミネーター(Slightom et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 80:1897-1901)をサブクローニングした。標準的なPCR(Horton et al., 1989, Gene 77:61-68)を用いて、SphI/HindIII制限エンドヌクレアーゼ部位の付着した合成PRSコード配列をファゼオリンプロモーターの3'末端に融合し、pSBS4011を作製した。
【0098】
植物に基づく発現系における効率的な翻訳の成功を増大させるためにアラビドプシス・サリアナのコドン使用を組み入れた4つの部分的な重複オリゴヌクレオチドから、Klip27-MI配列を合成した。

をそれらの相補的な20ヌクレオチド重複部位においてアニーリングし、伸長させてKlip27-MI融合物の5'末端を形成し、

を用いて同様のことを行い3'末端を形成した。この2つの部分をBsu36Iで制限消化した後に連結し、完全なKlip27-MIコード配列を生じた。

を用いてこの遺伝子融合物をPCRすることにより、5' SphI制限エンドヌクレアーゼ切断部位ならびに3' KDEL DNA配列およびHindIII切断部位を付加し、次いで、SphI/HindIIIで切断したpSBS4011に連結した。結果として、プラスミドpSBS4402(PRS-Klip27-MI-KDEL融合タンパク質をコードするDNA配列が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。ファゼオリンプロモーターは、種子の発生過程において、導入遺伝子の時間特異的および組織特異的発現を調節する。この植物発現ベクター、pSBS4402を、インスリンのB鎖とA鎖の間およびMIとD9 Scfvの間に四塩基性部位を導入するための鋳型とした。
【0099】
鋳型としてpSBS4402を使用し、

を用いてPCRすることにより、ヒトインスリンの確証的なB(1-29)鎖とA(1-21)鎖との間に介在四塩基性(B30T-RRKR)部位を配置した。pSBS3400を鋳型として使用し、得られた124 bp断片を

