説明

植物成長調整剤およびそれを用いた植物の生育方法

【課題】農作物や観賞用の花卉などの栽培において、花や実の成長を促進し、しかも観賞を楽しむ時間を長くすることができる植物成長調整剤を提供すること。
【解決手段】アリルイソチオシアネートを有効成分として含有し、植物成長促進活性を有することを特徴とする植物成長調整剤およびこの植物成長調整剤を土壌に施用することで植物の成長を促進させることを特徴とする植物の生育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物成長調整剤およびそれを用いた植物の生育方法に関し、さらに詳しくは、プランター等に植えられた鉢植えの花や野菜等の植物の成長を促進し、開花促進、結実促進、収量向上等の効果を有する植物成長調整剤、およびそれを用いて植物の成長を調整する生育方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アリルイソチオシアネート(イソチオシアン酸アリル:AITC)は、主にワサビ、辛子、大根などのアブラナ科の植物に含まれる辛味成分であり、特有の強烈な刺激臭を持っている。アリルイソチオシアネートは、天然由来の場合、植物体内ではシニグリンまたはシナルビンなどの配糖体として存在しており、酸素に触れることで酵素(特に、ミロシナーゼ)の作用により生成する。このアリルイソチオシアネートは、食品香料としての用途の他、近年ではその抗菌作用が注目され、さまざまな用途が開発されている。
【0003】
園芸や農業の分野においてもアリルイソチオシアネートは利用されており、例えば、刺激性辛味成分を有する植物性香辛材を含有する酢酸水溶液に、イネ種子を浸漬させるイネの種子消毒方法や(例えば、特許文献1参照)、刺激性辛味成分を有する植物性香辛材を含有する酢酸水溶液又は酢酸粉状物を施用した培土又は土壌を用いてイネ苗を栽培するイネ苗の生育方法や(例えば、特許文献2参照)、唐辛子、にんにく及び山葵からカプサイシン、アリシン及びアリルイソチオシアネートを抽出した溶液である病害虫防除剤を、ハウス類設備内に噴霧散布することにより青果作物の病害虫を防除する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0004】
特許文献1および2によれば、アリルイソチオシアネート等の植物に含まれる辛味成分を、イネの種子若しくはイネを生育させる培土や土壌に施用することで、イネの育苗期における病害の発生を予防できる。また、特許文献3によれば、外気を遮断したハウス類設備内にアリルイソチオシアネートを含有する病害虫防除剤の溶液を噴霧し、青果作物等に防除剤を付着させることで、病害虫の防除処理を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−305210号公報
【特許文献2】特開2008−230993号公報
【特許文献3】特開2009−46433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
花や農作物等の植物の栽培において、植物の成長を促進させることは、生産期間の短縮や生産性の向上を図るうえで非常に重要である。また、観賞用の花卉などの栽培においても、開花量や結実量の多いもののほうが見栄えが良いため、植物を育てる業者や鑑賞者に好まれる。植物の成長を促進させる方法として、例えば、肥料を使用する栽培や、温室栽培、光照射栽培等の方法があり、中でも一般家庭でも容易に利用可能な方法として、肥料を土壌に施用したり、植物に直接散布する方法が一般的に用いられている。一般的な植物の成長調整剤としては、例えば、インドール酪酸、インドール酢酸、ジベレリン、エテホン、ダミノジット等を有効成分として含有するものが広く利用されている。
【0007】
特許文献1〜3は、アリルイソチオシアネート等の辛味成分の殺菌効果を利用して、植物病害の発生を予防するものや、病害虫の防除を行うものであり、いずれも植物の成長を阻害する要因の排除を目的としている。しかしながら、アリルイソチオシアネートが植物の成長に直接的に影響を与えることについては何ら知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、アリルイソチオシアネートの新たな用途として、植物成長促進活性を見出し、農作物や観賞用の花卉などの栽培において、花や実の成長を促進し、しかも観賞を楽しむ時間を長くすることができる植物成長調整剤、および該植物成長調整剤を用いて植物の成長を促進させる生育方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究をした結果、以下の(1)〜(5)の手段により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1) アリルイソチオシアネートを有効成分として含有し、植物成長促進活性を有することを特徴とする植物成長調整剤。
(2) 前記植物成長促進活性が、開花促進作用、開花数増加作用、開花期間延長作用および結実促進作用のいずれかであることを特徴とする上記(1)に記載の植物成長調整剤。
