説明

植物のストレス緩和剤および生長促進剤

【課題】本発明は有用なトマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和、収量増加、又は糖度向上用組成物ならびにトマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和方法、収量増加方法、又は糖度向上方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は甜菜からの甜菜糖産出の際に生産される、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品を含有する、トマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和、収量増加、又は糖度向上用組成物に関する。本発明はまた当該組成物をトマトに施用することを特徴とするトマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和方法、収量増加方法、又は糖度向上方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に対するストレスの緩和および植物の生長促進に関する。
【背景技術】
【0002】
現代農業においては、生産性向上のために化成肥料が多用され、その結果、植物体に吸収されなかった塩類が土壌に蓄積する。特に施設園芸においては、連作が原因で塩蓄積がより顕著である。また、耕地拡張のため、干拓も盛んに行われてきたが、そのような土地では海水由来の塩化ナトリウムが土壌に高濃度で存在する。また、干拓地ではない耕地でも、海岸地帯では地下水にナトリウムイオンを高濃度で含む場合が多い。これらの状態はいずれも栽培植物に対して高塩濃度によるストレス(塩ストレス)を与えている。かかる塩ストレスを緩和するために種々の措置が行なわれている。例えば天地返し、表土補充などが行われている。しかしながらこれらの措置は一時凌ぎに過ぎず根本的な解決法にはならない。弱耐塩性植物の幼植物体に対しベタイン類または糖アルコール類を適合溶質として供給する方法が開示されている(特許文献1)が、その効果は幼植物段階迄しか示されておらず、最終的な収量への効果は不明である。コリンオキシダーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターで植物を形質転換し、耐塩性、耐浸透圧性植物を作出する方法も開示されている(特許文献2)が、その実施例においては形質転換植物の耐塩性獲得までが示されるだけで、生産性向上に寄与したかは明らかではない上、組換体植物の栽培について厳しく制限されている現状においては、実用性に欠ける。
【0003】
また、露地栽培においては本来一定時期にしか開花・収穫されない植物を施設栽培により通年収穫することが極一般的に行われるが、限られた空間内で栽培を行うため、温湿度が急変しやすく、植物体はしばしばストレス(温度ストレス、乾燥ストレス、過湿ストレス)に曝される。これらのストレスは多くの障害を植物体に与え、極端な場合は植物体の枯死に繋がる。これらの被害は、適切な温度・灌水管理で軽減されるが、省力化された施設においては、完全な管理は不可能であるのが現状である。
【0004】
また農業においては、栽培期間の短縮、増収、品質向上は、あまねく収益増に結びつくため、永遠に追究され続ける目標である。短期的には各種肥料の施用により目標を達することも可能ではあるが、上記の通り多肥栽培の結果、塩類が蓄積して土壌を疲弊させ、長期的には、当初目的に逆行する結果に陥る場合が多い。
【0005】
以上の通り、農作物の栽培において植物のストレスを緩和するための有効な手段、および、植物体の生育を促進するための有効な手段が求められている。しかしながら未だ十分な手段は提供されていない。例えば、各種肥料と併用するための植物生育促進剤または植物活力剤として、グリチルリチンとビタミン類(特許文献3)、オリゴ糖(特許文献4)、炭素数12〜24の1価アルコール(特許文献5)などの種々の資材が開示されているが、これらの資材は高価であり、費用対効果の面から実際の農業生産現場への普及は進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−262457号公報
【特許文献2】国際公開第96/29857号パンフレット
【特許文献3】特開平8−143406号公報
【特許文献4】特開平9−143013号公報
【特許文献5】特開2000−198703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は有用な植物のストレス緩和剤を提供することを目的とする。本発明はまた有用な植物の生長促進剤を提供することを目的とする。本発明はさらにまた、植物のストレスを緩和する方法および植物の生長を促進させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する植物のストレス緩和剤。
(2)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品である、上記(1)に記載のストレス緩和剤。
