植物の生育促進方法及びこれを用いて栽培された植物
【課題】植物の栽培コストを低減でき、植物の生育を早めることが可能な植物の生育促進方法を提供する。
【解決手段】植物の生育促進方法は、植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに、遅くとも収穫の7日前までに停止する。そして、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である。播種後の初期の期間にのみNO2を暴露することから、生育コストの低減が可能である。また、植物の生育の初期にNO2暴露を行うことで、その後の植物の生育も促進されるので、播種後から常時NO2雰囲気下で植物を生育させるのとほぼ同等の生育の促進が可能である。
【解決手段】植物の生育促進方法は、植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに、遅くとも収穫の7日前までに停止する。そして、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である。播種後の初期の期間にのみNO2を暴露することから、生育コストの低減が可能である。また、植物の生育の初期にNO2暴露を行うことで、その後の植物の生育も促進されるので、播種後から常時NO2雰囲気下で植物を生育させるのとほぼ同等の生育の促進が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育促進方法及びこれを用いて栽培された植物に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物、園芸作物等の収穫量を増加させるために、植物の生育を促進させる試みが行われている。例えば、植物の生育環境をNOx濃度5〜200ppbに調整して、植物の生育を促進する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−270098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、播種後から常時NOx雰囲気下で栽培しているため、栽培コストが高くなるとともに、栽培の手間もかかる。
【0005】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、植物の栽培コストを低減でき、植物の生育を早めることが可能な植物の生育促進方法及びこれを用いて栽培された植物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る植物の生育促進方法は、
植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに遅くとも収穫の7日前までに停止し、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である、
ことを特徴とする。
【0007】
また、発芽した後にNO2を暴露してもよい。
【0008】
また、前記NO2濃度を20ppb以上200ppb以下に維持することが好ましい。
【0009】
また、閉鎖空間内で一定濃度のNO2を暴露することが好ましい。
【0010】
また、NO2の暴露を停止した後、植物の苗を植え替えてもよい。
【0011】
また、前記閉鎖空間内に設置されたNO2濃度測定装置にて前記閉鎖空間内のNO2濃度を測定し、
測定したNO2濃度に基づいてNO2ボンベから前記閉鎖空間内に供給するNO2供給量を制御することが好ましい。
【0012】
また、NO2が還元されて生じたNOを含有する空気を収集して酸化剤を通過させ、NOをNO2に酸化して前記閉鎖空間内に供給してもよい。
【0013】
また、ナス科の植物の種子を播いてもよい。
【0014】
また、トマトの種子を播いてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様に係る植物は、
本発明の第1の態様に係る植物の生育促進方法により栽培された、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る植物の生育促進方法では、播種して遅くとも2週間以内に所定濃度のNO2を暴露し、少なくとも1週間以上NO2を継続して暴露している。播種後の初期の期間にのみNO2を暴露することから、NO2供給に要するコストを低減できるため、栽培コストの低減を実現できる。
【0017】
また、植物の生育の初期にNO2暴露を行うことで、その後の植物の生育も促進されるので、播種後から常時NO2雰囲気下で植物を栽培するのとほぼ同等の生育の促進が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】NO2供給機構の概略構成図である。
【図2】NO酸化機構の概略構成図である。
【図3】NO2供給機構及びNO酸化機構を組み合わせた概略構成図である。
【図4】実施例1における播種後日数と開花した花の数との関係を示すグラフである。
