植物体内のグリカンプロセシングの最適化
【課題】植物体内のグリカンプロセシングの最適化手段の提供。
【解決手段】本発明は、N-グリカンをもつ糖タンパク質を含む細胞または生体組織特に植物のグリカンプロセシングを最適化し、もって複合型の2本鎖N-グリカンをもち、また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含み、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質が得られるようにする方法に関する。本発明はさらに、得られる糖タンパク質、および特に該タンパク質を含む植物宿主系に関する。
【解決手段】本発明は、N-グリカンをもつ糖タンパク質を含む細胞または生体組織特に植物のグリカンプロセシングを最適化し、もって複合型の2本鎖N-グリカンをもち、また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含み、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質が得られるようにする方法に関する。本発明はさらに、得られる糖タンパク質、および特に該タンパク質を含む植物宿主系に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、N-グリカンをもつ糖タンパク質を含む細胞または生体組織特に植物のグリカンプロセシングを最適化し、もって2本鎖N-グリカンを非限定的な例とする・また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む・N-グリカン(高マンノース型、混成型または好ましくは複合型N-グリカン)をもち、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質が得られるようにする方法に関する。本発明はさらに、得られる糖タンパク質、および特に該タンパク質を含む植物宿主系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
N-結合グリカン(すなわち糖タンパク質のアスパラギン残基に結合した特有の多糖構造)は該タンパク質の性質に、ひいては生物の性質に、大きく寄与しうる。植物タンパク質はN-結合グリカンをもちうるが、哺乳動物の場合とはきわめて対照的に、その寄与を受けている生物学的過程は少ししかわかっていない。
【0003】
N-結合グリカンの生合成は小胞体(ER)内の未完成ポリペプチド鎖に全体として転移される脂質結合オリゴ糖鎖(Glc3Man9GlcNAc2-)の合成から始まる。ERおよびシスゴルジ網区画内でのエキソグリミシダーゼによる一連のトリミング反応を通じて、いわゆる「高マンノース」型(Man9GlcNac2〜Man5GlcNAc2)グリカンが形成される。その後、複合型グリカンの形成が、GnTIによる第1 GlcNAcのMan5GlcNAc2への転移およびマンノシダーゼII(ManII)によるさらなるトリミングをもって始まる。複合型グリカンの生合成は続き、その間に糖タンパク質はゴルジ装置内でのGnTIIによる第2GlcNAc残基の、また他のいくつかの糖転移酵素の作用による他多糖残基の、GlcNAcMan3GlcNAc2への転移に伴って分泌経路を前進していく。
【0004】
植物と哺乳動物では複合型グリカンの形成が異なる(植物と哺乳動物の糖タンパク質糖化経路を比較した図1を参照)。植物では、複合型グリカンはGlcNAc-1に結合したα(1,6)-フコース残基ではなくMan-3に結合したβ(1,2)-キシロース残基および/またはGlcNAc-1に結合したα(1,3)-フコース残基の存在を特徴とする。対応するキシロシル転移酵素(XylT)およびフコシル転移酵素(FucT)をコードする遺伝子はすでに単離されている[Strasser et al., “Molecular cloning and functional expression of beta 1,2-xylosyltransferase cDNA from Arabidopsis thaliana”(シロイヌナズナからのベータ1,2-キシロシル転移酵素の分子クローニングと機能的発現) FEBS Lett. 472:105 (2000); Leiter et al., “Purification, cDNA cloning, and expression of GDP-L-Fuc: Asn-linked GlcNAc alpha 1,3-fucosyltransferase from mung beans”(マングビーンからのGDP-L-Fuc:Asn-結合GlcNAcアルファ1,3-フコシル転移酵素の精製、cDNAクローニング、発現) J. Biol. Chem. 274:21830 (1999)]。植物はβ(1,4)-ガラクトシル転移酵素もα(2,6)-シアリル転移酵素ももたない。そのため植物グリカンは哺乳動物グリカンではしばしば見られるβ(1,4)-ガラクトースも末端α(2,6)-NeuAc残基も欠く。
【0005】
最終グリカン構造は、その生合成と輸送に関与する酵素類の単なる存在だけではなく、種々の酵素的反応の特有の順序によっても大きく左右される。後者はこれらの酵素のER-ゴルジ装置領域ゴルジ網区画における離散的な隔離状態および相対位置によりコントロールされるが、そうしたコントロールを左右するのは転移酵素の運命決定因子と転移酵素が向かう先であるゴルジ網区画の個別特性との相互作用である。混成分子を使用する多数の研究により、酵素のゴルジ網区画への仕分けでは、β(1,4)-ガラクトシル転移酵素を含むいくつかの糖転移酵素の膜貫通領域が中心的な役割を果たすことがすでに解明されている[Grabenhorst et al., J. Biol. Chem. 274:3617 (1999); Colley, K., Glycobiology 7:1 (1997); Munro, S., Trends Cell Biol. 8:11 (1998); Gleeson, P.A., Histochem. Cell Biol. 109:517 (1998)]。
【0006】
植物と哺乳動物は比較的遠い昔に進化の道を異にしたが、N-結合グリカンは少なくとも部分的には保存されているように見受けられる。これを裏付けるのは類似しつつも同一ではないグリカン構造であり、また哺乳動物のGlcNAcTI遺伝子がGlcNAcTI活性を欠くシロイヌナズナ突然変異体を相補するし逆もまた真であるという事実である。グリカン構造の違いは重要な帰結を伴う可能性がある。たとえばキシロースとα(1,3)-フコースの各エピトープは場合により高免疫原性であり、アレルゲン性も疑われると判明しているが、それでは植物を利用して治療用の糖タンパク質を産生させるうえで問題となろう。しかも、数多くのアレルギー患者の血清にはこれらのエピトープに対するIgEが含まれるが、非アレルギー献血者の50%でもその血清にコア-キシロースに対して特異的な抗体が含まれるし、また25%ではコア-α(1,3)-フコースに対する抗体が含まれる(Bardor et al., 2002, in press, Glycobiology; Advance Accessが2002年12月17日付で発行)。つまり、これらの個人はフコースおよび/またはキシロースを含む植物産生組換えタンパク質による治療を受けるという危険にさらされることになる。加えて、この糖質に対する血清IgEは植物抽出物を使用したin vitro試験では偽りの陽性反応を引き起こすおそれがある。というのは、これらの糖質特異的IgEはアレルギー誘発反応には関連しないという証拠があるからである。要するに、植物産生糖タンパク質による治療の失敗はキシロースおよび/またはフコースをもつ組換え糖タンパク質の排泄が加速される結果であるかもしれない。
【0007】
従って、植物中での糖化を、特に治療への使用を意図した糖タンパク質の糖化を、一段とうまく調節することが課題である。
【発明の概要】
【0008】
定義
以下、本発明の理解の一助として、本明細書で使用する多数の用語の意味を明確にする。
【0009】
「ベクター」は、適切な調節因子と結び付いたときに複製可能でありかつ遺伝子配列を細胞中におよび/または細胞間で転移することができるプラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、レトロウイルス、ビリオンまたは類似の遺伝因子などのような任意の遺伝因子である。従ってこの用語にはクローニングおよび発現手段やウイルスベクターも含まれる。
【0010】
「発現ベクター」は、所望の単数または複数のコード配列(後述のハイブリッド酵素に対応するコード配列)と、特定宿主細胞または生物中での該コード配列の発現に必要である、該コード配列と作動可能に連結した好適な核酸配列とを含む組換えDNA分子をいう。原核細胞中での発現に必要な核酸配列は通常、プロモーター、オペレーター(随意)およびリボソーム結合部位を、しばしば他配列と共に含む。真核細胞はプロモーター、エンハンサー、および終止/ポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。本発明は、特定因子を備えた特定の発現ベクターに限定されないものとする。
【0011】
細胞に関する場合の「トランスジェニック」は導入遺伝子をもつ細胞または導入遺伝子の導入によりゲノムが変化した細胞をいう。細胞、組織または植物に関する場合の「トランスジェニック」はそれぞれ導入遺伝子をもつ細胞、組織および植物をいい、組織の1つまたは複数の細胞が導入遺伝子(本発明のハイブリッド酵素をコードする遺伝子など)をもつか、または導入遺伝子により組織のゲノムが変化している。トランスジェニック細胞、組織および植物は、人間の介入たとえば本明細書で開示する方法による核酸(通常はDNA)を含む「導入遺伝子」の標的細胞への導入または標的細胞の染色体への該導入遺伝子の組み込みなど、いくつかの方法で生成されよう。
【0012】
「導入遺伝子(トランスジーン)」は実験的操作によってある細胞のゲノム中に導入される核酸配列をいう。導入遺伝子は「内在性DNA配列」、「異種(すなわち外来)DNA配列」のいずれでもよい。「内在性DNA配列」は、被導入細胞中に天然に、すなわち天然配列への何らかの変更(たとえば点突然変異、選択マーカー遺伝子の存在、または他の類似の変更)を含むことなく、存在するヌクレオチド配列をいう。「異種DNA配列」は、天然では連結相手にならない核酸配列(または天然では別の位置に連結される核酸配列)へと連結される(または連結されるように操作される)ヌクレオチド配列をいう。異種DNAは被導入細胞には内在せず、別の細胞に由来する。異種DNAはまた、何らかの変更を含む内在性DNA配列をも包含する。必ずしもそうではないが一般的には、異種DNAは発現先の細胞では通常生成されないRNAおよびタンパク質をコードする。異種DNAの例はレポーター遺伝子、転写および翻訳調節配列、選択マーカー(たとえば薬剤耐性を付与するタンパク質など)、または他の類似因子を含む。
【0013】
「外来遺伝子」は実験的操作によりある細胞のゲノムに導入される核酸をいい、該細胞に天然に見られる遺伝子配列であっても、その被導入遺伝子が天然配列への何らかの変更(たとえば点突然変異、選択マーカー遺伝子の存在、または他の類似の変更)含む限り、外来遺伝子に含まれる。
【0014】
「融合タンパク質」は、少なくとも一部分は第1タンパク質に由来し他部分は第2タンパク質に由来するタンパク質をいう。「ハイブリッド酵素」は少なくとも一部分は第1の種に由来し他部分は第2の種に由来する機能的酵素であるタンパク質をいう。本発明の好ましいハイブリッド酵素は、少なくとも一部分は植物に由来し他部分は(人間などの)哺乳動物に由来する機能的糖転移酵素(またはその一部分)である。
【0015】
核酸の(たとえばベクターによる)「細胞への導入」または「宿主細胞への導入」は「形質転換」、「トランスフェクション」または「形質導入」と呼ばれる技術を含むものとする。細胞の形質転換は安定、一過性いずれでもよい。本発明は一方で安定発現が、また他方で一過性発現だけが、起こるような条件下でのベクターの導入を見込む。「一過性形質転換」または「一過性に形質転換した」は宿主細胞のゲノムへの導入遺伝子の組込みを伴わない、細胞への1つまたは複数の導入遺伝子の導入をいう。一過性形質転換は、たとえば1つまたは複数の導入遺伝子がコードするポリペプチドの有無を調べるELISA(固相酵素免疫法)で確認する。あるいは導入遺伝子(たとえば抗体遺伝子)がコードするタンパク質の活性(たとえば抗体の抗原との結合)を検出するとこによって確認してもよい。「一過性形質転換体」は1つまたは複数の導入遺伝子を一過性に組み込んだ細胞をいう。これに対して、「安定形質転換」または「安定的に形質転換した」は1つまたは複数の導入遺伝子の細胞ゲノムヘの導入と組込みをいう。細胞の安定形質転換は該細胞のゲノムDNAの、1つまたは複数の導入遺伝子に結合しうる核酸配列とのサザン法によるハイブリダイゼーションで確認する。あるいは該細胞のゲノムDNAのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により導入遺伝子を増幅して確認してもよい。「安定形質転換体」は1つまたは複数の導入遺伝子をゲノムDNAに安定的に組み込んだ細胞をいう。従って、安定形質転換体に由来するゲノムDNAは1つまたは複数の導入遺伝子を含むのに対して、一過性形質転換体に由来するゲノムDNAは導入遺伝子を含まないという点から、安定形質転換体と一過性形質転換体は区別される。
【0016】
「宿主細胞」は哺乳動物細胞(たとえばヒトB細胞クローン、チャイニーズハムスター卵巣細胞など)と非哺乳動物細胞(昆虫細胞、細菌細胞、植物細胞など)の両方を含む。一実施態様では、宿主細胞は哺乳動物細胞であり、本発明のハイブリッドタンパク質(TmTII-GalTなど)を発現するベクターの導入が該哺乳動物細胞中でのフコシル化を阻害(または少なくとも抑制)する。
【0017】
「着目のヌクレオチド配列」は、その操作が何らかの理由で(たとえば質を高める、治療用タンパク質の産生に役立つなど)望ましいと当業者によりみなされるようなヌクレオチド配列をいう。そうしたヌクレオチド配列は構造遺伝子(たとえばレポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、がん遺伝子、抗体遺伝子、薬剤耐性遺伝子、増殖因子など)のコード配列、およびmRNAまたはタンパク質をコードしない非コード調節配列(プロモーター配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列、エンハンサー配列など)を非限定的に含む。本発明は、1つまたは複数のハイブリッド酵素と共に着目のヌクレオチド配列がコードする異種タンパク質を発現する宿主細胞を見込む。
【0018】
「単離(した)」は「単離核酸配列」のように核酸に関連する場合には、同定され、天然ソース中で通常結合している1つまたは複数の成分(たとえば該核酸を含む細胞、1以上の汚染物質としての核酸、または1つまたは複数のタンパク質、または1つまたは複数の脂質)から分離された核酸をいう。単離核酸は天然形態または環境とは異なる形態または環境にある核酸である。それに対して非単離核酸は天然に存在する状態で見られるままのDNAやRNAなどの核酸である。たとえば任意のDNA配列(遺伝子など)は宿主細胞の染色体上では近隣遺伝子と近接して存在するし、また特定のタンパク質をコードする特異的mRNA配列などのようなRNA配列は様々なタンパク質をコードする数多くの他mRNA配列との混合物として細胞中に存在する。しかし、SEQ ID NO:1を含む単離核酸配列はたとえば、天然細胞の染色体上または染色体外の位置に存在するかまたは天然の場合とは異なる核酸配列を伴うSEQ ID NO:1を通常は含むような細胞中の核酸配列を包含する。単離核酸配列は1本鎖でも2本鎖でもよい。単離核酸配列をタンパク質の発現に利用するときは、該核酸配列はセンス鎖またはコード鎖の一部を少なくとも含むことになろう(すなわち該核酸配列は1本鎖となろう)。あるいはセンス鎖とアンチセンス鎖を共に含んでもよい(すなわち該核酸配列は2本鎖となろう)。
【0019】
「精製(した)」は天然環境から移動し、単離しまたは分離した核酸配列またはアミノ酸配列の分子をいう。従って「単離核酸配列」は精製核酸配列である。「実質的(に)精製(した)」分子は、自然環境では結合している他成分を60%以上、好ましくは75%以上、またなお好ましくは90%以上排除している。本発明は精製体(実質的精製体を含む)、非精製体のハイブリッド酵素(下文で詳述)を共に見込む。
【0020】
「相補(的)」または「相補性」は塩基対合則に基づくヌクレオチド配列間の関係をいう。たとえば配列5’-AGT-3’は配列5’-AGT-3’と相補的である。相補性は「部分(的)」でも「(完)全」でもよい。部分相補性は1つまたは複数の塩基が塩基対合則に基づく対を形成しない場合である。核酸間の「(完)全」相補性はどの塩基もみな塩基対合則に基づいて別の塩基と対をなす場合である。核酸鎖間の相補性の度合いは核酸鎖間のハイブリダイゼーション効率および強度に著しい影響を及ぼす。
【0021】
ある核酸配列の「相補体」はその核酸配列と完全相補性を示すような核酸配列ほいう。たとえば本発明はSEQ ID NO: 1、3、5、9、27、28、29、30、31、32、33、34、35、37、38、40、41および43の相補体を見込む。
【0022】
核酸の「相同性」は相補性の度合いをいう。「部分相同性(すなわち部分同一性」)もあれば「完全相同性(完全同一性)」もあろう。部分相補配列は標的核酸との完全相補配列型のハイブリダイゼーションを少なくとも部分的に阻害するような配列であり、そうした配列は「実質的(に)相同(な)」という。標的核酸との完全相補配列型のハイブリダイゼーションの阻害は低ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーション試験(サザンまたはノーザン法、溶液ハイブリダイゼーション法など)によって調べられる。実質的に相同な配列またはプローブ(すなわち別の着目オリゴヌクレオチドとハイブリダイズしうるようなオリゴヌクレオチド)は低ストリンジェンシー条件下では完全相同配列と標的核酸との結合をめぐって競合しその結合を阻害しよう。これは、低ストリンジェンシー条件では非特異的結合が許容されるという意味ではない。低ストリンジェンシー条件下でも両配列相互の結合は特異的(すなわち選択的)相互作用である。非特異的結合の不存在は、相補性の度合いが低い(たとえば同一性が約30%未満の)第2標的を使用して試験することができる(非特異的結合が存在しなければ、プローブは第2の非相補的標的にハイブリダイズしない)。
【0023】
「実質的(に)相同(な)」はcDNAまたはゲノムDNAクローンなどのような2本鎖核酸配列に関する場合には、下文で述べる低ストリンジェンシー条件下で該2本鎖核酸配列の一方または両方の分子鎖に対してハイブリダイズしうる任意のプローブをいう。
【0024】
「ハイブリダイゼーション」は「核酸分子鎖が塩基対合により相補鎖と結び付く任意の過程」[Coombs J(1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York, NY] を含む。ハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーション強度(すなわち両核酸間の会合の強度)は両核酸間の相補性の度合い、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、および核酸内のC:G比などのような因子に左右される。
【0025】
「Tm」は融解温度であり、融解温度は2本鎖核酸分子が1本鎖へと解離する際の変性中間点である。核酸のTmを求める公式は技術上周知である。標準参考書によれば、核酸が1M NaCl水溶液中にある場合にはTmの単純推計値は式Tm =81.5+0.41 (% G+C)により求められる[たとえばAnderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照]。他に構造および配列特性を勘案したもっと精密なTm計算法を収めた参考書もある。
【0026】
核酸ハイブリダイゼーションでの低ストリンジェンシー条件は、約100〜1000ヌクレオチド長のプローブを使用する場合には、5X SSPE(生理食塩水、リン酸ナトリウム、EDTA)[43.8g/l NaCl, 6.9g.l NaH2PO4・H2Oおよび1.85g/l EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NaOHでpHを7.4に調整]、0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、5Xデンハルト試薬[50Xデンハルト試薬500mlあたりの含有成分は次のとおり: 5g Ficoll(Type 400, Pharmacia)、5g BSA(ウシ血清アルブミン)(Fraction V; Sigma)]および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中、68℃での結合またはハイブリダイゼーションとそれに続く0.2X〜2.0X SSPEと0.1% SDSとを含む溶液による室温での洗浄に相当する条件を含む。
【0027】
核酸ハイブリダイゼーションでの高ストリンジェンシー条件は、約100〜1000ヌクレオチド長のプローブを使用する場合には、5X SSPE、1% SDS、5Xデンハルト試薬および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中、68℃での結合またはハイブリダイゼーションとそれに続く0.1X SSPEと0.1% SDSとを含む溶液による68℃での洗浄に相当する条件を含む。
【0028】
あるハイブリダイゼーション条件について着目のハイブリダイゼーション条件との関連で「相当の、相当する」というのは、該ハイブリダイゼーション条件と着目のハイブリダイゼーション条件が同じ相同性%範囲の核酸配列のハイブリダイゼーションをもたらすことを意味する。たとえば着目のハイブリダイゼーション条件が、第1核酸配列と、該第1核酸配列との相同性が50%〜70%である他核酸配列とのハイブリダイゼーションをもたらすとき、別のハイブリダイゼーション条件もまた第1核酸配列と、該第1核酸配列との相同性が50%〜70%である他核酸配列とのハイブリダイゼーションを同様にもたらすならば、このハイブリダイゼーション条件は着目のハイブリダイゼーション条件に相当するという。
【0029】
当業者には自明であるが、核酸ハイブリダイゼーションに関しては低、高いずれのストリンジェンシー条件でも多数の相当条件がありうる。プローブの長さや性格(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性格(DNA、RNA、塩基組成、液相、固相)、塩や他成分の濃度(ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの有無など)といった因子を考慮しながらハイブリダイゼーション液を加減して、前記条件とは異なるが、それに相当するような低または高ハイブリダイゼーション条件を生成するようにしてよい。
【0030】
「プロモーター」、「プロモーターエレメントまたは「プロモーター配列」は、着目のヌクレオチド配列に連結されると該着目ヌクレオチド配列のmRNAへの転写を調節しうるようになるDNA配列をいう。必ずしもそうではないが一般にプロモーターは、そのmRNAへの転写を調節することになる着目ヌクレオチド配列の5’側(すなわち上流側)に位置し、また転写開始用に、RNAポリメラーゼや他の転写因子の特異的結合部位を提供する。
【0031】
プロモーターは組織特異的でも細胞(型)特異的でもよい。「組織特異的]プロモーターは着目ヌクレオチド配列の選択的発現を特定タイプの組織(たとえば花弁)に導き、他タイプの組織(たとえば根)ではあまり発現が見られないようにしうるプロモーターをいう。プロモーターの組織特異性の評価は、たとえば該プロモーターにレポーター遺伝子を作動可能に連結してレポーターコンストラクトを生成させ、該レポーターコンストラクトを植物のゲノム中に導入して、該レポーターコンストラクトが、生成するトランスジェニック植物のあらゆる組織に組み込まれるようにし、最後に該トランスジェニック植物の種々の組織でのレポーター遺伝子の発現を検出する(たとえば該レポーター遺伝子に対応するmRNA、タンパク質、またはタンパク質活性を検出する)ことによって行う。レポーター遺伝子の発現が1つまたは複数の組織で多組織と比較した場合よりも高レベルで検出されれば、該プロモーターは高レベルの発現が検出された組織に対して特異的であることになる。「細胞(型)特異的」プロモーターは着目ヌクレオチド配列の選択的発現を特定タイプの細胞に導き、同じ組織内の他タイプの細胞ではあまり発現が見られないようにしうるプロモーターをいう。「細胞(型)特異的」プロモーターはまた、単一組織内のある領域での着目ヌクレオチド配列の選択的発現を促進しうるプロモーターをいう。プロモーターの細胞(型)特異性の評価は技術上周知の方法、たとえば免疫組織化学的染色法によって行うことができる。簡単に言えば、組織切片をパラフィンに包埋し、パラフィン切片を、該プロモーターによって発現を支配される着目ヌクレオチド配列がコードするポリペプチド生成物に対して特異的である一次抗体と反応させる。該一次抗体に対して特異的な標識(たとえばペルオキシダーゼ結合)二次抗体を切片化した組織に結合させて、(たとえばアビジン/ビオチンの)特異的結合を顕微鏡で検出する。
【0032】
プロモーターは構成的でも調節性でもよい。「構成的」プロモーターは、刺激(熱衝撃、化学薬品、光または同種の刺激)が存在しない中で作動可能に連結された核酸配列の転写を支配することができるプロモーターをいう。一般に構成的プロモーターはほぼ任意の細胞および任意の組織で導入遺伝子の発現を支配することができる。他方、「調節性」プロモーターは、刺激(熱衝撃、化学薬品、光または同種の刺激)が存在する中で、作動可能に連結された核酸配列の、該刺激が存在しない中での転写レベルとは転写レベルを支配することができるプロモーターである。
【0033】
細菌による「感染」は標的生物試料(細胞、組織、植物の一部分など)と細菌との同時培養により、該細菌に含まれる核酸配列が該標的生物試料の1つまたは複数の細胞中に導入されるようにすることをいう。
【0034】
「アグロバクテリア」はクラウンゴールを引き起こす植物病原性のグラム陰性土壌桿菌をいう。「アグロバクテリア」は菌株Agrobacterium tumefaciens(一般に感染植物にクラウンゴールを引き起こす)と菌株Agrobacterium rizhogens(感染宿主細胞に毛根病を引き起こす)を非限定的に含む。植物細胞はアグロバクテリアに感染すると一般に感染細胞によりオピン類(ノパリン、アグロピン、オクトピンなど)が産生される結果となる。そこで、ノパリンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株LBA4301、C58、A208など)は「ノパリン型」アグロバクテリアといい、オクトピンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株LBA4404、Ach5、B6など)は「オクトピン型」アグロバクテリアといい、またアグロピンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株EHA 105、EHA101、A281など)は「アグロピン型」バクテリアという。
【0035】
「衝撃導入」、「衝撃」および「パーティクルガン」法は標的生物試料(細胞、組織、植物の部分―葉など―、またはインタクトな植物)に向けて粒子を加速して、生物試料中の細胞膜を損傷する、および/または標的細胞試料への粒子の導入をはかるようにする方法をいう。パーティクルガン法は技術上周知であり(米国特許第5,584,807号および第5,141,131号明細書など; その内容は参照により本明細書に組み込まれる)、市販システムもある[ヘリウムガス圧式マイクロプロジェクタイル加速器PDS-1000/He(BioRad)など]。
【0036】
植物組織に対する「マイクロ損傷」法は該組織への微小損傷の導入をいう。マイクロ損傷法は前記の粒子衝撃法で実現してもよい。本発明は特に、マイクロ損傷法による核酸導入を見込む。
【0037】
「生物」は諸々の生物をいい、特にN-結合グリカンをもつ糖タンパク質を含む生物をいう。
【0038】
「植物」は、植物の任意の成長段階に存在する構造へと概ね分化した複数の細胞をいう。そうした構造は果実、シュート、茎、根、葉、種子、花弁または類似の構造を非限定的に含む。「植物組織」は、根、シュート、葉、花粉、種子、腫瘍組織、及び種々の培養細胞(単細胞、プロトプラスト、胚、カルス、プロトコーム状球体、および他種細胞)などを非限定的に含む分化した植物組織および未分化の植物組織をいう。植物組織は植物体内の組織でも、器官培養、組織培養または細胞培養中の組織でもよい。同様に、「植物細胞」は培養中の組織でも、植物の一部分でもよい。
【0039】
糖転移酵素は糖タンパク質上のオリゴ糖を含む細胞オリゴ糖の構造を決定するプロセシング反応の触媒酵素である。「糖転移酵素」はマンノシダーゼを、たとえそれがグリカンをトリミングし単糖を「転移」しない酵素であるにもかかわらず、含むものする。糖転移酵素はII型膜タンパク質配向の特徴を共有する。各糖転移酵素を構成するのはアミノ末端の細胞質尾部(下記の配列で、説明のため恣意的にXで表示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)、細胞膜を貫くシグナルアンカー配列(本明細書では「膜貫通ドメイン」という)(下記の配列で、Hで表示した疎水性アミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではないし、また疎水性アミノ酸だけで構成されることを示唆するものでもない)、それに続く内腔ステム(luminal stem)(下記の配列で、恣意的にSで示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)またはストーク領域(stalk region)、およびカルボキシル末端の触媒ドメイン(下記の配列で、恣意的にCで示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)である:
NH2-XXXXXXHHHHHHHHSSSSSSSSCCCCCCCC
【0040】
全体として、細胞質尾部-膜貫通ドメイン-ステム(CTS)領域(上記配列の下線で明示した部分)は(またはそのうちの部分は)、本発明で見込まれる実施態様に使用することができるが、その場合、上記の触媒ドメインは他分子由来の対応する触媒ドメインと交換または「スワップ」してハイブリッドタンパク質を作製する。
【0041】
本発明はたとえば好ましい実施態様では、ハイブリッド酵素をコードする核酸(ならびにそうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含む細胞、およびハイブリッド酵素自体)を見込むが、該ハイブリッド酵素は第1糖転移酵素(たとえば植物糖転移酵素)のCTS領域の少なくとも一部分[たとえば細胞質尾部(“C”)、膜貫通ドメイン(“T”)、細胞質尾部+膜貫通ドメイン(“CT”)、膜貫通ドメイン+ステム(“TS”)、または全CTS領域]と第2糖転移酵素(たとえば哺乳動物糖転移酵素)の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含む。そうした実施態様を作製するには、全CTS領域(またはその一部分)に対応するコード配列を哺乳動物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、植物糖転移酵素の全CTS領域(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。他方、この実施態様の作製には別のアプローチもある。たとえば全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列を植物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、哺乳動物糖転移酵素の全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部、植物糖転移酵素の膜貫通ドメインおよび植物糖転移酵素のステム領域までの連結は野生型植物酵素の通常の形になるが、ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメイン(またはその一部分)に連結されよう。
【0042】
本発明は以上2つのアプローチに限定されないものとする。他の変法も見込まれる。たとえば植物糖転移酵素の膜貫通ドメインの少なくとも一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を作製するには、CTS領域に対応する全コード配列を使用するには及ばない(たとえば植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン、または完全な細胞質尾部+膜貫通ドメインの全部または一部、または完全な細胞質尾部+膜貫通ドメインの全部+ステム領域の一部だけを使用して済む)かもしれない。哺乳動物の全細胞質尾部に対応するコード配列と膜貫通ドメイン(またはその一部)に対応するコード配列とを削除し、対応する植物糖転移酵素のコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素は哺乳動物糖転移酵素のステム領域を植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(またはその一部分)に連結し、さらに該ドメインを植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部に連結し、該ステム領域に哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインを連結することになろう(すなわち4領域/ドメインのうち2つは植物に、2つは動物に、それぞれ由来しよう)。
【0043】
本発明は他の実施態様ではハイブリッド酵素をコードする核酸(ならびにそうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含む宿主細胞、および宿主細胞を含む植物または植物の部分)を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部の少なくとも一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含む。この実施態様では、該核酸によってコードされるハイブリッド酵素は他の植物配列(たとえば膜貫通ドメインまたはその一部分、ステム領域またはその一部分)を含むことも含まないこともあろう。たとえばそうした実施態様を作製するには、全細胞質尾部(またはその一部分)に対応するコード配列を哺乳動物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、植物糖転移酵素の全細胞質尾部(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部(またはその一部分)が哺乳動物糖転移酵素の膜貫通ドメインに連結され、該ドメインは哺乳動物糖転移酵素のステム領域に連結され、該ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインに連結されよう。他方、この実施態様の作製には別のアプローチもある。たとえば全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列を植物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、哺乳動物糖転移酵素の全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部、植物糖転移酵素の膜貫通ドメインおよび植物糖転移酵素のステム領域までの連結は野生型植物酵素の通常の形になるが、ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメイン(またはその一部分)に連結されよう。
【0044】