(3)固形分100g当たり、1〜75重量%の糖類、CaO換算として50〜10000mgCaOの有機酸類、窒素N換算として1〜1400mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として90〜4000mgNのベタインを含有し且つpH値が5〜14である、上記(1)または(2)に記載のストレス緩和剤。
(4)植物のストレスが温度ストレス、塩ストレス、乾湿ストレス、低日照ストレスまたは低CO2ストレスである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のストレス緩和剤。
(5)植物が花卉、野菜、果樹、食用作物または工芸作物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のストレス緩和剤。
(6)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する植物の生長促進剤。
(7)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品である、上記(6)に記載の生長促進剤。
(8)固形分100g当たり、1〜75重量%の糖類、CaO換算として50〜10000mgCaOの有機酸類、窒素N換算として1〜1400mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として90〜4000mgNのベタインを含有し且つpH値が5〜14である、上記(6)または(7)に記載の生長促進剤。
(9)植物が花卉、野菜、果樹、食用作物または工芸作物である上記(6)〜(8)のいずれかに記載の生長促進剤。
(10)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する植物のストレス緩和剤を植物に施用することを含む、植物のストレスを緩和する方法。
(11)植物のストレス緩和剤が糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品である上記(10)に記載の方法。
(12)植物のストレス緩和剤が、固形分100g当たり、1〜75重量%の糖類、CaO換算として50〜10000mgCaOの有機酸類、窒素N換算として1〜1400mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として90〜4000mgNのベタインを含有し且つpH値が5〜14であり、且つ
該植物のストレス緩和剤をそのまま、または水で希釈して施用する、
上記(10)または(11)に記載の方法。
(13)植物が花卉、野菜、果樹、食用作物または工芸作物である上記(10)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する植物の生長促進剤を植物に施用することを含む、植物の生長促進方法。
(15)植物の生長促進剤が糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品である上記(14)に記載の方法。
(16)植物の生長促進剤が、固形分100g当たり、1〜75重量%の糖類、CaO換算として50〜10000mgCaOの有機酸類、窒素N換算として1〜1400mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として90〜4000mgNのベタインを含有し且つpH値が5〜14であり、且つ
該植物の生長促進剤をそのまま、または水で希釈して施用する、
上記(14)または(15)に記載の方法。
(17)植物が花卉、野菜、果樹、食用作物または工芸作物である上記(14)〜(16)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、植物のストレスによる障害を緩和することができる植物のストレス緩和剤および生長促進作用(栽培期間短縮、茎葉伸長など)を有する生長促進剤、ならびに、植物のストレスを緩和する方法および植物の生長促進方法が提供される。本発明により、植物の品質を向上させ商品価値を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する、植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤に関する。本発明はまた、かかる植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を植物に施用することを含む、植物のストレスの緩和方法または植物の生長促進方法に関する。
【0011】
本発明において植物のストレスとは植物の個体または群れにおいて多少とも圧迫・傷害的な外力によっておこされる歪的状態を意味する。植物のストレスとしては例えば温度ストレス、塩ストレス、乾湿ストレス、低日照ストレス、低CO2ストレスなどが挙げられる。温度ストレスとは植物が高温または低温に曝されることによるストレスであり、それぞれ高温ストレスまたは低温ストレスと呼ばれることもある。乾湿ストレスとは植物が乾燥状態または過湿状態に曝されることによるストレスであり、それぞれ乾燥ストレスまたは過湿ストレスと呼ばれることもある。低日照ストレスとは、悪天候または施設などの遮蔽により植物体が十分な太陽光を受光できないことによるストレスである。低CO2ストレスとは、空気置換が十分でない施設内で植物の光合成によりCO2濃度が低下しその結果光合成速度が下がり、炭酸同化量が減少した状態でのストレスである。
