説明

植物効果発現促進剤の製造方法

【課題】 モリブデン等の微量要素を、自然環境を破壊することなく、極めて簡単な作業で効率良く植物に供給できるようにする。
【解決手段】 植物効果発現促進剤1は、ステアリン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、炭粉、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、ゼオライト粉、グラスウール及びポリ酢酸ビニルからなり、固形状に形成されている。この植物効果発現促進剤1を、樹木の幹2の株元から約100cmの周面に、間隔a=10cmで埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の成長を促進させる効果を有する植物効果発現促進剤及び植物の効果発現促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化による大気環境や酸性雨由来の硝酸及び硫酸の影響は、植物の外部組織の劣化を起こし、衰退や枯現象を起こさせると考えられている。実際には、酸性雨降下地域で枯れる植物と枯れない植物とが存在し、酸性雨の影響は不明であるが、衰退や枯れる植物の葉からは硝酸態窒素や硫酸イオンが検出でき、これらの酸は未分解で存在していることが解る。
【0003】
これらの酸を無害化するために硝酸態窒素と硫酸イオンとを分解する必要があり、この分解にはモリブデンを結合する酵素が必須である。そして、この分解により硝酸及び硫酸を無害化して代謝に取り込ませると、個体内では蛋白質及び硫黄となり、硫黄結合蛋白やビタミン及び精油が生成される。
【0004】
しかしながら、好硝酸性植物の多くはモリブデンの欠乏状態にあり、極めて大きな影響を受けている。すなわち、モリブデンの欠乏により、蛋白の生成撹乱、高温時の蛋白質変性に伴うアンモニアガスの生成や硫化水素による阻害、炭素代謝、窒素代謝及び硫黄代謝の混乱、細胞に対する阻害的分解等を起こし、個体を劣勢化させる。その結果、個体外部組織に常時存在するバクテリア(エンテロバクターアセエ様菌)や黒酵母(オーレオバシデウムプルランス様菌)の浸入を容易にしている。特に、高温時において著しいものであった。
【0005】
ところで、モリブデンは活性部に転移蓄積する為に、例えばマツでは旧葉のモリブデンは生長点成長および新葉展開に伴い新葉に転移蓄積するが、欠乏した個体の旧葉からモリブデン移転後の頂上芽や新葉では必要量に達せず活性部は更に欠乏が進む。欠乏症状は葉の形状に現れ奇形が多く観察され、モリブデン欠乏症での多くは、葉のオレンジ色の斑点、葉の変形、葉枯れ、頂芽の生長抑制と側芽の生長、生長点分裂異常、頂上芽の壊死が観察される。また、個体内にアセトアルデヒドの蓄積、硝酸態窒素の蓄積、蛋白質の減少、アミノ酸の種類の減少が起きる硝酸態窒素のアミノ酸化の低下においては、アンモニアガスの産生や炭素同化産物とのバランスにも影響し、炭素同化産物の偏った過剰は、無気呼吸により発酵及びマグネシウムとグルコースとが結合して葉外廃棄される。
【0006】
また、好硝酸植物の衰退の因子に、アセトアルデヒドの生成と蓄積があり、アセトアルデヒドは、炭水化物と糖の過剰生成からの腐敗に由来した産生物である。このアセトアルデヒドを無害化するにもモリブデン結合酵素の作用が必要である。
【0007】
アセトアルデヒドを無害化する酵素には、マンガン、亜鉛、銅も役割を担うが、現在の酸化的環境下での成分分析における値では、過剰と言える値が測定でき、モリブデンはこれらとも拮抗するものである。モリブデン欠乏の原因は、酸化的環境下における土壌中で不動態であった非金属類の可溶化が容易に起こり、その化学性と量的なものが大地含量の少ないモリブデンを抑制し、根からの吸収を妨害するからである。
【0008】
モリブデンが個体内に十分に存在すれば、過剰吸収された金属類は個体外部に蓄積後排出される。金属類やモリブデンは、冬季休眠期に個体内に蓄積され、高温となる夏季には排出されるが、転移蓄積の場は、樹皮が多く、マツでは芽鱗、松果、花粉、樹皮である。
【0009】