(3) ゴマノハグサ科植物、ナデシコ科植物、ナス科植物およびシソ科植物からなる群から選択される少なくとも1種の植物に対する成長促進活性を有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の植物成長調整剤。
(4) 鉢植えの植物体に対する成長促進活性を有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の植物成長調整剤。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の植物成長調整剤を、土壌に施用することで植物体の成長を促進させることを特徴とする植物の生育方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の植物成長調整剤によれば、花や農作物の開花、結実を促進させることができ、花数および収量を増加させることができる。また、本発明の植物成長調整剤を用いれば、花卉の開花期間を延長し、観賞期間を長くすることができるだけでなく、長期間にわたり受粉が可能になり、果実が未成熟なままで成長が停止することを防止できるなど、農業分野および園芸分野で広く有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】徐放性容器の全体斜視図である。
【図2】各土壌に対するアリルイソチオシアネートの揮散量を示すグラフである。
【図3】試験方法を説明する図であり、(a)は空間処理の図、(b)は土壌処理の図である。
【図4】本発明の植物成長調整剤のペチュニアに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は枯れて落下した花のカウント数を示すグラフである。
【図5】本発明の植物成長調整剤のキンギョソウに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は枯れて落下した花のカウント数を示すグラフ、(c)は枯れて落下した花数の試験期間を通じた累計を示すグラフである。
【図6】本発明の植物成長調整剤のカーネーションに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は枯れて落下した花のカウント数を示すグラフ、(c)は枯れて落下した花数の試験期間を通じた累計を示すグラフである。
【図7】本発明の植物成長調整剤のテルスターに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は枯れて落下した花のカウント数を示すグラフ、(c)は枯れて落下した花数の試験期間を通じた累計を示すグラフである。
【図8】本発明の植物成長調整剤のテルスターに対する生育促進効果を示す写真図であり、(a)は植物成長調整剤無処理区(対照区)の観察結果を示す写真図とその模式図であり、(b)は植物成長調整剤処理区の観察結果を示す写真図とその模式図である。
【図9】本発明の植物成長調整剤のミニトマトに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は結実数を示すグラフである。
【図10】本発明の植物成長調整剤のサルビアに対する生育促進効果を示す図であり、(a)は咲いている花のカウント数を示すグラフ、(b)は枯れて落下した花のカウント数を示すグラフである。
【図11】本発明の植物成長調整剤のラベンダーに対する生育促進効果を示す図であり、咲いている花のカウント数を示すグラフである。
【図12】本発明の植物成長調整剤のカルセオラリアに対する生育促進効果を示す図であり、枯れて落下した花のカウント数を示すグラフである。
【図13】本発明の植物成長調整剤のカルセオラリアに対する生育促進効果を示す写真図であり、(a)は植物成長調整剤無処理区(対照区)の観察結果を示す写真図とその模式図であり、(b)は植物成長調整剤処理区の観察結果を示す写真図とその模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の植物成長調整剤は、アリルイソチオシアネートを有効成分として含有し、植物成長促進活性を有するものである。
アリルイソチオシアネート(Allyl Isothiocyanate)は、既述のように、主にワサビ、辛子、大根などのアブラナ科の植物に含まれる辛味成分である。また、カラシ油から得られる精油成分であって、揮発性の高い物質である。アリルイソチオシアネートを得る方法としては、例えば、塩化アリルとチオシアン酸塩をエタノール中で加熱反応させ、生じたイソチアン酸アリルを蒸留して沸点150℃前後の留分をとることにより得られる合成法、天然ガイシ(芥子)を圧搾して脂肪油を除去した後、そのかすを磨砕して温湯を加えて酵素分解し、水蒸気蒸留して得られる抽出法、などがある。入手のしやすさから合成法により製造されたアリルイソチオシアネートを使用することができる。
【0013】
本発明の植物成長調整剤中、アリルイソチオシアネートは、5質量%以上含有させるのが好ましく、10質量%以上がより好ましく、30〜50質量%が更に好ましい。アリルイソチオシアネートの含有量が5質量%未満の場合は、揮散が抑制され、植物体に作用する量が十分に放出されないため、好ましくない。
【0014】
