説明

植物保護剤の製造方法

【課題】薬害が発生しにくく安全な植物保護剤の製造方法を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンに包接された植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を含有する植物保護剤の製造方法であって、質量比にて、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、粉末状のシクロデキストリンを1以上の割合として、減圧下にて植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方をシクロデキストリンに包接することを特徴とする植物保護剤の製造方法。このように植物保護剤を製造することにより、原料として用いた植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を確実にシクロデキストリンに包接でき、薬害が発生しにくく安全な植物保護剤を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物などの植物における害虫や病原菌などの有害生物の発生を防止するための植物保護剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物油およびマシン油などの油脂は、害虫の体表を被うことによって呼吸を阻害して殺虫効果を示すことが古くから知られており、現在大量に使用されている化学合成農薬と比較して、害虫に抵抗性がつきにくいという特徴がある。
【0003】
また、カンキツ油、ヒノキ油、ラベンダー油などの植物油は、植物病原菌の生長を著しく阻害する作用を有している。
【0004】
このような植物油およびマシン油などの油脂は、人畜への被害や農作物への残留などが問題となる化学合成農薬と比べて、非常に安全で安心である。
【0005】
そして、従来、農作物の有害生物を防除するものとしては、化学合成農薬の他に、植物油やマシン油を乳化剤によって水に溶けやすいように製剤化したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−132773号公報(第2,4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1などの乳化剤を用いた植物油やマシン油は、農作物の葉の褐変や落葉などの薬害が発生しやすい問題がある。
【0008】
また、マシン油乳化剤は、特に野菜および花卉類などに対して薬害が発生しやすいため、対象農作物は果樹を含む樹木類に限られてしまう。
【0009】
また、夏季における使用では、樹木類でも薬害の発生が問題となってしまうので、マシン油乳化剤は、主として冬季の使用に限定されてしまう。
【0010】
なお、高度に精製したマシン油乳化剤は、夏季におけるカンキツ類への散布も可能であるが、果実や葉に油しん状の斑点が生じてしまう問題がある。
【0011】
さらに、乳化剤は、有機農産物の生産に使用できず、また、乳化剤の多くが食品添加物としても認められていないため、最近高まっている消費者の安全で安心な農作物への需要を満足することができない問題が考えられる。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、薬害が発生しにくく安全な植物保護剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載された植物保護剤の製造方法は、シクロデキストリンに包接された植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を含有する植物保護剤の製造方法であって、質量比にて、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、粉末状のシクロデキストリンを1以上の割合として、減圧下にて植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方をシクロデキストリンに包接するものである。
【0014】
請求項2に記載された植物保護剤の製造方法は、請求項1に記載された植物保護剤の製造方法において、植物油は、カンキツ油、ヒノキ油、ラベンダー油およびヒマシ油のうちのいずれかであるものである。
【0015】
請求項3に記載された植物保護剤の製造方法は、請求項1に記載された植物保護剤の製造方法において、マシン油は、純度が97%以上であるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された発明によれば、シクロデキストリンと植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方とを用いたものであり、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、粉末状のシクロデキストリンを1以上の割合として、減圧下にて植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方をシクロデキストリンに包接するため、原料として用いた植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を確実にシクロデキストリンに包接でき、薬害が発生しにくく安全な植物保護剤を製造できる。
