説明

植物性グロブリンの動脈硬化の処置のための利用

【課題】植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するための、経口医薬又は食品組成物の提供。
【解決手段】アテローム性動脈硬化症を、治療するため又は進行を抑制するために有用である植物性グロブリンであり、原料植物から抽出された粗製タンパク質を、1M NaClに溶解し、その溶液を30%硫安分画し、生じた沈殿を透析して得られるものである。植物性グロブリンとして好ましい例は、米19kDaグロブリンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性グロブリンを用いた動脈硬化の処置に関する。本発明は、動脈硬化の処置に関連した医療及び食品開発の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞を中心とした心血管系疾患と、脳梗塞・脳卒中を中心とした脳血管障害による死亡は、日本人の死因統計上、がんと並んで大きな位置を占めている。今後ますます進む高齢化社会においては、その対策の重要性が増してくる。
【0003】
動脈硬化の発症・進展は多様な危険因子の重なりによって引き起こされることが分かっている。その中で、最も重要な因子として高コレステロール血症が認識され、従来、その対策に最も重点が置かれてきた。最近では、動脈硬化の病巣中に細胞の炎症があることが認められており、炎症に対する処置も必要であることが認識されている。
【0004】
アテローム性動脈硬化病変を予防するために、機能性食品の分野からも種々の検討がなされてきている。ペクチンやリンゴ繊維のような食物繊維のLDLコレステロール低下効果や血漿尿酸低下効果、また、ブルーベリーフラボノイドやワインポリフェノールのマトリックスメタロプロテアーゼ阻害活性、EPAのような多価不飽和脂肪酸の抗炎症効果が報告されてきた。血管拡張性のジペプチドTrp-Hisが、アポE欠損マウスにおける動脈硬化の進展を減じたとの報告がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】Toshiro Matsui et al, British Journal of Nutrition (2010), 103, 309-313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品中に抗動脈硬化作用を有する成分が含まれていれば、目的の効果の発現は、その食品を大量に摂取することにより期待できるが、有効成分が特定されば、特に比較的少量で、経口投与で効果を発揮する有効成分が見いだされれば、サプリメント等の形態で負担なく利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、動脈硬化症発症予防に有効な食品由来の成分について、動脈硬化モデル動物を用いて鋭意研究してきた。そして、米タンパク質から調製された19kDaグロブリン画分が、比較的少量の経口投与により動脈硬化症に対して効果を発揮しうることを見出し、本発明を完成した。本発明は、以下を提供する。
1) 植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するための、経口医薬又は食品組成物。
2) 動脈硬化を、治療するため又は進行を抑制するための、1)に記載の組成物。
3) 動脈硬化性疾患を、予防するための、1)に記載の組成物。
4) 植物性グロブリンが、原料植物から抽出された粗製タンパク質を、1M NaClに溶解し、その溶液を30%硫安分画し、生じた沈殿を透析して得られるものである、1)〜3)のいずれか一に記載の組成物。
5) 原料植物が、米である、4)に記載の組成物。
6) 動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するためのペプチドの設計方法であって、植物性グロブリンを構成するポリペプチド又はそのアミノ酸配列を利用する、方法。
7) 植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を経口投与することを含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の処置方法(医療行為を除く。)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】米グロブリンの精製ステップ。
【図2】塩可溶性タンパク質の成分構成(SDS-PAGE電気泳動による)
【図3】Oryza sativa (X63990及びD50643)由来のグロブリン、並びに米粉から抽出されたグロブリン画分タンパク質のN末配列(Sequenced)の、アミノ酸配列アラインメント。
