説明

植物の構造及び成長を調節するための植物クロマチンリモデリング遺伝子の使用

本発明は、改変された成長を有する遺伝子導入植物の分野に、またそのような植物を作製するための、クロマチンリモデリング遺伝子、特に、シロイヌナズナ(Arabidopsis)遺伝子(AtCHR12)並びにその相同体及び相同分子種の使用に関する。AtCHR12は、発達における、特に環境ストレスの認識後の成長特性の柔軟な調節に関与する。本発明は、植物における環境、クロマチン及び成長の間の密接な関係を実証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマチンリモデリング遺伝子、特にAtCHR12遺伝子及び/又はその相同体若しくは相同分子種を、(過剰)発現させた、又は、例えばRNA干渉の使用により下方制御した遺伝子導入植物の分野に関する。遺伝子導入植物又はその部分は、植物又は植物部分の長期の又はより重度の(可逆性の)休止状態様の成長停止(又は成長遅延)(例えば、矮性又は半矮性の植物);並びに/或いはとう立ちの遅延又は抑制;並びに/或いはより高まった又はより均一な種子の休止状態と、休止状態の維持及び停止のより良好な制御;並びに/或いは植物若しくは植物部分のより軽度の休止状態様の成長停止(若しくは成長遅延)、及び/又は延長された寿命、及び/又は変化させた休止状態の特徴、具体的には、延長された休止状態期間若しくはより均一な休止状態の長さなどの改変された成長特性を有する。特に、生物的な及び/又は非生物的なストレス条件に曝露した植物の成長応答(例として、茎又は花序の成長の停止/遅延)は、非ストレス条件の間に植物の表現型を本質的に変化させずに、本発明を使用して調節することができる。ストレス条件が再度取り除かれると、正常な成長及び発達を再開する(即ち、成長の改変は、可逆的であり、ストレスに依存する)遺伝子導入植物を提供する。また、そのような植物を作製及び選択するための方法、並びに休止状態様の成長停止又は成長遅延に関与する他の遺伝子を単離するための方法も提供する。さらに、AtCHR12遺伝子の相同分子種若しくは相同体、及び/又はAtCHR12遺伝子の天然若しくは誘発性の変異体を同定するための方法も提供し、且つそのような遺伝子を作物植物内に移入するための及びそのような遺伝子の特定の対立遺伝子を作物植物中で組み合わせるための、マーカー利用選択方法も提供する。また、そのようなAtCHR12対立遺伝子を含む非遺伝子導入作物植物も提供する。
【背景技術】
【0002】
種々の環境ストレスが、植物の成長に不利な効果をもたらす。過剰な熱、低温、洪水、干ばつ又は乾燥等の非生物的なストレスに対処するために、植物は、分子レベル、細胞レベル及び全植物レベルで、広範に応答して適応する(Zhu, J.K., Hasegawa, P.M., and Bressan, R.A., 1997, Critical Reviews in Plant Sciences 16, 253-277)。いくつかのタンパク質が、植物中でストレスに応答して合成される。これらは、転写因子等のシグナル伝達に関与するタンパク質、RNA結合タンパク質及びその他(Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K., 2000, Curr Opin Plant Biol 3, 217-223;Xiong, L., and Zhu, J.K., 2001, Physiol Plant 112, 152-166)、並びに不利な条件を打ち消す種々のタンパク質(Smallwood, M.F., Calvert, C.M., and Bowles, D.J., 1999, Plant responses to environmental stress. Oxford, UK: BIOS Scientific Publishers)を含む。その結果、植物は、不利なストレスに応答して、その成長及び/又は代謝を可逆的に低下させるための精巧に組織化された機構を有する。
【0003】
不利になる恐れがある環境条件に対する、植物の一般的な応答のうちの1つが、新しい環境に適応するための部分的又は完全な成長停止である。より緩慢な又は停止した成長は、植物が複数の資源を活用して、ストレスと闘うことを可能にする、生存のための適応特性であるとみなされている(Zhu, J.K., 2001, Trends Plant Sci 6, 66-71)。そのような成長停止の場合、一般に、細胞及び組織の構造的又は機能的な整合性は、ほとんど又はまったく低下しない(Storey, K.B., 2001, Molecular mechanisms of metabolic arrest: life in limbo. Oxford, UK: BIOS Scientific Publishers)。一般に、成長は、環境的な制限が克服された直後に再開する(Rohde, A., Van Montagu, M. and Boerjan, W., 1999, Plant Cell and Environment 22, 261-270)。
【0004】
植物がストレスに適切に応答するには、多数の遺伝子の発現が調節されなければならない(Arnholdt-Schmitt, B., 2004, Plant Physiol 136, 2579-2586)。発現パターンの必要な変化には、クロマチン構造が、プロモーター及びその他のDNAの調節領域において、クロマチンリモデリング酵素によって媒介されて変化することが必要であると考えられている(Aalfs, J.D., and Kingston, R.E., 2000, Trends Biochem Sci 25, 548-555)。そのような酵素は、クロマチンの状態を、「解放型」(転写の活性化)の形状(Narlikar et al., 2002, Cell 108, 475-487)又は「閉鎖型」(転写の抑制)の形状(Harikrishnan, et al. 2005, Nat Genet 37, 254-26)のいずれかに調節する。
【0005】
ストレスに対する転写応答におけるクロマチンリモデリングの重要性が、酵母(Damelin, M et al. 2002, Mol Cell 9, 563-573;Mizuno, K. et al., 2001, Genetics 159, 1467-1478)及び哺乳動物(de La Serna, I.L. et al. 2000, Mol Cell Biol 20, 2839-2851)の場合について記載されている。植物の場合、クロマチンリモデリングタンパク質が、開花時期及び春化の調節に関与することが実証された(Noh, Y.S. and Amasino, R.M., 2003, Plant Cell 15, 1671-1682;Gendall, A.R., Levy, Y.Y., Wilson, A. and Dean, C., 2001, Cell 107, 525-535)。最近になって、クロマチンリモデリングタンパク質が、トウモロコシにおいては、UV−Bに応答する順化及び適応の両方に関係していることが示された(Casati, P., Stapleton, A.E., Blum, J.E. and Walbot, V., 2006, Plant J 46, 613-627)。
【0006】
クロマチンの重要なリモデリング体(remodeler)は、ATPアーゼ依存性リモデリング複合体(リモデリング体)である。こうした大型のマルチサブユニット複合体は、ATP加水分解の局部的な混乱を使用するか、DNAのトポロジーを変化させる(Tsukiyama, T. 2002, Nat Rev Mol Cell Biol 3, 422-429)。そのようなリモデリング複合体のタンパク質組成は、非常に動的であり得(Olave, I.A. et al. 2002, Annu Rev Biochem 71, 755-781)、コンビナトリアルに組み立てられたタンパク質サブユニットの異成分からなる構成を示す。リモデリング複合体中のタンパク質の特定の組成が、そうした複合体の特定の細胞機能に関連すると考えられている(Kadam, S., and Emerson, B.M., 2003, Mol Cell 11, 377-389)。最近になって、例えば、アクチン及びアクチン関連タンパク質が、リモデリング複合体の一部であることが実証された(Olave, 2002、上記;Meagher, et al. 2005, Plant Physiol 139, 1576-1585)。そのような複合体内のタンパク質は、基本的な転写機構及び/又は遺伝子特異的DNA結合因子と相互作用することができる(Peterson, C.L., and Workman, J.L., 2000, Curr Opin Genet Dev 10, 187-192)。このようにして、リモデリング複合体は、真核生物の遺伝子発現調節において重要な役割を担い(Becker, P.B., and Horz, W., 2002, Annu Rev Biochem 71, 247-273;Fan, H.Y. et al. 2003, Mol Cell 11, 1311-1322)、これは、発達において顕著である(Kennison, J.A., 1995, Annu Rev Genet 29, 289-303;Vignali, M., et al., 2000, Mol Cell Biol 20, 1899-1910)。
【0007】
現在、4つの異なるクラスのリモデリング複合体が、それらのATPアーゼサブユニットの型に基づいて認識されている。これらは、SWI/SNF、ISWI、Mi−2及びIno80として知られている(Mohrmann, L., and Verrijzer, C.P., 2005, Biochim Biophys Acta 1681, 59-73)。酵母SWI/SNFファミリーが、最初に記載されたクロマチンリモデリング複合体であった(Sudarsanam, P., and Winston, F., 2000, Trends Genet 16, 345-351)。その活性成分は、酵母からヒトまで高度に保存されている。SWI/SNF系複合体は、酵母SWI2/SNF2及び関連のRSC複合体、ショウジョウバエBrahma複合体、並びにヒトのBRM複合体及びBRG1複合体を含む(Tsukiyama, 2002、上記;Martens, J.A., and Winston, F., 2003, Curr Opin Genet Dev 13, 136-142)。それらはすべて、酵母SWI2 ATPアーゼに相同なATPアーゼサブユニットを含有する。ヒトリモデリング複合体は、2つのATPアーゼサブユニット、hBRM及びhBRG1を含有し、ショウジョウバエは、単一のATPアーゼ、Brahma(BRM)のみを含有する(Martens and Winston, 2003、上記)。ATPアーゼサブユニットのSWI2/SNF2クラスの典型的な特性は、ブロモドメインである。このドメインは、ヒストン中のアセチル化されたリシンを認識し(Hassan, A.H. et al., 2002, Cell 111, 369-379;Ladurner, A.G., et al. 2003, Mol Cell 11, 365-376;Marmorstein, R., and Berger, S.L. 2001, Gene 272, 1-9)、複合体を(異常に)アセチル化されたクロマチンに導くと想定されているが、ブロモドメインを取り除いても、Brahmaの機能は顕著な影響を受けない(Elfring, L.K., et al. 1998, Genetics 148, 251-265)。
【0008】
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のゲノムは、推定上のSNF2様ATPアーゼサブユニットをコードする42個以上の座位を含有する(http://www.chromdb.orgを参照)。今までに、これらの座位のうちの10個の機能が特徴付けられている(Hsieh, T.F., and Fischer, R.L. 2005, Annu Rev Plant Biol 56, 327-351)。これらのすべてが、植物の発達における転写調節又はエピジェネティックな調節の改変因子として働く(Reyes, J.C., et al. 2002, Plant Physiol 130, 1090-1101;Wagner, D. 2003, Curr Opin Plant Biol 6, 20-28)。
【0009】
SNF2ファミリーのより遠縁のメンバー、例として、DDM1(Jeddeloh, J.A., et al. 1998, Genes Dev 12, 1714-1725)及びMOM1(Amedeo, P., et al., 2000, Nature 405, 203-206)は、エピジェネティックな調節に関与する。DRD1は、RAD54/ATRXファミリーのメンバーであり(Kanno, T. et al., 2004, Curr Biol 14, 801-805)、RNA特異的非CpGメチル化の維持に関与する。GYMNOS/PICKLEは、CHD3ファミリーのタンパク質をコードし、発芽後の胚のプログラムのリプレッサーとして作用する(Ogas, J. et al., 1997, Science 277, 91-94;Li, H.C., et al., 2005, Plant J 44, 1010-1022)。2つのISWI型遺伝子が特徴付けられている。PIEは、開花時期の制御に関与し(Noh, Y.S., and Amasino, R.M., 2003, Plant Cell 15, 1671-1682)、CHR11は、雌の配偶子形成の間の核の増殖に必須である(Huanca-Mamani, W. et al., 2005, Proc Natl Acad Sci USA 102, 17231-17236)。SWI3型タンパク質は、胚形成、並びに植物及び生殖器の両方の発達に影響を及ぼす(Zhou, C. et al. 2003, Plant Mol Biol 52, 1125-1134;Sarnowski, T.J. et al., 2002, Nucleic Acids Res 30, 3412-3421)。
【0010】
SNF2/Brahma型ATPアーゼに最も近縁のサブファミリーは、4つの座位:SYD、AtBRM、AtCHR23及びAtCHR12からなる(Verbsky, M.L., and Richards, E.J. 2001, Curr Opin Plant Biol 4, 494-500)。最初の2つは、すでにより詳細に特徴付けられている。AtBRMは、シロイヌナズナの相同体であり、ショウジョウバエBrahmaに最も近縁である(Farrona, S., et al., 2004, Development 131, 4965-4975)。これは、ブロモドメインに関連する配列を含有する、唯一のシロイヌナズナBrahma型ATPアーゼである。AtBRMのRNA干渉によるサイレンシングによって、この遺伝子は、適切な植物及び生殖器の発達に必要であることが実証された。発現停止させた植物は、減少した大きさ、巻いた葉、減少した花序の分裂組織、より小型の花弁、雄しべ、及び低下した繁殖力を有した。AtBRMは、分裂組織、若い器官、及び急速に分裂する細胞を有する組織において、強く発現する(Farrona, 2004、上記)。SYDにおける機能損失性変異が、weak leafy(LFY)対立遺伝子のエンハンサーについてのスクリーニングにおいて同定された(Wagner, D., and Meyerowitz, E.M., 2002, Curr Biol 12, 85-94)。syd変異体は、多面的な形態学的表現型、例として、低い高さ、緩慢な成長、葉の極性の欠陥、胚珠の成長停止及び芽の頂点の分裂組織の維持の損失を示した。SYDは、花成における分裂組織の身元識別スイッチのLYF依存性リプレッサーとして機能し、これは、非誘導性の光周期において最も顕著であることが示された。最近になって、WUSCHEL(WUS)が、シロイヌナズナの芽の頂点の分裂組織において、生物学的に重要な、SYDの最初の直接的な標的として同定された(Kwon, C.S., et al. 2005, Genes Dev 19, 992-1003)。SYD及びAtBRMの両方が、非誘導性条件における相変化のリプレッサーとして作用する。これは、それらの変異体は、野生型植物より、早く開花するからである。これら2種の変異体間の類似性は、遺伝子機能の何らかの重複性を示唆する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Zhu, J.K., Hasegawa, P.M., and Bressan, R.A., 1997, Critical Reviews in Plant Sciences 16, 253-277
【非特許文献2】Shinozaki, K., and Yamaguchi-Shinozaki, K., 2000, Curr Opin Plant Biol 3, 217-223
【非特許文献3】Xiong, L., and Zhu, J.K., 2001, Physiol Plant 112, 152-166
【非特許文献4】Smallwood, M.F., Calvert, C.M., and Bowles, D.J., 1999, Plant responses to environmental stress. Oxford, UK: BIOS Scientific Publishers
【非特許文献5】Zhu, J.K., 2001, Trends Plant Sci 6, 66-71
【非特許文献6】Storey, K.B., 2001, Molecular mechanisms of metabolic arrest: life in limbo. Oxford, UK: BIOS Scientific Publishers
【非特許文献7】Rohde, A., Van Montagu, M. and Boerjan, W., 1999, Plant Cell and Environment 22, 261-270
【非特許文献8】Arnholdt-Schmitt, B., 2004, Plant Physiol 136, 2579-2586
【非特許文献9】Aalfs, J.D., and Kingston, R.E., 2000, Trends Biochem Sci 25, 548-555
【非特許文献10】Narlikar et al., 2002, Cell 108, 475-487
【非特許文献11】Harikrishnan, et al. 2005, Nat Genet 37, 254-26
【非特許文献12】Damelin, M et al. 2002, Mol Cell 9, 563-573;Mizuno, K. et al., 2001, Genetics 159, 1467-1478
【非特許文献13】Mizuno, K. et al., 2001, Genetics 159, 1467-1478
【非特許文献14】de La Serna, I.L. et al. 2000, Mol Cell Biol 20, 2839-2851
【非特許文献15】Noh, Y.S. and Amasino, R.M., 2003, Plant Cell 15, 1671-1682;Gendall, A.R., Levy, Y.Y., Wilson, A. and Dean, C., 2001, Cell 107, 525-535
【非特許文献16】Gendall, A.R., Levy, Y.Y., Wilson, A. and Dean, C., 2001, Cell 107, 525-535
【非特許文献17】Casati, P., Stapleton, A.E., Blum, J.E. and Walbot, V., 2006, Plant J 46, 613-627
【非特許文献18】Tsukiyama, T. 2002, Nat Rev Mol Cell Biol 3, 422-429
【非特許文献19】Olave, I.A. et al. 2002, Annu Rev Biochem 71, 755-781
【非特許文献20】Kadam, S., and Emerson, B.M., 2003, Mol Cell 11, 377-389
【非特許文献21】Meagher, et al. 2005, Plant Physiol 139, 1576-1585
【非特許文献22】Peterson, C.L., and Workman, J.L., 2000, Curr Opin Genet Dev 10, 187-192
【非特許文献23】Becker, P.B., and Horz, W., 2002, Annu Rev Biochem 71, 247-273;Fan, H.Y. et al. 2003, Mol Cell 11, 1311-1322
【非特許文献24】Fan, H.Y. et al. 2003, Mol Cell 11, 1311-1322
【非特許文献25】Kennison, J.A., 1995, Annu Rev Genet 29, 289-303
【非特許文献26】Vignali, M., et al., 2000, Mol Cell Biol 20, 1899-1910
