説明

植物ホルモン用のエチレン発生体

【課題】容易に製造でき、また、容易に取り扱うことができる植物エチレン用のエチレン発生体を提供する。
【解決手段】通気性を有する外側部6と、この外側部6の内側に位置し通気性および吸水性を有する内側部7とを備えた収容部材2を具備する。この収容部材2に、有機物3と還元鉄を含む溶液4が封入された溶液封入体5とを収容する。この溶液封入体5に外力が加えられることにより封入体本体8が破断すると、溶液封入体5から溶液4が流出し、収容部材2内にて有機物3と溶液4とが接触可能である。そして、有機物3と溶液4とが接触することにより、有機物3に溶液4の還元鉄由来のFe2+が作用してエチレンが生成される。このエチレンが収容部材2の外側部6および内側部7を透過して、植物ホルモン用のエチレン発生体1からエチレンが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物やその脂質からエチレンを発生させる植物ホルモン用のエチレン発生体、および、この植物ホルモン用のエチレン発生体を用いた果実の追熟方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンは、植物ホルモンとして生体機能を制御する重要な物質であることが知られている。工業的に、エチレンは石油から大量に生産されているが、近年の石油の大量消費により石油資源の枯渇や環境汚染などの深刻な問題が危惧されている。このため、石油などの化石燃料を用いず、環境負荷が少なく、持続的な新しいエチレンの生成技術の開発が求められている。
【0003】
そこで、例えばブドウ枯葉などの有機物を施与した土壌から大量のエチレン(バイオエチレン)が生成されることが知られている。
【0004】
有機物中の主要なエチレン生成物質は脂質であり、このようなエチレンの生成は微生物の作用によって起こると推察されており、石油などの化石燃料を用いないエチレンの生成技術として、バチラス(Bacillus)属の細菌の働きによりエチレンを生成させる方法およびその装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このように微生物を用いて生成したエチレンは、石油から生成したエチレンと同様に、植物ホルモンとして使用でき、未熟な有機栽培のバナナやキウイフルーツなどの果実の熟れを促進できることが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
したがって、このように微生物を用いて生成したエチレンは、環境負荷が小さいだけでなく、化石燃料を用いて生成したエチレンと同様に果実の熟れを促進させることができるので、いわゆる食の安全という観点から特に園芸分野にて用いられるエチレンとして有用である。
【0007】
また、エチレンを生成する方法として、2価の鉄イオン(Fe2+)を用いたブドウ枯葉からエチレン生成の工業化のための基本的な手法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4347177号公報(第3−7頁、図1)
【特許文献2】特許第4367849号公報(第2−4頁、図1)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】石井孝昭、他1名、ブドウ枯葉を用いたバイオエチレンの生産(Production of Bio-ethylene Using Dead Grape Leaf)、ジャーナル・オブ・ザ・ジャパン・インスティテュート・オブ・エネルギー(Journal of the Japan Institute of Energy)、2008年1月11日、第87巻、9号、p.744−748
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の特許文献1および特許文献2のように微生物を用いてエチレンを生成する場合には、微生物を培養する必要があり、生成装置の構成が複雑かつ大型なものになるので、容易に製造できず、また、発生させたエチレンを一旦回収する必要があるので、容易に取り扱うことができないと考えられる。
【0011】
また、非特許文献1の手法では、2価鉄イオンとブドウ枯葉からエチレンが生成できる点が記載されているにすぎず、実験の際に使用した生成装置は構成が複雑かつ大型なものであるので、容易に製造できず、また、発生させたエチレンを一旦回収する必要があるので、容易に取り扱うことができないと考えられる。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、容易に製造でき、また、容易に取り扱うことができる植物ホルモン用のエチレン発生体およびこの植物ホルモン用のエチレン発生体体を用いた果実の追熟方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載された植物ホルモン用のエチレン発生体は、通気性を有する収容部材を具備し、この収容部材には、有機物およびこの有機物から得られる脂質の少なくとも一方と、還元鉄および還元銅の少なくとも一方を含む溶液が封入された溶液封入体とが収容され、この溶液封入体に外力が加えられることにより、前記溶液封入体から前記溶液が流出し、前記収容部材内にて前記有機物および前記脂質の少なくとも一方と前記溶液とが接触可能であるものである。