と組み合わせて用いた。pSBS3400は、HindIII制限部位を有するD9 scFv-KDEL断片を含むプラスミドであることに留意されたい。このPCR反応により、124 bp SphI-MI断片に四塩基性(RRKR)-D9 Scfv-KDEL-HindIIIが挿入された955 bp産物が作製された。次いで、この955 bp断片をpGEM-T(Progmega)に連結してサブクローニングし、pSBS3403を得た。あらかじめ切断した(SphI/HindIII)pSBS4402にSphI-MI(B30T-RRKR改変Cプロペプチドを有する)-RRKR-D9 Scfv-KDEL-HindIII断片全体を挿入し、pSBS4414を作製した。4414インスリン融合タンパク質(PRS-MI-四塩基性リンカー-D9Scfv-KDEL)の完全な核酸配列(配列番号:5)およびアミノ酸配列(配列番号:6)を図3に示す。
【0100】
pSBS4404、pSBS4405、またはpSBS4414による大腸菌およびアグロバクテリウムの形質転換および増殖
配列解析により融合タンパク質をコードするcDNAの完全性を確認した後、プラスミドpSBS4404、pSBS4405、およびpSBS4414を大腸菌株DH5αに形質転換し、高レベルの発現を可能にした。単離されたプラスミドDNA(100 ng)を、DH5αコンピテント細胞100μlと共に氷上で20分間混合した。次に、細胞に42℃で45秒間熱ショックを与え、氷に2分間戻した。次いで、SOC培地1 mlを添加し、細胞を225 rpmのエンビロ(enviro)シェーカー上で37℃にて1時間インキュベートし、その後、形質転換細胞をLB-スペクチノマイシンプレート(10 g/Lトリプトン、5 g/L酵母エキス、5 g/L NaCl、15 g/Lアガー)上にプレーティングして37℃で一晩インキュベートした。単一コロニーを用いて、5 ml LB-スペクチノマイシンブロスに接種した。これらの培養物を37℃で一晩培養した。QIAprep(登録商標)Spin Miniprep Kit(Qiagen)に従って、一晩培養物1 mlから組換えプラスミドを単離した。次いで、単離されたプラスミドを用いて、エレクトロポレーション(25μF、2.5 kV、200Ω)によりコンピテントアグロバクテリウム株EH101(Hood et al., 1986; J. Bacteriol. 144: 732-743)を形質転換した。組換えアグロバクテリウムをAB-スペクチノマイシン/カナマイシン(20x AB塩、2 Mグルコース、0.25 mg/ml FeSo4・7H2O、1 M MgSo4、1 M CaCl2)上にプレーティングし、単一コロニーを用いてAB-スペクチノマイシン/カナマイシンブロス5 mlに接種した。これらの培養物を28℃で一晩培養した。次いで、組換えアグロバクテリウムを用いて、花浸漬法(Clough et al., 1998, Plant J., 16:735-743)によりアラビドプシス・サリアナ植物を形質転換した。すべての実験に、アラビドプシス・サリアナcv. (C24)を用いる。4インチポット中の土壌混合物(Redi-earth2/3およびパーライト1/3をpH = 6.7に調整)またはLehle Seedsによって供給されるアラビドプシス土壌混合物(パーライト、バーミキュライト、ピート、テラグリーンをpH = 5.5に調整)の表面上に、種子をまく。直径約2.5 cmの6〜8枚葉のロゼッタ期になるまで、実生を生育させる。冷却処理のためポットを4℃のドーム内に4日間置き、その後、約150μEの一定光および60〜70%相対湿度を有する24℃の生育室に移す。2〜3日おきに植物に水をやり、週に1度、1%のPeters 20-19-18を施肥する。各ポットは5〜6株の植物を含む。植物が約2 cmの高さに届いたならば、第2薹(bolt)および第3薹の成長を促進するために、第1薹を切断する。第1薹を切断してから4〜5日後に、植物をアグロバクテリウムで感染させることができる。アラビドプシス植物のポットを逆さにし、アラビドプシス植物を、関心対象の植物形質転換ベクターを含むアグロバクテリウム一晩培養物の再懸濁液500 mlで20秒間感染させる。アグロバクテリウム培養物が5%スクロースおよび0.05%の界面活性剤Silwet L-77(Lehle Seeds)を含むことが重要である。次いで、より高い湿度を維持するために、ポットを透明なプラスチックドームで24時間覆う。植物が成熟するまで生育させ、非形質転換種子および形質転換種子の混合物を採取する。トランスジェニック系統を選択するために、70%エタノールで素早く洗浄し、次いで20%の市販の漂白剤中に15分間浸漬することにより推定形質転換種子を滅菌し、その後ddH2Oで少なくとも4回すすぐ。約1000個の滅菌種子を0.6%融解トップアガーと混合し、0.3%スクロースおよび80μMの除草剤フォスフィノスリシン(PPT)DLを含む半強度のMSプレート(Murashige and Skoog, 1962, Physiologia Plantarum 15: 473-497)上に均等に広げる。次に、24℃での8時間暗および16時間明という光管理形態の生育室中に、プレートを置く。7〜10日後、推定トランスジェニック実生は緑色をして生育しているのに対し、非形質転換実生は脱色されている。根が定着した後、推定形質転換実生を個々にポットに移植し(個々の植物には3日おきに水をやり、7日おきに1% Peters 20-19-18を施肥する)、成熟するまで生育させる。感受性の高い実生を保護するため、ポットを透明なプラスチックドームで覆う。7日後、散乱による種子の損失を防ぐために、Lehle Seedsによる種子採取システムで実生を覆う。これらのトランスジェニック植物による種子を個々に採取し、解析に備える。
【0101】
実施例2
アラビドプシス・サリアナにおけるインスリンの発現レベル
2つめの実施例では、トランスジェニックアラビドプシス・サリアナ成熟種子において、融合タンパク質D9scfv-KLIP27-MI-KDEL(4404)、OLEO-KLIP8-KLIP27-MI(4405)、およびPRS-MI-RRKR-D9Scfv-0KDEL(4414)の発現レベルを決定した。導入遺伝子産物は、成熟種子の細胞抽出物中に存在することが示された。約40個のトランスジェニックアラビドプシス・サリアナ種子を、50μlの50mM Tris-HCl pH8.0中で乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。次いで、還元SDS-PAGE試料バッファー(6x SDS試料バッファー、0.35 M Tris-HCl pH 6.8、30%グリセロール、10% SDS、0.012%ブロモフェノールブルー、5% β-メルカプトエタノール)をスラリーに添加し、短時間ボルテックスすることにより混合した。次に、試料を短時間遠心し、99℃に10分間置いた。氷上で2分間冷却した後、試料を短時間遠心した。還元条件下で試料を泳動した(10μl−約7個の種子に相当する)。
【0102】
油体調製試料を得るため、トランスジェニック種子および野生型種子(20 mg)を250μl油体抽出緩衝液(0.4 Mスクロース、0.5 M NaCl、50 mM Tris-HCl pH 8.0)中で粉砕した。試料を10 000gで10分間微量遠心した。26 G 5/8 1 mlシリンジを用いて可溶性水性画分を除去し、脂肪パッドを塩を添加した100μlリン酸緩衝液(20 mM Na2HPO4 pH 8.0、0.5 M NaCl)中に再懸濁した。再懸濁した脂肪パッドをきれいな微量遠心管に移し、10 000gで10分間、再度遠心した。この手順をさらに3回繰り返し、脂肪パッドの最終的な再懸濁液は塩を含まない100μlリン酸緩衝液(20 mM Na2HPO4 pH 8.0)中に得た。上記のような間欠的な遠心段階により、塩を含まないリン酸緩衝液中でさらに2回の洗浄を行った。最終的な脂肪ペレットを、10μlリン酸緩衝液(20 mM Na2HPO4 pH 8.0)中に再懸濁した。5μlのアリコートを採取し、1/10 (v/v)の2% SDSを含む50 mM Tris-HCl pH 8.0中で煮沸することにより油体を可溶化した。試料を氷上で2分間冷却し、10 000 gで5分間遠心した。下層のタンパク質含量をBCAタンパク質アッセイ(Pierce、イリノイ州、ロックフォード)により決定した。クーマシー染色ゲルおよびウェスタンブロット解析のため、20μgの全タンパク質をSDS-PAGE試料バッファーを用いた還元条件下にて15% SDS-PAGEゲルで分離した。
【0103】
