説明

植物のインプランタ形質転換法

植物の種子における胚の出芽部の傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種することを特徴とする、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる植物のインプランタ形質転換法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによる植物のインプランタ(in planta)形質転換法に関する。
【背景技術】
一般的な植物の形質転換法としては、(1)目的遺伝子をベクターに導入し、そのベクターを用い、目的遺伝子を植物ゲノム中に導入する方法(Rhodes C.A.ら,Science,240:204−207,1989;Datta,S.K.,Bio/Technology,8:736−740,1990;Chritou P.ら,Bio/Technology,9:957−962,1991)及び(2)所望の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを物理的に細胞内へ導入して、植物が元来持つ遺伝子の修復機構を利用して、標的遺伝子を改変する方法(Beetham P.R.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.,96,8774−8778,1999)の2つの方法に大別される。(1)の方法において、目的遺伝子を含むベクターを植物細胞へ導入する技術としては、エレクトロポレーション法(Rhodes C.A.ら,Science,240:204−207,1989)、ポリエチレングリコール(PEG)法(Datta,S.K.,Bio/Technology,8:736−740,1990)、パーティクルガン法(Chritou P.ら,Bio/Technology 9:957−962,1991)等の物理的導入方法及びアグロバクテリウム形質転換法(特開昭59−140885号公報)と呼ばれる生物学的な方法を挙げることができる。
アグロバクテリウム形質転換法は、植物病原細菌の一種であるアグロバクテリム菌が植物に感染すると、自らが持つTiプラスミドやRiプラスミド上に存在するT−DNA領域を植物のゲノム中へ組み込む性質を利用する(Zhu J.ら,J.Bacteriol.,182,3885−3895,2000)。
従来、イネやトウモロコシ等の単子葉植物の形質転換法においては、上記で説明した物理的導入方法が使用されていた。一方、アグロバクテリウム形質転換法は、双子葉植物で多くの形質転換植物が作出されたにも拘らず、単子葉植物に適用することは難しいと考えられていた。この原因は、元来双子葉植物に感染するアグロバクテリウム菌の単子葉植物への感染率が低いことに起因した。しかしながら、その後の研究により、アグロバクテリウム形質転換法を用いて単子葉植物を形質転換することが可能となってきた。
単子葉植物のアグロバクテリウム形質転換法としては、バイナリーベクター法(特開昭60−70080号公報)が挙げられる。さらに、このバイナリーベクター法は、(1)T−DNAからホルモン合成遺伝子が除去されたディスアーム型Tiプラスミドを有する強病原性アグロバクテリウム菌(EHA101、EHA105等)とpBI121等のバイナリーベクターとの組み合わせを利用する方法(Klee H.,Trends in Plant Science,5,446−451,2000)及び(2)ディスアーム型Tiプラスミドを有する中程度の病原性アグロバクテリウム菌(LBA4404、GV311等)とpTOK233等のスーパーバイナリーベクターとの組み合わせを利用する方法(国際公開第94/00977号;Hiei Y.ら,Plant J.,6,271−282,1994)の2つの方法に大別される。(1)の方法においては、バイナリーベクターを担持することになるアグロバクテリウム菌に工夫を施す。強病原性のアグロバクテリウム・ツメファシエンスA281株は、宿主範囲が広く、他のアグロバクテリム菌よりも形質転換効率が高い。このアグロバクテリウム・ツメファシエンスA281株が有するTiプラスミドより作出されたディスアーム型Tiプラスミドを担持するEHA系列のアグロバクテリウム菌(EHA101、EHA105)を利用する。これらのアグロバクテリウム菌を利用することでイネなどの単子葉植物の高効率の形質転換が可能となる。一方、(2)の方法においては、バイナリーベクターに工夫を施す。バイナリーベクターにvirBやvirG等の病原性に関与する遺伝子を導入する。これらのバイナリーベクターを利用することで、アグロバクテリウム菌が強病原性菌でなくとも単子葉植物の高効率での形質転換が可能となる。
一方、例えばイネのアグロバクテリウム形質転換法においては、脱分化過程にあるか若しくは脱分化した培養細胞(Hiei Y.ら,Plant J.,6,271−282,1994)、種子から取り出された未熟胚(Hiei Y.ら,Plant J.,6,271−282,1994)、或いは籾殻除去後に人為的な操作を受けていない状態で培養された種子(特許文献1)にアグロバクテリウム菌を感染させる。さらに、日本型イネのアグロバクテリウム形質転換法(Hiei Y.ら,Plant J.,6,271−282,1994)においては、胚由来カルスにアグロバクテリウム菌を感染させる。一方、インド型イネに関しては、培養方法をインド型イネに適したものにすることにより日本型イネと同様な方法でインド型イネを高効率で形質転換することが可能となったことが開示されている(特開平10−117776号公報)。
また、別のイネの形質転換効率を高める方法も開示されている(特開2000−342253号公報)。この方法によれば、形質転換効率の低い組み合わせであるアグロバクテリム・ツメファシエンスLBA4404菌とpIG121−Hmバイナリーベクターとによる形質転換効率が2〜7倍程度高まったことが報告されている。
以上のようにイネに代表される単子葉植物のアグロバクテリウム形質転換法は、近年著しく進歩し、形質転換効率も飛躍的に高まって来た。しかしながら、このような形質転換法には以下の問題点がある。まず第一に、滅菌条件下での作業が必要なことである。第二は、長期間かかる点である。第三は、組織培養中に、体細胞突然変異(ソマクローナル変異)が頻繁に生じる点である。
【特許文献1】 特開2001−29075号公報
【発明の開示】
そこで、植物に広く適用でき、簡便で効率が高く、かつ体細胞突然変異等が生じない形質転換法が構築できれば、有用植物の育種に貢献でき、分子農業の発展に寄与することができる。
本発明は、より簡便でかつ効率的に行うことのできる植物のインプランタ形質転換法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、植物の種子における胚の出芽部の傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種することで、植物が効率良く形質転換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下を包含する。
(1)植物の種子における胚の出芽部の傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種することを特徴とする、植物のインプランタ形質転換法。
(2)植物の種子における胚の出芽部に、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを付着させた創傷手段により傷をつけることを特徴とする、植物のインプランタ形質転換法。
(3)前記植物が単子葉植物であることを特徴とする、(1)又は(2)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(4)前記出芽部が、胚の出芽部中央、胚の幼芽部分及び胚の中央部から成る群より選択されるものである、(1)又は(2)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(5)前記接種前に植物の種子を吸水させる工程を含む、(1)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(6)前記創傷前に植物の種子を吸水させる工程を含む、(2)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(7)吸水期間が、2〜3日間であることを特徴とする、(5)又は(6)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(8)前記胚の出芽部に傷をつける工程を含む、(1)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(9)前記傷が穿孔であることを特徴とする、(1)又は(2)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(10)接種するアグロバクテリウム・ツメファシエンスが、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌及びプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するLBA4404菌から成る群より選択されるものである、(1)又は(2)記載の植物のインプランタ形質転換法。
(11)前記接種がアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を塗布することである、(1)記載の植物のインプランタ形質転換法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るインプランタ形質転換法においては、植物の種子を吸水させる工程、次に種子における胚の出芽部に傷をつける工程、傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種する工程が含まれる。
本発明に係るインプランタ形質転換法は、広く一般に種子を生じる植物に適用することができる。従って、本発明に係るインプランタ形質転換法の対象植物は、被子植物及び裸子植物を含む種子植物である。被子植物には、単子葉植物及び双子葉植物が含まれる。単子葉植物としては、いずれの種類であってもよいが、例えばイネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、シバ、ソルガム、サトウキビ、バナナ及びパイナップルなどが挙げられる。また、双子葉植物としては、ダイズ、ワタ、タバコ、サトウダイコン、アズキ、ソバ、キュウリ、メロン、ナタネ、ダイコン、レタス、アルファルファ、エンドウ、サツマイモ及びジャガイモなどが挙げられる。
一方、裸子植物としては、マツ、スギ、イチョウ及びソテツなどを挙げられる。
