説明

植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法

【課題】 大麦由来原料から、異臭の発生を抑えた植物性スフィンゴ糖脂質を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る植物性スフィンゴ糖脂質の製造方法は、非ハロゲン系のアルコール系溶媒と混合し、当該原料混合物を加熱する抽出工程2と、前記抽出工程2で得られた抽出物から脂肪酸類を除去する脂肪酸類除去工程3と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦由来原料からスフィンゴ糖脂質を含有する植物油を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より動物油、或いは植物油は、食用、化粧品用、さらには薬用と多方面にわたって使用されてきた。すなわち、これら動植物油は、常温において粘性の高い液状の性質を示すという独特の物性を利用して、食品や化粧品等の物性を改善するため、又はそれらの溶剤、分散剤等として用いられてきた。
【0003】
近年、この動植物油中に含まれるスフィンゴ糖脂質について、食品や化粧品への応用が注目されている、例えば、スフィンゴ糖脂質に含まれるセラミド(一般に、長鎖アミノポリオール構造をもつスフィンゴシン塩基と長鎖脂肪酸がアミド結合した構造をもつ)やセレブロシド(セラミドにグルコースやガラクトース等の糖が結合した構造をもつ)は、皮膚の保湿性を改善するための化粧品や食品の有効成分として、その働きが高く評価されている。
【0004】
従来、このようなスフィンゴ糖脂質のうち、動物性のものは主に牛脳から精製されていた。しかしながら、いわゆる牛海綿状脳症に関する問題の懸念等から、牛脳に代わる、より安全な供給源が求められている。
【0005】
そこで、例えば構造が既知のセラミドについては、人工的に合成したものが市販されている。しかしながら、その合成過程で用いられる薬剤や生成される副生物等の不純物についての安全性が未だ確立されているとはいえない。このため、この合成品は、極めて高純度に精製する必要があり、価格の高騰を招いている。また、この合成品は、化粧品又は食品としての効果の点で、天然セラミドに劣るという指摘もある。
【0006】
これに対し、例えば非特許文献1に示されるように、米等の植物原料からスフィンゴ糖脂質を製造する方法が報告されている。この植物性スフィンゴ糖脂質は、上記動物性スフィンゴ糖脂質において生じる間題等がなく、且つ天然セラミド等を含むため、化粧品や食品としての有効性が注目されている。
【非特許文献1】Y.Fujino et al., Agric. Biol. Chem., 49(2), 2753-2762, (1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法においては、例えば元来、植物原料に含まれているスフィンゴ糖脂質は非常に少量であり、かつ当該植物原料には大量の脂肪酸類が含まれているため、複雑な工程を含み、多くの手間とコストを要するものであった。
【0008】
また、上記従来の製造方法においては、その複雑で長時間を要する工程における、植物原料に含まれるリン脂質の分解や不飽和脂肪酸等の酸化により、得られる植物性スフィンゴ糖脂質含有油が異臭を伴うために、化粧品や食品として適切なものとはいえなかった。
【0009】
さらに、ビールや発泡酒等の醸造工程の一部である大麦の精白処理において大量に排出される大麦フスマの有効利用が求められていた。
【0010】
本発明は、この上記のような課題に鑑みて為されたものであり、大麦由来原料から、異臭の発生を抑えた植物性スフィンゴ糖脂質を効率よく製造する方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の間題を解決するため、本発明の一実施形態に係る植物性スフィンゴ糖脂質の製造方法は、大麦由来原料を、非ハロゲン系のアルコール系溶媒と混合し、当該原料混合物を加熱する抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出物から脂肪酸類を除去する脂肪酸類除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記抽出工程において、前記原料混合物を80〜160℃に加熱することとしてもよい。
【0013】
また、前記抽出工程及び脂防酸類除去工程を不活性ガス下で行うこととしてもよい。