上文中、「またはその一部分」という語句を使用したのは特定の場合には全領域/ドメインに満たない部分(たとえば断片)が使用されることもあることを明示するためである。たとえば糖転移酵素の細胞質尾部は個別転移酵素次第で鎖長がアミノ酸5〜50個程度、もっと一般的には15〜30個程度である。細胞質尾部の「一部分」の長さは本明細書ではアミノ酸が4個以上、「(該領域/ドメインの完全長)マイナス(アミノ酸1個)」以下である。該部分は完全長の領域/ドメインと同様に機能するのが望ましいが、同程度に機能する必要はない。たとえば完全長の細胞質尾部がゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能する限りで、前記の実施態様に使用される部分も完全長の領域ほど効率的ではないにせよ、またゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能するのが望ましい。
【0045】
同様に、膜貫通ドメインは一般に鎖長がアミノ酸15〜25個であり、主に疎水性アミノ酸からなる。膜貫通ドメインの「一部分]の長さは本明細書ではアミノ酸10個以上、「(該領域/ドメインの完全長)マイナス(アミノ酸1個)」以下である。該部分は完全長の領域/ドメインと同様に機能するのが望ましいが、同程度に機能する必要はない。たとえば完全長の膜貫通ドメインが主ゴルジ装置残留領域または主ER残留シグナルとして機能する限りで、前記の実施態様に使用される部分も完全長の領域ほど効率的ではないにせよ、またゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能するのが望ましい。本発明は特に、野生型膜貫通ドメインまたはその一部分の変種の創製を目的とした同類置換を見込む。たとえば本発明は野生型配列の1つまたは複数の疎水性アミノ酸(前記配列中Hで示したアミノ酸)の、1つまたは複数の異なるアミノ酸、おそらくやはり疎水性のアミノ酸による置換を見込む。
【0046】
触媒ドメインの一部分の長さは「該ドメインの完全長マイナスアミノ酸1個」以下である。触媒ドメインがベータ1,4-ガラクトシル転移酵素に由来する場合には、該部分は、オリゴ糖受容体の結合部位を付与するコンフォメーションに関係すると考えられている残基345〜365を少なくとも含むのが好ましい(該部分は少なくともこの領域を、また適正なコンフォメーションを許容するうえで両側に5〜10個のアミノ酸を、含むのが好ましい)。
【0047】
本発明はまた、合成CTS領域およびその部分を含む。CTS領域の「一部分]は全CTS領域に満たない全ドメイン(たとえば全膜貫通ドメイン)をすくなくとも1つ含まなければならない(し、そうしたドメインを複数含んでよい)。
【0048】
重要なことには、「CTS領域」または「膜貫通ドメイン」という用語を使用しても野生型配列だけを見込むものではない。本発明は天然の糖転移酵素および糖化酵素に限定されるものではなく、同様の機能を示す合成酵素の使用を含む。一実施態様では、野生型ドメインが(たとえば欠失、挿入、置換等による)変化を受けている。
最後に、特定のハイブリッドを指すときに(たとえばTmXyl-のように)指標「Tm」を使用することで、全膜貫通/CTSドメインとその部分が(どちらについても野生型配列への変化の有無を問わず)包摂されるものとする。
【0049】
本発明の要約
本発明はハイブリッド酵素(または「融合タンパク質」)をコードする(DNAまたはRNAの)核酸、そうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含み該ハイブリッド酵素を発現する(植物組織および全植物中の細胞を非限定的に含む)宿主細胞、および該ハイブリッド酵素自体の単離体を見込む。一実施態様では、該ハイブリッド酵素(または「融合タンパク質」)の発現は、所期のグリコフォームの集積を妨げるキシロース、フコース、LewisA/B/Xまたは他の糖鎖構造などのような糖鎖の減少を非限定的に含む糖化の変化を招く。一実施態様では、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は(植物糖転移酵素を非限定的に含む)糖転移酵素のCTS領域(またはその一部分)と非植物(たとえば哺乳動物、魚類、両生類、および菌類)糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。CTS領域(またはその一部分)は発現時には触媒領域(またはその一部分)に(作動可能な組合せとして)(直接または間接に)連結されているのが好ましい。該連結は共有結合であるのが好ましく、また該組合せは触媒領域が触媒機能を示すという意味で(たとえその触媒機能が野生型酵素と比較して低下しているとはいえ)作動可能である。該連結が直接的なのは介在するアミノ酸または他領域/ドメインが存在しない場合である。他方、介在するアミノ酸(または他化学基)および/または領域/ドメインが存在する場合には間接的な連結となる。もちろん前記ハイブリッド酵素をコードする核酸の作製に使用する核酸は物理的な配列(たとえばゲノムDNA、cDNAなど)から酵素的に獲得することができるし、また遺伝子配列情報(電子またはハードコピー配列情報など)を手引きとして使用して合成することもできる。
【0050】
特定の実施態様で、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素の膜貫通領域(たとえば少なくとも膜貫通領域と随意にCTS領域のうちの追加部分)と非植物(たとえば哺乳動物)糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。この場合もまた、これらの領域は発現時に作動可能な組合せとして(直接または間接に)連結されているのが好ましい。さらに別の実施態様で、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(またはその一部分)と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。この場合も、これらの領域は発現時に作動可能な組合せとして(直接または間接に)連結されているのが好ましい。
【0051】
本発明は特定の転移酵素に限定されないものとする。植物糖転移酵素は一実施態様ではN-アセチルグメコサミニル転移酵素であり、別の実施態様ではフコシル転移酵素である。哺乳動物転移酵素は好ましい実施態様ではヒト・ガラクトシル転移酵素(たとえば膜貫通ドメインをコードするヌクレオチドを削除し取り替えてあるSEQ ID NO:1がコードするヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素)である。
【0052】
本発明は植物由来の糖転移酵素CTSドメインおよびヒト糖転移酵素触媒ドメインの使用に限定されず、またその逆や糖転移酵素の任意のCTSドメインと少なくとも1つの他糖転移酵素の触媒断片との併用に限定されないものとする。実際、本発明は一実施態様ではハイブリッド酵素をコードする核酸を広く見込むが、該ハイブリッド酵素は第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖転移酵素の触媒領域とを含む。該第1および第2糖転移酵素は異なる種に由来する(し、また異なる属に、さらには異なる門に、由来してもよい)。一実施態様では第1糖転移酵素は植物糖転移酵素である。該植物糖転移酵素は、別の実施態様ではキシロシル転移酵素であり、さらに別の実施態様ではフコシル転移酵素である。第2糖転移酵素は好ましい実施態様では哺乳動物糖転移酵素である。該哺乳動物糖転移酵素は特に好ましい実施態様ではヒト・ガラクトシル転移酵素である。
【0053】
本発明は第1および第2糖転移酵素がそれぞれ植物由来、非植物由来であるという事情に限定されないものとする。一実施態様では該第1糖転移酵素は第1哺乳動物の糖転移酵素であり、該第2糖転移酵素は第2哺乳動物の糖転移酵素である。好ましい実施態様では第1哺乳動物の糖転移酵素は非ヒト糖転移酵素であり、第2哺乳動物の糖転移酵素はヒト糖転移酵素である。
【0054】
本発明はベクターの種類に限定されないものとする。本発明は一実施態様で前記ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターを見込む。
【0055】
本発明はまた宿主細胞の種類に限定されないものとする。多様な原核および真核宿主細胞がタンパク質発現用に市販されている。本発明は一実施態様で、前記ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターを(他のベクター、または他のハイブリッド酵素または糖転移酵素をコードする他の核酸と共に、またはそれらを伴わずに)導入した宿主細胞を見込む。好ましい実施態様では該宿主細胞は植物細胞である。本発明は特に好ましい実施態様でそうした宿主細胞を含む植物を見込む。
【0056】
本発明は、本発明のハイブリッド酵素を発現させるようにするための宿主細胞の作製方法に限定されないものとする。本発明は一実施態様で、次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi)とii) とを用意するステップ−i)宿主細胞(培養中の、また植物組織の一部としての、またはインタクトな成長途上の植物の一部としての、植物細胞など)およびii)植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば膜貫通ドメイン)と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; およびb)該発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップを含む方法−を見込む。この場合もまた、本発明は特定の転移酵素に限定されないものとする。一実施態様では、前記の方法に使用される植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である。別の実施態様では植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である。別の実施態様では植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である。好ましい実施態様では、前記の方法に使用される哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である(たとえば膜貫通ドメインをコードするヌクレオチドを削除し取り替えてあるSEQ ID NO:1がコードするヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素)(または単に、触媒ドメインまたはその一部分をコードするSEQ ID NO:1のヌクレオチドを取り出し、植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分に連結する)。
【0057】
本発明は、前記のハイブリッド酵素を使用して異種タンパク質の糖化をコントロールするための特定のスキームに限定されないものとする。一実施態様で、本発明は次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi)、ii) およびiii)を用意するステップ−i)宿主細胞(植物細胞など)、ii)第1(植物など)の糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば膜貫通ドメイン)と第2(哺乳動物など)の糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む第2発現ベクター; およびb)該第1および第2発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップを含む方法−を見込む。あるいはハイブリッド酵素(類)と異種糖タンパク質の両方をコードする核酸を含むベクターを使用してもよい。どちらの方法を使用するかにかからわず、本発明は一実施態様で異種タンパク質の単離という追加ステップc)を、また組成物としての単離タンパク質自体を、見込む。
【0058】
他方、本発明はまた種々のベクターの種々の植物細胞(培養中の、また植物組織の一部としての、またはインタクトな成長途上の植物の一部としての、植物細胞など)への導入を見込む。本発明は一実施態様で、次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi) およびii)を用意するステップ−i)植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえばN末端の最初のアミノ酸約40〜60個)と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素(またはハイブリッド酵素類)をコードする核酸を含む第1発現ベクターを含む第1植物、およびii)異種糖タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む第2発現ベクターを含む第2植物; およびb)該第1および第2植物を交雑して該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質とを発現する子孫を生み出すステップを含む方法−を見込む。もちろんそうした子孫は隔離し、成長させ、各(または両)タンパク質の有無を調べることができる。それどころか、該異種タンパク質は(一般にまず植物細胞材料を実質的に含まないよう精製したうえで)病気の治療予防のために治療的に使用する(たとえば人間または動物に経口、静脈内、経皮的に、または他の経路で、投与する)ことができる。
【0059】
本発明は特定の異種タンパク質に限定されないものとする。一実施態様では、宿主細胞(または生物)に内在しない任意のペプチドまたはタンパク質が見込まれる。一実施態様では異種タンパク質は抗体又は抗体断片である。特に好ましい実施態様では、抗体は植物中で高収率に発現されるヒト抗体または「ヒト化」抗体である。「ヒト化」抗体は一般に非ヒト(たとえばげっ歯類)抗体から、該非ヒト抗体の超可変領域(いわゆるCDR)を取り出し、それをヒト・フレームワークに「移植」することによって調製される。これは(配列が判明している限りで)全体を合成プロセスとすることができるし、フレームワークは一般的なヒト・フレームワークを収めたデータベースから選択することができる。フレームワーク配列を組み換えるかCDRを組み換えるかしない限り、合成プロセスの途中でアフィニティーが低下することも多い。実際、CDRを(たとえばランダム化法によって)系統的に変化させ試験するとアフィニティーの増大を示すことができる。
【0060】
本発明は異種タンパク質との関連で特に有用であるものの、一実施態様では内在性タンパク質(すなわち宿主細胞または生物が通常発現するタンパク質)の糖化を変化させるために、本発明のハイブリッド酵素を使用する。
【0061】
本発明は特に植物自体を見込む。一実施態様では本発明は、第1および第2発現ベクターを含む植物を見込むが、該第1発現ベクターは植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば細胞質尾部+膜貫通ドメインの少なくとも一部分)を含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、また該第2発現ベクターは異種タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してα1,3-フコシル化の(10%〜99%)低減(または無フコシル化)を示す。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してキシロシル化の(10%〜99%)低減(または無キシロース)を示す。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してフコースとキシロースの両方が減少する。
【0062】
本発明はフコースおよび/またはキシロースの減少に関する特定の理論に限定されないものとする。植物ゴルジ装置のタンパク質選別機構はあまりよく分かっていない。哺乳動物特有のβ(1,4)-ガラクトシル転移酵素(GalT)は植物では通常見られないグリカン構造を生成するため、この現象を研究するための優れた最初のマーカーとして使用された。ガラクトシル転移酵素を発現する植物のグリカン構造が、CTSドメインを植物キシロシル転移酵素のそれ(またはその一部分)と取り替えたキメラ・ガラクトシル転移酵素を発現する植物に由来するグリカン構造と比較された。観測グリカン構造中の変化は、ガラクトシル転移酵素が哺乳動物の場合と同様に植物ゴルジ装置の特定区画に局在することを示す。本発明を特定の機構に限定するものではないが、植物と哺乳動物の選別機構は明らかに保存されており、植物には未知のグリコシル転移酵素がゴルジ装置内の特定の類似位置に送られるほどである。この位置はゴルジ装置内にあって、内在性のキシロシル-、フコシル-およびGlcNAcTII(GnTII)の各転移酵素が確認される位置よりも後期のほうになる。
【0063】
GalTの再局在化変種を発現するこれらの植物中のN-グリカンのキシロースおよびフコース含量が著しく少ないという所見はバイオテクノロジーにも関連してくる。人間など哺乳動物の治療への使用を意図した糖タンパク質に関しては、本発明のある種の実施態様のアプローチは植物中の糖タンパク質のN-結合糖化をコントロールして、キシロースとフコースを実質的に含まず、少なくとも2本鎖N-グリカン(ただし2本鎖に限らず3本鎖などのグリカンも含む)と該N-グリカンの少なくとも1本のアーム上の(少なくとも1つの)ガラクトース残基とを含む糖タンパク質が得られるようにする方法および組成物を提供する。従って、本発明は2本鎖N-グリカンに限定されず、バイセクト型の2本鎖N-グリカン、3本鎖N-グリカンなどを含むものとする。さらに、本発明は複合型N-グリカンに限定されず、混成型N-グリカンや他タイプのN-グリカンをも含むものとする。本発明はそうした生成糖タンパク質類を見込む。さらに、本発明の方法および組成物は植物および非植物系に対し、キシロース、フコースのほかにLewisA/B/X型N-グリカン組換え(β1-3-GalT, α1-4-FucTなど)または他の糖が所期のグリコフォームの集積を妨げるような場合に適用することができよう。
【0064】
一実施態様では、本発明は植物のN-結合糖化の、ゴルジ装置でのグリカン生合成に関与する酵素類の局在化を調節することによるコントロールに関する。特に本発明の実施態様は、2本鎖N-グリカンを非限定的な例とする・また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む・N-グリカン(高マンノース型、混成型または好ましくは複合型N-グリカン)をもち、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質を植物宿主系内で生成させる方法であって、(a)該糖タンパク質のグリカンのコア構造へのキシロースおよびフコースの付加を防止(または阻害)するステップ、および(b)該アームに1個の、または好ましくは2個のガラクトース残基を付加するステップを含む方法に関する。
【0065】
該異種タンパク質へのキシロースおよびフコースの付加は、タンパク質特に植物キシロシル転移酵素などの酵素のCTS領域(またはその一部分)と植物中には通常見られないガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を該植物宿主系に導入して、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該ガラクトシル転移酵素よりも初期に作用するようにすることにより、減少させ、または防止することができる。ガラクトシル転移酵素は哺乳動物ガラクトシル転移酵素、特にヒト・ガラクトシル転移酵素であるのが好ましい。最も具体的な実施態様では、該ガラクトシル転移酵素はヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)である。XylT、FucT、GnTI、GuTII、GnTIII 、GnTIV、GnTV、GnTVI、ManI、ManIIおよびManIII を含むゴルジ装置内でガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する酵素群のうちの1つによる、哺乳動物糖転移酵素(ガラクトシル転移酵素など)のCTS領域またはCTS断片の交換は、好ましくないキシロースおよびフコース残基を含むグリカンの量を大幅に減少させる結果となる(図2)。加えて、ガラクトシル化が改善し、またグリカン類の雑多性が緩和される。特定の機構に限定されものではないが、キシロースもフコースも含まないガラクトシル化グリカンの増加は主にGlaGNMan5、GNMan5またはGalGNMan4の集積に起因すると考えられる。またガラクトシル化は1本のグリカンアーム上でだけ起こる。ゴルジ装置内での初期のガラクトシル化は明らかに、マンノシダーゼII(ManII)による該グリコフォーム類のGalGNMan3へのトリミングを阻害する。GlcNAcTII(GnTII)による第2 GlcNAcの付加もまた阻害される。
【0066】
従って一実施態様では、両アームをガラクトシル化しながらもキシロースとフコースを基本的に欠くような所期の糖タンパク質を獲得するためのさらなるステップが見込まれる。たとえば一実施態様では、前述ような本発明の方法は、該糖タンパク質のアームにガラクトース残基を付加するステップをさらに含む(図3を参照)。本発明の一実施態様では、(a)GnTIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列; (b)GnTIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(c) XylTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とヒト・ガラクトシル転移酵素の活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素(TmXyl-GalT)をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が両アームに付加される。本発明の別の実施態様では、(a)ManIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列; (b)ManIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(c) ManTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とManIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(d)XylTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とヒト・ガラクトシル転移酵素の活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第4ハイブリッド酵素(TmXyl-GaT)をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)、(d)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が両アームに付加される。
【0067】
本発明は単一の細胞、組織または植物に使用されるハイブリッド酵素の特定の組合せまたはそうしたハイブリッド酵素の数に限定されないものとする。好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalT プラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIを発現する宿主細胞を見込む。本発明の一実施態様では、(a)タンパク質特に[N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む]酵素のCTS領域(またはその断片)とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用するようにした核酸、および(b)N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用するようにした核酸、以上(a)、(b)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。N-アセチルグルコサミニル転移酵素またはマンノシダーゼIIもしくは該膜貫通断片をコードする配列は植物から、または非植物真核生物(哺乳動物など)から、生成させることができる。
【0068】
さらに別の実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスTmManI-GnTIプラスTmManI-ManIIプラスTmManI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。本発明の別の実施態様では、(a)タンパク質特に[マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む]酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)よりも初期に作用するようにした核酸、(b)マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該マンノシダーゼII(ManII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼII(ManII)よりも初期に作用するようにした核酸、および(c)マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用するようにした核酸、以上(a)、(b)、(c)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。N-アセチルグルコサミニル転移酵素またはマンノシダーゼもしくは該膜貫通断片をコードする配列は植物から、または非植物真核生物(哺乳動物など)から、生成させることができる。
【0069】
さらに別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII を発現する宿主細胞を見込む。本発明の別の実施態様では、(a)マンノシダーゼIII [野生型遺伝子を非限定的な例とするManIII ; またManIII +ER残留シグナル; ManIII +初期シスゴルジ装置糖転移酵素(GnTI、ManI、GnTIII )の膜貫通断片]をコードする核酸配列を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。マンノシダーゼIII をコードする配列は昆虫(Spodoptera frugiperdaまたはDrosophila melanogasterが非限定的な好まし例)、人間または他生物から生成させることができる。
【0070】
さらに別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII プラスTmGnTI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII プラスTmManI-GnTIプラスTmManI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。
【0071】
本発明の方法は一実施態様では随意に、哺乳動物N-アセチルグルコサミニル転移酵素GnTIII 特にヒトGnTIII 、または哺乳動物GnTIII の触媒部分と真核細胞ERまたはゴルジ装置の初期区画に滞留する一タンパク質の膜貫通部分とを含むハイブリッドタンパク質を植物宿主系に導入するステップをさらに含む。たとえば一実施態様では、ハイブリッド酵素TmXyl-GnTIII が(該ハイブリッド酵素をコードする核酸、該核酸を含むベクター、該ベクターを含む宿主細胞、および該宿主細胞含む植物または植物部分と共に)見込まれる。本発明は特にそうしたハイブリッド酵素を(単独で、追加のハイブリッド酵素類または他の糖転移酵素類と共に)発現する宿主細胞を見込む。
【0072】
本発明はまた、該ハイブリッドおよび組換え酵素、該ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、該核酸配列を含むベクター、および該ハイブリッド酵素を獲得する方法に関する。本発明はさらに異種糖タンパク質を含む植物宿主系に関するが、該糖タンパク質は好ましくは複合型2本鎖グリカンをもち、少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含み、またキシロースとフコースを欠く。「異種糖タンパク質」は植物宿主系以外の種に由来する糖タンパク質である。糖タンパク質は抗体、ホルモン、増殖因子と増殖因子受容体および抗原を非限定的に含む。
【0073】
実際、本発明は異種糖タンパク質たとえば抗体又は抗体断片(一本鎖抗体、Fab断片、Fab2断片、Fv断片など)の糖化のコントロールに有用である。ある抗体の糖化をコントロールするには、本発明のハイブリッド酵素をコードする遺伝子コンストラクト(TmXyl-GalT遺伝子コンストラクトなど)を、抗体(たとえばモノクローナル抗体)又は抗体断片を発現するトランスジェニック植物に導入することができる。他方、該抗体(または抗体断片)をコードする遺伝子はTmXyl-GalT遺伝子コンストラクトを発現する植物の再形質転換によって導入することができる。さらに別の実施態様では、TmXyl-GalT発現カセットを収めたバイナリーベクターを、モノクローナル抗体のL鎖、H鎖両配列を含む発現カセットを一本鎖T-DNA上に収めた植物バイナリーベクターと共に、またはL鎖、H鎖両配列に対応しながらどちらもモノクローナル抗体をコードする発現カセットを独立のT-DNA上に別々に収めたバイナリーベクターと共に、植物に同時形質転換することができる。本発明は一実施態様で、抗体を発現する植物と本発明のハイブリッド糖転移酵素を発現する植物との交雑(交配)を特に見込む。
【0074】
「宿主系」はN-グリカンをもつ糖タンパク質を含む任意の生物を非限定的に含む。
「植物宿主系」は植物またはその一部分を非限定的に含むが、植物の一部分は植物細胞、植物器官および/または植物組織を非限定的に含む。植物は胚に1枚の子葉をもつ単子葉の顕花植物でもよい。その非限定的な例はユリ、牧草・芝、トウモロコシ(Zea mays)、コメ、穀物(オーツ、コムギ、オオムギなど)、ラン、アヤメ類、オニオン、ヤシなどである。植物はまたタバコ(Nicotiana)、トマト、ジャガイモ、豆類(アルファルファ、ダイズなど)、バラ、ヒナギク、サボテン、スミレ、ウキクサなどを非限定的に含む双子葉植物でもよいし、Physcomitrella patensを非限定的に含むコケでもよい。
【0075】
本発明はまた植物宿主系を獲得する方法に関する。該方法は異種糖タンパク質を発現する植物を、(a)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とタンパク質(該タンパク質は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ体(装置)内で、該ガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する)のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とを含むハイブリッド酵素、(b) マンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とタンパク質特にN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用する)のCTS領域(またはその一部分、たとえば膜貫通ドメインを含む部分)とを含むハイブリッド酵素、および(c) N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む糖転移酵素の(N末端の最初の30〜40アミノ酸などのような)酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域とを含むハイブリッド酵素、以上(a)、(b)、(c)のハイブリッド酵素を含む植物と交雑させるステップ、該交雑から子孫を回収するステップ、および該異種糖タンパク質を発現する子孫植物を選定するステップを含む。
【0076】
本発明はさらに、植物宿主系を構成する植物またはその一部分に関する。該植物宿主系は、哺乳動物GnTIII の触媒部分と真核細胞のERまたはゴルジ装置の初期区画に滞留するタンパク質の膜貫通部分とを含む哺乳動物GnTIII 酵素またはハイブリッドタンパク質をさらに含んでもよい。
【0077】
加えて、本発明はまた所期の糖タンパク質またはその機能的断片を生成するための植物宿主系の使用に関する。本発明はまた、植物を、該植物が収穫可能な段階に到達する(たとえばバイオマスが十分に増大し、有利な収穫が可能になる)まで本発明の方法に従って栽培するステップ、次いで該植物を技術上周知の確立された手法で収穫するステップ、該植物を技術上周知の確立された手法で分別して分別植物性物質を獲得するステップ、および該分別植物性物質から該糖タンパク質を少なくとも部分的に単離するステップを含む方法和提供する。
【0078】
あるいは、異種糖タンパク質を含む植物宿主細胞系はまた、(a)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域とタンパク質(該タンパク質は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ体(装置)内で、該ガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(またはさらに多くのCTS領域)とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(b) マンノシダーゼII(ManII)の触媒領域とタンパク質特にN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(または必要ならさらに多くのCTS領域)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(c) N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(または必要ならさらに多くのCTS領域)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)の核酸配列を植物宿主細胞系またはその一部分に導入し、次いで該異種糖タンパク質(またはその一部分)を発現する植物またはその一部分を単離することによって獲得してもよい。一実施態様では、前記の核酸配列をみな1つのベクターに収めて、該植物宿主系に導入する。別の実施態様では各核酸配列を別個のベクターに挿入し、別個のベクターとして該植物宿主系に導入する。別の実施態様では、2個以上の核酸配列を組み合せて別個のベクターに挿入し、次いで再形質転換、同時形質転換または交雑法により該植物宿主系に導入してすべての核酸配列が組み合わさるようにする。
【0079】
本発明はまた、そうした植物由来糖タンパク質またはその機能的断片の、組成物特にたとえば抗体、ホルモン、ワクチン、抗体、酵素などにより患者を治療するための製剤組成物の製造への、本発明に従った使用に関連する。本発明では糖タンパク質またはその機能的断片を含むそうした製剤組成物もまた提供される。
【0080】
最後に、前記アプローチは1つまたは複数の本発明ハイブリッド酵素を発現する植物体内のグリカン類の全般的な雑多性を(野生型植物または哺乳動物GalTだけで形質転換したにすぎない植物と比較して)緩和する効果もあると見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は植物と哺乳動物の糖タンパク質糖化経路の比較である。
【図2】図2はガラクトシル転移酵素のCTS断片とキシロシル転移酵素との交換の効果を示す。
【図3】図3はマンノシダーゼIIとGlcNAcTIIの再局在化のさらなる効果を示す。
【図4】図4は、免疫原性のキシロースとフコースを欠くガラクトシル化グリカンを効率的に産生するためのグリカンをコードし酵素類を組み換える遺伝子を収めたT-DNAコンストラクト(上パネル)と抗体L鎖およびH鎖遺伝子を収めたT-DNAコンストラクト(下パネル)を示す。