本発明に係るインプランタ形質転換法では、まず植物の種子を吸水させる。吸水は、種子を水に浸種し、15〜20℃の温度でインキュベートすることにより行われる。この際、一度、水を交換してもよい。吸水期間は、例えば、イネやトウモロコシの場合には、吸水により種子の胚が白色を呈するまでの期間であればよく、好ましくは2〜3日間である。一方、例えばコムギの場合には、吸水期間は、胚部分の輪郭が明瞭になるまでの期間であればよく、好ましく2〜3日間である。この吸水工程により、種子を柔らくすることで胚の出芽部に傷をつけることができる。
次いで、上記で吸水させた種子における胚の出芽部に傷をつける。ここで、「出芽部」とは、出芽の際に芽が出現する部位を意味する。出芽部としては、例えば、胚の出芽部中央、胚の幼芽部分及び胚の中央部が挙げられる。なお、図1には、例としてイネの種子における胚2が模式的に示されている。傷は、接種するアグロバクテリウム・ツメファシエンスが感染できるものであればいずれのものでよいが、出芽部に穿設された穿孔または出芽部に切りつけられた切り口が挙げられる。図1には、イネの種子における胚2の出芽部内の穿設部位1が示されている。穿設するための器具としては、例えばφ0.71mmの針が挙げられる。また、穿孔の個数は出芽部あたり1〜2個であることが好ましい。さらに、穿孔の深さは1〜2.0mmであることが好ましい。一方、切りつけるための器具としては、例えばメスおよびカッターなどの切断器具が挙げられる。
次いで、上記で得られた出芽部の傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種する。胚の出芽部の傷へのアグロバクテリウム・ツメファシエンスの接種方法は、出芽部の傷を通して分裂組織にアグロバクテリウム・ツメファシエンスが感染できるものであればいずれのものでよいが、針の先端、ピペット又は注射器などを用いてアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を出芽部の傷に直接注入する方法、アグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を浸した綿棒を用いて出芽部の傷に塗布する方法、並びにこれらの方法の組合せが挙げられる。
一方、種子における胚の出芽部に傷をつけた後にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種するのではなく、上記で吸水させた種子における胚の出芽部に、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを付着させた創傷手段により傷をつけてもよい。創傷手段としては、種子における胚の出芽部に傷をつけることができるものであればいずれのものであってよいが、例えばφ0.71mmの針などの穿設するための器具、ピペット、注射器、並びにメスおよびカッターなどの切断器具が挙げられる。例えば、創傷手段として針を用いる場合には、針の先端部にアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を付着させる。本工程により、胚の出芽部に傷をつけると同時にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを胚の出芽部に接種することができる。
アグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液の調製方法は、以下の通りである。まずアグロバクテリウム・ツメファシエンスをカナマイシン、リファンピシン及びストレプトマイシンなどを含むLB液体培地中で28℃で18時間振とう培養する。次いで培養液を遠心分離することでアグロバクテリウム・ツメファシエンスを回収し、水で洗浄する。さらに1.0x10菌体/mlの濃度となるようにアグロバクテリウム・ツメファシエンスを水に懸濁し、これをアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液とする。
一般に、アグロバクテリウム・ツメファシエンスは、植物に感染してクラウンゴールと呼ばれる腫瘍を形成する。これは、感染の際に、アグロバクテリウム・ツメファシエンス中のTiプラスミド上のT−DNA領域と呼ばれる領域が植物中に移行し、植物のゲノム中に組み込まれることに起因するものである。そこで、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いて、外来遺伝子を植物ゲノムに組み込むためには、Tiプラスミド上のT−DNA領域中に植物ゲノム中に組み込みたい外来遺伝子を挿入する。次いでこのT−DNA領域を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスを植物に感染させると、植物ゲノム中に該外来遺伝子を組込むことができる。外来遺伝子としては、いかなるタンパク質またはペプチドをコードする遺伝子であっても良い。なお、目的遺伝子と選抜マーカー遺伝子の双方を外来遺伝子とした場合には、形質転換された植物における該選抜マーカー遺伝子の発現を指標として形質転換植物体を選抜することができる。選抜マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン又はハイグロマイシンなどに対する抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク質(GFP)遺伝子及び国際公開第02/44385号に開示された変異型アセト乳酸シンターゼ(以下、「ALS」と呼ぶ)タンパク質をコードする遺伝子などが挙げられる。なお、国際公開第02/44385号に開示された変異型ALSタンパク質をコードする遺伝子は、ピリミジニルカルボキシ系除草剤耐性を付与する。従って、該変異型ALSタンパク質をコードする遺伝子を選抜マーカー遺伝子として使用した場合には、bispyribac−sodium、pyrithiobac−sodium、pyriminobacなどのピリミジニルカルボキシ系除草剤の存在下で形質転換された植物を生育させる。その結果、ピリミジニルカルボキシ系除草剤の存在下で生育できる植物には、変異型ALSタンパク質をコードする遺伝子が導入され、形質転換されたことが確認できる。また、変異型ALSタンパク質をコードする遺伝子が植物ゲノムに組み込まれたか否かは、植物体の表現形質の変化やゲノムサザーンハイブリダイゼーション或いはPCRによって、これらの遺伝子のゲノム中への挿入を調べることでも確認することができる。
本発明に係るインプランタ形質転換法において、接種するアグロバクテリウム・ツメファシエンスとしては、植物に感染できる株であればいずれのものでよいが、例として、非病原性のアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌及びプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を挙げることができる。
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株は、中程度の病原性のアグロバクテリウム・ツメファシエンスA208株(C58染色体,ノパリン型 T37pTi)をトランスポゾン5(Tn5)変異によって突然変異させることで得られる(Majumder Pら,J Biosci Bioeng 90:328−331,2000)。図2は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株のT−DNA領域におけるTn5の挿入部位の構造を示す。図2に示されるように、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株においては、TiプラスミドのT−DNA領域にあるインドール酢酸(IAA)生合成に関与するトリプトファンモノオキシゲナーゼ遺伝子(以下、「iaaM遺伝子」と呼ぶ)にTn5が挿入されている。アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株は、それ自身のT−DNA領域を宿主染色体に組み込む能力を保持しているが、クラウンゴールを形成しない。なお、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株に外部からバイナリーベクターを導入できること及び導入されたバイナリーベクター上のT−DNAは植物のゲノムDNA内に挿入されることが証明されている(Majumder Pら,J.Bioscience and Bioengineering,90,328−330,2000)。従って、外来遺伝子を組み込んだバイナリーベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株に導入し、この菌を用いて植物ゲノムに外来遺伝子を挿入することが可能である。
一方、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌は、ディスアーム型Tiプラスミドを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌に、改変型pBI121バイナリーベクター(pIG121−Hmバイナリーベクター)を導入した菌である。図3は、pIG121−HmバイナリーベクターのT−DNA領域の構造を示す。なお、図3中、CaMV 35S−ProはCaMV 35Sプロモーターであり、GUSはβ−グルクロニダーゼ遺伝子(以下、「GUS遺伝子」と呼ぶ)であり、そしてHmは、ハイグロマイシン耐性遺伝子である。図3に示されるように、pIG121−Hmバイナリーベクターにおいては、T−DNA中のGUS遺伝子にイントロンが挿入され、さらにハイグロマイシン耐性遺伝子が追加されている。
また、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌は、上記アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌に、改変型pBI121バイナリーベクター(pBI−Resバイナリーベクター;以下、「プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)」と呼ぶ)を導入した菌である。プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)はpBI121バイナリーベクターのβ−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS遺伝子)の部位を、pBR322プラスミド由来の複製開始領域(ori)とアンピシリン耐性遺伝子(Amp遺伝子)とを含むDNA断片で置換したバイナリーベクターである。本菌で植物を形質転換すると、作出された形質転換植物のゲノム中に挿入されたT−DNAに隣接する植物のゲノムDNAを容易に回収(レスキュー)することができる。
