説明

植物性美白剤の製造方法、植物性美白剤および美白用皮膚外用剤

【課題】優れた美白作用を有し、日焼け後の色素沈着・しみ・そばかす・肝斑等の淡色化、美白に優れた効果を有する美白剤の製造方法を提供する。
【解決手段】Thuja属植物、Rubes属植物、Vaccinium属植物、Actinidia属植物およびPerilla属植物の中から選ばれる一種または二種以上の植物の種子を抽出して植物抽出物とし、次いで該植物抽出物にアルカリ処理を施すか、または特定の種子の粉砕物を温度 10〜35℃、相対湿度 20〜90%で1週間以上熟成した後に抽出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物性美白剤、植物性美白剤の製造方法および美白用皮膚外用剤に関し、さらに詳しくは日焼け後の色素沈着・しみ・そばかす・肝斑等の予防および改善に有効で、安全かつ皮膚の美白に優れた効果を有する植物由来の美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のしみなどの発生機序については一部不明な点もあるが、一般には、ホルモンの異常や日光からの紫外線の刺激が原因となってメラニン色素が形成され、これが皮膚内に異常沈着するものと考えられている。皮膚の着色の原因となるこのメラニン色素は、表皮と真皮との間にあるメラニン細胞(メラノサイト)内のメラニン生成顆粒(メラノソーム)において生産され、生成したメラニンは、浸透作用により隣接細胞へ拡散する。
【0003】
このメラノサイト内における生化学反応は、次のようなものと推定されている。すなわち、必須アミノ酸であるチロシンが酵素チロシナーゼの作用によりドーパキノンとなり、これが酵素的または非酵素的酸化作用により赤色色素および無色色素を経て黒色のメラニンへ変化する過程がメラニン色素の生成過程である。
【0004】
上記のメラニン色素の生成を抑制する美白剤及び美白用皮膚外用剤については、従来から植物由来の抽出物が、その安全性や皮膚への刺激の穏やかさを期待して種々開発されている(例えば特許文献1〜4参照)。
一方、植物資源の多様性やそれらの入手性にも限りがあることから、植物が有する能力を十分に引き出すことができるような製法面からの工夫も非常に重要といえる。このような観点から、従来用いられてきた方法と異なる方法で植物由来成分を得る技術、例えば超臨界炭酸ガス抽出法を用いた試み(特許文献5参照)もなされつつある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−310939号公報
【特許文献2】特開平7−89843号公報
【特許文献3】特開平9−30954号公報
【特許文献4】特開2003−73224号公報
【特許文献5】特開2005−179226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、植物由来の美白剤については、新しい植物で、あるいは新しい製法で新たな美白効果を奏する植物を見出すことが求められている。
以上のような背景から、本発明者らは製法の工夫により、安全かつ効果の高い新規な植物由来の美白剤ならびにその製造方法、および美白用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、このような現状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の植物の種子を用いて特定の方法で得られた植物種子抽出物が、高い安全性と顕著な美白効果を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、Thuja属植物、Rubes属植物、Vaccinium属植物、Actinidia属植物およびPerilla属植物の中から選ばれる一種または二種以上の植物の種子を抽出して植物抽出物とし、次いで該植物抽出物にアルカリ処理を施して得られることを特徴とする植物性美白剤の製造方法である。
【0009】
ここで、前記アルカリ処理は、前記抽出物の溶媒の一部または全部を留去した後、溶液濃度が1〜10Nとなるようにアルカリ水溶液を添加、混合し、次いで中和することによりなされるものであることが好ましい。
【0010】
また本発明は、Thuja属植物、Rubes属植物、Vaccinium属植物、Actinidia属植物およびPerilla属植物の中から選ばれる一種または二種以上の植物の種子を粉砕し、温度 10〜35℃、相対湿度 20〜90%で1週間以上熟成した後に抽出してなることを特徴とする植物性美白剤の製造方法である。
【0011】
前記植物としては、 Thuja orientalis、Rubes idaeus、Vaccinium oxycoccos、Vaccinium corymbosum、Vaccinium vitis-idaea、Perilla frutescens および Actinidia chinensis から選ばれたものであることが好ましい。
【0012】
また本発明によれば、上記のいずれかの方法で製造された植物性美白剤が提供される。
さらに本発明によれば、上記植物性美白剤を配合してなる美白用皮膚外用剤が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の植物性美白剤の製造方法によれば、安全で優れた美白作用を有し、日焼け後の色素沈着・しみ・そばかす・肝斑等の淡色化、美白に優れた効果を有する植物性美白剤を製造することができる。また、本発明の植物性美白剤の製造方法のなかでも請求項1に係る方法では美白効果が非常に優れたものが得られる。また請求項3に係る方法では、比較的容易な工程により、優れた美白効果を有する美白剤が得られる。