【図5】比較例1における播種後日数と開花した花の数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係る植物の生育促進方法は、植物の種子を播き、播種後遅くとも14日(2週間)以内にNO2の暴露を開始するとともに遅くとも収穫の7日前(1週間前)までにNO2の暴露を停止する。そして、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である。種子を播種した後の初期の期間のみにNO2を暴露することにより、植物の生育を促進させることを成しえる。
【0020】
植物の種子は、植物の種類によるが、播種しておよそ2週間以内に発芽し、芽が地上に現れる。発芽後にNO2を所定期間暴露することが有効であり、NO2の暴露を停止した後でも植物の生育が促進され得る。このため、発芽後にNO2の暴露を開始するとよい。NO2の暴露は少なくとも7日以上行うとよい。7日未満だと、十分な植物の生育の促進が成されないおそれがある。なお、NO2の暴露は、植物の実等を収穫するまで行うと、NO2供給のコストがかかるため、また、一定期間のNO2の暴露によって後の植物の生育が促進され得るため、一定期間経過後はNO2の暴露を停止する。このため、遅くとも収穫の7日前までにNO2の暴露を停止するとよい。
【0021】
NO2の暴露期間は、好ましくは1週間から2週間、より好ましくは2週間から3週間、更に好ましくは3週間から4週間である。なお、NO2の暴露期間は、植物の種類により播種から収穫までの期間が異なるため適宜設定すればよく、例えば、トマトの栽培では2週間程度行うとよい。
【0022】
NO2濃度を一定に維持して植物を栽培することが好ましい。NO2濃度は20ppb以上200ppb以下であることが好ましい。NO2濃度が20ppbよりも低い場合、植物の生育を十分に促進させることができず、また、NO2濃度が200ppbを超える場合、植物の生育促進を阻害するおそれがあるためである。NO2濃度は、栽培する植物に応じ、20ppb以上200ppb以下の範囲で適宜設定される。NO2濃度の好適な範囲は、植物の種類によって異なるが、上記範囲内でより高い濃度であることが生育促進に好適に作用するので、50ppb以上200ppb以下であることが好ましく、100ppb以上200ppb以下であることがより好ましい。
【0023】
NO2濃度を一定に維持して植物を栽培すべく、ビニールハウスや温室、植物工場などの閉鎖空間内にて植物を栽培することが好ましい。閉鎖空間内で栽培することで、NO2濃度を一定に管理することが容易となる。一定濃度のNO2環境下で植物を栽培するには、一例として、図1に示すNO2供給機構を用いればよい。
【0024】
NO2濃度測定装置11は温室等の閉鎖空間内のNO2濃度を常時測定する装置である。NO2ボンベ13はNO2が充填されたボンベである。NO2ボンベ13にはNO2供給路15が接続され、NO2供給路15には供給路の閉鎖・開放を行う弁14が設置されている。また、NO2濃度測定装置11及び弁14は、電気通信的に制御装置12に接続されている。
【0025】
閉鎖空間内のNO2濃度はNO2濃度測定装置11で常時測定され、このNO2濃度の情報が制御装置12に送信される。そして、制御装置12は送信されたNO2濃度に基づいて、弁14の駆動を行う。即ち、設定されたNO2濃度よりも高い場合、弁14がNO2供給路15を閉鎖するよう制御し、一方、設定されたNO2濃度よりも低い場合、弁14がNO2供給路15を開放するように制御する。これにより、閉鎖空間内のNO2濃度を一定の濃度に維持することができる。
【0026】
また、閉鎖空間に供給したNO2は、紫外線等によってNOに還元される。NOは植物の生育促進を阻害する要因になり得るため、NOを除去することが好ましい。例えば、図2に示すNO酸化機構を用いればよい。
【0027】
ファン21は不図示のモータ等で回転し、NO2が還元されたNOを含む空気を収集する装置である。空気の収集ができればファン21に限られず、種々の装置が用いられる。キャニスター22は、内部にNOを酸化させる酸化剤を内包する装置である。酸化剤として、NOをNO2に酸化し得るものであれば特に制限はなく、例えば過マンガン酸カリウム等が挙げられる。このように、NOを含む空気を収集し、酸化剤を通過させることで、NOをNO2にして、NO2を含む空気を再度閉鎖空間内に供給してもよい。
【0028】
また、図3に示すように、NO2供給機構とNO酸化機構とを組み合わせて行ってもよい。図3では、キャニスター22の後流側に三方弁23と活性炭カラム24及びNO2供給路25を備える。活性炭カラム24はNO2を吸着する活性炭を内包している。
【0029】
三方弁23の駆動は制御装置12によって制御され、キャニスター22を通過した空気は三方弁23によって、活性炭カラム24及びNO2供給路25のいずれかに流れる。制御装置12は、NO2濃度測定装置11で測定された閉鎖空間内のNO2濃度に基づいて、弁14及び三方弁23を制御し、閉鎖空間内へのNO2の供給を制御する。
【0030】