従来、植物にモリブデンを供給するには、肥料に鉄、亜鉛、銅、ホウ素等と同時にモリブデンを配合し、土壌散肥、葉面散布により行なっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2002−173388号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来のモリブデンを添加した肥料を散肥する方法におおいては、極めて効率が悪いものであった。すなわち、土壌中には酸性雨由来の硫酸イオンが存在し、根の表面には高濃度の硫酸イオンの膜が存在しており、例えば、本発明者が測定した場所では、土壌中の硫酸イオンの濃度が130mg/kg、根の表面の硫酸イオンの濃度が1300mg/kgであった。また、土壌中には、モリブデン酸に拮抗し得る銅、アルミニウム、鉄等の金属イオンが可溶化して存在するものであった。なお、土壌中のモリブデン量は、0.2〜0.3mg/kg程度の値が多い。
【0012】
したがって、モリブデン酸イオンは、硫酸イオン等との拮抗作用により、根からの吸収が抑制されており、十分な量のモリブデンを供給することができなかった。また、モリブデンの供給量を多くしようとすると、高濃度のモリブデン酸塩を散肥しなければならず、環境汚染を引き起こす恐れがあった。
【0013】
また、葉面散布による方法は、通常、モリブデン酸塩が0.3%程度の液肥を数回に亘って散布しており、散布後の分析値は十分量に増加するが、個体外部に付着したものも測定されるもので、実際には個体内での実質有効量は低量であり、十分に供給することができなかった。さらに、高木の場合は、大型の機材が必要となるものであった。
【0014】
本発明は、以上の問題点を解決し、微量要素を効率よく植物に供給できるようにした植物効果発現促進剤及び植物の効果発現促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討し、従来の植物個体の外部から吸収させる方法と異なり、植物個体に埋設することにより内部において直接吸収させる方法に着目し、微量要素を含有する固形物が極めて効果的に供給することを見出し、本発明を完成させたものである。
【0016】
請求項1記載の植物効果発現促進剤は、固形化可能で且つ水溶性の基材と、該基材に含有された植物に必須の微量要素とからなり、固形状であることを特徴として構成されている。
【0017】
請求項2記載の植物効果発現促進剤は、請求項1記載の植物効果発現促進剤において、炭粉が含有されていることを特徴として構成されている。
【0018】
請求項3記載の植物効果発現促進剤は、請求項1又は2記載の植物効果発現促進剤において、微量要素がモリブデンであることを特徴として構成されている。
【0019】
請求項4記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2又は3記載の植物効果発現促進剤において、基材が陰イオン界面活性剤である特徴として構成されている。
【0020】
請求項5記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2又は3記載の植物効果発現促進剤において、ポリ酢酸ビニルが含有されていることを特徴として構成されている。
【0021】
請求項6記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2、3、4又は5記載の植物効果発現促進剤において、陽イオン界面活性剤が含有されていることを特徴として構成されている。
【0022】
請求項7記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2、3、4、5又は6記載の植物効果発現促進剤において、ゼオライトが含有されていることを特徴として構成されている。
【0023】
請求項8記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の植物効果発現促進剤において、短繊維体が含有されていることを特徴として構成されている。
【0024】
請求項9記載の植物効果発現促進剤は、請求項1記載の植物効果発現促進剤において、微量要素が基材100重量部に対して、20〜50重量部含有されていることを特徴として構成されている。
【0025】
請求項10記載の植物効果発現促進剤は、請求項2記載の植物効果発現促進剤において、炭粉が基材100重量部に対して、50〜150重量部含有されていることを特徴として構成されている。
【0026】