【非特許文献27】Mohrmann, L., and Verrijzer, C.P., 2005, Biochim Biophys Acta 1681, 59-73
【非特許文献28】Sudarsanam, P., and Winston, F., 2000, Trends Genet 16, 345-351
【非特許文献29】Martens, J.A., and Winston, F., 2003, Curr Opin Genet Dev 13, 136-142
【非特許文献30】Hassan, A.H. et al., 2002, Cell 111, 369-379;Ladurner, A.G., et al. 2003, Mol Cell 11, 365-376
【非特許文献31】Ladurner, A.G., et al. 2003, Mol Cell 11, 365-376
【非特許文献32】Marmorstein, R., and Berger, S.L. 2001, Gene 272, 1-9
【非特許文献33】Elfring, L.K., et al. 1998, Genetics 148, 251-265
【非特許文献34】Hsieh, T.F., and Fischer, R.L. 2005, Annu Rev Plant Biol 56, 327-351
【非特許文献35】Reyes, J.C., et al. 2002, Plant Physiol 130, 1090-1101
【非特許文献36】Wagner, D. 2003, Curr Opin Plant Biol 6, 20-28
【非特許文献37】Jeddeloh, J.A., et al. 1998, Genes Dev 12, 1714-1725
【非特許文献38】Amedeo, P., et al., 2000, Nature 405, 203-206
【非特許文献39】Kanno, T. et al., 2004, Curr Biol 14, 801-805
【非特許文献40】Ogas, J. et al., 1997, Science 277, 91-94;Li, H.C., et al., 2005, Plant J 44, 1010-1022
【非特許文献41】Li, H.C., et al., 2005, Plant J 44, 1010-1022
【非特許文献42】Noh, Y.S., and Amasino, R.M., 2003, Plant Cell 15, 1671-1682
【非特許文献43】Huanca-Mamani, W. et al., 2005, Proc Natl Acad Sci USA102, 17231-17236
【非特許文献44】Zhou, C. et al. 2003, Plant Mol Biol 52, 1125-1134
【非特許文献45】Sarnowski, T.J. et al., 2002, Nucleic Acids Res 30, 3412-3421
【非特許文献46】Verbsky, M.L., and Richards, E.J. 2001, Curr Opin Plant Biol 4, 494-500
【非特許文献47】Farrona, S., et al., 2004, Development 131, 4965-4975
【非特許文献48】Wagner, D., and Meyerowitz, E.M., 2002, Curr Biol 12, 85-94
【非特許文献49】Kwon, C.S., et al. 2005, Genes Dev 19, 992-1003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまでのところ、シロイヌナズナのクロマチンリモデリング遺伝子であるAtCHR12の機能は見出されていない。シロイヌナズナの機能損失性変異体生態型Columbia(AtCHR12のエクソン1中にT−DNAが挿入されている(SALK_105458))は、野生型植物と比較して、表現型の目に見える変化を示さなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、本発明者らは、植物中のストレス応答において、ATPアーゼクロマチンリモデリング遺伝子が関与することを見出した。この知見を使用して、(一時的に)変化させた構造並びに/又は成長(成長速度及び成長期間の両方)を示す遺伝子導入植物を生成することができ、これは、ストレス条件下で特に顕著であり、ストレス条件を取り除くと再び消失する。そのような遺伝子導入植物は、例えば、野生型植物と比較して、ストレス条件下では、矮性又は半矮性の構造を示し、これによって、(ストレス条件下での収穫高の損失を最小化することによって)生存率及び/又は収穫高の両方が改善される。
【0014】
また、本発明を使用して、とう立ち又は開花の時期/変化を、遅らせる又は阻止することもできる。多くの野菜作物は、早期にとう立ちすると、不安定になる。レタス及びジャガイモの植物等の一年草又は二年草の作物において、とう立ちを遅らせる又は阻止することは、それらが、より長い期間にわたり成長すること(及び延長された収穫期間を有すること)、並びに植物が、花を作るのに資源を注ぐ必要がないことから、より高い収穫量をもたらすことができることを意味する。さらに、植え付ける時期又は種を蒔く時期を、とう立ち抵抗性の系統又は栽培品種に合わせて適応させることもできる。したがって、例えば、花成(とう立ち)が、低温(例えば、春化)及び/又は長い日長(LD、long day length)によって促進される植物を、(組換えの)植物に改変することができ、この植物は、とう立ちが遅れる又はとう立ちに抵抗性を有し、したがって、本来ならば、とう立ち及び花の発達を誘発する環境条件下で成長させることができる。例えば、そのような植物は、通常であれば、晩春又は夏にしか植え付け/種蒔きに適さないが、これを、早春に成長させる、又は秋に植え付けることができる。
【0015】
さらに、植物の組織又は器官の休止状態の期間を改変、特に、延長させることができ、休止状態から活動状態への移行の均一性を高めることができる。これは、ジャガイモ等の根又は塊茎作物の場合には特に有用である。収穫後のジャガイモの塊茎の休止状態の長さは、栽培品種並びに貯蔵条件(特に、温度及び通気)によって大幅に異なる。したがって、収穫から休止状態が停止するまでの時間は、栽培品種及び貯蔵条件によって、2カ月から5〜6カ月まで変化させて、その結果、異なる時点で発芽すること(休止状態の停止)ができる。一実施形態では、延長された休止状態期間及び/又は休止状態期間のより均一な長さを有する遺伝子導入ジャガイモ植物を提供する。
【0016】
また、胚の成長停止の兆候である、種子の休止状態を、本発明によりCHR12遺伝子を使用して改変することもできる。例えば、種子の休止状態の長さ(発芽する種子の%)、一次休止状態及び/又は二次休止状態の維持、停止及び循環を制御及び調節することができる。
【0017】
また、本発明のある実施形態では、野生型CHR12の対立遺伝子(例えば、シロイヌナズナの対立遺伝子の相同体又は相同分子種)、天然の変異型対立遺伝子を同定した後、且つ/又は誘発性のCHR12変異型対立遺伝子を生成した後、これらの対立遺伝子を使用して(例えば、マーカー利用選択方法を使用して)、変化した構造及び/又は成長の表現型を有する、非遺伝子導入植物及び植物部分を得る。
【0018】
また、本明細書において記載する遺伝子導入植物及び植物部分は、シス起源、即ち、同一の植物種又は遺伝子集団から導入した遺伝子を有する植物の生成も含み、それによって、こうした遺伝子導入植物は、規制当局によって非GMOとして取扱われるべきであることにも注目されたい(Jacobsen and Schouten, 2007, Trends in Biotechnology Vol 25: 219-223を参照)。
【0019】
一般的な定義
「根野菜(root vegetable)」又は「根及び塊茎野菜(root and tuber vegetable)」又は「根及び塊茎作物(root and tuber crop)」は、本明細書においては、ヒト及び動物によって採取及び消費される、地下で成長する植物貯蔵器官を指すために使用する総称である。この用語は、「真正の根(true root)」(例えば、カブの根、ニンジン、サトウダイコン等)、「塊根(tuberous root)」(例えば、サツマイモ、キャッサバ等)、及び種々の改変された地下茎等、解剖学的に且つ発生上異なる組織型を包含する。改変された地下茎は、「球茎(corm)」(例えば、タロイモ)、「根茎(Rhizome)」及び「塊茎(tuber)」(例えば、ジャガイモ、ヤマイモ等)にさらに分割することができる。
【0020】
「球根(bulb)」は、改変された葉(又は肥厚した葉の基部)を有する地下の垂直な芽であり、これは、栄養分の貯蔵器官として使用される。球根として、例えば、タマネギが挙げられる。
【0021】
「地中植物」という用語は、上記で定義した(食用に適する)地下の球根及び根野菜の両方を包含する。
【0022】
「成長の停止又は遅延」は、本明細書においては、何らかの植物構造が不利な環境条件に応答した一時的な静止状態を指す。成長停止は、また前休止状態(本明細書においては、「休止状態様」と呼ぶ)とも称され、植物が、有利な成長条件に戻ると、成長を再開するという点で可逆的である。対照的に、内因性の制御下にある、本当の休止状態の場合には、たとえ植物が最適な成長条件に戻っても、成長は再開しない。したがって、本明細書において使用する場合、「成長停止」又は「成長遅延」又は「休止状態様の成長の停止若しくは遅延」は、1又は複数の植物の組織又は器官(例として、花序、茎の節間、頂芽若しくは腋芽、側枝若しくは腋枝、葉、果実、種子、塊茎、根等)の成長速度が、植物の生涯の間に1回又は複数回、或いは特定の環境条件下(例えば、生物的な及び/又は非生物的なストレス条件下)において、(統計的に有意に)低下することを指す。これは、ほとんど目に見えない停止から完全な成長停止に及ぶ、種々の程度の成長停止を含む。成長停止の程度は、特定の実施形態では、「遺伝子量依存性」であり、即ち、成長停止の程度が、導入遺伝子の発現レベルと相関する。
【0023】
「改変された成長」は、上記で定義したように、休止状態様に成長が停止又は遅延する場合(特に、本発明による機能性ATCHR12タンパク質を発現する植物の場合)、或いは休止状態様の成長停止の相対的な低下、即ち、適切な対照(例えば、非遺伝子導入対照又は空ベクター形質転換体)と比較して、1又は複数の植物組織又は器官の成長速度が、植物の生涯の間に1回又は複数回、相対的に高まるようになる場合(特に、ATCHR12ノックダウン植物又はATCHR12発現停止植物の場合)のいずれかを指す。例えば、ストレス条件下では、ATCHR12が下方制御されている遺伝子導入植物の成長の停止又は遅延が、同一のストレス条件下の非遺伝子導入対照と比較して、有意に低下する。したがって、ストレスを受けた遺伝子導入植物は、本質的に、ストレスを受けない植物と同一の成長の表現型を有することができる。
【0024】
成長の停止(若しくは遅延)、又は休止状態様の成長の停止(若しくは遅延)が、「ストレス誘発性」又は「ストレス依存性」又は「一時的」又は「可逆性」に改変されたとは、成長速度が、主として、1又は複数の(生物的な及び/又は非生物的な)ストレス条件への曝露の間には改変されるが、成長は、ストレスを排除すると正常レベルに戻ることを指す。
【0025】
「ストレス」は、植物又は植物細胞に作用する物理学的、化学的又は生物学的な起源の条件又は苦痛を指し、これは、植物の収穫高の損失及び/又は品質の損失に至る恐れがあるが、植物にとって致命的ではない。
【0026】
「非ストレス条件」は、本明細書においては、生理及び発達が正常又は最適である条件を指す。
【0027】
「生物的なストレス」は、真菌、ウイルス、マイコプラズマ様生物体、昆虫、細菌、線虫等の生物的な(生存している)物質(即ち、特に、植物の害虫及び病原体)によって引き起こされるストレスを指す。
【0028】
「非生物的なストレス」は、温度ストレス(低温/氷結、熱)、塩分(塩)、風、金属、日長(光周期)、水によるストレス(例として、利用可能な水が少なすぎる又は多すぎる場合、即ち、干ばつ、脱水、浸水等)、創傷、放射線、栄養素の利用可能性(例えば、窒素又はリン光体の欠乏)等、非生物的な(生存していない)物質によって引き起こされるストレスを指す。
【0029】
「核酸配列」(又は核酸分子)という用語は、一本鎖又は二本鎖の形態のDNA分子又はRNA分子、特に、本発明によるタンパク質又はタンパク質断片をコードするDNAを指す。「単離された核酸配列」は、それが単離された天然の環境中には最早存在しない核酸配列、例えば、細菌宿主細胞中の核酸配列、又は植物の細胞核若しくはプラスミドのゲノム中の核酸配列を指す。
【0030】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用され、特異的な作用様式、大きさ、三次元構造及び起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。したがって、ATCHR12タンパク質の「断片」又は「部分」は、依然として、「タンパク質」と呼ぶことができる。「単離されたタンパク質」は、天然の環境中には最早存在しない、例えば、インビトロにおいて又は組換えの細菌若しくは植物の宿主細胞中に存在するタンパク質を指すために使用される。
【0031】
「遺伝子」という用語は、細胞中でRNA分子(例えば、mRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA配列を意味し、これは、適切な調節領域(例えば、プロモーター)に作動可能に連結している。したがって、遺伝子は、プロモーター、例えば、翻訳開始に関与する配列を含む5’リーダー配列、(タンパク質)コード領域(cDNA又はゲノムDNA)及び例えば、転写終結部位を含む3’非翻訳配列等、いくつかの作動可能に連結している配列を含むことができる。
【0032】
「キメラ遺伝子」(又は組換え遺伝子)は、通常であれば、種中に天然には見出されない、いずれかの遺伝子、特に、天然においては相互に関連性のない、核酸配列の1又は複数の部分が存在する遺伝子を指す。例えば、この場合のプロモーターは、天然においては、転写領域の一部又は全部とも、別の調節領域とも関連性がない。「キメラ遺伝子」という用語は、プロモーター配列又は転写調節配列が、1又は複数のコード配列に、或いはアンチセンス配列(センス鎖の逆向き(reverse)相補体)又は反転した(inverted)反復配列(センス及びアンチセンス、これによって、RNA転写物が、転写時に二本鎖RNAを形成する)に作動可能に連結している発現構築物を含むと理解される。
【0033】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(また、3’非翻訳領域又は3’末端とも呼ばれることが多い)は、遺伝子のコード配列の下流に見出される核酸配列を指し、これは、例えば、転写終結部位及び(すべてではないが、大部分の真核生物のmRNA中では)ポリアデニル化シグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体等)を含む。転写終結後、mRNA転写物をポリアデニル化シグナルの下流で切断することができ、ポリ(A)テイルを付加することができ、これは、mRNAの(翻訳が生じる)細胞質への輸送に関与する。
【0034】
「遺伝子の発現」は、適切な調節領域、特に、プロモーターに作動可能に連結しているDNA領域が、生物学的に活性を有する、即ち、生物学的に活性を有するタンパク質又はペプチド(又は活性を有するペプチド断片)へ翻訳可能である、或いはそれ自体が(例えば、転写後遺伝子サイレンシング又はRNAiにおける)活性を有するRNAに転写される過程を指す。活性を有するタンパク質は、特定の実施形態では、リプレッサードメインが存在することによりドミナントネガティブな機能を有するタンパク質を指す。コード配列は、好ましくは、センス方向であり、所望の生物学的に活性を有するタンパク質又はペプチド又は活性を有するペプチド断片をコードする。遺伝子サイレンシングのアプローチの場合、DNA配列は、好ましくは、アンチセンスDNAの形態で存在するか、反転した反復DNAの形態で存在し、後者は、標的遺伝子の短い配列を、アンチセンス方向で、又はセンス方向とアンチセンス方向とで含む。「異所的発現」は、遺伝子が通常であれば発現しない組織中で発現することを指す。
【0035】
「転写調節配列」は、本明細書においては、転写調節配列に作動可能に連結している(コード)配列の転写速度を調節することができる核酸配列と定義する。したがって、本明細書において定義する転写調節配列は、転写開始(プロモーターエレメント)、例えば、アテニュエーター又はエンハンサーをはじめとする、転写維持及び転写調節に必要な配列エレメントのすべてを含む。大部分の場合、コード配列の上流(5’)の転写調節配列を指すが、コード配列の下流(3’)に見出される調節配列もまた、この定義によって包含される。
【0036】
本明細書において使用する場合、「プロモーター」という用語は、1又は複数の遺伝子の転写を制御するために機能する核酸断片を指し、これは、転写方向に関して、遺伝子の転写開始部位の上流に位置し、構造的には、DNA依存性RNAポリメラーゼのための結合部位、転写開始部位、並びにこれらに限定されないが、転写因子結合部位、リプレッサータンパク質及びアクチベータータンパク質の結合部位をはじめとする、いずれかのその他のDNA配列、並びにプロモーターからの転写量を調節するために直接的又は間接的に作用することが当業者に知られている、いずれかのその他のヌクレオチド配列の存在によって同定される。「構成的」プロモーターは、大部分の組織において、ほとんどの生理的な及び発生上の条件下で活性を有するプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、生理的に(例えば、特定の化合物の外部からの適用によって)又は発生上調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、本質的に、特異的な型の組織又は細胞においてのみ活性を有する。
【0037】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結している」という用語は、ポリヌクレオチドエレメントが機能的な関係で連結していることを指す。核酸が、別の核酸配列と機能的な関係に置かれている場合、この核酸は、「作動可能に連結している」。例えば、プロモーター、又はもちろん転写調節配列は、それが、コード配列の転写に影響を及ぼす場合には、そのコード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結しているとは、連結しているDNA配列が、典型的には隣接し、2つのタンパク質コード領域をつなぐ必要がある場合には、隣接して読み枠中に存在し、「キメラタンパク質」を生成するようになることを意味する。「キメラタンパク質」又は「ハイブリッドタンパク質」は、種々のタンパク質「ドメイン」(又はモチーフ)でできているタンパク質であり、これは、実際はそのようなものとして見出されないが、結合して機能性タンパク質を形成し、この機能性タンパク質は、結合したドメインの機能を示す(例えば、DNAへの結合又はDNAの抑制によりドミナントネガティブな機能を示す)。また、キメラタンパク質は、天然に存在する2種以上のタンパク質の融合タンパク質であってもよい。「ドメイン」という用語は、本明細書において使用する場合、特異的な構造又は機能を有するタンパク質のうちのいずれかの部分(複数の部分)又はドメイン(複数のドメイン)を意味し、こうしたドメインは、そのドメインの機能的特徴を少なくとも有する、新しいハイブリッドタンパク質を提供するために、別のタンパク質に移入することができる。また、特異的なドメインを使用して、その他の植物種からのAtCHR12相同分子種等、AtCHR12遺伝子に属するタンパク質メンバーを同定することができる。ATCHR12タンパク質中に見出されるドメインの例は、SNF2ファミリーのN末端ドメイン(Pfam PF00176)及びヘリカーゼ保存C末端ドメイン(Pfam PF00271)である。
【0038】
「標的ペプチド」という用語は、タンパク質を、色素体、好ましくは、葉緑体、ミトコンドリア等の細胞内小器官、又は細胞外空間(分泌シグナルペプチド)に導くアミノ酸配列を指す。標的ペプチドをコードする核酸配列は、タンパク質のアミノ末端の終端(N末端の終端)をコードする核酸配列に(枠内で)融合させることができる。
【0039】
「核酸構築物」又は「ベクター」は、本明細書においては、組換えDNA技術の使用によって得られ、外因性DNAを宿主細胞内へ送達するために使用される人工の核酸分子を意味すると理解される。ベクターの骨格は、例えば、当技術分野で知られており、本明細書の他所において記載するように、バイナリー若しくはスーパーバイナリーのベクター(例えば、米国特許第5591616号明細書、米国特許出願公開第2002/138879号明細書及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照)、同時組込みベクター又はT−DNAベクターであってよく、これらの中に、キメラ遺伝子を組み込むか、適切な転写調節配列がすでに存在する場合には、所望の核酸配列(例えば、コード配列、アンチセンス配列又は反転した反復配列)だけを、転写調節配列の下流に組み込む。ベクターは、通常、分子クローニングにおけるベクターの使用を促進するために、例えば、選択可能なマーカー、多重クローニング部位及びその他等の遺伝子エレメントをさらに含む(以下を参照)。