【図5】図5はヒト・ガラクトシル転移酵素(ヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素−GalT)の核酸配列(SEQ ID NO:1)を示す。
【図6】図6は図5の核酸配列(SEQ ID NO:1)を対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)とともに示す。
【図7】図7はヒト・ガラクトシル転移酵素に対応する野生型アミノ酸配列(SEQ ID NO:2)に由来する変異配列例(SEQ ID NO:59)を示す。該配列では細胞質尾部からセリンが削除されており、またG-I-Yモチーフの反復が見られる。もちろんこうした変更は本発明の範囲内の数多くの可能な変更の一例にすぎない。本発明はたとえば一実施態様では、挿入や反復によらずに(たとえば細胞質尾部またはステム領域内の)(1つまたは複数の)削除だけによる変異配列を見込む。同様に一実施態様では、削除によらずに(たとえば膜貫通ドメイン内の) (1つまたは複数の)挿入または置換だけによる変異配列を見込む。
【図8】図8はヒト・ガラクトシル転移酵素(ヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素−GalT)を含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列(SEQ ID NO:3)を示す。大文字はβ1,2-キシロシル転移酵素に対応するシロイヌナズナmRNAのヌクレオチドである(データベース登録番号: EMBL:ATH277603。使用TmXyl断片はこのデータベース配列のヌクレオチド135〜297に対応する)。
【0082】
【図9】図9は図8の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)と共に示す。
【図10】図10は図8の核酸配列がコードするハイブリッド酵素に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)である。
【図11】図11はヒト・ガラクトシル転移酵素GnTIII に対応する核酸配列(SEQ ID NO:5)を(myc-タグをコードする追加配列を添えて)示す(一次登録番号Q09327 GNT3 HUMAN)。
【図12】図12は図11の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:6)と共に示す。
【図13】図13はヒトGnTIII に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:6)を(mycエピトープタグSEQ ID NO:7の追加アミノ酸配列と共に)示す。
【図14】図14は、植物キシロシル転移酵素の膜貫通ドメイン(TmXyl-)とヒトGnTIII の触媒領域(および他の領域)とを含む本発明のハイブリッド酵素(TmXyl-GnTIII )の実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:9)を(myc-タグをコードする追加配列と共に)示す。
【図15】図15は図14の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:10)と共に示す。
【図16】図16は図14の核酸配列がコードするハイブリッド酵素に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:10)を(mycエピトープタグに対応する追加配列SEQ ID NO:7と共に)示す。
【図17−1】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−2】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−3】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−4】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図18−1】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図18−2】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図18−3】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図19−1】図19はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 29)を示す。
【図19−2】図19はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 29)を示す。
【図20】図20はハイブリッド酵素TmGnTI-GnTIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 30)を示す。
【図21】図21はハイブリッド酵素TmGnTI-GnTIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 31)を示すが、使用した膜貫通断片(TmGnTI)の核酸配列はSEQ ID NO:32である。
【図22A】図22Aは膜貫通ドメイン断片(TmGnTI)の一実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:32)を示す。
【図22B】図22Bは膜貫通ドメイン断片(TmManI)の別の実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:33)を示す。
【図23−1】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−2】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−3】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−4】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−5】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図24】図24はハイブリッド遺伝子発現カセット(TmManI-GnTI)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:35)である。
【図25】図25はヒストン3.1プロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:36)である。
【図26】図26はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmGnTI)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)である。
【図27−1】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図27−2】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図27−3】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図28】図28はRcS1プロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:39)である。
【図29−1】図29はハイブリッド遺伝子TmManI-ManIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:40)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図29−2】図29はハイブリッド遺伝子TmManI-ManIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:40)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図30−1】図30はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:41)である。
【図30−2】図30はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:41)である。
【図31】図31はLhcaプロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:42)である。
【図32】図32はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:43)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図33】図33は使用ターミネーター配列(後述)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:44)である。
【0083】
【図34】図34は本発明の植物と対照植物の全タンパク質糖化を比較したウェスタンブロットである。
【図35】図35は本発明の一実施態様に従って生み出した交雑植物F1子孫に関するRCAを用いたレクチンブロットである。
【図36】図36はウェスタンブロットである。使用抗体は次のとおり: パネルA−抗IgG抗体; パネルB−抗HRP抗体; パネルC−特異的抗Xyl抗体画分; パネルD−特異的抗フコース抗体画分; パネルE−レクチンRCA。
【図37−1】図37は、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:49)を示す。
【図37−2】図37は、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:49)を示す。
【図38】図38は図37の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:50)である。
【図39】図39は、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:51)を示す。
【図40】図40は図39の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:52)である。
【図41】図41は、シロイヌナズナGnTI遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:53)を示す。
【図42】図42は図41の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:54)である。
【図43】図43は、シロイヌナズナGnTII遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:55)を示す。
【図44】図44は図43の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:56)である。
【図45】図45は、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域をヒトGnTI遺伝子のCTS領域で置き換えたハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:57)を示す。
【図46】図46は図45の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:58)である。
【図47】図47は酵素類がゴルジ装置に局在する仕組みについての図解である。
【図48】図48は転移酵素類の領域「スワッピング」が再局在化を招く仕組みについての非限定的、思弁的な図解である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明の詳細な説明
ハイブリッド酵素
マンノシダーゼ、GlcNAcTs、ガラクトシル転移酵素など種々の糖化酵素をコードする核酸配列は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)または発現ライブラリーのスクリーニングによる共通の構造的特徴をもつクローン化DNA断片の検出などのような技術上周知の組換えDNA法を用いて獲得することができる。たとえばInnis et al., 1990, PCR: A Guide to Methods and Application, Academic Press, New Yorkなどを参照。リガーゼ連鎖反応(LCR)、ligated activated transcription(LAT)、nucleic acid sequence-based amplification (NASBA)またはロングレンジPCRなど他の核酸増幅法を使用してもよい。
【0085】
ひとたびDNA断片を生成させたら、所期の遺伝子を含む特異的DNA断片の同定を様々な方法で行う。たとえば遺伝子またはその特異的RNAの一部分、またはその断片についてある量を獲得し、精製、標識しうるなら、そうした生成したDNA断片は標識プローブとの核酸ハイブリダイゼーションによりスクリーニングする[Benton and Davis, Science 196:180 (1977); Grunstein and Hogness, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 72:3961 (1975)]。あるいは該遺伝子の存在はその発現産物の物理的、化学的および免疫学的性質に基づく試験で検出する。たとえばcDNAクローンまたは適正mRNAをハイブリダイズ-選択するDNAクローンは、たとえば着目タンパク質の周知の電気泳動、等電点挙動、タンパク質分解消化マップまたは抗原特性と同じまたは類似の特性をもつタンパク質を産生するものを選択することができる。
【0086】
第1酵素の膜貫通部分と第2酵素の触媒部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列は次の要領で獲得する。第2酵素から膜貫通部分をコードする配列を除去し、第2酵素の触媒部位を包摂するC末端部分をコードする核酸配列を含む核酸配列を残す。第1酵素の膜貫通部分をコードする配列をPCR法で単離または獲得して、第2酵素のC末端部分を含む配列をコードする配列にライゲートする。
【0087】
組換え酵素
タンパク質特に酵素たとえばER中に残留するガラクトシル転移酵素、マンノシダーゼおよびN-アセチルグルコサミン転移酵素などをコードする核酸配列は、膜貫通断片をコードする配列を除去してメチオニン(翻訳開始)コドンに取り替え、またガラクトシル転移酵素の最後のコドンと終止コドンの間にER残留シグナルをコードする核酸配列たとえばKDEL(アミノ酸残基配列: リジン-アスパラギン酸-グルタミン酸-ロイシン)をコードする配列などを挿入する[Rothman, Cell 50:521 (1987)]。
【0088】
そのドメインおよび部分の使用
前述のように、「の少なくとも一部分」または「の断片」という言い回しは、タンパク質またはペプチドがその天然または本来の機能を維持するうえでの必要最小限のアミノ酸配列をいう。たとえば酵素の機能は酵素的または触媒的な機能、タンパク質をゴルジ装置内に固定する能力、またはシグナルペプチドとしての機能をいう。従って「膜貫通ドメインの少なくとも一部分」または「膜貫通ドメインの断片」という言い回しはそれぞれ、より大きな膜貫通ドメインのうちの、天然の膜貫通ドメイン機能を少なくとも部分的に保持する(たとえば該機能が低下してもなお明白である)ような最小アミノ酸配列をいう。別の例として、「触媒領域の少なくとも一部分」または「触媒領域の断片」という言い回しはそれぞれ、より大きな触媒領域のうち、天然の触媒機能を少なくとも部分的に保持する(たとえば該機能が低下してもなお明白である)ような最小アミノ酸配列をいう。本明細書で述べるように、あるタンパク質またはペプチドが天然タンパク質またはペプチドの機能を少なくとも部分的に保持する上での必要最小限のアミノ酸配列は当業者には自明であろう。
【0089】
糖転移酵素は一般に酵素が転移する糖の種類に基づき(ガラクトシル転移酵素、シアリル転移酵素などのように)分類される。糖転移酵素はアミノ酸配列の類似性や立体化学的な反応過程に基づき少なくとも27種類、おそらく47種類に分類することができる[Campbell et al., Biochem. J. 326:929-939 (1997); Biochem. J. 329:719 (1998)]。今日までに単離された糖転移酵素は大多数がII型膜貫通タンパク質(細胞質ゾル中にNH2末端を有しゴルジ装置内腔中にCOOH末端を有する1回膜貫通ドメイン・タンパク質)である。糖転移酵素はどれも、その分類のされ方とは無関係に、共通の構造的特徴をいくつかもつ: すなわち短いNH2末端細胞質尾部、16〜20アミノ酸のシグナルアンカー(または膜貫通)ドメイン、それに延長ステム領域とそれに続く大きなCOOH末端触媒ドメインである。細胞質尾部はある種の糖転移酵素のゴルジ装置への特異的局在化に関係する模様である[Milland et al., J. Biol. Chem. 277: 10374-10378]。シグナルアンカードメインは切断不能のシグナルペプチドとしても、また糖転移酵素の触媒領域をゴルジ装置の内腔内に導く膜貫通領域としても作用しうる。
【0090】
本発明の一実施態様では、Nicotiana benthamiana(タバコ)アセチルグルコサミニル転移酵素IのN末端77アミノ酸にあたる部分についてハイブリッド酵素への使用を見込む。レポータータンパク質を植物ゴルジ装置内に導き保持するにはこの部分で十分であると判明しているためである[Essl et al., FEBS Lett 453:169-173 (1999)]。多様な融合タンパク質のタバコの細胞質、膜貫通およびステムの各推定ドメイン間への細胞内局在化は、細胞質-膜貫通ドメインだけで内腔配列に一切頼らずにβ1,2-キシロシル転移酵素のゴルジ装置内残留を十分支えうることを示した[Dirnberger et al., Plant Mol. Biol. 50:273-281 (2002)]。従って前述のように、本発明のある種の実施態様はCTS領域のステム領域は利用せず細胞質-膜貫通ドメイン(またはその部分)だけに関係する部分を利用する。しかし糖転移酵素はその種類によってゴルジ装置内残留を主にその膜貫通ドメインに依存する場合も、膜貫通領域の他にその片側または両側の隣接配列をも必要とする場合もある[Colley, Glycobiology 7:1-13 (1997)]。たとえばアミノ酸1〜32にまたがるN末端ペプチドはβ 1,6 N-アセチルグルコサミニル転移酵素をゴルジ装置に局在させる必要最小限のターゲティングシグナルであるように見受けられる。このペプチドはこの酵素の細胞質-膜貫通ドメインを構成する[Zerfaoui et al., Glycobiology 12:15-24]。
【0091】
個別糖転移酵素の諸領域のアミノ酸配列に関しては大量の情報が得られる。たとえば哺乳動物ガラクトシル転移酵素のアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAM17731)は残基19〜147と残基148〜397にそれぞれまたがる「ステム」領域、「触媒」領域をもつ[参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,416,988号明細書]−また本発明は実施態様によってはそうした部分のハイブリッド酵素への使用を特に見込む。ラット肝シアリル転移酵素のアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAC91156)は9アミノ酸のNH2末端細胞質尾部、17アミノ酸のシグナルアンカードメインおよび露出ステム領域とそれに続く41kDaの触媒領域を含む内腔ドメインを有する[Hudgin et al., Can. J. Biochem. 49:829-837 (1971); 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,032,519号および第5,776,772号の各明細書]。周知のヒトおよびマウスβ 1,3-ガラクトシル転移酵素は8保存領域を備えた触媒領域をもつ[Kolbinger et al., J. Biol. Chem. 273:433-440 (1998); Hennet et al., J. Biol. Chem. 273:58-65 (1998); 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,955,282号明細書]。たとえばマウスUDP-ガラクトース: β-N-アセチルグルコサミンβ 1,3-ガラクトシル転移酵素I(GenBank Accession No. NM020026)は次の触媒領域をもつ: 残基78〜83の領域1; 残基93〜102の領域2; 残基116〜119の領域3; 残基147〜158の領域4; 残基172〜183の領域5; 残基202〜206の領域6; 残基236〜246の領域7; 残基264〜275の領域8 [Hennet et al., supra.]−いずれの領域も本発明の実施態様によっては、前述のハイブリッド酵素との関係で有用なタンパク質と見込まれる。
【0092】
周知の糖転移酵素cDNAクローン間の以前の比較では酵素間に配列相同性はほとんどないと判明していたが[Paulson et al., J. Biol. Chem. 264:17615-618 (1989)]、最近の進歩により多様な特異性をもつ糖転移酵素類の保存領域構造を推測することが可能になってきた[Kapitonov et al., Glycobiology 9:961-978 (1999)]。たとえば、Homo Sapiens(ヒト)、Caenorhabditis elegans(土壌線虫)、Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ; カラシナの仲間の)およびOryza sativa(イネ)などの多様な生物で得られた全ゲノム配列からもたらされる配列データを使用して多数の糖転移酵素の核酸およびアミノ酸配列が解明されるようになった。
【0093】
幅広い研究の結果、種々の糖転移酵素の相同結合部位に関して共通アミノ酸配列が推測されるようになってきた。たとえばシアリル転移酵素は供与体基質のCMP-シアル酸の認識に関与すると見られるシアリルモチーフをもつ[Paulson et al., supra.; Datta et al., J. Biol. Chem. 270:1497-1500 (1995); Katsutoshi, Trends Glycosci. Glycotech. 8:195-215 (1996)]。Gal α-1-3ガラクトシル転移酵素中のヘキサペプチドRDKKNDとGlcNAc β-1-4ガラクトシル転移酵素中の同RDKKNEはUDP-Galの結合部位として提唱されている[Joziasse et al., J. Biol. Chem. 260:4941-4951 (1985); J. Biol. Chem. 264:14290-14297 (1989); Joziasse, Glycobiology, 2:271-277 (1992)]。
【0094】
2個のアスパラギン酸残基によって形成される小さな高保存モチーフ(DXD)は疎水性領域で囲まれることも多いが、α-1-3-マンノシル転移酵素、β-1-4ガラクトシル転移酵素、α-1-3ガラクトシル転移酵素、グルクロニル転移酵素、フコシル転移酵素、グリコゲニンなどを含む多数の異なる真核生物の転移酵素で確認されている[Wiggins et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:7945-7950 (1998)]。突然変異研究は、このモチーフが酵素活性に必要であることを示唆している[Busch et al., J. Biol. Chem. 273:19566-19572 (1998); Wang et al., J. Biol. Chem. 277:18568-18573 (2002)]。多重ペプチドアラインメントにより、β-3ガラクトシル転移酵素ファミリーの全メンバーに共通して保存されている推定触媒領域に対応するいくつかのモチーフすなわちII型膜貫通ドメイン、保存DxDモチーフ、N-糖化部位および5個の保存システインが明らかになった[Gromova et al., Mol. Carcinog. 32:61-72 (2001)]。
【0095】
BLAST検索と多重アラインメントの実行によりE-X7-Eモチーフは残留糖転移酵素4ファミリーのメンバー間で高保存性であることが判明した[Cid et al., J. Biol. Chem. 275:33614-33621 (2000)]。O-結合アセチルグルコサミニル転移酵素(GlcNAc)は1個のβ-N-アセチルグルコサミン鎖を特異的セリン-またはトレオニン-ヒドロキシル基に付加する。BLAST検索、コンセンサス二次構造予測およびフォールド認識研究によれば、二次Rossmannフォールドドメイン内の保存モチーフはUDP-GlcNAc供与体結合部位であるらしい[Wrabl et al., J. Mol. Biol. 314:365-374 (2001)]。今日までに同定されたβ1,3-糖転移酵素類はいくつかの保存領域と保存システイン残基を共有するが、いずれも推定触媒領域内にある。マウスβ3GatT-I遺伝子(Accession No. AF029790)の部位指定突然変異誘発では、保存残基W101およびW162はUDP-ガラクトース供与体の結合に、残基W315はN-アセチルグルコサミン-β-p-ニトロフェノール受容体の結合に、またE264を含むドメインは両基質の結合に、それぞれ関与していることがうかがわれる[Malissard et al., Eur. J. Biochem. 269:233-239(2002)]。
【0096】
着目タンパク質の植物宿主系での発現
ハイブリッドまたは組換え酵素または他の異種タンパク質たとえば異種糖タンパク質をコードする核酸は本発明のある種の実施態様に従って適正な発現ベクターに挿入することができるが、そうした適正な発現ベクターは被挿入コード配列の転写・翻訳に必要な因子を収めたベクターまたはRNAウイルスベクターの場合には必要な複製・翻訳因子ならびに選択マーカーを収めたベクターである。そうした因子の非限定的な例はプロモーター領域、シグナル配列、5’末端非翻訳配列、開始コドン(構造遺伝子がそれを備えているかどうかによる)、および転写・翻訳終結配列などである。こうしたベクターを獲得する方法は技術上周知である(国際公開第WO 01/29242号明細書を参照)。
【0097】
植物での発現に好適なプロモーター配列はたとえば国際公開第WO 91/198696号明細書で開示されている。その例はノパリン生合成およびオクトピン生合成プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV) 19Sおよび35Sプロモーター、それにゴマノハグサモザイクウイルス(FMV)35プロモーターなどのような非構成的または構成的プロモーターである(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,352,605号および第6,051,753号明細書を参照)。使用プロモーターはたとえば内胚乳、アリューロン層、胚、果皮、葉柄、葉、塊茎、根などを標的とする組織特異的プロモーターでもよい。
【0098】
シグナル配列は必要に応じてタンパク質のプロセシングと移動を可能にする。シグナル配列は植物由来でも、非植物由来でもよい。シグナルペプチドは未完成ポリペプチドを小胞体に導き、そこでポリペプチドは翻訳後修飾を受ける。シグナルペプチドは当業者には容易に同定することができる。シグナルペプチドは一般にN末端の正荷電アミノ酸、それに続く疎水性領域、次いで弱疎水性領域内の切断部位からなる三分構造をもつ。
【0099】
転写終結はきまって転写開始領域の反対端で起こる。それは転写開始領域と関連し、あるいは異なる遺伝子に由来することもあり、また発現を増進するよう選択されることもある。例はAgrobacterium Tiプラスミド由来のNOSターミネーターおよびイネのアルファアミラーゼターミネーターである。ポリアデニル化尾部を付加してもよい。非限定的な例はAgrobacteriumオクトピン生合成シグナル[Gielen et al., EMBO J. 3:835-846 (1984)]または同じ種のノパリンシンターゼ[Depicker et al., Mol. Appl. Genet. 1:561-573 (1982)]である。
【0100】
エンハンサーを加えて異種タンパク質の転写を増進および/または極大化してもよい。その非限定的な例はペプチド搬出シグナル配列、コドン使用頻度、イントロン、ポリアデニル化、および転写終結部位などである(国際公開第WO 01/29242号明細書を参照)。
【0101】
マーカーは原核選択マーカーを含むのが好ましい。そうしたマーカーの例は抗生物質(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、スペクチノマイシンなど)耐性マーカーなどである。個別の非限定的な例はストレプトマイシン耐性をコードするストレプトマイシンリン酸転移酵素(spt)遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシン耐性をコードするネオマイシンリン酸転移酵素(nptII)遺伝子、ヒグロマイシン耐性をコードするヒグロマイシンリン酸転移酵素(hpt)遺伝子などである。
【0102】
構築したベクターは(国際公開第WO 01/29242号およびWO 01/31045号明細書で概観されている)技術上周知の方法を用いて植物宿主系に導入することができる。ベクターは、Agrobacterium tumefaciensベクターに対して相同性を有する領域、A. tumefaciens由来のT-DNA境界領域を収める植物形質転換プラスミドの仲立ちとなるよう変更を加えてもよい。あるいは、本発明の方法に使用するベクターはAgrobacteriumベクターでもよい。ベクターを導入する方法の非限定的な例はマイクロインジェクション、核酸を微小ビーズまたは粒子の基質内に入れるかまたは表面上にまぶして行うパーティクルガン法、エレクトロポレーションなどである。ベクターは植物の細胞、組織または器官に導入する。個別実施態様では、ひとたび異種遺伝子の存在が確認されたら、技術上周知の方法を用いて植物を再生させる。所期タンパク質の存在は技術上周知の方法を用いてスクリーニングするが、それには生物活性部位を、検出可能なシグナルを生成させて検出する試験法を用いるのが好ましい。このシグナルの生成は直接的でも間接的でもよい。そうした試験の例はELISAまたはラジオイムノアッセイなどである。
【0103】
一過性の発現
本発明は特に、前記ハイブリッド酵素の安定発現と一過性発現の両方を見込む。多種多様な高等植物種を形質転換して発現カセットの一過性発現を実現させる手法は技術上周知である[たとえばWeising et al., Ann. Rev. Genet. 22:421-477 (1988)を参照]。種々のシステムには被導入核酸の種類(DNA、RNA、プラスミド、ウイルス)、形質転換される組織の種類、遺伝子導入の手段、および形質転換条件といった変数がある。たとえば核酸コンストラクトはエレクトロポレーション、PEGポレーション、パーティクルガン、ケイ素繊維デリバリー、植物細胞原形質または不定胚形成カルスまたは他植物組織のマイクロインジェクション、あるいはアグロバクテリア媒介型の形質転換を用いて植物細胞に直接導入してもよい[Hiei et al., Plant J. 6:271-282 (1994)]。形質転換効率は変化しやすいので、しばしば内部標準(たとえば35S-Luc)を使用して形質転換効率を標準化する。
【0104】
一過性発現試験のための発現コンストラクトはプラスミドやウイルスベクターなどである。ベクターとして使用可能な多様な植物ウイルスは周知であり、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、ジェミニウイルス、ブロモモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどがある。
【0105】
一過性発現に好適な植物組織はインタクトなまたは(細胞壁を除去した)プロトプラストとしての培養細胞、培養組織、培養植物、それに植物組織(葉など)である。
【0106】
一過性発現の方法によってはエレクトロポレーションまたはPEGポレーションにより植物細胞プロトプラストに遺伝子を導入する場合がある。それらの方法は植物プロトプラストの調製と培養が必要であり、また核酸をプロトプラスト内部へと導入するためのプロトプラスト穿孔を伴う。
【0107】
例示的なエレクトロポレーション法はFromm et al., Proc., Natl. Acad. Sci. 82:5824 (19985)で開示されている。ポリエチレングリコール沈殿法によるDNAコンストラクトの導入はPaszkowski et al., EMBO J. 3:2717-2722 (1984)で開示されている。プロトプラストの単離、精製、形質転換を伴うタバコプロトプラストのPEG法による形質転換はLyck et al., (1997) Planta 202:117-125; Scharf et al., (1998) Mol Cell Biol 18:2240-2251; Kirschner et al., (2000) The Plant J. 24(3):397-411で開示されている。これらの方法はたとえば外部刺激で活性化されるプロモーター中のシス配列の同定に使用されてきたし[Abel and Theologis (1994) Plant J 5:421-427; Hattori et al., (1992) Genes Dev 6:609-618; Sablowski et al., (1994) EMBO J 128-137; Solano et al., (1995) EMBO J 14:1773-1784]、他の遺伝子発現研究にも使用されてきた(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,376,747号明細書)。
【0108】
パーティクルガン法はKlein et al., (1978) Nature 327:70-73で開示されている。パーティクルガン法は懸濁細胞または植物器官に対して行う。たとえばこの方法はNicotiana tabacumの葉に使用するために開発された[Godon et al (1993) Biochimie 75(7):591-595]。また植物プロモーターの研究に使用されてきたし[Baum et al., (1997) Plant J 12: 463-469; Stromvik et al., (1999) Plant Mol Biol 41(2): 217-31; Tuerck and Fromm (1994) Plant Cell 6:1655-1663; 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,847,102号明細書]、転写因子の特性解明にも使用されてきた[Goff et al., (1990) EMBO J 9:2517-2522; Gubler et al., (1999) Plant J 17:1-9; Sainz et al., (1997) Plant Cell 9:611-625)]。
【0109】
他の方法は遺伝子の一過性発現のin situ視覚化を可能にする。たとえばタマネギの表皮を使用して種々の細胞区画でGFPの発現を観測する方法である[Scott et al., (1999) Biotechniques 26(6): 1128-1132]。
【0110】