図4は、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)のT−DNA領域の構造を示す。なお、図4中、LBは、T−DNA左境界配列で、RBは右境界配列である。RBとLBとの間のDNAがT−DNAとして、植物ゲノムに挿入されることがわかっている。また、35SpはCaMV 35Sプロモーターであり、oriはpBR322プラスミド由来の複製開始領域である。そして、Kmはカナマイシン耐性遺伝子であり、Ampはアンピシリン耐性遺伝子である。図4に示されるように、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)のT−DNA領域においては、CaMV 35Sプロモーター、pBR322プラスミド由来の複製開始領域及びアンピシリン耐性遺伝子が機能的に連結している。さらに、カナマイシン耐性遺伝子が含まれている。
次いで、上記のようにアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種した植物の種子(以下、「接種種子」と呼ぶ)を、各種植物に応じた条件下で植物体へ生育させる。
例えば、イネやトウモロコシの場合には、接種種子を、ビーカーやシャーレなどの中に敷いたろ紙上に置床する。次いでこれらのビーカーやシャーレなどを恒温器に入れ、暗所、22℃で、例えばイネの場合には8〜9日間、トウモロコシの場合には2〜3日間インキュベートする。この処理の間に、アグロバクテリウム・ツメファシエンスが胚中の分裂組織へ感染する。上記の処理後の接種種子を播種し、植物体へと生育させることができる。
一方、例えば、コムギの場合には、接種種子を、バーミキュライト等を含有するビーカーやシャーレなどに置床する。次いで、これらのビーカーやシャーレなどを、15℃〜25℃で2日間インキュベートする。さらに、これらのビーカーやシャーレなどを、3℃〜5℃の冷蔵庫へ移し、25日間保持する。当該低温処理は、バーナリゼーション(春化処理)と呼ばれる。当該バーナリゼーションの間に、葉は3cm〜5cmに生育する。次いで、バーナリゼーション処理後、これらのビーカーやシャーレなどを冷蔵庫から取り出し、室温(15℃〜20℃)に馴化した後、植物体へと生育させることができる。
上記の操作により作出した形質転換植物体のゲノムに、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のT−DNA領域が組み込まれたかどうかの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法等によって行うことができる。例えば、PCR法の場合には、形質転換植物体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。次いで、PCR産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBRGreen液等により染色し、そして1本のバンドとしてPCR産物を検出することにより、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のT−DNA領域が組み込まれたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、PCR産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相にPCR産物を結合させ、蛍光または酵素反応等によりPCR産物を確認する方法を採用してもよい。
また、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を、本発明に係るインプランタ形質転換法に使用した場合には、pIG121−HmバイナリーベクターのT−DNAは植物ゲノムに取り込まれる。上述したように、pIG121−Hmバイナリーベクターは、T−DNA領域内にハイグロマイシン耐性遺伝子を有する。そこで、ハイグロマイシンB耐性を指標として選抜することにより、植物が形質転換されたことを確認することができる。
さらに、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を本発明に係るインプランタ形質転換法に使用した場合には、T−DNAとそれに隣接する植物ゲノムDNA断片が連結した構造をもつプラスミドを回収(レスキュー)することにより、T−DNAが植物ゲノムに挿入されたこと、すなわち、植物が形質転換されたことを確認することができる。
図5は、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を用いたプラスミドレスキューの方法を示す。ここで、「プラスミドレスキュー」とは、形質転換植物のゲノムに挿入されたT−DNAに隣接する植物ゲノムDNA断片を回収する方法である。図5に基づき、本法を説明する。本発明に係るインプランタ形質転換法に従って、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を用いてイネを形質転換する。生育した形質転換植物体においては、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)中のT−DNAがイネゲノムDNAに組み込まれる。形質転換植物体由来のゲノムDNAを、T−DNA領域内のpBR322領域に切断部位を有しない制限酵素(例えば、Sph I)で消化した場合、消化したDNA断片中には、pBR322プラスミド由来の複製開始領域(ori)及びアンピシリン耐性遺伝子(Amp)を含むDNA断片と、イネゲノムDNAに組み込まれたT−DNAに隣接するイネゲノムDNA断片とが連結したDNA断片が含まれる。そこで、得られた消化物をセルフライゲーションして、環状化させた後、プラスミドとして大腸菌へ導入する。次に、上記構造をもつプラスミドで形質転換された大腸菌を、アンピシリン耐性を指標として選抜する。次いで、アンピシリン耐性大腸菌中のプラスミドを分離し、分離したプラスミドの配列を決定する。決定されたT−DNAに隣接するDNAの塩基配列をBlast searchなどの相同性分析に供する。その結果、当該プラスミド中のT−DNAにイネのゲノムDNAが連結した構造が含まれていることがわかれば、T−DNAがイネゲノム中に挿入されたことが確認される。
また、非形質転換植物体と比較した場合の形質転換植物体の表現形質(例えば形態)の変化を指標として形質転換を確認することができる。例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いて形質転換したイネ形質転換植物体の表現形質の変化としては、以下のものが挙げられる。
(1)生育初期では、生育(分蘖及び草丈)が遅れ、生育中期になり追い越し、生育後期においては草丈がより高くなる。
(2)イネ形質転換植物体においては、葉片が上にむかって直立する傾向があり、一方、非形質転換植物体においては、葉片が開く傾向がある。
(3)穂の付き方においては、イネ形質転換植物体は2段につき、一方、非形質転換植物体では1段に付く。
また、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いて形質転換したトウモロコシ形質転換植物体の表現形質の変化としては、以下のものが挙げられる。非形質転換植物体と比べ、
(1)生育初期では、草丈が高く、茎が太い。
(2)生育中期では、下葉が枯れ、生育も遅れる。
(3)生育後期では、草丈が低くなる。
(4)雌穂の絹糸の数がより少なくなる。
さらに、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いて形質転換したコムギ形質転換植物体の表現形質の変化としては、例えば、非形質転換植物体と比べ、早く黄化することが挙げられる。
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いた場合に、形質転換植物体が上記のような表現形質の変化を示す機構としては、以下のように推定される。アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株においては、唯−iaaM遺伝子だけが変異しており、T−DNA領域に存在するサイトカイニン生合成に関わる遺伝子を含む全ての他の遺伝子は健全である。従って、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によって作出された形質転換植物体は、高レベルのサイトカイニンを合成すると考えられる。これにより形質転換植物体中のホルモンバランスに支障をきたし、形質転換された植物は表現形質の変化を示すと考えられる。
一方、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)やpIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を用いて形質転換したイネやコムギの表現形質は植物個体間に大きなばらつきが認められた。これは、T−DNAがゲノム中の種々の遺伝子座に無作為に挿入されることの反映と考えられる。これらの各植物個体(T)の示すそれぞれの表現形質は次世代(T)へ遺伝した。このことはこれらの植物において形質転換が起きていることを強く示唆している。
以上、説明した本発明に係るインプランタ形質転換法により、上記で説明した一般的な形質転換法の問題点を解決することできる。また、本発明に係るインプランタ形質転換法により所望の外来遺伝子を発現する形質転換植物体をより簡便でかつ効率的に得ることができる。
このように作出した植物のT世代の形質転換植物体は稔性を示し、自家受粉させるか又は非形質転換植物体と交雑させることで、結実させることができる。このようにして、植物のT世代の形質転換植物体の遺伝子型を継いだ次の世代の種子を多数、容易に得ることができる。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−315828号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、イネの種子における穿設部位1及び胚2を示す模式図である。
図2は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株のT−DNA領域におけるTn5の挿入部位の構造を示す。
図3は、pIG121−HmバイナリーベクターのT−DNA領域の構造、並びに該T−DNA領域におけるCaMV 35SプロモーターとGUS遺伝子にまたがるDNA断片、及び該DNA断片を増幅するnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図4は、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)のT−DNA領域の構造を示す。