【0040】
「宿主細胞」又は「組換え宿主細胞」又は「形質転換された細胞」は、特に、所望のタンパク質をコードするキメラ遺伝子、或いは標的の遺伝子/遺伝子ファミリーを発現停止させるために、転写時にアンチセンスRNA又は反転した反復RNA(dsRNA若しくはヘアピンRNA)もたらす核酸配列を含む、少なくとも1つの核酸分子が、当該細胞内に導入されている結果として生じた、新しい個々の細胞(又は生物体)を指す用語である。宿主細胞は、好ましくは、植物細胞又は細菌細胞である。宿主細胞は、核酸構築物を、染色体外で(エピソーム性に)複製する分子として含有してもよく、又はより好ましくは、宿主細胞の核若しくはプラスミドのゲノム中に組み込まれたキメラ遺伝子を含む。
【0041】
「選択可能なマーカー」という用語は、当業者には身近な用語であり、本明細書においては、発現時に、選択可能なマーカーを含有する細胞又は複数の細胞について選択するために使用することができる、何らかの遺伝子構成要素を記載するために使用する。選択可能なマーカー遺伝子産物は、例えば、抗生物質耐性、或いはより好ましくは、除草剤耐性、又は表現型形質(例えば、色素形成の変化)若しくは栄養要求性等、別の選択可能な形質を与える。「レポーター」という用語は、主として、緑色蛍光タンパク質(GFP、green fluorescent protein)、eGFP、ルシフェラーゼ、GUS及びその他等、目に見えるマーカーを指すために使用する。
【0042】
遺伝子又はタンパク質の「相同分子種(ortholog)」という用語は、本明細書においては、別の種において見出される相同な遺伝子又はタンパク質を指し、これは、遺伝子又はタンパク質と同一の機能を有するが、(通常)その遺伝子を保有する種が分岐した時点から、配列に変化が生じた(即ち、遺伝子が、共通の祖先から種分化によって進化した)。したがって、(シロイヌナズナからの)AtCHR12遺伝子の相同分子種は、(例えば、全配列又は特異的なドメインにわたるパーセント配列同一性に基づく)配列比較及び機能解析の両方に基づいて、その他の植物種において同定することができる。
【0043】
「相同な」及び「異種の」という用語は、核酸配列又はアミノ酸配列と、その宿主の細胞又は生物体との間の関係を、特に、遺伝子導入生物体に照らして指す。したがって、相同配列は、宿主の種中に天然に見出される(例えば、トマトの遺伝子を用いて形質転換したトマト植物)が、一方、異種配列は、宿主細胞中には天然には見出されない(例えば、ジャガイモ植物からの配列を用いて形質転換したトマト植物)。これに代わって、文脈によっては、「相同体」又は「相同な」という用語は、共通祖先配列からの子孫である配列を指す場合もある(例えば、それらは、相同分子種であることができる)。
【0044】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」を使用して、所与のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列を同定することができる。ストリンジェントな条件は、配列に依存し、異なる状況では異なる条件となる。一般に、ストリンジェントな条件は、特異的な配列の規定されたイオン強度及びpHにおける融解温度(T、thermal melting point)より約5℃低くなるように選択される。Tは、(規定されたイオン強度及びpH下で)50%の標的配列が、完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度である。典型的には、選択されるストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7において約0.02モル濃度であり、温度が、少なくとも60℃となる。塩濃度を下げ、且つ/又は温度を上げると、厳密度が高まる。RNA−DNAハイブリダイゼーション(例えば、100ntのプローブを使用するノーザンブロット)のためのストリンジェントな条件は、例えば、0.2×SSC中、63℃、20分間での少なくとも1回の洗浄を含む条件、又は同等の条件である。DNA−DNAハイブリダイゼーション(例えば、100ntのプローブを使用するサザンブロット)のためのストリンジェントな条件は、例えば、0.2×SSC中、少なくとも50℃、通常約55℃の温度において、20分間での少なくとも1回(通常2回)の洗浄を含む条件、又は同等の条件である。また、Sambrook et al. (1989)及びSambrook and Russell (2001)も参照されたい。
【0045】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つのペプチド配列又は2つのヌクレオチド配列を、全体的な又は局部的な整列アルゴリズムを使用して整列させることによって決定することができる。次いで、(例えば、GAPプログラム又はBESTFITプログラムによって、デフォルトパラメータを使用して最適に整列させた場合の)それらの配列が、少なくとも特定の最小パーセントの配列同一性(以下に定義する)を共有する場合には、配列を、「実質的に同一である」又は「本質的に類似する」と呼ぶことができる。GAPは、Needleman及びWunshの全体的な整列アルゴリズムを使用して、2つの配列をそれらの全長にわたり整列させて、一致の数を最大化し、ギャップの数を最小化する。一般に、GAPデフォルトパラメータを使用し、ギャップ生成ペナルティー=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、及びギャップ伸長ペナルティー=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)を用いる。ヌクレオチドの場合、使用するデフォルトスコア行列は、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合、デフォルトスコア行列は、Blosum62(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)である。配列アラインメント及びパーセント配列同一性のスコアは、Accelrys Inc.(9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752、米国)社から入手可能なGCG Wisconsin Package, Version 10.3等のコンピュータプログラムを使用して決定することができる。或いは、パーセント類似性又はパーセント同一性を、FASTA、BLAST等のデータベースに対して検索することによって決定することもできる。
【0046】
本文書及びその特許請求の範囲においては、「含む(comprise)」という動詞及びその語形変化は、こうした語に続く品目が含まれるが、特異的には言及しない品目が排除されるわけではないことを意味する非限定的な意味で使用する。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈から、要素が1つしか存在しないことを明らかに必要としない限り、複数の要素が存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。さらに、本明細書において「配列」を指す場合、一般に、特定の配列のサブユニット(例えば、アミノ酸)を有する、実際の物理的な分子も指すと理解される。
【0047】
本発明による「植物(plant)」又は「複数の植物(plants)」(又は複数の植物(a plurality of plants))を指す場合は常に、別段の記載がない限り、親の際立った特徴(例えば、導入遺伝子の存在)を保持する、植物部分(細胞、組織又は器官、種子、胚、切断若しくは採取した部分、葉、実生、花、花粉、果実、根茎、茎、根、カルス、原形質体等)、植物の子孫又はクローン増殖、例として、自家受粉又は交配によって得られた種子、例えば、(2種の同種交配の親系統を交配することによって得られた)ハイブリッド種子、ハイブリッド植物及びそれに由来する植物部分もまた本明細書中に包含されると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】AtCHR12遺伝子のアクティベーションタグ変異体に関する図である。 (A)AtCHR12ov変異体において、CaMV35Sエンハンサーの四量体及びBAR遺伝子を保有する、活性化Iエレメントの染色体位置(bp)。 (B)AtCHR12プライマー(上)又はアクチンプライマー(下)を使用した半定量的RT−PCR。 (C)Ws野生型の一次花序。 (D〜F)AtCHR12ov変異体の一次花序の成長停止。矢印(F)は、成長が腋枝を下回った一次花序を示す。
【図2】AtCHR12変異体に対する水の欠乏の効果に関する図である。 (A)水の欠乏10日後のWs野生型及びAtCHR12ov変異体の一次花序。 (B)4つの独立したAtCHR12_tov系統の一次茎の低下した成長。水の欠乏7日後の茎の高さを、Ws野生型植物に対するパーセントとして示す。エラーバーは、SEM(n=10)を示す。 (C)水の欠乏5日後における、Col野生型植物と比較したatchr12ノックアウト変異体の一次花序の成長。
【図3】AtCHR12変異体に対する熱の効果に関する図である。 (A)37℃での24時間の熱ストレス及び22℃での5日間の回復の後の、Ws野生型及びAtCHR12ov変異体の一次花序の成長。 (B)熱ストレス処理に続く、22℃における回復5日後の根の伸長。根の伸長を、未処置対照の長さに対するパーセントとして示す。エラーバーは、SEM(n=30)を示す。 (C)45℃における熱ショックに続く、22℃における回復7日後の実生の生存。
【図4】塩による根の成長の抑制が、atchr12変異体においては損なわれることを示すグラフである。 (A)Ws野生型及びAtCHR12ov変異体に関する、表示したNaCl濃度を有する培地上における成長5日後の根の伸長。 (B)Col野生型及びatchr12ノックアウト変異体に関する根の伸長。 根の長さを、塩を有しない培地上における伸長に対するパーセントとして示す。エラーバーは、SEM(n=30)を示す。
【図5】AtCHR12プロモーターからのGUSレポーターの発現の組織化学的解析を示す写真である。 (A)GUS陽性の幼根を示す胚。 (B)乾燥種子の幼根における強力なGUS活性。 (C)子葉及び上部胚軸においてGUS活性を有する1日齢の実生。 (D)拡大する子葉において減少するGUS活性を示す3日齢の実生。 (E)3日齢の実生の根の伸長帯の内皮におけるGUS活性。 (F)3日齢の実生の成長する芽の分裂組織においては、GUS活性は検出できなかった。 (G)若い腋芽。 (H)開いた若い腋芽。 (I)一次芽。 (J)矢印は、托葉を指す。詳細を(K)に示す。 (A)、(B)、(E)、(F)及び(K)においては、バー=50μm、(C)、(D)、(G)、(H)、(I)及び(J)においては、バー=1mm。
【図6】マイクロアレイのデータの価値付け(valorisation)を示す図である。 遺伝子の半定量的RT−PCR解析によって、4週齢植物の一次花序において、AtCHR12ov変異体中で発現に差がある遺伝子が同定された。定量的な対照として、ユビキチンプライマーを使用した。
【図7】AtCHR12変異体におけるAtDRM1遺伝子の発現解析を示す図である。 (A)Ws野生型及びAtCHR12ov変異体における、とう立ち5日後の一次芽及び腋芽の半定量的RT−PCR解析。 (B)AtCHR12変異体及びそれに対応する野生型の両方の4週齢植物の一次花序の解析。 (C)AtCHR12変異体及びそれに対応する野生型の両方の4週齢植物のロゼット葉の解析。 実験は、2回繰り返し、類似の結果を得た。定量的な対照として、ユビキチンプライマーを使用した。
【図8】AtCHR12変異体に対する、水の差し控えの効果を示すグラフである。 (a)水の差し控え6日後の野生型植物及び変異型植物における一次茎の長さの増加。 (b)標準的な条件において成長させた野生型植物及び変異型植物における一次茎の長さの増加。エラーバーは、2×SEを示す。アスタリスクは、変異体のそれに対応する野生型と比較した応答の有意差を示す。、P<0.05;**、P<0.01;*** P<0.001。
【図9】AtCHR12変異体に対する、熱ストレスの効果を示すグラフである。 (a)37℃の熱ストレス16時間後の野生型(Ws)植物及びAtCHR12ov植物における一次茎の長さの増加。対照の未処置植物を、ストレスを加えた植物と平行して成長させて、測定した。延長期間は、温度処理開始(第0日)からの日数と定義した。 (b)37℃の熱ストレス16時間後の野生型(Col)植物及びatchr12変異型植物における一次茎の長さの増加。対照の未処置植物を、ストレスを加えた植物と平行して成長させて、測定した。延長期間は、(a)の定義に従った。 (c)熱ストレス処置に続く、22℃での回復5日後の野生型(Col)実生及びatchr12実生における根の長さ。対照の根を、22℃で平行して成長させた。 エラーバーは、2×SEを示す。アスタリスクは、変異体のそれに対応する野生型と比較した応答の有意差を示す。、P<0.05;**、P<0.01;*** P<0.001。
【図10】根の成長に対する塩の影響を示すグラフである。 (a)異なる濃度のNaClを有する培地上での成長5日後の野生型(Ws)及びAtCHR12ov変異体における根の長さ。 (b)(a)と同一の条件下での野生型(Col)及びatchr12ノックアウト変異体における根の長さ。 エラーバーは、2×SEを示す。統計の概要は、補足表S2に示す。 アスタリスクは、所与のNaCl濃度における変異型植物と野生型植物との間の応答の有意差を示す。**、P<0.01;*** P<0.001。
【図11】野生型(Ws)及びAtCHR12ov過剰発現変異体の採取直後の種子の発芽に対する温度の効果を示すグラフである。種子を、水で湿らせたろ紙の上に蒔いた。発芽を4日後に記録した。値は、3回の反復の平均±SDである。
【図12】休止状態の停止及び発芽に対する室温での後熟の効果を示すグラフである。種子を、水で湿らせたろ紙の上に蒔いた。発芽を20℃でのインキュベーション4日後に記録した。値は、3回の反復の平均±SDである。
【図13】2月齢の後熟種子における、暗所、20℃での10日のインキュベーションによる二次休止状態の誘発に関するグラフである。誘発したSD休止状態(二次休止状態)を停止させるために、次いで、種子を4℃で2日間冷湿処理した。対照の種子を、明所、20℃で発芽させた。値は、3回の反復の平均±SDである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明者らは、シロイヌナズナのAtCHR12遺伝子等のクロマチンリモデリング遺伝子、その相同体又は相同分子種を使用して、植物の成長を改変することができることを見出した。特に、これらの遺伝子を含む遺伝子導入植物は、一時的に改変された成長を、特に、1又は複数のストレス条件下で示す。さらに、その他の植物から導入された、1又は複数のAtCHR12遺伝子(即ち、野生型対立遺伝子、又は天然若しくは誘発性の変異型対立遺伝子)を含む非遺伝子導入作物植物も、これらを得るための方法と同様、本明細書中に包含される。そのような植物は、品種改良(例えば、マーカー利用選択(MAS、marker assisted selection))によって導入したクロマチンリモデリング対立遺伝子によって与えられた、新規な表現型を有するが、GMO規制の監督下には入らない利点を有する。
【0050】
非ストレス成長条件下では、配列番号1のタンパク質をコードするAtCHR12遺伝子を過剰発現(11倍)している、少数の植物のみが、一次花序の一時的な成長停止を示すにすぎなかった。この表現型は、稀であり、不安定且つ予測不可能であり、おそらく、何らかの意図しない残余のストレスへの曝露(これは、実験設定において不可避である)に関連したと思われる。したがって、大部分の植物が、完全に正常な成長を、非ストレス条件下では示した。しかし、種々のストレス条件(熱、干ばつ)下で、AtCHR12を過剰発現する、こうした植物を研究すると、驚くべきことに、ストレスが、過剰発現している植物の花序の成長停止を、同一のストレス条件に曝露した野生型植物と比較して、顕著に増強することが見出された。ノックダウン変異体は、ストレス条件(塩分)下では、野生型又は過剰発現している植物よりも、抑制の度合いが低いこと、即ち、その成長は、非ストレス条件下の野生型植物の成長に匹敵することもさらに見出された。
【0051】
本明細書において以下に記載するように、上記の知見に基づくと、クロマチンリモデリング遺伝子の増殖調節への関与を種々の方法で活用することができる。
【0052】
本発明による核酸及びアミノ酸の配列
本発明の一実施形態では、以下にさらに記載するように、ATCHR12タンパク質又はATCHR12タンパク質変異体若しくはATCHR12タンパク質断片をコードするいずれかの核酸配列を、発現ベクター又は遺伝子サイレンシングベクターのいずれかを使用した、キメラ遺伝子、ベクター、及び形質転換植物又は植物細胞の作製に使用することができる。
【0053】
ATCHR12タンパク質又はATCHR12タンパク質断片をコードする、いずれかのAtCHR12核酸配列(cDNA、ゲノムDNA、RNA)(本明細書においては、「AtCHR12核酸配列」と呼ぶ)を使用することができる。「ATCHR12タンパク質」又は「CHR12タンパク質」は、配列番号1に本質的に類似するタンパク質を指す。即ち、「ATCHR12タンパク質」又は「CHR12タンパク質」は、配列番号1(シロイヌナズナのATCHR12タンパク質を示す)に対して、全長又はこれらのうちのいずれかの断片にわたり整列させると、少なくとも40、50、60、70、80、90、95、97、98又は99%以上のアミノ酸配列同一性を含む。遺伝子コードの縮重により、種々の核酸配列が、同一のタンパク質をコードし、したがって、これらは、本明細書中に包含される。例えば、配列番号2〜4の核酸配列は、配列番号1のATCHR12タンパク質をコードする。以下に記載するように、ATCHR12タンパク質をコードする核酸配列は、種々の源から単離する、又は合成により作製することができる。
【0054】
また、AtCHR12核酸配列の変異体及び断片、例として、AtCHR12核酸配列(例えば、配列番号2〜4)に、規定されたストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする核酸配列も含まれる。AtCHR12核酸配列の変異体は、配列番号2〜4(AtCHR12)のうちのいずれか1つに対して、全長配列を使用するGAPプログラムを使用して、対にして整列させて決定すると、少なくとも50%以上、好ましくは、少なくとも55%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.5%又は99.8%以上の核酸配列同一性を有する核酸配列を含む。また、そのような変異体は、配列番号2〜4のうちのいずれか1つに「本質的に類似する」と呼ぶこともできる。断片は、上記のATCHR12核酸配列(又は変異体)のうちのいずれかの部分を含み、例えば、プライマー若しくはプローブとして、或いは遺伝子サイレンシング構築物中で使用することができる。部分は、少なくとも10、15、19、20、21、22、23、25、50、100、200、450、500又は1000個以上のヌクレオチドの長さの隣接した広がりであってよい。好ましくは、AtCHR12核酸配列は、植物起源(即ち、植物種中に天然に存在する)であるか、改変された植物の配列である。
【0055】
核酸ハイブリダイゼーション、PCR技術、インシリコ(in silico)解析、核酸合成等の多くの方法を使用して、AtCHR12核酸配列の変異体又は断片を、同定、合成又は単離することができることは明らかである。したがって、ATCHR12タンパク質をコードする核酸配列は、化学的に合成された配列であっても、又はいずれかの生物体(例えば、植物、動物、真菌、酵母)からクローニングされた配列であってもよいが、好ましくは、植物の配列が使用され、より好ましくは、特定の植物種を起源とする配列を、(場合によっては、コドンの使用の最適化等の配列の改変をあらかじめ行ってから)前記種内に再導入する。したがって、ある好ましい実施形態では、形質転換にあたっては、CHR12 DNAは、宿主として使用する種の内因性CHR12 DNAに対応するか、その改変体/変異体である。したがって、好ましくは、ジャガイモCHR12のcDNA又はゲノムDNA(又はその変異体若しくは断片)が、ジャガイモ植物を形質転換するために使用される。(規制当局の承認及び一般の人々の理解を得るために)最も好ましくは、核酸配列は、やはり植物又はさらには形質転換しようとする植物と同一の植物を起源とする転写調節配列、特に、プロモーターに作動可能に連結している。
【0056】
活性を有する又は機能性のATCR12のタンパク質又は変異体若しくは断片は、インビボにおける細胞中で活性を示す、即ち、生物学的活性を有し、したがって、形質転換植物の1又は複数の組織又は器官の成長を改変することができるタンパク質又はペプチドである。
