説明

植物ウイルスコートタンパク質、ペプチドリンカーおよびリコンビナントタンパク質から成る複数の融合タンパク質を含む植物ウイルス粒子、およびタンパク質精製のためのこのような植物ウイルス粒子の使用

複数の融合タンパク質分子を含むウイルス粒子またはウイルス様粒子を用いて、目的のタンパク質を精製する方法であって、該融合タンパク質が、次の融合タンパク質ドメイン:(i)植物ウイルスコートタンパク質、(ii)リコンビナントタンパク質、および(iii)場合により、該ウイルスコートタンパク質および該リコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーを含み、ここにおいて、該ウイルス粒子の形成に、フリーのウイルスコートタンパク質を必要としない方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコンビナント植物ウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を含むアフィニティーマトリックスを用いて目的のタンパク質をアフィニティー精製する方法に関する。本発明は、更に、アフィニティーマトリックスおよびリコンビナントウイルス粒子に関するが、それによって、リコンビナントウイルス粒子は、それらの表面上の一つまたはそれを超えるリコンビナントタンパク質を暴露する。本発明は、更に、これらリコンビナントウイルス粒子の構成単位としての融合タンパク質;その融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチド;およびこのポリヌクレオチドを含む植物、植物組織および植物細胞に関する。本発明は、更に、このアフィニティーマトリックスを製造する方法、およびこれらリコンビナントウイルス粒子を製造する方法に関する。本発明は、更に、目的のタンパク質をアフィニティー精製するための、この融合タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生産物収率に関して最適化された微生物タンパク質発現系において、90%までの全生産費用が、それ自体の生産のための経費よりもむしろ、宿主からの目的のタンパク質の精製に関する費用であるということは知られている。タンパク質生産をより経済的にするために、目的のタンパク質または目的の非タンパク質性低分子を、他の混入成分から迅速且つ安価に分離させるであろう戦略が要求される。
【0003】
アフィニティー精製による目的のタンパク質の精製のために、植物ウイルス粒子の表面に結合した短いペプチド(例えば、FLAG標識)を有する植物ウイルス粒子を用いることが考えられた(WO02/068927号)。しかしながら、その先行技術の方法では、精製される目的のタンパク質を、ウイルス粒子の表面に結合したペプチドに結合可能である一本鎖抗体または他の精製標識などのタンパク質に融合させる必要がある。したがって、精製されるタンパク質をアフィニティー精製工程後に切断する必要があるが、それは、免れたい追加の方法工程である。
【0004】
抗体および抗体誘導体は、現在開発中の生物医薬製品の約20%を構成している。抗体の精製は、全生産費用の50〜80%を占める(概説については、Roque et al., 2004, Biotechnol. Prog., 20:639-654)。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からのプロテインAは、免疫グロブリン精製方法においてアフィニティータンパク質として広く用いられている(概説については、Jungbauer & Hahn, 2004, Curr. Opin. Drug. Disc. & Dev., 7:248-256)。プロテインAは、免疫グロブリンのFcドメイン(Lindmark et al., 1983, J. Immunol. Methods, 62:1-13; Gouda, et al., 1998, Biochemistry, 37:129-136)と、主に疎水性相互作用(Dowd et al., 1998, Nat. Biotechnol., 16:190-195)によって可逆的に相互作用する。プロテインAの高い安定性および選択性は、それを、免疫グロブリン精製に好ましい包括的リガンドにする。市場用の主なプロテインA源は、大腸菌(E.coli)で生産されるリコンビナントプロテインAであった(Duggleby & Jones, 1983, Nucleic Acids Res., 11:3065-3076; Engel et al., 1992, Protein Expr. Purif., 3:108-113)。プロテインAでのアフィニティー精製によって抗体を精製する先行技術方法では、最初に、プロテインAを発現させ且つ精製後、セファロースなどのマトリックスに連結させる必要があり、次に、それを、抗体のアフィニティー精製に用いる。したがって、アフィニティーマトリックスの製造は、多数の工程を必要とするので、労力を要するし且つ高価である。アフィニティーマトリックスの費用のために、アフィニティーマトリックスは、典型的に、数回の精製実験に用いられて、同じアフィニティーマトリックス上で精製された逐次的試料間に混入のリスクをもたらす。したがって、抗体精製のためのより安価で且つ容易に製造可能なアフィニティーマトリックスが、大いに要求される。このような安価なアフィニティーマトリックスは、混入リスクを免れる使い捨てのマトリックスでありうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、目的のタンパク質をアフィニティー精製する方法であって、目的のタンパク質について、アフィニティー精製工程後に切断工程を行う必要がない方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、経済的で且つ容易に利用可能なアフィニティーマトリックスを用いた、治療的抗体またはそれらの融合タンパク質などの免疫グロブリンを精製する方法を提供することである。本発明の別の目的は、ヒトまたは他の動物の病原体の混入リスクを伴うことなく、治療的抗体を精製する方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、これら精製方法のためのアフィニティーマトリックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これら目的は、目的のタンパク質を精製する方法であって、次の工程:
(a)融合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスであって、次の融合タンパク質ドメイン:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)場合により、この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結する少なくとも一つのペプチドリンカー
を含み、この融合タンパク質のリコンビナントタンパク質が、精製されるこの目的のタンパク質へのアフィニティーを有する、融合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスを与え、
(b)このアフィニティーマトリックスと、この目的のタンパク質を含有する液体組成物とを、アフィニティーマトリックスのリコンビナントタンパク質へのこの目的のタンパク質の結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、このアフィニティーマトリックスが、これら条件下で不溶性であり、
(c)このリコンビナントタンパク質に結合しなかった液体組成物の成分を、工程(b)の混合物から、アフィニティーマトリックスのリコンビナントタンパク質へのこの目的のタンパク質の結合を保存する条件下で除去し、そして
(d)この目的のタンパク質をこのアフィニティーマトリックスから分離して、この目的のタンパク質を精製された形で得ること
を含む方法によって達成される。
【0007】
上の目的は、更に、複数の融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子であって、この融合タンパク質が、次の融合タンパク質ドメイン:
(i)植物ウイルスコートタンパク質ドメイン、
(ii)リコンビナントタンパク質ドメイン、および
(iii)この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結する少なくとも一つのペプチドリンカー
を含み、ここにおいて、このリコンビナントウイルス粒子の形成が、フリーのウイルスコートタンパク質を必要としない、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子によって達成される。このリコンビナントドメインまたはこのコートタンパク質ドメインは、順次、一つまたは二つ以上のドメインを有することがありうる。
【0008】
本発明は、更に、融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子であって、この融合タンパク質が、次の融合タンパク質セグメント:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーであって、少なくとも10アミノ酸残基を含むペプチドリンカー
を含み、ここにおいて、このウイルス粒子が、多くとも20mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を提供する。
【0009】
本発明は、更に、融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子であって、この融合タンパク質が、次の融合タンパク質セグメント:
(i)ターニップベインクリアリングウイルス(turnip vein clearing virus)の植物ウイルスコートタンパク質、またはターニップベインクリアリングウイルスのコートタンパク質に少なくとも40%の同一性を有するタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーであって、少なくとも10アミノ酸残基を含むペプチドリンカー
を含む、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を提供する。
【0010】
本発明は、更に、融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子であって、この融合タンパク質が、次の融合タンパク質セグメント:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)場合により、この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーであって、少なくとも10アミノ酸残基を含むペプチドリンカー
を含み、ここにおいて、このリコンビナントタンパク質は、免疫グロブリンに、好ましくは、免疫グロブリンのFc領域に結合可能である、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を提供する。最も好ましくは、このリコンビナントタンパク質は、プロテインAまたはプロテインG、またはプロテインAまたはプロテインGそれぞれの変異体であり、それによって、これら変異体は、免疫グロブリンのFc領域に結合可能である。
【0011】
本発明は、更に、目的のタンパク質を精製する方法であって、次の工程:
(a)上に定義の融合タンパク質を含む複数のこのリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子を与え、この融合タンパク質のリコンビナントタンパク質は、精製されるこの目的のタンパク質へのアフィニティーを有し、
(b)このリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子と、この目的のタンパク質を含有する液体組成物とを、アフィニティーマトリックスのリコンビナントタンパク質へのこの目的のタンパク質の結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、このアフィニティーマトリックスが、これら条件下で不溶性であり、
(c)このリコンビナントタンパク質に結合しなかったこの液体組成物の成分を、工程(b)の混合物から、アフィニティーマトリックスのリコンビナントタンパク質へのこの目的のタンパク質の結合を保存する条件下で除去し、そして
(d)この目的のタンパク質をこのアフィニティーマトリックスから分離すること
を含む方法を提供する。
【0012】
このリコンビナントタンパク質は、本明細書中において、「アフィニティータンパク質」とも称される。
本発明は、更に、目的のタンパク質を精製するための、本発明のアフィニティーマトリックス、または本発明のリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子の使用を提供する。本発明は、更に、目的のタンパク質を精製するための、本発明の融合タンパク質の使用を提供する。
【0013】
本発明のアフィニティーマトリックスは、本発明のリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を含む。このアフィニティータンパク質は、免疫グロブリンまたはそれらの誘導体へのアフィニティーを有することがありうる、好ましくは、このアフィニティータンパク質は、ブドウ球菌プロテインAまたは連鎖球菌プロテインG、またはいずれかこれらタンパク質の誘導体である。
【0014】
本発明は、更に、本発明によるリコンビナント植物ウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を製造する方法であって、この融合タンパク質を、細菌中、植物中、植物組織中または植物細胞中で発現することを含む方法を提供する。更に提供されるのは、上に定義の融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチド、およびこのポリヌクレオチドを含む植物、植物組織または植物細胞である。
【0015】
更に、本発明は、上に定義の植物、植物組織または植物細胞より入手可能なリコンビナントウイルス材料を提供する。
更に、融合タンパク質を提供する。特に、融合タンパク質であって、次の融合タンパク質セグメント:植物ウイルスコートタンパク質;リンカーペプチド;および免疫グロブリンを結合可能なブドウ球菌プロテインAまたはプロテインAの誘導体を含み、それによって、この融合タンパク質が、ウイルス粒子またはウイルス様粒子を形成可能である、融合タンパク質を提供する。更に、融合タンパク質であって、次の融合タンパク質セグメント:植物ウイルスコートタンパク質;リンカーペプチド;および免疫グロブリンに結合可能な連鎖球菌プロテインG(或いは、ストレプトアビジンまたはその誘導体)または連鎖球菌プロテインGの誘導体を含む融合タンパク質を提供する。
【0016】
更に、部品キットであって、上に定義の植物、植物組織または植物細胞およびポリヌクレオチドを含む部品キットを提供する。
更に、用途を提供する。
【0017】