請求項11記載の植物効果発現促進剤は、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10記載の植物効果発現促進剤において、略円柱状に成形され、直径が20mm以下であることを特徴として構成されている。
【0027】
請求項12記載の植物の効果発現促進方法は、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の植物効果発現促進剤を樹木の幹に埋設することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の植物効果発現促進剤においては、固形状に形成されているので、樹木の幹等に直接埋め込むことができ、植物の内部において直接微量要素を供給することができるので、土壌散肥、葉面散布等の外部からの供給と異なり、極めて効率的に微量要素を植物内に供給することができる。すなわち、植物効果発現促進剤を幹に埋め込むと、個体内の樹液により基材が溶解され、微量要素が樹液に溶出する。そして、樹液に溶出した微量要素が樹液の上昇流及び下降流を介して個体全域に転移分散されるので、微量要素は、確実かつ長期間に亘って持続的に植物に供給される。また、幹に直接埋設することにより、周囲の環境を汚染することがない。
【0029】
請求項2記載の植物効果発現促進剤においては、炭粉が含有されており、この炭粉は、骨材としての機能の他、通電性を付与し、溶解後は樹木の樹液の通電性と同等になる。この特性が樹木のカルスの形成を誘導する。すなわち、植物効果発現促進剤を幹に埋設した際、植物効果発現促進剤を埋設した穿孔口の周囲からカルスが形成され閉口されるが、これは炭粉による通電作用で微小電流を導くためにカルスの形成が誘導されるためである。なお、カルスの形成は、ポリ酢酸ビニル及び基材の持つ吸湿性での保湿効果も寄与している。
【0030】
請求項3記載の植物効果発現促進剤においては、微量要素としてモリブデンが含有されており、モリブデンを効率良く植物に供給することができる。モリブデンを供給することにより、窒素代謝及び硫黄代謝の回復を起因に炭素代謝や各代謝活性に導くことで劣勢から優勢に戻す。すなわち、植物の蛋白質の多くは酵素といってよいほどであり、植物由来のアルデヒドオキシタ−ゼ、亜流酸オキシタ−ゼ及び亜硝酸レダクタ−ゼの補酵素には、モリブデンが結合している。したがって、モリブデンを供給することによって、モリブデンと結合する酵素を持つ植物の欠乏症には適用でき、アセトアルデヒド、硫酸及び硝酸の分解による無害化が得られ、窒素代謝産物の産生に有効利用される。このことによりアミノ酸では、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、アルギニンの増加が起き、個体の活性部の成長が始まる。さらに、個体体積の増加に伴い、二酸化窒素、二酸化炭素、二酸化硫黄の消費利用が増加し、大気汚染物質を削減する作用を発現することができる。
【0031】
また、各代謝活性の回復で生じる松の新針葉のヤニ産生作用では、低級炭化水素含有量及び高級炭化水素含量が増加しヤニが多く産生する。このように代謝が活性回復すると、炭素代謝も活性する。
【0032】
請求項4記載の植物効果発現促進剤においては、基材が陰イオン界面活性剤であり、陰イオン界面活性剤は、溶解後に穿孔壁で樹液内の金属イオンを結合不溶化し、壁面保護と、保湿力を向上させる。
【0033】
請求項5記載の植物効果発現促進剤においては、ポリ酢酸ビニルが含有されており、ポリ酢酸ビニルは、溶解後穿孔壁に留まり壁面を保護し、また、通電性を有するのでカルスを誘導し、さらに、穿孔からの空気の浸入と雑菌の浸入を防止する。
【0034】
請求項6記載の植物効果発現促進剤においては、陽イオン界面活性剤が含有されており、この陽イオン界面活性剤は、個体内の樹液転流を促進し、これにより微量要素の分散を容易にするとともに、高温渇水期における個体内の水分移動障害による萎凋現象を改善する。また、衰退個体に多く観測される天然生成のヒドロキシルイオンとの中和を目的としている。このヒドロキシルイオンは、酸性雨と強紫外線の暴露に起因し、吸収蓄積した酸基と紫外線の通過時に多く放出される物質で、葉緑体の陽イオン金属元素や他の陽イオン金属元素と静電会合するために、広葉樹及び針葉樹の各葉内分析値では正常値を示しても実際には葉緑体外に存在しているので、葉緑体がクロロシスになる。性質は、還元性、界面活性作用、乳化作用、コロイド作用を有し、水素化結合する。例えば、マツのヤニにも作用するために、ヤニは水素結合し短鎖結合の炭化水素になり気化する。これらの作用を抑制することができる。
