説明

植物性由来の抽出物を含んでなる抗糖尿病剤

【課題】 ニトベギクをエタノール抽出した人体に副作用のない、新規抗糖尿病薬の提供。
【解決手段】 キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を溶媒(水除く)抽出した抽出物を含んでなる、抗糖尿病剤により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物から水以外の溶媒から抽出された抽出物を含んでなる、新規抗糖尿病剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリン不足により引き起こされる代謝異常の病気とされ、一般的に、1型糖尿病、2型糖尿病等が代表的なものとして挙げらる。1型糖尿病の原因は膵臓のランゲルハンス氏島のβ細胞の破壊によりインスリン分泌が欠乏し、インスリンの絶対的不足によって引き起こされるものといわれている。β細胞破壊の原因はウイルス感染と、それにより生じる自己免疫異常によるものではないかと一般的に推測されている。また、2型糖尿病はインスリン分泌異常またはインスリン抵抗性といった遺伝的異常に、発症因子として過食、偏食、運動不足、ストレスなどの生活習慣の影響が付加されることにより、無兆候のうちに発病すると云われている。2型糖尿病は、肥満の関与が重要視され、特に、運動不足の中高年における発例が指摘されており、日本人の糖尿病の大部分は2型糖尿病と云われている。
【0003】
糖尿病予防薬または治療薬には様々な種類があり、その中でも、インスリン分泌促進作用を主作用とするものと、インスリン分泌促進作用をもたないもの(膵外作用が主作用)とに類別されている。例えば、スルホニル尿素薬(SU薬)は、経口糖尿病薬として知られており、膵臓のβ細胞膜の表面に存在しているSU薬の受容体に結合することによりインスリンの分泌を促進するといわれている。他方、SU薬は副作用としては低血糖状態になり易いとの指摘がなされている。ビグアナイド薬は、膵外作用によって血糖低下作用を示すものとされ、2型糖尿病患者に多く使用されているものである。他方、ビグアナイド薬は、副作用として乳酸アシドーシスと、胃腸障害が指摘されている。また、αグルコシダーゼ阻害薬は、糖質の吸収を阻害することによって食後の高血糖を改善する薬として知られており、空腹時血糖は高くなく食後の高血糖がみられる軽症の糖尿病患者に投与されるとされている。他方、αグルコシダーゼ阻害薬は、副作用として、便秘、下痢などの腹部症状が指摘されている。
【0004】
化学的または生物学的に合成された抗糖尿病剤は、即効性と症状低減とを兼ね備えたものとして有効なものであるが、その副作用が指摘されているのが現状である。従って、この様な合成剤ではなく、植物由来の原料を用いて食品安全性に優れた抽出溶媒を使用して得られる抽出物を用いた抗糖尿病剤が見直されている。
【0005】
植物由来の抽出物質を用いた糖尿病治療薬としては、特許文献1(特許第2609780号)において、植物ニトベギクを煎汁(水抽出)を用いたものが提案されている。しかしながら、今回、本発明者等の研究によれば、植物ニトベギクを煎汁(水抽出)したものは糖尿病に対する治療効果があるものの、その薬理効果が十分ではないことがわかった。
【0006】
従って、現在、ニトベギク等の植物を用いて、適切な抽出を行うことにより、薬効を高めることができ、かつ、安心して継続服用が可能な糖尿病予防薬または治療薬の開発が急務とされている。
【特許文献1】特許2609780号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者等は、本発明時に、キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を水以外の特定の溶媒により抽出した抽出物を利用することにより、副作用がなく、薬理効果の高い抗糖尿病剤を提供することができるとの知見を得た。従って、本発明は、特定植物由来の溶媒抽出物を用いた薬理効果の高い抗糖尿病剤を提供することを目的とする。
従って、本発明による抗糖尿病剤は、キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を、炭素数1〜5の低級アルコール、炭素数1〜5の低級エステル、および炭素数1〜5の低級アセトンからなる群から選択される一種または二種以上の溶剤を用いて抽出した抽出物を含んでなるものである。
本発明の別の態様により提供される抗糖尿病剤を製造する方法は、
キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を用意し、
前記キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を溶媒で抽出し、
前記溶媒が、炭素数1〜5の低級アルコール、炭素数1〜5の低級エステル、および炭素数1〜5の低級アセトンからなる群から選択される一種または二種以上のものであり、
得られた溶媒抽出物を含有させて抗糖尿病剤を得ることを含んでなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
抽出物/抽出方法
原料
原料は、キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物が挙げられる。キク科植物の好ましい具体例としては、ニトベギク、例えば、〔(ティソニア・ディベルシフォリア(ヘムスル)エー、グレイ:「Tithonia diversifolia(Hemsl)A,Gray」、(同族としてティソニア・フラティコサ・キャンバイ・アンド・ローズ:「Tithonia fruticosaCanby & Rose」)、(ティソニア・スカベリマア・ベンス:「Tithonia scaberrima Benth」)、(ティソニア・ロンゲラデイアタ(バートル)ブレーク:「Tithonia longeradiata(Bertol)Blake」)〕等の約10種類のものが挙げられ、また、メキシコヒマワリ〔学名はティソニア・ロタンディフォリア(ミル)ブレイク:「Tithonia rotundifolia(Mill)Blake〕)が挙げられる。