本発明の植物性美白剤は、安全で優れた美白作用を有し、日焼け後の色素沈着・しみ・そばかす・肝斑等の淡色化、美白に優れた効果を有するものである。
また本発明の美白用皮膚外用剤は、本発明の植物性美白剤を配合したことにより、優れた美白効果やくすみ改善効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明において用いられる植物としては、前述のようにバラ科Rubus属(スグリ属)、ツツジ科Vaccinium属(スノキ属)、マタタビ科Actinidia属(マタタビ属)、ヒノキ科Thuja属(クロベ属)、シソ科Perilla属(シソ属)の植物を挙げることができる。
【0015】
このうち、バラ科Rubes属植物としてはブラックベリー(Rubus fruticosus)、ラズベリー(Rubus idaeus)およびこれらの交配種などが利用でき、食用として輸入されている北米、北欧産のもの等を利用できる。
ツツジ科Vaccinium属植物としては、クランベリー(Vaccinium oxycoccos)、リンゴンベリー(Vaccinium vitis-idaea)、ブルーベリー(Vaccinium corymbosum および Vaccinium ashei)、ハックルベリー(Vaccinium ovatum)などを挙げることができ、食用として輸入されている北米、北欧産のもの等を利用できる。
マタタビ科Actinidia属植物としては、キウイ(Actinidia chinensis または Actinidia deliciosa)を挙げることができ、食用として輸入されている、ニュージーランド産等のものを利用できる。
これらの植物の種子は果汁やジャムなどの食品を生産する際の剰余物として得ることが可能であり、上記のうち一部の植物については、種子抽出物が市販されており、このような既製品を原料として用いることもできる。
ヒノキ科Thuja属植物は常緑針葉樹でニオイヒバ(Thuja occidentalis)、コノテガシワ(Thuja orientalis)などがあり、中でも Thuja orientalis の種子は生薬の「柏子仁」(ハクシニン)として中医学で汎用されており、中国産のものを利用できる。Thuja orientalisの異名には、Biota orientalis 及びPlatycladus orientalisがある。
シソ科Perilla属植物としてはシソ(Perilla frutescens)を挙げることができ、食用として栽培されている日本産のもの等を利用できる。
【0016】
本発明による植物性美白剤の製造方法としては、植物の種子を抽出して得られた植物抽出物にアルカリ処理を施す方法(以下、第1の方法と称する。)、および植物の種子を粉砕し、温度 10〜35℃、相対湿度 20〜90%で1週間以上熟成した後に抽出する方法(以下、第2の方法と称する。)がある。
【0017】
上記第1の方法および第2の方法に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる揮発性溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル、ヘキサン、エーテル等の極性・非極性有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンは低価格であり、減圧濃縮が容易な点で特に好ましい。その他、超臨界炭酸ガスによる抽出を用いることもできる。これに対し、水を多量に含む抽出溶媒は、活性成分の抽出が抑制されるので好ましくない。
【0018】
抽出にあたっては、種子の質量に対し、1〜100倍、好ましくは1〜30倍程度の質量の溶媒で一定期間抽出を行う。用いる種子は必要に応じて適度に粉砕することも可能であるが、ろ過時に目詰まりが問題となる場合等では未粉砕のまま用いても良い。また、少量の溶媒で繰り返し抽出することも可能であり、ソックスレーのような還流装置を用いても良い。超臨界炭酸ガスで抽出する場合は40℃付近で20〜40MPaの一般的な条件にて抽出できる。
【0019】
本発明の第1の方法においては、これらの抽出物から抽出溶媒を除去した後、アルカリ処理する。アルカリ処理は溶媒除去後の抽出物に対し、0.2〜2倍容量の濃アルカリ水溶液を添加した後、充分撹拌混合し、30分〜数日程度熟成をおこなう。混合の際の温度としては、室温〜70℃の範囲が好ましく、30〜60℃の範囲がさらに好ましい。熟成時には成分親水性成分と親油性成分が分離しないように、適宜撹拌を行うことが望ましい。濃アルカリ水溶液としては、1〜10Nの濃度のNaOH、KOHなどからなる水溶液が挙げられる。
【0020】
上述のようにアルカリ処理した抽出物をさらに酸で中性付近まで中和すると油状物質が分離してくる。この油状物質はきわめて高い美白作用を奏しながらも、肌に対して高い安全性を示す。油状物質回収促進のために、アルコール、アセトン類などをアルカリ処理後に適宜加えても良く、さらにその後必要に応じて脱色、脱臭、脱塩、蒸留などの操作を加えても良い。
【0021】