本発明の植物成長調整剤において、アリルイソチオシアネートの含有量は、溶媒に溶解して調製される。前記溶媒としては、例えば、有機溶剤や油類等が挙げられ、アリルイソチオシアネートとの反応性が低く、低粘度で取り扱いが容易であり、また、容器への影響が少ないなどの観点から、例えば、トリカプリル酸グリセリド、トリカプリン酸グリセリドのような中鎖脂肪酸油等を用いることが好ましい。
【0015】
また、本発明の植物成長調整剤には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を所望により配合することができる。他の成分としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェロールなどのビタミン類,ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドキシアニソール(BHA)、エリソルビン酸ナトリウムなどの酸化防止剤,pH調整剤,ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキメチルセルロース(CMC)、ペクチン、グアーガム、スメクタイトなどの粘度調整剤,グリコールエーテル、ケロシンなどの揮散抑制剤、色素、などを配合することができる。
前記他の成分の配合量は、例えば色素の場合、植物成長調整剤中、10質量%以下が好ましく、0〜5質量%がより好ましい。
【0016】
本発明の植物成長調整剤が適用される植物体としては、例えば、園芸植物(例えば、花卉、野菜、果樹、観葉植物等)、食用植物(例えば、禾穀類、豆類、芋類等)、飼料作物(例えば、牧草類、青刈飼料作物類、根菜類、緑肥類等)、工芸作物(例えば、繊維料、油料、糖料、デンプン、嗜好料、ゴム・樹脂料、香料、香辛料、染料、薬料等)などが挙げられる。具体的には、例えば、カルセオラリア、キンギョソウ、ジキタリス等のゴマノハグサ科植物;カーネーション、テルスター、カスミソウ等のナデシコ科植物;ミニトマト、ペチュニア、トウガラシ等のナス科植物;サルビア、ラベンダー等のシソ科植物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の植物成長調整剤を上記植物体に施用すると、開花の促進、開花数の増加、葉や根部の成長促進、花芽成形促進、開花期間延長(延命)、結実促進、収量増加等の植物生育上の好ましい結果を奏し得る。これは、アリルイソチオシアネートが植物の老化に関するホルモンであるエチレンの生合成を阻害したり、アリルイソチオシアネートの刺激によって植物が耐ストレス性を獲得したりするためと考えられる。従って、本発明の植物成長調整剤は、植物体の根幹や葉、幹などから取り込まれ、アリルイソチオシアネートの植物細胞との化学反応や、植物被膜への物理的作用、または植物ホルモン様への作用などにより、植物の成長を調整することができる。
【0018】
本発明の植物成長調整剤の施用方法としては、例えば、植物体が植えられた土壌に適用したり、空間中に適用することができる。土壌に適用する場合は、プランターなどの容器で栽培される鉢植えの植物体の土壌に施用することで、アリルイソチオシアネートが必要範囲外にまで拡散することを防ぐことができるので、より効果的に発明の効果が得られる。また、空間中に適用する場合は、植物体を空気非透過性の袋で覆い外気から遮断した空間に適用することで、より効果的に発明の効果が得られる。
【0019】
本発明の植物成長調整剤の使用形態としては、特に限定はされないが、液状として使用する形態が挙げられる。例えば、図1に示すような徐放性容器1に液状の植物成長調整剤を充填し、この徐放性容器1を植物体が植えられたプランター等の土壌に差し込む。すると充填されていた植物成長調整剤が、主に徐放性容器1の本体11を透過して徐々に土壌中に溶出する。アリルイソチオシアネートは高揮散性物質であるので、溶出した植物成長調整剤中のアリルイソチオシアネートが徐々にガス化して土壌中に拡散し、植物体の根に接触して根から植物体に取り込まれ、植物体の成長促進作用をもたらすと考えられる。尚、植物成長調整剤は植物体の株元近傍の土壌に施用すると、より確実に植物体に作用させることができるので好ましい。徐放性容器の材質としてはPP(Polypropylene)、PE(Polyethylene)などが好ましい。
【0020】
その他の形態としては、ゼオライト等の担体に担持させ、徐放性を持たせた粒剤やマイクロカプセル化した粉剤、分散剤、乳剤等が挙げられる。これらの粒剤や粉剤、分散剤、乳剤等を、植物体が植えられた土壌の表面に撒いたり、該土壌に混合させることで、植物成長調整剤中のアリルイソチオシアネートが徐々にガス化して植物体に接触する他、土壌中に拡散し、根から植物体に取り込まれる。
【0021】
本発明の植物成長調整剤の施用量としては特に限定されず、適用される植物体に応じて適宜調整すればよい。例えば、土壌15〜16リットルに対して、アリルイソチオシアネートが1日当り0.5mg〜20mg程度放出されるように施用すれば良く、1日当り3mg〜6mgとするのが好ましい。アリルイソチオシアネートの土壌中への放出量が1日あたり0.5mgを下回ると、発明の効果が十分に得られない場合があり、20mgを超えると植物の成長に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、空間中に施用する場合は、1日あたり40〜80mg/mとなるよう放出されるように施用することが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