【0035】
請求項7記載の植物効果発現促進剤においては、ゼオライト粉が含有されており、このゼオライト粉は炭粉の骨材機能を補うものである。
【0036】
請求項8記載の植物効果発現促進剤においては、短繊維体が含有されており、この短繊維体は、植物効果発現促進剤の屈折強度を向上させるものである。すなわち、保管時や樹木に埋設する際に折れるの防止することができる。
【0037】
請求項9記載の植物効果発現促進剤においては、微量要素が基材100重量部に対して、20〜100重量部含有されており、100重量部を越えると、過剰害は出難いが、単価が著しく高価となり、20重量部未満であると、供給効率が悪いものであった。
【0038】
請求項10記載の植物効果発現促進剤においては、炭粉が基材100重量部に対して50〜150重量部含有されており、50重量部未満であると、通電作用が小さくカルスの形成が十分出ない場合があり、150重量部を越えると、屈曲強度が劣化する。
【0039】
請求項11記載の植物効果発現促進剤においては、直径(角柱状の場合は対向する2面間の長さ)が20mm以下であり、20mm以下にすることにより樹木の幹に与えるダメージを小さくすることができる。すなわち、植物効果発現促進剤を利用する際、幹を穿孔し、埋設するのであるが、その孔が大きいと植物に与えるダメージが大きくなり、穿孔口の閉口が不可能な場合が生じる。しかし、幹の太さにもよるが、直径20mm程度までの孔であれば、十分に穿孔口が閉口し回復可能であった。例えば、スギ、クス、サクラでは12ケ月程度で、マツ、ヒノキは24ケ月程度で穿孔口は閉口回復する。
【0040】
請求項12記載の植物の効果発現促進方法においては、上述した植物効果発現促進剤を樹木の幹に埋設することにより、植物の内部から直接微量要素を確実かつ数年の長期に亘って供給することができる。すなわち、樹木の幹を穿孔し、この穿孔内に植物効果発現促進剤を埋設することにより、基材が樹液により溶解し、微量要素が、水分移動の多い気温上昇期には多く溶出し、気温の上昇と共に成長が起きるが、自然的状況に応じて溶出し樹木内転移が起きる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の植物効果発現促進剤は、固形化可能で且つ水溶性の基材と、植物に必須の微量要素とを含有している。微量要素としては、モリブデン、ストロンチウム、セレン、ヒ素、クロム、マンガン、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、バナジウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、アルミニウム、ケイ素、ヨウ素、塩素、フッ素、チタン等があり、従来、供給が困難であったモリブデンに特に好適である。これらの微量要素は、従来肥料等に用いられている各種化合物として含有することができ、モリブデンの場合は、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸ナトリウム等として含有することができる。
【0042】
固形化可能で且つ水溶性の基材は、樹木に埋設した際、樹液により溶解し、分子の大きさから組織内に入れず穿孔壁で樹液内の金属イオンと結合不溶化して留まる性質を有すれば特に限定されない。また、炭粉、ポリ酢酸ビニルとの接触により通電性を高めカルス誘導を容易にするものが好ましい。基材としては、例えば、陰イオン界面活性剤を用いることができる。陰イオン界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、イソステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、イソステアリン酸カリウム、カプリル酸ナトリウム、ペラルゴン酸ナトリウム、ウンデルシル酸ナトリウム、クロトン酸ナトリウム等を用いることができる。
【0043】