【図4】雄ApoE-/- miceの大動脈及び大動脈根の動脈硬化病変領域への、米グロブリンの経口投与の効果。(A) Sudan IV染色により動脈の動脈硬化巣を可視化した写真である。(B)染色されている陽性領域を広げて面積を測定し、パーセント表示したグラフである。(n = 7, 8)。(C) Van Gieson染色及びhaematoxylin染色により、動脈根の動脈硬化巣を可視化した写真である。(D) 染色されている陽性領域を広げて面積を測定し、パーセント表示したグラフである(n = 7, 8)。各マウス5枚のスライドの合計を分析した。コントロール群との有意差は、Studentのt検定による。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で、「植物性グロブリン」というときは、特に記載した場合を除き、植物由来の、塩可溶性のタンパク質を指し、より具体的には、下記の米グロブリン又はそのホモログ、すなわち下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)又は(g)のタンパク質をいう。
(a) 配列表の、配列番号:1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号:1の23番目以後、配列番号:2の24番目以後、若しくは配列番号:1の66番目以後の、アミノ酸配列を含んでなるタンパク質;
(b) (a)に記載のアミノ酸配列において、一又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を含んでなり、かつ動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置可能なタンパク質;
(c) (a)に記載のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置可能なタンパク質;
(d) 原料植物から抽出された粗製タンパク質を、1M NaClに溶解し、その溶液を30%硫安分画し、生じた沈殿を透析して得られるタンパク質。
【0010】
本明細書の一部である配列表には、配列番号:1としてイネ品種日本晴由来の19kDaグロブリンのアミノ酸配列、配列番号:2としてイネジャポニカ品種由来の26kDaグロブリンのアミノ酸配列の一部、また配列番号3:として本発明者らが得た米グロブリン画分に含まれるタンパク質のアミノ酸配列の一部を示した。
【0011】
本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列をコードするDNAが所望の機能を有する限り特に限定されないが、1〜9個又は1〜4個程度であるか、同一又は性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。このようなDNA配列又はアミノ酸配列に係るDNAを調製するための手段には、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer W & Fritz H-J: Methods Enzymol 154: 350、 1987)がある。
【0012】
本発明には、アミノ酸配列に関し、同一性が高いというときは、特に記載した場合を除き、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列の同一性を指す。アミノ酸配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268、 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873、 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF、 et al: J Mol Biol 215: 403、 1990)。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0013】
本発明の有効成分である植物性グロブリンの由来する植物は、被子植物であり、より好ましくは単子葉植物網に属する植物であり、さらに好ましくはツユクサ亜網に属する植物であり、最も好ましくはイネ科(Poaceae(Gramineae))に属する植物、例えばイネ(Oryza)、オオムギ、ライムギ、パンコムギ、イヌムギ、ハトムギ、サトウキビ、トウモロコシ、モロコシ、アワ、キビ、ヒエいずれかの属に属する植物である。イネ科に属する植物のうちでは、好ましくはイネ属に属する植物であり、より好ましくはイネ(Oryza sativa L.)である。本発明に適用可能なイネの日本の育成品種の例として、水稲・粳(うるち)である、日本晴、あきたこまち、関東205号、キヌヒカリ、きらら397、コシヒカリ、ササニシキ、どんとこい、月の光、農林6号、農林8号、農林22号、はえぬき、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、ほしのゆめ、ほのか224及びユメヒカリ;並びに水稲・糯(もち)である、朝紫、おどろきもち、近畿糯39号、クスタカモチ、クレナイモチ、こがねもち、サイワイモチ、札系糯96121、大系糯1076、台中糯70号、たかやまもち、ヒデコモチ、マンゲツモチ、モチミノリ及びわたぼうしが挙げられる。
【0014】