本発明は、更に、免疫グロブリンなどの目的のタンパク質のアフィニティー精製のためのアフィニティーマトリックスであって、上に定義の融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を含み、ここにおいて、このウイルス粒子は、このアフィニティーマトリックス中に存在するフリーのウイルスコートタンパク質およびこの融合タンパク質の合計に相対して多くとも20mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む、アフィニティーマトリックスを提供する。「フリーのウイルスコートタンパク質」は、本発明のこのリコンビナントタンパク質に融合していない植物ウイルスコートタンパク質である。
【0018】
本発明の発明者は、表面に結合したプロテインAまたはプロテインGなどのアフィニティータンパク質を有するこれらリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナント植物ウイルス様粒子を含むアフィニティーマトリックスを用いて、免疫グロブリンをアフィニティー精製することができるということを発見した。本発明者は、得られた融合タンパク質のウイルス粒子へと集合する能力を破壊することなく、リコンビナントタンパク質(プロテインA、プロテインG等、またはその誘導体など)を植物ウイルスコートタンパク質に融合させることが可能であるということを発見した。一つの態様において、本発明の融合タンパク質は、フリーのウイルスコートタンパク質を共発現することなく、植物細胞中で発現する。この融合タンパク質から集合したウイルス粒子は、これらウイルス粒子の表面に結合した高密度のリコンビナントタンパク質を有する。
【0019】
本発明以前には、植物ウイルスコートタンパク質との融合としてこれら粒子表面上にリコンビナントタンパク質を含む植物ウイルス粒子を製造する技術は無かったが、この場合、リコンビナントタンパク質のサイズは、短いペプチドに制限されないし、そしてこの場合、ウイルス粒子形成は、ウイルスコートタンパク質およびリコンビナントタンパク質の融合タンパク質に加えて、ウイルスコートタンパク質を与える必要がない。ここで、本発明の系には、先行技術の限界がなく;好ましくは、それは、表面上のリコンビナントタンパク質を提示するウイルス粒子の集合のために、フリーのウイルスコートタンパク質の共発現を必要としない。結果として、ウイルス粒子の表面上のリコンビナントタンパク質の密度は、多量のフリーのウイルスコートタンパク質を含むウイルス粒子の場合よりもはるかに高い。
【0020】
本発明の融合タンパク質は、N末端およびC末端を含む連続ポリペプチドである。
一つの態様において、融合タンパク質は、次のドメイン:植物ウイルスコートタンパク質ドメイン;リコンビナントタンパク質ドメイン;およびこの植物ウイルスコートタンパク質ドメインおよびこのリコンビナントタンパク質ドメインを連結する少なくとも一つのペプチドリンカーを含む。この態様において、このリコンビナントタンパク質は、コートタンパク質のアミノ酸配列の一次構造内に存在してよく、それによって、コートタンパク質ドメインは、融合タンパク質の一次構造の二つのコートタンパク質セグメントによって形成されうる。この態様において、このリコンビナントタンパク質は、二つのペプチドリンカーによってこのコートタンパク質に連結するが、一方のペプチドリンカーは、このリコンビナントタンパク質のN末端部分を、このコートタンパク質のN末端セグメントへ連結し、もう一つのペプチドリンカーは、リコンビナントタンパク質のC末端部分をコートタンパク質のC末端セグメントへ連結している。
【0021】
別の態様において、コートタンパク質ドメイン、リコンビナントタンパク質ドメインおよび一つのペプチドリンカーは、この融合タンパク質の一次構造内の逐次的セグメントである。この態様において、融合タンパク質のN末端からC末端への融合タンパク質セグメント(またはドメイン)の配列には、二つの可能性がある。(i)この植物ウイルスコートタンパク質は、融合タンパク質のN末端に位置し、そしてその後に、このペプチドリンカーの後、融合タンパク質のC末端に位置するこのリコンビナントタンパク質が続く;(ii)このリコンビナントタンパク質は、融合タンパク質のN末端に位置し、そしてその後に、ペプチドリンカーの後、融合タンパク質のC末端に位置するこのコートタンパク質が続く。したがって、本発明の一つの態様において、融合タンパク質は、一つのペプチドリンカーを含む。
【0022】
これら態様全てにおいて、融合タンパク質は、追加のアミノ酸残基または配列セグメントを、N末端に、C末端にまたはこの融合タンパク質内に含んでいてよい。「ドメイン」および「セグメント」は、本明細書中において同じ意味に用いられる。
【0023】
この植物ウイルスコートタンパク質は、下に挙げるいずれかの植物ウイルスに由来することができる。一つの態様において、この植物ウイルスコートタンパク質は、桿状形ウイルス粒子を形成する植物ウイルスに由来する。「由来する」は、本発明の融合タンパク質中に用いられるコートタンパク質が、植物ウイルスの天然のコートタンパク質と同一である必要はないということを意味する。それどころか、融合タンパク質中に用いられるコートタンパク質は、植物ウイルスの天然のコートタンパク質に相対して、付加、欠失、挿入または突然変異を有していてよい。コートタンパク質は、適する条件下においてウイルスまたはウイルス様粒子を形成する能力を維持するということが不可欠なだけである。一つの態様において、天然の植物ウイルスコートタンパク質の多くとも20アミノ酸残基は、欠失および/または突然変異している。別の態様において、多くとも20アミノ酸残基は、本発明のコートタンパク質が由来する植物ウイルスの植物ウイルスコートタンパク質の天然の配列中に挿入される。
【0024】
このコートタンパク質は、プラスセンス一本鎖RNAウイルスに由来してよい。本発明においてそのコートタンパク質を用いることができる植物ウイルスの例には、タバコモザイクウイルス(TMV)などのタバモウイルス(tobamoviruses)、ターニップベインクリアリングウイルス、ジャガイモXウイルス(Potato virus X)、ジャガイモYウイルス(Potato virus Y)およびそれらのフラグメントまたはホモログが含まれるが、但し、これらフラグメントまたはホモログは、適する条件下においてウイルス粒子またはウイルス様粒子を形成可能であるという条件付きである。好ましくは、本発明のコートタンパク質は、ターニップベインクリアリングウイルス、タバコモザイクウイルス、ジャガイモXウイルスまたはジャガイモYウイルスのコートタンパク質に、少なくとも40%の配列同一性を有する。別の態様において、この配列同一性は、少なくとも50%であり;もう一つの態様において、この配列同一性は、少なくとも60%である。重要な態様において、このコートタンパク質は、タバコモザイクウイルスのコートタンパク質に少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0025】
本発明のリコンビナントタンパク質は、これらリコンビナントウイルス粒子の表面上に暴露される。このリコンビナントタンパク質に関する制限はない。このリコンビナントタンパク質は、植物ウイルスコートタンパク質に、好ましくは、一つまたはそれを超えるペプチドリンカーによって融合したいずれかのタンパク質セグメントであってよい。このリコンビナントタンパク質のタイプは、本発明のウイルス粒子の適用に依存して選択することができる。本発明者は、40未満または20未満でさえものアミノ酸を有する小さいペプチドに制限されることなく、これらウイルス粒子の表面上に暴露されたリコンビナントタンパク質を有するリコンビナントウイルス粒子を生じることが可能であるということを初めて発見した。したがって、本発明は、少なくとも50アミノ酸残基のサイズを有するリコンビナントタンパク質でのその十分な可能性を示す。しかしながら、一つの態様において、このリコンビナントタンパク質は、少なくとも70アミノ酸残基のサイズを有する;もう一つの態様において、このリコンビナントタンパク質は、少なくとも90アミノ酸残基のサイズを有する;なおもう一つの態様において、このリコンビナントタンパク質は、少なくとも110アミノ酸残基のサイズを有する。
【0026】
本発明のリコンビナントウイルス粒子またはウイルス様粒子は、その融合タンパク質のコートタンパク質ドメインまたはセグメントが、植物ウイルスに由来するという点で、植物ウイルス粒子である。本発明のウイルス粒子は、それらが、本発明の融合タンパク質の一部分であるコートタンパク質から集合するという点で、リコンビナントである。それら本発明のリコンビナントウイルス粒子は、本明細書中において「これらウイルス粒子」とも称される。
【0027】
このリコンビナントタンパク質は、例えば、これらウイルス粒子のマトリックスが、目的のタンパク質のアフィニティー精製に用いられる場合、アフィニティータンパク質として機能しうる。したがって、「リコンビナントタンパク質」および「アフィニティータンパク質」という用語は、本発明のウイルス粒子の表面上に暴露されたタンパク質について、本明細書中で同じ意味に用いられる。本発明のリコンビナントタンパク質は、それが、本発明の融合タンパク質のセグメントまたはドメインであるという点で、リコンビナントである。
【0028】
目的のタンパク質または化合物のアフィニティー精製を、本発明のウイルス粒子を用いて可能にするために、このリコンビナントタンパク質は、好ましくは、目的のタンパク質または化合物へのアフィニティーを有する。本明細書中において、本発明のアフィニティーマトリックスまたはリコンビナントウイルス粒子またはウイルス様粒子、または融合タンパク質を用いて精製されるタンパク質を、「目的のタンパク質」と称する。精製される目的のタンパク質は、本発明の融合タンパク質とは異なるタンパク質である。一つの態様において、このリコンビナントタンパク質は、治療的抗体などの免疫グロブリンまたはそれらの誘導体へのアフィニティーを有する。免疫グロブリンまたはそれらの誘導体へのアフィニティーは、免疫グロブリンの定常領域へのものであってよい。この場合、このリコンビナントタンパク質は、免疫グロブリンへのアフィニティーを有するブドウ球菌プロテインAまたはそのドメインまたは誘導体であってよい。別の態様において、このリコンビナントタンパク質は、免疫グロブリンを結合可能な連鎖球菌プロテインGまたはその誘導体であってよい。別の態様において、このリコンビナントタンパク質は、ストレプトアビジンまたはその誘導体であって、StrepTagII へのアフィニティーを有するストレパクチン(strepactin)などであってよい。
【0029】
精製される化合物が低分子である場合、リコンビナントタンパク質は、この低分子へのアフィニティーを有するいずれかのタンパク質でありうる。例えば、このリコンビナントタンパク質は、この低分子へのアフィニティーを有する抗体または抗体の一本鎖フラグメントでありうる。
【0030】
本発明のペプチドリンカーは、この融合タンパク質の一次構造中において、この植物ウイルスコートタンパク質およびこのリコンビナントタンパク質を連結する。ペプチドリンカーは、少なくとも50アミノ酸残基のサイズを有することがありうるこのリコンビナントタンパク質の存在にもかかわらず、この融合タンパク質のウイルス粒子の集合を可能にする。このペプチドリンカーは、可変性であるべきである。一つの態様において、このペプチドリンカーは、可変性であるために、二次構造を有していない。別の態様において、このペプチドリンカーは、ヘリックスを形成する。好ましくは、このペプチドリンカーは、βシートを形成しない。所定の維持構造を有するまたは二次構造を有していないペプチドを設計することは、当業者の一般的な知識のものである。例えば、プロリン残基は、ヘリックスおよびβシートを破壊する。したがって、このペプチドリンカー中に一つまたはそれを超えるプロリン残基を包含させることができる。或いは、このペプチドリンカーは、かなりの割合のグリシン残基を含有することができ、それによって、きわめて可変性のリンカーを得ることができる。
【0031】
このペプチドリンカーは、好ましくは、少なくとも10アミノ酸残基を有する。別の態様において、このペプチドリンカーは、少なくとも15アミノ酸残基を有する;もう一つの態様において、このペプチドリンカーは、少なくとも20アミノ酸残基を有する;もう一つの態様において、このペプチドリンカーは、少なくとも30アミノ酸残基を有する。このウイルス粒子の表面に結合されるリコンビナントタンパク質が大きいほど、ペプチドリンカーは、一層長くなるはずである。例えば、このリコンビナントタンパク質が、200を超えるアミノ酸残基を有する場合、ペプチドリンカーは、好ましくは、少なくとも25アミノ酸残基を有する。
【0032】
一つの態様において、このペプチドリンカーの長さは、10〜70アミノ酸残基である。別の態様において、このペプチドリンカーの長さは、13〜50アミノ酸残基である。もう一つの態様において、このペプチドリンカーの長さは、16〜30アミノ酸残基である。
【0033】
一つの態様において、このリコンビナントタンパク質およびこのペプチドリンカーは、一緒に、少なくとも60アミノ酸残基を有する。別の態様において、このリコンビナントタンパク質およびこのペプチドリンカーは、一緒に、少なくとも80アミノ酸残基を有する。もう一つの態様において、このリコンビナントタンパク質およびこのペプチドリンカーは、一緒に、少なくとも100アミノ酸残基を有する。もう一つの態様において、このリコンビナントタンパク質およびこのペプチドリンカーは、一緒に、少なくとも130アミノ酸残基を有する。
【0034】
本発明のウイルス粒子またはウイルス様粒子は、本発明のこの融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドを細菌または植物宿主中で発現させることによって生じることができる。この植物宿主は、植物細胞、植物組織または植物全体であってよい。この融合タンパク質をコードしていることは別として、このポリヌクレオチドは、選択された宿主中でのこの融合タンパク質の発現に必要な調節要素を有するであろう。このポリヌクレオチドを発現する際に、本発明のウイルス粒子は、概して、宿主細胞内で集合するし、または適する条件下において宿主細胞からこの融合タンパク質を単離後に、in vitro で集合することができる。
【0035】
本発明のこれらウイルス粒子は、好ましくは、集合のためのフリーのウイルスコートタンパク質の存在を必要としない。したがって、一つの態様において、この融合タンパク質は、フリーのウイルスコートタンパク質を共発現することなく発現する。しかしながら、本発明の融合タンパク質は、フリーのコートタンパク質の存在下でこれらウイルス粒子へと集合することができる。一つの態様において、これらウイルス粒子は、多くとも30ml%のフリーのウイルスコートタンパク質、好ましくは、多くとも20ml%、最も好ましくは、多くとも10ml%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む。これらウイルス粒子中のフリーのウイルスコートタンパク質の含有量は、これらウイルス粒子を可溶化させ、そしてこれらウイルス粒子のタンパク質性成分の分子量および相対存在量を決定するためのMALDIまたはESI質量分光法などの質量分光法を行うことによって決定することができる。これらウイルス粒子中に含有されるウイルスRNAはいずれも、質量分光法を行う前に除去することができるかまたは、これらウイルス粒子のタンパク質性成分の相対存在量を決定する時に、それらのシグナルを無視することができる。
【0036】
もう一つの態様において、ウイルス粒子についてSDS−PAGEを行い、そして Coomassie 染色または銀染色によって染色する。フリーのウイルスコートタンパク質によるバンドの強さは、市販のゲルリーダーによって決定したところ、この融合タンパク質によるバンドの強さの多くとも20%、好ましくは、多くとも10%であろう。
