説明

植物の栽培方法

【課題】 本発明は危険性がなく、反応時間を早くでき、かつ茄子科の植物の生育向上が促され、収穫量も向上させることができる植物の栽培方法を得るにある。
【解決手段】 養液栽培、養液土耕栽培潅水同時施肥栽培の植物の栽培において、茄子科の植物の根部に培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/m 〜培養液濃度が1/2倍EC値が0.55dS/mで、かつ炭酸ガスをPH6.5〜5.5となるまで溶解した炭酸水溶解培養液を根域に施用して植物の栽培方法を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に茄子科の植物を養液栽培、養液土耕栽培潅水同時施肥栽培で栽培する植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物を栽培する場合、肥料養液や土壌のPHを、PH調整剤と呼ばれる市販薬を用いて調整している。
このPH調整剤は液体薬で、主成分はリン酸や硝酸等の肥料成分からなる強酸性物質を用いている。
【0003】
このような強酸性物質のPH調整剤を使用するため、危険であるという欠点があった。また、液と液との反応により調整を行なうので、目標のPH値を得るのが難しい。このことから、肥料養液のPH調整が栽培にとって有効的と知りながら実施されずらかった。
さらに、昨今、リン不足も問題視されており、リンの使用削減も呼び掛けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−22号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、危険性がなく、反応時間を早くでき、かつ茄子科の植物の生育向上が促され、収穫量も向上させることができる植物の栽培方法を提供することを目的としている。
【0006】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は養液栽培、養液土耕栽培潅水同時施肥栽培の植物の栽培において、茄子科の植物の根部に培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/m〜培養液濃度が1/2倍EC値が0.55dS/mで、かつ炭酸ガスをPH6.5〜5.5となるまで溶解した炭酸水溶解培養液を根域施用した植物の栽培方法を構成している。
【発明の効果】
【0008】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1により、炭酸ガスと肥料をPH6.5〜5.5で培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/m〜培養液濃度が1/2倍EC値が0.55dS/m で、かつ炭酸ガスをPH6.5〜5.5となるまで溶解した炭酸水溶解培養液を、茄子科の植物の根部に施用することにより、茄子科の植物の生育向上が促され、図5に示すように収穫量も向上させることができる。
(2)前記(1)により、炭酸ガスをPH調整剤として使用しているため、安全で、反応時間を早くすることができる。
(3)前記(1)により、炭酸ガス溶解水を養液として使用しているので、温室内に炭酸ガスを発生させるものに比べ、環境への負荷が小さく、地球温暖化を防止することができる。
(4)請求項2も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、より効率よく茄子科の植物の生育向上を促進させることができる。
(5)請求項3も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、トマトの収量増加を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を実施するための第1の形態の概略図。
【図2】本発明を実施するための第1の形態の養液栽培装置の説明図。
【図3】本発明を実施するための第1の形態の炭酸ガス溶解水の散布装置の説明図。
【図4】本発明を実施するための第1の形態の炭酸水処理が果実肥大と糖度に及ぼす影響を示す図。
【図5】本発明を実施するための第1の形態の収量比較の説明図。
【図6】本発明を実施するための第1の形態の平均果実重比較の説明図。
【図7】本発明を実施するための第2の形態の概略図。
【図8】本発明を実施するための第2の形態の養液栽培装置の説明図。
【図9】本発明を実施するための第3の形態の概略図。
【図10】本発明を実施するための第3の形態の養液栽培装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0011】
図1ないし図6に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は本発明の植物の栽培方法で、この植物の栽培方法1は温室2内に設置した、茄子科の植物であるトマト3の根部4に養液を供給して栽培する養液栽培装置5と、この養液栽培装置5で栽培されるトマト3の葉面6に炭酸ガス溶解水7を散布する炭酸ガス溶解水の散布装置8とで構成されている。
【0012】