核酸は直接注入法で植物に導入することもできる。一過性の遺伝子発現は植物の生殖器官へのDNAの注入によって[たとえばPena et al. (1987) Nature 325:274を参照]、たとえば花粉への直接DNA導入により[Zhou et al., (1983) Methods in Enzymology, 101:433; D. Hess (1987) Intern Rev. Cytol., 107:367; Luo et al., (1988) Plant Mol Biol Reporter, 6:165]実現することができる。DNAはまた未熟胚の細胞に直接注入することもできる[たとえばNeuhaus et al., (1987) Theor. Appl. Genet: 45-30; Benbrook et al., (1986) in Proceedings Bio Expo 1986, Mass., pp. 27-54を参照]。
【0111】
アグロバクテリア媒介型の形質転換は双子葉、単子葉の両植物に適用できる。イネやトウモロコシなどのイネ科植物のアグロバクテリア媒介型形質転換のための最適化された方法とベクターはすでに[たとえばHeath et al., (1997) Mol. Plant-Microbe Interact. 10:2221-227; Hiei et al., (1994) Plant J. 6:271-282; Ishida et al., (1996) Nat. Biotech. 14:745-750で]開示されている。トウモロコシの形質転換効率は感染組織の種類と段階、アグロバクテリア濃度、組織培地、Tiベクターおよびトウモロコシの遺伝子型といった種々の因子に規定される。
【0112】
もう1つの基本的な有用形質転換プロトコールは粒子衝撃法による損傷とそれに続くアグロバクテリアの使用によるDNAデリバリーの組合せである[たとえばBidney et al., (1992) Plant Mol. Biol. 18:301-313を参照]。インタクト分裂組織の形質転換法と分割分裂組織の形質転換法もまた公知である(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,545号明細書)。
【0113】
アグロバクテリアを使用する方法としては他にアグロインフェクション法やアグロインフィルトレーション法がある。アグロバクテリアを使用して、ウイルスゲノムをT-DNAに挿入し、植物のウイルス感染を媒介させることができる(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,545号明細書)。ウイルス感染を成功させるには、植物細胞へのT-DNAの導入後にウイルスゲノムをT-DNAから切り出す(動員する)必要がある。このアグロバクテリア媒介型の植物宿主へのウイルス導入方法はアグロインフェクション法という[Grimsley, “Agroinfection” pp. 325-342 in Methods in Molecular Biology, vol 44: Agrobacterium Protocols, ed. Gartland and Davey, Humana Press, Inc., Totowa, N.J.; Grimsley (1990) Physiol. Plant. 70:147-153を参照]。
【0114】
植物中で外来遺伝子を発現させるための植物ウイルス遺伝子ベクターの開発は短時間に高水準の遺伝子発現を実現するため手段をもたらす。好適なウイルスレプリコンは、2本鎖DNAゲノムまたは複製中間体をもつウイルスに由来する2本鎖DNAなどである。切り出されたウイルスDNAは独立に、または途中で供給される因子と共に、レプリコンまたは複製中間体として作用しうる。該ウイルスDNAは感染性ウイルス粒子をコードしてもコードしなくてもよいし、また挿入、欠失、置換、再編成、または他の修正をさらに含んでもよい。該ウイルスDNAは、任意の非ウイルスDNAまたは異種ウイルス由来のDNAである異種DNAを含んでもよい。異種DNAはたとえば着目のタンパク質またはRNAに対応する発現カセットを含んでもよい。
【0115】
アグロバクテリア菌株A281およびA348のvir遺伝子群を含むスーパーバイナリーベクターは単子葉植物の高効率形質転換に有用である。しかし、高効率ベクターを使用しなくても、アグロインフェクション法で導入されたウイルスの全身感染を招く(ただし腫瘍形成は招かない)程度の効率でT-DNAをトウモロコシに導入しうることが証明された[Grimsley et al., (1989) Mol. Gen. Genet. 217:309-316]。これはウイルスの増幅では切り出されたウイルスゲノムが独立のレプリコンとして機能するのでウイルスゲノムを含むT-DNAの染色体に組み込む必要がないためである。
【0116】
別のアグロバクテリア媒介型の一過性発現試験は植物体内のタバコ葉のアグロバクテリア媒介型形質転換に基づく[Yang et al., (2000) The Plant J 22(6):543-551]。この方法はプラスミドコンストラクトをもつアグロバクテリアのタバコ葉への侵入(インフィルトレーション)を利用するのでアグロインフィルトレーション法といい、プロモーターおよび転写因子のin vivo発現をわずか2〜3日で分析するために使用されてきた。この方法では、病原体感染や環境ストレスといった外部刺激のin situプロモーター活性への影響を調べることもできる。
【実施例】
【0117】
実施例1
以前に開示したPCR法に基づく兄弟株選別法[Bakker et al., BBRC 261:829 (1999)]によりcDNAライブラリーからβ1,2-キシロシル転移酵素をコードするシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana) cDNAを単離した。キシロシル転移酵素活性を感染CHO細胞の、ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ抗血清から精製したキシロース特異抗体による免疫染色で確認した。キシロシル転移酵素のN末端部分をカバーするDNA断片を、プライマー: XylTpvuF:ATACT CGAGTTAACAATGAGTAAACGGAATC(SEQ ID NO:45)およびXylTpvuR:TTCTCGATCGCCGATTGGTTATTC(SEQ ID NO:46)を使用して増幅した。XhoIおよびHpaI制限部位を開始コドンの手前に導入し、PvuIを反対端に導入した。ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素(acc.no.x55415, Aoki 1992)由来のC末端断片を、プライマーGalTpvuF:GCCGCCGCGATCGGGCAGTCCTCC(SEQ ID NO:47)およびGalTrev:AACGGATCCACGCTAGCTCGGTGTCCCGAT(SEQ ID NO:48)を使用して増幅し、もってPvuIおよびBamHI部位を導入した。XhoI/PvuIおよびPvuI/BamHIで消化したPCR断片をXhoI/BamHI消化pBluescriptSK+にライゲートし、配列を解析した。生成したオープンリーディングフレームはA. thaliana β1,2-キシロシル転移酵素の最初の54アミノ酸をヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素のアミノ酸69〜398と融合させて含む融合タンパク質をコードしており、TmXyl-GalTと命名する。この断片を植物発現ベクターのCaMV35SプロモーターとNosターミネーターの間に、HpaI/BamHIを使用してクローニングした。このクローンを天然ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素の場合と同様の要領でNicotiana tabacum(samsun NM)に導入した[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]。
【0118】
トランスジェニック植物のタンパク質抽出とウェスタンブロットを開示の要領で行った[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]。レクチンRCAとの反応をもとに、TmXylGalTを発現するトランスジェニック植物をMALDI-TOFによるさらなるグリカン分析のために選別し[Elbers et al., Plant Physiology 126:1314 (2001)]、天然β1,4ガラクトシル転移酵素を発現する植物から単離したグリカンと、また野生型植物に由来するグリカンと、比較した。MALDI-TOFスペクトルの相対ピーク面積は表1のとおりである。つまり表1は、対照タバコ(Tobacco)、ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素を発現するトランスジェニックタバコ(GalT)、および本来のCTS領域をβ1,2-キシロシル転移酵素のCTS領域に取り替えたβ1,4ガラクトシル転移酵素を発現するトランスジェニックタバコ(TmXyl-GalT)についての、内在性糖タンパク質のN-グリカンの質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0119】
【表1】
【0120】
これらのデータは次のことを示す:
1. TmXyl-GalT植物ではグリカンのキシロシル化とフコシル化が劇的に減少しており、キシロースもフコースも含まないグリカンが82%にものぼるが、野生型植物ではこれは14%である。
2. ガラクトシル化はGalT植物の9%からTmXyl-GalT植物の32%へと増大した。
【0121】
実施例2
前記TmXyl-GalT遺伝子を発現するトランスジェニック植物(TmXyl-GalT-12植物)を、ビオチン標識RCA(Vector Laboratories, Burlingame, California)を使用するレクチンブロッティングで選別した(前記)。MGR48トランスジェニック(対照)植物、非組換えヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素遺伝子を発現する選別トランスジェニック植物およびTmXyl-GalT-12植物のタンパク質抽出物について(高い抗キシロースおよび抗フコース活性で知られる)抗HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)ポリクローナル抗体を使用してキシロースおよびフコースの存在量を調べ比較すると、キシロースとフコースの減少がはっきりした(図34:抗-HRP)。抗HRP抗体の抗キシロース画分と抗フコース画分(各画分は適正なリガンドによるアフィニティークロマトグラフィーで調製することができる)を使用したウェスタンブロット法では、対照植物と比較して特にキシロースが減少すると判明した(図34:抗-Fucと抗-Xyl)。
【0122】
実施例3
TmXyl-GalT-12植物と1本鎖T-DNA組み込みイベントに由来するモノクローナル抗体MGR48を発現するトランスジェニック植物(MGR48-31)とを交雑し、それをまずカナマイシン耐性マーカーおよび抗体産生で分離されていない子孫植物体を分別することによりホモ接合体とした(MGR48-31-4)。MGR48-31-4の花粉を除雄TmXyl-GalT-12植物の受粉に使用した。同様に、TmXyl-GalT-12植物の花粉を除雄MGR48-31-4植物の受精に使用した。多数のF1植物について、ウェスタンブロット法でMGR48の有無を、またRCA使用のレクチンブロット法で内在性糖タンパク質のガラクトシル化を調べた(図35)。MGR48を発現し内在性糖タンパク質のガラクトシル化を示した一植物を選別してさらなる分析に回した。この植物はXGM8と命名した。
【0123】
TmXyl-GalT-12植物(♀)x MGR48-31-4植物(♂)に由来する種子をまき、F1子孫植物(XGM)について抗体産生をウェスタンブロット法で、またガラクトシル化をビオチニル化RCA120(Vector Labs., Burlingame, California)使用のレクチンブロット法で、それぞれ前述の標準手法を用いて分析した。どの植物も予想どおりモノクローナル抗体MGR48を産生したし、また大多数の植物がガラクトシル化グリカンをもつと判明した。単一植物で抗体MGR48を産生し、かつガラクトシル化N-グリカンをもつもの(XGM8)(TmXyl-GalT-12 X MGR48-31-4子孫8)を選別してさらなる分析に回した。この植物から組換えモノクローナル抗体MGR48を前述の要領で精製しMALDI-TOFによるグリカン分析に回した。
【0124】
簡単に言えば、XGM8植物を温室で栽培して至適条件[Elbers et al., Plant Physiology 126:1314 (2001)]下で抗体を産生させた。トランスジェニックXGM8植物の葉のタンパク質抽出物を調製し、プロテインGクロマトグラフィー[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]によりモノクローナル抗体を精製した。精製モノクローナル抗体のN-グリカンのMALDI-TOFはElbers et al., 2001、 supraの要領で行った。グリカン上のガラクトースの存在を、ウシ精巣β-ガラクトシダーゼを使用する酵素反応法で確認した[Bakker et al., 2001, supra; Table 2]。次のTable 2はTmXyl-GalT-12植物とrec-mAb産生植物MGR48のF1交雑種の内在性糖タンパク質(Xyl-GalT Endo)のN-グリカンと該F1交雑種に由来する(プロテインGクロマトグラフィー精製)rec-mAbのN-グリカンの質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0125】
【表2】
【表3】
【0126】
これらのデータは次のことを示す:
1. F1交雑種ではグリカンのキシロシル化とフコシル化が激減した。内在性糖タンパク質のグリカンの43%はキシロースとフコースを欠くが、野生型タバコではこれが14%止まりである。
2. このF1交雑種の精製mAbのグリカンではキシロースとフコースの含量が野生型タバコの14%に対して47%も低下している。図36のパネルB〜Dをも参照。
3. F1交雑種の内在性糖タンパク質のガラクトシル化はGalT植物での9%からF1 TmXyl-GalT X MGR48植物での37%へと増進した。図35をも参照。
4. 該F1由来の精製rec-mAb(図36のパネルA)はガラクトシル化の増進を示している(46%がガラクトース)。図36のパネルAをも参照。
【0127】
しかしながら、観測量(MALDI-TOF)は該グリコフォームのin vivoモル比を必ずしも反映するものではない。MALDI-TOFに基づく定量は試験対象の個別グリコフォーム次第で過小にも過大にもなりうる。また、GalとManには分子量差がないため、ガラクトシダーゼ処理の前後で個別分子の相対高さに明らかな差が存在しない限り、紛らわしさを伴わざるを得ないピークも出てくる。
【0128】
実施例4
キシロース、フコースおよびガラクトースの各含量のもっと直接的な比較を、ハイブリドーマ、トランスジェニックタバコおよびTmXyl-GalTトランスジェニックタバコに由来するMGR48 IgG抗体を調べることによって行った。前述のようにTmXyl-GalT-12植物とMGR48 IgG発現タバコ植物(MGR48タバコ)を交雑させて、MGR48 TmXyl-GalTをもつF1交雑種を生成した。MGR48 IgGの抽出精製のためのF1植物を選別した。該植物(タバコおよびTmXyl-GalT)由来の抗体をプロテインGクロマトグラフィーにより単離、精製した(Elbers et al., 2001, Plant Physiology 126:1314-1322)。ハイブリドーマMGR48と植物由来recMGR48各々300ngを12%SDS-PAGEゲル(BioRad)に添加して電気泳動を行った。各レーンの中身は次のとおりであった: レーン1、ハイブリドーマ由来MGR48; レーン2、通常のトランスジェニックタバコ植物由来の精製recMGR48; レーン3、TmXyl-GalTトランスジェニック植物由来の精製recMGR48。SDS-PAGEの後、CAPS緩衝液を使用してタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。ブロットにインキュベーションに使用した抗体は次のとおり: A、抗マウスIgG; B、ウサギ抗HRPポリクローナル抗体(抗キシロース/(α1,3-)フコース); C、抗キシロース; D、抗(α1,3-)フコース抗体; およびE、ビオチニル化RCA。検出は、HRP標識ヒツジ抗マウス(パネルA)またはヤギ抗ウサギ(パネルB〜D)抗体およびHRP標識ストレプトアビジン(バネルE)とのインキュベーション後に、Lumi ImagerでLumiLightを使用して行った。
【0129】
パネルAはどのレーン(1〜3)にもほぼ同量のMGR48 IgGを添加したことを示す。L、 HはMGR48 IgGの軽鎖、重鎖を指す。パネルBはレーン2(MGR48タバコ)でMGR48抗体の重鎖が予想どおり抗HRPと強く反応すること、またハイブリドーマ由来MGR48(レーン1)の重鎖は(予想どおり)そのようには反応しないことを示す。ハイブリドーマ由来抗体はキシロースおよびα1,3-フコース残基を含まない。際立つことに、TmXyl-GalTタバコ植物由来MGR48抗体もまた反応しないが、これはこの植物に由来する抗体の重鎖でN-グリカン上のキシロースおよびフコース残基量が著しく(おそらく90%以上)減少したことを示唆する。これはパネルC(抗キシロース)とパネルD(抗フコース)の実験により確認される。パネルEはハイブリドーマ由来MGR48抗体(レーン1)の重鎖がガラクトシル化N-グリカンをもつ一方でタバコ由来MGR48(レーン2)はそれをもたないことを(いずれも予想どおり)示す。TmXyl-GalT植物由来MGR48 (レーン3)の重鎖もまた、ハイブリッド酵素を発現するコンストラクトが存在するおかげで、ガラクトシル化N-グリカンをもつ。
【0130】
これらのデータは以前に示したような同様の植物(タバコおよびTmXyl-GalT-12植物)に由来する全タンパク質抽出物を使用する類似の実験で得られたデータと一致し、またタバコに導入された、TmXyl-GalT遺伝子の発現に由来する新規形質が子孫と組換えモノクローナル抗体に安定的に伝えうることを確認する。
【0131】
実施例5
前記F1交雑種のさらなる特性解明をβ-ガラクトシダーゼ処理によって行った。Table 3はTmXyl-GalT植物とMGR48植物のF1交雑種由来する(プロテインGクロマトグラフィー精製)rec-mAbのN-グリカンの、β-ガラクトシダーゼ処理前後の質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0132】
【表4】
【表5】
【0133】
これらの結果は次のことを示す:
1. F1交雑種由来のrec-mAbが含むガラクトース量はβ-ガラクトシダーゼ処理後の特定(含ガラクトース)グリコフォームの実際の減少とガラクトースを欠くグリコフォームの増加から推測しうる。m/z1622の6%から1%への実際の減少とそれと同時に見られるm/z1460の10%から14%への増加とはGalGNM5からのガラクトースの除去に伴うGNM5の生成の結果である。同じことはm/z1768 (3%から1%への減少)とそれに対応するm/z1606(4%から6%への増加)にも言える。図36のパネルEをも参照。
2. 同様に、ガラクトシダーゼ処理により、ガラクトースを含むグリカンに帰することが可能な多数のピーク特にガラクトースの存在を裏付けるm/z 1501、1647および1663が消失する。
【0134】
実施例6
別の実施態様では、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子(登録番号AF005034; マンノシダーゼII遺伝子と誤記されている!)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図37参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドマンノシダーゼIII タンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0135】
実施例7
別の実施態様では、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子(登録番号A52551)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図39参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドβ-1,4-ガラクトシル転移酵素タンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0136】
実施例8
別の実施態様では、シロイヌナズナGnTI(登録番号AJ243198)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図41参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドGnTIタンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0137】
実施例9
別の実施態様では、シロイヌナズナGnTII(登録番号AJ249274)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図43参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドGnTIIタンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0138】
実施例10
別の実施態様では、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域を、ヒトGnTI(TmhuGnTI-GalT)遺伝子のCTS領域に取り替える(図45参照)。
【0139】
本発明は特定の機構に限定されないものとする。本発明の種々の実施態様を首尾よく使用するうえで機構を理解する必要もない。にもかかわらず、ゴルジ酵素には順序立てられた分布が存在し(図47)、また植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(内)のスワッピングは再局在化を引き起こす(図48)と考えられる。
【0140】
本明細書では特定の方法論、プロトコール、細胞株、ベクターおよび試薬を開示しているが、それらは変化する可能性があり、本発明はそれらに限定されないものとする。また本明細書で使用した用語は特定の実施態様を説明するためだけに使用しており、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲では、文脈からそうでないことが明白である場合を除き、名詞の単数、複数、特定、不特定を区別しない。本明細書で使用した専門用語、学術用語はすべて、別段の記述がない限り、当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
【0141】
本明細書で開示し特許請求している発明は開示の個別実施態様に限定されない。これらの実施態様は本発明のいくつかの態様を説明するものでしかない。同等の実施態様はすべて本発明の範囲に包含されるものとする。実際、以上の説明から当業者には開示の実施態様とは別の種々の変更態様が自明となろう。そうした変更態様もまた本発明の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0142】
本明細書では種々の参考文献を引用しているが、それらは引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、N-グリカンをもつ糖タンパク質を含む細胞または生体組織特に植物のグリカンプロセシングを最適化し、もって2本鎖N-グリカンを非限定的な例とする・また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む・N-グリカン(高マンノース型、混成型または好ましくは複合型N-グリカン)をもち、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質が得られるようにする方法に関する。本発明はさらに、得られる糖タンパク質、および特に該タンパク質を含む植物宿主系に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
N-結合グリカン(すなわち糖タンパク質のアスパラギン残基に結合した特有の多糖構造)は該タンパク質の性質に、ひいては生物の性質に、大きく寄与しうる。植物タンパク質はN-結合グリカンをもちうるが、哺乳動物の場合とはきわめて対照的に、その寄与を受けている生物学的過程は少ししかわかっていない。
【0003】
N-結合グリカンの生合成は小胞体(ER)内の未完成ポリペプチド鎖に全体として転移される脂質結合オリゴ糖鎖(Glc3Man9GlcNAc2-)の合成から始まる。ERおよびシスゴルジ網区画内でのエキソグリミシダーゼによる一連のトリミング反応を通じて、いわゆる「高マンノース」型(Man9GlcNac2〜Man5GlcNAc2)グリカンが形成される。その後、複合型グリカンの形成が、GnTIによる第1 GlcNAcのMan5GlcNAc2への転移およびマンノシダーゼII(ManII)によるさらなるトリミングをもって始まる。複合型グリカンの生合成は続き、その間に糖タンパク質はゴルジ装置内でのGnTIIによる第2GlcNAc残基の、また他のいくつかの糖転移酵素の作用による他多糖残基の、GlcNAcMan3GlcNAc2への転移に伴って分泌経路を前進していく。
【0004】
植物と哺乳動物では複合型グリカンの形成が異なる(植物と哺乳動物の糖タンパク質糖化経路を比較した図1を参照)。植物では、複合型グリカンはGlcNAc-1に結合したα(1,6)-フコース残基ではなくMan-3に結合したβ(1,2)-キシロース残基および/またはGlcNAc-1に結合したα(1,3)-フコース残基の存在を特徴とする。対応するキシロシル転移酵素(XylT)およびフコシル転移酵素(FucT)をコードする遺伝子はすでに単離されている[Strasser et al., “Molecular cloning and functional expression of beta 1,2-xylosyltransferase cDNA from Arabidopsis thaliana”(シロイヌナズナからのベータ1,2-キシロシル転移酵素の分子クローニングと機能的発現) FEBS Lett. 472:105 (2000); Leiter et al., “Purification, cDNA cloning, and expression of GDP-L-Fuc: Asn-linked GlcNAc alpha 1,3-fucosyltransferase from mung beans”(マングビーンからのGDP-L-Fuc:Asn-結合GlcNAcアルファ1,3-フコシル転移酵素の精製、cDNAクローニング、発現) J. Biol. Chem. 274:21830 (1999)]。植物はβ(1,4)-ガラクトシル転移酵素もα(2,6)-シアリル転移酵素ももたない。そのため植物グリカンは哺乳動物グリカンではしばしば見られるβ(1,4)-ガラクトースも末端α(2,6)-NeuAc残基も欠く。
【0005】
最終グリカン構造は、その生合成と輸送に関与する酵素類の単なる存在だけではなく、種々の酵素的反応の特有の順序によっても大きく左右される。後者はこれらの酵素のER-ゴルジ装置領域ゴルジ網区画における離散的な隔離状態および相対位置によりコントロールされるが、そうしたコントロールを左右するのは転移酵素の運命決定因子と転移酵素が向かう先であるゴルジ網区画の個別特性との相互作用である。混成分子を使用する多数の研究により、酵素のゴルジ網区画への仕分けでは、β(1,4)-ガラクトシル転移酵素を含むいくつかの糖転移酵素の膜貫通領域が中心的な役割を果たすことがすでに解明されている[Grabenhorst et al., J. Biol. Chem. 274:3617 (1999); Colley, K., Glycobiology 7:1 (1997); Munro, S., Trends Cell Biol. 8:11 (1998); Gleeson, P.A., Histochem. Cell Biol. 109:517 (1998)]。
【0006】
植物と哺乳動物は比較的遠い昔に進化の道を異にしたが、N-結合グリカンは少なくとも部分的には保存されているように見受けられる。これを裏付けるのは類似しつつも同一ではないグリカン構造であり、また哺乳動物のGlcNAcTI遺伝子がGlcNAcTI活性を欠くシロイヌナズナ突然変異体を相補するし逆もまた真であるという事実である。グリカン構造の違いは重要な帰結を伴う可能性がある。たとえばキシロースとα(1,3)-フコースの各エピトープは場合により高免疫原性であり、アレルゲン性も疑われると判明しているが、それでは植物を利用して治療用の糖タンパク質を産生させるうえで問題となろう。しかも、数多くのアレルギー患者の血清にはこれらのエピトープに対するIgEが含まれるが、非アレルギー献血者の50%でもその血清にコア-キシロースに対して特異的な抗体が含まれるし、また25%ではコア-α(1,3)-フコースに対する抗体が含まれる(Bardor et al., 2002, in press, Glycobiology; Advance Accessが2002年12月17日付で発行)。つまり、これらの個人はフコースおよび/またはキシロースを含む植物産生組換えタンパク質による治療を受けるという危険にさらされることになる。加えて、この糖質に対する血清IgEは植物抽出物を使用したin vitro試験では偽りの陽性反応を引き起こすおそれがある。というのは、これらの糖質特異的IgEはアレルギー誘発反応には関連しないという証拠があるからである。要するに、植物産生糖タンパク質による治療の失敗はキシロースおよび/またはフコースをもつ組換え糖タンパク質の排泄が加速される結果であるかもしれない。
【0007】
従って、植物中での糖化を、特に治療への使用を意図した糖タンパク質の糖化を、一段とうまく調節することが課題である。
【発明の概要】
【0008】
定義
以下、本発明の理解の一助として、本明細書で使用する多数の用語の意味を明確にする。
【0009】
「ベクター」は、適切な調節因子と結び付いたときに複製可能でありかつ遺伝子配列を細胞中におよび/または細胞間で転移することができるプラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、レトロウイルス、ビリオンまたは類似の遺伝因子などのような任意の遺伝因子である。従ってこの用語にはクローニングおよび発現手段やウイルスベクターも含まれる。
【0010】
「発現ベクター」は、所望の単数または複数のコード配列(後述のハイブリッド酵素に対応するコード配列)と、特定宿主細胞または生物中での該コード配列の発現に必要である、該コード配列と作動可能に連結した好適な核酸配列とを含む組換えDNA分子をいう。原核細胞中での発現に必要な核酸配列は通常、プロモーター、オペレーター(随意)およびリボソーム結合部位を、しばしば他配列と共に含む。真核細胞はプロモーター、エンハンサー、および終止/ポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。本発明は、特定因子を備えた特定の発現ベクターに限定されないものとする。
【0011】
細胞に関する場合の「トランスジェニック」は導入遺伝子をもつ細胞または導入遺伝子の導入によりゲノムが変化した細胞をいう。細胞、組織または植物に関する場合の「トランスジェニック」はそれぞれ導入遺伝子をもつ細胞、組織および植物をいい、組織の1つまたは複数の細胞が導入遺伝子(本発明のハイブリッド酵素をコードする遺伝子など)をもつか、または導入遺伝子により組織のゲノムが変化している。トランスジェニック細胞、組織および植物は、人間の介入たとえば本明細書で開示する方法による核酸(通常はDNA)を含む「導入遺伝子」の標的細胞への導入または標的細胞の染色体への該導入遺伝子の組み込みなど、いくつかの方法で生成されよう。
【0012】
「導入遺伝子(トランスジーン)」は実験的操作によってある細胞のゲノム中に導入される核酸配列をいう。導入遺伝子は「内在性DNA配列」、「異種(すなわち外来)DNA配列」のいずれでもよい。「内在性DNA配列」は、被導入細胞中に天然に、すなわち天然配列への何らかの変更(たとえば点突然変異、選択マーカー遺伝子の存在、または他の類似の変更)を含むことなく、存在するヌクレオチド配列をいう。「異種DNA配列」は、天然では連結相手にならない核酸配列(または天然では別の位置に連結される核酸配列)へと連結される(または連結されるように操作される)ヌクレオチド配列をいう。異種DNAは被導入細胞には内在せず、別の細胞に由来する。異種DNAはまた、何らかの変更を含む内在性DNA配列をも包含する。必ずしもそうではないが一般的には、異種DNAは発現先の細胞では通常生成されないRNAおよびタンパク質をコードする。異種DNAの例はレポーター遺伝子、転写および翻訳調節配列、選択マーカー(たとえば薬剤耐性を付与するタンパク質など)、または他の類似因子を含む。
【0013】
「外来遺伝子」は実験的操作によりある細胞のゲノムに導入される核酸をいい、該細胞に天然に見られる遺伝子配列であっても、その被導入遺伝子が天然配列への何らかの変更(たとえば点突然変異、選択マーカー遺伝子の存在、または他の類似の変更)含む限り、外来遺伝子に含まれる。
【0014】
「融合タンパク質」は、少なくとも一部分は第1タンパク質に由来し他部分は第2タンパク質に由来するタンパク質をいう。「ハイブリッド酵素」は少なくとも一部分は第1の種に由来し他部分は第2の種に由来する機能的酵素であるタンパク質をいう。本発明の好ましいハイブリッド酵素は、少なくとも一部分は植物に由来し他部分は(人間などの)哺乳動物に由来する機能的糖転移酵素(またはその一部分)である。
【0015】
核酸の(たとえばベクターによる)「細胞への導入」または「宿主細胞への導入」は「形質転換」、「トランスフェクション」または「形質導入」と呼ばれる技術を含むものとする。細胞の形質転換は安定、一過性いずれでもよい。本発明は一方で安定発現が、また他方で一過性発現だけが、起こるような条件下でのベクターの導入を見込む。「一過性形質転換」または「一過性に形質転換した」は宿主細胞のゲノムへの導入遺伝子の組込みを伴わない、細胞への1つまたは複数の導入遺伝子の導入をいう。一過性形質転換は、たとえば1つまたは複数の導入遺伝子がコードするポリペプチドの有無を調べるELISA(固相酵素免疫法)で確認する。あるいは導入遺伝子(たとえば抗体遺伝子)がコードするタンパク質の活性(たとえば抗体の抗原との結合)を検出するとこによって確認してもよい。「一過性形質転換体」は1つまたは複数の導入遺伝子を一過性に組み込んだ細胞をいう。これに対して、「安定形質転換」または「安定的に形質転換した」は1つまたは複数の導入遺伝子の細胞ゲノムヘの導入と組込みをいう。細胞の安定形質転換は該細胞のゲノムDNAの、1つまたは複数の導入遺伝子に結合しうる核酸配列とのサザン法によるハイブリダイゼーションで確認する。あるいは該細胞のゲノムDNAのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により導入遺伝子を増幅して確認してもよい。「安定形質転換体」は1つまたは複数の導入遺伝子をゲノムDNAに安定的に組み込んだ細胞をいう。従って、安定形質転換体に由来するゲノムDNAは1つまたは複数の導入遺伝子を含むのに対して、一過性形質転換体に由来するゲノムDNAは導入遺伝子を含まないという点から、安定形質転換体と一過性形質転換体は区別される。
【0016】
「宿主細胞」は哺乳動物細胞(たとえばヒトB細胞クローン、チャイニーズハムスター卵巣細胞など)と非哺乳動物細胞(昆虫細胞、細菌細胞、植物細胞など)の両方を含む。一実施態様では、宿主細胞は哺乳動物細胞であり、本発明のハイブリッドタンパク質(TmTII-GalTなど)を発現するベクターの導入が該哺乳動物細胞中でのフコシル化を阻害(または少なくとも抑制)する。
【0017】