すなわち、閉鎖空間内のNO2濃度が設定値より低い場合、制御装置12は、空気がNO2供給路へ流れるように三方弁23を制御する。これにより、キャニスター22を通過し、NOが酸化されたNO2を含む空気が閉鎖空間内に供給される。一方、閉鎖空間内のNO2濃度が設定値より高い場合、制御装置12は、空気が活性炭カラム24へ流れるように三方弁23を制御する。これにより、キャニスター22を通過し、NOが酸化されて生成したNO2を含む空気は、NO2が活性炭に吸着され、NO2が除去された空気が活性炭カラム24の空気供給孔から閉鎖空間内に供給される。
【0031】
以上の機構を用いることで、植物の生育を阻害するおそれのあるNOをNO2に変換するとともに、変換されたNO2の閉鎖空間への供給及びNO2ボンベから閉鎖空間へのNO2供給を制御する。これにより、NO2を無駄なく利用して、閉鎖空間内のNO2濃度を一定に維持し、植物を栽培することができる。
【0032】
本実施に係る植物の生育促進方法では、植物の種子を播いた後の初期の期間のみNO2を暴露することにより、暴露期間中のみならずその後の植物の生育も促進される。播種後、常時NO2雰囲気下で栽培しないため、常時NO2雰囲気下で栽培する場合に比べてNO2供給量を低減でき、NO2供給に要するコストを低減できる。
【0033】
NO2暴露後、植物の植え替えを行ってもよい。植物が小さいときにのみNO2暴露することから、大型のビニールハウスや温室等が不要となり、コンパクトな設備で行うことができる。このため、設備コストも低減できる。
【0034】
そして、植物の生育が促進されるため、野菜や果実、花卉等の早期収穫が実現できる。更に、NO2を暴露せずに栽培した場合に比べ、一の植物体からより多くの果実等を実らせることができるため、果実等の収穫量の向上も実現できる。
【0035】
このように、NO2供給コスト及び設備コストが低減でき、植物の栽培コストの低減ができるにも関わらず、早期の収穫、及び、収穫量の増大をも成しえる。
【0036】
栽培する植物の種類ついては特に限定されず、トマト・ナス・ピーマン等の果菜類、ほうれん草・レタスなどの葉菜類、ダイコン・ニンジンなどの根菜類、蚕豆・インゲンなどの豆類等からなる野菜類、みかん・なし・サクランボなどの果実類、草花やラン等の花卉類など種々の種子植物の栽培が可能である。
【実施例】
【0037】
ナス科の植物であるトマトの種子を播いた後、NO2暴露した場合とNO2暴露しなかった場合について比較検証を行った。
【0038】
(実施例1)
50個のポットに培養土(商品名:ジフィミックス(タキイ株式会社製))を入れ、これにトマト(Solanum lycopersicum L.cv.Micro−Tom)の種子をそれぞれ播いた。そして、NO2濃度5ppm以下のチャンバー内で発芽させた。なお、栽培条件は以下の通りである。
光条件:自然光
湿度:70%
温度:23℃
CO2濃度:380ppm
NO2濃度:5ppm以下
【0039】
種子を播いて2週間後、半数の25個のポットをNO2暴露チャンバー内に移し、NO2雰囲気環境下にて栽培した。NO2暴露チャンバー内では、上述したNO2供給機構及びNO酸化機構を組み合わせて、NO2濃度を50ppbに維持し、トマトを栽培した。その他の栽培条件は、NO2濃度以外は上記と同様である。NO2暴露期間は2週間(14日間)とした。
【0040】
また、対照実験として、残りの25個のポットをそのままの状態、すなわち5ppm以下のNO2濃度環境下で2週間栽培した。
【0041】
それぞれの栽培を2週間行った後、双方を5ppb以下の環境下で栽培を続けた。そして、播種後からトマトの開花までの日数及び開花した花の数を計測した。
【0042】
実験例におけるトマトの開花までの日数を表1に、トマトの花数を図4にそれぞれ示す。表1及び図4の+NO2がNO2暴露した場合、−NO2がNO2暴露しなかった場合を示している。
【0043】
【表1】
【0044】
開花までの日数は、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培すると、5日ほど開花が早まった。また、花数についても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培した場合では3〜4割程度増加している。花数が増えることで、実るトマトの数も増えることから、早期の収穫及び収穫量の向上を実現できることがわかった。
【0045】
(比較例1)
NO2暴露期間を播種後2週間目から収穫時まで(96日目まで)とした以外は、上記実施例1と同様の条件でトマトの栽培を行い(即ち、NO2暴露を開始してから収穫までNO2を停止せずに栽培を行い)、播種後からトマトの開花までの日数及び開花した花の数を計測した。また、上記と同様の条件下で対照実験も行った。
【0046】
比較例1におけるトマトの開花までの日数を表2に、トマトの花数を図5にそれぞれ示す。表2及び図5の+NO2がNO2暴露した場合、−NO2がNO2暴露しなかった場合を示している。
【0047】
【表2】
【0048】
比較例1においても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培すると、開花までの日数が3日ほど早まっている。また、花数についても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培した場合では3〜4割程度増加している。