【0017】
請求項2に記載された発明によれば、薬害の発生を効果的に防止できる。
【0018】
請求項3に記載された発明によれば、薬害の発生を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シクロデキストリン包接のカンキツ油を噴霧した後の致死状態のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシを示す写真である。
【図2】シクロデキストリン包接のカンキツ油を噴霧した後の致死状態のキボシカミキリを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0021】
植物保護剤は、例えば果実や野菜などの生育中の農作物などの植物に対して用いられるものであり、シクロデキストリン(CD)に包接された植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を含有している。
【0022】
シクロデキストリンは、Bacillus属の微生物が生産する酵素であるシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼをデンプンに作用させて、グルコースをα−1,4結合させている環状のオリゴ糖であり、その存在は100年以上前から知られていた。
【0023】
このシクロデキストリンは、中央に空洞が形成された構造であり、外側に親水性の置換基を有し、内側に疎水性の置換基を有し、中央の空洞には様々な分子を取り込んで包接できる。すなわち、このシクロデキストリンの中央の空洞に、植物油の分子やマシン油の分子が取り込まれて包接される。
【0024】
また、包接された植物油およびマシン油は、安定化されるとともに、シクロデキストリンの外側が親水性であるため、水に対する溶解性が向上する。
【0025】
自然に存在するシクロデキストリンは、グルコースが6個結合したオリゴマーであるα型、グルコースが7個結合したオリゴマーであるβ型、およびグルコースが8個結合したオリゴマーであるγ型があり、いずれのシクロデキストリンを用いてもよい。
【0026】
なお、日本では、1976年に世界に先駆けてシクロデキストリンの工業生産が開始されたものの、当時からごく最近までは非常に高価であったが、最近になってシクロデキストリンを選択的に生産できる酵素が発見され、安価で高純度なシクロデキストリンが供給されるようになった(寺尾啓二,小西真由子,中田大介,上梶友記子、「古くて新しい食品素材−天然シクロデキストリンの利用技術−」、FFI JOURNAL、日本、日本食品化学研究振興財団、2005年、第210巻、第3号、p.222−243)。
【0027】
このようなシクロデキストリンの安全性は、世界保健機構(WTO)および国連食糧農業機関(FAO)が組織する世界食品添加物合同専門家会議(JECFA)で厳密に調査され、シクロデキストリンは非常に安全な食品添加物として評価されている。
【0028】
植物油は、カンキツ油、ヒノキ油、ラベンダー油およびヒマシ油が好ましいが、これらには限定されず、植物に由来するものであればよい。また、圧搾油、抽出油および精油のいずれでもよい。
【0029】
ここで、現在、カンキツ果実搾汁残渣からのバイオエタノールの製造方法が提案されており、その製造が稼動され始めている。しかしながら、搾汁残渣にカンキツ油が残存するとバイオエタノールの生産に関与する酵母の生長を阻害し、生産性が低下してしまう(Wilkins M.R.、外4名、「Ethanol production by Saccharomyces cerevisiae and Kluyveromyces marxianus in the presence of orange−peel oil」、World Journal of Microbiology and Biotechnology、vol.23、p.1161−1168)。
【0030】
そこで、カンキツ果実搾汁残渣からのバイオエタノールの生産においては、カンキツ油が取り除かれるため、この取り除かれたカンキツ油をシクロデキストリンに包接させる植物油として用いると、本来廃棄されるものを有効利用できる。
【0031】
マシン油は、石油に含まれる硫黄が多いと薬害が発生する可能性が考えられるため、高度に精製されたものが好ましい。具体的には、純度97%以上のものが用いられることが好ましい。
【0032】