【0014】
請求項2に記載された植物ホルモン用のエチレン発生体は、請求項1に記載された植物ホルモン用のエチレン発生体において、有機物は、ブドウ葉およびスギ葉の少なくとも一方であるものである。
【0015】
請求項3に記載された植物ホルモン用のエチレン発生体は、請求項1または2記載の植物ホルモン用のエチレン発生体において、収容部材は、通気性を有する外側部と、この外側部の内側に位置し通気性および吸水性を有する内側部とを備えたものである。
【0016】
請求項4に記載された果実の追熟方法は、請求項1ないし3いずれか記載の植物ホルモン用のエチレン発生体と、果実とを密閉可能な収容体に収容し、前記植物ホルモン用のエチレン発生体にてエチレンを発生させて前記収容体を密閉し、発生したエチレンにて果実を追熟させるものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された発明によれば、通気性を有する収容部材に、有機物およびこの有機物から得られる脂質の少なくとも一方と、還元鉄および還元銅の少なくとも一方を含む溶液が封入された溶液封入体とが収容された構成であるので、簡単な構成であり、容易に製造できる。
【0018】
また、溶液封入体に外力が加えられることにより、収容部材内にて有機物および脂質の少なくとも一方と溶液とが接触可能な構成であり、有機物および脂質の少なくとも一方と溶液とが接触することによりエチレンが発生するので、容易に取り扱うことができる。
【0019】
請求項2に記載された発明によれば、有機物は、ブドウ葉およびスギ葉の少なくとも一方であることにより、これらブドウ葉およびスギ葉はいずれも容易に入手できるので、容易に製造できる。
【0020】
請求項3に記載された発明によれば、収容部材は、通気性を有する外側部と、通気性および吸水性を有する内側部とを備えたことにより、収容部材内にて有機物および脂質の少なくとも一方と溶液とを接触させる際に、溶液の過剰な水分を内側部に吸収できるので、収容部材からの溶液の漏出を防止でき、容易に取り扱うことができる。
【0021】
請求項4に記載された発明によれば、請求項1ないし3いずれか記載の植物ホルモン用のエチレン発生体が容易に製造でき、また、容易に取り扱うことができるので、この植物ホルモン用のエチレン発生体にてエチレンを発生させて、果実を容易に追熟できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る植物ホルモン用のエチレン発生体の構成を簡略的に示す構成図であり、(a)はエチレンを発生させる前の状態を示し、(b)はエチレンが発生している状態を示す。
【図2】(a)は比較例である無処理のキウイフルーツ果実の断面を示す写真であり、(b)は比較例である市販の果実追熟剤を用いて追熟したキウイフルーツ果実の断面を示す写真であり、(c)は本実施例である植物ホルモン用のエチレン発生体を用いて追熟したキウイフルーツ果実の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図1を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1(a)において、1は植物ホルモン用のエチレン発生体であり、この植物ホルモン用のエチレン発生体1は、通気性を有する袋状の収容部材2を具備し、この収容部材2には、有機物3と、還元鉄を含む溶液4が封入された溶液封入体5とが収容されている。また、収容部材2内では、溶液封入体5に外力が加えられることにより、溶液封入体5から溶液4が流出し、有機物3と溶液封入体5から流出した溶液4とが接触可能である。
【0025】
そして、図1(b)に示すように、収容部材2内にて有機物3と溶液4とが接触することにより、有機物3中の脂質に溶液の還元鉄由来のFe2+が作用してエチレンが発生する。
【0026】
収容部材2は、通気性を有する外側部6と、この外側部6の内側に位置し、通気性および吸水性を有する内側部7とを備えている。外側部6は、例えば、紙、ポリエステル、ウールおよび綿などの通気性を有しガスを通しやすい素材にて形成されている。内側部7は、例えば、紙、脱脂綿、高吸収性ポリマおよび不織布などの通気性および吸水性を有しガスを通しやすく水を吸収しやすい素材にて形成されている。また、これら外側部6と内側部7とは互いに接合されておらずそれぞれ別個である。
【0027】
このような収容部材2は、収容部材2の内部、すなわち外側部6および内側部7より内側の空間内に有機物3と溶液封入体5とが収容された状態にて、端部が例えばボンドなどで封着されて密閉されている。なお、封着された収容部材2内は、有機物3および溶液封入体5やその他のものが充填されている必要はなく、これら有機物3および溶液封入体5の周囲には空隙がある。