【0037】
本発明の目的のために、ウイルス粒子またはウイルス様粒子は、複数のウイルスコートタンパク質分子、複数の本発明の融合タンパク質分子、または本発明のこれら融合タンパク質分子およびウイルスコートタンパク質分子の混合物を含むオリゴマー粒子として定義される。この粒子は、典型的に、このコートタンパク質が由来する野生型ウイルスのウイルス粒子のサイズおよび形状に類似した、電子顕微鏡検査で認められるサイズおよび形状を有する。Analytical Biochem., 333 (2004) 230-235 に記載のように、電子顕微鏡検査で確かめられるウイルス粒子またはウイルス様粒子のサイズは、好ましくは、少なくとも10nmの最短寸法、より好ましくは、少なくとも13nmの最短寸法である。
【0038】
一つの態様において、リコンビナントウイルス粒子またはウイルス様粒子は、植物細胞または植物中において植物ウイルスベクターを用いて生産され、それによって、天然の植物ウイルスのコートタンパク質オープンリーディングフレーム(ORF)は、本発明の融合タンパク質のORFで置き換えられる。植物ウイルスコートタンパク質は、植物ウイルスまたは植物ウイルスベクターに感染後の宿主細胞中で発現される最も豊富なタンパク質であるので、植物ウイルスベクターの使用は、宿主細胞ごとに多量の本発明の融合タンパク質を生じるという利点を有する。更に、ウイルスベクターの細胞−細胞移動または全身(systemic)移動は、ウイルスベクターの拡散をもたらし、そしてこの融合タンパク質を発現するきわめて多数の植物細胞をもたらすことができる。本発明の融合タンパク質などのタンパク質を、ウイルスベクターを用いて発現させる方法は、当該技術分野において知られている。一つの態様において、ウイルスベクターを、アグロバクテリウム(Agrobacterium)に媒介される形質転換を用いて、植物細胞中にまたはバイナリーベクターの一部分としての植物の細胞中に導入する。
【0039】
本発明は、更に、目的のタンパク質または化合物を精製するためのアフィニティーマトリックスを提供する。このアフィニティーマトリックスは、複数の本発明のウイルス粒子またはウイルス様粒子を含む。一つの態様において、このアフィニティーマトリックス中のこれらウイルス粒子またはウイルス様粒子は、共有結合で架橋されていない。別の態様において、このアフィニティーマトリックス中のウイルス粒子またはウイルス様粒子は、架橋剤によって架橋されていてよい。本発明のウイルス粒子を架橋するのに用いることができる架橋剤は、当該技術分野において知られている。このような架橋剤の例は、グルタルアルデヒドまたはビススクシンイミドである。架橋されたアフィニティーマトリックスは、改善された機械的性質およびより高い分子量を有する。更に、共有結合架橋は、これらウイルス粒子を感染不十分(infection-deficient)にさせるが、それは、このアフィニティーマトリックスを用いて精製された生成物の安全性を増加させる。
【0040】
目的のタンパク質を精製するために、本発明のアフィニティーマトリックスは、アフィニティークロマトグラフィー用のカラム中に充填することができる。次に、アフィニティークロマトグラフィーを、慣用法にしたがって行うことができる。別の態様において、この目的のタンパク質は、バッチ法によってこのアフィニティーマトリックスを用いて精製することができる(実施例4を参照されたい)。いずれにせよ、本発明のアフィニティーマトリックスは、このアフィニティーマトリックスまたはアフィニティーマトリックスのこれらウイルス粒子を溶解させない溶媒中で用いられる。適する溶媒は、水性溶媒であり、好ましくは、溶媒は水である。アフィニティーマトリックスの高分子量およびその不溶性ゆえに、アフィニティーマトリックスは、目的のタンパク質が精製される予定の溶液中の可溶性混入物から(例えば、沈降によって)容易に分離することができる。
【0041】
本発明によって精製される目的のタンパク質は、典型的に、可溶性または不溶性の混入物を更に含有する水性の溶液または分散液中に溶解した形で存在する。このような溶液の例は、細胞溶解産物または細胞上澄みである。不溶性物質は、典型的に、透明溶液を得るための濾過または遠心分離によって最初に分離する。次に、その透明溶液を、本発明のアフィニティーマトリックスと接触させることができ、それによって、目的のタンパク質は、これらウイルス粒子のアフィニティータンパク質に結合する。次に、目的のタンパク質を結合しているアフィニティーマトリックスを、目的のタンパク質を初めに含有していた溶液から分離する。目的のタンパク質を結合しているアフィニティーマトリックスを洗浄後、目的のタンパク質を、適する条件下においてアフィニティーマトリックスから脱離させることができ、それによって、精製された目的のタンパク質を含有する溶液を得る。プロテインAを結合しているウイルス粒子を含むアフィニティーマトリックスを用いて免疫グロブリンを精製するプロトコールは、実施例に与えられている。
【0042】
発明の詳細な説明
ウイルスコートタンパク質は、ウイルス粒子およびウイルス様粒子(VLP)の主な構成単位である。ウイルス粒子およびVLPは、構築された多分子バイオポリマーである。リコンビナントタンパク質とウイルスコートタンパク質とを融合することにより、異種エピトープ(およびリコンビナントタンパク質)を表面上に有するウイルス粒子を得ることが可能である。しかしながら、リコンビナントタンパク質とウイルスコートタンパク質との翻訳融合(Hamamoto et al., 1993, BioTechnology, 11, 930-932; Gopinath et al., 2000, Virology, 267, 159-173; Porta et al, 1994, Virology, 202:949-955; Porta et al, 2003, Virology, 310: 50-63;JP6169789号;US5977438号;WO02068927号)は、先行技術において、植物ウイルスコートタンパク質に融合しうると考えられるリコンビナントタンパク質が、20〜25アミノ酸残基に制限されたように(Turpen et al., 1995 Biotechnology, 13: 53-57; Sugiyama et al., 1995, FEBS Lett., 359: 247-250;US2002/0107387号)、限られていた。US2002/0107387号などの先行技術における、より大きいリコンビナントタンパク質がウイルス粒子に融合しうるという推測は、実験的に確かめられなかったので、誤りであったと考えられる。図3Bに示される実験は、本発明による具体的な処置の不存在下において、ウイルスコートタンパク質およびプロテインAから成る融合タンパク質が生じることはないということを示している。したがって、US2002/0107387号は、ウイルスコートタンパク質に融合したリコンビナントタンパク質を含む植物ウイルス粒子を提供することはなく、それによって、リコンビナントタンパク質は、50を超えるアミノ酸残基を含む。
【0043】
したがって、先行技術において、有意の量(95%まで)のフリーのウイルスコートタンパク質は、融合タンパク質との共集合のために、融合タンパク質と共発現されたが、それによって、95%までのフリーのウイルスコートタンパク質から成るウイルス粒子が得られる。明らかに、これは、ペプチドを表面上に提示するウイルス粒子のいずれの適用も制限する。
【0044】
概して、TMV、ササゲモザイクウイルス(CPMV)、アルファルファモザイクウイルス等のような植物ウイルスのCPに融合しうると考えられるが、同時に、機能性ビリオンへと集合する能力を保持しているペプチドの限られたサイズは、先行技術において、これら系を、短い免疫原エピトープおよびペプチドホルモンの発現に限定した。別の公報(Santa-Cruz et al., 1996, Proc Natl Acad Sci U S A, 93:6286-6290)は、ジャガイモXウイルスコートタンパク質とのN末端融合として発現されたグリーン蛍光タンパク質(GFP)をその表面上に含有するジャガイモXウイルス(Potato Virus X)(PVX)ビリオンの形成を記載している。しかしながら、TMVベクターでの場合のように、有意の量の野生型コートタンパク質の発現は、ウイルス粒子の集合に不可欠であった。後者は、植物染色体DNA中に安定して組み込まれた独立したベクターからのウイルスコートタンパク質の発現によってかまたは、GFP−CP融合中の切断可能なリンカーペプチドを用いることによって達成され、したがって、ビリオン形成のためのCP源が提供された。フリーのウイルスコートタンパク質の不存在下において、GFPを表面上に提示するウイルス粒子を得ることは不可能であった。同様の研究において、一本鎖抗体は、フリーのウイルスコートタンパク質を含有するジャガイモXウイルスウイルス粒子上に提示された(Smolenska et al., FEBS Lett. 441 (1998) 379-382)。別の研究(Bendahmane et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:3645-3650)は、ペプチドリンカーの不存在下におけるタバコモザイクウイルスのコートタンパク質とGFPの融合が、リコンビナントウイルス粒子を生じることはないということを示した。
【0045】
アフィニティークロマトグラフィーのような、本発明のリコンビナントウイルス粒子が有用である多数の用途がある。例えば、現在開発中の生物医薬製品の約20%を構成している抗体および抗体誘導体の精製は、全製造費用の50〜80%を占める(概説については、Roque et al., 2004, Biotechnol. Prog., 20:639-654)。Staphylococcus aureus からのプロテインAは、免疫グロブリン精製方法においてアフィニティータンパク質として広く用いられている(概説については、Jungbauer & Hahn, 2004, Curr. Opin. Drug. Disc. & Dev., 7:248-256)。プロテインAは、免疫グロブリンのFcドメイン(Lindmark et al., 1983, J. Immunol. Methods, 62:1-13; Gouda, et al., 1998, Biochemistry, 37:129-136)と、主に疎水性相互作用(Dowd et al., 1998, Nat. Biotechnol., 16:190-195)によって可逆的に相互作用する。プロテインAの高い安定性および選択性は、それを、免疫グロブリン精製に有用な包括的アフィニティータンパク質にする。市場用の主なプロテインA源は、E.coli で生産されるリコンビナントプロテインAであった(Duggleby & Jones, 1983, Nucleic Acids Res., 11:3065-3076; Engel et al., 1992, Protein Expr. Purif., 3:108-113)。ウイルス粒子またはウイルス様粒子を含むマトリックスなどのアフィニティーマトリックスの表面上のアフィニティータンパク質としてのプロテインAの提示は、プロテインAを結合しているまたはリコンビナント単クローン性抗体の下流プロセシングに用いられる別の免疫吸着剤を結合しているアフィニティーマトリックスの安価な源について好機を広げる。本発明において用いることができる別のタンパク質は、連鎖球菌プロテインG(Guss et al., 1986, EMBO J., 5: 1567-1575)であり、それは、IgGのFcドメインへの強いアフィニティーも有するし(Sauer-Eriksson et al., 1995, Structure, 3:275-278)、Fabフラグメントへの弱いアフィニティーも有する(Derrick & Wigley, 1992, Nature, 359: 752-754)。
【0046】
本発明は、異なった宿主(本発明の目的について、いずれかの生物学的タンパク質生産宿主またはいずれかの非生物学的タンパク質生産方法を包含する意味である)において生産された目的のタンパク質を精製し且つ可視化する目的のために、植物ウイルスのいろいろな性質を利用する。本発明の一般的な原則は、図1:一つまたはそれを超えるリコンビナントタンパク質を表面上に提示する植物ウイルス粒子、および目的のタンパク質(例えば、抗体)の精製のためのこれら植物ウイルス粒子の使用、に示される。更に、本発明は、重合し、そして高度に組織化されたタンパク質構造を形成するウイルスコートタンパク質の能力を利用している。本発明の「ウイルス粒子」という定義は、本発明の請求範囲に記載の目的のリコンビナントタンパク質およびウイルスコートタンパク質を含む融合タンパク質を含有する植物ウイルス粒子および植物ウイルス様粒子(VLP)を包含する。「タンパク質マトリックス」または「アフィニティーマトリックス」という用語は、本発明によるウイルス粒子を含むマトリックスを一緒に形成する複数の植物ウイルス粒子を意味する。桿状形ウイルス粒子を、図1に模式的に示す。しかしながら、実際には、十分に特性決定された植物ウイルスはいずれも、本発明を実施するのに用いることができる。異なった分類群に属するDNAウイルスおよびRNAウイルスは、植物ウイルスコートタンパク質を含む融合タンパク質を構築するのに適している。
【0047】
本発明を適用することができるウイルスのリストを、下に示す。引用文中の(イタリック体でない)タクソン学名は、このタクソンに、ICTV国際承認学名がないことを示している。種(俗称)名は、普通の字体で与えられている。属または科への正式な帰属のないウイルスを示している。
【0048】
DNAウイルス:環状dsDNAウイルス:科:カリモウイルス科(Caulimoviridae)、属:バドナウイルス(Badnavirus)、基準種:コメリナイエローモットルウイルス(commelina yellow mottle virus)、属:カリモウイルス(Caulimovirus)、基準種:カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)、属「SbCMV様ウイルス」、基準種:ダイズクロロティックモットルウイルス(Soybean chloroticmottle virus)、属「CsVMV様ウイルス」、基準種:キャッサバベインモザイクウイルス(Cassaya vein mosaicvirus)、属「RTBV様ウイルス」、基準種:ライスツングロバシリホルムウイルス(Rice tungro bacilliformvirus)、属「ペチュニアベインクリアリング様ウイルス(Petunia vein clearing-like viruses)」、基準種:ペチュニアベインクリアリングウイルス(Petunia vein clearing virus);環状ssDNAウイルス:科:ジェミニウイルス科(Geminiviridae)、属:マストレウイルス(Mastrevirus)(サブグループIジェミニウイルス(Subgroup I Geminivirus))、基準種:メイズストリークウイルス(maize streak virus)、属:カートウイルス(Curtovirus)(サブグループIIジェミニウイルス(Subgroup II Geminivirus))、基準種:ビートカーリートップウイルス(beet curly top virus)、属:ベゴモウイルス(Begomovirus)(サブグループIIIジェミニウイルス(Subgroup III Geminivirus))、基準種:ビーンゴールデンモザイクウイルス(bean golden mosaic virus);