アカバナ科チョウジタデ属の植物の好ましい具体例としては、キダチキンバイ〔(ラドウィギア・オクトバルビス・ラーベン:「Ludwigia octovalvis Raven」)、チョウジタデ(ラドウィギア・プロストラータ・ロックス:「Ludwigia prostrataRoxb」)〕が挙げられる。
【0009】
抽出溶媒
本発明にあっては、抽出溶媒として、直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級アルコール、直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級エステル、直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級アセトンが使用される。本発明にあっては、溶媒で抽出した溶媒抽出物をそのまま抗糖尿病剤として使用する場合、これら溶媒の中でも食品として使用されるものを選択し使用することが好ましい。
【0010】
直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が好ましくは挙げられ、より好ましくはエタノールが挙げられる。直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級エステルの具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が好ましくは挙げられ、より好ましくは酢酸エチルが挙げられる。直鎖または分岐鎖を有する炭素数1〜5の低級アセトンとしては、アセトンが好ましくは挙げられる。抽出溶媒の添加量は、原料の量、抽出温度等に適合させて適宜定めることができる。また、溶媒抽出は、常温、常圧下で行って良く、抽出温度は各溶媒の沸点等を考慮して適宜定めることができる。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、抽出溶媒として、エタノールを使用することが好ましい。本発明の製造方法にあっては、原料であるキク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を用意し、この原料に、エタノールを添加する。エタノールは、原料の総重量に対して、2〜20倍、好ましくは5〜15倍の割合で添加することが好ましい。また、本発明にあっては、エタノール抽出は、常温(25℃)、常圧下において行って良いが、好ましくは、常圧下で、温度が20℃以上78℃以下であり、好ましくは下限が50℃以上であり、上限が70℃以下で抽出を行って良い。本発明にあっては、得られたエタノール抽出物を濾過し洗浄したものとして得られてよい。
【0012】
濃縮
本発明の好ましい別の方法によれば、本発明の方法で得られた溶媒抽出物から溶媒を除去した抽出物を含んでなる抗糖尿病剤を得る製造方法が提案される。溶媒を除去する方法としては、一般的には、減圧濃縮、加熱濃縮、通風濃縮、冷凍濃縮、噴霧濃縮、およびその他の濃縮方法、またはこれらの混合方法を用いることができる。濃縮の際の、圧力、温度、風力、噴霧等は、得られる抽出物の量に併せて適宜設定することができる。
【0013】
乾燥/乾燥物
本発明の好ましい別の方法によれば、本発明の方法で得られた溶媒抽出物または溶媒を除去した抽出物を、乾燥し、得られた乾燥物を含んでなる抗糖尿病剤を得る製造方法が提案される。本発明において、乾燥方法は、天日乾燥、(熱)風乾燥、真空乾燥、通気乾燥、流動乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、赤外線乾燥、高周波乾燥、およびその他の乾燥法、またはこれらの混合方法が用いられるが、本発明においては、凍結乾燥が好ましくは利用される。この凍結乾燥を行う場合、凍結温度、乾燥(湿度)は得られる凍結乾燥物の量に併せて適宜設定することができる
【0014】
賦型剤
本発明の好ましい態様によれば、乾燥(好ましくは凍結乾燥)する際、本発明の方法で得られた溶媒抽出物または溶媒を除去した抽出物に、賦型剤を添加して行うことが好ましい。賦型剤の具体例としては、デキストリン、デンプン、乳糖、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、またはこれらの組合せが挙げられる。また、本発明にあっては、得られた乾燥物はそれ自体またはそれを粉末にして抗糖尿病薬として利用することができる。
【0015】
溶媒抽出物等の用途
本発明による溶媒抽出物、溶媒が除去された抽出物、乾燥物およびその粉末は、抗糖尿病剤(好ましくは2型糖尿病)として利用される。本発明による溶媒抽出物等は糖尿病の予防または治療するための有効性成分として利用され、その効能が認められる。特に、従来の水抽出物と比較した場合に、その薬理効果が顕著である。本発明にあっては、抽出物中の新規薬理物および薬理メカニズムは明確には解明されていない。しかしながら、本発明による抽出物は、おそらく、従来の水抽出物と同一の薬理物を顕著に抽出しているか、又は特定溶媒の抽出による新たな薬理物が抽出され、これらが糖尿病を予防し、治療する効果を有するのではないかと考える。
【0016】
本発明による抗糖尿病剤は、経口および非経口(例えば、直腸投与、経皮投与)のいずれかの投与経路で、人を含む動物に投与することができる。本発明による抗糖尿病剤は、投与経路に応じた適切な剤形として提供されることが好ましい。例えば、液剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠等の経口剤、直腸投与剤等の種々に調製して使用することが可能である。