【0028】
有機物3としては、ブドウ葉としてのブドウ枯葉やスギ葉としてのスギ枯葉などが好ましく、ブドウ枯葉やスギ枯葉を粉末状にしたものが用いられるとより好ましい。有機物3としてブドウ枯葉およびスギ枯葉を用いる場合は、葉内に脂質が含まれているものであればよく、特別な品種を用いる必要はなく一般的なブドウやスギの葉を用いることができる。また、有機物3としてブドウ枯葉およびスギ枯葉の粉末を混合したものを用いてもよい。
【0029】
溶液封入体5は、袋状の封入体本体8を有し、この封入体本体8に還元鉄を含む溶液4が封入されている。また、封入体本体8は、外力を加えることにより破断し、封入された溶液4が流出するものであるので、例えば合成樹脂などのように、通常時は封入する溶液4が漏出しにくく、外力を加えた際には破れやすい素材が好ましい。
【0030】
溶液4は、還元鉄を含み、この還元鉄由来のFe2+(2価鉄イオン)を有している。還元鉄は、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、酢酸第一鉄、クエン酸第1鉄、酒石酸第一鉄、硝酸鉄(II)、スルファミン酸第一鉄、ギ酸第一鉄など、溶液にするとFe2+を生成する化合物であればよい。
【0031】
ここで、植物ホルモン用のエチレン発生体1においては、有機物3に対して溶液4の還元鉄の濃度が高いほど、エチレンを多く生成できるものの溶液4の水質が悪化してしまう。したがって、有機物3および溶液4は、エチレン生成量および溶液4の水質を考慮すると、例えば、有機物3であるブドウ枯葉粉末が66.7mg(ブドウ枯葉脂質10mgに相等)に対して、還元鉄としての硫酸第一鉄の濃度が10mMの溶液4が5ml程度であると好ましい。
【0032】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0033】
植物ホルモン用のエチレン発生体1にてエチレンを発生させる際には、収容部材2を例えば揉んだり振ったりすることなどにより、収容部材2内の溶液封入体5に外力を加える。
【0034】
加えられた外力により封入体本体8が破断して、溶液封入体5の溶液4が封入体本体8から流出する。
【0035】
流出した溶液4は、有機物3に接触して付着し、有機物3に含まれる脂質に溶液のFe2+が作用して、エチレンが生成される。なお、エチレンの他に低級炭化水素はほとんど生成されない。
【0036】
生成されたエチレンは、収容部材2の内側部7および外側部6を透過して、収容部材2の外部へ流出し、植物ホルモン用のエチレン発生体1からエチレンが発生する。
【0037】
なお、溶液封入体5において、封入体本体8から流出した溶液の過剰の水分は、収容部材2の内側部7にて吸収される。
【0038】
ここで、有機物3にFe2+が作用することによるエチレンの生成について調査するため、例えば有機物3としてのブドウ枯葉に含まれる脂質をNMRにて分析したところ、この脂質は、酸素官能基を有する不飽和脂肪酸であり、糖が結合した糖脂質であった。また、この脂質にFe2+を添加すると、大きな変化を起こし、特に二重結合の強度が弱くなって、酸素原子の隣接部のシングルが大きくなるという変化が現れた。
【0039】
したがって、エチレン生成に関与する有機物3の脂質はカスケード状に酸素原子を有する長鎖の不飽和脂肪酸であり、酸素がFe2+によって奪われて、脂質の分解が連続的に生じ、エチレンが瞬時に生成されるものと考えられる。
【0040】
そして、このような植物ホルモン用のエチレン発生体1は、通気性を有する収容部材2に、有機物3と、還元鉄を含む溶液4が封入された溶液封入体5とが収容された構成であるので、特殊な器具や設備を必要とせず簡単な構成であり、容易に製造できる。
【0041】
このように植物ホルモン用のエチレン発生体1は、簡単な構成であるので、想定される用途に応じて容易に小型化または大型化できる。
【0042】
植物ホルモン用のエチレン発生体1は、収容部材2を揉んだり振ったりするなどして、収容部材2内の溶液封入体5に外力を加えることにより、封入体本体8が破断して溶液封入体5から溶液が流出し、収容部材2内にて有機物3と溶液4とが接触可能であり、有機物3と溶液4とが接触するとエチレンが生成され、このエチレンが収容部材2を透過して植物ホルモン用のエチレン発生体1からエチレンが発生する。したがって、例えば生成されたエチレンを一旦回収する作業などを必要とせず、有機物3と溶液4とを接触させた状態でエチレンを発生させたい場所や空間に放置するだけでよいので、容易に取り扱うことができる。
【0043】
また、植物ホルモン用のエチレン発生体1は、エチレンの他に低級炭化水素がほとんど生成されないので、発生した気体からエチレンを分離するなどの作業が必要がなく、容易に取り扱うことができる。
【0044】
さらに、植物ホルモン用のエチレン発生体1は、収容部材2が、通気性を有する外側部6と通気性および吸水性を有する内側部7とを備えたことにより、収容部材2内にて、有機物3と溶液4とを接触させた際における溶液の過剰な水分を内側部7にて吸収できるので、収容部材2からの溶液の漏出を防止でき、容易に取り扱うことができる。