RNAウイルス:
ssRNAウイルス:科:ブロモウイルス科(Bromoviridae)、属:アルファモウイルス(Alfamovirus)、基準種:アルファルファモザイクウイルス、属:イラルウイルス(Ilarvirus)、基準種:タバコモザイクウイルス(tobacco streak virus)、属:ブロモウイルス(Bromovirus)、基準種:ブロムモザイクウイルス(brome mosaic virus)、属:ククモウイルス(Cucumovirus)、基準種:キュウリモザイクウイルス(cucumber mosaic virus);
科:クロステロウイルス科(Closteroviridae)、属:クロステロウイルス(Closterovirus)、基準種:ビート萎黄ウイルス(beet yellows virus)、属:クリニウイルス(Crinivirus)、基準種:レタス感染性イエローズウイルス(Lettuce infectious yellows virus)、科:コモウイルス科(Comoviridae)、属:コモウイルス(Comovirus)、基準種:カウピーモザイクウイルス(cowpea mosaic virus)、属:ファバウイルス(Fabavirus)、基準種:ソラマメウイルトウイルス1(broad bean wilt virus 1)、属:ネポウイルス(Nepovirus)、基準種:タバコ輪点ウイルス(tobacco ringspot virus);
科:ポティウイルス科(Potyviridae)、属:ポティウイルス(Potyvirus)、基準種:ジャガイモYウイルス(potato virus Y)、属:リモウイルス(Rymovirus)、基準種:ライグラスモザイクウイルス(ryegrass mosaic virus)、属:ビモウイルス(Bymovirus)、基準種:オオムギ縞萎縮ウイルス(barley yellow mosaic virus);
科:セキウイルス科(Sequiviridae)、属:セキウイルス(Sequivirus)、基準種:パースニップイエローフレックウイルス(parsnip yellow fleck virus)、属:ワイカウイルス(Waikavirus)、基準種:ライスツングロスフェリカルウイルス(rice tungro spherical virus)、科:トムブスウイルス科(Tombusviridae)、属:カルモウイルス(Carmovirus)、基準種:カーネーション斑紋ウイルス(carnation mottle virus)、属:ディアンソウイルス(Dianthovirus)、基準種:カーネーションリングスポットウイルス(carnation ringspot virus)、属:マクロモウイルス(Machlomovirus)、基準種:メイズクロロティックモットルウイルス(maize chlorotic mottle virus)、属:ネクロウイルス(Necrovirus)、基準種:タバコネクロシスウイルス(tobacco necrosis virus)、属:トムブスウイルス(Tombusvirus)、基準種:トマトブッシィスタントウイルス(tomato bushy stunt virus)、未帰属のssRNAウイルス属、属:カピロウイルス(Capillovirus)、基準種:リンゴステムグルービングウイルス(apple stem grooving virus);
属:カルラウイルス(Carlavirus)、基準種:カーネーション潜在ウイルス(carnation latent virus)、属:エナモウイルス(Enamovirus)、基準種:ピーエネーションモザイクウイルス(pea enation mosaic virus);
属:フロウイルス(Furovirus)、基準種:ムギ類萎縮ウイルス(soil-borne wheat mosaic virus)、属:ホルデイウイルス(Hordeivirus)、基準種:ムギ斑葉モザイクウイルス(barley stripe mosaic virus)、属:イダエオウイルス(Idaeovirus)、基準種:ラズベリブッシィドワーフウイルス(raspberry bushy dwarf virus);
属:ルテオウイルス(Luteovirus)、基準種:オオムギ黄萎ウイルス(barley yellow dwarf virus);属:マラフィウイルス(Marafivirus)、基準種:メイズラヤドフィノウイルス(maize rayado fino virus);属:ポテックスウイルス(Potexvirus)、基準種:ジャガイモXウイルス(potato virus X);属:ソベモウイルス(Sobemovirus)、基準種:インゲンマメ南部モザイクウイルス(Southern bean mosaic virus)、属:テヌイウイルス(Tenuivirus)、基準種:イネ縞葉枯ウイルス(rice stripe virus)、
属:トバモウイルス(Tobamovirus)、基準種:タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus)、
属:トブラウイルス(Tobravirus)、基準種:タバコ茎えそウイルス(tobacco rattle virus)、
属:トリコウイルス(Trichovirus)、基準種:リンゴクロロティックリーフスポットウイルス(apple chlorotic leaf spot virus);属:ティモウイルス(Tymovirus)、基準種:ターニップイエローモザイクウイルス(turnip yellow mosaic virus);属:ウムブラウイルス(Umbravirus)、基準種:キャロットモットルウイルス(carrot mottle virus);
マイナスssRNAウイルス:目:モノネガウイルス(Mononegavirales)、科:ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、属:シトラブドウイルス(Cytorhabdovirus)、基準種:レタスネクロティックイエローズウイルス(lettuce necrotic yellows virus)、属:ヌクレオラブドウイルス(Nucleorhabdovirus)、基準種:ポテトイエロードワーフウイルス(potato yellow dwarf virus);
マイナスssRNAウイルス:科:ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、属:トスポウイルス(Tospovirus)、基準種:トマト黄化えそウイルス(tomato spotted wilt virus);
dsRNAウイルス:科:パルティティウイルス科(Partitiviridae)、属:アルファクリプトウイルス(Alphacryptovirus)、基準種:シロクローバ潜伏ウイルス1(white clover cryptic virus 1)、属:ベータクリプトウイルス(Betacryptovirus)、基準種:シロクローバ潜伏ウイルス2(white clover cryptic virus 2)、科:レオウイルス科(Reoviridae)、属:フィジーウイルス(Fijivirus)、基準種:フィジーディジーズウイルス(Fiji disease virus)、属:フィトレオウイルス(Phytoreovirus)、基準種:ウンドテュモアウイルス(wound tumor virus)、属:オリザウイルス(Oryzavirus)、基準種:イネラギットスタントウイルス(rice ragged stunt virus);
未帰属のウイルス:
ゲノム:ssRNA:種:ガーリックA、B、C、Dウイルス(Garlic viruses A,B,C,D);種:グレープバインフレックウイルス(grapevine fleck virus);種:メイズホワイトラインモザイクウイルス(maize white line mosaic virus);種:オリーブラテントウイルス2(olive latent virus 2);種:オールミアメロンウイルス(ourmia melon virus);種:ペラルゴニュームゾネートスポットウイルス(Pelargonium zonate spot virus)。
【0049】
選択されたウイルスのサイズおよび形状は、次の通りである。
桿状形ウイルス−TMV:ビリオンは、約300nm長さおよび約18nm直径を有する;PVX(糸状;通常は、波状;透明様相長さを有する):515nm長さおよび13nm直径;Brome Mosaic Virus:26nm直径。
【0050】
対称性/形状−正二十面体様
アルファルファモザイクウイルス(ヌクレオキャプシド桿状または準等尺伸長):35nm長さ(Tb)または30nm長さ;桿状(Ta−b)かまたは楕円(Ta−t)形で存在する、透明様相長さ不含のTa:56nm長さ(B);43nm長さ(M);18nm直径。
【0051】
好ましいウイルスは、一本鎖プラスセンスRNAゲノムを有する植物ウイルスである。他の好ましいウイルスは、桿状形ウイルス粒子を有する植物ウイルスである。
実施例において用いられるそれらウイルス(タバコモザイクウイルスおよびジャガイモXウイルス)は、主に、ヘテロオリゴマータンパク質の発現についてごく最近開発された系(EP出願第05001819.1号;WO2006/079546号)を含めた、これらウイルスについて十分に確定された発現系の容易な利用可能性のゆえに選択された(Donson et al., 1991, Proc Natl Acad Sci U S A, 88:7204-7208; Shivprasad et al., 1999, Virology, 255:312-323; Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857; Marillonnet et al., 2005, Nat Biotechnol., 23:718-723; Chapman, Kavanagh & Baulcombe, 1992, Plant J., 2:549-557; Baulcombe, Chapman & Santa Cruz, 1995, Plant J., 7:1045-1053; Angell & Baulcombe, 1997, EMBO J., 16:3675-3684)。DNAウイルスを含めた他の植物ウイルスも、本発明を実施するのに用いることができる(概説については、Mullineaux et al., 1992, Genetic Engineering in Plant Viruses, CRC Press Inc., pp187-215; Timmermans et al., 1994, Ann. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol., 45:79-112; Porta & Lomonossoff, 2002, Biotechnol. Genet. Engineering Rev., 19:245-291)。
【0052】
本発明者は、驚くべきことに、(a)一つまたは複数の可変性ペプチドリンカー(二次構造を形成不能かまたはヘリックス二次構造を形成可能)が、リコンビナントタンパク質と植物ウイルスコートタンパク質との翻訳融合を生じる場合のサイズ制限を克服することを可能にするということを発見した。このリンカーペプチドは、おそらくは、融合パートナーの各々の他方の機能性への負の作用を除去するまたは有意に減少させる。本発明において用いられるリンカーペプチドは、(GGGGS)などの可変性ペプチドリンカー、または(EAAAK)などのヘリックス形成性ペプチドリンカーであってよく、ここにおいて、nは、2〜5であってよい。それらペプチドリンカーは、この融合タンパク質のセグメントである。異なったタンパク質の融合タンパク質中におけるこのタイプのペプチドリンカーの使用、および融合タンパク質の機能へのそれらの作用は、記載されている(Arai et al., 2001, Protein Eng., 14:529-532; Arai et al., 2004, Proteins, 57:829-838)。実施例1に、本発明者は、n=3のリンカーペプチドを含有するコンストラクトの設計を記載している(図1も参照されたい)。しかしながら、n=2の類似のコンストラクト(示されていない)も製造した。本発明者は、より長いペプチドリンカー(n=3)が、融合パートナー、すなわち、ウイルスCP(ウイルス粒子を形成する)とリコンビナントタンパク質(例えば、免疫グロブリンを結合するプロテインA)の機能に、有意の正の影響力を有するということを発見した。より長いリンカー(15アミノ酸残基より長い)は、更に、融合パートナーの機能間の干渉を最小限にすることができる。しかしながら、本発明を実施するのに適するリンカーペプチドの長さは、上述のもの(例えば、25アミノ酸残基まで)よりも有意に長いことがありうるし、そしてウイルスコートタンパク質に融合されるリコンビナントタンパク質の選択肢に依存するかもしれない。本発明を実施するためのペプチドリンカーの選択肢は、上記のリンカーに制限されない。他の多くのタイプのリンカーを、本発明において用いることができる。典型的には、マルチドメインまたは多重反復タンパク質中のリンカーは、ほとんど二次構造を有していないが、ヘリックス構造を形成する他のタイプのリンカーが存在する(Ortiz et al., 2005, J. Mol. Biol., 349:638-647)。更に、ファージ提示技術には、リンカー設計についての情報がある(Maruyama et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:8273-8277; Turner et al., 1997, J. Immunol. Methods, 205:43-54; Castillo et al., 2001, J. Immunol. Methods, 257:117-122; Weiss et al., 2000, Protein Sci., 9:647-654; Mikawa et al., 1996, J. Mol. Biol., 262:21-30)。ファージと植物ウイルス基材系との間の構造および生物学の有意差にもかかわらず、本発明者は、ペプチドリンカーの選択についての一般的な原則を、植物ウイルス粒子に適用することができるということを発見した。リコンビナントタンパク質をこのペプチドリンカーペプチドによってウイルスコートタンパク質から隔てることは、融合タンパク質上のコートタンパク質とリコンビナントタンパク質との間の相互作用を減少させ、そして結果として、それらの機能を保存すると考えられる。本発明を実施するために選択されたペプチドリンカーは、本出願におけるその適合性について、タンパク質二次構造を予想するいろいろなプログラムを用いて調べることができる(例えば、NNPREDICT,http://www.cmpharm.ucsf.edu/~nomi/nnpredict.html にリンクされたい)(Kneller, et al., 1990, J. Mol. Biol. 214: 171-182)。二次構造を予想するには、リンカーペプチドを、その二次構造への可能性のある隣接する配列(本発明のコートタンパク質およびリコンビナントタンパク質)の影響のために、融合タンパク質の組込み部分として分析すべきである。この目的の別のプログラムは、ドイツ、ハイデルベルグ大学の PredictProtein(http://www.embl-heidelberg.de/predictprotein/predictprotein.html)である。