【0012】
本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤は、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有するものであり、その形態は任意の形態、例えば、粉末、エマルジョン、ペースト、顆粒、水性もしくは油性の溶液または懸濁液であってよい。例えば、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを水などの適当な溶媒中に適宜溶解または懸濁させたものを本発明に使用することができる。また、天然の動植物から抽出などの処理を経て得られた溶液または懸濁液であって上記組成を有するものを本発明に使用することができる。
【0013】
本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤は、好ましくは、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品である。かかる形態により、甜菜糖および甘蔗糖産出の際に生産される製糖副産品の有用な用途が提供される。また、製糖副産品を植物に施用することにより、植物(甜菜、甘蔗)から抽出した製糖副産品を再度田畑に戻すという循環系が成立するため、地球環境保全の面からも好ましい。また製糖副産品は、甜菜または甘蔗という天然物より生成されたものであり有害添加物などが混入されていないことから、植物体または土壌に施用しても環境汚染や人体への悪影響を及ぼす可能性が低く好適である。
【0014】
本発明には糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する任意の製糖副産品を使用し得る。かかる製糖副産品としては、例えば、甜菜もしくは甘蔗から砂糖を回収した後の糖液をクロマトグラフィー分離処理などの方法で更に砂糖分および/またはその他有効成分を回収した後の残留液(クロマト廃液と呼ばれる)、または、砂糖製造過程で糖液の精製の際に糖液中の砂糖以外の成分をイオン交換樹脂に吸着させた後に吸着成分を回収したもの(イオン交換樹脂廃液と呼ばれる)であって、上記組成を有するものが該当する。通常、製糖副産品は、固形分が30〜70重量%まで濃縮されたものが市販されている。市販の製糖副産品のうちで上記組成を有するものとしては、例えば日本甜菜製糖株式会社製CCR、CAL、NSL(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0015】
本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤中の糖類含量は、固形分100g当たり好ましくは1〜75重量%、より好ましくは10〜50重量%であり、有機酸類含量は固形分100g当たりCaO換算として好ましくは50〜10000mgCaO、より好ましくは6000〜8500mgCaOであり、アミノ酸類含量は固形分100g当たり窒素N換算として好ましくは1〜1400mgN、より好ましくは200〜1200mgNであり、ベタイン類含量は固形分100g当たり窒素N換算として好ましくは90〜4000mgN、より好ましくは1000〜1800mgNである。ここで「固形分」とは本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤に水などの溶媒成分または分散媒成分が含まれる場合にはそれらを留去した後に固体として残留する成分を意味する。本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤のpH値は好ましくは5〜14、より好ましくは9.5〜12.5である。
【0016】
当業者にとって明らかなように、糖類はHPLC法(樹脂カラム:KS−801)により、アミノ酸類はフォルモール法(個別のアミノ酸を同定する場合にはHPLC法)により、有機酸類は有機酸分析計を用いた方法により、ベタインはHPLC法(樹脂カラム:KS−801)により、それぞれ測定することができる。
【0017】
本発明において糖類、有機酸類、アミノ酸類の各用語はそれぞれ、当業者に通常理解される糖類、有機酸類、アミノ酸類を意味することは自明であるが、理解の容易のために例示するとすれば、糖類としては例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、メリビオース、トレハロース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、多糖類(デキストラン、アラバン等)が挙げられ、有機酸類としては例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、酢酸、ピロリドンカルボン酸(PCA)が挙げられ、アミノ酸類としては例えばアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、チロシン、バリン、システインが挙げられる。
本発明においてベタインとはトリメチルグリシンを指す。
【0018】