本発明で「植物」というときは、特に記載した場合を除き、植物個体又はその一部を指し、「その一部」には、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、種子の一部(胚乳、胚芽、ぬか層)、器官又はその一部(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。本発明で「米」というときは、特に記載した場合を除き、イネ種子の胚乳部分(通常米飯として喫食される部分)を指す。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、植物性グロブリンは米粉から調製される。調製方法は、具体的は下記のとおりである。
粗製タンパク質の調製:米粉に対し、1〜10重量部の水を加え、糖質分解酵素を適切な温度及び時間条件で作用させる。加温する際は、メラード反応を防ぐため、昇温は時間をかけて行うことが好ましい。分解液を濾過して除去し、残渣を洗浄後することにより、糖を除去する。残渣は、充分な量の100%エタノールで脱脂し、凍結乾燥させ、粗製の米タンパク質を得る。
【0016】
グロブリン画分の調製:米タンパク質はさらに5〜100重量部のアセトンを用いて脱脂し、その残渣に米タンパク質量に対して5〜100重量部相当の1M NaClを加え、塩可溶性成分を回収する。その上清を硫安分画し、30%硫安で沈殿する画分を脱塩し、回収物を凍結乾燥する。
【0017】
なお、米グロブリンの精製ステップの例を図1に示した。より詳細な条件は、本明細書の実施例を参考にすることができる。
本発明で「硫安分画」というときは、特に記載した場合を除き、タンパク質溶液に硫酸アンモニウム(硫安)を添加することで、タンパク質を沈殿させる手法をいう。本明細書で硫安の濃度に関して「%」表示するときは、特に記載した場合を除き、定法の硫安分画における濃度表示にしたがっている。例えば30%硫安とするためには、溶液1Lに対しては176gの硫酸アンモニウムを加えればよい。
【0018】
上述の方法で得られる画分に含まれるタンパク質は、電気泳動により確認でき、またそのタンパク質のアミノ酸配列は定法により確認することができる。本発明者らの検討によると、上述の方法により、米から得られた画分に含まれるタンパク質は、主として19kDaのグロブリン又はその断片、すなわち配列表の、配列番号:1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号:1の23番目以後、配列番号:2の24番目以後、若しくは配列番号:1の66番名以後の、アミノ酸配列を含んでなるタンパク質である(図2及び3)。
【0019】
本発明で「動脈硬化(症)」というときは、特に記載した場合を除き、アテローム性動脈硬化を指す。アテローム性動脈硬化においては、大動脈、脳動脈、冠動脈等の比較的太い動脈に起こり、動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなる粥状物質が沈着してアテロームプラーク(粥状硬化斑)ができ、次第に肥厚することで動脈の内腔が狭まる。本発明は、アテローム性動脈硬化、及びアテローム性動脈硬化に関連した疾患、すなわち動脈硬化性疾患の処置に有用である。動脈硬化性疾患は、脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、大動脈瘤、大動脈解離、腎硬化症及びそれによる腎不全、閉塞性動脈硬化症を含む。
【0020】
本発明で、疾患又は状態に関し、「処置(する)」というときは、特に記載した場合を除き、対象となる疾患もしくは状態を、予防すること、治療すること、又は進行を抑えることを意味する。「治療」には、根本的な治療と、対処的な治療とが含まれる。予防には、発症しないようにすることのほか、発症のリスクを低減することが含まれる。
【0021】
本発明の組成物は特に、動脈硬化を、治療するため又は進行を抑制するため、並びに動脈硬化性疾患を、予防するために有用である。
本発明の食品組成物は、固形の食品のみならず、飲料の形態であるものも含む。本発明の食品組成物は、栄養機能食品、特定保健用食品、健康食品、栄養補助食品、ドリンク剤、清涼飲料、アルコール飲料等とすることができる。
【0022】
経口医薬又は食品組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、タブレット、散剤、顆粒剤等の形態とすることができる。
本発明の組成物は、医薬又は食品として許容可能な種々の添加物、例えば担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、保存剤、緩衝剤甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、香料、酸味料、調味料、防かび剤(防ばい剤)、pH調整剤、栄養強化剤、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、発色剤、漂白剤を含んでもよい。
【0023】