前記微量要素は、基材100重量部に対して、20〜100重量部が好ましく、30〜50重量部がより好ましい。微量要素が20重量部未満であると、樹木1本当りの埋設本数を増加させなければならず、供給効率が悪くなり、また、微量要素が100重量部を越えると、過剰害は出難いが、施工時の単価が著しく高価となる。
【0044】
本発明による植物効果発現促進剤は固形状に形成されている。固形状に形成することにより、樹木に直接埋設することができる。また、形状は、円柱状、角柱状、円錐状等、特に限定されない。円柱状とした場合は、直径が20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。角柱状とした場合は、対向する2面間の長さが20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。20mm以下とすることにより、樹木にダメージを与えることを防止することができる。また、作業の効率等を考慮して直径が5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。長さは、埋設する樹木の幹周等により適宜変更することができる。
【0045】
本発明による植物効果発現促進剤に炭粉を含有させることができる。炭粉を含有させることにより、強度を付与するとともに、カルスの形成を誘導することができ、また、微量要素を吸着するので、微量要素の溶出を緩やかにして長期間微量要素を供給し続けることができる。
【0046】
炭粉の粒径は、10〜100μmが好ましく、30〜70μmがより好ましい。粒径が10μm未満であると、穿孔内部で樹液吸収後コロイド状態となり、流動性を伴ない穿孔口より流出する場合がある。また、粒径が100μmを越えると、他の配合材料との結合が緩く、形状崩壊する場合がある。
【0047】
炭粉の含有量は、基材100重量部に対して、50〜150重量部が好ましく、80〜90重量部がより好ましい。炭粉が50重量部未満であると、微量要素の吸着が十分に起こらず、未吸収の微量要素が加熱工程で分離し結晶化する場合がある。また、炭粉が150重量部を越えると、製造時における加圧の際、配合材料との結合が十分に起こらず、製造後に屈折が容易に起き、埋設作業を円滑に行えない場合がある。
【0048】
本発明による植物効果発現促進剤に陽イオン界面活性材を含有させることができる。陽イオン界面活性材を含有させることにより、微量要素の分散を容易にするとともに、高温渇水期における個体内の水分移動障害による萎凋現象を改善し、また、衰退個体に多く観測される天然生成の陰イオン界面活性物質との中和を図ることができる。さらに、蛋白質の陰イオンに吸着して菌の表面電位を狂わせるので、菌の生存を困難にする。
【0049】
陽イオン界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等を用いることができる(例えば、花王株式会社製「コータミン24P」、「コータミン86Pコンク」、「コータミン60W」)。
【0050】
陽イオン界面活性剤の含有量は、基材100重量部に対して、50〜150重量部が好ましく、70〜100重量部がより好ましい。陽イオン界面活性剤が50重量部未満であると、上述した効果が十分でない場合があり、また、炭粉、ゼオライト粉、グラスウール等の配合量を少なくしなければ、バサバサとなり固形化が困難になり、また、陽イオン界面活性剤が150重量部を越えると、炭粉、ゼオライト粉、グラスウール等の配合量を多くしなければ、流動性が大きく固形化が困難になる。
【0051】
本発明による植物効果発現促進剤にゼオライト粉を含有させることができる。ゼオライト粉を含有させることにより、強度を向上させることができる。ゼオライト粉の粒径は、60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。粒径が60μmを越えると、他の配合材料との結合が劣化し屈折し易くなる。
【0052】
ゼオライト粉の含有量は、基材100重量部に対して、200〜300重量部が好ましく、230〜270重量部がより好ましい。ゼオライト粉が200重量部未満であると、十分な硬さを得られず柔らかくなり、また、ゼオライト粉が300重量部を越えると、屈折し易くなる。
【0053】