【0014】
また、前記脂肪酸類除去工程は、前記抽出工程で得られた抽出物を溶媒処理後、冷却分離させる工程を含むこととしてもよい。
【0015】
また、前記大麦由来原料は、大麦フスマ由来原料であることとしてもよい。
【0016】
また、前記アルコール系溶媒は、イソプロパノール或いはエタノールを含むこととしてもよい。
【0017】
また、前記脂肪酸類除去工程において、前記溶媒はヘキサン或いはアセトンを含むこととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大麦由来原料から、異臭の発生を抑えた植物性スフィンゴ糖脂質を効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法(以下、「本製造方法」と呼ぶ)について説明する。図1に、本製造方法の主な工程を示す。図1に示すように、本製造方法は、大麦由来原料と非ハロゲン系のアルコール系溶媒とを混合する混合工程1と、この混合工程1において混合された原料混合物を加熱する抽出工程2と、この抽出工程2で得られた抽出物から脂肪酸類を除去する脂肪酸類除去工程3と、を含む。以下、これらの各工程について順に説明する。
【0020】
なお、本実施形態においては、大麦由来原料として、大麦表皮を含む大麦フスマを用いる場合を例として説明する。この大麦フスマは、ビールや発泡酒等の醸造過程において、醸造用大麦の表皮を取り除く精白処理によって大量に分離・排出されるものである。本製造方法においては、こうして得られる生の大麦フスマを、大麦由来原料としてそのまま用いることができる。なお、この醸造用大麦として、例えば国産のものとしては、はるな二条、りょうふう、さきたま二条、外国産のものとして、バルケ、ガードナー、ケンダール等を用いることができる。
【0021】
図1に示す混合工程1においては、大麦フスマを非ハロゲン系のアルコール系溶媒と混合する。ここで、この非ハロゲン系のアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等、水と混合可能なアルコール系溶媒を含むものを用いることができる。
【0022】
すなわち、この大麦フスマと混合する非ハロゲン系溶媒としては、上記アルコール系溶媒群のうち少なくとも1つと、ヘキサン、アセトン、シクロへキサン、ペンタン、ヘプタン、石油エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメトキシエタン(DME)、アセトニトリル等の非ハロゲン系有機溶媒群のうち少なくとも1つと、を適宜組み合わせたもの(適切な混合比で混合したもの)が好ましく用いられ、特にイソプロパノールとヘキサンとの混合溶媒が好適である。
【0023】
このような非ハロゲン系溶媒を抽出溶媒として用いることにより、本製造方法による製造コストを低減でき、また本製造方法により得られる植物性スフィンゴ糖脂質含有油の化粧品素材、食品素材としての安全性を保証することができる。
【0024】
また、大表フスマと混合する非ハロゲン系のアルコール系溶媒の量については、特に制限はないが、例えば、この混合を所定の容器内で行う場合には、大麦フスマと抽出溶媒とを攪拌する必要がないため、当該容器内において少なくとも大麦フスマ全体が浸る程度の量を用いれば十分である。
【0025】
次に、図1に示す抽出工程2においては、混合工程1において混合した大麦フスマと非ハロゲン系溶媒とを含む原料混合物に対して加熱処理を施す。具体的に、この抽出工程2は、例えばこの抽出工程2を密閉可能な耐圧容器内で行う場合には、混合工程1で得られた原料混合物を当該容器内において加熱し、所定の温度範囲に所定時間維持する工程を含む。
【0026】
この抽出工程2における加熱温度としては、80℃〜160℃の範囲が好ましいが、特に100℃〜130℃の温度範囲が好適である。これは、加熱温度が80℃以下の場合には植物性スフィンゴ糖脂質等の抽出に長時間を要してしまい、また160℃以上の場合には大麦フスマに含まれる脂質成分の分解が進み、当該分解物が不純物として大量に抽出されてしまい、後の植物性スフィンゴ糖脂質の精製が困難になってしまうためである。
【0027】
この抽出工程2により、大麦フスマに含まれる植物性スフィンゴ糖脂質、リン脂質、脂肪酸類(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸及びこれらのグリセリンエステル体である油脂等を含む)等を含む抽出物を極めて短時間で効率よく得ることができる。
