説明

植物性抗菌素材

【課題】抗菌性を有しない植物性素材において、簡易な加工により抗菌性を付与した植物性抗菌素材を得ることが求められていた。
【解決手段】10%以上のリグニンとセルロース以外の糖類を含有する植物体であれば、120℃以上の高温水蒸気で加熱処理することにより、抗菌性を付与することができるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用品、化粧品、医薬品、食品、衛生用品、繊維、紙パルプ等の各種産業分野において種々の目的、用途で利用されている植物性抗菌素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境衛生を向上させたいとの希望から、除菌や殺菌への意識が高まっており、様々な分野で抗菌性を有する素材が用いられている。また、一般的に生分解性の高い天然素材においては、その耐久性を向上させるために防腐目的で抗菌性が付与されて使用されることがある。
【0003】
植物から得られる素材の中には、植物の代謝産物として抗菌物質を含有し、特別な加工を施さなくても抗菌素材となるものもあるが、一般的な抗菌素材は、天然物から抽出したり、人工的に合成する等して得られる様々な抗菌物質を、目的の素材に塗付したり含浸する等して製造されている。
【0004】
竹はその表皮等が抗菌性を有することが知られており、竹を加工して得られた抗菌性繊維や布に関する技術が開示されている(特許文献1)。同様に、蓬を原料とした繊維シートに関する技術が開示されている(特許文献2)。また、抗菌性を有する丁子の抽出物を抗菌剤として各種資材に含有するといった例も見られる(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、これらの植物性抗菌素材は、特定の植物が有する抗菌成分を活用したものであり、竹や蓬、丁子といった植物を素材の一部に含有したり、抽出成分を含有したりすることが必須条件であり、これにより場合によっては必要となる素材の特性を満たさなかったり、素材の特性を損なったりすることがあり、常に利用可能な手法であるとは言えない。そのため、より広範囲な素材に対し、簡易に抗菌性を付与する手法及び抗菌性を付与した素材が求められている。
【特許文献1】特開平6−073665号公報
【特許文献2】特開2001−032172号公報
【特許文献3】特開平9−291008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記実状を鑑み、未加工の状態では抗菌性を有しない植物性素材であっても、簡易な加工により抗菌性を付与し、植物性抗菌素材を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため検討した結果、リグニンやセルロース以外の糖類を含有する多くの植物体を高温の水蒸気で加熱処理することにより、抗菌性を付与することができることを見出した。この抗菌性を有する植物体をそのまま或いは粉末や繊維に加工することにより、広範囲な産業分野において植物性抗菌素材として利用できることを見出した。この抗菌性は、加熱処理によりリグニンや糖類が分解、重合、変性する等して抗菌性を有するフェノール類や酢酸等の有機酸、フルフラールやその縮合物等様々な成分が生成されることにより発現されるものと推察される。
【0008】
本発明におけるリグニン含有量が10%以上であるとは、植物体の乾燥重量に対し、硫酸法(クラーソン法)で定量したリグニン相当分の含有量が10%以上であることである。未加工の植物体の他、熱処理や薬品処理により脱リグニンを施した植物体であっても、残存するリグニン含有量が10%以上であれば、本発明における抗菌素材へ転換することができる。
【0009】
本発明におけるセルロース以外の糖類とは、植物体にヘミセルロースとして存在するキシランやマンナン、ペクチンといった多糖類の他、ショ糖や果糖といった二糖類や単糖類も含まれる。これらの糖類の存在は、硫酸で試料を分解して多糖を単糖にし、さらにアルジトールアセテート化してガスクロマトグラフィーで検出するアルジトールアセテート法により、グルコース以外の単糖が検出されることにより確認できる。
【0010】
リグニンや多糖類は、一般に植物の茎に多く存在するため、茎を原料として加熱処理することにより効率的に抗菌性素材を得ることができる。
【0011】
本発明における抗菌とは、例えばJIS L1902等によって規定される抗菌性能であり、抗菌性能の強弱は原料となる植物体の種類や加熱処理条件により異なる。
【0012】
本発明における植物性抗菌素材とは、植物体の一部または全部を原料とし、これに抗菌性能を付与して所望の形状に加工した素材である。所望の形状に加工してから抗菌性能を付与しても良い。また、この植物性抗菌素材は、単独で用いるほかに、他の素材と混合したり、複合化する等して使用することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により未処理では抗菌物質を含有しない植物由来の素材であっても、容易に抗菌性能を付与することが可能となり、多くの植物体を抗菌素材として利用することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