【0049】
しかし、播種後2週間目から4週間目までNO2暴露した実施例1と播種後2週間目から収穫時(96日目)まで継続してNO2暴露した比較例1とを比べると、それぞれの対照実験との開花までの日数、花数の増加率にさほど変化はないことから、トマトの栽培に関しては、NO2の暴露期間は播種後2週間目から4週間目までの期間(2週間)で行えば、トマトの生育を促進させ得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る植物の生育促進方法では、植物を早期に成長させ、また、果実等の数が増える。したがって、果物や野菜、花等の栽培に利用することで、農作物等の早期収穫及び収穫量の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0051】
11 NO2濃度測定装置
12 制御装置
13 NO2ボンベ
14 弁
15 NO2供給路
21 ファン
22 キャニスター
23 三方弁
24 活性炭カラム
25 NO2供給路
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育促進方法及びこれを用いて栽培された植物に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物、園芸作物等の収穫量を増加させるために、植物の生育を促進させる試みが行われている。例えば、植物の生育環境をNOx濃度5〜200ppbに調整して、植物の生育を促進する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−270098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、播種後から常時NOx雰囲気下で栽培しているため、栽培コストが高くなるとともに、栽培の手間もかかる。
【0005】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、植物の栽培コストを低減でき、植物の生育を早めることが可能な植物の生育促進方法及びこれを用いて栽培された植物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る植物の生育促進方法は、
植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに遅くとも収穫の7日前までに停止し、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である、
ことを特徴とする。
【0007】
また、発芽した後にNO2を暴露してもよい。
【0008】
また、前記NO2濃度を20ppb以上200ppb以下に維持することが好ましい。
【0009】
また、閉鎖空間内で一定濃度のNO2を暴露することが好ましい。
【0010】
また、NO2の暴露を停止した後、植物の苗を植え替えてもよい。
【0011】
また、前記閉鎖空間内に設置されたNO2濃度測定装置にて前記閉鎖空間内のNO2濃度を測定し、
測定したNO2濃度に基づいてNO2ボンベから前記閉鎖空間内に供給するNO2供給量を制御することが好ましい。
【0012】
また、NO2が還元されて生じたNOを含有する空気を収集して酸化剤を通過させ、NOをNO2に酸化して前記閉鎖空間内に供給してもよい。
【0013】
また、ナス科の植物の種子を播いてもよい。
【0014】
また、トマトの種子を播いてもよい。
【0015】
本発明の第2の態様に係る植物は、
本発明の第1の態様に係る植物の生育促進方法により栽培された、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る植物の生育促進方法では、播種して遅くとも2週間以内に所定濃度のNO2を暴露し、少なくとも1週間以上NO2を継続して暴露している。播種後の初期の期間にのみNO2を暴露することから、NO2供給に要するコストを低減できるため、栽培コストの低減を実現できる。
【0017】
また、植物の生育の初期にNO2暴露を行うことで、その後の植物の生育も促進されるので、播種後から常時NO2雰囲気下で植物を栽培するのとほぼ同等の生育の促進が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】NO2供給機構の概略構成図である。
【図2】NO酸化機構の概略構成図である。
【図3】NO2供給機構及びNO酸化機構を組み合わせた概略構成図である。
【図4】実施例1における播種後日数と開花した花の数との関係を示すグラフである。
【図5】比較例1における播種後日数と開花した花の数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係る植物の生育促進方法は、植物の種子を播き、播種後遅くとも14日(2週間)以内にNO2の暴露を開始するとともに遅くとも収穫の7日前(1週間前)までにNO2の暴露を停止する。そして、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である。種子を播種した後の初期の期間のみにNO2を暴露することにより、植物の生育を促進させることを成しえる。