【0023】
<植物成長調整剤の調製>
以下の表1に記載の処方にて、植物成長調整剤(検体)を調製した。各成分は順次攪拌下添加し溶解した。調製後、図1に示したような徐放性容器1(HDPE(High Density Polyethylene)製の本体11とPP(Polypropylene)製のキャップ13からなる筒状容器)に1.4ml充填した。
尚、検体中のアリルイソチオシアネートは主に徐放性容器1の本体11を透過して徐々に揮散し、当該容器1を用いた場合、常温常圧下、空気中では6ヶ月程度で充填された植物成長調整剤が全量放出される。
【0024】
【表1】

【0025】
<揮散量確認試験>
縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランター(PP製650型プランター)を7個用意し、それぞれに表2に示す土を15リットル入れた。それぞれのプランターに表1に示す植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を3本ずつ、等間隔に差し込み、18±3℃の室内に24日間放置した。日に一度、1リットルの散水を行った。
【0026】
【表2】

【0027】
対照として、植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を徐放状態とするため同じ空間に放置した。各土に対する24日後のアリルイソチオシアネートの揮散量を精密天秤による重量測定により測定した。尚、アリルイソチオシアネートの揮散量は3本の平均値とした。その結果を図2に示す。
【0028】
図2に示したグラフからわかるように、徐放状態においては空間中でのアリルイソチオシアネートの揮散量を1本につき一日当り約3.0mg放出する徐放性容器を使用した場合、各土壌に対しては、1本につき、一日当り約1.5〜2.5mgのアリルイソチオシアネートを揮散できることがわかった。
【0029】
次に、上記植物成長調整剤の植物体に対する効果についての試験を行った。
【0030】
(実施例1)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたペチュニアを用いた。65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにペチュニアの花弁のついた状態の株を2株ずつ移植した。尚、混合土は以下の実施例においても同様である。
【0031】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(a)に示すように、植物体(ペチュニア)6を移植したプランター2の両端にプラスチック製の支柱5を立て、全体をナイロン袋4で覆った。各支柱5に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を吊り下げ、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを無処理区(対照区)とした。1日に一度、1リットル程度散水し、通常の生育を促すために約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れた花数の累計とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ2株の平均値とした。
結果を図4に示す。
【0032】
図4(a)の結果より、無処理区(対照区)に比べて、検体処理区の方が5月10日では同程度であったが、5月19日の時点では咲いている花数が多くなった。また、図4(b)の結果より、枯れて落下した花数にはほとんど変化が見られなかった。これらのことから、検体処理区の方が開花数を増加し、花の開花期間が延長する効果が得られることがわかった。
【0033】
(実施例2)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたキンギョソウを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにキンギョソウの花弁の付いた状態の株を3株ずつ移植した。
【0034】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示すように、植物体(キンギョソウ)6を移植したプランター2の土壌の該植物体6どうしの間(2カ所)に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れた花数の累計とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ3株の平均値とした。
結果を図5に示す。
【0035】