【0053】
リコンビナント植物ウイルス粒子または植物ウイルス様粒子は、本発明のこの融合タンパク質を発現させることによって生じることができる。一つの態様において、この融合タンパク質は、植物ウイルスベクターを用いて植物細胞または植物中で発現させる。このような植物ウイルスベクターの場合、ウイルスベクターが由来するウイルスのコートタンパク質は、本発明のこの融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチドで置き換えることができる。
【0054】
植物ウイルスベクターは、本発明の融合タンパク質などのリコンビナントタンパク質の植物中における一時的高収率発現に有効な手段である(概説については、Porta & Lomonossoff, 1996, Mol. Biotechnol., 5, 209-221; Yusibov et al., 1999, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 240, 81-94; Gleba et al., 2004, Curr Opin Plant Biol. 7:182-188; Gleba et al., 2005, Vaccine, 23:2042-2048 を参照されたい)。ウイルスベクター基材発現系は、植物核内導入遺伝子と比較して、有意に高い収率の導入遺伝子産物(本発明の融合タンパク質など)を与える。例えば、リコンビナントタンパク質のレベルは、ウイルスベクターから発現させる場合、全細胞の植物タンパク質含有量の5〜50%に達することがありうる(Kumagai et al., 2000, Gene, 245, 169-174; Shivprasad et al., 1999, Virology, 255, 312-323; Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857; Marillonnet et al., 2005, Nat Biotechnol., 23:718-723)。植物における本発明の融合タンパク質の全身発現に適するウイルスベクターを記載している特許は、いくつか公開されている(US5316931号;US5589367号;US5866785号)。概して、これらベクターは、ウイルスタンパク質との翻訳融合として(US5491076号;US5977438号)、追加のサブゲノムプロモーターから(US5466788号;US5670353号;US5866785号)、または独立したタンパク質翻訳のためのIRES要素を用いたポリシストロン性ウイルスRNAから(WO0229068号)、異種遺伝子を発現することができる。他の系(WO2005049839号)は、ウイルスレプリコンの全身デリバリーについてアグロバクテリウムに頼るが、全身ウイルスベクターと比較して、異種遺伝子のサイズについて有意に高い容量を有する。
【0055】
実施例2に、本発明者は、異なったサイズの異なったリコンビナントタンパク質を表面上に提示するウイルス粒子の製造および分析を記載している。ウイルスベクターの助けで発現された異なったウイルスCP−リコンビナントタンパク質融合の電気泳動分析を、図5に示す。この分析結果から、調べられた融合の大部分が、インフィルトレーション処理された葉において高い発現レベルを示したことが明らかであり、若干の場合、リコンビナントウイルスベクターは、全身移動しうると考えられる。しかしながら、全身移動は、野生型ベクターへの復帰をもたらすことがありうる。したがって、本発明の一つの態様において、CP−リコンビナントタンパク質融合を、ウイルスベクターまたはプロベクターのアグロバクテリウムに媒介されるデリバリーを用いて、被接種葉において発現させる(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857; Marillonnet et al., 2005, Nat Biotechnol., 23:718-723)。本発明によってCPとの融合として発現された7種類の異なったリコンビナントタンパク質の内、6種類のリコンビナントタンパク質を、首尾良く発現させ、そして植物組織からタンパク質マトリックスの形で単離した。これらウイルス粒子の表面上に提示されたリコンビナントタンパク質の活性を、実験的に確かめた。更に、リンカーペプチド不含で直接的にCPに融合したリコンビナントタンパク質の発現が認められなかったのは、被接種葉でも、全身葉でもないということは明らかである(図5のレーン1、2、3、4)。被接種葉における高レベルの発現は、本発明によるペプチドリンカーによってCPに融合した同じリコンビナントタンパク質で達成された(レーン7L、13、14;図5)。
【0056】
本発明の別の態様は、バイオテクノロジー用途におけるウイルス粒子の表面上に提示されたリコンビナントタンパク質の機能性を示す。本発明者は、15アミノ酸ペプチドリンカーによるウイルスCPおよびプロテインAのドメインEおよびD(133アミノ酸残基、図4−Aを参照されたい)を含む融合タンパク質を選択した。プロテインAは、免疫グロブリン、選択的には、IgGおよびその機能性誘導体のクロマトグラフィー精製に広く用いられる有効なアフィニティー標識である(Fuglistaller, P., 1989, J. Immunol. Methods, 124-171-177; Fahmer et al., 1999, Biotechnol. Appl. Biochem., 30:121-128; Jungbauer & Hahn, 2004, Curr. Opin. Drug Discov. Dev., 7:248-256)。臨床試験における単クローン性抗体の数は、着実に増大しているし、しかも抗体の商業生産には、大量のリコンビナントプロテインAが必要とされるであろうから、リコンビナント免疫グロブリンの精製に用いられるリコンビナントプロテインAへの要求が増大している。更に、薬学的タンパク質精製について、使い捨て試薬は、好ましい選択肢である。現在、リコンビナントプロテインAの大部分は、E.coli で生産されている(Hammond et al., 1990, Ann. NY Acad. Sci., 613:863-867; Engel et al., 1992, Protein Expr. Purif., 3:108-113; Cai et al., 1992, Chin. J. Biotechnol., 8:93-98)。本発明は、大量のプロテインA、連鎖球菌プロテインG(Bond et al., 1993, J. Immunol. Methods, 166:27-33; Du et al., 2005, Biopolymers, 79:9-17; Honda et al., 1999, Biochemistry, 38:1203-1213)それらの活性フラグメント、誘導体および模擬体を大量に生産することを可能にするが、そられリコンビナントタンパク質は、アフィニティー(またはクロマトグラフィー用)マトリックス、すなわち、ウイルス粒子の植物ウイルス由来タンパク質マトリックスに既にカップリングしている。図6により、CP−プロテインA融合は、Coomassie 染色されたSDS−PAGEの検出限界の範囲内で排他的に融合タンパク質を含有しうるリコンビナントウイルス粒子の一部分であるということが明らかであり(図6B)、ウイルス粒子の構成単位としての野生型CPは検出不能である。
【0057】
プロテインAを提示するウイルス粒子の表面は、免疫グロブリンの精製に適する高アフィニティーリガンドとして役立ちうる。比較的高分子量のウイルス粒子は、アフィニティーマトリックスとしてのそれらの使用を可能にするし、しかも本発明のリコンビナントウイルス粒子(または他の目的のタンパク質)に結合することができる免疫グロブリンを精製するための簡単な手順を開発することを可能にする。
【0058】
更に、リコンビナントウイルス粒子は、架橋によって更に重合して、例えば、タンパク質精製手順においてアフィニティーマトリックスとして役立てるのに適するなお一層高分子量の構造を生じることができる(Smith, Petrenko & Matthew, 1998, J. Immunol. Methods, 215:151-161)。ウイルス粒子を架橋する別の方法は、異なったウイルス粒子の修飾された(システイン付加された)コートタンパク質の間にジスルフィド橋を形成することによることができる(Wang et al. 2002, Chem. Biol., 9:813-819)。この方法も、ウイルス粒子を失活させて、ウイルスベクターを複製させない。更に、ウイルス粒子を失活させるには、ホルムアルデヒド(Barteling & Cassim, 2004, Dev. Biol., 119:449-455)、エチレンイミン、N−アセチルエチレンイミン(Burrage et al., 2000, Vaccine, 18:2454-2461)、UV照射(Freitas et al., 2003, J Virol Methods., 108:205-11)および他のアプローチなどのいろいろな架橋剤を用いることができるが、これに制限されるわけではない。
【0059】
ウイルスは、天然に存在する野生型または突然変異体のウイルスであれ、遺伝子操作されたウイルスベクターであれ、自己複製性であり、それ自体は、きわめて安価である。植物ウイルス粒子は、更に、精製手順を必要とする大多数のタンパク質または低分子よりもはるかに大きい。分子量または物理化学的性質の大きな相違は、本発明によるウイルス粒子に目的のタンパク質を結合させた後、得られた複合体をその混合物の残余から分離することで、組織ホモジネートなどの混合物から目的のタンパク質または非タンパク質性化合物を分離するのに有効に利用することができる。ウイルス粒子と目的の分子との間の会合は、後に、当業者に知られている多数の方法で溶解させることができる。本発明の一つの態様において、本発明者は、IgG結合ドメインを表面上に提示するリコンビナントウイルス粒子を用いた、植物抽出物からのIgGの単離を示す。プロテインAのIgG結合ドメインを提示するウイルス粒子は、実施例2に記載のように製造し且つ単離した。それらの結合容量の評価後(実施例3、図7)、これら粒子を、非競合性ウイルスベクターでアグロインフィルトレーション処理された(agroinfiltrated)ニコチアナ・ベンタミアナ(Nicotiana benthamiana)植物中で生産された単クローン性抗体(IgGクラス)の精製に用いた(実施例4、図8)。図8により、これら粒子を用いた一段精製は、約95%純度のIgG試料を生じるということが明らかである。ウイルスコートタンパク質との融合としてプロテインAを提示するこれら粒子を用いたIgG精製プロトコールを、表1に要約する。
【0060】
本発明は、更に、二つ以上の(二つまたはそれを超える)タイプのリコンビナントタンパク質を表面上に有するリコンビナントウイルス粒子を生じ且つ利用することを可能にし、それによって、植物ウイルス粒子の表面上に複合体構造を生じる。これは、例えば、目的のリコンビナントタンパク質とCPとの二つ以上の融合を高収率で発現させる最近開発された植物ウイルス基材発現系を用いることにより、達成することができる(EP出願第05001819.1号;WO2006/079546号)。例えば、ほぼ等モル量の二つのリコンビナント融合タンパク質は、本発明を用いてウイルス粒子中で発現させ且つ集合させることができる。或いは、異なった融合タンパク質を等モル以外のモル比で必要とする場合、これら融合タンパク質の一方は、標準的な(例えば、35Sプロモーターで推進される)発現カセットから一時的にかまたは、植物染色体DNA中に安定して包含されたベクターから発現させうると考えられるが、もう一方の融合タンパク質は、ウイルスベクターから発現させうると考えられる。また別のアプローチにおいて、ウイルス粒子は、異なったリコンビナントウイルス粒子を必要な比率で混合し、その溶液のpHおよび/またはイオン強度を変更することによってそれらを解体後、それらを de novo 再集合させることによって in vitro で再構築し、それによって、異なったリコンビナントタンパク質を表面上に有する異なったタイプのウイルス粒子を生じることができる。二つ以上のリコンビナントタンパク質を提示する植物ウイルス粒子の略図を、図1の左下に示す。このようなウイルス粒子は、CP−プロテインA融合を有することに加えて、精製手順の際にこれらウイルス粒子またはそれらのアフィニティーマトリックスを分離するのに役立つ蛍光マーカー(例えば、GFPまたはdsRed)を提示することもできる。更に、本発明による融合タンパク質の一部分としてのプロテアーゼインヒビターは、単離される目的のタンパク質(例えば、IgG)をタンパク質分解させないことができる。
【0061】
植物は、事実上、ヒトおよび動物の病原体を含まないので、好ましくは、本発明のウイルス粒子は、植物中で生産され(発現され)、したがって、ウイルス源または細菌源より単離されたウイルス粒子を用いることにより、感染の危険を減少させる。植物、植物組織または植物細胞中でウイルス粒子を生産する費用は、動物源または細菌源で生産されるウイルス粒子と比較して、有意に低いであろう。しかしながら、原則として、その方法は、植物(細胞およびその組織培養物を含めた)、非ヒト動物体を含めた動物、および動物およびヒトの細胞培養物、真菌、細菌および酵母を含めた広範囲の宿主発現系を用いて実施することができる。
【0062】
目的のタンパク質を精製する本方法は、タンパク質を宿主中で生産する方法および宿主に相対して精製される目的のタンパク質の性状、およびウイルス粒子とタンパク質との間のアフィニティーの性状などのいくつかの因子に依存して、多くの異なった方法で実施することができる。精製される目的のタンパク質または低分子化合物が、宿主によって内因的に(天然に)生産される態様において、その宿主は、培養され且つ溶解されていてよい。目的のタンパク質を含有する溶解産物またはその純化した溶液は、本発明のリコンビナントウイルス粒子を含むアフィニティーマトリックスと接触させることができる。宿主によって内因的に生産されていないタンパク質の精製は、典型的に、宿主を装置で、すなわち、精製される目的のタンパク質をコードしている少なくとも一つの導入遺伝子で供給するために、遺伝子操作を必要とする。これら態様において、一つまたは複数の導入遺伝子は、ウイルス発現/複製ベクターの一部分として、または別個の形質転換イベントによって、宿主中に導入することができる。宿主によって生産される目的のタンパク質について、アフィニティーマトリックス表面上に提示されるリコンビナントタンパク質のアフィニティーは、直接的であってよいし、または導入遺伝子が、ウイルス粒子上のアフィニティータンパク質によって認識され且つ結合する結合ペプチドとの融合の形で目的のタンパク質をコードすることができるという意味で間接的であってよい。したがって、目的のタンパク質は、それ自体、融合タンパク質であってよい。
【0063】
一つの態様において、目的の外因性(例えば、異種)タンパク質を、植物宿主(例えば、植物細胞、組織、ホモジネートまたは植物全体)において発現させる。この態様は、リコンビナントタンパク質を提示するこれらウイルス粒子をアフィニティータンパク質として提供することを必要とするが、ここにおいて、このリコンビナントタンパク質は、精製される目的のタンパク質へのアフィニティーを有する。
【0064】