【0020】
植物の種子は、植物の種類によるが、播種しておよそ2週間以内に発芽し、芽が地上に現れる。発芽後にNO2を所定期間暴露することが有効であり、NO2の暴露を停止した後でも植物の生育が促進され得る。このため、発芽後にNO2の暴露を開始するとよい。NO2の暴露は少なくとも7日以上行うとよい。7日未満だと、十分な植物の生育の促進が成されないおそれがある。なお、NO2の暴露は、植物の実等を収穫するまで行うと、NO2供給のコストがかかるため、また、一定期間のNO2の暴露によって後の植物の生育が促進され得るため、一定期間経過後はNO2の暴露を停止する。このため、遅くとも収穫の7日前までにNO2の暴露を停止するとよい。
【0021】
NO2の暴露期間は、好ましくは1週間から2週間、より好ましくは2週間から3週間、更に好ましくは3週間から4週間である。なお、NO2の暴露期間は、植物の種類により播種から収穫までの期間が異なるため適宜設定すればよく、例えば、トマトの栽培では2週間程度行うとよい。
【0022】
NO2濃度を一定に維持して植物を栽培することが好ましい。NO2濃度は20ppb以上200ppb以下であることが好ましい。NO2濃度が20ppbよりも低い場合、植物の生育を十分に促進させることができず、また、NO2濃度が200ppbを超える場合、植物の生育促進を阻害するおそれがあるためである。NO2濃度は、栽培する植物に応じ、20ppb以上200ppb以下の範囲で適宜設定される。NO2濃度の好適な範囲は、植物の種類によって異なるが、上記範囲内でより高い濃度であることが生育促進に好適に作用するので、50ppb以上200ppb以下であることが好ましく、100ppb以上200ppb以下であることがより好ましい。
【0023】
NO2濃度を一定に維持して植物を栽培すべく、ビニールハウスや温室、植物工場などの閉鎖空間内にて植物を栽培することが好ましい。閉鎖空間内で栽培することで、NO2濃度を一定に管理することが容易となる。一定濃度のNO2環境下で植物を栽培するには、一例として、図1に示すNO2供給機構を用いればよい。
【0024】
NO2濃度測定装置11は温室等の閉鎖空間内のNO2濃度を常時測定する装置である。NO2ボンベ13はNO2が充填されたボンベである。NO2ボンベ13にはNO2供給路15が接続され、NO2供給路15には供給路の閉鎖・開放を行う弁14が設置されている。また、NO2濃度測定装置11及び弁14は、電気通信的に制御装置12に接続されている。
【0025】
閉鎖空間内のNO2濃度はNO2濃度測定装置11で常時測定され、このNO2濃度の情報が制御装置12に送信される。そして、制御装置12は送信されたNO2濃度に基づいて、弁14の駆動を行う。即ち、設定されたNO2濃度よりも高い場合、弁14がNO2供給路15を閉鎖するよう制御し、一方、設定されたNO2濃度よりも低い場合、弁14がNO2供給路15を開放するように制御する。これにより、閉鎖空間内のNO2濃度を一定の濃度に維持することができる。
【0026】
また、閉鎖空間に供給したNO2は、紫外線等によってNOに還元される。NOは植物の生育促進を阻害する要因になり得るため、NOを除去することが好ましい。例えば、図2に示すNO酸化機構を用いればよい。
【0027】
ファン21は不図示のモータ等で回転し、NO2が還元されたNOを含む空気を収集する装置である。空気の収集ができればファン21に限られず、種々の装置が用いられる。キャニスター22は、内部にNOを酸化させる酸化剤を内包する装置である。酸化剤として、NOをNO2に酸化し得るものであれば特に制限はなく、例えば過マンガン酸カリウム等が挙げられる。このように、NOを含む空気を収集し、酸化剤を通過させることで、NOをNO2にして、NO2を含む空気を再度閉鎖空間内に供給してもよい。
【0028】
また、図3に示すように、NO2供給機構とNO酸化機構とを組み合わせて行ってもよい。図3では、キャニスター22の後流側に三方弁23と活性炭カラム24及びNO2供給路25を備える。活性炭カラム24はNO2を吸着する活性炭を内包している。
【0029】
三方弁23の駆動は制御装置12によって制御され、キャニスター22を通過した空気は三方弁23によって、活性炭カラム24及びNO2供給路25のいずれかに流れる。制御装置12は、NO2濃度測定装置11で測定された閉鎖空間内のNO2濃度に基づいて、弁14及び三方弁23を制御し、閉鎖空間内へのNO2の供給を制御する。
【0030】
すなわち、閉鎖空間内のNO2濃度が設定値より低い場合、制御装置12は、空気がNO2供給路へ流れるように三方弁23を制御する。これにより、キャニスター22を通過し、NOが酸化されたNO2を含む空気が閉鎖空間内に供給される。一方、閉鎖空間内のNO2濃度が設定値より高い場合、制御装置12は、空気が活性炭カラム24へ流れるように三方弁23を制御する。これにより、キャニスター22を通過し、NOが酸化されて生成したNO2を含む空気は、NO2が活性炭に吸着され、NO2が除去された空気が活性炭カラム24の空気供給孔から閉鎖空間内に供給される。
【0031】