植物保護剤は、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方とシクロデキストリンとが、質量比にて、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、シクロデキストリンが1以上の割合、すなわち、原料として用いた植物油およびマシン油の全てがシクロデキストリンに包接される割合で用いられる。
【0033】
植物保護剤は、水に溶解させて希釈して使用でき、100倍より大きく希釈すると、有害生物を効果的に防除できない可能性が考えられるため、100倍以下に希釈することが好ましい。
【0034】
植物保護剤は、農作物への付着性を向上させるため、例えばデンプンのりなどの粘着性を有しかつ安全で安心な付着剤を含有させてもよい。
【0035】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0036】
上記の植物保護剤によれば、例えば害虫や病原菌などの有害生物を防除できるだけでなく、非常に安全な食品添加物として評価されているシクロデキストリンに植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を包接させるため、農作物の褐変や落葉などの油処理による薬害が発生しにくく、季節などを限定されることなく使用できる。
【0037】
また、シクロデキストリン、植物油およびマシン油のいずれも安全なものであるので、人畜への被害という観点からも非常に安全で安心であり、例えば有機農産物の生産にも使用できる。
【0038】
シクロデキストリンに植物油やマシン油を包接させる際には、植物油およびマシン油の少なくとも一方に粉末状のシクロデキストリンを加えて混合し、減圧下で包接させる。
【0039】
この際、質量比にて、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、シクロデキストリンが1以上の割合となるように混合することにより、原料として用いた植物油やマシン油の全てをシクロデキストリンに確実に包接できるため、薬害の発生を効果的に防止できる。
【0040】
植物油は、カンキツ油、ヒノキ油、ラベンダー油およびヒマシ油のうちのいずれかを用いることにより、薬害の発生を効果的に防止できる。
【0041】
特に、植物保護剤に植物油を用いる場合は、カンキツ果実搾汁残渣からのバイオエタノールの製造にて排出されるカンキツ油を用いることにより、本来廃棄されるものを有効利用して原料コストを抑えることができる。
【0042】
マシン油は、純度が97%以上のものを用いることにより、植物保護剤における石油由来の硫黄の含有量を抑えることができるため、薬害の発生を効果的に防止できる。
【0043】
植物保護剤は、シクロデキストリンにより水に対する溶解性が良好であるため、使用する際には、水で希釈した状態で例えば噴霧器などにより生育中の農作物に散布できる。
【0044】
したがって、植物保護剤は、特別な溶媒や設備などを用いることなく、容易に使用できる。
【0045】
また、植物保護剤を水で希釈して使用する場合は、100倍以下に希釈することにより、有害生物を効果的に防除できる。
【0046】
さらに、植物保護剤は、例えばデンプンのりなど粘着性を有しかつ安全で安心な付着剤を含有させることにより、農作物への付着力を向上でき、有害生物を効果的に防除できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例について説明する。
【0048】
シクロデキストリンに包接された植物油およびマシン油それぞれについて、薬害の発生を確認した。
【0049】
この実験では、シクロデキストリン包接の植物油およびマシン油それぞれを蒸留水で100倍に希釈して種々の農作物に散布し、薬害の発生の確認をした。その結果を表1および表2に示す。
【0050】
なお、植物油としては、ヒマシ油、ダイダイ油、ユズ油、ウンシュウミカン油、ヒノキ油およびラベンダー油を用いた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1および表2に示すように、ヒノキ油を除く植物油やマシン油を用いたものでは、いずれも農作物全てにおいて薬害の発生がほとんど見られなかった。
【0054】
ヒノキ油を用いたものでは、薬害が発生する農作物もあり、特にキウイフルーツでは、薬害の発生が著しかった。
【0055】
なお、表1および表2には記載していないが、比較例としてマシン油乳化剤を散布したところ、ウンシュウミカンを除く全ての農作物で薬害が発生した。特にブドウでは激しい薬害が見られた。
【0056】
次に、カンキツ果実搾汁残渣からのバイオエタノールの製造にて排出されるカンキツ油を用いたシクロデキストリン包接のカンキツ油の病害虫防除効果を確認した。
【0057】
この実験では、シクロデキストリン包接のカンキツ油を蒸留水で100倍に希釈したものを害虫であるセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシおよびキボシカミキリに手持ちスプレーで直接噴霧した。噴霧した後の致死状態のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシを図1に示し、噴霧した後の致死状態のキボシカミキリを図2に示す。