本発明の第2の方法によれば、抽出の前段階で種子を適度に粉砕あるいは圧ぺんし、そのまま室温付近で一定期間熟成する。熟成期間については、目的とする効果が得られる範囲であれば特に問わないが、熟成期間が一週間以内と短いと十分な美白効果を得ることが難しく、反対に数年にも及ぶと腐敗や酸化変臭の問題が起こり、好ましくない。また熟成中には必要に応じて、酸化防止剤添加や窒素置換等を行うことにより、変臭を抑制することも可能である。
【0022】
このように熟成した種子より、前述した抽出溶媒・抽出法を用いて抽出を行う。抽出後は必要に応じて、溶媒除去・脱色・脱臭・蒸留等の操作を行う。このような特定の種子を粉砕して熟成した後に抽出することにより得られた抽出物は、前述のアルカリ処理した抽出物と同様にきわめて高い美白作用を奏しながらも、肌に対して高い安全性を示す。
【0023】
本発明においては、上に示したような植物の種子より第1の方法または第2の方法で調製した抽出物よりなる安全で美白効果の優れた植物性美白剤を提供することができ、さらには本美白剤を配合した美白用皮膚外用剤を提供できる。
【0024】
本発明の美白用皮膚外用剤における植物抽出物の配合量は、外用剤全量中、乾燥物として0.005〜3.0質量%、好ましくは0.01〜1.0質量%である。0.005質量%未満であると、本発明でいう効果が十分に発揮されず、3.0質量%を超えると製剤化が難しいので好ましくない。また、1.0質量%以上配合すると、長期保存した際に変臭などの問題が起こりやすい。
【0025】
また、本発明の美白用皮膚外用剤には、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、グリセリン、1,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコールなどの保湿剤、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、ビタミンE及びその誘導体などの酸化防止剤、直鎖状シリコーン、環状シリコーン、エステル油、エーテル油、炭化水素、脂肪酸などの油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0026】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、火棘の果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0027】
本発明の美白剤は種々の剤型、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来から皮膚外用剤に用いられるものであればいずれに配合して用いても良い。
【実施例】
【0028】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
最初に、本発明の植物抽出物のメラニン生成抑制効果に関する試験方法とその結果について説明する。
【0029】
1.試料の調製
(1)種子抽出物のアルカリ処理物の調製
各種植物の種子(未粉砕、必要に応じて外殻を除去)をそれぞれ5倍量(v/w)のアセトンまたは酢酸エチル(酢エチ)またはヘキサンに浸漬し、室温にて10日間抽出を行った。ナイロンメッシュ(100メッシュ)であらかじめ残渣を除き、さらにろ紙にてろ過した。ロータリーエバポレータでろ液から溶媒を除去した後、撹拌羽根で撹拌しながら0.5〜15NのNaOHをNaOHとして100〜300 g/l 抽出物の範囲内で添加した(温度50℃)。200 rpmで撹拌しながら、5時間処理を行った。その後、5N H2SO4を徐々に添加し、撹拌しながらpHを1付近まで下げ、分離してくる油状物質を回収した。回収した油状物質に等容量の水を加えて水洗し、不純物・塩・過剰の酸を除去した。油状物質を減圧乾燥し、アルカリ処理物とした。比較対照としては、アルカリ処理前の抽出物を用いた。Thuja orientalis については、超臨界CO2(20MPa、40℃)による抽出も実施し、同様なアルカリ処理を施した。
【0030】
(2)粉砕熟成種子抽出物の調製
各種植物の種子をブレンダーにて軽く粉砕した後、プラスチックボトルに入れて密封し、1〜10週間室温にて保存した。次に粉砕物の重量に対して10倍量(v/w)のアセトン、酢酸エチル(酢エチ)またはヘキサンを加えて、一晩抽出した。ろ過により残渣を除去した後、ろ液を濃縮し、粉砕熟成種子抽出物とした。比較対照として、未粉砕のまま同じ条件で保存した種子より抽出した抽出物を用いた。
【0031】
2.メラニン生成抑制効果試験方法およびその結果
得られた抽出物を試験試料として、次の方法でメラニン生成抑制効果を測定・評価した。
【0032】
(1)細胞培養法
マウス由来のB16メラノーマ培養細胞を使用した。5%ウシ胎児血清(Thermo Trace製)を含むMEM培地中でCOインキュベーター(95%空気、5%二酸化炭素)内、37℃の条件下で培養した。試料溶液を2.5(w/v) %となるようにエタノールに溶解し、試験試料として用いた。培養24時間後に試験試料を終濃度(抽出乾燥物換算濃度)で25mg/lとなるように添加し、さらに3日間培養を続け、以下の方法でメラニン生成量の測定を行った。
また、従来からメラニン生成抑制効果があることが知られているアルブチンについても上記と同様の試験を行った。
【0033】
(2)測定