【0028】
なお、この抽出物は、抽出工程2における加熱処理後の原料混合物から、例えば不活性ガスのパージ、或いはプレスフィルター、シリンダープレス、スクリューデカンター等を用いた分離処理により分離し、さらに、例えばロータリーエバポレータを用いた減圧濃縮等の濃縮処理により濃縮して得られる。
【0029】
次に、図1に示す脂肪酸類除去工程3においては、抽出工程2において得られた抽出物に対して溶媒処理を施すことにより、当該抽出物から脂肪酸類を除去する。具体的に、この脂肪酸類除去工程3は、この抽出物と、脂肪酸類の除去溶媒としての非ハロゲン系溶媒とを混合し、当該抽出物に含まれている脂肪酸類を当該非ハロゲン系溶媒相へ移行させ、当該非ハロゲン系溶媒相を除去する工程を含む。
【0030】
ここで、この脂肪酸類除去工程3において用いる非ハロゲン系溶媒としては、例えば製造コストや化粧品及び食品等への利用を考慮した揚合には、ヘキサンやアセトン等を含むものを好適に用いることができる。この場合、例えば、この脂肪酸類除去工程3は、抽出物とヘキサンとを混合し、当該混合物に対して、所定条件下で加熱還流処理を行う工程を含むこととなる。
【0031】
なお、この脂肪酸類除去工程3は、抽出工程2で得られた抽出物を溶媒処理後、冷却分離させる工程を含むこととしてもよい。この場合、この脂肪酸類除去工程3は、例えば抽出物とヘキサンとの混合物を加熱還流処理後、当該混合物を−20℃程度まで冷却し、ヘキサンに不溶な大麦油を沈殿させる工程を含むこととなる。すなわち、この冷却工程において、冷却後の不溶物(沈殿物)を分離し、植物性スフィンゴ糖脂質含有油として得ることができる。
【0032】
この脂肪酸類除去工程3において、抽出工程2で得られた抽出物に大量に含まれる大麦フスマ由来の脂肪酸類を除去することができるため、大麦フスマに含まれている天然の植物性スフィンゴ糖脂質を高濃度に含む植物性スフィンゴ糖脂質含有油を得ることができる。
【0033】
このように、本製造方法によれば、抽出工程2において大麦フスマから植物性スフィンゴ糖脂質等を極めて短時間で拙出することができるとともに、脂肪酸類除去工程3において、この抽出物に大量に含まれている脂肪酸類を効率よく除去することができるため、大麦フスマに元来微量にしか含まれていない植物性スフィンゴ糖脂質を高濃度に含む植物油を簡便且つ低コストで、効率よく得ることができる。
【0034】
また、本製造方法においては、混合工程1における抽出溶媒や脂肪酸類除去工程3における脂防酸類除去溶媒として、非ハロゲン系溶媒を用いるため、化粧品や食料品等に利用するにあたって安全性の高いスフィンゴ糖脂質含有油を得ることができる。
【0035】
また、本製造方法においては、上記の抽出工程2と脂肪酸類除去工程3とを不活性ガス下で行うこととしてもよい。具体的に、この場合、本製造方法は、図1に示す混合工程1と抽出工程2の間に、大麦フスマと非ハロゲン系溶媒との原料混合物に接する気相を不活性ガスに置換する気相置換工程を含む。すなわち、この気相置換工程においては、例えば原料混合物を入れた密閉可能な容器内において、当該原料混合物によって満たされている空間以外の気相成分(例えば、空気)を、窒素やアルゴン等の不活性ガスに置換する。
【0036】
そして、この不活性ガス下において、上述の抽出工程2を行う。また、脂肪酸類除去工程3においても、抽出工程2で得られた抽出物と非ハロゲン系溶媒との混合物に接する気相を不活性ガスに置換して、当該不活性ガス下において、上述の脂肪酸類の除去処理を行う。なお、図1に示す混合工程1をも不活性ガス下で行うこととしてもよい。
【0037】
このように、少なくとも抽出工程2と脂肪酸類除去工程3とを不活性ガス下で行うことにより、大麦フスマ中に含まれる、リン脂質、脂肪酸類等の異臭源の酸化を十分に抑えることができるため、得られる植物性スフィンゴ糖脂質含有油における異臭の発生をより効果的に防止することができる。
【0038】
この異臭の防止は、植物性スフィンゴ糖脂質含有油を化粧品や食品等として利用する場合には特に重要である。なお、本製造方法によって得られる植物性スフィンゴ糖脂質含有油がリン脂質をも含んでいる場合には、異臭の発生源が効果的に抑えられた当該リン脂質もまた化粧品等の有効成分として利用することができる。
【0039】
以下、本製造方法の具体的な実施例について説明する。
【0040】
[実施例1]