本発明による植物効果発現促進剤に短繊維体を含有させることができる。短繊維体を含有させることにより、屈折強度を向上させることができる。短繊維体としては、グラスウール、合成繊維(ポリエステル繊維、ビニルエステル繊維等)、天然繊維等を用いることができる。短繊維体は、長さが1〜3mmのものが好ましい。長さが1mm未満であると、屈曲強度が小さいものであり、また、3mmを越えると、短繊維体が外部に突出し、その箇所から崩壊する恐れがある。
【0054】
短繊維体の含有量は、基材100重量部に対して、1〜3重量部が好ましく、1〜2重量部がより好ましい。短繊維体が1重量部未満であると、配合材料との結合が十分でない場合がある。また、短繊維が3重量部を越えると、短繊維体が外部に突出し、その箇所から崩壊する恐れがある。
【0055】
本発明の植物効果発現促進剤は、密封袋に収納し、約20℃以下の冷暗所で保存することが好ましい。このような状態で保存することにより、軟化することなく良好な状態を維持することができる。すなわち、植物効果発現促進剤は、融点が低く(配合により50℃近くになることがある)、吸湿性があるので、高温多湿の環境に保存すると、軟化変形する恐れがある。
【0056】
本発明による植物の効果促進方法は、上述した植物効果促進発現剤を樹木の幹に埋設することにより行なう。植物効果促進発現剤の樹木に埋設する態様は特に限定されないが、幹の周囲に均等な間隔で分散して埋設することが好ましい。樹木に埋設する部位は、幹の下部が好ましい。
【0057】
本発明による植物効果発現促進剤を適用できる植物を以下に記載するが、これらの植物に限定されるものではない。
【0058】
マツ類(クロマツ、アカマツ、リュウキュウマツ、五葉マツ等)、バラ科(サクラ、モモ、ウメ、アンズ、バラサクランボ、リンゴ等)、サツキ、ツツジ、ネズミモチ、ウバメガシ、クヌギ、クス、マキ、ヒノキ、モチ、ホルト、エノキ、キャラ、ユリノキ、スギ、ヒバ、マテバシイ、イチョウ、カシ類、ツガ、サカキ、モッコク、モクセイ、ビワ、カキ、カイズカ、ギョウリュウウメ、エリカ、シャラ、ヤツデ、マンリョウ、ツワブキ、ジンチョウゲ、シダ類、アサガオ、ピーマン、オクラ、ノボタン
本発明の植物効果発現促進剤の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0059】
図1は植物効果発現促進剤の斜視図、図2は植物効果発現促進剤を樹木に施用している状態を示す樹木の側面図、図3は植物効果発現促進剤の施用個所の断面図である。
【0060】
図1において、1は植物効果発現促進剤で、略円柱状に形成されており、直径d=10mm、長さl=35mmに形成されている。
【0061】
このような植物効果発現促進剤を樹木の施用するには、図2及び図3に示すように、樹木の幹2の株元から約100cmの周面に、間隔a=10cmで植物効果発現促進剤1を埋設する。
【実施例】
【0062】
[本発明品1]
ステアリン酸ナトリウムを100g、モリブデン酸ナトリウムを50g、炭粉(粒径10〜100μm)を20g、水を15g混合した後、加熱溶融した。次に、この加熱溶融物を冷却し、粉砕機で粉体にした後、ステアリン酸5gを加えて加熱し、粉体の表面にステアリン酸の皮膜を形成した。
【0063】
この粉体に、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(花王株式会社:コータミン86Pコンク)を100g、炭粉(粒径10〜100μm)を80g、ゼオライト粉(粒径60μm以下)を200g、グラスウール(長さ2〜3mm)を2g、ポリ酢酸ビニルを100g加え、ミキサーにて均一に混合した。
【0064】
この混合物を金型に充填した後、瞬時に約3トンの圧力をかけて成型し、直径10mm、長さ35mmの円柱状のペレットを126本作製した。したがって、1本のペレットには、0.40gのモリブデン酸ナトリウムが含有されている。
【0065】
このペレット状の植物効果発現促進剤は、十分な強度を有して固形化しているので、折れたり、粉状に解体することがなかった。また、通電性が8〜10μAであった。
【0066】
[本発明品2]
本発明品1において、グラスウールの替わりに、ポリエステル短繊維(長さ2〜3mm)を2g添加した他は、本発明品1と同様である。
【0067】
[実施例1]
前記本発明品1の植物効果発現促進剤を樹木に施用した。
<施用樹木>
幹周110cmのクロマツに施用した。