図5は、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を用いたプラスミドレスキューの方法を示す。
図6は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いたインプランタ形質転換から6ヶ月後のイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の写真を示す。
図7は、種子を播種して7日後のアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株で作出したイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の幼植物の写真を示す。
図8は、種子を播種して48日後のアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株で作出したイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を示す。
図9は、種子を播種して140日後のアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株で作出したイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を示す。
図10−1は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−2は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−3は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−4は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−5は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−6は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−7は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−8は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−9は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−10は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−11は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−12は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図10−13は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図11は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株により作出されたイネ形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を示す。
図12−1は、pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図12−2は、pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図12−3は、pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図12−4は、pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列、およびnested PCR用のプライマーの対応する位置を示す。
図13は、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株菌により作出されたイネ形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を示す。
図14は、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)由来のゲノムDNA断片に対するゲノミックサザーンハイブリダイゼーションの結果を示す。
図15は、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)からそれぞれ得られた種子(T及び第2世代)をバイグロマイシンB(20ppm)共存下で発芽させた際の吸水後6日目の写真を示す。
図16は、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換されたイネ形質転換植物体(T)のゲノムDNAより回収されたプラスミド中のT−DNAに隣接するDNA(配列番号15)の部分配列(第8番目〜第145番目)とデーターベース上でヒットした配列(アクセッション番号AC084764中の部分配列(第1番目〜第134番目)(配列番号16))とのアライメントを示す。
図17は、図16のイネ形質転換植物体(T)から得られた種子より生育させたイネ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の、種子を播種して90日後の写真を示す。
図18は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いたインプランタ形質転換から30日後のトウモロコシ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の写真を示す。
図19は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株で形質転換したトウモロコシ形質転換植物体(T)の播種後80日目の写真を示す。
図20は、図19に示すトウモロコシ形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を示す。
図21は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株又はpIG121−Hmバイナリーベクターもしくはプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の、ポット移植後約4ヶ月の写真を示す。
図22は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株又はpIG121−Hmバイナリーベクターもしくはプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の、播種後11ヶ月後の写真を示す。
図23は、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)からそれぞれ得られた種子(T及び第1世代)をハイグロマイシンB(50ppm)共存下発芽させた際の吸水後9日目の写真を示す。
【符号の説明】
1 穿設部位
2 胚
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
[実施例1]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によるイネのインプランタ形質転換
(1)イネ(コシヒカリ)種子の準備
イネ(Oryza sativa var.Koshihikari)の種子(新籾)を水道水に浸種し、15℃〜20℃の温度で48時間インキュベートした。この間に水を一度交換した。この処理により、種子が吸水することで、胚部分が白色を呈するようになった。この種子を以下の実験に使用した。
(2)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の接種懸濁液の調製
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を、カナマイシン(50μg/ml)とリファンピシン(10μg/ml)を含むLB培地中で28℃で18時間培養した。次いで菌体を遠心分離により回収し、水で洗浄した。洗浄後、1.0x10菌体/mlの濃度に菌体を水に懸濁し、これを接種懸濁液とした。
(3)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によるイネのインプランタ形質転換
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の接種懸濁液を針(φ0.71mm)の先に付着させ、この針を用いて、上記のイネの種子における胚(長径約2mm)の出芽部中央を中心とする直径1mmの円内に側面から1ヶ所、深さ1mm〜1.5mmになるように穿設した(図1)。
次いでビーカーの中にバーミキュライトを少量入れ、その上にろ紙を敷き、水を注ぎ濡らした後、ビーカーを逆さまにして余分な水を切った。このろ紙の上に上記アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を接種したイネの種子を置床して、アルミはくで蓋をした。これを22℃の恒温器に入れて、暗所で9日間インキュベートした。9日間のインキュベート後、種子をクラフォラン(Hoechst Marion Roussel社製)の1000ppm水溶液に1時間浸漬した。次いでこの種子を洗浄しないでそのままハイポネックス1000倍希釈液で湿らせたバーミキュライトを入れたポットへ移植し、約25℃で1週間生育させた。
次に、イネ育苗用培土((株)大塚産業)を入れた7号植木鉢を準備した。この鉢に上記のバーミキュライトポット中で生育したイネ幼苗を移植し、さらに生育させた(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。
一方、対照として、水を針(φ0.71mm)の先に付着させ、この針を用いて上記のようにイネの種子の胚(長径約2mm)の出芽部中央を中心とする直径1mmの円内に側面から1ヶ所、深さ1mm〜1.5mmになるように穿設し、形質転換植物体(T)と同様に生育させた(以下、「非形質転換植物体(0(ゼロ)世代)」と呼ぶ)。
さらに、形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)をそれぞれ自家受粉させ、結実させた。次いでそれぞれ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)から得られた種子を親世代(T世代)と同様の生育条件下で栽培した。以下、それぞれの植物体を形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)と呼ぶ。