原料の植物体、特に茎を適宜整形し、原料の乾燥重量と同程度の重量の水と共に、耐圧容器内に充填する。内部を加熱し120〜200℃の温度を15〜60分保持して植物体を水蒸気により加熱処理する。
【0015】
得られた植物性抗菌素材は、水蒸気により抽出されて生じた水溶性成分を水で洗い流した後に、所望の形状に加工する等して使用する。
【実施例1】
【0016】
製紙原料として用いられる木材チップ(樹種ユーカリ)を500mL容の耐圧容器に乾燥重量で40g入れ、水を40mL加えて蓋をした。耐圧容器を電気炉内で加熱し、容器内部が120℃になった状態を30分間保持した後放冷し、容器内が常圧に戻ったところで木材チップを取り出した。取り出したチップをおよそ1Lの水で水洗した後、粉砕機(オスターブレンダーST、オスター社製)で粉砕、繊維状とし、50℃の熱風乾燥機により水分が10%程度となるまで乾燥した。同様の操作を加熱処理温度を150、180℃として行った。なお、予め硫酸法により定量したリグニン含量は25%であり、セルロース以外の糖類の一つとしてキシラン由来と考えられるキシロースがアルジトールアセテート法により検出された。
【0017】
調製した繊維状サンプルをそれぞれJIS L1902に準じて、黄色ブドウ球菌を用いた菌液吸収法による定量試験にて抗菌性能を評価した。
【0018】
120、150、180℃のそれぞれの温度で加熱処理した繊維状サンプルの静菌活性値はいずれも3以上であり、抗菌性能を有していると判断された。
【実施例2】
【0019】
草本植物であるサトウキビの茎の外皮の部分を用い、実施例1に従い加熱処理した。原料のリグニン含量は10%であり、ショ糖の含有が認められた。
【0020】
実施例1に従い静菌活性値を測定したところ、いずれの処理温度でも2以上であり、抗菌性能を有していると判断された。
【0021】
(比較例1)
実施例1で用いた木材チップをクラフト法に基づいて脱リグニンした。リグニン含量5%で多糖であるキシランを含有するパルプが得られた。このパルプの懸濁液を網上に載せて脱水し、50℃の熱風乾燥機により水分が10%程度となるまで乾燥させた。実施例1と同様に120、150、180℃の温度でそれぞれ加熱処理した。
【0022】
実施例1に従い静菌活性値を測定したところいずれの試料においても1以下であり、抗菌性能は有していなかった。このことから脱リグニン処理によりリグニン含有量が低下すると、抗菌性が発現しないものと判断された。
【0023】
(比較例2)
実施例1で用いた木材チップを実施例1と同じ方法で100℃の温度で加熱処理し、繊維状サンプルを調製した。
【0024】
実施例1に従い静菌活性値を測定したところ2未満であり、抗菌性能は有していなかった。このことから、加熱温度が低いと抗菌性が発現しないものと判断された。
【0025】
(比較例3)
草本植物である綿の実の表皮から得たコットン繊維から調製したコットンパルプのシート(東邦特殊パルプ社製)に、含有量が15%となるようにリグニン(東京化成工業社製)懸濁液を含浸させた後、乾燥させた。このシートを塩酸で加水分解した溶液中からはセルロースを構成するグルコース以外の糖は検出されなかった。
【0026】
シートを実施例1と同様に、120、150、180℃の温度で加熱処理し、静菌活性値を測定したところ、いずれの試料においても1以下であり、抗菌性能は有していなかった。このことから、セルロース以外の糖が存在しないと抗菌性が発現しないものと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、所定のリグニン含有量とセルロース以外の多糖を含有する植物体を原料とすることにより、水蒸気による加熱処理という簡易な加工で、抗菌性を付与した植物性抗菌素材を得ることができるようになった。本発明により得られた植物性抗菌性素材は、紙パルプや繊維、衣服等の各種素材産業において、抗菌性を有する素材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有量が10%以上であり、かつセルロース以外の糖類を含有する植物体の一部を120℃以上の飽和水蒸気により加熱処理して得られた植物性抗菌素材。
【請求項2】
植物体の一部が木本植物または草本植物の茎である請求項1に記載の植物性抗菌素材。

【公開番号】特開2006−232778(P2006−232778A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52961(P2005−52961)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】