【0057】
生物学的活性(又は生物学的機能)は、多様な既知の方法を使用して、例えば、実施例に記載するように、遺伝子を過剰発現する形質転換植物を生成して、例えば、植物又は植物部分をストレスに曝露させた場合に、1又は複数の組織又は器官の成長速度及び/又は成長期間の変化が測定可能であるか否かを解析することによって試験することができる。成長停止の効果は、適切には、形質転換されていない対照又は空のベクターで形質転換された対照のいずれか、或いは配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列を発現している形質転換体と比較することができる。
【0058】
また、実施例に記載するように、生物学的活性は、タンパク質(又は変異体若しくは断片)のその他の機能性、例として、ATPを加水分解する、ヒストン−DNAの相互作用を混乱させる、又は1つ若しくは複数の休止状態に関連する遺伝子の発現を誘導する能力を評価することによって決定することができる。
【0059】
いずれの形質転換実験においても、形質転換体の表現型が、通常、ゲノム中の位置効果及び/又はコピー数により、ある程度変化することが認められると理解される。当業者であれば、形質転換体を相互に比較するやり方、例えば、単一コピー数の事象を選択して、これらを解析する方法が分かるであろう。インビボにおいて遺伝子/タンパク質の機能を決定又は確認するその他の方法は、ノックアウト変異体の生成又は一過性の発現研究も含む。また、実施例に記載するように、プロモーター−レポーター遺伝子発現研究も、時空間発現パターン及びタンパク質の役割に関する情報を提供することができる。
【0060】
シロイヌナズナからのATCHR12タンパク質を、本明細書において提供するが、その他の植物の相同体又は相同分子種も、日常的な方法を使用して単離して、それらの機能性を試験することができる。遺伝子コードの縮重により、配列番号1のタンパク質をコードする追加の核酸配列も提供する。これらの配列、並びに機能性CHR12タンパク質をコードする変異体及び断片を、ある好ましい実施形態において、特に、発現構築物を作製するため及び根又は塊茎又は球根等、作物植物の形質転換のために使用する。
【0061】
その他の推定上のCHR12をコードする核酸配列も、インシリコにおいて、例えば、現存する核酸又はタンパク質のデータベース(例えば、GENBANK、SWISSPROT、TrEMBL)中の核酸又はタンパク質の配列を同定し、標準的な配列解析ソフトウエア、例として、配列類似性検索ツール(BLASTN、BLASTP、BLASTX、TBLAST、FASTA等)を使用することによって同定することができる。特に、植物の配列データベース、例として、コムギのゲノムのデータベース等を、CHR12タンパク質をコードするアミノ酸配列又は核酸配列の存在についてスクリーニングすることが望まれる。次いで、推定上のアミノ酸配列又は核酸配列は、選択、クローニング又はデノボ(de novo)合成して、インビボにおける機能性について、例えば、宿主又は宿主細胞中での過剰発現によって試験することができる。以下に記載するように、さらなる配列を、既知のAtCHR12配列を使用して同定して、プライマー又はプローブを設計(縮重)することもできる。
【0062】
最適化した植物体での(in-planta)発現のためには、AtCHR12をコードする核酸配列のコドンの使用を、一実施形態では、形質転換しようとする宿主種に好ましいコドンの使用に適応させる。ある好ましい実施形態では、上記のAtCHR12 DNA配列(又は変異体)のうちのいずれかについて、コドンの使用を、宿主の属又は好ましくは、宿主の種において最も好まれるコドンの使用に、(例えば、ジャガイモ、ワタ、ダイズ、トウモロコシ又はイネにおける発現に向けてより適応させた)入手可能なコドン使用表を使用して適応させることによって、コドンを最適化する(Bennetzen & Hall, 1982, J. Biol. Chem. 257, 3026-3031;Itakura et al., 1977 Science 198, 1056-1063.)。種々の植物種についてのコドン使用表が、例えば、Ikemura(1993, In "Plant Molecular Biology Labfax", Croy, ed., Bios Scientific Publishers Ltd.)及びNakamura et al.(2000, Nucl. Acids Res. 28, 292.)によって、並びに主要なDNA配列データベース(例えば、EMBL、Heidelberg、ドイツ)中に公開されている。したがって、同一又は実質的に同一のタンパク質を生成するように、合成DNA配列を構築することができる。コドンの使用を宿主細胞が好むコドンの使用に改変するためのいくつかの技法は、特許及び科学文献中に見出すことができる。コドン使用の改変の方法自体は、本発明にとって決定的に重要な意味をもつわけではない。植物中での発現を最適化することができ、且つ/又はクローニングの手順をより容易にするその他の改変、例として、隠れたスプライス部位の除去、長いAT又はGCに富む領域の回避等も実施することができる(実施例を参照)。そのような方法は、当技術分野では既知であり、標準的な分子生物学の技法を使用することができる。「コドンを最適化した」配列は、それを導入しようとする宿主の種の遺伝子と比べ、少なくともおよそ同一のGC含有量又はより多いGC含有量を有するのが好ましい。例えば、トマト(L. esculentum)の場合、内因性の遺伝子のGC含有量は、約30〜40%である。したがって、トマトの形質転換のためのCHR12をコードする核酸配列の好ましいGC含有量は、少なくとも30〜40%、好ましくは40%超、例として、少なくとも45%、50%、55%、60%又は70%以上のGC含有量である。好ましくは、GC含有量の非常に高い(>80%)又は非常に低い(<30%)領域は避けるべきである。
【0063】
DNA配列の小規模の改変は、日常的に、即ち、PCRによる変異誘発によって作製することができる(Ho et al., 1989, Gene 77, 51-59.、White et al., 1989, Trends in Genet. 5, 185-189)。DNA配列のより大がかりな改変は、利用可能な技法を使用して、所望のコード領域のデノボDNA合成によって日常的に行うことができる。
【0064】
また、CHR12核酸配列は、CHR12タンパク質のN末端が最適な翻訳開始状況を有するように、タンパク質のN末端において1又は複数のアミノ酸を付加又は欠失させることによって改変することもできる。しばしば、植物細胞中で発現させようとする、本発明のタンパク質は、最適な翻訳開始のためには、Met−Asp又はMet−Alaのジペプチドで始まるのが好ましい。したがって、Asp又はAlaのコドンを、現存するMetの後に挿入してもよいし、或いは第2コドンであるValを、Asp(GAT若しくはGAC)、又はAla(GCT、GCC、GCA若しくはGCG)についてのコドンで置換してもよい。また、DNA配列を改変して、非正統的なスプライス部位を取り除くこともできる。
【0065】
上記で言及したように、CHR12タンパク質は、(その機能に加えて)その全長にわたるパーセント配列同一性によって、構造的に定義することができる。CHR12タンパク質は、配列番号1(ATCHR12)に対して、GAPプログラムを使用して(ギャップ生成ペナルティー8及びギャップ伸長ペナルティー2を用いて)、対にして整列させて決定すると、アミノ酸配列レベルで、少なくとも40%以上、例として、これらに限定されないが、少なくとも43%、45%、50%、55%、56%、58%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、99.5%又は99.8%以上の配列同一性を有する。また、そのような変異体は、配列番号1に「本質的に類似する」と呼ぶこともできる。好ましくは、タンパク質の活性を顕著に変化させることなく、いくつかの、好ましくは、5〜10、20、30、50、100、200又は300個以上のアミノ酸が付加、置換又は欠失しているタンパク質は、この定義に含まれる。例えば、塩基性(例えば、Arg、His、Lys)、酸性(例えば、Asp、Glu)、非極性(例えば、Ala、Val、Trp、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trp)、又は極性(例えば、Gly、Ser、Thr、Tyr、Cys、Asn、Gln)の範疇内での保存的アミノ酸置換は、CHR12タンパク質の活性が、例えば、配列番号1の活性と比較して、顕著に変化しない、好ましくは変化しない、又は少なくとも低下しない限り、本発明の範囲に属する。さらに、非保存的アミノ酸置換も、CHR12タンパク質の活性が、例えば、配列番号1の活性と比較して、顕著に変化しない、好ましくは変化しない、又は少なくとも低下しない限り、本発明の範囲に属する。また、CHR12タンパク質断片及び活性を有するキメラCHR12タンパク質も、本明細書中に包含される。本明細書の他所において記載するように、タンパク質断片は、例えば、CHR12に対する抗体(抗CHR12抗体)を生成するために使用することができる。タンパク質断片は、少なくとも約5、10、20、40、50、60、70、90、100、150、152、160、200、220、230、250、300、400、500、600又は700以上個の近接するアミノ酸の断片であることができる。また、そのような断片をコードする核酸配列も提供し、これは、以下に記載するように、遺伝子サイレンシングベクターの構築において、又はそれに対する抗体を産生させるために使用することができるペプチドの発現のために使用することができる。また、植物中でインビボにおいて活性を保持する最小のタンパク質断片も提供する。そのような断片をコードする核酸配列を使用して、記載するように、遺伝子導入植物を生成することができる。
【0066】
本発明によるキメラ遺伝子及びベクター
発現ベクター
本発明の一実施形態では、上記で記載したように、CHR12タンパク質(又は変異体若しくは断片)をコードする核酸を使用して、キメラ遺伝子及びベクターを作製する。このベクターは、こうしたキメラ遺伝子を含み、キメラ遺伝子を宿主細胞内へ移入して、細胞、組織、器官又は形質転換した細胞(複数の細胞)に由来する全生物体等、宿主細胞中でのCHR12タンパク質の生成に利用される。
【0067】
宿主細胞は、好ましくは、植物細胞である。いずれの植物であっても、適切な宿主であることができ、単子葉植物又は双子葉植物等、例を挙げると、トウモロコシ(maize/corn)(トウモロコシ属(Zea)の種、例えば、Z. mays、Z. diploperennis(chapule)、Zea luxurians(グアテマラ産テオシント))、Zea mays subsp. huehuetenangensis(San Antonio Huista産テオシント)、Z. mays subsp. mexicana(メキシコ産テオシント)、Z. mays subsp. parviglumis(バルサス産テオシント)、Z. perennis(多年草テオシント)及びZ. ramosa)、コムギ(コムギ属(Triticum)の種)、オオムギ(例えば、Hordeum vulgare)、オートムギ(例えば、Avena sativa)、モロコシ(Sorghum bicolor)、ライムギ(Secale cereale)、ダイズ(Glycine spp、例えば、G. max)、ワタ(ワタ属(Gossypium)の種、例えば、G. hirsutum、G. barbadense)、Brassica spp.(例えば、B. napus、B. juncea、B. oleracea、B. rapa等)、ヒマワリ(Helianthus annus)、タバコ (Nicotiana種)、アルファルファ(Medicago sativa)、イネ(イネ属(Oryza)の種、例えば、O. sativaのindica 栽培品種群又はjaponica栽培品種群)、飼料草、トウジンビエ(Pennisetum spp. 例えば、P. glaucum)、木種、野菜種、例として、Lycopersicon ssp(最近になって、ナス属(Solanum)に属するとして分類された)、例えば、トマト(L. esculentum、同義語としてSolanum lycopersicum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)及びその他のナス属(Solanum)の種、具体的には、ナス(Solanum melongena)、トマト(S. lycopersicum、例えば、チェリートマト、var. cerasiforme若しくは最近のトマト、var. pimpinellifolium)、タマリロ(S. betaceum、同義語としてCyphomandra betaceae)、ペピーノ(S. muricatum)、ココナ(S. sessiliflorum)及びナランヒージャ(S. quitoense);トウガラシ(Capsicum annuum、Capsicum frutescens)、エンドウマメ(例えば、Pisum sativum)、マメ(例えば、インゲンマメ属(Phaseolus)の種)、多肉果(ブドウ、モモ、プラム、イチゴ、マンゴー)、観賞植物種(例えば、バラ属(Rose)、Petunia、キク属(Chrysanthemum)、Lily、Gerberaの種)、樹木(例えば、ハコヤナギ属(Populus)、ヤナギ属(Salix)、コナラ属(Quercus)、ユーカリノキ属(Eucalyptus)の種)、繊維種、例えば、アマ(Linum usitatissimum)、及びアサ(Cannabis sativa)である。一実施形態では、野菜種、特に、(トマト属(Lycopersicon)の種をはじめとする)ナス属(Solanum)の種が好ましい。
【0068】
一実施形態では、特に、根野菜及び塊茎の種並びに球根を生じる種が好ましい。最も好ましい根野菜の種は、サトウダイコン(Beta vulgaris)、アブラナ属(Brassica)の種(例えば、ルタバガ及びカブ)、ニンジン(Daucus carota)、根用セロリー(Apium graveolens)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、キャッサバ(Manihot esculenta)、タロイモ(Colocasia esculenta)、ダイコン(Raphanus sativus)、ヤマイモ(Dioscorea spp)、チョウセンアザミ(Helianthus tuberosus 及びStachys affinis)である。
【0069】
別の実施形態では、早期にとう立ちする/早期に開花する種又は「とう立ちしやすい」種が好ましく、例として、レタス、アブラナ属(Brassica)(例えば、Brassica oleracea、B. napus)、サトウダイコン、タマネギ、ニンジン、セロリー、ジャガイモ等である(以下もさらに参照)。
【0070】
したがって、例えば、以下の属の種を形質転換することができる:カボチャ(Cucurbita)、バラ(Rosa)、ブドウ(Vitis)、クルミ(Juglans)、オランダイチゴ(Fragaria)、ミヤコグサ(Lotus)、ウマゴヤシ(Medicago)、オノブリキス(Onobrychis)、シャジクソウ(Trifolium)、トリゴネラ(Trigonella)、ササゲ(Vigna)、ミカン(Citrus)、アマ(Linum)、フクロソウ(Geranium)、キャッサバ(Manihot)、ニンジン(Daucus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)、アブラナ(Brassica)、ダイコン(Raphanus)、シナピス(Sinapis)、ベラドンナ(Atropa)、トウガラシ(Capsicum)、チョウセンアサガオ(Datura)、キュウリ(Cucumis)、ヒヨス(Hyoscyamus)、トマト(Lycopersicon)、タバコ(Nicotiana)、ナス(Solanum)、リンゴ(Malus)、ペチュニア(Petunia)、キツネノテブクロ(Digitalis)、マヨラナ(Majorana)、キクニガナ(Ciahorium)、ヒマワリ(Helianthus)、マキノゲヤシ(Lactuca)、スズメノチャヒキ(Bromus)、スイカ(Citrullus)、クサスギカズラ(Asparagus)、キンギョソウ(Antirrhinum)、ヘテロカリス(Heterocallis)、ネメシス(Nemesis)、テンジクアオイ(Pelargonium)、パニエウム(Panieum)、チカラシバ(Pennisetum)、キンポウゲ(Ranunculus)、サワギク(Senecio)、サルメンバナ(Salpiglossis)、Browaalia、ダイズ(Glycine)、エンドウ(Pisum)、インゲンマメ(Phaseolus)、ワタ(Gossypium)、ダイズ(Glycine)、及びドクムギ(Lolium)。
【0071】
CHR12タンパク質をコードする核酸配列を宿主細胞内のゲノムへ導入するためのキメラ遺伝子及びベクター構築は、当技術分野では一般的に知られている。キメラ遺伝子を生成するためには、CHR12タンパク質(又は変異体若しくは機能性断片)をコードする核酸配列を、宿主細胞中での発現に適したプロモーター配列に、標準的な分子生物学の技法を使用して作動可能に連結させる。プロモーター配列は、CHR12核配列をベクター内にプロモーター配列の下流において単に挿入するように、ベクター中にすでに存在する場合がある。次いで、ベクターを使用して、宿主細胞を形質転換すると、キメラ遺伝子が、核のゲノム中に挿入されて、そこで適切なプロモーターを使用して発現する(例えば、Mc Bride et al., 1995 Bio/Technology 13, 362;米国特許第5693507号明細書)。一実施形態では、キメラ遺伝子は、植物細胞における発現に適したプロモーターを含み、これは、本発明によるCHR12タンパク質、タンパク質の変異体又は断片(或いは融合タンパク質又はキメラタンパク質)をコードする核酸配列に作動可能に連結しており、場合によっては、これには、3’非翻訳核酸配列が続く。プロモーター特異性は、本発明には重大な意味をもつわけではないと考えられている。これは、プロモーターが、宿主細胞中で(十分に)活性であり、十分な組換えCHR12タンパク質が生成される限り、CHR12クロマチンリモデリング遺伝子は、ストレス曝露時に成長を改変させるからである。例えば、構成的なCaMV35Sプロモーターを使用した場合、成長が停止した表現型が、ストレス曝露後に観察された。したがって、植物細胞中で活性を有する、広い範囲のプロモーターを、適切に使用することができる。
【0072】
機能性CHR12タンパク質(又は断片若しくは変異体)をコードするCHR12核酸配列、好ましくは、CHR12キメラ遺伝子は、従来のやり方で、単一の植物細胞の核ゲノム内に安定して挿入することができ、こうして形質転換した植物細胞は、従来のやり方で、形質転換させた植物を生成することができ、この植物は、特定の細胞において、特定の時期に、CHR12タンパク質の存在により変化した表現型を示す。これに関しては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)中の、CHR12タンパク質をコードする核酸配列を含むT−DNAベクターを使用して、植物細胞を形質転換することができ、その後、形質転換植物を、この形質転換植物細胞から、例えば、欧州特許第0116718号明細書、欧州特許第0270822号明細書、国際公開第84/02913号パンフレット、及び欧州特許出願公開第0242246号明細書、並びにGould et al.(1991, Plant Physiol. 95,426-434)に記載されている手順を使用して再生することができる。アグロバクテリウム媒介植物形質転換のためのT−DNAベクターの構築は、当技術分野では周知である。T−DNAベクターは、欧州特許第0120561号及び第0120515号明細書に記載されているバイナリーベクター又は欧州特許第0116718号明細書に記載されているアグロバクテリウムTi−プラスミド内に相同組換えによって組み込むことができる同時組込みベクターのいずれかであることができる。
【0073】