[実施例2]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によって形質転換したイネ形質転換植物体と非形質転換植物体との表現形質の差異
実施例1で作出した形質転換から6ヶ月後の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の写真を図6に示す。また、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いたイネのインプランタ形質転換効率を以下の表1に示す。
なお、形質転換は、上記で説明した表現形質(植物体の形態)の変化を指標として判定した。

図6に示すように、形質転換植物体(T)は健全に発芽し、成育の進行とともに草丈が非形質転換植物体(0世代)よりも大きくなるという形態変化を示した。また、表1から判るように、インプランタ形質転換に供した種子の約80%が発芽した。また成長した形質転換植物体(T)のほとんどが、上記で説明した表現形質(形態)の変化を示し、形質転換効率は約70%であった。
また、種子を播種して7日後の形質転換植物体(T)((a)及び(b)は、異なる形質転換植物体(T)に由来する)及び非形質転換植物体(第1世代)の幼植物の写真を図7に示す。さらに、48日後の形質転換植物体(T)((a)及び(b)は、異なる形質転換植物体(T)に由来する)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を図8に示す。また、140日後の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を図9に示す。なお、図9中の矢印は、穂が付く位置を示す。
図7及び8に示すように、生育の初期においては、形質転換植物体(T)の茎葉部及び根部の成長が非形質転換植物体(第1世代)よりも遅く、分げつも少なかった。根の発育が悪いのは導入されたT−DNA中に含まれているサイトカイニン合成酵素遺伝子により植物体内のサイトカイニン量が増えたためだと考えられる。一方、図9に示すように、生育後期において、形質転換植物体(T)は非形質転換植物体(第1世代)とは異なり穂が2段に付き、種子の収量(重量)が約10%増加した。このように、形質転換植物体(T)の表現形質は、次世代(T)の形質転換植物体に遺伝した。
[実施例3]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)からのアグロバクテリウム・ツメファシエンスのT−DNA由来の遺伝子の検出
(1)イネ形質転換植物体(T)からのゲノムDNAの単離
Nucleon Phytopure for Plant DNA extraction Kit(Amersham Biosciences社製)を用いて、製造元のプロトコールに従い、実施例1で作出した形質転換植物体(T)の幼植物の茎頂にある若い葉からゲノムDNAを抽出した。次いで抽出されたゲノムDNAを、RNaseで37℃、45分間、その後プロテイナーゼKで55℃、16時間処理した。次にゲノムDNA溶液をフェノール、フェノール/クロロホルム(1:1)溶液及びクロロホルムで抽出した。最後にゲノムDNAに対してエタノール沈澱を行い、得られた沈澱を水100μlに溶解した。このように調製されたゲノムDNAサンプルをアガロースゲルで電気泳動し、DNAの純度と量をチェックした。
(2)Nested PCRによるアグロバクテリウム・ツメファシエンスT−DNA由来の遺伝子の検出
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株においては、Tiプラスミド上のT−DNA領域に存在するiaaM遺伝子の1,055番目と1,056番目の塩基の間にTn5が挿入されている(図2)。従って、図10−1〜図10−13及び配列番号1(アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列)に示すようにiaaM遺伝子とTn5にまたがるDNA断片(760bp)(この断片は本菌に固有の断片で、他の菌中には存在しない)を増幅するために、以下のnested PCRプライマーを設計した。
1回目のPCR用プライマー:

2回目のPCR用プライマー:

1回目のPCRでは、上記のように調製したゲノムDNA(約100ng)を、50mM KCl、10mM Tris−HCl(pH8.3)、1.5mM MgCl、200μM dNTP、それぞれ0.2μMの1回目のPCR用プライマー及び0.63ユニットのTaq DNAポリメラーゼ(宝酒造)からなる最終容量25μlの反応混合液に加えた。PCRは、最初94℃で1分間の変性を行い、次いで94℃で30秒間(変性)、55℃で1分間(アニーリング)、及び72℃で1分間(伸長)からなるサイクルを40回繰り返し、その後72℃で7分間の伸長を行った。
2回目のPCRでは、1回目のPCR反応液2μlを鋳型とし、2回目のPCR用プライマーを用いたこと以外は、1回目の条件と同様にしてPCRを行った。2回目のPCR反応液10μlをアガロースゲル(1%)電気泳動に供し、臭化エチジウムで染色し、PCR産物を確認した。また、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の全DNAを鋳型とし、上記の2回目のPCR条件でPCRを行った。得られたPCR産物を陽性対照とした。
形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を図11に示した。図11の各レーンは、以下の通りである。レーン1:DNAサイズマーカー、レーン2:アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の全DNA(陽性対照)、レーン3〜24:それぞれ異なる形質転換植物体(T)に由来するゲノムDNA。
図11に示されるように、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株のTiプラスミド上のT−DNA領域におけるTn5とiaaM遺伝子にまたがる本菌固有の760bpのDNA断片が、形質転換植物体(T)22個体中11個体に検出された。一方、非形質転換植物体(第1世代)からはこのDNA断片は検出されなかった。
これらの結果により、実施例2で示した形質転換植物体(T)の表現形質の変化は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株に由来するTiプラスミド上のT−DNA領域のイネゲノムへの挿入に起因すると考えられた。
[実施例4]pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によるイネのインプランタ形質転換
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の代わりにpIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を使用した以外は実施例1と同様の方法でイネ(Oryza sativa var.Koshihikari)の種子を形質転換し、植物体へ生育させた。なお、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌の接種懸濁液は、ストレプトマイシン(50μg/ml)及びカナマイシン(50μg/ml)並びにリファンピシン(10μg/ml)を含むLB培地中で本菌を28℃、18時間培養して調製した。
[実施例5]pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)及びイネ形質転換植物体(T)からのpIG121−Hmバイナリーベクター由来の遺伝子の検出
(1)pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)からのpIG121−Hmバイナリーベクター由来の遺伝子の検出
pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)は、非形質転換植物体(0世代)と比較して生育が抑制される個体や逆に草丈が大きくなる個体が出現し、表現形質が個体間で大きくばらついた。表現形質の変化とばらつきは、pIG121−Hmバイナリーベクター由来のT−DNAがイネゲノム中の種々の遺伝子座へ無作為に挿入され、遺伝子破壊やT−DNA中に含まれる35Sプロモーターによる下流遺伝子の発現の促進が起こったためであると考えられた。従って、この現象は高頻度でT−DNAがイネゲノムに挿入されていることを示唆していると考えられる。
植物の種子が成熟した時点ですでに胚部分には葉の原基が形成されている場合が多い。例えばイネの場合には、種子中に既に第3葉までの原基が形成されている(星川清親:解剖図説イネの生育、(社)農山魚村文化協会.昭和50年1月10日 第1刷発行)。それ故、本発明に係わるインプランタ形質転換法では、形質転換当代(T)の植物体はキメラ状態になることが予想される。従って、T世代の植物体の一部の組織細胞のゲノム分析の結果から、次世代(T世代)のゲノムに外来遺伝子が導入されているかどうかを判定することはできない(生殖系列の細胞の染色体に挿入した外来遺伝子のみが次世代に伝達される)。しかしながら、アグロバクテリウム菌を接種した時点で、原基が未だ形成されていなかった第5葉以降の葉に外来遺伝子が導入されていることが確認できれば、頂芽の分裂細胞に外来遺伝子が導入されていると考えられ、高い確率で外来遺伝子が次世代に遺伝することが予想できる。
そこで、イネ形質転換植物体(T)の第5葉以降の葉由来のDNAを鋳型としたnested PCRによりpIG121−Hmバイナリーベクター由来のT−DNAを確認し、形質転換効率を算出した。
ゲノムDNAの単離方法及びnested PCRの条件は実施例3と同様であった。また、pIG121−Hmバイナリーベクターを鋳型とし、上記の2回目のPCR条件でPCRを行った。得られたPCR産物を陽性対照とした。なお、図3並びに図12−1〜図12−4及び配列番号6(pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列)に示すように、pIG121−HmのT−DNA内のCaMV 35SプロモーターとGUS遺伝子にまたがるDNA断片(692bp)を増幅するために、以下のnested PCRプライマーを設計した。
1回目のPCR用プライマー:

2回目のPCR用プライマー:

形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を図13に示す。図13の各レーンは、以下の通りであった:レーン1:DNAサイズマーカー、レーン2及び3:pIG121−Hmバイナリーベクター(陽性対照)、レーン4〜6:鋳型なし、レーン7〜14:それぞれ異なる形質転換植物体(T)に由来するゲノムDNA。