【0045】
有機物3は、ブドウ枯葉やスギ枯葉であることにより、これらのブドウやスギは特別な品種のものではなく、いずれの葉も容易に入手できるので、容易に製造できる。
【0046】
特に現在の果樹栽培は、多くの場合に果実生産という1次産業的な役割が主な目的とされており、ブドウ枯葉は農業生産の過程から排出される農業廃棄物である。したがって、有機物3としてブドウ枯葉を用いると、食糧生産と競合せずに有機物3を回収できるので、ブドウ枯葉は、石油などの化石燃料と違って永続的なエネルギ源として確保できる。
【0047】
なお、上記一実施の形態では、収容部材2を袋状の構成にしたが、このような構成には限定されず、例えば箱状の構成などにしてもよく、収容部材2の大きさも適宜設定できる。
【0048】
また、収容部材2は、通気性を有する外側部6と、通気性および吸水性を有する内側部7とを有する構成にしたが、通気性を有していればこのような構成には限定されず、例えば、外側部6のみの構成などにしてもよい。このように収容部材2が外側部6のみの構成の場合は、収容部材2の素材や溶液4の量を調整することにより、溶液封入体5から流出した溶液4の漏出を防止できる。
【0049】
収容部材2が外側部6および内側部7を備えた構成にする場合は、外側部6と内側部7とが別個の構成には限定されず、外側部6と内側部7とを接合して一体的な構成にしてもよい。
【0050】
さらに、収容部材2は、例えばボンドなどで封着された構成にしたが、このような構成には限定されず、例えば、収容部材2が箱状の場合は、蓋体などにて密閉する構成や、収容部材2が袋状の構成に場合には、収容部材2の端部を結んで簡易的に密閉する構成などにしてもよい。
【0051】
収容部材2内は、有機物3および溶液封入体5の周囲に空隙がある構成には限定されず、溶液封入体5に外力を加えることにより有機物3と溶液4とが接触可能な構成であれば、有機物3および溶液封入体5を充填した構成などでもよい。
【0052】
有機物3は、有機物3そのものではなく、有機物3から抽出される脂質を用いてもよく、これら有機物3および脂質の少なくとも一方が用いられていればよい。
【0053】
溶液封入体5は、還元鉄を含む溶液が封入された構成には限定されず、還元鉄および還元銅の少なくとも一方を含む溶液が封入されていればよい。還元銅としては、例えば塩化第一銅など、溶液にした際に一価銅イオン(Cu)を生成する化合物であればよい。このように還元銅を用いた場合は、還元鉄を用いた場合と同様に、有機物3における脂質の酸素がCuによって奪われて、脂質の分解が連続的に生じ、エチレンが生成されると考えられる。
【0054】
また、溶液封入体5は、封入体本体8が例えば合成樹脂などで形成された袋状の構成にしたが、このような構成には限定されず、外力を加えることにより溶液封入体5から溶液が流出する素材や構成であればよく、例えば箱状やカプセル状の構成などにしてもよい。
【0055】
収容部材2に収容された有機物3と溶液4との比率は、有機物3であるブドウ枯葉粉末が66.7mgに対して、還元鉄としての硫酸第一鉄の濃度が10mMの溶液4が5ml程度という構成に限定されず、適宜設定できる。
【0056】
次に、上記植物ホルモン用のエチレン発生体を用いた果実の追熟方法について説明する。
【0057】
植物ホルモン用のエチレン発生体1にて果実を追熟させる際には、植物ホルモン用のエチレン発生体1と追熟させる果実とを密閉可能な収容体に収容する。
【0058】
植物ホルモン用のエチレン発生体1に外力を加えてエチレンを発生させた状態で、収容体を密閉し、放置して、植物ホルモン用のエチレン発生体1から発生したエチレンにより果実を追熟させる。
【0059】
なお、植物ホルモン用のエチレン発生体1からエチレンを発生させた状態で、収容体を密閉するという順番にて説明したが、植物ホルモン用のエチレン発生体1にて果実を追熟させる際にはこのような順番に限定されず、例えば、収容体を密閉した後に、収容体上から植物ホルモン用のエチレン発生体1に外力を加えてエチレンを発生させてもよい。
【0060】
また、密閉可能な収容体は、特別な器具である必要はなく、箱状、袋状のいずれでもよく、例えば、ポリ塩化ビニル製のいわゆるビニル袋や、ポリプロピレン製のいわゆるポリ袋などを用いることも可能である。
【0061】
そして、このような果実の追熟方法によれば、植物ホルモン用のエチレン発生体1は容易に製造でき、また、容易に取り扱うことができるものであるので、密閉可能な収容体内に果実とともに植物ホルモン用のエチレン発生体1を放置するだけで、果実を容易に追熟できる。
【0062】
また、このように植物ホルモン用のエチレン発生体1を用いることにより、化石燃料に依存しないエチレンを発生でき、果実を安全に追熟できるので、食の安全という面にて非常に有用である。
【0063】