本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を施用し得る植物としては、例えば花卉、野菜、果樹、食用作物、工芸作物などが挙げられる。花卉としては、例えばカーネーション、シンビジウムなどの洋蘭類、パンジーなどのスミレ類、ユリ類、スターチス、プリムラ類、トルコギキョウ、キク類、ケイトウ、ガザニア、キンレンカ、リビングストンデージー、バラ、葉ボタンなどの観葉植物類が挙げられる。野菜としては、例えばトマト、ナス、カボチャ、スイカ、ピーマン、パプリカ、メロン、キュウリ、イチゴ、サヤインゲンなどの果菜類、キャベツ、コマツナ、ネギ、ニラ、レタス、ホウレンソウ、セロリ、パセリ、シソ、シュンギク、アスパラガスなどの葉菜類、ニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ、レンコン、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモなどの根菜類、ブロッコリー、カリフラワーなどの花菜類が挙げられる。果樹としては、例えばミカンなどの柑橘類、リンゴ、ナシ、モモ、スモモ、オウトウ、ウメ、カキ、ブドウ、イチジク、キウイフルーツ、ブルーベリーなどのベリー類などが挙げられる。食用作物としては、例えばイネ、麦類、雑穀類、トウモロコシなどが挙げられる。工芸作物としては、例えば茶、コンニャク、イ草、タバコなどが挙げられる。
【0019】
本発明においては上記組成を有する植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を通常の方法で植物に施用することができ、例えば、植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を植物に直接施用しても、水で希釈したものを施用しても、珪藻土や炭酸カルシウムなどの担体に吸着させたものを散布することにより施用してもよい。本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を水で希釈したものを植物に施用する場合は、葉面散布、土壌への灌注の何れも可能であり、播種または移植前の土壌に予め混合しても良い。また、適当な水溶性肥料と混合して施用することも差し支えない。本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤を担体に吸着させたものを施用する場合は、吸着させたものを土壌と混合しても、表土上に散布しても差し支えない。有効施用量は、1平方メートルあたり固形分として好ましくは0.6〜400g、より好ましくは1〜50gであり、鉢植えなどで1植物体当たりとして施用する場合は、固形分として好ましくは0.006〜60g、より好ましくは0.01〜0.75gである。更には、移植の際に根が露出している段階で、一定時間、本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤の希釈液に根を浸漬して吸収させる方法も可能である。この場合は、0.06〜18g/100ml(固形分として)水溶液に根を5秒〜72時間浸漬する。浸漬時間は、植物根の吸水速度、根支持材(土壌など)の付着度合いによって適宜変更することができる。
【0020】
本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤は栽培期間を通じて随時施用可能であるが、特に好ましい施用時期は、植物のストレスの緩和を目的とする場合は幼植物体である時期または4週間以内に植物が何らかのストレスを受けると予想される時期であり、植物の生長促進を目的とする場合は植物の生長期である。本発明の植物のストレス緩和剤または植物の生長促進剤の希釈液に根部を浸漬することにより施用する場合は、移植時に浸漬を実施する。
【0021】
施用回数は、高濃度であれば1回でも顕著な効果を示すが、低濃度の場合は、1週間〜4週間の間隔で複数回施用することにより、効果が持続する。
次に、本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
【0022】
5号プラスティック鉢に定植し基肥としてIB化成肥料を施用したカーネーション(品種:ミセスレッド)の上位葉先に3〜5mmの枯れ込みが生じた株を供試した。この枯れ込みの直接の原因はカルシウム欠乏であるが、カルシウム施用の絶対量が不足しているのではなく、温度が急激に上昇したのに伴い上位葉が急速に伸長した際に、葉先端へのカルシウム供給が追いつかず生じたものである。なお、当該カーネーションは、全株で平均10枚の葉に先枯れが生じた。2003年4月5日に先枯れした葉を除去し、1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製:CCR 固形分55%)の1,000倍希釈液、または、2)水を1株当たり20ml施用した。CCR施用量は固形分として0.011g/株に相当する。施用方法は、鉢表土への灌注とした。反復数は、それぞれ20鉢とした。施用後は、同一条件で管理し、調査日まで水以外の物は施用しなかった。
【0023】