20×104個 のB16メラノーマ細胞を、60mmプラスティックシャーレに植え込み、24時間前培養した。その後、新鮮な培地に置換し試料を培養液中に50ul/Well添加した。細胞は3日間培養したのち、トリプシン処理によって回収した。回収した細胞は1N NaOH、10%DMSO液に溶解し、420nmの吸光度を測定し、メラニン量とした。種々の採取法で得たThuja orientalis の種子、すなわち柏子仁を用いた時のメラニン量の測定結果を図1に示す。図中、(1-1)〜(1-10)は、それぞれ次のものを試料として用いた例である。
【0034】
(1-1):0.1%(終濃度)エタノールのみ(薬剤無添加区)
(1-2):アルブチン(終濃度25mg/l、以下、濃度は同様)
(1-3):柏子仁(未粉砕物)のアセトン抽出物で、アルカリ未処理のもの
(1-4):前記試料の調製の欄における(1)の方法で得られた柏子仁アセトン抽出物
(1-5):前記試料の調製の欄における(2)の方法で1週間熟成後に得られた柏子仁アセトン抽出物
(1-6):前記試料の調製の欄における(2)の方法で4週間熟成後に得られた柏子仁アセトン抽出物
(1-7):前記試料の調製の欄における(2)の方法で10週間熟成後に得られた柏子仁アセトン抽出物
(1-8):柏子仁種子を粉砕しない他は前記試料の調製の欄における(2)の方法で10週間熟成後に得られた柏子仁アセトン抽出物
(1-9):柏子仁を圧ぺんした後、直ちに超臨界CO2(30MPa、40℃)による抽出を行った柏子仁抽出物
(1-11):柏子仁を圧ぺんした後、直ちに超臨界CO2(30MPa、40℃)による抽出を行った後、アルカリ処理した柏子仁抽出物
なお、上記におけるアルカリ濃度(NaOH濃度)はいずれも5Nで行った。
【0035】
図1より本発明の実施例の一つである柏子仁抽出物(アルカリ処理物)(1-4)はアルカリ未処理物(1-3)に比べ、著しくメラニン抑制効果が高まっていることが分かる。また、本発明の別の実施例である柏子仁粉砕・熟成抽出物((1-5)〜(1-7))は未粉砕で同期間保存したもの(1-8)に比べ、著しくメラニン抑制効果が高まっていた。種子の粉砕・熟成によるメラニン抑制効果の増大は保存期間が一週間と比較的短い場合(1-5)でも有意に上昇しており、陽性対照であるアルブチン(1-2)以上の優れたメラニン抑制作用を有し、美白剤として有用であることが分かる。なお、同時にMTT法により細胞生存率を評価した結果、本発明の種子抽出物では細胞生存率の低下は認められなかったことから、図1におけるメラニン産生量の抑制は細胞傷害によるものではないといえる。
【0036】
図2は、柏子仁抽出物をアルカリ処理した時のアルカリ濃度とメラニン抑制効果との関係を示す図である。試験方法は、次の通りである。
柏子仁抽出物1kgに対し、NaOHを170gの割合で、種々のアルカリ強度の水溶液として添加した。200rpmで激しく振とうしながら、50℃水浴上で3時間反応させた後、硫酸を加えて酸性にした際に分離してきた油状物質を回収し、試料として用いてメラニン生成抑制効果試験を行った。
図2から、アルカリ処理の際のアルカリ強度は1〜10Nの間にあることが望ましいことがわかる。
【0037】
図3に本発明の別の実施例であるVaccinium oxycoccos、Vaccinium corymbosum、Vaccinium vitis-idaea(以上、Vaccinium属植物)、Rubes idaeus(Rubes属植物)、Actinidia chinensis(Actinidia属植物)、Perilla frutescens(Perilla属植物)の種子抽出物(アルカリ処理物)および粉砕・熟成処理を施した種子より抽出した抽出物のメラニン抑制効果評価結果を示す。比較例としては未粉砕種子より抽出した抽出物(アルカリ未処理物)を用いた。図中、Aは未粉砕種子抽出物(アルカリ未処理、比較例)、Bは未粉砕種子抽出物(アルカリ処理、実施例)、Cは粉砕・熟成種子抽出物(室温、10週間熟成、実施例)である。また本発明の範囲外である植物を用いた比較例として、油ヤシ(Elaeis guineensis)種子アセトン抽出物の例を図中に示した(アルカリ未処理、アルカリ処理、粉砕・熟成種子抽出物(室温、10週間熟成))。
【0038】
図3に示した何れの実施例においても、顕著なメラニン抑制効果が認められた。これに対し粉砕・熟成処理やアルカリ処理を行わなかった抽出物(A:比較例)および油ヤシ(Elaeis guineensis)種子アセトン抽出物ではいずれもメラニン抑制効果はきわめて低かった。
【0039】
以下に、本発明の美白剤の配合例を挙げる。このように、本発明の美白剤は種々の皮膚外用剤処方に広く配合できる。
【0040】
処方例1 クリーム
ステアリン酸 5.0 質量%
ステアリルアルコール 4.0
イソプロピルミリステート 18.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 3.0
プロピレングリコール 10.0
Thuja orientalis アセトン抽出物(アルカリ処理品) 0.2
Rubes idaeus アセトン抽出物(アルカリ処理品) 0.1
Vaccinium vitis-idaea アセトン抽出物(アルカリ処理品) 0.1
天然型ビタミンE 0.05
苛性カリ 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
【0041】
処方例2 クリーム
ステアリン酸 2.0 質量%
ステアリルアルコール 7.0
水添ラノリン 2.0
スクワラン 5.0
2−オクチルドデシルアルコール 6.0