【0058】
シクロデキストリン包接のカンキツ油を害虫に噴霧した結果、いずれの害虫も殺虫できた。
【0059】
また、図1および図2に示すように、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの体表面およびキボシカミキリの気門周辺にはシクロデキストリン包接のカンキツ油が付着していることが確認できる。
【0060】
次に、食パンにおけるシクロデキストリン包接のカンキツ油による防カビ効果を確認した。
【0061】
この実験では、6つ切り角食パンを1.5cm角に切断し、直径7.5cmのガラスシャーレに2つずつ載置した。
【0062】
そして、対照区である比較例としてガラスシャーレ内の食パンに蒸留水を滴下した。また、実施例としてシクロデキストリン包接のダイダイ油を蒸留水で100倍に希釈した溶液を滴下した。また、実施例としてシクロデキストリン包接のユズ油を蒸留水で100倍に希釈した溶液を滴下した。
【0063】
なお、比較例および各実施例ともに、滴下量は、300μl、200μlおよび100μlとした。
【0064】
蒸留水または溶液の滴下後、ガラスシャーレをビニールテープで密封し、28℃で1週間培養した。この結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示すように、蒸留水を滴下した対照区では、ガラスシャーレを埋め尽くすほどの糸状菌が発生していたのに対し、各実施例では、いずれも糸状菌の生長が抑制されていた。具体的には、シクロデキストリン包接のダイダイ油を300μl滴下させたものが最も防カビ効果が良好であり、シクロデキストリン包接のユズ油100μl滴下させたものが最も防カビ効果が小さかった。
【0067】
次に、直接噴霧によるシクロデキストリン包接のカンキツ油の糸状菌の生長抑制効果を確認した。
【0068】
この実験では、PDA培地(ポテトデキストロース寒天培地、栄研社製)0.38gおよび蒸留水10mlを直径7.5cmのガラスシャーレに入れ、オートクレーブ滅菌した。
【0069】
PDA培地上で28℃で24時間培養した青カビおよび黒コウジカビを、上記滅菌後のPDA培地にそれぞれ3cm程度離間して3箇所に接種した。
【0070】
そして、各糸状菌を接種した培地に、対照区である比較例として蒸留水を150μl噴霧した。また、実施例として、各糸状菌を接種した培地にシクロデキストリン包接のダイダイ油を150μl噴霧した。また、実施例として、各糸状菌を接種した培地にシクロデキストリン包接のユズ油を150μl噴霧した。
【0071】
噴霧後、それぞれのガラスシャーレをビニールテープで密閉して28℃で培養した。この結果を表4に示す。
【0072】
なお、シクロデキストリン包接のダイダイ油およびユズ油は、蒸留水で100倍に希釈し、フィルタ滅菌したものを用いた。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示すように、対照区では、培地上全体で糸状菌の生長していたのに対し、各実施例では、いずれも糸状菌の生長が抑制されていた。
【0075】
次に、ペーパーディスク法によってシクロデキストリン包接のカンキツ油による糸状菌抑制効果を確認した。
【0076】
この実験では、PDA培地0.38gおよび蒸留水10mlを直径7.5cmのガラスシャーレに入れ、オートクレーブ滅菌した。
【0077】
PDA培地上で28℃で24時間培養した青カビおよび黒コウジカビを、それぞれガラスシャーレ内の培地の両端2箇所に接種した。
【0078】
対照区である比較例として蒸留水、実施例としてシクロデキストリン包接のダイダイ油、および実施例としてシクロデキストリン包接のユズ油のそれぞれを300μl、200μlおよび100μlずつオートクレーブ滅菌済みペーパーディスク(ADBANTEC社製)に滴下した。
【0079】
そして、各ペーパーディスクをガラスシャーレ内の培地の中央に載置した状態で、ガラスシャーレをビニールテープで密封し、28℃で培養した。この結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5に示すように、対照区では、培地を占める糸状菌の割合が大きく、糸状菌が培地の殆ど全面を覆っていたのに対し、各実施例では、いずれも糸状菌の生長が抑制されていた。特に、高濃度処理区である300μl滴下の場合は、培地を占める糸状菌の割合が極めて小さく、糸状菌の抑制効果が高かった。
【0082】
次に、付着剤を用いたシクロデキストリン包接のカンキツ油の病害虫防除効果を確認した。
【0083】
植物保護剤は、野外での農作物などに散布するという観点から、農作物への付着性を向上させ、降雨などによる流亡を防止することも重要である。
【0084】