次に、試料を不連続15% SDS-PAGEゲルに添加し、150ボルトで約1.5時間分離した。次いで、ゲルをクーマシー染色するか、またはウェスタンブロット解析のためにPVDF膜(Immobilon-P、Millipore Corporation、マサチューセッツ州、ベッドフォード)上にブロッティングした。ブロットした試料を、Abcam(英国、ケンブリッジ)から購入したインスリンに対するモノクローナル抗体(クローンE2-E3;Roth et al., 1992)でプロービングした。二次ヒツジXマウスIgG F(ab')2 APコンジュゲート(Chemicon International、カリフォルニア州、テメキュラ)を用いてインスリンバンドを検出し、GARAP緩衝液(Tris-HCl pH 9.5、100 mM NaCl、5 mM MgCl2)中のNBT-BCIPを用いて発色させた。融合タンパク質の予測分子量で移動するポリペプチドバンドに相当する免疫反応性のバンドを、図4A〜4Fに示す。図4(A〜F)は、クーマシー染色したSDS-PAGEおよびウェスタンブロット解析に基づいた、形質転換アラビドプシス・サリアナ系統(4404-2、-17、-20、4405-4、4414-19、および4414-20)におけるインスリン融合タンパク質の組換え発現を示す。矢印は、還元条件下で移動する38.5 kDa、34.2 kDa、および34.2 kDa融合ポリペプチド、PRS-D9(scfv)-KLIP27-MIw/KDEL(4404)、OLEO-KLIP8-KLIP27-MI(4405)、およびPRS-MI-RRKR-D9Scfv-KDEL(4414)それぞれの位置を表す。4414融合タンパク質は34.2 kDaの予測分子量を有するが、SDS-PAGEゲル上では見かけの分子量がより大きい点に留意すべきである。図4A(クーマシー染色ゲル)および4B(抗インスリンE2E3でプロービングした対応するウェスタンブロット)は、野生型(wt)ならびに4404構築物および4405構築物を発現するトランスジェニック種子系統の全種子タンパク質を示す。図4C(クーマシー染色ゲル)および4D(抗インスリンE2E3でプロービングした対応するウェスタンブロット)は、野生型ならびに同じ4404構築物および4405構築物を発現するトランスジェニック種子から調製された油体タンパク質を示す。図4D(クーマシー染色ゲル)および4E(抗インスリンE2E3でプロービングした対応するウェスタンブロット)は、野生型および同じ4414構築物を発現するトランスジェニック種子から調製された油体タンパク質を示す。分子量マーカー(M)は、10 kDa、15 kDa、20 kDa、25 kDa、37 kDa、50 kDa、75 kDa、100 kDa、150 kDa、250 kDaである。対照は、非還元条件下で分離されたhIN(組換えヒトインスリン標準物質)およびhProIN(組換えヒトプロインスリン標準物質)を含む。発現レベルの差は、形質転換体間のクローンの差異である。導入遺伝子およびMI発現のおよそのタンパク質レベルを図5に示す。発現レベルは、18 kDaオレオシンバンドを内部標準として用いて(1.5%全種子タンパク質に相当)、導入遺伝子バンドのデンシトメトリーにより決定した。PRE-D9(scfv)-KLIP27-MIw/KDEL(4404)、OLEO-KLIP8-KLIP27-MI(4405)、およびPRS-MI-RRKR-D9Scfv-KDEL(4414)構築物の発現の平均レベルは、それぞれ0.21%全種子タンパク質、0.12%全種子タンパク質、および0.79%全種子タンパク質であった。
【0104】
実施例3
pSBS4404の切断およびHPLC精製
油体からの溶出
3つめの実施例では、トランスジェニック種子1 gを12 ml抽出緩衝液(0.4 Mスクロース、0.5 M NaCl、50 mM Tris-HCl pH8.0)中でホモジナイズし、10 000gで10分間遠心し、脂肪パッドを取り除き1 mlの20 mM Na2HPO4、0.5 M NaCl中に入れ、上記の通りに再度遠心した。これを2回繰り返した後、750μl 20 mM Na2HPO4中で脂肪パッドを2回洗浄および遠心した。最終的な脂肪パッドを750μl 20 mMギ酸 pH 4.1中で5回洗浄し、各洗浄間に10 000 gでの遠心段階を行うことにより、4404融合タンパク質を油体から下層に溶出した。回収した溶出画分(下層)をプールし、2 N NaOHでpH 8.0に中和した、次いで、溶液全体を-80℃に置いて凍結し、一晩凍結乾燥して融合タンパク質を濃縮した。凍結乾燥試料を500μl 50 mM Tris-HCl pH 8.0中に再懸濁した。次に、再懸濁した4404融合タンパク質をNAP-5カラム(Amersham Pharmacia Biotech Ab、スウェーデン、ウプサラ)で脱塩し、緩衝液(50 mM Tris-HCl-pH8.0)で再交換した。次いで、脱塩した画分を再度凍結し、一晩凍結乾燥して濃縮した。最終的な濃縮試料を、最終量105μlの再蒸留H2Oに再懸濁した。溶出結果を図6に示す。図6は、溶出前の油体調製物(-OB)、ギ酸で溶出した後のOB調製物(-OB')、および濃縮溶出物質(-E)のクーマシー染色SDS-PAGE(15%)解析である。矢印は、移動する融合ポリペプチドの位置を示す。野生型対照は本質的に、溶出後に主要なタンパク質を含まないが、濃縮4404物質は、融合タンパク質、いくつかの切断産物(おそらく加水分解された融合タンパク質)、およびおそらく同時に溶出されたいくつかのアルブミンを含む。
【0105】
4404を発現するアラビドプシス種子の切断およびHPLC解析
濃縮試料を再蒸留水105μlに再懸濁し、BCAタンパク質アッセイにより、製造業者(Pierce、米国、イリノイ州、ロックフォード)に従ってタンパク質含量を評価した。次いで、トリプシンにより試料を切断した(50 mM Tris-HCl pH 8.0中で1:300トリプシン:全タンパク質比、氷上で90分間)。10倍モル過剰のTLCK(N-p-トシル-L-リジンクロロメチルケトン)により反応を停止した。次に、全反応物を0.2μmフィルター(0.2μm Supof(登録商標)膜を備えたAerodisc(登録商標)13 mmシリンジフィルター、Pall Corporation、米国、ミシガン州、アナーバー)でろ過し、C18カラム(Zorbax 300SB-C18、Agilent Technologies、ドイツ、ヴァルドブロン)を用いて逆相(RP)-HPLCにより解析した。試料をカラムに供し、0.1% (v/v) TFA中の5〜50% (v/v)アセトニトリルの19分の直線勾配を用いて、1.0 ml/分で溶出した。この解析によって得られたクロマトグラフを図7に示す。追跡により、カラム上でヒトインスリン標準物質とほぼ同じ性質を有する、4404融合タンパク質からのトリプシン切断産物が示される。(それぞれ17.011分および17.179分の保持時間)。17.0〜17.5分からHPLC画分を回収し、Voyager-DE STR質量分析計(Applied Biosystems)を用いてPSD MALDI-TOF質量分析によりこれを解析した。NRC-Plant Biotechnology Institute、カナダ、サスカチュワン州、サスカトゥーン)によって提供されるBioAnalytical Spectroscopyサービスにより、MS解析を行った。上記のようにHPLCによって精製した切断4404産物の分解を、図8Aに示すヒトインスリン標準物質と比較して図8Bに示す。トリプシンによって切断された4404融合タンパク質の観察される質量は、6191.51 Daであった。ヒトインスリン標準物質(図8A)と切断4404産物(図8B)との間の相違は、切断産物のA鎖上に保持されたKDELシグナルを有するDes-B30インスリン(Des-B30インスリン-KDEL)に相当する。
【0106】
実施例4
pSBS4405の切断およびHPLC精製
油体調製
融合タンパク質(OLEO-KLIP8-KLIP27-MI)は、以下に記載する通りに油体調製を行うことによって部分精製し得る。トランスジェニック種子約1 gを12 ml抽出緩衝液(0.4 Mスクロース、0.5 M NaCl、50 mM Tris-HCl pH8.0)中でホモジナイズし、10 000gで10分間遠心し、脂肪パッドを取り除き1 mlの50 mM Tris-HCl pH 8.0、0.5 M NaCl中に入れ、上記の通りに再度遠心した。これを2回繰り返した後、750μl 50 mM Tris-HCl pH 8.0中で脂肪パッドを2回洗浄および遠心した。油体調製により、バックグラウンドタンパク質の大部分が除去される。4405構築物を発現するトランスジェニックアラビドプシス種子からの油体調製の典型的なタンパク質プロファイルを図9に示す。
【0107】
4405を発現するアラビドプシス種子の切断およびHPLC解析