好ましいT−DNAベクターのそれぞれが、T−DNA境界配列間のCHR12をコードする核酸配列に作動可能に連結している、又は右の境界配列の左に少なくとも位置するプロモーターを含有する。境界配列は、Gielen et al.(1984, EMBO J 3,835-845)に記載されている。もちろん、その他の型のベクターを使用しても、植物細胞を、直接遺伝子移入(例えば、欧州特許第0223247号明細書に記載されているもの、又は米国特許出願公開第2005/055740号及び国際公開第2004/092345号パンフレットに記載されている粒子銃若しくは微粒子銃)、花粉媒介形質転換(例えば、欧州特許第0270356号明細書及び国際公開第85/01856号パンフレットに記載されている)、原形質体形質転換(例えば、米国特許第4684611号明細書に記載されている)、植物RNAウイルス媒介形質転換(例えば、欧州特許第0067553号明細書及び米国特許第4407956号明細書に記載されている)、リポソーム媒介形質転換(例えば、米国特許第4536475号明細書に記載されている)、並びにその他の方法、例として、トウモロコシ(例えば、米国特許第6140553号明細書;Fromm et al., 1990, Bio/Technology 8, 833-839;Gordon-Kamm et al., 1990, The Plant Cell 2, 603-618)及びイネ(Shimamoto et al., 1989, Nature 338, 274-276;Datta et al. 1990, Bio/Technology 8, 736-740)の特定の系統を形質転換するための方法、並びに単子葉植物を一般的に形質転換するための方法(国際公開第92/09696号パンフレット)等の手順を使用して形質転換することができる。ワタの形質転換については、国際公開第00/71733号パンフレットもまた参照されたい。イネの形質転換については、国際公開第92/09696号、第94/00977号及び第95/06722号パンフレットに記載されている方法も参照されたい。モロコシについては、例えば、Jeoung JM et al. 2002, Hereditas 137: 20-8又はZhao ZY et al. 2000, Plant Mol Biol.44:789-98を参照されたい。同様に、形質転換細胞からの形質転換植物の選択及び再生も、当技術分野では周知である。種が異なれば、さらには、単一の種であっても、変種又は栽培品種が異なれば、形質転換体を高い頻度で再生するためには、プロトコールを特異的に適応させることになるのは明らかである。
【0074】
得られた形質転換植物を、従来の植物の品種改良スキームにおいて使用して、導入遺伝子を含有するより多くの形質転換植物を生産するか、組換えの植物/植物集団を生産するかのいずれかを行うことができるが、キメラ遺伝子を欠くのが好ましい。
【0075】
挿入されたコード配列が、植物細胞における発現を導くことができるプロモーターの下流(即ち、3’)にあり、その制御下にあるように、CHR12核酸配列を植物細胞ゲノム中に挿入する。これは、好ましくは、キメラ遺伝子を、植物細胞ゲノム、特に、核ゲノム中に挿入することによって達成される。
【0076】
好ましいプロモーターは、少なくとも、1又は複数の段階の植物の成長及び/又は発達の間、活性を示すプロモーターを含む。
【0077】
適切なプロモーターは、CHR12遺伝子自体のプロモーター、又はCHR12の相同体若しくは相同分子種の遺伝子からのプロモーターである。例えば、AtCHR12プロモーター(配列番号5を参照)、又はその機能性断片を使用することができる。等しく、いずれかのその他のCHR12遺伝子、特に、植物起源のプロモーターを使用することもできる。配列番号5等のプロモーターの機能性断片は、当技術分野で知られているように、(一過性)発現解析と組み合わせた欠失解析によって得ることができる。また、配列番号5のプロモーター及びその変異体(特に、配列番号5に対して、少なくとも70、80、90、95、98又は99%以上の配列同一性を含む核酸配列)、並びにこれらのうちのいずれかの機能性断片も、本発明の実施形態である。また、配列番号5又はその変異体若しくは断片を含むキメラ遺伝子及びベクター、並びにこれらを含む植物細胞及び植物部分も、本明細書中に包含される。
【0078】
別法として、CHR12をコードする核酸配列を、誘導性プロモーターの制御下に置くこともできる。誘導性プロモーターの例は、低酸素又は低温のストレスによって誘導可能であるAdh1プロモーター、熱ストレスによって誘導可能であるHsp70プロモーター、及び光によって誘導可能であるPPDKプロモーターである。誘導性プロモーターのその他の例が、創傷誘導性プロモーター、例として、Cordera et al.(1994, The Plant Journal 6, 141)によって記載されている、(昆虫によって引き起こされた創傷又は物理的な創傷等の)創傷によって誘導されるMPIプロモーター、COMPTIIプロモーター(国際公開第00/56897号パンフレット)、或いは米国特許第6031151号明細書に記載されているプロモーターである。別法として、プロモーターは、Aoyama and Chua (1997, Plant Journal 11: 605-612)によって及び米国特許第6063985号明細書に記載されているデキサメタゾン、又はテトラサイクリン(TOPFREEプロモーター若しくはTOP 10プロモーター、Gatz, 1997, Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol. 48: 89-108 及びLove et al. 2000, Plant J. 21: 579-88を参照)等の化学薬品によって誘導することができる。その他の誘導性プロモーターは、例えば、温度変化によって誘導可能なプロモーター、例として、米国特許第5447858号明細書に記載されている熱ショックプロモーター、嫌気性条件によって誘導可能なプロモーター(例えば、トウモロコシADH1Sプロモーター)、光によって誘導可能なプロモーター(米国特許第6455760号明細書)、及びジャガイモLhca3.St.1プロモーター(Nap, J.P. et al., 1993, Plant Mol Biol 23, 605-612)等である。1つの好ましいプロモーターは、Ait-ali et al.(2001, Plant Biotechnology Journal 1, 337-343)に記載されているエタノール誘導性プロモーター系であり、エタノール処理によって、alcRが活性化し、次いで、これが、alc:35Sプロモーターの発現を誘導する。
【0079】
明らかに、様々なその他のプロモーターも利用することができる。発達制御下にあるプロモーターの例として、葯特異的プロモーター5126(米国特許第5689049号及び第5689051号明細書)、glob−1プロモーター、及びガンマ−ゼインプロモーターが挙げられる。同様に、組織特異的プロモーター又は組織に好まれるプロモーター、例として、葉、塊茎、根、茎、球根、緑色組織、果実、種子、葯、花序等において主に活性を示すプロモーターも使用することができる。
【0080】
また、構成的プロモーターも、特定の実施形態では使用することができる。適切な構成的プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV、cauliflower mosaic virus)の分離株CM1841(Gardner et al., 1981, Nucleic Acids Research 9, 2871-2887)、CabbB−S(Franck et al., 1980, Cell 21, 285-294)及びCabbB−JI(Hull and Howell, 1987, Virology 86,482-493)の強力又は増強35Sプロモーター(「35Sプロモーター」);Odell et al.(1985, Nature 313, 810-812)によって又は米国特許第5164316号明細書に記載されている35Sプロモーター、ユビキチンファミリーからのプロモーター(例えば、Christensen et al., 1992, Plant Mol. Biol. 18,675-689、欧州特許第0342926号明細書のトウモロコシのユビキチンプロモーター、また、Cornejo et al. 1993, Plant Mol.Biol. 23, 567-581も参照)、gos2プロモーター(de Pater et al., 1992 Plant J. 2, 834-844)、emuプロモーター(Last et al., 1990, Theor. Appl. Genet. 81,581-588)、シロイヌナズナのアクチンプロモーター、例として、An et al.(1996, Plant J. 10, 107.)によって記載されているプロモーター、イネのアクチンプロモーター、例としてZhang et al.(1991, The Plant Cell 3, 1155-1165)によって記載されているプロモーター、並びに米国特許第5641876号明細書に記載されているプロモーター又は国際公開第07/0067号パンフレットに記載されているイネのアクチン2プロモーター;Cassava葉脈モザイクウイルスのプロモーター(国際公開第97/48819号パンフレット、Verdaguer et al. 1998, Plant Mol. Biol. 37,1055-1067)、Subterranean Clover Stunt VirusからのプロモーターのpPLEXシリーズ(国際公開第96/06932号パンフレット、特に、S7プロモーター)、アルコール脱水素酵素プロモーター、例えば、pAdh1S(GenBank受託番号X04049、X00581)、並びにT−DNAの1’遺伝子及び2’遺伝子をそれぞれ発現させるTR1’プロモーター及びTR2’プロモーター(それぞれ、「TR1’プロモーター」及び「TR2’プロモーター」)(Velten et al., 1984, EMBO J 3, 2723-2730)、米国特許第6051753号明細書及び欧州特許第426641号明細書に記載されているFigwort Mosaic Virusプロモーター、ヒストン遺伝子プロモーター、例として、シロイヌナズナからのPh4a748プロモーター(PMB 8: 179-191)、Smasプロモーター、シンナミルアルコール脱水素酵素プロモーター(米国特許第5683439号明細書)、Nosプロモーター、pEmuプロモーター、rubiscoプロモーター、GRP1−8プロモーター、或いはその他を含む。
【0081】
コード配列が、適切な3’末端転写調節シグナル(「3’末端」)(即ち、転写形成シグナル及びポリアデニル化シグナル)の上流(即ち、5’)に存在するように、CHR12コード配列を、植物ゲノム内に挿入する。ポリアデニル化シグナル及び転写形成シグナルは、ノパリンシンターゼ遺伝子(「3’nos」)(Depicker et al., 1982 J. Molec. Appl. Genetics 1, 561-573.)、オクトピンシンターゼ遺伝子(「3’ocs」)(Gielen et al., 1984, EMBO J 3, 835-845)、及びT−DNA遺伝子7(「3’遺伝子7」)(Velten and Schell, 1985, Nucleic Acids Research 13, 6981-6998)のもの、並びにその他を含み、前者3つは、形質転換植物中では、3’非翻訳DNA配列として作用する。
【0082】
CHR12をコードする核酸配列は、場合によっては、植物ゲノム中に、ハイブリッド遺伝子配列として挿入することができ、それによって、CHR12配列は、枠内で、選択可能なマーカー又はスコア化可能なマーカーをコードする遺伝子(米国特許第5254799号明細書;Vaeck et al., 1987, Nature 328, 33-37)、例えば、カナマイシン耐性をコードするneo(又はnptII)遺伝子(欧州特許第0242236号明細書)等に連結しており、その結果、植物は、容易に検出できる融合タンパク質を発現する。
【0083】
イネ科の種、例えば、トウモロコシ又はイネ等の単子葉植物における発現を増強するためには、イントロン、好ましくは、単子葉植物のイントロンを、キメラ遺伝子に付加することができる。例えば、トウモロコシのAdh1遺伝子のイントロンを5’調節領域内に挿入すると、トウモロコシにおける発現が増強されることが示されている(Callis et. al., 1987, Genes Develop. 1: 1183-1200)。同様に、米国特許第5859347号明細書に記載されているHSP70イントロンを使用して、発現を増強することもできる。上記に記載したように、CHR12の核酸配列のDNA配列を、翻訳中立的にさらに変化させて、遺伝子部分中に存在する、抑制性である可能性のあるDNA配列を、部位特異的イントロン挿入によって且つ/或いは変化をコドンの使用に導入する、例えば、コドンの使用を植物、好ましくは、特異的に関連のある植物の属又は種が最も好むコドンの使用に適応させることによって改変することができる。
【0084】
遺伝子サイレンシングベクター
ストレスが引き起こす成長の停止(又は遅延)を低下させる等の特定の適用例の場合、内因性のCHR12遺伝子又はCHR12遺伝子ファミリーが、機能を示さない(T−DNA挿入、変異)、発現停止する、又は植物の特異的な細胞若しくは組織において発現停止する遺伝子導入植物を生成することが望ましい。
【0085】
CHR12タンパク質を過剰発現する遺伝子導入植物を作製するための方法に関して、上記に記載した実施形態はまた、遺伝子サイレンシングベクターが使用される点が異なるが、内因性のCHR12の遺伝子(複数の遺伝子)を、発現停止させた遺伝子導入植物を作製するための方法にも適用される。「遺伝子サイレンシング」は、1又は複数の標的遺伝子の遺伝子発現の下方制御又は完全な抑制を指す。遺伝子発現を低下させる又は無効にするための抑制性RNAの使用は、当技術分野においては十分に確立されており、いくつかの総説の主題となっている(例えば、Baulcombe 1996, Plant Cell 8: 1833-1844;Stam et al. 1997, Ann. Botan. 79: 3-12;Depicker and Van Montagu, 1997, Curr. Opin. Cell. Biol. 9: 373-382)。植物において遺伝子サイレンシングを達成するために利用可能ないくつかの技術、例として、標的遺伝子の全部又は一部のアンチセンスRNAを生成するキメラ遺伝子(欧州特許第0140308号、第0240208号及び第0223399号明細書を参照)、或いはセンスRNAを生成する(共抑制とも呼ばれる)キメラ遺伝子が利用可能である。欧州特許第0465572号を参照されたい。
【0086】
しかし、現在のところ、最も成功しているアプローチは、標的遺伝子のセンスRNA及びアンチセンスRNAの両方(「反転した反復」)の生成であり、これは、細胞中で二本鎖RNA(dsRNA)を形成して、標的遺伝子を発現停止させる。dsRNAの生成及び遺伝子サイレンシングのための方法及びベクターが、欧州特許第1068311号明細書、欧州特許出願公開第983370号、第1042462号、第1071762号及び第1080208号明細書に記載されている。
【0087】
したがって、本発明によるベクターは、植物細胞中で活性を示す転写調節領域を含むことができ、これは、本発明によるCHR12遺伝子のセンスDNA及び/又はアンチセンスDNAの断片に作動可能に連結している。一般に、標的遺伝子配列の短い(センス及びアンチセンスの)広がり、例として、17、18、19、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチドのコード配列又は非コード配列であれば十分である。また、より長い配列、例として、50、100、200又は250個以上のヌクレオチドも使用することができる。好ましくは、短いセンス及びアンチセンスの断片は、スペーサー配列、例として、イントロンによって分離され、これは、dsRNAの形成時には、ループ(又はヘアピン)を形成する。配列番号2〜4のうちのいずれか1又はその変異体の隣接するヌクレオチドの何らかの短い広がりを使用して、CHR12遺伝子サイレンシングベクター、及び1又は複数のCHR12遺伝子が、全部又は一部の組織若しくは器官又はある特定の発達段階において発現停止する遺伝子導入植物を作製することができる。ヘアピン構築物を生成する好都合なやり方は、一般的なベクター、例として、pHANNIBAL及びpHELLSGATE、Gateway(登録商標)技術に基づくベクターの使用がある(Wesley et al. 2004, Methods Mol Biol. 265:117-30;Wesley et al. 2003, Methods Mol Biol. 236:273-86、及びHelliwell & Waterhouse 2003, Methods 30(4):289-95.を参照)。これらはすべて、参照によって本明細書に組み入れられている。
【0088】
保存された核酸配列を選択することによって、宿主植物中のすべてのCHR12遺伝子ファミリーメンバーを、発現停止することができる。また、CHR12核酸配列のセンスDNA及び/又はアンチセンスDNAの断片に作動可能に連結している、植物中で活性を示すプロモーターを含み、CHR12遺伝子サイレンシングの表現型(以下にさらに記載するように、成長の顕著な変化)を示す遺伝子導入植物も本明細書中に包含される。
【0089】
両方の適用において、キメラ遺伝子は、宿主ゲノム内に安定して導入することができるか、エピソーム性の単位として存在することができる。
【0090】
本発明による遺伝子導入植物及び植物部分
上記の方法によって得ることができる、遺伝子を導入した植物、植物細胞、組織又は器官を提供する。こうした植物は、その細胞又はゲノム中のキメラ遺伝子の存在、並びに/或いは非遺伝子導入(野生型)対照又は空のベクターの対照と比較して改変された成長が、1若しくは複数の発達段階及び/又は環境条件の間に示されることによって特徴付けられる。
【0091】
1若しくは複数の組織(又は全植物)の成長は、複数の植物又は組織を一定間隔で視覚的に評価する、例えば、植物の高さ、節間の長さ、葉の寸法等の測定によって最も容易に測定することができる。また、成長及び成長速度(成長/時間)を、計る及び場合によっては、定量化するためのその他の方法も使用することができることは明らかである。
【0092】
高い、中等度の又は低いレベルのCHR12タンパク質(又は発現停止植物の場合には、センス及び/若しくはアンチセンスの転写物)を発現している形質転換体を、例えば、コピー数を解析すること(サザンブロット解析)、mRNA転写物のレベル(例えば、ノーザンブロット解析又はAtCHR12プライマー対若しくは隣接プライマーを使用するRT−PCR)、或いはCHR12タンパク質の存在及びレベルを解析すること(例えば、SDS−PAGEに続く、ウェスタンブロット解析;ELISAアッセイ、免疫細胞学的アッセイ等)によって選択することができる。CHR12のキメラ遺伝子の発現レベルは、プロモーターの強度及び特異性だけでなく、ゲノムにおけるキメラ遺伝子の位置にも依存する。したがって、成長の改変の強さもまた、用量依存性の様式で様々となる。当業者であれば、成長に関して最も有用な改変を示す形質転換体を選択することができる。例えば、種々のプロモーターを試験し、同一の構築物を用いて形質転換させた、多様な組換え植物(即ち、「形質転換事象」)を解析することによって、所望のレベルの成長の改変又は成長速度を有する、所望の形質転換体を同定して、さらなる使用のために選択することができる。同じことが、遺伝子サイレンシング構築物を用いて形質転換させた植物にもあてはまり、適切な構築物及び形質転換事象を、日常的な方法を使用して容易に選択することができる。
【0093】
したがって、本発明の一実施形態では、ゲノム中に組み込まれたキメラ遺伝子を含む遺伝子導入植物又は植物部分を提供し、これは、当該キメラ遺伝子が、
(a)配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列;
(b)配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも40、50、60又は70%以上のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列;
(c)(a)又は(b)の配列のセンス断片及び/又はアンチセンス断片
からなる群から選択された核酸配列に作動可能に連結している、植物細胞中で活性を示す転写調節配列を含むことを特徴とする。
【0094】
好ましくは、遺伝子導入植物又は植物部分が、適切な対照と比較して、少なくとも1つの成長特性において改変される。
【0095】
機能性のCHR12タンパク質又はCHR12タンパク質断片を発現する植物及び植物部分は、遺伝子量、プロモーター及びゲノムにおける位置に依存して、1又は複数の組織又は器官の、顕著な(一時的で、ストレス依存性の)成長停止又は成長遅延を含む。最適に改変された成長を示す形質転換事象を作製し、同定することができる(例えば、種々の遺伝子量又はコピー数効果、プロモーターを試験して、ストレス条件及び/又は非ストレス条件下における所望の表現型を示す事象を選択する)。
【0096】
一実施形態では、以下の組織のうちの1又は複数の成長が、1又は複数の成長条件の間に停止する(特に、1又は複数のストレス条件に曝露した場合に、一時的に停止するが、いったんストレスが取り除かれる又は低下すると、成長が続く)。
【0097】
(a)主茎に関しては、高さが低下した植物、例として、同一条件下(例えば、1又は複数のストレス条件下)で成長させた、適切な対照植物(例えば、野生型植物)と比較して、高さが、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15、20、30、40、50、60、70、80%(又は以上)低下した植物を生ずる;成長がストレスの間は一時的に停止する又は緩慢になる遺伝子導入植物は、収穫時期をあらかじめ決定して、遅らせる場合、収穫時期を延長させる場合、並びに/又はストレスに曝露する場所(風に曝露する場所又は水が欠乏する場所等)で収穫高及び/若しくは生存率を高める場合に有用である。