図13に示すように、形質転換植物体(T)の8個体のうち6個体において、pIG121−HmバイナリーベクターのT−DNA内のCaMV 35SプロモーターとGUS遺伝子にまたがるDNA断片(692bp)が検出された。従って、第5葉の形質転換効率は75%(8個体中6個体)であったので、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌とpIG121−Hmバイナリーベクターの組み合わせでもアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株と同程度の確率で形質転換が起きていると判断された。
(2)pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)からのpIG121−Hmバイナリーベクター由来の遺伝子の検出
上記(1)でpIG121−HmバイナリーベクターのT−DNA内のCaMV 35SプロモーターとGUS遺伝子にまたがるDNA断片が検出された形質転換植物体(T)を、実施例1と同様の方法で自家受粉させ、結実させた。次いで、得られた種子から形質転換植物体(T)を生育させた。
生育した形質転換植物体(T)から実施例3と同様にしてゲノムDNAを単離し、Pst I/Hind IIIで二重消化した後、アガロースゲル電気泳動に供した。次いで、常法によりDNAを電気泳動後のアガロースゲルからHybondN+メンブラン(アマシャムバイオサイエンス社製)上にブロッティングした。
一方、CaMV 35Sプロモーターの約700bpに相当するDNA断片をPCRで増幅した後、このDNA断片をBcaBestラベリングキット(タカラ社製)を用いて32Pで標識し、プローブを作製した。
次いで、上記で作製したプローブを使用して、HybondN+メンブラン上に転写されたゲノムDNA断片を、ゲノミックサザーンハイブリダイゼーションに供した。ゲノミックサザーンハイブリダイゼーションの結果を図14に示す。なお、図14において、アルファベットで示した各レーンは、各々別の形質転換植物体(T)に由来するゲノムDNA断片である。さらに、図14において、矢印の位置は、検出されたCaMV 35SプロモーターのDNA断片を含むバンドである。
図14に示されるように、明瞭なバンドを示す形質転換植物体(T)が観察された。従って、形質転換植物体(T)において、pIG121−Hmバイナリーベクター由来のT−DNA領域がイネのゲノムDNA内に確かに挿入されていると判断された。
[実施例6]pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)のハイグロマイシン耐性の評価
pIG121−Hmバイナリーベクターは、図3に示すように、T−DNA領域内にハイグロマイシン耐性遺伝子を有する。そこで、イネ形質転換植物体(T)の形質転換の確認を、ハイグロマイシン耐性を指標として行った。
実施例5(2)においてゲノミックサザーンハイブリダイゼーションで明瞭なバンドが観察された形質転換植物体(T)を実施例1と同様の方法で自家受粉させ、結実させた。得られた種子を、20ppmのハイグロマイシンBを含む又は含まない水溶液中で生育させた(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。
一方、対照として、実施例1と同様にして、非形質転換植物体(0世代)から自家受粉と結実を2回繰り返して作出した非形質転換植物体を形質転換植物体(T)同様に生育させた(以下、「非形質転換植物体(第2世代)」と呼ぶ)。
吸水後6日目の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第2世代)の写真を図15に示す。
図15に示すように、ハイグロマイシンB(20ppm)存在下において、非形質転換植物体(第2世代)と比べ、茎葉部の生育が健全な形質転換植物体(T)が認められ、形質転換植物体(T)は、ハイグロマシンBに対して耐性を示すことがわかった。従って、イネゲノム内に挿入されたpIG121−Hmバイナリーベクター由来のT−DNA領域は後代に遺伝することが示された。
[実施例7]プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によるイネのインプランタ形質転換
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の代わりにプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)(図4に示すT−DNA領域の構造を有する)を有するLBA4404菌を使用した以外は実施例1と同様の方法でイネ(Oryza sativa var.Koshihikari)の種子を形質転換し、植物体へ生育させた(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。なお、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌の接種懸濁液は、実施例4に記載のpIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌の接種懸濁液と同様の方法で調製した。
[実施例8]プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)からのプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)由来の遺伝子の検出
実施例7で作出した形質転換植物体(T)の止葉から実施例3と同様にしてゲノムDNAを単離し、Sph Iで消化した。
図5に示すように、形質転換によりプラスミドレスキュー用バイナリーベクターのT−DNA領域がイネゲノムDNAに組み込まれた場合には、上記で得られた消化物の中には、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)中のpBR322プラスミド由来の複製開始領域(ori)及びアンピシリン耐性遺伝子(Amp)を含むDNA断片と、組み込まれたT−DNAに隣接するイネゲノムDNA断片とが連結したDNA断片が含まれるはずである。そこで、図5に従って、得られた消化物をセルフライゲーションして、環状化させた後、プラスミドとして大腸菌へ導入した。
形質転換した大腸菌を、アンピシリン含有培地で培養し、増殖させた。次いで、得られたアンピシリン耐性のコロニー中の大腸菌からプラスミドを単離した。
得られたプラスミドを鋳型にして、下記のnested PCRを行い、隣接イネゲノムDNA部分を増幅し、その塩基配列を決定した。
1回目のPCRではL41とL27プライマーを使用した。
プライマーL41(CaMV 35Sプロモーターの配列に基づいて設計したセンスプライマー):5’−gcgtcatcccttacgtcagt−3’(配列番号11)
プライマーL27(アンピシリン耐性遺伝子Ampの配列に基づいて設計したアンチセンスプライマー):5’−ctgtgagatccagttcgatg−3’(配列番号12)
1回目のPCRでは、実施例3と同様な方法で、上記プライマーセットを用いPCRを行った。但し、本実験のPCRは最初94℃で1分間の変性を行い、次いで、94℃で30秒間(変性)、58℃で1分間(アニーリング)、および72℃で2分間(伸長)からなるサイクルを40回繰り返し、その後72℃で5分間伸長した。
次の2回目のPCRでは、1回目のPCR産物を鋳型とし、下記のプライマーセット(L−9/L24)を用いたこと以外は、1回目の条件と同様にしてPCRを行った。
プライマーL−9(CaMV 35Sプロモーターの配列に基づいて設計したセンスプライマー):5’−tcttgatgagacctgctgcg−3’(配列番号13)
プライマーL−24(アンピシリン耐性遺伝子AmpとT−DNA右境界配列との間の配列に基づいて設計したアンチセンスプライマー):5’−tggccgtcgttttacaacgt−3’(配列番号14)
2回目のPCR産物を鋳型にし、上記プライマーL−9をシークエンスプライマーとして用いて、DNA配列決定分析を行った。
次いで、決定したPCR産物のDNA配列を相同性検索(BLAST search)に供した。図16に、PCR産物(配列番号15)の部分配列(第8番目〜第145番目)と、データベース上でヒットした配列(アクセッション番号AC084764中の部分配列(第1番目〜第134番目)(配列番号16))とのアライメントを示す。なお、PCR産物(配列番号15)において、nは、a、c、g又はtを表す(存在位置:37、83、112、136、150、152、157、180、197、200、204、212、215及び216)。
図16に示すように、相同性分析の結果、PCR産物(配列番号15)中の部分配列に対してイネ由来の配列(アクセッション番号AC084764)(配列番号16)がヒットした。この結果から、イネ形質転換植物体(T)のゲノムDNAより回収されたプラスミド中のT−DNAに隣接してイネゲノムDNA断片が連結していたことが判明した。従って、プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)のT−DNA領域がイネゲノムDNA中に挿入されていることが示された。
[実施例9]プラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したイネ形質転換植物体(T)と非形質転換植物体(第1世代)との表現形質の差異
実施例8においてプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)のT−DNA領域の挿入が確認された一つの形質転換体(T)を実施例1と同様の方法で自家受粉させ、結実させた。次いで、得られた種子から植物体を生育させた(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。一方、対照として、実施例1と同様の方法で、非形質転換植物体(0世代)から自家受粉と結実を1回繰り返して作出した非形質転換植物体を形質転換植物体(T)同様に生育させた(以下、「非形質転換植物体(第1世代)」と呼ぶ)。
種子を播種して、90日後の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を図17に示す。
図17に示すように、T世代と同じように、非形質転換植物体(第1世代)と比較して、形質転換植物体(T)は、草丈が高いという表現形質を示した。
[実施例10]イネ形質転換植物体におけるアグロバクテリウム・ツメファシエンス残存の可能性の検証