図5(a)の結果より、5月19日の時点で検体処理区の方が対照区に比べて咲いている花数が多くなり、また、その数も経時的に安定していた。そして、図5(b)および(c)の結果より、枯れて落下した花の数が少なく、観測期間における累積落花数がほぼ同じであったことから、検体処理区の方が、開花期間が延長し一度の開花数が増加したことがわかった。
【0036】
(実施例3)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたカーネーションを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにカーネーションの花弁の付いた状態の株を3株ずつ移植した。
【0037】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示したように、プランター2の中央のカーネーション(植物体6)の根本付近の土壌に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れた花数の累計とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ3株の平均値とした。
結果を図6に示す。
【0038】
図6(a)の結果より、5月24日の時点で対照区と比べて検体処理区の開花数は増加していた。また、図6(b)および(c)の結果より、枯れて落下した花の数が減少し、観察期間を通じた累積落花数がほぼ同じであった。このことから、検体処理区では開花数の増加作用、開花期間の延長作用が認められた。
【0039】
(実施例4)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたテルスターを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにテルスターの花弁の付いた状態の株を4株ずつ移植した。
【0040】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示したように、プランター2の中央付近の土壌に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れた花数の累計とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ4株の平均値とした。
結果を図7および図8に示す。
【0041】
図7(a)〜(c)の結果より、6月21日の時点で枯れて落下した花の数、試験期間を通じた落花数はほぼ同等であるが、対照区と比べて検体処理区の開花数が増加していることがわかった。これにより、検体処理区の開花期間の延長作用が認められた。また、図8(a)に示した対照区の観察結果と図8(b)に示した検体処理区の観察結果より、検体処理区の方が開花数が増えていることが明らかである。
【0042】
(実施例5)
<供試植物体>
植物体として、花弁の開いていないミニトマトを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにミニトマトの花芽の付いていない状態の株を3株ずつ移植した。
【0043】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示したように、中央のミニトマト(植物体6)の根本付近の土壌に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と結実した果実数とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ3株の平均値とした。
結果を図9に示す。
【0044】
図9(a)および(b)の結果より、5月24日の時点で対照区と比べて検体処理区の方が開花時期が早くなっていることがわかった。処理区では開花の観察された5月10日の時点では検体処理区、無処理区共に結実は見られなかったことから、開花の促進に伴い結実の時期も早まっていることがわかった。また、検体処理区の一定期間内の開花数、結実数が増加していることがわかった。
【0045】
(実施例6)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたサルビアを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにサルビアの一部花弁のついた状態の株を3株ずつ移植した。
【0046】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示したように、中央のサルビア(植物体6)の根本付近の土壌に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れて落下した花数とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ3株の平均値とした。
結果を図10に示す。
【0047】
図10(a)および(b)の結果より、花弁のつき始める段階から対照区と比べて検体処理区の開花数はわずかに増加していることがわかった。また、2週間経過後(5月24日時点)における枯れた花の数が減少していることがわかった。これにより、検体処理区の開花期間の延長効果が認められた。
【0048】