ポリオキシエチレン(25モル)セチルアルコールエーテル 3.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
プロピレングリコール 5.0
Actinidia chinensis アセトン抽出物(アルカリ処理品) 0.5
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
【0042】
処方例3 クリーム
固形パラフィン 5.0 質量%
ミツロウ 10.0
ワセリン 15.0
流動パラフィン 41.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノラウリン酸エステル 2.0
石けん粉末 0.1
硼砂 0.2
Thuja orientalis 粉砕・熟成種子ヘキサン抽出物 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
【0043】
処方例4 乳液
ステアリン酸 2.5 質量%
セチルアルコール 1.5
ワセリン 5.0
流動パラフィン 10.0
ポリオキシエチレン(10モル)モノオレイン酸エステル 2.0
ポリエチレングリコール1500 3.0
トリエタノールアミン 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.05
Perilla frutescens ヘキサン抽出物(アルカリ処理品) 1.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
【0044】
処方例5 乳液
マイクロクリスタリンワックス 1.0 質量%
密ロウ 2.0
ラノリン 20.0
流動パラフィン 10.0
スクワラン 5.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 4.0
ポリオキシエチレン(20モル)ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
プロピレングリコール 7.0
Vaccinium oxycoccos 粉砕熟成種子アセトン抽出物 0.5
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
【0045】
処方例6 パック
ジプロピレングリコール 5.0 質量%
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 5.0
Thuja orientalis 種子抽出物 (アルカリ処理品) 0.5
オリーブ油 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール 13.0
(ケン化度90、重合度2,000)
エタノール 7.0
精製水 残余
【0046】
処方例7 固形ファンデーション
タルク 43.1 質量%
カオリン 15.0
セリサイト 10.0
亜鉛華 7.0
二酸化チタン 3.8
黄色酸化鉄 2.9
黒色酸化鉄 0.2
スクワラン 8.0
イソステアリン酸 4.0
モノオレイン酸POEソルビタン 3.0
オクタン酸イソセチル 2.0
Thuja orientalis 粉砕・熟成種子抽出物 0.2
Vaccinium oxycoccos 種子アセトン抽出物 (アルカリ処理品) 0.2
防腐剤 適量
香料 適量
【0047】
処方例8 乳化型ファンデーション(クリームタイプ)
(処方)
(粉体部)
二酸化チタン 10.3 質量%
セリサイト 5.4
カオリン 3.0
黄色酸化鉄 0.8
ベンガラ 0.3
黒色酸化鉄 0.2
(油相)
デカメチルシクロペンタシロキサン 11.5
流動パラフィン 4.5
ポリオキシエチレン変性ジメチルポリシロキサン 4.0
(水相)
精製水 50.0
1,3−ブチレングルコール 4.5
Vaccinium corymbosum 種子抽出物 (アルカリ処理品) 0.2
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 3.0
防腐剤 適量
香料 適量
【0048】
処方例9 乳液
ジメチルポリシロキサン 3 質量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 4
エタノール 5
グリセリン 6
1,3−ブチレングリコール 5
ポリオキシエチレンメチルグルコシド 3
ヒマワリ油 1
スクワラン 2
水酸化カリウム 0.1
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
ビワ葉エキス 0.1
L−グルタミン酸ナトリウム 0.05
ウイキョウエキス 0.1
酵母エキス 0.1
ラベンダー油 0.1
ジオウエキス 0.1
Vaccinium corymbosum 粉砕・熟成種子抽出物 0.2
Vaccinium vitis-idaea 粉砕・熟成種子抽出物 0.2
ジモルホリノピリダジノン 0.1
キサンタンガム 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1
(ペミュレンTR−1)
ベンガラ 適量
黄酸化鉄 適量
パラベン 適量
精製水 残余
【0049】
処方例10 乳液
ジメチルポリシロキサン 2 質量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 25
ドデカメチルシクロヘキサシロキサン 10