以上の機構を用いることで、植物の生育を阻害するおそれのあるNOをNO2に変換するとともに、変換されたNO2の閉鎖空間への供給及びNO2ボンベから閉鎖空間へのNO2供給を制御する。これにより、NO2を無駄なく利用して、閉鎖空間内のNO2濃度を一定に維持し、植物を栽培することができる。
【0032】
本実施に係る植物の生育促進方法では、植物の種子を播いた後の初期の期間のみNO2を暴露することにより、暴露期間中のみならずその後の植物の生育も促進される。播種後、常時NO2雰囲気下で栽培しないため、常時NO2雰囲気下で栽培する場合に比べてNO2供給量を低減でき、NO2供給に要するコストを低減できる。
【0033】
NO2暴露後、植物の植え替えを行ってもよい。植物が小さいときにのみNO2暴露することから、大型のビニールハウスや温室等が不要となり、コンパクトな設備で行うことができる。このため、設備コストも低減できる。
【0034】
そして、植物の生育が促進されるため、野菜や果実、花卉等の早期収穫が実現できる。更に、NO2を暴露せずに栽培した場合に比べ、一の植物体からより多くの果実等を実らせることができるため、果実等の収穫量の向上も実現できる。
【0035】
このように、NO2供給コスト及び設備コストが低減でき、植物の栽培コストの低減ができるにも関わらず、早期の収穫、及び、収穫量の増大をも成しえる。
【0036】
栽培する植物の種類ついては特に限定されず、トマト・ナス・ピーマン等の果菜類、ほうれん草・レタスなどの葉菜類、ダイコン・ニンジンなどの根菜類、蚕豆・インゲンなどの豆類等からなる野菜類、みかん・なし・サクランボなどの果実類、草花やラン等の花卉類など種々の種子植物の栽培が可能である。
【実施例】
【0037】
ナス科の植物であるトマトの種子を播いた後、NO2暴露した場合とNO2暴露しなかった場合について比較検証を行った。
【0038】
(実施例1)
50個のポットに培養土(商品名:ジフィミックス(タキイ株式会社製))を入れ、これにトマト(Solanum lycopersicum L.cv.Micro−Tom)の種子をそれぞれ播いた。そして、NO2濃度5ppm以下のチャンバー内で発芽させた。なお、栽培条件は以下の通りである。
光条件:自然光
湿度:70%
温度:23℃
CO2濃度:380ppm
NO2濃度:5ppm以下
【0039】
種子を播いて2週間後、半数の25個のポットをNO2暴露チャンバー内に移し、NO2雰囲気環境下にて栽培した。NO2暴露チャンバー内では、上述したNO2供給機構及びNO酸化機構を組み合わせて、NO2濃度を50ppbに維持し、トマトを栽培した。その他の栽培条件は、NO2濃度以外は上記と同様である。NO2暴露期間は2週間(14日間)とした。
【0040】
また、対照実験として、残りの25個のポットをそのままの状態、すなわち5ppm以下のNO2濃度環境下で2週間栽培した。
【0041】
それぞれの栽培を2週間行った後、双方を5ppb以下の環境下で栽培を続けた。そして、播種後からトマトの開花までの日数及び開花した花の数を計測した。
【0042】
実験例におけるトマトの開花までの日数を表1に、トマトの花数を図4にそれぞれ示す。表1及び図4の+NO2がNO2暴露した場合、−NO2がNO2暴露しなかった場合を示している。
【0043】
【表1】
【0044】
開花までの日数は、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培すると、5日ほど開花が早まった。また、花数についても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培した場合では3〜4割程度増加している。花数が増えることで、実るトマトの数も増えることから、早期の収穫及び収穫量の向上を実現できることがわかった。
【0045】
(比較例1)
NO2暴露期間を播種後2週間目から収穫時まで(96日目まで)とした以外は、上記実施例1と同様の条件でトマトの栽培を行い(即ち、NO2暴露を開始してから収穫までNO2を停止せずに栽培を行い)、播種後からトマトの開花までの日数及び開花した花の数を計測した。また、上記と同様の条件下で対照実験も行った。
【0046】
比較例1におけるトマトの開花までの日数を表2に、トマトの花数を図5にそれぞれ示す。表2及び図5の+NO2がNO2暴露した場合、−NO2がNO2暴露しなかった場合を示している。
【0047】
【表2】
【0048】
比較例1においても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培すると、開花までの日数が3日ほど早まっている。また、花数についても、NO2を暴露しなかった場合に比べ、NO2を暴露して栽培した場合では3〜4割程度増加している。
【0049】
しかし、播種後2週間目から4週間目までNO2暴露した実施例1と播種後2週間目から収穫時(96日目)まで継続してNO2暴露した比較例1とを比べると、それぞれの対照実験との開花までの日数、花数の増加率にさほど変化はないことから、トマトの栽培に関しては、NO2の暴露期間は播種後2週間目から4週間目までの期間(2週間)で行えば、トマトの生育を促進させ得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る植物の生育促進方法では、植物を早期に成長させ、また、果実等の数が増える。したがって、果物や野菜、花等の栽培に利用することで、農作物等の早期収穫及び収穫量の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0051】