<施用方法>
株元から約100cmの高さにおいて、周方向に約10cmの間隔で水平に穿孔し、本発明品1を夫々埋設した。総数11個であった。なお、埋設した本発明品1は、約1日で樹木の水分を吸収、肥大化するので引き出すことができなかった。
【0068】
[比較例1]
前記実施例1で施用したクロマツの周囲にある状態が略同等なクロマツである。
【0069】
[モリブデン含有試験]
実施例1と比較例1とにおけるクロマツの針葉におけるモリブデン含有量を比較した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
<モリブデン含有量の測定方法>
針葉を110℃で24時間乾燥後ブレンダーで粉砕し、その粉砕物を0.5gフッ素樹脂加工の加圧湿式分解容器に収納し、硝酸5mlを加える。この加圧湿式分解容器を乾燥器に収納し、135℃で3時間保持する。その後、冷却し10mlにメスアップし、フレームレス原子吸光光度法により測定。なお、測定は社団法人香川県薬剤師会検査センターによる。
【0072】
以上の結果、施用前の実施例1のモリブデン含有量は比較例1と略同量であったが、施用後はモリブデン含有量が、4月の成長初期と10月の充実期に増加することが確認された。なお、比較例1は、梅雨明けの時期には、頂上芽、新針葉、旧新葉、細根のモリブデン含有量はゼロであった。
【0073】
[アミノ酸及びアンモニアの増減試験]
実施例1において、施用前と施用後(30日経過後)のアミノ酸及びアンモニアの含有量を比較した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
<アミノ酸及びアンモニアの測定方法>
松葉を乳鉢で粉砕し9.81gを200ml容ビーカーに入れ、1/10N塩酸水溶液で50mlを加え、20時間マグネティックスターラーで攪拌後、濾過し、濾液を100ml容メスフラスコでメスアップした。濾液をメンブレンフィルターで濾過(0.2μm)して試料を作製し、この試料のアミノ酸およびアンモニアを比色法により測定した。なお、測定は香川県産業技術センター食品研究所による。
【0076】
以上の結果、ほとんどのアミノ酸において増加することが確認でき、また、アンモニアが減少していることが確認できた。アンモニアは、植物の生体内でガス化すると、植物が枯死に至るものである。
【0077】
[実施例2]
前記本発明品2の植物効果発現促進剤をクロマツへ施用した。
<施用樹木>
クロロシスを起こしている個体、針葉葉量減少の個体、枯れ個体の多い35個所において、生存個体及び心材の腐食した空洞の個体を含む幹周1〜3mのクロマツ358個体に施用した。
<施用方法>
株元から約100cmの高さにおいて、周方向に約10〜15cmの間隔で水平に穿孔し、本発明品2を夫々埋設した。総数10〜30個であった。埋設した本発明品2は、約1日で樹木の水分を吸収、肥大化するので引き出すことができなかった。
【0078】
[比較例2]
前記実施例2で選定したクロマツの周囲にある略同等な状態のクロマツである。
【0079】
[生存数(枯れ数)試験]
施用(平成15年1月)後、12ケ月経過時における枯れ数を外観観察により求めた。その結果、実施例2においては、施用個体358の内、36個体が枯れていた。これに対し、比較例2においては、481個体が枯れていた。
結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

以上の結果、実施例2は枯れ数が極めて少ないことが確認された。
【0081】
また、実施例2においては、葉量増加、光沢、花色濃化、クロロシスの消却が観察された。さらに、側芽生長が抑制され頂上芽の生長となり、冬期に於いても頂上芽の充実と生長の正常化がおきた。
【0082】
[実施例3]
アカマツ、スギ、ヒノキ、ケヤキ、サクラ、アンズ、ウメ、クス、ハッサク、モモ、カキにおいて、本発明品1を実施例1と同様に施用した。
【0083】
施用後、5〜12ケ月経過時において、外観観察した結果を以下に記載する。
<アカマツ>
冬期にクロロシスを有する個体での針葉緑化および針葉の曲げ強度増加、頂上芽の充実による生長と幹肥大。頂上芽優先の樹形により花芽形成が抑制されると共に松果の過剰な不稔着果が緩和され、少果と受精果が起こった。その結果、松果も重量が増加した。
<スギ>