本実施例に使用した日本甜菜製糖製CCR(固形分55%)は、固形分100g当たり31重量%の糖類、6938mgCaOの有機酸類、窒素N換算として487mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として1520mgNのベタインを含有しており、且つ、pH値が10.1であった。糖類はHPLC法(樹脂カラム:KS−801)により、アミノ酸類はフォルモール法により、有機酸類は有機酸分析計を用いた方法により、ベタインはHPLC法(樹脂カラム:KS−801)によりそれぞれ測定した値である。
【0024】
2003年5月5日に、先端が3mm以上枯れ込んだ葉数を、各鉢毎に調査した。調査結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示す通り、CCRの施用により、葉先枯れは完全に抑えられた。着蕾数、草丈については、CCR施用の影響はなかった。葉先枯れが生じると商品価値が低下するため、通常は出荷前にこれらを除去するが、85鉢/人工程度しか処理できないためコストアップにつながっている。CCR施用により、品質向上、コスト削減が実現される。
【実施例2】
【0027】
本実施例では本発明のストレス緩和剤の塩ストレス緩和効果を評価した。植物に対する塩ストレスの影響を緩和する適合溶質としてベタインが知られていることから、本実施例では、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタイン含有するCCRを施用する処理区のほかに、ベタインのみを単独で施用する処理区を設定して比較を行った。下記実施例5および6についても同様である。
【0028】
灌水に使用している地下水にナトリウムイオンが50〜60ppm含まれるため、ナトリウム蓄積の悪影響を受けやすい条件下で栽培されているシンビジウム(品種:ピンクヴェイル‘ラブ’)の2年後開花見込株を供試した。2003年1月26日に、5号素焼鉢に20株ずつ水苔植にて寄せ植えにされていたものから水苔を取り除いた。1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)を地下水で1,000倍に希釈した液、2)ベタイン0.008%地下水溶液、3)地下水に、根部を24時間浸漬した。何れの地下水にもナトリウムイオン約50ppmが含まれている。その後、チップ(松皮)を支持材料として3号プラスティック鉢に1株植とし、1週間後にロングトータル花き1号(チッソ旭製)、マルチケーミン(サカタのタネ製)を元肥として施用した。栽培期間中、ナトリウムイオンを約50ppm含む地下水を灌水し、灌水頻度は慣行法に従った。植え替えの際、CCR希釈液に根部を浸漬した株に対し、2003年5月2日に、CCR(固形分55%)を同じ地下水で500倍に希釈した液を1株当たり40ml(CCRの施用量は固形分として0.044g/株)、葉面散布した。同様に植え替えの際、ベタイン水溶液に根部を浸漬した株に対し同日、ベタイン0.016%水溶液(同じ地下水を使用)を1株当たり40ml(ベタインとして6.4mg/株)を葉面散布した。反復数は、それぞれ50株とした。
2003年8月26日に、最大葉長を調査した。調査結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示した通り、CCR希釈液への根部浸漬および葉面散布により、シンビジウムの生育が促進された。施用したCCR希釈液に含まれるベタイン濃度相当のベタイン溶液には、そのような効果は認められなかった。
【実施例3】
【0031】
暖地において盛暑期に育苗すると、高温ストレスのため生存率・苗品質が低下しやすいパンジー(品種:タキイF1ナチュレオーシャン)を供試した。2003年7月27日に、200穴トレイへ播種し8月2日までに大半が発芽した。8月9日、16日、23日の3回、1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液、または、2)水を底面灌水した。反復数は、トレイ1枚分(各処理前に発芽した170〜180株が対象)とした。
【0032】
8月29日に枯死率の調査を行い、その他品質面についても調査した。枯死率調査結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示した通り、CCR希釈液の底面灌水により枯死する株数が半分以下になった。
また、8月29日に3号ビニールポットへ移植を行い根の状態を確認したところ、CCR施用した株は、根の発達が旺盛であり、特に細根が良く生育していた。
【0035】
移植後の9月26日に葉数を調査した。調査株数は、CCR処理区162株、対照区159株であった。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
表4に示した通り、CCR施用により鉢上げ後の生育が揃って旺盛になった。対照区では、生育の揃いが悪く、葉数の変動幅が大きかった。
【0038】
CCR施用により葉柄が強固になった。着蕾状況については、CCR施用区の株が一定サイズに達するまで着蕾しないのに対し、対照区では十分生育しない時期から着蕾し,更に生育が遅れる傾向があった。
【実施例4】
【0039】