2% SDS、50 mM Tris-HCl pH 8.0で10倍に希釈し、5分間煮沸し、10 000 gで3分間遠心して調製物の画分(5μl)を可溶化することにより、再懸濁した油体からの全タンパク質含量を評価した。その後、BCAタンパク質アッセイにより、製造業者(Pierce、米国、イリノイ州、ロックフォード)に従ってタンパク質含量を評価した。トリプシンにより試料を切断し(50 mM Tris-HCl pH 8.0中で1:300トリプシン:全タンパク質比、氷上で90分間)、融合タンパク質からKlip27-MI断片を遊離させた。10倍モル濃度過剰のTLCK(N-p-トシル-L-リジンクロロメチルケトン)により反応を停止した。試料を10 000 gで10分間遠心し、全反応物の下層を0.2μmフィルター(0.2μm Supof(登録商標)膜を備えたAerodisc(登録商標)13 mmシリンジフィルター、Pall Corporation、米国、ミシガン州、アナーバー)でろ過した。図9は、野生型(非組換え)種子と比較した、4405を発現する系統からの抽出可能な種子全体のタンパク質および油体(OB)調製タンパク質のクーマシー染色SDS-PAGE(15%)解析を示す。矢印は、移動する融合ポリペプチドの位置を示す。C18カラム(Zorbax 300SB-C18、Agilent Technologies、ドイツ、ヴァルドブロン)を用いた逆相(RP)-HPLCにより、下層をさらに解析した。試料をカラムに供し、0.1% (v/v) TFA中の5〜50% (v/v)アセトニトリルの19分の直線勾配を用いて、1.0 ml/分で溶出した。この解析によって得られたクロマトグラフを図10に示す。追跡により、カラム上でヒトインスリン標準物質とほぼ同じ性質を有する、4405融合タンパク質からのトリプシン切断産物が示される。(それぞれ17.220分および17.179分の保持時間)。17.0〜17.5分からHPLC画分を回収し、Voyager-DE STR質量分析計(Applied Biosystems)を用いてPSD MALDI-TOF質量分析によりこれを解析した。NRC-Plant Biotechnology Institute、カナダ、サスカチュワン州、サスカトゥーン)によって提供されるBioAnalytical Spectroscopyサービスにより、MS解析を行った。図11に示すように、トリプシンによって切断された4405融合タンパク質の観察される質量は、5706.30 Daであった。ヒトインスリン標準物質(図8A)と切断4405産物(図11)との間の相違は、Des-B30インスリン産物(Des-B30インスリン)に相当する。Des-B30インスリンは、4405融合物の正確なトリプシン成熟から予測される産物である。
【0108】
実施例5
AKTA explorer(FPLC)を用いたトリプシン切断MIの精製
4405から切断されたMIの精製物はまた、AKTA explorer(Amersham Pharmacia)での陰イオン交換(Mono Q FF 1 mL、Amersham Pharmacia)によって、スケールアップした切断反応物から部分精製した。切断反応は、30 gまで増量したトランスジェニック種子から上記の通りに調製した4405油体において実施した。切断反応物の下層を0.2μmフィルターでろ過するか、またはSavand Speed Vacで凍結乾燥することにより濃縮した。ろ過した試料反応物はカラムに直接供し得たが、濃縮試料は、カラムに効率的に結合させるために塩を除去する必要があった。濃縮試料は、切断物質をPD-10カラム(Amersham Pharmacia)に通すか、透析するか、または5 mS/cmもしくはそれ以下の塩濃度まで希釈することによって脱塩し得た。脱塩した試料は、20 mM Tris-HCl pH 6.5で平衡化した。0〜40% NaClのNaClによる段階勾配を用いて、流速1 ml/分で試料を分離した。検出は214 nmで行った(インスリン中の芳香族アミノ酸の含量が低いため、280 nmでの検出は比較的低い)。溶媒Aは20 mM Tris-HCl pH 6.5であり、溶媒Bは20 mM Tris-HCl pH 6.5、1.0 M NaClであった。7〜35 mS/cmというRocheインスリン標準物質と同じ伝導度で溶出される画分(1 ml)を回収した(図12を参照のこと)。図12は、ヒトインスリン標準物質(実線)と比較した、トリプシン切断4405油体調製物(点線)のクロマトグラムを示す。インスリンの存在は、HPLC、ELISA、またはウェスタン解析により、回収された画分中に確認された(データは示さず)。次いで、回収した試料を凍結乾燥により濃縮し、実施例6に記載するインスリンバイオアッセイに用いた。
【0109】
実施例6
インスリン耐性試験:C57BI/6(B6)雄マウスにおけるバイオアッセイ
ヒトインスリンと比較した、トリプシン切断4405による組換え植物由来(DesB30 IN)のインビボ効果を判定するために、このバイオアッセイを行った。B6マウスのグルコース血漿レベルを、インスリン標準物質、陰性対照、およびSBSインスリンを腹腔内注射する前および後に決定した。Jackson Laboratories(メイン州、バー・ハーバー)から、約2月齢の雄C57BI/6(B6)を15匹購入した。血漿グルコースレベルは、自動グルコメーター(OneTouch Ultra、Lifescan、Johnson and Johnson)で測定した。陽性対照は、HumulinR(登録商標)(Eli Lilly)およびRocheによる酵母組換えヒトインスリンを含んだ。生理食塩水をプラセボとした。組換え4405トリプシン切断油体調製物と同様に処理した、野生型(非組換え)アラビドプシス種子から精製されたトリプシン切断油体を表す陰性対照も含めた。
【0110】
B6マウスは、12時間の明暗サイクルで飼育し、自由に摂食できるようにした。インスリン耐性試験のため、マウスにインスリン(1 U/kg体重)を腹腔内注射(IP)し、自動グルコメーターを用いて0分、15分、30分および60分後にグルコースレベルを決定した。インスリン耐性試験はすべて、毎日同じ間隔で実施した(午前9:00)。インスリン耐性試験は、次の試験を行うまで少なくとも2日間おいて実施した。インスリン耐性試験の結果を図13に示す。4405種子に由来するSBS DesB30インスリン(黒菱形)は、注射後、試験過程を通じて、Humulin R(登録商標)(白四角)およびRosheインスリン(白三角)標準物質とほぼ同一の挙動を示した(統計的には相違はなかった、p<0.05)。試験したインスリンはすべて、生理食塩水プラセボ(白丸)およびトリプシン切断野生型アラビドプシス油体(黒丸)(陰性対照)と比較して、血漿グルコースレベルを有意に減少させた(p<0.05)。
【0111】
実施例7
pSBS4401: PRS-Klip27-MI融合タンパク質の構築
研究した融合タンパク質の1つは、同時翻訳様式で、発現をERに標的するためのシグナルペプチドとして機能する、タバコ病原性関連配列(PRS)(Sijmons et al., 1990, Bio/technology, 8:217-221)から開始した。そのすぐ下流は、酵母のTA57プロペプチドに由来するトリプシン切断可能なプロペプチド(KLIP27)(Kjeldsen et al., 2001, Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 18:89-121)であった。この後に、Kjeldsen et al. (2001)によって記載されるミニインスリン(MI)が続いた。
【0112】
このプラスミドの骨格であるpSBS4055は、Hajdukiewicz et al.(Plant Molecular Biology, 1994, 25:989-994)によって記載されている植物バイナリーベクター、pPZP200に基づいた。記載されるマルチクローニング部位の代わりに、ペトロセリナム・クリスパム由来のユビキチンプロモーター/ターミネーター(Kawalleck et al., 1993, Plant. Mol. Bio., 21:673-684)によって駆動される、宿主植物にフォスフィノスリシン耐性を付与するpat遺伝子(Wohlleben et al., 1988, Gene 70:25-37)を、左ボーダー配列と右ボーダー配列の間に挿入した。このカセットに加えて、PRSを駆動するファセオルス・ブルガリス由来のβ-ファゼオリンプロモーター/ターミネーター(Slightom et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 80:1897-1901)をサブクローニングした。標準的なPCR(Horton et al., 1989, Gene 77:61-68)を用いて、SphI/HindIII制限エンドヌクレアーゼ部位の付着した合成PRSコード配列をファゼオリンプロモーターの3'末端に融合し、pSBS4011を作製した。
【0113】
植物に基づく発現系における効率的な翻訳の成功を増大させるためにアラビドプシス・サリアナのコドン使用を組み入れた4つの部分的な重複オリゴヌクレオチドから、Klip27-MI配列を合成した。