大麦由来原料として、醸造用大麦である北海道産りょうふうの精白処理時に排出される大麦表皮を含む大麦フスマを使用した。加圧を伴う加熱抽出処理は高速溶媒抽出(ASE)法により行った。この高速溶媒抽出法においては、抽出装置としてDionex高速溶媒抽出装置ASE−200(ダイオネクス社製)を用いた。具体的に、容量22mlのステンレススチール製のセル10本に、大麦表皮を含む大麦フスマ150gを詰め、溶媒としてヘキサン/イソプロパノール(3:2)を加え、高速抽出装置にセットした。そして、オーブン温度125℃、オーブン昇温時間6分、設定温度・圧力静置時間25分、フラッシュ容積60%、窒素ガスパージ時間60秒、静置サイクル2回、の条件にて加熱抽出処理を行った。この加熱抽出処理によって得られた抽出液を回収し、エバポレーターを用いて減圧濃縮することにより、黄褐色の粘性な植物性スフィンゴ糖脂質を含有する大麦油が22.5g得られた。このオイル状の大麦油中に含まれるモノグリコシルセラミド量は800mgであった。
【0041】
ここで、このスフィンゴ糖脂質の一成分であるモノグリコシルセラミドの定量について説明する。この定量法においては、Fujinoらの方法(Agric. Biol. Chem.,49(9),2753, (1985))により小麦から抽出したモノグリコシルセラミドを標品として用いた。なお、この標品は、1分子中にグルコースが2個或いは3個結合したオリゴ体も含み得る。そして、この標品とともに試料(例えば上記大麦油)をMerk社製シリカゲルプレート(Kieselgel
60F254)にチャージし、クロロホルム−メタノール−水(65:16:2)の混合溶媒系で薄層クロマトグラフィー(TLC)展開した。そして、このTLC展開後、50%硫酸溶液を噴霧して80〜120℃で10分間加熱し、発色強度をデンシトメーター(クロマトスキャナーCS-930;(株)島津製作所)で測定し定量した。すなわち、この方法においては、発色試薬としてアニスアルデヒド硫酸を噴霧し80〜120℃に加熱することで、各糖質、構成糖に応じた発色を生じるため、簡便に視覚的な判別が可能である。具体的に、ガラクトースの場合は緑色、グルコースの場合は紺色、ラクトースの場合は濃緑色に発色するため、この発色の色(波長)と強度の違いとによってこれらの糖成分を定量することができる。
【0042】
[実施例2]
大麦由来原料として、醸造用大麦である北海道産りょうふうの精白処理時に排出される大麦表皮を含む大麦フスマを使用し、上記実施例1と同様なDionex高速溶媒抽出装置ASE−200(ダイオネクス社製)を用いた。具体的に、容量22mlのステンレススチールセル10本に、大麦表皮を含む大麦フスマ150gを詰め、溶媒としてヘキサン/イソプロパノール(3:2)を加え、高速抽出装置にセットした。そして、オーブン温度155℃、オーブン昇温時間6分、設定温度・圧力静置時間45分、フラッシュ容積60%、窒素ガスパージ時間60秒、静置サイクル2回、の条件にて加熱抽出処理を行った。この加熱抽出処理によって得られた抽出液を回収し、エバポレーターで減圧濃縮することにより、黄褐色の粘性な植物性スフィンゴ糖脂質を含有する大麦油が20.8g得られた。
【0043】
[実施例3]
大麦由来原料として、醸造用大麦である北海道産りょうふうの大麦フスマ145gを容量22mlのステンレススチールセル10本に詰め、溶媒としてヘキサン/イソプロパノール(3:2)を加え、Dionex高速溶媒抽出装置ASE−200(ダイオネクス社製)にセットした。そして、オーブン温度100℃、オーブン昇温時間6分、設定温度・圧力静置時間15分、フラッシュ容積60%、窒素ガスパージ時間60秒、静置サイクル2回、の条件にて加熱抽出処理を行った。この加熱抽出処理によって得られた抽出液を回収し、エバポレーターで減圧濃縮することにより、黄褐色の粘性な植物性スフィンゴ糖脂質を含有する大麦油が24.5g得られた。
【0044】
[実施例4]
大麦由来原料として、醸造用大麦(北海道産りょうふう)250gを粉砕せずそのまま、実施例1と同じ容量22mlステンレススチールセル10本に分けて入れ、同じ溶媒、同じ条件、で加熱抽出処理を行った。そして、実施例1と同様にヘキサン/イソプロパノールの有機溶媒を減圧濃縮することにより、黄褐色の粘性な植物性スフィンゴ糖脂質を含有する大麦油が20.0g得られた。
【0045】
[実施例5]
