説明

植物の根の活力測定方法

【課題】複雑な装置を用いて測定した根の好気呼吸速度を根の活力とする従来の根の活力測定方法の課題を解消する。
【解決手段】植物の根から発光される生体光を光電子増倍管によって検知しつつ、所定時間内に検知された生体光数を集計し、前記植物の根の活力を示す指標として、前記集計した生体光数に基づいて、前記根の所定時間内での生体光生産量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物の活力測定方法に関し、更に詳細には植物の根の活力を簡易に測定できる植物の根の活力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の活性は、葉を含む地上茎と根を含む地下茎との活性を評価して判断することは大切であるが、地下茎、特に根の活性は重量である。
かかる根の活性については、従来、根の色相を肉眼で見て判断していた。例えば、稲の根については、根が褐色となっていれば、その根は古い根で活性が低いものであると判断していた。
しかし、稲の根が褐色となるのは、鉄分が豊富に含まれている土壌に稲が植えられていた場合であって、含有鉄分の少ない土壌に植えられていた稲の根は、古くなっても褐色となる程度が少ない。このため、植物の根の色相と活性とは相関が乏しい場合がある。
このため、植物の根の活性を客観的に測定する方法として、下記非特許文献1には、図7に示す装置を用いて根の酸素吸収速度を測定することが提案されている。
【非特許文献1】根の研究(Root Research)9(1):17−20(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図7に示す装置は、恒温水槽内の密閉容器内に貯留された密閉水内に根を挿入し、ポンプによって密閉水を攪拌しつつ溶存酸素計によって密閉水中の溶存酸素量を測定するものである。
この装置によって測定した密閉水中の溶存酸素量の経時変化を図8に示す。図8から明らかな様に、測定開始直後は溶存酸素濃度が急減に低下するが、その後、溶存酸素濃度の低下割合が一定化する。このため、測定開始後20〜40分の溶存酸素濃度の低下割合を根の好気呼吸速度とした。かかる好気呼吸速度によれば、根の色彩によらず、根の活力を客観的に判断できる。
しかし、根の好気呼吸速度の測定には、図7に示す装置が必要であるため、その測定は容易ではない。
そこで、本発明の課題は、複雑な装置を用いて測定した根の好気呼吸速度を根の活力とする従来の根の活力測定方法の課題を解消し、根の活力を簡単で且つ客観的に評価できる根の活力測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討したところ、植物の根は呼吸して酸素を吸入したとき、酸化に基づく生体光(biophoton)を発生していることを知った。本発明者は、この生体光を根の活力測定として用いることができないか検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、植物の根から発光される生体光を光電子倍増管によって検知しつつ、所定時間内に検知された生体光数を集計し、前記植物の根の活力を示す指標として、前記集計した生体光数に基づいて、前記根の所定時間内での生体光生産量を求めることを特徴とする植物の根の活力測定方法にある。
かかる本発明において、植物の根を水に浸漬した状態で生体光を計測することによって、根の乾燥等による影響を排除できる。
また、植物の根として、苗の根を用いることによって、苗の活力を評価でき、圃場に植える苗の選別に利用できる。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係る測定方法によって測定される生体光は、植物の根の呼吸によって吸入された酸素による酸化によって発生するものと推察される。このため、植物の根の活力が良好で呼吸が盛んな場合には、吸入した酸素の因る生体光の生産量が多くなる。一方、植物の根の活力が低下している場合には、根の呼吸も低下し、吸入した酸素の因る生体光の生産量が低下する。
その結果、根の活力が低下した植物に対しては、肥料や病気等について検査し、適当な手当てを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に係る測定方法に用いる装置を図1に示す。図1に示す装置は、遮光板から形成された箱体10の天井部に、光電子倍増管12が設けられている。この光電子倍増管12は、その頭部側から光子が入射するものである。
かかる光電子倍増管12の頭部は、箱体10内に挿入されたシャーレー14に向けられている。このシャーレー14内には、水16が貯留されており、測定対象の所定長さに切断された植物の根18,18・・が入れられている。
光電子倍増管12で測定された生体光の数は、光電子倍増管12に接続されたカウント装置で集計される。
図1に示す光電子倍増管12で集計された、稲の根の生体光についての経時変化を図2に示す。
稲の根を3cm程度に切断して、水16が貯留されたシャーレー14内に挿入した後、シャーレー14を箱体10内に挿入して、発生する生物光数を測定した。
稲の根の生体光は、図2に示す様に、測定開始直後は多く発生するが、所定時間経過後には安定化する。このため、測定開始後400〜600秒間に発生した生体光数をカウントして生体光生産量(生物フォトン生産量)とした。