【0017】
抗糖尿病剤としての効果をより確実なものとするために、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等、薬学上許容される担体または添加剤を適宜選択し、組み合わせたものを本発明による抽出物等に添加してよい。使用可能な無毒性の上記添加剤は、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
本発明の内容を下記の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
実施例1
エタノール抽出物の調製
植物ニトベギクの乾燥物(6kg)を用意し、容器(200リットル)にエタノールを90リットル入れて、65℃で2時間加熱抽出し、ろ過により不純物を取り除いた後に溶媒を減圧留去し、エタノール抽出物(590g)を得た。
【0019】
比較例1
水抽出物の調製
植物ニトベギク乾燥物(500g)を用意し、容器(20リットル)に水を8リットル入れて、8時間、95℃で加熱して煎じ、その後に、固液分離を行い、水抽出物(5400g)を得た。また、これを凍結乾燥して73gの水抽出粉末として得られた。
【0020】
評価試験
評価1:毒性試験
正常動物(ddY系マウス、6週齢、雄)に、実施例1、比較例1で調製した抽出物を、それぞれ体重当たり2000mg/kgを経口投与し、24時間経過後にマウスの急性毒性発現の有無を観察した。実施例1及び比較例1ともに、毒性発現、行動変化、体重変化は観察されず、毒性がないことが分かった。
【0021】
評価2:2型糖尿病における血糖値の影響試験
遺伝的肥満型2型糖尿病動物(KK−Ayマウス、7週齢)を用いて、下記の単回投与を行って血糖値の影響を試験した。
単回投与試験
KK−Ayマウスに、実施例1で調製した抽出物を、それぞれ体重当たり500mg/kg、1500mg/kg(図1中、「TD500」、「TD1500」と表した)を経口投与した。また、比較例1で調製した水抽出物を、体重当たり1500mg/kg(図1中、「水抽出物1500」と表した)を経口投与した。それぞれ投与後8時間経過後の血糖値を測定した。その測定結果は図1に表した通りであった。図1中、P<0.05は有意差を表す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、KK−Ayマウスの血糖に及ぼすニトベギクエタノール抽出物とニトベギク水抽出物との影響を比較したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を、炭素数1〜5の低級アルコール、炭素数1〜5の低級エステル、および炭素数1〜5の低級アセトンからなる群から選択される一種または二種以上の溶剤を用いて抽出した抽出物を含んでなる、抗糖尿病剤。
【請求項2】
前記炭素数1〜5の低級アルコールがエタノールであり、前記炭素数1〜5の低級エステルが酢酸エチルである、請求項1に記載の抗糖尿病剤。
【請求項3】
前記抽出物から前記溶媒を除去した抽出物を含んでなる、請求項1または2に記載の抗糖尿病剤。
【請求項4】
キク科植物がニトベギクである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗糖尿病剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抽出物を乾燥して得られた乾燥物を含んでなる、抗糖尿病剤。
【請求項6】
動物または人の糖尿病の治療または予防に使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗糖尿病剤。
【請求項7】
薬学上許容される担体または添加剤をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗糖尿病剤。
【請求項8】
抗糖尿病剤を製造する方法であって、
キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を用意し、
前記キク科植物またはアカバナ科チョウジタデ属植物を溶媒で抽出し、
前記溶媒が、炭素数1〜5の低級アルコール、炭素数1〜5の低級エステル、および炭素数1〜5の低級アセトンからなる群から選択される一種または二種以上のものであり、
得られた溶媒抽出物を含有させて抗糖尿病剤を得ることを含んでなる、製造方法。
【請求項9】
前記溶媒抽出物から前記溶媒を除去して抽出物を得て、
得られた抽出物を含有させて抗糖尿病剤を得ることをさらに含んでなる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の製造方法で得られた溶媒抽出物または請求項9に記載の製造方法で得られた抽出物を乾燥し、
得られた乾燥物を含有させて抗糖尿病剤を得ることを含んでなる、抗糖尿病剤の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥を行う際に、前記溶媒抽出物または前記抽出物に賦形剤を添加することを含んでなる、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241123(P2006−241123A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62702(P2005−62702)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(500094015)株式会社 ヒロインターナショナル (4)
【Fターム(参考)】