本発明の組成物の、投与期間、間隔は、目的、症状、対象者の年齢、体重等に応じて適宜とすることができる。例えば、臨床上有効量を、数日〜数週間〜数ヶ月の間、継続して投与することができる。より具体的には、成人の動脈硬化症患者に対して、一日当たり、本明細書の実施例で得られたグロブリン画分として 10mg〜1000mg、好ましくは25mg〜500mg、より好ましくは50mg〜250mgに相当する量を、単回又は複数回(例えば3回)に分割して、投与することができる。このような量の1/10〜1/1(例えば1/3)を一単位剤形中に含むように設計された製剤は、本発明の好ましい態様の一つである。
【0024】
また、健康維持及び/又は予防等の目的では、他の量での投与が効果的である場合がある。より具体的には、成人である対象者に対して、一日当たり、本明細書の実施例で得られたグロブリン画分1mg〜100mg、好ましくは2.5mg〜50mg、より好ましくは5mg〜25mgに相当する量を、単回又は複数回に分割して投与することができる。このような量の1/10〜1/1を一単位剤形中に含むように設計された製剤もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
【0025】
グロブリン画分に相当する量は、当業者であれば、本明細書の実施例等を参考にして、植物の全部もしくは一部(例えば種子)、その抽出物、抽出物残滓、分画物、単離物、濃縮物もしくは加工物、又は精製された19kDaグロブリンやその断片について、それぞれ求めることができる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、医薬として許容できる種々の添加物、例えば、を含んでもよい。
本発明の食品又は医薬組成物は、他の食事療法(脂肪制限、糖質・アルコール制限、食物繊維を多く摂取する等。)、薬物療法(コレスチラミン、ニコチン酸、メバロチン等の抗コレステロール剤の投薬。)、運動療法と併用して用いることができる。
【0027】
本発明の組成物には、その具体的な用途(例えば、生活習慣病予防のため、体質改善のため、長期的な治療のため、等。)、及び/又はその具体的な用い方(例えば、量、回数、継続的に使用すべき旨、期間、等。)を表示することができる。
【0028】
本発明はまた、植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を経口投与することや、そのような成分を含む食品の適切な量の摂取を薦めることを含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の処置方法のための、食事指導、栄養指導のためにも用いることができる。
【0029】
本発明はまた、植物性グロブリンを構成するポリペプチド又はそのアミノ酸配列を利用する、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するためのペプチドの設計方法も提供する。本発明によって提供される植物性グロブリンを構成するポリペプチド又はそのアミノ酸配列から、特に効果の高い一部の発見が期待できる。
【実施例】
【0030】
[グロブリン画分の調製]
米タンパク質の調製
Morita.T.らの方法(Morita,T., Kiriyama,S.(1993)Mass production method for rice protein isolate can Nutritional Evaluation. J.Food sci.; 58: 1393-1396)に基づいて米タンパク質の調製を行った。脱イオン水8Lに、米粉4kgを振るいにかけながら入れ、デンプン分解酵素96ml加えてよく撹拌し、混ぜながら97℃で2時間加熱した。この時メラード反応を極力防ぐため、約1時間かけて97℃まで温度を上げた。その後濾過し、残渣を沸騰水4Lで3回洗い、糖を除去した。更に濾過し、残渣を100%エタノール4Lで3回洗い脱脂した。濾過後、乾燥させたもの(30g)を米タンパク質とした。
【0031】
米タンパク質からのグロブリンの抽出
米タンパク質10gに対してアセトン200mlを加えて一晩振とうして脱脂した。それを5000rpm(r=103mm)で5分間遠心し残渣を得た。その残渣に1M NaCl 200mLを加え、超音波撹拌1時間、振とう1時間行い3000rpm(r=103mm)で10分間遠心し上清(塩可溶性成分)を回収し、収率をあげるため同様の操作を3回行った。その上清に30%硫安を加えて塩析により分画し(硫安分画)、遠心後の沈殿を一晩透析(脱イオン水)した。その回収物を凍結乾燥したもの(収量をご教示下さい。)をグロブリン画分とした。なお、米グロブリンの精製ステップを図1に示した。
【0032】
電気泳動
10mgの米タンパク及び米グロブリンにアセトン1mlを加え、ペレットミキサーで撹拌した。10000rpm、10min、4℃で遠心後、約10分程度凍結乾燥させた。これに100μl Sample buffer(0.125M Tris-HCl、4%SDS、5% 2-メルカプトエタノール)を加え、3000rpm、10minで遠心し、上清を用いた。これをSample buffereで20倍に希釈し、染色液(BPB)を1μl加え、混和した後、99.5℃、5min熱変性を行った。その後、6Mの尿素を1μl加え混和し、3000rpmで遠心し、サンプル調整を完了した。