イネ形質転換植物体(T)及び形質転換植物体(T)において、形質転換に用いたアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株或いはアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌が残存するか否かを検証した。
実施例3においてゲノムDNAを抽出した時と同様にして、実施例1及び4で作出したイネ形質転換植物体(T及びT)の茎頂の若い葉をそれぞれ滅菌水中で無菌的に磨砕し、その磨砕液をカナマイシン(50μg/ml)とリファンピシン(10μg/ml)を含むLB培地上で28℃で3日間培養した。その結果、TとTのいずれの形質転換植物体の磨砕液を塗布した培地上にもコロニーが全く見られなかった。この結果から、形質転換植物体(T及びT)には、形質転換に用いたアグロバクテリウム・ツメファシエンスは残存していないことが判明した。アグロバクテリウム菌は宿主植物の抵抗性反応により除去されたと推定される。
以上から、実施例3及び実施例5で検出されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株及びpIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌のT−DNA由来の遺伝子は、形質転換植物体(T及びT)の植物ゲノムに組み込まれたT−DNAに由来するものであることが判明した。
[実施例11]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によるトウモロコシのインプランタ形質転換
(1)トウモロコシ(キャルコーン90)種子の準備
トウモロコシ(Zea mays var.Calcorn)の種子を水道水で2〜3回洗い、種皮に付いている赤色の殺菌剤を洗い落とした。この種子を水道水中に浸漬して、25℃の温度で3日間インキュベートした。この間に水を1回交換した。この処理により、種子が吸水して胚部分が白色を呈するようになった。この種子を以下の実験に使用した。
(2)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の調製
実施例1と同様の方法でアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の接種懸濁液を調製した。
(3)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によるトウモロコシのインプランタ形質転換
アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の接種懸濁液を針(φ0.71mm)の先に付着させた。この針を用いて上記トウモロコシの種子における胚(長径約1cm)の幼芽部分(種子を、尖帽が下にくるように置いた場合、胚の中央部よりも上部に存在する)に上から2ヶ所、深さ1mm〜1.5mmになるように穿設した後、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の接種懸濁液を浸した綿棒を用いて穿孔箇所にアグロバクテリウム菌を塗布した。
次いで、シャーレ中にろ紙を敷き、ろ紙を水で湿らせた。その上にアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を接種したトウモロコシの種子を置床して、シャーレの蓋をした。これを25℃の恒温器に入れて、暗所で2日間インキュベートした。
2日間のインキュベーション後、少し発根した種子をそのままバーミキュライトと赤玉土1:1混合培土(肥料としてMagアンプK(ハイポネックス ジャパン社製)を5g添加)へ播種して、生育させた(以下「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。
一方、対照として、いずれの処理も施さない種子、或いはアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株の代わりにバイナリーベクターを有しないアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を接種した種子を、形質転換植物体(T)と同様に生育させた(以下、「非形質転換植物体(0世代)」と呼ぶ)。
さらに、トウモロコシは他殖性作物であるため、形質転換植物体(T)とバイナリーベクターを有しないアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌を接種した非形質転換植物体(0世代)とを交雑させ、結実させることで得られた種子を親世代と同様の生育条件下で生育した(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。一方、対照として、非形質転換植物体(0世代)と他の非形質転換植物体(0世代)とを交雑させ、結実させることで得られた種子を親世代と同様の生育条件下で生育した(以下、「非形質転換植物体(第1世代)」と呼ぶ)。
[実施例12]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株により形質転換したトウモロコシ形質転換植物体(T)と非形質転換植物体(0世代)との表現形質の差異
形質転換から30日後の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の写真を図18に示す。また、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株を用いたトウモロコシのインプランタ形質転換効率を以下の表2に示す。
なお、形質転換は、上記で説明した表現形質(形態)の変化を指標として判定した。

図18に示すように、形質転換植物体(T)は、イネの場合とは対照的に、生育初期の段階では非形質転換植物体(0世代)よりも草丈が大きく茎が太くなった。また、表2から判るように表現形質(形態)の変化を指標とした形質転換効率は100%であった。
また、種子を播種して80日後のT世代の形質転換植物体及び非形質転換植物体の写真を図19に示す。なお、図19中の植物体の写真は、以下の植物体を示す。(a)非形質転換植物体:非形質転換植物体(第1世代)、(b)形質転換植物体(T):形質転換植物体(T)と非形質転換植物体(0世代)とを交雑させた後、非形質転換植物体(0世代)から収穫した種子に由来する形質転換植物体(T)、(c)形質転換植物体(T):形質転換植物体(T)と非形質転換植物体(0世代)とを交雑させた後、形質転換植物体(T)から収穫した種子に由来する形質転換植物体(T)。
図19に示すように、生育後期にはイネとは対照的に形質転換植物体(T)は、非形質転換植物体よりも草丈が低くなった。また、非形質転換植物体の場合には雄穂が出た後で雌穂が発達するが、形質転換植物体(T)では発達の順序が逆であった。さらに、非形質転換植物体と比較して、形質転換植物体(T)では下葉が早く枯れ、種子に付く絹糸が短くなっていた。このように、形質転換植物体(T)の表現形質は、次世代(T世代)の形質転換植物体に遺伝した。
[実施例13]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株によって形質転換されたトウモロコシ形質転換植物体(T)からのアグロバクテリウム・ツメファシエンスT−DNA由来の遺伝子の検出
ゲノムDNAの単離及びnested PCRの方法は実施例3と同様であった。ゲノムDNAは、実施例11における形質転換植物体(T)から調製した。
形質転換植物体(T)のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物のアガロース電気泳動の結果を図20に示した。図20に示されるように、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株のTiプラスミド上のT−DNA領域におけるTn5とiaaM遺伝子にまたがる本菌固有の760bpのDNA断片が、形質転換植物体(T)12個体中8個体に検出された。なお、非形質転換植物体からはこのDNA断片は検出されなかった。
これらの結果により、実施例12で示した形質転換植物体(T)の表現形質は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株に由来するTiプラスミド上のT−DNA領域のトウモロコシ染色体への挿入に起因すると考えられた。
[実施例14]トウモロコシ形質転換植物体におけるアグロバクテリウム・ツメファシエンス残存の可能性の検証
トウモロコシ形質転換植物体(T及びT)において、形質転換に用いたアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株が残存するか否かを検証した。
実施例3においてゲノムDNAを抽出した時と同様にして、実施例11で作出した形質転換植物体(T及びT)の茎頂の若い葉を滅菌水中で無菌的にホモジナイズし、そのホモジネートをカナマイシン(50μg/ml)とリファンピシン(10μg/ml)を含むLB培地上で、28℃で3日間培養した。その結果、TとTのいずれの形質転換植物体のホモジネートを塗布した培地上にもコロニーは全く見られなかった。この結果から、形質転換植物体(T及びT)において、形質転換に用いたアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株は残存していないことが判明した。
以上から、実施例13で検出されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株のT−DNA由来の遺伝子は、形質転換植物体(T及びT)のゲノムに組み込まれたT−DNAに由来するものであることが判明した。
[実施例15]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株又はpIG121−Hmバイナリーベクターもしくはプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によるコムギのインプランタ形質転換
(1)コムギ(シラネコムギ)種子の準備
コムギ(Triticum aestivum L.var.Shiranekomugi)の種子を水道水に浸漬し、15℃〜20℃の温度で40時間インキュベートした。この処理により種子が吸水して胚部分の輪郭が明瞭になる。この種子を以下の実験に使用した。
(2)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株及びpIG121−Hmバイナリーベクター又はプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌の接種懸濁液の調製
実施例1と同様の方法で、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株及びpIG121−Hmバイナリーベクター又はプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌の接種懸濁液を調製した。