なお、このように植物ホルモン用のエチレン発生体1は、果実の追熟に有効であるが、植物ホルモン用のエチレン発生体1の使用については、上記のような果実の追熟に用いることに限定されず、植物ホルモン用のエチレン発生体1にて発生させたエチレンを、例えば植物ホルモンとして、植物体や、石井(Takaaki Ishii)他,ジャーナル オブ ザ ジャパニーズ ソサエティ フォー ホーティカルチャラル サイエンス(Journal of the Japanese Society for Horticultural Science),1996年,第65巻,p.525−529に記載されたように、菌根菌などの植物体の根に感染して植物の生育を助ける土壌共生微生物に作用させることが可能である。また、このように作用させることにより、熟れや老化の促進、病原菌の侵入に対する植物の防御機構などの植物の生体機能の制御、および土壌共生微生物の生長制御を行うことができる。
【実施例1】
【0064】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0065】
有機物と接触させる化合物の違いによるエチレンの生成について確認した。
【0066】
ブドウ枯葉粉末100mg、または、枯葉脂質10mgをそれぞれ小瓶に入れた後、表1に示す各化合物を添加し、シリコン製の蓋で小瓶を密閉した。そして、3時間後の小瓶内の気相部に生成されたガスを採取し、このガスをFIDガスクロマトグラフにて分析した。この実験に用いた化合物および実験結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、還元銅である塩化第一銅を用いた本実施例や、還元鉄である硫酸第一鉄、塩化第一鉄および酢酸第一鉄のいずれかを用いた本実施例では、ブドウ枯葉粉末およびブドウ枯葉脂質のいずれからもエチレンが多量に生成されている。
【0069】
一方、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、クエン酸第二鉄およびFe(III)−EDTAを用いた比較例では、ブドウ枯葉粉末およびブドウ枯葉脂質のいずれからもエチレンがほとんど生成されなかった。
【実施例2】
【0070】
有機物やその脂質の種類よるエチレンの生成について確認した。
【0071】
ブドウ枯葉粉末100mg、スギ枯葉粉末100mg、ブドウ枯葉脂質10mgおよびスギ枯葉脂質10mgのいずれかの有機物をそれぞれ小瓶に入れた後、硫酸第一鉄10mlを小瓶にいれ、シリコン製の蓋で密閉した。そして、3時間後、小瓶内の気相部に生成されたガスを採取し、FIDガスクロマトグラフで分析した。この結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、有機物やその脂質としてブドウ枯葉を用いた方が多くのエチレンを生成できるものの、スギ枯葉を用いても十分にエチレンを生成できる。
【実施例3】
【0074】
有機物としてブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体による果実の追熟効果を確認した。
【0075】
有機物としてブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体と、キウイフルーツ果実20kgとを収容体としてのビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にした後、ビニル袋上から植物ホルモン用のエチレン発生体を軽く揉んでエチレンを発生させて1週間放置した。1週間後、ビニル袋を開放し、キウイフルーツ果実の硬度を測定するとともに、キウイフルーツ果実の断面を観察した。また、無処理の比較例として、キウイフルーツ果実20kgをビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にして1週間放置し、この無処理のキウイフルーツ果実の硬度を測定するとともに、キウイフルーツ果実の断面を観察した。さらに、市販されている果実追熟剤を用いた比較例として、果実追熟剤の熟れごろ(登録商標)3袋と、キウイフルーツ果実20kgとをビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にして1週間放置し、キウイフルーツ果実の硬度を測定するとともに、キウイフルーツ果実の断面を観察した。果実の硬度測定の結果を表3に示す。なお、一般的に硬度が高いほどキウイフルーツ果実の熟れが進んでおらず、硬度が低いほどキウイフルーツ果実の熟れが進んでいるものとされている。また、1週間放置後のそれぞれのキウイフルーツ果実の断面の写真を図2に示す。(a)は無処理のものであり、(b)は市販の果実追熟剤を使用したものであり、(c)は植物ホルモン用のエチレン発生体を使用したものである。
【0076】
【表3】

【0077】