前記養液栽培装置5はトマト3を養液栽培する培地9と、この培地9に養液を供給する養液供給装置10とからなり、この養液供給装置10は養液作成タンク11と、この養液作成タンク11に水を供給する水供給装置12と、前記養液作成タンク11内に炭酸ガスを炭酸ガスボンベ13より炭酸ガス供給パイプ14を介して供給する炭酸ガス供給装置15と、前記養液作成タンク11内へ肥料を供給する肥料供給装置16と、前記養液作成タンク11内でPH6.5〜5.5で培養液濃度が1となるように水供給装置12、炭酸ガス供給装置15および肥料供給装置16を制御する制御装置17と、この制御装置17でPH6.5〜5.5で培養液濃度が1となる養液作成タンク11内の炭酸水溶解培養液18を前記培地9へ供給するポンプ19が介装された養液供給ホース20とで構成されている。
【0013】
前記培養液濃度が1の肥料成分はTotal−Nが98.7ppm、NH−Nが9.4ppm、NO−Nが87.6ppm、Pが19.4ppm、Kが125.7ppm、Caが63.0ppm、Mgが13.4ppm、Mnが0.709ppm、Bが0.487ppm、Feが2.025ppm、Cuが0.018ppm、Znが0.048ppm、Moが0.019ppmである。
【0014】
前記炭酸ガス溶解水の散布装置8は炭酸ガス溶解水作成タンク21と、この炭酸ガス溶解水作成タンク21に水を供給する水供給装置22と、前記炭酸ガス溶解水作成タンク21内に炭酸ガスを炭酸ガスボンベ13より炭酸ガス供給パイプ14を介して供給する炭酸ガス供給装置15と、前記炭酸ガス溶解水作成タンク21内でPH6.5〜5.5となるように、前記水供給装置22および炭酸ガス供給装置15を制御する炭酸ガス溶解水制御装置23と、この炭酸ガス溶解水制御装置23で作成されたPH6.5〜5.5の炭酸ガス溶解水24を、ポンプ25を介したホース26の先端部に取付けられたノズル27よりトマト3の葉面6へ散布する炭酸ガス溶解水供給装置28とで構成されている。
【0015】
上記構成の植物の栽培方法1にあっては、トマト3の根部4に炭酸ガスと肥料をPH6.5〜5.5で培養液濃度が1倍となるまで溶解された炭酸水溶解培養液18を養液供給装置10で供給するとともに、葉面6にPH6.5〜5.5の炭酸ガス溶解水24を炭酸ガス溶解水の散布装置8で散布供給してトマトを栽培するので、平均果実重量が重く、かつ収量の増加が得られた。
【0016】
なお、トマトの養液栽培において、炭酸水を根部4および茎葉部へ施用することで収量、果実品質、養分吸収に及ぼす影響について実験を行なった。
【0017】
〔材料および方法〕中玉トマト‘ドルチェ’(日本園芸生産研究所)を供試し、2008年 9月1日に播種。5cm角のロックウールキューブに2株ずつ移植した苗を、同30日にロックウール培地のバッグカルチャーに1バッグあたり3キューブ(計6株)を30cm間隔に定置した。
【0018】
処理は〔1〕培養液濃度を1倍および1/2倍、〔2〕培養液への炭酸混入の有無、〔3〕炭酸水か水道水の葉面散布もしくは葉面散布なしの〔1〕〜〔3〕の処理をそれぞれ組み合わせた計12処理区を2反復で、10月2日に開始した。
潅水は、大塚ハウス肥料1・2・5号(大塚化学(株))を用いた培養液を用いて点滴潅水し、8時〜17時に1時間に1回、5分間行なった。
【0019】
培養液に炭酸を混入させる区は、炭酸ガス混入機(昭和炭酸(株)製)を用いて行ない、培養液のPHが5.5となったときに潅水を自動的に行なうように設定した。葉面散布は8時〜17時に1時間に1回1分間行なった。
【0020】
栽培は主枝一本仕立て、3段採りとし、第3果房上2葉を残して摘心した。着果数は制限せず、収穫は果実全体が赤く色づいたときに行ない、果実収量、品質を調査した。
【0021】
品質は、各処理区から6株、各果房より3果をサンプルし、果実重、果径、果皮色を測定後、果汁をろ過後に糖度と酸度およびグルタミン酸(第1果房を除く)を測定した。
また、果実の一部を80℃の温風乾燥機で乾燥させ、乾物重を測定後、無機分析に供した。果実収穫終了時には、植物体の生育調査を行なった。
【0022】
〔結果および考察〕
図4に示すように炭酸水処理が果実肥大と糖度に及ぼす影響、図5に示すように収量比較、図6に示すように平均果実重比較でわかるように、果実肥大は、培養液1倍・炭酸水潅水・炭酸水葉面散布区において第2・3房で有意に促進された。糖度は、培養液1倍・炭酸水葉面散布区で最高となり、グルタミン酸含量は培養液1倍区において潅水への炭酸の有無にかかわらず炭酸水を葉面散布することで高くなる傾向にあった。第2・3果房の果実内CaとP含有率は水道水葉面散布以外の培養液1倍区では炭酸水を潅水することで高くなった。第3果房直上葉内のCa含有率は炭酸水を潅水することで培養液1倍、1/2倍濃度ともに上昇した。また、炭酸を培養液に溶かすことで、培養液のPHが下がり、PH調整の役割も担えると考えられた。
【0023】
なお、図4の「a、b、ab、ac」等の表記はTukey検定による有意差、つまり処理による影響があるのかないのかを示すものである。同列の同アルファベット同士は有意差がない、異なると有意差があります。今回5%レベルで統計処理をしているので、有意差が認められた場合、95%の確立で処理による影響が出るということになります。一応わかりやすい表示方法としてアルファベットが使われるのですが、aとb、abとcでしたら、有意差がある。aとa、aとabだったら有意差がないということを示しています。
【0024】