【0098】
(b)一次花序に関しては、一次花序の高さが低下した植物、例として、同一条件下で成長させた、適切な対照植物(例えば、野生型植物)と比較して、花序の高さが、少なくとも10%、好ましくは、少なくとも15、20、30、40、50、60、70、80%(又は以上)低下した植物を生じる;さらに、腋枝が一次枝を上回って成長し、且つ/又は腋枝の数が増加することができる;同様に、腋枝上の花序の数が増加することができる;そのような植物の利点は、(a)に準じる。この表現型は、矮小の観賞植物(例えば、切り花)を生産する場合、又は、(正常に成長するが、発達が遅れた)観賞植物、例として、花の収穫時点を改変する場合に興味深い。
【0099】
(c)芽、特に、(収穫した)地下貯蔵器官、例として、ジャガイモの塊茎の芽に関しては、延長された及び/又はより均一な休止状態の期間を生じ、特に、収穫後の発芽を、1若しくは数週間、又は1若しくは数カ月間遅らせることができる。より一般的には、(d)を参照されたい。
【0100】
(d)いずれかの地中植物(塊茎等の改変された根茎又は茎、球茎等の改変された地下茎、及び球根、例えば、タマネギ等の改変された地下芽をはじめとする、地下貯蔵器官)の発芽に関して;したがって、収穫した遺伝子導入貯蔵器官は、発芽することなく、より長期間にわたり貯蔵することができ、且つ/又は発芽の均一性を高めることができる。植物の種及び変種又は系統によっては、収穫した貯蔵器官(例えば、ジャガイモの塊茎のバッチ)を、低温等の1又は複数のストレスに曝露して、発芽をより長い期間にわたり均一に抑制することができる。
【0101】
(e)植物のとう立ち(又は時期尚早な開花)を、遅らせる又は完全に阻止することができる。したがって、本発明によりCHR12タンパク質を発現させることによって、いわゆる、とう立ちに抵抗性を有する又はとう立ちが遅れる植物を作製することができる。例えば、通常であれば、とう立ちに感受性の型(即ち、これは、とう立ちを促進する環境からの合図に容易に応答する)を形質転換して、とう立ちを促進する環境からの合図に対する植物の感受性を変化させることができる。したがって、遺伝子導入植物は、こうした合図(例として、日長及び温度)に曝露しても、まったくとう立ちしないか、とう立ちが遅れる。或いは、植物がとう立ちして、生成した種子の芽(又は花序の芽)が、ストレスへの曝露後には死に絶える。
【0102】
(f)胚の成長は停止させることができ、種子の休止状態を高めることができる。本発明によりCHR12タンパク質を発現させることによって、通常であれば、特定のレベルの種子休止状態を種子が有する植物を形質転換させて、休止状態の強さを高める(種子が発芽する割合を、野生型と比較して、少なくとも10、20、30、40又は50%以上だけ減少させる)こと、及び/或いは非遺伝子導入植物において休止状態が見られる温度範囲を低下させることができる。また、二次休止状態を高めることもでき、遺伝子導入過剰発現型植物の二次休止状態の場合には、休止状態は、野生型の休止状態より、高い効率で停止させることができる。このことは、遺伝子導入種子の休止状態を、実施例の冷湿処理(stratification)によって、野生型の種子と比較して、より良好に、より均一に停止させる点で利点となる。
【0103】
好ましくは、成長停止は、1又は複数の生物的及び/又は非生物的なストレス条件に曝露することによって可逆的に制御され、ストレスが排除されると、成長が再開する。このようにして、遺伝子導入植物は、改変された成長、特に、上記で示したように、低下した成長を、低温、高温、風、塩分等のストレスへの曝露の間に示す。どの型の条件が「ストレス」となるとみなすかは、植物の生理によって決まる。例えば、温帯気候に適応している植物は、温度条件がそこから逸脱すると、ストレスを経験する。ストレス条件下においては、休止状態様の成長停止に切り換わることによって、植物は、エネルギーを保存して、より長いストレス期間を生存する能力を得(生存の割合が増加する)、且つ/又は収穫高の損失を、例えば、野生型植物と比較して最小化する。
【0104】
したがって、一実施形態では、より長い(例えば、野生型植物よりも、1、2、3又は4週以上長い)期間のストレスを生存することができる、且つ/或いはより高い割合の植物がストレス期間を生存する、且つ/或いは野生型植物と比較して、同一又はより高い収穫高(好ましくは、少なくとも2、5、8、10%多い収穫高)を有する植物を提供する。
【0105】
さらに、植物の全体的な寿命、並びに/或いは栄養生長期及び/又は生殖期の期間が延長される。これは、成長停止は、ストレス依存性且つ一時的であるという事実により達成される。ストレスの間は停止した植物組織は、正常な成長を再開し、停止がなければなされていたはずの期間と同一の期間にわたり成長し続ける。したがって、成長が、2又は3週間にわたり停止し、その後にストレスが取り除かれた場合には、発達が、2又は3週の遅延を伴って続く。したがって、寿命は、2又は3週だけ延長される。CHR12タンパク質の過剰発現は、ストレスが軽減された後の植物の成長及び発達を妨げることはない。これは、例えば、植物を1又は複数の(温和な)ストレス条件(水の欠乏等)に単に曝露し、所望の時期には(例えば、給水することによって)ストレスを再び取り除くことによって、収穫の時期及び期間を2、3、4、5又は6週以上だけ遅らせることができるという利点をもたらす。例えば、収穫時期を、年の後期に移し、それによって、年間を通してより連続して作物を得ることができる。
【0106】
これは、例えば、チューリップ、バラ等の観賞用の花の生産において、特に好都合である。したがって、一実施形態では、1又は複数のCHR12遺伝子を過剰発現する遺伝子導入植物は、観賞植物である。
【0107】
改変された成長を有する遺伝子導入植物の特異的な例として、イネ、コムギ、トウモロコシ等の穀草類、又はストレス曝露の間により短い主茎を有するアブラナ属(Brassica)の植物が挙げられる。
【0108】
同様に、遺伝子導入地中植物、例としてジャガイモの根茎は、芽の成長(発芽)を、遅らせ且つ/又はより均一にして、より長い期間にわたり貯蔵することができる。収穫したジャガイモは、収穫時期には休止状態であるが、休止状態の期間は、栽培品種間及び貯蔵条件によって顕著に異なる。例えば、Russet Burbankは、休止状態を、約6℃では150日後に、及び約9℃では第120日に停止する。それに対して、Ranger Russetは、休止状態を、約6℃ではすでに75日後に、及び約9℃では50日後に停止する。4℃以下での貯蔵は、低温誘発性の甘味の向上を引き起こす。これは、糖分が、デンプンの分解により蓄積することによる。本発明によって、遺伝子導入ジャガイモ根茎を、所与の温度において、静止状態が停止するまで、同一の栽培品種の非遺伝子導入ジャガイモと比較して、少なくとも1、2、3、4、5週長く、より好ましくは、少なくとも2、3、4、5又は6カ月以上長く貯蔵することが可能となる。ジャガイモは、貯蔵が終わる(即ち、低温ストレスが取り除かれる)と、休止状態を均一に停止する。したがって、ジャガイモ塊茎の時期尚早な発芽は、制御することができる。さらに、本発明によって、より高い保持温度(1、2、3度)で、最小の呼吸により最適な状態で、それにもかかわらず発芽を阻止して、ジャガイモを貯蔵することが可能となる。これはまた、ジャガイモの貯蔵エネルギーのコストも低減させる。
【0109】
また、野菜作物の遺伝子導入植物は、とう立ち又は開花を、遅らせる又は阻止することができる。葉野菜、例として、レタス、ホウレンソウ、キャベツ、ダイオウ、テンサイ、ウイキョウ、タマネギ、ニンジン等における、時期尚早なとう立ち(花の開始)は、生産者には共通の問題である。とう立ちとは、花の開始、即ち、植物が種子の茎(stalk)を形成し始める時期を指す用語である。野菜は、大部分は、種子ではなく、葉又は球根を求めて育てることから、野菜の時期尚早なとう立ちは望まれない。とう立ちには、通常、食用にする葉の部分の硬化、及び栄養素の葉から花への移動が伴う。とう立ちは、大部分の場合、天候に依存する。とう立ちは、低温(春化;タマネギ、西洋ニラネギ、ニンジン、ビートの根等の二年草作物)、又は日長の変化(光周期;レタス、ダイコン、ホウレンソウ等の一年草作物)によって引き起こすことができる。時期尚早なとう立ちは、しばしば、季節の早い時期の定まらない天候条件(低温から急激に温度が上昇する場合)によって引き起こされる。とう立ちの過程は、通常、不可逆的である。本発明は、遅延型の又は抑制されたとう立ちを示す、したがって、生産者及び消費者にとって優れた緑色野菜の遺伝子導入植物を提供する。また、短い期間の温度ストレス(それぞれ、16又は24時間)への曝露によって、とう立ちを停止させた、又はさらには種子の茎が破壊された実施例も参照されたい。そのような遺伝子導入植物を使用することによって、とう立ちを抑制する又は遅らせる化学薬品を適用する必要性が減少する。また、所与の植物について、ストレスを適用及び取り除く最適な時点、並びにストレスの最適な型及び量を決定することによって、とう立ちの挙動を制御することができる。それによって、例えば、とう立ちしやすい植物を、とう立ちに抵抗性を有する又はとう立ちが遅れる植物に、CHR12を用いた形質転換によって変化させることができる。次いで、そのような植物を、通常であればとう立ちを誘発する環境条件(早春等)下で、(とう立ちを開始させることなく、又は種子の茎を破壊して;或いはとう立ちを遅らせて)成長させることができる。
【0110】
別の実施形態では、CHR12に関して発現停止させた植物及び植物部分が、野生型の対照又は空のベクターの対照と比較して、顕著により軽度な、1又は複数の組織又は器官の成長停止を含む。そのような植物は、例えば、ストレス下又はある期間のストレスを経験した後での、根の成長又は芽の成長の抑制が低い(即ち、より長い根を有する)。したがって、ストレス条件下でのそのような植物の成長の表現型は、非ストレス条件下で成長した植物に匹敵する。したがって、特に、温和なストレス条件(例として、塩分、水の欠乏、浸水等)下においては、そのような植物は、非遺伝子導入植物と比較して、損傷をほとんど又はまったく受けることがなく、こうした植物は、生物的及び/又は非生物的なストレスにより良好に耐えることができる。したがって、そのような植物は、地球上のストレス期間を定期的に経験する領域において好都合に成長させることができる。
【0111】
同様に、1又は複数のCHR12遺伝子に関して発現停止させた種子は、種子の休止状態(胚の成長停止)を顕著に低下させる(又はまったく示さない)ことができる。
【0112】
遺伝子導入植物又は植物部分は、導入遺伝子に関して、ホモ接合性であっても、又はヘミ接合性であってもよいと理解される。さらに、その他の導入遺伝子も、既知の方法を使用して組み入れることができる。さらに、本明細書において記載する遺伝子導入植物又は植物部分(果実、塊茎、葉、花等)のうちのいずれであっても、例えば、品種改良のスキーム及びその他において、又は食物若しくは飼料製品の製造のために使用することができる。品種改良の手順は当技術分野では既知であり、植物の品種改良の標準的な教科書、即ち、Allard, R.W., Principles of Plant Breeding (1960) New York, NY, Wiley, pp 485;Simmonds, N.W., Principles of Crop Improvement (1979), London, UK, Longman, pp 408;Sneep, J. et al., (1979) Tomato Breeding (p. 135-171) in: Breeding of Vegetable Crops, Mark J. Basset, (1986, editor), The Tomato crop: a scientific basis for improvement, by Atherton, J.G. & J. Rudich (editors), Plant Breeding Perspectives (1986);Fehr, Principles of Cultivar Development-Theory and Technique (1987) New York, NY, MacMillanに記載されている。
【0113】
AtCHR12対立遺伝子を含む非遺伝子導入方法及び植物
本発明の一実施形態では、非遺伝子導入植物、特に、作物植物(即ち、シロイヌナズナ等の雑草種を除く)を提供し、それによって、こうした植物は、1又は複数のAtCHR12対立遺伝子をそのゲノム中に含み、この対立遺伝子は、こうした植物においては天然には見出されず、野生型、機能性のCHR12の相同体若しくは相同分子種及び/又は天然若しくは誘発性の変異型CHR12の相同体若しくは相同分子種のいずれかを同定して、これらを作物種内に品種改良及び選択(例えば、MAS)により移入することによって、場合によっては、胚救出、染色体倍加等の技法を使用して導入されている。
【0114】
そのような機能性又は変異型(非機能性)の対立遺伝子は、雑草種若しくは野生種又は同一種のその他の植物の系統に由来することができ、これを、作物種と交配することができる。したがって、例えば、AtCHR12は、アブラナ科(Brassicaceae)の作物種内に、種間ハイブリダイゼーションによって移入する、又は別法として、AtCHR12の相同分子種を、Brassica napus等のアブラナ属(Brassica)の種において(核酸ハイブリダイゼーション等の既知の方法を使用して、構造、即ち、アミノ酸配列比較、及びAtCHR12の機能と比較した機能に基づいて)同定することができる(次いで、そのような相同分子種は、Brassica nupus等中で見出された場合には、BnCHR12と称することができる)。同定された機能性の対立遺伝子を使用して、作物種、例えば、Brassica nupusの栽培品種である、Brassica juncea又はBrassica oleraceaを生成することができ、これらは、本明細書において遺伝子導入AtCHR12を過剰発現する植物について記載した、改変された表現型を有する。非機能性の対立遺伝子(例えば、天然の変異型対立遺伝子又は誘発性の変異型対立遺伝子)を使用して、本明細書においてCHR12の発現を停止させる遺伝子導入植物について記載した表現型を有する植物を生成することができる。
【0115】
このようにして、異なる(機能性及び/又は非機能性の)CHR12対立遺伝子を、1又は複数のCHR12対立遺伝子を天然にすでに含む植物内に導入すること、並びに/或いは植物中に天然には存在しない、異なる(機能性及び/又は非機能性の)CHR12対立遺伝子を導入することのいずれかが可能である。
【0116】
また、本発明のある実施形態では、既知の方法、例として、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomics;McCallum et al., 2000, Nat Biotech 18:455及びMcCallum et al. 2000, Plant Physiol. 123, 439-442)、並びにEcoTILLINGを使用して、CHR12対立遺伝子及び/又はCHR12プロモーターにおける変異を、誘発又は同定して、同定した変異を使用して、本発明により、1又は複数のCHR12タンパク質のより低いレベル若しくはより高いレベル、及び/又はchr12 mRNA転写物のいずれかを産出する植物の系統を生成する。
【0117】
TILLINGを使用して、CHR12の対立遺伝子(複数の対立遺伝子)における変異を含む変異型の植物又は組織を生成する(誘発する)こと及び同定することができる。この変異により、そのような対立遺伝子(複数の対立遺伝子)から産出される機能性CHR12タンパク質が減少する。本発明の範囲を制限することなく、より高いレベルのCHR12タンパク質をもたらす変異は、CHR12遺伝子を恒常性とする、又はCHR12遺伝子の発現を高めるリプレッサータンパク質の結合部位であるプロモーターにおいて、点/欠失変異を含むことができると考えられている。
【0118】
TILLINGは、従来の化学的な変異誘発(例えば、EMS変異誘発)後に、特異的な標的遺伝子における変異についての高スループットスクリーニングを行う(例えば、変異型−野生型DNAへテロ二本鎖のCel 1の切断及び配列決定ゲルシステムを使用する検出を使用する)。
【0119】
一実施形態では、この方法は、植物の種子を変異誘発させるステップ(例えば、EMS変異誘発)と、個々の植物又は植物のDNAをプールするステップと、対象とする領域のPCR増幅を行うステップと、ヘテロ二本鎖を形成して高スループット検出を行うステップと、変異型植物の同定を行うステップと、変異型PCR産物の配列決定を行うステップとを含む。その他の変異誘発及び選択の方法を同様に使用して、そのような変異型植物を生成することができることが理解される。例えば、種子に、放射又は化学的に処理を施した後に、植物を、改変されたクロマチンリモデリングの表現型(複数の表現型)についてスクリーニングすることができる。
【0120】
本発明の別の実施形態では、植物材料は、CHR12相同分子種のコード配列及び/又は調節配列におけるDNA配列中に遺伝子多型又は変異を含む種又は関連の種の天然の集団である。CHR12遺伝子標的における変異は、ECOTILLINGのアプローチを使用してスクリーニングすることができる(Henikoff S, Till BJ, Comai L., Plant Physiol. 2004 Jun;135(2):630-6. Epub 2004 May 21)。この方法では、品種改良系統又は関連の種の中の天然の遺伝子多型を、上記で記載したTILLINGの方法によってスクリーニングする。この場合、個々の又はプールした植物を、CHR12標的のPCR増幅、ヘテロ二本鎖形成及び高スループット解析のために使用する。これに続いて、要求される変異を有する個々の植物を選択することができ、次いで、選択した植物を、所望のCHR12相同分子種の対立遺伝子を組み入れるための品種改良のプログラムにおいて使用して、所望の形質を有する栽培品種を開発することができる。
【0121】
したがって、一実施形態では、例えば、1又は複数の内因性のCHR12対立遺伝子における変異により、より低い又はより高いレベルのCHR12タンパク質及び/又はmRNAを、1又は複数の組織において産生する非遺伝子導入変異型植物、或いはCHR12タンパク質を特異的な組織において完全に欠く、又は非機能性のCHR12タンパク質を特定の組織において産生する非遺伝子導入変異型植物を提供する。また、この目的でも、TILLING及び/又はEcoTILLING等の方法を使用することができる。種子を、例えば、放射による又は化学的な変異誘発を使用して、変異誘発させることができ、変異体を、例えば、CEL 1の切断を使用するDNA遺伝子多型の検出により同定することができる。非機能性CHR12対立遺伝子は、単離後、配列決定する場合、又はその他の植物に品種改良の方法によって移入する場合がある。
【0122】
変異型植物は、非変異体と、分子的な方法、例として、DNA中に、CHR12タンパク質レベルで、CHR12RNAレベル等で存在する変異(複数の変異)等、及び改変された表現型の特徴によって区別することができる。
【0123】
非遺伝子導入変異体は、内因性のCHR12遺伝子(複数の遺伝子)の増強された発現を与える変異に関して、又はCHR12変異型対立遺伝子(複数の対立遺伝子)に関して、ホモ接合性であっても、又はヘテロ接合性であってもよい。
【0124】
本発明による使用
また、CHR12の核酸配列及びCHR12のアミノ酸配列の種々の使用も提供する。同様に、CHR12のプロモーターに関する種々の使用も提供する。
【0125】
一実施形態では、改変された成長特性を有する遺伝子導入植物又は植物部分を生成するための、クロマチンリモデリングタンパク質をコードする核酸配列の使用を提供し、これは、当該核酸配列が、
(a)配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列;
(b)配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも70%のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列;
(c)(a)又は(b)の配列のうちの少なくとも15個の連続したヌクレオチドの(センス及び/又はアンチセンス)の断片
からなる群から選択されることを特徴とする。
【0126】
好ましくは、改変された成長特性が、
(a)1又は複数の、一次茎又は花序等の組織の生物的及び/又は非生物的なストレス依存性の成長停止;
(b)地下貯蔵器官(例えば、塊茎、球根等)の生物的及び/又は非生物的なストレス依存性の休止状態様成長停止;
(c)生物的及び/又は非生物的なストレス依存性の止とう立ちの遅延/阻止(例えば、葉野菜)
からなる群のうちの1又は複数である。
【0127】
本発明によるスクリーニングの方法
さらに、植物の成長停止若しくは休止状態に関与する遺伝子を同定するため、又は遺伝子の機能を検証するための方法も提供する。この方法は、