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 1.5
トリメチルシロキシケイ酸 1
1,3−ブチレングリコール 5
スクワラン 0.5
タルク 5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
Actinidia chinensis 粉砕・熟成種子抽出物 0.1
酢酸トコフェロール 0.1
エデト酸三ナトリウム 0.05
4−t−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン 1
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 5
ジパラメトキシ桂皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 1
シリコーン被覆微粒子酸化チタン(40nm) 4
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 0.5
球状ポリエチレン末 3
フェノキシエタノール 適量
精製水 残余
香料 適量
【0050】
処方例11 乳液
流動パラフィン 7 質量%
ワセリン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 2
ベヘニルアルコール 1
グリセリン 5
ジプロピレングリコール 7
ポリエチレングリコール1500 2
ホホバ油 1
イソステアリン酸 0.5
ステアリン酸 0.5
ベヘニン酸 0.5
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 3
2−エチルヘキサン酸セチル 3
モノステアリン酸グリセリン 1
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
水酸化カリウム 0.1
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
グリチルレチン酸ステアリル 0.05
L−アルギニン 0.1
ローヤルゼリーエキス 0.1
酵母エキス 0.1
Rubus idaeus 粉砕・熟成種子抽出物 0.1
Perilla frutescens 粉砕・熟成種子抽出物 0.1
酢酸トコフェロール 0.1
アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
エデト酸三ナトリウム 0.05
4-t-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 0.1
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.15
パラベン 適量
精製水 残余
香料 適量
【0051】
処方例12 クリーム
α−オレフィンオリゴマー 10 質量%
ワセリン 1
マイクロクリスタリンワックス 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 5
グリセリン 10
ジプロピレングリコール 2
1,3−ブチレングリコール 2
エリスリトール 2
スクワラン 1
グリセリン脂肪酸エステルエイコサンニ酸縮合物 0.1
イソステアリン酸 1
2−エチルヘキサン酸セチル 5
塩化ナトリウム 0.5
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
グリチルレチン酸ステアリル 0.05
コウボエキス 0.1
リン酸L−アスコルビルマグネシウム 2
酢酸トコフェロール 0.5
チオタウリン 0.1
DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム 1
ウコンエキス 0.1
Vaccinium corymbosum 粉砕・熟成種子抽出物 0.3
エデト酸3ナトリウム 0.1
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 2
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
パラベン 適量
精製水 残余
香料 適量
【0052】
処方例13 クリーム
流動パラフィン 8 質量%
ワセリン 3
ジメチルポリシロキサン 2
ステアリルアルコール 3
ベヘニルアルコール 2
グリセリン 5
ジプロピレングリコール 4
トレハロース 1
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 4
モノイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 2
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
親油型モノステアリン酸グリセリン 2
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.05
水酸化カリウム 0.015
油溶性甘草エキス 0.1
レチノールパルミテート(100万単位) 0.25
酢酸トコフェロール 0.1
Rubus fruticosus 粉砕熟成種子抽出物 0.5
パラオキシ安息香酸エステル 適量
フェノキシエタノール 適量
ジブチルヒドロキシトルエン 適量
エデト酸三ナトリウム 0.05