また、図5および図6の棒グラフの横軸の条件は、左側の「無、炭」は潅水に炭酸水を使用しているかどうかを示し、中央部の「1、1/2」は培養液濃度を示し、右側の「無、炭、水」は散布をしない、散布を炭酸水でする、散布を水ですることを示している。
【0025】
以上のことから、炭酸を溶解させた培養液の潅水は果実肥大を促進し、Ca吸収を高めることがわかった。今後は夏季高温期における影響や培養液への炭酸溶解によるPH調整機能について調査する必要がある。
【0026】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図7ないし図10に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0027】
図7および図8に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、トマト3の根部4に炭酸水溶解培養液18を供給して栽培するようにした点で、このような葉面に炭酸ガス溶解水を供給しない植物の栽培方法1Aを用いても、前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られる。
【0028】
図9および図10に示す本発明を実施するための第3の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、土耕栽培のトマト3Aの根部4に養液供給ホース20で炭酸水溶解培養液18を供給できるようにした点で、このように構成された植物の栽培方法1Bを用いても、前記本発明を実施するための第1の形態と同様な作用効果が得られる。
【0029】
なお、前記本発明の各実施の形態では培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/mの肥料成分を用いるものに付いて説明したが、本発明はこれに限らず、培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/m〜培養液濃度が1/2倍EC値が0.55dS/m の肥料成分を用いてもよい。この場合、培養液濃度が1倍〜1/2倍にすることにより、従来と同様な収穫が得られるとともに、使用する肥料が少なくなり、コストの低減を図ることができるとともに、環境に対する影響をおさえることができる。
【0030】
前記本発明を実施する各形態ではトマトを栽培するものについて説明したが、本発明はこれに限らず、茄子科の植物であれば同様な作用効果が得られる。
【0031】
さらに、炭酸水溶解培養液は肥料を溶かした後、炭酸ガスを溶解させて製造したものについて説明したが、本発明はこれに限らず、炭酸ガスを溶解させた後、肥料を溶かして製造したものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は茄子科の植物を栽培する産業で利用される。
【符号の説明】
【0033】
1、1A、1B:植物の栽培方法、
2:温室、
3、3A:茄子科の植物であるトマト、
4:根部、 5:養液栽培装置、
6:葉面、 7:炭酸ガス溶解水、
8:炭酸ガス溶解水の散布装置、9:培地、
10:養液供給装置、 11:養液作成タンク、
12:水供給装置、 13:炭酸ガスボンベ、
14:炭酸ガス供給パイプ、 15:炭酸ガス供給装置、
16:肥料供給装置、 17:制御装置、
18:炭酸水溶解培養液、 19:ポンプ、
20:養液供給ホース、 21:炭酸ガス溶解水作成タンク、
22:水供給装置、 23:炭酸ガス溶解水制御装置、
24:炭酸ガス溶解水、 25:ポンプ、
26:ホース、 27:ノズル、
28:炭酸ガス溶解水供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液栽培、養液土耕栽培潅水同時施肥栽培の植物の栽培において、茄子科の植物の根部に培養液濃度が1倍EC値が1.1dS/m 〜培養液濃度が1/2倍EC値が0.55dS/mで、かつ炭酸ガスをPH6.5〜5.5となるまで溶解した炭酸水溶解培養液を根域に施用したことを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項2】
炭酸ガスをPH6.5〜5.5となるまで溶解させた炭酸ガス溶解水を植物の葉面に散布を行なうことを特徴とする請求項1記載の植物の栽培方法。
【請求項3】
茄子科の植物はトマトであることを特徴とする請求項1記載の植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−16297(P2012−16297A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154197(P2010−154197)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2009年度卒業論文要旨」第6頁 発行日:平成22年2月15日 発行所:国立大学法人高知大学 「園芸学研究 第9巻 別冊1−2010−園芸学会平成22年度春季大会研究発表要旨」第112頁 発行日:平成22年3月21日 発行所:園芸学会
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(000187149)昭和炭酸株式会社 (60)
【Fターム(参考)】