(a)配列番号1のタンパク質、又は配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも50、60、70%(若しくは70%以上)のアミノ酸配列同一性を含むタンパク質を発現する遺伝子導入植物又は植物部分を生成するステップと;
(b)非遺伝子導入対照又は空のベクターの対照と比較して、遺伝子導入植物(a)の1種若しくは複数の組織において異なって発現する遺伝子(又は遺伝子の転写物)を同定するステップと
を含む。
【0128】
遺伝子導入植物又は植物部分は、上記の記載に従って生成することができる。安定な形質転換体が好ましいが、必ずしも安定な形質転換体を生成する必要はない。発現差異解析のためには、cDNA−AFLP、ディファレンシャルハイブリダイゼーション及びその他等、いずれの既知の方法を使用してもよい。次いで、遺伝子導入組織において上方制御された遺伝子は、クローニング及び配列決定することができ、成長の遅延/停止、又は休止状態におけるその機能を、遺伝子導入植物を作製することによって検証することができる。
【0129】
実施例においては、別途記載がない限り、すべての組換えDNA技術は、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press、及びSambrook and Russell (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;並びに Volumes 1 and 2 of Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols, USAに記載されている標準的なプロトコールに従って実施する。植物の分子の研究のための標準的な材料及び方法は、Plant Molecular Biology Labfax (1993) by R.D.D. Croy, jointly published by BIOS Scientific Publications Ltd (UK) and Blackwell Scientific Publications, UKに記載されている。
[実施例]
【実施例1】
【0130】
AtCHR12を過剰発現する、アクティベーションタグ変異体の同定
AtCHR12のアクティベーションタグ変異体を、35Sエンハンサー配列の直列型の4つのコピーを有するEn−Iトウモロコシトランスポゾン系を保有する、生態型Wassilijevskaja(Ws)のアクティベーションタグ系統の集団において同定した(Marsch-Martinez, et al., 2002, Plant Physiol 129, 1544-1556)。約1700個の単一コピーを安定に挿入している系統の集団(Dr. A. Pereira, PRI, Wageningen、未公開)から、(http://www.chromdb.orgからの)すべての既知の又は予測されるクロマチンリモデリング遺伝子のゲノム配列に照らして、隣接配列をblastにかけた。それぞれの場合において、転写領域並びに10kbの上流及び下流の周囲配列を、Blast解析に含めた。このスクリーニングによって、AtCHR12の転写開始部位の約1kb上流に組み込まれたエンハンサー配列を有する挿入系統(At3g06010)(図1A)。組込み部位は、PCRによって確認された(データ示さず)。この系統におけるAtCHR12の過剰発現を、半定量的RT−PCR解析によって調べたところ、この遺伝子の発現の相当な上方制御が、葉、花及び根において示された(図1B)。過剰発現対立遺伝子の挙動を、同一遺伝子の機能損失対立遺伝子と比較するために、生態型ColumbiaにおいてAtCHR12の第1エクソン中にT−DNAの挿入を有するSALK T−DNA系統(SALK_105458)(Alonso, 2003, Science 301, 653-657)を得て、平行して解析した。これ以降、AtCHR12の過剰発現対立遺伝子は、AtCHR12ovで示し、ノックアウト対立遺伝子は、archr12で示す。
【実施例2】
【0131】
AtCHR12ovにおける一次花序の一時的な成長停止
植物の発達に関して、AtCHR12の過剰発現の表現型を、F3世代のホモ接合性の植物において研究した。発芽4週後では、変異型植物は、野生型(生態型Ws)とは見分けがつかなかった。花序のとう立ちも、側枝の開始も、影響を受けているようには見えなかった。しかし、一次花序の茎が約8〜10cmに達すると、一次花序の成長停止が、野生型と比較した場合、10〜20%の変異型植物において観察された(図1C)。一次花序は、必ずしもそうとは限らないが、数個の開いた花を有する又は長角果を発達させる場合があったが、成長を停止した(図1D〜F)。この表現型を有する植物の約半分において、一次花序が、植物の残りの寿命の間、停止したままであった(図1E)。一次茎からの側枝及びロゼットからの腋枝の成長は影響を受けなかったことから、主枝の成長が下回った(図2F)。成長停止の表現型を有するその他の植物においては、一次花序の活動が、1〜2週後に再開し、その結果、多数の新しい花を得た。このことは、最適成長条件では、一次花序の成長停止は、非常に微妙な表現型であることを示している。AtCHR12ov植物は、通常は、繁殖力があり、野生型と比較して、その他の明らかな形態学的な及び発生上の差はまったく示さなかった(データ示さず)。また、機能損失性SALK T−DNA挿入系統、atchr12も、同じ条件下で成長させた場合のその野生型(生態型Columbia)と比較して、目に見える表現型の差をまったく示さなかった(データ示さず)。
【0132】
AtCHR1ov変異体における成長停止の表現型は、AtCHR12遺伝子の活性化の結果であることを、独立に確認するために、過剰発現するAtCHR12を有する遺伝子導入植物を生成して、解析した。AtCHRゲノム配列を、生態型WsからPCRによって単離し、ジャガイモLhca3.St.1プロモーターの制御下に置いて(Nap, 1993, PMB 23, 605-612)、野生型(生態型Ws)内に形質転換した。成長停止表現型を、遺伝子導入系統のうちのいくつかにおいて回収した(データ示さず)。個々の形質転換体が、一次花序の成長停止を、異なるレベルで示し、これは、おそらく、導入遺伝子が種々のレベルで発現していること及び位置効果を反映している(Mlynarova, 1994, Plant Cell 6, 417-426)。実施例では、これ以降、AtCHR12の遺伝子導入過剰発現対立遺伝子を、AtCHR12_tovと名付ける。
【実施例3】
【0133】
AtCHR12は、環境ストレスに対する応答に関与する
植物の成長は、種々の非生物的なストレスで停止する(Zhu, 1997 Plant Sciences 16, 253-277;Smallwood, 1999 "Plant responses to environmental stress", Oxford UK: BIOS Scientific Publishers;Shinozaki, 2000, Curr Opin Plant Biol 3, 217-223)。不利な環境に対するそのような応答が、AtCHR12変異体において改変されるか否かを研究するために、AtCHR12ov植物及びatchr12植物を、3種の環境ストレス(干ばつ、熱及び塩分)に暴露し(challenge)、反応を、それに対応する野生型と比較した。さらに、ABAのAtCHR12に関連する成長停止に対する効果もまた評価した。
【0134】
干ばつの効果を、植物を標準的な条件下で4〜5週間成長させ、その後、水の供給を10〜14日間一時中断した後、水の再供給を開始することによって解析した。この期間の間、一次花序の時期及び発達を研究した。野生型(生態型Ws)植物の場合、一次花序は、正常に見え、未処置対照と比較した場合、中等度に遅れた発達を示したにすぎない。一次花序の成長停止が、未処置植物間では10〜20%であったのに対して、AtCHR12ov植物では70〜80%において観察された。図2Aは、干ばつストレスへの曝露10日後の野生型植物及びAtCHR12ov植物の一次花序を示す。同一の表現型が、遺伝子導入過剰発現型AtCHR12_tov系統のうちのいくつかにおいても観察された。また、これらの過剰発現型植物は、茎の相当に低下した成長も示した。それらの一次茎の長さは、野生型(生態型Ws)の約50〜70%まで減少した(図2B)。ストレスが軽減すると、ほとんどの植物(AtCHR12ov及びAtCHR12_tovの両方)は、正常な成長を再開した。おそらく成長停止の結果としてであろうが、変異型植物は、それに対応する野生型植物よりも、10〜12日遅れて開花を停止した。対照的に、野生型(生態型Col)(図2C)は、ストレス誘発性の成長の遅れを示したが、ノックアウトatchr12植物の水の欠乏5日後における一次花序の成長は、未処置対照(図2A)とは見分けがつかなかった。しかし、水のストレスが2週間に及ぶと、atchr12植物は、野生型Col植物よりも、若干早く干上がった(データ示さず)。
【0135】
4週齢の植物に対する、とう立ち後しばらくしてからの熱ストレスの影響を、植物を、37℃に、薄暗い光の条件下で16又は24時間曝露させた後、これらを回復のために22℃に戻すことによって研究した。花の発達に対する効果を、毎日評価した。回復5日後では、すべての野生型植物(生態型Ws)は、正常に見え、未処置対照と比較して、中等度に遅れた成長を示したにすぎない(図3A)。対照的に、AtCHR12ov植物の成長は、強力に影響を受けた。ストレスを24時間受けた植物の場合、熱ストレス1日後ですでに、すべての一次花序が、しおれて死滅した(図3A)。新たに形成された腋枝が、野生型よりも若干遅れて発達したが、正常な形態を有した。ストレスに16時間曝露させた植物も、干ばつのストレスを受けた植物について観察されたものと同様の一次花序の成長停止を示した(データ示さず)。このことは、成長停止応答の強度が、ストレスの強度に依存して調節されることを示している。atchr12植物は、同一処置への曝露後、野生型(生態型Col)と比較して、応答にはまったく差を示さなかった(データ示さず)。
【0136】
これらの結果を考慮して、種々の植物系統のその他の成長段階における熱応答を研究することが決定された。3日齢のインビトロの実生を、37℃又は42℃に、5時間曝露した。熱処置後、実生を、22℃で5日間回復させ、次いで、根の長さを測定して、未処置対照と比較した。両方の温度が、根の成長に対して負の効果を有した(図3B)が、atchr12の根の成長は、それに対応する野生型(生態型Col)よりも、抑制が軽度であった(図3B)。AtCHR12ov変異体は、生態型Wsとの差を示さなかった(図3B)。さらに、5日齢の実生を、生存について、45℃の熱ショックにより1.5時間攻撃した。この条件下では、ノックアウトの実生で生存したものはなかったが、対照的に、野生型の実生(生態型Col)のうちの90%超が生存した。Ws及びAtCHR12ovの実生の生存率はいずれも、約50%であった(図3C)。
【0137】
両方のAtCHR12変異体の高塩ストレスに対する応答を、インビトロにおける根の伸長アッセイを活用して研究した(Achard, 2006 Science 311, 91-94)。3日齢の実生を、25〜150mMの範囲のNaClを含有する寒天プレートに移し、根の長さを、インキュベーション5日後に測定した。解析した塩濃度のうちのいずれにおいても、Ws実生とAtCHR12ov実生との間に、根の長さの差はなかった(図4A)。しかし、atchr12の根の成長は、それに対応する野生型(生態型Col)よりも、塩による抑制が、特に、より低い塩濃度において軽度であった(図4B)。両方の変異体の実生を1μM ABAの存在下で成長させたところ、ABAの根の成長に対する抑制効果については、差をまったく示さなかった(データ示さず)。また、1μM ABAを有する培地上で、インビトロにおいて成長させた変異型植物も、その野生型対照と比較して、開花時期については、差をまったく示さなかった(データ示さず)。
【0138】
これらのデータを組み合わせると、AtCHR12は、ストレス誘発性の成長停止に関与することが示される。過剰発現体である、AtCHR12ov及びAtCHR12_tovの両方は、高まった成長停止を示す。対照的に、atchr12ノックアウトは、比較的温和なストレス条件によって攻撃した場合でも、より軽度の成長停止を示す。
【実施例4】
【0139】
AtCHR12プロモーターのGUS融合体は、組織中で活性を示し、成長停止をもたらす
AtCHR12遺伝子の空間的及び時間的な発現を特徴付けるために、gusに融合したAtCHR12プロモーター(1.5kb、配列番号5)のキメラ構築物(pCHR12::GUSと名付けた構築物)を保有する遺伝子導入植物(生態型Ws)を、アグロバクテリウム・ツメファシエンス媒介形質転換によって生成した。GUSの活性を、中期魚雷型期以降の胚の胚軸(図5A)、及び吸水1時間後の乾燥種子(図5B)において検出した。発達中の実生では、発芽1日後に、強力なGUS活性を、子葉及び上部胚軸において観察した(図5C)。実生が成長すると、拡大する子葉及び胚軸におけるGUS活性は、低下した(図5D)。根の内皮の分裂帯(休眠状態中心の上の6〜8個の細胞)については、GUS活性を、最初に3日齢の実生において観察し、活性は、その後の発達の間、検出可能な状態を維持した(図5E)。GUS活性は、芽の分裂組織においては検出することができなかった(図5F)。土壌中で成長する植物の場合、強力なGUS染色が、若いロゼットの腋芽及び主茎から発達する側芽に認められた(図5G)。高いGUS活性は、主として、発達の早期における、発達中の茎生の葉に局在化した。この時期には、茎生の葉は、新生の花序を囲んでいる(図5H)。茎生の葉でも、成長が進むと、GUS活性が減少した。一次芽には、GUS活性を認めず(図5I)、一方、強力なGUS染色が、ロゼット及び茎生の両方の葉の托葉において観察された(図5J、K)。
【実施例5】
【0140】
マイクロアレイ解析による、AtCHR12の発現と休止状態に関連する遺伝子との相関性
AtCHR12の作用様式に関する洞察を深めるため、及び下流に存在する可能性のある標的遺伝子を同定するために、マイクロアレイ解析を、Agilent社製の44K Arabidopsis3オリゴアレイを使用して実施した。表現型が目に見えるようになる直前の4週齢のAtCHR12ov植物から得た一時花序(芽及び花の分裂組織を含む)からのRNAを、野生型(生態型Ws)から得た対応する組織からのRNAと比較した。発現が異なる(p<0.001の場合)482個の遺伝子において、2倍超の発現の変化としては、わずか38個の遺伝子で上方制御(表1)が、且つ30個の遺伝子で下方制御(表2)が認められたにすぎない。最も上方制御された遺伝子は、AtCHR12(11倍)であり、これを、アレイ解析の質の内部対照として利用することができる。解析した9例のそれぞれにおいて、RT−PCRによって、マイクロアレイ解析中で観察された発現差異が確認された(図6)。大部分の遺伝子については、RNAブロットにおけるプローブハイブリダイゼーションは、マイクロアレイの結果の独立した確認を達成するには不適当であるとみなされた。これは、これらの遺伝子は、低い発現を示したか、それらのプローブが、その他の遺伝子とクロスハイブリダイズする恐れがあったからである。
【0141】
【表1】



【0142】
【表2】



【0143】
マイクロアレイ解析に基づいて同定した発現が異なる2つの遺伝子は、成長停止の表現型と容易に関連付けることができた:休止状態/オーキシン関連遺伝子。これらの遺伝子は、AtDRM1−1(At1g28330)及びAtDRM1−2(At2g33830)であり、それぞれ、3倍及び4.6倍の上方制御を示す。これら2つの遺伝子、即ち、At1g28330及びAt2g33830の場合、プローブハイブリダイゼーションが可能であり、発現差異もまた、RNAブロット解析によって確認された(データ示さず)。これら2つの遺伝子は、エンドウマメの休止状態関連遺伝子PsDRM1のシロイヌナズナ相同分子種である(Stafstrom, 1997 Plant Physiol 114, 1632-1632)。これらは、成長中の器官では抑制されること、及び休止状態の芽においては、比較的活性が高いことが示されている(Tatematsu, 2005 Plant Physiol 138, 757-766)。これらの発現の特徴をAtCHR12に関連付けるために、これら2つの遺伝子の発現を、AtCHR12ov植物及びatchr12植物の両方において解析した。野生型では、両方のAtDRM1の低い発現が、成長中の一次芽において、且つ高い発現が、腋芽において観察された(図7A)。AtCHR12ovでは、両方の遺伝子の発現は、腋芽又は葉よりも一次芽においてより顕著であり(図7A、C)これは、ATCHR12ovの一次花序におけるAtDRM1の高い発現が、活動性の花序から休止状態の花序への変化に関連がある可能性があることを示している。AtDRM1の発現レベルは、使用した2つの生態型(Ws及びColumbia)で異なる。より高いレベルの発現が、生態型Columbiaの場合、花序及び葉の両方において見られた(図7B、C)。対照的に、atchr12は、野生型Columbiaと比較して、花序及び葉の両方において、両方の遺伝子の低下した発現レベルを示した(図7B、C)。このことから、AtCHR12の発現レベルが、活発に成長する組織を休止状態様の組織に変える、植物の過程に関係することが確認される。
【0144】
結論
上記の実験は、シロイヌナズナのSNF2/Brahma型のATPアーゼ遺伝子であるAtCHR12が、特にストレス認識後に、成長を停止させる遺伝子の調節において、ある役割を担うことを示している。AtCHR12の発現調節は、休止状態関連遺伝子の発現の変化と相関し、ATCH12タンパク質は、植物における休止状態様の現象の確立に関与している可能性が大きい。これによって、AtCHR12が、環境的制限下であっても、植物の成長の柔軟な調節を可能にする、植物の応答レパートリーに関与する新規の遺伝子として確立される。
【実施例6】
【0145】
AtCHR12の成長停止プライミングは、DELLAによって制御される成長制限とは異なる
DELLAタンパク質は、植物の成長に関する制御機構における主要な要因である(Fleet and Sun, 2005, Curr. Opin. Plant Biol. 8, 77-85)。このタンパク質は、ジベレリン(GA)の成長増強効果に拮抗する細胞核の転写調節因子であると考えられている。植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)が、GAの作用を打ち消し、これは、環境からの不利な合図に対する植物の応答における主要な要因である(Himmelbach et al., 2003, Curr. Opin. Plant Biol. 6, 470-479)。最近になって、DELLAタンパク質が、塩分ストレス時のABA依存性の様式による成長制限の誘発に必須であると報告された。5つの遺伝子のうちの4つが下方制御されている、シロイヌナズナの「4倍DELLA変異体」の根の成長は、野生型植物の根の成長に比較して、塩のストレスによる抑制がより軽度であった(Achard et al., 2006, Science, 311, 91-94)。これは、atchr12変異体の塩のストレスに対する応答に類似し、DELLA及びATCHR12が、同一の経路で作用する可能性が高い。
【0146】
しかし、1又は10μM ABAを有する培地上で、インビトロで成長させたAtCHR12変異体の両方の型の実生は、ABAの根の成長又は開花時期に対する効果に関して、それらの野生型対照と比較して、何らかの差を示すことはなかった(データ示さず)。これは、DELLA変異体に関しては、報告されており(Achard et al.、2006、上記)、AtCHR12に関連する成長停止は、ABAには依存せず、DELLA媒介成長停止とは異なることを示している。成長停止のDELLA非依存性の機構が、塩のストレス時のDELLA変異体の不完全な抵抗性を説明することが示唆されている(Achard et al.、2006、上記)。DELLAによって制御される成長制限とAtCHR12に関連する成長停止のプライミングとの間の興味深い差は、機能獲得性のDELLA変異体が、低下したGA応答によって引き起こされる構成的な矮性の表現型を示す点である(Fu et al., 2001, Plant Cell, 13, 1791-1802)。対照的に、AtCHR12ov変異体及び遺伝子導入植物における成長制限は、ストレス依存性であり、可逆的である。
【実施例7】
【0147】
AtCHR12は、種子の休止状態に関与する
発明者らは、AtCHR12クロマチンリモデリング遺伝子が、発達中の種子及び乾燥種子において活性を有し、これは、種子の成熟又は休止状態の間の胚の成長停止に関与することを示していることを明らかにした。
【0148】
種子の休止状態には、2つの種類が認められる。一次休止状態(PD、primary dormancy)は、種子の発達の間に獲得され、成熟した、完全に水を吸収した状態の種子の発芽の停止を指す。二次休止状態(SD、secondary dormancy)は、一般に、散らばった、成熟した種子が、休眠状態を誘発する環境条件に特定の期間にわたり曝露される場合に生じる。
【0149】