若木、老木とも頂上芽の発達が起き、葉量が増加、蕾数の減少。頂上芽優先の樹形になり花芽形成が抑制され、着果過多と不稔が緩和され受精果が増加した。
<ヒノキ>
樹冠の新梢が上向きに回復し生長型の樹形と変わる。蕾数の減少。前記スギと同様の結果が得られた。
<ケヤキ>
葉の夏期変色の改善、葉の大きさに差、落葉防止。
<サクラ>
葉色濃緑化、花色濃化、樹勢回復。幹肥大、葉量増加。
<アンズ>
花量増加、果実数量増加、花色濃化。
<クス>
冬期に頂上芽の充実、湾曲葉の正常化。
<モモ>
花の大きさ、葉の大きさ、実の大きさに差、果実は非施用の個体と比較して約100g大きかった。また、糖度は、非施用の個体は7であったが、施用個体は12であった。
<ハッサク>
果実が大きい。
<カキ>
果実が大きい。糖度上昇。
<ウメ>
果実が大きい。収穫量が増加した。
<クリ>
果実が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明による植物効果発現促進剤の一実施形態の斜視図
【図2】本発明による植物効果発現促進剤を樹木に施用している状態を示す樹木の側面図
【図3】本発明による植物効果発現促進剤の施用個所の断面図
【符号の説明】
【0085】
1…植物効果発現促進剤
2…幹

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形化可能で且つ水溶性の基材と、該基材に含有された植物に必須の微量要素とからなり、固形状であることを特徴とする植物効果発現促進剤。
【請求項2】
炭粉が含有されている請求項1記載の植物効果発現促進剤。
【請求項3】
前記微量要素がモリブデンである請求項1又は2記載の植物効果発現促進剤。
【請求項4】
前記基材が陰イオン界面活性剤である請求項1、2又は3記載の植物効果発現促進剤。
【請求項5】
ポリ酢酸ビニルが含有されている請求項1、2又は3記載の植物効果発現促進剤。
【請求項6】
陽イオン界面活性剤が含有されてい請求項1、2、3、4又は5記載の植物効果発現促進剤。
【請求項7】
ゼオライト粉が含有されている請求項1、2、3、4、5又は6記載の植物効果発現促進剤。
【請求項8】
短繊維体が含有されている請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の植物効果発現促進剤。
【請求項9】
前記微量要素が基材100重量部に対して、20〜100重量部含有されている請求項1記載の植物効果発現促進剤。
【請求項10】
前記炭粉が基材100重量部に対して、50〜150重量部含有されている請求項2記載の植物効果発現促進剤。
【請求項11】
略円柱状に成形され、直径が20mm以下である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の植物効果発現促進剤。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の植物効果促進発現剤を樹木の幹に埋設することを特徴とする植物の効果発現促進方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン界面活性剤、モリブデン化合物、炭粉及び水を混合して加熱溶融する溶融工程と、該溶融工程で生成した溶融物を冷却後、粉体にする粉体工程と、該粉体工程で生成した粉体に、陽イオン界面活性剤及び炭粉を加え、均一に混合する混合工程と、該混合工程で混合された混合物を金型に充填した後、加圧して直径が5mm以上で20mm以下の円柱状又は角柱状に成型する加圧成型工程とを有することを特徴とする植物効果発現促進剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124294(P2006−124294A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312340(P2004−312340)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【特許番号】特許第3739779号(P3739779)
【特許公報発行日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(503416054)
【Fターム(参考)】