上記実施例1で得られた植物性スフィンゴ糖脂質を含有する大麦油20gを、冷却管を取り付けた500mlの2口ナスフラスコに入れ、へキサン200mlを加えた。そして、この大麦油とヘキサンとの混合物を、窒素ガスを流しながら80℃〜90℃のオイルバス上で攪拌しながら2時間還流した。そしてこの還流後の混合物を放冷後、オイルバスから下ろし、寒剤で冷却した氷塊で−20℃まで冷却すると、へキサンに不溶な黄褐色の油状物質がフラスコ底に沈殿した。次に、脂肪酸類(リノール酸が多く含まれる)を含有するへキサン層をデカンテーションにより除去した。この脂肪酸類除去操作を2回繰り返すことにより、黄褐色の油状物質が3.8g得られた。このヘキサン不溶物は、目的とするスフィンゴ糖脂質を含み、モノグリコシルセラミドを8%(w/w)含有していた。
【0046】
[実施例6]
上記実施例5で得られた油状物5gにアセトン200ml加え、加熱しながら均一な懸濁液になるように超音波バス中で攪拌した。この混合液をガラス製の遠心分離機の遠心管に入れ、−20℃のフリーザーに一晩放置した。そして、析出した淡黄色の固形物を遠心分離機で分離した(3000rpm×20分)。この遠心分離によって分離された淡黄色の固体1gは、目的のスフィンゴ糖脂質の中のモノグリコシルセラミドを20%(w/w)含有していた。
【0047】
なお、本発明は本実施形態に限られない。例えば、大麦由来原料としては、生の大麦フスマに限らず、生の大麦そのものを用いることもできる。また、これら大麦由来原料は、予め細かく粉砕しておいたものを用いることもできる。
【0048】
また、この大麦由来原料は、あらかじめ脂肪酸類を除去する処理を施された(脱脂された)大麦又は大麦フスマ等であってもよい。この場合、本製造方法は、図1に示す混合工程1に先立って、大麦由来原料から脂肪酸類を除去する脱脂工程を含んでもよい。
【0049】
すなわち、この混合工程1に先立って行われる大麦由来原料の脱脂工程は、例えば、大麦由来原料とヘキサン等の溶媒とを混合し、攪拌処理を行う工程を含む。これにより、大麦由来原料に元来含まれている脂肪酸類の量をあらかじめ減少させることができ、その後の工程(図1に示す各工程)において用いる溶媒の量や容器サイズを低減させることができるため、本製造方法をより簡便且つ低コストなものとすることができる。
【0050】
なお、この場合にも、抽出工程2においては、原料混合物を加熱することにより、例えば、大麦由来原料中に含まれる油脂の分解等によって脂肪酸類が生じる。このため、この抽出工程2に引き続き、上述した脂肪酸類除去工程3を行うことにより、当該抽出工程2により得られる抽出物中の脂肪酸類をより確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法に含まれる主な工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 混合工程、2 抽出工程、3 脂肪酸類除去工程。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦由来原料を、非ハロゲン系のアルコール系溶媒と混合し、当該原料混合物を加熱する抽出工程と、前記抽出工程で得られた抽出物から脂肪酸類を除去する脂肪酸類除去工程と、を含むことを特徴とする植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項2】
前記抽出工程において、前記原料混合物を80〜160℃に加熱することを特徴とする請求項1に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項3】
前記抽出工程及び脂肪酸類除去工程を不活性ガス下で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪酸類除去工程は、前記抽出工程で得られた抽出物を溶媒処理後、冷却分離させる工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項5】
前記大麦由来原料は、大麦フスマ由来原料であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール系溶媒は、イソプロパノール或いはエタノールを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。
【請求項7】
前記脂肪酸類除去工程において、前記溶媒はヘキサン或いはアセトンを含むことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の植物性スフィンゴ糖脂質含有油の製造方法。

【図1】
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