現在、このように付着性を向上させることを目的として、化学合成された展着剤が使用されているが、より安全で安心な農業を目指すため、粘着性を有しかつ安全で安心な付着剤であるデンプンのりを用いた。
【0085】
まず、付着剤として小麦デンプンの付着性を確認した。
【0086】
この実験では、対照区である比較例としての蒸留水、および、実施例として小麦デンプンによるデンプンのりを70℃の蒸留水で200倍、100倍、50倍および10倍に希釈したものに、それぞれ水に溶けると白濁するシクロデキストリンを加え、晴天日に種々の農作物に手持ちスプレーで散布した。
【0087】
比較例および実施例のいずれも葉面全体を白部が覆ったことから晴天時で付着していることが確認できる。
【0088】
そして、降雨前と降雨後との葉面の状態を比較し、付着の程度を確認した。この結果を表6に示す。
【0089】
【表6】

【0090】
表6に示すように、デンプンのりを含有させていない対照区では、いずれの農作物でも降雨により流されてしまった。
【0091】
実施例における100倍および200倍希釈の場合には、降雨によりブドウ、クリ以外の農作物では流されてしまった。
【0092】
実施例における50倍希釈の場合には、降雨後もモモ以外の農作物では流されにくく、散布直後と白部面積が殆ど変わらない農作物もあった。
【0093】
実施例における10倍希釈の場合は、だまになりやすく、散布された植物保護剤は乾燥すると固まって剥がれ落ちてしまう傾向があった。
【0094】
次に、付着剤を用いたシクロデキストリン包接のカンキツ油のハクサイにおける病害虫防除効果を確認した。
【0095】
この実験では、まず、1区画8個体ハクサイを定植したものを4区画用意した。
【0096】
1区画のハクサイに対照区である比較例として蒸留水のみを散布する処理を行った。
【0097】
また、別の1区画のハクサイに比較例としてデンプンのりを50倍に希釈したものを散布する処理を行った。
【0098】
また、別の1区画のハクサイにシクロデキストリン包接のダイダイ油を蒸留水で100倍に希釈したものを散布する処理を行った。
【0099】
また、別の1区画にハクサイに、シクロデキストリン包接のダイダイ油を蒸留水で100倍に希釈したものに、70℃の蒸留水で50倍に希釈したデンプンのりを加えたものを散布する処理を行った。
【0100】
各処理区画では、定植直後および3週間毎に3回それぞれの処理を行い、害虫による被害の程度を確認した。この結果を表7に示す。
【0101】
なお、表7の被害度指数は、外葉がわずかに食害されていた株数をAとし、外葉の食害は多いが芯葉(結球部)は食害されていなかった株数をBとし、外葉から芯葉の上部まで食害されていた株数をCとし、外葉から芯葉まで食害が多かった株数をDとし、調査株数をNとすると、被害度指数=((1A+2B+3C+4D)/4N)×100という式にて示され、害虫による被害の程度を表している。
【0102】
【表7】

【0103】
表7に示すように、比較例である対照区ではハクサイの外葉から芯葉まで害虫による激しい食害が発生しており、また、比較例であるデンプンのり50倍希釈区では、ハクサイの外葉から芯葉上部までの食害が確認された。
【0104】
一方、各実施例のいずれも、食害はハクサイの外葉にとどまり、内部への食害は全く見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンに包接された植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を含有する植物保護剤の製造方法であって、
質量比にて、植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方を1とすると、粉末状のシクロデキストリンを1以上の割合として、減圧下にて植物油およびマシン油の少なくともいずれか一方をシクロデキストリンに包接する
ことを特徴とする植物保護剤の製造方法。
【請求項2】
植物油は、カンキツ油、ヒノキ油、ラベンダー油およびヒマシ油のうちのいずれかである
ことを特徴とする請求項1記載の植物保護剤の製造方法。
【請求項3】
マシン油は、純度が97%以上である
ことを特徴とする請求項1記載の植物保護剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−229262(P2012−229262A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164521(P2012−164521)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【分割の表示】特願2011−59779(P2011−59779)の分割
【原出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 園芸学会平成22年度秋季大会 主催者名 園芸学会 開 催 日 平成22年9月19日
【出願人】(302018020)
【Fターム(参考)】