11 NO2濃度測定装置
12 制御装置
13 NO2ボンベ
14 弁
15 NO2供給路
21 ファン
22 キャニスター
23 三方弁
24 活性炭カラム
25 NO2供給路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに遅くとも収穫の7日前までに停止し、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である、
ことを特徴とする植物の生育促進方法。
【請求項2】
発芽した後にNO2を暴露する、
ことを特徴とする請求項1に記載の植物の生育促進方法。
【請求項3】
前記NO2濃度を20ppb以上200ppb以下に維持する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物の生育促進方法。
【請求項4】
閉鎖空間内で一定濃度のNO2を暴露する、
ことを特徴とする請求項3に記載の植物の生育促進方法。
【請求項5】
NO2の暴露を停止した後、植物の苗を植え替える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項6】
前記閉鎖空間内に設置されたNO2濃度測定装置にて前記閉鎖空間内のNO2濃度を測定し、
測定したNO2濃度に基づいてNO2ボンベから前記閉鎖空間内に供給するNO2供給量を制御する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の植物の生育促進方法。
【請求項7】
NO2が還元されて生じたNOを含有する空気を収集して酸化剤を通過させ、NOをNO2に酸化して前記閉鎖空間内に供給する、
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項8】
ナス科の植物の種子を播く、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項9】
トマトの種子を播く、
ことを特徴とする請求項8に記載の植物の生育促進方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法により栽培された、
ことを特徴とする植物。
【請求項1】
植物の種子を播き、NO2の暴露を播種後遅くとも14日以内に開始するとともに遅くとも収穫の7日前までに停止し、NO2の暴露期間が継続して7日以上28日以下である、
ことを特徴とする植物の生育促進方法。
【請求項2】
発芽した後にNO2を暴露する、
ことを特徴とする請求項1に記載の植物の生育促進方法。
【請求項3】
前記NO2濃度を20ppb以上200ppb以下に維持する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物の生育促進方法。
【請求項4】
閉鎖空間内で一定濃度のNO2を暴露する、
ことを特徴とする請求項3に記載の植物の生育促進方法。
【請求項5】
NO2の暴露を停止した後、植物の苗を植え替える、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項6】
前記閉鎖空間内に設置されたNO2濃度測定装置にて前記閉鎖空間内のNO2濃度を測定し、
測定したNO2濃度に基づいてNO2ボンベから前記閉鎖空間内に供給するNO2供給量を制御する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の植物の生育促進方法。
【請求項7】
NO2が還元されて生じたNOを含有する空気を収集して酸化剤を通過させ、NOをNO2に酸化して前記閉鎖空間内に供給する、
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項8】
ナス科の植物の種子を播く、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法。
【請求項9】
トマトの種子を播く、
ことを特徴とする請求項8に記載の植物の生育促進方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の植物の生育促進方法により栽培された、
ことを特徴とする植物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−235748(P2012−235748A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107584(P2011−107584)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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