オリエンタルハイブリッドユリ(品種:シベリア)を供試した。冷凍球根に、2003年8月1日よりプレルーティング処理を開始し、更にルーティング処理を行った。ルーティング処理中の8月17日に、1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液、または、2)水を球根60球当たり2,000ml散布した。CCRの施用量は固形分として0.018g/球に相当する。8月20日に露地(寒冷紗にて50%遮光)へ定植した。施肥は基肥として有機入り化成肥料(未来科学製、N:P:K=6:6:5)を球根8,000球当たり50kg施用し、栽培期間中は追肥を行わなかった。定植後、8月30日、9月16日、10月1日の3回、ルーティング処理中に、施用したものと同じ溶液(または水)を1株当たり20ml葉面散布した。葉面散布時のCCRの施用量は散布1回につき固形分として0.011g/株に相当する。各処理区100株を試験対象とし、慣行に従って適期に採花した。
【0040】
定植から採花までの所要日数、地表部からの草丈、着蕾数を測定した。結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5に示した通り、CCR施用により採花までの所要日数が短縮され、草丈は長くなった。草丈については、CCR施用により変動が少なくなった。着蕾数には影響はなかった。
【実施例5】
【0043】
トマト(品種:桃太郎ファイト)を、土壌の塩類濃度の指標となる電気伝導度(EC)が高く塩類集積条件と見なされる隔離ベッド(EC=1.5mS/cm)に定植させた、塩ストレス条件下で栽培中のものを供試した。この栽培条件は、収穫初期にカルシウム欠乏による尻腐れ症状が発生しやすい。慣行に従って育苗された苗を2003年5月12日に隔離ベッドへ定植した。園試処方0.75倍液を循環させてガラス温室内で管理した。7月5日、15日の2回、1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)500倍希釈液、2)ベタイン0.016%水溶液、3)水、の何れかを100ml/株の割合で葉面散布した。CCRの施用量は固形分として、0.11g/株、ベタインの施用量は0.016g/株に相当する。その他の栽培管理は慣行法に従った。各処理区50株を試験対象とした。
【0044】
7月31日〜8月4日の期間の収量と、尻腐れ症状の度合いを表6に示した。尻腐れ症状については、病斑の発生率と、発生果実における病斑の長径平均値で表示した。
【0045】
【表6】

【0046】
表6に示した通り、CCR施用により着花、結実が促進され、収穫開始時期が早まった結果、収穫開始時の収量が多くなった。また、尻腐れ病が発生しやすい条件であったが、CCR施用によって発生率が低下し、症状も緩和された。CCR希釈液相当のベタイン水溶液では、以上のような効果は認められなかった。
【実施例6】
【0047】
塩類集積土壌(EC=1.5mS/cm)にて栽培されたミニトマトを供試した。2003年8月20日に、ミニトマト(品種:千果)苗を定植し、同年8月28日、9月28日、10月27日の3回、1)製糖副産物であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液、2)ベタイン0.008%水溶液、3)水、の何れかを500ml/株、灌注した。CCRの施用量は固形分として0.275g/株、ベタインの施用量は0.04g/株に相当する。施肥を含むその他の栽培条件は、慣行法に従った。各処理区10株を試験対象とした。
【0048】
11月29日に、5個/株の完熟した果実を全株から収穫し、果汁の糖度(レフブリックス、屈折糖度計で測定)を測定した。結果を表7に示した。
【0049】
【表7】

【0050】
表7に示した通り、CCR施用によりミニトマトの糖度が上昇した。CCR希釈液相当のベタイン水溶液では、糖度上昇はごく僅かにとどまった。
【実施例7】
【0051】
塩類蓄積土壌(EC=1.5)(同上)に定植し、開花状況が不良であるスターチスを供試した。2002年9月10日に、スターチス(品種:サンデーラベンダー)を、ビニールハウス内の塩類蓄積土壌に定植し、慣行に従って栽培したところ、2003年2月時点で萼が殆ど着色せず、花茎も伸びないため、殆ど採花できない状態であった。このラベンダーに対し、製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液または水を、表8に示した条件で、125ml/株、灌水チューブで施用した(CCRの施用量は固形分として0.069g/株)。1試験区は100株とした。
【0052】
【表8】

【0053】
1)採花開始〜2003年2月24日、2) 2003年2月25日〜2003年4月30日の各期間について、3試験区の採花本数を調査し、結果を表9に示した。
【0054】
【表9】

【0055】
表9に示した通り、CCR施用により、萼の着色が進みボリュームがアップした結果、採花本数が著しく増加した。CCR施用回数については、2回の方が、より効果が認められた。対照区においては、萼の着色は進まず、一部個体が枯死したこともあって大幅に減収した。
【実施例8】
【0056】
プリムラ マラコイデスを供試した。2003年9月1日に、30cm×40cmの育苗箱に種子をばら蒔きした。その後、プリムラ マラコイデスの生育適温より5〜10度高い気温が続いたため、9月20日に発芽後の生存率を調査したところ、41%が枯死し、生存株も根張りが悪く生育不良であった。9月20日に、育苗箱当たりの株数を40株とし、製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液または水を、育苗箱当たり1,000ml散布した。(CCRの施用量は、固形分として0.014g/株)。1処理区当たり育苗箱2箱を割り当てた。尚、9月20日以降も、気温はプリムラ マラコイデスの生育適温より約5度高い状態が、10月10日まで続き、その後は生育適温にほぼ近い温度で推移した。