或いは、このウイルス粒子は、精製される低分子化合物へのアフィニティーを有するリコンビナントタンパク質を提示する。治療薬および除草剤は、このような低分子化合物の例である。概して、植物、動物、細菌または酵母の細胞などの宿主によって生産される非ペプチド有機分子であって、植物ウイルス粒子の表面上に提示されるリコンビナントタンパク質によって認識可能である(例えば、それに結合アフィニティーを有する)ものはいずれも、本発明にしたがって単離するまたは検出することができる。タンパク質(または低分子)から植物ウイルス粒子を解離するのに用いられる条件は、相互作用の具体的なタイプに依存し、そして物理化学的パラメーター、例えば、pH;温度;イオン、キレート剤濃度等を変更することによって生じることができる。適当な条件を選択することは、当該技術分野におけるタンパク質精製技術レベルの範囲内であろう。限外濾過は、これらウイルス粒子のアフィニティーマトリックスからタンパク質を分離する一つのこのような方法である。
【0065】
本発明は、目的のトランスジェニックタンパク質および内因性タンパク質、更には、植物界、動物界および細菌界のメンバーが含まれるがこれに制限されるわけではない広範囲の宿主における導入遺伝子発現の結果としての、または天然に存在する非タンパク質性分子の精製に等しく適している。このようなタンパク質の例は、薬学的におよび工業的に重要なタンパク質、例えば、免疫応答タンパク質、DNA修飾酵素、デンプン−、細胞壁修飾酵素、プロテアーゼ、リパーゼ等を含めた酵素でありうるが、これに制限されるわけではない。
【0066】
宿主に外因性であるタンパク質または低分子化合物の場合、目的のタンパク質(それ自体またはウイルス粒子上のリコンビナントタンパク質を結合するペプチドとの融合の形)をコードしている導入遺伝子、またはその発現が低分子の生産を引き起こすものを、標準的な技法によって非ヒト宿主中に導入する。概して、これら技法には、安定なまたは一時的な形質転換またはウイルスデリバリー(例えば、ウイルス発現ベクターによる細胞の感染)が含まれてよい。安定して組み込まれた外来遺伝子でトランスジェニック生物を生じる方法は、参考文献に十分に記載されている。例えば、DNAは、Agrobacterium に媒介されるデリバリーによって植物細胞中に形質転換することができる。米国特許第5,591,616号;同第4,940,838号;および同第5,464,763号を参照されたい。他の方法には、パーティクルまたはマイクロプロジェクティルボンバードメント(microprojectile bombardment)(米国特許第5,100,792号;欧州特許(EP)第444,882B1号;EP434,616B1号)、マイクロインジェクション(WO09209696号;WO09400583A1号;EP175,966B1号)およびエレクトロポレーション(EP564,595B1号;EP290,395B1号;WO08706614A1号)が含まれる。動物、細菌および酵母の細胞中への導入遺伝子デリバリーの手順は、十分に確立されている。動物細胞中への導入遺伝子デリバリーの一般的な方法は、レトロウイルスに媒介される(Robbins & Givizzani, 1998; Reynolds et al., 1999)。合成(非ウイルス)担体での他の方法も適している(概説については、Bown et al., 2001 を参照されたい)。酵母および細菌の細胞のための形質転換方法は、多くの手引きに、例えば、Yeast Protocol Handbook (2000) および Sambrook et al., (1989) に十分に記載されている。
【0067】
本発明は、組織ホモジナイゼーション、遠心分離および限外濾過などの技法に適応することができるので、工業的用途およびスケールアップに十分にしたがう。それは、いずれかの原核生物または真核生物の系におけるタンパク質および低分子の生産に適用することができる。したがって、本発明は、いずれかの種類の原核生物または真核生物の系からのいずれかの目的のタンパク質の精製について普遍的で安価なスケールアップ方法である。
【0068】
本発明のリコンビナントウイルス粒子は、多くの異なった分野、すなわち、バイオテクノロジーのみならず、ナノテクノロジーにおける用途および分子エレクトロニクス用途について興味深いことがありうる。植物ウイルスは、生産し且つ単離するのが容易であるし、しかも高収率(新鮮なタバコ葉1キログラムにつき10gまでのウイルス粒子)を与えるので、このような目的にきわめて好都合である。更に、ウイルス粒子(ビリオン)は、簡単な「ローテク(low-tech)」プロトコールを用いて工業的に精製することができる(Creager et al, 1999, Plant Cell, 11:301-308)。
【実施例】
【0069】
次の実施例は、本発明の範囲を制限することなく、本発明を更に詳しく説明する。
実施例1
CP融合タンパク質の発現用のTVCV基材およびPVX基材のプロベクターの構築
次の実施例に用いられるベクターは、概して、二つの最近の公報に記載されている(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857; Marillonnet et al., 2005, Nat Biotechnol., 23:718-723)。Potato Virus X(PVX)のcDNAを、DSMZコレクション(http://www.dsmz.de)より入手したPVX分離物PV−0014からRT−PCRによって生じ、そしてPVXプロベクターを生成するのに用いた。PVX基材発現系の説明は、多数の公報に与えられている(Chapman, Kavanagh & Baulcombe, 1992, Plant J., 2:549-557; Baulcombe, Chapman & Santa Cruz, 1995, Plant J., 7:1045-1053; Angell & Baulcombe, 1997, EMBO J., 16:3675-3684)。
【0070】
(a)トバモウイルスTVCV(Turnip Vein Clearing Virus)の5’−プロベクター
TVCVコートタンパク質の3’部分を、PCRにより、プライマーcptv1およびcpfus4またはcpfus5を用いて増幅させ、それによって、(GGGGS)リンカーまたは(EAAAK)リンカーをCPのC末端に導入した。それらPCR産物を、NcoIおよびBsaIで切断し、そして野生型CPを含有する5’−プロベクターpICH20697(図2A)中に、リンカーペプチドを伴うことなく連結して、コンストラクトpICH20701およびpICH20723を生じた(図2B)。ベクターpICH20697は、そのイントロン構造によって、以前に記載されたもの(pICH18722)の場合と同一である(Marillonnet et al., 2005, Nature Biotechnol., 23:718-723)。
【0071】
(b)PVX(Potato Virus X)の5’−プロベクター
リンカーを含むCPを、PCRにより、プライマーpv5cptvおよびpv5p5r2で、pICH20701またはpICH20723を鋳型として用いて増幅させた。PCR産物を、NheI−SacIフラグメントとしてPVX5’−プロベクター中にクローン化して、コンストラクトpICH23407およびpICH23411を生じた(図2)。
【0072】
(c)3’−プロベクター中における目的の遺伝子のクローニング
プロテインA
Staphylococcus aureus からのプロテインAは、5種類の免疫グロプリン(IgG)結合ドメインを含有する(図4−A)。これらドメインの内の最初の二つ(ドメインEおよびD)を、両側の同じ追加のアミノ酸と一緒に(全部で133aa、図4、下線を施している)、GENEART(レーゲンスブルグ、ドイツ)によって合成した。その配列を、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)中での発現のために最適化した。配列を、BsaI−HindIIIフラグメントとしてベクターpICH10990中にクローン化して(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857)、コンストラクトpICH21767を生じた(図3A)。このコンストラクトから、プロテインA配列を、HindIII−NdeIフラグメントとしてPVX3’−プロベクターpICH21799中に導入して、pICH23523を生じた(図3A)。コンストラクトpICH21770(示されていない)は、pICH21767と似ているが、プロテインAの一つのIgG結合ドメイン(ドメインE)だけを含有する。
【0073】
ストレプトアクチン(Streptactin)
ストレプトアクチンは、StrepTag IIに対して増加したアフィニティーを有するストレプトアビジンの突然変異型である(Voss S. & Skerra A. 1997. Prot Engin 10, 975-982)。ストレプトアクチンの5’部分および3’部分を、PCRにより別々に、プライマーstreppr1およびstreppr2またはstreppr3およびstreppr4を用いて、鋳型としてのストレプトミセス・アビディニイ(Streptomyces avidinii)からのゲノムDNA上において増幅させた。図4−Bに示されるタンパク質フラグメントについてコードしているPCR産物を、BsaI−BpiI(streppr1およびstreppr2)およびBpiI−BamHI(streppr3およびstreppr4)で切断し、そしてBsaI−BamHIで切断された3−プロベクターpICH10990中に連結して(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857)、コンストラクトpICH21444を生じた(図3A)。
【0074】
モノマーであると考えられる突然変異型のストレプトアクチン(V55T、T76R、L109T、V125R)(Wu SC & Wong SL., 2005, J Biol Chem 280:23225-31)を、位置指定突然変異誘発により、オリゴヌクレオチドstreppr5〜streppr12で遺伝子操作して、コンストラクトpICH23478を生じた(図3A)。
【0075】
StrepTag II
この標識を、XbaI、BsaIで切断された3’−プロベクターpICH21595中に、オリゴstreptag5およびstreptag6とのアダプター連結によって導入した。得られたコンストラクトを、pICH23463と称した(図3A)。
【0076】
他の遺伝子
多数の他の遺伝子(GFP、DsRed、抗原、サイトカイン)を、同様に、3’−プロベクター中にクローン化して(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857)、コンストラクトpICH7410(GFP)、pICH10580(DsRED)を生じた(図3A)。
【0077】
実施例2
植物中におけるCP融合タンパク質の発現
アグロインフィルトレーション(Agroinfiltration)
全てのコンストラクトを、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)GV3101中にエレクトロポレーションした。N.benthamiana 植物のアグロインフィルトレーションは、本質的には、Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857 に記載のように行った。部位特異的組換えによって植物内のウイルスプロベクターを集合して、目的のリコンビナントタンパク質の増幅および発現が可能なウイルスベクターとするために、CPをコードしている5’プロベクター;リコンビナントタンパク質をコードしている3’プロベクター;および部位特異的リコンビナーゼ源(pICH14011、図3A)を含有する3種類のアグロバクテリウム菌株を、一緒に混合し、そしてインフィルトレーションに用いた。小規模インフィルトレーションは、シリンジで行った;大規模インフィルトレーションは、真空装置を用いて行った(Marillonnet et al., 2005, Nature Biotechnol., 23:718-723)。
【0078】
N.benthamiana 葉中で発現されたCP融合の分析
全てのリコンビナントタンパク質融合を、インフィルトレーション処理されたN.benthamiana 葉から、インフィルトレーション後6〜11日に抽出し、そして以前に記載のポリアクリルアミドゲル中の電気泳動分離によって分析した(Marillonnet et al., 2004, Proc Natl Acad Sci U S A, 101:6852-6857; Marillonnet et al., 2005, Nature Biotechnol., 23:718-723)。異なったCP−リコンビナントタンパク質融合の電気泳動分析の結果を、図5(A、B)に示す。目的のリコンビナントタンパク質とCPの直接融合(リンカーペプチド不含)が、検出可能な発現を生じなかったということは注目すべきである。
【0079】
具体的には、適当な3’プロベクター(pICH21767、図3B)との組合せでの5’プロベクターpICH20697(図3B)の使用は、検出可能な発現を全く与えなかった。更に、下記のように行われた電子顕微鏡検査分析は、リンカーペプチドを含む5’プロベクターを用いた場合とは異なり、試料中にウイルス様構造を全く検出しなかった。
【0080】
ウイルス粒子の抽出および精製
インフィルトレーション処理された葉を、0.1M K−リン酸緩衝液、pH7.0(2〜3ml緩衝液/gFW)中で、葉汁プレスまたは乳鉢・乳棒を用いて均一にした。不溶性物質を、ミラクロス(miracloth)を介する濾過によって除去した。葉汁を、1容量のクロロホルムで1回処理し、そしてウイルス粒子を、標準法を用いてポリエチレングリコール(PEG−6000)で沈殿させた(Turpen & Reinl, 1998, Methods in Biotechnol., 3:89-101, eds. C. Cunningham & A.J.R. Porter, Humana Press, Totowa, NJ)。粒子を、K−リン酸緩衝液中に再懸濁させ、そして更に、スクロース密度遠心分離によって精製した。プロテインAフラグメントと融合したCPを含有するウイルス粒子の試料を、SDS−電気泳動および電子顕微鏡検査によって分析した。電子顕微鏡検査用の試料は、Negrouk および同業者によって記載のように調製した(2004, Analytical Biochem., 333:230-235)。分析結果を、図6に示す。
【0081】
実施例3
植物ウイルス粒子の表面に結合したプロテインAの抗体結合容量
リコンビナントプロテインAを結合している精製されたウイルス粒子のアリコート(0.5mg)を、異なった量のヒトIgG(Sigma 14506)と混合し、氷上で1時間インキュベートし、そして遠心分離(10分、12.000g)によって沈殿させた。ペレットおよび上澄みを、SDS−PAGEで分析した(図7)。1mgの粒子は、2mgまでのIgGを結合することができるということを示した。結合容量は、約2mg IgG/mgウイルス粒子である(すなわち、1分子のIgG(150kDa)は、リコンビナントウイルス粒子表面上のCP−プロテインA融合(34kDa)の3分の1〜5分の1の分子に結合する。
【0082】
実施例4
プロテインAを表面上に提示するリコンビナントウイルス粒子を用いて植物中で発現された抗体の精製