をそれらの相補的な20ヌクレオチド重複部位においてアニーリングし、伸長させてKlip27-MI融合物の5'末端を形成し、

を用いて同様のことを行い3'末端を形成した。この2つの部分をBsu36Iで制限消化した後に連結し、完全なKlip27-MIコード配列を生じた。

を用いてこの遺伝子融合物をPCRすることにより、5' SphIおよび3' HindIII制限エンドヌクレアーゼ切断部位部位を付加し、次いで、SphI/HindIIIで切断したpSBS4011に連結した(上記の通り)。結果として、プラスミドpSBS4401(PRS-Klip27-MI融合タンパク質(配列番号:189)をコードするDNA配列(配列番号:188)が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。ファゼオリンプロモーターは、種子の発生過程において、導入遺伝子の時間特異的および組織特異的発現を調節する。
【0114】
pSBS4401による大腸菌およびアグロバクテリウムの形質転換および増殖
配列解析により融合タンパク質をコードするcDNAの完全性を確認した後、プラスミドpSBS4401を大腸菌株DH5αに形質転換し、高レベルの発現を可能にした。単離されたプラスミドDNA(100 ng)を、DH5αコンピテント細胞100μlと共に氷上で20分間混合した。次に、細胞に42℃で45秒間熱ショックを与え、氷に2分間戻した。次いで、SOC培地1 mlを添加し、細胞を225 rpmのエンビロシェーカー上で37℃にて1時間インキュベートし、その後、形質転換細胞をLB-スペクチノマイシンプレート(10 g/Lトリプトン、5 g/L酵母エキス、5 g/L NaCl、15 g/Lアガー)上にプレーティングして37℃で一晩インキュベートした。単一コロニーを用いて、5 ml LB-スペクチノマイシンブロスに接種した。これらの培養物を37℃で一晩培養した。QIAgen mini prepに従って、一晩培養物1 mlから組換えプラスミドを単離した。次いで、単離されたプラスミドを用いて、エレクトロポレーション(25μF、2.5 kV、200Ω)によりコンピテントアグロバクテリウム株EH101(Hood et al., 1986; J. Bacteriol. 144: 732-743)を形質転換した。組換えアグロバクテリウムをAB-スペクチノマイシン/カナマイシン(20x AB塩、2 Mグルコース、0.25 mg/ml FeSo4・7H2O、1 M MgSo4、1 M CaCl2)上にプレーティングし、単一コロニーを用いてAB-スペクチノマイシン/カナマイシンブロス5 mlに接種した。これらの培養物を28℃で一晩培養した。次いで、組換えアグロバクテリウムを用いて、実施例1に記載した通りに花浸漬法(Clough et al., 1998, Plant J., 16:735-743)により、アラビドプシス・サリアナ植物を形質転換した。
【0115】
上記の実施例2に概説した手順を使用し、トランスジェニックアラビドプシス・サリアナ成熟種子において、融合タンパク質KLIP27-MI(4401)の発現レベルを決定した。トランスジェニック産物は、成熟種子の細胞中に存在しないことが認められた。
【0116】
実施例8
pSBS4409: OLEO-ヒトプロインスリン(OLEO-hPIN)融合タンパク質の構築
この融合タンパク質はアラビドプシス・サリアナの18 kDaオレオシンで始まり、その後にインフレームのヒトプロインスリン(hPIN)をコードする遺伝子が続いた。この融合タンパク質の発現は、胚の発生過程において形成される新生油体に標的された。
【0117】
このプラスミドの骨格であるpSBS4008は、Hajdukiewicz et al.(Plant Molecular Biology, 1994, 25:989-994)によって記載されている植物バイナリーベクター、pPZP200に基づいた。記載されるマルチクローニング部位の代わりに、ペトロセリナム・クリスパム由来のユビキチンプロモーター/ターミネーター(Kawalleck et al., 1993, Plant. Mol. Bio., 21:673-684)によって誘導される、宿主植物にフォスフィノスリシン耐性を付与するpat遺伝子(Wohlleben et al., 1988, Gene 70:25-37)を、左ボーダー配列と右ボーダー配列の間に挿入した。このカセットに加えて、アラビドプシスの18 kDaオレオシンゲノム配列を誘導するファセオルス・ブルガリス由来のβ-ファゼオリンプロモーター/ターミネーター(Slightom et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 80:1897-1901)をサブクローニングした。標準的なPCR(Horton et al., 1989, Gene 77:61-68)を用いて、NcoIおよびHindIII制限エンドヌクレアーゼ部位の付着したオレオシン遺伝子配列(終止コドンなし)をファゼオリンプロモーターの3'側に融合し、pSBS4008を作製した。
【0118】
好ましい植物コドン使用頻度を用いて、Aptagenにより、単一の335 bp断片としてNcoI-ヒトプレプロインスリン遺伝子-HindIIIを合成した。次いで、NcoI/HindIIIで切断したpSBS4008に連結することにより、プラスミドpSBS4400(オレオシン-ヒトプレプロインスリン融合タンパク質をコードするDNA配列が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。このpSBS4400プラスミドベクターを鋳型として、