(実施例7)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたラベンダーを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにラベンダーの花弁がついた状態の株を2株ずつ移植した。
【0049】
<試験方法>
一方のプランターには、図3(b)に示したように、プランター2の中央付近の土壌に表1に示した植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、商品名、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに咲いている花数と枯れた花数とをカウントした。尚、カウント数はそれぞれ2株の平均値とした。
結果を図11に示す。
【0050】
図11の結果より、6月14日の時点で対照区に比べて検体処理区の方が咲いている花数は多く、一度の開花数が増加することがわかった。
【0051】
(実施例8)
<供試植物体>
植物体として、花弁の付いたカルセオラリアを用いた。縦65cm×横23cm×高さ18.5cmのプランターを2個用意し、それぞれに赤玉土(自然応用科学株式会社製、赤玉土小粒)と培養土(自然応用科学株式会社製、花と野菜の培養土)の28:10混合土15〜16リットルを入れた。それぞれのプランターにカルセオラリアの花弁がついた状態の株を1株ずつ移植した。
【0052】
<試験方法>
図3(b)に示したように、一方のプランター2には、カルセオラリア(植物体6)の根本付近の土壌に表1に示す植物成長調整剤を充填した図1の徐放性容器1を1本差し込み、室温25℃前後のビニールハウス内に静置して植物成長調整剤処理区(以下、単に「検体処理区」という。)とした。他方のプランターには植物成長調整剤を施用することなくビニールハウス内の場所に静置し、これを対照区とした。1日に一度、1リットル程度散水し、約10日に一度の間隔で、500倍希釈した液肥(商品名「ハイポネックス5−10−5」、株式会社ハイポネックスジャパン製)を1リットル与えた。試験開始からの花弁について、それぞれのプランターごとに枯れて落下した花数をカウントした。
結果を図12および図13に示す。
【0053】
図12の結果より、3月15日の時点で対照区に比べて検体処理区の方が枯れて落下した花の数が少なく、開花期間が延長されることがわかった。また、図13(a)に示した対照区の観察結果と図13(b)に示した検体処理区の観察結果より、対照区では観察開始(2月22日)から約3週間後(3月15日)で多くの花弁が枯れて落下したのに対し、検体処理区では観察開始と約3週間後とでほとんど花数の変化が見られない。このことから、検体処理区の方が、開花期間が延長されていることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、アリルイソチオシアネートの新たな用途として、植物成長促進活性を見出し、農作物や観賞用の花卉などの栽培において、花や実の成長を促進し、しかも観賞を楽しむ時間を長くすることができる植物成長調整剤、および該植物成長調整剤を用いて植物の成長を促進させる生育方法を提供する。
本発明の植物成長調整剤を用いることで、花や農作物の開花、結実を促進させることができ、収量を増加させることができるので、農業分野および園芸分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 徐放性容器
2 プランター
4 ナイロン袋
5 支柱
6 植物体
11 本体
13 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルイソチオシアネートを有効成分として含有し、植物成長促進活性を有することを特徴とする植物成長調整剤。
【請求項2】
前記植物成長促進活性が、開花促進作用、開花数増加作用および結実促進作用のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の植物成長調整剤。
【請求項3】
ゴマノハグサ科植物、ナデシコ科植物、ナス科植物およびシソ科植物からなる群から選択される少なくとも1種の植物に対する成長促進活性を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物成長調整剤。
【請求項4】
鉢植えの植物体に対する成長促進活性を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の植物成長調整剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の植物成長調整剤を、土壌に施用することで植物の成長を促進させることを特徴とする植物の生育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−236785(P2012−236785A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105549(P2011−105549)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】