抗体を、植物中におけるヘテロオリゴマータンパク質の生産のためのICONウイルス発現系を用いて植物内で発現させた(EP出願第05001819.1号;WO2006/079546号)。IgGクラスの単クローン性抗体を含有する葉材料を、液体窒素中で粉砕し、そして新鮮葉重量(FW)1グラムにつき3mlのPBSで抽出した(Sambrook, Fritsch & Maniatis, 1989, Molecular Cloning: a Laboratory Manual, CSH, NY)。不溶性物質を、2回の遠心分離(10分、16000g)によって除去した。プロテインAを提示するウイルス粒子を、1mlの植物抽出物につき100ミリグラム加え、そして試料を氷上で少なくとも1時間インキュベートした。ウイルス粒子に結合した抗体を、遠心分離(15分、12000g)によって沈殿させ、0.25容量の0.1MグリシンpH2.5中に再懸濁させた。ウイルス粒子を除去するために、試料を、1%NaCl、4%PEGに調整し、氷上で30分インキュベートし、そして10.000gで15分遠心分離した。抗体含有上澄みを、新しい試験管に移し、1/10容量の1M Tris/HCl,pH9.0で中和し、そして適当容量のPBS緩衝液中の25%PEG溶液を加えることによって14%PEGに調整した。試料を氷上で少なくとも1時間保持し、そして抗体を遠心分離(15分、16000g)によって沈殿させた。精製プロトコールの要約を、表1に示す。抗体を、好都合な容量のPBS中に溶解させ、そしてゲル電気泳動によって分析した。精製手順によるタンパク質の電気泳動分析を、図8に示す。
【0083】
表1:プロテインAを表面上に提示するリコンビナントウイルス粒子を用いたIgG精製プロトコールの要約
1.インフィルトレーション処理された葉を、3容量のPBSで抽出する。抽出物を2回の遠心分離で透明にする。
【0084】
2.ウイルス粒子(約100mg/ml)を加え、氷上で15〜30分間インキュベートする。
3.4℃において12000g(ベンチトップ遠心機において11300rpm)で10分間遠心分離する。
【0085】
4.上澄みを捨て、ペレットを1容量の0.1Mグリシン、pH2.5中に再懸濁させる。
5.1/10容量の12%NaClおよび1/5容量の25%PEG−6000(0.1Mグリシン、pH2.5中)を加える。氷上で30分間インキュベートする。
【0086】
6.4℃において10000g(ベンチトップ遠心機において10300rpm)で15分間遠心分離する。
7.上澄みを新しい試験管に移す;1/10容量の1M Tris/HCl,pH9.0で中和する;そして1容量の25%PEG−6000(PBS中)を加え、氷上で30分間インキュベートする。
【0087】
8.4℃において16000g(ベンチトップ遠心機において13000rpm)で15分間遠心分離する。
9.上澄みを捨て、更に5分間遠心分離する。
【0088】
10.上澄みの痕跡を全て注意深く除去する;ペレットを好都合な容量のPBS中に再懸濁させる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、左側上に、植物ウイルス粒子の構造を模式的に示す。右側上に、本発明の融合タンパク質から構成された本発明によるウイルス粒子を模式的に示して、ウイルス粒子の表面上のこのリコンビナントタンパク質としてプロテインAを提示している。左下に、本発明によるウイルス粒子を示すが、本発明による3種類の異なった融合タンパク質は、3種類の異なったリコンビナントタンパク質、すなわち、プロテインA、蛍光マーカーおよびアフィニティー標識を表面上に提示するウイルス粒子を生じる。右側上に示されたウイルス粒子を、抗体のアフィニティー精製に用いる場合、そのウイルス粒子は、抗体分子をプロテインAによって結合する。
【図2A】図2は、いろいろなバイナリーベクターのT−DNA領域を示す。図2Aは、pICH20697を示す。
【図2B】図2Bは、TMV基材およびPVX基材のウイルス発現系の5’プロベクターを含有するpICH20701、pICH20723、pICH21684、pICH20710、pICH23407およびpICH23411を示す(イントロン位置は示されていないが、pICH20697の場合と同一である(図2A))。LB:T−DNAの左境界;RB:T−DNAの右境界;PNOS:アグロバクテリウムノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーター;TNOS:アグロバクテリウムノパリンシンターゼ遺伝子の転写終結領域;NPTII:カナマイシン耐性を与えるネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子;P35S:CaMV35Sプロモーター;ACT2:Arabidopsis アクチン2遺伝子プロモーターの転写エンハンサー;MP:ウイルス Movement タンパク質;CP:ウイルスコートタンパク質;TVCVポリメラーゼ:Turnip Vein Clearing Virus のRNA依存性RNAポリメラーゼ;PVXポリメラーゼ:Potato Virus XのRNA依存性RNAポリメラーゼ;25K,12K,8K:三重遺伝子ブロック(TGB)領域の遺伝子;sgp:サブゲノムプロモーター;int:イントロン配列の5’部分;AttP:部位特異的インテグラーゼphiC31で認識される組換え部位。
【図2C−1】GeneBee プログラム(http://www.belozersky.msu.ru)(Prof. Y. Dorokhov の好意)で行われるいろいろなトバモウイルスからのCPアミノ酸配列の整列。整列の上の記号の意味は、次の通りである。‘’:カラム対交換の平均重量は、マトリックス平均値重量より小さい;‘・’は、平均値+1SDより小さい;‘+’は、平均値+2SDより小さい;‘’は、平均値+2SDより大である。整列のために導入されるギャップは、ダッシュで示している。データは、TMV U1(U1:SEQ ID NO:19)についてはEMBL受託番号J02415;TMV共通株(OM:SEQ ID NO:20)についてはX00052;トマトモザイクウイルス(Tomato mosaic virus)(ToMV:SEQ ID NO:21)についてはX02144;TMV Kazakh 株(K1:SEQ ID NO:22)についてはAJ243571;TMV Kazakh 株(K2:SEQ ID NO:23)についてはZ92909;タバコグリーンモットルウイルス(Tobacco green mottle virus)または株(U2:SEQ ID NO:24)についてはM34077;TMVフラブム(flavum)株(SEQ ID NO:25)についてはAF546184;キュウリフルーツモットルモザイクウイルス(Cucumber fruit mottle mosaic virus)(CFMMV)についてはAF321057;キュウリグリーンモットルモザイクウイルス(Cucumber green mottle mosaic virus)(CGMMV)についてはD12505;オドントグロッスム輪点ウイルス(Odontoglossum ringspot virus)(ORSV:SEQ ID NO:26)についてはE04305;ペッパーマイルドモットルウイルス(Pepper mild mottle virus)(PMMV:SEQ ID NO:27)についてはAJ308228;TMV株(Rakkyo:SEQ ID NO:28)についてはD63809;サンヘンプモザイクウイルス(sunn-hemp mosaic virus)(SHMV)についてはJ02413;ヘラオオバコモザイクウイルス(ribgrass mosaic virus)(RMV:SEQ ID NO:29)についてはAF254924;TMVのクルシファ(crucifer)株(crTMV:SEQ ID NO:30)についてはZ29370;ターニップベインクリアリングウイルス(turnip vein-clearing virus)(TVCV:SEQ ID NO:31)についてはU3387;TMVのクルシファ株(TMV−Cg:SEQ ID NO:32)についてはU30944;TMV Wasabi のクルシファ株(TMV−W:SEQ ID NO:34)についてはAB003936;およびオイルシードセイヨウアブラナモザイクウイルス(Oilseed rape mosaic virus)(ORMV:SEQ ID NO:33)については Aguilar et al. (1996) より得た。
【図2C−2】GeneBee プログラム(http://www.belozersky.msu.ru)(Prof. Y. Dorokhov の好意)で行われるいろいろなトバモウイルスからのCPアミノ酸配列の整列。整列の上の記号の意味は、次の通りである。‘’:カラム対交換の平均重量は、マトリックス平均値重量より小さい;‘・’は、平均値+1SDより小さい;‘+’は、平均値+2SDより小さい;‘’は、平均値+2SDより大である。整列のために導入されるギャップは、ダッシュで示している。
【図2C−3】GeneBee プログラム(http://www.belozersky.msu.ru)(Prof. Y. Dorokhov の好意)で行われるいろいろなトバモウイルスからのCPアミノ酸配列の整列。整列の上の記号の意味は、次の通りである。‘’:カラム対交換の平均重量は、マトリックス平均値重量より小さい;‘・’は、平均値+1SDより小さい;‘+’は、平均値+2SDより小さい;‘’は、平均値+2SDより大である。整列のために導入されるギャップは、ダッシュで示している。
【図3A】図3Aは、バイナリーベクターpICH21767、pICH21898、pICH21444、pICH323478、pICH23463、pICH23523、pICH7410、pICH10580およびpICH14011のT−DNA領域を示す。LB:T−DNAの左境界;RB:T−DNAの右境界;PNOS:アグロバクテリウムノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーター;TNOS:アグロバクテリウムノパリンシンターゼ遺伝子の転写終結領域;NPTII:カナマイシン耐性を与えるネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子;NTR:ウイルスRNAの3’非翻訳領域;AttB:部位特異的インテグラーゼphiC31で認識される組換え部位;pHSP81.1:Arabidopsis 熱ショックタンパク質hsp81.1についてコードしている遺伝子のプロモーター;NLS:ヌクレアーゼ局在化シグナル;GFP:合成グリーン蛍光タンパク質をコードしている遺伝子;dsRED:レッド蛍光タンパク質;E,D:Staphylococcus aureus プロテインAの免疫グロブリン結合ドメインEおよびD。
【図3B】図3Bは、プロテインA−ウイルス粒子融合の高レベル発現を示す。(a)N.ベンタミアナ(N. benthamiana)植物のトランスフェクションに用いたコンストラクト。野生型CPは、集合したベクター(pICH17501)から発現させる。CP−プロテインA融合は、インテグラーゼによって触媒される部位特異的組換えによって植物内で集合する別々の5’モジュールおよび3’モジュールから発現させる(pICH10881)。短い15aaリンカー(影付き囲み)は、5’モジュール中に包含される、すなわち、pICH20701およびpICH24384中の可変性リンカー(GGGGS)およびpICH20723およびpICH24399中のヘリックスリンカー(EAAAK)。pICH20697は、いずれのリンカーも含有しない。白囲みは、最適化された発現のためのイントロンである。RdRp:RNA依存性RNAポリメラーゼ;MP:Movement Protein;attP/attB:組換え部位;int:スプライシングによる組換え部位の除去のためのイントロンの5’および3’部分;N:3’非翻訳領域;T:nosターミネーター。(b)野生型ウイルス;リンカーを含むプロテインA N末端融合(PA−CP);リンカー不含(pICH20697)またはリンカーを含む(pICH20701/20723)プロテインA C末端融合(CP−PA);リンカーを含むC末端融合;全身葉でトランスフェクションされた植物;および非トランスフェクション対照からの粗製抽出物を示す、Coomassie 染色されたポリアクリルアミドゲル。Rbc:Rubisco ラージサブユニット。
【図4】図4は、(A)Staphylococcus aureus プロテインA(SEQ ID NO:35)および(B)成熟ストレプトアビジンのフラグメント(アミノ酸残基12〜139:SEQ ID NO:36)の配列を示す。タンパク質配列の下線を施した領域についてコードしているプロテインA遺伝子の部分を、N.タバクム(N. tabacum)中での発現のためにおよびmRNAの構造および安定性のために最適化されたコドン使用頻度で再合成した。それを、TMV−3’プロベクター(pICH21767)中にクローン化した。クローン化された配列の長さは、133aa(ドメインE:56aa;ドメインD:61aa)である。成熟ストレプトアビジンの配列フラグメント(aa12〜139)を、CPへの融合のために3’プロベクターpICH21444中にクローン化した;StrepTagII への増加したアフィニティーのための突然変異した残基に下線を施している(この位置の天然配列は、「ESAV」である)。
【図5】図5は、リコンビナントタンパク質とCPとのいろいろな融合の電気泳動分析を示す。左側のゲル:リン酸緩衝液中の標準抽出物(7Lを除く)。右側のゲル:Laemli 緩衝液中の抽出物(GC、RC、CPCを除く)。(1)pICH20697−pICH7410(GFP); (2)pICH20697−pICH10580(dsRED); (3)pICH20697−pICH7410(GFP)、全身葉; (4)20697−pICH10580(dsRED)、全身葉; (5)pICH20701; (6)pICH20701−pICH7410(GFP); (7)pICH20701−pICH10580(dsRED); (8)pICH20710−pICH7410(GFP); (9)pICH20710−pICH10580(dsRED); (10)pICH20710−pICH7410(GFP)、全身葉; (11)pICH20710−pICH10580(dsRED)、全身葉; (12)pICH20723; (13)pICH20723−pICH7410(GFP); (14)pICH20723−pICH10580(dsRED); (15)pICH20723−pICH7410(GFP)、全身葉; (16)pICH20723−pICH10580(dsRED)、全身葉。NC:負の対照;GC:GFP対照;RC:dsRED対照;CPC:CP対照;L:Laemli 緩衝液。
【図6】(A)リコンビナントウイルス粒子の電子顕微鏡検査。バーは100nmである。(B)被接種葉組織より抽出されたタンパク質の電気泳動分離。(1)pICH20701−pICH21767(プロテインA、2ドメイン); (2)pICH20701−pICH21770(プロテインA、1ドメイン); (3)pICH20723−pICH21767(2ドメイン); (2)pICH20723−pICH21770(1ドメイン); (5)野生型ウイルス。(C)リコンビナントウイルス粒子より抽出されたタンパク質の電気泳動分離。 (1)野生型ウイルス; (2〜7)pICH20701−pICH21767(プロテインA、2ドメイン)、いろいろなウイルス粒子標品; (8)MWタンパク質マーカー。