【0007】
図1に示す装置を用いて稲(品種:コシヒカリ)の根の生物フォトン生産量について、7月23日から9月1日まで測定した。その結果を図3に示す。同時に、図7に示す装置を用いて、稲の根の好気呼吸速度も測定して、その結果を図3に併記した。
図3から明らかな様に、稲の出穂の前後で、稲の根の生物フォトン生産量が異なることが判る。一方、稲の根の好気呼吸速度は、稲の出穂の前後で大きく相違することはなさそうである。
図3に示した稲の根の生物フォトン生産量と好気呼吸速度とについて、出穂前後に分けて整理した。その結果を図4に示す。図4から明らかな様に、出穂前及び出穂後の各々において、生物フォトン生産量と好気呼吸速度とは良好な相関を示した。
このことから、図4に示す生物フォトン生産量と好気呼吸速度との関係を示すグラフを予め作成しておくことによって、測定した稲の根の生物フォトン生産量から好気呼吸速度を予測でき、稲の根の活力を推定可能である。このため、根の活力が低下した稲に対しては、肥料や病気等について検査し、適当な手当てを施すことができる。
また、稲の根の生物フォトン生産量は、出穂の前後で大きく異なることから、生物フォトン生産量から出穂時期を正確に確定でき、出穂後の肥料等に移行できる。
この様に、稲の根の生物フォトン生産量に基づいて根の活力を測定する本発明の方法によれば、密閉水中の溶存酸素量を測定する図7に示す装置を用いた従来の根の活力測定方法に比較して、短時間に根の活力を測定できる。
【0008】
図3及び図4は、稲の根についての生物光を測定したものであるが、レタス(品種:メルボルン、本葉2.5)の幼苗の根について生物光の発光数を測定した。生物光を測定したレタスの幼苗は、双葉がやや黄色に変色して、何等かの病原菌が発生しているものと思われる弱勢苗と、黄変が全く見られない強勢苗とを用いた。
かかる弱勢苗と強勢苗との各々の根について、根を3cmに切断して図1に示す装置によって、根からの生物光数を測定した結果を図5に示す。図5には、縦軸に「根からの自然光」の数(生物光数)を示し、横軸に計測開始後の時間を示す。図5に示す様に、全体として、強勢苗の根の生物光数が弱勢苗の根よりも多いことが判る。特に、測定開始から10〜30秒間の弱勢苗と強勢苗とで大きな差異がありそうである。
このため、測定開始から10〜30秒間の弱勢苗と強勢苗との各々の生物光数を比較した結果を図6に示す。図6に示す様に、強勢苗の根の生物光数が弱勢苗の根よりも多いことが明確に判る。
この様に、苗の根の生物光数を測定することによって、弱勢苗を知ることができ、圃場等に移植する苗として強勢苗を確実に選択できる。
また、根の生物光数を測定することによって、根に対する活力を低下させる毒性等の環境評価にも応用できる。
以上、述べてきた植物の根の生物光を測定する際に、根を切断してきたが、苗等の植物の根を切断することなく水に浸漬して生物光を測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で用いる植物の根の生物光を測定する装置の概略を説明する概略図である。
【図2】図1に示す装置で測定した稲の根の生物光数について、測定開始からの経時変化を示すグラフである。
【図3】稲の根について、図1に示す装置で測定した生物フォトン生産量と図7に示す装置で測定した好気呼吸速度とについて、稲の生長に伴う変化を示すグラフである。
【図4】図3に示す生物フォトン生産量と好気呼吸速度とについて、出穂前後に分けて整理した結果を示すグラフである。
【図5】レタスの幼苗について、強勢苗と弱勢苗との各根につい測定した自然光数(生物光数)を、測定開始からの経過時間で示すグラフである。
【図6】図5に示すグラフの測定開始から10〜30秒の間に発生した生物光数を示すグラフである。
【図7】植物の根の好気呼吸速度を測定する測定装置の概略を示す概略図である。
【図8】図7に示す装置で測定した稲の根の好気呼吸速度について、測定開始からの経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0010】
10 箱体
12 光電子倍増管
14 シャーレー
16 水
18 根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の根から発光される生体光を光電子倍増管によって検知しつつ、所定時間内に検知された生体光数を集計し、
前記植物の根の活力を示す指標として、前記集計した生体光数に基づいて、前記根の所定時間内での生体光生産量を求めることを特徴とする植物の根の活力測定方法。
【請求項2】
植物の根を水に浸漬した状態で生体光を計測する請求項1記載の植物の根の活力測定方法。
【請求項3】
植物の根として、苗の根を用いる請求項1又は請求項2記載の植物の根の活力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−41953(P2010−41953A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207571(P2008−207571)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)
【Fターム(参考)】