およびベクターの既存のプロインスリン領域のHindIII部位を含む

に対するプライマーを使用し、pfu DNAポリメラーゼを用いて標準的なPCRを行うことにより、ヒトプロインスリン(hPIN)を作製した。利用可能なSphI部位

から、pSBS4400ベクター内のアラビドプシスオレオシン遺伝子の3'末端

までに対するプライマーを使用し、pfu DNAポリメラーゼによって、第2の断片を増幅した。PCRの後、産物をアガロースゲルで分離し、267 bp(hPIN-HindIII)および360 bp(SphI-OLEO(3'末端))断片に相当するバンドをゲル抽出キット(Qiagen)を用いてゲル精製した。627 bp SphI-OLEO(3'末端)-hPIN-HindIII断片を増幅するため、プライマー1455(配列番号:192)およびプライマー1458(配列番号:193)を0.001μMの重複架橋PCRプライマー

と組み合わせて使用し、Taq DNAポリメラーゼを用いて2ラウンド目のPCR増幅(アニーリング温度58℃で2サイクル、その後アニーリング温度52℃で31サイクル)を行うことにより、2つの断片を融合させた。次いで、627 bp SphI-OLEO(3'末端)-hPIN-HindIII断片を、pGEMT Easy Vector System(商標)(Promega)のT/Aオーバーハングに連結し、これを用いてDH5α細菌を形質転換し、pSBS3409(pGEMT-SphI-OLEO(3'末端)-hPIN-HindIII)を得た。
【0119】
pSBS3409からのSphI/HindIII断片を、pSBS4400からのSphI/HindIII断片と交換した。pSBS3409およびpBSB4404での標準的な制限消化は、SphI/HindIII(New England Biolabs)を用いて行った。断片を1.5%アガロースゲルで分離し、ゲル抽出キット(Qiagen)を用いて精製した。次いで、pSBS3409から遊離された617 bp SphI/HindIII断片を、あらかじめ切断しておいたpSBS4400(内部SphI/HindIII断片は除去されている)ベクター骨格のSphI/HindIIIアクセプター部位に、T4 DNAリガーゼ(NEB)を用いて15℃で一晩連結した。
【0120】
結果として、プラスミドpSBS4409(オレオシン-hPIN融合タンパク質(配列番号:196)をコードするDNA配列(配列番号:195)が、バイナリーベクター中でファゼオリンプロモーター/ターミネーターの発現調節下に位置する)が得られた。ファゼオリンプロモーターは、種子の発生過程において、導入遺伝子の時間特異的および組織特異的発現を調節する。
【0121】
pSBS4409による大腸菌およびアグロバクテリウムの形質転換および増殖
配列解析により融合タンパク質をコードするcDNAの完全性を確認した後、プラスミドpSBS4409を大腸菌株DH5αに形質転換し、高レベルの発現を可能にした。単離されたプラスミドDNA(100 ng)を、DH5αコンピテント細胞100μlと共に氷上で20分間混合した。次に、細胞に42℃で45秒間熱ショックを与え、氷に2分間戻した。次いで、SOC培地1 mlを添加し、細胞を225 rpmのエンビロシェーカー上で37℃にて1時間インキュベートし、その後、形質転換細胞をLB-スペクチノマイシンプレート(10 g/Lトリプトン、5 g/L酵母エキス、5 g/L NaCl、15 g/Lアガー)上にプレーティングして37℃で一晩インキュベートした。単一コロニーを用いて、5 ml LB-スペクチノマイシンブロスに接種した。これらの培養物を37℃で一晩増殖させた。QIAgen mini prepに従って、一晩培養物1 mlから組換えプラスミドを単離した。次いで、単離されたプラスミドを用いて、エレクトロポレーション(25μF、2.5 kV、200Ω)によりコンピテントアグロバクテリウム株EH101(Hood et al., 1986; J. Bacteriol. 144: 732-743)を形質転換した。組換えアグロバクテリウムをAB-スペクチノマイシン/カナマイシン(20x AB塩、2 Mグルコース、0.25 mg/ml FeSo4・7H2O、1 M MgSo4、1 M CaCl2)上にプレーティングし、単一コロニーを用いてAB-スペクチノマイシン/カナマイシンブロス5 mlに接種した。これらの培養物を28℃で一晩培養した。次いで、組換えアグロバクテリウムを用いて、実施例1に記載した通りに花浸漬法(Clough et al., 1998, Plant J., 16:735-743)により、アラビドプシス・サリアナ植物を形質転換した。
【0122】
アラビドプシス・サリアナにおけるインスリンの発現レベル
上記の実施例2に概説した手順を使用し、トランスジェニックアラビドプシス・サリアナ成熟種子において、融合タンパク質OLEO-hPIN(4409)の発現レベルを決定した。オレオシン-hPIN融合タンパク質の移動(黒矢印で示す)を非形質転換(wt)アラビドプシスと比較する、2つの代表的な系統(4409-6および4409-8)からの油体タンパク質のクーマシー染色ゲル(図14)。デンシトメトリーにより発現レベルを決定し、平均して全種子タンパク質の約0.10%であると測定した。このレベルは、全種子タンパク質の約0.04%を構成する、非形質転換種子(wt)における同じ分子量の内因性タンパク質の共移動に加えて計算された。
【0123】
実施例9
ベニバナの形質転換
この形質転換手順は、Orlilcowska T. K. et al.((1995) Plant Cell, Tissue and Organ Culture 40: 85-91)によって概説されている手順と同様であるが、S-317を形質転換する点および選択マーカーとしてフォスフィノスリシンを使用する点で変更および改変してある。損傷、破損しておらず、かつ病気にかかっていないS-317カリフォルニア品種のベニバナ種子を、0.1% HCl2中で12分間除洗し、その後、滅菌蒸留水で4〜5回すすぐ。1%スクロースおよび0.25% ゲルライト(Gelrite)を添加したMS培地(Murashige T. & Skoog F (1962) Physiol. Plant. 15: 473-497)上で暗所にて、滅菌種子を発芽させる。凍結グリセロール保存液からのアグロバクテリウム培養物を、選択のための抗生物質を添加したAB最少液体培地5 ml中に起こして、28℃で48時間増殖させる。この培養物のアリコートを、形質転換のための選択剤を添加したルリア(Luria)ブロス5 ml中で一晩培養する。細菌細胞6〜8 mlをAB培地で2回洗浄し、最終細胞密度が0.4〜0.5(OD600)になるように調整する。
【0124】
出芽した実生から2日齢の子葉を切除し、調製したアグロバクテリウム細胞中に浸漬し、3%スクロース、4μM N6-ベンジルアデニン(BA)、および0.8μMナフタレン酢酸(NAA)を添加したMS培地上にプレーティングする。プレートを、暗条件下で21℃にてインキュベートする。3日後、300 mg/Lティメンチン(timentin)を添加した同じ培地に移す。さらに4日後、すべての培養物を明所に移す。3日後、0.5 mg/Lでフォスフィノスリシンを添加した選択培地上に外植片を置く。芽の伸長を継続させるため、週に1度、植物ホルモンを含まないが基礎量の2倍のKNO3を含むMS培地上に外植片を移す。10 mmを超えて伸長した茎葉を最初の外植片から切除し、選択をかけながら個々に成長させる。発根させるため、2%スクロース、10μMインドール酪酸、および0.5μM NAAを添加したMS培地上に、推定トランスジェニック組織を表す緑色茎葉を置く。発根した茎葉を水はけのよい無土壌混合物に移植し、高湿度および12時間の光下で生育させる。
【0125】
実施例10
アマの形質転換プロトコール
この形質転換手順は、Dong J.およびMcHughen A.(Plant Cell Reports (1991)10:555-560)、Dong J. and McHughen A.(Plant Sciences (1993) 88:61-71)、ならびにMlynarova et al.(Plant Cell Reports (1994) 13: 282-285)によって概説されている手順と同様である。損傷、破損しておらず、かつ病気にかかっていないアマ種子を、70%エタノール溶液中で5〜7分間、その後Tween 20(100 ml当たり3〜4滴)を添加した50%漂白溶液中で25分間、連続撹拌しながら除洗した。滅菌蒸留水で種子を5〜7回すすぐ。マジェンタ(Magenta)容器中の2%スクロースおよび0.3%ゲルライト(登録商標)を添加したMS培地(Murashige T. & Skoog F (1962) Physiol. Plant. 15: 473-497)上で、明所にて、除洗した種子を発芽させる。形質転換のため、選択用の適切な抗生物質を添加したABブロス中で、アグロバクテリウム培養物を一晩培養する。一晩培養した細胞6〜8 mlを2回洗浄し、ABブロス5 ml中に再懸濁する;この保存液2 mlを98 mlの誘導培地(3%スクロース、5μM 6-ベンジルアミノプリン(BA)、および0.25μM α-ナフタレン酢酸(NAA)を添加したBS基礎培地)に添加し、最終OD600が1.0になるように調整する。
【0126】
胚軸外植片を区分化し、調製したアグロバクテリウム細胞溶液中で約4時間感染させる(この過程中、プレートを穏やかに1〜2回撹拌する)。感染過程を終えた後、液体接種培地から外植片を取り出し、滅菌ろ紙上にブロットする。15〜20個の外植片を、組織培養プレート中の0.7%アガロース固体誘導培地上にプレーティングする。プラスチックラップでプレートを密封し、明条件(23〜24℃)下で外植片を48時間共培養する。2日後、緑色の分裂組織外植片を300 mg/Lティメンチンを含む同じ培地(事前選択培地)に移し、これをプラスチックラップで包む。3日後、10mg/L DL PPTを含む上記の培地(選択1)に培養物を移す。パラフィルム(Parafilm)(登録商標)でプレートを包み、明条件下で24℃にてインキュベートする。2週間ごとに培養物を移して、この培地で1ヶ月間維持する。茎葉を伸長させるため、2週間ごとに、培養物をマジェンタ容器中の選択培地II(2%スクロース、500 mg/L MES緩衝液、300 mg/Lティメンチン、および10 mg/L DL PPTを含むMS基礎培地)に移す。選択で生存した推定形質転換茎芽は濃緑色であり、選択II培地に個々に植えた場合、7〜10日で活発な根を形成する。発根した茎芽を、小さなポット中の滅菌温室土壌混合物に移植し、順化のため、小植物を透明なプラスチックカップで覆う。成熟させるため、活発に成長している植物を、水はけのよい土壌混合物を含む1ガロンのポットに移植し、温室条件下で生育させる。
【0127】
現時点で好ましい実施例であると考えられるものを参照して本発明を説明したが、本発明は、開示した実施例に限定されないことが理解されるべきである。むしろ、本発明は、添付の特許請求の精神および範囲内に含まれる種々の改変および等価な変更を網羅することが意図される。
【0128】
すべての出版物、特許、および特許出願は、個々の出版物、特許、または特許出願が、詳細にかつ個別にその全体が参照により組み入れられることが示されるのと同程度に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0129】
(表1)既知のインスリン配列の例