「着目のヌクレオチド配列」は、その操作が何らかの理由で(たとえば質を高める、治療用タンパク質の産生に役立つなど)望ましいと当業者によりみなされるようなヌクレオチド配列をいう。そうしたヌクレオチド配列は構造遺伝子(たとえばレポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、がん遺伝子、抗体遺伝子、薬剤耐性遺伝子、増殖因子など)のコード配列、およびmRNAまたはタンパク質をコードしない非コード調節配列(プロモーター配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列、エンハンサー配列など)を非限定的に含む。本発明は、1つまたは複数のハイブリッド酵素と共に着目のヌクレオチド配列がコードする異種タンパク質を発現する宿主細胞を見込む。
【0018】
「単離(した)」は「単離核酸配列」のように核酸に関連する場合には、同定され、天然ソース中で通常結合している1つまたは複数の成分(たとえば該核酸を含む細胞、1以上の汚染物質としての核酸、または1つまたは複数のタンパク質、または1つまたは複数の脂質)から分離された核酸をいう。単離核酸は天然形態または環境とは異なる形態または環境にある核酸である。それに対して非単離核酸は天然に存在する状態で見られるままのDNAやRNAなどの核酸である。たとえば任意のDNA配列(遺伝子など)は宿主細胞の染色体上では近隣遺伝子と近接して存在するし、また特定のタンパク質をコードする特異的mRNA配列などのようなRNA配列は様々なタンパク質をコードする数多くの他mRNA配列との混合物として細胞中に存在する。しかし、SEQ ID NO:1を含む単離核酸配列はたとえば、天然細胞の染色体上または染色体外の位置に存在するかまたは天然の場合とは異なる核酸配列を伴うSEQ ID NO:1を通常は含むような細胞中の核酸配列を包含する。単離核酸配列は1本鎖でも2本鎖でもよい。単離核酸配列をタンパク質の発現に利用するときは、該核酸配列はセンス鎖またはコード鎖の一部を少なくとも含むことになろう(すなわち該核酸配列は1本鎖となろう)。あるいはセンス鎖とアンチセンス鎖を共に含んでもよい(すなわち該核酸配列は2本鎖となろう)。
【0019】
「精製(した)」は天然環境から移動し、単離しまたは分離した核酸配列またはアミノ酸配列の分子をいう。従って「単離核酸配列」は精製核酸配列である。「実質的(に)精製(した)」分子は、自然環境では結合している他成分を60%以上、好ましくは75%以上、またなお好ましくは90%以上排除している。本発明は精製体(実質的精製体を含む)、非精製体のハイブリッド酵素(下文で詳述)を共に見込む。
【0020】
「相補(的)」または「相補性」は塩基対合則に基づくヌクレオチド配列間の関係をいう。たとえば配列5’-AGT-3’は配列5’-AGT-3’と相補的である。相補性は「部分(的)」でも「(完)全」でもよい。部分相補性は1つまたは複数の塩基が塩基対合則に基づく対を形成しない場合である。核酸間の「(完)全」相補性はどの塩基もみな塩基対合則に基づいて別の塩基と対をなす場合である。核酸鎖間の相補性の度合いは核酸鎖間のハイブリダイゼーション効率および強度に著しい影響を及ぼす。
【0021】
ある核酸配列の「相補体」はその核酸配列と完全相補性を示すような核酸配列ほいう。たとえば本発明はSEQ ID NO: 1、3、5、9、27、28、29、30、31、32、33、34、35、37、38、40、41および43の相補体を見込む。
【0022】
核酸の「相同性」は相補性の度合いをいう。「部分相同性(すなわち部分同一性」)もあれば「完全相同性(完全同一性)」もあろう。部分相補配列は標的核酸との完全相補配列型のハイブリダイゼーションを少なくとも部分的に阻害するような配列であり、そうした配列は「実質的(に)相同(な)」という。標的核酸との完全相補配列型のハイブリダイゼーションの阻害は低ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーション試験(サザンまたはノーザン法、溶液ハイブリダイゼーション法など)によって調べられる。実質的に相同な配列またはプローブ(すなわち別の着目オリゴヌクレオチドとハイブリダイズしうるようなオリゴヌクレオチド)は低ストリンジェンシー条件下では完全相同配列と標的核酸との結合をめぐって競合しその結合を阻害しよう。これは、低ストリンジェンシー条件では非特異的結合が許容されるという意味ではない。低ストリンジェンシー条件下でも両配列相互の結合は特異的(すなわち選択的)相互作用である。非特異的結合の不存在は、相補性の度合いが低い(たとえば同一性が約30%未満の)第2標的を使用して試験することができる(非特異的結合が存在しなければ、プローブは第2の非相補的標的にハイブリダイズしない)。
【0023】
「実質的(に)相同(な)」はcDNAまたはゲノムDNAクローンなどのような2本鎖核酸配列に関する場合には、下文で述べる低ストリンジェンシー条件下で該2本鎖核酸配列の一方または両方の分子鎖に対してハイブリダイズしうる任意のプローブをいう。
【0024】
「ハイブリダイゼーション」は「核酸分子鎖が塩基対合により相補鎖と結び付く任意の過程」[Coombs J(1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York, NY] を含む。ハイブリダイゼーションとハイブリダイゼーション強度(すなわち両核酸間の会合の強度)は両核酸間の相補性の度合い、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、および核酸内のC:G比などのような因子に左右される。
【0025】
「Tm」は融解温度であり、融解温度は2本鎖核酸分子が1本鎖へと解離する際の変性中間点である。核酸のTmを求める公式は技術上周知である。標準参考書によれば、核酸が1M NaCl水溶液中にある場合にはTmの単純推計値は式Tm =81.5+0.41 (% G+C)により求められる[たとえばAnderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照]。他に構造および配列特性を勘案したもっと精密なTm計算法を収めた参考書もある。
【0026】
核酸ハイブリダイゼーションでの低ストリンジェンシー条件は、約100〜1000ヌクレオチド長のプローブを使用する場合には、5X SSPE(生理食塩水、リン酸ナトリウム、EDTA)[43.8g/l NaCl, 6.9g.l NaH2PO4・H2Oおよび1.85g/l EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、NaOHでpHを7.4に調整]、0.1% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、5Xデンハルト試薬[50Xデンハルト試薬500mlあたりの含有成分は次のとおり: 5g Ficoll(Type 400, Pharmacia)、5g BSA(ウシ血清アルブミン)(Fraction V; Sigma)]および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中、68℃での結合またはハイブリダイゼーションとそれに続く0.2X〜2.0X SSPEと0.1% SDSとを含む溶液による室温での洗浄に相当する条件を含む。
【0027】
核酸ハイブリダイゼーションでの高ストリンジェンシー条件は、約100〜1000ヌクレオチド長のプローブを使用する場合には、5X SSPE、1% SDS、5Xデンハルト試薬および100μg/ml変性サケ精子DNAからなる溶液中、68℃での結合またはハイブリダイゼーションとそれに続く0.1X SSPEと0.1% SDSとを含む溶液による68℃での洗浄に相当する条件を含む。
【0028】
あるハイブリダイゼーション条件について着目のハイブリダイゼーション条件との関連で「相当の、相当する」というのは、該ハイブリダイゼーション条件と着目のハイブリダイゼーション条件が同じ相同性%範囲の核酸配列のハイブリダイゼーションをもたらすことを意味する。たとえば着目のハイブリダイゼーション条件が、第1核酸配列と、該第1核酸配列との相同性が50%〜70%である他核酸配列とのハイブリダイゼーションをもたらすとき、別のハイブリダイゼーション条件もまた第1核酸配列と、該第1核酸配列との相同性が50%〜70%である他核酸配列とのハイブリダイゼーションを同様にもたらすならば、このハイブリダイゼーション条件は着目のハイブリダイゼーション条件に相当するという。
【0029】
当業者には自明であるが、核酸ハイブリダイゼーションに関しては低、高いずれのストリンジェンシー条件でも多数の相当条件がありうる。プローブの長さや性格(DNA、RNA、塩基組成)、標的の性格(DNA、RNA、塩基組成、液相、固相)、塩や他成分の濃度(ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの有無など)といった因子を考慮しながらハイブリダイゼーション液を加減して、前記条件とは異なるが、それに相当するような低または高ハイブリダイゼーション条件を生成するようにしてよい。
【0030】
「プロモーター」、「プロモーターエレメントまたは「プロモーター配列」は、着目のヌクレオチド配列に連結されると該着目ヌクレオチド配列のmRNAへの転写を調節しうるようになるDNA配列をいう。必ずしもそうではないが一般にプロモーターは、そのmRNAへの転写を調節することになる着目ヌクレオチド配列の5’側(すなわち上流側)に位置し、また転写開始用に、RNAポリメラーゼや他の転写因子の特異的結合部位を提供する。
【0031】
プロモーターは組織特異的でも細胞(型)特異的でもよい。「組織特異的]プロモーターは着目ヌクレオチド配列の選択的発現を特定タイプの組織(たとえば花弁)に導き、他タイプの組織(たとえば根)ではあまり発現が見られないようにしうるプロモーターをいう。プロモーターの組織特異性の評価は、たとえば該プロモーターにレポーター遺伝子を作動可能に連結してレポーターコンストラクトを生成させ、該レポーターコンストラクトを植物のゲノム中に導入して、該レポーターコンストラクトが、生成するトランスジェニック植物のあらゆる組織に組み込まれるようにし、最後に該トランスジェニック植物の種々の組織でのレポーター遺伝子の発現を検出する(たとえば該レポーター遺伝子に対応するmRNA、タンパク質、またはタンパク質活性を検出する)ことによって行う。レポーター遺伝子の発現が1つまたは複数の組織で多組織と比較した場合よりも高レベルで検出されれば、該プロモーターは高レベルの発現が検出された組織に対して特異的であることになる。「細胞(型)特異的」プロモーターは着目ヌクレオチド配列の選択的発現を特定タイプの細胞に導き、同じ組織内の他タイプの細胞ではあまり発現が見られないようにしうるプロモーターをいう。「細胞(型)特異的」プロモーターはまた、単一組織内のある領域での着目ヌクレオチド配列の選択的発現を促進しうるプロモーターをいう。プロモーターの細胞(型)特異性の評価は技術上周知の方法、たとえば免疫組織化学的染色法によって行うことができる。簡単に言えば、組織切片をパラフィンに包埋し、パラフィン切片を、該プロモーターによって発現を支配される着目ヌクレオチド配列がコードするポリペプチド生成物に対して特異的である一次抗体と反応させる。該一次抗体に対して特異的な標識(たとえばペルオキシダーゼ結合)二次抗体を切片化した組織に結合させて、(たとえばアビジン/ビオチンの)特異的結合を顕微鏡で検出する。
【0032】
プロモーターは構成的でも調節性でもよい。「構成的」プロモーターは、刺激(熱衝撃、化学薬品、光または同種の刺激)が存在しない中で作動可能に連結された核酸配列の転写を支配することができるプロモーターをいう。一般に構成的プロモーターはほぼ任意の細胞および任意の組織で導入遺伝子の発現を支配することができる。他方、「調節性」プロモーターは、刺激(熱衝撃、化学薬品、光または同種の刺激)が存在する中で、作動可能に連結された核酸配列の、該刺激が存在しない中での転写レベルとは転写レベルを支配することができるプロモーターである。
【0033】
細菌による「感染」は標的生物試料(細胞、組織、植物の一部分など)と細菌との同時培養により、該細菌に含まれる核酸配列が該標的生物試料の1つまたは複数の細胞中に導入されるようにすることをいう。
【0034】
「アグロバクテリア」はクラウンゴールを引き起こす植物病原性のグラム陰性土壌桿菌をいう。「アグロバクテリア」は菌株Agrobacterium tumefaciens(一般に感染植物にクラウンゴールを引き起こす)と菌株Agrobacterium rizhogens(感染宿主細胞に毛根病を引き起こす)を非限定的に含む。植物細胞はアグロバクテリアに感染すると一般に感染細胞によりオピン類(ノパリン、アグロピン、オクトピンなど)が産生される結果となる。そこで、ノパリンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株LBA4301、C58、A208など)は「ノパリン型」アグロバクテリアといい、オクトピンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株LBA4404、Ach5、B6など)は「オクトピン型」アグロバクテリアといい、またアグロピンを産生させるアグロバクテリア菌株(菌株EHA 105、EHA101、A281など)は「アグロピン型」バクテリアという。
【0035】
「衝撃導入」、「衝撃」および「パーティクルガン」法は標的生物試料(細胞、組織、植物の部分―葉など―、またはインタクトな植物)に向けて粒子を加速して、生物試料中の細胞膜を損傷する、および/または標的細胞試料への粒子の導入をはかるようにする方法をいう。パーティクルガン法は技術上周知であり(米国特許第5,584,807号および第5,141,131号明細書など; その内容は参照により本明細書に組み込まれる)、市販システムもある[ヘリウムガス圧式マイクロプロジェクタイル加速器PDS-1000/He(BioRad)など]。
【0036】
植物組織に対する「マイクロ損傷」法は該組織への微小損傷の導入をいう。マイクロ損傷法は前記の粒子衝撃法で実現してもよい。本発明は特に、マイクロ損傷法による核酸導入を見込む。
【0037】
「生物」は諸々の生物をいい、特にN-結合グリカンをもつ糖タンパク質を含む生物をいう。
【0038】
「植物」は、植物の任意の成長段階に存在する構造へと概ね分化した複数の細胞をいう。そうした構造は果実、シュート、茎、根、葉、種子、花弁または類似の構造を非限定的に含む。「植物組織」は、根、シュート、葉、花粉、種子、腫瘍組織、及び種々の培養細胞(単細胞、プロトプラスト、胚、カルス、プロトコーム状球体、および他種細胞)などを非限定的に含む分化した植物組織および未分化の植物組織をいう。植物組織は植物体内の組織でも、器官培養、組織培養または細胞培養中の組織でもよい。同様に、「植物細胞」は培養中の組織でも、植物の一部分でもよい。
【0039】
糖転移酵素は糖タンパク質上のオリゴ糖を含む細胞オリゴ糖の構造を決定するプロセシング反応の触媒酵素である。「糖転移酵素」はマンノシダーゼを、たとえそれがグリカンをトリミングし単糖を「転移」しない酵素であるにもかかわらず、含むものする。糖転移酵素はII型膜タンパク質配向の特徴を共有する。各糖転移酵素を構成するのはアミノ末端の細胞質尾部(下記の配列で、説明のため恣意的にXで表示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)、細胞膜を貫くシグナルアンカー配列(本明細書では「膜貫通ドメイン」という)(下記の配列で、Hで表示した疎水性アミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではないし、また疎水性アミノ酸だけで構成されることを示唆するものでもない)、それに続く内腔ステム(luminal stem)(下記の配列で、恣意的にSで示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)またはストーク領域(stalk region)、およびカルボキシル末端の触媒ドメイン(下記の配列で、恣意的にCで示したアミノ酸列−この領域の実際のサイズを示唆するものではない)である:
NH2-XXXXXXHHHHHHHHSSSSSSSSCCCCCCCC
【0040】
全体として、細胞質尾部-膜貫通ドメイン-ステム(CTS)領域(上記配列の下線で明示した部分)は(またはそのうちの部分は)、本発明で見込まれる実施態様に使用することができるが、その場合、上記の触媒ドメインは他分子由来の対応する触媒ドメインと交換または「スワップ」してハイブリッドタンパク質を作製する。
【0041】
本発明はたとえば好ましい実施態様では、ハイブリッド酵素をコードする核酸(ならびにそうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含む細胞、およびハイブリッド酵素自体)を見込むが、該ハイブリッド酵素は第1糖転移酵素(たとえば植物糖転移酵素)のCTS領域の少なくとも一部分[たとえば細胞質尾部(“C”)、膜貫通ドメイン(“T”)、細胞質尾部+膜貫通ドメイン(“CT”)、膜貫通ドメイン+ステム(“TS”)、または全CTS領域]と第2糖転移酵素(たとえば哺乳動物糖転移酵素)の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含む。そうした実施態様を作製するには、全CTS領域(またはその一部分)に対応するコード配列を哺乳動物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、植物糖転移酵素の全CTS領域(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。他方、この実施態様の作製には別のアプローチもある。たとえば全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列を植物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、哺乳動物糖転移酵素の全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部、植物糖転移酵素の膜貫通ドメインおよび植物糖転移酵素のステム領域までの連結は野生型植物酵素の通常の形になるが、ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメイン(またはその一部分)に連結されよう。
【0042】
本発明は以上2つのアプローチに限定されないものとする。他の変法も見込まれる。たとえば植物糖転移酵素の膜貫通ドメインの少なくとも一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を作製するには、CTS領域に対応する全コード配列を使用するには及ばない(たとえば植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン、または完全な細胞質尾部+膜貫通ドメインの全部または一部、または完全な細胞質尾部+膜貫通ドメインの全部+ステム領域の一部だけを使用して済む)かもしれない。哺乳動物の全細胞質尾部に対応するコード配列と膜貫通ドメイン(またはその一部)に対応するコード配列とを削除し、対応する植物糖転移酵素のコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素は哺乳動物糖転移酵素のステム領域を植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(またはその一部分)に連結し、さらに該ドメインを植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部に連結し、該ステム領域に哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインを連結することになろう(すなわち4領域/ドメインのうち2つは植物に、2つは動物に、それぞれ由来しよう)。
【0043】
本発明は他の実施態様ではハイブリッド酵素をコードする核酸(ならびにそうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含む宿主細胞、および宿主細胞を含む植物または植物の部分)を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部の少なくとも一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインの少なくとも一部分とを含む。この実施態様では、該核酸によってコードされるハイブリッド酵素は他の植物配列(たとえば膜貫通ドメインまたはその一部分、ステム領域またはその一部分)を含むことも含まないこともあろう。たとえばそうした実施態様を作製するには、全細胞質尾部(またはその一部分)に対応するコード配列を哺乳動物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、植物糖転移酵素の全細胞質尾部(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部(またはその一部分)が哺乳動物糖転移酵素の膜貫通ドメインに連結され、該ドメインは哺乳動物糖転移酵素のステム領域に連結され、該ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメインに連結されよう。他方、この実施態様の作製には別のアプローチもある。たとえば全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列を植物糖転移酵素に対応するコード配列から削除し、哺乳動物糖転移酵素の全触媒ドメイン(またはその一部分)に対応するコード配列に取り替えてもよい。そうした場合には、生成するハイブリッド酵素では植物糖転移酵素のアミノ末端細胞質尾部、植物糖転移酵素の膜貫通ドメインおよび植物糖転移酵素のステム領域までの連結は野生型植物酵素の通常の形になるが、ステム領域は哺乳動物糖転移酵素の触媒ドメイン(またはその一部分)に連結されよう。
【0044】
上文中、「またはその一部分」という語句を使用したのは特定の場合には全領域/ドメインに満たない部分(たとえば断片)が使用されることもあることを明示するためである。たとえば糖転移酵素の細胞質尾部は個別転移酵素次第で鎖長がアミノ酸5〜50個程度、もっと一般的には15〜30個程度である。細胞質尾部の「一部分」の長さは本明細書ではアミノ酸が4個以上、「(該領域/ドメインの完全長)マイナス(アミノ酸1個)」以下である。該部分は完全長の領域/ドメインと同様に機能するのが望ましいが、同程度に機能する必要はない。たとえば完全長の細胞質尾部がゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能する限りで、前記の実施態様に使用される部分も完全長の領域ほど効率的ではないにせよ、またゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能するのが望ましい。
【0045】
同様に、膜貫通ドメインは一般に鎖長がアミノ酸15〜25個であり、主に疎水性アミノ酸からなる。膜貫通ドメインの「一部分]の長さは本明細書ではアミノ酸10個以上、「(該領域/ドメインの完全長)マイナス(アミノ酸1個)」以下である。該部分は完全長の領域/ドメインと同様に機能するのが望ましいが、同程度に機能する必要はない。たとえば完全長の膜貫通ドメインが主ゴルジ装置残留領域または主ER残留シグナルとして機能する限りで、前記の実施態様に使用される部分も完全長の領域ほど効率的ではないにせよ、またゴルジ装置残留領域またはER残留シグナルとして機能するのが望ましい。本発明は特に、野生型膜貫通ドメインまたはその一部分の変種の創製を目的とした同類置換を見込む。たとえば本発明は野生型配列の1つまたは複数の疎水性アミノ酸(前記配列中Hで示したアミノ酸)の、1つまたは複数の異なるアミノ酸、おそらくやはり疎水性のアミノ酸による置換を見込む。
【0046】
触媒ドメインの一部分の長さは「該ドメインの完全長マイナスアミノ酸1個」以下である。触媒ドメインがベータ1,4-ガラクトシル転移酵素に由来する場合には、該部分は、オリゴ糖受容体の結合部位を付与するコンフォメーションに関係すると考えられている残基345〜365を少なくとも含むのが好ましい(該部分は少なくともこの領域を、また適正なコンフォメーションを許容するうえで両側に5〜10個のアミノ酸を、含むのが好ましい)。
【0047】
本発明はまた、合成CTS領域およびその部分を含む。CTS領域の「一部分]は全CTS領域に満たない全ドメイン(たとえば全膜貫通ドメイン)をすくなくとも1つ含まなければならない(し、そうしたドメインを複数含んでよい)。
【0048】
重要なことには、「CTS領域」または「膜貫通ドメイン」という用語を使用しても野生型配列だけを見込むものではない。本発明は天然の糖転移酵素および糖化酵素に限定されるものではなく、同様の機能を示す合成酵素の使用を含む。一実施態様では、野生型ドメインが(たとえば欠失、挿入、置換等による)変化を受けている。
最後に、特定のハイブリッドを指すときに(たとえばTmXyl-のように)指標「Tm」を使用することで、全膜貫通/CTSドメインとその部分が(どちらについても野生型配列への変化の有無を問わず)包摂されるものとする。
【0049】
本発明の要約
本発明はハイブリッド酵素(または「融合タンパク質」)をコードする(DNAまたはRNAの)核酸、そうした核酸を含むベクター、そうしたベクターを含み該ハイブリッド酵素を発現する(植物組織および全植物中の細胞を非限定的に含む)宿主細胞、および該ハイブリッド酵素自体の単離体を見込む。一実施態様では、該ハイブリッド酵素(または「融合タンパク質」)の発現は、所期のグリコフォームの集積を妨げるキシロース、フコース、LewisA/B/Xまたは他の糖鎖構造などのような糖鎖の減少を非限定的に含む糖化の変化を招く。一実施態様では、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は(植物糖転移酵素を非限定的に含む)糖転移酵素のCTS領域(またはその一部分)と非植物(たとえば哺乳動物、魚類、両生類、および菌類)糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。CTS領域(またはその一部分)は発現時には触媒領域(またはその一部分)に(作動可能な組合せとして)(直接または間接に)連結されているのが好ましい。該連結は共有結合であるのが好ましく、また該組合せは触媒領域が触媒機能を示すという意味で(たとえその触媒機能が野生型酵素と比較して低下しているとはいえ)作動可能である。該連結が直接的なのは介在するアミノ酸または他領域/ドメインが存在しない場合である。他方、介在するアミノ酸(または他化学基)および/または領域/ドメインが存在する場合には間接的な連結となる。もちろん前記ハイブリッド酵素をコードする核酸の作製に使用する核酸は物理的な配列(たとえばゲノムDNA、cDNAなど)から酵素的に獲得することができるし、また遺伝子配列情報(電子またはハードコピー配列情報など)を手引きとして使用して合成することもできる。
【0050】
特定の実施態様で、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素の膜貫通領域(たとえば少なくとも膜貫通領域と随意にCTS領域のうちの追加部分)と非植物(たとえば哺乳動物)糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。この場合もまた、これらの領域は発現時に作動可能な組合せとして(直接または間接に)連結されているのが好ましい。さらに別の実施態様で、本発明はハイブリッド酵素をコードする核酸を見込むが、該ハイブリッド酵素は植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(またはその一部分)と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とを含む。この場合も、これらの領域は発現時に作動可能な組合せとして(直接または間接に)連結されているのが好ましい。
【0051】
本発明は特定の転移酵素に限定されないものとする。植物糖転移酵素は一実施態様ではN-アセチルグメコサミニル転移酵素であり、別の実施態様ではフコシル転移酵素である。哺乳動物転移酵素は好ましい実施態様ではヒト・ガラクトシル転移酵素(たとえば膜貫通ドメインをコードするヌクレオチドを削除し取り替えてあるSEQ ID NO:1がコードするヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素)である。
【0052】
本発明は植物由来の糖転移酵素CTSドメインおよびヒト糖転移酵素触媒ドメインの使用に限定されず、またその逆や糖転移酵素の任意のCTSドメインと少なくとも1つの他糖転移酵素の触媒断片との併用に限定されないものとする。実際、本発明は一実施態様ではハイブリッド酵素をコードする核酸を広く見込むが、該ハイブリッド酵素は第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖転移酵素の触媒領域とを含む。該第1および第2糖転移酵素は異なる種に由来する(し、また異なる属に、さらには異なる門に、由来してもよい)。一実施態様では第1糖転移酵素は植物糖転移酵素である。該植物糖転移酵素は、別の実施態様ではキシロシル転移酵素であり、さらに別の実施態様ではフコシル転移酵素である。第2糖転移酵素は好ましい実施態様では哺乳動物糖転移酵素である。該哺乳動物糖転移酵素は特に好ましい実施態様ではヒト・ガラクトシル転移酵素である。
【0053】
本発明は第1および第2糖転移酵素がそれぞれ植物由来、非植物由来であるという事情に限定されないものとする。一実施態様では該第1糖転移酵素は第1哺乳動物の糖転移酵素であり、該第2糖転移酵素は第2哺乳動物の糖転移酵素である。好ましい実施態様では第1哺乳動物の糖転移酵素は非ヒト糖転移酵素であり、第2哺乳動物の糖転移酵素はヒト糖転移酵素である。
【0054】
本発明はベクターの種類に限定されないものとする。本発明は一実施態様で前記ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターを見込む。
【0055】
本発明はまた宿主細胞の種類に限定されないものとする。多様な原核および真核宿主細胞がタンパク質発現用に市販されている。本発明は一実施態様で、前記ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターを(他のベクター、または他のハイブリッド酵素または糖転移酵素をコードする他の核酸と共に、またはそれらを伴わずに)導入した宿主細胞を見込む。好ましい実施態様では該宿主細胞は植物細胞である。本発明は特に好ましい実施態様でそうした宿主細胞を含む植物を見込む。
【0056】
本発明は、本発明のハイブリッド酵素を発現させるようにするための宿主細胞の作製方法に限定されないものとする。本発明は一実施態様で、次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi)とii) とを用意するステップ−i)宿主細胞(培養中の、また植物組織の一部としての、またはインタクトな成長途上の植物の一部としての、植物細胞など)およびii)植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば膜貫通ドメイン)と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; およびb)該発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップを含む方法−を見込む。この場合もまた、本発明は特定の転移酵素に限定されないものとする。一実施態様では、前記の方法に使用される植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である。別の実施態様では植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である。別の実施態様では植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である。好ましい実施態様では、前記の方法に使用される哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である(たとえば膜貫通ドメインをコードするヌクレオチドを削除し取り替えてあるSEQ ID NO:1がコードするヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素)(または単に、触媒ドメインまたはその一部分をコードするSEQ ID NO:1のヌクレオチドを取り出し、植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分に連結する)。
【0057】
本発明は、前記のハイブリッド酵素を使用して異種タンパク質の糖化をコントロールするための特定のスキームに限定されないものとする。一実施態様で、本発明は次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi)、ii) およびiii)を用意するステップ−i)宿主細胞(植物細胞など)、ii)第1(植物など)の糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば膜貫通ドメイン)と第2(哺乳動物など)の糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む第2発現ベクター; およびb)該第1および第2発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップを含む方法−を見込む。あるいはハイブリッド酵素(類)と異種糖タンパク質の両方をコードする核酸を含むベクターを使用してもよい。どちらの方法を使用するかにかからわず、本発明は一実施態様で異種タンパク質の単離という追加ステップc)を、また組成物としての単離タンパク質自体を、見込む。
【0058】
他方、本発明はまた種々のベクターの種々の植物細胞(培養中の、また植物組織の一部としての、またはインタクトな成長途上の植物の一部としての、植物細胞など)への導入を見込む。本発明は一実施態様で、次のステップa)とステップb)とを含む方法−すなわちa) 次のi) およびii)を用意するステップ−i)植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえばN末端の最初のアミノ酸約40〜60個)と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素(またはハイブリッド酵素類)をコードする核酸を含む第1発現ベクターを含む第1植物、およびii)異種糖タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む第2発現ベクターを含む第2植物; およびb)該第1および第2植物を交雑して該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質とを発現する子孫を生み出すステップを含む方法−を見込む。もちろんそうした子孫は隔離し、成長させ、各(または両)タンパク質の有無を調べることができる。それどころか、該異種タンパク質は(一般にまず植物細胞材料を実質的に含まないよう精製したうえで)病気の治療予防のために治療的に使用する(たとえば人間または動物に経口、静脈内、経皮的に、または他の経路で、投与する)ことができる。
【0059】
本発明は特定の異種タンパク質に限定されないものとする。一実施態様では、宿主細胞(または生物)に内在しない任意のペプチドまたはタンパク質が見込まれる。一実施態様では異種タンパク質は抗体又は抗体断片である。特に好ましい実施態様では、抗体は植物中で高収率に発現されるヒト抗体または「ヒト化」抗体である。「ヒト化」抗体は一般に非ヒト(たとえばげっ歯類)抗体から、該非ヒト抗体の超可変領域(いわゆるCDR)を取り出し、それをヒト・フレームワークに「移植」することによって調製される。これは(配列が判明している限りで)全体を合成プロセスとすることができるし、フレームワークは一般的なヒト・フレームワークを収めたデータベースから選択することができる。フレームワーク配列を組み換えるかCDRを組み換えるかしない限り、合成プロセスの途中でアフィニティーが低下することも多い。実際、CDRを(たとえばランダム化法によって)系統的に変化させ試験するとアフィニティーの増大を示すことができる。
【0060】
本発明は異種タンパク質との関連で特に有用であるものの、一実施態様では内在性タンパク質(すなわち宿主細胞または生物が通常発現するタンパク質)の糖化を変化させるために、本発明のハイブリッド酵素を使用する。