4-t-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 0.01
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 0.1
β−カロチン 0.01
ポリビニルアルコール 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.5
カルボキシビニルポリマー 0.05
精製水 残余
香料 適量
【0053】
処方例14 パック
ジプロピレングリコール 5.0 質量%
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 5.0
Thuja orientalis 種子抽出物 (アルカリ処理品) 0.5
オリーブ油 5.0
酢酸トコフェノール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール 13.0
(ケン化度90、重合度2000)
エタノール 7.0
精製水 残余
【0054】
処方例15 乳化型ファンデーション
ベヘニルアルコール 0.5 質量%
ジプロピレングリコール 6
ステアリン酸 1
モノステアリン酸グリセリン 1
水酸化カリウム 0.2
トリエタノールアミン 0.8
酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
パラオキシ安息香酸エステル 適量
黄酸化鉄 1
α−オレフィンオリゴマー 3
ジメチルポリシロキサン(6mPa.s) 2
ジメチルポリシロキサン(100mPa.s) 5
バチルアルコール 0.5
イソステアリン酸 1
ベヘニン酸 0.5
2−エチルヘキサン酸セチル 10
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
酸化チタン 3
雲母チタン・ポリアクリル酸アルキル複合粉末 0.5
表面処理酸化チタン(MT−062) 10
ポリアクリ酸アルキル被覆雲母チタン 0.5
黒酸化鉄被覆雲母チタン 0.5
無水ケイ酸 6
パラメトキシケイ皮酸2−エチルへキシル 2
ベンガラ 適量
群青 適量
黒酸化鉄 適量
法定色素 適量
キサンタンガム 0.1
ベントナイト 1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
Actinidia chinensis 粉砕・熟成種子抽出物 0.1
精製水 残余
香料 適量
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】種々の採取法で得た柏子仁抽出物を用いた時のメラニン量の測定結果を示す図である。
【図2】種々のアルカリ条件で処理を行った柏子仁抽出物のメラニン抑制効果を示す図である。
【図3】Vaccinium oxycoccos、Vaccinium vitis-idaea、Rubes idaeus、Actinidia chinensis、Perilla frutescensの種子抽出物(アルカリ処理物)および粉砕・熟成処理を施した種子より抽出した抽出物を用いた時のメラニン量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Thuja属植物、Rubes属植物、Vaccinium属植物、Actinidia属植物およびPerilla属植物の中から選ばれる一種または二種以上の植物の種子を抽出して植物抽出物とし、次いで該植物抽出物にアルカリ処理を施して得られることを特徴とする植物性美白剤の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ処理が、前記抽出物の溶媒の一部または全部を留去した後、溶液濃度が1〜10Nとなるようにアルカリ水溶液を添加、混合し、次いで中和することによりなされるものであることを特徴とする請求項1に記載の植物性美白剤の製造方法。
【請求項3】
Thuja属植物、Rubes属植物、Vaccinium属植物、Actinidia属植物およびPerilla属植物の中から選ばれる一種または二種以上の植物の種子を粉砕し、温度 10〜35℃、相対湿度 20〜90%で1週間以上熟成した後に抽出してなることを特徴とする植物性美白剤の製造方法。
【請求項4】
前記植物が Thuja orientalis、Rubes idaeus、Vaccinium oxycoccos、Vaccinium corymbosum、Vaccinium vitis-idaea、Perilla frutescens および Actinidia chinensis から選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の植物性美白剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造されたことを特徴とする植物性美白剤。
【請求項6】
請求項5に記載の植物性美白剤を配合してなることを特徴とする美白用皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−223944(P2007−223944A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46229(P2006−46229)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】