表3に示すように、ブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体を使用した本実施例と果実追熟剤を使用した比較例とは、キウイフルーツ果実の硬度が同等であり、いずれも無処理の比較例に比べて硬度が低くなっている。また、図2に示すように、キウイフルーツ果実の断面を比較すると、図2(c)に示すブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体を使用したものおよび図2(b)に示す果実追熟剤を使用したものの方が、図2(a)に示す無処理のものに比べて多汁な状態になっている。これらの結果から、ブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体を使用したものは、果実の熟れが進んでおり追熟されていることが明らかである。
【0078】
また、植物ホルモン用のエチレン発生体を使用したキウイフルーツ果実と、果実追熟剤を使用したキウイフルーツ果実との硬度や断面を比較しても、ブドウ枯葉脂質が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体の追熟能力は果実追熟剤と同等であるといえる。
【実施例4】
【0079】
有機物としてブドウ枯葉が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体、および有機物としてスギ枯葉が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体による果実の追熟効果を確認した。
【0080】
上記実施例3と同様に、有機物としてブドウ枯葉の粉末が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体と、キウイフルーツ果実20kgとをビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にして1週間放置し、キウイフルーツ果実の硬度を測定した。また、有機物としてスギ枯葉の粉末が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体と、キウイフルーツ果実20kgとをビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にして1週間放置し、キウイフルーツ果実の硬度を測定した。さらに、無処理の比較例として、キウイフルーツ果実20kgをビニル袋に収容しビニル袋を密閉状態にして1週間放置し、この無処理のキウイフルーツ果実の硬度を測定した。これら果実の硬度測定の結果を表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
表4に示すように、ブドウ枯葉が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体1を使用した本実施例、およびスギ枯葉が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体を使用した本実施例のいずれも、無処理の比較例に比べて硬度が低くなっている。この結果から、ブドウ枯葉が用いられた植物ホルモン用のエチレン発生体1を使用したものは、果実の熟れが進んでおり追熟されていることが明らかである。
【符号の説明】
【0083】
1 植物ホルモン用のエチレン発生体
2 収容部材
3 有機物
4 溶液
5 溶液封入体
6 外側部
7 内側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する収容部材を具備し、
この収容部材には、有機物およびこの有機物から得られる脂質の少なくとも一方と、還元鉄および還元銅の少なくとも一方を含む溶液が封入された溶液封入体とが収容され、
この溶液封入体に外力が加えられることにより、前記溶液封入体から前記溶液が流出し、前記収容部材内にて前記有機物および前記脂質の少なくとも一方と前記溶液とが接触可能である
ことを特徴とする植物ホルモン用のエチレン発生体。
【請求項2】
有機物は、ブドウ葉およびスギ葉の少なくとも一方である
ことを特徴とする請求項1記載の植物ホルモン用のエチレン発生体。
【請求項3】
収容部材は、通気性を有する外側部と、この外側部の内側に位置し通気性および吸水性を有する内側部とを備えた
ことを特徴とする請求項1または2記載の植物ホルモン用のエチレン発生体。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の植物ホルモン用のエチレン発生体と、果実とを密閉可能な収容体に収容し、
前記植物ホルモン用のエチレン発生体にてエチレンを発生させて前記収容体を密閉し、
発生したエチレンにて果実を追熟させる
ことを特徴とする果実の追熟方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168534(P2011−168534A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33816(P2010−33816)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(302018020)
【出願人】(503434759)株式会社日本アグリプロモート (1)
【Fターム(参考)】