【0061】
本発明は特に植物自体を見込む。一実施態様では本発明は、第1および第2発現ベクターを含む植物を見込むが、該第1発現ベクターは植物糖転移酵素のCTS領域の少なくとも一部分(たとえば細胞質尾部+膜貫通ドメインの少なくとも一部分)を含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、また該第2発現ベクターは異種タンパク質(またはその一部分)をコードする核酸を含む。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してα1,3-フコシル化の(10%〜99%)低減(または無フコシル化)を示す。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してキシロシル化の(10%〜99%)低減(または無キシロース)を示す。好ましい実施態様では、異種タンパク質は本発明のハイブリッド酵素(類)と共に発現するため、ハイブリッド酵素(類)を伴わずに該植物中で発現する場合と比較してフコースとキシロースの両方が減少する。
【0062】
本発明はフコースおよび/またはキシロースの減少に関する特定の理論に限定されないものとする。植物ゴルジ装置のタンパク質選別機構はあまりよく分かっていない。哺乳動物特有のβ(1,4)-ガラクトシル転移酵素(GalT)は植物では通常見られないグリカン構造を生成するため、この現象を研究するための優れた最初のマーカーとして使用された。ガラクトシル転移酵素を発現する植物のグリカン構造が、CTSドメインを植物キシロシル転移酵素のそれ(またはその一部分)と取り替えたキメラ・ガラクトシル転移酵素を発現する植物に由来するグリカン構造と比較された。観測グリカン構造中の変化は、ガラクトシル転移酵素が哺乳動物の場合と同様に植物ゴルジ装置の特定区画に局在することを示す。本発明を特定の機構に限定するものではないが、植物と哺乳動物の選別機構は明らかに保存されており、植物には未知のグリコシル転移酵素がゴルジ装置内の特定の類似位置に送られるほどである。この位置はゴルジ装置内にあって、内在性のキシロシル-、フコシル-およびGlcNAcTII(GnTII)の各転移酵素が確認される位置よりも後期のほうになる。
【0063】
GalTの再局在化変種を発現するこれらの植物中のN-グリカンのキシロースおよびフコース含量が著しく少ないという所見はバイオテクノロジーにも関連してくる。人間など哺乳動物の治療への使用を意図した糖タンパク質に関しては、本発明のある種の実施態様のアプローチは植物中の糖タンパク質のN-結合糖化をコントロールして、キシロースとフコースを実質的に含まず、少なくとも2本鎖N-グリカン(ただし2本鎖に限らず3本鎖などのグリカンも含む)と該N-グリカンの少なくとも1本のアーム上の(少なくとも1つの)ガラクトース残基とを含む糖タンパク質が得られるようにする方法および組成物を提供する。従って、本発明は2本鎖N-グリカンに限定されず、バイセクト型の2本鎖N-グリカン、3本鎖N-グリカンなどを含むものとする。さらに、本発明は複合型N-グリカンに限定されず、混成型N-グリカンや他タイプのN-グリカンをも含むものとする。本発明はそうした生成糖タンパク質類を見込む。さらに、本発明の方法および組成物は植物および非植物系に対し、キシロース、フコースのほかにLewisA/B/X型N-グリカン組換え(β1-3-GalT, α1-4-FucTなど)または他の糖が所期のグリコフォームの集積を妨げるような場合に適用することができよう。
【0064】
一実施態様では、本発明は植物のN-結合糖化の、ゴルジ装置でのグリカン生合成に関与する酵素類の局在化を調節することによるコントロールに関する。特に本発明の実施態様は、2本鎖N-グリカンを非限定的な例とする・また少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む・N-グリカン(高マンノース型、混成型または好ましくは複合型N-グリカン)をもち、かつキシロースおよびフコース残基を欠く(または少なくした)糖タンパク質を植物宿主系内で生成させる方法であって、(a)該糖タンパク質のグリカンのコア構造へのキシロースおよびフコースの付加を防止(または阻害)するステップ、および(b)該アームに1個の、または好ましくは2個のガラクトース残基を付加するステップを含む方法に関する。
【0065】
該異種タンパク質へのキシロースおよびフコースの付加は、タンパク質特に植物キシロシル転移酵素などの酵素のCTS領域(またはその一部分)と植物中には通常見られないガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を該植物宿主系に導入して、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該ガラクトシル転移酵素よりも初期に作用するようにすることにより、減少させ、または防止することができる。ガラクトシル転移酵素は哺乳動物ガラクトシル転移酵素、特にヒト・ガラクトシル転移酵素であるのが好ましい。最も具体的な実施態様では、該ガラクトシル転移酵素はヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)である。XylT、FucT、GnTI、GuTII、GnTIII 、GnTIV、GnTV、GnTVI、ManI、ManIIおよびManIII を含むゴルジ装置内でガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する酵素群のうちの1つによる、哺乳動物糖転移酵素(ガラクトシル転移酵素など)のCTS領域またはCTS断片の交換は、好ましくないキシロースおよびフコース残基を含むグリカンの量を大幅に減少させる結果となる(図2)。加えて、ガラクトシル化が改善し、またグリカン類の雑多性が緩和される。特定の機構に限定されものではないが、キシロースもフコースも含まないガラクトシル化グリカンの増加は主にGlaGNMan5、GNMan5またはGalGNMan4の集積に起因すると考えられる。またガラクトシル化は1本のグリカンアーム上でだけ起こる。ゴルジ装置内での初期のガラクトシル化は明らかに、マンノシダーゼII(ManII)による該グリコフォーム類のGalGNMan3へのトリミングを阻害する。GlcNAcTII(GnTII)による第2 GlcNAcの付加もまた阻害される。
【0066】
従って一実施態様では、両アームをガラクトシル化しながらもキシロースとフコースを基本的に欠くような所期の糖タンパク質を獲得するためのさらなるステップが見込まれる。たとえば一実施態様では、前述ような本発明の方法は、該糖タンパク質のアームにガラクトース残基を付加するステップをさらに含む(図3を参照)。本発明の一実施態様では、(a)GnTIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列; (b)GnTIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(c) XylTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とヒト・ガラクトシル転移酵素の活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素(TmXyl-GalT)をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が両アームに付加される。本発明の別の実施態様では、(a)ManIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列; (b)ManIのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とGnTIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(c) ManTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とManIIの活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(d)XylTのCTS領域(または膜貫通ドメインを含むような断片)とヒト・ガラクトシル転移酵素の活性ドメイン(またはその一部分)とを含む第4ハイブリッド酵素(TmXyl-GaT)をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)、(d)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が両アームに付加される。
【0067】
本発明は単一の細胞、組織または植物に使用されるハイブリッド酵素の特定の組合せまたはそうしたハイブリッド酵素の数に限定されないものとする。好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalT プラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIを発現する宿主細胞を見込む。本発明の一実施態様では、(a)タンパク質特に[N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む]酵素のCTS領域(またはその断片)とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用するようにした核酸、および(b)N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用するようにした核酸、以上(a)、(b)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。N-アセチルグルコサミニル転移酵素またはマンノシダーゼIIもしくは該膜貫通断片をコードする配列は植物から、または非植物真核生物(哺乳動物など)から、生成させることができる。
【0068】
さらに別の実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスTmManI-GnTIプラスTmManI-ManIIプラスTmManI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。本発明の別の実施態様では、(a)タンパク質特に[マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む]酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該タンパク質または酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)よりも初期に作用するようにした核酸、(b)マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該マンノシダーゼII(ManII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼII(ManII)よりも初期に作用するようにした核酸、および(c)マンノシダーゼI(ManI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含むような断片)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とを含む第3ハイブリッド酵素をコードして、該植物宿主中の植物細胞のゴルジ装置内で該酵素が該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除してER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用するようにした核酸、以上(a)、(b)、(c)を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。N-アセチルグルコサミニル転移酵素またはマンノシダーゼもしくは該膜貫通断片をコードする配列は植物から、または非植物真核生物(哺乳動物など)から、生成させることができる。
【0069】
さらに別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII を発現する宿主細胞を見込む。本発明の別の実施態様では、(a)マンノシダーゼIII [野生型遺伝子を非限定的な例とするManIII ; またManIII +ER残留シグナル; ManIII +初期シスゴルジ装置糖転移酵素(GnTI、ManI、GnTIII )の膜貫通断片]をコードする核酸配列を該植物宿主系に導入することによりガラクトース残基が該アームに付加される。マンノシダーゼIII をコードする配列は昆虫(Spodoptera frugiperdaまたはDrosophila melanogasterが非限定的な好まし例)、人間または他生物から生成させることができる。
【0070】
さらに別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII プラスTmGnTI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。別の好ましい実施態様では、本発明はTmXyl-GalTプラスManIII プラスTmManI-GnTIプラスTmManI-GnTIIを発現する宿主細胞を見込む。
【0071】
本発明の方法は一実施態様では随意に、哺乳動物N-アセチルグルコサミニル転移酵素GnTIII 特にヒトGnTIII 、または哺乳動物GnTIII の触媒部分と真核細胞ERまたはゴルジ装置の初期区画に滞留する一タンパク質の膜貫通部分とを含むハイブリッドタンパク質を植物宿主系に導入するステップをさらに含む。たとえば一実施態様では、ハイブリッド酵素TmXyl-GnTIII が(該ハイブリッド酵素をコードする核酸、該核酸を含むベクター、該ベクターを含む宿主細胞、および該宿主細胞含む植物または植物部分と共に)見込まれる。本発明は特にそうしたハイブリッド酵素を(単独で、追加のハイブリッド酵素類または他の糖転移酵素類と共に)発現する宿主細胞を見込む。
【0072】
本発明はまた、該ハイブリッドおよび組換え酵素、該ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、該核酸配列を含むベクター、および該ハイブリッド酵素を獲得する方法に関する。本発明はさらに異種糖タンパク質を含む植物宿主系に関するが、該糖タンパク質は好ましくは複合型2本鎖グリカンをもち、少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含み、またキシロースとフコースを欠く。「異種糖タンパク質」は植物宿主系以外の種に由来する糖タンパク質である。糖タンパク質は抗体、ホルモン、増殖因子と増殖因子受容体および抗原を非限定的に含む。
【0073】
実際、本発明は異種糖タンパク質たとえば抗体又は抗体断片(一本鎖抗体、Fab断片、Fab2断片、Fv断片など)の糖化のコントロールに有用である。ある抗体の糖化をコントロールするには、本発明のハイブリッド酵素をコードする遺伝子コンストラクト(TmXyl-GalT遺伝子コンストラクトなど)を、抗体(たとえばモノクローナル抗体)又は抗体断片を発現するトランスジェニック植物に導入することができる。他方、該抗体(または抗体断片)をコードする遺伝子はTmXyl-GalT遺伝子コンストラクトを発現する植物の再形質転換によって導入することができる。さらに別の実施態様では、TmXyl-GalT発現カセットを収めたバイナリーベクターを、モノクローナル抗体のL鎖、H鎖両配列を含む発現カセットを一本鎖T-DNA上に収めた植物バイナリーベクターと共に、またはL鎖、H鎖両配列に対応しながらどちらもモノクローナル抗体をコードする発現カセットを独立のT-DNA上に別々に収めたバイナリーベクターと共に、植物に同時形質転換することができる。本発明は一実施態様で、抗体を発現する植物と本発明のハイブリッド糖転移酵素を発現する植物との交雑(交配)を特に見込む。
【0074】
「宿主系」はN-グリカンをもつ糖タンパク質を含む任意の生物を非限定的に含む。
「植物宿主系」は植物またはその一部分を非限定的に含むが、植物の一部分は植物細胞、植物器官および/または植物組織を非限定的に含む。植物は胚に1枚の子葉をもつ単子葉の顕花植物でもよい。その非限定的な例はユリ、牧草・芝、トウモロコシ(Zea mays)、コメ、穀物(オーツ、コムギ、オオムギなど)、ラン、アヤメ類、オニオン、ヤシなどである。植物はまたタバコ(Nicotiana)、トマト、ジャガイモ、豆類(アルファルファ、ダイズなど)、バラ、ヒナギク、サボテン、スミレ、ウキクサなどを非限定的に含む双子葉植物でもよいし、Physcomitrella patensを非限定的に含むコケでもよい。
【0075】
本発明はまた植物宿主系を獲得する方法に関する。該方法は異種糖タンパク質を発現する植物を、(a)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域(またはその一部分)とタンパク質(該タンパク質は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ体(装置)内で、該ガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する)のCTS領域(または断片、たとえば膜貫通ドメインを含む断片)とを含むハイブリッド酵素、(b) マンノシダーゼII(ManII)の触媒領域(またはその一部分)とタンパク質特にN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用する)のCTS領域(またはその一部分、たとえば膜貫通ドメインを含む部分)とを含むハイブリッド酵素、および(c) N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域(またはその一部分)とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む糖転移酵素の(N末端の最初の30〜40アミノ酸などのような)酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域とを含むハイブリッド酵素、以上(a)、(b)、(c)のハイブリッド酵素を含む植物と交雑させるステップ、該交雑から子孫を回収するステップ、および該異種糖タンパク質を発現する子孫植物を選定するステップを含む。
【0076】
本発明はさらに、植物宿主系を構成する植物またはその一部分に関する。該植物宿主系は、哺乳動物GnTIII の触媒部分と真核細胞のERまたはゴルジ装置の初期区画に滞留するタンパク質の膜貫通部分とを含む哺乳動物GnTIII 酵素またはハイブリッドタンパク質をさらに含んでもよい。
【0077】
加えて、本発明はまた所期の糖タンパク質またはその機能的断片を生成するための植物宿主系の使用に関する。本発明はまた、植物を、該植物が収穫可能な段階に到達する(たとえばバイオマスが十分に増大し、有利な収穫が可能になる)まで本発明の方法に従って栽培するステップ、次いで該植物を技術上周知の確立された手法で収穫するステップ、該植物を技術上周知の確立された手法で分別して分別植物性物質を獲得するステップ、および該分別植物性物質から該糖タンパク質を少なくとも部分的に単離するステップを含む方法和提供する。
【0078】
あるいは、異種糖タンパク質を含む植物宿主細胞系はまた、(a)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域とタンパク質(該タンパク質は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ体(装置)内で、該ガラクトシル転移酵素または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えガラクトシル転移酵素よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(またはさらに多くのCTS領域)とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(b) マンノシダーゼII(ManII)の触媒領域とタンパク質特にN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該マンノシダーゼIIまたは膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えマンノシダーゼIIよりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(または必要ならさらに多くのCTS領域)とを含む第1ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、および(c) N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域とN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)を非限定的に含む酵素(該酵素は該植物宿主系の植物細胞のゴルジ装置内で、該N-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)または膜貫通部分を削除しER残留シグナルを挿入した組換えN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)よりも初期に作用する)の少なくとも膜貫通領域(または必要ならさらに多くのCTS領域)とを含む第2ハイブリッド酵素をコードする核酸配列、以上(a)、(b)、(c)の核酸配列を植物宿主細胞系またはその一部分に導入し、次いで該異種糖タンパク質(またはその一部分)を発現する植物またはその一部分を単離することによって獲得してもよい。一実施態様では、前記の核酸配列をみな1つのベクターに収めて、該植物宿主系に導入する。別の実施態様では各核酸配列を別個のベクターに挿入し、別個のベクターとして該植物宿主系に導入する。別の実施態様では、2個以上の核酸配列を組み合せて別個のベクターに挿入し、次いで再形質転換、同時形質転換または交雑法により該植物宿主系に導入してすべての核酸配列が組み合わさるようにする。
【0079】
本発明はまた、そうした植物由来糖タンパク質またはその機能的断片の、組成物特にたとえば抗体、ホルモン、ワクチン、抗体、酵素などにより患者を治療するための製剤組成物の製造への、本発明に従った使用に関連する。本発明では糖タンパク質またはその機能的断片を含むそうした製剤組成物もまた提供される。
【0080】
最後に、前記アプローチは1つまたは複数の本発明ハイブリッド酵素を発現する植物体内のグリカン類の全般的な雑多性を(野生型植物または哺乳動物GalTだけで形質転換したにすぎない植物と比較して)緩和する効果もあると見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は植物と哺乳動物の糖タンパク質糖化経路の比較である。
【図2】図2はガラクトシル転移酵素のCTS断片とキシロシル転移酵素との交換の効果を示す。
【図3】図3はマンノシダーゼIIとGlcNAcTIIの再局在化のさらなる効果を示す。
【図4】図4は、免疫原性のキシロースとフコースを欠くガラクトシル化グリカンを効率的に産生するためのグリカンをコードし酵素類を組み換える遺伝子を収めたT-DNAコンストラクト(上パネル)と抗体L鎖およびH鎖遺伝子を収めたT-DNAコンストラクト(下パネル)を示す。
【図5】図5はヒト・ガラクトシル転移酵素(ヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素−GalT)の核酸配列(SEQ ID NO:1)を示す。
【図6】図6は図5の核酸配列(SEQ ID NO:1)を対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)とともに示す。
【図7】図7はヒト・ガラクトシル転移酵素に対応する野生型アミノ酸配列(SEQ ID NO:2)に由来する変異配列例(SEQ ID NO:59)を示す。該配列では細胞質尾部からセリンが削除されており、またG-I-Yモチーフの反復が見られる。もちろんこうした変更は本発明の範囲内の数多くの可能な変更の一例にすぎない。本発明はたとえば一実施態様では、挿入や反復によらずに(たとえば細胞質尾部またはステム領域内の)(1つまたは複数の)削除だけによる変異配列を見込む。同様に一実施態様では、削除によらずに(たとえば膜貫通ドメイン内の) (1つまたは複数の)挿入または置換だけによる変異配列を見込む。
【図8】図8はヒト・ガラクトシル転移酵素(ヒトβ1,4-ガラクトシル転移酵素−GalT)を含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列(SEQ ID NO:3)を示す。大文字はβ1,2-キシロシル転移酵素に対応するシロイヌナズナmRNAのヌクレオチドである(データベース登録番号: EMBL:ATH277603。使用TmXyl断片はこのデータベース配列のヌクレオチド135〜297に対応する)。
【0082】
【図9】図9は図8の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)と共に示す。
【図10】図10は図8の核酸配列がコードするハイブリッド酵素に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)である。
【図11】図11はヒト・ガラクトシル転移酵素GnTIII に対応する核酸配列(SEQ ID NO:5)を(myc-タグをコードする追加配列を添えて)示す(一次登録番号Q09327 GNT3 HUMAN)。
【図12】図12は図11の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:6)と共に示す。
【図13】図13はヒトGnTIII に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:6)を(mycエピトープタグSEQ ID NO:7の追加アミノ酸配列と共に)示す。
【図14】図14は、植物キシロシル転移酵素の膜貫通ドメイン(TmXyl-)とヒトGnTIII の触媒領域(および他の領域)とを含む本発明のハイブリッド酵素(TmXyl-GnTIII )の実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:9)を(myc-タグをコードする追加配列と共に)示す。
【図15】図15は図14の核酸配列を、対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:10)と共に示す。
【図16】図16は図14の核酸配列がコードするハイブリッド酵素に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:10)を(mycエピトープタグに対応する追加配列SEQ ID NO:7と共に)示す。
【図17−1】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−2】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−3】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図17−4】図17はハイブリッド酵素TmXyl-GalTプラスTmGnTI-GnTIIプラスTmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 27)を示す。
【図18−1】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図18−2】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図18−3】図18はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードするカセットに対応する完全核酸配列(SEQ ID NO: 28)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図19−1】図19はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 29)を示す。
【図19−2】図19はハイブリッド酵素TmGnTI-ManIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 29)を示す。
【図20】図20はハイブリッド酵素TmGnTI-GnTIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 30)を示す。
【図21】図21はハイブリッド酵素TmGnTI-GnTIIをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 31)を示すが、使用した膜貫通断片(TmGnTI)の核酸配列はSEQ ID NO:32である。
【図22A】図22Aは膜貫通ドメイン断片(TmGnTI)の一実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:32)を示す。
【図22B】図22Bは膜貫通ドメイン断片(TmManI)の別の実施態様をコードする核酸配列(SEQ ID NO:33)を示す。
【図23−1】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−2】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−3】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−4】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図23−5】図23は本発明のトリプルカセット実施態様に対応する完全核酸配列(SEQ ID NO:34)である。
【図24】図24はハイブリッド遺伝子発現カセット(TmManI-GnTI)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:35)である。
【図25】図25はヒストン3.1プロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:36)である。
【図26】図26はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmGnTI)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)である。
【図27−1】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図27−2】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図27−3】図27はハイブリッド遺伝子融合体(TmManI-TmManII)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:37)を(RcS1プロモーター配列SEQ ID NO:39と共に)示す。
【図28】図28はRcS1プロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:39)である。
【図29−1】図29はハイブリッド遺伝子TmManI-ManIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:40)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図29−2】図29はハイブリッド遺伝子TmManI-ManIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:40)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図30−1】図30はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:41)である。
【図30−2】図30はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:41)である。
【図31】図31はLhcaプロモーターに対応する核酸配列(SEQ ID NO:42)である。
【図32】図32はハイブリッド遺伝子TmManI-GnTIIに対応する核酸配列(SEQ ID NO:43)を、膜貫通断片に対応する核酸配列(SEQ ID NO: 33)と共に示す。
【図33】図33は使用ターミネーター配列(後述)に対応する核酸配列(SEQ ID NO:44)である。
【0083】
【図34】図34は本発明の植物と対照植物の全タンパク質糖化を比較したウェスタンブロットである。
【図35】図35は本発明の一実施態様に従って生み出した交雑植物F1子孫に関するRCAを用いたレクチンブロットである。
【図36】図36はウェスタンブロットである。使用抗体は次のとおり: パネルA−抗IgG抗体; パネルB−抗HRP抗体; パネルC−特異的抗Xyl抗体画分; パネルD−特異的抗フコース抗体画分; パネルE−レクチンRCA。
【図37−1】図37は、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:49)を示す。
【図37−2】図37は、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:49)を示す。
【図38】図38は図37の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:50)である。
【図39】図39は、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:51)を示す。
【図40】図40は図39の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:52)である。
【図41】図41は、シロイヌナズナGnTI遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:53)を示す。
【図42】図42は図41の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:54)である。
【図43】図43は、シロイヌナズナGnTII遺伝子のアミノ末端CTS領域をマウスのシグナルペプチドで置き換えカルボキシル末端の細胞質ER残留シグナル(KDEL)を付加したハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:55)を示す。
【図44】図44は図43の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:56)である。
【図45】図45は、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域をヒトGnTI遺伝子のCTS領域で置き換えたハイブリッド遺伝子の核酸配列(SEQ ID NO:57)を示す。
【図46】図46は図45の核酸配列に対応するアミノ酸配列(SEQ ID NO:58)である。
【図47】図47は酵素類がゴルジ装置に局在する仕組みについての図解である。
【図48】図48は転移酵素類の領域「スワッピング」が再局在化を招く仕組みについての非限定的、思弁的な図解である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明の詳細な説明
ハイブリッド酵素
マンノシダーゼ、GlcNAcTs、ガラクトシル転移酵素など種々の糖化酵素をコードする核酸配列は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)または発現ライブラリーのスクリーニングによる共通の構造的特徴をもつクローン化DNA断片の検出などのような技術上周知の組換えDNA法を用いて獲得することができる。たとえばInnis et al., 1990, PCR: A Guide to Methods and Application, Academic Press, New Yorkなどを参照。リガーゼ連鎖反応(LCR)、ligated activated transcription(LAT)、nucleic acid sequence-based amplification (NASBA)またはロングレンジPCRなど他の核酸増幅法を使用してもよい。