【0057】
10月20日に、生育調査(生存率、最大葉長測定、根長測定)を行った。結果を表10に示した。
【0058】
【表10】

【0059】
表10に示した通り、CCR施用により、高温ストレス条件下で栽培中のプリムラ マラコイデスの生存率が上昇し、生育も促進された。CCR施用区の株は、中間サイズ(2.5号鉢)を通り越して一気に3.5号鉢へ鉢上げ可能なものが多かったが、対照区ではそのような株はなかった。
【実施例9】
【0060】
寒冷地(旭川市)にて低温障害を受けやすい条件で栽培された、ナス(品種:千両)を供試した。2003年5月22日に、基肥としてほう素入り燐硝安加里(NS262、全農製)を200kg/10a施用した耕地へ、本葉が9枚展開した苗を定植した。6月1日、11日、21日の3回、1)製糖副産品であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)1,000倍希釈液、または、2)水を200ml/株の割合で灌注した。CCRの施用量は灌注1回につき固形分として0.11g/株、ベタインは0.016g/株に相当する。試験対象は、各試験区10株とした。
収穫開始より2003年9月15日までの収量合計(1株当たり)を表11に示した。
【0061】
【表11】

【0062】
表11に示した通り、CCR施用により、寒冷地で栽培したナスが増収した。
【実施例10】
【0063】
水稲(品種:コシヒカリ)を供試した。2003年4月10日に、水稲育苗箱(30cm×60cm)に種籾150gを播種し、3.5葉期になった5月5日に、1)製糖副産物であるクロマト廃液(日本甜菜製糖製CCR、固形分55%、実施例1に使用したものと同一組成を有する)500倍希釈液、または、2)を育苗箱当たり2,000ml灌水した。5月20日に、10a当たり育苗箱30箱分の苗を水田へ移植した。面積は、各試験区1haとした。6月10日に、化成肥料(N:P:K=4:5:4)を40kg/30aの施用率で追肥し、その後は追肥を行わなかった。
【0064】
9月15日に刈り取りし、慣行法に従って処理した後、収量を調査した。その結果を表12に示した。
【0065】
【表12】

【0066】
表12に示した通り、CCR施用により水稲の収量が増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甜菜からの甜菜糖産出の際に生産される、糖類、有機酸類、アミノ酸類およびベタインを含有する製糖副産品を含有する、トマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和、収量増加、又は糖度向上用組成物。
【請求項2】
製糖副産品が、甜菜から砂糖を回収した後の糖液から更に砂糖分および/またはその他有効成分を回収した後の残留液であるクロマト廃液、または、砂糖製造過程で糖液の精製の際に糖液中の砂糖以外の成分をイオン交換樹脂に吸着させた後に吸着成分を回収したものであるイオン交換樹脂廃液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
クロマト廃液が、甜菜から砂糖を回収した後の糖液をクロマトグラフィー分離処理して更に砂糖分および/またはその他有効成分を回収した後の残留液である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
固形分100g当たり、1〜75重量%の糖類、CaO換算として50〜10000mgCaOの有機酸類、窒素N換算として1〜1400mgNのアミノ酸類、および窒素N換算として90〜4000mgNのベタインを含有し且つpH値が5〜14である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を施用することを含む、トマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和方法、収量増加方法、又は糖度向上方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を施用することを含む、塩類集積土壌での栽培におけるトマトの尻腐れ症状の発生率低下又は緩和方法。
【請求項7】
農薬又は肥料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。

【公開番号】特開2010−280677(P2010−280677A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162739(P2010−162739)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【分割の表示】特願2004−4773(P2004−4773)の分割
【原出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】