【0033】
SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)を、Laemmliの方法(Laemmli., U. K. (1970) Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature.; 227: 680-586)に従って行った。ゲル板に10%Separationゲル、その上にStackingゲルを重層し、作製したゲルをナイアガラ電気泳動層に取り付けた。分子量マーカーはPage RulerTM Prestained Protein Ladder(Fermentas)を、泳動バッファーは1×Stock Reseviorバッファー(192mM glycine、0.1%SDS、24mM Tris pH8.3)を用い、20mAで泳動を行った。分子量マーカーの位置から、目的のタンパクが分離できたことを確認した(図2)。
【0034】
[アミノ酸配列の確認]
米粉から抽出されたグロブリン画分タンパク質のN末配列を定法により得た。得られたアミノ酸配列、及び公開されているデータベースより得たOryza sativa (X63990及びD50643)由来のグロブリンのアミノ酸配列のアラインメントを図3に示した。
【0035】
[アポE欠損マウスの動脈硬化進展に及ぼす米グロブリン画分の影響の評価]
アポE欠損(ApoE-/-)マウスに米グロブリン画分を経口投与により摂食させたときの血清・肝臓脂質及び動脈硬化の進展に与える影響を検討した。
【0036】
方法
6〜11週齢の雄ApoE-/-マウス20匹を固形飼料で1週間予備飼育後、週齢および体重により2群に分けた。0.05%コレステロールを含むAIN-76組成の純化食を与え、100mg/kg体重の米グロブリン画分をカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液で調製し、経口投与により与えた(P群)。コントロールとしてCMC溶液を与えて(C群)、9週間飼育した。
【0037】
結果
血清・肝臓脂質濃度は、群間で有意差はなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
平均値及び標準誤差は、各群7匹の結果から決定した。異なる符号は、P < 0.05 (Tukey-Kramer’s multiple comparison post hoc test)で有意差があることを示す。
【0040】
【表2】

【0041】
試験後、解剖し、Sudan IV染色により動脈のアテローム性動脈硬化巣を可視化した(図4(A))。また、染色されている陽性領域を広げて面積を測定した(図4(B))。一方、Van Gieson染色及びhaematoxylin染色により、動脈根のアテローム性動脈硬化巣を可視化し(図4(C))、染色されている陽性領域を広げて面積を測定した(図4(D))。P群において、心臓弁近傍の大動脈における動脈硬化病変面積及び大動脈根における病変面積の割合は有意に減少した。
【0042】
以上より、米グロブリン画分はApoE-/-マウスにおいて脂質代謝に関係なく、動脈硬化の進展を抑制することが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するための、経口医薬又は食品組成物。
【請求項2】
動脈硬化を、治療するため又は進行を抑制するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
動脈硬化性疾患を、予防するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
植物性グロブリンが、原料植物から抽出された粗製タンパク質を、1M NaClに溶解し、その溶液を30%硫安分画し、生じた沈殿を透析して得られるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
原料植物が、米である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
動脈硬化又は動脈硬化性疾患を処置するためのペプチドの設計方法であって、植物性グロブリンを構成するポリペプチド又はそのアミノ酸配列を利用する、方法。
【請求項7】
植物性グロブリンの全部又は活性のある一部の臨床上有効量を経口投与することを含む、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の処置方法(医療行為を除く。)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184313(P2011−184313A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48403(P2010−48403)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】