【0085】
ひとたびDNA断片を生成させたら、所期の遺伝子を含む特異的DNA断片の同定を様々な方法で行う。たとえば遺伝子またはその特異的RNAの一部分、またはその断片についてある量を獲得し、精製、標識しうるなら、そうした生成したDNA断片は標識プローブとの核酸ハイブリダイゼーションによりスクリーニングする[Benton and Davis, Science 196:180 (1977); Grunstein and Hogness, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 72:3961 (1975)]。あるいは該遺伝子の存在はその発現産物の物理的、化学的および免疫学的性質に基づく試験で検出する。たとえばcDNAクローンまたは適正mRNAをハイブリダイズ-選択するDNAクローンは、たとえば着目タンパク質の周知の電気泳動、等電点挙動、タンパク質分解消化マップまたは抗原特性と同じまたは類似の特性をもつタンパク質を産生するものを選択することができる。
【0086】
第1酵素の膜貫通部分と第2酵素の触媒部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列は次の要領で獲得する。第2酵素から膜貫通部分をコードする配列を除去し、第2酵素の触媒部位を包摂するC末端部分をコードする核酸配列を含む核酸配列を残す。第1酵素の膜貫通部分をコードする配列をPCR法で単離または獲得して、第2酵素のC末端部分を含む配列をコードする配列にライゲートする。
【0087】
組換え酵素
タンパク質特に酵素たとえばER中に残留するガラクトシル転移酵素、マンノシダーゼおよびN-アセチルグルコサミン転移酵素などをコードする核酸配列は、膜貫通断片をコードする配列を除去してメチオニン(翻訳開始)コドンに取り替え、またガラクトシル転移酵素の最後のコドンと終止コドンの間にER残留シグナルをコードする核酸配列たとえばKDEL(アミノ酸残基配列: リジン-アスパラギン酸-グルタミン酸-ロイシン)をコードする配列などを挿入する[Rothman, Cell 50:521 (1987)]。
【0088】
そのドメインおよび部分の使用
前述のように、「の少なくとも一部分」または「の断片」という言い回しは、タンパク質またはペプチドがその天然または本来の機能を維持するうえでの必要最小限のアミノ酸配列をいう。たとえば酵素の機能は酵素的または触媒的な機能、タンパク質をゴルジ装置内に固定する能力、またはシグナルペプチドとしての機能をいう。従って「膜貫通ドメインの少なくとも一部分」または「膜貫通ドメインの断片」という言い回しはそれぞれ、より大きな膜貫通ドメインのうちの、天然の膜貫通ドメイン機能を少なくとも部分的に保持する(たとえば該機能が低下してもなお明白である)ような最小アミノ酸配列をいう。別の例として、「触媒領域の少なくとも一部分」または「触媒領域の断片」という言い回しはそれぞれ、より大きな触媒領域のうち、天然の触媒機能を少なくとも部分的に保持する(たとえば該機能が低下してもなお明白である)ような最小アミノ酸配列をいう。本明細書で述べるように、あるタンパク質またはペプチドが天然タンパク質またはペプチドの機能を少なくとも部分的に保持する上での必要最小限のアミノ酸配列は当業者には自明であろう。
【0089】
糖転移酵素は一般に酵素が転移する糖の種類に基づき(ガラクトシル転移酵素、シアリル転移酵素などのように)分類される。糖転移酵素はアミノ酸配列の類似性や立体化学的な反応過程に基づき少なくとも27種類、おそらく47種類に分類することができる[Campbell et al., Biochem. J. 326:929-939 (1997); Biochem. J. 329:719 (1998)]。今日までに単離された糖転移酵素は大多数がII型膜貫通タンパク質(細胞質ゾル中にNH2末端を有しゴルジ装置内腔中にCOOH末端を有する1回膜貫通ドメイン・タンパク質)である。糖転移酵素はどれも、その分類のされ方とは無関係に、共通の構造的特徴をいくつかもつ: すなわち短いNH2末端細胞質尾部、16〜20アミノ酸のシグナルアンカー(または膜貫通)ドメイン、それに延長ステム領域とそれに続く大きなCOOH末端触媒ドメインである。細胞質尾部はある種の糖転移酵素のゴルジ装置への特異的局在化に関係する模様である[Milland et al., J. Biol. Chem. 277: 10374-10378]。シグナルアンカードメインは切断不能のシグナルペプチドとしても、また糖転移酵素の触媒領域をゴルジ装置の内腔内に導く膜貫通領域としても作用しうる。
【0090】
本発明の一実施態様では、Nicotiana benthamiana(タバコ)アセチルグルコサミニル転移酵素IのN末端77アミノ酸にあたる部分についてハイブリッド酵素への使用を見込む。レポータータンパク質を植物ゴルジ装置内に導き保持するにはこの部分で十分であると判明しているためである[Essl et al., FEBS Lett 453:169-173 (1999)]。多様な融合タンパク質のタバコの細胞質、膜貫通およびステムの各推定ドメイン間への細胞内局在化は、細胞質-膜貫通ドメインだけで内腔配列に一切頼らずにβ1,2-キシロシル転移酵素のゴルジ装置内残留を十分支えうることを示した[Dirnberger et al., Plant Mol. Biol. 50:273-281 (2002)]。従って前述のように、本発明のある種の実施態様はCTS領域のステム領域は利用せず細胞質-膜貫通ドメイン(またはその部分)だけに関係する部分を利用する。しかし糖転移酵素はその種類によってゴルジ装置内残留を主にその膜貫通ドメインに依存する場合も、膜貫通領域の他にその片側または両側の隣接配列をも必要とする場合もある[Colley, Glycobiology 7:1-13 (1997)]。たとえばアミノ酸1〜32にまたがるN末端ペプチドはβ 1,6 N-アセチルグルコサミニル転移酵素をゴルジ装置に局在させる必要最小限のターゲティングシグナルであるように見受けられる。このペプチドはこの酵素の細胞質-膜貫通ドメインを構成する[Zerfaoui et al., Glycobiology 12:15-24]。
【0091】
個別糖転移酵素の諸領域のアミノ酸配列に関しては大量の情報が得られる。たとえば哺乳動物ガラクトシル転移酵素のアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAM17731)は残基19〜147と残基148〜397にそれぞれまたがる「ステム」領域、「触媒」領域をもつ[参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,416,988号明細書]−また本発明は実施態様によってはそうした部分のハイブリッド酵素への使用を特に見込む。ラット肝シアリル転移酵素のアミノ酸配列(GenBank Accession No. AAC91156)は9アミノ酸のNH2末端細胞質尾部、17アミノ酸のシグナルアンカードメインおよび露出ステム領域とそれに続く41kDaの触媒領域を含む内腔ドメインを有する[Hudgin et al., Can. J. Biochem. 49:829-837 (1971); 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,032,519号および第5,776,772号の各明細書]。周知のヒトおよびマウスβ 1,3-ガラクトシル転移酵素は8保存領域を備えた触媒領域をもつ[Kolbinger et al., J. Biol. Chem. 273:433-440 (1998); Hennet et al., J. Biol. Chem. 273:58-65 (1998); 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,955,282号明細書]。たとえばマウスUDP-ガラクトース: β-N-アセチルグルコサミンβ 1,3-ガラクトシル転移酵素I(GenBank Accession No. NM020026)は次の触媒領域をもつ: 残基78〜83の領域1; 残基93〜102の領域2; 残基116〜119の領域3; 残基147〜158の領域4; 残基172〜183の領域5; 残基202〜206の領域6; 残基236〜246の領域7; 残基264〜275の領域8 [Hennet et al., supra.]−いずれの領域も本発明の実施態様によっては、前述のハイブリッド酵素との関係で有用なタンパク質と見込まれる。
【0092】
周知の糖転移酵素cDNAクローン間の以前の比較では酵素間に配列相同性はほとんどないと判明していたが[Paulson et al., J. Biol. Chem. 264:17615-618 (1989)]、最近の進歩により多様な特異性をもつ糖転移酵素類の保存領域構造を推測することが可能になってきた[Kapitonov et al., Glycobiology 9:961-978 (1999)]。たとえば、Homo Sapiens(ヒト)、Caenorhabditis elegans(土壌線虫)、Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ; カラシナの仲間の)およびOryza sativa(イネ)などの多様な生物で得られた全ゲノム配列からもたらされる配列データを使用して多数の糖転移酵素の核酸およびアミノ酸配列が解明されるようになった。
【0093】
幅広い研究の結果、種々の糖転移酵素の相同結合部位に関して共通アミノ酸配列が推測されるようになってきた。たとえばシアリル転移酵素は供与体基質のCMP-シアル酸の認識に関与すると見られるシアリルモチーフをもつ[Paulson et al., supra.; Datta et al., J. Biol. Chem. 270:1497-1500 (1995); Katsutoshi, Trends Glycosci. Glycotech. 8:195-215 (1996)]。Gal α-1-3ガラクトシル転移酵素中のヘキサペプチドRDKKNDとGlcNAc β-1-4ガラクトシル転移酵素中の同RDKKNEはUDP-Galの結合部位として提唱されている[Joziasse et al., J. Biol. Chem. 260:4941-4951 (1985); J. Biol. Chem. 264:14290-14297 (1989); Joziasse, Glycobiology, 2:271-277 (1992)]。
【0094】
2個のアスパラギン酸残基によって形成される小さな高保存モチーフ(DXD)は疎水性領域で囲まれることも多いが、α-1-3-マンノシル転移酵素、β-1-4ガラクトシル転移酵素、α-1-3ガラクトシル転移酵素、グルクロニル転移酵素、フコシル転移酵素、グリコゲニンなどを含む多数の異なる真核生物の転移酵素で確認されている[Wiggins et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:7945-7950 (1998)]。突然変異研究は、このモチーフが酵素活性に必要であることを示唆している[Busch et al., J. Biol. Chem. 273:19566-19572 (1998); Wang et al., J. Biol. Chem. 277:18568-18573 (2002)]。多重ペプチドアラインメントにより、β-3ガラクトシル転移酵素ファミリーの全メンバーに共通して保存されている推定触媒領域に対応するいくつかのモチーフすなわちII型膜貫通ドメイン、保存DxDモチーフ、N-糖化部位および5個の保存システインが明らかになった[Gromova et al., Mol. Carcinog. 32:61-72 (2001)]。
【0095】
BLAST検索と多重アラインメントの実行によりE-X7-Eモチーフは残留糖転移酵素4ファミリーのメンバー間で高保存性であることが判明した[Cid et al., J. Biol. Chem. 275:33614-33621 (2000)]。O-結合アセチルグルコサミニル転移酵素(GlcNAc)は1個のβ-N-アセチルグルコサミン鎖を特異的セリン-またはトレオニン-ヒドロキシル基に付加する。BLAST検索、コンセンサス二次構造予測およびフォールド認識研究によれば、二次Rossmannフォールドドメイン内の保存モチーフはUDP-GlcNAc供与体結合部位であるらしい[Wrabl et al., J. Mol. Biol. 314:365-374 (2001)]。今日までに同定されたβ1,3-糖転移酵素類はいくつかの保存領域と保存システイン残基を共有するが、いずれも推定触媒領域内にある。マウスβ3GatT-I遺伝子(Accession No. AF029790)の部位指定突然変異誘発では、保存残基W101およびW162はUDP-ガラクトース供与体の結合に、残基W315はN-アセチルグルコサミン-β-p-ニトロフェノール受容体の結合に、またE264を含むドメインは両基質の結合に、それぞれ関与していることがうかがわれる[Malissard et al., Eur. J. Biochem. 269:233-239(2002)]。
【0096】
着目タンパク質の植物宿主系での発現
ハイブリッドまたは組換え酵素または他の異種タンパク質たとえば異種糖タンパク質をコードする核酸は本発明のある種の実施態様に従って適正な発現ベクターに挿入することができるが、そうした適正な発現ベクターは被挿入コード配列の転写・翻訳に必要な因子を収めたベクターまたはRNAウイルスベクターの場合には必要な複製・翻訳因子ならびに選択マーカーを収めたベクターである。そうした因子の非限定的な例はプロモーター領域、シグナル配列、5’末端非翻訳配列、開始コドン(構造遺伝子がそれを備えているかどうかによる)、および転写・翻訳終結配列などである。こうしたベクターを獲得する方法は技術上周知である(国際公開第WO 01/29242号明細書を参照)。
【0097】
植物での発現に好適なプロモーター配列はたとえば国際公開第WO 91/198696号明細書で開示されている。その例はノパリン生合成およびオクトピン生合成プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV) 19Sおよび35Sプロモーター、それにゴマノハグサモザイクウイルス(FMV)35プロモーターなどのような非構成的または構成的プロモーターである(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,352,605号および第6,051,753号明細書を参照)。使用プロモーターはたとえば内胚乳、アリューロン層、胚、果皮、葉柄、葉、塊茎、根などを標的とする組織特異的プロモーターでもよい。
【0098】
シグナル配列は必要に応じてタンパク質のプロセシングと移動を可能にする。シグナル配列は植物由来でも、非植物由来でもよい。シグナルペプチドは未完成ポリペプチドを小胞体に導き、そこでポリペプチドは翻訳後修飾を受ける。シグナルペプチドは当業者には容易に同定することができる。シグナルペプチドは一般にN末端の正荷電アミノ酸、それに続く疎水性領域、次いで弱疎水性領域内の切断部位からなる三分構造をもつ。
【0099】
転写終結はきまって転写開始領域の反対端で起こる。それは転写開始領域と関連し、あるいは異なる遺伝子に由来することもあり、また発現を増進するよう選択されることもある。例はAgrobacterium Tiプラスミド由来のNOSターミネーターおよびイネのアルファアミラーゼターミネーターである。ポリアデニル化尾部を付加してもよい。非限定的な例はAgrobacteriumオクトピン生合成シグナル[Gielen et al., EMBO J. 3:835-846 (1984)]または同じ種のノパリンシンターゼ[Depicker et al., Mol. Appl. Genet. 1:561-573 (1982)]である。
【0100】
エンハンサーを加えて異種タンパク質の転写を増進および/または極大化してもよい。その非限定的な例はペプチド搬出シグナル配列、コドン使用頻度、イントロン、ポリアデニル化、および転写終結部位などである(国際公開第WO 01/29242号明細書を参照)。
【0101】
マーカーは原核選択マーカーを含むのが好ましい。そうしたマーカーの例は抗生物質(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、スペクチノマイシンなど)耐性マーカーなどである。個別の非限定的な例はストレプトマイシン耐性をコードするストレプトマイシンリン酸転移酵素(spt)遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシン耐性をコードするネオマイシンリン酸転移酵素(nptII)遺伝子、ヒグロマイシン耐性をコードするヒグロマイシンリン酸転移酵素(hpt)遺伝子などである。
【0102】
構築したベクターは(国際公開第WO 01/29242号およびWO 01/31045号明細書で概観されている)技術上周知の方法を用いて植物宿主系に導入することができる。ベクターは、Agrobacterium tumefaciensベクターに対して相同性を有する領域、A. tumefaciens由来のT-DNA境界領域を収める植物形質転換プラスミドの仲立ちとなるよう変更を加えてもよい。あるいは、本発明の方法に使用するベクターはAgrobacteriumベクターでもよい。ベクターを導入する方法の非限定的な例はマイクロインジェクション、核酸を微小ビーズまたは粒子の基質内に入れるかまたは表面上にまぶして行うパーティクルガン法、エレクトロポレーションなどである。ベクターは植物の細胞、組織または器官に導入する。個別実施態様では、ひとたび異種遺伝子の存在が確認されたら、技術上周知の方法を用いて植物を再生させる。所期タンパク質の存在は技術上周知の方法を用いてスクリーニングするが、それには生物活性部位を、検出可能なシグナルを生成させて検出する試験法を用いるのが好ましい。このシグナルの生成は直接的でも間接的でもよい。そうした試験の例はELISAまたはラジオイムノアッセイなどである。
【0103】
一過性の発現
本発明は特に、前記ハイブリッド酵素の安定発現と一過性発現の両方を見込む。多種多様な高等植物種を形質転換して発現カセットの一過性発現を実現させる手法は技術上周知である[たとえばWeising et al., Ann. Rev. Genet. 22:421-477 (1988)を参照]。種々のシステムには被導入核酸の種類(DNA、RNA、プラスミド、ウイルス)、形質転換される組織の種類、遺伝子導入の手段、および形質転換条件といった変数がある。たとえば核酸コンストラクトはエレクトロポレーション、PEGポレーション、パーティクルガン、ケイ素繊維デリバリー、植物細胞原形質または不定胚形成カルスまたは他植物組織のマイクロインジェクション、あるいはアグロバクテリア媒介型の形質転換を用いて植物細胞に直接導入してもよい[Hiei et al., Plant J. 6:271-282 (1994)]。形質転換効率は変化しやすいので、しばしば内部標準(たとえば35S-Luc)を使用して形質転換効率を標準化する。
【0104】
一過性発現試験のための発現コンストラクトはプラスミドやウイルスベクターなどである。ベクターとして使用可能な多様な植物ウイルスは周知であり、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、ジェミニウイルス、ブロモモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどがある。
【0105】
一過性発現に好適な植物組織はインタクトなまたは(細胞壁を除去した)プロトプラストとしての培養細胞、培養組織、培養植物、それに植物組織(葉など)である。
【0106】
一過性発現の方法によってはエレクトロポレーションまたはPEGポレーションにより植物細胞プロトプラストに遺伝子を導入する場合がある。それらの方法は植物プロトプラストの調製と培養が必要であり、また核酸をプロトプラスト内部へと導入するためのプロトプラスト穿孔を伴う。
【0107】
例示的なエレクトロポレーション法はFromm et al., Proc., Natl. Acad. Sci. 82:5824 (19985)で開示されている。ポリエチレングリコール沈殿法によるDNAコンストラクトの導入はPaszkowski et al., EMBO J. 3:2717-2722 (1984)で開示されている。プロトプラストの単離、精製、形質転換を伴うタバコプロトプラストのPEG法による形質転換はLyck et al., (1997) Planta 202:117-125; Scharf et al., (1998) Mol Cell Biol 18:2240-2251; Kirschner et al., (2000) The Plant J. 24(3):397-411で開示されている。これらの方法はたとえば外部刺激で活性化されるプロモーター中のシス配列の同定に使用されてきたし[Abel and Theologis (1994) Plant J 5:421-427; Hattori et al., (1992) Genes Dev 6:609-618; Sablowski et al., (1994) EMBO J 128-137; Solano et al., (1995) EMBO J 14:1773-1784]、他の遺伝子発現研究にも使用されてきた(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,376,747号明細書)。
【0108】
パーティクルガン法はKlein et al., (1978) Nature 327:70-73で開示されている。パーティクルガン法は懸濁細胞または植物器官に対して行う。たとえばこの方法はNicotiana tabacumの葉に使用するために開発された[Godon et al (1993) Biochimie 75(7):591-595]。また植物プロモーターの研究に使用されてきたし[Baum et al., (1997) Plant J 12: 463-469; Stromvik et al., (1999) Plant Mol Biol 41(2): 217-31; Tuerck and Fromm (1994) Plant Cell 6:1655-1663; 参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,847,102号明細書]、転写因子の特性解明にも使用されてきた[Goff et al., (1990) EMBO J 9:2517-2522; Gubler et al., (1999) Plant J 17:1-9; Sainz et al., (1997) Plant Cell 9:611-625)]。
【0109】
他の方法は遺伝子の一過性発現のin situ視覚化を可能にする。たとえばタマネギの表皮を使用して種々の細胞区画でGFPの発現を観測する方法である[Scott et al., (1999) Biotechniques 26(6): 1128-1132]。
【0110】
核酸は直接注入法で植物に導入することもできる。一過性の遺伝子発現は植物の生殖器官へのDNAの注入によって[たとえばPena et al. (1987) Nature 325:274を参照]、たとえば花粉への直接DNA導入により[Zhou et al., (1983) Methods in Enzymology, 101:433; D. Hess (1987) Intern Rev. Cytol., 107:367; Luo et al., (1988) Plant Mol Biol Reporter, 6:165]実現することができる。DNAはまた未熟胚の細胞に直接注入することもできる[たとえばNeuhaus et al., (1987) Theor. Appl. Genet: 45-30; Benbrook et al., (1986) in Proceedings Bio Expo 1986, Mass., pp. 27-54を参照]。
【0111】
アグロバクテリア媒介型の形質転換は双子葉、単子葉の両植物に適用できる。イネやトウモロコシなどのイネ科植物のアグロバクテリア媒介型形質転換のための最適化された方法とベクターはすでに[たとえばHeath et al., (1997) Mol. Plant-Microbe Interact. 10:2221-227; Hiei et al., (1994) Plant J. 6:271-282; Ishida et al., (1996) Nat. Biotech. 14:745-750で]開示されている。トウモロコシの形質転換効率は感染組織の種類と段階、アグロバクテリア濃度、組織培地、Tiベクターおよびトウモロコシの遺伝子型といった種々の因子に規定される。
【0112】
もう1つの基本的な有用形質転換プロトコールは粒子衝撃法による損傷とそれに続くアグロバクテリアの使用によるDNAデリバリーの組合せである[たとえばBidney et al., (1992) Plant Mol. Biol. 18:301-313を参照]。インタクト分裂組織の形質転換法と分割分裂組織の形質転換法もまた公知である(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,545号明細書)。
【0113】
アグロバクテリアを使用する方法としては他にアグロインフェクション法やアグロインフィルトレーション法がある。アグロバクテリアを使用して、ウイルスゲノムをT-DNAに挿入し、植物のウイルス感染を媒介させることができる(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,545号明細書)。ウイルス感染を成功させるには、植物細胞へのT-DNAの導入後にウイルスゲノムをT-DNAから切り出す(動員する)必要がある。このアグロバクテリア媒介型の植物宿主へのウイルス導入方法はアグロインフェクション法という[Grimsley, “Agroinfection” pp. 325-342 in Methods in Molecular Biology, vol 44: Agrobacterium Protocols, ed. Gartland and Davey, Humana Press, Inc., Totowa, N.J.; Grimsley (1990) Physiol. Plant. 70:147-153を参照]。
【0114】
植物中で外来遺伝子を発現させるための植物ウイルス遺伝子ベクターの開発は短時間に高水準の遺伝子発現を実現するため手段をもたらす。好適なウイルスレプリコンは、2本鎖DNAゲノムまたは複製中間体をもつウイルスに由来する2本鎖DNAなどである。切り出されたウイルスDNAは独立に、または途中で供給される因子と共に、レプリコンまたは複製中間体として作用しうる。該ウイルスDNAは感染性ウイルス粒子をコードしてもコードしなくてもよいし、また挿入、欠失、置換、再編成、または他の修正をさらに含んでもよい。該ウイルスDNAは、任意の非ウイルスDNAまたは異種ウイルス由来のDNAである異種DNAを含んでもよい。異種DNAはたとえば着目のタンパク質またはRNAに対応する発現カセットを含んでもよい。
【0115】
アグロバクテリア菌株A281およびA348のvir遺伝子群を含むスーパーバイナリーベクターは単子葉植物の高効率形質転換に有用である。しかし、高効率ベクターを使用しなくても、アグロインフェクション法で導入されたウイルスの全身感染を招く(ただし腫瘍形成は招かない)程度の効率でT-DNAをトウモロコシに導入しうることが証明された[Grimsley et al., (1989) Mol. Gen. Genet. 217:309-316]。これはウイルスの増幅では切り出されたウイルスゲノムが独立のレプリコンとして機能するのでウイルスゲノムを含むT-DNAの染色体に組み込む必要がないためである。
【0116】
別のアグロバクテリア媒介型の一過性発現試験は植物体内のタバコ葉のアグロバクテリア媒介型形質転換に基づく[Yang et al., (2000) The Plant J 22(6):543-551]。この方法はプラスミドコンストラクトをもつアグロバクテリアのタバコ葉への侵入(インフィルトレーション)を利用するのでアグロインフィルトレーション法といい、プロモーターおよび転写因子のin vivo発現をわずか2〜3日で分析するために使用されてきた。この方法では、病原体感染や環境ストレスといった外部刺激のin situプロモーター活性への影響を調べることもできる。
【実施例】
【0117】
実施例1
以前に開示したPCR法に基づく兄弟株選別法[Bakker et al., BBRC 261:829 (1999)]によりcDNAライブラリーからβ1,2-キシロシル転移酵素をコードするシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana) cDNAを単離した。キシロシル転移酵素活性を感染CHO細胞の、ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ抗血清から精製したキシロース特異抗体による免疫染色で確認した。キシロシル転移酵素のN末端部分をカバーするDNA断片を、プライマー: XylTpvuF:ATACT CGAGTTAACAATGAGTAAACGGAATC(SEQ ID NO:45)およびXylTpvuR:TTCTCGATCGCCGATTGGTTATTC(SEQ ID NO:46)を使用して増幅した。XhoIおよびHpaI制限部位を開始コドンの手前に導入し、PvuIを反対端に導入した。ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素(acc.no.x55415, Aoki 1992)由来のC末端断片を、プライマーGalTpvuF:GCCGCCGCGATCGGGCAGTCCTCC(SEQ ID NO:47)およびGalTrev:AACGGATCCACGCTAGCTCGGTGTCCCGAT(SEQ ID NO:48)を使用して増幅し、もってPvuIおよびBamHI部位を導入した。XhoI/PvuIおよびPvuI/BamHIで消化したPCR断片をXhoI/BamHI消化pBluescriptSK+にライゲートし、配列を解析した。生成したオープンリーディングフレームはA. thaliana β1,2-キシロシル転移酵素の最初の54アミノ酸をヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素のアミノ酸69〜398と融合させて含む融合タンパク質をコードしており、TmXyl-GalTと命名する。この断片を植物発現ベクターのCaMV35SプロモーターとNosターミネーターの間に、HpaI/BamHIを使用してクローニングした。このクローンを天然ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素の場合と同様の要領でNicotiana tabacum(samsun NM)に導入した[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]。
【0118】
トランスジェニック植物のタンパク質抽出とウェスタンブロットを開示の要領で行った[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]。レクチンRCAとの反応をもとに、TmXylGalTを発現するトランスジェニック植物をMALDI-TOFによるさらなるグリカン分析のために選別し[Elbers et al., Plant Physiology 126:1314 (2001)]、天然β1,4ガラクトシル転移酵素を発現する植物から単離したグリカンと、また野生型植物に由来するグリカンと、比較した。MALDI-TOFスペクトルの相対ピーク面積は表1のとおりである。つまり表1は、対照タバコ(Tobacco)、ヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素を発現するトランスジェニックタバコ(GalT)、および本来のCTS領域をβ1,2-キシロシル転移酵素のCTS領域に取り替えたβ1,4ガラクトシル転移酵素を発現するトランスジェニックタバコ(TmXyl-GalT)についての、内在性糖タンパク質のN-グリカンの質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0119】
【表1】
【0120】
これらのデータは次のことを示す:
1. TmXyl-GalT植物ではグリカンのキシロシル化とフコシル化が劇的に減少しており、キシロースもフコースも含まないグリカンが82%にものぼるが、野生型植物ではこれは14%である。
2. ガラクトシル化はGalT植物の9%からTmXyl-GalT植物の32%へと増大した。
【0121】
実施例2
前記TmXyl-GalT遺伝子を発現するトランスジェニック植物(TmXyl-GalT-12植物)を、ビオチン標識RCA(Vector Laboratories, Burlingame, California)を使用するレクチンブロッティングで選別した(前記)。MGR48トランスジェニック(対照)植物、非組換えヒトβ1,4ガラクトシル転移酵素遺伝子を発現する選別トランスジェニック植物およびTmXyl-GalT-12植物のタンパク質抽出物について(高い抗キシロースおよび抗フコース活性で知られる)抗HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)ポリクローナル抗体を使用してキシロースおよびフコースの存在量を調べ比較すると、キシロースとフコースの減少がはっきりした(図34:抗-HRP)。抗HRP抗体の抗キシロース画分と抗フコース画分(各画分は適正なリガンドによるアフィニティークロマトグラフィーで調製することができる)を使用したウェスタンブロット法では、対照植物と比較して特にキシロースが減少すると判明した(図34:抗-Fucと抗-Xyl)。
【0122】
実施例3
TmXyl-GalT-12植物と1本鎖T-DNA組み込みイベントに由来するモノクローナル抗体MGR48を発現するトランスジェニック植物(MGR48-31)とを交雑し、それをまずカナマイシン耐性マーカーおよび抗体産生で分離されていない子孫植物体を分別することによりホモ接合体とした(MGR48-31-4)。MGR48-31-4の花粉を除雄TmXyl-GalT-12植物の受粉に使用した。同様に、TmXyl-GalT-12植物の花粉を除雄MGR48-31-4植物の受精に使用した。多数のF1植物について、ウェスタンブロット法でMGR48の有無を、またRCA使用のレクチンブロット法で内在性糖タンパク質のガラクトシル化を調べた(図35)。MGR48を発現し内在性糖タンパク質のガラクトシル化を示した一植物を選別してさらなる分析に回した。この植物はXGM8と命名した。
【0123】
TmXyl-GalT-12植物(♀)x MGR48-31-4植物(♂)に由来する種子をまき、F1子孫植物(XGM)について抗体産生をウェスタンブロット法で、またガラクトシル化をビオチニル化RCA120(Vector Labs., Burlingame, California)使用のレクチンブロット法で、それぞれ前述の標準手法を用いて分析した。どの植物も予想どおりモノクローナル抗体MGR48を産生したし、また大多数の植物がガラクトシル化グリカンをもつと判明した。単一植物で抗体MGR48を産生し、かつガラクトシル化N-グリカンをもつもの(XGM8)(TmXyl-GalT-12 X MGR48-31-4子孫8)を選別してさらなる分析に回した。この植物から組換えモノクローナル抗体MGR48を前述の要領で精製しMALDI-TOFによるグリカン分析に回した。
【0124】
簡単に言えば、XGM8植物を温室で栽培して至適条件[Elbers et al., Plant Physiology 126:1314 (2001)]下で抗体を産生させた。トランスジェニックXGM8植物の葉のタンパク質抽出物を調製し、プロテインGクロマトグラフィー[Bakker et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:2899 (2001)]によりモノクローナル抗体を精製した。精製モノクローナル抗体のN-グリカンのMALDI-TOFはElbers et al., 2001、 supraの要領で行った。グリカン上のガラクトースの存在を、ウシ精巣β-ガラクトシダーゼを使用する酵素反応法で確認した[Bakker et al., 2001, supra; Table 2]。次のTable 2はTmXyl-GalT-12植物とrec-mAb産生植物MGR48のF1交雑種の内在性糖タンパク質(Xyl-GalT Endo)のN-グリカンと該F1交雑種に由来する(プロテインGクロマトグラフィー精製)rec-mAbのN-グリカンの質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0125】