【図7】植物ウイルス由来マトリックスの表面上に提示されたプロテインAの抗体結合容量の測定。s:上澄み;p:ペレット;HC:IgG重鎖;LC:IgG軽鎖;CP−protA:ウイルスコートタンパク質−プロテインA融合;MW:分子量タンパク質マーカー(kDa)。
【図8】プロテインAを表面上に提示しているウイルス粒子を用いた、植物抽出物からのIgGの精製。(1)粗製抽出物; (2)IgGの沈殿後の上澄み; (3)IgGの沈殿後の再懸濁されたペレット; (4)粒子の除去後の再懸濁されたペレット; (5)IgGのPEG沈殿後の再懸濁されたペレット(他の試料と比較して2x濃縮された)。HC:IgG重鎖;LC:IgG軽鎖;CP−protA:ウイルスコートタンパク質−プロテインA融合;MW:分子量タンパク質マーカー(kDa)。 添付書類1 プライマー配列:
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のタンパク質を精製する方法であって、次の工程:
(a)融合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスであって、次の融合タンパク質ドメイン:
(i)植物ウイルスコートタンパク質および
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質であって、精製される該目的のタンパク質へのアフィニティーを有する該融合タンパク質の該リコンビナントタンパク質
を含む融合タンパク質を含むアフィニティーマトリックスを与え、
(b)該アフィニティーマトリックスと、該目的のタンパク質を含有する液体組成物とを、該アフィニティーマトリックスの該リコンビナントタンパク質への該目的のタンパク質の結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、該アフィニティーマトリックスが、該条件下で不溶性であり、
(c)該リコンビナントタンパク質に結合しなかった該液体組成物の成分を、工程(b)の混合物から、該アフィニティーマトリックスの該リコンビナントタンパク質への該目的のタンパク質の結合を保存する条件下で除去し、そして
(d)該目的のタンパク質を該アフィニティーマトリックスから分離すること
を含む方法。
【請求項2】
前記リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンまたはそれらの誘導体へのアフィニティーを有する、好ましくは、該リコンビナントタンパク質が、ブドウ球菌プロテインAまたはその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目的のタンパク質が、免疫グロブリンである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、
(iii)前記植物ウイルスコートタンパク質および前記リコンビナントタンパク質を連結する少なくとも一つのペプチドリンカー
を更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つのペプチドリンカーが、少なくとも10アミノ酸残基を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アフィニティーマトリックスが、該アフィニティーマトリックス中に存在するフリーのウイルスコートタンパク質および前記融合タンパク質の合計に相対して多くとも20mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
複数の融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子であって、該融合タンパク質が、次の融合タンパク質ドメイン:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)場合により、該植物ウイルスコートタンパク質および該リコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカー
を含み、ここにおいて、該リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンを、好ましくは、免疫グロブリンのFc領域によって結合可能である、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子。
【請求項8】
融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子であって、該融合タンパク質が、次の融合タンパク質セグメント:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)該植物ウイルスコートタンパク質および該リコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーであって、少なくとも10アミノ酸残基を含む該ペプチドリンカー
を含み、ここにおいて、該ウイルス粒子が、多くとも20mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子。
【請求項9】
前記ウイルス粒子が、桿状形である、請求項7〜8のいずれか1項に記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項10】
前記ウイルスコートタンパク質が、ターニップベインクリアリングウイルス(turnip vein clearing virus)のコートタンパク質、またはターニップベインクリアリングウイルスのコートタンパク質に少なくとも40%の同一性を有するタンパク質である、請求項7または請求項8のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項11】
前記植物ウイルスコートタンパク質が、ターニップベインクリアリングウイルスのコートタンパク質に少なくとも60%の同一性を有する、請求項7〜9のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項12】
前記植物ウイルスコートタンパク質が、タバコモザイクウイルスコートタンパク質、またはタバコモザイクウイルスのコートタンパク質に少なくとも80%の同一性を有するタンパク質である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項13】
前記リコンビナントタンパク質が、前記植物ウイルスコートタンパク質のN末端に、前記ペプチドリンカーによって連結している、請求項7〜12のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項14】
前記リコンビナントタンパク質が、前記植物ウイルスコートタンパク質のC末端に、前記ペプチドリンカーによって連結している、請求項7〜12のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項15】
前記リコンビナントタンパク質が、前記植物ウイルスコートタンパク質に関して内部融合であり且つ該植物ウイルスコートタンパク質に、二つのペプチドリンカーによって連結している、請求項7〜12のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項16】
前記ペプチドリンカーが、一定の二次構造を有していない、またはヘリックスを形成する、請求項7〜15のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項17】
前記ウイルス粒子が、それらの表面上の二つまたはそれを超える異なったリコンビナントタンパク質を提示する、請求項7〜16のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項18】
前記リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンまたはそれらの誘導体へのアフィニティーを有する、好ましくは、該リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンのFc領域へのアフィニティーを有する、請求項7〜17のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項19】
前記リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンを結合可能なブドウ球菌プロテインAまたはその誘導体である、請求項18に記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項20】
前記リコンビナントタンパク質が、免疫グロブリンを結合可能な連鎖球菌プロテインGまたはその誘導体である、請求項18に記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項21】
前記リコンビナントタンパク質が、ストレプトアビジンまたはその誘導体である、請求項7〜17のいずれか1項に記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項22】
ウイルス粒子が、多くとも20mol%、好ましくは、多くとも10mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む、請求項7〜21のいずれかに記載のウイルス粒子またはウイルス様粒子。
【請求項23】
融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子であって、該融合タンパク質が、次の融合タンパク質ドメイン:
(i)ターニップベインクリアリングウイルスの植物ウイルスコートタンパク質、またはターニップベインクリアリングウイルスのコートタンパク質に少なくとも40%の同一性を有するタンパク質、
(ii)少なくとも50アミノ酸残基を含むリコンビナントタンパク質、および
(iii)場合により、該植物ウイルスコートタンパク質および該リコンビナントタンパク質を連結するペプチドリンカーであって、少なくとも10アミノ酸残基を含む該ペプチドリンカー
を含む、リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子。
【請求項24】
請求項7〜23のいずれかに記載のリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子を製造する方法であって、前記融合タンパク質を、細菌中、植物中、植物組織中または植物細胞中で発現することを含む方法。
【請求項25】
前記融合タンパク質をコードしている植物ウイルスベクターを、アグロバクテリウムに媒介されるデリバリーによって植物細胞中に導入後、該ウイルス粒子を該植物細胞から単離することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルス粒子を、化学的失活を用いて感染不十分(infection-deficient)にすることを更に含む、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
リコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子を製造する方法であって、請求項7〜23のいずれかに記載の融合タンパク質と、コートタンパク質であるまたはそれを含む第二タンパク質とを含む混合物中において、該融合タンパク質および該第二タンパク質を含むウイルス粒子の集合を可能にする条件下でリコンビナントウイルス粒子を集合させることを含む方法。
【請求項28】
融合タンパク質であって、次の融合タンパク質セグメント:植物ウイルスコートタンパク質;リンカーペプチド;および免疫グロブリンを結合可能なリコンビナントタンパク質を含み、好ましくは、該リコンビナントタンパク質は、免疫グロブリンの定常領域を結合可能であり、それによって、該融合タンパク質が、好ましくは、リコンビナントウイルス粒子またはウイルス様粒子を形成可能である、融合タンパク質。
【請求項29】
融合タンパク質であって、次の融合タンパク質セグメント:
(i)植物ウイルスコートタンパク質、
(ii)免疫グロブリンのFc領域に結合可能なプロテインAまたはプロテインG、またはプロテインAまたはプロテインGの変異体、および
(iii)項目(i)および項目(ii)のセグメントを連結するリンカーペプチド
を含む融合タンパク質。
【請求項30】
請求項7〜23、請求項28または請求項29のいずれかに記載の融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30に記載のポリヌクレオチドを含む植物、植物組織または植物細胞。
【請求項32】
請求項31に記載の植物、植物組織または植物細胞より得られるまたは入手可能なウイルス材料。
【請求項33】
部品キットであって、植物、植物組織または植物細胞と、請求項30に記載のポリヌクレオチドを含む部品キット。
【請求項34】
目的のタンパク質のアフィニティー精製のためのタンパク質マトリックスであって、請求項7〜23のいずれかに記載の融合タンパク質分子を含むリコンビナントウイルス粒子またはリコンビナントウイルス様粒子を含み、ここにおいて、該ウイルス粒子は、該アフィニティーマトリックス中に存在するフリーのウイルスコートタンパク質および該融合タンパク質の合計に相対して多くとも20mol%のフリーのウイルスコートタンパク質を含む、タンパク質マトリックス。
【請求項35】
請求項34に記載のタンパク質マトリックスであって、化学的に架橋している前記ウイルス粒子またはウイルス様粒子を含むタンパク質マトリックス。
【請求項36】
前記融合タンパク質が、請求項7〜23のいずれか1項に定義の通りである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
目的のタンパク質を精製するための、
請求項1〜23、請求項28または請求項29のいずれかに記載の融合タンパク質;または
請求項7〜23のいずれかに記載のリコンビナントウイルス粒子またはウイルス様粒子;または
請求項34または請求項35のいずれかに記載のマトリックス
の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C−1】
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【図2C−2】
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【図2C−3】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−507503(P2009−507503A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530428(P2008−530428)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009029
【国際公開番号】WO2007/031339
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(507254997)アイコン・ジェネティクス・ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】