【0130】
配列の概要
配列番号:1および2はそれぞれ、プラスミドpSBS4404中のPRS-D9scFv-KLIP27-MI-KDEL融合タンパク質のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。
【0131】
配列番号:3および4はそれぞれ、プラスミドpSBS4405中のOleo-KLIP8-KLIP27-MI融合タンパク質のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。
【0132】
配列番号:5および6はそれぞれ、プラスミドpSBS4414中のPRS-MI-四塩基性リンカー-D9ScFv-KDEL融合タンパク質のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。
【0133】
配列番号:7〜145は、表1に記載する既知のインスリン配列を示す。
【0134】
配列番号:146〜148は、インスリンC-ペプチドの断片のアミノ酸配列を示す。
【0135】
配列番号:149は、四塩基性プロセシングペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0136】
配列番号:150〜155は、インスリンポリペプチドをERに保持することができるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0137】
配列番号:156〜160は、インスリンポリペプチドをER由来貯蔵細胞小器官に保持することができるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0138】
配列番号:161は、PRSシグナル配列のアミノ酸配列を示す。
【0139】
配列番号:162〜171は、酵母リーダー配列のアミノ酸配列およびそれらに由来する配列を示す。
【0140】
配列番号:172〜173は、スペーサーペプチドのアミノ酸配列を示す。
【0141】
配列番号:174は、KLIP8配列のアミノ酸配列を示す。
【0142】
配列番号:175は、D9ScFv cDNAクローンの5'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにSphI部位を5'領域に付加するように設計されたフォワードプライマー1325のヌクレオチド配列を示す。
【0143】
配列番号:176は、D9ScFv cDNAクローンの3'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにXhoI部位を3'領域に付加するように設計されたリバースプライマー1326のヌクレオチド配列を示す。
【0144】
配列番号:177は、リバースプライマー1323の20ヌクレオチド領域と相補的であり、Klip27-MI融合物の5'末端を形成するように設計されたフォワードプライマー1324のヌクレオチド配列を示す。
【0145】
配列番号:178は、フォワードプライマー1324の20ヌクレオチド領域と相補的であり、Klip27-MI融合物の5'末端を形成するように設計されたリバースプライマー1323のヌクレオチド配列を示す。
【0146】
配列番号:179は、リバースプライマー1321の19ヌクレオチド領域と相補的であり、Klip27-MI融合物の3'末端を形成するように設計されたフォワードプライマー1322のヌクレオチド配列を示す。
【0147】
配列番号:180は、フォワードプライマー1322の19ヌクレオチド領域と相補的であり、Klip27-MI融合物の3'末端を形成するように設計されたリバースプライマー1321のヌクレオチド配列を示す。
【0148】
配列番号:181は、Klip27-MI配列の5'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにXhoI部位を5'領域に付加するように設計されたフォワードプライマー1364のヌクレオチド配列を示す。
【0149】
配列番号:182は、Klip27-MI配列の3'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにHindIII部位を3'領域に付加するように、および3'KDEL配列を付加するように設計されたリバースプライマー1334のヌクレオチド配列を示す。
【0150】
配列番号:183は、Klip27-MI配列の3'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにHindIII部位を3'領域に付加するように設計されたリバースプライマー1329のヌクレオチド配列を示す。
【0151】
配列番号:184は、Klip27-MI配列の5'領域と相補的であり、その後の連結を容易にするためにSphI部位を5'領域に付加するように設計されたフォワードプライマー1363のヌクレオチド配列を示す。
【0152】
配列番号:185は、インスリンB鎖配列の5'領域と相補的であり、リバースプライマー1518と併用して、ヒトインスリンの確証的なA鎖とB鎖との間に介在四塩基性部位を挿入するように設計された、フォワードプライマー1515のヌクレオチド配列を示す。
【0153】
配列番号:186は、介在四塩基性ミニc-ペプチド配列を有するインスリンB鎖配列の3'領域およびインスリンA鎖の5'領域と相補的であり、ヒトインスリンの確証的なA鎖とB鎖との間に介在四塩基性部位を挿入するように設計されたリバースプライマー1518のヌクレオチド配列を示す。
【0154】
配列番号:187は、_D9 scFV/KDEL配列の3'領域と相補的であり、MI-四塩基性リンカー-D9Scfv-KDEL全体を増幅してpSBS4414挿入物を作製するように設計された、リバースプライマー1517のヌクレオチド配列を示す。
【0155】
配列番号:188および189はそれぞれ、プラスミドpSBS4401中のPRS-Klip27-MI-融合タンパク質のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。
【0156】
配列番号:190は、インスリンB鎖配列の5'領域と相補的であり、リバースプライマー1591と併用してヒトプロインスリン(hRIN)断片を生じるように設計された、フォワードプライマー1457のヌクレオチド配列を示す。
【0157】
配列番号:191は、インスリンプロインスリン(hPIN)の3'領域と相補的であり、ヒトプロ(hPIN)を生じ、かつ3'HindIIIクローニング部位を付加するように設計された、リバースプライマー1458のヌクレオチド配列を示す。
【0158】
配列番号:192は、pSBS4404のSphI部位の5'領域と相補的であり、リバースプライマー1456と併用してアラビドプシスオレオシン遺伝子を増幅するように設計された、フォワードプライマー1455のヌクレオチド配列を示す。
【0159】
配列番号:193は、アラビドプシスオレオシン遺伝子の3'領域と相補的であり、、フォワードプライマー1455と併用してアラビドプシスオレオシン遺伝子を増幅するように設計された、リバースプライマー1456のヌクレオチド配列を示す。
【0160】
配列番号:194は、アラビドプシスオレオシン遺伝子の3'領域およびヒトプロインスリン遺伝子の5'領域と相補的であり、フォワードプライマー1455およびリバースプライマー1456と併用してpSBS4409挿入物を生じるように設計された、重複架橋PCRプライマーのヌクレオチド配列を示す。
【0161】
配列番号:195および196はそれぞれ、プラスミドpSBS4409中のOLEO-hPIN融合タンパク質のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す。
【0162】


