【表2】
【表3】
【0126】
これらのデータは次のことを示す:
1. F1交雑種ではグリカンのキシロシル化とフコシル化が激減した。内在性糖タンパク質のグリカンの43%はキシロースとフコースを欠くが、野生型タバコではこれが14%止まりである。
2. このF1交雑種の精製mAbのグリカンではキシロースとフコースの含量が野生型タバコの14%に対して47%も低下している。図36のパネルB〜Dをも参照。
3. F1交雑種の内在性糖タンパク質のガラクトシル化はGalT植物での9%からF1 TmXyl-GalT X MGR48植物での37%へと増進した。図35をも参照。
4. 該F1由来の精製rec-mAb(図36のパネルA)はガラクトシル化の増進を示している(46%がガラクトース)。図36のパネルAをも参照。
【0127】
しかしながら、観測量(MALDI-TOF)は該グリコフォームのin vivoモル比を必ずしも反映するものではない。MALDI-TOFに基づく定量は試験対象の個別グリコフォーム次第で過小にも過大にもなりうる。また、GalとManには分子量差がないため、ガラクトシダーゼ処理の前後で個別分子の相対高さに明らかな差が存在しない限り、紛らわしさを伴わざるを得ないピークも出てくる。
【0128】
実施例4
キシロース、フコースおよびガラクトースの各含量のもっと直接的な比較を、ハイブリドーマ、トランスジェニックタバコおよびTmXyl-GalTトランスジェニックタバコに由来するMGR48 IgG抗体を調べることによって行った。前述のようにTmXyl-GalT-12植物とMGR48 IgG発現タバコ植物(MGR48タバコ)を交雑させて、MGR48 TmXyl-GalTをもつF1交雑種を生成した。MGR48 IgGの抽出精製のためのF1植物を選別した。該植物(タバコおよびTmXyl-GalT)由来の抗体をプロテインGクロマトグラフィーにより単離、精製した(Elbers et al., 2001, Plant Physiology 126:1314-1322)。ハイブリドーマMGR48と植物由来recMGR48各々300ngを12%SDS-PAGEゲル(BioRad)に添加して電気泳動を行った。各レーンの中身は次のとおりであった: レーン1、ハイブリドーマ由来MGR48; レーン2、通常のトランスジェニックタバコ植物由来の精製recMGR48; レーン3、TmXyl-GalTトランスジェニック植物由来の精製recMGR48。SDS-PAGEの後、CAPS緩衝液を使用してタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。ブロットにインキュベーションに使用した抗体は次のとおり: A、抗マウスIgG; B、ウサギ抗HRPポリクローナル抗体(抗キシロース/(α1,3-)フコース); C、抗キシロース; D、抗(α1,3-)フコース抗体; およびE、ビオチニル化RCA。検出は、HRP標識ヒツジ抗マウス(パネルA)またはヤギ抗ウサギ(パネルB〜D)抗体およびHRP標識ストレプトアビジン(バネルE)とのインキュベーション後に、Lumi ImagerでLumiLightを使用して行った。
【0129】
パネルAはどのレーン(1〜3)にもほぼ同量のMGR48 IgGを添加したことを示す。L、 HはMGR48 IgGの軽鎖、重鎖を指す。パネルBはレーン2(MGR48タバコ)でMGR48抗体の重鎖が予想どおり抗HRPと強く反応すること、またハイブリドーマ由来MGR48(レーン1)の重鎖は(予想どおり)そのようには反応しないことを示す。ハイブリドーマ由来抗体はキシロースおよびα1,3-フコース残基を含まない。際立つことに、TmXyl-GalTタバコ植物由来MGR48抗体もまた反応しないが、これはこの植物に由来する抗体の重鎖でN-グリカン上のキシロースおよびフコース残基量が著しく(おそらく90%以上)減少したことを示唆する。これはパネルC(抗キシロース)とパネルD(抗フコース)の実験により確認される。パネルEはハイブリドーマ由来MGR48抗体(レーン1)の重鎖がガラクトシル化N-グリカンをもつ一方でタバコ由来MGR48(レーン2)はそれをもたないことを(いずれも予想どおり)示す。TmXyl-GalT植物由来MGR48 (レーン3)の重鎖もまた、ハイブリッド酵素を発現するコンストラクトが存在するおかげで、ガラクトシル化N-グリカンをもつ。
【0130】
これらのデータは以前に示したような同様の植物(タバコおよびTmXyl-GalT-12植物)に由来する全タンパク質抽出物を使用する類似の実験で得られたデータと一致し、またタバコに導入された、TmXyl-GalT遺伝子の発現に由来する新規形質が子孫と組換えモノクローナル抗体に安定的に伝えうることを確認する。
【0131】
実施例5
前記F1交雑種のさらなる特性解明をβ-ガラクトシダーゼ処理によって行った。Table 3はTmXyl-GalT植物とMGR48植物のF1交雑種由来する(プロテインGクロマトグラフィー精製)rec-mAbのN-グリカンの、β-ガラクトシダーゼ処理前後の質量スペクトル(MALDI-TOF)分析結果の比較である。
【0132】
【表4】
【表5】
【0133】
これらの結果は次のことを示す:
1. F1交雑種由来のrec-mAbが含むガラクトース量はβ-ガラクトシダーゼ処理後の特定(含ガラクトース)グリコフォームの実際の減少とガラクトースを欠くグリコフォームの増加から推測しうる。m/z1622の6%から1%への実際の減少とそれと同時に見られるm/z1460の10%から14%への増加とはGalGNM5からのガラクトースの除去に伴うGNM5の生成の結果である。同じことはm/z1768 (3%から1%への減少)とそれに対応するm/z1606(4%から6%への増加)にも言える。図36のパネルEをも参照。
2. 同様に、ガラクトシダーゼ処理により、ガラクトースを含むグリカンに帰することが可能な多数のピーク特にガラクトースの存在を裏付けるm/z 1501、1647および1663が消失する。
【0134】
実施例6
別の実施態様では、昆虫マンノシダーゼIII 遺伝子(登録番号AF005034; マンノシダーゼII遺伝子と誤記されている!)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図37参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドマンノシダーゼIII タンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0135】
実施例7
別の実施態様では、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子(登録番号A52551)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図39参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドβ-1,4-ガラクトシル転移酵素タンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0136】
実施例8
別の実施態様では、シロイヌナズナGnTI(登録番号AJ243198)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図41参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドGnTIタンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0137】
実施例9
別の実施態様では、シロイヌナズナGnTII(登録番号AJ249274)のアミノ末端CTS領域を、小胞体(ER)への搬入用のマウスのシグナルペプチドをコードする配列に取り替える(図43参照)。このシグナルペプチド配列は、通常はIgG配列のアミノ末端に存在する完全活性シグナルペプチドをコードしており、植物や他生物に使用して成功した実績がある。さらに、いわゆる小胞体残留配列(KDEL)をコードする合成配列をER残留用に、触媒断片をコードする遺伝子部分のカルボキシル末端に付加する。この遺伝子配列によってコードされるハイブリッドGnTIIタンパク質は従って、ERに優先的に集積することになろう。
【0138】
実施例10
別の実施態様では、ヒトβ-1,4-ガラクトシル転移酵素(GalT)遺伝子のアミノ末端CTS領域を、ヒトGnTI(TmhuGnTI-GalT)遺伝子のCTS領域に取り替える(図45参照)。
【0139】
本発明は特定の機構に限定されないものとする。本発明の種々の実施態様を首尾よく使用するうえで機構を理解する必要もない。にもかかわらず、ゴルジ酵素には順序立てられた分布が存在し(図47)、また植物糖転移酵素の膜貫通ドメイン(内)のスワッピングは再局在化を引き起こす(図48)と考えられる。
【0140】
本明細書では特定の方法論、プロトコール、細胞株、ベクターおよび試薬を開示しているが、それらは変化する可能性があり、本発明はそれらに限定されないものとする。また本明細書で使用した用語は特定の実施態様を説明するためだけに使用しており、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲では、文脈からそうでないことが明白である場合を除き、名詞の単数、複数、特定、不特定を区別しない。本明細書で使用した専門用語、学術用語はすべて、別段の記述がない限り、当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
【0141】
本明細書で開示し特許請求している発明は開示の個別実施態様に限定されない。これらの実施態様は本発明のいくつかの態様を説明するものでしかない。同等の実施態様はすべて本発明の範囲に包含されるものとする。実際、以上の説明から当業者には開示の実施態様とは別の種々の変更態様が自明となろう。そうした変更態様もまた本発明の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0142】
本明細書では種々の参考文献を引用しているが、それらは引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3の核酸配列を含む、植物キシロシル転移酵素の膜貫通領域及び哺乳類ガラクトシル転移酵素の触媒領域を含むバイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項3】
請求項2に記載のベクターによりトランスフェクトされた植物細胞。
【請求項4】
請求項3に記載の植物細胞を含む細胞懸濁液。
【請求項5】
請求項3に記載の植物細胞を含む植物。
【請求項6】
請求項3に記載の植物細胞により発現されたハイブリッド酵素。
【請求項7】
配列番号4のアミノ酸配列を含むハイブリッド酵素。
【請求項8】
以下のステップ:
a)i)植物細胞と、ii)請求項1に記載の、ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターとを、用意し、そして
b)前記ハイブリッド酵素が発現される条件下で、前記植物細胞内に、前記発現ベクターを、導入する、
を含む、ハイブリッド酵素の製造方法。
【請求項9】
植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項10】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項12】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項13】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項14】
前記ヒト・ガラクトシル転移酵素はSEQ ID NO:1の核酸配列の少なくとも一部分によりコードされる、請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
請求項9に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項17】
植物細胞である、請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の宿主細胞を含む細胞懸濁液。
【請求項19】
請求項17に記載の宿主細胞が発現するハイブリッド酵素。
【請求項20】
請求項17に記載の宿主細胞を含む植物。
【請求項21】
第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項22】
前記第1糖転移酵素が植物糖転移酵素を含む、請求項21に記載の核酸。
【請求項23】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項22に記載の核酸。
【請求項24】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項22に記載の核酸。
【請求項25】
前記第2糖転移酵素が哺乳動物糖転移酵素である、請求項21に記載の核酸。
【請求項26】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項25に記載の核酸。
【請求項27】
前記第1糖転移酵素が第1哺乳動物糖転移酵素を含み、かつ、前記第2糖転移酵素が第2哺乳動物糖転移酵素を含む、請求項21に記載の核酸。
【請求項28】
前記第1糖転移酵素は非ヒト糖転移酵素である、請求項27に記載の核酸。
【請求項29】
前記第2糖転移酵素はヒト糖転移酵素である、請求項27に記載の核酸。
【請求項30】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)とii)を用意するステップ: i)植物細胞、およびii)植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; および
b) 該発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項31】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト・ガラクトシル転移酵素はSEQ ID NO:1の核酸配列の少なくとも一部分によりコードされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)、ii) およびiii)を用意するステップ: i)植物細胞、ii)植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクター; および
b) 該第1および第2発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項37】
前記異種タンパク質は抗体又は抗体断片である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi) およびii)を用意するステップ: i)植物糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクターを含む第1植物、およびii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクターを含む第2植物; および
b) 該第1および第2植物を交雑して該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質とを発現する子孫を生み出すステップ
を含む方法。
【請求項39】
第1発現ベクターと第2発現ベクターとを含む植物であって、該第1発現ベクターは植物糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、該第2発現ベクターは異種タンパク質をコードする核酸を含む前記植物。
【請求項40】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してフコース含量の減少を示す請求項39に記載の植物。
【請求項41】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してキシロース含量の減少を示す、請求項39に記載の植物。
【請求項42】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してフコース、キシロース両含量の減少を示す、請求項39に記載の植物。
【請求項43】
前記異種タンパク質が複合型の2本鎖グリカンを示し、少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む、請求項39に記載の植物。
【請求項44】
膜貫通部分を削除し小胞体残留シグナルを挿入した組換え哺乳動物ガラクトシル転移酵素を含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項45】
植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸であって、該CTS領域はN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)に由来し、該触媒部分はマンノシダーゼII(ManII)に由来する前記核酸。
【請求項46】
植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸であって、該CTS領域またはその一部分はN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)に由来し、該触媒部分はN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)に由来する前記核酸。
【請求項47】
(a)マンノシダーゼIII 糖転移酵素をコードする核酸配列と(b)植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列とを含む植物宿主系。
【請求項48】
(a) (i)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域とタンパク質の膜貫通領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(ii)N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の膜貫通領域とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(iii) N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の膜貫通領域とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列−以上の(i)、(ii)、(iii)を含むベクターを植物宿主系に導入するステップと(b)該核酸配列を発現する植物またはその一部分を単離するステップとを含む方法。
【請求項49】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)とii)を用意するステップ: i)宿主細胞、およびii)第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; および
b) 該発現ベクターを、該宿主細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項50】
前記第1糖転移酵素が植物糖転移酵素を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記植物糖転移酵素がキシロシル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記第2糖転移酵素は哺乳動物転移酵素である、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)、ii)およびiii)を用意するステップ: i)宿主細胞、ii)第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクター; および
b) 該第1および第2発現ベクターを、該宿主細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項57】
前記異種タンパク質が抗体又は抗体断片である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
異種タンパク質を単離するステップc)をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
請求項58に記載の方法に従って生産される単離異種タンパク質。
【請求項60】
第1発現ベクターと第2発現ベクターとを含む宿主細胞であって、該第1発現ベクターは第1糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と第2糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、該第2発現ベクターは異種タンパク質をコードする核酸を含む前記宿主細胞。
【請求項61】
請求項60に記載の宿主細胞から単離される異種タンパク質。
【請求項1】
配列番号3の核酸配列を含む、植物キシロシル転移酵素の膜貫通領域及び哺乳類ガラクトシル転移酵素の触媒領域を含むバイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項3】
請求項2に記載のベクターによりトランスフェクトされた植物細胞。
【請求項4】
請求項3に記載の植物細胞を含む細胞懸濁液。
【請求項5】
請求項3に記載の植物細胞を含む植物。
【請求項6】
請求項3に記載の植物細胞により発現されたハイブリッド酵素。
【請求項7】
配列番号4のアミノ酸配列を含むハイブリッド酵素。
【請求項8】
以下のステップ:
a)i)植物細胞と、ii)請求項1に記載の、ハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクターとを、用意し、そして
b)前記ハイブリッド酵素が発現される条件下で、前記植物細胞内に、前記発現ベクターを、導入する、
を含む、ハイブリッド酵素の製造方法。
【請求項9】
植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項10】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項12】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項13】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項9に記載の核酸。
【請求項14】
前記ヒト・ガラクトシル転移酵素はSEQ ID NO:1の核酸配列の少なくとも一部分によりコードされる、請求項13に記載の核酸。
【請求項15】
請求項9に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項17】
植物細胞である、請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の宿主細胞を含む細胞懸濁液。
【請求項19】
請求項17に記載の宿主細胞が発現するハイブリッド酵素。
【請求項20】
請求項17に記載の宿主細胞を含む植物。
【請求項21】
第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項22】
前記第1糖転移酵素が植物糖転移酵素を含む、請求項21に記載の核酸。
【請求項23】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項22に記載の核酸。
【請求項24】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項22に記載の核酸。
【請求項25】
前記第2糖転移酵素が哺乳動物糖転移酵素である、請求項21に記載の核酸。
【請求項26】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項25に記載の核酸。
【請求項27】
前記第1糖転移酵素が第1哺乳動物糖転移酵素を含み、かつ、前記第2糖転移酵素が第2哺乳動物糖転移酵素を含む、請求項21に記載の核酸。
【請求項28】
前記第1糖転移酵素は非ヒト糖転移酵素である、請求項27に記載の核酸。
【請求項29】
前記第2糖転移酵素はヒト糖転移酵素である、請求項27に記載の核酸。
【請求項30】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)とii)を用意するステップ: i)植物細胞、およびii)植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; および
b) 該発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項31】
前記植物糖転移酵素はキシロシル転移酵素である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト・ガラクトシル転移酵素はSEQ ID NO:1の核酸配列の少なくとも一部分によりコードされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)、ii) およびiii)を用意するステップ: i)植物細胞、ii)植物糖転移酵素の膜貫通領域と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクター; および
b) 該第1および第2発現ベクターを、該植物細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項37】
前記異種タンパク質は抗体又は抗体断片である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi) およびii)を用意するステップ: i)植物糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクターを含む第1植物、およびii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクターを含む第2植物; および
b) 該第1および第2植物を交雑して該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質とを発現する子孫を生み出すステップ
を含む方法。
【請求項39】
第1発現ベクターと第2発現ベクターとを含む植物であって、該第1発現ベクターは植物糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と哺乳動物糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、該第2発現ベクターは異種タンパク質をコードする核酸を含む前記植物。
【請求項40】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してフコース含量の減少を示す請求項39に記載の植物。
【請求項41】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してキシロース含量の減少を示す、請求項39に記載の植物。
【請求項42】
前記異種タンパク質がハイブリッド酵素を欠く植物中で発現した場合と比較してフコース、キシロース両含量の減少を示す、請求項39に記載の植物。
【請求項43】
前記異種タンパク質が複合型の2本鎖グリカンを示し、少なくとも1本のアーム上にガラクトース残基を含む、請求項39に記載の植物。
【請求項44】
膜貫通部分を削除し小胞体残留シグナルを挿入した組換え哺乳動物ガラクトシル転移酵素を含むハイブリッド酵素をコードする核酸。
【請求項45】
植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸であって、該CTS領域はN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)に由来し、該触媒部分はマンノシダーゼII(ManII)に由来する前記核酸。
【請求項46】
植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸であって、該CTS領域またはその一部分はN-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)に由来し、該触媒部分はN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)に由来する前記核酸。
【請求項47】
(a)マンノシダーゼIII 糖転移酵素をコードする核酸配列と(b)植物糖転移酵素のCTS領域またはその一部分と哺乳動物糖転移酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列とを含む植物宿主系。
【請求項48】
(a) (i)植物には通常見られないガラクトシル転移酵素の触媒領域とタンパク質の膜貫通領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(ii)N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の膜貫通領域とマンノシダーゼII(ManII)の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列、(iii) N-アセチルグルコサミニル転移酵素I(GnTI)の膜貫通領域とN-アセチルグルコサミニル転移酵素II(GnTII)の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸配列−以上の(i)、(ii)、(iii)を含むベクターを植物宿主系に導入するステップと(b)該核酸配列を発現する植物またはその一部分を単離するステップとを含む方法。
【請求項49】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)とii)を用意するステップ: i)宿主細胞、およびii)第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む発現ベクター; および
b) 該発現ベクターを、該宿主細胞中に、該ハイブリッド酵素を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項50】
前記第1糖転移酵素が植物糖転移酵素を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記植物糖転移酵素がキシロシル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記植物糖転移酵素はN-アセチルグルコサミニル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記植物糖転移酵素はフコシル転移酵素である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記第2糖転移酵素は哺乳動物転移酵素である、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記哺乳動物糖転移酵素はヒト・ガラクトシル転移酵素である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
次のステップa)、b)、すなわち
a) 次のi)、ii)およびiii)を用意するステップ: i)宿主細胞、ii)第1糖転移酵素の膜貫通領域と第2糖移転酵素の触媒領域とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含む第1発現ベクター、およびiii)異種糖タンパク質をコードする核酸を含む第2発現ベクター; および
b) 該第1および第2発現ベクターを、該宿主細胞中に、該ハイブリッド酵素と該異種タンパク質を発現させるような条件下に、導入するステップ
を含む方法。
【請求項57】
前記異種タンパク質が抗体又は抗体断片である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
異種タンパク質を単離するステップc)をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
請求項58に記載の方法に従って生産される単離異種タンパク質。
【請求項60】
第1発現ベクターと第2発現ベクターとを含む宿主細胞であって、該第1発現ベクターは第1糖転移酵素の膜貫通領域の少なくとも一部分と第2糖移転酵素の触媒領域の少なくとも一部分とを含むハイブリッド酵素をコードする核酸を含み、該第2発現ベクターは異種タンパク質をコードする核酸を含む前記宿主細胞。
【請求項61】
請求項60に記載の宿主細胞から単離される異種タンパク質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図17−3】
【図17−4】
【図18−1】
【図18−2】
【図18−3】
【図19−1】
【図19−2】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23−1】
【図23−2】
【図23−3】
【図23−4】
【図23−5】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27−1】
【図27−2】
【図27−3】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図30−1】
【図30−2】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37−1】
【図37−2】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図17−3】
【図17−4】
【図18−1】
【図18−2】
【図18−3】
【図19−1】
【図19−2】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23−1】
【図23−2】
【図23−3】
【図23−4】
【図23−5】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27−1】
【図27−2】
【図27−3】
【図28】
【図29−1】
【図29−2】
【図30−1】
【図30−2】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37−1】
【図37−2】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【公開番号】特開2012−70761(P2012−70761A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6293(P2012−6293)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【分割の表示】特願2009−163961(P2009−163961)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願人】(510090760)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【分割の表示】特願2009−163961(P2009−163961)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願人】(510090760)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]