AtCHR12の過剰発現は、一次休止状態に影響を与える
PDについては、過剰発現する変異体の採取直後の種子は、より高まった休止状態を示した。即ち、発芽の割合が低下し(野生型の±50%)、発芽の温度範囲がより狭まった(図11)。
【0150】
野生型と変異体との間の発芽の差は、室温での後熟により減少して、わずか約±12%の差となった。変異型種子が、低温での冷湿処理後に、野生型種子と同一の頻度で発芽したことから、変異型種子の発芽の低い割合は、種子の死滅に起因するものではなかった(図12)。
【0151】
AtCHR12の過剰発現は、二次休止状態に影響を与える
二次休止状態を、一次休止状態を経過した種子(6月齢)において、暗所で10日間インキュベートすることによって誘発した。暗所、20℃における湿気の多い状態でのインキュベーションは、その後の明所での発芽能力を減少させた。
【0152】
変異体において誘発した二次休止状態は、野生型種子の場合より強い(発芽の割合がより低い)(図13)。SD変異型種子の発芽能力は、暗所、4℃における冷湿処理2日後に完全に回復したが、野生型種子では完全には回復しなかった。これらのデータは、休止状態の循環の制御におけるクロマチンリモデリングの役割を示している。
【0153】
結論
AtCHR12並びにその変異体及び相同分子種等のクロマチンリモデリング遺伝子は、種子の発芽並びに/又は種子の休止状態、即ち、一次及び二次の両方の休止状態に関与するようである。したがって、こうした遺伝子を使用して、休止状態の維持及び/又は休止状態の循環を制御することができる植物及び種子を生成することができる。例えば、植物又は種子におけるCHR12遺伝子の(例えば、光により、温度により又は化学的に誘導可能なプロモーター下での)(過剰)発現を使用して、種子の休止状態、及び/又は休止状態の停止、及び/又は休止状態期間の長さの制御を、より強力な及び/又はより均一なものとすることができる。逆に、CHR12の遺伝子又は遺伝子ファミリーのサイレンシングを使用して、種子の休止状態を低減することができる。
【実施例8】
【0154】
実験手順
植物材料
Wassilijewskaja(Ws)の遺伝的背景におけるAtCHR12ov過剰発現変異体を、先に記載したEn−Iトウモロコシトランスポゾン系を使用して生成したアクティベーションタグ系統の集団において同定した(Marsch-Martinez et al., 2002, Plant Physiol. 129, 1544-1556)。約1700個の安定な単一コピーの挿入系統の集団(A. Pereira、未公開)から、すべての既知の又は予測されるクロマチンリモデリング遺伝子のゲノム配列(http://www.chromdb.org)に照らして、隣接配列を決定し、検索した。それぞれの場合において、転写領域並びに10kbの上流及び下流の配列を、Blast解析に含めた。機能損失性変異体であるatchr12、即ち、Columbia(Col−0)背景におけるSALK_105458系統は、J.R. Ecker及びthe Salk Institute of Genomics Analysis Laboratory(米国)によって生成され、NASCによって配給された(Scholl et al., 2000 Plant Physiol. 124, 1477-1480)。この系統には、単一の挿入が存在した。両方の変異体について、挿入に関してホモ接合のF3世代を使用した。ホモ接合性は、種子を、15mg/リットルのホスフィノトリシン−DL(AtCHR12ov)又は1リットルあたり50mgのカナマイシン(atchr12)を有するプレート上に蒔くことによって確認した。発芽を同期させるために、種子は、蒸留水中、4℃で3日間吸水させた。
【0155】
ストレス処置
ストレス処置を、土壌中又はMS固形培地上のいずれかで成長させた植物に対して行った。干ばつストレスを誘発するためには、植物を、Scotts社製のOsmocote肥料を補った、粘度及び泥炭の混合物を80%とパーライトを20%とを含む市販の配合土(Hortimea社製、Elst、オランダ)中で成長させた。急速な土壌の乾燥を避けるために、十分に大きく(直径9cm)及び深い(9cm)鉢を使用して、1つの鉢に6つの植物を成長させた。変異体を有する鉢と野生型を有する鉢とを、同一の受け皿上で相互に隣り合わせて置いた。発芽後は、植物を、22℃、16時間/8時間の明/暗サイクル、光度100μmol/m・秒及び相対湿度57〜80%を有する成長チャンバー内で成長させた。植物には、受け皿に、毎日給水した。3週齢(Ws背景)又は4週齢(Col−0背景)の植物を、水の供給を差し控えることによる進行性の干ばつストレスに提示した。
【0156】
熱ストレスのためには、3週齢(Ws背景)又は4週齢(Col−0背景)の植物を、37℃の成長チャンバー中に16時間置き、その後、回復のために22℃に戻した。両方の処置において、花の発達を、視覚的に評価した。個々の植物の茎の長さは、定規を使用して、底部から茎上の最初の花までの距離として測定した。根の伸長アッセイにおいては、種子の表面を滅菌してから、1%w/vスクロース及び0.5g/l MESを補った0.8%w/v寒天(Daishin;Duchefa社製、Haarlem、オランダ)、0.5×MS培地(Murashige and Skoog、Duchefa社製)、pH5.8上に蒔いた。暗所、4℃における3日間の低温処理後、実生を、22℃、16/8の明/暗サイクルに制御された成長チャンバー内で、垂直の位置で成長させた。3日齢の実生を、0、25、50、100又は150mM NaClを補ったプレートに移し、垂直の位置で成長させた。5日後に、20〜30個の実生の根の長さを測定した。熱処理は、プレート上で成長する3日齢の実生に対して実施した。これらは、37℃又は42℃で5時間インキュベーター内で直接加温した。22℃における5日間の回復後、根の長さを測定して、未処置の対照と比較した。
【0157】
PCR及びRT−PCRによる解析
AtCHR12ov変異体においては、T−DNAが、AtCHR12の転写開始部位の付近で組み込まれていることを、PCRによって、En−Iエレメントからのゲノムのプライマー(5'-CCAAAGTGACATCTCATGG-3'、配列番号6)及びプライマー(5'-CTTACCTTTTTTCTTGTAGTG-3'、配列番号7)を使用して確認した。これらのプライマーは、当初は、植物の隣接するDNAの配列決定のために使用されたものである(Marsch-Martinez et al., 2002, Plant Physiol. 129, 1544-1556)。atchr12変異体においては、T−DNAが、AtCHR12遺伝子の第1エクソン内に組み込まれていることを、T−DNA(LBb1)の左の境界からの遺伝子に特異的なプライマー(5'-GCCTCACCCTAGATTTTGATG-3'、配列番号8)及びプライマー(5'-GCGTGGACCGCTTGCTGCAACT-3'、配列番号9)を使用して確認した。DNA単離のための方法及びRT−PCR条件は、以前に記載されている(Mlynarova and Nap, 2003, Transgenic Res. 12, 45-57;Mlynarova et al., 2003, Plant Cell, 15, 2203-2217)。2マイクログラムの全RNAを使用して、cDNAの第1の鎖を、オリゴ(dT)プライマーを使用して合成した。cDNAを50倍に希釈して、最初に、ユビキチンプライマーを使用する増殖(32サイクル)のために使用して、cDNA試料の濃度を等しくした。その後、適切に希釈したcDNAを、遺伝子に特異的なプライマーを使用するPCR反応(35サイクル)のために使用した。対照遺伝子及び試験遺伝子に関する反応は、別々の試験管中ではあるが、平行して実施した。各遺伝子について、段階的に希釈したcDNAを得て、認められるPCR産物が、指数関数的に増幅する段階において生じることを確保するように調整した。一般に、臭化エチジウム染色産物を依然として与える、cDNAの最低量を得て、RT−PCRとした。産物は、1.2〜1.5%アガロースゲル上で可視化した。マイクロアレイのデータを確認するために使用したプライマーの配列を、配列番号10〜31に示し、プライマー対を、以下に示す:
配列番号10及び11−遺伝子At2g05540
配列番号12及び13−遺伝子At5g07370
配列番号14及び15−遺伝子At4g27280
配列番号16及び17−遺伝子At1g28330
配列番号18及び19−遺伝子At2g33830
配列番号20及び21−遺伝子At4g35770
配列番号22及び23−遺伝子At2g35310
配列番号24及び25−遺伝子At4g37610
配列番号26及び27−遺伝子At3g44260
配列番号28及び29−遺伝子At2g44840
配列番号30及び31−遺伝子ユビキチン。
【0158】
AtCHR12_tov遺伝子導入植物の生成
AtCHR12遺伝子の配列(At3g06010;4850bp、11個のイントロンを含む;TAIR、http://www.arabidopsis.org/)を、Phusion(商標)DNAポリメラーゼ(Finnzymes社製、フィンランド)を使用して、受託WsからのゲノムDNAからの増幅によって得た。完全長配列を、3セットのプライマーを用いて得た:配列1〜2290bpからの断片Iを増幅する5'-GGATCCTCATGAAGGCTCAGCAGCTCCAAGAG-3'であるCHRI(配列番号32)及び5'-CCTTCTAATTGATAGGATCGTAG-3'であるCHRIrev(配列番号33);配列2120〜3888bpからの断片IIを増幅する5'-GGCTATCCATTCAATACAAGAG-3'であるCHRII(配列番号34)及び5'-GGGTTCCAATCACTGTCAAG-3'であるCHRIIrev(配列番号35);配列3791〜4850bpからの断片IIIを増幅する5'-CAATTCAACGAGCCAGATTCTC-3'であるCHRIII(配列番号36)及び5'-CTCGAGTCATTTTCGTCTACTTCCAT-3'であるCHRIIIrev(配列番号37)。BamHI部位及びSstI部位(下線部)を、クローニングを目的とするPCRプライマーを介して導入した。すべての断片を、pGEM-Teasy(Promega社製)内にクローニングし、それらの整合性を、配列決定によって検証した。次いで、クローニングした断片を、遺伝子配列内に組み立てた。断片I(BamHI〜XbaI)を、断片II(XbaI〜PstI)及び断片III(PstI〜SstI)に融合させた。制限部位XbaIは、AtCHR12遺伝子中の2269位に存在し、PstIは、3853位におけるユニークな制限部位である。全遺伝子配列を、ジャガイモLhca3.St.1プロモーターに連結した(Nap et al., 1993, Plant Mol. Biol. 23, 605-612)。Gatewayの技術(Invitrogen社製)を使用して、全カセットを、ベクターpBnRGW に導入した(未公開)。このバイナリーベクターは、pB7GWIWG2(II)(http://www.psb.ugent.be/gateway/index.php)の骨格配列からなり、これに、pFLUAR 101からのnapinプロモーター−DsRFP−nosTカセット(Stuitje et al., 2003, Plant Biotechnol. J. 1, 301-309)、Gateway交換カセット及びnosTポリアデニル化配列が、XbaI−HindIII T−DNA断片を標準的なクローニングを用いて置換することによって導入されていた。最終的なバイナリーベクターを、アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58C1(pMP9)内に導入して、フローラルディップ法(floral dip method)に従ってシロイヌナズナ(受託Ws)の形質転換のために使用した(Clough and Bent, 1998, Plant J. 16, 735-743)。
【0159】
AtCHR12プロモーターのgusとの融合及び組織化学的GUSアッセイ
AtCHR12プロモーター(1480bp)を、受託WsからのゲノムDNAから、PCRを用いて、プライマー(配列番号38)5'-GTTAGTGGAAGCCTTTATGAGCC-3'及び(配列番号39)5'-GCCACCATGGCGGGAACTTG-3'を使用して単離した。PCR断片を、pGEM-Teasy内にクローニングして、配列決定によって検証し、その後、gus及びnosTポリアデニル化配列に連結した。pCHR12−gus−nosTカセットを、選択のために、napinプロモーター−DsRFP−nosTのカセットを含有するバイナリーベクターpBinPLUSの誘導体内にクローニングした(van Engelen et al., 1995, Transgenic Res. 4, 288-290)。得られたにバイナリープラスミドを、上記の記載に従って形質転換のために使用した。3つの独立した遺伝子導入系統を、GUS活性について組織化学的に解析した。試料を、100mMリン酸ナトリウム、pH7.0;10mM EDTA;0.5mM KFe[Cn];0.1%w/v Triton X-100及び1mM X-gluc(Duchefa社製)からなるGUS染色緩衝液(Jefferson et al., 1987, EMBO J. 6, 3901-3907)中で15分間真空浸潤し、37℃で6〜18時間インキュベートした。発達中の種子への基質のより良好な浸透を確保するために、長角果を、真空浸潤の前に針を用いて部分的に開いた。乾燥種子は、GUS緩衝液中で数分間吸水させた後、皮をはがし、37℃で一晩さらにインキュベートした。GUS染色を、Nikon SMZ-Uズーム1:10双眼顕微鏡又はNikon Optihot-2実体顕微鏡を用いて観察し、デジタルカメラ(Nikon coolpix 995)を使用して記録した。画像は、Paint Shop Pro9を用いて処理した。
【0160】
統計解析
変異型植物の応答が、それに対応する野生型植物と有意に異なるか否かを試験するために、2標本不等分散t検定を使用した。グラフ中、エラーバーは、2×標準誤差(SE)に等しい。これらは、平均値に加えて描かれており、これは、95%信頼区間にほぼ相当する(Streiner, 1996)。アスタリスクは、変異体の野生型植物と比較した応答の有意差、、P<0.05;**、P<0.005;***、P<0.001を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0161】
配列番号1:シロイヌナズナ(AtCHR12)からのATCHR12タンパク質のアミノ酸配列。アミノ酸406〜695は、SNF2ドメインを示し、アミノ酸748〜827は、ヘリカーゼ−Cドメインを示す。
配列番号2:AtCHR12遺伝子のcDNA。
配列番号3:AtCHR12遺伝子のORF。
配列番号4:生態型ColumbiaのAtCHR12遺伝子のゲノム配列。
配列番号5:AtCHR12遺伝子のプロモーター配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム中に組み込まれたキメラ遺伝子を含む遺伝子導入植物又は植物部分であって、前記キメラ遺伝子が、
(a)配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列;
(b)配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも70%のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列;
(c)(a)又は(b)の配列のセンス断片及び/又はアンチセンス断片
からなる群から選択される核酸配列に作動可能に連結している、植物細胞中で活性を示す転写調節配列を含むことを特徴とし、
1又は複数の生物的及び/又は非生物的なストレスへの曝露中に、非遺伝子導入植物又は植物部分と比較して、成長が改変される植物又は植物部分。
【請求項2】
成長が、ストレスが排除された後に正常な成長が再開するような可逆的な形で停止される、請求項1に記載の植物又は植物部分。
【請求項3】
一次花序、茎及び/若しくは腋枝の成長、又は地下貯蔵器官の発芽、又は種子の成熟若しくは休止状態の間の胚の成長が改変される、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
生物的及び/又は非生物的なストレスが、低温ストレス、熱ストレス、塩分、風、干ばつストレス、水の欠乏、浸水、金属ストレス、窒素ストレス、害虫又は病原体による損傷からなる群から選択される、請求項1〜3に記載の遺伝子導入植物。
【請求項5】
転写調節因子が、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、組織特異的プロモーター及び発生上調節されるプロモーターからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の植物。
【請求項6】
植物が、トウモロコシ(Zea)、イネ(Oryza)、コムギ(Triticum)、トマト(Lycopersicon)、ナス(Solanum)、オオムギ(Hordeum)、アブラナ(Brassica)、ダイズ(Glycine)、インゲンマメ(Phaseolus)、タビビトノキ(Avena)、モロコシ(Sorghum)、ワタ(Gossypium)、フダンソウ(Beta)、マキノゲヤシ(Lactuca)、ニンジン(Daucus)、オランダミツバ(Apium)、サツマイモ(Ipomoea)、キャッサバ(Manihot)、サトイモ(Colocasia)、ダイコン(Raphanus)、ヤマイモ(Dioscorea)、ヒマワリ(Helianthus)、及びイヌゴマ(Stachys)からなる群の属から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の植物。
【請求項7】
キメラ遺伝子を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の植物の種子、地下貯蔵器官、果実、葉又は花。
【請求項8】
ジャガイモの塊茎である、請求項6に記載の地下貯蔵器官。
【請求項9】
植物細胞中で活性を示すプロモーターを含むキメラ遺伝子であって、
(a)配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列;
(b)配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも98%のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列;
(c)(a)又は(b)の配列のセンス断片及び/又はアンチセンス断片
からなる群から選択される核酸配列に作動可能に連結しているキメラ遺伝子。
【請求項10】
請求項9に記載のキメラ遺伝子を含むベクター。
【請求項11】
改変された成長特性を有する遺伝子導入植物又は植物部分を生成するための、クロマチンリモデリングタンパク質をコードする核酸配列の使用であって、前記核酸配列が、
(a)配列番号1のタンパク質をコードする核酸配列;
(b)配列番号1に対して、全長にわたり、少なくとも70%のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列;
(c)(a)又は(b)の配列のうちの少なくとも15個の連続したヌクレオチドの断片
からなる群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項12】
改変された成長特性が、
(a)生物的及び/又は非生物的なストレスに依存する成長の停止又は遅延;
(b)地下貯蔵器官の休止状態様成長停止;
(c)葉野菜のとう立ちの遅延又は抑制;並びに
(d)種子の成熟又は種子の静止状態の間の胚の成長停止
からなる群のうちの1つ又は複数である、請求項13に記載の使用。
【請求項13】
植物の成長遅延、成長停止又は休止状態に関与する遺伝子を同定するための方法であって、
(a)配列番号1のタンパク質、又は配列番号1と全長にわたり少なくとも70%のアミノ酸同一性を含むタンパク質を発現し、1又は複数の生物的及び/又は非生物的なストレスへの曝露中に、非遺伝子導入植物又は植物部分と比較して、成長が改変される遺伝子導入植物又は植物部分を生成するステップと、
(b)非遺伝子導入対照と比較して、(a)の遺伝子導入植物の1又は複数の組織において異なって発現する遺伝子又は遺伝子転写物を同定するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−540822(P2009−540822A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516419(P2009−516419)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050297
【国際公開番号】WO2007/148970
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508375413)ワヘニンヘン ユニベルシテイト (1)
【氏名又は名称原語表記】WAGENINGEN UNIVERSITEIT
【Fターム(参考)】