【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】pSBS4404のインスリン融合タンパク質(PRS-D9scFv-Klip27-MI-KDEL)のヌクレオチド配列(配列番号:1)および推定アミノ酸配列(配列番号:2)を示す。予測されるアミノ酸配列を一文字コードで示す。PRSシグナルペプチドの推定アミノ酸配列をイタリック体で示し、D9 scFvの推定アミノ酸配列を太字で示し、KLIP27配列の推定アミノ酸配列に下線を引き、ミニインスリン配列の推定アミノ酸配列をイタリック体の太字で示し、最後にKDEL配列を太字で示しかつ下線を引く。
【図2】pSBS4405のインスリン融合タンパク質(OLEO-KLIP8-KLIP27-MI)のヌクレオチド配列(配列番号:3)および推定アミノ酸配列(配列番号:4)を示す。予測されるアミノ酸配列を一文字コードで示す。アラビドプシス・サリアナ18kDaオレオシンの推定アミノ酸配列をイタリック体で示し、KLIP8配列の推定アミノ酸配列を太字で示し、KLIP27配列の推定アミノ酸配列に下線を引き、ミニインスリンの推定アミノ酸配列をイタリック体の太字で示す。
【図3】4414インスリン融合タンパク質(PRS-MI-四塩基性リンカー-D9Scfv-KDEL)の完全なヌクレオチド配列(配列番号:5)およびアミノ酸配列(配列番号:6)を示す。予測されるアミノ酸配列を一文字コードで示す。PRSシグナルペプチドの推定アミノ酸配列をイタリック体で示し、ミニインスリン(B30四塩基性)の推定アミノ酸配列を太字で示し、四塩基性リンカー配列の推定アミノ酸配列に下線を引き、D9 scFvの推定アミノ酸配列をイタリック体の太字で示し、最後にKDEL配列を太字で示しかつ下線を引く。
【図4】図4(A〜D)は、クーマシー染色SDS-PAGEおよびウェスタンブロット解析に基づいた、形質転換アラビドプシス・サリアナ系統(4404-2、-17、-20、および4405-4)におけるインスリン融合タンパク質の組換え発現を示す。矢印は、還元条件下で移動する38.5 kDaおよび34.2 kDa融合ポリペプチド、PRS-D9(scfv)-KLIP27-MIw/KDELおよびOLEO-KLIP8-KLIP27-MIそれぞれの位置を表す。図4A(クーマシー染色ゲル)および図4B(抗インスリンE2E3でプロービングした対応するウェスタンブロット)は、野生型(wt)ならびに4404構築物および4405構築物を発現するトランスジェニック種子系統の全種子タンパク質を示す。図4B(クーマシー染色ゲル)および図4D(抗インスリンE2E3でプロービングした対応するウェスタンブロット)は、野生型ならびに同じ4404構築物および4405構築物を発現するトランスジェニック種子から調製された油体タンパク質を示す。図4(E〜F)は、クーマシー染色SDS-PAGEおよびウェスタンブロット解析に基づいた、形質転換アラビドプシス・サリアナ系統(4419-9および4414-20)におけるインスリン融合タンパク質の組換え発現を示す。分子量マーカー(M)は、10 kDa、15 kDa、25 kDa、37 kDa、50 kDa、75 kDa、100 kDa、150 kDaである。対照は、非還元条件下で分離されたhIN(組換えヒトインスリン標準物質)およびhProIN(組換えヒトプロインスリン標準物質)を含む。
【図5】得られたT3種子系統(4404-2、-17、-20、4405-4、-13、-19)およびT2種子系統(4414-9および-20)において決定された発現レベルを示す。導入遺伝子および%モル濃度MI発現のレベルは、デンシトメトリーに基づいて決定した。
【図6】溶出前の油体調製物(-OB)、ギ酸で溶出した後のOB調製物(-OB')、および濃縮溶出物質(-E)のクーマシー染色SDS-PAGE(15%)解析を示す。矢印は、移動する融合ポリペプチドの位置を示す。野生型対照は本質的に、溶出後に主要なタンパク質を本質的に含まないが、濃縮4404物質は、融合タンパク質、いくつかの切断産物(おそらく加水分解された融合タンパク質)、およびおそらく同時に溶出されたいくつかのアルブミンを含む。
【図7】C18カラム上での、トリプシン切断溶出4404融合タンパク質と比較した、ヒトインスリン標準物質の特徴的な保持時間を示すクロマトグラムを示す。hIN標準物質は、組換えヒトインスリン標準物質(0.5μg)である。
【図8】トリプシン切断し、17.0〜17.5分を回収したHPLC精製4404(B)画分と比較した、ヒトインスリン標準物質(A)の質量スペクトル解析を示す。
【図9】野生型(非組換え)種子と比較した、4405を発現する系統からの抽出可能な種子全体のタンパク質および油体(OB)調製タンパク質のクーマシー染色SDS-PAGE(15%)解析を示す。矢印は、移動する融合ポリペプチドの位置を示す。
【図10】C18カラム上での、RP-HPLCによるトリプシン切断4405 OB調製物と比較した、ヒトインスリン標準物質の特徴的な保持時間を示すクロマトグラムを示す。hIN標準物質は、組換えヒトインスリン標準物質(0.5μg)である。
【図11】トリプシン切断し、17.0〜17.5分を回収したHPLC精製4405(B)画分と比較した、ヒトインスリン標準物質(A)の質量スペクトル解析を示す。
【図12】ヒトインスリン標準物質(実線)と比較した、トリプシン切断4405油体調製物(点線)のクロマトグラムを示す。溶出された切断インスリンの7〜35 mS/cmの画分を回収し、凍結乾燥により濃縮してインスリンバイオアッセイに使用した。
【図13】4405油体から調製された植物由来インスリン(黒菱形=SBS hIN DesB30)と比較して、陰性対照(白丸=生理食塩水プラセボ、黒丸=トリプシン切断野生型油体)、陽性対照(白四角=Humulin R、白三角=Roshe hIN)を注射した後の、雄B6マウスにおける血清グルコースレベルの変化を示す。
【図14】オレオシン-hPIN融合タンパク質の移動(黒矢印で示す)を非形質転換(wt)アラビドプシスと比較する、2つの代表的な系統(4409-6および4409-8)からの油体タンパク質のクーマシー染色ゲルを示す。デンシトメトリーにより発現レベルを決定し、平均して全種子タンパク質の約0.10%であると測定した。このレベルは、全種子タンパク質の約0.04%を構成する、非形質転換種子(wt)における同じ分子量の内因性タンパク質の共移動に加えて計算された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、植物種子においてインスリンを発現させる方法:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;ならびに
(c) 植物細胞を、インスリンを発現する種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階。
【請求項2】
インスリンポリペプチドが、植物細胞内の膜に囲まれた細胞内区画中に蓄積する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
膜に囲まれた細胞内区画が、小胞体(ER)またはER由来貯蔵小胞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
キメラ核酸配列が、膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドを保持することができるポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
膜に囲まれた細胞内区画が、小胞体(ER)またはER由来貯蔵細胞小器官である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ER中にインスリンポリペプチドを保持するポリペプチドが、KDEL、HDEL、DDEL、ADEL、およびSDELからなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ER中にインスリンポリペプチドを保持するポリペプチドが、配列番号:150、配列番号:151、配列番号:152、配列番号:153、および配列番号:154からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
インスリンポリペプチドが、シグナルペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
シグナルペプチドが、タバコ病原性関連タンパク質(PR-S)シグナル配列である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
シグナル配列が配列番号:161である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
ER由来貯蔵細胞小器官が油体である、請求項5記載の方法。
【請求項12】
ER由来貯蔵細胞小器官中にインスリンポリペプチドを保持するポリペプチドが油体タンパク質である、請求項5記載の方法。
【請求項13】
油体タンパク質が、オレオシン(oleosin)、カレオシン(caleosin)、およびステロレオシン(steroleosin)からなる油体タンパク質の群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
油体タンパク質が、配列番号:156、配列番号:157、配列番号:158、配列番号:159、および配列番号:160からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
キメラ核酸が、インスリンをコードする核酸配列にリーディングフレーム内で融合された安定化タンパク質をコードする核酸配列をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項16】
キメラ核酸が、インスリンをコードする核酸配列にリーディングフレーム内で融合されたシグナルペプチド配列をコードする核酸配列をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
シグナルペプチドが、タバコ病原性関連タンパク質(PR-S)シグナル配列である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
シグナルペプチドが配列番号:161である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
安定化タンパク質をコードする核酸により、種子の回収および粉砕時に、インスリンポリペプチドと油体との会合が可能になる、請求項15記載の方法。
【請求項20】
安定化タンパク質が、油体に対する特異性を有する一本鎖抗体をコードする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
インスリンをコードする核酸配列にリーディングフレーム内で融合された安定化タンパク質をコードする核酸配列が、一本鎖抗体およびコレラ毒素Bサブユニットからなるポリペプチドの群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項22】
キメラ核酸配列が、核ゲノム組み込み条件下で植物細胞に導入される、請求項3記載の方法。
【請求項23】
植物種子における発現を調節することができる核酸配列が、種子選択的プロモーターである、請求項1〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
種子選択的プロモーターがファゼオリンプロモーターである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
インスリンをコードする核酸配列が、ヒトインスリン、ブタインスリン、およびウシインスリンからなる核酸配列の群より選択される、請求項1〜24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
核酸がコードするインスリンがミニインスリンである、請求項1〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
インスリンをコードする核酸配列が、植物のコドン使用に関して最適化される、請求項1〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
以下の段階を含む、インスリンを含む植物種子を取得する方法:
(a) 機能的に連結された成分として、5'から3'方向の転写において、
(i) 植物種子細胞における発現を調節することができる核酸配列、および
(ii) インスリンポリペプチドをコードする核酸配列
を含む、キメラ核酸構築物を提供する段階;
(b) 植物細胞にキメラ核酸構築物を導入する段階;
(c) 植物細胞を、種子を生じることができる成熟植物に成長させる段階;ならびに
(d) インスリンを含む種子を植物から採取する段階。
【請求項29】
種子中に存在する全可溶性タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
5'から3'方向の転写において、
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列、
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列
を含むキメラ核酸配列を含む種子を生じることができる植物であって、該種子がインスリンを含有する、植物。
【請求項31】
キメラ核酸配列が植物の核ゲノム中に組み込まれた、請求項28記載の植物。
【請求項32】
シロイヌナズナ、アマ、またはベニバナ植物である、請求項30または31記載の植物。
【請求項33】
5'から3'方向の転写において、
(a) 以下に機能的に連結された、植物種子細胞における発現を調節することができる第1核酸配列、
(b) インスリンポリペプチドをコードする第2核酸配列
を含むキメラ核酸配列を含む植物種子。
【請求項34】
種子中に存在する全可溶性タンパク質の少なくとも0.1%がインスリンである、請求項33記載の植物種子。
【請求項35】
植物種子細胞における発現を調節することができるプロモーターを含む核酸配列に連結された、インスリンをコードする核酸配列。
【請求項36】
プロモーターが種子選択的プロモーターである、請求項35記載の核酸配列。
【請求項37】
種子選択的プロモーターがファゼオリンプロモーターである、請求項36記載の核酸配列。
【請求項38】
膜に囲まれた細胞内区画中にインスリンポリペプチドを保持することができる配列をさらに含む、請求項35記載の核酸配列。
【請求項39】
ERまたはER由来貯蔵細胞小器官中にインスリンポリペプチドを保持することができる配列をさらに含む、請求項35記載の核酸配列。
【請求項40】
実質的に純粋なインスリンを取得するための、請求項1〜29のいずれか一項に従って製造される植物種子の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−523611(P2007−523611A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515598(P2006−515598)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000896
【国際公開番号】WO2004/111244
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(502452808)セムバイオシス ジェネティクス インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】