(3)アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株又はpIG121−Hmバイナリーベクターもしくはプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によるコムギのインプランタ形質転換
上記(2)で調製した3種のアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌の接種懸濁液を各々針(φ0.71mm)の先に付着させ、この針を用いて上記(1)で吸水させたコムギの種子の胚部分(長径約2mm)の中央部に深さ1mm〜1.5mmになるように上から1回穿設した。
次いでビーカーの中にバーミキュライトを少量入れて、水を注ぎ、濡らした。この上に上記3種のアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌を各々接種したコムギの種子を置床して、その上に乾燥しているバーミキュライトを薄く被せた後、ラップで蓋をして15℃〜20℃で2日間インキュベートした。2日間のインキュベーション後、3℃〜5℃の冷蔵庫へ上記ビーカーを移し、25日間保持した(バーナリゼーション:この間に葉が3cm〜5cmに伸びる)。バーナリゼーションの後、冷蔵庫から上記ビーカーを出して室温(15℃〜20℃)に馴化した後、バーミキュライトと赤玉土を1:1に混ぜた培養土を入れたポットに、植物体を移植して、MgアンプK(ハイポネックスジャパン社製)を肥料として使用し、栽培した(以下、「形質転換植物体(T)」と呼ぶ)。
一方、対照として、水を針(φ0.71mm)の先に付着させ、この針を上記(1)で吸水させたコムギの種子の胚部分(長径約2mm)の中央部に深さ1mm〜1.5mmになるように上から1回穿設し、形質転換植物体(T)と同様に生育させた(以下、「非形質転換植物体(0世代)」と呼ぶ)。
[実施例16]アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株又はpIG121−Hmバイナリーベクターもしくはプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体と非形質転換植物体との表現形質の差異
ポットに移植してから約4ヶ月後の実施例15で作出したコムギ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)の写真を図21に示す。図21に示す各ポットには、それぞれ10個の形質転換植物体(T)又は非形質転換植物体(0世代)が移植されている。
図21に示すように、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株で形質転換された形質転換植物体(T)は、ほぼ全てが非形質転換植物体(0世代)よりも早く黄化した。この表現形質の変化は、導入されたT−DNA中に含まれているサイトカイニン合成酵素遺伝子により植物体内のサイトカイニン量が増えたためと推定された。従って、この結果は、高い効率で形質転換が起こっていることを示唆している。一方、pIG121−Hmバイナリーベクター又はプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌で形質転換された形質転換植物体(T)は、T世代では明瞭な表現形質の変化が観察されなかった。
そこで、形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)をそれぞれ自家受粉させ、結実させた。次いで、それぞれ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)から得られた種子を無作為に10個ずつ選び、親世代(T世代)と同様の生育条件下で栽培した(以下、それぞれ「形質転換植物体(T)」及び「非形質転換植物体(第1世代)」と呼ぶ)。
播種後11ヶ月後の形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(第1世代)の写真を図22に示す。図22に示す各ポットには、それぞれ10個の形質転換植物体(T)又は非形質転換植物体(第1世代)が栽培されている。
図22に示すように、各形質転換植物体(T)は、非形質転換植物体(第1世代)よりも種子重量(収量)が少ないという表現形質を示した。
このように、pIG121−Hmバイナリーベクター又はプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌で形質転換された形質転換植物体は、T世代で表現形質の変化が観察された。従って、pIG121−Hmバイナリーベクター又はプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌で形質転換された形質転換植物体についても形質転換が成功していることが示唆された。
[実施例17]pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体(T)のハイグロマイシン耐性の評価
実施例16と同様に、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌によって形質転換したコムギ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)をそれぞれ自家受粉させ、結実させた。次いで、それぞれ形質転換植物体(T)及び非形質転換植物体(0世代)から得られた種子を50ppmのハイグロマイシンBを含む又は含まない水溶液中で生育させた。
吸水開始後9日目の植物体の形質転換植物(T)及び非形質転換植物(第1世代)の写真を図23に示す。
図23に示すように、ハイグロマイシンB(50ppm)存在下で、非形質転換植物体(第1世代)と比べ、茎葉部の生育が健全な形質転換植物体(T)が認められ、形質転換植物体(T)は、ハイグロマシンBに対して耐性を示すことがわかった。上述したように、pIG121−HmバイナリーベクターはT−DNA領域内にハイグロマイシン耐性遺伝子を有する。従って、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌により導入されたT−DNAはコムギゲノム中に挿入されて、次世代に遺伝すると考えられた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明により、植物の形質転換体をより簡便でかつ効率的に得られる植物のインプランタ形質転換法が提供される。本発明によれば、品種や種にとらわれずに、培養や再分化が困難なために形質転換が難しい植物を、低コストで高効率に形質転換することができる。従って、本発明により、経済上及び農業上付加価値を有する植物の作物を作出することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株Tiプラスミド上のT−DNA領域の塩基配列である。
配列番号2〜5及び7〜14は、プライマーである。
配列番号6は、pIG121−Hmバイナリーベクター上のT−DNA領域の塩基配列である。
配列番号15は、PCR産物である。
配列番号15において、nは、a、c、g又はtを表す(存在位置:37、83、112、136、150、152、157、180、197、200、204、212、215及び216)。
【配列表】















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】














【図11】





【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の種子における胚の出芽部の傷にアグロバクテリウム・ツメファシエンスを接種することを特徴とする、植物のインプランタ形質転換法。
【請求項2】
植物の種子における胚の出芽部に、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを付着させた創傷手段により傷をつけることを特徴とする、植物のインプランタ形質転換法。
【請求項3】
前記植物が単子葉植物であることを特徴とする、請求の範囲1又は2記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項4】
前記出芽部が、胚の出芽部中央、胚の幼芽部分及び胚の中央部から成る群より選択されるものである、請求の範囲1又は2記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項5】
前記接種前に植物の種子を吸水させる工程を含む、請求の範囲1記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項6】
前記創傷前に植物の種子を吸水させる工程を含む、請求の範囲2記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項7】
吸水期間が、2〜3日間であることを特徴とする、請求の範囲5又は6記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項8】
前記胚の出芽部に傷をつける工程を含む、請求の範囲1記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項9】
前記傷が穿孔であることを特徴とする、請求の範囲1又は2記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項10】
接種するアグロバクテリウム・ツメファシエンスが、アグロバクテリウム・ツメファシエンスM21変異株、pIG121−Hmバイナリーベクターを有するアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404菌及びプラスミドレスキュー用バイナリーベクター(pBI−Res)を有するLBA4404菌から成る群より選択されるものである、請求の範囲1又は2記載の植物のインプランタ形質転換法。
【請求項11】
前記接種がアグロバクテリウム・ツメファシエンス懸濁液を塗布することである、請求の範囲1記載の植物のインプランタ形質転換法。

【国際公開番号】WO2005/024034
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513739(P2005−513739)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013398
【国際出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【出願人】(599116487)
【Fターム(参考)】